説明

連続鋳造片の圧下面の表面欠陥の生成防止方法

【課題】 連続鋳造装置で製造の連鋳片の圧下面の凹み部が分塊圧延後の鋼片に残存して形成の表面欠陥となることを防止した連鋳片の製造方法を提供する。
【解決手段】 連続鋳造装置から引抜き中の連鋳片1よりも細幅の凸部4を有する圧下ロール3と連鋳片1との当接位置の鋳造方向に垂直な断面において、圧下ロール3から傾斜して突出する凸部4の傾斜面5とこの凸部4の水平面に当接する連鋳片1の表面とで形成する立上り角度θ1を5°≦θ1≦15°とし、圧下ロール3の凸部4の傾斜面の立上り角度θ1の補角θ2を該立上り角度θ1の補角の165°≦θ2≦175°に鈍角化し、この圧下ロール3の凸部4により連続鋳造装置の引抜き中の連鋳片1を圧下して凹み部2とし、さらにこの連鋳片1を分塊圧延して分塊圧延後の鋼片に表面疵の生成を無くすものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面欠陥の少ない鋳片の製造に関し、特に、連続鋳造で圧下して製造された鋳造片(以下、「連鋳片」という。)を分塊圧延して鋼片とした際に、その鋼片において、連鋳片の圧下された面の凹み部に相当する鋼片の位置に生じる表面疵からなる表面欠陥を防止する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶鋼の連続鋳造において、連鋳片の中心偏析改善の技術として従来から実施されているモールド内攪拌を行い、凝固部前面におけるデンドライトを沈降させて、微細等軸晶を生成させることにより、凝固最終域でのブリッジングを防止する電磁攪拌技術や、連鋳片の固液2相域から凝固完了点に至る部分を圧下ロールや平面プレスによる繰り返し圧下を施すことにより、凝固収縮による溶鋼の下向き流れを防止する圧下技術が知られている。特に、圧下技術については未凝固領域をそれぞれ幅の違う凸部を有した連続鋳造装置の圧下ロールを用いて多段圧縮することによって、収縮による溶綱の下向きの流れを阻止することにより中心偏新を改善する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかし、連続鋳造装置で圧下して製造された連鋳片では、特に連鋳片よりも幅の小さい凸部を有する圧下ロールで圧下された連鋳片は、連鋳片の圧下された面に凹み部を形成するので、この凹み部を形成している連鋳片を分塊圧延して鋼片にすると、分塊圧延後の鋼片には凹み部が残存した状態の表面欠陥を生成していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−132205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、連続鋳造装置で圧下して製造された連鋳片の圧下された面の凹み部が分塊圧延後の鋼片にも残存し、この凹み部が表面欠陥となることから、圧下面の凹み部を無害化することを可能とした連続鋳造装置の圧下ロールによる連鋳片の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らが鋭意研究したところ、連続鋳造装置から引抜き中の連鋳片よりも細幅の凸部を有する圧下ロールと連鋳片とが当接している位置における鋳造方向に垂直な断面において、圧下ロールから傾斜して突出する凸部の傾斜面とこの凸部の水平面に当接する連鋳片の表面とで形成する立上り角度θ1を5°≦θ1≦15°とし、凸部を有する圧下ロールの凸部の傾斜面の立上り角度θ1の補角θ2を上記の立上り角度θ1の補角である165°≦θ2≦175°の鈍角とし、この立上り角度θ1の補角θ2を鈍角とした圧下ロールの凸部により連続鋳造装置から引抜き中の連鋳片を圧下することで連鋳片に凹み部を形成し、この凹み部を有する連鋳片をさらに分塊圧延して連鋳片の凹み部に対応する分塊圧延後の鋼片の位置に生成される表面疵を無害化することができることを見出し、本願の発明の連続鋳造装置の圧下ロールによる連鋳片の製造方法を得たものである。
【0007】
すなわち、本願の発明が解決するための手段は、連続鋳造装置から引抜き中の連鋳片よりも細幅の凸部を有する圧下ロールと連鋳片とが当接している位置における鋳造方向に垂直な断面において、圧下ロールから傾斜して突出する凸部の傾斜面とこの凸部の水平面に当接する連鋳片の表面とで形成する立上り角度θ1を5°≦θ1≦15°とし、したがって凸部を有する圧下ロールの凸部の傾斜面の立上り角度θ1の補角θ2を上記の立上り角度θ1の補角である165°≦θ2≦175°からなる鈍角とし、この立上り角度θ1の補角θ2を鈍角とした圧下ロールの凸部により連続鋳造装置から引抜き中の連鋳片を圧下することで連鋳片に凹み部を形成し、この凹み部を有する連鋳片をさらに分塊圧延して連鋳片の凹み部に対応する分塊圧延後の鋼片の位置に生成される表面疵を無害化することからなる連続鋳造装置の圧下ロールによる連鋳片の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、連続鋳造装置からの引抜き時に圧下ロールにより圧下されて製造された連鋳片の圧下された面に形成された凹み部が、分塊圧延後の鋼片に残存することなく、したがって従来の方法では鋼片に生成されていた表面疵が本発明方法で防止できるなど、本発明は連鋳片の表面性状を改善して、分塊圧延後の鋼片に生成される表面疵を防止する効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の連続鋳造設備から引抜き方向に垂直な断面の圧下前の連鋳片および圧下ロールの位置関係を示す模式図である。
【図2】本発明の連続鋳造設備から引抜き方向に垂直な断面の圧下後の連鋳片および圧下ロールの位置関係を示す模式図である。
【図3】従来の連続鋳造設備から引抜き方向に垂直な断面の圧下後の連鋳片および圧下ロールの位置関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態について、以下に図面を参照して説明する。図1に示すように、連続鋳造装置のモールドから引き抜かれた連鋳片1は、幅が530mmで厚さが380mmであり、連鋳片1の幅の530mmよりも幅の小さい凸部4を有する圧下ロール3で面1aが圧下される。この圧下により、図2に示すように圧下された面1bに圧下ロール3の凸部4による凹み部2が形成される。この形成された凹み部2がその後の分塊圧延の際に鋼片に残存して表面疵となる。
【0011】
この分塊圧延の際に残存した表面疵は、連続鋳造装置の圧下ロール3で圧下された連鋳片1の圧下された面1bの凹み部2の立上り角度θ1の補角θ2を鈍角化することで、分塊圧延後に表面疵として残存することが防止できる。したがって、縦型連続鋳造装置では、この連続鋳造装置の圧下ロール3と連鋳片1とが接している位置における鋳造方向に垂直な断面において、図1に示すように、連鋳片1と圧下ロール3の接する場合の圧下ロール3の傾斜面5と連鋳片1の圧下される面1aとのなす立上り角度θ1が5°≦θ1≦15°であることを好適とする。連鋳片1の圧下される面1aとのなす立上り角度θ1が5°≦θ1≦15°であれば、図2に示すように、圧下された面1bの凹み部2の立上り角度θ1の補角θ2が165°≦θ2≦175°と鈍角化するため、分塊圧延後に凹み部2が表面欠陥である表面疵として残存することが防止できる。
【0012】
連鋳片1の圧下される面1aとのなす立上り角度θ1が15°よりも大きい場合、連鋳片1の圧下された面1bの凹み部2が分塊圧延時に平滑化されず、分塊圧延後の鋼片において、連鋳片1の圧下された面の凹み部2が残存したことによる表面疵が発生する。
【0013】
また、連鋳片1の圧下される面1aとのなす立上り角度θ1が5°よりも小さい場合、連鋳片1の凹み部2は欠陥として残存しないが、引抜き時の圧下の際に圧下ロール3の負荷か大きくなり、連鋳片1に十分な圧下を施すことができないため、連鋳片1に中心欠陥が発生する。中心欠陥が発生しないように十分な圧下を行おうとする場合、圧下ロール3の駆動モーターの改造などの更なる設備投資が必要となる。
【0014】
表1にみられるように、本発明例1〜5では、圧下ロール3の傾斜面5と連鋳片1の圧下される面1aとのなす立上り角度θ1が5°≦θ1≦15°であるので、連鋳片1の表面の凹み部2の立上り角度θ1の補角θ2が鈍角化された。この結果、鋼片において連鋳片1の凹み部2が残存したことにより発生する分塊圧延後の表面疵は見られず、極めて良好な結果となった。また、連鋳片1の圧下される面1aとのなす立上り角度θ1が5°≦θ1≦15°であるので連鋳片1に中心欠陥も無く、従って、評価は◎で極めて良好であった。
【0015】
【表1】

【0016】
一方、表1の比較例1〜6では、凹み部2の立上り角度θ1の補角θ2を鈍角化できないため、分塊圧延後の鋼片において凹み部2の残存による表面疵が発生した。
【0017】
さらに、表1の比較例7〜11では、本発明例1〜5と同様に分塊圧延後の鋼片の表面疵は発生せず、表両性状については良好な結果となった。しかし、圧下ロール3の負荷が大きくなり、連鋳片1に十分な圧下を施すことができないため、連鋳片1に中心欠陥が発生した。中心欠陥が発生しないように圧下ロール3で十分な圧下を行おうとする場合、圧下ロール3の負荷に対応できるモーターとするための改造などの更なる設備投資が必要となるため適用は困難であった。
【実施例】
【0018】
本発明の実施例として、連続鋳造装置において、圧下ロール3の傾斜面5と連鋳片1の圧下される面1aとのなす立上り角度θ1が、θ1=10°である圧下ロール3を引抜き中の連鋳片1の両側に1対設置し、JISのG4053で規定するSCM420のクロムモリブデン鋼を鋳造速度が毎分0.5mの条件で、圧下ロール3と接触して圧下される面1aの長さが530mmで、圧下ロール3と接触することなく圧下されない面1cの長さが380mmである、図1に示す断面からなる連鋳片1を製造した。
【0019】
得られた連鋳片1は、引抜き時の圧下ロール3で圧下された面1bの凹み部2の立上り角度θ1の補角θ2は鈍角化できており、分塊圧延後の鋼片において連鋳片1の凹み部2が残存したことによる表面疵の発生はなく、極めて良好な結果となった。
【符号の説明】
【0020】
1 連鋳片
1a 圧下される面
1b 圧下された面
1c 圧下されない面
2 凹み部
3 圧下ロール
4 凸部
5 傾斜面
θ1 連鋳片の水平面と圧下ロールの傾斜面とで形成する立上り角度
θ2 圧下ロールの凸部の立上り角度θ1の補角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造装置から引抜き中の連鋳片よりも細幅の凸部を有する圧下ロールと連鋳片とが当接している位置における鋳造方向に垂直な断面において、圧下ロールから傾斜して突出する凸部の傾斜面とこの凸部の水平面に当接する連鋳片の表面とで形成する立上り角度θ1を5°≦θ1≦15°とし、凸部を有する圧下ロールの凸部の傾斜面の立上り角度θ1の補角θ2を上記の立上り角度θ1の補角である165°≦θ2≦175°からなる鈍角とし、この立上り角度θ1の補角θ2を鈍角とした圧下ロールの凸部により連続鋳造装置から引抜き中の連鋳片を圧下することで連鋳片に凹み部を形成し、この凹み部を有する連鋳片をさらに分塊圧延して連鋳片の凹み部に対応する分塊圧延後の鋼片の位置に生成される表面疵を無害化することを特徴とする連続鋳造装置の圧下ロールによる連鋳片の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−86099(P2013−86099A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225597(P2011−225597)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】