説明

連続鋳造鋳片の脱水素方法

【課題】省スペースでかつ効率的に鋳片に脱水素処理を施すことが可能な、連続鋳造鋳片の脱水素方法を提供する。
【解決手段】連続鋳造鋳片の脱水素方法であって、バーナーを設置した徐冷カバー内に複数の鋳片を収容し、前記鋳片の鋼種に応じ、前記バーナーによって前記徐冷カバー内の雰囲気を加熱して、前記鋳片の温度をAr3点よりも低い温度で、かつ水素の拡散係数の値がAr3点における値よりも大きくなる温度に保持しながら、前記鋳片を徐冷して脱水素を行うことを特徴とする連続鋳造鋳片の脱水素方法。前記バーナーの雰囲気加熱により前記鋳片をAr3点よりも100〜300℃低い温度に保持することが好ましい。また、前記バーナーの雰囲気加熱により前記鋳片を前記所定の温度に保持する時間は、前記鋳片を圧延して得られる鋼板において要求される水素濃度に応じて設定することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造鋳片の脱水素方法に関し、特に脱水素処理を行うのに広い空間を必要とせず、かつ鋳片の状態で十分に水素濃度を低減することのできる脱水素方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に厚板鋼板においては、鋼板中に水素がある一定の値以上の濃度で残留している場合、その水素は鋼板中の微細な孔や亀裂に集積し、その圧力が鋼板の強度を上回ると鋼板に割れが発生する。この割れは「成品の遅れ割れ」と呼ばれ、鋳片を圧延して成品である鋼板とした後、1日以上経過してから発生するため、この割れが発生する前に脱水素を行う必要がある。
【0003】
従来行われている脱水素方法として、鋳片を圧延した後の鋼板の冷却(徐冷)中に脱水素処理を行う方法と、積み重ねた鋳片に鋼製の徐冷カバーを被せて鋳片の温度の降下を抑制して長時間高温の状態に保ち脱水素処理を行う方法とがある。
【0004】
例えば特許文献1〜3では、鋳片を圧延した後の鋼板の冷却中に脱水素処理を行う方法が提案されている。
【0005】
特許文献1で提案されている方法は、鋼板中に内在する水素を低減する鋼板の脱水素方法であって、前記鋼板の表層部の内部応力を増大させた後に、該表層部を150〜220℃に加熱する鋼板の脱水素方法である。
【0006】
特許文献2で提案されている方法は、圧延後の厚鋼板を積み重ねて徐冷する厚鋼板の徐冷方法において、積み重ねる厚鋼板の板幅および長さを下段から順次同一ないしは増加させて厚鋼板を積み重ねる厚鋼板の徐冷方法である。
【0007】
特許文献3では、複数の鋼材を収容するボックスと、該ボックスを密閉する密閉手段と、前記ボックス内に水蒸気を拡散させる水蒸気拡散手段と、前記ボックス内の水蒸気を凝縮させる水蒸気凝縮手段と、前記ボックス内に外気を導入する外気導入手段とを有する鋼材の徐冷ボックスが提案されている。
【0008】
圧延後の鋼板に脱水素処理を行う方法は効率に優れており、短時間で十分に水素濃度を低減することができる。その反面、鋼板の表面積は鋳片に比べて大きいため、上記プロセスを実施するために広大な設備面積が必要であるとともに、鋼板を保管するための広大な置き場も必要である。そのため、設備面積が不足している場合には、工場内物流のみならず脱水素能力の不足による生産性の悪化が発生する。さらに、鋼板の徐冷工程の遅れに伴って圧延スケジュールに遅延が発生する場合があり、この場合に鋼板の置き場が不足すると、圧延スケジュールに制約が発生する。
【0009】
このような圧延後の鋼板に脱水素処理を行う方法に対し、鋼製の徐冷カバーを使用して鋳片の状態で脱水素処理を行う方法は、鋳片の状態で脱水素を行うため、広大な設備面積および置き場は必要ではない。しかし、鋳片は鋼板と比較して厚いため、脱水素処理の時間が長くなるという欠点がある。ただし、鋼板の状態での徐冷が不可能である場合には、あらかじめ鋳片の状態で脱水素を行う必要がある。
【0010】
図1は、徐冷カバー内での鋳片の温度と徐冷カバー内への鋳片の搬入時点からの経過時間との関係の一例を示す図である。鋳片に鋼製の徐冷カバーを被せる方法は、従来から行われている方法であり、この方法の場合、同図に示すように鋳片の1時間当たりの温度降下は約8℃である。
【0011】
図2は、0.1%炭素鋼における鋼材の温度と水素の拡散係数との関係を示す図である。同図から、鋼中の水素の拡散係数は、鋼の結晶形態によって変化し、結晶の変態点であるAr3点の直下の温度では大きいことがわかる。このため、水素の拡散係数が大きい温度域で鋳片を保持することができれば、水素を効率良く拡散させ、脱水素の効率を向上させることができると考えられる。
【0012】
しかし、前記図1からわかるように、鋳片に鋼製の徐冷カバーを被せる従来の方法では鋳片の温度降下が急速であるため処理時間に限界があり、鋳片を水素の拡散係数が大きい温度域で長時間保持することは不可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−131794号公報
【特許文献2】特開平10−202312号公報
【特許文献3】特開2001−303126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のように、鋳片に鋼製の徐冷カバーを被せる従来の徐冷方法では鋳片の温度降下が急速であるため、脱水素時間には上限が存在し、さらに、鋳片の温度の降下とともに水素の拡散係数が低下するため、鋳片の状態で目標とする水素濃度まで十分に脱水素処理を行うことが困難であった。また、圧延後の鋼板に脱水素処理を行う方法では、広大な設備面積が必要であった。
【0015】
本発明は、この課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、省スペースでかつ鋳片の状態で十分に脱水素処理を施すことが可能な、連続鋳造鋳片の脱水素方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋳片に徐冷カバーを被せる徐冷方法において、急激な鋳片の温度降下を緩和する方策について検討した。その結果、徐冷カバー内の雰囲気をバーナーで加熱することにより、鋳片を酸化させることなく、かつ少ないエネルギー消費量で、鋳片温度の降下速度を緩和し、水素の拡散係数が大きい所定温度域での長時間の保持が可能となることを知見した。
【0017】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨は下記の(1)〜(3)に示す鋳片の脱水素方法にある。
【0018】
(1)連続鋳造鋳片の脱水素方法であって、バーナーを設置した徐冷カバー内に複数の鋳片を収容し、前記鋳片の鋼種に応じ、前記バーナーによって前記徐冷カバー内の雰囲気を加熱して、前記鋳片の温度をAr3点よりも低い温度で、かつ水素の拡散係数の値がAr3点における値よりも大きくなる温度に保持しながら、前記鋳片を徐冷して脱水素を行うことを特徴とする連続鋳造鋳片の脱水素方法。
【0019】
(2)前記バーナーの雰囲気加熱により前記鋳片をAr3点よりも100〜300℃低い温度に保持することを特徴とする、前記(1)に記載の鋳片の脱水素方法。
【0020】
(3)前記バーナーの雰囲気加熱により前記鋳片を前記所定の温度に保持する時間は、前記鋳片を圧延して得られる鋼板において要求される水素濃度に応じて設定することを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の鋳片の脱水素方法。
【0021】
本発明において、鋳片の「徐冷」とは、鋳片の温度降下速度が、鋳片を囲いのない常温雰囲気下に放置した場合よりも遅い状態をいう。
【発明の効果】
【0022】
本発明の鋳片の脱水素方法を用いることにより、省スペースでかつ鋳片の状態で十分に鋳片の脱水素処理を施すことができる。また、本発明の方法は、鋳片の脱水素能力が高いため、成品の遅れ割れの発生を抑制することができ、鋳造完了から圧延開始までの時間を短縮することができる。さらに、圧延後の鋼板(成品)の状態で脱水素処理を行う従来の方法では、スペースの不足に伴って徐冷工程の遅れが発生する場合があったが、本発明の方法ではそのような事態の発生を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】徐冷カバー内での鋳片の温度と徐冷カバー内への鋳片の搬入時点からの経過時間との関係の一例を示す図である。
【図2】0.1%炭素鋼における鋼材の温度と水素の拡散係数との関係を示す図である。
【図3】本発明の鋳片の脱水素方法に用いる徐冷カバーの概略構成図である。
【図4】バーナー付き徐冷カバー内での鋳片表面の温度および徐冷カバー内雰囲気の温度と、徐冷カバー内への鋳片の搬入時点からの経過時間との関係を示す図である。
【図5】本発明の鋳片の脱水素方法による工程遅れの解消効果を説明する工程フロー図であり、同図(a)はバーナーを設けない徐冷カバーを使用した場合を、同図(b)はバーナーを設けた徐冷カバーを使用した場合をそれぞれ示す。
【図6】保温温度と結晶粒径との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の鋳片の脱水素方法は、上述のとおり、バーナーを設置した徐冷カバー内に複数の鋳片を収容し、前記鋳片の鋼種に応じ、前記バーナーによって前記徐冷カバー内の雰囲気を加熱して、前記鋳片の温度をAr3点よりも低い温度で、かつ水素の拡散係数の値がAr3点における値よりも大きくなる温度に保持しながら、前記鋳片を徐冷して脱水素を行うことを特徴とする。以下、本発明の内容について説明する。
【0025】
1.本発明の脱水素処理方法
図3は、本発明の鋳片の脱水素方法に用いる徐冷カバーの概略構成図である。なお、同図では徐冷カバーを透過して示している。徐冷カバー1は、鋼板からなる外壁2により構成された直方体形状とする。外壁2の内面には耐火物の内張りを設ける。また、外壁2の外面および内面には断熱材を貼り付けて、徐冷カバー1の内外での熱の移動を一層抑制する構成とすることが好ましい。外壁2のうち、互いに対向する1対の側面にはそれぞれ内部に向けてバーナー3を設置する。バーナー3の数は、徐冷カバー1内部の温度を所定の温度以上に維持できる最低の数以上とする。バーナー3を外壁2の1対の側面に配置することにより、バーナー3に点火しても徐冷カバー1内の雰囲気温度の均一性を保つことが可能である。
【0026】
徐冷カバー1の内部には、鉛直方向に積み重ねられた鋳片(スラブ等)4を2列に並べて載置する。各鋳片4は、側面がバーナー3に対向するように配置する。徐冷カバー1の内部には脱水素処理時を問わずに常時外気を送り込むとともに、余分な内部雰囲気ガスを排気ガスとして排出しており、排気ガスの温度を測定することにより徐冷カバー1内部の雰囲気温度を監視する。鋳片4の温度は、接触式の温度計を用いて測定した鋳片表面の温度に基づいて監視し、鋳片4の温度が上昇しないように徐冷カバー1内部の雰囲気温度を制御する。
【0027】
脱水素処理を行う際には、鋳造後の鋳片4を徐冷カバー1の内部に搬入、載置し、鋳片の温度が保持を行う目的の温度(以下、「保温温度」ともいう)よりも所定の温度高い温度まで降下した時点、または徐冷カバー1内部の雰囲気の温度が保温温度まで降下した時点でバーナー3に点火し、徐冷カバー1内部の雰囲気を加熱し、保温する。徐冷カバー1内部の雰囲気の保温により、鋳片4の温度の降下速度を低減することができる。徐冷カバー1内部の雰囲気は、鋳片4の温度が上昇しない温度に制御する。そして、鋳片4を、保温温度の状態で所定時間(以下、「保温時間」ともいう。)保持することにより、鋳片4の水素濃度が所定濃度まで低減する。保温時間が経過した後、徐冷カバー1内から鋳片4を搬出する。ここで、保温温度は、鋳片4を構成する鋼種の水素の拡散係数の値がAr3点における値よりも大きくなる温度とする。
【0028】
図4は、バーナー付き徐冷カバー内での鋳片表面の温度および徐冷カバー内雰囲気の温度と、徐冷カバー内への鋳片の搬入時点からの経過時間との関係を示す図である。同図では、保温温度を530℃とし、鋳片の温度が保温温度よりも50℃高い580℃まで下がった時点でバーナー3の点火を開始した場合について示す。同図から、バーナーによる徐冷カバー内雰囲気の保温により、鋳片を保温温度に保持できることがわかる。
【0029】
図5は、本発明の鋳片の脱水素方法による工程遅れの解消効果を説明する工程フロー図であり、同図(a)はバーナーを設けない徐冷カバーを使用した場合を、同図(b)はバーナーを設けた徐冷カバーを使用した場合をそれぞれ示す。前記図4に示す条件で保温を行い、本発明の鋳片の脱水素方法を用いた場合、徐冷カバー内の雰囲気をバーナーによって加熱することができ、鋳片の水素濃度を鋼板で要求される濃度とすることができるため、徐冷カバーを用いた5日間の脱水素処理の後、すぐに次の工程(圧延工程)に移行することができる。すなわち、同図(a)に示すように、鋳片の鋳造完了から圧延開始までのリードタイムは5日間となる。
【0030】
一方、バーナーを設けない徐冷カバーを使用した、従来の鋳片の脱水素方法では、徐冷カバーを用いた5日間の脱水素処理では脱水素が不十分であるため、その後、次の工程に移行する前に、加熱炉に搬送し、再び1000℃以上まで加熱し(2日間)、さらに鋳片の脱水素を行うための2日間の徐冷が必要となる。すなわち、図5(b)に示すように、鋳片の鋳造後、次の工程までに9日間を要する。
【0031】
このように、従来は長時間を必要とした鋳片の鋳造完了から圧延開始までのリードタイムを、本発明の鋳片の脱水素方法によれば4日間(96時間)短縮することができた。また、本発明の鋳片の脱水素方法によれば、広大な設備面積を必要としない。ここに示した保温条件や各工程の日数は一例である。
【0032】
2.保温時間の決定方法
本発明の鋳片の脱水素方法における保温時間は、溶鋼中の水素濃度と、目標とする鋼板中の残留水素濃度に基づいて決定することができる。溶鋼中の水素濃度は、溶鋼中の水素を測定器に取り込み、窒素ガスを吹き込み溶鋼中の水素を取り出して測定した窒素ガス中の水素の平衡濃度に基づいて算出する。
【0033】
鋼中の水素の拡散係数は、下記(1)式に、溶鋼中の水素濃度と、保温温度で所定時間保持した後の鋼板中の残留水素濃度と、前記所定時間を代入することにより、保温温度の関数として導くことができる。また、保温時間は(1)式から導かれた下記(2)式を用いて決定することができる。
【0034】
【数1】

C/C0=1.2345×exp{−24277×(4Dt/S2)} ‥‥(2)
ここで、C:鋼板厚さ方向中心からの距離xおよび時間tにおける鋼中の水素濃度、C0:鋼中の水素濃度の初期値、D:温度に応じた水素拡散係数(cm/s2)、t:徐冷時間(s)、S:鋼板の厚さの1/2(cm)である。
【0035】
3.保温温度の決定方法
また、鋳片の保温温度は鋳片の表層組織の結晶粒径に影響を及ぼすため、鋳片の表面欠陥に対して影響を及ぼす可能性がある。そのため、本発明者らは、保温温度が鋳片の表面欠陥に及ぼす影響について検討した。
【0036】
結晶粒の平均粒径と、保温時間と、保温温度との関係は、下記(3)式で表すことができる。
2―r02=(DgbσV/δRT)t ‥‥(3)
ここで、r:保温開始後の結晶粒の平均粒径、r0:保温開始前の結晶粒の平均粒径、Dgb:結晶粒界の拡散係数、σ:粒界エネルギー、V:モル容積、δ:結晶粒界の厚さ、R:気体定数、T:保温温度、t:保温時間である。
【0037】
また、結晶粒界の拡散係数Dgbは、下記(4)式で表される。
gb(cm/s2)=8.8×10-4exp(−20085/T) ‥‥(4)
【0038】
図6は、保温温度と結晶粒径との関係を示す図である。同図では、炭素含有率が0〜0.2質量%の鋳片の保温時間を168時間とし、保温温度を異なる温度に設定した場合について、計算によって求めた結晶粒径を示す。同図には、保温開始前の結晶粒の平均粒径r0を50μm、500μmおよび2mmとした場合について示す。保温開始前の結晶粒の平均粒径r0について、50μmは表層のフェライト粒の粒径を、500μmは表層近傍のオーステナイト粒の粒径を、2mmは鋳片における一般的オーステナイト粒の粒径をそれぞれ想定して設定した値である。
【0039】
図6に示す結果から、保温温度が650℃以下の場合には、オーステナイト粒の粒径はほとんど変化せず、フェライト粒の粗大化も抑制される。このことから、保温中の鋳片表層近傍の結晶粒の粗大化により、鋳片表層に欠陥が発生し易いと考えられる。そのため、保温温度は、結晶粒の粗大化への影響が小さい温度としてAr3点よりも100℃以上低い温度とすることが好ましい。保温温度の下限値は、鋼中の水素の拡散係数が、従来技術である鋳片の再加熱時の拡散係数を下回らない温度であるAr3点よりも300℃低い温度とする。鋳片の炭素含有率が0〜0.2質量%である場合には、保温温度をAr3点よりも100〜300℃以下低い温度とすることにより、鋳片表層10mmまでの結晶粒の粗大化を抑制し、保温時における鋳片の表面欠陥の発生を抑制することができる。
【実施例】
【0040】
本発明の鋳片の脱水素方法の効果を確認するため、以下に示す試験を実施してその結果を評価した。
【0041】
1.試験条件
徐冷カバーとして、前記図3に示す形状の徐冷カバーを使用した。徐冷カバーは、鋼板からなる外壁により構成された長さ9m、幅7m、高さ3mの直方体とし、内部にバーナーを配置した。外壁の内面には耐火物の内張りを設け、外壁の外面および内面には断熱材を貼り付けた。
【0042】
バーナーは、徐冷カバーの外壁のうち、互いに対向する1対の側面に5基ずつで全10基配置した。これは、徐冷カバー内部の温度を所定の温度以上に維持できる最低の数以上である。徐冷カバーの内部には、鉛直方向に積み重ねられた鋳片を2列に並べて載置した。各鋳片は、側面がバーナーに対向するように配置した。
【0043】
徐冷カバーの内部には常時外気を送り込み(脱水素処理時を含む)、排気ガスの温度を測定することにより、徐冷カバー内部の雰囲気温度を監視した。鋳片の温度は、接触式の温度計を用いて測定した表面の温度に基づいて監視した。
【0044】
鋳造後の鋳片を徐冷カバーの内部に搬入、載置し、徐冷カバー内部の雰囲気の温度が保温温度よりも所定温度高い温度まで低下した時点でバーナーに点火し、徐冷カバー内部の雰囲気を加熱、保温し、鋳片に脱水素処理を施した。これにより、バーナー3の点火前には8℃/hであった鋳片温度の降下速度が、バーナー3の点火後に0.2℃/hとなった。
【0045】
保温時間は、溶鋼中の水素濃度の分析値と、目標とする鋼板中の残留水素濃度に基づいて決定した。保温時間が経過した後、徐冷カバー内から鋳片を搬出し、圧延を施して鋼板とした。
【0046】
鋳片の寸法および鋼種、ならびに脱水素処理条件(徐冷条件、保温温度、溶鋼中の水素濃度および保温時間)は、表1に示すとおりとした。鋼種の表記において各成分(CおよびMn)の前の数字はその成分の含有率(質量%)を表す。保温温度A[℃]は、各鋼種のAr3点との差によって表した。本発明例1〜9では、上述のバーナー付きの徐冷カバーを用いて鋳片に脱水素処理を施した。比較例1では従来の方法として120時間のカバー徐冷のみを行う方法、比較例2では、従来の方法として120時間のカバー徐冷の後再加熱し再び72時間のカバー徐冷を行う方法によって鋳片に脱水素処理を施した。
【0047】
【表1】

【0048】
従来の方法のうち、比較例1で実施したカバー徐冷のみの方法とは、例えば製品に要求される水素濃度が0.30ppmの鋼板を製造する場合には、脱水素を目的とした鋼製の徐冷カバーを用いて鋳造後の鋳片を保温し、鋳片の水素濃度が0.30ppmとなるまでの所定の時間、脱水素処理を行う方法である。
【0049】
従来の方法のうち、比較例2で実施したカバー徐冷および再加熱の後、カバー徐冷する方法とは、例えば製品に要求される水素濃度が0.30ppmの鋼板を製造する場合には、脱水素を目的とした鋼製の徐冷カバーを用いて鋳造後の鋳片を保温し、鋳片の水素濃度が0.5ppmになるまで脱水素を進行させた後、鋳片を加熱炉で再加熱して、再び鋼製の徐冷カバーを用いて鋳片を保温し、鋳片中の水素濃度が0.30ppmとなるまでの所定の時間、脱水素処理を行う方法である。
【0050】
2.試験結果
上記条件で脱水素処理を施した鋳片および作製した鋼板について、欠陥の有無および次工程までのリードタイムを指標として評価を行った。試験結果は、前記表1に示した。
【0051】
比較例1は、カバー徐冷が120時間の1回だけだったので、次工程までのリードタイムが120時間と短かった。しかし、鋳片の脱水素能力が足りなかったため、鋼板に水素に起因した遅れ割れと見られる欠陥が発生した。
【0052】
比較例2は、カバー徐冷を再加熱前後に合計2回行ったので、鋳片の脱水素能力が十分であり、鋼板に欠陥が見られなかった。しかし、カバー徐冷の時間が長かったため、次工程までのリードタイムが240時間と長かった。
【0053】
本発明例1〜9では、鋳片の脱水素能力が十分であり、いずれも鋼板には欠陥が見られず、圧延後に水素に起因した遅れ割れの発生はなかった。また、成品としての成績にも問題はなかった。ただし、本発明例9のみにおいて鋳片の表面に欠陥が発生した。これは、前記図5に示した鋳片表面の結晶粒の粗大化によって鋳片表面が脆化し、鋳片の冷却中に発生する鋳片表面と内部の温度差による膨張係数の違いに起因する応力によって割れが発生したことによると考えられる。
【0054】
また、本発明例1〜9では、次工程までのリードタイムが137〜193時間と、比較例2よりも短かった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の鋳片の脱水素方法を用いることにより、省スペースでかつ鋳片の状態で十分に鋳片の脱水素処理を施すことができる。また、本発明の方法は、鋳片の脱水素能力が高いため、成品の遅れ割れの発生を抑制することができ、鋳造完了から圧延開始までの時間を短縮することができる。さらに、圧延後の鋼板(成品)の状態で脱水素処理を行う従来の方法では、スペースの不足に伴って徐冷工程の遅れが発生する場合があったが、本発明の方法ではそのような事態の発生を解消することができる。
【0056】
したがって、本発明の鋳片の脱水素方法は、遅れ割れのない成品の素材である鋳片を製造する方法として、それぞれ広範に適用できる。
【符号の説明】
【0057】
1:徐冷カバー、 2:外壁、 3:バーナー、 4:鋳片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造鋳片の脱水素方法であって、バーナーを設置した徐冷カバー内に複数の鋳片を収容し、前記鋳片の鋼種に応じ、前記バーナーによって前記徐冷カバー内の雰囲気を加熱して、前記鋳片の温度をAr3点よりも低い温度で、かつ水素の拡散係数の値がAr3点における値よりも大きくなる温度に保持しながら、前記鋳片を徐冷して脱水素を行うことを特徴とする連続鋳造鋳片の脱水素方法。
【請求項2】
前記バーナーの雰囲気加熱により前記鋳片をAr3点よりも100〜300℃低い温度に保持することを特徴とする、請求項1に記載の連続鋳造鋳片の脱水素方法。
【請求項3】
前記バーナーの雰囲気加熱により前記鋳片を前記所定の温度に保持する時間は、前記鋳片を圧延して得られる鋼板において要求される水素濃度に応じて設定することを特徴とする、請求項1または2に記載の連続鋳造鋳片の脱水素方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−36486(P2012−36486A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180147(P2010−180147)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】