説明

遅延干渉計

【課題】小型でビットレート、光位相とも変更可能な1ビット遅延干渉計を提供する。
【解決手段】本発明の遅延干渉計は、分岐手段により分岐された光線の第1の光路及び又は第2の光路に配置されたものであり、駆動部と、それぞれの頂角が同じであるくさび型光学素子及びくさび型光学素子とを有して構成されるものであって、駆動部による駆動を受けたくさび型光学素子が、対向するくさび型光学素子に平行に移動することにより、第1の光路及び又は第2の光路を進行する光の光路長の粗調及び微調を行う粗動調整手段及び微動調整手段と、微動調整手段による微動調整、粗動調整手段による粗動調整が行われた、第1の光路を進行する第1の光線及び第2の光路を進行する第2の光線を分岐し、第1の光線及び第2の光線の各分岐光に基づいて再結合して出力する分岐再結合手段とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遅延干渉計に関するものであり、例えば、光伝送システムに用いる1ビット遅延干渉計に適用し得るものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、マイケルソン干渉計の光路長を制御する方法として、特許文献1のような手法が知られている。図2は、従来のマイケルソン干渉計の光路長を制御する方式を説明する説明図である。図2において、入力ポートコリメータ21から入力された光は、ハーフミラー23で2分岐され、一方の光は全反射ミラー24側に進行し、他方の光はアクチュエータ25により駆動される全反射ミラー26側に進行する。そして、ハーフミラー23に再度戻ってきた2つの反射光を結合して干渉光(干渉信号)が生成され、干渉光が出力ポートコリメータ22に出力する。
【0003】
従来の方式は、図2に示されるように、上記他方の光路の全反射ミラー26にアクチュエータ25を取り付け、アクチュエータ25の駆動により全反射ミラー26の位置を移動させることで光路長を調整するというものである。
【0004】
例えば、マイケルソン干渉計を高速光通信システムに用いる場合、非特許文献1の記載の技術のように、マイケルソン干渉計の光路長を変化させ、干渉する光の位相を制御する用い方(微動調整(微調))と、ビット周期に相当する比較的大きな光路長を調整する用い方(粗動調整(粗調))との2通りを同時に行うことが想定される。このとき、特許文献1や非特許文献1の方式で、微調と粗調を行うためには、例えば、大きなステッピングモータや、アクチュエータが必要になる。
【0005】
一般的に、小型のアクチュエータの1つとして、PZTアクチュエータと呼ばれる、圧電素子を用いたアクチュエータが知られている。PZTアクチュエータには積層された圧電素子に電界を印加したときに生じる伸縮を利用する「積層型」と、電界印加時の伸縮の大きさや符号が異なる素子を張り合わせ、電界印加時に生じるそりを利用した「バイモルフ型」や「モノモルフ型」等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09−243461号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Yoshihiro Kanda.Hitoshi Murai.Masatoshi Kagawa.Kozo Fujii,”Highly Stable 160-Gb/s Field Transmission Employing Adaptive PMD Compensator with Ultra High Time-Resolution Variable DGD Generator”,ECOC 2008,September 2008,Bryssels,Belguim,We.3.E.6,Vol.3-p.207-p.208
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、積層型アクチュエータは、非常に精度が高い反面、ダイナミックレンジが比較的狭いため、微調に適しているが、粗調には適していない。
【0009】
これに対して、バイモルフ型やモノモルフ型のアクチュエータの伸縮動作を利用した場合には、圧電素子に付帯した冶具上にステージをのせ、パルス状に電界印加することで生じる振動により、そのステージを駆動させることで直線動作を得る。しかしながら、この場合は、細かいステップで動作できないために、光の位相を制御することができないという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、小型でビットレート、光位相とも変更可能な1ビット遅延干渉計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するために、第1の本発明の遅延干渉計は、(1)入力された光線を2分岐する分岐手段と、(2)分岐手段により分岐された光線の第1の光路及び又は第2の光路に配置されたものであり、第1の駆動部と、それぞれの頂角が同じである第1のくさび型光学素子及び第2のくさび型光学素子とを有して構成されるものであって、第1の駆動部による駆動を受けた第2のくさび型光学素子が、対向する第1のくさび型光学素子に平行に移動することにより、第1の光路及び又は第2の光路を進行する光の光路長の粗動調整を行う粗動調整手段と、(3)分岐手段により分岐された光線の第1の光路及び又は第2の光路に配置されたものであり、第2の駆動部と、それぞれの頂角が同じである第3のくさび型光学素子及び第4のくさび型光学素子とを有して構成されるものであって、第2の駆動部による駆動を受けた第4のくさび型光学素子が、対向する第3のくさび型光学素子に平行に移動することにより、第1の光路及び又は第2の光路を進行する光の光路長の微動調整を行う微動調整手段と、(4)微動調整手段による微動調整、粗動調整手段による粗動調整が行われた、第1の光路を進行する第1の光線及び第2の光路を進行する第2の光線を分岐し、第1の光線及び第2の光線の各分岐光に基づいて再結合して出力する分岐再結合手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
第2の本発明の遅延干渉計は、(1)入力された光線を2分岐する分岐手段と、(2)反射型液晶素子に傾きを持たせ、分岐手段により分岐された一方の第1の光路を進行する光線を反射型液晶素子で反射させて、当該光線の光位相の制御を行う光位相制御手段と、(3)分岐手段と光位相制御手段との間に介在し、駆動部と、それぞれの頂角が同じである第1のくさび型光学素子及び第2のくさび型光学素子とを有して構成されるものであって、駆動部による駆動を受けた第2のくさび型光学素子が、対向する第1のくさび型光学素子に平行に移動することにより、分岐手段からの光線及び光位相手段により反射され戻ってきた光線の光路長の粗動調整を行う粗動調整手段と、(4)分岐手段により分岐された他方の第2の光路を進行する光線を全反射する反射手段と、(5)反射手段により反射された第1の光線及び粗動調整手段から出力された第2の光線を分岐し、第1の光線及び第2の光線の各分岐光に基づいて再結合して出力する分岐再結合手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、小型でビットレート、光位相とも変更可能な1ビット遅延干渉計を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施形態の遅延干渉計の構成を示す構成図である。
【図2】従来のマイケルソン干渉計の光路長を制御する方法を説明する説明図である。
【図3】アクチュエータに駆動されるくさび型光学素子と固定されたくさび型光学素子との配置関係を説明する説明図である。
【図4】第1の実施形態のハーフミラーにおける光の干渉の様子を説明する説明図である。
【図5】第1の実施形態の微調用遅延素子のウェッジ角と分解能を示す図である。
【図6】第1の実施形態のアクチュエータの移動量と光学的な遅延量との関係を示す図である。
【図7】第2の実施形態の遅延干渉計の構成を示す構成図である。
【図8】第3の実施形態の遅延干渉計の構成を示す構成図である。
【図9】第4の実施形態の遅延干渉計の構成を示す構成図である。
【図10】くさび型光学素子に垂直に光線が入射するときの構成例を示す犢図である。
【図11】くさび型光学素子の頂角を2分する面に垂直に光が進行するように入射角を選定した場合の構成例を示す構成図である。
【図12】くさび型光学素子内で、くさび型光学素子の頂角を2分する面に垂直に光が進行するように入射角を選定した場合の構成例を示す構成図である。
【図13】第5の実施形態の2個のくさび型光学素子の構造及びその周辺の構成を示す構成図である。
【図14】第5の実施形態の動作を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(A)第1の実施形態
以下では、本発明に係る遅延干渉計の第1の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
第1の実施形態では、例えば変調方式としてDPSK(Differential Phase Shift Keying)を採用した光通信システムにおける1ビット遅延干渉計に本発明を適用する場合を例示して説明する。
【0017】
(A)第1の実施形態の構成
図1は、第1の実施形態の遅延干渉計1Aの構成を示す構成図である。図1において、第1の実施形態の遅延干渉計1Aは、入力ポートコリメータ101、2個の出力ポートコリメータ102及び103、2個のハーフミラー104及び105、2個のプリズム106及び107、2個のアクチュエータ108及び109、アクチュエータ108及び109が駆動させる2個のくさび(ウェッジ)型光学素子110及び111、固定されたくさび型光学素子112及び113を有して構成される。
【0018】
アクチュエータ108及び109は、小型のアクチュエータ(マイクロアクチュエータ)である。アクチュエータ108及び109は、可動式のアームを備えており、そのアームにくさび型光学素子110及び111が固定されており、アームを稼働させることによりくさび型光学素子110及び111を押し出したり又は引き込んだりする駆動部として機能するものである。これにより、アクチュエータ108及び109に固定されたくさび型光学素子110及び111を移動させることができる。
【0019】
くさび型光学素子110及び111は、アクチュエータ110及び1111に固定されたくさび型の形状をした光学素子である。くさび型光学素子110及び111は、アクチュエータ108及び109の駆動により、位置を移動させることができる。
【0020】
くさび型光学素子112及び113は、所定の位置に固定されたくさび型の形状の光学素子である。
【0021】
ここで、この実施形態では、アクチュエータ108に固定されたくさび型光学素子110とくさび型光学素子113が、光路長を微動調整する微動調整手段として機能する。一方、アクチュエータ109に固定されたくさび型光学素子111とくさび型光学素子112が、光路長を粗動調整する粗動調整手段として機能する。
【0022】
微調用として機能するくさび型光学素子110及び113は、それぞれ、向かい合う斜辺が平行となるように設置されている。また、くさび型光学素子110及び113のウェッジ角は、共に等しく、粗調用として機能するくさび型光学素子111及び112のウェッジ角が小さい。
【0023】
粗調用として機能するくさび型光学素子111及び112は、それぞれ、向かい合う斜辺が平行となるように設置されている。また、くさび型光学素子111及び112のウェッジ角は、共に等しく、微調用として機能するくさび型光学素子110及び113のウェッジ角が大きい。
【0024】
なお、くさび型光学素子110及び113を1組とする微動調整手段と、くさび型光学素子111及び112を1組とする粗動調整手段とは、それぞれ、ハーフミラー104により分岐された2つの光路のいずれか又は双方に配置するようにしてもよい。
【0025】
例えば、図1では、微動調整手段と粗動調整手段とを並べて配置した場合を例示しているが、ハーフミラー104からハーフミラー105までの2つの光路上のいずれであれば、微動調整手段と粗動調整手段の配置位置は特に限定されるものではない。例えば、ハーフミラー104とプリズム106との間に、微動調整手段と粗動調整手段のいずれか一方を配置させ、ハーフミラー104とプリズム107との間に、他方を配置させてもよい。
【0026】
また例えば、後述するように光路長の変化はくさび型光学素子の頂角に依存するので、ハーフミラー104により分岐された2つの光路の両方に、微動調整手段、粗動調整手段を配置するようにしてもよい。
【0027】
プリズム106及びプリズム107は、入射光を全反射する全反射部である。この実施形態では、入射した光線の入射位置と、反射した光線の反射位置とが異なる位置となるようにするために、全反射部としてプリズムを適用する場合を例示するが、これに限定されるものではない。例えば、複数のミラー等を組み合わせた全反射部を構成するようにしてもよい。
【0028】
入力ポートコリメータ101は、遅延干渉計1Aの入力ポートから入力された入力光を平行光線にするものである。
【0029】
出力ポートコリメータ102及び103は、ハーフミラー105から出射された出射光線を遅延干渉計1Aの出力ポートに出力するものである。
【0030】
ハーフミラー104は、入力ポートコリメータ101からの光線を2分岐して、一方の光線をプリズム106側(図1の上方)に出射し、他方の光線をプリズム107側(図1の右方)に進行させるものである。
【0031】
ハーフミラー105は、プリズム106からの反射光線と、プリズム107の反射光線がくさび型光学素子110〜113を通過して遅延された光線とを入射し、これら反射光線及び遅延された光線を分岐及び結合して干渉光を生成するものである。
【0032】
(A−2)第1の実施形態の動作
次に、第1の実施形態の遅延干渉計1Aの動作を、図1、図3及び図4を参照しながら説明する。
【0033】
まず、図1において、図示しない入力ポートから遅延干渉計1Aに入力された光は、入力ポートコリメータ101を通過することにより平行光線となり、第1のハーフミラー104に入力される。
【0034】
第1のハーフミラー104に入力された光線は、2分岐される。一方の1系統は、プリズム106側に進行し、他方の1系統は、図面での右側へ進行する。
【0035】
一方の1系統の光線は、プリズム106に入力し、プリズム106で2回全反射を繰り返す。これにより、光線はプリズム106に入力した入力位置からわずかに異なる位置から出力する。プリズム106から出力した出射光線は、第2のハーフミラー105に入力される。
【0036】
他方の1系統の光線は、固定されたくさび型光学素子(第1のくさび型光学素子)113を通過し、さらにアクチュエータ108に固定されたくさび型光学素子(第2のくさび型光学素子)110を通過する。
【0037】
ここで、図3は、くさび型光学素子113及び110の配置関係を説明する説明図である。図3を用いて、くさび型光学素子113及び110の配置関係について説明する。なお、図3の例では、入力光線の進行方向に対いて、くさび型光学素子110及び113の斜辺が垂直となるように配置した場合を示す。
【0038】
図3に示すように、アクチュエータ108に駆動されて移動可能なくさび型光学素子110は、斜辺が平行に移動するように設定されている。
【0039】
例えば、図3(A)は、アクチュエータ108がくさび型光学素子110を遠くに押し込んだときの配置関係を示し、図3(B)は、アクチュエータ108がくさび型光学素子110を近くに引き込んだときの配置関係を示す。
【0040】
アクチュエータ108は、くさび型光学素子110の斜辺が平行になるように位置移動させるので、図3(A)に示す状態から図3(B)に示す状態に移動させる場合、対向する固定されたくさび形光学素子113の斜辺と平行のまま移動する。
【0041】
また、図3(A)に示すように、アクチュエータ108がくさび型光学素子110を押し込んだときに対して、図3(B)に示すように、アクチュエータ108がくさび型光学素子110を若干引き込んだときの方が、光線がくさび型光学素子110内を進行する時間が短く、光線の光路長は短くなる。
【0042】
例えば、図3(A)及び図3(B)において、アクチュエータ108がくさび型光学素子110を移動させる移動距離を「L」とする。また、図3(A)のくさび型光学素子110を進行する光の光路長を「l」とし、図3(B)のくさび型光学素子110を進行する光の光路長を「l」とする。
【0043】
この場合、移動距離Lに対して、その光路長差(l−l)は、Lsinθ/(n−1)で表される。ここで、nは屈折率である。θはくさび型光学素子110及びくさび型光学素子113のウェッジ角であり、第1の実施形態では、例えばウェッジ角θ=1°とする場合を例示する。
【0044】
図1において、くさび型光学素子110を通過した光線は、くさび型光学素子(第3のくさび型光学素子)111を通過し、さらにくさび型光学素子(第4のくさび型光学素子)112を通過する。くさび型光学素子111及び112の配置関係も、図3に例示した、くさび型光学素子113及び110の場合と同じである。
【0045】
ただし、ウェッジ角が異なる。微調用として機能するくさび型光学素子113及び110の場合、ウェッジ角を例えば1°したのに対して、粗調用として機能するくさび型光学素子111及び112のウェッジ角は、例えばθ=30°と設定するものとする。
【0046】
第4のくさび型光学素子112を通過した光線は、第2のプリズム107に入力する。光線は、プリズム107で2回の全反射が行われ、プリズム107に入力した位置に対して、わずかに異なる位置から出力される。
【0047】
プリズム107から出射された光線は、さらに、第4のくさび型光学素子112及び第3のくさび型光学素子111、第2のくさび型光学素子110及び第1のくさび型光学素子113を通過する。そして、第1のくさび型光学素子113を通過した光線は、第2のハーフミラー105に入力される。
【0048】
ハーフミラー105には、プリズム106から出射された光線と、第1のくさび型光学素子113から出射された光線とが入力される。
【0049】
図4は、ハーフミラー105における光の干渉の様子を説明する説明図である。図4において、ハーフミラー105には、プリズム106からの光線(1)と、第1のくさび型光学素子113からの光線(2)とが入力する。また、光線(3)〜(6)がハーフミラー105から出力する。
【0050】
第1のくさび型光学素子からの光線(1)は、ハーフミラー105に入力されると、光線(3)及び光線(4)に分岐される。また、プリズム106からの光線(2)は、ハーフミラー105に入力されると、光線(5)及び光線(6)に分岐される。
【0051】
そのため、光線(3)及び光線(6)がそれぞれ干渉し、出力ポートコリメータ103側に進行する。また、光線(4)及び光線(5)がそれぞれ干渉し、出力ポートコリメータ102側に進行する。
【0052】
このとき、光線(3)の位相は、光線(1)の位相と同相であるが、光線(4)の位相は、光線(1)の位相に対してπ/2の位相シフトが生じる。また、光線(5)の位相は、光線(2)の位相と同相であるが、光線(6)の位相は、光線(2)の位相に対してπ/2の位相シフトが生じる。
【0053】
図4において、光線(1)の位相が「0」であり、光線(2)の位相が「π/2」であるとする。光線(1)及び光線(2)の位相差がπ/2で、ハーフミラー105に結合するとする。
【0054】
この場合、光線(3)の位相「0」及び光線(6)の位相「0」であるから、位相差が「0」で再結合する。また、光線(4)の位相「π/2」及び光(5)の位相「−π/2」であるから、位相差が「π」で再結合する。
【0055】
よって、出力ポートコリメータ102側からの出力が、Constructive Portに対応する。また、出力ポートコリメータ103側からの出力がDestructive Portに対応する。
【0056】
(A−3)実施例
次に、第1の実施形態の遅延干渉計1Aによる効果について図面を参照しながら説明する。
【0057】
アクチュエータ108及び109のくさび型光学素子110及び111を伸縮する1ステップの分解能が分かれば、アクチュエータ108及び109の1ステップで可変できる光学長は、くさび型光学素子110及び111のウェッジ角で定まる。
【0058】
図5は、微調用遅延素子のウェッジ角と分解能を示す図である。図5において、くさび型光学素子のウェッジ角(Angle)を横軸に、可変できる最小の光学長を縦軸に記載した図を示す。
【0059】
図5において、光線が1方向に進行した場合の光学長分解能を点線で、往復したときの分解能を実線で示した。第1の実施形態では往復させているので、実線で示した分解能で光学長を変化させることができる。
【0060】
第1のくさび型光学素子113、第2のくさび型光学素子110の角度(ウェッジ角)は1°であるため、アクチュエータ108の1ステップで可変できる光学長は0.017μmとなる。よって、1波長に相当する長さに達するには90ステップを要する。これは、波長の1/90の分解能で位相を制御することができることを意味する。
【0061】
また、アクチュエータ108及び109の最大移動量を4mmとしたとき、どの程度の距離を可変できるかについて説明する。
【0062】
図6は、アクチュエータ108及び109の移動量(横軸)と光学的な遅延量(縦軸)との関係を示す。図6では、くさび型光学素子110及び111のウェッジ角を30°としてある。実線は1組のくさび型光学素子を利用した場合で、点線は2組、破線は3組用いた例である。
【0063】
図6において、移動量が0の場合に遅延量が5psであるとしてある。これは、200Gb/sのビットレートに相当する。アクチュエータ108及び109の移動量が4mmの場合、1組では遅延量は12.5psまで変化するため、可変量は200Gb/sから80Gb/sまで対応できるビットレート可変、1ビット遅延干渉計となる。
【0064】
2組では20psとなるため、200Gb/sから50Gb/sまで対応可能なビットレート可変、1ビット遅延干渉計となる。さらに、3組用いた場合には、30ps程度まで遅延量が増やせるため、40Gb/sにも対応できる1ビット遅延干渉計となる。
【0065】
(A−4)第1の実施形態の効果
以上のように、第1の実施形態によれば、従来よりも、より小さい構造でビットレート、及び位相可変のマイケルソン型1ビット遅延干渉計を構成することができる。
【0066】
(B)第2の実施形態
次に、本発明の遅延干渉計の第2の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0067】
第1の実施形態では、アクチュエータを2組使用した場合の構成を例示した。第2の実施形態では、第1の実施形態の構成よりも、さらに小型化を実現する構成である。
【0068】
(B−1)第2の実施形態の構成
図7は、第2の実施形態の遅延干渉計1Bの構成を示す構成図である。図7において、第2の実施形態の遅延干渉計1Bは、入力ポートコリメータ201、2個の出力ポートコリメータ202及び203、2個のハーフミラー204及び205、プリズム206、アクチュエータ207、アクチュエータ207により駆動されるくさび型光学素子208、固定されたくさび型光学素子209、反射型液晶素子210、くさび型光学素子211で構成されるものである。
【0069】
アクチュエータ207は、第1の実施形態と同様の駆動部である。第1の実施形態では、2組のアクチュエータを備える場合を例示したが、第2の実施形態では、1組のアクチュエータを備えるものとする。これにより、遅延干渉計をより小型化にすることができる。
【0070】
くさび型光学素子208及びくさび型光学素子209のウェッジ角は等しく、それぞれの斜辺が平行となるように配置されている。
【0071】
反射型液晶素子210は、例えば、LCOS(Liquid Crystal On Silicon)などのように、反射型の液晶素子である。反射型液晶素子210は、印加する電界により液晶の配向が変化する。すなわち、電界を印加して、入射される光に対して所定の角度をもたせる状態に液晶を変化させる。これにより、入力光が反射型液晶素子210の液晶に反射することで、当該入力光の位相状態が制御される。
【0072】
くさび型光学素子211は、反射型液晶素子210からの反射光線を、反射型液晶素子210に入力する光線と平行となるように調整するものである。
【0073】
(B−2)第2の実施形態の動作
次に、第2の実施形態の遅延干渉計1Bの動作を、図7及び図3を参照しながら説明する。
【0074】
図7の紙面に平行に振動する電界を持つ光が遅延干渉計1Bに入力し、入力された光は、入力ポートコリメータ201により平行光線となる。また、入力ポートコリメータ201からの平行光線は、ハーフミラー204に入力される。
【0075】
ハーフミラー204では光線が2分岐される。1系統はプリズム206側に進行し、もう一方の1系統はくさび型光学素子209側に進行する。
【0076】
プリズム206側に進行した光線は、プリズム206により2回全反射を繰り返し、プリズム206に入力した位置に対し、わずかに異なる位置から出力される。プリズム206からの出射光線は、ハーフミラー205に入力される。
【0077】
また、くさび型光学素子209側に進行した光線は、固定されたくさび型光学素子209を通過し、さらにアクチュエータ207に固定されたくさび型光学素子208を通過する。くさび型光学素子209及び208は、粗調遅延素子として機能するものであり、例えば、ウェッジ角度を30°とするものを適用することができる。
【0078】
なお、くさび型光学素子209及び208の配置関係については、図3に例示したように、くさび型光学素子208の相互の斜辺が平行に動くように設置されているものとする。この動作は、第1の実施形態と同様である。
【0079】
くさび型光学素子208から出射された光線は、反射型液晶素子210に入射する。反射型液晶素子210では、印加する電界に応じて液晶の配向が変化し、この状態によって出力する光の位相状態を制御する。
【0080】
ここで、反射型液晶素子210は、光の入射に対して、若干の角度を持たせるように設置されている。反射型液晶素子210では、入力光が、わずかな角度を持つ液晶に反射する。この液晶に光が反射することで、光の位相は変化する。すなわち、光の位相を微調することができる。その反射した光が反射型液晶素子210から出射される。
【0081】
反射型液晶素子210により位相が調整された反射光は、くさび型光学素子211に与えられる。くさび型光学素子211は、反射型液晶素子210から出力された光線が、反射型液晶素子210の入力光線と平行となるようにするものである。そのため、反射型液晶素子210に反射された光線は、くさび型光学素子211を通過すると、入力光線と平行に進行する光線にされる。
【0082】
そして、再度、光線は、くさび型光学素子208及びくさび型光学素子209を通解して、ハーフミラー205に入力する。
【0083】
ハーフミラー205では、プリズム206からの光線と、くさび型光学素子209からの光線とが入力し、これら光が分岐し、さらに光の干渉を行う。このハーフミラー205での光の分岐及び干渉に関しては、第1の実施形態と同様である。
【0084】
(B−3)第2の実施形態の効果
以上のように、第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、ハーフミラーによって、2出力(Constructive、Destructive)を出力することができる。また、第2の実施形態によれば、反射型液晶素子を用いて光の位相の微調を行うことができるので、光の位相の粗調を行うアクチュエータを1組とすることができ、構成規模を小さくすることができる。さらに、ハーフミラーでの光の分岐及び干渉を行うために、くさび型光学素子により平行光線の進行方向をわずかに変えることで実現できる。
【0085】
(C)第3の実施形態
次に、本発明の遅延干渉計の第3の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0086】
第2の実施形態では、反射型液晶素子を用いた実施形態を説明した。しかし、液晶素子は、光の偏光を利用した素子であるため、例えば光信号の受信のようにあらゆる偏光状態で光が入力する可能性のある装置に利用することが困難である。そこで、第3の実施形態では、偏波面ダイバーシティを行い、あらゆる入力偏波面に対応する構成について説明する。
【0087】
(C−1)第3の実施形態の構成
図8は、第3の実施形態の遅延干渉計の構成を示す構成図である。図8において、第3の実施形態の遅延干渉計1Cは、入力ポートコリメータ301、2個の出力ポートコリメータ302及び303、分光用偏波面ビームスプリッタ(PBS)304、2個のハーフミラー305及び306、プリズム307、アクチュエータ308、アクチュエータ308により駆動されるくさび型光学素子309、固定されたくさび型光学素子310、2個の1/2波長板311及び312、反射型液晶素子313、くさび型光学素子314、光路調整用素子315、2個の集光用偏波面ビームスプリッタ(PBS)316及び317で構成される。
【0088】
向かい合わせになったくさび型光学素子310及び311は、ウェッジ角が等しい。
【0089】
(C−2)第3の実施形態の動作
次に、第3の実施形態の遅延干渉計1Cの動作を図8及び図3を参照して説明する。
【0090】
入力ポートより遅延干渉計1Cに入力された光は、入力ポートコリメータ301により平行光線となる。入力ポートコリメータ301からの平行光線は、偏波面ビームスプリッタ304に入力される。
【0091】
分光用偏波面ビームスプリッタ304では、光が、直行する2つの軸(図8では、紙面に平行な面上で光の進行方向に直行する軸、及び、紙面に垂直な面上で光の進行方向に直行する軸)で電界が振動する2つの光線に分離される。
【0092】
ここでは、偏波面が直行する2つの光線を光線(1)、光線(2)と呼ぶ。光線(1)及び光線(2)は、分光用偏波面ビームスプリッタ304により分離され、若干の位置ずれを持って出力される。この位置ずれの距離は、特に限定されるものではなく、実験的に求めることができる。
【0093】
分光用偏波面ビームスプリッタ304から出力された2つの光線(1)及び光線(2)は、ハーフミラー305に入力される。
【0094】
光線(1)は、ハーフミラー305により2分岐される。ここでは、一方の1系統を光線(1−1)、他方の1系統を光線(1−2)と呼ぶ。光線(1−1)はプリズム307側に進行し、光線(1−2)はくさび型光学素子310側に進行する。
【0095】
光線(2)も、同様に、ハーフミラー305により2分岐される。ここでは、一方の1系統の光線(2−1)はプリズム307側に進行し、他方の1系統の光線(2−2)はくさび型光学素子310側に進行する。
【0096】
プリズム307に入力された光線(1−1)及び光線(2−1)はそれぞれ、プリズム307により2回全反射を繰り返し、プリズム307に入力した入力位置からわずかに異なる位置から出力される。プリズム307からの出射された光線(1−1)及び光線(2−1)は、ハーフミラー306に入力される。
【0097】
一方、光線(1−2)及び光線(2−2)は、固定されたくさび型光学素子310を通過し、さらに、アクチュエータ308に固定されたくさび型光学素子309を通過する。
【0098】
なお、アクチュエータ308に固定されたくさび型光学素子309とくさび型光学素子310との配置関係については、図3に例示したように、くさび型光学素子309及び310の斜辺が平行に動くように設置されている。また、くさび型光学素子309及び310は、粗調用の光学素子として機能するものである。
【0099】
くさび型光学素子309から出射した光線のうち、図8の紙面に垂直な振動する偏波を持った光線(2−2)は、1/2波長板311に入力する。1/2波長板311を通過することで、図8の紙面に平行な偏波を持つ光線(2−2)’となる。そして、光線(2−2)’は、反射型液晶素子313に入力する。
【0100】
一方、くさび型光学素子309から出射した光線(1−2)はそのまま、反射型液晶素子313に入力する。
【0101】
反射型液晶素子313では、第2の実施形態と同様に、印加する電界に応じて液晶の配向が変化し、この状態によって出力する光の位相状態を制御する。また、反射型液晶素子313は、図8の紙面に平行に振動する偏波を持つ光線の位相だけ変化させることができる。つまり、反射型液晶素子313に入射した光線(1−2)及び光線(2−2)’はそれぞれ、光の入射に対して所定の角度を持った液晶素子に反射し、反射型液晶素子313から出射される。
【0102】
反射型液晶素子313により位相が調整された光線(1−2)及び光線(2−2)’はそれぞれ、くさび型光学素子314を通過し、反射型液晶素子313に入力する光線と平行に進行する光線となる。
【0103】
ここで、くさび型光学素子314から出力された光線(2−2)’は、1/2波長板312に入力する。1/2波長板312は、再度、図8の紙面に垂直に振動する偏波を持った光線とするものである。従って、1/2波長板312を光線(2−2)’が通過することにより、出力光線は紙面に垂直に振動する光線となる。この出力光線を光線(2−2)”と呼ぶ。
【0104】
光線(1−2)及び光線(2−2)”は、くさび型光学素子309及び310を通過した後、ハーフミラー306に入力される。なお、この間、光線(1−2)は、光線(2−2)”との光路長調整のため、光路長調整用素子315を通過する。
【0105】
ハーフミラー306では、それぞれ同じ偏波面を持つ、光線(1−1)と光線(1−2)とが干渉し、光線(2−1)と光線(2−2)”とが干渉する。そのため、図8のハーフミラー306に示すように、ハーフミラー306では光の干渉が2箇所で生じる。
【0106】
ハーフミラー306の左側から出力された2つの光線は、集光用偏波面ビームスプリッタ316で集光され、出力ポートコリメータ302で結合されて出力される。また、ハーフミラー306の下方から出力された2つの光線は、集光用偏波面ビームスプリッタ317で集光され、出力ポートコリメータ303で結合されて出力される。
【0107】
(C−3)第3の実施形態の効果
以上のように、第3の実施形態によれば、入力する入力信号の偏波面に拘らず、反射型液晶素子を用いた小型の遅延干渉計の動作を実現させることができる。
【0108】
(D)第4の実施形態
次に、本発明の遅延干渉計の第4の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0109】
第1の実施形態では、変調方式としてDPSKを採用した光通信システムに適用する遅延干渉計について説明した。
【0110】
一方、検討が進められているDQPSK(Differential Quadrature Phase Shift Keying)を採用した高速光通信システムでは、2台の1ビット遅延干渉計を用いる方式が適用されている。この場合、第1の実施形態で説明した1ビット遅延干渉計を2台用いることになるが、省スペース化の観点から、1台の1ビット遅延干渉計で実現することが望まれる。
【0111】
そこで、第4の実施形態では、DQPSK変調方式の信号にも対応可能な1台の1ビット遅延干渉計について説明する。
【0112】
(D−1)第4の実施形態の構成
図9は、第4の実施形態の遅延干渉計の構成を示す構成図である。図9において、第4の実施形態の遅延干渉計1Dは、2個の入力ポートコリメータ401及び402、4個の出力ポートコリメータ403、404、405及び406、2個のハーフミラー407及び408、2個の光位相調整素子409及び410、2個のプリズム411及び412、2個のアクチエエータ413及び414、各アクチュエータ413及び414によって駆動されるくさび型光学素子415及び416、固定された2個のくさび型光学素子417及び418で構成される。
【0113】
くさび型光学素子415及び418は、それぞれの斜辺が向かい合わせに配置されており、それぞれのウェッジ角は等しい。同様に、くさび型光学素子416及び417は、それぞれの斜面が向かい合わせに配置されており、それぞれのウェッジ角は等しい。
【0114】
(D−2)第4の実施形態の動作
次に、第4の実施形態の遅延干渉計1Dの動作について図9及び図3を参照しながら説明する。
【0115】
遅延干渉計1Dは、2個の入力ポートコリメータ401及び402を備え、2入力の構成をとる。そのため、各入力ポートから遅延干渉計1Dに入力した2つの光はそれぞれ、入力ポートコリメータ401及び402により平行光線となる。そして、入力ポートコリメータ401及び402からの各平行光線は、ハーフミラー407に入力する。
【0116】
入力ポートコリメータ401からの光線は、ハーフミラー407により2分岐され、一方の1系統はプリズム411側に進行し、他方の1系統はくさび型光学素子418側に進行する。
【0117】
また、ハーフミラー407とプリズム411との間には、光位相調整素子410が配置されており、ハーフミラー407からプリズム411側に進行した光線は、光位相調整素子410に入力する。光位相調整素子410は、光の位相を−π/4だけ調整するものであり、光位相調整素子410に入力した光線は、光の位相が−π/4だけずれて、プリズム411に入力される。
【0118】
一方、入力ポートコリメータ402からの光線も、ハーフミラー407により、プリズム411側とくさび型光学素子418側に2分岐される。
【0119】
また、ハーフミラー407とプリズム411との間には、光位相調整素子409が配置されており、ハーフミラー407からプリズム411側に進行した光は、光位相調整素子409に入力する。光位相調整素子409は、光の位相をπ/4だけ調整するものであり、光位相調整素子409に入力した光線は、光の位相がπ/4だけずれて、プリズム411に入力される。
【0120】
プリズム411に入力された各光線は、プリズム411により2回反射されて、それぞれの光線の入力位置からわずかにずれた位置から出力し、ハーフミラー408に進行する。
【0121】
一方、ハーフミラー407からくさび型光学素子418に進行した2個の光線は、くさび型光学素子418を通過し、さらにアクチュエータ413に固定されるくさび型光学素子415を通過する。さらに、くさび型光学素子415を通過した2個の光線は、アクチュエータ414に固定されたくさび型光学素子417を通過し、くさび型光学素子416を通過して、プリズム412に入力する。
【0122】
プリズム412に入力された各光線は、プリズム412により2回反射されて、それぞれの光線の入力位置からわずかにずれた位置から出力する。プリズム412から出力された各光線は、くさび型光学素子416、417、415及び418を通過して、ハーフミラー408に入力する。
【0123】
ハーフミラー408では、プリズム411から出射された2個の光線と、くさび型光学素子418を通過してきた2個の光線とが入力され、第1の実施形態と同様に、それぞれの光線について光の分岐及び干渉が行われる。
【0124】
ここで、ハーフミラー408では、4個の光の干渉信号が得られる。1つは、入力ポートコリメータ401からの入力光信号と光位相調整素子410で−π/4だけ位相がずれた信号との干渉信号、2つは、入力ポートコリメータ401からの入力光信号と光位相調整素子409でπ/4だけ位相がずれた信号との干渉信号、3つは、入力ポートコリメータ402からの入力光信号と光位相調整素子410で−π/4だけ位相がずれた信号との干渉信号、4つは、入力ポートコリメータ402からの入力光信号と光位相調整素子409でπ/4だけ位相がずれた信号との干渉信号である。
【0125】
ハーフミラー408から出力される4つの干渉信号はそれぞれ、出力ポートコリメータ403〜406に与えられ平行光線として出力される。
【0126】
このように、従来、DQPSK信号の復調では、第1の干渉計ではπ/4の位相差で干渉させ、もう一方の干渉計では−π/4の位相差で干渉させることが必要であったが、第4の実施形態によれば、光位相調整素子409及び410を備え、それぞれ2つの入力信号と干渉させることで、同様の動作を実現することができる。
【0127】
(D−3)第4の実施形態の効果
以上のように、第4の実施形態によれば、DQPSKの復調を行うモデジュレータを1つの干渉計で実現することができる。
【0128】
(E)第5の実施形態
次に、本発明の遅延干渉計の第5の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0129】
第5の実施形態は、第1〜第4の実施形態で説明したくさび型光学素子の設置態様に関するものである。
【0130】
一般的に、遅延干渉計の精度は、干渉させる光が明るい方がよい。くさび型光学素子は、通常反射防止膜(AR膜)がコーティングされているので、入射された光は反射が起こらないように設計されている。そのため、明るさを維持して干渉信号を得ることができる。
【0131】
しかし、くさび型光学素子の光学特性は、光の入射角度が変わると変化し得る。特に、入射角が30°を超えて、光が入射されると、その偏光波であるTE波及びTM波の反射率が大きく変わってくる。
【0132】
このことから、粗調用のくさび型光学素子に入射する光の偏光状態によっては、反射率が変わり、出射光に損失が生じ、遅延干渉計の精度も悪くなるおそれが生じ得る。
【0133】
上記のような問題を回避するために、(1)入射角に合わせた反射防止膜を製膜する方法や、(2)多層膜を構成し、入射角依存を小さくするという方法等が考えられる。しかし、(1)の方法は、入射角に対する依存性が大きくなり、実装時の誤差に対応する許容性が小さくなるという課題が生じ得る。また(2)の方法は、製膜のコストが高くなるという問題が生じ得る。くさび型光学素子の反射防止膜に特別な処置を施すことなく、反射、透過特性の問題を解決することが望まれる。
【0134】
そこで、第5の実施形態では、くさび型光学素子への光の入射角を極力小さくして損失を極力小さくする実施形態を例示する。
【0135】
(E−1)第5の実施形態の構成
第5の実施形態では、固定されたくさび型光学素子と、アクチュエータに固定されたくさび型光学素子との設置構成に特徴がある。そのため、2個のくさび型光学素子との設置構成を中心に説明する。それ以外の構成については、第1〜第4の実施形態で説明した構成と同様である。つまり、第5の実施形態で説明する2個のくさび型光学素子の設置構成を、第1〜第4の実施形態にも適用することができる。
【0136】
図10は、くさび型光学素子に垂直入射するときの構成例を示す構成図である。図10において、くさび型光学素子601は、図示しないアクチュエータの駆動により移動するものである。図10において、一点鎖線はくさび型光学素子601の移動前の位置を示し、実線は移動後の位置を示す。
【0137】
なお、くさび型光学素子601及びくさび型光学素子602の向かい合う面は平行であり、ウェッジ角は共に等しく、各面の屈折率nは共に1.5とする。
【0138】
くさび型光学素子601の第1面に入射する光線は垂直に入射する。光線がくさび型光学素子601から出射するとき、光線が第2面に入射するくさび型光学素子601内の角度は30°となる。このとき、くさび型光学素子601とくさび型光学素子602との間の空気中では48.6°であり、およそ49°となるため、非常に大きな角度となる。なお、空気中での角度はくさび型光学素子602の第1面に入射する角度となる。このように、くさび型光学素子601及び602の各面への入射角度は大きくなるので、反射・透過特性による損失も大きくなり得る。
【0139】
そこで、第5の実施形態では、図11に例示するように、くさび型光学素子611及び612の頂角を2分する面に垂直に光が進行するように、入射角を選定する。
【0140】
図11は、くさび型光学素子の頂角を2分する面に垂直に光が進行するように入射角を選定した場合の構成例を示す構成図である。図11において、破線が、頂角を2分する面を示す。
【0141】
図11において、くさび型光学素子611の第1面に入射する光線の入射角度が15°であり、第1面からの出射する角度が10°となる。また、光線がくさび型光学素子611の第2面に入射する角度が25°であり、第2面から空気中に出射する角度は39°となる。図11の例の場合、図10の例に比べれば、くさび型光学素子への入射角度を小さくすることができる。
【0142】
図12は、くさび型光学素子内で、くさび型光学素子の頂角を2分する面に垂直に光を進行させるように入射角を選定した場合の構成例を示す構成図である。
【0143】
図12において、くさび型光学素子621の第1面に入射する光線の入射角度が23°であり、15°の角度で出射する。くさび型光学素子621の素子内において、光線は、くさび型光学素子621の頂角を2分する面に垂直に進行する。そして、くさび型光学素子621の第2面への光線の入射角は15°となり、空気中への出射角度は23°となる。
【0144】
図11の例の場合、最大の入射角が39°であるのに対して、図12の例の場合、最大の入射角が23°であり、図11の例の場合よりも小さい。図11の場合も効果的に出射光の損失を抑えているが、図12の場合の方が、より効果的に出射光の損失を抑えていることが分かる。
【0145】
しかし、図11及び図12の場合、光線が、プリズム613及び623に反射し、再度くさび型光学素子に戻ってきて通過し、くさび型光学素子から出射するとき、光線の光線軸が、くさび型光学素子611及び612の移動に伴い、平行に移動してしまう(図11及び図12の「A」参照)。
【0146】
光ファイバに再結合することを考慮すると、このような光線軸の移動があると、光ファイバに再結合することができなくなるという問題や、損失が大きくなる等といった問題が生じ得る。また、図11及び図12のように、プリズム613及び623を用いると、光線が反転してしまうという問題もある。
【0147】
図13は、第5の実施形態の2個のくさび型光学素子の構造及びその周辺の構成例を示す構成図である。図13に示す構成例は、図示しないアクチュエータにより駆動されるくさび型光学素子501、固定されたくさび型光学素子502、反射部503〜505を少なくとも有する。
【0148】
くさび型光学素子501及びくさび型光学素子502は、光学素子内で、光線が頂角を2分する面に垂直に進行するように入射角を選定した配置構成である。くさび型光学素子501及びくさび型光学素子502の頂角は等しく、向かい合う斜辺は平行である。
【0149】
反射部503〜505は、くさび型光学素子502の第2面から出射された光線を、複数の反射部を一組として、くさび型光学素子502に折り返すものである。図13では、3個の反射部503〜505を一組とする場合を例示しているが、反射部の数は特に限定されるものではない。
【0150】
(E−2)第5の実施形態の動作
次に、第5の実施形態の動作について図面を参照しながら説明する。図14は、第5の実施形態の動作を説明する説明図である。図14では、一点鎖線で表された位置にあるくさび型光学素子501が移動し、実線で表された位置にくさび型光学素子501が移動する場合を例示する。
【0151】
光線(1)は、くさび型光学素子501の第1面に入射する。移動前の一点鎖線の位置にくさび型光学素子501が位置する場合、光線(1)は第1面に入射し、光学素子内を光線(2)が進行する。光線(2)は、くさび型光学素子501の第2面に入射し、空気中に出射し、光線(4)の光路をたどって、くさび型光学素子502の第2面を出射する。
【0152】
一方、移動後の実線の位置にくさび型光学素子501が位置する場合、光線(1)は、第1面に入射し、光学素子内を光線(3)が進行する。光線(3)は、くさび型光学素子501の第2面に入射し、空気中に出射し、光線(5)の光路をたどって、くさび型光学素子502の第2面を出射する。
【0153】
このとき、光線(4)と光線(5)では、くさび型光学素子501の位置の移動に伴い、進行する光路の位置が変化している。
【0154】
次に、光線(4)及び光線(5)は、反射部503に向けて進行し、反射部503に反射し、反射部504に向けて進行する。さらに、光線(4)及び光線(5)は、反射部504に反射し、反射部505に向けて進行する。反射部505に反射された光線(6)及び光線(7)は、くさび型光学素子502に向けて進行する。
【0155】
上記のように、3個の反射部503〜505を用いて、光線(4)及び光線(5)の進行方向を反転させる。この反射によって、2つの光線(4)及び光線(5)との間の位置関係及び距離は変わらないものとなる。
【0156】
つまり、くさび型光線素子502の第2面から出射される光線(4)及び光線(5)と、反射部505に反射された光線(6)及び光線(7)とが平行となる。また、くさび型光学素子502の第2面から出射される光線(4)と光線(5)との間の距離と、反射部505に反射されてくさび型光学素子502の第2面に入射する光線(6)と光線(7)との間の距離は同じである。
【0157】
そのため、光線(4)及び光線(5)がくさび型光学素子502の第2面から出射する角度と、光線(6)及び光線(7)がくさび型光学素子502の第2面に入射する角度とが等しくなる。
【0158】
従って、光線(6)及び(7)が、図14に示す光路をたどり、くさび型光学素子501の第1面から出射する角度と、光線(2)及び光線(3)がくさび型光学素子501の第1面に入射する角度とが等しくなる。その結果、くさび型光学素子501の移動前の光線軸と移動後の光線軸とが同じとなる。
【0159】
ここで、反射部503〜505は、光線(4)及び光線(5)と光線(6)及び光線(7)とが平行にすることが必要である。反射部503〜505の設置角度は、光線(4)及び光線(5)と光線(6)及び光線(7)とが平行にすることができれば、広く適用することができる。
【0160】
例えば、図14において、反射部503の設置角度をα、反射部504の設置角度をβ、反射部505の設置角度をγとする。なお、反射部503〜505は、くさび型光学素子501の頂角を2分する面内にあるものとする。この場合、β+γ=α+8°の関係を満たすように反射部503〜505を設置する。
【0161】
(E−3)第5の実施形態の効果
以上のように、第5の実施形態によれば、図14に示す光線(6)及び光線(7)は、プリズムの反射による上下関係の反転を回避することができる。また、光路間の距離は、入射角が同じであれば、図14に示した「x」で決まる。図14において、光線(1)と光線(6)及び光線(7)との入射の位置が異なるので、光線の進行するくさび型光学素子の厚さが異なる。
【0162】
しかしながら、xは、入射の位置や、移動前後のくさび型光学素子の厚みの違いに依存しないため、光学素子通過後に光線(6)と光線(7)の光路は接近し、同一となる。よって、反射部503〜505の設置により、光ファイバ端面に実装されたコリメータレンズに結合することができる。
【0163】
(F)他の実施形態
上述した第1〜第5の実施形態で示した遅延干渉計の構成は一例であり、第1〜第5の実施形態で説明した光の遅延干渉を行うことができれば、その構成は広く適用することができる。
【0164】
例えば、第1〜第5の実施形態では、アクチュエータに固定されたくさび型光学素子と、固定されたくさび型光学素子とを向かい合わせに配置した場合を例示した、複数のくさび型光学素子をアクチュエータに固定して、それぞれのくさび型光学素子を移動させることができるようにしてもよい。
【0165】
また例えば、第2の実施形態では、図7に示すハーフミラー204により分岐された2つの光路の一方の光路(図7では右方に進行する光路)に、2個のくさび型光学素子からなる1組の粗動調整手段と、反射型液晶素子を備える場合を例示している。しかし、上述したように、くさび型光学素子の頂角に応じて光路長を調整することができるので、遅延干渉計の装置規模は大きくなるが、2つの光路の双方に粗動調整手段と反射型液晶素子を備える構成としてもよい。
【0166】
上述した第1〜第5の実施形態では、マイケルソン型干渉計に本発明を適用する場合を例示したが、本発明はマイケルソン型干渉計に限定されるものではない。例えば、複数のくさび型光学素子を1組とする遅延手段を、マッハツェンダ型の干渉計に適用するようにしてもよい。
【0167】
第1〜第5の実施形態では、光通信システムに利用する干渉計を想定して説明したが、光通信システムに利用される干渉計に限定されるものではなく、広く干渉計に適用することができる。
【符号の説明】
【0168】
101…入力ポートコリメータ、102及び103…出力ポートコリメータ、104及び105ハーフミラー、106及び107…プリズム、108及び109…アクチュエータ、110及び111…くさび型光学素子、112及び113…くさび型光学素子、
201…入力ポートコリメータ、202及び203…出力ポートコリメータ、204及び205…ハーフミラー、206…プリズム、207…アクチュエータ、208…くさび型光学素子、209…くさび型光学素子、210…反射型液晶素子、211…くさび型光学素子211、
301…入力ポートコリメータ、302及び303…出力ポートコリメータ、304…偏波面ビームスプリッタ(PBS)、305及び306…ハーフミラー、307…プリズム、308…アクチュエータ、309…くさび型光学素子、310…くさび型光学素子、311及び312…1/2波長板、313…反射型液晶素子、314…くさび型光学素子、315…光路調整用素子、316及び317…集光レンズ316、
401及び402…入力ポートコリメータ、403〜406…出力ポートコリメータ、407及び408…ハーフミラー、409及び410…光位相調整素子、411および412…プリズム、413及び414…アクチュエータ、415及び416…くさび型光学素子、417及び418…くさび型光学素子、501…くさび型光学素子、502…くさび型光学素子、
1A〜1D…遅延干渉計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された光線を2分岐する分岐手段と、
上記分岐手段により分岐された光線の第1の光路及び又は第2の光路に配置されたものであり、第1の駆動部と、それぞれの頂角が同じである第1のくさび型光学素子及び第2のくさび型光学素子とを有して構成されるものであって、上記第1の駆動部による駆動を受けた上記第2のくさび型光学素子が、対向する上記第1のくさび型光学素子に平行に移動することにより、上記第1の光路及び又は上記第2の光路を進行する光の光路長の粗動調整を行う粗動調整手段と、
上記分岐手段により分岐された光線の第1の光路及び又は第2の光路に配置されたものであり、第2の駆動部と、それぞれの頂角が同じである第3のくさび型光学素子及び第4のくさび型光学素子とを有して構成されるものであって、上記第2の駆動部による駆動を受けた上記第4のくさび型光学素子が、対向する上記第3のくさび型光学素子に平行に移動することにより、上記第1の光路及び又は上記第2の光路を進行する光の光路長の微動調整を行う微動調整手段と、
上記微動調整手段による上記微動調整、上記粗動調整手段による粗動調整が行われた、上記第1の光路を進行する第1の光線及び上記第2の光路を進行する第2の光線を分岐し、上記第1の光線及び上記第2の光線の各分岐光に基づいて再結合して出力する分岐再結合手段と
を備えることを特徴とする遅延干渉計。
【請求項2】
上記分岐手段は、2つの光線が入力され、各光線を2分岐するものであり、
上記分岐手段と上記分岐再結合手段との間に配置され、上記2つの光線のうち一方の光線についての上記第1の光線の光位相を、π/4だけ調整する第1の移相調整手段と、
上記分岐手段と上記分岐再結合手段との間に配置され、上記2つの光線のうち他方の光線についての上記第1の光線の光位相を、−π/4だけ調整する第1の移相調整手段と
をさらに備え、
上記分岐再結合手段が、上記微動調整手段による上記微動調整、上記粗動調整手段による粗動調整が行われた上記各光線についての上記各第2の光線に対して、上記第1の移相調整手段及び上記第2の位相調整手段からの各光線を用いてπ/4及び−π/4の位相差で干渉させるものである
ことを特徴とする請求項1に記載の遅延干渉計。
【請求項3】
入力された光線を2分岐する分岐手段と、
反射型液晶素子に傾きを持たせ、上記分岐手段により分岐された一方の第1の光路を進行する光線を上記反射型液晶素子で反射させて、当該光線の光位相の制御を行う光位相制御手段と、
上記分岐手段と上記光位相制御手段との間に介在し、駆動部と、それぞれの頂角が同じである第1のくさび型光学素子及び第2のくさび型光学素子とを有して構成されるものであって、上記駆動部による駆動を受けた上記第2のくさび型光学素子が、対向する上記第1のくさび型光学素子に平行に移動することにより、上記分岐手段からの光線及び上記光位相手段により反射され戻ってきた光線の光路長の粗動調整を行う粗動調整手段と、
上記分岐手段により分岐された他方の第2の光路を進行する光線を全反射する反射手段と、
上記反射手段により反射された第1の光線及び上記粗動調整手段から出力された第2の光線を分岐し、上記第1の光線及び上記第2の光線の各分岐光に基づいて再結合して出力する分岐再結合手段と
を備えることを特徴とする遅延干渉計。
【請求項4】
上記分岐手段の前段に、入力される光線を、偏波面の直行する2つの平行光線に分離する偏波光線分離手段を備え、
上記分岐手段が、上記偏波光線分離手段からの上記各平行光線を2分岐するものであり、
上記分岐再結合手段が、上記各平行光線についての上記第1の光線及び上記各平行光線についての上記第2の光線を用いて、上記各平行光線について別々に干渉させるものである
ことを特徴とする請求項3に記載の遅延干渉計。
【請求項5】
上記第1のくさび型光学素子及び上記第2のくさび型光学素子が、上記第1のくさび型光学素子及び上記第2のくさび型光学素子の頂角を2分する面に垂直に光線が入射し、上記第1のくさび型光学素子及び上記第2のくさび型光学素子への光線の入射角が最小となるように配置されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の遅延干渉計。
【請求項6】
上記第1のくさび型光学素子及び上記第2のくさび型光学素子から出射された光線を、複数の反射部を用いて光路のずれを補正する光路補正手段を備えることを特徴とする請求項5に記載の遅延干渉計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−203221(P2012−203221A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67964(P2011−67964)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【出願人】(502068399)株式会社アルネアラボラトリ (12)
【Fターム(参考)】