説明

遊星歯車減速機の潤滑装置

【課題】油浴潤滑を採用した遊星歯車減速機において、遊星歯車を支持する軸受の潤滑油に金属摩耗粉等の異物が混入しても軸受内部に浸入することを防止し、その長寿命化を図ることである。
【解決手段】遊星歯車14を支持する遊星ピン15の軸心に油穴21を設け、その油穴21に直交しこれより小径の規制ピン25が前記遊星ピンに差し込まれ、油穴21の内径と規制ピン25の外径の差によって油中の異物の通過を阻止し得る大きさのスキマ26が形成された構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建設機械等に用いられる遊星歯車減速機の潤滑装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建設機械の走行・旋回用の減速機として、一般に遊星歯車減速機(以下、単に「減速機」という場合がある。)が用いられ、その遊星歯車と遊星ピンと間に介在される転がり軸受として通常はニードル軸受が使用され、そのニードル軸受を始めとする減速機の潤滑方式としては油浴潤滑が採用されることが多い。
【0003】
油浴潤滑においては、油面が概ね減速機中心付近に設定され、減速機が駆動されると、キャリヤによって連結された複数の遊星歯車が自転しつつ公転して、
油槽中の潤滑油(以下、単に「油」という。)に出入りし、油に浸かったときに遊星ピンに設けられた油穴から油が流入し、遊星歯車の軸受に供給される(特許文献1)。
【0004】
特許文献1に開示された遊星歯車減速機の潤滑装置においては、遊星ピンの油穴の開放端に、油面から出た場合に内部の油の流出を防止するための蓋部材や一方向弁を設ける構成が開示されている。油中においては、蓋部材や一方向弁等は開放状態にあり、油が自然に流入するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−169237号公報(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、減速機の運転中には各歯車(太陽歯車、遊星歯車及び内歯歯車)の噛み合い面等において金属の摩耗粉が発生し、これらが油中に混入することが避けられない。このため、摩耗粉を含んだ油が遊星ピンの油穴から遊星歯車内に浸入し、その軸受の転動体が摩耗粉を噛み込みながら転がることにより、圧痕を発生させ、軸受を短寿命化させる恐れがある。
【0007】
そこで、この発明は、歯車の摩耗粉等の異物が油中に混入しても、軸受寿命に影響を及ぼすような大きな異物が遊星歯車の内部に浸入することを防止することにより、軸受の長寿命化を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、この発明に係る遊星歯車減速機の潤滑装置は、遊星歯車とこれを支持する遊星ピンの間に転がり軸受が介在され、前記遊星ピンの軸心に少なくとも一端部が開放された油穴及び前記油穴と直交し両端部が前記遊星ピンの外径面に開放された分岐穴が設けられ、油浴潤滑によって前記油穴及び分岐穴を経て前記転がり軸受に給油するようにした遊星歯車減速機の潤滑装置において、前記油穴に直交しこれより小径の規制ピンが前記遊星ピンに差し込まれ、前記油穴の内径と規制ピンの外径の差によって油中の異物の通過を阻止し得る大きさのスキマが形成された構成としたものである。
【0009】
具体的には、前記油穴の内径と規制ピンの外径の差によって当該規制ピンの両側において油中の異物の通過を阻止し得る大きさのスキマが形成された構成がとられる。また、油中の異物の通過を阻止し得るスキマの大きさは、0.03mm以上、0.1mm未満に設定される。
【発明の効果】
【0010】
前記のように、油穴の内径と規制ピンの外径の差によるスキマによって、遊星歯車の軸受に金属摩耗粉等の異物が供給されることが防止でき、遊星軸受の長寿命化を図ることができる。また、前記のスキマを作りために、特別なフィルターを使用することがなく、単に所定径の規制ピンを油穴に直交するように設けるだけで、フィルターの機能を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施形態1の遊星歯車減速機の一部断面図である。
【図2】図2は、図1のX1−X1線の拡大断面図である。
【図3】図3は、図2のX2−X2線の拡大断面図である。
【図4】図4は、図1の他の例のX1−X1線の拡大断面図である。
【図5】図5は、図1の他の例のX1−X1線の拡大断面図である。
【図6】図6は、図1の他の例のX1−X1線の拡大断面図である。
【図7】P/C(P:動等価荷重、C:基本定格荷重)と寿命修正係数(aN)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明を実施するための形態を添付図面に基づいて説明する。
[実施形態1]
【0013】
図1から図3に示した実施形態1は、遊星歯車減速機の潤滑装置に関するものである。この場合の遊星歯車減速機は、入力軸11、その入力軸11と同軸状態に取り付けられた太陽歯車12、太陽歯車12の外径側において減速機のケーシング(図示省略)に同心状態に固定された内歯歯車13、太陽歯車12と内歯歯車13との間に介在され周方向の等配位置(図示の場合は4個所)に配置された複数個の遊星歯車14、各遊星歯車14の回転を支持する遊星ピン15、すべての遊星ピン15を回転自在な状態に連結した環状のキャリヤ16、キャリヤ16と同心状態に一体に設けられた出力軸17とにより構成される。
【0014】
図2に示したように、遊星歯車14を支持する遊星ピン15との間にはニードル軸受18が介在される。遊星ピン15は、遊星歯車14の両側に突き出す長さに形成され、突き出した部分の一方を突き出し部19、他方を突き出し部20と称する。遊星ピン15の軸心に油穴21が貫通状態に設けられ、その油穴21の中間部分において分岐穴22が交差部23において直交するように設けられる。分岐穴22の両端部は遊星ピン15の外径面に開放される。
【0015】
前記両側の突き出し部19、20において前記油穴21に直交する規制ピン穴24がそれぞれ設けられる。各規制ピン穴24は油穴21より小径であり、それぞれ突き出し部19、20の外径面に開放される。
【0016】
各規制ピン穴24にそれぞれ規制ピン25が緊密に差し込まれる。規制ピン25の外径Bは、油穴24の内径Aより小さく設定され、その差2a(図3参照)の1/2の大きさaのスキマ26が規制ピン25の両側に形成される。
【0017】
前記の各スキマ26は、ここを通過する油中の異物を捕捉するフィルターの役目をなすべく、その大きさaは、0.03mm以上、0.1mm未満が望ましい。0.030mm以上とするのは、0.03mm未満の微細な異物は軸受寿命に対する影響を無視することができる一方、油の流れを阻害しないようにするためである。0.1mm未満とするのは、0.1mm以上の大きい異物を噛み込むと軸受寿命が格段に低下するからである。
【表1】

【0018】
前記のスキマ26は一種のフィルターであると見ることができるものであるところ、フィルターのメッシュサイズと潤滑油の汚染状況の関係について、表1に示すものが知られている。これによると、メッシュサイズが30μm(0.03mm)未満の場合の汚染状況は「清浄」「極めて清浄」となっている。また、メッシュサイズが100μm(0.1mm)を超えると「強度汚染」「重度汚染」となっている。
【0019】
また、転がり軸受の寿命についての修正された計算式に含まれる寿命修正係数(aN)は、図5に示したように、「清浄」「極めて清浄」の場合は十分に大きい数値であり、長寿命となるのに対し、「強度汚染」「重度汚染」の場合は1未満となり、軸受寿命が短くなる傾向があることが分かる。
【0020】
前記の突き出し部19は、遊星歯車14との間に滑り軸受28を介して前記のキャリヤ16が嵌合固定される。また、他方の突き出し部20にも遊星歯車14との間にサイドワッシャ28を介して抜け止め部材27が嵌合固定される。抜け止め部材24は、各遊星ピン15ごとに個別の部材であってもよいが、キャリヤ16と同様の環状の部材であってもよいし、キャリヤ16と一体になっていてもよい。前記の突き出し部19、20に嵌合固定されたキャリヤ16及び抜け止め部材27によって、前記規制ピン25の抜け止めが図られる。
【0021】
実施形態1に係る遊星歯車減速機の潤滑装置は以上のように構成され、次にその作用について説明する。
【0022】
この場合の減速機の潤滑方式は油浴潤滑が採用され、減速機を概ねその中心付近まで(図1の油面L参照)浸す。減速機が駆動されると、遊星歯車14は自転しつつ公転して油内に出入りする。油中にあるとき油穴21に流入した油は、前記のスキマ26を通過し、分岐穴22を経てニードル軸受18側に供給される。前記スキマ26において油に混入している摩耗粉その他の異物が捕捉される。これにより、ニードル軸受18へ供給される油は浄化され、軸受寿命を延ばすことができる。
【0023】
図4に示した変形例1は、油穴21の一端部が開放されて、他端部は交差部23の部分で閉鎖された場合の例である。この場合は、規制ピン穴24は突き出し部19の部分に設けられ、その規制ピン穴24に緊密に差し込まれた規制ピン25によって前記のスキマ26(図3参照)が形成される。
【0024】
図5に示した変形例2は、前記の規制ピン穴24を両側の突き出し部19、20に嵌合されたキャリヤ16及び抜け止め部材27に貫通するように設け、その規制ピン穴24にそれぞれ規制ピン25を緊密に差し込んだ構成である。各規制ピン25は、それぞれキャリヤ16及び抜け止め部材27にまで貫通されるため、キャリヤ16及び抜け止め部材27を遊星ピン25に結合する作用を兼ねる。規制ピン25と油穴21との交差部分において、スキマ26(図3参照)が形成されることは、前述の場合と同様である。
【0025】
図6に示した変形例3は、変形例1の場合(図4参照)と同様に、油穴21の一端部が開放されて、他端部は交差部23の部分で閉鎖された場合の例である。この場合は、規制ピン穴24は突き出し部19及びキャリヤ16に渡り貫通するように設けられ、その規制ピン穴24に規制ピン25が緊密に嵌入される。規制ピン25と油穴21との交差部分において、スキマ26(図3参照)が形成されることは、前述の場合と同様である。
【符号の説明】
【0026】
11 入力軸
12 太陽歯車
13 内歯歯車
14 遊星歯車
15 遊星ピン
16 キャリヤ
17 出力軸
18 ニードル軸受
19、20 突き出し部
21 油穴
22 分岐穴
23 交差部
24 規制ピン穴
25 規制ピン
26 スキマ
27 抜け止め部材
28 サイドワッシャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊星歯車とこれを支持する遊星ピンの間に転がり軸受が介在され、前記遊星ピンの軸心に少なくとも一端部が開放された油穴及び前記油穴と直交し両端部が前記遊星ピンの外径面に開放された分岐穴が設けられ、油浴潤滑によって前記油穴及び分岐穴を経て前記転がり軸受に給油するようにした遊星歯車減速機の潤滑装置において、前記油穴に直交しこれより小径の規制ピンが前記遊星ピンに差し込まれ、前記油穴の内径と規制ピンの外径の差によって油中の異物の通過を阻止し得る大きさのスキマが形成されたことを特徴とする遊星歯車減速機の潤滑装置。
【請求項2】
前記遊星ピンが前記遊星歯車の両側に一定長さ突き出し、その突き出し部にキャリヤその他の部材が嵌合され、前記規制ピンが前記部材を貫通して前記遊星ピンに差し込まれたことを特徴とする請求項1に記載の遊星歯車減速機の潤滑装置。
【請求項3】
前記転がり軸受が、ニードル軸受であることを特徴とする請求項1又は2に記載の遊星歯車減速機の潤滑装置。
【請求項4】
前記油穴が、前記遊星ピンの両端部に開放され、前記規制ピンが前記両端部に対応した2個所において当該遊星ピンに差し込まれたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の遊星歯車減速機の潤滑装置。
【請求項5】
前記油穴の一端部が閉鎖され、前記規制ピンが開放端に対応した1箇所において当該遊星ピンに差し込まれたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の遊星歯車減速機の潤滑装置。
【請求項6】
前記油穴の内径と規制ピンの外径の差によって当該規制ピンの両側において油中の異物の通過を阻止し得る大きさのスキマが形成されたことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の遊星歯車減速機の潤滑装置。
【請求項7】
前記油中の異物の通過を阻止し得るスキマの大きさが、0.03mm以上、0.1mm未満であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の遊星歯車減速機の潤滑装置。
【請求項8】
転がり軸受を介して遊星歯車を支持する遊星歯車減速機の遊星ピンにおいて、その軸心に少なくとも一端部が開放された油穴及び前記油穴と直交し両端部が前記遊星ピンの外径面に開放された分岐穴が設けられ、前記油穴に直交しこれより小径の規制ピンが前記遊星ピンに差し込まれ、前記油穴の内径と規制ピンの外径の差によって油中の異物の通過を阻止し得る大きさのスキマが形成されたことを特徴とする遊星歯車減速機の遊星ピン。
【請求項9】
入力軸、その入力軸と同軸状態に取り付けられた太陽歯車、前記太陽歯車の外径側に同心状態に固定された内歯歯車、前記太陽歯車と内歯歯車との間に介在された複数個の遊星歯車、前記各遊星歯車の回転を支持する遊星ピン、前記各遊星ピンを回転自在な状態に連結したキャリヤ、前記キャリヤと同心状態に設けられた出力軸からなる遊星減速機において、前記遊星歯車の軸受の潤滑装置として、請求項1から7のいずれかに記載の潤滑装置を用いたことを特徴とする遊星歯車減速機。
【請求項10】
入力軸、その入力軸と同軸状態に取り付けられた太陽歯車、前記太陽歯車の外径側に同心状態に固定された内歯歯車、前記太陽歯車と内歯歯車との間に介在された複数個の遊星歯車、前記各遊星歯車の回転を支持する遊星ピン、前記各遊星ピンを回転自在な状態に連結したキャリヤ、前記キャリヤと同心状態に設けられた出力軸からなる遊星減速機において、前記遊星ピンとして請求項8に記載の遊星ピンを用いたことを特徴とする遊星歯車減速機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−72504(P2013−72504A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212513(P2011−212513)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】