説明

遊星歯車装置用キャリアの射出成形用金型

【課題】射出成形後におけるキャリアの支持軸の倒れを矯正する別部品(環状プレート)が不要となるように、射出成形に起因するキャリアの支持軸の倒れを抑えることができるようにした、遊星歯車装置用キャリアの射出成形用金型を提供する。
【解決手段】第1キャビティ部23内を流動する溶融状態のプラスチックの流れは、第1キャビティ部23内に円筒状に出っ張る第2キャビティ部26の開口部分28によって邪魔され、第2キャビティ部26の開口部分28の周囲に均等に充填された後、開口部分28の周囲から第2キャビティ部26内にほぼ同時に流入する。第1キャビティ部23内から第2キャビティ部26内に流入する溶融状態のプラスチックの流れは、第2キャビティ
部26の開口部分28によって絞られて整えられる。その結果、射出成形用金型2で射出成形された遊星歯車装置用キャリアは、支持軸の倒れが抑えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車や産業機械等の動力伝達系に使用される遊星歯車装置用キャリアの
射出成形用金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、遊星歯車装置は、モータ等の動力源から伝達される回転を他の被動装置の駆動
のために都合の良い回転に変えるものである。
【0003】
図10及び図11は、このような遊星歯車装置100の一例を示すものである。これら
の図10及び図11に示すように、遊星歯車装置100は、ギヤケース101の内部に、
入力軸102aと一体に回動する入力側太陽歯車102と、この入力側太陽歯車102に
噛み合う複数の遊星歯車103と、この遊星歯車103が入力側太陽歯車102の周囲を
公転できるように支持するキャリア104とが収容されている。そして、キャリア104
は、その一方の側面105に、遊星歯車103を回転可能に支持する支持軸106を遊星
歯車103と同数有している。また、キャリア104は、その他方の側面107で且つキ
ャリア104の回転中心部に、他の遊星歯車108と噛み合う出力側太陽歯車110を有
している。なお、キャリア104の支持軸106で回転可能に支持された遊星歯車103
は、入力側太陽歯車102と噛み合うと共に、ギヤケース101の内周面に形成された内
歯車111に噛み合っている。また、キャリア104の出力側太陽歯車110と噛み合う
他の遊星歯車108は、出力軸112と一体に回動する他のキャリア113の支持軸11
4によって回転可能に支持され、ギヤケース101の内周面に形成された内歯車115に
も噛み合っている(特許文献1参照)。
【0004】
近年、このような遊星歯車装置100は、作動音の静粛性向上,全体重量の軽量化及び
製品価格の低廉化を図るために、ギヤケース101,入力側太陽歯車102,遊星歯車1
03及びキャリア104等の構成部品をプラスチックで形作る(射出成形する)場合があ
る(特許文献2参照)。
【0005】
図12は、キャリア104の射出成形用金型120の構造を模式的に示す図である。こ
の図12に示すように、射出成形用金型120は、キャリア104を形作るためのキャビ
ティ121と、このキャビティ121内に溶融状態のプラスチックを射出するためのピン
ポイントゲート122が形成されている(図10参照)。キャビティ121は、円板状の
キャリア本体116を形作るための第1キャビティ部123と、複数の支持軸106を形
作るための複数(支持軸106と同数)の第2キャビティ部124と、出力側太陽歯車1
10を形作るための第3キャビティ部125と、を有している(図10参照)。そして、
ピンポイントゲート122が第1キャビティ部123の中心部分に開口するようになって
いる。
【0006】
このような射出成形用金型120でキャリア104を射出成形すると、図13(a)〜
(b)に示すように、プラスチックの冷却時における収縮差等によって、遊星歯車103
を回転自在に支持する支持軸106が内側(キャリア104の回転中心126側)に向か
って倒れを生じ易い。なお、図13(b)において、正規の(設計上の)支持軸106を
二点鎖線で示し、倒れを生じた支持軸106を実線で示している。
【0007】
このキャリア104の支持軸106の内側に向かう倒れ(θ,ε)が大きくなると、遊
星歯車103とこれに噛み合う入力側太陽歯車102の回転中心間距離が短くなりすぎ、
遊星歯車103の歯と入力側太陽歯車102の歯がかじり合って(歯先と歯底が干渉して
)騒音を発生したり、円滑な回転伝達が不可能になったりする(図10,図13参照)。
また、遊星歯車103の歯と入力側太陽歯車102の歯のかじり合いに起因して、遊星歯
車103の歯と入力側太陽歯車102の歯に偏摩耗が生じ、遊星歯車装置100の耐久性
の低下を招くことになる。なお、図13(b)において、θは、支持軸106の径方向内
方側への倒れ角であって、キャリア104の回転中心線117と平行な仮想線118に対
する支持軸106の中心線109の傾き角であり、キャリア104の回転中心線117と
支持軸106の中心線109とが平行の場合をθ=0°とする。また、図13(b)にお
いて、εは、支持軸106の先端の径方向内方側への変位量を示している。
【0008】
このような不具合を解消するには、図14(a)〜(b)に示すように、キャリア10
4とは別に製造した環状プレート130の支え穴131にキャリア104の支持軸106
の先端部を嵌合させ、環状プレート130の支え穴131でキャリア104の支持軸10
6の倒れを矯正するようにした技術の適用が考えられる(特許文献3参照)。この図14
(a)〜(b)に示す環状プレート130は、支え穴131が周方向に延びる長穴であり
、矯正前の支持軸106を支え穴131の周方向の一端131a側に係合した後、支持軸
106が支え穴131の周方向の他端131b側に位置するまでキャリア104に対して
回動させられることにより、支え穴131の周方向の他端131b側において支持軸10
6の姿勢(倒れ)を矯正できるようになっている。なお、図14(a)〜(b)において
、図10の遊星歯車装置100の構成部品に対応する部分には図10の遊星歯車装置10
0の構成部品と同一符号を付し、図10の遊星歯車装置100の説明と重複する説明を省
略する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実願平01−103333号(実開平03−043148号)のマイクロフィルム(第1図,第3図参照)
【特許文献2】特開平11−132297号公報(段落番号0009の記載参照)
【特許文献3】特開2009−287674号公報(段落番号0006〜0007,0026〜0028,図8,図11,図12の記載参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、キャリア104の支持軸106の内側への倒れを矯正するために、キャ
リア104とは別に製造した環状プレート130を使用した場合には、環状プレート13
0の収容スペースをギヤケース101内に新たに確保する必要があり、遊星歯車装置10
0の大型化を招いたり、部品点数の増加に伴う遊星歯車装置100の重量増加や遊星歯車
装置100の製品価格の上昇を招くという新たな問題を生じることになる。
【0011】
そこで、本発明は、射出成形後におけるキャリアの支持軸の倒れを矯正する別部品(環
状プレート)が不要となるように、射出成形に起因するキャリアの支持軸の倒れを抑える
ことができるようにした、遊星歯車装置用キャリアの射出成形用金型の提供を目的とする

【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の発明に係る遊星歯車装置用キャリアの射出成形用金型は、図1乃至図9に示
すように、(1)円板状のキャリア本体を形作るための第1キャビティ部と、(2)入力
側太陽歯車と噛み合う複数の遊星歯車を回転可能に支持する前記遊星歯車と同数の支持軸
であって、前記キャリア本体の一方の側面から突出する支持軸を形作る第2キャビティ部
と、(3)前記キャリア本体の他方の側面から突出し且つ前記キャリア本体の回転中心と
同心に位置する出力側太陽歯車を形作るための第3キャビティ部と、を有している。そし
て、前記第1キャビティ部のうちで、前記キャリア本体の前記一方の側面側の回転中心に
対応する位置には、前記第1キャビティ部内に溶融状態のプラスチックを射出するための
ピンポイントゲートが開口している。また、前記第2キャビティ部の開口部分は、前記ピ
ンポイントゲートから前記第1キャビティ部内に射出された前記溶融状態のプラスチック
の流れであって、前記第1キャビティ部内を流動する前記溶融状態のプラスチックの流れ
を邪魔することができるように、前記第1キャビティ部内に円筒状に突出している。
【0013】
請求項2の発明に係る遊星歯車装置用キャリアの射出成形用金型は、請求項1に係る発
明の前記第2キャビティ部の前記開口部分の形状に特徴を有するものである。すなわち、
図7〜9に示すように、前記第2キャビティ部の前記開口部分は、前記ピンポイントゲー
トの前記開口の中心から遠ざかるに従って突出高さが漸減するようになっている。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る射出成形用金型を使用して射出成形された遊星歯車装置用キャリアは、支
持軸の倒れを矯正する別部品が不要となる程度に、支持軸の倒れが抑えられる。その結果
、本発明に係る射出成形用金型を使用して射出成形された遊星歯車装置用キャリアは、遊
星歯車装置の大型化を招いたり、部品点数の増加に伴う遊星歯車装置の重量増加や遊星歯
車装置の製品価格の上昇を招くようなことがない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1(a)は本発明の第1実施形態に係る遊星歯車装置用キャリアの射出成形用金型の断面図であり、図1(b)は図1(a)のF1で示す部分の拡大図である。
【図2】図1(a)のA1−A1線に沿って切断して示す断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る射出成形用金型で射出成形された遊星歯車装置用キャリアを示す図である。図3(a)がキャリアの正面図であり、図3(b)がキャリアの側面図であり、図3(c)が図3(a)のA2−A2線に沿って切断して示す断面図である。
【図4】図4(a)は本発明の第2実施形態に係る遊星歯車装置用キャリアの射出成形用金型の断面図であり、図4(b)は図4(a)のF2で示す部分の拡大図である。
【図5】図4(a)のA3−A3線に沿って切断して示す断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る射出成形用金型で射出成形された遊星歯車装置用キャリアを示す図である。図6(a)がキャリアの正面図であり、図6(b)がキャリアの側面図であり、図6(c)が図6(a)のA4−A4線に沿って切断して示す断面図である。
【図7】図7(a)は本発明の第3実施形態に係る遊星歯車装置用キャリアの射出成形用金型の断面図であり、図7(b)は図7(a)のF3で示す部分の拡大図である。
【図8】図7(a)のA5−A5線に沿って切断して示す断面図である。
【図9】本発明の第3実施形態に係る射出成形用金型で射出成形された遊星歯車装置用キャリアを示す図である。図9(a)がキャリアの正面図であり、図9(b)がキャリアの側面図であり、図9(c)が図9(a)のA6−A6線に沿って切断して示す断面図である。
【図10】従来のキャリアを使用した遊星歯車装置の縦断面図である。
【図11】図10のA7−A7線に沿って切断して示す断面図である。
【図12】従来の遊星歯車装置用キャリアを射出成形するために使用する射出成形用金型の断面図である。
【図13】従来の遊星歯車装置用キャリアの射出成形後における支持軸の変形状態(支持軸の倒れ)を示す図であり、図13(a)がキャリアの正面図であり、図13(b)がキャリアの側面図である。
【図14】図13に示したキャリアの支持軸の倒れを矯正する技術の適用例を示す図であり、図14(a)がキャリアの正面側からの図であり、図14(b)が図14(a)のA8−A8線に沿って切断して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳述する。
【0017】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る遊星歯車装置用キャリア1の射出成形用金型2を
示す断面図である。また、図2は、図1のA1−A1線に沿って切断して示す射出成形用
金型2の断面図である。そして、図3は、図1乃至図2に示した射出成形用金型2によっ
て射出成形されたプラスチック製の遊星歯車装置用キャリア1を示すものである。なお、
図3に示した遊星歯車装置用キャリア1は、図10の遊星歯車装置100における従来の
キャリア104に置き換えて使用することができるものであり、説明の便宜上、図10を
参照しつつ説明する。
【0018】
(遊星歯車装置用キャリア及びその射出成形用金型)
図1及び図2の射出成形用金型2によって射出成形された遊星歯車装置用キャリア1は
、図3に示すように、円板状のキャリア本体3と、このキャリア本体3の一方の側面4か
ら突出して遊星歯車103を回転可能に支持する丸棒状の支持軸5と、キャリア本体3の
他方の側面6から突出する出力側太陽歯車7と、を有している(図10参照)。
【0019】
このキャリア本体3と一体の支持軸5は、キャリア本体3の回転中心8を中心とする円
10の周方向に等間隔(120°の間隔)で3本形成されており、キャリア本体3の一方
の側面4側に形成された丸穴11の底面12(キャリア本体3の一方の側面4の一部分)
から回転中心線13とほぼ平行に突出するようになっている。そして、キャリア本体3の
一方の側面4側の丸穴11の内周面と支持軸5の外周面との間には、円環状の溝14が形
成されている。この円環状の溝14の溝深さは、遊星歯車装置用キャリア1の射出成形上
の都合及び遊星歯車装置用キャリア1の回転方向の剛性を考慮して定められるようになっ
ている。なお、支持軸5がキャリア本体3の回転中心線13と平行に突出するとせずに、
支持軸5がキャリア本体3の回転中心線13とほぼ平行に突出するとしたのは、射出成形
後における収縮差等に起因する支持軸5等の変形(設計値との誤差)を考慮したものであ
る。
【0020】
キャリア本体3と一体の出力側太陽歯車7は、中心軸15がキャリア本体3の回転中心
線13と同心となるように形成されている。そして、この出力側太陽歯車7は、回転中心
線13に沿った先端面16からキャリア本体3の他方の側面6に対応する位置まで、有底
の肉抜き穴17が回転中心線13に沿って形成されている。
【0021】
図1及び図2に示すように、遊星歯車装置用キャリア1の射出成形用金型2は、図3に
示した遊星歯車装置用キャリア1を射出成形するためのキャビティ20が形成されている
。射出成形用金型2は、固定型21と可動型22とに大別され、固定型21と可動型22
の型合わせ面21p,22pにキャリア本体3を形作るための円板状の凹所である第1キ
ャビティ部23が形成されている。なお、固定型21と可動型22の型合わせ面21p,
22pは、キャリア本体3の一方の側面4側における外周面取り部24の上端縁25に合
致するように形成されている。
【0022】
固定型21(21a,21b)は、上述した第1キャビティ部23の一部(キャリア本
体3の一方の側面4側に対応する部分)が形成されると共に、遊星歯車装置用キャリア1
の複数の支持軸5を形作るための第2キャビティ部26が支持軸5と同数だけ形成されて
いる。第2キャビティ部26は、丸棒状の支持軸5を形作るため、第1キャビティ部23
に開口する有底の丸穴になっている。また、第2キャビティ部26は、キャリア本体3の
回転中心線13に対応する第1キャビティ部23の中心線27と平行になるように固定型
21に形成されている。また、この第2キャビティ部26の開口部分28は、第1キャビ
ティ部23内に円筒状に突出し、第1キャビティ部23の空間を部分的に狭めるようにな
っている。そして、この第2キャビティ部26の開口部分28が第1キャビティ部23内
に円筒状に突出することにより、図3(a),(c)に示した円環状の溝14が形成され
、キャリア本体3の一方の側面4の一部(底面12)から他方の側面6までの板厚が部分
的に薄くなっている。また、固定型21には、キャリア本体3の回転中心8に対応する第
1キャビティ部23の中心30に開口し、且つ、第1キャビティ部23の中心線27に沿
って第1キャビティ部23内に溶融状態のプラスチック(ポリアセタール,ポリアミド,
ポリフェニレンサルファイド(PPS)等のプラスチック、カーボン繊維等の強化繊維を
混入したポリアセタール,ポリアミド,PPS等のプラスチック)を射出するピンポイン
トゲート31が形成されている。
【0023】
可動型22は、その型合わせ面22pを固定型21の型合わせ面21pに密着させた状
態(図1(a)の状態)から離間させ、キャビティ20を外部に開放できるようになって
いる。この可動型22は、その型合わせ面22p側に、キャリア本体3の大部分を形作る
ための円板状の凹所である第1キャビティ部23の残部(固定型21に形成された第1キ
ャビティ部23の一部を除く第1キャビティ部23の残部)が形成されている。また、可
動型22は、出力側太陽歯車7を形作るための略円筒状の凹所である第3キャビティ部3
2が第1キャビティ部23に開口するように形成されている。また、可動型22は、出力
側太陽歯車7の肉抜き穴17に対応する軸型部33が第3キャビティ部32に囲まれるよ
うに位置し、軸型部33の先端面33aが第1キャビティ部23の側面34(キャリア本
体3の他方の側面6に対応する部分)と同一平面上に位置するように形成されている。ま
た、可動型22は、固定型21から分離された後(型開き後)、第1キャビティ部23及
び第3キャビティ部32内に残った射出成形品(遊星歯車装置用キャリア1)を第1キャ
ビティ部23及び第3キャビティ部32内から取り出すためのエジェクトピン35が設置
されている。
【0024】
なお、固定型21と可動型22は、射出成形品の形状に合わせて複数のブロック(21
a,21b,22a,22b・・・)に分割されている。
【0025】
(遊星歯車装置用キャリアの射出成形)
遊星歯車装置用キャリア1を射出成形するには、図1に示すように、固定型21の型合
わせ面21pと可動型22の型合わせ面22pを密着させた状態で型締めし、ピンポイン
トゲート31から第1キャビティ部23内に溶融状態のプラスチックを射出する。
【0026】
第1キャビティ部23内に射出された溶融状態のプラスチックは、第1キャビティ部2
3内から第3キャビティ部32内に流入し、第3キャビティ部32に充填された後、第1
キャビティ部23を径方向内方側から径方向外方側へ向かって流動する。この際、第1キ
ャビティ部23内を径方向内方側から径方向外方側へ向かって流動する溶融状態のプラス
チックの流れは、第1キャビティ部23内に円筒状に出っ張る第2キャビティ部26の開
口部分28によって邪魔され、第2キャビティ部26の開口部分28の周囲に均等に充填
された後、開口部分28の周囲から第2キャビティ部26内にほぼ同時に流入する。そし
て、第1キャビティ部23内から第2キャビティ部26内に流入する溶融状態のプラスチ
ックの流れは、第2キャビティ部26の開口部分28によって絞られて整えられる。
【0027】
(本実施形態の射出成形用金型によって得られる効果)
本実施形態の射出成形用金型2を使用して射出成形した遊星歯車装置用キャリア1は、
支持軸5の倒れが従来例の射出成形用金型120(図12参照)を使用して射出成形した
キャリア104(図13参照)の支持軸106の倒れに比較して格段に小さくなった(表
1参照)。その結果、本実施形態の射出成形用金型2を使用して射出成形した遊星歯車装
置用キャリア1は、図14に示した従来例の支持軸106の倒れを矯正する別部品(環状
プレート130)が不要となり、遊星歯車装置100の大型化を招いたり、部品点数の増
加に伴う遊星歯車装置100の重量増加や遊星歯車装置100の製品価格の上昇を招くよ
うなことがない。
【0028】
表1は、本実施形態の射出成形用金型2を使用して射出成形した遊星歯車装置用キャリ
ア(本発明のキャリア)1の支持軸5の倒れを、従来例の射出成形用金型120を使用し
て射出成形したキャリア(従来例のキャリア)104の支持軸106の倒れと対比して表
したものである(図1、図3、図12、図13参照)。この表1において、本発明のキャ
リア(1)及び従来例のキャリア104は、繊維入りのPPSで射出成形したものである
。また、本発明のキャリア(遊星歯車装置用キャリア1)を射出成形した射出成形用金型
2は、図1において、第1キャビティ部23の中心線に沿った幅寸法をt1とし、開口部
分28の突出高さをt2とすると、t2/t1を1/3(但し、t1=3mm)とした。
また、図1において、開口部分の外径寸法をd2とし、第2キャビティ部26の内径寸法
をd1とすると、d1/d2を3/5(但し、d2=3mm)とした。
【0029】
【表1】

【0030】
なお、PPSに混入される繊維としては、ウィスカ、ガラス繊維、アラミド繊維等の繊
維状強化材が使用される。また、t2/t1は、1/3〜1/2の範囲において、ほぼ同
様の効果(表1の結果)を得ることができる。また、d1/d2は、1/2〜3/4の範
囲において、ほぼ同様の効果(表1の結果)を得ることができる。
【0031】
[第2実施形態]
図4は、本発明の第2実施形態に係る遊星歯車装置用キャリア1の射出成形用金型2を
示す断面図である。また、図5は、図4のA3−A3線に沿って切断して示す射出成形用
金型2の断面図である。そして、図6は、図4乃至図5に示した射出成形用金型2によっ
て射出成形されたプラスチック製の遊星歯車装置用キャリア1を示すものである。なお、
図6に示した遊星歯車装置用キャリア1は、図3に示した遊星歯車装置用キャリア1と同
様に、図10の遊星歯車装置100における従来のキャリア104に置き換えて使用する
ことができるものである。また、本実施形態に係る射出成形用金型2は、第2キャビティ
部26の形状を除き、他の構成が第1実施形態に係る射出成形用金型2と同一である。ま
た、本実施形態に係る射出成形用金型2で射出成形された遊星歯車装置用キャリア1は、
支持軸5の形状を除き、他の構成が第1実施形態に係る射出成形用金型2で射出成形され
た遊星歯車装置用キャリア1と同一である。したがって、本実施形態に係る射出成形用金
型2は、第1実施形態に係る射出成形用金型2と同一の構成部分には同一符号を付し、第
1実施形態における説明と重複する説明を省略する。また、本実施形態に係る射出成形用
金型2で射出成形された遊星歯車装置用キャリア1は、第1実施形態に係る射出成形用金
型2で射出成形された遊星歯車装置用キャリア1と同一の構成部分には同一符号を付し、
第1実施形態における説明と重複する説明を省略する。
【0032】
すなわち、本実施形態に係る射出成形用金型2は、遊星歯車装置用キャリア1の支持軸
5を中空円筒状に形成するため、第2キャビティ部26の中心線36に沿って延びる丸棒
状の肉抜きピン37を固定型21に一体に設置してある。肉抜きピン37は、その先端面
が第2キャビティ部26の開口部分28の先端面と同一平面上に位置する長さに形成され
ている。この肉抜きピン37は、固定型21とは別に形成された金属棒を固定型21に圧
入又は螺合等することにより、固定型21と一体化されている。そして、図4において、
肉抜きピン37の直径をd0とすると、d0/d1を1/3〜1/2とし、d1/d2を
1/2〜3/4とした。
【0033】
このような本実施形態に係る射出成形用金型2によって射出成形された遊星歯車装置用
キャリア1は、支持軸5の倒れを第1実施形態に係る遊星歯車装置用キャリア1の支持軸
5の倒れと同様に小さく抑えることができる(表1参照)。
【0034】
なお、本実施形態において、肉抜きピン37の先端面が第2キャビティ部26の開口部
分28の先端面と同一平面上に位置する態様を例示したが、これに限られず、肉抜きピン
37の先端面が第2キャビティ部26の開口部分28の先端面よりも(1/3)・t1程
度出っ張っていてもよく、また、肉抜きピン37の先端面が第2キャビティ部26の開口
部分28の先端面よりも(1/3)・t1程度引っ込んでいてもよい。
【0035】
[第3実施形態]
図7は、本発明の第3実施形態に係る遊星歯車装置用キャリア1の射出成形用金型2を
示す断面図である。また、図8は、図7のA5−A5線に沿って切断して示す射出成形用
金型2の断面図である。そして、図9は、図7乃至図8に示した射出成形用金型2によっ
て射出成形されたプラスチック製の遊星歯車装置用キャリア1を示すものである。なお、
図9に示した遊星歯車装置用キャリア1は、図3に示した遊星歯車装置用キャリア1と同
様に、図10の遊星歯車装置100における従来のキャリア104に置き換えて使用する
ことができるものである。また、本実施形態に係る射出成形用金型2は、第2キャビティ
部26の開口部分28の形状を除き、他の構成が第1実施形態に係る射出成形用金型2と
同一である。また、本実施形態に係る射出成形用金型2で射出成形された遊星歯車装置用
キャリア1は、円環状の溝14の形状を除き、他の構成が第1実施形態に係る射出成形用
金型2で射出成形された遊星歯車装置用キャリア1と同一である。したがって、本実施形
態に係る射出成形用金型2は、第1実施形態に係る射出成形用金型2と同一の構成部分に
は同一符号を付し、第1実施形態における説明と重複する説明を省略する。また、本実施
形態に係る射出成形用金型2で射出成形された遊星歯車装置用キャリア1は、第1実施形
態に係る射出成形用金型2で射出成形された遊星歯車装置用キャリア1と同一の構成部分
には同一符号を付し、第1実施形態における説明と重複する説明を省略する。
【0036】
すなわち、本実施形態に係る射出成形用金型2は、第2キャビティ部26の開口部分2
8が、ピンポイントゲート31の開口の中心(第1キャビティ部23の中心線27)から
遠ざかるに従って突出高さを漸減するように形成されている。その結果、本実施形態に係
る射出成形用金型2によって射出成形された遊星歯車装置用キャリア1は、支持軸5の周
囲に形成された円環状の溝14の溝深さが、キャリア本体3の回転中心線13から遠ざか
るに従って浅くなっている。
【0037】
このような本実施形態に係る射出成形用金型2において、第1キャビティ部23内を径
方向内方側から径方向外方側へ向かって流動する溶融状態のプラスチックの流れは、第2
キャビティ部26の開口部分28のうちでピンポイントゲート31に最も近い部分で最も
大きく絞られ、ピンポイントゲート31から遠ざかるに従って第2キャビティ部26の開
口部分28で絞られる割合が減少する。これにより、溶融状態のプラスチックが第2キャ
ビティ部26の開口部分28の周囲に充填される時間的なズレを減少させ、溶融状態のプ
ラスチックが第1キャビティ部23内から第2キャビティ部26内に流入するタイミング
のズレを第1実施形態に係る射出成形用金型2よりも小さく抑えることが可能となる。
【0038】
このような本実施形態に係る射出成形用金型2によって射出成形された遊星歯車装置用
キャリア1は、支持軸5の倒れを第1実施形態に係る遊星歯車装置用キャリア1の支持軸
5の倒れと同様に小さく抑えることができる(表1参照)。
【符号の説明】
【0039】
1……遊星歯車装置用キャリア、2……射出成形用金型、3……キャリア本体、4……
一方の側面、5……支持軸、6……他方の側面、7……出力側太陽歯車、8……回転中心
、23……第1キャビティ部、26……第2キャビティ部、28……開口部分、31……
ピンポイントゲート、32……第3キャビティ部、102……入力側太陽歯車、103…
…遊星歯車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板状のキャリア本体を形作るための第1キャビティ部と、
入力側太陽歯車と噛み合う複数の遊星歯車を回転可能に支持する前記遊星歯車と同数の
支持軸であって、前記キャリア本体の一方の側面から突出する支持軸を形作る第2キャビ
ティ部と、
前記キャリア本体の他方の側面から突出し且つ前記キャリア本体の回転中心と同心に位
置する出力側太陽歯車を形作るための第3キャビティ部と、
を有する遊星歯車装置用キャリアの射出成形金型であって、
前記第1キャビティ部のうちで、前記キャリア本体の前記一方の側面側の回転中心に対
応する位置には、前記第1キャビティ部内に溶融状態のプラスチックを射出するためのピ
ンポイントゲートが開口し、
前記第2キャビティ部の開口部分は、前記ピンポイントゲートから前記第1キャビティ
部内に射出された前記溶融状態のプラスチックの流れであって、前記第1キャビティ部内
を流動する前記溶融状態のプラスチックの流れを邪魔することができるように、前記第1
キャビティ部内に円筒状に突出した、
ことを特徴とする遊星歯車装置用キャリアの射出成形金型。
【請求項2】
前記第2キャビティ部の前記開口部分は、前記ピンポイントゲートの前記開口の中心か
ら遠ざかるに従って突出高さが漸減するようになっている、
ことを特徴とする請求項1に記載の遊星歯車装置用キャリアの射出成形用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−121212(P2012−121212A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273231(P2010−273231)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000208765)株式会社エンプラス (403)
【Fターム(参考)】