説明

遊星減速機の内歯車固定方法及び固定構造並びに遊星減速機

【課題】 ギヤケースと内歯車を一体構造に構成することにより、圧入による精度悪化やミスアライメントの影響が無く、高精度維持が可能になるとともに、内歯車径を大きく取ることができるため、高強度な歯車諸元設計が可能である遊星減速機の内歯車固定方法及びその構造並びに遊星減速機を提供する。
【解決手段】 遊星減速機の内歯車とギヤケースを固定する方法であって、前記ギヤケース10のダイカスト鋳造時に、前記ギヤケース10の金型に、合金鋼製の環状の内歯車ブランク15Aをインサートしてから前記ギヤケース10をダイカスト鋳造することによって、前記ギヤケース10に内歯車ブランク15Aを固定し、次に、前記内歯車ブランク15A内周面に歯車加工を施して前記ギヤケース10内周面に内歯車15を取り付けることにある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊星歯車機構を備えた減速機の内歯車とギヤケースを固定する遊星減速機の内歯車固定方法及び固定構造並びに遊星減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、遊星歯車機構を減速機に採用した遊星減速機では、内歯車とギヤケースの固定方法として、例えば、次に示すようなものがある。
(a)ギヤケース100と内歯車101を別々に加工し、ボルト102結合によりギヤケース100と内歯車101を固定する方法(図8参照)。
(b)ギヤケースと内歯車を別々に加工し、ローレット結合によりギヤケースと内歯車を固定する方法(特許文献1参照)。
(c)ギヤケースと内歯車を別々に加工し、圧入結合によりギヤケースと内歯車を固定する方法。
(d)ギヤケースと内歯車を別々に加工し、ローレット結合と圧入結合を併用してギヤケースと内歯車を固定する方法(特許文献2参照)。
(e)ギヤケース103と内歯車103aを一体化させる構造にする方法(図9参照)。
【0003】
内歯車とギヤケースの固定方法にあっては、以下の課題を達成する必要がある。
(A)精度(回転を支持する軸受を配置するギヤケースのハウジングと、内歯車との同軸度及び直角度)
(B)固定力(遊星減速機の伝達トルクに対して十分な、内歯車とギヤケースの固定強度。)
(C)歯車強度(内歯車径を大きく取れること。これにより高強度な歯車諸元設計が可能となる。)
(D)製造コスト
【0004】
しかしながら、従来の方法にあっては、
(a)のボルト結合は、ボルト通し穴の加工が必要であるので、(D)の製造コストの上昇を招く。
また、ミスアライメント(組付け誤差)により高精度位置決めを要する遊星減速機においては、(A)の精度が維持できる構造設計が得られ難かった。
(b)のローレット結合は、周方向の高い(B)の固定力を確保するという点では有効であるが、ローレット加工の精度やローレット加工部分の圧入時のくい込みのバラツキ等によって、(A)の精度を得ることが難しく、高精度位置決めを要する遊星減速機においては、精度が維持できる構造設計が得られ難かった。
(c)の圧入結合は、(A)の精度を確保する上では有効であるが、熱変化によらず常に周方向の高い(B)の固定力を確保するには、厳しい寸法精度を確保しなければならず、寸法管理に要する(D)の製造コストの上昇を招くという問題があった。そこで、接着剤の併用により寸法精度を緩和する方法もあるが、そうした場合、接着剤塗布という新たな工程が付加されるので、組立作業性が悪くなる上、作業者による接着剤塗布のバラツキにより、保持力の安定性を損なうおそれがあった。
(d)のローレット結合と圧入結合の併用は、内歯車に対して円筒圧入部とローレット圧入部を設けておき、円筒圧入部でギヤケースと内歯車の芯合わせをしつつ、ローレット圧入部で円周方向の(B)の固定力を確保する方法である。しかし、円筒圧入部により芯出しすることでギヤケースのベアリングハウジングとの(A)の同軸度は得られるものの、ローレット加工の精度やローレット加工部分の圧入時のくい込みのバラツキ等により、周方向に圧入抵抗差が生じるため、抵抗が低い方に傾いて圧入され、(A)の直角度に影響が出るという問題があった。
圧入終了時に内歯車端面とギヤケース端面を突き当てて傾きを矯正する方法もあるが、そのためにはギヤケース及び内歯車の突き当て面の精度だけでなく、圧入装置の突き当て面の精度も高精度に維持する必要があり、結果として(D)の製造コストの上昇を招く場合があった。
【0005】
上記の(a)(b)(c)(d)の固定方法は、ギヤケースと内歯車を別々に加工し、二つの部品を固定する方法である。
そのため、方法によって大小はあるが、いずれの方法も二つの部品を固定する工程を行なうことで(A)の精度の悪化が生じる。さらに、この精度の悪化を少しでも緩和するためには、二つの部品をそれぞれ精度良く仕上げる必要があった。
また、(C)の歯車強度を得るためには、内歯車径を大きく取る必要があるが、(a)(b)(c)(d)の固定方法ではギヤケースと内歯車が別体であり、ギヤケースの内部に内歯車を配置する必要があるため、歯車径を大きく取るには、内歯車を極端な薄肉形状にするなどといった必要があり、高強度な歯車諸元設計が得られ難かった。
【0006】
さらに(b)(c)(d)の固定方法については、いずれも圧入しているため、圧入後はふくらみ等の変形が発生する。
この変形により歯車精度への影響だけでなく、圧入した部分をインロー継ぎ手などに使用する場合には組み付けに悪影響を及ぼす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−174027号公報
【特許文献2】特開2000−274494号公報
【特許文献3】実公平5−26308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
(e)の一体構造は、内歯車とギヤケースを一体で製造する方法である。そのため、二つの部品を固定することによって生じる精度の悪化が無く、(A)の精度を高精度に維持することが可能である。また、一体構造により内歯車径を大きく取ることができるため、(C)の歯車強度の高い歯車諸元設計が可能である。しかし、一体構造を実現するには材料からの削り出しとなり、切削量が多く、ギヤケースとして必要な角取り加工や取付穴あけ加工を含むため加工工程が複雑であった。さらに、内歯車としての硬度を得るために合金鋼に熱処理を行なってからの切削加工となり、高硬度の材料を削ることによる、工具摩耗や加工時間の増加があった。また、(a)(b)(c)(d)の方法の内歯車と比較して材料の質量が大きくなるため、焼入焼戻し等の熱処理を行なう場合、材料の内部まで臨界冷却速度が得難く、熱処理が困難という問題もあった。さらに実際の使用において、外観部分は合金鋼が露出している状態となるため、錆びの影響が出やすく、水が掛かるような用途においてはメッキなどの防錆処理を必要としていた。結果として、(D)の製造コストが増加してしまう問題があった。
【0009】
ギヤケースと内歯車をアルミ合金で一体鋳造する方法(特許文献3参照)もあるが、上記の問題点は解決できるものの、(A)の精度は鋳造工程に依存してしまい、高精度維持は困難であった。仕上げ加工を行なったとしても、内歯車を基準とした加工が困難なため、必要な精度である軸受を配置するギヤケースハウジングと内歯車との同軸度、直角度が得られないという問題があった。
【0010】
本発明は、上記課題を解決し、ギヤケースと内歯車を一体構造に構成することにより、圧入による精度悪化やミスアライメントの影響が無く、高精度維持が可能になるとともに、内歯車径を大きく取ることができるため、高強度な歯車諸元設計が可能である遊星減速機の内歯車固定方法及びその構造並びに遊星減速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するため、遊星減速機の内歯車とギヤケースを固定する方法であって、前記ギヤケースのダイカスト鋳造時に、前記ギヤケースの金型に、合金鋼製の環状の内歯車ブランクをインサートしてから前記ギヤケースをダイカスト鋳造することによって、前記ギヤケースに内歯車ブランクを固定し、次に、前記内歯車ブランク内周面に歯車加工を施して前記ギヤケース内周面に内歯車を取り付けることにある。
前記内歯車ブランクには、外周面または内周面の軸方向に段付き部を形成し、かつ該外周面には空転及び抜け防止のための加工部を形成し、前記ダイカスト鋳造時に、該加工部を介して、前記内歯車ブランクを前記ギヤケース内面に一体に固定する。
前記内歯車ブランクは、前記段付き部の薄肉部側を前記ギヤケース端面から露出させて、歯車加工の際の加工基準又はインロー継ぎ手として使用する。
前記内歯車ブランクは、前記ギヤケースの金型にインサートする前に焼き入れ及び焼き戻し等の熱処理を施すとともに、前記ギヤケースの鋳造時にダイカスト溶湯によって前記内歯車ブランクに焼き戻し作用が生じない温度及び時間で前記ギヤケースをダイカスト鋳造する。
また、本発明は、遊星減速機の内歯車をギヤケースに固定する固定構造であって、前記ギヤケースのダイカスト鋳造に際して、合金鋼製の環状の内歯車ブランクを前記ギヤケース内面に固定し、該ギヤケース内面に固定された内歯車ブランクの内周面に歯車加工を施して内歯車を形成したことにある。
前記内歯車ブランクには、外周面または内周面の軸方向に段付き部を形成し、かつ前記外周面には空転及び抜け防止のための加工部を設ける。
前記内歯車ブランクには、前記内歯車ブランクの歯車加工の際の加工基準又はインロー継ぎ手として使用するために前記段付き部の薄肉部側を前記ギヤケース端面から突出させて固定している。
さらに、本発明は、電動機の回転を遊星歯車機構により減速する遊星減速機であって、 前記電動機の回転が入力される入力部を設けた太陽歯車と、この太陽歯車の回転が伝達されるとともに太陽歯車の周囲を回転する遊星歯車と、前記減速機のギヤケースに固定され、前記遊星歯車が噛み合う内歯車と、前記遊星歯車の公転運動による回転を取り出す出力軸とを備え、歯車加工を施す前の内歯車ブランクを、前記減速機のギヤケース鋳造時に、ギヤケースに一体に固定してから歯車加工を施して前記内歯車とギヤケースを一体に固定したことにある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下の効果を奏することができる。
請求項1によれば、ギヤケースと内歯車が一体構造になっていることにより、圧入による精度悪化やミスアライメントの影響が無くなり、高精度維持が可能である。
ギヤケースと内歯車が一体構造になっていることにより、内歯車径を大きく取ることができるため、高強度な歯車諸元設計が可能である。ギヤケースと内歯車を一体化した後に、仕上げ旋盤加工を行うため、内歯車ブランクの精度は影響しない。そのため、従来の二つの部品を固定する方法と比較して内歯車ブランクの精度を厳しく管理する必要がない。
請求項2によれば、内歯車ブランクの段付き形状の大径部にはアヤ目ローレット加工を行なう事により、高い固定力を維持することができる。
請求項3によれば、内歯車ブランクの段付き形状の小径部は露出された状態のため、加工するときの基準や組付け時のインローとして使用することができる。
請求項4によれば、従来の合金鋼からの削りだしによる一体構造と比較して、熱処理を行なう際の質量が削減されるため、熱処理の品質が向上する。
請求項5によれば、内歯車とギヤケースを一体化した後に仕上げ旋盤加工を行い、最終工程で内歯車加工を行うため、軸受を配置するギヤケースのハウジングと内歯車の同軸度、直角度を高精度に維持することが可能となる。
また、加工においては切削量を大幅に削減でき、角形状や取り付け穴は金型で構成できるため加工工程を単純にでき、切削する部分の大部分はアルミニウム合金となるため、硬い材料を削ることによる工具摩耗や加工時間の増加が無くなり、結果として加工コストが削減できる。
さらに、外観となる部分の材料はアルミニウム合金となるため、合金鋼と比較して錆びの影響が少なくなり、防錆処理コストも削減可能である。
以上により製造コストが削減できる。
請求項6によれば、内歯車ブランクの段付き形状の大径部にはアヤ目ローレット加工を行なう事により、高い固定力を維持することができる。
請求項7によれば、内歯車ブランクの段付き形状の小径部は露出された状態のため、加工するときの基準や組付け時のインローとして使用することができる。
請求項8によれば、内歯車とギヤケースを一体化した後に仕上げ旋盤加工を行い、最終工程で内歯車加工を行うため、軸受を配置するギヤケースのハウジングと内歯車の同軸度、直角度を高精度に維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態による遊星減速機の内歯車固定構造を示す遊星減速機の縦断面図である。
【図2】本発明の実施の形態による一体化した内歯車とギヤケースを示す縦断面図である。
【図3】本発明の実施の形態による内歯車ブランクを示す側面図である。
【図4】内歯車とギヤケースを一体化する固定方法に用いるダイカスト鋳造の金型を示す断面図である。
【図5】内歯車の固定とダイカスト鋳造方法を示す断面図である。
【図6】内歯車ブランクの取付方法を示す断面図である。
【図7】(a)(b)(c)(d)(e)は本発明の実施の形態による内歯車ブランクにアヤ目ローレット以外の方法を採用した場合の概念図である。
【図8】従来の内歯車とギヤケースの図である。
【図9】従来の内歯車とギヤケースの図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一体化した内歯車とギヤケースを使用した遊星減速機の断面図である。
1は遊星減速機で、この遊星減速機1は、モータ2に組み付けられてモータ2の回転を遊星歯車機構によって減速して取り出すものである。
遊星減速機1のケースは、それぞれ内部が中空のギヤケース10と中間ギヤケース11とギヤフランジ12とで構成されている。ギヤケース10は、アルミニウムを素材にしたダイカスト鋳造によるもので、中間ギヤケース11とギヤフランジ12もまたダイカスト鋳造によって成形することができる。ギヤケース10と中間ギヤケース11は、外周面にネジ孔13aを設けたフランジ部10a,11aがそれぞれ設けられており、これらフランジ部10a,11aを互いに合わせてネジ13によって互いに締結されている。中間ギヤケース11とギヤフランジ12は、いわゆる印籠継ぎ手によって互いに締結されており、ギヤフランジ12の端面に軸方向に沿って形成されたネジ孔14aを介して中間ギヤケース11の端面にネジ14が螺合されて締結されている。
【0015】
前記ギヤケース10の内面には、図2に示すように、合金鋼製の内歯車15が一体に設けられている。内歯車15には、外周面の軸方向に、図3に示すように、薄肉部となっている段付き形状の小径部15aが設けられ、この小径部15aの薄肉部が中間ギヤケース11の内側と印籠継ぎ手によって互いに締結されている。内歯車15の厚肉部となっている大径部15bの外周面には、ローレット加工等の加工を施された加工部15cが設けられている。
この内歯車15には、図1に示すように、1あるいは複数の遊星歯車16が噛合しており、これら遊星歯車16は支持キャリア17に設けられた遊星軸18に軸受け19を介して回転自在に支持されている。前記支持キャリア17は中間ギヤケース11の内面に軸受け20を介して支持されたリング状のもので、その軸線上に、入力軸となる太陽歯車21が挿通されている。この太陽歯車21には前記遊星歯車16が噛合して太陽歯車21の周囲を公転するものである。
【0016】
この太陽歯車21と同一軸線上には、前記支持キャリア17に対向して、出力軸となる出力キャリア22が前記ギヤケース10内に配置され、出力キャリア22と前記支持キャリア17とは円周方向に複数本配置されたネジ23を介して固定されている。前記支持キャリア17には、出力キャリア22との間隔を保つスペーサ部17aが軸方向に突出して設けられており、このスペーサ部17aに前記ネジ23を挿通するネジ孔23aが軸方向に沿って設けられている。この支持キャリア17と前記出力キャリア22との間に、前記スペーサ部17aの長さより短い幅の前記遊星歯車16が複数、配置されている。
前記出力キャリア22はギヤケース10の内面に配設された軸受け24を介して回転自在に支持されており、この出力キャリア22には前記遊星軸18が軸方向に固定されている。出力キャリア22は、前記遊星軸18の回転に伴って回転駆動されるもので、前記遊星歯車16の公転運動を出力として取り出すものである。
【0017】
前記太陽歯車21は、中間ギヤケース11の内面に設けられた軸受け25を介して基端部の大径部21aが回転自在に支持されており、この大径部21aの前記太陽歯車21と逆側に、前記モータ2の出力軸2aに連結するカップリング26が設けられている。
【0018】
遊星歯車機構の動作は、モータ2の出力軸2aから出力される回転はカップリング26を介して太陽歯車21に伝達される。太陽歯車21の回転は、遊星歯車16に伝達され、遊星歯車16を回転させるとともに、遊星歯車16を内歯車15に沿って回転させる。遊星歯車16は、遊星軸18の周囲を自転しながら内歯車15に沿って公転する。こうして、遊星歯車16とともに公転する遊星軸18の回転が出力キャリア22に伝わり、出力キャリア22の出力軸22aから外部に伝達されて回転動力が伝達される。
【0019】
次に、上記合金鋼製の内歯車15をギヤケース10の内面に固定する方法について説明する。
図4および図5は、ギヤケース10のダイカスト鋳造を行う金型30を示したもので、固定型31と可動型32とで構成されている。固定型31には、おも型31Aの空洞部に入れ子31Bが配置され、入れ子31Bの内側にインサート31Cがバネ33を介して付勢されている。インサート31Cには、インサート31Cを冷却し、スムーズに移動させるための冷却装置34が設けられている。
一方、可動型32には、おも型32Aの空洞部に入れ子32Bが配置され、入れ子32Bには、ギヤケース10を鋳造するためのキャビティ35が形成されている。入れ子32Bの内側には、内歯ブランク15Aを組み付けた可動中子36が配置されている。可動中子36には、外周面の軸方向に、図6に示すように、抜き勾配36Aが設けられている。この可動中子36には、ギヤケース10のアルミニウム合金の凝固及び取り出しをスムーズに行うために、冷却装置37が設けられている。
図5は金型30のキャビティ35にアルミニウム合金の溶湯を注入するための湯口38と湯道39を示したもので、湯口38から湯道39を通じてキャビティ35内に溶湯を流し込むものである。
【0020】
金型30の動作は、予め、可動中子36の外周面に内歯ブランク15Aをセットし、可動型32のキャビティ35内面に内歯ブランク15Aを配置する。次に、可動型32を操作し、固定型31と組み合わせる。固定型31に設けられているインサート31Cは、バネ33の付勢力によって、内歯ブランク15Aの端面に当接して内歯ブランク15Aの動きを規制する。こうして、内歯ブランク15Aは、金型30内のキャビティ35に配置される。次に、湯口38から湯道39を通じてキャビティ35内にアルミニウム合金などの溶湯を流し込んで鋳造を行う。そして、鋳造が終わると、可動型32を操作して、固定型31から離間させて内歯ブランク15Aと一体に成形されたギヤケース10を取り出す。次に、内歯ブランク15Aの内周面に歯車加工を施して内歯車15を成形する。
【0021】
次に内歯車ブランク15Aをギヤケース10に固定する具体的な実施例を説明する。
内歯車15はSCM材などの合金鋼に対して旋盤加工を行い、段付きリング形状にし、段付き形状の大径部15b外周面には空転及び抜け防止のためアヤ目ローレット加工を行う。後工程にて仕上げ旋盤加工を行うため、この段階で内歯車ブランク15Aに厳しい精度は必要ない。その後、内歯車15として必要な硬度を得るため焼入れ焼戻し処理を行なう。
【0022】
内歯車ブランク15Aを870℃程度に加熱し、その後70℃程度にて油冷却をすることで焼入れを行なう。焼入れの後は、内歯車ブランク15Aに粘さを与え、かつ、必要な硬さに硬度を調整するために580℃程度にて焼戻しを行う。この場合の内歯車ブランク15Aに対する焼入れ焼戻しにおいては、最終的に歯車となる部分である材料の内部にまで必要な硬さを得ることが最も重要である。そのためには、焼入れをする際に材料の内部まで臨界冷却速度を得ることが重要である。
【0023】
従来の合金鋼からの削り出しにより一体構造を実現する方法では、材料の質量が大きくなり、材料の内部まで臨界冷却速度が得られがたかったが、本発明の内歯車ブランク15Aは従来と比較して材料の質量が小さくなるため、材料の内部まで臨界冷却速度が得やすく、熱処理の品質の向上が可能となる。
内歯車ブランク15Aの材料、焼入れ焼戻しの温度等といった条件は必要に応じて変えると良い。
また、必要に応じて焼入れ、焼戻し以外の熱処理を選択しても良い。上記により製造した内歯車ブランク15Aは、ギヤケース10をアルミダイカスト鋳造する際にインサートさせる。
【0024】
そして、金型に内歯車ブランク15Aをセットし、690℃程度のアルミニウム合金の溶湯を流し込み、鋳造圧力80Mpa程度にて0.04秒程度押し込む。この鋳造条件も必要に応じて変えると良い。内歯車ブランク15Aに対して焼入れ、焼戻し等の熱処理を行なっている場合は、焼戻し温度と近い温度のアルミニウム合金の湯にさらされることになるため、焼戻しと同じ効果により硬度が変化してしまうことが考えられるが、鋳造の工程が短時間のため影響は出ない。ギヤケース10として必要な角形状や取り付け穴は、金型で構成しておくため、加工の必要は無い。その後、鋳造により一体化した内歯車ブランク15Aとギヤケース10に対して、旋盤仕上加工を行なう。
【0025】
これにより内歯車ブランク15Aとギヤケース10に対して、同じ加工基準での同時加工が可能となり、軸受を配置するギヤケースハウジングと内歯車15との同軸度、直角度を高精度に維持することが可能となる。
内歯車ブランクの段付き形状の小径部15aについては鋳造時に露出するようにするか又はその後の旋盤仕上加工で露出した状態となるようにする。これにより、加工するときの基準や組付け時のインローとしての使用が可能である。
その後、最終工程により内歯車ブランク15Aの段付き形状小径部15aを基準として内歯車加工を実施する。最終工程、かつ、ギヤケース20のハウジングとの同軸度、直角度が得られている加工基準にて内歯車加工をすることで、歯車精度が最も良い状態のまま遊星減速機に使用することが可能である。
【0026】
図7は内歯車ブランク15Aの変形例で、内歯車ブランク15Aに行なっている空転及び抜け防止のアヤ目ローレット加工は、実使用荷重に対する安全率に合わせて、平目ローレット、溝加工、雄ねじ加工、スプライン加工、若しくは加工を行なわないといった変更を行なうことで、加工コストの削減又は強度向上が可能である。図7の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)が、それぞれ平目ローレット(図7(a))、溝加工(図7(b))、雄ねじ加工(図7(c))、スプライン加工(図7(d))、加工を行なわない場合(図7(e))の内歯車ブランク15Aを示す図である。
また、上記は内歯車ブランクの外径を段付き形状としているが、内径を段付き形状としても良い。
その場合は、外径はアヤ目ローレット加工、内径の小径部に歯車加工を行い、内径の大径部を加工基準やインローとして使用する。
【0027】
上記実施の形態によれば、以下の効果を奏することができる。
ギヤケース10と内歯車15が一体構造になっていることにより、内歯車の圧入による精度悪化やミスアライメントの影響が無くなり、高精度維持が可能である。
ギヤケース10と内歯車15が一体構造になっていることにより、内歯車15の径を大きく取ることができるため、高強度な歯車諸元設計が可能である。
ギヤケース10と内歯車15を一体化した後に、仕上げ旋盤加工を行うため、内歯車ブランク15Aの精度は影響しない。
そのため、従来の二つの部品を固定する方法と比較して内歯車ブランク15Aの精度を厳しく管理する必要がない。
従来の合金鋼からの削りだしによる一体構造と比較して、熱処理を行なう際の質量が削減されるため、熱処理の品質が向上する。また、加工においては切削量を大幅に削減でき、角形状や取り付け穴は金型で構成できるため加工工程を単純にでき、切削する部分の大部分はアルミニウム合金となるため、硬い材料を削ることによる工具摩耗や加工時間の増加が無くなり、結果として加工コストが削減できる。さらに、外観となる部分の材料はアルミニウム合金となるため、合金鋼と比較して錆びの影響が少なくなり、防錆処理コストも削減可能である。以上により製造コストが削減できる。
内歯車ブランク15Aの段付き形状の大径部15bにはアヤ目ローレット加工を行なう事により、高い固定力を維持することができる。
内歯車ブランク15Aの段付き形状の小径部15aは露出された状態のため、加工するときの基準や組付け時のインローとして使用することができる。また、内歯車ブランク15Aとギヤケース10を一体化した後に仕上げ旋盤加工を行い、最終工程で内歯車加工を行うため、軸受を配置するギヤケース10のハウジングと内歯車15の同軸度、直角度を高精度に維持することが可能となる。
【0028】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、例えば、内歯車ブランク15Aには、精度が要求されないので、段付き形状に限らず、種々の形状のものを使用することができる。また、内歯車ブランク15Aには、薄肉のものを用いることで、内径を大きくすることができるため、減速機の小型化を図ることができる。など、本発明の要旨を変更しない範囲内で、適宜、変更および変形して実施し得ることができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0029】
1 遊星減速機
2 モータ
10 ギヤケース
11 中間ギヤケース
12 ギヤフランジ
15 内歯車
15a 小径部
15b 大径部
15c 加工部
16 遊星歯車
17 支持キャリア
17a スペーサ部
18 遊星軸
21 太陽歯車
21a 大径部
22 出力キャリア
22a 出力軸
26 カップリング










【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊星減速機の内歯車とギヤケースを固定する方法であって、
前記ギヤケースのダイカスト鋳造時に、前記ギヤケースの金型に、合金鋼製の環状の内歯車ブランクをインサートしてから前記ギヤケースをダイカスト鋳造することによって、前記ギヤケースに内歯車ブランクを固定し、次に、前記内歯車ブランク内周面に歯車加工を施して前記ギヤケース内周面に内歯車を取り付けることを特徴とする遊星減速機の内歯車固定方法。
【請求項2】
前記内歯車ブランクには、外周面または内周面の軸方向に段付き部を形成し、かつ該外周面には空転及び抜け防止のための加工部を形成し、前記ダイカスト鋳造時に、該加工部を介して、前記内歯車ブランクを前記ギヤケース内面に一体に固定することを特徴とする請求項1に記載の遊星減速機の内歯車固定方法。
【請求項3】
前記内歯車ブランクは、前記段付き部の薄肉部側を前記ギヤケース端面から露出させて、歯車加工の際の加工基準又はインロー継ぎ手として使用することを特徴とする請求項2に記載の遊星減速機の内歯車固定方法。
【請求項4】
前記内歯車ブランクは、前記ギヤケースの金型にインサートする前に焼き入れ及び焼き戻し等の熱処理を施すとともに、前記ギヤケースの鋳造時にダイカスト溶湯によって前記内歯車ブランクに焼き戻し作用が生じない温度及び時間で前記ギヤケースをダイカスト鋳造することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の遊星減速機の内歯車固定方法。
【請求項5】
遊星減速機の内歯車をギヤケースに固定する固定構造であって、
前記ギヤケースのダイカスト鋳造に際して、合金鋼製の環状の内歯車ブランクを前記ギヤケース内面に固定し、該ギヤケース内面に固定された内歯車ブランクの内周面に歯車加工を施して内歯車を形成したことを特徴とする遊星減速機の内歯車固定構造。
【請求項6】
前記内歯車ブランクには、外周面または内周面の軸方向に段付き部を形成し、かつ前記外周面には空転及び抜け防止のための加工部を設けたことを特徴とする請求項6に記載の遊星減速機の内歯車固定構造。
【請求項7】
前記内歯車ブランクには、前記内歯車ブランクの歯車加工の際の加工基準又はインロー継ぎ手として使用するために前記段付き部の薄肉部側を前記ギヤケース端面から突出させて固定したことを特徴とする請求項5または6に記載の遊星減速機の内歯車固定構造。
【請求項8】
電動機の回転を遊星歯車機構により減速する遊星減速機であって、
前記電動機の回転が入力される入力部を設けた太陽歯車と、この太陽歯車の回転が伝達されるとともに太陽歯車の周囲を回転する遊星歯車と、前記減速機のギヤケースに固定され、前記遊星歯車が噛み合う内歯車と、前記遊星歯車の公転運動による回転を取り出す出力軸とを備え、歯車加工を施す前の内歯車ブランクを、前記減速機のギヤケース鋳造時に、ギヤケースに一体に固定してから歯車加工を施して前記内歯車とギヤケースを一体に固定したことを特徴とする遊星減速機。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−7215(P2011−7215A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148487(P2009−148487)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(000103792)オリエンタルモーター株式会社 (150)
【Fターム(参考)】