説明

遊星運動下の転がり軸受の動力学解析方法

【課題】 遊星運動下の転がり軸受の動力学解析が比較的簡単に実施可能となり、保持器破損に代表される様々な転がり軸受部品の品質問題の解明に寄与できる動力学解析方法を提供する。
【解決手段】 外歯太陽歯車3および内歯歯車2に噛み合う遊星歯車1を、キャリア7に転がり軸受9を介して回転自在に支持した遊星歯車機構における、前記転がり軸受9の動力学解析を行う方法である。前記遊星歯車機構の動力学解析モデルとして、この遊星歯車機構の構成部品の運動の自由度をラジアル平面内のみに限定し、遊星歯車1の自転とキャリア7の自転の角速度を一定とし、キャリア7と外歯太陽歯車3の中心位置を内歯歯車2の中心に固定としたモデルを用いる。この動力学解析モデルに対して、遊星歯車機構の伝達トルクを遊星歯車1の公転半径方向荷重で表現することで、前記転がり軸受9に作用する荷重を模擬する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は遊星運動下の遊星歯車を支持する転がり軸受の動力学解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遊星歯車機構は、1個の入力歯車に数個の遊星歯車をかみ合わせ、伝達トルクを一旦分担させ、これらを再び1個の出力歯車に集約させる構造であるため、小形・軽量でありながらも許容伝達トルクは極めて高く、多くの変速機に利用されている(例えば,非特許文献1)。
また、遊星運動する遊星歯車の支持軸受には、低振動・低騒音ならびに高伝達効率化のため転がり軸受が利用されている。しかし遊星運動下の転がり軸受において、保持器破損が問題になる場合がある。
【0003】
遊星歯車には、二つの太陽歯車(外歯太陽歯車,内歯歯車)からの歯面を介した干渉力、およびキャリアの運動による動的な荷重が作用する。これら歯面での干渉力自体の解析例(例えば、非特許文献2)は在るものの、遊星歯車の支持軸受の運動解析は見受けられない。
【非特許文献1】和栗明編著,「歯車の設計・製作とその耐久力」,1980年発行,養賢堂,P197〜200
【非特許文献2】村松茂樹他著,「歯面計測によるかみあい非整数次振動の発生予測」,日本機会学会第1回基礎潤滑部門講演会講演論文集,2001年発行,P63~64
【非特許文献3】坂口・上野共著,「円筒ころ軸受の保持器挙動解析」,NTNテクニカルレビュー(NTN TECHNICAL REVIEW),No71,2003,8-17
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
遊星歯車の支持軸受における保持器破損問題の解明のためには、数値計算による転がり軸受の動力学解析が有効である。転がり軸受の動力学解析は、例えば市販の汎用機構解析ソフト上でも行なうことができ、実用化されている(例えば、非特許文献3)。これは、ころと保持器の3自由度と外輪の2並進自由度を考慮した転がり軸受の2次元動力学解析モデルを用いるものである。
しかし、前述のように遊星歯車に作用する荷重履歴は複雑であり、遊星歯車機構全体を含んだ転がり軸受の動力学解析モデルの構築は難しい。
【0005】
この発明の目的は、遊星運動下の転がり軸受の動力学解析が比較的簡単に実施可能となり、保持器破損に代表される様々な転がり軸受部品の品質問題の解明に寄与できる遊星運動下の転がり軸受の動力学解析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の遊星運動下の転がり軸受の動力学解析方法は、遊星歯車に作用する荷重を簡単化した実用的な転がり軸受の動力学解析モデルを提案するものである。
すなわち、この発明の遊星運動下の転がり軸受の動力学解析方法は、外歯太陽歯車および内歯歯車に噛み合う遊星歯車を、キャリアに転がり軸受を介して回転自在に支持した遊星歯車機構における、前記転がり軸受の動力学解析を行う方法において、
前記遊星歯車機構の動力学解析モデルとして、この遊星歯車機構の構成部品の運動の自由度をラジアル平面内のみに限定し、遊星歯車の自転とキャリアの自転の角速度を一定とし、キャリアと外歯太陽歯車の中心位置を内歯歯車の中心に固定としたモデルを用いる。この動力学解析モデルに対して、遊星歯車機構の伝達トルクを遊星歯車の公転半径方向荷重で表現することで、前記転がり軸受に作用する遊星歯車機構特有の荷重を模擬的に与えることを特徴とする。前記転がり軸受に作用する荷重は、例えば保持器に作用する干渉力である。
【0007】
この動力学解析方法によると、遊星歯車機構特有の複雑な遊星歯車に作用する荷重を簡単化できるため、ころと保持器の3自由度と外輪の2並進自由度を考慮した転がり軸受の2次元動力学解析モデルなどを用いることにより、遊星運動下の転がり軸受の動力学解析が簡単に実施可能となる。そのため、保持器破損に代表される様々な転がり軸受部品の品質問題の解明に寄与することができる。
【0008】
この発明において、前記動力学解析モデルは、遊星歯車の自転とキャリアの自転の角速度を既知の関数とするものであっても良い。すなわち、遊星歯車の自転とキャリアの自転の角速度を一定とする代わりに、既知の関数としても良い。既知の関数とすると、より精度良く転がり軸受の動力学解析が行える。
【0009】
前記転がり軸受は、例えば、キャリアと一体固定の軸の外径面、および遊星歯車の内径面が転動体の転動する軸受軌道面となる保持器付きころであっても良い。
【発明の効果】
【0010】
この発明の遊星運動下の転がり軸受の動力学解析方法は、遊星歯車機構の動力学解析モデルとして、遊星歯車機構の構成部品の運動の自由度をラジアル平面内のみに限定し、遊星歯車の自転とキャリアの自転の角速度を一定とし、キャリアと外歯太陽歯車の中心位置を内歯歯車の中心に固定としたモデルを用い、この動力学解析モデルに対して、遊星歯車機構の伝達トルクを遊星歯車の公転半径方向荷重で表現することで、前記転がり軸受に作用する遊星歯車機構特有の荷重を模擬する方法であるため、ころと保持器の3自由度と外輪の2並進自由度を考慮した転がり軸受の2次元動力学解析モデルなどを用いた転がり軸受の動力学解析技術を用いることにより遊星運動下の転がり軸受の動力学解析が比較的簡単に実施可能となり、保持器破損に代表される様々な転がり軸受部品の品質問題の解明に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明の一実施形態を図1および図2と共に説明する。図1は、遊星歯車機構の半径方向の概略を示す。この遊星歯車機構は、外歯太陽歯車3および内歯歯車2に複数(例えば3〜5個)の遊星歯車1が噛み合い、各遊星歯車1を、キャリア7と一体の軸4の外周に転がり軸受9を介して回転自在に支持したものである。図1のo−xy座標系は、キャリア7と一体である軸4の中心に固定されている。
【0012】
転がり軸受9は、複数個の転動体5をリング状の保持器6で保持した保持器付きころであり、軸4の外径面および遊星歯車1の内径面が、各転動体5の転接する軌道面となる。保持器6は円周方向の複数箇所にポケット6aを有し、各ポケット6a内に転動体5を保持する。転動体5は、針状ころ等のころからなる。
【0013】
つぎに、上記遊星歯車機構に組み込まれた転がり軸受9の動力学解析方法を説明する。遊星歯車1の支持軸受である転がり軸受9内の保持器6への干渉力を解明するには、動的挙動を模擬可能な転がり軸受9の動力学解析が必要となる。
この実施形態では、実用的な動力学解析モデルの範疇とするため、図1の遊星歯車機構の動力学解析モデルとして、遊星歯車機構の各構成部品の自由度につき、ラジアル面内の自由度のみを対象としてモデルを用いる。また、このモデルにおいて、転がり軸受9に作用する遊星歯車機構に特有の荷重は、以下の仮定で表現されるものとする。
【0014】
(仮定1)動力学解析対象部品の慣性力ならびに遠心力を考慮する。
(仮定2)転動体5、保持器6、軸4、および遊星歯車1の互いの接触力および接線力を考慮する。
(仮定3)キャリア7および遊星歯車1の自転角速度は、一定または、既知の関数等による既知条件として与える。よって、遊星歯車1の公転角速度は動力学解析の自由度とする。
(仮定4)外歯太陽歯車3、内歯歯車2、およびキャリア7の中心位置は固定とし、図1のOにて、互いに一致する。
(仮定5)遊星歯車1と外歯太陽歯車3および内歯歯車2との歯面接触部のかみ合い隙間は、遊星歯車1を支持する転がり軸受9のラジアル内部隙間よりも大きいため、このラジアル内部隙間分の遊星歯車1の2並進の自由度(図1のxとy方向)の自由度を与える。
(仮定6)内歯歯車2および外歯太陽歯車3から遊星歯車1への干渉力は、遊星歯車1の公転方向(図1のx方向)の並進力Ft と自転モーメントに帰着できる。さらに、定常運転状態下では、この並進力は伝達トルクMt で決定される.
(仮定7)転がり軸受9の保持器6および転動体5へは、自転と2並進の3自由度を与える。
【0015】
上記の仮定により、各運動解析部品の運動方程式は、式(1)から式(5)となる。なお、慣性系での定式化のため、見かけの力である遠心力は現れてこない。
【0016】
【数1】

【0017】
ただし各記号は以下の通りである。
F:干渉力、I:慣性モーメント、i :転動体番号,m:質量,M:モーメント、Fa :キャリアから転動体への干渉力、r:位置ベクトル,θ:角変位。
下付き添え字については、a :キャリア、ab:キャリアから転動体への成分、ac:キャリアから保持器への成分、b :転動体、c :保持器、cb:保持器から転動体への成分、 p:遊星歯車、pb:遊星歯車から転動体への成分、 pc :遊星歯車から保持器への成分、t :外歯太陽歯車および内歯歯車から遊星歯車への干渉力の合力成分で定常状態下の伝達トルクで決定される成分である。
また、肉太文字はベクトルであることを示す。
【0018】
上記仮定6により、遊星歯車1の公転(図1のx)方向の公称のラジアル荷重を設定することができる。なお,このラジアル荷重は転動体5や保持器6の動的な挙動を決定することになる。
【0019】
上記運動方程式(1)〜(5)において、式(5)のFtはキャリア7に伝達される回転トルクにより決定される。また遊星歯車の自転速度およびキャリアの自転速度が与えられているため、これらの式の各部品間の干渉力やモーメント力ならびに各部品に作用する遠心力は、非特許文献3と同じく運動方程式を数値積分することで全て求められる。
【0020】
なお、上記の歯面を介して遊星歯車1に作用する干渉力は、歯の噛み合いにより大きさが向きが変化するため、歯車の自転角による関数で与えると取り扱いが簡便でよい。さらに簡単化するには時間に因らず一定値としてもよい。
通常、遊星歯車機構には複数の遊星歯車が存在するが、全てが等価と仮定して、その内の一つを重力を無視して解析してもよい。特に遊星歯車の公転速度が高く、この遠心加速度が重力加速度よりも大きい場合は、妥当な仮定である。
【0021】
図3は、遊星歯車が2セット組み込まれた反転機構を有する遊星変速機となる遊星歯車機構を示す。このような遊星歯車機構を解析する場合、解析対象を遊星歯車1とすれば、これに作用する外歯歯車3からの干渉力ともう一方の遊星歯車8からの干渉力の合力ベクトルの向きへの力を遊星歯車1へのラジアル荷重として考慮する。これにより、図1の遊星歯車機構の場合と同様に解析可能である。この場合でも、ラジアル荷重によるキャリア7へのモーメントの大きさは、伝達トルクの大きさと釣り合うように設定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の一実施形態における解析対象となる遊星歯車機構の部分正面図である。
【図2】同遊星歯車機構における遊星歯車の支持用の転がり軸受の一例を示す部分断面図である。
【図3】この発明の他の実施形態における解析対象となる反転機構付きの遊星歯車機構の部分正面図である。
【符号の説明】
【0023】
1…遊星歯車
2…内歯歯車
3…外歯太陽歯車
4…遊星歯車の軸
5…転動体
6…保持器
7…キャリア
8…反転用の遊星歯車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外歯太陽歯車および内歯歯車に噛み合う遊星歯車を、キャリアに転がり軸受を介して回転自在に支持した遊星歯車機構における、前記転がり軸受の動力学解析を行う方法において、
前記遊星歯車機構の動力学解析モデルとして、この遊星歯車機構の構成部品の運動の自由度をラジアル平面内のみに限定し、遊星歯車の自転とキャリアの自転の角速度を一定とし、キャリアと外歯太陽歯車の中心位置を内歯歯車の中心に固定としたモデルを用い、この動力学解析モデルに対して、遊星歯車機構の伝達トルクを遊星歯車の公転半径方向荷重で表現することで、前記転がり軸受に作用する遊星歯車機構特有の荷重を模擬的に与えることを特徴とする遊星運動下の転がり軸受の動力学解析方法。
【請求項2】
請求項1において、前記動力学解析モデルは、遊星歯車の自転とキャリアの自転の角速度を既知の関数とする遊星運動下の転がり軸受の動力学解析方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記転がり軸受は、キャリアと一体固定の軸の外径面、および遊星歯車の内径面が転動体の転動する軸受軌道面となる保持器付きころである遊星運動下の転がり軸受の動力学解析方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−298458(P2007−298458A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128062(P2006−128062)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】