説明

運動解析装置

【課題】被験者の運動フォームとリファレンスの運動フォームとの差を定量的に解析可能な情報が得られる運動解析装置を提供すること。
【解決手段】
運動解析装置1は、被験者に取り付けられる複数のモーションセンサー10と、モーションセンサー10の各々の出力データに基づく情報を取得するデータ取得部31と、データ取得部31が取得した情報に基づいて被験者をモデル化した被験者モデルの軌跡情報を生成する軌跡情報生成部32と、リファレンスモデルの軌跡情報を記憶する軌跡情報記憶部62とを含む。軌跡情報生成部32は、軌跡情報記憶部62からリファレンスモデルの軌跡情報を読み出して、被験者モデルの軌跡情報およびリファレンスモデルの軌跡情報を比較し、被験者モデルの軌跡情報及びリファレンスモデルの軌跡情報の少なくとも一方に対して、被験者モデルのサイズとリファレンスモデルのサイズとを一致させるサイズの正規化を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフ、テニス、野球などのスポーツでは、技術を向上させるためには無駄のない模範的な運動フォームを身につけることが重要である。そのため、多くの人はスポーツクラブ等でインストラクターのレッスンを受けているが、場所的・時間的な制約のためにレッスンを受けられない場合もある。そこで、例えば、特許文献1では、ゴルフレッスンの希望者が自己のスイングフォームをカメラで撮影した撮影データを通信回線を利用してサーバーに送信し、インストラクターがこの撮影データを解析して被験者にアドバイスを提供する手法が提案されている。この手法によれば、場所的・時間的な制約を受けることなく、インストラクターによるレッスンを受けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−296799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の手法では、インストラクターの主観によるアドバイスが提供される傾向が強く、模範的なフォームとの定量的な違いを知ることは難しい。これに対して、カメラで撮影した運動フォームをあらかじめ用意した模範的なフォームと比較することも考えられるが、体格や運動速度が異なるため、やはり模範的なフォームとの違いを定量的に測定することは難しい。
【0005】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、被験者の運動フォームとリファレンスの運動フォームとの差を定量的に解析可能な情報が得られる運動解析装置を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は、被験者に取り付けられる複数のモーションセンサーと、前記モーションセンサーの各々の出力データに基づく情報を取得するデータ取得部と、前記データ取得部が取得した情報に基づいて前記被験者をモデル化した被験者モデルの軌跡情報を生成する軌跡情報生成部と、リファレンスモデルの軌跡情報を記憶する軌跡情報記憶部と、を含み、前記軌跡情報生成部は、前記軌跡情報記憶部から前記リファレンスモデルの軌跡情報を読み出して、前記被験者モデルの軌跡情報および前記リファレンスモデルの軌跡情報を比較し、前記被験者モデルの軌跡情報及び前記リファレンスモデルの軌跡情報の少なくとも一方に対して、前記被験者モデルのサイズと前記リファレンスモデルのサイズとを一致させるサイズの正規化を行う、運動解析装置である。
【0007】
モーションセンサーの各々の出力データに基づく情報とは、モーションセンサーの各々の出力データそのものであってもよいし、モーションセンサーの各々の出力データに所与の演算処理を施して得られる情報であってもよい。
【0008】
軌跡情報生成部は、被験者モデルの軌跡情報とリファレンスモデルの軌跡情報のいずれか一方のみに対してサイズの正規化を行ってもよいし、両方に対してサイズの正規化を行ってもよい。
【0009】
軌跡情報生成部は、被験者モデルの軌跡情報に対してサイズの正規化を行う場合、サイズの正規化を行いながら被験者モデルの軌跡情報を生成してもよいし、被験者モデルの軌跡情報を生成した後にサイズの正規化を行ってもよい。
【0010】
本発明によれば、サイズの正規化を行って、被験者モデルの軌跡情報とリファレンスモデルの軌跡情報を比較することで、被験者とリファレンスの運動フォームや運動速度の差を定量的に解析することができる。
【0011】
(2)この運動解析装置において、前記軌跡情報生成部は、前記被験者モデルの軌跡情報及び前記リファレンスモデルの軌跡情報の少なくとも一方に対して、解析対象の運動の前記被験者モデルの動作時間と前記リファレンスモデルの動作時間とを一致させる時間の正規化をさらに行うようにしてもよい。
【0012】
このように、サイズの正規化と時間の正規化を行って、被験者モデルの軌跡情報とリファレンスモデルの軌跡情報を比較することで、被験者とリファレンスの運動フォームのわずかな差も定量的に解析することができる。
【0013】
(3)本発明は、被験者に取り付けられる複数のモーションセンサーと、前記モーションセンサーの各々の出力データに基づく情報を取得するデータ取得部と、前記データ取得部が取得した情報に基づいて前記被験者をモデル化した被験者モデルの軌跡情報を生成する軌跡情報生成部と、リファレンスモデルの軌跡情報を記憶する軌跡情報記憶部と、を含み、前記軌跡情報生成部は、前記軌跡情報記憶部から前記リファレンスモデルの軌跡情報を読み出して、前記被験者モデルの軌跡情報および前記リファレンスモデルの軌跡情報を比較し、前記被験者モデルの軌跡情報及び前記リファレンスモデルの軌跡情報の少なくとも一方に対して、解析対象の運動の前記被験者モデルの動作時間と前記リファレンスモデルの動作時間とを一致させる時間の正規化を行う、運動解析装置である。
【0014】
モーションセンサーの各々の出力データに基づく情報とは、モーションセンサーの各々の出力データそのものであってもよいし、モーションセンサーの各々の出力データに所与の演算処理を施して得られる情報であってもよい。
【0015】
軌跡情報生成部は、被験者モデルの軌跡情報とリファレンスモデルの軌跡情報のいずれか一方のみに対して時間の正規化を行ってもよいし、両方に対して時間の正規化を行ってもよい。
【0016】
軌跡情報生成部は、被験者モデルの軌跡情報に対して時間の正規化を行う場合、時間の正規化を行いながら被験者モデルの軌跡情報を生成してもよいし、被験者モデルの軌跡情報を生成した後に時間の正規化を行ってもよい。
【0017】
本発明によれば、時間の正規化を行って、被験者モデルの軌跡情報とリファレンスモデルの軌跡情報を比較することで、被験者とリファレンスの運動フォームの差を定量的に解析することができる。
【0018】
(4)この運動解析装置において、前記軌跡情報生成部は、前記時間の正規化において、前記解析対象の運動を複数の運動に分割し、前記複数の運動の各々の前記被験者モデルの動作時間と前記リファレンスモデルの動作時間とを一致させる処理を行うようにしてもよい。
【0019】
このようにすれば、分割した運動毎に運動フォームを比較することができるので、運動フォームの差をより詳細に解析することができる。
【0020】
(5)この運動解析装置は、前記正規化を行った後、前記被験者モデルの軌跡情報及び前記リファレンスモデルの軌跡情報の画像を生成して表示部に表示させる画像生成部をさらに含むようにしてもよい。
【0021】
このように、被験者の運動フォームとリファレンスの運動フォームを画像として表示させることで、両者の差が直感的にわかりやすくなる。
【0022】
(6)この運動解析装置は、辞書情報を記憶する辞書情報記憶部と、前記軌跡情報生成部が前記正規化を行った後、前記被験者モデルの軌跡情報及び前記リファレンスモデルの軌跡情報を比較する軌跡情報比較部と、前記軌跡情報比較部の比較結果に基づいて、前記辞書情報から少なくとも1つの情報を選択し、表示部に表示させる表示選択部と、をさらに含むようにしてもよい。
【0023】
このようにすれば、被験者モデルの軌跡とリファレンスモデルの軌跡の定量的な違いを別の表現に置き換えて表示させることができる。例えば、両者の定量的な違いから導かれる運動フォームの欠点などを指摘する文章を表示させるようにしてもよい。
【0024】
(7)この運動解析装置において、前記モーションセンサーは、運動用具に取り付けられ、前記モーションセンサーの出力データに基づいて、前記運動用具の運動解析情報を生成する用具情報生成部をさらに含むようにしてもよい。
【0025】
このようにすれば、運動フォームと運動用具の情報(例えば、速度や軌道)との関係を解析することができる。
【0026】
(8)この運動解析装置において、前記モーションセンサーの少なくとも1つは、多軸加速度センサーと多軸角速度センサーとを含むようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態の運動解析装置の構成を示す図。
【図2】処理部の全体処理のフローチャート図。
【図3】モーションセンサーの取り付け例を示す図。
【図4】人体モデルの一例を示す図。
【図5】軌跡データの時間の正規化処理について説明するための図。
【図6】軌跡データの時間の正規化処理について説明するための図。
【図7】軌跡データの時間の正規化処理のフローチャート図。
【図8】軌跡データの時間の正規化処理について説明するための図。
【図9】軌跡データのサイズの正規化処理のフローチャート図。
【図10】軌跡データのサイズの正規化処理について説明するための図。
【図11】軌跡データの比較処理について説明するための図。
【図12】表示部の表示画面の一例を示す図。
【図13】表示部の表示画面の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0029】
1.運動解析装置の構成
図1は、本実施形態の運動解析装置の構成を示す図である。
【0030】
本実施形態の運動解析装置1は、人体装着ユニット100と処理・制御ユニット200を含んで構成され、被験者の運動を解析する。被験者があらかじめ決められた運動を行うと、運動解析装置1は、被験者の運動フォームを取得してリファレンスの運動フォームとの差を解析する。
【0031】
人体装着ユニット100は、複数のモーションセンサー10と同期部20を含んで構成されており、被験者に装着される。
【0032】
モーションセンサー10は、例えば、3軸加速度センサー12と3軸ジャイロセンサー(角速度センサー)14を含み、3軸(x軸、y軸、z軸)方向の加速度と3軸(x軸、y軸、z軸)方向の角速度を検出することができる。なお、検出軸は3軸以上あってもよい。モーションセンサー10は、被験者の体の肩、腰、肘などの部位に装着される。被験者が装着するモーションセンサー10の数やセンサー10の装着部位は、要求される運動解析の精度や解析内容に応じて任意に決めることが可能である。モーションセンサー10には、加速度や角速度の補正機能(バイアス補正や温度補正などの機能)とカルマンフィルターなどによりxyz座標系での速度や位置の計算を行う機能が搭載されていてもよい。
【0033】
各モーションセンサー10から同期部20に、各モーションセンサー10の加速度、角速度、速度、位置の情報などが無線通信または有線通信で送られる。この加速度、角速度、位置の情報などは、同期部20から各モーションセンサー10に送られる時刻情報に同期して送られる。
【0034】
同期部20は、各モーションセンサー10から受信したデータを時刻情報などと組合せたパケットにして処理・制御ユニット200に送る。なお、加速度や角速度の補正機能(バイアス補正や温度補正などの機能)とカルマンフィルターなどにより速度や位置の計算を行う機能を、モーションセンサー10の代わりに同期部20に搭載してもよい。
【0035】
運動用具300を用いて運動を解析する場合には、さらに、運動用具300にモーションセンサー10を組み込んでもよい。これにより、運動用具300の位置情報などを人体装着ユニット100の同期部20に送ることができる。運動用具300としては、例えば、野球のボールやバット、テニスのボールやラケット、ゴルフのボールやクラブなど、運動の種類に応じて様々なものが考えられる。
【0036】
人体装着ユニット100と処理・制御ユニット200とは無線または有線で接続されている。処理・制御ユニット200はパーソナルコンピューター(PC)またはスマートフォンのような汎用情報処理機器により実現することができる。処理・制御ユニット200がPCの場合は無線で接続するほうが使い易い。一方、処理・制御ユニット200がスマートフォンなどの携帯機器の場合にはUSBなどの有線デバイスで接続することも可能である。
【0037】
処理・制御ユニット200は、処理部30、通信部40、操作部50、記憶部60、表示部70を含んで構成されている。
【0038】
通信部40は、人体装着ユニット100の同期部20から送信されたパケットデータを受信し、処理部30に送る処理を行う。
【0039】
操作部50は、ユーザーからの操作データを取得し、処理部30に送る処理を行う。操作部50は、例えば、タッチパネル型ディスプレイ、ボタン、キー、マイクなどである。
【0040】
記憶部60は、処理部30が各種の計算処理や制御処理を行うためのプログラムや、アプリケーション機能を実現するための各種プログラムやデータ等を記憶している。また、記憶部60は、処理部30の作業領域としても用いられ、操作部50から入力されたデータ、処理部30が各種プログラムに従って実行した演算結果等を一時的に記憶する。
【0041】
特に本実施形態の記憶部60は、軌跡情報記憶部62を含む。軌跡情報記憶部62は、リファレンスモデルの軌跡情報(軌跡データ)を記憶する。リファレンスモデルの軌跡情報は、例えば、プロスポーツ選手から採取した模範となる運動フォームの軌跡情報であってもよいし、被験者の過去の好調時の運動フォームの軌跡情報であってもよい。処理部30の処理により生成された軌跡情報のうち、被験者の好調時の運動フォームの軌跡データなど長期的に保存しておきたいものは軌跡情報記憶部62に記憶(記録)される。なお、必要に応じて、重要な軌跡情報(例えば、プロスポーツ選手のデータなど著作権が絡むような軌跡情報)には暗号化をかけるようにしてもよい。
【0042】
また、本実施形態の記憶部60は、辞書情報記憶部64を含む。辞書情報記憶部64は、被験者モデルの軌跡情報とリファレンスモデルの軌跡情報との差の情報と複数の表現との対応関係を定義する辞書情報を記憶する。
【0043】
表示部70は、処理部30の処理結果を文字やグラフ、その他の画像として表示するものである。表示部70は、例えば、CRT、LCD、タッチパネル型ディスプレイ、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)などである。なお、1つのタッチパネル型ディスプレイで操作部50と表示部70の機能を実現するようにしてもよい。
【0044】
処理部30は、記憶部60に記憶されているプログラムに従って、同期部20から通信部40を介して受信したデータに対する各種の計算処理や、各種の制御処理(表示部70に対する表示制御等)を行う。処理部30は、例えばマイクロプロセッサーにより実現できる。
【0045】
特に、本実施形態の処理部30は、データ取得部31、軌跡情報生成部32、画像生成部33、軌跡情報比較部34、表示選択部35、用具情報生成部36を含む。なお、これらの一部を省略する構成としてもよい。
【0046】
データ取得部31は、モーションセンサー10の各々の出力データに基づく情報を継続して取得する処理を行う。
【0047】
軌跡情報生成部32は、データ取得部31が取得した情報に基づいてモーションセンサー10の各々の位置を特定し、被験者をモデル化した被験者モデルの軌跡情報を生成する処理を行う。軌跡情報生成部32は、被験者モデルの軌跡情報及びリファレンスモデルの軌跡情報の少なくとも一方に対して、被験者モデルのサイズとリファレンスモデルのサイズとを一致させるサイズの正規化を行う。あるいは、軌跡情報生成部32は、被験者モデルの軌跡情報及びリファレンスモデルの軌跡情報の少なくとも一方に対して、解析対象の運動に対応する被験者モデルの動作の時間とリファレンスモデルの動作の時間とを一致させる時間の正規化を行う。また、軌跡情報生成部32は、被験者モデルの軌跡情報及びリファレンスモデルの軌跡情報の少なくとも一方に対してサイズの正規化を行うとともに、被験者モデルの軌跡情報及びリファレンスモデルの軌跡情報の少なくとも一方に対して時間の正規化を行うようにしてもよい。
【0048】
また、軌跡情報生成部32は、時間の正規化において、解析対象の運動を分割した複数の運動の各々に対応する被験者モデルの動作の時間とリファレンスモデルの動作の時間とをさらに一致させる処理を行うようにしてもよい。
【0049】
さらに、軌跡情報生成部32は、一部のモーションセンサー10の位置の情報を用いずに、他のモーションセンサー10の位置の情報に基づいて被験者モデルの仮想的な軌跡情報をさらに生成するようにしてもよい。
【0050】
画像生成部33は、軌跡情報生成部32が時間の正規化及びサイズの正規化の少なくとも一方を行った後、被験者モデルの軌跡情報及びリファレンスモデルの軌跡情報に基づいて、被験者モデルに対応づけられる画像及びリファレンスモデルに対応づけられる画像を生成して表示部に表示させる処理を行う。
【0051】
軌跡情報比較部34は、軌跡情報生成部32が時間の正規化及びサイズの正規化の少なくとも一方を行った後、被験者モデルの軌跡情報及びリファレンスモデルの軌跡情報を比較する処理を行う。
【0052】
表示選択部35は、軌跡情報比較部34の比較結果に基づいて、辞書情報記憶部64に記憶される辞書情報で定義された複数の表現から少なくとも1つの表現を選択し、表示部70に表示させる処理を行う。
【0053】
用具情報生成部36は、データ取得部31が取得した、運動用具300に取り付けられるモーションセンサー10の出力データに基づく情報に基づいて、運動用具300の運動に関する解析情報を生成する処理を行う。
【0054】
2.運動解析装置の処理
[全体処理]
本実施形態では、ユーザーは、操作部50を操作することでモード1〜モード4の4つの動作モードのいずれか1つを選択することができ、処理部30は、選択された動作モードに対応する処理を行う。具体的には、記憶部60にモード1〜モード4の各処理を行うためのプログラムが格納されており、処理部30がこのプログラムを実行することで各モードの処理を行う。
【0055】
モード1は、各モーションセンサー10からのデータを取得し、所定のフォーマットの軌跡データを生成して記憶部60に記憶するモードである。モード2は、モード1で記憶部60に記憶した軌跡データ又は当該軌跡データをフォーマット変換した軌跡データを、リファレンスの軌跡データと比較するモードである。モード3は、被験者の運動フォームやリファレンスの運動フォームの3D画像を表示部70に表示するモードである。モード4は、被験者に取り付けるモーションセンサー10の最適数や最適な取り付け部位を決定するための支援情報を提供するモードである。
【0056】
図2は、処理部30の全体処理のフローチャート図である。ユーザーにより、モード1が選択された場合(ステップS10のY)、処理部30は、人体装着ユニット100の同期部20からデータを取得する処理を行った後(ステップS12)、被験者モデルの軌跡データの生成及び正規化の処理を行う(ステップS14)。
【0057】
また、ユーザーにより、モード2が選択された場合(ステップS20のY)、処理部30は、ステップS14で生成された被験者モデルの軌跡データとリファレンスモデルの軌跡データとを比較する処理を行い(ステップS22)、必要に応じて辞書情報から適当な表記を選択して表示部70に表示させる処理を行う(ステップS24)。
【0058】
また、ユーザーにより、モード3が選択された場合(ステップS30のY)、処理部30は、ステップS14で生成された被験者モデルの軌跡データやリファレンスモデルの軌跡データから運動フォームの3D画像を生成し、表示部70に表示させる処理を行う(ステップS32)。
【0059】
また、ユーザーにより、モード4が選択された場合(ステップS40のY)、処理部30は、所定のモーションセンサー10が不要か否かを解析する処理を行う(ステップS42)。
【0060】
そして、被験者の運動解析処理を終了(ステップS50のY)するまで、処理部30は、ユーザーが選択したモードに応じた処理を繰り返し行う。
【0061】
[モード1の処理]
例えば、野球の投球フォームを解析する場合、モーションセンサー10は、図3に示すように、被験者2の頭(帽子)、首の後ろ、両肩、両肘、両手首、腰の後ろ、両足の付け根、両膝、両足首などに取り付けられる。さらに、ボール3(運動用具300の一例)の内部にモーションセンサー10を内蔵させてもよい。
【0062】
モード1では、処理部30は、被験者2が解析対象の運動(例えば投球)を開始してから終了するまでの間、人体装着ユニット100の同期部20から一定周期で位置情報などのデータを取得し、取得したデータから被験者モデルの軌跡を表す軌跡データを生成する。
【0063】
本実施形態では、図4に示すように、被験者モデルとして、被験者2の頭部や関節部に対応づけてノードを設定し、所定のノード同士を線で結んだ人体モデル4を定義する。そして、処理部30は、被験者2の運動に伴って変化する各モーションセンサー10のxyz座標系の位置から被験者モデル(人体モデル4)の各ノードのXYZ座標系の位置を計算し、被験者モデル(人体モデル4)の軌跡データを生成する。X軸、Y軸、Z軸は、リファレンスモデルの軌跡データで定義されている3軸と方向を一致させる。
【0064】
例えば、図3に示したように、被験者2の頭部と各関節部にモーションセンサー10が取り付けられている場合、各モーションセンサー10と人体モデル4の各ノードが1対1に対応している。すなわち、ノードN1〜N15は、被験者2の頭(帽子)、首の後ろ、右肩、右肘、右手首、左肩、左肘、左手首、腰の後ろ、右足の付け根、右膝、右足首、左足の付け根、左膝、左足首の15箇所に取り付けたモーションセンサー10にそれぞれ対応している。このような場合は、各モーションセンサー10の位置に応じて、それぞれ対応するノードの位置を計算すればよい。
【0065】
一方、頭部や一部の関節部にモーションセンサー10が取り付けられていない場合は、仮想的にセンサーが取り付けられているものとして、この仮想的に取り付けられたセンサー(以下、「仮想センサー」という)に対応するノードの位置を、インバースキネマティックス等の手法を用いて他のモーションセンサー10に対応するノードの位置から計算によって求める。例えば、肩と手首と肘にそれぞれモーションセンサー10を取り付けるより、肩と手首にだけモーションセンサー10を取り付け、肩と手首に取り付けたモーションセンサー10の動きから肘の動きを計算すれば、モーションセンサー10の数を減らし、運動解析装置1の使い勝手を良くすることができる。なお、仮想センサーの位置を計算するためには、人体の動作をモデル化する必要がある。例えば、人体がリジットな多関節構造になっていると仮定し、肩と肘と手首の間の長さは常に一定であり骨は変形しないとする。同様に、股関節から膝と足首の距離は一定で骨は変形せず、関節の可動範囲は上限があるなどと仮定する。この仮定のもとに、複数の人間の動記録から人体の動作をモデル化して仮想センサーの位置の計算に使用する。
【0066】
また、処理部30は、生成した軌跡データを記憶部60(軌跡情報記憶部62)に保存する処理を行う。本実施形態では、保存する軌跡データのフォーマットは3種類あり、それぞれのフォーマットでの保存の有無を選択可能になっている。フォーマット1の軌跡データは、同期部20から取得した各モーションセンサー10のxyz座標系の位置から計算されるXYZ座標系の位置を時系列に並べた軌跡データである。フォーマット2のデータは、サイズの正規化を行った(時間の正規化は行わない)軌跡データである。フォーマット3のデータは、サイズ及び時間の正規化を行った軌跡データである。
【0067】
フォーマット1、フォーマット2、フォーマット3の一部又は全部の軌跡データを生成して保存してもよい。あるいは、軌跡データをフォーマット1でのみ保存し、その表示をする時や、リファレンスの軌跡データと比較する時にフォーマット2またはフォーマット3の軌跡データを生成してもよい。
【0068】
フォーマット1の軌跡データは、被験者2の実際の運動フォームを3Dグラフィックソフトなどで見る場合に使用される。フォーマット1の軌跡データを使用することで、被験者2の実際の体格や運動速度を画面上で確認することができる。
【0069】
フォーマット2の軌跡データ(サイズを正規化した軌跡データ)は、被験者2の運動フォームとリファレンスの運動フォームの比較を容易にするために使用される。すなわち、リファレンスの軌跡データを取得した人と被験者2の体格が違う場合、そのままのサイズで比較すると運動フォームの比較が困難なので、比較を容易にするためにサイズの正規化が行われる。このフォーマット2の軌跡データは、時間に対しては正規化されていないため、特に、運動フォームの時間軸上の情報(例えば運動速度の差の比較)が重要な場合に使用される。ただし、サイズが正規化されたリファレンスの軌跡データとフォーマット2の軌跡データを比較する場合、途中で両者の同期が取れなくなるのでフォームを詳細に比較する目的には向いていない。
【0070】
フォーマット3の軌跡データ(サイズ及び時間を正規化した軌跡データ)は、被験者2の運動フォームとリファレンスの運動フォームを詳細に比較するために使用される。
【0071】
(軌跡データの時間の正規化)
次に、軌跡データの時間を正規化する手法の一例について説明する。
【0072】
まず、運動の開始点、終了点および一連の運動の中で姿勢が大きく変わるなどの1又は複数の特徴点(基準点)を定義する。つまり、開始点、基準点、終了点を定義することで、解析対象の運動を複数の運動に分割する。
【0073】
例えば、野球の投球フォームを解析する場合であれば、図5(A)のように、被験者2が投球を始める前に静止した後腕が後方に動き始めた時点を運動の開始点、図5(D)のように、投球が行われ利き腕と同じ側の足が地面から離れ、再び接地した時点を終了点とする。また、例えば、図5(B)のように、腕をテイクバックして投球動作に移行し、利き腕と逆の足が接地した時点を1番目の基準点(基準点1)、図5(C)のように、被験者2の利き腕の指先からボール3が離れた時点を2番目の基準点(基準点2)とする。
【0074】
また、例えば、野球の打撃フォームを解析する場合であれば、例えば、スイングを始める前に静止した後、テイクバックを始めた時点を開始点、フォロースルーが終了した時すなわちフォロースルーの速度が0になり逆方向に動き始めた時を終了点、前方の足が地面から離れ、再び接地した時点を1番目の基準点、バットにボールが当たった時点を2番目の基準点、のように決めればよい。
【0075】
運動の開始点、終了点、基準点は、処理部30が、モーションセンサー10の位置データに基づいて自動的に決定してもよいし、例えば、被験者モデルに対応するオブジェクトのアニメーション画像を表示部70に表示し、ユーザがそのアニメーション画像を見ながら適切なタイミングでスイッチを押すなどして手動で決定してもよい。
【0076】
そして、開始点、終了点、各基準点での人体モデル4の各ノードのXYZ座標系の位置座標を計算する。例えば、図6(A)〜図6(D)は、それぞれ図5(A)〜図5(D)に示した被験者2の状態に対応する人体モデル4の状態を示している。そして、開始点、基準点1、基準点2、終了点にそれぞれ対応づけて、図6(A)〜図6(D)の状態の人体モデル4の各ノードのXYZ座標系の位置座標を計算する。各モーションセンサー10と人体モデル4の各ノードが1対1に対応している場合は、開始点、終了点、基準点において、各モーションセンサー10が出力するxyz座標系の位置データをXYZ座標系へ座標変換を行うことで各ノードの位置座標を算出することができる。
【0077】
さらに、開始点から最初の基準点までの期間、隣り合う2つの基準点の間の期間、最後の基準点から終了点までの期間を、それぞれあらかじめ決められた任意の数の、時間が等間隔な期間に分割し、各分割点での人体モデル4の各ノードの位置座標を計算する。各モーションセンサー10は一定の周期で位置を検出しているので、必ずしも、分割点の時刻に対応する位置データがあるとは限らない。分割点の時刻に対応する位置データがあれば、各位置データに対してxyz座標系からXYZ座標系への座標変換を行うことで分割点での各ノードの位置座標を算出することができる。一方、分割点の時刻に対応する位置データが無い場合は、例えば、その時刻の前後の時刻に対応する位置データを用いて、補間計算により分割点の時刻に対応する位置データを生成する。そして、補間計算により生成された各位置データに対してxyz座標系からXYZ座標系への座標変換を行うことで分割点での各ノードの位置座標を算出することができる。
【0078】
図7に、時間を正規化した軌跡データを生成する処理のフローチャートの一例を示す。なお、図7に示すフローチャートは、図2に示したフローチャートのステップS14の一部の処理のフローチャートの一例であり、このフローチャートの処理に先立って、同期部20から各モーションセンサー10のxyz座標系の位置データの取得処理(図2のステップS12の処理)は終了している。
【0079】
まず、時刻tを0に設定するとともに変数kを0に設定し(ステップS100)、時刻t及びその近傍の時刻に取得したxyz座標系の位置データから時刻tが開始点か否かを判定する(ステップS102)。野球の投球フォームの解析の場合は、図5(A)に示した開始点か否かを、例えば、右肘に対応するノードN4や右手首に対応するノードN5の位置の時刻t近傍での変化量から判定することができる。
【0080】
時刻tが開始点でない場合(ステップS104のN)、tを位置データの取得周期Δtだけ増やし(ステップS105)、時刻tが開始点か否かを再び判定する(ステップS102)。時刻tが開始点である場合(ステップS104のY)、開始点における各ノードのXYZ座標系の位置座標を算出する(ステップS106)。例えば、図8に示すように、あるノードNの実際の軌跡がAのような場合、開始点におけるノードNの位置pの座標を算出する。
【0081】
次に、配列T(k)にtを保持し、時刻tをΔt増やし、変数kを1増やす(ステップS108)。T(0)には開始点の時刻が保持される。
【0082】
基準点が定義されている場合(ステップS110のY)、時刻t及びその近傍の時刻に取得したxyz座標系の位置データから時刻tがk(=1)番目の基準点か否かを判定する(ステップS112)。投球フォームの解析の場合は、図5(B)に示した基準点1か否かを、例えば、左足首に対応するノードN15の位置の時刻t近傍での変化量から判定することができる。
【0083】
時刻tがk(=1)番目の基準点でない場合(ステップS114のN)、tをΔtだけ増やし(ステップS115)、時刻tがk(=1)番目の基準点か否かを再び判定する(ステップS112)。時刻tがk(=1)番目の基準点である場合(ステップS114のY)、k(=1)番目の基準点における各ノードのXYZ座標系の位置座標を算出する(ステップS116)。図8の例では、基準点1におけるノードNの位置pの座標を算出する。
【0084】
次に、配列T(k)にtを保持し、時刻tをΔt増やし、変数kを1増やす(ステップS118)。基準点1が定義されている場合、T(1)には基準点1の時刻が保持される。
【0085】
そして、すべての基準点についての処理が終了(ステップS120のY)するまで、ステップS112〜S118の処理を繰り返す。例えば、2番目の基準点が定義されている場合、時刻t及びその近傍の時刻に取得したxyz座標系の位置データから時刻tがk(=2)番目の基準点か否かを判定する(ステップS112)。投球フォームの解析の場合は、図5(C)に示した基準点2か否かを、例えば、ボール3の位置と右手首に対応するノードN5の位置の距離の時刻t近傍での変化量から判定することができる。
【0086】
時刻tがk(=2)番目の基準点である場合(ステップS114のY)、k(=2)番目の基準点における各ノードのXYZ座標系の位置座標を算出する(ステップS116)。図8の例では、基準点2におけるノードNの位置pの座標を算出する。
【0087】
次に、配列T(k)にtを保持し、時刻tをΔt増やし、変数kを1増やす(ステップS118)。基準点2が定義されている場合、T(2)には基準点2の時刻が保持される。
【0088】
すべての基準点についての処理が終了した場合(ステップS120のY)、次に、時刻t及びその近傍の時刻に取得したxyz座標系の位置データから時刻tが終了点か否かを判定する(ステップS122)。投球フォームの解析の場合は、図5(D)に示した終了点か否かを、例えば、右膝に対応するノードN11や右足首に対応するノードN12の位置の時刻t近傍での変化量から判定することができる。
【0089】
時刻tが終了点でない場合(ステップS124のN)、tをΔtだけ増やし(ステップS125)、時刻tが終了点か否かを再び判定する(ステップS122)。時刻tが終了点である場合(ステップS124のY)、終了点における各ノードのXYZ座標系の位置座標を算出する(ステップS126)。図8の例では、終了点におけるノードNの位置pの座標を算出する。
【0090】
次に、配列T(k)にtを保持し、変数Mにkを保持し、変数kを0にリセットする(ステップS128)。例えば、基準点1、2が定義されている場合はT(3)に終了点の時刻が保持され、基準点が定義されていない場合はT(1)に終了点の時刻が保持される。
【0091】
次に、T(k)とT(k+1)の間をn(k+1)の期間に分割し、n(k+1)−1個の分割点における各ノードのXYZ座標系の位置座標を算出する(ステップS130)。図8の例では、開始点と基準点1をn1個の期間に分割し、n1−1個の分割点におけるノードNの位置p(0,1),p(0,2),p(0,3),・・・,p(0,n1−1)の各座標を算出する。
【0092】
次に、変数kを1増やし(ステップS132)、k=Mでない場合(ステップS134のN)、ステップS130とS132の処理を再び行う。図8の例では、k=1の時、基準点1と基準点2をn2個の期間に分割し、n2−1個の分割点におけるノードNの位置p(1,1),p(1,2),p(1,3),・・・,p(1,n2−1)の各座標を算出する。また、k=2の時、基準点2と終了点をn3個の期間に分割し、n3−1個の分割点におけるノードNの位置p(2,1),p(2,2),p(2,3),・・・,p(2,n3−1)の各座標を算出する。
【0093】
k=Mになると(ステップS134のY)、これまでに算出した各ノードの位置座標を時刻順に並べて軌跡データを生成し(ステップS136)、時間の正規化処理を終了する。これにより、図8の例では、p,p(0,1),p(0,2),p(0,3),・・・,p(0,n1−1),p,p(1,1),p(1,2),p(1,3),・・・,p(1,n2−1),p,p(2,1),p(2,2),p(2,3),・・・,p(2,n3−1),pに対応する座標列からなる軌跡データが得られる。
【0094】
時間の正規化としては2種類の手法が考えられる。第1の正規化手法は、開始点から終了点までの時間(解析対象の運動に対応する時間)を、被験者モデルの軌跡データとリファレンスモデルの軌跡データで等しくする。この場合、開始点と最初の基準点の間隔、基準点間の間隔、最後の基準点と終了点の間隔は被験者モデルの軌跡データとリファレンスモデルの軌跡データでは異なる。この第1の正規化の手法では、運動の節目の時間が被験者モデルの軌跡データとリファレンスモデルの軌跡データで異なるので、節目から節目への移行時間の比較が可能である。
【0095】
第2の正規化の手法では、開始点から終了点までの時間とともに、開始点と最初の基準点の間隔、基準点間の間隔、最後の基準点と終了点の間隔(解析対象の運動を分割した複数の運動の各々に対応する時間)のすべてについて、被験者モデルの軌跡データとリファレンスモデルの軌跡データで等しくする。この第2の正規化の手法では、運動の節目の時間が被験者モデルの軌跡データとリファレンスモデルの軌跡データで同じになるので、フォームや軌道の比較に適している。
【0096】
(軌跡データのサイズの正規化)
次に、サイズを正規化した軌跡データを生成する手法の一例について説明する。軌跡データのサイズの正規化とは、各時刻での被験者モデルのサイズを正規化することである。人はそれぞれ体格が異なるので、例えば、人の体の各部のサイズの平均値を求め、これに対して変換する。
【0097】
図9に、サイズを正規化した軌跡データを生成する処理のフローチャートの一例を示す。なお、図9に示すフローチャートは、図2に示したフローチャートのステップS14の一部の処理のフローチャートの一例であり、このフローチャートの処理に先立って、同期部20から各モーションセンサー10のxyz座標系の位置データの取得処理(図2のステップS12の処理)は終了している。
【0098】
まず、被験者モデルの各ノードNiとノードNiに接続された各ノードNjとの実際の距離Lijと正規化した距離Kijを設定する(ステップS200)。被験者の体格をメジャーを使って実際に測定し、Lijを設定してもよいし、被験者が予め定められた運動をして体格を測定(キャリブレーション)することでLijを設定することも可能である。また、キャリブレーションをせず、被験者の実際の運動フォームから体格を測定してLijを設定することもできる。一旦測定した被験者の体格の測定データ(Lijの値)は記憶部60に記録され、記録された各被験者の体格の測定データは必要に応じて更新可能である。また、Kijは、ノードNiとノードNjの距離の平均値などのあらかじめ決められた所定値に設定してもよいし、リファレンスモデルにおける対応するノード間の距離に設定してもよい。
【0099】
次に、時刻tを0に設定し(ステップS202)、時刻tに取得したxyz座標系の位置データから、回転中心のノードNkからノードNkに接続された各ノードNmに向かうXYZ座標系のベクトルVkm(t)を算出する。例えば、図10に示すように、時刻tにおいて、右肩に対応するノードN3(回転中心のノード)から右肘に対応するノードN4に向かうベクトルV34(t)を算出する。
【0100】
次に、ステップS202で算出した各ベクトルVkm(t)の長さをKkm/Lkm倍し、各ノードNmのXYZ座標系の位置座標を算出する(ステップS206)。図10の例では、右肩から右肘までの長さが平均25cm(=K34)、被験者の右肩から右肘までの長さが23cm(=L34)とすると、時刻tにおけるV34(t)の長さL34(t)を25/23倍する。
【0101】
回転中心のノードが他にもある場合は(ステップS208のY)、次の回転中心のノードに対して、ステップS204,S206の処理を行う。
【0102】
すべての回転中心のノードに対して処理を終了すると(ステップS208のN)、tを位置データの取得周期Δtだけ増やし(ステップS210)、処理対象の位置データがまだあれば(ステップS212のY)、時刻tに取得したxyz座標系の位置データを用いて、同様に、ステップS204〜S210の処理を行う。
【0103】
処理対象の位置データがなくなれば(ステップS212のN)、各ノードのXYZ座標系の位置座標を時刻順に並べて軌跡データを生成し(ステップS214)、サイズの正規化処理を終了する。
【0104】
このようにして得られるサイズを正規化した軌跡データは、フォーマット2の軌跡データとして記憶部60に保存される。
【0105】
また、例えば、図7のフローチャートに従って時間を正規化した軌跡データが得られている場合には、この軌跡データに対して、図9のフローチャートを適用してもよい。このようにして得られるサイズ及び時間を正規化した軌跡データは、フォーマット3の軌跡データとして記憶部60に保存される。
【0106】
また、ボール3などの運動用具300に内蔵したモーションセンサー10からのデータに基づいて、同様の処理により、運動用具300についても軌跡データや速度などの運動に関する解析情報を生成し、必要に応じて軌跡データの時間やサイズの正規化を行って記憶部60に保存することができる。
【0107】
なお、オリジナルの軌跡データや正規化した軌跡データを記憶部60に保存する代わりに、軌跡データから特徴量を抽出して記憶部60に保存してもよい。特徴量としては、軌跡データに対してFFT(Fast Fourier Transform)処理やDCT(Discrete Cosine Transform)処理してn次の係数を取り出して保存するなどが考えられる。軌跡データそのもの代わりに特徴量を使うとリファレンスとの比較が容易にできる、正規化の処理を簡略化できる、後述する仮想センサーの計算が簡単にできるなどのメリットが考えられる。
【0108】
[モード2の処理]
モード2では、処理部30は、被験者の被験者モデルの軌跡データとリファレンスモデルの軌跡データを比較する処理を行う。比較の対象となるのは、正規化した軌跡データ同士である。被験者モデルの軌跡データは、モード1で生成・正規化して記憶部60に保存したものである。リファレンスモデルの軌跡データは、あらかじめ正規化してフォーマット2とフォーマット3の一方又は両方の軌跡データとして記憶部60(軌跡情報記憶部62)に保存してある。ただし、被験者モデルの軌跡データとリファレンスモデルの軌跡データの一方又は両方をオリジナルの軌跡データ(フォーマット1の軌跡データ)として保存しておき、比較処理の前にオリジナルの軌跡データを正規化(フォーマット2又はフォーマット3の軌跡データに変換)するようにしてもよい。
【0109】
フォーマット3の軌跡データ同士を比較する場合、対応する時点における各ノードの位置を比較し、その差を計算する。例えば、開始点と開始点、基準点と基準点、終了点と終了点、さらに分割点と分割点における各ノードの位置をそれぞれ比較する。図11は、被験者モデルの1つのノードの軌跡とリファレンスモデルの対応するノードの軌跡の一例を示す図であり、被験者モデルのノードの軌跡を実線で表し、リファレンスモデルのノードの軌跡を破線で表している。例えば、pとr、pとr、pとr、pとr、pとr、pとrをそれぞれ比較し、その差のベクトルを算出する。この比較により、時間軸を合わせて運動フォームの詳細な解析を行うことができる。
【0110】
また、フォーマット2の軌跡データ同士を比較する場合、対応する時点における各ノードの位置を比較してその差を計算するとともに、対応する時点の時刻を比較してその差を計算する。例えば、開始点、基準点、終了点、各分割点における各ノードの位置をそれぞれ比較するとともに、開始点同士を合わせて、基準点同士の時間、終了点同士の時間、必要に応じて各分割点同士の時間をそれぞれ比較する。この比較により、運動フォームの解析とともに、開始点から基準点までの時間差、基準点から基準点までの時間差、基準点から終了点までの時間差などから運動動作の速度などの解析も行うことができる。
【0111】
比較結果は表またはグラフとして表示部70に表示され、「基準点1から基準点2までの時間がリファレンスよりXms早い」あるいは「基準点1から基準点2の間でリファレンスより5cm上を通っている。」などの定量的な解析情報が得られる。
【0112】
ただし、場合によっては定量的な解析情報よりも直感的な表現を表示したほうが理解しやすい場合がある。例えば、定量的な解析情報に応じて、「振りが小さい」、「つっこみすぎ」、「ヘッドアップ」、「アッパースイング」などのリファレンスとの軌道の差を特徴づける表現を表示させるようにしてもよい。そこで、本実施形態では、記憶部60(辞書情報記憶部64)に、被験者モデルの軌跡情報とリファレンスモデルの軌跡情報との差の情報と複数の表現(直感的な表現など)の対応関係を定義する辞書情報が記憶されている。処理部30は、この辞書情報を参照し、定量的な解析情報に応じて1つ又は複数の表現を選択して表示部70に表示させる。これにより、使用者は理解しやすい言葉でリファレンスとの違いを知ることができる。なお、この辞書情報はユーザ定義が可能であり、個々のユーザに最適化した表現ができるようにしてもよい。
【0113】
また、比較結果と合わせて、ボール3などの運動用具300の運動に関する軌跡や速度などの解析情報を表示部70に表示するようにしてもよい。このようにすれば、例えば、被験者の投球フォームとボール3の軌道や速度との定量的な関係を評価することができ、より有益な解析を行うことができる。
【0114】
[モード3の処理]
モード3では、処理部30は、軌跡データから運動データのアニメーションを生成して3D画像で表示する処理を行う。任意の運動データを表示部70に表示し、リファレンスの動きや被験者の動きを確認することができる。例えば、記憶部60に3Dグラフィックスソフトを用意しておき、処理部30は、3Dグラフィックスソフトを起動して運動データを入力し、3Dグラフィックスソフトの描画機能を利用することで、表示部70に3D画像を表示させることができる。また、3Dグラフィックスソフトの機能を利用して仮想カメラの位置や方向を変えることにより、ビューポイントを変更して3D画像を表示させることもできる。このようにすれば、運動のフォームをさまざまな角度から見ることができる。
【0115】
また、3Dグラフィックスソフトの機能を利用し、被験者モデルのアニメーションとリファレンスモデルのアニメーションを並べて表示させたり、重ねて表示させることもできる。図12は、被験者モデルのアニメーションとリファレンスモデルのアニメーションを並べて表示させた例を示す図である。表示部70の表示領域400において、表示領域410に被験者モデル412のアニメーション画像が表示され、別の表示領域420にリファレンスモデル422のアニメーション画像が並べて表示されている。なお、この被験者モデル412とリファレンスモデル422は、人体モデル4を各部位に対応する簡略化されたパーツオブジェクトで肉付けしたものである。また、図13は、被験者モデルのアニメーションとリファレンスモデルのアニメーションを重ねて表示させた例を示す図である。表示部70の表示領域400において、表示領域430に被験者モデル432のアニメーション画像とリファレンスモデル434のアニメーション画像が重ねて表示されている。このように重ねて表示することで、リファレンスとの違いをより明確にすることができる。
【0116】
このように、被験者モデルのアニメーションとリファレンスモデルのアニメーションを並べて表示させたり、重ねて表示させることで、現在の被験者のフォームとプロスポーツ選手の模範的なフォームや被験者の過去の好調時のフォームとを同時に見て、フォームのチェックを行うことができる。図13の例では、リファレンスの方が重心が低く、投球する瞬間の両足の幅が広いことを明確に知ることができる。
【0117】
[モード4の処理]
モード1、モード2、モード3の処理を行う前に、被験者のどの部位にモーションセンサー10を装着し、どの部位は仮想センサーで位置情報を得るかを決定する必要がある。運動の種類により、モーションセンサー10を取り付ける位置が異なるし、解析のレベル(プロ選手用か入門者用か等)で求められる精度が異なるので、最適な条件を決める必要がある。そこで、モード4では、モーションセンサー10の最適数や、最適な取り付け部位の決定を支援する。
【0118】
具体的には、モード4では、処理部30は、被験者に取り付けたモーションセンサー10のデータから対応するノードの軌跡を求めるとともに、このモーションセンサー10のデータを使用せずに、他のモーションセンサー10のデータのみから同じノードの軌跡(仮想的な軌跡)を計算によって求め、この2つの軌跡の差の情報を表示部70に表示させる。ユーザーは、この情報を解析することで、仮想センサーにしてもよいモーションセンサー10を探すことができる。例えば、肘にモーションセンサー10を取り付けるべきか判断する場合、肩、肘、手首にモーションセンサー10を装着してデータを取得する。そして、肩と手首に取り付けたモーションセンサー10の情報から肘の軌跡を計算し、計算により得られた軌跡と肘に取り付けたモーションセンサー10の情報から得られた軌跡との差やその他の定量的な誤差を計算して表示する。この2つの軌跡の差や定量的な誤差を確認することで、肘に取り付けたモーションセンサー10を外しても問題ないかを判断することができる。なお、人体モデルは汎用的な運動に対応できるようになっているため、特殊な運動では仮想センサーに対する計算誤差が大きくなる可能性がある。そこで、この誤差をもとに人体モデルのパラメータを変更することで、計算誤差を少なくすることができる。このようにして人体モデルの学習を行い、モデルの精度を上げることができる。
【0119】
以上に説明したように、本実施形態の運動解析装置によれば、被験者モデルとリファレンスモデルに対して、サイズの正規化を行ったフォーマット2の軌跡データ同士を比較することで、被験者とリファレンスの運動フォームや運動速度の差を定量的に解析することができる。さらに、サイズの正規化と時間の正規化を行ったフォーマット3の軌跡データ同士を比較することで、被験者とリファレンスの運動フォームのわずかな差も定量的に解析することができる。
【0120】
また、本実施形態の運動解析装置によれば、被験者モデルの軌跡データとリファレンスモデルの軌跡データに対して、開始点、基準点、終了点を一致させた時間の正規化を行って両者を比較することで、運動フォームの差をより詳細に解析することができる。
【0121】
本発明は本実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0122】
本実施形態では野球の投球フォームの解析を例に挙げて説明したが、本実施形態の運動解析装置は、野球の打撃フォームの解析、テニスやゴルフのスイング解析、ボーリングの投球フォームの解析、モデルのウォーキング姿勢の解析など、様々な運動の解析に利用することができる。
【0123】
本実施形態では、サイズのみを正規化したフォーマット2のデータやサイズ及び時間を正規化したフォーマット3のデータを生成して、リファレンスデータと比較する場合を例に挙げて説明したが、時間のみを正規化した(サイズの正規化はしない)データを生成して、リファレンスデータと比較するようにしてもよい。このようにしても、被験者とリファレンスの運動フォームの差を定量的に解析することができる。
【0124】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0125】
1 運動解析装置、2 被験者、3 ボール、4 人体モデル、10 モーションセンサー、12 3軸加速度センサー、14 3軸ジャイロセンサー、20 同期部、30 処理部、31 データ取得部、32 軌跡情報生成部、33 画像生成部、34 軌跡情報比較部、35 表示選択部、36 用具情報生成部、40 通信部、50 操作部、60 記憶部、62 軌跡情報記憶部、64 辞書情報記憶部、70 表示部、100 人体装着ユニット、200 処理・制御ユニット、300 運動用具、400 表示領域、410 表示領域、412 被験者モデル、420 表示領域、422 リファレンスモデル、430 表示領域、432 被験者モデル、434 リファレンスモデル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者に取り付けられる複数のモーションセンサーと、
前記モーションセンサーの各々の出力データに基づく情報を取得するデータ取得部と、
前記データ取得部が取得した情報に基づいて前記被験者をモデル化した被験者モデルの軌跡情報を生成する軌跡情報生成部と、
リファレンスモデルの軌跡情報を記憶する軌跡情報記憶部と、を含み、
前記軌跡情報生成部は、
前記軌跡情報記憶部から前記リファレンスモデルの軌跡情報を読み出して、前記被験者モデルの軌跡情報および前記リファレンスモデルの軌跡情報を比較し、前記被験者モデルの軌跡情報及び前記リファレンスモデルの軌跡情報の少なくとも一方に対して、前記被験者モデルのサイズと前記リファレンスモデルのサイズとを一致させるサイズの正規化を行う、運動解析装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記軌跡情報生成部は、
前記被験者モデルの軌跡情報及び前記リファレンスモデルの軌跡情報の少なくとも一方に対して、解析対象の運動の前記被験者モデルの動作時間と前記リファレンスモデルの動作時間とを一致させる時間の正規化をさらに行う、運動解析装置。
【請求項3】
被験者に取り付けられる複数のモーションセンサーと、
前記モーションセンサーの各々の出力データに基づく情報を取得するデータ取得部と、
前記データ取得部が取得した情報に基づいて前記被験者をモデル化した被験者モデルの軌跡情報を生成する軌跡情報生成部と、
リファレンスモデルの軌跡情報を記憶する軌跡情報記憶部と、を含み、
前記軌跡情報生成部は、
前記軌跡情報記憶部から前記リファレンスモデルの軌跡情報を読み出して、前記被験者モデルの軌跡情報および前記リファレンスモデルの軌跡情報を比較し、前記被験者モデルの軌跡情報及び前記リファレンスモデルの軌跡情報の少なくとも一方に対して、解析対象の運動の前記被験者モデルの動作時間と前記リファレンスモデルの動作時間とを一致させる時間の正規化を行う、運動解析装置。
【請求項4】
請求項2又は3において、
前記軌跡情報生成部は、
前記時間の正規化において、前記解析対象の運動を複数の運動に分割し、前記複数の運動の各々の前記被験者モデルの動作時間と前記リファレンスモデルの動作時間とを一致させる処理を行う、運動解析装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記正規化を行った後、前記被験者モデルの軌跡情報及び前記リファレンスモデルの軌跡情報の画像を生成して表示部に表示させる画像生成部をさらに含む、運動解析装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、
辞書情報を記憶する辞書情報記憶部と、
前記軌跡情報生成部が前記正規化を行った後、前記被験者モデルの軌跡情報及び前記リファレンスモデルの軌跡情報を比較する軌跡情報比較部と、
前記軌跡情報比較部の比較結果に基づいて、前記辞書情報から少なくとも1つの情報を選択し、表示部に表示させる表示選択部と、をさらに含む、運動解析装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、
前記モーションセンサーは、運動用具に取り付けられ、
前記モーションセンサーの出力データに基づいて、前記運動用具の運動解析情報を生成する用具情報生成部をさらに含む、運動解析装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかにおいて、
前記モーションセンサーの少なくとも1つは、
多軸加速度センサーと多軸角速度センサーとを含む、運動解析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−120579(P2012−120579A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271630(P2010−271630)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】