説明

運転室構造

【課題】運転席に着席した運転者の目の高さが、車両の運転席に予め設定されているアイレンジに対して好ましい高さにあるか否かを運転者が容易に判断できるようにする。
【解決手段】車両の運転室のピラー部Xに、運転席8に予め設定されているアイレンジの水平方向の下端位置16bと上端位置16aとの高さ範囲H内に目の高さ確認用の目印11を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転席に予め設定されているアイレンジに対して運転席に着席した運転者の目の高さが好ましい高さにあるか否かを容易に判断できるようにした運転室構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両を安全に運転するためには、運転席に着席した運転者が広い視界を確保して運転できるようにすることが重要である。このため、運転室の設計に当たっては、大多数の運転者が良好な上方視界と下方視界を確保して運転できるように、運転者の体型によって目の位置が上下・前後に変化することによる目の移動範囲を含めたアイレンジを基準に設計が行われている。ここで、アイレンジについては、JIS D 0021(1998)の「自動車の運転者アイレンジ」において「運転者の目の位置の分布を統計的に表わしたもの。」と規定している。この中には、99、95、90パーセンタイルアイリプスがあるが、99パーセンタイルアイリプスが好ましい。
【0003】
従って、平均的な体型の運転者が車両の運転席に着席した場合には、目の高さは前記アイレンジの範囲内に保持されることになり、よって、上方視界と下方視界が確保された良好な前方直接視界での運転が可能になる。
【0004】
尚、運転席からのフロントコーナ部材の向こう側の視認性を高めて視野を広げるための車両の前部構造を示す先行技術情報としては特許文献1があり、又、情報取得手段によって取得した周囲情報に基づいて運転者のアイポイントが高くなるように調整手段により運転席の高さを自動調整して車外の対象物の視認性を高めるようにした先行技術情報としては特許文献2がある。
【特許文献1】特開2006−096270号公報
【特許文献2】特開2006−341637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示す装置は、フロントコーナ部材による両眼死角領域を小さくするようにした構造に係るものであって、運転者の体型が異なることによって良好な上方視界と下方視界とによる前方直接視界が確保されているか否かを判断したり、或いはその判断を喚起するものではなく、又、特許文献2に示す装置は、運転者の体型が異なった場合にも良好な上方視界と下方視界とによる前方直接視界が確保されるように運転席の高さを自動調整するようにしたものであるが、座席の高さを自動調整するためには構成及び制御が大変複雑となり装置が非常に高価になるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなしたもので、運転席に着席した運転者の目の高さが、車両の運転席に予め設定されているアイレンジに対して好ましい高さにあるか否かを運転者が容易に判断できるようにした運転室構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の運転室構造は、車両の運転室のピラー部に対し、運転席に予め設定されているアイレンジの水平方向の下端位置と上端位置との高さ範囲内において目の高さ確認用の目印を設けたことを特徴とするものである。
【0008】
而して、上記運転室構造によれば、運転者はピラー部に設けた目印を見ることによってアイレンジを意識するようになる。
【0009】
又、アイレンジの水平方向の下端位置に目印を設けたことにより、目の高さが目印よりも低いと判断した運転者は、運転席を上昇させる、若しくは座布団等を設置して目がアイレンジの高さ範囲内に保持されるように座席の高さを調整することが喚起されるようになる。又、運転姿勢が悪い場合には、適正な運転姿勢となるように注意を喚起する。
又、ピラー部は、運転席から視認できるピラーあるいはピラー近傍の構成部材であるので、このピラー部に目印を設けても、目印が運転時の視界に影響を及ぼすことはない。
【発明の効果】
【0010】
本発明の運転室構造によれば、車両の運転室のピラー部に対し、運転席に予め設定されているアイレンジの水平方向の下端位置と上端位置との高さ範囲内において目の高さ確認用の目印を設けたので、運転者はピラー部に設けた目印を見ることによってアイレンジを意識するようになり、よって設定されたアイレンジで運転することが喚起されるようになる。
【0011】
又、アイレンジの水平方向の下端位置に目印を設けることにより、目の高さが目印よりも低いと判断した運転者は、目がアイレンジの高さ範囲内に保持されるように運転席を上昇させる、若しくは高さ調整ができない場合や高さ調整の範囲を超えてしまう場合には、運転席に座布団等を設置して目がアイレンジの高さ範囲内に保持されるように座席の高さを調整すること等が喚起されるようになり、よって良好な視界での運転が奨励されるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0013】
図1、図2は本発明をトラックの運転室(キャブ)に適用した場合の一例を示すもので、図1は運転室を後方から見た正面図、図2は図1の側面図である。図1、図2において、符号1は運転室を構成する前方のピラー、2はウィンドシールドガラス、3はインストルメントパネル、4はサイドドア、5はサイトドア4のドアガラス、6は側方確認窓、7はステアリングホイール(ハンドル)、8は運転席、9は助手席、10はサイドミラーである。
【0014】
上記運転室を構成するピラー1あるいはピラー1近傍の構成部材を含むピラー部Xに対し、目の高さ確認用の目印11を設ける。図1では運転室前方の左右に備えられるピラー部Xのうちの運転席8に近い右側のピラー部Xに目印11を設けた例を示している。この目印11は、車両の設計時に運転席8に予め設定されている後述するアイレンジの水平方向の下端位置と上端位置との高さ範囲内に設けるようにする。
【0015】
運転室を設計するには、図3に示すように、車両が交差点等の停止線に停止した際等に運転席8に着席した運転者が前方の横断歩道を歩く子供aが見える下方(俯角)視界12と、信号bが見える上方(仰角)視界13とを有する前方直接視界14が確保されるように設計する。
【0016】
ここで、前方直接視界14は運転者の体型によって変化するため、図4におけるアイポイント15(左右の目を結んだ線の中心位置)が変化する高さ範囲Hと前後方向範囲Lからなるアイレンジ16を求め、このアイレンジ16を基準として前記前方直接視界14が確保されるようにウィンドシールドガラス2の位置、運転席8の高さ、位置等の設計を行っている。
【0017】
しかし、上記したように車両の運転室は前記アイレンジ16を基準に設計されているために、運転者の体型によっては運転者の目の高さがアイレンジ16の上端位置16aよりも上方或いは下端位置16bよりも下方となって、アイレンジ16から外れてしまう場合がある。
【0018】
運転者の身長が前記平均体型よりも高い(座高が高い)場合には、運転者の目の高さはアイレンジ16の上端位置16aよりも上側に外れることになり、この場合の図3に示す下方視界12は広がる方向となるので好ましい傾向となり、他方、上方視界13は狭くなる方向になるが、上方視界13は通常余裕を持たせた設計となっている。
【0019】
しかし、運転者の身長が前記平均体型よりも低い(座高が低い)場合には、運転者の目の高さはアイレンジ16の下端位置16bよりも下側に外れることになり、この場合の上方視界は拡がる方向となるので好ましい傾向となるが、他方、下方視界12は狭くなってしまい横断歩道を歩く子供aが視認され難くなる場合がある。
【0020】
従って、上記したように運転者の身長が前記平均体型よりも低い場合には、運転席8を上昇させる、若しくは、座布団、クッション等を設置することによって運転者の目の高さが前記アイレンジ16の高さ範囲H内になるように座席高さを調整し、これにより良好な前方直接視界14を確保して運転を行うことが望まれる。
【0021】
しかし、運転者は、自身の目の高さが車両の運転席8に予め設定されているアイレンジ16の高さ範囲H内にあるか否かについては全く判断することなく運転を行っており、特に身長が低い運転者の場合には、運転し難いと感じながらも運転席8の高さを調節することなく運転している場合があった。
【0022】
従って、前記したように、運転室のピラー部Xに対し、運転席8に予め設定されているアイレンジ16の水平方向の下端位置16bと上端位置16aとの高さ範囲H内に目の高さ確認用の目印11を設けることにより、運転者は目印11を見ることによって自然にアイレンジ16を意識するようになり、目の高さがアイレンジ16から外れていると判断した場合には運転者は運転席8の高さを調整すること、又は姿勢を正すことを喚起されるようになる。
【0023】
図5は前記目印11を設けるピラー部Xの一例を示したもので、図中、1aはピラー1を構成するピラーインナパネル、1bはピラー1を構成するピラーアウタパネル、21はピラー1を構成する室内側に設けたピーラーガーニッシュ、17はウィンドシールドガラス用モール、18はドアインナパネル18aとドアアウタパネル18bからなるドアフレーム、19はドア用ウェザーストリップ、20はドアガラス用ウェザーストリップである。そして、図5の形態では、ピラー1に目印を設ける例として、ピラーガーニッシュ21の室内側の面に前記目印11を設けた場合を示している。ピラーガーニッシュ21を有しない車両では、ピラー1を構成するピラーインナパネル1aに目印11を設けてもよい。
【0024】
前記目印11は運転席8に着席した運転者が視認できるものであればよく、従って目印11には線、点、或いは種々の形状、記号等を用いることができ、又、目印11を設ける位置は運転席8に着席した運転者が視認できる場所であればよい。従って、目印11は、前記ピラー1を構成するピラーインナパネル1a又はピラーガーニッシュ21に設けることができ、又は、ピラー1近傍の構成部材であるウィンドシールドガラス用モール17、ドアガラス用ウェザーストリップ18、ウィンドシールドガラス2、ドアガラス5等に設けることができる。又、図示しないが前記目印11は、ピラー1に設けられるアシストグリップ、或いはサイドバイザー等に設けることもできる。
【0025】
前記目印11は運転者が視認できる小さなものでよいため、例えばウィンドシールドガラス2のピラー1に近い位置に設けた場合にも運転席8からの外部の視界を妨げることはないが、前記ピラー1は運転席8から見易くしかも運転席8からの外部の視界を妨げることは全くないので、ピラー1に目印11を設けることは好ましい。
【0026】
図6〜図8は前記ピラー1あるいはピラー1近傍の構成部材を含むピラー部Xに設ける目印11の具体的な構成例を示したもので、図6はピラー部Xの室内側に凸部22を設けることで目印11を形成しておりこの凸部22には着色を施しておいてもよい。図7はピラー部Xの室内側に溝部23(凹部)を設けることで目印11を形成しておりこの溝部23には着色を施しておいてもよい。前記凸部22又は溝部23は、樹脂部品の成形時に設けることができるため、安価に設定できる。図8はピラー部Xの室内側にシルクスクリーン印刷等によって所要の色に印刷した印刷部24を設けることで目印11を形成している。ウィンドシールドガラス2等に前記したような凸部22或いは溝部23を設けることが困難である場合には、図8に示したシルクスクリーン印刷等による印刷部24による目印11を設けることが好ましい。
【0027】
ピラー部Xに設ける前記目印11は、前記アイレンジ16の水平方向の下端位置16bと上端位置16aとの高さ範囲H内になるように設ければよいが、特に下方視界12が狭くなる身長が低い運転者に対してアイレンジ16への注意を促すためには、図9に示すように、少なくともアイレンジ16の水平方向の下端位置16bに目印11を設けるようにすることが好ましい。更に、この時、図10に示すように、アイレンジ16の下端位置16bに設けた目印11を下限として当該目印11よりも上側を指し示す矢印表示部25を設けることは更に注意を促すことになるので好ましい。
【0028】
又、図9に示したように、アイレンジ16の水平方向の下端位置16bに目印11を設けると共に、破線で示すようにアイレンジ16の水平方向の上端位置16aにも目印11aを設けるようにしてもよい。又、図11に示すようにアイレンジ16の上端位置16aから下端位置16bに亘って延びる目印11bを設けるようにしてもよい。
【0029】
一方、運転者が前記目印11を見た際に、目線が水平であることを確認できるように水平方向に延びた深さを有する水平視認目印を設けることは好ましい。
【0030】
図12〜図15は水平視認目印26を設けた例を示すもので、図12はピラー部Xの室内側に水平に所要の長さで延びた凸部からなる水平視認凸部27を設けることにより水平視認目印26を形成している。この時の水平視認凸部27の上面と下面の少なくとも一方には着色を施してもよい。図13はピラー部Xの室内側に水平に所要の深さで溝28を形成してその底面に夜光塗料29等を施した水平視認溝部30により水平視認目印26を形成している。図14はピラー部Xに水平に延びる段部31を形成してその段部31の面を所要の色の塗料32で着色した水平視認段部33により水平視認目印26を形成している。この場合には、水平視認段部33がペン34を保持するペンホルダを兼ねるようにしてもよい。図15はピラー部Xの室内側に所要の深さで形成した或いはピラー部Xを貫通した所要形状の孔35を水平に形成し、該孔35の内奥部に室内側から視認できるLED36を設置すると共に図示しないスイッチ等を備えた水平視認孔部37により水平視認目印26を形成している。
【0031】
而して、図1、図2に示したように、運転室のピラー部Xに対し、運転席8に予め設定されているアイレンジ16の水平方向の下端位置16bと上端位置16aとの高さ範囲H内に目の高さ確認用の目印11を設けたので、運転席8に着席した運転者は前記目印11を見ることによって、目の高さからアイレンジ16を意識するようになる。
【0032】
特に、図9に示すように、アイレンジ16の水平方向の下端位置16bに目印11を設ける、或いは、図10に示すように、アイレンジ16の水平方向の下端位置16bに設けた目印11を下限として当該目印11よりも上側を指し示す矢印表示部25を設けるようにすると、身長が低い運転者は、目印11及び矢印表示部25を見ることで目の高さがアイレンジ16の下端位置16bよりも下側であることを認識でき、これによって、運転者は安全な運転を行うために運転席を上昇させる、若しくは座布団、クッション等を運転席8に設置して目の高さが前記アイレンジ16の範囲になるように調整することを喚起され、これによって運転者による良好な前方直接視界14での運転が奨励されるようになる。更に、目印11によって目の位置を一定の高さに調整することが促されることにより、ミラー鏡面を調整する機会が減少して利便性が向上することになる。
【0033】
又、図12〜図15に示したように、目線が水平であることを確認できる水平方向に延びた深さを有する水平視認目印26等を設けることにより、目線が水平でないと水平視認目印26を認識できないことから、目印を斜め下方から見るようなことが防止され、よって水平視認目印26を正確に視認するようになって運転者は目の高さをより正確に認識できるようになる。
【0034】
なお、上記形態では、本発明をトラックの運転室に適用した場合について例示したが、種々の車両の運転室に適用できること、目印の形状は図示例のものに限定されないこと、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明をトラックの運転室に適用した場合の一例を示すのもので、運転室を後方から見た正面図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】運転室を設計する場合における基本的な考え方を示す側面図である。
【図4】アイレンジの説明図である。
【図5】目印を設けるピラー部の一例を示す部分切断正面図である。
【図6】凸部によって目印を形成した例を示す断面図である。
【図7】溝部によって目印を形成した例を示す断面図である。
【図8】印刷部によって目印を形成した例を示す断面図である。
【図9】アイレンジの水平方向の下端位置に目印を設けた例を示す正面図である。
【図10】アイレンジの水平方向の下端位置に設けた目印を下限として当該目印よりも上側を指し示す矢印表示部を設けた例を示す正面図である。
【図11】アイレンジの水平方向の上端位置と下端位置とに亘って延びる目印を設けた例を示す正面図である。
【図12】水平視認凸部により水平視認目印を形成した例を示す断面図である。
【図13】水平な溝の底面に夜光塗料等を施した水平視認溝部により水平視認目印を形成した例を示す断面図である。
【図14】水平な段部の面を塗料で着色した水平視認段部により水平視認目印を形成した例を示す断面図である。
【図15】水平な孔の内奥部に室内側から視認できるLEDを設置した水平視認孔部により水平視認目印を形成した例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 ピラー
8 運転席
11 目の高さ確認用の目印
11a 目印
11b 目印
16 アイレンジ
16a 水平方向の上端位置
16b 水平方向の下端位置
22 凸部
23 溝部
24 印刷部
H 高さ範囲
X ピラー部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転室のピラー部に対し、運転席に予め設定されているアイレンジの水平方向の下端位置と上端位置との高さ範囲内において目の高さ確認用の目印を設けたことを特徴とする運転室構造。
【請求項2】
アイレンジの水平方向の下端位置に目印を設けたことを特徴とする請求項1に記載の運転室構造。
【請求項3】
ピラー部は、運転席から視認できるピラーあるいはピラー近傍の構成部材であることを特徴とする請求項1又は2に記載の運転室構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate