説明

運転支援装置

【課題】車載カメラとして単眼カメラを備えた安価な構成により、従来よりコスト低減を図って、撮影カメラの撮影画像から将来の(その後の)TTCを正確に推定することができる車両支援装置を提供する。
【解決手段】車載カメラとしての単眼カメラ2により自車両1の周辺を撮影し、演算部3の近似手段により、単眼カメラ2の複数時点の撮影画像中の障害物の撮影倍率から衝突可能性の経時変化特性を近似し、演算部3の推定手段により、近似手段の近似結果に基づいて将来の衝突可能性を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車載カメラの撮影画像から衝突可能性(TTC)を推定する運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、PCSと呼ばれる車両走行支援(プリクラッシュ・セーフティ・システム)を行なう車両の運転支援装置においては、例えば衝突被害軽減の自動ブレーキ機能を実現するため、自車両前方の先行車等の相対的に接近する障害物につき、時々刻々変化する衝突予測時間(TTC:Time to Collision)を衝突可能性として把握する必要がある。なお、衝突被害軽減の自動ブレーキ機能は、相対速度が15km/h以上のときに、衝突予測時間(以下、TTCという)からの衝突可能性の判断に基づき、衝突時の被害を軽減するために自動ブレーキを働かせる機能である。
【0003】
そして、本出願人は、自車両の車載カメラが撮影した画像の撮影倍率(拡大率k0)に基づき、TTCを、TTC=1/(k0−1)の演算から算出して把握し、そのTTCに基づいて障害物の衝突可能性を判断して衝突被害軽減の自動ブレーキ機能を実現することを既に提案している(特許文献1(段落[0039]、[0048]および図1、図2等)参照)。
【0004】
なお、TTCは自車両と障害物との距離(車間距離)/相対速度から算出できるので、自車両にミリ波レーダやレーザレーダを搭載し、その測距結果と車速センサ(車輪速センサ)が検出する自車速とから車間距離および相対車速を求めることにより、時々刻々のTTCを求めて把握することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−285492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記車載カメラとして安価な単眼カメラを用いる場合には、その特性上、衝突寸前の至近距離の正確な計測は困難である。また、測距レーダを備える場合も、その特性上、至近距離の正確な計測は困難である。
【0007】
そして、前記既出願の衝突被害軽減の自動ブレーキ機能のように、衝突することを前提とし、衝突したときの被害を軽減する目的でTTCを算出する場合には、至近距離でのTTCの精度はあまり重要ではない。
【0008】
しかしながら、近年の車両においては、衝突回避の自動ブレーキ機能を備え、衝突寸前で自動的にブレーキをかけて衝突回避を可能にすることが考えられている。この場合は、前記の至近距離でのTTCを正確に推定することが極めて重要になる。なお、衝突回避の自動ブレーキ機能は、相対速度15km/h〜30km/h以下のとき、衝突そのものを回避するために自動ブレーキを働かせる機能である。
【0009】
そして、至近距離でのTTCを精度よく算出するには、従来、車載カメラとして単眼カメラより高価なステレオカメラを備えたり、測距レーダとして至近距離の測距に特化した高価なレーダを通常の測距レーダとは別個に備えたりする必要がある。
【0010】
さらに、従来のTTCの算出では、既に得られている撮影画像の取得時点でのTTCは算出できるが、その後の将来のTTC、とくに現時点のTTCを推定することはできない。そのため、従来は、ステレオカメラ等を用いないと、衝突回避のブレーキ制御や警報等の運転支援をタイミングよく行なうことが容易でない問題もある。
【0011】
本発明は、車載カメラとして単眼カメラを備えた安価な構成により、従来よりコスト低減を図って、撮影カメラの撮影画像から将来の(その後の)TTCを正確に推定することができる車両支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成するために、本発明の運転支援装置は、自車両に対する障害物の衝突可能性を推定し、推定した衝突可能性に基づいて運転支援を行なう運転支援装置であって、自車両の周辺を撮影する車載カメラと、前記車載カメラにより撮影された複数時点の撮影画像中の前記障害物の撮影倍率から衝突可能性の経時変化特性を近似する近似手段と、前記近似手段の近似結果に基づいて将来の衝突可能性を推定する推定手段とを備えたことを特徴としている(請求項1)。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、車載カメラの複数時点の撮影画像中の障害物の撮影倍率(拡大率)は、障害物が相対的に接近する程大きくなり、撮影倍率の変化が自車両と障害物の相対距離の時間変化(相対速度)に対応することから、近似手段により、例えば現時点の撮影画像の障害物に対する以前の複数時点の撮影画像の障害物の大きさから各時点の撮影倍率が求められ、例えば横軸を時間にとって各時点の撮影倍率から求められるTTCの点をプロットし、最小二乗法等でTTCの各点の経時変化特性を近似することにより、撮影倍率からTTCの経時変化特性が近似される。
【0014】
そして、近似した経時変化特性に基づき、推定手段により、将来のTTC、とくに衝突回避の自動ブレーキ制御等に必要な現時点のTTCを精度よく推定することができ、車載カメラを安価な単眼カメラとする、測距レーダ等が不要で従来よりコスト低減を図った構成により、撮影カメラの撮影画像から将来(特に現時点)のTTCを精度よく推定して衝突回避の自動ブレーキの制御等の精度の高い運転支援を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の運転支援装置の一実施形態のブロック図である。
【図2】撮影倍率(拡大率)とTTCとの関係の説明図である。
【図3】近似結果の一例の説明図である。
【図4】図1の演算部の動作説明用のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態について、図1〜図4を参照して説明する。
【0017】
図1は衝突回避の自動ブレーキ機能を備えた自車両1の運転支援装置のブロック図を示し、この運転支援装置は、自車両の周辺を撮影する車載カメラとして、自車前方を撮影する小型かつ安価なモノクロ又はカラーのCCD(又はCMOS)の単眼カメラ2を備え、単眼カメラ2により、例えば1/30秒のフレーム周期で自車前方をくり返し撮影する。
【0018】
単眼カメラ2の毎フレームの撮影画像はマイクロコンピュータ等で構成された演算部3のECUに取り込まれる。演算部3には車速センサ(車輪速センサ)4からの自車両1の検出車速等も入力される。
【0019】
演算部3は本発明の近似手段、推定手段を形成し、近似手段により、単眼カメラ2が撮影した複数フレーム(複数時点)の撮影画像中の障害物の撮影倍率から衝突可能性の経時変化特性を近似し、推定手段により、近似手段の近似結果に基づいて将来の衝突可能性を推定する。
【0020】
前記の近似手段および推定手段についてさらに説明する。
【0021】
例えば、自車両1が先行車両に一定車間時間の車間距離を開けて追従して走行している際に、何らかの原因で先行車両が減速又は停止したとすると、単眼カメラ2の毎フレームの撮影画像中の障害物としての先行車両の画像は、車間距離が短くなるため、次第に大きくなって撮影倍率(拡大率)が大きくなり、TTCは小さく(短く)なる。
【0022】
図2は上記の先行車両の画像の時間変化を示し、障害物(先行車両)の実際の横幅(車幅)をW、ある時点(時刻t)の車間距離をZ、時刻tより微小時間Δt前の時刻(t−Δt)から時刻tまでの車間距離の変化(相対速度)をΔZ、単眼カメラ2の焦点距離をCfとし、先行車両の実際の横幅(車幅)をW、時刻(t−Δt)に撮影された先行車両の横幅をω、時刻tに撮影された先行車両の横幅をk・ω(k>1は撮影倍率(拡大率))とすると、図中の線分L(t−Δt)、l(t−Δt)が時刻(t−Δt)の横幅W、ωを示し、線分L(t)、l(t)が時刻tの横幅W、k・ωを示す。
【0023】
そして、図2から明らかなように、下記数1の(1)式、数2の(2)式の比例関係が成立することから、数3の(3)式が求まる。
【0024】
【数1】

【0025】
【数2】

【0026】
【数3】

【0027】
さらに、TTC=Z/ΔZであることから、(3)式に基づいて下記数4の(4)式が得られ、この(4)式は、撮影倍率kから時刻tのTTCが求められることを示す。また、時刻tの画像上の横幅をω、時刻(t−Δt)の画像上の横幅を(1/k)・ωとした場合も、時刻tのTTCは(4)式から求められる。
【0028】
【数4】

【0029】
そして、とくに相対速度が前記した15km/h〜30km/h以下の範囲では、例えば5フレーム程度の微小な時間内では単位時間あたりの車間距離の変化△Zは一定であるとみなせるので、例えば、現時点(現在)の時刻tより5フレーム前から1フレーム前までの5フレーム時点のTTCは、各時点の撮影倍率kに基づき、(4)式から精度よく近似して求めることができる。
【0030】
さらに、これら5フレーム時点のTTCを、横軸が撮影倍率演算のデータサンプリング間隔であるフレーム周期の微小時間間隔Δtの時間軸、縦軸が適当な微小間隔ΔttcのTTCの軸である図3の投票空間に投票してプロットし、例えば各投票点に基づく最小二乗法の演算から近似線を求めてTTCの経時変化特性を近似すると、近似線をΔt以下の範囲に延長することで時刻tの現時点(現在)のTTCを精度よく推定することができる。なお、前記の延長により現時点よりさらに先のTTCも推定できる。
【0031】
図3は前記投票空間の一例を示し、図中の各●は時点(t−Δt)、…、(t−5・Δt)のTTCの投票点、αは近似直線であり、○は推定される現時点tのTTC(t)である。
【0032】
そこで、演算部3の近似手段は、単眼カメラ2の毎フレームの撮影画像を図1に示したバッファリング用のRAM等のメモリ部5に取り込んで一時的に保持するとともに、新たな撮影画像が得られる現時点(時刻t)毎に、一定フレーム数(例えば5フレーム)前までの各フレームの撮影画像をメモリ部5から読み出し、近似線αを求めてTTCの経時変化特性を近似する。演算部3の推定手段は、近似線αが図3の縦軸と交差する現時点tのTTC(t)を演算して推定する。このとき、近似線αは傾きが−1の直線になり、時刻tを0として、時刻t、t−Δt、t−2・Δt、t−3・Δt、t−4・Δt、t−5・Δt、…を変数x(=0、−Δt、−2・Δt、−3・Δt、−4・Δt、−5・Δt、…)とすると、近似線αはTTC(x)=−1・x+TTC(t)で表すことができる。
【0033】
図4は新たなフレームの撮影画像が得られる毎に近似手段、推定手段の動作に基づいて演算部3がくり返し実行する近似・推定の一連の具体的な処理手順例を示し、現時点(時刻t)の撮影画像、メモリ部5に一時的に保持されたそれ以前の5フレームの撮影画像は、まず、近似手段の画像二値微分化処理(ステップS1)により順次に微分されて二値化され、輪郭画像に変換される。つぎに、近似手段のROI設定処理(ステップS2)により、例えば輪郭画像撮の中央部の一定範囲がROI(関心領域)として切り出される。
【0034】
そして、近似手段の撮影倍率(拡大率)算出処理(ステップS3)により、各ROI画像の例えば車両の特徴(例えば車幅間隔の左右対称の位置にエッジが発生する等)から、障害物としての先行車両を特定し、そのエッジ間隔等から画像上の先行車両の横幅を算出し、例えば時刻tの現時点の横幅ωに対するその前の各時点(t−Δt)、…、(t−5・Δt)の横幅(1/k)・ωの比から、各時点(t−Δt)、…、(t−5・Δt)の撮影倍率kを算出する。
【0035】
つぎに、近似手段のTTC演算処理(ステップS4)により、各時点(t−Δt)、…、(t−5・Δt)の撮影倍率kに基づいて、(4)式から各時点(t−Δt)、…、(t−5・Δt)のTTC(t−Δt)、…、TTC(t−5・Δt)を算出する。
【0036】
また、各時点の投票処理(ステップS5)により、TTC(t−Δt)、…、TTC(t−5・Δt)を図3のような投票空間に投票してプロットし、例えば最小二乗法の演算から同図の近似線αを求め、撮影倍率kから算出されるTTCの経時変化特性を近似する。
【0037】
そして、推定手段の推定演算処理(ステップS6)により、近似線αを延長し、近似線αが図3の縦軸を横切る現時点tのTTC(t)を将来のTTCとして推定する。
【0038】
この場合、車載カメラを安価な単眼カメラ2とする、測距レーダ等が不要で従来よりコスト低減を図った構成により、自車両1の直前から遠方まで(例えば0m〜100m程度)の広い距離範囲をカバーして現時点のTTC(t)を推定することができ、とくに、従来は容易でなかった自車両1から至近距離範囲についても、単眼カメラ2の撮影画像から現時点のTTC(t)を精度よく推定することができる。また、プロットする各時点(t−Δt)、…、(t−5・Δt)のTTC(t−Δt)、…、TTC(t−5・Δt)の変動や誤差によらず、近似線αが安定して正確に算出されるので、推定結果の高いロバスト性を確保できる利点もある。
【0039】
そして、推定された現時点のTTC(t)が演算部3からブレーキ制御部6に送られ、ブレーキ制御部6は、至近距離における現時点のTTC(t)に基づいて衝突回避の警報や自動ブレーキ等を適切なタイミングで行なうことができる。
【0040】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行なうことが可能であり、例えば、推定したTTC(t)に基づく運転支援は衝突回避以外であってもよいのは勿論であり、本発明は、種々の運転支援に適用できる。
【0041】
そして、単眼カメラ2により自車両1の後方を撮影し、後方からの車両追突のTTCを推定するようにしてもよく、この場合も同様の効果を奏する。さらに、単眼カメラ2を自車両1の前後に設けて前方および後方の車両等の障害物とのTTCの推定を行なうようにしてもよい。
【0042】
つぎに、図1の演算部3、ブレーキ制御部6等の構成、処理手順等が前記実施形態と異なっていてもよいのは勿論であり、図3の投票空間に投票するTTCのプロット数、投票の時間間隔、TTCの経時変化特性の近似手法等はどのようであってもよい。
【0043】
そして、本発明は、種々の車両の運転支援装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 自車両
2 単眼カメラ
3 演算部
6 ブレーキ制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両に対する障害物の衝突可能性を推定し、推定した衝突可能性に基づいて運転支援を行なう運転支援装置であって、
自車両の周辺を撮影する車載カメラと、
前記車載カメラにより撮影された複数時点の撮影画像中の前記障害物の撮影倍率から衝突可能性の経時変化特性を近似する近似手段と、
前記近似手段の近似結果に基づいて将来の衝突可能性を推定する推定手段とを備えたことを特徴とする運転支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−98776(P2012−98776A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243485(P2010−243485)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】