説明

運転者状態推定装置

【課題】直進付近でも運転者の状態を適切に推定することができる運転者状態推定装置を提供することを課題とする。
【解決手段】運転者の状態を推定する運転者状態推定装置1であって、操舵角を検出する操舵角検出手段10と、操舵角を推定する操舵角推定手段21と、操舵角検出手段10で検出した操舵角の検出値と操舵角推定手段21で推定した操舵角の推定値との偏差に基づいて運転者の状態を推定する状態推定手段21と、操舵角に応じた車両の挙動情報を検出する挙動情報検出手段11と、操舵角に応じた車両の挙動情報を推定する挙動情報推定手段21と、操舵角が閾値以下か否かを判定する判定手段21とを備え、判定手段21で操舵角が閾値以下と判定した場合、状態推定手段21では、挙動情報検出手段11で検出した挙動情報の検出値と挙動情報推定手段21で推定した挙動情報の推定値との偏差に基づいて運転者の状態を推定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者状態推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転支援装置などで利用するために、運転者の運転意識の低下状態、居眠り直前状態などの運転者の状態を推定する装置が各種提案されている。特許文献1に記載の装置では、操舵角の検出値と操舵角の推定値との差に基づいて運転の不安定状態を検出する。
【特許文献1】特開2002−36905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
操舵角を検出するための操舵角センサは、一般に、低分解能(例えば、1.5°程度)である。そのため、例えば、車両が直進路を走行中に運転者が眠くなってきて操舵操作が多少ふらつき、操舵角として1°程度のふらふらした入力があった場合、低分解能の操舵角センサでは、その操舵入力を検出することができず、検出値として0°を出力する。その結果、直進付近では、運転者の状態を適切に判定することができず、誤判定する虞がある。
【0004】
そこで、本発明は、直進付近でも運転者の状態を適切に推定することができる運転者状態推定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る運転者状態推定装置は、運転者の状態を推定する運転者状態推定装置であって、操舵角を検出する操舵角検出手段と、操舵角を推定する操舵角推定手段と、操舵角検出手段で検出した操舵角の検出値と操舵角推定手段で推定した操舵角の推定値との偏差に基づいて運転者の状態を推定する状態推定手段と、操舵角に応じた車両の挙動情報を検出する挙動情報検出手段と、操舵角に応じた車両の挙動情報を推定する挙動情報推定手段と、操舵角が閾値以下か否かを判定する判定手段とを備え、判定手段で操舵角が閾値以下と判定した場合、状態推定手段では、挙動情報検出手段で検出した挙動情報の検出値と挙動情報推定手段で推定した挙動情報の推定値との偏差に基づいて運転者の状態を推定することを特徴とする。
【0006】
この運転者状態推定装置では、操舵角検出手段により運転者によって入力された操舵角を検出するとともに、操舵角推定手段によりそのときの操舵角を推定する。そして、運転者状態推定装置では、状態推定手段により操舵角の検出値と操舵角の推定値との偏差に基づいて運転者の状態を推定する。さらに、運転者状態推定装置では、挙動情報検出手段により運転者による操舵入力に応じた車両の挙動情報を検出するとともに、挙動情報推定手段によりそのときの挙動情報を推定する。この挙動情報検出手段は、分解能が高く、操舵角検出手段での分解能では検出できないような小さい操舵入力の場合でもその操舵入力に応じた車両の挙動情報を検出可能な手段である。そして、運転者状態推定装置では、判定手段により操舵角が閾値以下か否かを判定する。この閾値は、直進付近(運転者による操舵入力が小さい範囲)を判定するための閾値である。判定手段で操舵角が閾値以下と判定した場合(つまり、直進付近で運転者による操舵入力が小さい場合)、運転者状態推定装置では、状態推定手段により車両の挙動情報の検出値と挙動情報の推定値との偏差に基づいて運転者の状態を推定する。これによって、運転者状態推定装置では、操舵角検出手段で検出が困難な直進付近では状態推定に用いる指標を操舵角から操舵入力に応じた車両の挙動情報に切り替えることにより、直進付近でも車両の挙動情報を利用して運転者の状態を適切に推定することができ、誤推定を防止することができる。
【0007】
なお、推定する運転者の状態は、例えば、運転者の意識状態、覚醒状態から居眠り状態まで(覚醒度)、運転操作の不安定状態、疲労状態がある。挙動情報は、運転者による操舵入力に応じて車両の挙動として表れる様々な情報であり、例えば、ヨーレート、横加速度、左右の車輪速差がある。
【0008】
本発明の上記運転者状態推定装置の状態推定手段では、操舵角検出手段で検出した操舵角の検出値と操舵角推定手段で推定した操舵角の推定値との偏差に基づいて運転者の状態を推定する場合に操舵角が小さいほど運転者の状態が異常と判定し難くする構成としてもよい。
【0009】
この運転者状態推定装置では、状態推定手段での運転者の状態推定において操舵角が小さいほど運転者の状態が異常と判定され難くすることにより、操舵角検出手段で検出が困難な直進付近では検出精度の低い検出値による誤推定を防止することができる。操舵角が小さいほど異常と判定され難くする方法としては、例えば、操舵角が小さいほど異常判定用の閾値を大きくする方法、操舵角の検出値と操舵角の推定値との偏差に基づく評価指標に重みを加味し、操舵角が小さいほどその重み(ひいては、評価指標)を小さくする方法がある。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、直進付近では推定に用いる指標を操舵角から操舵入力に応じた車両の挙動情報に切り替えることにより、直進付近でも運転者の状態を適切に推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明に係る運転者状態推定装置の実施の形態を説明する。
【0012】
本実施の形態では、本発明に係る運転者状態推定装置を、車両に搭載される運転者状態推定装置に適用する。本実施の形態に係る運転者状態推定装置は、運転者による操舵操作に表れるような運転者状態を推定し、その運転者状態情報を運転支援装置に提供する。本実施の形態には、2つの形態があり、第1の実施の形態が操舵角センサの他にヨーレートセンサも備える車両に適用する形態であり、第2の実施の形態が操舵角センサの他に操舵入力に応じた車両の挙動情報を検出するセンサを備えない車両に適用する形態である。
【0013】
なお、推定する運転者の状態としては、運転者の操舵入力に表れるような様々な状態であり、例えば、運転者の意識状態、覚醒状態から居眠り状態、運転操作の不安定状態、疲労状態がある。例えば、運転者の意識状態の場合、運転者の状態が異常と推定されたときには運転者の意識が低下していることを意味する。また、運転者の覚醒状態から居眠り状態の場合、運転者の状態が異常と推定されたときには運転者が居眠り直前状態を意味する。
【0014】
図1を参照して、第1の実施の形態に係る運転者状態推定装置1について説明する。図1は、第1の実施の形態に係る運転者状態推定装置の構成図である。
【0015】
運転者状態推定装置1は、基本的には、運転者状態を推定するための指標として操舵角を利用する。特に、運転者状態推定装置1では、直線付近でも適切な推定を行うために、直進付近では推定に利用する指標を操舵角からヨーレートに切り替える。運転者状態推定装置1は、操舵角センサ10、ヨーレートセンサ11及びECU[Electronic Control Unit]21を備えている。
【0016】
なお、操舵角センサ10が特許請求の範囲に記載する操舵角検出手段に相当し、ヨーレートセンサ11が特許請求の範囲に記載する挙動情報検出手段に相当し、ECU21における各機能が特許請求に範囲に記載する操作角推定手段、挙動情報推定手段、状態推定手段、判定手段に相当する。
【0017】
操舵角センサ10は、運転者によってステアリングホイールから入力された操舵角を検出するセンサである。操舵角センサ10では、操舵角を検出し、検出した操舵角を操舵角信号としてECU21に送信する。なお、操舵角センサ10は、分解能が低い。例えば、分解能が1.5°の操舵角センサ10の場合、運転者による操舵入力が中立位置から左右の各回転方向に1.5°ずつ増える毎にLSB値が増加する。したがって、運転者による操舵入力が1.5°未満の場合、LSB値が0であり、操舵角の検出値としては0°である。一方、運転者による操舵入力が大きいほど、LSB値が大きくなり、ノイズも入り難くなる。
【0018】
ヨーレートセンサ11は、車両に作用するヨーレートを検出するセンサである。ヨーレートセンサ11では、ヨーレートを検出し、検出したヨーレートをヨーレート信号としてECU21に送信する。なお、ヨーレートセンサ11は、分解能が高く、操舵角センサ10での分解能では検出できないような小さい操舵入力の場合でもその操舵入力に応じた車両のヨーレートを検出可能ある。したがって、ヨーレートセンサ11では、直進付近において操舵角センサ10の分解能以下の操舵入力に応じて発生するヨーレートも検出可能である。
【0019】
ECU21は、CPU[Central ProcessingUnit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]などからなる電子制御ユニットであり、運転者状態推定装置1を統括制御する。ECU21では、ROMに記憶されているアプリケーションプログラムをRAMにロードし、CPUで実行すると、操舵角推定機能、ヨーレート推定機能、切替判定機能、状態推定機能が構成される。ECU21では、一定時間毎に、操舵角センサ10、ヨーレートセンサ11からの各信号を受信し、各信号に示される検出値を時系列で記憶する。そして、ECU21では、これらの検出値を用いて各機能における処理を行い、推定した運転者状態情報を運転支援装置に提供する。
【0020】
操舵角推定機能について説明する。ECU21では、現在までの所定期間(例えば、数秒から10秒程度)における時系列の車両挙動情報(ヨーレート、横加速度など)に基づいて、正常な運転者が操舵入力を行った場合の現在の操舵角を推定する。そして、ECU21では、その現在の操舵角の推定値を時系列で記憶する。
【0021】
ヨーレート推定機能について説明する。ECU21では、現在までの所定期間における時系列の車両挙動情報(ヨーレート、横加速度など)に基づいて、正常な運転者が操舵入力を行った場合にその操舵入力に応じた車両の現在のヨーレートを推定する。そして、ECU21では、その現在のヨーレートの推定値を時系列で記憶する。
【0022】
なお、各推定機能では、上記した推定方法以外の方法で推定を行ってもよく、例えば、前方注視モデルから推定を行う。
【0023】
切替判定機能について説明する。ECU21では、記憶されている現在から過去の所定期間における時系列の操舵角の検出値δ(1),δ(2),・・・,δ(n)を用いて、式(1)により操舵角の検出値の平均値δaveを算出する。さらに、ECU21では、記憶されている現在から過去の所定期間における時系列の操舵角の検出値δ(1),δ(2),・・・,δ(n)及び操舵角の平均値δaveを用いて、式(2)により操舵角の検出値の標準偏差δstdを算出する。nは、所定期間内での操舵角センサ10での検出回数である。
【数1】

【0024】
そして、ECU21では、操舵角の標準偏差δstdが直進付近判定閾値δlimより大きいか否かを判定する。直進付近判定閾値δlimは、操舵角の標準偏差δstdに基づいて直進付近を判定するための閾値であり、実験などによって予め設定される。直進付近判定閾値δlimとしては、例えば、操舵角センサ10の分解能の2倍程度以下の値が設定される。したがって、操舵角の標準偏差δstdが直進付近判定閾値δlim以下と判定した場合、直進路かあるいはカーブ半径が非常に大きな道路(略直進路)である。この場合、操舵角センサ10ではLSB値としては0か1程度しか出力しないので、運転者の状態推定には操舵角センサ10の検出値を利用しない。一方、操舵角の標準偏差δstdが直進付近判定閾値δlimより大きいと判定した場合、直進路や略直進路ではない。この場合、操舵角センサ10ではLSB値としてはある程度の値を出力するので、運転者の状態推定には操舵角センサ10の検出値を利用する。
【0025】
状態判定機能について説明する。操舵角の標準偏差δstdが直進付近判定閾値δlimより大きい場合、ECU21では、記憶されている現在から過去の所定期間における時系列の操舵角の検出値δ(1),δ(2),・・・,δ(n)及び時系列の操舵角の推定値δ(1),δ(2),・・・,δ(n)を用いて、式(3)により評価指標Jを算出する。評価指標Jは、運転者の状態を判定するための評価指標である。この評価指標Jの値が大きいほど、正常な操舵入力に対しての実際の操舵入力のふらつきが大きく、運転者の状態が異常である。
【数2】

【0026】
一方、操舵角の標準偏差δstdが直進付近判定閾値δlim以下の場合、ECU21では、記憶されている現在から過去の所定期間における時系列のヨーレートの検出値γ(1),γ(2),・・・,γ(n)及び時系列のヨーレートの推定値γ(1),γ(2),・・・,γ(n)を用いて、式(4)により評価指標Jを算出する。この評価指標Jの値が大きいほど、正常な操舵入力に応じた車両のヨーレートに対して実際のヨーレートの変化が大きく、運転者の状態が異常である。
【数3】

【0027】
なお、上記の評価指標Jの算出方法は一例であり、操舵角の検出値と推定値との偏差あるいはヨーレートの検出値と推定値との偏差を用いた他の算出方法で評価指標Jを求めてもよい。
【0028】
そして、ECU21では、評価指標Jが異常判定閾値Jlimより大きいか否かを判定する。異常判定閾値Jlimは、運転者の状態が異常であるか否かを判定するための閾値であり、実験などによって予め設定される。評価指標Jが異常判定閾値Jlimより大きい場合、ECU21では、運転者の状態を異常と判定する。一方、評価指標Jが異常判定閾値Jlim以下の場合、ECU21では、運転者の状態を正常と判定する。
【0029】
図1を参照して、運転者状態推定装置1における動作について説明する。特に、ECU21における処理については図2のフローチャートに沿って説明する。図2は、第1の実施の形態に係るECUにおける運転者状態推定処理の流れを示すフローチャートである。
【0030】
操舵角センサ10では、一定時間毎に、操舵角を検出し、その検出値を示す操舵角信号をECU21に送信している。ECU21では、操舵角信号を受信する毎に、操舵角の検出値を時系列で記憶する。また、ヨーレートセンサ11では、一定時間毎に、ヨーレートを検出し、その検出値を示すヨーレート信号をECU21に送信している。ECU21では、ヨーレート信号を受信する毎に、ヨーレートの検出値を時系列で記憶する。
【0031】
ECU21では、一定時間毎に、現在の操舵角を推定し、その操舵角の推定値を時系列で記憶する。また、ECU21では、一定時間毎に、現在のヨーレートを推定し、そのヨーレートの推定値を時系列で記憶する。
【0032】
一定時間毎に、ECU21では、現在までの所定期間における時系列の操舵角の検出値と推定値及び現在までの所定期間における時系列のヨーレートの検出値と推定値をそれぞれ読み込む(S10)。そして、ECU21では、その読み込んだ時系列の操舵角の検出値から操舵角の検出値の平均値を算出する(S11)。さらに、ECU21では、その読み込んだ時系列の操舵角の検出値及び操舵角の検出値の平均値から操舵角の検出値の標準偏差を算出する(S12)。
【0033】
そして、ECU21では、操舵角の検出値の標準偏差が直進付近判定閾値より大きいか否かを判定する(S13)。S13にて直進付近判定閾値より大きいと判定した場合、ECU21では、現在から過去の所定期間における時系列の操舵角の検出値と推定値を用いて、その時系列での操舵角の検出値と推定値との偏差に基づいて評価指標を算出する(S14)。一方、S13にて直進付近判定閾値δlim以下と判定した場合、ECU21では、現在から過去の所定期間における時系列のヨーレートの検出値と推定値を用いて、その時系列でのヨーレートの検出値と推定値との偏差に基づいて評価指標を算出する(S15)。
【0034】
ECU21では、評価指標が異常判定閾値より大きいか否かを判定する(S16)。S16にて異常判定閾値以下と判定した場合、ECU21では、運転者の状態が正常(例えば、高い意識状態、覚醒状態)と判定し、S10の処理に戻る。一方、S16にて異常判定閾値より大きいと判定した場合、ECU21では、運転者の状態が異常(例えば、低い意識状態、居眠り直前状態)と判定する(S17)。
【0035】
そして、ECU21では、推定した運転者の状態を示す運転者状態信号を運転支援装置に送信する。
【0036】
この運転者状態推定装置1によれば、操舵角センサ10で検出が困難な直進付近では状態推定に用いる指標を操舵角から操舵入力に応じた車両のヨーレートに切り替えることにより、高分解能で検出することが可能なヨーレートを利用して直進付近でも運転者の状態を適切に推定することができる。その結果、直進付近では検出が困難な操舵角を利用することによる誤推定を防止することができる。
【0037】
図3を参照して、第2の実施の形態に係る運転者状態推定装置2について説明する。図3は、第2の実施の形態に係る運転者状態推定装置の構成図である。なお、運転者状態推定装置2では、第1の実施の形態に係る運転者状態推定装置1における同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0038】
運転者状態推定装置2は、運転者状態を推定するための指標として操舵角を利用する。特に、運転者状態推定装置2では、直線付近での誤推定を防止するために、評価指標に操舵角の大きさに応じた重みを加味する。運転者状態推定装置2は、操舵角センサ10及びECU22を備えている。
【0039】
ECU21は、CPU、ROM、RAMなどからなる電子制御ユニットであり、運転者状態推定装置2を統括制御する。ECU22では、ROMに記憶されているアプリケーションプログラムをRAMにロードし、CPUで実行すると、操舵角推定機能、状態推定機能が構成される。ECU22では、一定時間毎に、操舵角センサ10からの信号を受信し、この信号に示される検出値を時系列で記憶する。そして、ECU22では、この検出値を用いて各機能における処理を行い、推定した運転者状態情報を運転支援装置に提供する。なお、操舵角推定機能は、第1の実施の形態に係るECU21における操舵角推定機能と同様の機能なので、その説明を省略する。
【0040】
状態推定機能について説明する。ECU22では、第1の実施の形態に係るECU21と同様の処理により、現在までの所定期間における操舵角の検出値の平均値δave及び標準偏差δstdを算出する。そして、ECU22では、記憶されている現在から過去の所定期間における時系列の操舵角の検出値δ(1),δ(2),・・・,δ(n)と時系列の操舵角の推定値δ(1),δ(2),・・・,δ(n)及び操舵角の検出値の平均値δaveと標準偏差δstdを用いて、式(5)により評価指標Jを算出する。この評価指標Jの値が大きいほど、正常な操舵入力に対しての実際の操舵入力のふらつきが大きく、運転者の状態が異常である。なお、式(5)における1.5は、操舵角センサ10の分解能の一例の値である。
【数4】

【0041】
式(5)における前半の平方根の項は、現在から過去の所定期間における時系列での操舵角の検出値と推定値との偏差に基づく評価指標の基準値を算出する項である。式(5)における後半の[]の項は、基準値に加味する重みを算出する項であり、0以上かつ1以下の値が算出する。この重みは、直進付近では操舵角が小さくなるほど値が小さくなり、操舵角が0になると値が0となり、直進付近以外では値が1で一定となる。したがって、評価指標Jの値は、直進付近では操舵角が小さくなるほど基準値に対して小さい値になり、直進付近以外では基準値になる。なお、上記の重みを加味した評価指標Jの算出方法は一例であり、操舵角の検出値と推定値との偏差を用いた他の算出方法や直進付近では操舵角が小さくなるほど値が小さくなる重みの他の算出方法で評価指標Jを求めてもよい。
【0042】
そして、ECU22では、評価指標Jが異常判定閾値Jlimより大きいか否かを判定する。評価指標Jが異常判定閾値Jlimより大きい場合、ECU22では、運転者の状態を異常と判定する。一方、評価指標Jが異常判定閾値Jlim以下の場合、ECU22では、運転者の状態を正常と判定する。
【0043】
図3を参照して、運転者状態推定装置2における動作について説明する。特に、ECU22における処理については図4のフローチャートに沿って説明する。図4は、第2の実施の形態に係るECUにおける運転者状態推定処理の流れを示すフローチャートである。
【0044】
操舵角センサ10では、一定時間毎に、操舵角を検出し、その検出値を示す操舵角信号をECU22に送信している。ECU22では、操舵角信号を受信する毎に、操舵角の検出値を時系列で記憶する。
【0045】
ECU22では、一定時間毎に、現在の操舵角を推定し、その操舵角の推定値を時系列で記憶する。
【0046】
一定時間毎に、ECU22では、現在までの所定期間における時系列の操舵角の検出値と推定値を読み込む(S20)。そして、ECU22では、その読み込んだ時系列の操舵角の検出値から操舵角の検出値の平均値を算出する(S21)。さらに、ECU22では、その読み込んだ時系列の操舵角の検出値及び操舵角の検出値の平均値から操舵角の検出値の標準偏差を算出する(S22)。
【0047】
そして、ECU22では、現在から過去の所定期間における時系列の操舵角の検出値と推定値及び操舵角の平均値と標準偏差を用いて、直進付近では操舵角が小さくなるほど小さくなる重みを加味して、その時系列での操舵角の検出値と推定値との偏差に基づいて評価指標を算出する(S23)。
【0048】
ECU22では、評価指標が異常判定閾値より大きいか否かを判定する(S24)。S24にて異常判定閾値以下と判定した場合、ECU22では、運転者の状態が正常と判定し、S20の処理に戻る。一方、S24にて異常判定閾値より大きいと判定した場合、ECU22では、運転者の状態が異常と判定する(S25)。
【0049】
そして、ECU22では、推定した運転者の状態を示す運転者状態信号を運転支援装置に送信する。
【0050】
この運転者状態推定装置2によれば、評価指標に直進付近では操舵角が小さくなるほど小さくなる重みを加味することにより、直進付近では操舵角が小さくなるほど運転者の状態が異常と判定され難くなり、操舵角センサ10で検出が困難な直進付近では検出精度の低い検出値による誤推定を防止することができる。
【0051】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
【0052】
例えば、本実施の形態では運転者状態推定装置に適用したが、推定する運転者の状態を特定した覚醒度推定装置などの他の装置に適用してもよいし、あるいは、運転支援装置における運転者状態推定機能として適用してもよい。
【0053】
また、第1の実施の形態では操舵角の標準偏差が直進付近判定閾値以下の場合にはヨーレートを利用して評価指標を算出する構成としたが、横加速度、左右の車輪速差などの他の挙動情報を利用して評価指標を算出してもよい。
【0054】
また、第1の実施の形態では操舵角の標準偏差を利用して直進付近か否かを判定する構成としたが、操舵角の標準偏差以外の操舵角の指標で直進付近か否かを判定してもよい。
【0055】
また、第2の実施の形態では直進付近では操舵角が小さくなるほど小さくなる重みを加味して評価指標を小さくして、異常と判定され難くする構成としたが、直進付近では操舵角が小さくなるほど異常判定閾値を大きくするなど、他の方法で操舵角が小さくなるほど異常と判定され難くしてもよい。
【0056】
また、第1の実施の形態による手法と第2の実施の形態による手法を組み合わせ、例えば、操舵角の標準偏差が直進付近判定閾値より大きい場合には式(5)で評価指標を算出し、直進付近判定閾値以下の場合には式(4)で評価指標を算出するようにしてもよい。この構成の場合、式(5)における重みが操舵角が小さくなるほど小さくなる操舵角範囲を操舵角の標準偏差が直進付近判定閾値以下となる操舵角範囲よりも広くなるように設定し、操舵角の標準偏差が直進付近判定閾値より大きくなる操舵角範囲でも、操舵角センサのLSB値が小さい領域では評価指標に1以下の重みを加味して、異常と判定され難くする。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】第1の実施の形態に係る運転者状態推定装置の構成図である。
【図2】第1の実施の形態に係るECUにおける運転者状態推定処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】第2の実施の形態に係る運転者状態推定装置の構成図である。
【図4】第2の実施の形態に係るECUにおける運転者状態推定処理の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0058】
1,2…運転者状態推定装置、10…操舵角センサ、11…ヨーレートセンサ、21,22…ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の状態を推定する運転者状態推定装置であって、
操舵角を検出する操舵角検出手段と、
操舵角を推定する操舵角推定手段と、
前記操舵角検出手段で検出した操舵角の検出値と前記操舵角推定手段で推定した操舵角の推定値との偏差に基づいて運転者の状態を推定する状態推定手段と、
操舵角に応じた車両の挙動情報を検出する挙動情報検出手段と、
操舵角に応じた車両の挙動情報を推定する挙動情報推定手段と、
操舵角が閾値以下か否かを判定する判定手段と
を備え、
前記判定手段で操舵角が閾値以下と判定した場合、前記状態推定手段では、前記挙動情報検出手段で検出した挙動情報の検出値と前記挙動情報推定手段で推定した挙動情報の推定値との偏差に基づいて運転者の状態を推定することを特徴とする運転者状態推定装置。
【請求項2】
前記状態推定手段では、前記操舵角検出手段で検出した操舵角の検出値と前記操舵角推定手段で推定した操舵角の推定値との偏差に基づいて運転者の状態を推定する場合に操舵角が小さいほど運転者の状態が異常と判定し難くすることを特徴とする請求項1に記載する運転者状態推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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