説明

過フッ素化有機化合物を製造する方法

A.少なくとも部分的に水素化されたアルコールを少なくとも部分的に水素化されたフルオロホルメート化合物に転化させるステップ;
B.前記少なくとも部分的に水素化されたフルオロホルメート化合物とフッ素とを、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含み、かつ、少なくとも1個のフッ素原子または塩素原子を前記二重結合の炭素原子のいずれか1つの上に有する少なくとも1種の(パー)ハロオレフィンの存在下に反応させて、過フッ素化フルオロホルメート化合物を得るステップ
を含む、過フッ素化官能性化合物を製造する方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、内容全体がすべての目的に対して参照により本明細書において援用されている、2009年7月6日に出願の欧州特許出願公開第09164697.6号明細書の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、官能基化過フッ素化有機化合物を水素含有アルコールから製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
官能性部分を有する過フッ素化有機化合物が、特にパーフルオロモノマー(例えばパーフルオロビニルエーテル)およびフッ素系界面活性剤などの多様な価値のある化学化合物を生産するための有用な中間体であることは公知である。
【0004】
官能性過フッ素化化合物の合成に対する簡便なアプローチは水素含有アルコールのフッ素化を含み、おそらくはヒドロキシル部分が誘導体化されて、目標とされる官能性部分が得られる。しかしながら、官能性ヒドロキシル部分を含有する炭化水素は、一般に、低温および高希釈で実施される第1のステップ、これに続く、過フッ素化化合物の充分な収率を達成するために要求される高温および高濃度のフッ素が用いられるさらなるステップを典型的に含む従来のフッ素化プロセスの条件下では不安定である。これらの条件下では、水酸基を有する化合物は、HFおよびCOFを同時に放出し、および、その後の出発ヒドロキシル含有化合物よりも炭素原子が1個少ない、対応する非官能性パーフルオロ化合物の形成を伴って分解されることが一般に理解されている。
【0005】
この問題を克服するために、(特許文献1)(旭硝子株式会社)(2001年12月19日)には、第1級水素化アルコールが先ず(過)フッ素化アシルフッ化物との反応によって得られる、一般的には部分的にフッ素化されたエステルである対応するエステルに転化され、次いで、液体相中でのフッ素化に供されるフッ素化化合物を製造する方法が開示されている。次いで、このようにして得られた過フッ素化エステルを、熱的に開裂させるか、または、好適な薬剤で分解させて、出発水素化アルコールに対応する過フッ素化アシルフッ化物を得ることが可能である。
【0006】
同様に、(特許文献2)(旭硝子株式会社)(2005年11月24日)には、第1級水素化アルコールがエステル交換反応を介して保護され、次いで、液体相中でフッ素化に供されるフッ素化エステルを製造する方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、上記の方法は、反応の発熱性による試薬の分解を防ぐために、希釈濃度のフッ素および水素含有アルコールで実施する必要があり得るという欠点を有する。しかも、完全フッ素化生成物を得るためには、化学量論的に必要とされる量を超える大過剰量のフッ素が必要とされる。これらの条件は反応速度に悪影響を及ぼし得、プロセス全体の生産性を低くしてしまう。
【0008】
しかも、既述のとおり、フッ素の消費を減らすためには、エステルとしてのアルコール部分の保護は、一般に、入手が高価であり得ると共に、適切な分離、回収、および再使用のためのさらなるステップを引き起こし得る、一般にアシルフッ化物といった好適な過フッ素化カルボン酸誘導体を用いて実施される。
【0009】
この経路に対する代替として、フッ素化に供される前に水素含有アルコールがフルオロホルメートの形態で保護されている。
【0010】
それ故、(特許文献3)(PHILLIPS PETROLEUM)(1975年08月19日)には、水素含有アルコールから過フッ素化有機化合物を製造する方法が開示されている。この方法は、対応する水素含有フルオロホルメートを得るための、カルボニルフッ化物との反応による水素含有アルコールのヒドロキシル部分の保護を含む。次いで、前記フルオロホルメートが電解フッ素化ステップに供され、および、フルオロホルメート官能基を依然有する得られた過フッ素化された対部分が、その後、対応するアシルフッ化物を得るための反応条件下でフッ化物イオンの作用により開裂される。さらに、過フッ素化フルオロホルメートは、カルボニルフッ化物を失うことでフルオロアシルフッ化物に転化され、容易に分離され、回収され得ることが公知である。
【0011】
しかしながら、電解フッ素化は扱いが困難であり、かつ、エネルギー消費が多い手法であり、特に単一の化合物を得る必要がある場合には、一般に、経済的および産業的に、元素フッ素を用いるフッ素化よりも許容されにくい。しかも、電解フッ素化における収率は、多くの場合に中程度であるか、または、特に高分子量化合物をフッ素化しなければならない場合には低いことが知られている。
【0012】
特定のフルオロホルメートを分子フッ素でフッ素化する試みが当該技術分野において既に開示されている。特に、(特許文献4)(MONTECATINI EDISON)(1971年3月31日)には、ギ酸塩部分などの考えられ得る酸性の末端基が排除される特定の過フッ素化ポリエーテルの調製方法が開示されている。フルオロホルメート末端基を有する過フッ素化ポリエーテルの激しい熱処理によるフルオロアシルフッ化物への転化もまた記載されている。
【0013】
それ故、温和な条件下で実施され得ると共に高い収率をもたらし得るフッ素化ステップを含む、水素含有アルコール由来の官能性部分を有する過フッ素化化合物を製造する方法が当該技術分野において未だ必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1164122A号明細書
【特許文献2】米国特許第7053237号明細書
【特許文献3】米国特許第3900372号明細書
【特許文献4】英国特許第1226566号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
それ故、本発明は、比較的安価な水素含有アルコールに由来する官能性部分を含む過フッ素化化合物の製造方法であって、高価な過フッ素化カルボキシル誘導体または扱いが困難な電解フッ素化が用いられず、高い収率を伴って有利に進展する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の方法は、それ故:
A.少なくとも部分的に水素化されたアルコールを対応する少なくとも部分的に水素化されたフルオロホルメート化合物に転化させるステップ;
B.前記少なくとも部分的に水素化されたフルオロホルメート化合物とフッ素とを、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含み、かつ、少なくとも1個のフッ素原子または塩素原子を前記二重結合の炭素原子のいずれか1つの上に有する少なくとも1種の(パー)ハロオレフィンの存在下に反応させて、過フッ素化フルオロホルメート化合物を得るステップ
を含む。
【0017】
本明細書および特許請求の範囲において、アルコールまたはフルオロホルメートについて「少なくとも部分的に水素化された」という表記は、前記アルコールまたは前記フルオロホルメートが少なくとも1つのC−H結合を含有することを示していることを意味する。
【0018】
上記のとおり、本方法のステップBにおける(パー)ハロオレフィンの存在は、試薬の望ましくない分解が生じないよう温和な条件下での本発明による方法の実施を可能とする。さらに、所望の過フッ素化フルオロホルメートの形成におけるアルコールのきわめて高い転化率、ならびに、顕著な選択性が達成される。しかも、すべてのC−H結合の完全なフッ素化を達成するために大過剰量のフッ素が必要とされず、この後者の転化率は、本方法においてきわめて高い。本発明が特定の理論に限定されることは意図されていないが、(パー)ハロオレフィンはフッ素の特にフルオロホルメートとの反応においてラジカル開始剤として作用し、これにより、フッ素化ステップにおいて際立った反応速度を達成し得ると考えられている。
【0019】
本発明の実施形態によれば、前記少なくとも部分的に水素化されたアルコールは、式RCHOH(式中、RおよびRは、相互に独立して:H、直鎖、分枝鎖および環式(オキシ)炭化水素基、直鎖、分枝鎖および環式フルオロ(オキシ)炭化水素基からなる群において選択される)を有する。
【0020】
本明細書および特許請求の範囲において、「(オキシ)炭化水素基」という用語は、1個または2個以上のカテナリー酸素原子を含む炭化水素基またはオキシ炭化水素基を示すことが意図されている。同様に、「フルオロ(オキシ)炭化水素基」という用語は、1個または2個以上のカテナリー酸素原子を含むフッ化炭化水素基またはフルオロオキシ炭化水素基を示すことが意図されている。例えば塩素といった他のハロゲンが、本発明の少なくとも部分的に水素化されたアルコール中に存在してもよい。
【0021】
「少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含み、かつ、少なくとも1個のフッ素原子または塩素原子を前記二重結合の炭素原子のいずれか1つの上に有する(パー)ハロオレフィン」という表記は、フルオロオレフィン、クロロオレフィン、および、フルオロクロロオレフィンを含むことが意図されており、これらの化合物は、ClおよびFとは異なる、特に酸素といった1個以上のヘテロ原子を含んでもよい。
【0022】
前記RおよびR基は、相互に等しいか異なっており、独立して、H、C〜C20(オキシ)炭化水素基、C〜C20フルオロ(オキシ)炭化水素基、C〜C20シクロ(オキシ)炭化水素基およびC〜C20フルオロシクロ(オキシ)炭化水素基からなる群において選択されることが好ましい。
【0023】
本方法の一実施形態によれば、前記少なくとも部分的に水素化されたアルコールが第1級アルコールであるよう、前記RおよびR基の少なくとも1個はHである。
【0024】
他の実施形態によれば、前記アルコールは、水素化アルコールの過フッ素化またはフッ素化オレフィンへのイオンまたはラジカル付加により、本方法の任意の予備的なステップにおいて得られる。
【0025】
前記少なくとも部分的に水素化されたアルコールは、例えばC〜C18一価または二価アルコール、好ましくは、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、1,2−エタンジオール、1,3−プロパンジオールなどのC〜C脂肪族アルコールであってよい。
【0026】
前記少なくとも部分的に水素化された第1級または第2級アルコールの合成に用いられ得る反応およびラジカル開始剤は、特定の所望の化合物に応じる。
【0027】
前記イオンまたはラジカル付加反応において用いられてよい好適な過フッ素化またはフッ素化オレフィンの非限定的な例は、特に:テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ペンタフルオロプロピレン、オクタフルオロブテン、ヘキサフルオロブタジエンなどのC〜C18フルオロおよび/またはパーフルオロオレフィン;パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロエチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテルなどのパーフルオロアルキルビニルエーテル;ならびに、パーフルオロジオキソールまたはパーフルオロメトキシジオキソールなどのフルオロジオキソールである。
【0028】
それ故、本方法のステップAにおいて、前記少なくとも部分的に水素化されたアルコールは、少なくとも部分的に水素化されたフルオロホルメート化合物に転化される。
【0029】
前記少なくとも部分的に水素化されたアルコールを前記フルオロホルメートに転化させる標準的な方法が用いられ得る。とりわけ、好適な方法が、特に、1970年12月23日英国特許第1216639号明細書(BAYER AG),2000年10月12日国際公開第00/59859号パンフレット(ISOCHEM SA),FLOSSER,D.A.ら,A useful conversion of alcohol to alkyl fluorides.Tetrahedron lett..2002年,第43巻,第23号,第4275〜4279ページ、OLAH,G.A.ら,Notes−Synthesis and Investigation of Organic Fluorine Compounds.XVV.The preparation of Alkyl Fluoroformates and Remarks Relative to a New Published Preparation of Alkyl Fluorides.,Journal of Organic Chemistry.,1956年,第21巻,第11号,第1319〜1320ページに記載されている。
【0030】
本方法の一実施形態によれば、前記転化は、アルコールと、カルボニルフッ化物、カルボニルフッ化臭化物、および、カルボニルフッ化塩化物からなる群において選択される試薬とを反応させることにより達成され得る。
【0031】
アルコールが式RCHOH(I)(式中、RおよびRは上記に定義されている意味を有する)により表される場合、反応は、以下のように図式化され得る。
【化1】

【0032】
カルボニルフッ化物が用いられる場合、この試薬は、フッ素(場合により不活性ガスと混合)および一酸化炭素を気相において反応器に供給し、ならびに、このようにして得られたカルボニルフッ化物を前記アルコール(I)を含有するさらなる反応容器に連続的に供給することにより得られ得る。この場合、一酸化炭素対フッ素のモル比(CO/F)は、フッ素を一酸化炭素と完全に反応させるために1.0以上であることが好ましい。
【0033】
本方法のステップAにおいて、少なくとも部分的に水素化されたアルコールは、反応条件において液体である限り純粋なままで、または、好適な希釈剤中で用いられ得る。好適な希釈剤のうち、特に、塩化メチレン、CFOCFClCFCl、パーフルオロポリエーテルなどの有機ハロゲン化化合物、または、水素含有フルオロポリエーテル(例えば、Solvay Solexis S.p.Aにより、商品名GALDEN(登録商標)PFPEまたはH−GALDEN(登録商標)PFPEで市販されているもの。)、フッ素化エーテルもしくは過フッ素化エーテル(例えば、3Mから商品名NOVEC(登録商標)流体およびHFE(登録商標)エーテルで市販されているもの)を挙げ得る。
【0034】
本方法のステップBにおいては、ステップAによりもたらされるフルオロホルメート化合物が、上記に定義されているとおり、(パー)ハロオレフィンの存在下にフッ素と反応して過フッ素化フルオロホルメート化合物が得られる。
【0035】
一実施形態によれば、この反応は以下のとおり図式化され得る。
【化2】

式中、R、Rは上記に定義されているとおりであり、R1fはRのフッ素化された均等物であり、および、R2fはRの過フッ素化された均等物である。Rおよび/またはRがHであり、R1fおよび/またはR2fがFであり;RまたはRが過フッ素化である場合、それぞれ、R=R1fまたはR=R2fであることが理解される。
【0036】
本方法の一実施形態によれば、ステップBにおける使用に好適な(パー)ハロオレフィンは以下の式により表されるものである。
【化3】

式中、R、R、R、および、Rは、各々、独立して、F、Cl、および、炭化水素基からなる群から選択され、1個以上の塩素原子および/またはフッ素原子を含んでもよく、場合により、例えば酸素といった、FおよびClとは異なる1個以上のヘテロ原子を有し、二重結合に直接的に結合されていてもよい。R、R、R、および、Rの少なくとも1つは、フッ素または塩素から選択される。
【0037】
、R、R、および、Rは、各々、F、Cl、C〜Cパーフルオロカーボン基、C〜C酸素含有パーフルオロカーボン基、C〜Cフルオロクロロヒドロカーボン基、および、C〜C酸素含有フルオロクロロヒドロカーボン基からなる群において独立して選択されることが好ましい。より好ましくは、R、R、R、および、Rの少なくとも3個が、F、Cl、および、これらの混合物から選択される。
【0038】
このような(パー)ハロオレフィンの例としては、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)ならびにそのダイマーおよびトリマー、オクタフルオロブテン、パーフルオロペンテン、パーフルオロヘキセン、パーフルオロヘプテン、パーフルオロオクテン、パーフルオロシクロブテン、パーフルオロシクロペンテン、パーフルオロシクロヘキセン、クロロトリフルオロエチレン、ジクロロジフルオロエチレン、クロロペンタフルオロプロペン、パーフルオロブタジエン、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロエチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテル;CFOCCl=CClF、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロエチレン異性体;ならびに、式:
【化4】

(式中、X、X、X、およびXは、相互に等しいか異なっており、F、RおよびOR(式中、Rは(パー)フルオロカーボン基である)から独立して選択され、ならびに、式中、XおよびXの少なくとも1個はフッ素である)
のフルオロジオキソールが挙げられ得る。
【0039】
本方法のステップBにおいて用いられる(パー)ハロオレフィンの量は重要ではない。一実施形態によれば、前記(パー)ハロオレフィンの量は、フルオロホルメート化合物に含有されている水素原子に対して0.1〜50モル%の範囲内に含まれる。好ましくは、前記量は、フルオロホルメート化合物に含有されている水素原子に対して1モル%〜30モル%の範囲内に含まれる。
【0040】
(パー)ハロオレフィンは、先ず、反応容器中に入れられることが可能であり、または、有利には、フッ素化反応の最中に必要とされる量で連続的に供給され得る。
【0041】
フッ素は、純粋なガスとして、または、N、Ar、および、Heなどの不活性ガスで希釈されて反応器に供給され得る。
【0042】
フッ化水素掃去剤が用いられてもよい(例えばNaF、KF)。
【0043】
フルオロホルメート化合物は、反応条件において液体である限りは非溶剤相中で、ならびに、好適な溶剤中に希釈されて、フッ素と反応してもよい。
【0044】
驚くべきことに、本方法のステップBにおける濃縮された、または、純粋な試薬の使用は、反応の発熱性を制御し得るため、試薬の分解をもたらさない。
【0045】
実際のところ、反応温度は、−100℃〜+50℃の範囲内に維持されることが有利であり得る。
【0046】
典型的には、別々に供給されるフッ素と(パー)ハロオレフィンとは、所与の温度またはプロセスでギ酸塩に連続的に添加される。一般に、フッ素は、ギ酸塩中のすべての水素原子をフッ素原子に転化するために必要な理論量よりもわずかに多い量で反応に添加される。典型的には、フッ素の量は、前記理論量よりもおよそ20モル%、好ましくは10モル%多い。有利には、ギ酸塩の完全なフッ素化を実施するために昇温は必要とされない。
【0047】
反応の終了は、典型的には急激にゼロに低下するフッ素転化率を調べることにより、オンライン分析によって有利に検出し得る。
【0048】
本方法のさらなる実施形態によれば、さらなるステップ、すなわち:
C.前記過フッ素化フルオロホルメート化合物を開裂させるステップ
が含まれる。
【0049】
当業者は、少なくとも部分的に水素化された出発アルコールとして第1級アルコールが用いられる場合、開裂させるステップCは、過フッ素化アシルフッ化物をもたらし;同一条件下で、少なくとも部分的に水素化された出発アルコールとして第2級アルコールが用いられる場合、開裂させるステップCは、過フッ素化ケトンをもたらすことを容易に理解するであろう。
【0050】
本方法の一実施形態によれば、ステップCは以下のとおり図式化され得る。
【化5】

式中、R1fおよびR2fは、上記の意味を有する。上述のとおり、ステップCの同一の反応条件が適用されても、基R1fおよびR2fの少なくとも1つがFである場合には、このステップの生成物として過フッ素化アシルフッ化物(IV)がもたらされる。単なる例示の目的のために、上記スキームにおいては、R2fがFである場合が示されている。基R1fおよびR2fの両方がF以外である場合、ステップCではケトン(V)が得られる。
【0051】
任意の好適な開裂もしくは分解方法または反応が、本方法のステップCにおいて用いられてよい。前記開裂反応は、NaF、CaF、BaF、AgF、CsF、KFなどの金属フッ化物の存在下での加熱分解により達成され得る。ステップCの加熱分解反応のための温度は−70℃〜220℃の範囲内に含まれ得;好ましくは、温度は−30℃〜150℃の範囲内に含まれ得る。
【0052】
本方法のさらなる一実施形態によれば、ステップCからもたらされる過フッ素化アシルフッ化物(IV)は、以下のスキームに示されているとおり、本方法の任意のステップDにおいて加水分解および中和にさらに供されて、過フッ素化カルボキシレート(VI)が得られてもよい。
【化6】

式中、R1fは上記に定義されているものと同じ意味を有し、XはH、一価金属、または、Rの各々が相互に独立してHもしくはC1〜6炭化水素基からなる群から選択される式NRのアンモニウム基である。本方法のステップDは当業者に公知である従来の加水分解および中和方法のいずれかにより実施されてもよい。
【0053】
本明細書において参照により援用される特許、特許出願、および、刊行物のいずれかの開示が、用語を不明確とし得る程度に本出願における記載と矛盾する場合には、本明細書が優先する。
【0054】
ここで、本発明を、その目的は単に例示的であると共に本発明の範囲を限定することは意図されていない以下の実施例を参照してより詳細に説明する。
【実施例】
【0055】
実施例1:フルオロホルメート(IIA)中でのアルコール(IA)の転化
【化7】

機械式攪拌機、ガス流入口、ガス流出口、内部温度を調べるための熱電対、および、外部冷却浴を備える500mLステンレス鋼製反応器中に、393gの上記式(IA)のアルコールおよび92gのNaF粉末を導入し、外部温度を15℃に設定した。
【0056】
次いで、2.0Nl/時間のHeで希釈したCOF(7.0Nl/時間のCOと6.0Nl/時間のFとの間の反応により6.0Nl/時間が得られた)を、反応媒体を激しい攪拌下に維持しながら、反応器に導入した。排ガスをG.C.システムにより分析してCOF転化率を評価した。6.75時間後に供給を停止し、および、粗混合物をろ過して無機塩を分離した。液体生成物を19F NMRにより分析して、出発アルコールのほとんど定量的な転化率および所望のフルオロホルメートにおける選択性を示した。
【0057】
実施例2:フルオロホルメート(IIA)のフッ素化
【化8】

機械式攪拌機、2つのガス流入口、1つのガス流出口、内部温度を調べるための熱電対、および、外部冷却浴を備える500mLステンレス鋼製反応器中に、278gの上記式(IIA)のフルオロホルメートを仕込み、ならびに、外部温度を0℃に設定した。
【0058】
次いで、2種の異なるガス流を、入り口から、激しい攪拌下に維持した反応器に導入した:4.5Nl/時間のHeで希釈したF(2.3Nl/時間)、および、1.5Nl/時間のHeで希釈したC(0.3Nl/時間)。排ガスはNaFトラップを通り、GCにより分析してF転化率を評価し、これにより、C−HからC−Fへの転化率を推定した。内部温度は+5℃で一定に維持した。57時間後、内部温度は5℃から0℃に急速に低下し、および、追加的なF転化は観察されなかった。供給を停止し、および、残存HFを不活性ガスにより除去した。粗混合物を回収し、GCおよび19F NMRにより分析した。所望のパーフルオロフルオロホルメート(IIIA)を95%の収率で得た。
【0059】
実施例3 フルオロホルメート(IIB)中でのアルコール(IB)の転化
【化9】

機械式攪拌機、ガス流入口、ガス流出口、内部温度を調べるための熱電対、および、外部冷却浴を備える250mLステンレス鋼製反応器中に、99gの上記式(IB)のアルコールおよび34gのNaF粉末を仕込み、ならびに、外部温度を15℃に設定した。
【0060】
次いで、1.0Nl/時間のHeで希釈したCOF(2.5Nl/時間のCOと2.0Nl/時間のFとの反応により2.0Nl/時間が得られた)を、激しい攪拌下に維持した反応器に導入した。排ガスをGCシステムにより分析してCOF転化率を評価した。6.0時間後に供給を停止し、および、粗混合物をろ過して無機塩を分離した。液体生成物を19F NMRにより分析して、出発アルコールのほとんど定量的な転化および所望のフルオロホルメートにおける選択性を示した。
【0061】
実施例4 フルオロホルメート(IIB)のフッ素化
【化10】

機械式攪拌機、2つのガス流入口、1つのガス流出口、内部温度を調べるための熱電対、および外部冷却浴を備える250mLステンレス鋼製反応器中に、81gの式(IIB)のフルオロホルメートを導入し、および、実施例1と同一の手法によりフッ素化したが、ただし、Fは1.8Nl/時間で供給し、3.0Nl/時間のHeで希釈した。15時間後、内部温度は5℃から0℃に急速に低下し、および、追加的なF転化は観察されなかった。粗混合物を回収し、GCおよび19F NMRにより分析した。所望のパーフルオロフルオロホルメート(IIIB)を96%の収率で得た。
【0062】
比較例5:ハロオレフィンの不在下でのフルオロホルメート(IIA)のフッ素化
【化11】

機械式攪拌機、ガス流入口、ガス流出口、内部温度を調べるための熱電対、および、外部冷却浴を備える100mLステンレス鋼製反応器中に、60gの上記式(IIA)のフルオロホルメートを導入し、ならびに、外部温度を0℃に設定した。
【0063】
次いで、4.5Nl/時間のHeで希釈したF(1.5Nl/時間)を、流入口から、激しい攪拌下に維持した反応器に導入した。排ガスはNaFトラップを通り、GCにより分析してF転化率を評価した。内部温度は22時間のうちに+5℃(最初)から0℃にゆっくりと低下し、フッ素転化率も同様であった。供給を停止し、および、残存HFを不活性ガスにより除去した。粗混合物を回収し、および、19F NMRにより分析した:部分的にフッ素化されたギ酸塩の複雑な混合物を形成した。過剰なフッ素供給量に関わらず、C−HからC−Fへの転化率は66%であった。
【0064】
実施例6−パーフルオロホルメート(IIIA)のアシルフッ化物(IVA)への分解
【化12】

5gの無水NaFを含む250mLステンレス鋼製反応器中に、50gのパーフルオロホルメート(IIIA)を導入した;次いで、この反応器を50℃で過熱し、および、攪拌下に24時間維持した。反応により生成されたCOFを20℃で排気し、および、アシルフッ化物をろ過により回収した。出発ギ酸塩の転化率およびアシルフッ化物に対する選択性は定量的であった。
【0065】
当業者は、以下の特許請求の範囲内にある限りにおいて、本明細書中上記に開示および例示されている実施形態に考えられ得る変更および/または追加をなし得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A.少なくとも部分的に水素化されたアルコールを対応する少なくとも部分的に水素化されたフルオロホルメート化合物に転化させるステップ;
B.前記少なくとも部分的に水素化されたフルオロホルメート化合物とフッ素とを、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含み、かつ、少なくとも1個のフッ素原子または塩素原子を前記二重結合の炭素原子のいずれかの上に有する少なくとも1種の(パー)ハロオレフィンの存在下に反応させて、過フッ素化フルオロホルメート化合物を得るステップ
を含む過フッ素化官能性化合物を製造する方法。
【請求項2】
前記少なくとも部分的に水素化されたアルコールが、式RCHOH(式中、RおよびRは、相互に独立して:H、直鎖、分枝鎖および環式(オキシ)炭化水素基、直鎖、分枝鎖および環式フルオロ(オキシ)炭化水素基からなる群において選択される)を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
およびRは、相互に等しいか異なっており、独立して、H、C〜C20(オキシ)炭化水素基、C〜C20フルオロ(オキシ)炭化水素基、C〜C20シクロ(オキシ)炭化水素基およびC〜C20フルオロシクロ(オキシ)炭化水素基からなる群において選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップAにおいて、前記少なくとも部分的に水素化されたアルコールが:カルボニルフッ化物、カルボニルフッ化臭化物およびカルボニルフッ化塩化物からなる群から選択される試薬と反応する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも部分的に水素化されたアルコールがカルボニルフッ化物と反応する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ステップBにおいて、前記(パー)ハロオレフィンが、以下の式:
【化1】

(式中、R、R、R、およびRは、各々、独立して、F、Cl、および、炭化水素基からなる群において選択され、1個以上の塩素原子および/またはフッ素原子を含んでもよく、場合によりフッ素および塩素とは異なる1個以上のヘテロ原子を有し、前記二重結合に直接的に結合されていてもよい)
を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
、R、R、および、Rが、各々、F、Cl、C〜Cパーフルオロカーボン基、C〜C酸素含有パーフルオロカーボン基、C〜Cフルオロクロロヒドロカーボン基、およびC〜C酸素含有フルオロクロロヒドロカーボン基からなる群において独立して選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップBにおいて、前記(パー)ハロオレフィンが:テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)ならびにそのダイマーおよびトリマー、オクタフルオロブテン、パーフルオロペンテン、パーフルオロヘキセン、パーフルオロヘプテン、パーフルオロオクテン、パーフルオロシクロブテン、パーフルオロシクロペンテン、パーフルオロシクロヘキセン、クロロトリフルオロエチレン、ジクロロジフルオロエチレン、クロロペンタフルオロプロペン、パーフルオロブタジエン、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロエチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテル;CFOCCl=CClF、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロエチレン異性体;ならびに、式:
【化2】

(式中、X、X、X、およびXは、相互に等しいか異なっており、F、RおよびOR(式中、Rは(パー)フルオロカーボン基である)から独立して選択される)
のフルオロジオキソールからなる群において選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ステップBにおいて、前記(パー)ハロオレフィンの量が、前記少なくとも部分的に水素化されたフルオロホルメートに対して1〜20モル%の範囲にある、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記過フッ素化フルオロホルメート化合物を開裂させるステップを含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記過フッ素化フルオロホルメート化合物を開裂させるステップが、金属フッ化物の存在下での加熱分解によって達成される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2012−532163(P2012−532163A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518809(P2012−518809)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【国際出願番号】PCT/EP2010/004081
【国際公開番号】WO2011/003575
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(508305960)ソルヴェイ・スペシャルティ・ポリマーズ・イタリー・エッセ・ピ・ア (53)
【Fターム(参考)】