説明

過剰増殖性皮膚疾患の局所治療におけるヒアルロン酸のコンジュゲートの使用

過剰増殖性皮膚疾患の局所治療のための医薬組成物の調製における、ヒアルロン酸又はその誘導体と抗腫瘍薬とのコンジュゲートの使用について記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過剰増殖性皮膚疾患(hyperproliferative skin disease)の局所治療におけるヒアルロン酸のコンジュゲートの使用に関する。
【0002】
特に、本発明は、過剰増殖性皮膚疾患の治療、より具体的には光線角化症の治療を目的とした医薬組成物を調製するためのヒアルロン酸又はその誘導体と抗腫瘍薬とのコンジュゲートの新規の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
光線角化症(AK)すなわち日光角化症はおおむね、太陽光線、特に紫外線への慢性的な曝露により引き起こされる疾患である。その症状は皮膚病変であり、太陽に曝露されやすい領域に限局されていることが殆どである。ほぼ全ての病変が適当な大きさのプラーク(plaque)から成り、乾燥して不規則な鱗状の表面を有する。基部は淡い又は濃い茶褐色、桃色、赤色だが、皮膚と同じ色のこともある。後者の場合、鱗状の表面は乾燥してざらざらしているため、触って確かめられる。皮膚病変は、角質増殖型すなわち不全角化型であり、異形成の(displasic)ケラチノサイトの肥厚が認められる。
【0004】
光線角化症は、より深刻で浸潤性の、場合によっては転移性の疾患の前駆段階と考えられる。実際、光線角化症と扁平上皮癌(有棘細胞癌としても知られる)との間には疫学的な相関関係がある。しかしながら、光線角化症は前癌性の状態であると定義され、その根絶は、その都度、悪性化のリスクに照らして慎重に評価されなくてはならない。
【0005】
光線角化症の治療的アプローチは実質的に角質増殖性の領域の除去から成り、外科的に/切除により(凍結療法、ケミカルピーリング、掻爬、剥皮術、レーザー)又は薬理学的に行うことができる。最先端技術において最も広く用いられている薬理学的解決方法は、以下のものの使用を想定している。
・レチノイド。局所使用及び全身使用の両方。しかしながら、関連する重大な副作用を特徴とすることから、その投与は慎重に評価されなくてはならない。
・局所免疫調節剤、例えばイミキモド(Aldara(登録商標))。これに関しては、かなりの局所的な副作用(掻痒、発赤、刺激)がある。
・メチルアミノレブリン酸の誘導体。光力学療法ができる。これらの誘導体は、顔面又は頭皮のあまり肥厚していない又は角質増殖性ではない、色素沈着の見られない角化症に適しているが、その結果、適用範囲が比較的限られてしまう。
・ジクロフェナク(Solaraze(登録商標))を基本とした抗炎症薬。あまり重症ではない場合に適している。
・局所5−フルオロウラシル(Efudex(登録商標)軟膏)。レチノイド及び免疫調節剤の場合と同様に、副作用は、局所作用(発赤、掻痒、水泡の形成、落屑、接触性皮膚炎)及び全身作用の両方の面でどちらかというと重い。実際、5−フルオロウラシルは絶えず体内に吸収され、とりわけ精子の変質及び白血球の増加を引き起こす可能性がある。従って、その使用は、リスクの高い状況に限定される。
【0006】
従って、様々な形態の光線角化症に有効且つ毒性が低く、投与が容易であり、局所的及び/又は全身的な副作用が限定されている局所的薬物治療が強く必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、様々な形態の光線角化症及び、より一般的にはその他のタイプの過剰増殖性皮膚疾患の局所的薬物治療のための、上記の医薬組成物及び最先端技術において使用されている医薬組成物に伴う上記の欠点を克服する医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ヒアルロン酸(又はその誘導体)と抗腫瘍薬とのコンジュゲートを基本とした医薬組成物によりこの需要を満たすものである。
【0009】
出願人は、実際、驚くべきことに、これらの医薬組成物の使用が、記載の前癌病態(すなわち、光線角化症)の局所治療、その他のタイプの過剰増殖性皮膚疾患(例えば、乾癬)の治療、又は現場の腫瘍形態(例えば、扁平上皮癌)の治療における高い有効性、安全性及び低毒性によって特徴付けられることを発見した。
【0010】
従って、本発明の目的は、過剰増殖性皮膚疾患の局所治療、好ましくは光線角化症、乾癬の局所治療、又は扁平上皮癌等の腫瘍形態の治療、より一層好ましくは光線角化症の局所治療のための医薬組成物の調製におけるヒアルロン酸又はその誘導体と抗腫瘍薬とのコンジュゲートの使用に関する。
【0011】
本発明の医薬組成物は、好ましくは、ヒアルロン酸又はその誘導体と、パクリタキセル又は5−フルオロウラシルから選択される抗腫瘍薬とのコンジュゲートを基本としており、抗腫瘍薬はより好ましくはパクリタキセルである。
【0012】
より一層好ましくは、ヒアルロン酸−パクリタキセルコンジュゲートは、20%w/wに等しい置換度を有するヒアルロン酸/パクリタキセル共役エステルに対応する。
【0013】
ヒアルロン酸−5−フルオロウラシルコンジュゲートは、好ましくは、15%w/wに等しい置換度を有する共役エステルに対応する。
【0014】
ヒアルロン酸又はその誘導体とパクリタキセルとのコンジュゲートは、最先端技術(特許出願EP1560854)において既知であり、また数々の腫瘍形態の全身治療に有効であることが証明されている。
【0015】
ヒアルロン酸と5−フルオロウラシルとの共役は特許出願WO2007/14784に記載されており、本願において、化合物の化学合成に関連した各特徴及び化合物の特徴についてこの文献に言及する。上記にて説明したように、最先端技術に記載の光線角化症への5−フルオロウラシルの使用は、副作用が甚大であることから大きく制限される。ヒアルロン酸と結合させることにより、局所投与後に有効成分の毒性はかなり低くなるが、これはその耐久性が治療対象である病変のレベルにしか及ばず、その全身的な蓄積が回避されるからである。
【0016】
本発明に従って使用される医薬組成物の基本的な利点は、この組成物が、全身に吸収されることなく適用部位に留まり且つ徐々に放出されることである。
【0017】
本発明に従って使用される医薬組成物の更なる利点は、採用する有効成分の重い副作用が大幅に軽減されることである。本発明の医薬組成物により、記載の病態の治療で通常生じる刺激作用及び落屑作用も最小限に抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】不死化ケラチノサイト株(NCTC−2544)に行ったMTT試験の結果のグラフを示す。このグラフは、異なる濃度(5ng/ml、50ng/ml、500ng/ml)のコンジュゲートに応答してのケラチノサイトの増殖活性を表している。
【図2】正常な初代ケラチノサイトに行ったMTT試験の結果のグラフを示す。このグラフは、異なる濃度(5ng/ml、50ng/ml、500ng/ml)のコンジュゲートに応答してのケラチノサイトの増殖活性を表している。
【図3】照射から8〜9週間後の病変の組織学的検査を示す画像である。
【図4】照射から8〜9週間後の病変の組織学的検査を示す画像(最大倍率)である。
【図5】本発明のコンジュゲートを基本とした製剤を適用した後の病変皮膚の組織学的検査を示す画像であり、画像から、炎症が進行中であるとの指標であり且つ皮膚の修復期の前駆症状である好酸性多形核白血球(矢印で示した赤色に見える部分)の存在を観察することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、過剰増殖性皮膚疾患、特に光線角化症の局所治療のための医薬組成物の調製における、細胞増殖に有効なヒアルロン酸又はその誘導体と抗腫瘍薬とのコンジュゲートの使用について記載及び請求するものであり、この抗腫瘍薬は好ましくはパクリタキセル又は5−フルオロウラシルであり、より一層好ましくはパクリタキセルである。
【0020】
前述したように、ヒアルロン酸−パクリタキセルコンジュゲートは最先端技術において既知であり、その調製及び多種多様な新生物に対するその全身使用は、EP1560854に記載されており、この文献の内容は、コンジュゲートの合成の全ての態様に関連する本発明の必要不可欠な部分を構成している。
【0021】
ヒアルロン酸−パクリタキセルコンジュゲートは、ヒアルロン酸又はその誘導体とパクリタキセルとの間での共役、すなわちエステル又はアミドタイプの化学結合の形成から得られる分子である。
【0022】
ヒアルロン酸と薬剤とが互いに直接つながっているなら結合は直接となり、分子ブリッジとして働く「スペーサ(spacer)」を介した結合なら間接的となる。通常、様々な長さの脂肪族鎖がスペーサとして使用され、とりわけブロモ酪酸又はブロモプロピオン酸鎖であり得る。共役によりパクリタキセルの薬物動態特性は変化し、より安定し且つ水溶性となる。様々な製剤において、水性ビヒクルを使用して作業できるようになることでCremofor等の油性可溶化剤の利用は無益となり、またこれらの物質の毒性に関連した望ましくない効果の発生が激減する。
【0023】
ヒアルロン酸−5−フルオロウラシルに関する限り、その調製及び特徴は、WO2007/14784に記載されている。またこの場合、薬理学的有効成分及びヒアルロン酸は、スペーサ(ブロモ酪酸又はブロモプロピオン酸等)により、エステル又はアミド結合の形成により結合されている。このようにして得られるヒアルロン酸−5−フルオロウラシルコンジュゲートは、有効成分そのままの場合より良好な水溶性及び耐分解性を有する分子であるが、これは有効成分が、結合したヒアルロン酸によって「保護」されるからである。
【0024】
互いに大きく異なるレオロジー特性を有する医薬組成物を得られる可能性は、本願に記載の用途にとって極めて重要なことであり、ヒアルロン酸の特性に依存するものである。ヒアルロン酸の分子を薬学的な有効成分と共役させるに先立って、様々な化学反応により大幅に修飾することができる。最先端技術において既知の化学修飾は、とりわけEP1560854に記載されたものであり、より具体的には有機及び/又は無機塩基による塩化(EP0138572 B1)、脂肪族、芳香脂肪族、脂環式、芳香族、環状及び複素環系のアルコールでのエステル化(Hyaff(登録商標)、EP216453 B1)、脂肪族、芳香脂肪族、脂環式、芳香族、環状及び複素環系のアミンでのアミド化(HYADD(登録商標)、EP1095064 B1)、O−硫酸化(EP0702699 B1)、内部エステル化(ACP(登録商標)、EP0341745 B1)、脱アセチル化過カルボキシル化(Hyoxx(登録商標)、EP1313772 B1)である。
【0025】
これらの反応を通して得られる誘導体は、出発多糖類の生物学的特徴を保っているにも関わらず、より良好な機械的性質を有する。ヒドロゲル、クリーム、軟膏、フィルム、硬膏剤、不織布等の形態に簡単に処方することもできるため、多様な局所用医薬品の製造が可能となり、個々の治療的な需要に完全に対応させることができる。
【0026】
本発明の目的のために使用されるヒアルロン酸の特徴に関する限り、EP1560854及びWO2007/14784の記載を参照すべきである。
【0027】
手短に要約すると、本発明において使用可能なヒアルロン酸は何からでも得ることができ、例えば雄鶏の鶏冠からの抽出(EP0138572)又は発酵(EP0716688)であり、400〜3000000Da、特に50000〜1000000Daの分子量を有する。
【0028】
本発明の目的であるコンジュゲートの調製に使用可能なヒアルロン酸の誘導体は、以下のものである。
1)有機及び/又は無機塩基との生理学的に活性でもある塩(EP138572 B1)。
2)HYAFF(登録商標):脂肪族、芳香脂肪族、脂環式、芳香族、環状及び複素環系のアルコールとのヒアルロン酸のエステル。エステル化率は、使用するアルコールのタイプ及び長さに応じて変化する(EP216453 B1)。
3)HYADD(登録商標):脂肪族、芳香脂肪族、脂環式、芳香族、環状及び複素環系のアミンとのヒアルロン酸のアミド(EP1095064 B1)。
4)ヒアルロン酸のO−硫酸化誘導体(EP0702699 B1)(AP0971961 A1)。
5)ACP(登録商標):ヒアルロン酸の内部エステル。エステル化率は20%以下(EP0341745 B1)。
6)ヒアルロン酸の脱アセチル化物。N−アセチル−グルコサミン部分を、好ましくは0.1〜30%の脱アセチル化率で脱アセチル化する(EP1313772 B1)。
7)N−アセチル−グルコサミン部分の一級水酸基の酸化から得られるヒアルロン酸のペルカルボキシレート。過カルボキシル化度は0.1〜100%(HYOXX(登録商標)、EP1339753 A1)。
【0029】
特に、ヒアルロン酸−パクリタキセルコンジュゲートは、好ましくは、パクリタキセルとヒアルロン酸のエステルとの共有結合により得られ、化学的に修飾していないヒアルロン酸分子から開始して、有効成分とのコンジュゲートの合成をして初めてヒアルロン酸の考えられ得る修飾を行うことにより得られる。
【0030】
ヒアルロン酸−パクリタキセルコンジュゲートの場合、共有結合は直接的であっても、スペーサによるものであってもよい。特に、ヒアルロン酸−パクリタキセルコンジュゲートを調製するための方法(有効成分であるパクリタキセルをヒアルロン酸又はその誘導体に共有結合させる)は、パクリタキセルとヒアルロン酸若しくはその誘導体との間にスペーサを導入する間接合成又はパクリタキセルとヒアルロン酸若しくはその誘導体との直接合成による方法となり得る。前述したようなヒアルロン酸−パクリタキセルコンジュゲートを合成するための考えられ得る直接的又は間接的な反応スキームは、文献WO2004/035629に詳細に記載されており、本願に必要不可欠な部分と見なされる。
【0031】
ヒアルロン酸−パクリタキセルコンジュゲートの合成を、純粋に例示を目的として、以下のスキーム1に示される方法により説明する。
【化1】

スキーム1
【0032】
前述したように、20%w/wに等しい置換度を有するヒアルロン酸/パクリタキセルコンジュゲートのエステルに対応するヒアルロン酸−パクリタキセルコンジュゲートの使用が好ましい。
【0033】
ヒアルロン酸−パクリタキセルコンジュゲートの合成に関連してスキーム2も以下に挙げる(ブロモ酪酸スペーサを介した置換度20%でのヒアルロン酸とパクリタキセルとのエステル)。
【化2】

スキーム2
【0034】
一方、ヒアルロン酸−5−フルオロウラシルコンジュゲートは、ヒアルロン酸又はその誘導体と有効成分とのスペーサによる間接的な共有結合の形成により得られる。スペーサは、ヒアルロン酸又はその誘導体のカルボン酸基とエステル又はアミド結合を形成する。好ましいスペーサは、ブロモ酪酸又はブロモプロピオン酸である。
【0035】
特に、ヒアルロン酸−5−フルオロウラシルコンジュゲートは、以下の手順に従って、ヒアルロン酸又はその誘導体と5−フルオロウラシルとのスペーサによるエステル結合の形成を介した間接的な結合により得られる。
【0036】
ヒアルロン酸のカルボン酸官能基と反応可能な第2の基も含むスペーサの適切な官能基が、有効成分に属する官能基と反応する。この反応は、活性化を必要とする場合がある。次の段階において、ヒアルロン酸のテトラアルキルアンモニウム塩との無水環境における直接接触により、修飾された有効成分から成る化合物が反応し、ヒアルロン酸のカルボキシル基での脱離基の求核置換反応が生じ、ヒアルロン酸とスペーサとの間にエステル結合が形成される。
【0037】
或いは、最初にヒアルロン酸のカルボキシル基とスペーサとを反応させて(求核置換反応)、引き続いてスペーサを抗腫瘍有効成分の官能基に結合させることが可能である。
【0038】
当該分野の専門家にはその他の方法も周知であり、アミド結合の形成を介したコンジュゲートの形成が、WO2007/014784に詳細に記載されている。
【0039】
前述したように、これらの反応により得られる誘導体は、出発多糖類の生物学的特徴を保っているにも関わらず、より良好な機械的性質を有しており、ヒドロゲル、クリーム、軟膏、フィルム、硬膏剤、不織布等の形態に簡単に処方することもできるため、多様な局所用医薬品の製造が可能となり、個々の治療的な需要に完全に対応させることができる。
【0040】
従って、特に、本発明に従って使用される局所用医薬組成物は、クリーム、ヒドロゲル、軟膏又はこのコンジュゲートを含有する薬用硬膏剤又はフィルムの形態に処方される。これらの製剤は、ヒアルロン酸又はその誘導体と抗腫瘍薬すなわち有効成分とのコンジュゲートの量を、組成物の総質量に対して0.05〜10質量%、好ましくは0.2〜5質量%と想定している。
【0041】
本発明による組成物を100としたその残分は、局所製剤に典型的な薬学的に許容可能な添加剤及び水から成る。
【0042】
本発明による医薬組成物の局所製剤の例は、純粋に例示を目的として以下の表に示される(記載の百分率は質量%である)。
【0043】
【表1】


1.b


1.c

【0044】
【表2】


2.b


2.c

【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
【表5】


5.b


5.c

【0048】
マウスに行った、光線角化症を誘発させた以下のインビトロ試験及びインビボ試験は、ヒアルロン酸又はその誘導体と共役させた抗腫瘍薬すなわち有効成分が有効であり、適用部位に留まり、また全身的に吸収されることなく徐々に放出されることを実証している。このようにして、抗増殖作用を発揮する使用有効成分の重い副作用は、大きく軽減される。更に、ヒアルロン酸の再生、瘢痕形成及び湿潤特性のおかげで、記載の病態の治療において通常生じる刺激作用及び落屑作用は最小限に抑えられる。
【0049】
ここで本発明を、特に同封の図面を参照しながらその好ましい実施形態に従って説明するが、これは例示を目的としており本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0050】
実施例1
20%w/wに等しい置換度を有するヒアルロン酸/パクリタキセル共役エステルのNCTC−2544ケラチノサイトの不死化細胞株及び初代ヒトケラチノサイトに対する抗増殖活性の評価
ヒアルロン酸/パクリタキセルコンジュゲートの抗増殖活性を検証するために、様々なインビトロ実験を適切に行ってNCTC−2544ケラチノサイトの不死化細胞株及び初代ヒトケラチノサイトの増殖活性を評価した。
【0051】
実験計画
特に、試験は、正常な初代ケラチノサイト及び不死化細胞株NCTC−2544のケラチノサイトが
・死ぬ
・その増殖活性が減速する
・生き残る
ヒアルロン酸/パクリタキセルコンジュゲート濃度を特定するために行われた。
【0052】
培養5日目に細胞がコンフルエントになるように、まず最初に最適な細胞播種条件を求めた。
【0053】
次に、細胞を、異なる濃度のヒアルロン酸/パクリタキセルコンジュゲートを事前に溶解させてある培地で単層に培養した。
【0054】
処理後の細胞増殖を、ブロモデオキシウリジンの取り込み試験及びMTT試験により、事前に定めた時点である1日目、3日目、5日目に評価した。
【0055】
材料及び方法
材料
ヒアルロン酸/パクリタキセルコンジュゲート:20%w/wに等しい置換度を有するヒアルロン酸/パクリタキセル共役エステル
細胞株
NCTC−2544ケラチノサイトの不死化細胞株
初代ヒトケラチノサイト
方法
ヒトの皮膚生検試料からの正常なケラチノサイトの単離
PBS含有抗生物質中での様々な洗浄後、皮膚生検試料から皮下脂肪組織を除去し、小さな皮膚片にカットした。これらの皮膚片を、ディスパーゼによる30分間に亘る消化に供した。処理の最後に、皮膚をその下の真皮から分離し、トリプシンによる10分間に亘る消化に供した。
NCTC−2544培養物
細胞は、20%のウシ胎児血清、1%のP/S(ペニシリン/ストレプトマイシン)、1%のグルタミンを補充したDMEM培地(ダルベッコ変法イーグル培地)中でインビトロで培養された。
【0056】
ブロモデオキシウリジン取り込み試験(BRDU)
ブロモデオキシウリジン(BrdU、チミン類似体)の取り込み後、細胞を、抗BrdU抗体による標識に供し、引き続いてプレートで分析した。BrdUでの標識は、細胞増殖指数として使用される。
【0057】
MTT試験
細胞を、0.5mg/mlのMTT(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾール)溶液で3時間に亘ってインキュベートした。インキュベーションの最後に、MTT色素を、抽出溶液(90%イソプロパノール、10%DMSO)を使用して細胞から抽出した。色素を、540nm/660nmで読みとる。
【0058】
細胞播種試験
不死化細胞株(NCTC)及び正常なケラチノサイトを、3つの異なる濃度(1ウェルあたり3000、6000、12000個の細胞)で24個のウェルを有するプレートで平板培養した。次に、細胞のコンフルエンスを顕微鏡分析により評価した。
【0059】
ヒアルロン酸/パクリタキセルコンジュゲート溶液の調製
ヒアルロン酸/パクリタキセルコンジュゲートを、5質量%のグルコセート(glucosate)溶液に溶解させた。引き続いて、ヒアルロン酸/パクリタキセルコンジュゲート溶液を、直径25mm、カットオフ径0.20ミクロンを有する酢酸セルロースCod.Albet社)で濾過した。
【0060】
5質量%のグルコセート溶液の調製
5gの無水グルコースを計量し、100mlの蒸留水に溶解させた。溶液を0.22ミクロンのフィルタで滅菌した。
【0061】
ヒアルロン酸/パクリタキセルコンジュゲートでの処理
異なるヒアルロン酸/パクリタキセルコンジュゲート濃度で6通りの実験を行った。
a)10mg/ml、6mg/ml、2mg/ml
b)2mg/ml、1mg/ml、0.5mg/ml
c)0.125mg/ml、0.050mg/ml、0.025mg/ml
d)0.025mg/ml、0.0125mg/ml、0.005mg/ml
e)0.001mg/ml、0.0005mg/ml
f)500ng/ml、50ng/ml、5ng/ml
【0062】
結果
材料及び方法の項に記載したように、細胞は、3つの異なる濃度(1ウェルあたり3000、6000、12000個の細胞)で24個のウェルを有するプレートに播種された。次に、顕微鏡分析により細胞のコンフルエンスを評価した。この評価により、1ウェルあたり6000個の細胞に等しい初期播種濃度で、播種から5日後にコンフルエンスが達成されることが判明した。
【0063】
ヒアルロン酸/パクリタキセルコンジュゲートの活性
1通り目の選択濃度
10mg/ml、6mg/ml、2mg/ml
2通り目の選択濃度
2mg/ml、1mg/ml、0.5mg/ml
上記の濃度の場合、薬剤の投与から24時間後、顕微鏡でウェルを観察したところ、細胞は、全ての処理濃度で死滅していると判明した。
【0064】
細胞増殖試験は、どの場合においても、0.4%のSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)溶液で処理された細胞を陽性対照として使用して行われた。この分析の結果により、処理された試料の全てについて細胞死が確認された。
3通り目の選択濃度
0.125ml/ml、0.050mg/ml、0.025mg/ml
4通り目の選択濃度
0.025mg/ml、0.0125mg/ml、0.005mg/ml
5通り目の選択濃度
0.001mg/ml、0.0005mg/ml
【0065】
これらの試験の全てにおいて、ヒアルロン酸−抗腫瘍薬コンジュゲートは、細胞の播種に続いて朝10時に投与された。15時、つまり5時間後、細胞の一部に取り込ませるためにBrdUを投与する時点で、これらの細胞は既に丸くなっているように見えた。それにも関わらず培養基に依然として接着していたとしても、既定の試験を行った。
【0066】
BrdUの取り込みを通して細胞増殖を評価する試験では、試験した全ての濃度において、陽性対照のウェル(死滅した細胞を含む)に匹敵する値が得られ、従って、ヒアルロン酸/パクリタキセルコンジュゲートの存在下において細胞増殖活性は見られなかった。
【0067】
同じ結果が、MTT試験で得られた。
6通り目の選択濃度
500ng/ml、50ng/ml、5ng/ml
【0068】
図1及び2に示されるグラフから見て取れるように、これらの濃度は、不死化ケラチノサイト及び正常な初代ケラチノサイトの両方の増殖活性に影響を与える。
【0069】
特に、濃度500ng/mlでは、時間と共に細胞増殖が大幅に減退する。増殖に関連する値は、実際、1日目〜5日目にかけて大きく低下した。
【0070】
濃度50ng/mlでは、特に5日目から細胞増殖の減速が起こる。この事象は不死化ケラチノサイトで明白であったが、初代ケラチノサイトでは、既に処理の3日目から細胞増殖における減退が観察され始めている。
【0071】
濃度5ng/mlでは、不死化ケラチノサイト(NCTC−2544)において増殖活性に大きな影響はないように見える。細胞は生き残り、その増殖活性を5日目まで維持している。これに対して、正常な初代ケラチノサイトの場合、細胞増殖における減退が3日目から観察され始めている。
【0072】
結論
前述の結果を踏まえると、投与から24時間以内に細胞を死滅させることから、500ng/mlを超える濃度は細胞にとって毒性が高いと結論づけることができる。5ng/ml未満の濃度では不死化細胞に抗増殖効果は生じない。これに対し、濃度が5ng/mlよりはるかに低いと、正常なケラチノサイトに抗増殖効果は生じない。
【0073】
実施例1と同様の試験も行うことにより、NCTC−2544ケラチノサイトの不死化細胞株及び初代ヒトケラチノサイトに対する、15%w/wに等しい置換度を有するヒアルロン酸/5−フルオロウラシルコンジュゲートのエステルの抗増殖活性を評価する。これらの予備試験により、ヒアルロン酸/パクリタキセルコンジュゲートのものに匹敵する傾向を裏付ける結果が得られた。
【0074】
実施例2
光線角化症のインビボモデルにおけるヒアルロン酸/パクリタキセルコンジュゲートの活性の評価
過剰増殖性皮膚疾患の治療、より具体的には光線角化症の治療におけるヒアルロン酸/パクリタキセルバイオコンジュゲートの活性を評価するために、光線角化症(AK)のモデルを準備した。このモデルは、SHK−R1´無毛マウスにおいて、比較的短期間で必ず扁平上皮癌(SCC)に変質し、文献ではこのタイプの実験に適しているとされている(De Gruijl FR and Forbes PD. BioEssays 1995; 17:651-60; Kligman LH and Kligman AM. JNCI 1981; 67:1289-97)。既に説明したように、実際、光線角化症は前癌形態であり、扁平上皮癌(有棘細胞癌としても知られる)に変質すると考えられている。
【0075】
材料及び方法
実験プロトコル
20匹の6〜7週齢のSHK−R1´マウスを使用し、4つの群(1群あたり5匹)に分けた。
A群:対照
B群:製剤1aとして調製されたヒアルロン酸/パクリタキセルコンジュゲート1%のクリームで治療されるマウス
C群:Efudex(登録商標)軟膏(5−フルオロウラシル)で治療されるマウス
D群:Connettivina(登録商標)クリーム(ヒアルロン酸0.2%)で治療されるマウス
【0076】
後者の群により、試験対象の製剤の陽性の効果が、その治癒特性が周知であるヒアルロン酸の存在だけによるものか否かを評価することができる。
【0077】
パクリタキセル単独での局所的な使用は不可能であったが、これはCremoforに可溶化させなくてはならないことから有効成分の刺激作用が強すぎ、この投与形態には全く適していないからである(Beri R, Rosen FR, Pacini Mj, Desai SR. Severe dermatologic reactions at multiple sites after paclitaxel administration. Ann. Pharmacother 2004; 38, 238-41; Baycal C, Erkel E, Tutar E, Yuce K, Ayhan A. Cutaneous fixed drug eruption to paclitaxel; a case report. Eur. J. Gynaecol. Oncol. 2000; 21, 190-1)。
【0078】
全てのマウスの背部に週3回、30分間に亘ってUVB照射源Jelolamp FS40(Jelosil Skin UVS 311nm、Jelosil srl、Vimodrone、イタリア)を使用してマウスから30cm離れた位置から広帯域で照射を行った。照射源から各マウスまでの距離を計算することにより(照射源下でマウスは異なる位置にいるため、距離は様々である)、照射量は、540〜1080mJ/cm2に等しいと求められた。約2週間後、マウスは、その背中に皮膚紅斑のはっきりとした兆候を有していた。
【0079】
全てのマウスにおいて、8〜9週間後、その背中及び頭部に病変が発現し、臨床的には、不規則でほぼイボ状の表面を有する角質増殖性のプラーク(寸法2.5x1cm)に見えた。これらの病変の組織学的検査により(図3及び図4)
・顆粒層肥厚を伴う表皮過形成。アカントーシス及び角質増殖
・細胞学的異型性及び真皮への浸潤の兆候の欠落
・大量のケラチン性物質を含有する大型の嚢胞の存在。場合によっては、表皮の外側での外反を伴う
が明らかとなった。
【0080】
15〜16週間後、マウスの背中及び頭部に、半透明の外観及び寸法1〜2mmを有する丘疹性のカップ状の病変が出現した。
【0081】
UVB照射から15〜18週間後、全てのマウスが角質増殖性のプラークを皮膚の表面に発現しており、これは、問題となる病態の顕在化に起因すると考えられる。この時点で、B、C、D群を、上記の製剤で治療した。
【0082】
製剤を、皮膚の病変部位に連続14日間に亘って適用した。
【0083】
治療期間中、Efudex(登録商標)軟膏で治療したC群のマウス全ての死亡が、10日目〜13日目の間に確認された。これは大量に全身的に吸収される5−フルオロウラシルの高い毒性を更に実証している。一方、その他の群のマウスはどれも製剤に対して不耐性の兆候を見せず、自然死はなかった。
【0084】
1%のヒアルロン酸/パクリタキセルコンジュゲートでの治療は、パクリタキセル単独の場合とは異なり、目に見える皮膚の反応をマウスに引き起こさなかった。
【0085】
組織学的な観点から言うと、多数の好酸性多形核白血球の存在が上記の組織標本で観察され(図5)、これは炎症が進行していることを示し、皮膚の修復期の前駆症状である。他方で、Connettivina(登録商標)クリームで治療したマウス群及び未治療のマウス群の両方において、皮膚病変の進行が観察された。
【0086】
結果
上記の治療群から採取した生検試料の組織学的分析から、以下の結論に達することができる。
・光線角化症から扁平上皮癌への変質の減速において、Connettivina(登録商標)クリームが未治療の場合より優れているということはない。
・Connettivina(登録商標)クリーム及び未治療基準群よりも、1%のヒアルロン酸/パクリタキセルコンジュゲートのほうが変質の大幅な減速において明らかに優れている。好酸性多形核白血球の存在が先駆けて起こり、これは光線角化症の角質増殖性のプラークの治癒に必須の肉芽組織の形成段階、再上皮化及び再構築に不可欠なものである。
【0087】
従って、以下のことを主張することができる。
・選択された動物モデルにおいて、クリームビヒクル中の1%のヒアルロン酸/パクリタキセルコンジュゲートによる治療は、角質増殖性のプラークの扁平上皮癌への変質を大幅に減速する。
・更に、クリームビヒクル中の1%のヒアルロン酸/パクリタキセルコンジュゲートによる治療は、プラークに侵された皮膚組織の肉芽形成、再上皮化及び再構築に必要な好酸性多形核白血球の存在を誘発する。
・提示した製剤は、局所使用しても皮膚刺激の問題を起こさない。
・マウスは死亡しなかった又は苦しむ兆候を見せなかったことから、パクリタキセルが実質的にしかるべき場所で放出され且つ大量に全身吸収されることはないと推定することができる。
【0088】
結論
結論として、本願に記載のクリームビヒクル中の1%のヒアルロン酸/パクリタキセルコンジュゲートは、角質増殖性の病変を修復し、同時に病態が腫瘍性のものに変質するのを大幅に減速したことから、光線角化症の治療に有効であると証明された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過剰増殖性皮膚疾患の局所治療のための医薬組成物の調製における、ヒアルロン酸又はその誘導体と抗腫瘍薬とのコンジュゲートの使用。
【請求項2】
前記抗腫瘍薬が、パクリタキセル又は5−フルオロウラシルから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記抗腫瘍薬が、パクリタキセルであることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
光線角化症、乾癬、又は扁平上皮癌等の現場における腫瘍形態の治療における使用を特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
光線角化症の治療における使用を特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記医薬組成物が、前記コンジュゲートを含有するクリーム、ヒドロゲル、軟膏の形態又は薬用硬膏剤若しくはフィルムの形態であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
ヒアルロン酸又はその誘導体と、抗腫瘍薬との前記コンジュゲートが、前記組成物の総質量に対して0.05〜10質量%であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
ヒアルロン酸又はその誘導体と、抗腫瘍薬との前記コンジュゲートが、前記組成物の総質量に対して0.2〜5質量%であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項9】
前記ヒアルロン酸−パクリタキセルコンジュゲートが、20%w/wに等しい置換度を有する共役エステルに対応することを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
前記ヒアルロン酸−5−フルオロウラシルコンジュゲートが、15%w/wに等しい置換度を有する共役エステルに対応することを特徴とする、請求項1に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−530869(P2010−530869A)
【公表日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512804(P2010−512804)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際出願番号】PCT/IB2008/001706
【国際公開番号】WO2009/001209
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(507294993)フィディア ファルマチェウティチ ソシエタ ペル アチオニ (3)
【Fターム(参考)】