説明

過塩基化スルホン酸塩を用いたハイドロフォーミング流体の特性を改善する方法

少なくとも1種の過塩基化清浄剤と少なくとも1種の摩擦調整剤をハイドロフォーミング・プロセスに使用される潤滑剤に添加する同潤滑剤を改善する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2005年4月5日に出願された米国仮出願番号60/668,066に対する優先権を主張する。
1.発明の背景
本発明は、金属成形プロセスに使用される潤滑剤、特にハイドロフォーミング・プロセスに使用される潤滑剤に関する。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の説明
機械加工を受ける金属部品は装置の磨耗を減らすために潤滑を必要とする。これらの金属加工の例として曲げ加工、スエージ加工、タッピング加工、延伸加工、ハイドロフォーミング等が挙げられる。比較的複雑な部品を製造する際にはハイドロフォーミングは特に重要なプロセスである。管材のハイドロフォーミングでは、被加工物は工具の凹部に設置され、同凹部形状は同部品の外部形状に対応している。同凹部はプレス機のラムの動きによって密閉され、それと同時に水性流体が管材の両端から軸に沿って流れるように圧入される。同管材は内部圧力が上昇するに従い内部凹部を満たすように膨張して望ましい形状の部品となる。同プロセスの通常型の延伸プロセスに対する利点はより大形の部品を成形できる点であり、これが全部品点数および溶接部数の削減、それによる全部品重量の低下につながる。
【0003】
管材のハイドロフォーミング(THF)には以下の3種類の潤滑剤が使用される:曲げ加工用潤滑剤、圧力側用水性流体および金型側用潤滑剤。曲げ加工用潤滑剤は、THF実施前の段階で部品の予備曲げ加工のために管材内部に注入される。圧力側用水性流体は管材内部で圧力伝達のために使用される。同流体にとって潤滑性は非常に重要ではなく、防食性および高圧安定性が極めて重要である。最後に、金型側用潤滑剤はTHF作業での主要な成形用流体であり、被加工物と金型の間を潤滑する。金型側用潤滑剤の需要は、水性流体の内部圧次第で大きく変化する。更に、部品が複雑になるに従い、同潤滑剤の需要も増加する。
【0004】
ハイドロフォーミングでの潤滑と摩擦の制御は、管材料を内部圧の上昇に従って金型内を摺動させるために極めて重要である。適切に潤滑されない限り、ハイドロフォーミング処理された部品は、成形工程中で時期尚早に狭まったり破損する可能性がある。潤滑剤を適切に選択するためには多くの因子を考慮する必要がある。これらの因子の例として、成形用の材料、油だめの管理、清浄性、防錆性および環境容認性が挙げられる。ハイドロフォーミング・プロセスにおいては、摩擦係数は圧力、速度、摺動距離、材料特性、およびハイドロフォーミング用金型と管材の両方の表面仕上げ状態によって変化する。ハイドロフォーミング・プロセスでの潤滑においては明確に異なる領域(案内領域と膨張領域を含む)の存在が観察されている。ハイドロフォーミング試験によってこれらの二領域は相反することが観察されている。すなわち、膨張領域性能が上昇するに従い案内領域性能は低下する。
【0005】
米国特許出願番号2003/0181340A1は、液膜および固膜の潤滑剤を使用する金属部品ハイドロフォーミング・プロセスを開示している。同発明で使用される潤滑剤は特に金型側用潤滑に有用である。同プロセスは、延性の金属部品を液膜あるいは固膜のいずれかの潤滑剤でオーバーコートする工程を包含する。液体潤滑剤は好ましくは油および随意的に表面活性剤を包含する。固体潤滑剤は好ましくは硬質ワックスおよび随意的に表面活性剤を包含する。
【0006】
Ahmetoglu,M他は管材のハイドロフォーミング技術の基礎をレビューし、各種の因子(例えば、管材料特性、予備成形形状、潤滑およびプロセス制御)が製品の設計および品質にどのように影響するかをレビューしている(SAE International Congress and Exposition,Detroit, MI,1999,199−01−0675)。更に、プロセス変数と達成可能な部品形状との間の関係も議論されている。最後に、現在技術と将来での開発における重要な問題も例を挙げて議論されている。
【0007】
Dalton,Gはハイドロフォーミングにおける潤滑剤の役割について議論している(Automotive Tube Conference,1999年4月26,27日)。潤滑剤は、曲げ加工において管材とハイドロフォーミング用金型の間に、また圧力媒体内に使用されている。これらの潤滑剤は互いに相溶性があり、摩擦と金型の磨耗を減少させ、溶接および塗装を可能にしなければならないこと、また潤滑剤を適切に選択することによりハイドロフォーミング・プロセスが能力およびコスト効果を発揮するとことが述べられている。重要な変数、これらの評価方法、最良の潤滑剤の選択で考慮すべき因子が概説されている。
【0008】
Bartley,G他はハイドロフォーミング・プロセスの基礎事項、装置、操作因子、および自動車産業に対する利点をのべ、そこで被加工物としてのアルミニウムの押出成形品を特に詳しく述べている(Light Metal Age,58(7,8):24,26,28,30,32,34,36〜37,2000年)。
【0009】
Koc,M他はハイドロフォーミング・プロセスに関する技術的レビューを行い、例えば材料、摩擦学、装置、工具などの各種のトピックスの初期の段階から極最近に至るまでの進展をまとめている(Journal of Materials Processing Technology,108:384393,2001年)。
【0010】
Khodayari,G他は、通常のベンチ試験(ねじり圧縮)とハイドロフォーミングをシミュレートする直管の金型の角部を埋める試験(正方形断面の金型内にハイドロフォーミング処理を受けた同一径の直管を入れて内部に圧力を加えて同直管を角部方向のみに膨張させる)の比較と相関を調べて摩擦係数を観察している(Analyzing Tubes, Lubes, Dies and Friction TPJ−The Tube and Pipe Journal,2002年10月10日)。
【0011】
Ngaile,G他は遷移領域および膨張領域での工具/被加工物の界面に見られる潤滑機構を議論している(Journal of Materials Processing Technology,146(1):108〜11,2004年)。遷移領域および膨張領域での適切な潤滑システムが同界面での変形および物質移動の機構に基づいてレビューされている。管材のハイドロフォーミング用潤滑剤および金型のコーティングの性能を評価するための2種類のモデル試験が詳述されている。これらのモデル試験のための金型形状の最適化は、有限要素法での敏感性分析と実験的な検証に基づいている。これらの試験の詳細が述べられ、またそれらの開発も議論されている。
【0012】
Ngaile,G他は、管材ハイドロフォーミング・プロセスでの遷移領域および膨張領域内の現実的な摩擦学的条件下での潤滑剤性能を評価するための2種類のモデルを提唱している(Journal of Materials Processing Technology,146(1):116〜123,2004年)。遷移領域のためのモデル試験は、半球高さを制限する(limiting dome height,LDH)試験方法の原理に基づいている。膨張領域のためのモデル試験は、著者等によって開発された梨形の管材の膨張試験(Pear−shaped tube expansion test,PET)によって実施された。4種類の潤滑剤が試験され、以下に基づいて優劣が決められた(a)半球の肉厚減少挙動(LDHに関して)、(b)管材の肉厚減少、管材の突出高さ、管材の破裂圧(PETに関して)および(c)表面形状。これらの潤滑剤の摩擦係数は、実験結果と有限要素(FE)結果をマッチさせることにより推定した。
【0013】
Tung,S.C.他はエンジン、変速機、動力伝達装置などのような典型的なパワートレインに関する各種の潤滑側面、ならびにこれらの潤滑および表面の工学的なコンセプトを自動車用の結合されたパワートレイン・システムへの統合をオーバービューしている(Tribology International,37(7):517〜536,2004年)。そこで、最近の工業的な進展の中には高強度で高密度の複合材料、大量の液体を使用する成形およびハイドロフォーミングの技術、構造的な接着結合、大形の構造部品の成形能力があると指摘した。
【0014】
過塩基化された金属スルホン酸塩は、防錆剤および清浄剤として一般的に潤滑油組成中に使用されている。このようなスルホン酸塩は、エンジンでの燃焼の際に生じた酸類を過度に急速なアルカリ性の低下を伴うことなく中和する能力を有することが特に望ましい。
【0015】
石油系のスルホン酸の正塩を潤滑油組成中に添加剤として使用することはよく知られている。第二次世界大戦中、マホガニーあるいは石油から得られたスルホン酸からのスルホン酸正塩が内燃機関のクランクケース用の潤滑油中に清浄化添加剤として使用された。このようなスルホン酸塩中の金属としてカルシウムあるいはバリウムが使用された。その後、対応する金属スルホン酸塩の2倍までの量の金属を含有するスルホン酸塩生成物がより高い清浄力と酸性不純物の中和力を有することが分かり、従って同正塩に取って代わった。より最近では、対応する金属スルホン酸正塩の3〜20倍あるいはそれ以上の量の金属を含有し完全に油溶性のスルホン酸塩が開発されている。これらの過塩基化スルホン酸塩は「overbased」、「superbased」および「hyperbased」と形容されている。
【0016】
これまで長きにわたって、過塩基化スルホン酸塩を生成するための多くの方法が開示されてきている。一般的には、このような過塩基化スルホン酸塩は、助触媒と溶剤をスルホン酸正塩と過剰量のアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属のいずれかの金属塩基と混合し、同混合物を加熱し、同反応生成物を十分な量の炭酸ガスにより炭酸化することによりコロイド状に分散した炭酸塩としての金属塩基の同反応生成物中の濃度を上昇させ、その結果生じた生成物をろ過している。いくつかの特定の方法を以下のパラグラフに要約する。
【0017】
米国特許3,488,284は、酸性ガスおよびアルコール助触媒の存在下で油溶性スルホン酸を金属塩基で処理することにより得られる油溶性塩基金属錯体の生成プロセスを開示している。同プロセスは、約7あるいはそれ以上の「金属比」を有する組成物を含有する油溶性金属を生成すると述べられている(金属比:生成物中のスルホン酸正塩の形の金属量に対する全金属の比率)。
【0018】
米国特許3,446,736は、炭酸カルシウム試薬をメタノール中に生成し同試薬をスルホン酸あるいはそれの塩と反応させることによるスルホン酸カルシウム/炭酸カルシウムの生成を開示している。例えば、メタノール中で適切な含カルシウム無機化合物を約30°C未満の温度下で炭酸ガスで炭酸化することによって得られる炭酸カルシウム試薬を鉱油中のスルホン酸あるいはそれの塩と混合させる。同混合物をメタノールの沸点を越える温度まで加熱して反応を促進し、次いでメタノールを蒸留により除去する。
【0019】
米国特許3,496,105は、過塩基化物質の生成において、例えば油溶性のスルホン酸あるいはそれの塩のような過塩基化される化合物、実質的に不活性の有機溶剤、周期律表でII族の金属塩基、アルコールあるいはフェノール系の助触媒、および酸性物質(例えば、CO、HS、SOあるいはSO)を一緒に混合することを開示している。同酸性物質を他の反応物質と混合する温度は使用助触媒の種類によって変わる。
【0020】
米国特許3,907,691は、中性の金属スルホン酸塩と不活性な炭化水素系溶剤を混合し、同混合物にアルカリ土類の金属塩基および1〜4個の炭素原子を有するアルカノールを添加し(そのときの温度および圧力は使用されたアルカノールの大半を残すように決められる)、同反応混合物を炭酸ガスに、それの同混合物中への吸収が停止するまであるいは実質的に低下するまで、接触させ、生じた生成物を加熱して残存するアルカノールおよび反応水を除去することにより塩基化プロセスを簡便に実施できることを開示している。
【0021】
米国特許4,137,184は、炭酸ガスで炭酸化された周期律表II族の金属のスルホン酸塩の生成を開示しており、そこでは、溶剤、メタノールおよび周期律表II族の金属の水酸化物の存在下で一定の期間中周囲温度下で炭酸化処理を行う。炭酸化された生成物は、より高い温度にまで加熱されて溶剤、メタノールおよび水を除去する。炭酸ガスを、それの全量が消費されてオフガスとして出てこない速度で同混合物中に吹き込む。
【0022】
米国特許4,328,111は、過塩基化された金属スルホン酸塩、フェネートあるいはそれの混合物を含有する塩基性化合物と有機カルボン酸、無水有機カルボン酸、リン酸、リン酸エステル、チオリン酸エステルあるいはそれの混合物との反応生成物からなる組成物を開示している。
【0023】
米国特許4,880,550は、以下の工程からなる過塩基化スルホン酸塩の炭酸化物を生成する方法を開示している:(1)低分子量のアルカノール、アルキル基あるいはアルカリル基で置換されたスルホン酸あるいはスルホン酸塩化合物からなる第一の混合物を形成する、(2)塩基性のカルシウム化合物を上記の第一の混合物に添加して第二の混合物を形成する(この場合のカルシウム化合物の添加量は中性のスルホン酸カルシウムを生成するために必要な量の少なくとも10倍)、(3)同第二の混合物をリフラックス温度に加熱する、(4)同第二の混合物をリフラックス温度で炭酸化して炭酸化生成物を得ると同時に炭酸化反応により生成した水を連続的に除去する、(5)炭酸化反応を停止した後、アルカノール除去のために十分な温度にまで炭酸化生成物を加熱する、そして(6)炭酸化生成物から固形分および溶剤を除去する。
【0024】
英国特許2,082,619Aは高度に塩基性のスルホン酸カルシウムを生成するプロセスを開示している。同プロセスでは、油溶性のスルホン酸あるいはアルカリ土類金属のスルホン酸塩、水酸化カルシウム、1〜4個の炭素原子を有するアルコール、芳香族あるいは脂肪族の炭化水素溶剤および水からなる混合物を形成し;同混合物を炭酸ガスと水酸化カルシウムの反応が完結する直前まで温度を25〜30°Cに維持しつつ炭酸ガスで炭酸化し、この時点で水酸化カルシウムを更に添加し;約50〜100°Cの範囲内の温度で炭酸化を完結し(この際、水酸化カルシウムの5〜20質量%の水を添加する);そして生じた混合物を高温(例えば約130°C超)まで加熱して水、アルコールおよび溶剤を除去する。
【0025】
前述の文献は、全面的に本明細書内に引用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
発明の要約
本発明は、ハイドロフォーミング・プロセスに使用される潤滑剤に関し、特にこれらの潤滑剤を添加剤(特に過塩基化されたスルホン酸塩のような過塩基化清浄剤と摩擦調整剤の組み合わせ)によって改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の第1の態様は、ハイドロフォーミング・プロセスに使用される潤滑剤を改善する方法であり、同方法は少なくとも1種の過塩基化清浄剤と少なくとも1種の摩擦調整剤を同潤滑剤に添加する工程を包含する。同過塩基化清浄剤は好ましくは過塩基化されたスルホン酸塩、カルボン酸塩、フェネート、サリチル酸塩あるいはこれらの混合物、より好ましくは過塩基化されたスルホン酸塩であり、また摩擦調整剤は好ましくは脂肪酸エステル、脂肪酸エステルとエトキシ化アミンの反応生成物、過塩基化カルボン酸、モリブデンジチオカーバメート誘導体あるいはこれらの混合物である。
【0028】
本発明の他の態様は、ハイドロフォーミング・プロセスに使用される潤滑剤であり、同潤滑剤は上述のように少なくとも1種の過塩基化清浄剤と少なくとも1種の摩擦調整剤を包含する。
【0029】
本発明の更に他の態様は、金属管材をハイドロフォーミングする方法の改善であり、同改善は上の方法に上述のように少なくとも1種の過塩基化清浄剤と少なくとも1種の摩擦調整剤を包含する潤滑剤を使用することによって達成される。
【0030】
好ましい形態の記述
本発明の過塩基化清浄剤は好ましくはアルカリ土類金属のスルホン酸塩であり、より好ましくは過塩基化スルホン酸カルシウム、過塩基化スルホン酸マグネシウム、過塩基化スルホン酸バリウム、あるいはこれらの2種以上の混合物である。
【0031】
アルカリ土類金属の過塩基化スルホン酸塩は、中性のアルカリ土類金属のスルホン酸塩を過塩基化してアルカリ土類金属の炭酸塩(例えば炭酸カルシウムあるいは炭酸マグネシウム)あるいはアルカリ土類金属のホウ酸塩(例えば、ホウ酸マグネシウム)を生成することにより得られる。
【0032】
金属スルホン酸塩の塩基数は特に制限はないが、通常は約5〜500mgKOH/g、好ましくは約300〜400mgKOH/gの範囲内である。
【0033】
本発明の過塩基化スルホン酸カルシウムを生成するプロセスは、通常は油中のスルホン酸カルシウムあるいはスルホン酸(便宜上、以下の説明ではカルシウム化合物に焦点を当てるが、関連業界の専門家は類似により他のアルカリ土類化合物あるいはそれらの混合物にも適用できることを理解されよう)の溶液と酸化カルシウムあるいは水酸化カルシウムを反応させ、反応期間中に反応混合物中に炭酸ガスを吹き込んでスルホン酸カルシウム中に過剰量の炭酸カルシウムを導入する。これが生成物に対して望ましい予備のアルカリ性を与えることになる。同プロセスでは、炭酸カルシウムのミセル状分散の形成を促進するために低分子量のアルコール(例えばメタノール)と水の添加が有利であることが分かっている。
【0034】
水酸化カルシウムを商業規模のプロセスで唯一の予備アルカリ性付与剤として反応混合物中に添加する場合には、高TBN生成物を得るためにこれを過剰量使用する。
【0035】
分散剤はカルサイトの過塩基添加剤の生成プロセスおよび生成物のための随意的な成分である。好ましい分散剤は、ヒドロカルビルで置換されたコハク酸あるいはそれの無水物と少なくとも1個の第1級あるいは第2級のアミノ窒素(例えば、ポリアルキレンポリアミンは置換されたポリアルキレンポリアミンと同様にしてこの要求を満たし、このことについてはアンモニアでもよい)を含有するアミンとの反応生成物である。ビススクシンイミド類も随意的に使用される分散剤として有用である。ビススクシンイミド類は、ヒドロカルビルで置換されたコハク酸あるいはそれの無水物と少なくとも2個の第1級および/あるいは第2級の窒素を含有するアミンとの反応によって得られる。このようなビススクシンイミド類の例として、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、N−メチルジプロピレントリアミンなどのポリイソブテニルスクシンイミド類が挙げられる(例えば米国特許3,438,899を参照されたい)。上述の各種分散剤は単独あるいは混合物で使用してよい。
【0036】
本発明の過塩基化スルホン酸塩添加剤と組み合わせて用いることが可能な摩擦調整剤の例として、脂肪酸エステル及びアミド、有機モリブデン化合物、モリブデンジアルキルカルバメート、モリブデンジアルキルジチオリン酸等々が挙げられる。モノオレイン酸グリセロールおよびトリエタノールアミンと反応したオレイン酸は特に好ましい。
【0037】
本発明の潤滑剤添加剤は、ハイドロフォーミング流体に使用される典型的な他の種類の添加剤と組み合わせて使用できる。このような組み合わせは、実際、望ましい特性の改善に向けて相乗効果をもたらす。この種の添加剤の例として分散剤、防錆剤、酸化防止剤、殺生物剤、極圧(EP)剤、磨耗防止(AW)剤などが挙げられるが、これらに限られない。
【0038】
分散剤の例として、ポリイソブチレンスクシンイミド、ポリイソブチレンコハク酸エステル、マンニッヒ塩基無灰分散剤などが挙げられる。
【0039】
防錆剤の例としてポリオキシアルキレンポリオールなどが挙げられる。
【0040】
酸化防止剤の例として、アルキル化ジフェニルアミン、N−アルキル化フェニレンジアミンが挙げられる。第2級ジアリルアミンはよく知られた酸化防止剤であり、使用可能な第2級ジアリルアミンの種類に制限は無い。酸化防止剤のその他の例として、ヒンダードフェノール型で油溶性の銅化合物などが挙げられる。
【0041】
殺生物剤の例として、トリアジン、フェノール、モルフォリン、「フォルムアルデヒド放出剤(加水分解してフォルムアルデヒドと他の水性溶液中で非永続性残留物を生成する化合物)」、アゾニアトリシクロデカン、オマジン、オキサゾリジンなどが挙げられるが、これらに限られない。
【0042】
本発明は、ハイドロフォーミングに適用された場合、膨張領域および/あるいは案内領域での状態を改善する過塩基化スルホン酸塩添加剤と有機の摩擦調整剤の使用法にも関する。
【0043】
以下の説明で使用される用語を以下に規定する。
名称 説明
参照潤滑剤#1 市販のハイドロフォーミング用潤滑剤(液体、1200cSt)
参照潤滑剤#2 市販のハイドロフォーミング用潤滑剤(固体)
C300C 過塩基化スルホン酸カルシウム(結晶、300TBN)
C400A 過塩基化スルホン酸カルシウム(非結晶、400TBN)
M400A 過塩基化スルホン酸マグネシウム(400TBN)
B70A 過塩基化スルホン酸バリウム(70TBN)
GMO モノオレイン酸グリセロール
OA/TEA トリエタノールアミンと反応したオレイン酸
COB40 過塩基化カルボン酸カルシウム(トール油から生成)
Mo(DTC) チオ酸アミドモリブデン錯体の混合物
【0044】
案内領域(部品供給領域):部品が膨張処理を受ける領域に向けて金型内に供給される領域。
【0045】
膨張領域:部品が不規則な形状に膨張し、肉厚の減少に伴って表面積が増加する領域。
【0046】
遷移領域:案内領域と膨張領域の間の領域。同領域は低摩擦係数を必要とし、また摺動と膨張が起こる領域。
【0047】
試験法
ねじり圧縮(遷移領域)試験:ねじり圧縮装置では、D2鋼製の環状供試材を潤滑剤が塗られた(9,978±78mg/ft、潤滑剤層があふれる状態)平板状冷延鋼(CRS)供試材に対して回転させた。同試験は、5000±250psiの界面圧力、8.9rpmの回転速度で実施した。試料は最大で1000秒間あるいは潤滑剤層が破損するまで試験された。潤滑剤層の破損は、摩擦係数(COF)が0.20あるいは0.30に達するまでに要する時間として定義される。各々の試験では4個の供試材を試験した。ハイドロフォーミングに適用される場合、破損するまでの時間が長ければ長いほど同潤滑剤は遷移領域(案内領域と膨張領域の間の領域)で高い性能を発揮する。
【0048】
案内領域試験:案内領域試験では、管状の供試材が試験される(長さ:101mm(4.0インチ)、直径:57mm(2.25インチ)、肉厚:2mm(0.0787インチ)、低炭素熱延鋼材1010から切断し、160トンの水圧プレス内に挿入し、ラム速度65mm/秒、内部圧600バールの条件下で成形)。摺動距離140mmにわたって摩擦計数を測定した。試験前の同管状供試材の最大および平均表面粗さはRmax=9.4μmおよびRa=1.1μmであった。供試潤滑剤は、試験直前に小型の塗装用ブラシで塗布した(塗布してから試験の間の時間は3〜5分)。試験装置は制御された状況下で使用したわけではないが、温度および湿度は各々約75°Fおよび15%であった。ハイドロフォーミングに適用される場合、摩擦係数が低ければ低いほど同潤滑剤は案内領域(部品供給領域)で高い性能を発揮する。
【0049】
膨張領域試験:膨張領域試験では、管状の供試材が試験される(長さ:250mm(10インチ)、直径:57mm(2.25インチ)、肉厚:2mm(0.0787インチ)、低炭素熱延鋼材1010から切断し、梨形の金型内に挿入し、破裂するまで内圧を加える。金型の挿入部は直径が57mm、有効長さが100mmの供試管を試験できるように設計されている。本試験で使用された鋼材の膨張は小さいので、膨張高さの代わりに破裂圧力を測定した。試験前の同管状供試材の最大および平均表面粗さはRmax=9.4μmおよびRa=1.1μmであった。供試潤滑剤は、試験直前に小型の塗装用ブラシで塗布した(塗布してから試験の間の時間は3〜5分)。試験装置は制御された状況下で使用したわけではないが、温度および湿度は各々約75°Fおよび15%であった。ハイドロフォーミングに適用される場合、破裂圧力は高かい方が好ましく、また破裂点が管状供試材の中心に近い方が好ましい。
【0050】
米国特許出願番号2003/0181340A1は、本発明に使用された試験法の更な詳細を開示している。
【0051】
実施例
過塩基化スルホン酸カルシウム清浄剤と有機摩擦調整剤を使用したハイドロフォーミング用フォーミュレーションの性能に関する予備的な比較結果を表1に示している。
(実施例1〜6)
【表1】

【0052】
実施例1および2では、市販のハイドロフォーミング用の液体の参照潤滑剤#1と固体の参照潤滑剤#2の両方のベースライン性能を求めた。膨張領域試験では、固体の参照潤滑剤#2の方が液体参照潤滑剤#1よりも高い性能を示した。
【0053】
実施例3および4では、基油に対して過塩基化スルホン酸カルシウム清浄剤を添加した際の膨張領域および案内領域での性能を求めた。膨張領域試験では非結晶の過塩基化スルホン酸カルシウム(C400A)の方が高い性能を示し、一方案内領域試験では結晶の過塩基化スルホン酸カルシウム(C300C)の方が高い性能を示した。
【0054】
実施例5および6では、案内領域試験および膨張領域試験での性能における有機摩擦調整剤(例えばモノオレイン酸グリセロール、GMO)の添加効果を調べた。有機摩擦調整剤は膨張領域試験と案内領域試験では相反する挙動を示した。すなわち、同調整剤は膨張領域では結晶の過塩基化スルホン酸カルシウム清浄剤の性能を改善し、案内領域では逆にその性能を低下させた。非結晶の清浄剤では逆の結果が得られた。すなわち、同調整剤は膨張領域での清浄剤性能を低下させ、案内領域での性能を改善した。
【0055】
これらの試験では、添加剤は相反する効果をもたらすので、両領域での性能を同時に高めることは困難である。ハイドロフォーミング用潤滑剤の性能を改善しようとする場合、膨張領域試験および案内領域試験結果の最適化のためにこれらの添加剤間にバランスをとる必要がある。
【0056】
表2には、次の一連の実施例7〜16の結果を示しており、ここでは添加剤とフォーミュレートされたハイドロフォーミング流体との相反性を調べるために膨張領域試験、案内領域試験およびねじり圧縮試験(遷移領域)を実施した。
【0057】
【表2】

【0058】
実施例7〜11では、各種の有機摩擦調整剤のハイドロフォーミング流体に対する影響を調べた。
【0059】
実施例7では、参照潤滑剤#1にモノオレイン酸グリセロール(GMO)を1質量%添加した効果を調べた。
【0060】
実施例8では、参照潤滑剤#1に1モルのオレイン酸とトリエタノールアミンの反応生成物(OA/TEA)を1質量%添加した効果を調べた。膨張領域試験とねじり圧縮試験(遷移領域)での性能は改善した。
【0061】
実施例9では、参照潤滑剤#1に過塩基化カルボン酸カルシウム(COB40)を1質量%添加した効果を調べた。案内領域試験とねじり圧縮試験(遷移領域)での性能は改善し、一方膨張領域試験性能には悪影響を及ぼさなかった。
【0062】
実施例10では、参照潤滑剤#1にチオ酸アミドモリブデン錯体の混合物(Mo(DTC)を1質量%添加した効果を調べた。膨張領域試験とねじり圧縮試験(遷移領域)での性能は改善した。
【0063】
実施例11では、市販ハイドロフォーミング流体である参照潤滑剤#1のベースライン性能を案内領域試験、膨張領域試験およびねじり圧縮試験(遷移領域)により調べた。
【0064】
有機摩擦調整剤の添加により膨張領域試験およびねじり圧縮試験(遷移領域)の両方での性能は改善し、一方カルボン酸カルシウム(有機摩擦調整剤と過塩基化清浄剤の組み合わせ)の添加は案内領域試験での性能を同様に改善した。
【0065】
実施例12〜15では、各種の過塩基化スルホン酸塩清浄剤の案内領域試験、膨張領域試験およびねじり圧縮試験(遷移領域)での性能に対する影響を調べた。
【0066】
実施例12では、参照潤滑剤#1に結晶の過塩基化スルホン酸カルシウム(C300C)を7.5質量%添加した効果を調べた。膨張領域試験とねじり圧縮試験(遷移領域)での性能は改善し、一方案内領域試験での性能は大きくは低下しなかった。
【0067】
実施例13は、参照潤滑剤#1に非結晶の過塩基化スルホン酸カルシウム(C400A)を10質量%添加した効果を調べた。案内領域試験の性能は改善し、一方膨張領域試験およびねじり圧縮試験(遷移領域)での性能は大きくは低下しなかった。
【0068】
実施例14は、参照潤滑剤#1に非結晶の過塩基化スルホン酸マグネシウム(M400A)を10質量%添加した効果を調べた。膨張領域試験とねじり圧縮試験(遷移領域)での性能は改善し、一方案内領域試験での性能は大きくは低下しなかった。
【0069】
実施例15は、参照潤滑剤#1に非結晶の過塩基化スルホン酸バリウム(B70A)を10質量%添加した効果を調べた。ねじり圧縮試験(遷移領域)での性能は改善したが案内領域試験での性能は大きく低下した。
【0070】
実施例16では、参照潤滑剤#1に非結晶の過塩基化スルホン酸カルシウム(C400A)を7.5質量%および有機摩擦調整剤であるモノオレイン酸グリセロール、GMO)を1.0質量%添加した効果を調べた。これらの添加剤は相反する挙動を示した。すなわち、これらは案内領域試験およびねじり圧縮試験(遷移領域)での性能を低下させ、膨張領域試験性能には効果を示さなかった。
【0071】
過塩基化スルホン酸塩清浄剤は、フォーミュレーション組成によっては、膨張領域試験、ねじり圧縮試験(遷移領域)および案内領域試験での性能を改善できることが判明した。
【0072】
本発明の基礎をなす原理から外れることなく多くの変更、修正が可能であることを考えると、本発明に与えられる保護の範囲の理解のために別添の特許請求の範囲を参照されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の過塩基化清浄剤と少なくとも1種の摩擦調整剤をハイドロフォーミング・プロセスに使用される潤滑剤に添加することを特徴とする同潤滑剤を改善する方法。
【請求項2】
該過塩基化清浄剤がスルホン酸塩、カルボン酸塩、フェネート、サリチル酸塩およびこれらの混合物からなる群から選ばれることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項3】
該過塩基化清浄剤が過塩基化スルホン酸塩であることを特徴とする請求項2の方法。
【請求項4】
該摩擦調整剤が脂肪酸エステル、脂肪酸エステルとエトキシル化アミンの反応生成物、過塩基化カルボン酸、モリブデンジチオカルバメート誘導体およびこれらの混合物からなる群から選ばれることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項5】
該摩擦調整剤が脂肪酸エステル、脂肪酸エステルとエトキシル化アミンの反応生成物、過塩基化カルボン酸、モリブデンジチオカルバメート誘導体およびこれらの混合物からなる群から選ばれることを特徴とする請求項2の方法。
【請求項6】
該摩擦調整剤が脂肪酸エステル、脂肪酸エステルとエトキシル化アミンの反応生成物、過塩基化カルボン酸、モリブデンジチオカルバメート誘導体およびこれらの混合物からなる群から選ばれることを特徴とする請求項3の方法。
【請求項7】
少なくとも1種の過塩基化清浄剤と少なくとも1種の摩擦調整剤を含有することを特徴とするハイドロフォーミング・プロセスに使用される潤滑剤。
【請求項8】
該過塩基化清浄剤がスルホン酸塩、カルボン酸塩、フェネート、サリチル酸塩およびこれらの混合物からなる群から選ばれることを特徴とする請求項7の潤滑剤。
【請求項9】
該過塩基化清浄剤が過塩基化スルホン酸塩であることを特徴とする請求項8の潤滑剤。
【請求項10】
該摩擦調整剤が脂肪酸エステル、脂肪酸エステルとエトキシル化アミンの反応生成物、過塩基化カルボン酸、モリブデンジチオカルバメート誘導体およびこれらの混合物からなる群から選ばれることを特徴とする請求項7の潤滑剤。
【請求項11】
該摩擦調整剤が脂肪酸エステル、脂肪酸エステルとエトキシル化アミンの反応生成物、過塩基化カルボン酸、モリブデンジチオカルバメート誘導体およびこれらの混合物からなる群から選ばれることを特徴とする請求項8の潤滑剤。
【請求項12】
該摩擦調整剤が脂肪酸エステル、脂肪酸エステルとエトキシル化アミンの反応生成物、過塩基化カルボン酸、モリブデンジチオカルバメート誘導体およびこれらの混合物からなる群から選ばれることを特徴とする請求項9の潤滑剤。
【請求項13】
少なくとも1種の過塩基化清浄剤と少なくとも1種の摩擦調整剤を含有する潤滑剤を使用することを包含する、金属製の管材あるいはシート材をハイドロフォーミングする方法。
【請求項14】
該過塩基化清浄剤がスルホン酸塩、カルボン酸塩、フェネート、サリチル酸塩およびこれらの混合物からなる群から選ばれることを特徴とする請求項13の方法。
【請求項15】
該過塩基化清浄剤が過塩基化スルホン酸塩であることを特徴とする請求項14の方法。
【請求項16】
該摩擦調整剤が脂肪酸エステル、脂肪酸エステルとエトキシル化アミンの反応生成物、過塩基化カルボン酸、モリブデンジチオカルバメート誘導体およびこれらの混合物からなる群から選ばれることを特徴とする請求項13の方法。
【請求項17】
該摩擦調整剤が脂肪酸エステル、脂肪酸エステルとエトキシル化アミンの反応生成物、過塩基化カルボン酸、モリブデンジチオカルバメート誘導体およびこれらの混合物からなる群から選ばれることを特徴とする請求項14の方法。
【請求項18】
該摩擦調整剤が脂肪酸エステル、脂肪酸エステルとエトキシル化アミンの反応生成物、過塩基化カルボン酸、モリブデンジチオカルバメート誘導体およびこれらの混合物からなる群から選ばれることを特徴とする請求項15の方法。

【公表番号】特表2008−538787(P2008−538787A)
【公表日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−505552(P2008−505552)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【国際出願番号】PCT/US2006/012957
【国際公開番号】WO2006/108118
【国際公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(505365356)ケムチュア コーポレイション (50)
【Fターム(参考)】