道床締め固め用作業車及び道床締め固め工法
【課題】振動する車輪でレール上を走行することにより、低コストで確実に道床を締め固めることができる道床締め固め用作業車及び道床締め固め工法を提供する。
【解決手段】道床締め固め用作業車1は、車両本体2と誘導機構21及び加振機構41とから構成してある。車両本体2は、前側車体フレーム3と後側車体フレーム4をステアリング部5によって接続して構成し、加振機構を有する前車輪6及び後車輪8が設けてある。誘導機構21は、車両本体2の前(後)端に突設した上側支持フレーム22、上側支持フレーム22に連結した下側支持フレーム23と、下側支持フレーム23に架設してある支持軸、支持軸の両端側に嵌着した昇降アーム26、昇降アーム26の先端側に設けた誘導輪28からなる。加振機構は、駆動軸に設けたウエイトと、ウエイトを回転させる油圧モータからなる。
【解決手段】道床締め固め用作業車1は、車両本体2と誘導機構21及び加振機構41とから構成してある。車両本体2は、前側車体フレーム3と後側車体フレーム4をステアリング部5によって接続して構成し、加振機構を有する前車輪6及び後車輪8が設けてある。誘導機構21は、車両本体2の前(後)端に突設した上側支持フレーム22、上側支持フレーム22に連結した下側支持フレーム23と、下側支持フレーム23に架設してある支持軸、支持軸の両端側に嵌着した昇降アーム26、昇降アーム26の先端側に設けた誘導輪28からなる。加振機構は、駆動軸に設けたウエイトと、ウエイトを回転させる油圧モータからなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動する車輪を有する車両でレール上を走行することにより、確実に道床を締め固めることができる道床締め固め用作業車及び道床締め固め工法に関する。
【背景技術】
【0002】
新設し或いは修理したレールは、使用する前に鉄道技術基準省令ならびに同解説に基づいて検査し締め固め試運転を行い、レールの安全を確保、確認することが義務付けられている。締め固め試運転で確認すべき主な項目は、道床、路盤支持力および道床バラストの路盤への貫入が及ぼす動的軌道沈下量、橋梁の各構造物の設計上の変位量及び桁の撓み量である。そして従来、その線区で運転される機関車等のうち最も大型と考えられる機関車等で締め固め試運転として何往復かの運転を行い、使用に耐え得るように軌道を落ち着かせ、列車の運行の安全を確保してから、営業線軌道として供用されるという事が行われている。また、レールに垂直荷重・水平振動を与え、道床を強制的に沈下させて軌道の安定化を促進する大型保線用機械である道床安定作業車や道床締め固め機械を導入し締め固め試運転を行い、軌道の安定化を図ることも行われている(特許文献1)。さらに、マルチプルタイタンパー(通称マルタイ)で道床を入念に締め固めることも行われている。
【特許文献1】特開平6−299502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、現在、高品質の輸送サービス、交通サービスが求められていることに伴い、列車本数は増加し続け、過密ダイヤを設定している幹線では締め固め試運転のための間合いを確保することは非常に困難となっている。さらに、現状では列車のダイヤを変更させることや運休させることは難しく、締め固め試運転はお盆等の時期に行わざるを得なく、締め固め試運転を行うことができる期間は非常に限られている。また、動力近代化施策によって大型機関車を保有する必要性が薄れたことによる大型機関車数の減少や、乗務員の確保の面から締め固め試運転に大型機関車を用いることは困難な状況となっている。このように、現在は従来どおりの締め固め試運転を継続して実施することは難しい状況にある。
【0004】
ところで、締め固め作業に用いられている従来の道床安定作業車は非常に高価であるし、また、レール上しか走行することができず、レール上への搬入及び搬出が煩雑であるという問題がある。また、レール上しか走行できず汎用性が低いから他の作業に用いることができず、締め固め試運転のためだけに購入することは経済的な面から困難な場合もある。
【0005】
他方、マルタイによる道床の締め固め作業では枕木の直下の道床バラストは密な状態に締め固めることができるが、枕木と枕木の間の道床バラストは疎の状態となる。新設したレールの初期沈下による軌道狂いは、上述のような道床バラストの密度差があることによって、レール使用開始直後の列車荷重により道床バラストが枕木直下から疎である枕木間に移動することが主な原因であると考えられている。また、マルタイは軌道レールを掴んで僅かに持ち上げてから道床の締め固めを行うことから、作業効率が悪いという問題もある。
【0006】
本発明は上述した従来技術の欠点に鑑みなされたもので、機動性に優れている
ので列車のダイヤに影響を与えることがなく、さらに低コストで確実に道床の締め固めを行うことができる道床締め固め用作業車及び道床締め固め工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために構成された請求項1に係る本発明の手段は、車体の前後に軸支され、駆動源により一対のレール上を転動する前車輪及び後車輪を有する車両本体と、前記前車輪及び後車輪に振動を加える加振機構と、前記車体の前後に昇降可能に装着され、誘導輪が前記レールに案内されつつ転動することにより前記車両本体を走行方向に誘導する誘導機構とから構成したことにある。
【0008】
そして、前記前車輪及び後車輪の各々は、前記一対のレールに一体に乗る軸方向長さを有する車輪に形成するとよい。
【0009】
更に、前記誘導機構を構成する誘導輪は、少なくとも前記前車輪の前方に配置するとよい。
【0010】
また、請求項4に係る本発明を構成する手段は、車体に軸支されて車両本体を構成し、一対のレール上を転動する前車輪及び後車輪に加振装置によって振動を加えることにより、走行しながら該一対のレールを振動させて道床を締め固めるようにしたことにある。
【0011】
そして、前記車両本体は、前記車体の少なくとも前側で昇降し、前記一対のレールに案内される誘導輪を有する誘導機構により走行方向が誘導されるようにするとよい。
【0012】
更に、前記前車輪及び後車輪の各々は、前記一対のレールに一体に乗る軸方向長さを有する車輪に形成するとよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上述の構成とすることにより以下の諸効果を奏する。
(1)従来の道床締め固め作業車に比べて格段に低い費用で製作することができるし、低コストの稼動費で締め固め作業を行うことができるので、経済的である。
(2)起振力を発生させる加振装置を設けた前車輪及び後車輪が走行しながら道床を締め固めるので、従来の道床締め固め作業車よりも軽量でありながら、初期沈下を促進させ、何ら遜色の無い締め固め効果を得ることができる。
(3)加振装置は前車輪及び後車輪の振動数の変更が可能であるから、軌道条件に適した振動数の可変が可能であり、確実に締め固めを行うことができる。
(4)前車輪及び後車輪で走行しながら道床を上から押圧して締め固めを行うから、迅速に締め固め作業を行うことができるので、従来に比べ作業時間を短くすることができ、効率的である。
(5)前車輪及び後車輪で走行しながらレールそして枕木を介して道床を上から加振しながら押圧して締め固めを行うから、枕木間の道床バラストが疎の状態になることがなく、枕木直下、枕木間区別なく全体の道床バラストを密状態にすることができ、レール使用開始後の列車荷重による初期沈下が原因の軌道狂いを防ぐことができる。
(6)道床締め固め作業車は、レール上を走行する際に用いる誘導輪は高さ調節可能に構成してあり、道床の締め固めを行う場合以外は高い位置に固定しておくことができるから、道路のアスファルトの締め固め等にも用いることができ、汎用性に優れている。
(7)道路や路面などレール以外の場所も走行可能な軌陸タイプであり、また軽量であるので、軌道への搬入及び搬出が容易である。
(8)作業車はレール上を転動する前車輪及び後車輪で走行し、また、誘導輪は作業車をレールに沿って走行方向に誘導するから、分岐器も支障なく円滑に通過することが出来る。
(9)前車輪及び後車輪は、一対のレール上に一体に乗る軸方向長さを有する車輪に形成してあるから、片側のレールに偏ることがなく、バランスよく道床を締め固めることができる。
(10)誘導機構を構成する誘導輪は、少なくとも前車輪の前方に配置してあるから、道床締め固め作業車を走行方向に確実に誘導し、レールから脱線することなく確実に締め固め作業を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基き説明する。図において、1は道床締め固め用作業車(以下、作業車と称する。)を示す。2は該作業車1を構成する車両本体を示し、作業車1は該車両本体2と後述する誘導機構21及び加振機構41とから構成してある。3は、該車両本体2を構成する前側車体フレーム、4は車両本体2を構成する後側車体フレームを示し、該前側車体フレーム3及び後側車体フレーム4はステアリング部5によって作業車1が方向変換が可能となるように接続してある。
【0015】
6は作業車1の走行及び道床の締め固めに用いる鋼鉄製の前車輪を示す。該前車輪6は円筒からなる外輪体6Aと、該外輪体6A内に軸方向に離間して固着した円板からなる一対の回転補強板6B、6Bと、該一対の回転補強板6B、6Bに軸受けを介して架設した駆動軸6Cと、該駆動軸6Cの一端側に接続した走行用油圧モータ6Dとから構成してある。そして、前車輪6は前記前側車体フレーム3に前輪用ブラケット7を介して軸支してある。8は鋼鉄製の後車輪を示し、該後車輪8は前記前車輪6と同様に円柱状に構成してあり、後輪用ブラケット9を介して前記後側車体フレーム4に軸支してある。該前車輪6及び後車輪8は後述する加振機構41で起振力を発生するように構成してある。なお、該前車輪6及び後車輪8の軸方向幅は在来線の軌道ゲージ幅である1067mm以上であることが必要である。また、本実施の形態では、輪重は実際の列車荷重を想定した上、軌きょうの剛性による分散効果を考慮して2500kgf以上としてある。なお、ここで輪重とは、作業車1の荷重及び前車輪6、後車輪8の各車輪の起振時の振動荷重による軌道に対する荷重をいう。10は前側車体フレーム3に設けたエンジンルームを示し、該エンジンルーム10内には作業車1を走行させるためのエンジン(図示せず。)が搭載されている。そして、後側車体フレーム4の上部にはいす、ハンドル等からなる運転席11が設けてある。なお、車両本体2の重量は搬入出に大型車両を必要としない4t以内であることが望ましい。
【0016】
21、21は作業車1を確実にレールAに沿って走行させるための前後一対の誘導機構を示す。22は該各誘導機構21を構成し、車両本体2の前(後)端に突設した上側支持フレームで、該上側支持フレーム22には、下側支持フレーム23が連結してある。また、該下側支持フレーム23にはピン穴を形成したピン受け板24が突設してある。25は該下側支持フレーム23に回動自在に架設された支持軸で、該支持軸25の両端側に左右一対の昇降アーム26、26が嵌着してあり、該昇降アーム26間には補強用のフレーム板26Aが設けてある。また、該一対の昇降アーム26、26の先端側に架設した外筒27に車軸が挿通して設けてあり、該車軸の先端にはレールAに沿って転動する鋼鉄製のフランジ付き誘導輪28が設けてある。
【0017】
29、29は前記誘導輪28を昇降するための一対の油圧シリンダを示す。該各油圧シリンダ29は一端が前記上側支持フレーム22に軸支され、他端が昇降アーム26に突設した連結ブラケット30に軸支してある。そして、車両本体2に搭載してある油圧源から各油圧シリンダ29に作動油を供給して伸縮させることにより、連結ブラケット30を介して昇降アーム26が支持軸25を支点に回動するようになっている。
【0018】
更に、31は各昇降アーム26から上向きに円弧状に突出した支持板で、該支持板31には締め固め用ピン穴31Aと、走行用ピン穴31Bが離間して設けてあり、選択したピン穴31A、31Bとピン受け板24に固定ピン32を挿通することにより、昇降アーム26を下降状態又は上昇状態に固定するようになっている。なお、固定ピン32は直径を例えば29.5mmに、前記ピン穴31A、31B及びピン受け板24のピン穴の直径は32mmに設定して固定ピン32の直径を若干小径にして遊びを持たせることにより、締め固め時の振動を逃がすようにしてある。
【0019】
誘導機構21は上述の構成からなっており、道路からレール上に乗り入れる走行時には、油圧シリンダ29を縮退させて昇降アーム26を上昇させ、固定ピン32を走行用ピン穴31Bとピン受け板24に挿通することにより、誘導輪28は上昇した状態に保持される。他方、道床の締め固め時には、油圧シリンダ29を伸長させて誘導輪28をレールAから約3mm乃至5mm浮かせた状態にし、締め固め用ピン穴31Aとピン受け板24に固定ピン32を挿通することにより、誘導輪28はレールAから脱輪することなく転動することができる。
【0020】
なお、本実施の形態では誘導機構21は車両本体2の前、後側に設けることによって確実に誘導するようにしているが、少なくとも前側に設けることは不可欠であり、後側の誘導機構21は設けない構成にしてもよい。
【0021】
41は前車輪6に内設した加振機構を示す。42は該加振機構41を構成し、前車輪6の駆動軸6Cの外周に固着したウエイトで、該ウエイト42は駆動軸6Cの軸芯に対して偏心させて設けてある。43は駆動軸6Cに連結した状態で他方の回転補強板6Bに設けたカップリング、44は後述する防振部材45に搭載して該カップリング43に接続した加振用油圧モータを示し、該油圧モータ44は駆動軸6Cと一体にウエイト42を回転させるものである。
【0022】
45、45はカップリング43と前輪用ブラケット7との間、及び走行用油圧モータ6Dと前輪用ブラケット7との間に設けた左右一対の防振部材を示す。該各防振部材45は一対の挟持板45A,45A間に複数の防振ゴム45B、45B、・・を挟装した構成からなっており、前車輪6が設定した振動数で正確に振動するようにすると共に、車両本体2への振動の影響を減衰している。また、加振用油圧モータ44は回転数が可変であるから、前車輪6の振動数を任意に設定することができる。前車輪6の加振機構41は上述の構成からなるが、後車輪8の加振機構も同様に構成してある。
【0023】
本実施の形態は上述の構成からなっており、次に道床の締め固め工法について説明する。まず、作業車1で道床の締め固めを行うために、作業車1をレールA上に乗り入れする。作業車1は前車輪6及び後車輪8によって、道路や路面などレール以外の場所も走行可能な軌陸タイプであるから、自ら道路上を走行し、踏み切りから進入してレールA上に容易に乗ることができる。なお、道路走行時は、作業車1は、油圧シリンダ29で昇降アーム26を回動させて誘導輪28を持ち上げて路面から離間させて、支持板31の走行用ピン穴31Bとピン受け板24のピン穴に固定ピン32を貫通することにより、誘導輪28を道路走行用位置に固定してある。これにより、作業車1をレールA上に乗り入れするために道路や踏み切りを走行する場合に誘導輪28が邪魔になることがない。
【0024】
作業車1を運転してレールA上に乗り入れた後に、固定ピン32を抜いて、油圧シリンダ29で誘導輪28を下げる。そして、支持板31の締め固め用ピン穴31Aとピン受け板24のピン穴に固定ピン32を貫通することにより、誘導輪28を締め固め用位置に固定することができる。このようにして誘導輪28を締め固め用位置に固定した後に作業車1による道床の締め固め作業を行う。
【0025】
締め固め作業は、作業車1の前車輪6及び後車輪8内に設けてある駆動軸6Cを加振用油圧モータ44で回転させてAに対して垂直方向の起振力を発生させながら、該前車輪6及び後車輪8でレールA上を走行して行う。走行しながら締め固め作業を行うから、効率よく締め固めを行うことができる。なお、前車輪6及び後車輪8は、ゴム等の弾性体で形成するか、ゴム等の弾性体カバーで覆う構成にしてもよい。そのように構成することにより、レールAと前、後車輪6、8の接触による衝撃を緩和することができるし、摩擦抵抗が高くスリップ現象が生じないので効率のいい締め固め作業を行うことができる。そして、誘導輪28がレールAに沿ってガイドローラーとして働いて作業車1を正確にレールAに沿って誘導するから、作業車1がレールAから脱線することがなく、確実に安全に締め固め作業を行うことができる。さらに、ステアリング部5にステアリング固定ピン(図示せず。)を取り付けて作業車1が不用意に方向転換しないようにしてあるので、レールAから脱線することがなく作業効率及び安全性を高めてある。また、前車輪6及び後車輪8の軸方向長さはレールAに一体に乗るように形成してあるから、片側のレールに偏ることなく、平均して道床を締め固めることができる。
【0026】
なお、固定ピン32は支持板31に対して遊びを持たせてあるから、その遊びの分、誘導輪28は上下に遊動することができる。したがって、レールAに歪み等による多少の凸凹があってもその凸凹に対応して誘導輪28は上下に遊動するから、凸凹にかかわらず締め固め作業を行うことができる。また、遊びを持たせてあるから、分岐器など湾曲したレール上であっても誘導輪28のフランジに接触負荷がかからず、スムーズに走行することが可能である。なお、該誘導輪28をゴム等の弾性体で形成するか、ゴム等の弾性体カバーで覆う構成にしてもよい。そのように構成することにより、レールAに多少の凸凹があってもレールAと誘導輪28の接触による衝撃を緩和することができ、安定した締め固め作業を行うことができる。
【0027】
締め固め作業終了後、レールAから作業車1を離脱する場合は、前述と逆の手順で、固定ピン32を締め固め用ピン穴31Aから抜いて、油圧シリンダ29で誘導輪28を上げ、固定ピン32を走行用ピン穴31Bに貫通して、誘導輪28を走行用位置に固定する。これにより、作業車1は誘導輪28が邪魔になることなく、乗り入れ時と同様に自ら走行して踏み切りから極めて容易に出ることができる。なお、作業車1は、誘導輪28を道路走行用位置に固定することにより、道路のアスファルト等の締め固めにも用いることができる。
【0028】
図7は本実施の形態に係る作業車1の走行速度と前車輪6及び後車輪8による輪重の変化の関係を示すグラフである。静止状態では前車輪6による輪重は平均3.3tであり、後車輪8による輪重は平均3.9tである。加振しながら時速2kmで走行した場合、前車輪6による輪重は平均3.0tであり、後車輪8による輪重は平均3.4tである。時速5kmで走行した場合、前車輪6による輪重は2.5t、後車輪8による輪重は2.9tであった。これより、作業車1の走行速度が上がっていくにつれ、それに伴い前車輪6及び後車輪8による輪重が低下していくことが確認できる。この結果から、従来締め固めに用いていた大型機関車と比較して輪重が軽くならないこと、締め固めの作業効率等を考慮して時速2km、平均輪重3.0tが最適であると考えられる。これにより、走行速度を維持しながら締め固めを行うのに十分な輪重を得ることができることが確認できる。
【0029】
図8は走行速度時速2km、平均輪重3.0tで行った締め固め作業による枕木下面付近の道床及び路盤上の中心周波数を示すグラフである。測定は、枕木下面道床と路盤上の2箇所に振動計を設置して行った。道床バラストの締め固め効果が最も高い振動周波数は33Hzであることは既知である(日本鉄道施設協会誌及び鉄道総研による締め固め試験結果)。グラフから、枕木下面及び路盤上ともに31.5Hz〜40Hzの範囲が卓越しており、振動が確実に道床を介して路盤へ伝播していることが確認できる。さらに、中心周波数帯の平均は35Hzとなり、時速2km、平均輪重3.0tで締め固めを行えば、上述の最適振動周波数33Hzに非常に近い振動周波数で締め固めることができることが確認できる。
【0030】
図9は作業車1で行った締め固めによる軌道圧密沈下量を示すグラフである。
締め固めは走行速度時速2km、輪重3.0t、締め固め回数3往復、振動周波数35Hzで行い、測定はトラックマスターオートタイプを用いて行った。その結果、作業車1による締め固めでは、最大9.0mm、最小3.0mm、平均5.0mmの軌道圧密沈下量が測定された。走行速度時速2km、輪重3.0t、締め固め回数3往復、振動周波数35Hzで締め固めを行った場合、それは列車荷重に換算して11600tに相当し、大型機関車DD51(重さ85t)が約68往復することに匹敵する。これにより、作業車1を用いることにより確実に道床を締め固めることができることが確認できる。
【0031】
図10は道床の横抵抗力確認試験の測定結果を示すグラフである。道床横抵抗力は、道床抵抗力測定器により枕木一本引き試験を3箇所で行い、その測定結果の平均値から求めた。道床横抵抗力の測定においては、枕木横変位量が増大傾向を示し始める2mmとなる時点の抵抗力を道床横抵抗力としている。枕木横変位量2mmにおける平均道床横抵抗力は作業車1による締め固め前後で1.6KN/本から2.2KN/本へと約40%向上している。また、枕木横変位量3mmにおいても同様に道床横抵抗力は向上している。これにより、作業車1で締め固めを行うことにより単に道床を締め固めて沈下させるだけでなく、枕木横抵抗力を向上させることもできることが確認できる。なお、作業後の枕木横変位量3mm以上の測定は油圧ゲージの測定範囲を越えているため行っていない。
【0032】
図11は、作業車1による締め固めを行った後に大型機関車DD51で行った転圧試運転による軌道沈下量を示すグラフである。DD51による転圧試運転は作業車1で締め固めた区間と締め固めていない区間で双方で行った。事前に作業車1による締め固めを行っていない区間では1mm乃至10mmの沈下量が測定されたのに対し、事前に作業車1による締め固めを行った区間では軌道沈下量が0乃至1mmであり、軌道はほとんど沈下していない。この結果から、作業車1は大型機関車DD51と同等の締め固め効果を発揮し初期沈下を促進させ、確実に道床の締め固めを行うことができることが確認できる。
【0033】
図12は、作業車1による締め固めの効果を確認するために、営業列車(キハ281系、速度120km/h)の先頭に携帯用列車動揺測定機を搭載して上下・左右加速度を測定した結果のグラフである。作業車1により事前に締め固めを行った区間は、締め固めを行っていない区間と比較して上下・左右動揺は明らかに小さく、整備基準値全振幅2.4m/s2を上回る数値は確認されていない。この結果から、作業車1で締め固めを行うことにより、快適かつ安全に列車を走行させることできることが確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】道床締め固め用作業車の誘導輪を下げた状態の側面図である。
【図2】道床締め固め用作業車の誘導輪を上げた状態の側面図である。
【図3】道床締め固め用作業車の正面図である。
【図4】道床締め固め用作業車の背面図である。
【図5】誘導機構の側面図である。
【図6】前車輪の断面図である。
【図7】道床締め固め用作業車の走行速度と前車輪及び後車輪の輪重の変化の関係を示すグラフである。
【図8】道床締め固め用作業車で行った締め固めによる枕木下面付近の道床及び路盤上の中心周波数を示すグラフである。
【図9】道床締め固め用作業車で行った締め固めによる軌道圧密沈下量を示すグラフである。
【図10】道床締め固め用作業車による踏み固め後の道床の横抵抗力確認試験の測定結果を示すグラフである。
【図11】道床締め固め用作業車による締め固め後に大型機関車DD51で行った転圧試運転による軌道沈下量を示すグラフである。
【図12】道床締め固め用作業車による締め固め後に営業列車を走行させて列車の動揺を測定した結果のグラフである。
【符号の説明】
【0035】
1 道床締め固め用作業車
2 車両本体
6 前車輪
8 後車輪
21 誘導機構
28 誘導輪
41 加振機構
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動する車輪を有する車両でレール上を走行することにより、確実に道床を締め固めることができる道床締め固め用作業車及び道床締め固め工法に関する。
【背景技術】
【0002】
新設し或いは修理したレールは、使用する前に鉄道技術基準省令ならびに同解説に基づいて検査し締め固め試運転を行い、レールの安全を確保、確認することが義務付けられている。締め固め試運転で確認すべき主な項目は、道床、路盤支持力および道床バラストの路盤への貫入が及ぼす動的軌道沈下量、橋梁の各構造物の設計上の変位量及び桁の撓み量である。そして従来、その線区で運転される機関車等のうち最も大型と考えられる機関車等で締め固め試運転として何往復かの運転を行い、使用に耐え得るように軌道を落ち着かせ、列車の運行の安全を確保してから、営業線軌道として供用されるという事が行われている。また、レールに垂直荷重・水平振動を与え、道床を強制的に沈下させて軌道の安定化を促進する大型保線用機械である道床安定作業車や道床締め固め機械を導入し締め固め試運転を行い、軌道の安定化を図ることも行われている(特許文献1)。さらに、マルチプルタイタンパー(通称マルタイ)で道床を入念に締め固めることも行われている。
【特許文献1】特開平6−299502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、現在、高品質の輸送サービス、交通サービスが求められていることに伴い、列車本数は増加し続け、過密ダイヤを設定している幹線では締め固め試運転のための間合いを確保することは非常に困難となっている。さらに、現状では列車のダイヤを変更させることや運休させることは難しく、締め固め試運転はお盆等の時期に行わざるを得なく、締め固め試運転を行うことができる期間は非常に限られている。また、動力近代化施策によって大型機関車を保有する必要性が薄れたことによる大型機関車数の減少や、乗務員の確保の面から締め固め試運転に大型機関車を用いることは困難な状況となっている。このように、現在は従来どおりの締め固め試運転を継続して実施することは難しい状況にある。
【0004】
ところで、締め固め作業に用いられている従来の道床安定作業車は非常に高価であるし、また、レール上しか走行することができず、レール上への搬入及び搬出が煩雑であるという問題がある。また、レール上しか走行できず汎用性が低いから他の作業に用いることができず、締め固め試運転のためだけに購入することは経済的な面から困難な場合もある。
【0005】
他方、マルタイによる道床の締め固め作業では枕木の直下の道床バラストは密な状態に締め固めることができるが、枕木と枕木の間の道床バラストは疎の状態となる。新設したレールの初期沈下による軌道狂いは、上述のような道床バラストの密度差があることによって、レール使用開始直後の列車荷重により道床バラストが枕木直下から疎である枕木間に移動することが主な原因であると考えられている。また、マルタイは軌道レールを掴んで僅かに持ち上げてから道床の締め固めを行うことから、作業効率が悪いという問題もある。
【0006】
本発明は上述した従来技術の欠点に鑑みなされたもので、機動性に優れている
ので列車のダイヤに影響を与えることがなく、さらに低コストで確実に道床の締め固めを行うことができる道床締め固め用作業車及び道床締め固め工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために構成された請求項1に係る本発明の手段は、車体の前後に軸支され、駆動源により一対のレール上を転動する前車輪及び後車輪を有する車両本体と、前記前車輪及び後車輪に振動を加える加振機構と、前記車体の前後に昇降可能に装着され、誘導輪が前記レールに案内されつつ転動することにより前記車両本体を走行方向に誘導する誘導機構とから構成したことにある。
【0008】
そして、前記前車輪及び後車輪の各々は、前記一対のレールに一体に乗る軸方向長さを有する車輪に形成するとよい。
【0009】
更に、前記誘導機構を構成する誘導輪は、少なくとも前記前車輪の前方に配置するとよい。
【0010】
また、請求項4に係る本発明を構成する手段は、車体に軸支されて車両本体を構成し、一対のレール上を転動する前車輪及び後車輪に加振装置によって振動を加えることにより、走行しながら該一対のレールを振動させて道床を締め固めるようにしたことにある。
【0011】
そして、前記車両本体は、前記車体の少なくとも前側で昇降し、前記一対のレールに案内される誘導輪を有する誘導機構により走行方向が誘導されるようにするとよい。
【0012】
更に、前記前車輪及び後車輪の各々は、前記一対のレールに一体に乗る軸方向長さを有する車輪に形成するとよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上述の構成とすることにより以下の諸効果を奏する。
(1)従来の道床締め固め作業車に比べて格段に低い費用で製作することができるし、低コストの稼動費で締め固め作業を行うことができるので、経済的である。
(2)起振力を発生させる加振装置を設けた前車輪及び後車輪が走行しながら道床を締め固めるので、従来の道床締め固め作業車よりも軽量でありながら、初期沈下を促進させ、何ら遜色の無い締め固め効果を得ることができる。
(3)加振装置は前車輪及び後車輪の振動数の変更が可能であるから、軌道条件に適した振動数の可変が可能であり、確実に締め固めを行うことができる。
(4)前車輪及び後車輪で走行しながら道床を上から押圧して締め固めを行うから、迅速に締め固め作業を行うことができるので、従来に比べ作業時間を短くすることができ、効率的である。
(5)前車輪及び後車輪で走行しながらレールそして枕木を介して道床を上から加振しながら押圧して締め固めを行うから、枕木間の道床バラストが疎の状態になることがなく、枕木直下、枕木間区別なく全体の道床バラストを密状態にすることができ、レール使用開始後の列車荷重による初期沈下が原因の軌道狂いを防ぐことができる。
(6)道床締め固め作業車は、レール上を走行する際に用いる誘導輪は高さ調節可能に構成してあり、道床の締め固めを行う場合以外は高い位置に固定しておくことができるから、道路のアスファルトの締め固め等にも用いることができ、汎用性に優れている。
(7)道路や路面などレール以外の場所も走行可能な軌陸タイプであり、また軽量であるので、軌道への搬入及び搬出が容易である。
(8)作業車はレール上を転動する前車輪及び後車輪で走行し、また、誘導輪は作業車をレールに沿って走行方向に誘導するから、分岐器も支障なく円滑に通過することが出来る。
(9)前車輪及び後車輪は、一対のレール上に一体に乗る軸方向長さを有する車輪に形成してあるから、片側のレールに偏ることがなく、バランスよく道床を締め固めることができる。
(10)誘導機構を構成する誘導輪は、少なくとも前車輪の前方に配置してあるから、道床締め固め作業車を走行方向に確実に誘導し、レールから脱線することなく確実に締め固め作業を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基き説明する。図において、1は道床締め固め用作業車(以下、作業車と称する。)を示す。2は該作業車1を構成する車両本体を示し、作業車1は該車両本体2と後述する誘導機構21及び加振機構41とから構成してある。3は、該車両本体2を構成する前側車体フレーム、4は車両本体2を構成する後側車体フレームを示し、該前側車体フレーム3及び後側車体フレーム4はステアリング部5によって作業車1が方向変換が可能となるように接続してある。
【0015】
6は作業車1の走行及び道床の締め固めに用いる鋼鉄製の前車輪を示す。該前車輪6は円筒からなる外輪体6Aと、該外輪体6A内に軸方向に離間して固着した円板からなる一対の回転補強板6B、6Bと、該一対の回転補強板6B、6Bに軸受けを介して架設した駆動軸6Cと、該駆動軸6Cの一端側に接続した走行用油圧モータ6Dとから構成してある。そして、前車輪6は前記前側車体フレーム3に前輪用ブラケット7を介して軸支してある。8は鋼鉄製の後車輪を示し、該後車輪8は前記前車輪6と同様に円柱状に構成してあり、後輪用ブラケット9を介して前記後側車体フレーム4に軸支してある。該前車輪6及び後車輪8は後述する加振機構41で起振力を発生するように構成してある。なお、該前車輪6及び後車輪8の軸方向幅は在来線の軌道ゲージ幅である1067mm以上であることが必要である。また、本実施の形態では、輪重は実際の列車荷重を想定した上、軌きょうの剛性による分散効果を考慮して2500kgf以上としてある。なお、ここで輪重とは、作業車1の荷重及び前車輪6、後車輪8の各車輪の起振時の振動荷重による軌道に対する荷重をいう。10は前側車体フレーム3に設けたエンジンルームを示し、該エンジンルーム10内には作業車1を走行させるためのエンジン(図示せず。)が搭載されている。そして、後側車体フレーム4の上部にはいす、ハンドル等からなる運転席11が設けてある。なお、車両本体2の重量は搬入出に大型車両を必要としない4t以内であることが望ましい。
【0016】
21、21は作業車1を確実にレールAに沿って走行させるための前後一対の誘導機構を示す。22は該各誘導機構21を構成し、車両本体2の前(後)端に突設した上側支持フレームで、該上側支持フレーム22には、下側支持フレーム23が連結してある。また、該下側支持フレーム23にはピン穴を形成したピン受け板24が突設してある。25は該下側支持フレーム23に回動自在に架設された支持軸で、該支持軸25の両端側に左右一対の昇降アーム26、26が嵌着してあり、該昇降アーム26間には補強用のフレーム板26Aが設けてある。また、該一対の昇降アーム26、26の先端側に架設した外筒27に車軸が挿通して設けてあり、該車軸の先端にはレールAに沿って転動する鋼鉄製のフランジ付き誘導輪28が設けてある。
【0017】
29、29は前記誘導輪28を昇降するための一対の油圧シリンダを示す。該各油圧シリンダ29は一端が前記上側支持フレーム22に軸支され、他端が昇降アーム26に突設した連結ブラケット30に軸支してある。そして、車両本体2に搭載してある油圧源から各油圧シリンダ29に作動油を供給して伸縮させることにより、連結ブラケット30を介して昇降アーム26が支持軸25を支点に回動するようになっている。
【0018】
更に、31は各昇降アーム26から上向きに円弧状に突出した支持板で、該支持板31には締め固め用ピン穴31Aと、走行用ピン穴31Bが離間して設けてあり、選択したピン穴31A、31Bとピン受け板24に固定ピン32を挿通することにより、昇降アーム26を下降状態又は上昇状態に固定するようになっている。なお、固定ピン32は直径を例えば29.5mmに、前記ピン穴31A、31B及びピン受け板24のピン穴の直径は32mmに設定して固定ピン32の直径を若干小径にして遊びを持たせることにより、締め固め時の振動を逃がすようにしてある。
【0019】
誘導機構21は上述の構成からなっており、道路からレール上に乗り入れる走行時には、油圧シリンダ29を縮退させて昇降アーム26を上昇させ、固定ピン32を走行用ピン穴31Bとピン受け板24に挿通することにより、誘導輪28は上昇した状態に保持される。他方、道床の締め固め時には、油圧シリンダ29を伸長させて誘導輪28をレールAから約3mm乃至5mm浮かせた状態にし、締め固め用ピン穴31Aとピン受け板24に固定ピン32を挿通することにより、誘導輪28はレールAから脱輪することなく転動することができる。
【0020】
なお、本実施の形態では誘導機構21は車両本体2の前、後側に設けることによって確実に誘導するようにしているが、少なくとも前側に設けることは不可欠であり、後側の誘導機構21は設けない構成にしてもよい。
【0021】
41は前車輪6に内設した加振機構を示す。42は該加振機構41を構成し、前車輪6の駆動軸6Cの外周に固着したウエイトで、該ウエイト42は駆動軸6Cの軸芯に対して偏心させて設けてある。43は駆動軸6Cに連結した状態で他方の回転補強板6Bに設けたカップリング、44は後述する防振部材45に搭載して該カップリング43に接続した加振用油圧モータを示し、該油圧モータ44は駆動軸6Cと一体にウエイト42を回転させるものである。
【0022】
45、45はカップリング43と前輪用ブラケット7との間、及び走行用油圧モータ6Dと前輪用ブラケット7との間に設けた左右一対の防振部材を示す。該各防振部材45は一対の挟持板45A,45A間に複数の防振ゴム45B、45B、・・を挟装した構成からなっており、前車輪6が設定した振動数で正確に振動するようにすると共に、車両本体2への振動の影響を減衰している。また、加振用油圧モータ44は回転数が可変であるから、前車輪6の振動数を任意に設定することができる。前車輪6の加振機構41は上述の構成からなるが、後車輪8の加振機構も同様に構成してある。
【0023】
本実施の形態は上述の構成からなっており、次に道床の締め固め工法について説明する。まず、作業車1で道床の締め固めを行うために、作業車1をレールA上に乗り入れする。作業車1は前車輪6及び後車輪8によって、道路や路面などレール以外の場所も走行可能な軌陸タイプであるから、自ら道路上を走行し、踏み切りから進入してレールA上に容易に乗ることができる。なお、道路走行時は、作業車1は、油圧シリンダ29で昇降アーム26を回動させて誘導輪28を持ち上げて路面から離間させて、支持板31の走行用ピン穴31Bとピン受け板24のピン穴に固定ピン32を貫通することにより、誘導輪28を道路走行用位置に固定してある。これにより、作業車1をレールA上に乗り入れするために道路や踏み切りを走行する場合に誘導輪28が邪魔になることがない。
【0024】
作業車1を運転してレールA上に乗り入れた後に、固定ピン32を抜いて、油圧シリンダ29で誘導輪28を下げる。そして、支持板31の締め固め用ピン穴31Aとピン受け板24のピン穴に固定ピン32を貫通することにより、誘導輪28を締め固め用位置に固定することができる。このようにして誘導輪28を締め固め用位置に固定した後に作業車1による道床の締め固め作業を行う。
【0025】
締め固め作業は、作業車1の前車輪6及び後車輪8内に設けてある駆動軸6Cを加振用油圧モータ44で回転させてAに対して垂直方向の起振力を発生させながら、該前車輪6及び後車輪8でレールA上を走行して行う。走行しながら締め固め作業を行うから、効率よく締め固めを行うことができる。なお、前車輪6及び後車輪8は、ゴム等の弾性体で形成するか、ゴム等の弾性体カバーで覆う構成にしてもよい。そのように構成することにより、レールAと前、後車輪6、8の接触による衝撃を緩和することができるし、摩擦抵抗が高くスリップ現象が生じないので効率のいい締め固め作業を行うことができる。そして、誘導輪28がレールAに沿ってガイドローラーとして働いて作業車1を正確にレールAに沿って誘導するから、作業車1がレールAから脱線することがなく、確実に安全に締め固め作業を行うことができる。さらに、ステアリング部5にステアリング固定ピン(図示せず。)を取り付けて作業車1が不用意に方向転換しないようにしてあるので、レールAから脱線することがなく作業効率及び安全性を高めてある。また、前車輪6及び後車輪8の軸方向長さはレールAに一体に乗るように形成してあるから、片側のレールに偏ることなく、平均して道床を締め固めることができる。
【0026】
なお、固定ピン32は支持板31に対して遊びを持たせてあるから、その遊びの分、誘導輪28は上下に遊動することができる。したがって、レールAに歪み等による多少の凸凹があってもその凸凹に対応して誘導輪28は上下に遊動するから、凸凹にかかわらず締め固め作業を行うことができる。また、遊びを持たせてあるから、分岐器など湾曲したレール上であっても誘導輪28のフランジに接触負荷がかからず、スムーズに走行することが可能である。なお、該誘導輪28をゴム等の弾性体で形成するか、ゴム等の弾性体カバーで覆う構成にしてもよい。そのように構成することにより、レールAに多少の凸凹があってもレールAと誘導輪28の接触による衝撃を緩和することができ、安定した締め固め作業を行うことができる。
【0027】
締め固め作業終了後、レールAから作業車1を離脱する場合は、前述と逆の手順で、固定ピン32を締め固め用ピン穴31Aから抜いて、油圧シリンダ29で誘導輪28を上げ、固定ピン32を走行用ピン穴31Bに貫通して、誘導輪28を走行用位置に固定する。これにより、作業車1は誘導輪28が邪魔になることなく、乗り入れ時と同様に自ら走行して踏み切りから極めて容易に出ることができる。なお、作業車1は、誘導輪28を道路走行用位置に固定することにより、道路のアスファルト等の締め固めにも用いることができる。
【0028】
図7は本実施の形態に係る作業車1の走行速度と前車輪6及び後車輪8による輪重の変化の関係を示すグラフである。静止状態では前車輪6による輪重は平均3.3tであり、後車輪8による輪重は平均3.9tである。加振しながら時速2kmで走行した場合、前車輪6による輪重は平均3.0tであり、後車輪8による輪重は平均3.4tである。時速5kmで走行した場合、前車輪6による輪重は2.5t、後車輪8による輪重は2.9tであった。これより、作業車1の走行速度が上がっていくにつれ、それに伴い前車輪6及び後車輪8による輪重が低下していくことが確認できる。この結果から、従来締め固めに用いていた大型機関車と比較して輪重が軽くならないこと、締め固めの作業効率等を考慮して時速2km、平均輪重3.0tが最適であると考えられる。これにより、走行速度を維持しながら締め固めを行うのに十分な輪重を得ることができることが確認できる。
【0029】
図8は走行速度時速2km、平均輪重3.0tで行った締め固め作業による枕木下面付近の道床及び路盤上の中心周波数を示すグラフである。測定は、枕木下面道床と路盤上の2箇所に振動計を設置して行った。道床バラストの締め固め効果が最も高い振動周波数は33Hzであることは既知である(日本鉄道施設協会誌及び鉄道総研による締め固め試験結果)。グラフから、枕木下面及び路盤上ともに31.5Hz〜40Hzの範囲が卓越しており、振動が確実に道床を介して路盤へ伝播していることが確認できる。さらに、中心周波数帯の平均は35Hzとなり、時速2km、平均輪重3.0tで締め固めを行えば、上述の最適振動周波数33Hzに非常に近い振動周波数で締め固めることができることが確認できる。
【0030】
図9は作業車1で行った締め固めによる軌道圧密沈下量を示すグラフである。
締め固めは走行速度時速2km、輪重3.0t、締め固め回数3往復、振動周波数35Hzで行い、測定はトラックマスターオートタイプを用いて行った。その結果、作業車1による締め固めでは、最大9.0mm、最小3.0mm、平均5.0mmの軌道圧密沈下量が測定された。走行速度時速2km、輪重3.0t、締め固め回数3往復、振動周波数35Hzで締め固めを行った場合、それは列車荷重に換算して11600tに相当し、大型機関車DD51(重さ85t)が約68往復することに匹敵する。これにより、作業車1を用いることにより確実に道床を締め固めることができることが確認できる。
【0031】
図10は道床の横抵抗力確認試験の測定結果を示すグラフである。道床横抵抗力は、道床抵抗力測定器により枕木一本引き試験を3箇所で行い、その測定結果の平均値から求めた。道床横抵抗力の測定においては、枕木横変位量が増大傾向を示し始める2mmとなる時点の抵抗力を道床横抵抗力としている。枕木横変位量2mmにおける平均道床横抵抗力は作業車1による締め固め前後で1.6KN/本から2.2KN/本へと約40%向上している。また、枕木横変位量3mmにおいても同様に道床横抵抗力は向上している。これにより、作業車1で締め固めを行うことにより単に道床を締め固めて沈下させるだけでなく、枕木横抵抗力を向上させることもできることが確認できる。なお、作業後の枕木横変位量3mm以上の測定は油圧ゲージの測定範囲を越えているため行っていない。
【0032】
図11は、作業車1による締め固めを行った後に大型機関車DD51で行った転圧試運転による軌道沈下量を示すグラフである。DD51による転圧試運転は作業車1で締め固めた区間と締め固めていない区間で双方で行った。事前に作業車1による締め固めを行っていない区間では1mm乃至10mmの沈下量が測定されたのに対し、事前に作業車1による締め固めを行った区間では軌道沈下量が0乃至1mmであり、軌道はほとんど沈下していない。この結果から、作業車1は大型機関車DD51と同等の締め固め効果を発揮し初期沈下を促進させ、確実に道床の締め固めを行うことができることが確認できる。
【0033】
図12は、作業車1による締め固めの効果を確認するために、営業列車(キハ281系、速度120km/h)の先頭に携帯用列車動揺測定機を搭載して上下・左右加速度を測定した結果のグラフである。作業車1により事前に締め固めを行った区間は、締め固めを行っていない区間と比較して上下・左右動揺は明らかに小さく、整備基準値全振幅2.4m/s2を上回る数値は確認されていない。この結果から、作業車1で締め固めを行うことにより、快適かつ安全に列車を走行させることできることが確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】道床締め固め用作業車の誘導輪を下げた状態の側面図である。
【図2】道床締め固め用作業車の誘導輪を上げた状態の側面図である。
【図3】道床締め固め用作業車の正面図である。
【図4】道床締め固め用作業車の背面図である。
【図5】誘導機構の側面図である。
【図6】前車輪の断面図である。
【図7】道床締め固め用作業車の走行速度と前車輪及び後車輪の輪重の変化の関係を示すグラフである。
【図8】道床締め固め用作業車で行った締め固めによる枕木下面付近の道床及び路盤上の中心周波数を示すグラフである。
【図9】道床締め固め用作業車で行った締め固めによる軌道圧密沈下量を示すグラフである。
【図10】道床締め固め用作業車による踏み固め後の道床の横抵抗力確認試験の測定結果を示すグラフである。
【図11】道床締め固め用作業車による締め固め後に大型機関車DD51で行った転圧試運転による軌道沈下量を示すグラフである。
【図12】道床締め固め用作業車による締め固め後に営業列車を走行させて列車の動揺を測定した結果のグラフである。
【符号の説明】
【0035】
1 道床締め固め用作業車
2 車両本体
6 前車輪
8 後車輪
21 誘導機構
28 誘導輪
41 加振機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前後に軸支され、駆動源により一対のレール上を転動する前車輪及び後車輪を有する車両本体と、前記前車輪及び後車輪に振動を加える加振機構と、前記車体の前後に昇降可能に装着され、誘導輪が前記レールに案内されつつ転動することにより前記車両本体を走行方向に誘導する誘導機構とから構成してなる道床締め固め用作業車。
【請求項2】
前記前車輪及び後車輪の各々は、前記一対のレールに一体に乗る軸方向長さを有する車輪に形成してあることを特徴とする請求項1記載の道床締め固め用作業車。
【請求項3】
前記誘導機構を構成する誘導輪は、少なくとも前記前車輪の前方に配置してあることを特徴とする請求項1記載の道床締め固め用作業車。
【請求項4】
車体に軸支されて車両本体を構成し、一対のレール上を転動する前車輪及び後車輪に加振装置によって振動を加えることにより、走行しながら該一対のレールを振動させて道床を締め固めるようにしてなる道床の締め固め工法。
【請求項5】
前記車両本体は、前記車体の少なくとも前側で昇降し、前記一対のレールに案内される誘導輪を有する誘導機構により走行方向が誘導されるようにしてあることを特徴とする請求項4記載の道床の締め固め工法。
【請求項6】
前記前車輪及び後車輪の各々は、前記一対のレールに一体に乗る軸方向長さを有する車輪に形成したものであることを特徴とする請求項4記載の道床締め固め工法。
【請求項1】
車体の前後に軸支され、駆動源により一対のレール上を転動する前車輪及び後車輪を有する車両本体と、前記前車輪及び後車輪に振動を加える加振機構と、前記車体の前後に昇降可能に装着され、誘導輪が前記レールに案内されつつ転動することにより前記車両本体を走行方向に誘導する誘導機構とから構成してなる道床締め固め用作業車。
【請求項2】
前記前車輪及び後車輪の各々は、前記一対のレールに一体に乗る軸方向長さを有する車輪に形成してあることを特徴とする請求項1記載の道床締め固め用作業車。
【請求項3】
前記誘導機構を構成する誘導輪は、少なくとも前記前車輪の前方に配置してあることを特徴とする請求項1記載の道床締め固め用作業車。
【請求項4】
車体に軸支されて車両本体を構成し、一対のレール上を転動する前車輪及び後車輪に加振装置によって振動を加えることにより、走行しながら該一対のレールを振動させて道床を締め固めるようにしてなる道床の締め固め工法。
【請求項5】
前記車両本体は、前記車体の少なくとも前側で昇降し、前記一対のレールに案内される誘導輪を有する誘導機構により走行方向が誘導されるようにしてあることを特徴とする請求項4記載の道床の締め固め工法。
【請求項6】
前記前車輪及び後車輪の各々は、前記一対のレールに一体に乗る軸方向長さを有する車輪に形成したものであることを特徴とする請求項4記載の道床締め固め工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−248650(P2008−248650A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94191(P2007−94191)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(590003825)北海道旅客鉄道株式会社 (94)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(590003825)北海道旅客鉄道株式会社 (94)
【Fターム(参考)】
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