説明

遠心クラッチ

【課題】薄型を確実に促進でき、かつシューの回動レスポンスを良好にできる振り子式の遠心クラッチを提供すること。
【解決手段】シュー13がボス部17を中心に回動自在に設けられた振り子式の遠心クラッチにおいて、シュー13にはボス部17と回動自在に嵌合する嵌合孔19が設けられている。この際、この嵌合孔19をシュー本体部29の厚み方向の両側から薄肉化された薄肉部32に穿設しておき、この薄肉部32を前記ボス部17の軸方向の一端側に設けられ鍔部20と、ボス部17に対して他端側からあてがわれるプレート21との間に介装させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯型作業機の動力伝達部分に用いられる遠心クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チェーンソーといった携帯型作業機の動力源として小排気量のエンジンが用いられることが多く、エンジンからの動力は遠心クラッチを介してソーチェーンが巻回されたスプロケットに伝達される。遠心クラッチとしては種々のタイプが開発されているが、小型軽量化が望まれている携帯型作業機に用いられるタイプとしては、エンジンの出力軸に固定されるハブ部と、ハブ部に一体に設けられた一対のアーム部と、アーム部の先端に設けられたボス部と、ボス部に回動自在に嵌合されたシューとを備えた振り子式のタイプが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
この特許文献1に記載の遠心クラッチでは、ボス部からシューが抜けるのを防止するために、旧来のようなEリング等の錠止手段を用いず、ボス部に一体に設けた突出部を採用し、これにより、錠止手段のような別部材をなくして部品点数の低減を図っている。
【0004】
【特許文献1】特開平7−190100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ボス部に対してシューが一方側に抜けるのを防止する突出部を当該ボス部に一体に設けた場合、他の錠止手段を用いない前記特許文献1では、シューが他方側に抜けるのを防止する抜け防止部をシュー側に設ける必要がある。しかし、そのような抜け防止部をシュー側に設けると、シューの肉厚が厚くなってしまい、遠心クラッチの薄型化や軽量化が阻害されるという問題が生じる。
【0006】
また、シューにおいては、抜け防止部がボス部との嵌合部分に設けられることになり、その嵌合部分の肉厚が厚くなることから、シューの重心が回動中心寄りになってしまい、遠心力によるシューの回動がレスポンスよく行われないという問題が生じる。この問題は、携帯型作業機用の小型の遠心クラッチにおいては、特に重要な解決課題である。
【0007】
本発明の目的は、薄型を確実に促進でき、かつシューの回動レスポンスを良好にできる振り子式の遠心クラッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る遠心クラッチは、シューがボス部を中心に回動自在に設けられた振り子式の遠心クラッチであって、前記シューには、前記ボス部と回動自在に嵌合する嵌合孔が設けられ、この嵌合孔は、シュー本体部の厚み方向の両側から薄肉化された薄肉部に穿設されており、この薄肉部は、前記ボス部の軸方向の一端側に設けられる鍔部と、前記ボス部に対して他端側からあてがわれるプレートとの間に介装されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項2に係る遠心クラッチは、請求項1に記載の遠心クラッチにおいて、前記薄肉部には、前記嵌合孔と連通した切欠部が設けられ、前記ボス部は、出力軸に取り付けられるハブ部から延設されたアーム部の先端に設けられ、前記シューは、前記切欠部に前記アーム部が通った状態で前記ボス部に嵌合され、前記アームと前記切欠部に形成されて当該アームに当接される一対の切欠面とにより、前記シューの回動量が規制されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3に係る遠心クラッチは、請求項2に記載の遠心クラッチにおいて、前記プレートは、前記アーム部の形状に沿って当該アーム部から所定幅だけはみ出した形状とされ、このプレートのはみ出し部分の大きさよりも、前記シューの切欠面と当該アームとの間に形成される隙間が小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上において、請求項1の発明によれば、シューの薄肉部がボス部に設けられた鍔部およびプレート間に介装され、これらの鍔部およびプレートが薄肉部と重なり合うことになるため、シューの厚さ方向に大きく突出することがなく、遠心クラッチの厚みを小さくして確実に薄型化を促進できる。しかも、シューの回動中心側が薄くなるから、シューの重心が回転方向の先端側に位置することになり、遠心力によるシューの回動や、回動した状態からの戻りをレスポンスよく行うことができる。
【0012】
請求項2の発明によれば、シューの切欠部に形成された切欠面がアーム部に当接するため、シューの回動量が確実に規制されるとともに、シューに遠心力が作用しない状態では、シュー同士を連結するばね等により、切欠面がアーム部に当接した状態で付勢されるので、シューのがたつきを確実に防止できる。
【0013】
請求項3の発明によれば、切欠面とアーム部との間に形成される隙間の大きさよりも、プレートのはみ出し部分の方が大きいので、プレート切欠部とがこじる心配がなく、シューの回動をスムースに行える。また、プレートはアーム部の形状に沿って所定量だけはみ出していればよいから、その他の部分を不要にでき、プレート重量を軽減できて遠心クラッチ全体としても軽量化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係る遠心クラッチ10を示す正面図、図2は、遠心クラッチ10の一部断面した側面図、図3は、遠心クラッチ10の要部の裏側を示す裏面図、図4は、遠心クラッチ10の要部を示す分解斜視図である。
【0015】
遠心クラッチ10は、図示しないエンジンのクランクシャフト(出力軸)等の一端に螺合されるハブ部11を有した駆動部12と、駆動部12に回動自在に支持された3つのシュー13と、周方向に沿って近接配置されたシュー13同士を連結するコイルばね14と、シュー13の接触により回転するクラッチドラム15とを備えた振り子式に構成されている。なお、本実施形態の遠心クラッチ10は、チェーンソー用であり、従動側のクラッチドラム15には、ソーチェーンが巻回されるスプロケット15Aが一体に設けられている。
【0016】
駆動部12のハブ部11には、工具による締め付け操作や緩め操作を行うための三面幅部分が形成されているとともに、周方向に等周間隔でかつ径方向外側に向けて3本のアーム部16が延設されている。各アーム部16の先端には、回転中心軸と平行な軸心を有する円筒状のボス部17が設けられており、このボス部17にシュー13が回動自在に嵌合している。
【0017】
シュー13の端部には、外方に拡開した切欠部18と連通する嵌合孔19が設けられており、切欠部18にアーム部16が通った状態で嵌合孔19とボス部17とが嵌合している。この際、ボス部17の軸方向の一端側には、径寸法の一回り大きい鍔部20が周方向に連続して設けられており、シュー13がこの鍔部20に係止されることでボス部17の一端側への抜けが防止されている。
【0018】
一方、ボス部17に対し、鍔部20が設けられた側とは反対側には、ハブ部11、アーム部16、およびボス部17に跨る押さえ用プレート21があてがわれている。プレート21には、ハブ部11のシャフト螺合孔22に対応した貫通孔23と、ボス部17の重量削減用の中心孔24に対応した丸孔25と、各アーム部16に対応した位置のダボ孔26とが穿設されている。
【0019】
このようなプレート21は、3つのシュー13がボス部17に嵌め込まれた後、同方向から駆動部12に取り付けられる。3本のアーム部16のうち一対のアーム部16には、円柱状のダボ27が設けられている。これらのダボ27が前述したダボ孔26に挿入されることでプレート21が駆動部12位置決めされ、取り付けられる。プレート21にダボ孔26が3つ穿設されているのは、プレート21の取付方向を限定しないためであり、組立性の向上が図られている。
【0020】
また、プレート21の3つの頂点部分には、前記鍔部20と略同じ大きさの外形を有した押さえ部28が設けられている。この押さえ部28によりシュー13がボス部17の軸方向の他端側へ抜けるのを防止している。つまり、シュー13は、鍔部20と押さえ部28との間に介装された状態で回動する。
【0021】
ここで、シュー13の嵌合孔19回りには、シュー本体部29の外表面30より一段低い(薄い)座ぐり部31が両面側に設けられている。そして、両側に座ぐり部31が設けられた部分は、シュー本体部29の両側から薄肉化された薄肉部32となっている。両側での各座ぐり部31の座グリ深さは(段差の高さ寸法)はそれぞれ略同じであり、また、鍔部20および押さえ部28の厚さ寸法と同じ程度である。
【0022】
このような構成により、鍔部20および押さえ部28が薄肉部32と重なり合うことになるため、それらがシュー13の厚さ方向に大きく突出することがなく、遠心クラッチ10の厚みを小さくできる。しかも、シュー13の回動中心側が薄くなっているので、シュー13の重心が回転方向(図1中の白抜き矢印参照)の先端側に位置することになり、遠心力によるシュー13の回動や、回動した状態からの戻りをレスポンスよく行うことができる。
【0023】
加えて、シュー13において、薄肉部32の近傍には、さらに薄肉のばね係合部33が設けられ、ばね係合部33に穿設された係合孔34には、コイルばね14の一端が係合されている。薄肉部32とは反対側の端部にも、係合部33と略同じ厚みの別のばね係合部35が形成されている。ばね係合部33の係合孔36には、別のコイルばね14の他端が係合されている。なお、コイルばね14では、隣接し合うシュー13への取り付けを考慮して、一端側の取付部分が長く、他端側の取付部部分が短く設けられている。
【0024】
そして、図1に示すように、駆動部12にプレート21が取り付けられた状態において、プレート21の略三角形の面状部37は、その外周側の部分が各アーム部16の形状に沿って所定幅だけ両側にはみ出している。また、シュー13に設けられた切欠部18では、一対の切欠面38がアーム部16の側面39に当接することで、シュー13の回動角度が規制されている。
【0025】
シュー13に遠心力が働かない状態では、コイルばね14の付勢力によって一方の切欠面38がアーム部16の一方の側面39に当接しており、この時、他方の切欠面38と他方の側面39との間には隙間40が形成される。この隙間40の最大時の大きさは、面状部37のはみ出し部分の大きさよりも小さい。
【0026】
シュー13に遠心力が働くと、コイルばね14の付勢力に抗して前記隙間40が小さくなる方向にシュー13が回動し、前述とは逆に、一方の切欠面38と一方の側面39との間に隙間が形成されるようになる。この時の隙間も、面状部37のはみ出し部分を越えて大きく形成されることはない。
【0027】
すなわち、シュー13の回動に伴って形成される隙間40は、面状部37の範囲内で形成されることになり、面状部37辺縁のエッジ部分と各切欠面38辺縁のエッジ部分とが、互いにこじることがなく、シュー13の回動がスムースに行われるようになっている。
【0028】
また、シュー13の外側の側面部分の約半分、つまり、側面部分の中央から回転方向の先端側にかけての部分は、クラッチドラム15の内周面と略同じ曲率半径を有した接触面41とされている。シュー13が遠心力で外側に回動するとシュー13は、接触面41の略全域にわたる広い接触面積でクラッチドラム15の内周面と接触することになる。
【0029】
このシュー13において、その回転方向の先端には、接触面41の端縁によってエッジ部42が形成されている。このエッジ部42には、面取りなどのラウンドは特に形成されておらず、シャープエッジが形成されている。このため、シュー13の回動により接触面41がクラッチドラム15の内周面に接触すると、エッジ部42が内周面に食い込むように当接して楔効果が得られ、駆動部12側からクラッチドラム15側への駆動伝達が効率よく行われるようになっている。
【0030】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
例えば、シュー13の回転方向の先端側は、前記実施形態のようなシャープなエッジ部42である他、クラッチのつながりが滑らかに行われるようにラウンドが形成された形状になっていた場合でも、本発明に含まれる。
【0031】
前記実施形態では、アーム部16の数が3本であったが、2本の場合や、4本の場合でもよく、アーム部16の数は、その実施にあたって任意に決められてよい。ただし、アーム部16としては、例えば2本よりも3本の方が望ましく、そうすることで、シュー131つ当たりにかかる負荷を軽減でき、耐久性を向上させることができる。
【0032】
本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
従って、上記に開示した形状、数量などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、数量などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、チェーンソーや刈払機といった携帯型作業機に用いられる動力伝達用の遠心クラッチとして好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態に係る遠心クラッチを示す正面図。
【図2】遠心クラッチの一部断面した側面図。
【図3】遠心クラッチの要部の裏側を示す裏面図。
【図4】遠心クラッチの要部を示す分解斜視図。
【符号の説明】
【0035】
10…遠心クラッチ、11…ハブ部、13…シュー、16…アーム部、17…ボス部、18…切欠部、19…嵌合孔、20…鍔部、21…プレート、29…シュー本体部、32…薄肉部、38…切欠面、40…隙間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シューがボス部を中心に回動自在に設けられた振り子式の遠心クラッチであって、
前記シューには、前記ボス部と回動自在に嵌合する嵌合孔が設けられ、
この嵌合孔は、シュー本体部の厚み方向の両側から薄肉化された薄肉部に穿設されており、
この薄肉部は、前記ボス部の軸方向の一端側に設けられる鍔部と、前記ボス部に対して他端側からあてがわれるプレートとの間に介装されている
ことを特徴とする遠心クラッチ。
【請求項2】
請求項1に記載の遠心クラッチにおいて、
前記薄肉部には、前記嵌合孔と連通した切欠部が設けられ、
前記ボス部は、出力軸に取り付けられるハブ部から延設されたアーム部の先端に設けられ、
前記シューは、前記切欠部に前記アーム部が通った状態で前記ボス部に嵌合され、
前記アームと前記切欠部に形成されて当該アームに当接される一対の切欠面とにより、前記シューの回動量が規制されている
ことを特徴とする遠心クラッチ。
【請求項3】
請求項2に記載の遠心クラッチにおいて、
前記プレートは、前記アーム部の形状に沿って当該アーム部から所定幅だけはみ出した形状とされ、
このプレートのはみ出し部分の大きさよりも、前記シューの切欠面と当該アームとの間に形成される隙間が小さい
ことを特徴とする遠心クラッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−270971(P2007−270971A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97559(P2006−97559)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000184632)小松ゼノア株式会社 (60)
【Fターム(参考)】