遠心分離容器および遠心分離方法
【課題】分離したい細胞に脂肪分を付着させることなく、分離したい細胞群をより確実に分離する。
【解決手段】細胞懸濁液を収容し、底部2bを半径方向外方に向けて回転させられる筒状の容器本体2と、該容器本体2内に対して液体C,Eを給廃液する液体管路6と、容器本体2の底部2bとは反対側の端部2a近傍において、該容器本体2内の空間に連通し、該容器本体2内から溢れた流体Fを収容する収容部3とを備える遠心分離容器1を提供する。
【解決手段】細胞懸濁液を収容し、底部2bを半径方向外方に向けて回転させられる筒状の容器本体2と、該容器本体2内に対して液体C,Eを給廃液する液体管路6と、容器本体2の底部2bとは反対側の端部2a近傍において、該容器本体2内の空間に連通し、該容器本体2内から溢れた流体Fを収容する収容部3とを備える遠心分離容器1を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心分離容器および遠心分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、脂肪組織を分解して脂肪由来細胞を単離させた細胞懸濁液を収容した遠心分離容器を、該遠心分離容器から離れた軸線回りに回転させることにより、細胞懸濁液内に含有されている成分を比重により分離する遠心分離装置が知られている(特許文献1参照。)。
遠心分離容器は、一端を閉塞された略円筒状に形成され、その閉塞端を半径方向外方に向けるように回転させられることにより、閉塞端に向けて比重の大きい成分が移動し、閉塞端側から比重の大きい順に並んで分離されるようになっている。
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/012480号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特に脂肪組織のような生体組織を分解して得られた細胞懸濁液には比重の軽い脂肪分が多く含まれるため、遠心分離後の細胞懸濁液の最上層に脂肪分が浮遊して分離したい脂肪由来細胞に付着してしまう不都合がある。すなわち、遠心分離容器内の最下層には脂肪由来細胞を含む細胞群が分離され、それ以外の上清が中間層に分離され、脂肪分が最上層に分離されるので、遠心分離容器内の細胞と上清との境界近傍に配置した配管によって上清および脂肪群を除去しようとしても、脂肪群が排出されずに残り、細胞に付着してしまう不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、分離したい細胞に脂肪分を付着させることなく、分離したい細胞群をより確実に分離することができる遠心分離容器および遠心分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、細胞懸濁液を収容し、底部を半径方向外方に向けて回転させられる筒状の容器本体と、該容器本体内に対して液体を給廃液する液体管路と、前記容器本体の前記底部とは反対側の端部近傍において、該容器本体内の空間に連通し、該容器本体内から溢れた流体を収容する収容部とを備える遠心分離容器を提供する。
【0007】
本発明によれば、容器本体内に細胞懸濁液を収容し、底部を半径方向外方に向けて回転させると、細胞懸濁液内に含有されている成分が比重により分離される。この場合に、容器本体の底部最下層には、比重の大きな細胞群が集められ、中層には血漿等の上清が集められ、最上層には比重の小さな脂肪分(流体)が集められる。
【0008】
この状態で、容器本体を、底部が下側となるように鉛直方向に沿って配置し、液体管路を通して液体、例えば、生理食塩水等の洗浄液を容器本体内に静かに供給する。これにより、容器本体内に収容されている液体の量が増加して、容器本体の底部とは反対側の端部近傍において容器本体内の空間に連通している収容部に溢れる。
【0009】
容器本体内の最上層には脂肪分が集められていたので、収容部には、脂肪分から優先的に溢れることになり、容器本体内の細胞懸濁液から脂肪分が効率的に除去される。したがって、この後に再度遠心分離動作を行うことにより、脂肪分が除去された細胞懸濁液を遠心分離することができ、所望の細胞群に脂肪分が付着した状態で採取されないようにすることができる。
【0010】
上記発明においては、前記容器本体の半径方向外方に前記収容部が配置され、二重管状に形成されていてもよい。
このようにすることで、内側の容器本体内から溢れた脂肪分が外側の収容部に収容され、その後の再度の遠心分離により、脂肪分を含まない細胞懸濁液を遠心分離して所望の細胞群を得ることができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記収容部が、容器本体を上下方向に区画するように配置され、多数の透孔を有するフィルタ部材により容器本体の上部に形成されていてもよい。
このようにすることで、液体管路を通して液体、例えば、生理食塩水等の洗浄液を容器本体内に静かに供給すると、容器本体内に収容されている液体の量が増加して、フィルタ部材の透孔を介してフィルタ部材の上方に形成されている収容部に溢れる。
【0012】
このとき、最上層に集められていた脂肪分から優先的に収容部へ溢れる。そして、フィルタ部材の下方の液体を排出すると、脂肪分はフィルタ部材によってトラップされるので、容器本体の底部の方向に戻ることがなく、脂肪分が除去された細胞懸濁液を遠心分離することができ、所望の細胞群に脂肪分が付着した状態で採取されないようにすることができる。
【0013】
また、本発明は、細胞懸濁液を収容した筒状の容器を、該容器の底部を半径方向外方に向けて回転させる第1の遠心分離工程と、該遠心分離工程において遠心分離された細胞懸濁液を収容した容器を、該容器の底部を下方に向けて配置し、内部に液体を供給して、容器内に分離した細胞懸濁液の上層部分を容器から溢れさせる液体供給工程と、該液体供給工程において上層部分を溢れさせた細胞懸濁液を収容した容器を、再度、該容器の底部を半径方向外方に向けて回転させる第2の遠心分離工程とを含む遠心分離方法を提供する。
【0014】
本発明によれば、第1の遠心分離工程において、細胞懸濁液が、容器の底部側から順に細胞群、上清および脂肪分に遠心分離される。この状態で液体供給工程により容器内に液体を供給することで、上層部分を容器から溢れさせる。上層部分には脂肪分が配置されているので、液体供給工程により細胞懸濁液内の脂肪分を他の成分から分離して除去することができる。その後、第2の遠心分離工程において、脂肪分を含まない細胞懸濁液を、容器の底部側から順に、細胞群および上清に分離することができ、上清の除去により、脂肪分が付着していない細胞群を分離採取することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、分離したい細胞に脂肪分を付着させることなく、分離したい細胞群をより確実に分離することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係る遠心分離容器1および遠心分離方法について、図1〜図7を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る遠心分離容器1は、図1に示されるように、二重円筒状に形成され、内側の容器本体2と、外側の収容部3とを備えている。
【0017】
容器本体2は、略円筒状に形成され、一端に開口2aを有し、他端が閉塞されている。閉塞端(底部)2bは、先端に向かって次第に先細になるテーパ内面状に形成されている。
収容部3も容器本体2の閉塞端2b側において閉塞し、他端には、蓋部材4によって閉塞される開口部3aを有している。蓋部材4によって開口部3aが閉塞された状態で、収容部3内は密閉されるが、収容部3内の空間と容器本体2内の空間とは開口2a側において相互に連絡している。
【0018】
容器本体2と収容部3とは、接続部材5によって相互に固定されている。接続部材5は、図1に示す例では、例えば、周方向に間隔をあけて複数設けられ、容器本体2と収容部3とを半径方向に連結する梁状の部材である。
【0019】
蓋部材4には、その中央を貫通して容器本体2内に先端6aが配置されるチューブ6が固定されている。チューブ6の先端6aは、容器本体2の所定の深さ位置に配置されている。この深さ位置は、図3に示されるように、後述する細胞懸濁液Aを遠心分離したときに、分離回収すべき最下層の細胞群Bと上清Cとの境界Dよりも上清C側に配されることとなる位置に設定されている。
【0020】
チューブ6は、外部から送られてくる細胞懸濁液Aや洗浄液Eを容器本体2内に供給する一方、容器本体2内から上清Cを除去するために、容器本体2内との間の液体A,C,Eの供給および排出を行うようになっている。
細胞懸濁液Aとしては、例えば、脂肪組織のような生体組織をタンパク質分解酵素により分解することで単離された脂肪由来細胞を浮遊させた状態に含むものが挙げられる。細胞懸濁液A内にはタンパク質分解酵素が含有されているので、その濃度を低減して脂肪由来細胞へのダメージを低減するために、洗浄液Eにより洗浄する必要がある。
【0021】
このように構成された本実施形態に係る遠心分離容器1を用いた遠心分離方法について以下に説明する。
本実施形態に係る遠心分離容器1を用いて細胞懸濁液Aを遠心分離するには、遠心分離容器1を図示しない遠心分離機にセットして、図2に示されるように、チューブ6を介して外部から細胞懸濁液Aを容器本体2内に供給する。この状態で、遠心分離機を作動させて、遠心分離容器1を回転させる。
【0022】
遠心分離容器1が、その底部1aを半径方向外方に向けて回転させられることにより、容器本体2内に収容されている細胞懸濁液Aには遠心力が作用する。これにより、細胞懸濁液A内に含まれる各種成分がその比重の相違によって、図3に示されるように遠心分離される。
【0023】
すなわち、容器本体2の閉塞端2bはテーパ内面状に形成されているので、細胞懸濁液A内に含まれている比重の大きな細胞群Bがテーパ内面に沿って底部3bの先端部に集められる。これにより、細胞群Bが容器本体2の底部2bの先端部に沈み、残りの上清Cから分離される。
また、細胞懸濁液A内に含まれている比重の小さい脂肪分Fは、上清Cよりもさらに開口2a側に分離される。
【0024】
この状態で、遠心分離機を停止し、遠心分離容器1を底部1bが鉛直下方に向かうように配置し、図4に示されるように、チューブ6を介して外部から洗浄液E、例えば、生理食塩水を容器本体2内に供給する。チューブ6の先端6aは、容器本体2内に分離された細胞群Bと上清Cとの境界面D近傍に配置されているので、洗浄液Eを静かに供給することにより、上清Cと脂肪分Fとの境界面Gを乱さないように容器本体2内に洗浄液Eを供給していくことができる。
【0025】
そして、所定量の洗浄液Eを供給すると、図5に示されるように、容器本体2の開口2aから脂肪分Fがオーバーフローしてその外側に配置されている収容部3内へと流れ込む。これにより、細胞懸濁液A内の脂肪分Fを優先的に容器本体2内から排出することができる。ほぼ全ての脂肪分Fがオーバーフローするまで洗浄液Eを供給した後に、洗浄液Eの供給を停止し、再度遠心分離機を作動させて遠心分離を行う。これにより、容器本体2内の細胞懸濁液Aは、図6に示されるように、細胞群Bと上清C′とに分離される。
【0026】
この状態で、図7に示されるように、チューブ6を介して容器本体2内の上清C′を吸引して外部に排出する。これにより、容器本体2内には遠心分離された細胞群Bと少量の上清C′のみが残る。洗浄液Eを加えることで、細胞懸濁液A内のタンパク質分解酵素の濃度が低減される。必要に応じて、洗浄液Eの供給、遠心分離、オーバーフロー、遠心分離および上清C′の排出動作を繰り返すことにより、より確実に細胞懸濁液A内の脂肪分Fを除去しつつ、細胞群Bを洗浄し、細胞群Bに付着するタンパク質分解酵素の濃度を一層低減することができる。
【0027】
このように、本実施形態に係る遠心分離容器1および遠心分離方法によれば、細胞懸濁液A内に含まれる脂肪分Fを除去して上清C′と細胞群Bとに分離することができる。その結果、容器本体2内から上清C′を吸引排出しても、脂肪分Fが細胞群Bに付着する不都合がなく、脂肪分Fを含まない細胞群Bを分離回収することができるという利点がある。
【0028】
なお、本実施形態に係る遠心分離容器1においては、容器本体2の外部に収容部3を有する2重円筒状に形成したが、これに代えて、図8に示されるように、容器本体2の外部にリング状に収容部3′を設けてもよいし、図9に示されるように、容器本体2から溢れた脂肪分Fを管路7によって収容部3′に導くことにしてもよい。
【0029】
また、容器本体2の半径方向外方に収容部3を設けることとしたが、これに代えて、図10(a)に示されるように、容器本体2の半径方向内方に収容部3を設けることにしてもよい。図10に示す例では、容器本体2の上部に中板部材10を配置し、該中板部材10に厚さ方向に貫通する貫通穴11を設けるとともに、その半径方向の途中位置に環状に窪む収容部3を設けることにすればよい。
【0030】
図10(b)に示されるようにチューブ6の先端6aから洗浄液Eを供給すると、上層の脂肪分Fが中板部材10の貫通穴11を通過して中板部材10の上方に溢れ、収容部3にトラップされる。
【0031】
また、収容部3としては、上述したような容器状に形成されるものの他、図11(a)〜(c)に示されるように、容器本体2内部をフィルタ部材12によって上下方向に区画することで、容器本体2の上方に構成してもよい。フィルタ部材12としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート製のメッシュシート(SEFAR社製)を採用することができる。このメッシュシートには、上下方向に貫通する51〜180μmの多数の透孔(図示略)と、中央部にチューブ6を通過させる貫通穴12aとが設けられている。
【0032】
このようにすることで、遠心分離された状態で、チューブ6を介して外部から洗浄液Eを容器本体2の下部に静かに供給すると、上清Cと脂肪分Fとの境界面Gを乱さないように容器本体2内に洗浄液Eを供給していくことができ、図11(b)に示されるように、フィルタ部材12の透孔を介して上層の脂肪分Fがオーバーフローし、フィルタ部材12上方の収容部3内へと流れ込む。これにより、細胞懸濁液A内の脂肪分Fを優先的に容器本体2の下部の空間から排出することができる。
【0033】
ほぼ全ての脂肪分Fがフィルタ部材12上方の収容部3へオーバーフローするまで洗浄液Eを供給した後に、洗浄液Eの供給を停止し、再度遠心分離機を作動させて遠心分離を行う。その後、上清C′を排出すると、図11(c)に示されるように、収容部3へ移動した脂肪分Fはフィルタ部材12によってトラップされるので、脂肪分Fが容器本体2の下部の空間に戻ることがなく、容器本体2のフィルタ部材12下方の細胞懸濁液Aを、脂肪分Fを含まない細胞群Bと上清C′とに分離することができる。フィルタ部材12は、該フィルタ部材12の上方にオーバーフローした脂肪分Fのみならず、フィルタ部材12に下側から接触した脂肪分Fについても接着させてトラップすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態に係る遠心分離容器を示す縦断面図である。
【図2】図1の遠心分離容器に細胞懸濁液を収容した状態を示す縦断面図である。
【図3】図1の遠心分離容器内に収容された細胞懸濁液を遠心分離した状態を示す縦断面図である。
【図4】図3により遠心分離された細胞懸濁液に洗浄液を供給する工程を説明する縦断面図である。
【図5】図4の状態からさらに洗浄液を供給し、容器本体から脂肪分をオーバーフローさせる工程を示す縦断面図である。
【図6】図5の状態から、脂肪分を除去された細胞懸濁液を再度遠心分離した状態を示す縦断面図である。
【図7】図6の状態から上清を除去した状態を示す縦断面図である。
【図8】図1の遠心分離容器の第1の変形例を示す縦断面図である。
【図9】図1の遠心分離容器の第2の変形例を示す縦断面図である。
【図10】図1の遠心分離容器の第3の変形例を示す縦断面図である。
【図11】図1の遠心分離容器の第4の変形例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0035】
A 細胞懸濁液
C,C′ 上清(液体)
E 洗浄液(液体)
F 脂肪分(流体)
1 遠心分離容器
2 容器本体
2a 開口(端部)
2b 閉塞端(底部)
3,3′ 収容部
6 チューブ(液体管路)
12 フィルタ部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心分離容器および遠心分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、脂肪組織を分解して脂肪由来細胞を単離させた細胞懸濁液を収容した遠心分離容器を、該遠心分離容器から離れた軸線回りに回転させることにより、細胞懸濁液内に含有されている成分を比重により分離する遠心分離装置が知られている(特許文献1参照。)。
遠心分離容器は、一端を閉塞された略円筒状に形成され、その閉塞端を半径方向外方に向けるように回転させられることにより、閉塞端に向けて比重の大きい成分が移動し、閉塞端側から比重の大きい順に並んで分離されるようになっている。
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/012480号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特に脂肪組織のような生体組織を分解して得られた細胞懸濁液には比重の軽い脂肪分が多く含まれるため、遠心分離後の細胞懸濁液の最上層に脂肪分が浮遊して分離したい脂肪由来細胞に付着してしまう不都合がある。すなわち、遠心分離容器内の最下層には脂肪由来細胞を含む細胞群が分離され、それ以外の上清が中間層に分離され、脂肪分が最上層に分離されるので、遠心分離容器内の細胞と上清との境界近傍に配置した配管によって上清および脂肪群を除去しようとしても、脂肪群が排出されずに残り、細胞に付着してしまう不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、分離したい細胞に脂肪分を付着させることなく、分離したい細胞群をより確実に分離することができる遠心分離容器および遠心分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、細胞懸濁液を収容し、底部を半径方向外方に向けて回転させられる筒状の容器本体と、該容器本体内に対して液体を給廃液する液体管路と、前記容器本体の前記底部とは反対側の端部近傍において、該容器本体内の空間に連通し、該容器本体内から溢れた流体を収容する収容部とを備える遠心分離容器を提供する。
【0007】
本発明によれば、容器本体内に細胞懸濁液を収容し、底部を半径方向外方に向けて回転させると、細胞懸濁液内に含有されている成分が比重により分離される。この場合に、容器本体の底部最下層には、比重の大きな細胞群が集められ、中層には血漿等の上清が集められ、最上層には比重の小さな脂肪分(流体)が集められる。
【0008】
この状態で、容器本体を、底部が下側となるように鉛直方向に沿って配置し、液体管路を通して液体、例えば、生理食塩水等の洗浄液を容器本体内に静かに供給する。これにより、容器本体内に収容されている液体の量が増加して、容器本体の底部とは反対側の端部近傍において容器本体内の空間に連通している収容部に溢れる。
【0009】
容器本体内の最上層には脂肪分が集められていたので、収容部には、脂肪分から優先的に溢れることになり、容器本体内の細胞懸濁液から脂肪分が効率的に除去される。したがって、この後に再度遠心分離動作を行うことにより、脂肪分が除去された細胞懸濁液を遠心分離することができ、所望の細胞群に脂肪分が付着した状態で採取されないようにすることができる。
【0010】
上記発明においては、前記容器本体の半径方向外方に前記収容部が配置され、二重管状に形成されていてもよい。
このようにすることで、内側の容器本体内から溢れた脂肪分が外側の収容部に収容され、その後の再度の遠心分離により、脂肪分を含まない細胞懸濁液を遠心分離して所望の細胞群を得ることができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記収容部が、容器本体を上下方向に区画するように配置され、多数の透孔を有するフィルタ部材により容器本体の上部に形成されていてもよい。
このようにすることで、液体管路を通して液体、例えば、生理食塩水等の洗浄液を容器本体内に静かに供給すると、容器本体内に収容されている液体の量が増加して、フィルタ部材の透孔を介してフィルタ部材の上方に形成されている収容部に溢れる。
【0012】
このとき、最上層に集められていた脂肪分から優先的に収容部へ溢れる。そして、フィルタ部材の下方の液体を排出すると、脂肪分はフィルタ部材によってトラップされるので、容器本体の底部の方向に戻ることがなく、脂肪分が除去された細胞懸濁液を遠心分離することができ、所望の細胞群に脂肪分が付着した状態で採取されないようにすることができる。
【0013】
また、本発明は、細胞懸濁液を収容した筒状の容器を、該容器の底部を半径方向外方に向けて回転させる第1の遠心分離工程と、該遠心分離工程において遠心分離された細胞懸濁液を収容した容器を、該容器の底部を下方に向けて配置し、内部に液体を供給して、容器内に分離した細胞懸濁液の上層部分を容器から溢れさせる液体供給工程と、該液体供給工程において上層部分を溢れさせた細胞懸濁液を収容した容器を、再度、該容器の底部を半径方向外方に向けて回転させる第2の遠心分離工程とを含む遠心分離方法を提供する。
【0014】
本発明によれば、第1の遠心分離工程において、細胞懸濁液が、容器の底部側から順に細胞群、上清および脂肪分に遠心分離される。この状態で液体供給工程により容器内に液体を供給することで、上層部分を容器から溢れさせる。上層部分には脂肪分が配置されているので、液体供給工程により細胞懸濁液内の脂肪分を他の成分から分離して除去することができる。その後、第2の遠心分離工程において、脂肪分を含まない細胞懸濁液を、容器の底部側から順に、細胞群および上清に分離することができ、上清の除去により、脂肪分が付着していない細胞群を分離採取することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、分離したい細胞に脂肪分を付着させることなく、分離したい細胞群をより確実に分離することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係る遠心分離容器1および遠心分離方法について、図1〜図7を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る遠心分離容器1は、図1に示されるように、二重円筒状に形成され、内側の容器本体2と、外側の収容部3とを備えている。
【0017】
容器本体2は、略円筒状に形成され、一端に開口2aを有し、他端が閉塞されている。閉塞端(底部)2bは、先端に向かって次第に先細になるテーパ内面状に形成されている。
収容部3も容器本体2の閉塞端2b側において閉塞し、他端には、蓋部材4によって閉塞される開口部3aを有している。蓋部材4によって開口部3aが閉塞された状態で、収容部3内は密閉されるが、収容部3内の空間と容器本体2内の空間とは開口2a側において相互に連絡している。
【0018】
容器本体2と収容部3とは、接続部材5によって相互に固定されている。接続部材5は、図1に示す例では、例えば、周方向に間隔をあけて複数設けられ、容器本体2と収容部3とを半径方向に連結する梁状の部材である。
【0019】
蓋部材4には、その中央を貫通して容器本体2内に先端6aが配置されるチューブ6が固定されている。チューブ6の先端6aは、容器本体2の所定の深さ位置に配置されている。この深さ位置は、図3に示されるように、後述する細胞懸濁液Aを遠心分離したときに、分離回収すべき最下層の細胞群Bと上清Cとの境界Dよりも上清C側に配されることとなる位置に設定されている。
【0020】
チューブ6は、外部から送られてくる細胞懸濁液Aや洗浄液Eを容器本体2内に供給する一方、容器本体2内から上清Cを除去するために、容器本体2内との間の液体A,C,Eの供給および排出を行うようになっている。
細胞懸濁液Aとしては、例えば、脂肪組織のような生体組織をタンパク質分解酵素により分解することで単離された脂肪由来細胞を浮遊させた状態に含むものが挙げられる。細胞懸濁液A内にはタンパク質分解酵素が含有されているので、その濃度を低減して脂肪由来細胞へのダメージを低減するために、洗浄液Eにより洗浄する必要がある。
【0021】
このように構成された本実施形態に係る遠心分離容器1を用いた遠心分離方法について以下に説明する。
本実施形態に係る遠心分離容器1を用いて細胞懸濁液Aを遠心分離するには、遠心分離容器1を図示しない遠心分離機にセットして、図2に示されるように、チューブ6を介して外部から細胞懸濁液Aを容器本体2内に供給する。この状態で、遠心分離機を作動させて、遠心分離容器1を回転させる。
【0022】
遠心分離容器1が、その底部1aを半径方向外方に向けて回転させられることにより、容器本体2内に収容されている細胞懸濁液Aには遠心力が作用する。これにより、細胞懸濁液A内に含まれる各種成分がその比重の相違によって、図3に示されるように遠心分離される。
【0023】
すなわち、容器本体2の閉塞端2bはテーパ内面状に形成されているので、細胞懸濁液A内に含まれている比重の大きな細胞群Bがテーパ内面に沿って底部3bの先端部に集められる。これにより、細胞群Bが容器本体2の底部2bの先端部に沈み、残りの上清Cから分離される。
また、細胞懸濁液A内に含まれている比重の小さい脂肪分Fは、上清Cよりもさらに開口2a側に分離される。
【0024】
この状態で、遠心分離機を停止し、遠心分離容器1を底部1bが鉛直下方に向かうように配置し、図4に示されるように、チューブ6を介して外部から洗浄液E、例えば、生理食塩水を容器本体2内に供給する。チューブ6の先端6aは、容器本体2内に分離された細胞群Bと上清Cとの境界面D近傍に配置されているので、洗浄液Eを静かに供給することにより、上清Cと脂肪分Fとの境界面Gを乱さないように容器本体2内に洗浄液Eを供給していくことができる。
【0025】
そして、所定量の洗浄液Eを供給すると、図5に示されるように、容器本体2の開口2aから脂肪分Fがオーバーフローしてその外側に配置されている収容部3内へと流れ込む。これにより、細胞懸濁液A内の脂肪分Fを優先的に容器本体2内から排出することができる。ほぼ全ての脂肪分Fがオーバーフローするまで洗浄液Eを供給した後に、洗浄液Eの供給を停止し、再度遠心分離機を作動させて遠心分離を行う。これにより、容器本体2内の細胞懸濁液Aは、図6に示されるように、細胞群Bと上清C′とに分離される。
【0026】
この状態で、図7に示されるように、チューブ6を介して容器本体2内の上清C′を吸引して外部に排出する。これにより、容器本体2内には遠心分離された細胞群Bと少量の上清C′のみが残る。洗浄液Eを加えることで、細胞懸濁液A内のタンパク質分解酵素の濃度が低減される。必要に応じて、洗浄液Eの供給、遠心分離、オーバーフロー、遠心分離および上清C′の排出動作を繰り返すことにより、より確実に細胞懸濁液A内の脂肪分Fを除去しつつ、細胞群Bを洗浄し、細胞群Bに付着するタンパク質分解酵素の濃度を一層低減することができる。
【0027】
このように、本実施形態に係る遠心分離容器1および遠心分離方法によれば、細胞懸濁液A内に含まれる脂肪分Fを除去して上清C′と細胞群Bとに分離することができる。その結果、容器本体2内から上清C′を吸引排出しても、脂肪分Fが細胞群Bに付着する不都合がなく、脂肪分Fを含まない細胞群Bを分離回収することができるという利点がある。
【0028】
なお、本実施形態に係る遠心分離容器1においては、容器本体2の外部に収容部3を有する2重円筒状に形成したが、これに代えて、図8に示されるように、容器本体2の外部にリング状に収容部3′を設けてもよいし、図9に示されるように、容器本体2から溢れた脂肪分Fを管路7によって収容部3′に導くことにしてもよい。
【0029】
また、容器本体2の半径方向外方に収容部3を設けることとしたが、これに代えて、図10(a)に示されるように、容器本体2の半径方向内方に収容部3を設けることにしてもよい。図10に示す例では、容器本体2の上部に中板部材10を配置し、該中板部材10に厚さ方向に貫通する貫通穴11を設けるとともに、その半径方向の途中位置に環状に窪む収容部3を設けることにすればよい。
【0030】
図10(b)に示されるようにチューブ6の先端6aから洗浄液Eを供給すると、上層の脂肪分Fが中板部材10の貫通穴11を通過して中板部材10の上方に溢れ、収容部3にトラップされる。
【0031】
また、収容部3としては、上述したような容器状に形成されるものの他、図11(a)〜(c)に示されるように、容器本体2内部をフィルタ部材12によって上下方向に区画することで、容器本体2の上方に構成してもよい。フィルタ部材12としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート製のメッシュシート(SEFAR社製)を採用することができる。このメッシュシートには、上下方向に貫通する51〜180μmの多数の透孔(図示略)と、中央部にチューブ6を通過させる貫通穴12aとが設けられている。
【0032】
このようにすることで、遠心分離された状態で、チューブ6を介して外部から洗浄液Eを容器本体2の下部に静かに供給すると、上清Cと脂肪分Fとの境界面Gを乱さないように容器本体2内に洗浄液Eを供給していくことができ、図11(b)に示されるように、フィルタ部材12の透孔を介して上層の脂肪分Fがオーバーフローし、フィルタ部材12上方の収容部3内へと流れ込む。これにより、細胞懸濁液A内の脂肪分Fを優先的に容器本体2の下部の空間から排出することができる。
【0033】
ほぼ全ての脂肪分Fがフィルタ部材12上方の収容部3へオーバーフローするまで洗浄液Eを供給した後に、洗浄液Eの供給を停止し、再度遠心分離機を作動させて遠心分離を行う。その後、上清C′を排出すると、図11(c)に示されるように、収容部3へ移動した脂肪分Fはフィルタ部材12によってトラップされるので、脂肪分Fが容器本体2の下部の空間に戻ることがなく、容器本体2のフィルタ部材12下方の細胞懸濁液Aを、脂肪分Fを含まない細胞群Bと上清C′とに分離することができる。フィルタ部材12は、該フィルタ部材12の上方にオーバーフローした脂肪分Fのみならず、フィルタ部材12に下側から接触した脂肪分Fについても接着させてトラップすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態に係る遠心分離容器を示す縦断面図である。
【図2】図1の遠心分離容器に細胞懸濁液を収容した状態を示す縦断面図である。
【図3】図1の遠心分離容器内に収容された細胞懸濁液を遠心分離した状態を示す縦断面図である。
【図4】図3により遠心分離された細胞懸濁液に洗浄液を供給する工程を説明する縦断面図である。
【図5】図4の状態からさらに洗浄液を供給し、容器本体から脂肪分をオーバーフローさせる工程を示す縦断面図である。
【図6】図5の状態から、脂肪分を除去された細胞懸濁液を再度遠心分離した状態を示す縦断面図である。
【図7】図6の状態から上清を除去した状態を示す縦断面図である。
【図8】図1の遠心分離容器の第1の変形例を示す縦断面図である。
【図9】図1の遠心分離容器の第2の変形例を示す縦断面図である。
【図10】図1の遠心分離容器の第3の変形例を示す縦断面図である。
【図11】図1の遠心分離容器の第4の変形例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0035】
A 細胞懸濁液
C,C′ 上清(液体)
E 洗浄液(液体)
F 脂肪分(流体)
1 遠心分離容器
2 容器本体
2a 開口(端部)
2b 閉塞端(底部)
3,3′ 収容部
6 チューブ(液体管路)
12 フィルタ部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞懸濁液を収容し、底部を半径方向外方に向けて回転させられる筒状の容器本体と、
該容器本体内に対して液体を給廃液する液体管路と、
前記容器本体の前記底部とは反対側の端部近傍において、該容器本体内の空間に連通し、該容器本体内から溢れた流体を収容する収容部とを備える遠心分離容器。
【請求項2】
前記容器本体の半径方向外方に前記収容部が配置され、二重管状に形成されている請求項1に記載の遠心分離容器。
【請求項3】
前記収容部が、容器本体を上下方向に区画するように配置され、多数の透孔を有するフィルタ部材により容器本体の上部に形成されている請求項1に記載の遠心分離容器。
【請求項4】
細胞懸濁液を収容した筒状の容器を、該容器の底部を半径方向外方に向けて回転させる第1の遠心分離工程と、
該遠心分離工程において遠心分離された細胞懸濁液を収容した容器を、該容器の底部を下方に向けて配置し、内部に液体を供給して、容器内に分離した細胞懸濁液の上層部分を容器から溢れさせる液体供給工程と、
該液体供給工程において上層部分を溢れさせた細胞懸濁液を収容した容器を、再度、該容器の底部を半径方向外方に向けて回転させる第2の遠心分離工程とを含む遠心分離方法。
【請求項1】
細胞懸濁液を収容し、底部を半径方向外方に向けて回転させられる筒状の容器本体と、
該容器本体内に対して液体を給廃液する液体管路と、
前記容器本体の前記底部とは反対側の端部近傍において、該容器本体内の空間に連通し、該容器本体内から溢れた流体を収容する収容部とを備える遠心分離容器。
【請求項2】
前記容器本体の半径方向外方に前記収容部が配置され、二重管状に形成されている請求項1に記載の遠心分離容器。
【請求項3】
前記収容部が、容器本体を上下方向に区画するように配置され、多数の透孔を有するフィルタ部材により容器本体の上部に形成されている請求項1に記載の遠心分離容器。
【請求項4】
細胞懸濁液を収容した筒状の容器を、該容器の底部を半径方向外方に向けて回転させる第1の遠心分離工程と、
該遠心分離工程において遠心分離された細胞懸濁液を収容した容器を、該容器の底部を下方に向けて配置し、内部に液体を供給して、容器内に分離した細胞懸濁液の上層部分を容器から溢れさせる液体供給工程と、
該液体供給工程において上層部分を溢れさせた細胞懸濁液を収容した容器を、再度、該容器の底部を半径方向外方に向けて回転させる第2の遠心分離工程とを含む遠心分離方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−127708(P2010−127708A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−301310(P2008−301310)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【出願人】(503077877)サイトリ セラピューティクス インコーポレイテッド (32)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【出願人】(503077877)サイトリ セラピューティクス インコーポレイテッド (32)
【Fターム(参考)】
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