説明

遠心分離機の自励振動の予測方法と低減方法

【課題】低コストで高速、高精度な計算が行え、実現可能なパラメータの選定が容易である遠心分離機の自励振動の予測方法と低減方法を提供する。
【解決手段】液体を内蔵した中空円筒形のタンクが弾性回転軸に取り付けられ、一定の角速度で回転している場合を対象とし、コリオリ加速度と粘性を考慮した支配方程式系の変分原理形を求め、境界条件及び非圧縮性による体積一定条件を満たすように流体変位、動圧、液面変位の解を設定し、直交関数展開法により一般化座標に関する時間の常微分方程式を求め、タンクの運動方程式と回転軸を軸受けで支持する部分での力のつりあい式を求め、これらの式と前記常微分方程式を連立させて解くことによって、液体−弾性回転軸連成系の応答を計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心分離機の自励振動の予測方法と低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遠心分離機のように、液体を内蔵した中空回転軸の振動に関して、従来から非特許文献1〜3が発表されている。非特許文献1は、液体運動をCFDで解くものであり、非特許文献2,3は液体運動に解析的方法を用いたものである。
【0003】
なお本発明に関連する方法は、非特許文献4および特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−257654号、「大振幅スロッシング挙動予測方法」
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】斉藤忍、染谷常雄、「液体を内蔵した中空回転軸の振動に関する研究(第3報,安定限界速度の解析)」、日本機械学会論文集(C編)45巻400号 昭和54年12月
【非特許文献2】金子成彦、葉山眞治、「回転円筒容器内に部分的に含まれた液体の自由表面波に関する研究(第1報、共振モードの可視化と非粘性理論による解析)」、日本機械学会論文集(C編)49巻439号 昭和58年3月
【非特許文献3】金子成彦、葉山眞治、「回転円筒容器内に部分的に含まれた液体の自由表面波に関する研究(第2報、境界層理論による流体力の計算)」、日本機械学会論文集(C編)49巻439号 昭和58年3月
【非特許文献4】林毅、村外志夫、「変分法」、応用数学講座第13巻、コロナ社、昭和62年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1は、液体運動をCFDで解くものであり、計算時間と計算コストが多くかかる問題点があった。また非特許文献2,3は液体運動に解析的方法を用いたものであるが、回転軸との連成、およびこの連成による自励振動までは考慮していない。
さらに、非特許文献1〜3には、振動を低減する具体的方法は開示されていない。そのため、任意の回転数で自励振動を発生させず安定するようにパラメータを選定することは困難であった。また仮にそのような選定が理論上できたとしても、実現困難な可能性があった。
【0007】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、低コストで高速、高精度な計算が行え、任意の回転数で自励振動を発生させず安定する実現可能なパラメータの選定が容易にできる遠心分離機の自励振動の予測方法と低減方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、液体を内蔵した中空円筒形のタンクが弾性回転軸に取り付けられ、一定の角速度で回転している場合を対象とし、
(A) コリオリ加速度と粘性がない場合の変分原理形を求め(後述する式(2))、
(B) コリオリ加速度と粘性を考慮した液体の運動方程式をNavier−Stokes方程式から求め(後述する式(3)(4))、
(C) (A)と(B)からコリオリ加速度と粘性を考慮した支配方程式系の変分原理形を求め(後述する式(10))、
(D) 境界条件及び非圧縮性による体積一定条件を満たすように流体変位、動圧、液面変位の解を設定し(後述する式(11)(12))、
(E) 直交関数展開法により、(C)と(D)から一般化座標に関する時間の常微分方程式を求め(後述する式(15))、
(F) タンクの運動方程式(後述する式(16))と回転軸を軸受けで支持する部分での力のつりあい式(後述する式(18))を求め、
(G) (E)と(F)を連立させて解くことによって、液体−弾性回転軸連成系の応答を計算する、ことを特徴とする遠心分離機の自励振動の予測方法が提供される。
【0009】
また本発明によれば、液体を内蔵した中空円筒形のタンクが弾性回転軸に取り付けられ、一定の角速度で回転している遠心分離機の自励振動低減方法であって、
前記タンク内に軸方向等間隔に位置し、タンク半径より小さい半径の複数の円板と、
前記複数の円板をタンクの回転速度と異なる速度で回転させる円板回転装置とを備え、
前記複数の円板の回転により、周方向にタンクに対して相対的な静的強制流れ場を与え、かつ円板の回転速度をタンクより小さくして、液体のタンクに対して相対的な周方向静的流速を負にする、ことを特徴とする遠心分離機の自励振動低減方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
上述した遠心分離機の自励振動予測方法により、中空円筒形のタンク内の液体運動を直交関数展開法で解くことができ、低コストで高速、高精度な計算が可能となる。また回転軸との連成振動を解析することにより、自励振動が解析でき、安定限界が予測できる。
すなわち、完全流体の変分原理(後述する式(2))を、粘性やコリオリ加速度を含む場合へ拡張し(後述する式(10))、この変分原理を解くための液体運動の解(後述する式(11)(12))の直交関数展開を表示し、式(10)に式(11)(12)を代入して低次元の常微分方程式に帰着させることにより、液体運動が高速、高精度に解析でき、軸の振動との連成を考慮するので自励振動解析、安定限界の予測が行える。
【0011】
また、上述した遠心分離機の自励振動低減方法により、大きなコスト増大を伴わずに振動低減が行え、かつ半径方向の流れを拘束しないので、遠心分離機としての機能を低下させることなく、振動低減が行えることが、上述した遠心分離機の自励振動予測方法により確認された。
すなわち、本発明の予測方法を具体的に適用した本発明の低減方法により、タンク内の周方向静的流速を与え、負にする機構を備えることにより、周方向静的流速の影響は,運動方程式の慣性項,液面の圧力境界条件に現れ、このうち、液面の圧力境界条件に現れるものが振動抑制に寄与することが、検証された。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による解析モデルの模式図である。
【図2】本発明の解析方法による不安定振動発生領域を示す図である。
【図3】本発明による自励振動の低減方法を示す図である。
【図4】回転軸の変位応答を示す図である。
【図5】タンクに働く液体力、液面変位の、Vが0と負の場合の応答の大きさを示す図である。
【図6】図4の場合より液体領域の厚さが減少し、液面の面積が増加した場合の回転軸の変位応答を示す図である。
【図7】図6の場合についての、タンクに働く動圧による液体力、液面変位の、Vが0と負の場合の応答の大きさを示す図である。
【図8】図4の場合より液体領域の厚さが増加し、液面の面積が減少した場合の回転軸の変位応答を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0014】
1. 遠心分離機の自励振動の予測方法
初めに、本発明による遠心分離機の自励振動の予測方法を説明する。
1.1 解析モデル
図1は、本発明による解析モデルの模式図である。この図に示すように、液体(Liquid)を内蔵したタンクmが弾性回転軸(Elastic axis)に取り付けられ、角速度Ωで回転している場合を考える。ここでタンクmがその軸をZ軸と平行にしてXY平面内で運動し、Z方向に変化のない2次元問題を考える。
これは[非特許文献1]のモデルであり、本発明の予測方法による結果をこの文献の結果と比較して、本発明の予測方法の妥当性を確かめる。
【0015】
1.2 完全流体の変分原理
本発明の予測方法は、流体運動解析に直交関数展開法を用いるため、基礎方程式を変分原理の形に表示する。
まず、コリオリ加速度と粘性がない場合の変分原理(ラグランジュアンによる最小作用の原理)を導く。この変分原理は、任意形状タンクを対象とする変分原理より、数1の式(*1)で現される。
ここで、ρ:液体の密度、φ:液体のタンクに対する相対的運動を表す速度ポテンシャル、p:液圧、G:圧力方程式に現れる任意の時間関数、V:液体領域、W:タンク壁面(剛体)、F:液面、N:Wの液体に対して外向きの単位法線ベクトル、N:Fの液体に対して内向きの単位法線ベクトル、ζ:液面変位、R:液面変位を考える方向、cos(a,b):aとbのなす角の余弦である。
【0016】
式(*1)を式(*2)として本発明の問題の場合に帰着させることによって、式(1)が得られる。
ここで、u:液体のタンクに対する相対変位ベクトル、ζ:r方向(液体に対して内向き)の液面変位である。
式(1)の各項で、変分の係数を0とおくことにより、式(1a)〜式(1e)の基礎方程式と境界条件が得られる。
各式の物理的意味は次のとおりである。すなわち、式(1a)は、液体領域内で満たされるべき連続条件;式(1b)は、タンク側面で法線方向の流速が0となる条件;式(1c)は、液体の非圧縮性に基づく体積一定条件;式(1d)は、液面で法線方向の液面振動速度と流体粒子速度が等しい条件;式(1e)は、液面で圧力が0となる条件を表す。
【0017】
【数1】

【0018】
式(1)を、速度ポテンシャルの代りに圧力と流体変位成分で表すため、次の処理を行い、数2の式(2)を得る。
ここで、動圧を速度ポテンシャルで表す式(*3)を使う。また、∇φ=∂u/∂t・・・(*4)を代入して時間で部分積分する。また、t=t1、 t=t2 でδφ=0であることを用いる。
【0019】
完全流体の変分原理(式(2))では、速度ポテンシャルによって速度場が決定されるため、液体の運動方程式は導出されない。そこで、コリオリ加速度と粘性を考慮した液体の運動方程式を導き、変分原理で表す。この運動方程式は、Navier−Stokes方程式から式(3)(4)のようになる。
なお、この出願において、式中に「・」を上に付した記号は、1回微分を示し、式中に「・・」を上に付した記号は、2回微分を示す。また文中では便宜上、それぞれ「・付」「・・付」と記載する。
【0020】
【数2】

【0021】
ここで、式(3)(4)の各式の左辺第2項はコリオリ力を表し、左辺第3、4項は回転軸のたわみによる慣性力を表す。また、液面で粘性応力が0になる数3の条件式(5)を課す。
圧力をp=pst+pdy・・・(*5)と静圧と動圧に分離し、式(3)、(4)の静的項を記すと、式(6)(7)となる。
式(6)を積分して液面r=aで0となるように積分定数を定めると、式(8)が得られる。
運動液面r=a+ζでの静圧を求めて線形近似し、動圧を加えると、式(9)が得られる。
【0022】
【数3】

【0023】
ガレルキン法の適用のため、式(5)の粘性によって生じた項と、式(3)、(4)を仮想仕事として式(2)に導入し、式(9)を用いることにより、支配方程式系の変分原理形を数4の式(10)のように得る(式(10)の最後の項が式(5)の粘性によって生じた項の仮想仕事項である)。
ここで、(10a)〜(10c)である。
【0024】
【数4】

【0025】
1.3 液体運動に関する微分方程式系の導出
式(10)をガレルキン法によって計算するため、数5の式(11)(12)のように流体変位、動圧、液面変位の解を設定する。
ここでa1lq,a2lq,a3lq,a4qは一般化座標であり、座標の関数は式(13)(14)のように与えられている。
式(11)によって与えられる半径方向と周方向の流体変位は、タンク壁面r=bで零となる境界条件を満たす解(許容関数)となっている。式(12)によって与えられる液面変位の解は、非圧縮性による体積一定条件を満たす。本発明の問題では、コリオリ加速度により非ポテンシャル流となるため、ラプラス方程式の解とは異なる一般的な直交関数展開表示を用いている。
式(11)、(12)を式(10)に代入し、ガレルキン法を用いて計算すると、一般化座標に関する時間の常微分方程式が、式(15)の行列方程式の形に導かれる。
ここで、ベクトルX:一般化座標を集めた列ベクトル、ベクトルEX1,EX2,EY1,EY2:定数の列ベクトルである。
【0026】
【数5】

【0027】
1.4 タンクおよび軸受け支持部に関する方程式
タンクの運動方程式は数6の式(16)のように導かれる。
ここで、F,F:タンクに作用する液体力で、式(11)を式(17)に代入することによって計算される:
回転軸を軸受けで支持する部分での力のつりあい式は、式(18)によって与えられる。
式(16),(18)を式(15)と連立させて解くことにより、液体−弾性回転軸連成系の応答を計算する。
【0028】
【数6】

【実施例1】
【0029】
3.数値例題
図2は、本発明の解析方法による不安定振動発生領域を示す図である。この図において、縦軸は,無次元回転速度Ω/(k/m)1/2、横軸は軸受け支持の減衰比c/2(mk)1/2の対数である。また、静的液体領域の外半径b=0.25m,無次元厚さ(b−a)/b=0.1,長さ2h=1.3m;タンクの質量mは,タンクを完全に満たす液体質量の10倍;回転軸のばね定数k=8000kN/m;支持のばね定数k=80kN/m;規定された周方向流速V=0である。
図2中の曲線で囲まれた領域が、[非特許文献1]によって求められた不安定な領域である。本発明の解析方法では、丸印の回転速度および支持減衰比の下で時刻歴応答解析を行い、応答が成長するかどうかによって安定性を判別して、安定な場合を白丸で、不安定な場合を黒丸で示している。
この図から、不安定振動発生領域(安定性の、無次元回転速度、支持の減衰比に対する依存性)を本発明の解析方法によって求めた結果が、[非特許文献1]の結果に一致することが確認された。
【0030】
4.遠心分離機の自励振動の低減方法
次に、本発明による遠心分離機の自励振動の低減方法を説明する。
【0031】
図3は、本発明による自励振動の低減方法を示す図である。この図において、遠心分離機1は、図1に示した2次元問題と同様に、液体2を内蔵した中空円筒形のタンク3が弾性回転軸4に取り付けられ、タンク回転装置5により一定の角速度Ωで回転している。
また、本発明による自励振動の低減方法を達成するために、この遠心分離機1は、さらに、複数の円板12と円板回転装置14を備える。
複数(この図で6枚)の円板12は、タンク3内に軸方向等間隔に位置し、タンク半径より小さい半径を有する。
円板回転装置14は、複数の円板12をタンク3の回転速度と異なる速度Ωで円板回転軸15を中心に回転させるようになっている。
この遠心分離機1は、さらに、円板回転装置14の回転速度を制御する制御装置16を備え、複数の円板12の回転により、周方向にタンク3に対して相対的な静的強制流れ場を与え、かつ円板12の回転速度Ωをタンクより小さくして、液体のタンク3に対して相対的な周方向静的流速を負にするようになっている。
【0032】
すなわち、図1に示した2次元問題に対する自励振動の低減方法として、図3のように、タンク内半径に殆ど等しい半径の円板を軸方向等間隔で入れ、これらの円板をタンクの回転速度Ωと異なる速度Ωで回転させ、周方向に数7の式(21)で示す流速のタンクに対して相対的な静的強制流れ場を与える方法を提案する。ここでVは外周での値である。
後述する解析に基づき、円板の回転速度をタンク回転速度より小さくして、周方向静的流速Vを負にする。
次に、Vをタンクと円板の回転速度差(差速)と関係付ける。円板のタンクに対する相対速度r(Ω−Ω)に等しい周方向静的流速が円板近くに生ずる。粘性の影響により、円板から遠い液体領域でもr(Ω−Ω)に近い周方向流速が生ずることに基づき、この流速を式(21)の流速に等しいとおいた式から式(22)となる。式(22)より、円板の外周でのタンクに対する相対速度がVの指標となることが分かる。
【0033】
【数7】

【0034】
5.有効性検証のための解析方法
式(21)の周方向流速が与えられた場合の基礎式は、数8の式(23)の変更を運動方程式に施すことによって導かれる。ここで注意すべき点は、線形解析の場合でも運動方程式の非線形項を最初から省略してはならず、一旦保存した式において式(23)の変更を行った後に、線形近似する必要がある点である。式(23)の変更によって、連続条件を表す式は変更されない。結果として、解くべき変分原理として、式(24)が得られる。ここで、(25a)(25b)(25c)である。
式(24)〜(25c)において下線部は、Vの影響が及ぶ項で、後の数値計算結果の議論で参照する。
式(25)を直交関数展開の方法によって液体運動を支配する常微分方程式に変換し、液体力を受ける回転軸の運動方程式、軸受けでの力のつりあい式と連成させて解く。
【0035】
【数8】

【実施例2】
【0036】
6.数値例題による有効性検証
X,Y方向の励振力として、X,Y方向のタンクの運動方程式の右辺にそれぞれ、εΩcosΩt,εΩsinΩt(ε=0.5N)を加えて、150回転分の時間範囲0≦t≦300π/Ωで時刻歴応答解析を行った。
図4は、回転軸の変位応答を示す図である。この図は、この時間範囲でのUの絶対値の最大値を回転速度の関数としてプロットしたものである。
なおこの図は、静的液体領域の外半径b=0.25m,無次元厚さ(b−a)/b=0.6,長さ2h=1.3m,液体密度ρ=1000kg/m,粘性係数μ=0.0011Ns/m,タンクの質量m=1300kg,回転軸のばね定数k=16700kN/m,支持のばね定数k=167kN/m,減衰定数ζ=c/2(mk)1/2=1;横軸の無次元回転数は,(k/m)1/2=18.04Hz=1082rpmで無次元化した値;振動が大きくなる回転数領域が1500rpm程度となるように回転軸のばね定数を定めている。
【0037】
図4(a)は、応答の周方向流速Vに対する依存性を示す。この図は、周方向の静的流速の応答に対する影響を示している。この図において、応答の大きい順に、周方向の静的流速V=1,0,−1,−2m/sである。
ここで与えたV=−1m/sは、式(22)よりΩ1−Ω=V/b=−1/0.25=−4(rad/s)、すなわち、マイナス38.2rpmの差速に相当する。図4(a)より、応答は周方向流速が正になると増大し、負になると減少することが分かる。
次に、Vを負に与えることにより振動が抑制される物理的理由について調べる。Vは、r,θ方向の運動方程式の慣性項(式(25b),(25c)の下線)の第2、3項と、液面における圧力境界条件の項(式(24)下線)に現れる。
【0038】
図4(b)は、どの項のVが振動抑制に効いているかを調べた結果である。この図は、いろいろな項に現れる周方向の静的流速Vの応答に対する影響を示している。
以下の説明の便宜上、これらの項に現れるVをそれぞれ、慣性項、コリオリ項、スロッシング項のVと称し、それぞれV0.iner、V0.Cori、V0.sloと記す。図4(b)において、応答の大きい順に、(V0.iner、V0.Cori、V0.slo)=(0,−2,0)(0,0,0)(−2,0,0)(0,0,−2)mである。
慣性項、コリオリ項のVは、共にNavier−Stokes方程式の非線形項から生じる。コリオリ項のVは、この項に続く回転によるコリオリ加速度項を、Vの正負に応じて助長、抑制することが分かり、このことからコリオリ項と称した。
図4(b)で、スロッシング項のVのみ−2m/sとし他は0とおいた場合(太い破線)に、全てのVを−2m/sとした図4(a)の太い破線の場合と同等な振動抑制効果となっていることが分かる。したがって、スロッシング項のVが振動抑制に効いていることが分かる。
【0039】
図5に、タンクに働く液体力、液面変位の、Vが0と負の場合の応答の大きさを示す。なおこの図は負が−2m/sの場合を示す。図5(a)は、動圧による液体力の応答を示し、図5(b)は、液面変位の応答を示している。この図において、パラメータは図4と同じである。
タンクに対する加振力となる液体力は、動圧による力と粘性による力に分けられるが、支配的な動圧による力を示している。図5より次のことが分かる。
(a)タンクに働く液体力、液面変位ともに、Vを負にすると減少する。
(b)Vを負にすることによって得られる応答低減効果は、液面変位に関してより、タンクに対する加振力となる液体力に対して幾分大きい。
液面の圧力境界条件(式(24)の下線部)より、Vを負に与えると、動圧振幅の液面変位振幅に対する比が低減することが分かり、これによって上記(a)、(b)の効果が得られることは興味深い知見である。
【0040】
図6に、図4の場合より液体領域の厚さが減少し、液面の面積が増加した場合の回転軸の変位応答を示す。この図は、図4で液体の無次元厚さを0.5に減らして液面の面積を増加させた場合であり,他のパラメータは図4と同じである。
図6(a)は、周方向の静的流速の応答に対する影響を示している。この図において、応答の大きい順に、周方向の静的流速V=1,0,−1,−2m/sである。
図6(b)は、いろいろな項に現れる周方向の静的流速Vの応答に対する影響示している。この図において、応答の大きい順に、(V0.iner、V0.Cori、V0.slo)=(0,−2,0)(0,0,0)(−2,0,0)(0,0,−2)mである。
図4の場合と同様に、次の(i)、(ii)がそれぞれ図6(a)、(b)より確認できる:
(i)応答は、正の周方向流速Vを与えると増大し、負の周方向流速Vを与えると抑制できる。
(ii)負の周方向流速Vによる応答抑制効果は、V0.sloによるものである。
【0041】
図6(a)、(b)を図4(a)、(b)とそれぞれ比較することにより、液体領域の厚さのわずかな減少によって、不安定発振の元凶である液体の質量が減少するにもかかわらず、応答は著しく増大することが分かる。このような結果は、液体領域の厚さの減少、すなわち内半径の増加によって、液面の面積が増大し、液面振動すなわちスロッシングが重要となることを意味する。また、前述の(ii)で記した重要知見:スロッシング項にある周方向流速が最も振動低減に寄与することに、よく符合した結果である。
【0042】
図7に、図6の場合についての、タンクに働く動圧による液体力、液面変位の、Vが0と負の場合の応答の大きさを示す。なおこの図は負が−2m/sの場合を示す。図7(a)は、動圧による液体力の応答を示し、図7(b)は、液面変位の応答を示している。この図において、パラメータは図6と同じである。
図5と同様に上記(a)、(b)の傾向が確認できる。また、Vを負にすることによって得られる応答低減効果が、図5に比べてより顕著となることが確認できる。
【0043】
図8に、図4の場合より液体領域の厚さが増加し、液面の面積が減少した場合の回転軸の変位応答を示す。この図は、図4で液体の無次元厚さを0.7に増して液面の面積を減少させた場合であり,他のパラメータは図4と同じである。
図8(a)は、周方向の静的流速の応答に対する影響を示している。この図において、応答の大きい順に、周方向の静的流速V=1,0,−1,−2m/sである。
図8(b)は、いろいろな項に現れる周方向の静的流速Vの応答に対する影響を示している。この図において、応答の大きい順に、(V0.iner、V0.Cori、V0.slo)=(0,−2,0)(0,0,0)(−2,0,0)(0,0,−2)mである。
不安定発振の元凶である液体質量が増大するのにもかかわらず、スロッシングに関与する液面の面積が減少するため、図6と対照的に応答が図4の場合より小さくなることが分かる。また、本振動低減法の重要知見である上記(i)、(ii)の傾向が、図4、6の場合と同様に確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
上述したように、本発明の発明者は、完全流体の変分原理(式(2))を、粘性やコリオリ加速度を含む場合へ拡張し(式(10))、この変分原理を解くための液体運動の解(式(11)(12))の直交関数展開表示し、式(10)に式(11)(12)を代入して低次元の常微分方程式に帰着させることにより、液体運動が高速、高精度に解析でき、軸の振動との連成を考慮するので自励振動解析、安定限界の予測が行える自励振動予測方法を創案した。
【0045】
また、本発明の予測方法を具体的に適用した本発明の低減方法により、タンク内の周方向静的流速を与え、負にする機構を備えることにより、周方向静的流速の影響は,運動方程式の慣性項,液面の圧力境界条件に現れ、このうち、液面の圧力境界条件に現れるものが振動抑制に寄与することが、検証された。
【0046】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0047】
1 遠心分離機、2 液体、3 タンク、
4 弾性回転軸、5 タンク回転装置、
12 円板、14 円板回転装置、
15 円板回転軸、16 制御装置、
a 静的液体領域の内半径
b 静的液体領域の外半径
軸受け支持の減衰定数
h 静的液体領域の軸方向長さの半分
k 回転軸のばね定数
軸受け支持のばね定数
m タンク(剛体)の質量
(r,θ,z) タンクに固定された円筒座標系
,U 回転軸のタンクへの取付け点でのX,Y方向変位
X0,UY0 支持部のX,Y方向変位
,uθ タンクに対して相対的なr,θ方向の液体変位成分
周方向の静的流速
ν,νθ タンクに対して相対的なr,θ方向の液体速度成分
(X,Y,Z) 空間に固定された座標系
(x,y,z) タンクに固定された座標系
ζ 液面のr方向変位
μ 液体の粘性係数
ρ 液体の密度
Ω 回転角速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を内蔵した中空円筒形のタンクが弾性回転軸に取り付けられ、一定の角速度で回転している場合を対象とし、
(A) コリオリ加速度と粘性がない場合の変分原理形を求め、
(B) コリオリ加速度と粘性を考慮した液体の運動方程式をNavier−Stokes方程式から求め、
(C) (A)と(B)からコリオリ加速度と粘性を考慮した支配方程式系の変分原理形を求め、
(D) 境界条件及び非圧縮性による体積一定条件を満たすように流体変位、動圧、液面変位の解を設定し、
(E) 直交関数展開法により、(C)と(D)から一般化座標に関する時間の常微分方程式を求め、
(F) タンクの運動方程式と回転軸を軸受けで支持する部分での力のつりあい式を求め、
(G) (E)と(F)を連立させて解くことによって、液体−弾性回転軸連成系の応答を計算する、ことを特徴とする遠心分離機の自励振動の予測方法。
【請求項2】
液体を内蔵した中空円筒形のタンクが弾性回転軸に取り付けられ、一定の角速度で回転している遠心分離機の自励振動低減方法であって、
前記タンク内に軸方向等間隔に位置し、タンク半径より小さい半径の複数の円板と、
前記複数の円板をタンクの回転速度と異なる速度で回転させる円板回転装置とを備え、
前記複数の円板の回転により、周方向にタンクに対して相対的な静的強制流れ場を与え、かつ円板の回転速度をタンクより小さくして、液体のタンクに対して相対的な周方向静的流速を負にする、ことを特徴とする遠心分離機の自励振動低減方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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