説明

遠心分離機

【課題】
立ち上げ部を乗り越えてシールラバー上面に達した、もしくはシールラバー上面で発生した結露水をドレン孔から効果的に排出できる遠心分離機を提供する。
【解決手段】
分離する試料を保持して回転するロータと、ロータを回転させる駆動装置と、駆動装置の一部を貫通させる貫通穴を有しロータを収納するチャンバ6と、チャンバの貫通穴と駆動軸の間に嵌着されたシール部材と、チャンバを冷却する冷却装置と、チャンバの開口部を密閉するドアと、チャンバ内の結露水を排出させるためのドレン孔と、駆動装置や冷却装置の運転を制御する制御装置を有する遠心分離機において、シール部材9の上面に結露水の流れを誘導するための突起10を設けた。突起10は、シール部材9の回転中心25を基準に回転対称性を持つように形成され、ロータの回転によって生ずる風の流れ(31)を利用して外周側に結露水を導水する(33〜36)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷却装置を有する遠心分離機に関し、特に、冷却時にロータ室内に溜まる結露水をロータ室外に効率よく排出することができる遠心分離機に関する。
【背景技術】
【0002】
遠心分離機は、分離する試料(例えば、培養液や血液など)をチューブやボトルを介してロータに挿入し、ロータを高速に回転させることで試料の分離や精製を行う。設定されるロータの回転速度は用途によって異なり、用途に合わせて低速(数千回転程度)から高速(最高回転速度は150,000rpm)までの製品群が提供されている。用いられるロータは様々なタイプがあり、チューブ穴が固定角度式で高回転速度に対応できるアングルロータや、チューブを装填したバケットがロータの回転に伴って垂直状態から水平状態に揺動するスイングロータなどがある。また、超高回転速度で回転させて少量の試料に高遠心加速度をかけるロータや、低回転速度となるが大容量の試料を扱えるロータなど様々な大きさのものがある。
【0003】
分離される試料によっては低温状態を保持しなければならないものがあるが、試料を保持して回転するロータを、大気中で高速回転させるとロータの外表面とロータ室内の空気との間に発生する摩擦熱により温度が上昇してしまう。そのため、多くの遠心分離機には冷却装置が搭載されており、試料を冷却して所定の温度に保持できるようにしている。このような冷却装置を有する遠心分離機では、遠心分離を行った後にドアを開閉してロータ室を外気に曝した場合に、ロータ室の側壁に結露が発生することがあり、そのため特許文献1や特許文献2に開示されているように、ロータ室を形成するチャンバの底部にドレン孔を形成し、発生した結露水をドレン孔からドレン配管を介して外部に排出するように構成している。
【0004】
ここで図8を参照しながら従来の遠心分離機の構造について説明する。図8は従来の遠心分離機101の縦断面図であり、チャンバ106によってロータ室105が形成され、ロータ室105内でロータ2が駆動装置11によって回転駆動される。チャンバ106の周囲には冷凍配管18が巻かれる。冷凍配管18の出口側は、冷凍配管を介して圧縮機17aに接続され、圧縮機17aの出口側は配管を介して凝縮器17bに接続される。凝縮器17bの出力側は、図示しない絞り機構を介して冷凍配管18に接続される。これら、冷凍配管18、圧縮機17a、凝縮器17b、絞り機構等が冷却装置を構成し、冷凍配管18内に冷媒を通過させることでチャンバ106を効果的に冷却する。このように遠心分離運転時にチャンバ106を冷却することにより、ロータ室105内で回転駆動されるロータ2の外表面とロータ室105内の空気との間に発生する摩擦熱によるロータ2の温度上昇を抑えるようにしている。
【0005】
ロータ2を所望の低温状態、例えば4℃に保持するためにはチャンバ106を0℃付近に冷却する必要があるが、このように冷却している状態で運転停止直後にドア7を開けると外気がロータ室105内に流入し、外気に含まれる水分が冷えたチャンバ106の内表面に結露して結露水が発生することがある。発生した結露水は、チャンバ106の壁面に沿って落下し、チャンバ106の底部に溜まる。結露水がロータ室105内に溜まると、ロータ2の回転時にロータ室105内に発生する風の流れを結露水が妨げることになり、ロータ2を回転駆動する駆動装置11の抵抗が増大してしまう。また、ロータ室105内に発生する風の流れと共に結露水が巻き上がり、試料内に入り込む恐れや、バケット3内に結露水が入りこむ恐れがあり得た。
【0006】
そこで、特許文献2に開示されている遠心分離機では、チャンバ106の底部にドレン孔113を形成し、発生した結露水をドレン孔113からドレン配管114へと流し、ドレンチューブ115を通って遠心分離機101の機外へ排出するようにしていた。ロータ室105内に溜まった結露水は、ロータ2の回転時にロータ室105内に発生する風の流れを受けて、駆動装置11の回転軸を中心にチャンバ106底部を回りながら、駆動装置11の回転軸中心に向かって螺旋状に流れていく。チャンバ106の底部には略垂直に立ち上がる円筒状の立ち上げ部が設けられるため、結露水は立ち上げ部109aの周りに集まり、立ち上げ部109aに張り付くように立ち上げ部109aの外周をロータ2の回転方向と同方向に回る。立ち上げ部109aは、駆動装置11の外周面に嵌着されたシールラバー109と一体に構成される。ドレン孔113にはドレン配管114が接続され、ロータ2の回転によってチャンバ106底部に発生する結露水の流れをドレン配管114の方向に導き、結露水を効率良く機外に排出するように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実公昭52−42445号公報
【特許文献2】特開2006−346617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、従来の構成では、ロータ2の回転が大きくて風速が大きい場合や、結露水の量が多い状態であると、結露水が立ち上げ部109aの外周を回っているうちに、結露水の一部が立ち上げ部109aを乗り越えて上端開口部を覆うシールラバー109の平坦面109bに達し、平坦面109bを駆動装置の回転中心に向けて螺旋状に流れてしまう現象が起こることがあった。このように結露水がシールラバー109の平坦面109bに達してしまうと、ロータ2の回転によって発生する風の影響から、ロータ2の回転時に、立ち上げ部109aの外周側に開口せしめたドレン孔113から結露水の排出が困難となってしまう。
【0009】
この対策として、風速が大きい、或いは結露水の量が多い状態でも結露水が立ち上げ部109aを乗り越えないよう、立ち上げ部109aの高さを十分高くすることが考えられる。しかしながら、立ち上げ部109aの高さを高くするためには、チャンバ106の高さも高くせざるを得ず、それに伴い遠心分離機101本体の高さも高くなってしまうため、使用者の使い勝手を損なうことになる。
【0010】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、ロータ室内にたまった結露水を効果的にロータ室の外部に排出できる遠心分離機を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、シールラバー上面に存在する結露水を、立ち上げ部の外周面に開口せしめたドレン孔まで誘導して効果的に排出できるようにした遠心分離機を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、シールラバーの形状の改良だけで結露水の排出効率向上を達成させて製造コストの上昇を抑えた遠心分離機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願において開示される発明のうち代表的なものの特徴を説明すれば次の通りである。
【0014】
本発明の一つの特徴によれば、分離する試料を保持して回転するロータと、ロータを回転させる駆動装置と、駆動装置の一部を貫通させる貫通穴を有しロータを収納するチャンバと、チャンバの貫通穴と駆動軸の間に嵌着されたシール部材と、チャンバを冷却する冷却装置と、チャンバの開口部を密閉するドアと、チャンバ内の結露水を排出させるためのドレン孔と、駆動装置や冷却装置の運転を制御する制御装置とを有する遠心分離機において、シール部材の上面に結露水の流れを誘導するための凹凸部を設けた。
【0015】
本発明の他の特徴によれば、チャンバの貫通穴には、下方から上方に立ち上がる立ち上がり部が形成され、シール部材は立ち上がり部に装着される。シール部材は、中央部に駆動装置に接続させる接続部が形成され、接続部から外周側の立ち上がり部への装着部に円環部分を有する。凹凸部は円環部分の上面に形成され、ドレン孔はチャンバの立ち上がり部に形成される。また、凹凸部は、円環部分の最内周部から外周側に向けて延びるように形成され、シール部材の上面を駆動装置の回転中心に向けて螺旋状に流れていく結露水を、シール部材の外周縁に誘導するような構成とした。凹凸部は、好ましくは円環部分の最内周部分から外周側に向けて延びるように形成される。
【0016】
本発明のさらに他の特徴によれば、凹凸部は、シール部材の回転中心を基準に回転対称性を持つように形成され、例えば、シール部材の上面に螺旋状に形成される。この凹凸部は、結露水の流れをせき止める、或いは、跳ね上げるための突起又は段差とするのが好ましいが、結露水を導水するための溝部としても良い。溝部としても溝の方向を考慮して風の流れを利用するようにすれば効果的に外周側に導水することができる。シール部材はゴム製であり、シール部材の下面は平坦に形成され、下面に断熱材等を接着しやすいような形状に構成される。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、チャンバ内の結露水を排出させるためのドレン孔を有する遠心分離機において、チャンバの貫通穴と駆動軸の間に嵌着されたシール部材の上面に結露水の流れを誘導する凹凸部を設けたので、立ち上げ部を乗り越えた結露水やシール部材の上面で発生した結露水を、シール部材の上面を駆動装置の回転中心に向けて螺旋状に流れていく水の流れを利用して、効率よく所定方向に誘導することが可能となる。
【0018】
請求項2の発明によれば、シール部材は円環部分を有し、凹凸部は円環部分の上面に設けられるので、シール部材の上面を駆動装置の回転中心に向けて螺旋状に流れていく結露水をシール部材の外周縁に誘導して立ち上げ部の外周面に落下させることが可能となり、結露水がドレン孔から排出されずシール部材の上面を回り続けることを防止できる。
【0019】
請求項3の発明によれば、ドレン孔は立ち上がり部に形成されるので、立ち上げ部の外周面に落とされた結露水をドレン孔を介して効果的に機外に排出することができる。
【0020】
請求項4の発明によれば、凹凸部は円環部分の最内周部から外周側に向けて延びるように形成されるので、シール部材の上面を螺旋状に流れる結露水が、突起に対して小さい角度で衝突するため、結露水が突起を乗り越え難く、結露水の流れを所定の方向へ誘導することができる。また、ロータ室内を旋回する風に対しても小さい角度で衝突するため、風の流れが受ける抵抗を小さくでき、風損の上昇を抑えられる。
【0021】
請求項5の発明によれば、凹凸部は円環部分の内周側から最外周部まで連続して形成されるので、結露水を効率よく外周側に位置するドレン孔まで導くことができる。
【0022】
請求項6の発明によれば、凹凸部はシール部材の回転中心を基準に回転対称性を持つように形成されるので、ロータの回転によって発生する風の影響によって円環部分の上面を駆動装置の回転中心に向けて螺旋状に流れていく結露水を、均等に外周側に導くことができる。
【0023】
請求項7の発明によれば、凹凸部はシール部材の上面に螺旋状に設けられるので、ロータの回転によって発生する風の影響によって円環部分の上面を駆動装置の回転中心に向けて螺旋状に流れていく結露水を、シール部材の外周側に効果的に誘導することができる。
【0024】
請求項8の発明によれば、凹凸部は結露水の流れをせき止めるための突起又は段差であるので、シール部材と一体構成で容易に製造することができる。
【0025】
請求項9の発明によれば、凹凸部は結露水を導水するための溝部であるので、ロータ室内を旋回する風に対して影響の少ない導水手段を実現できる。
【0026】
請求項10の発明によれば、シール部材はゴム製であるので、安価な部材で製造でき、しかもシール部材の下面は平坦に形成されるので、シール部材の下面に断熱材などを容易に貼付することができる。
【0027】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例に係る遠心分離機1の全体構造を示す縦断面図である。
【図2】図1のロータ室5付近の部分拡大断面図である。
【図3】図1のA−A部の断面図である。
【図4】図3のB−B部の断面図であり、本発明の実施例に係る突起の形状を示す図である。
【図5】図3のB−B部の断面に相当する図であり、本発明の実施例の変形例に係る突起の形状を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施例に係る遠心分離機のシールラバー39の上面図である。
【図7】本発明の第3の実施例に係る遠心分離機のシールラバー49の上面図である。
【図8】従来の遠心分離機101の全体構造を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0029】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、上下方向は図1に示す方向であるとして説明する。
【0030】
図1は本発明の実施例に係る遠心分離機1の縦断面図である。遠心分離機1は、箱形の板金やプラスチックなどで製作される筐体23の内部にロータ室5が形成するためのチャンバ6が設けられ、その内部はドア7によって開閉される。ドア7は、蝶番22を中心として上下に回動してチャンバ6を開閉する。チャンバ6の上端開口部周縁にはゴム等の弾性材から成るドアパッキン8が嵌着されており、このドアパッキン8にドア7が密着することによって、ロータ室5内の気密性が確保される。チャンバ6の外周には冷凍配管18が巻装され、圧縮機17a及び凝縮器17bと接続されており、冷凍配管18内に冷媒を流すことでチャンバ6を冷却する。冷凍配管18の外側には発泡材等から成る断熱部材19が形成されている。遠心分離運転中は制御装置20の制御によって圧縮機17aを運転し、ロータ室5の内部は設定された所望の温度に保たれる。
【0031】
チャンバ6の底部には、駆動装置11が貫通するための円形の開口部が形成されており、開口部付近にはチャンバ6の底面から略垂直に立ち上がる円筒状の立ち上げ部16が形成される。立ち上げ部16は、例えばプラスチック製の別体部品でチャンバ6とは別に構成され、ネジ止めや接着などの方法でチャンバ6に固定される。尚、立ち上げ部16を別体部品とせずに、チャンバ6と一体にプレス加工により一体成型しても良い。立ち上げ部16の上側の円形の周縁部にはシールラバー9が装着され、駆動装置11の上部を覆う。シールラバー9は、ゴム等の弾性材で構成されており、このシールラバー9によって立ち上げ部16の上端開口部が覆われることによって、ロータ室5内に高い気密性が確保される。シールラバー9の上部中心軸付近は、駆動装置11から上方に延びる回転軸を貫通させるための貫通穴が形成される。チャンバ6の周囲に設けられる断熱部材19の底面中央部付近には、チャンバ6の開口部よりも大きい径の開口部19aが設けられ、駆動装置11が開口部19a内に入り込むように設置されることを可能にする。
【0032】
ロータ室5の内部には、分離する試料を保持するためのロータ2が着脱可能に駆動装置11の回転軸に設置される。ロータ2は、制御装置20によって制御される駆動装置11によって高速で回転される。駆動装置11は筐体23内に設置された複数の防振ゴム12によって筐体23によって支持される。上記ロータ2には複数のバケット3が揺動可能に支持されており、各バケット3内には、試料を収容した複数本のチューブ4が着脱可能に装填される。尚、図1においてはロータ2が高速で回転中の状態を示しており、そのため回転の遠心力によってバケット3が水平方向にまで揺動している状態(揺動角約90度)を図示している。ロータ2の回転速度が小さくなると、バケット3の揺動角が小さくなり、ロータ2が静止した状態では、チューブ4が鉛直方向となるバケット3の揺動角0度の状態となる。
【0033】
ドア7の上部には、使用者がロータ2の回転速度や分離時間等の条件を入力すると共に、各種情報を表示する操作パネル21が配置される。操作パネル21は、例えば液晶表示装置と操作ボタンの組み合わせ、またはタッチ式の液晶パネルで構成される。
【0034】
チャンバ6の底部に形成された円筒状の立ち上げ部16の一部にはドレン孔13が形成され、ドレン孔13にはドレン配管14が接続される。ドレン孔13はチャンバ6の立ち上げ部16の外周面の1箇所にだけ設けられるが、チャンバ6の底部に貯まる結露水は、ロータ2の回転に伴い発生する空気流によって、径方向内側に押しつけられつつ円周方向に回転するので、ドレン孔13からドレン配管14に効果的に導かれる。ドレン配管14の他端は筐体23内を垂直下方に延び、その端部にはフレキシブルなドレンチューブ15の一端が接続されている。ドレンチューブ15の他端は、筐体23の背面等の側部又は下面を貫通して外部へと延出し、この構成によってチャンバ6に貯まった結露水を遠心分離機1の外部に排出することができる。
【0035】
図2は、図1のロータ室5付近の部分拡大断面図である。シールラバー9は、装着部9aがやや下向きに突出して、立ち上げ部16の上端開口部に嵌め込むことができるように構成される。シールラバー9の中心軸付近は、駆動装置11から上方に延びる回転軸を貫通させるための貫通穴9dが形成され、貫通穴9dは回転軸の外周に設けられる円環溝11aに嵌め込まれることにより、駆動装置11への防水性が確保される。貫通穴9dから下側は所定の高さの蛇腹状部分が形成される。蛇腹状部分の下端(最内周部9c)から外周側にシールラバー9の上面部9bが形成される。上面部9bの最内周部9cから最外周に位置する装着部9aまでは円環状の略平面領域となり、貫通穴9dから最内周部9cまでが、円環部分と駆動装置11の回転軸への接続部となる。本実施例においては、円環状の略平面領域に後述する凹凸部が形成される。
【0036】
図3は図1のA−A断面から下方向を見た図を示している。ここで、上から見た際には、ロータ2の回転方向は矢印30で示すように反時計方向である。ロータ2が回転すると、ロータ室5内には、鎖線矢印28、29(図2参照)に示すように、ロータ2を境としてこれの上下に側面視で渦を巻くような風の流れが発生する。この風の流れは、ロータ2やバケット3に近い部分では、ロータ2の回転に伴う遠心力により内周側から外周側に流れる空気流となる。チャンバ6の外周壁まで達した空気流は、チャンバ6の外周壁(側面)に沿ってロータ2から離れる方向に、即ち上方向(図1の鎖線矢印28)又は下方向(図1の鎖線矢印29)に移動し、ロータ2やバケット3から離れた部分を通ってロータ2の回転中心方向に流れる。チャンバ6の底部では、ロータ2の回転方向と図1に示した風の渦を巻く向きとが合成され、上から見た際(平面視)で、鎖線矢印31にて示すような回転中心25に向かう螺旋状の風の流れが発生する。ここで、回転中心25はロータ2の回転中心や駆動装置11の回転軸心と一致する点である。ロータ2の回転中心方向に流れる風は円周方向と垂直方向に外周側から内周側に流れるのではなく、ロータ2の回転力によって渦を巻くように、即ち、鎖線矢印31のように流れる。従って、チャンバ6の底面に付着した結露水も風の流れによって、図2に破線矢印32にて示すように螺旋状に内周側に流れていく。図3では図示していないが、ドレン配管14とドレン孔13はこの結露水の流れを迎え入れる方向に傾斜して形成されている。
【0037】
以上のように構成された遠心分離機1において、駆動装置11によってロータ2がチャンバ6内のロータ室5で回転駆動されると、ロータ2に支持されたバケット3が遠心力によって水平状態を保って回転し、このバケット3内に収容されたチューブ4内の試料が遠心分離される。このとき、冷却装置によってロータ室5内が冷却され、ロータ室5内で回転するロータ2を介して試料が所定温度に冷却される。試料を例えば4℃等の低温状態に保持するためには、チャンバ6を0℃付近に冷却する必要があるが、遠心分離運転を終了してドア7をあけて室温の大気がロータ室5内に流入すると、大気中に含まれる水分が冷えたチャンバ6の内表面に結露して結露水が発生し、チャンバ6の底部に溜まることになる。
【0038】
このようにチャンバ6の底面に結露水が貯まった状態のまま、次の遠心分離運転でロータ2を回転させると、平面視で破線矢印32にて示すような回転中心に向かう螺旋状の結露水の流れが発生するため、結露水はチャンバ6の底部に形成された円筒状の立ち上げ部16の周りに集まってくる。そして、チャンバ6の底部では、鎖線矢印31にて示す向きの風の流れが生じているため、立ち上げ部16の周囲に集まってくる結露水は、立ち上げ部16に張り付くように立ち上げ部16の外周をロータ2の回転方向に回り、立ち上げ部16の外周面に開口するドレン孔13からドレン配管14へと流れ、ドレンチューブ15を通って機外へと排出される。
【0039】
しかし、図2の鎖線矢印29にて示したように、チャンバ6の底部に形成された円筒状の立ち上げ部16の外周では、チャンバ6の上方に向かって吹き上げるような風の流れが発生しているため、風速が大きい、或いは結露水の量が多い状態であると、風の流れに押し上げられた結露水の一部が立ち上げ部16を乗り越え、シールラバー9の上面部9bに到達し、シールラバー9の上面部9bを駆動装置11の回転中心に向けて螺旋状に流れていく。この際の結露水は、シールラバー9の上面部9bを駆動装置11の回転中心に向けて螺旋状に流れるため、ロータを回転させている限りドレン孔13に結露水が到達しない恐れがある。
【0040】
そこで本実施例では図3に示すように、立ち上げ部16の上端開口部を覆うシールラバー9の上面部9bに、結露水の流れを誘導する何らかの凹凸部、例えば突起10を設けた。突起10は、シールラバー9の上面部9bの最内周部9cから外周縁に向けて螺旋状に設けられており、破線矢印33、34、35のように風の流れに押されて結露水がシールラバー9上面を駆動装置11の回転中心に向けて螺旋状に流れていくと、最内周部9cに到達する前に突起10に衝突する。突起10に衝突した結露水は、破線矢印33、34、35にて示すように、駆動装置11の回転中心に向かう流れを突起10により堰き止められ、風による力を受けてシールラバー9の外周縁に向けて螺旋状に延びる突起10に沿って流れ、シールラバー9の外周縁に到達し、重力により立ち上げ部16の下方に落下する。そして、再び立ち上げ部16の外周を回り、ドレン孔13からドレン配管14へと流れ、ドレンチューブ15を通って機外へと排出される。
【0041】
ここで、図4に図3のB−B部の断面図を示すが、結露水は破線矢印33にて示すように、駆動装置11の回転中心に向かう流れを突起10により堰き止められ、シールラバー9の外周縁に向けて螺旋状に延びる突起10に沿って流れ、鎖線矢印31に示すように風のみが突起10の上を超えて流れていく。突起10の高さは、突起10に対して結露水がより垂直に近い角度で衝突するように構成するのが好ましい。突起10の高さが低いと結露水が突起10を乗り越える確率が高くなる。逆に高すぎると、突起10に衝突する風の量が多くなり、風損が上昇してしまう。発明者らの実験によると、突起10の高さは0.5mm程度で十分であることがわかった。また、突起10の横方向の長さは、シールラバー9を1〜2周する程度の長さのスパイラル状とすることが好ましい。スパイラル状に形成すると、上面視で回転中心25に対して突起10の配置が同心状にならないので、効果的に結露水を外周側に導くことができる。尚、スパイラル状の突起10は、シールラバー9を1周しない程度の長さでも良く、例えば3/4周程度であっても本願発明の効果は十分得られる。
【0042】
尚、突起10の断面形状は、図4に示す形状だけでなく種々の変形例が考えられる。例えば図5に示すように、結露水が流れる側の面は略垂直に立ち上げ、反対側の面はなだらかな角度とした突起38としても良い。図5に破線矢印にて示すように、結露水は略垂直に立ち上がった面に衝突し、突起38を乗り越え難いが、反対側の面をなだらかな角度にすることで、図5に鎖線矢印にて示すように、風がスムーズに流れるようになり、風損の上昇を抑える効果が期待できる。この突起38の高さを高くすると、突起38に衝突する風の量が多くなり、風損が上昇してしまう。発明者らの実験によると、立ち上げ部16を乗り越えてシールラバー9の上面に到達する結露水の量が多くない場合は、突起38が低くても結露水が突起38を乗り越える可能性が低いことがわかり、突起38の高さは0.5mm程度で十分であることがわかった。しかしながら突起38の高さは0.5mm程度には限られずに、ロータ室内で発生する風の流れの大きさや方向、突起38の形状に応じて適宜設定すれば良い。
【0043】
以上説明したように、本実施例に係る遠心分離機1では、立ち上げ部16を乗り越えて、もしくは立ち上げ部16の上端開口部を覆うシールラバー9の上面で発生し、シールラバー9の上面を流れる結露水を、突起10又は突起38によって効果的に立ち上げ部16の下方まで誘導することができる。この結果、結露水が立ち上げ部16の外周に設けたドレン孔13からドレン配管14へと流れ、ドレンチューブ15を通って機外へと排出することが可能となり、結露水が試料に混入する等の不具合が発生する恐れがなくなる。
【0044】
本実施例においては、結露水を誘導する手段を突起10又は38のような凹凸部で形成したが、この誘導手段は突起だけに限られずに、段差部で形成しても良いし、レール状の別部材をシールラバー9の上面に貼り付けるようにしても良い。さらには、凹凸部を溝だけで構成しても良い。溝の場合は結露水が溝において風の流れにより外周部まで流れるように溝の深さや溝の円周方向の角度等を調整すると良い。
【実施例2】
【0045】
次に図6を用いて本発明の第2の実施例に係るシールラバー39の上面形状を説明する。第2の実施例では、立ち上げ部16の上端開口部を覆うシールラバー39の上面部39bに形成する凹凸部として2本の突起40を設けた。突起40は、シールラバー39の上面部の最内周部39cから外周縁39aに向けて、円周方向と所定角θを有する向きに直線状に設けられる。ここで所定角θは0°<θ<90°であり、好ましくは0°〜60°程度とすると良い。ロータ2の回転に伴う遠心力により発生される空気流により、鎖線矢印41のような風が発生し、それによって破線矢印42のように結露水がシールラバー39の上面部39bを回転中心に向けて螺旋状に流れていく。最内周部39cに到達する前に突起40に衝突した結露水は、風の影響を受けて鎖線矢印43のように突起40に沿って外周側に流れて、シールラバー39の外周縁に到達し、重力により立ち上げ部16の下方に落下する。そして、再び立ち上げ部16の外周を回り、ドレン孔13からドレン配管14へと流れ、ドレンチューブ15を通って機外へと排出される。
【0046】
一方、突起40に衝突する前に最内周部39cに到達した結露水は、軸方向に回転しながら流れる風の影響を受けて、鎖線矢印44のように最内周部39cに沿って流れ、突起40に突き当たることにより、鎖線矢印43のように流れる結露水に合流して外周側に流れる。
【0047】
第2の実施例によるシールラバー39の形状は、2本の突起40を設けたが、2本だけに限られずに、1から数本程度の突起40を設けるように構成しても良い。また、本実施例ではθが約45°であるが、このθは、ロータ2の回転に伴う遠心力により発生される空気流の方向や強さに応じて適宜設定すれば良い。また、本実施例では突起10の形状を直線状としたが、滑らかな曲線で形成しても良いし、円周に行くほど周方向とのなす角が変わるように設定しても良い。
【実施例3】
【0048】
次に図7を用いて本発明の第3の実施例に係るシールラバー49の上面形状を説明する。第3の実施例では、立ち上げ部16の上端開口部を覆うシールラバー49の上面部49bに形成する凹凸部として、2種類の突起50a、50bを設けた。突起50a、50bは、シールラバー49の上面部の最内周部49cから外周縁に向けて、円周方向と垂直方向に直線状に設けられ、180度回転させる毎に重なる回転対称を持つように配置される。本例では、2回対称に配置されている。ロータ2の回転に伴う遠心力により発生される空気流により、鎖線矢印51のような風が発生し、それによって破線矢印52のように結露水がシールラバー49の上面を回転中心に向けて螺旋状に流れていく。すると、最内周部49cに到達する前に突起50a、50bに衝突する。突起50a、50bに衝突した結露水は、回転中心に向かう流れを突起50a、50bにより堰き止められ、鎖線矢印51で示す風の流れの分力を受け、シールラバー49の外周縁に向けて突起50a、50bに沿って流れ、シールラバー49の外周縁に到達し、重力により立ち上げ部16の下方に落下する。そして、再び立ち上げ部16の外周を回り、ドレン孔13からドレン配管14へと流れ、ドレンチューブ15を通って機外へと排出される。
【0049】
第3の実施例によるシールラバー49の形状は、突起50aが最内周部49cに接しているが、最外周部49aには接していない。一方、突起50bは最内周部49cに接していないが、最外周部49aに接する。このように2組の突起50a、50bの構造を少し変えることにより、シールラバー49を立ち上がり部16に装着する際に曲がりやすくなるので装着が容易になる。また、シールラバー49の弾力性が適度に弱めることができるので制震効果が高くなり耐久性を向上させることができる。第3の実施例によるシールラバー49は、突起50a、50bの配置構造が単純であるので、シールラバー49の製造が容易であり、製造コストの上昇を最小限に抑えつつ、結露水の排水効果を大きく改善することができる。
【0050】
尚、第3の実施例においては、突起50a、50bの回転対称性を2回対称だけでなく、n回対称(但し、n>2)としても良い。また、突起50aと50bを同じ形状、即ち最内周部49cと最外周部49aに接するように構成しても良い。
【0051】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、本実施例においてはスイングタイプのロータ2で説明したが、チューブ穴が固定角度のアングルロータであっても同様に適用できる。また、チャンバの貫通穴と駆動軸の間を覆う部材としてゴム製のシールラバーを用いたが、ゴム製だけでなく他の材質で製造したものでも良いし、金属製のものであっても良い。さらに、シールラバーの上面に設ける凹凸部は、小さな半球状の突起を多数設けた加工であっても良い。
【符号の説明】
【0052】
1 遠心分離機 2 ロータ 3 バケット 4 チューブ
5 ロータ室 6 チャンバ 7 ドア 8 ドアパッキン
9 シールラバー 9a (シールラバーの)装着部
9b (シールラバーの)上面部 9c (シールラバー上面の)最内周部
9d (シールラバーの)貫通穴 9e (シールラバーの)下面部
10 突起 11 駆動装置 11a 円環溝
11b ベアリングホルダ部 11c シールラバー装着部
12 防振ゴム 13 ドレン孔 14 ドレン配管
15 ドレンチューブ 16 立ち上げ部 17 冷却装置
17a 圧縮機 17b 凝縮器 17a 圧縮機
17b 凝縮器 18 冷凍配管 19 断熱部材
20 制御装置 21 操作パネル 22 蝶番
23 筐体 38 突起 39 シールラバー
39a (シールラバーの)外周縁 39b (シールラバーの)上面部
39c (シールラバー上面の)最内周部 40 突起
49 シールラバー 49a (シールラバーの)外周縁
49b (シールラバーの)上面部
49c (シールラバー上面の)最内周部 50a、50b 突起
101 遠心分離機 105 ロータ室 106 チャンバ
109 シールラバー 109a 立ち上げ部 109b 平坦面
113 ドレン孔 114 ドレン配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離する試料を保持するロータと、
前記ロータを回転させる駆動装置と、
前記駆動装置の駆動軸を貫通させる貫通穴を有し前記ロータを収納するチャンバと、
前記チャンバの貫通穴と前記駆動軸の間に嵌着されるシール部材と、
前記チャンバを冷却する冷却装置と、
前記チャンバの開口部を密閉するドアと、
前記チャンバ内の結露水を排出させるためのドレン孔を有する遠心分離機において、
前記シール部材の上面に結露水の流れを誘導する凹凸部を設けたことを特徴とする遠心分離機。
【請求項2】
前記チャンバの前記貫通穴には、下方から上方に立ち上がる立ち上がり部が形成され、
前記シール部材は前記立ち上がり部に装着されるものであって、中央に前記駆動装置に接続させる接続部が形成され、該接続部から外周側の前記立ち上がり部への装着部の間に円環部分を有し、
前記凹凸部は、前記円環部分の上面に設けられることを特徴とする請求項1に記載の遠心分離機。
【請求項3】
前記ドレン孔は、前記立ち上がり部に形成されることを特徴とする請求項2に記載の遠心分離機。
【請求項4】
前記凹凸部は、前記円環部分の最内周部から外周側に向けて延びるように形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の遠心分離機。
【請求項5】
前記凹凸部は、前記円環部分の内周側から最外周部まで連続して形成されることを特徴とする請求項4に記載の遠心分離機。
【請求項6】
前記凹凸部は、前記シール部材の回転中心を基準に回転対称性を持つように形成されることを特徴とする請求項5に記載の遠心分離機。
【請求項7】
前記凹凸部は、前記シール部材の上面に螺旋状に設けられることを特徴とする請求項5に記載の遠心分離機。
【請求項8】
前記凹凸部は、結露水の流れをせき止めるための突起又は段差であることを特徴とする請求項6又は7に記載の遠心分離機。
【請求項9】
前記凹凸部は、結露水を導水するための溝部であることを特徴とする請求項6又は7に記載の遠心分離機。
【請求項10】
前記シール部材はゴム製であり、前記シール部材の下面は平坦に形成されることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の遠心分離機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−245420(P2011−245420A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121053(P2010−121053)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】