説明

遠心分離装置および遠心分離方法

【課題】複数の遠心容器に収容される懸濁液量のアンバランスを補正して、迅速に遠心分離を行う。
【解決手段】懸濁液Aを収容する複数の遠心容器2a,2bと、該遠心容器2a,2bを間隔をあけて支持するアーム4と、遠心容器2a,2bの中間に配される軸線5回りにアーム4を回転させる回転駆動部6と、各遠心容器2a,2b内に、回転駆動部6によるアーム4の回転中に、懸濁液Aを供給可能な液供給部7と、遠心容器2a,2b内の懸濁液Aの圧力を検出する圧力検出部14a,14bと、該圧力検出部14a,14bにより検出された懸濁液Aの圧力に基づいて収容量の少ない方の遠心容器2a,2b内へ懸濁液Aを補充供給するように液供給部7を制御する制御部15とを備える遠心分離装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心分離装置および遠心分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞懸濁液等の懸濁液から細胞等を遠心力により分離する遠心分離装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この遠心分離装置は、アームの両端に配置した遠心容器内にそれぞれ懸濁液を収容してアームを回転させることにより、遠心容器内の懸濁液にそれぞれ遠心力を作用させるようになっている。この場合に、複数の遠心容器内の懸濁液の量を均等に収容しないと、各遠心容器に作用する遠心力にアンバランスが生じ、回転中に振動が発生するという不都合がある。
【0003】
特許文献1の遠心分離装置は、振動検知器を備え、該振動検知器が振動を検知した場合にはモータの回転を停止することにより、不安定な運転状態で運転されてしまう不都合の発生を防止するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−144977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている遠心分離装置は、振動が検知された場合には運転を停止するしかなく、運転を続行するためには、作業者が手動で複数の遠心容器内に収容されている懸濁液の重量のアンバランスを解消する作業を行う必要があった。このため、振動が発生した場合には運転が中断され、遠心分離作業に要する時間が増大するという不都合があった。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、複数の遠心容器に収容される懸濁液量のアンバランスを補正して、迅速に遠心分離を行うことができる遠心分離装置および遠心分離方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、懸濁液を収容する複数の遠心容器と、該遠心容器を間隔をあけて支持するアームと、前記遠心容器の中間に配される軸線回りに前記アームを回転させる回転駆動部と、前記各遠心容器内に、前記回転駆動部によるアームの回転中に、懸濁液を供給可能な液供給部と、前記遠心容器内の懸濁液の圧力を検出する圧力検出部と、該圧力検出部により検出された懸濁液の圧力に基づいて収容量の少ない方の遠心容器内へ懸濁液を補充供給するように前記液供給部を制御する制御部とを備える遠心分離装置を提供する。
【0008】
本発明によれば、アームに支持された複数の遠心容器内に懸濁液を収容し、回転駆動部を作動させることにより、アームを回転させると、遠心容器がその中間に配されている軸線回りに回転され、遠心容器内に収容されている懸濁液にそれぞれ遠心力が作用する。懸濁液内に含まれている種々の物質はその比重差によって分離される。
【0009】
この場合に、複数の遠心容器内に収容されている懸濁液量が相違すると、そのアンバランスによって振動が発生するが、懸濁液量に応じて懸濁液にかかる圧力が変化するので、各遠心容器内の懸濁液の圧力を圧力検出部により検出し、検出された圧力に基づいて制御部が量の少ない方の遠心容器内へ懸濁液を補充することにより、アンバランスを補正し、振動を低減してスムーズに、かつ、迅速に遠心分離を行うことができる。
【0010】
上記発明においては、前記制御部が、前記圧力検出部により検出された各遠心容器内の懸濁液の圧力に基づいて、各遠心容器内の懸濁液量を算出し、算出された懸濁液量の差に応じた量の懸濁液を前記遠心容器内へ補充供給してもよい。
このようにすることで、各遠心容器内の懸濁液の圧力から懸濁液量が算出され、遠心容器間の懸濁液量の差に応じた量の懸濁液を収容量の少ない方の遠心容器内へ供給することにより、アンバランスを簡易に補正することができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記圧力検出部が、前記遠心容器内に収容されている懸濁液内に一端を配置した配管と、該配管の他端に接続された密閉空間と、該密閉空間内に配置された圧力センサとを備えていてもよい。
このようにすることで、遠心分離中に変位する遠心容器内の懸濁液の圧力を、変位しない密閉空間内に配置した圧力センサによって安定的に検出することができる。
【0012】
また、本発明は、懸濁液を収容した複数の遠心容器を、該遠心容器の中間に配置される軸線回りに回転させる回転ステップと、該回転ステップにおいける遠心容器の回転中に、各遠心容器内の懸濁液にかかる圧力を検出する検出ステップと、該検出ステップにより検出された各遠心容器内の懸濁液にかかる圧力の差に基づいて、各遠心容器内の懸濁液量の差分を算出する差分算出ステップと、該差分算出ステップにより算出された差分の懸濁液量を、前記遠心容器の回転中に、収容量が少ない方の前記遠心容器に補充供給する供給ステップとを含む遠心分離方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数の遠心容器に収容される懸濁液量のアンバランスを補正して、迅速に遠心分離を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る遠心分離装置を示す全体構成図である。
【図2】図1の遠心分離装置の制御部を示すブロック図である。
【図3】図1の遠心分離装置を用いた遠心分離方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る遠心分離装置1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る遠心分離装置1は、図1に示されるように、細胞懸濁液等の懸濁液Aを収容する2つの遠心容器2a,2bと、該遠心容器2a,2bを両端に配される水平な軸線3a,3b回りに揺動可能に支持するアーム4と、該アーム4を、その中央に配置される鉛直軸線5回りに回転駆動するモータ6と、各遠心容器2a,2b内に懸濁液Aを供給する液体供給部7とを備えている。
【0016】
モータ6を回転駆動させると、アーム4がその中央の鉛直軸線5回りに回転させられ、アーム4の両端に配置されている2つの遠心容器2a,2bに、それぞれ、回転の半径方向外方に向かう遠心力が作用する。これにより、各遠心容器2a,2bが、図1に破線で示されるように、その底面を半径方向外方に向かわせるように、軸線3a,3b回りに揺動させられるようになっている。
【0017】
その結果、遠心容器2a,2b内の懸濁液Aは、遠心容器2a,2bの底面に向かって加圧され、収容されている体積に応じた圧力P,Pが作用するので、懸濁液A内の各成分が、比重の差によって分離し、比重の最も大きな成分が底面近傍に堆積させられるようになっている。
【0018】
液体供給部7は、懸濁液Aを収容する懸濁液容器8と、該懸濁液容器8に接続された固定側チューブ9a,9bと、該固定側チューブ9a,9bの途中位置に配置され、固定側チューブ9a,9b内の懸濁液Aに送りをかけるペリスタルティックポンプのようなポンプ10a,10bと、各固定側チューブ9a,9bを開閉するバルブ11a,11bとを備えている。
【0019】
また、液体供給部7は、各遠心容器2a,2b内の懸濁液A内に一端が配置された可動側チューブ12a,12bと、アーム4に固定され、アーム4の回転中においても可動側チューブ12a,12bと固定側チューブ9a,9bとを流体的に接続するロータリジョイント13とを備えている。
【0020】
さらに、液体供給部7は、各遠心容器2a,2b内の懸濁液Aの圧力P,Pを検出する圧力センサ14a,14bと、該圧力センサ14a,14bにより検出された懸濁液Aの圧力P,Pと、モータ6の回転数とに基づいてポンプ10a,10bおよびバルブ11a,11bを制御する制御部15とを備えている。
【0021】
制御部15は、各圧力センサ14a,14bにより検出された圧力P,Pと、モータ6の回転数から導いた遠心力による加速度値αと、懸濁液Aの密度ρとに基づいて、以下の計算式(1)により、各遠心容器2a,2b内の懸濁液Aの量の差ΔWを算出するようになっている。
ΔW=ρ(V(h)−V(h)) (1)
=P/ρα
=P/ρα
ここで、h,hは、2つの遠心容器2a,2b内の懸濁液Aの液位、V(h)は、液位hによって定まる懸濁液Aの体積であり、演算により求めてもよいし、ルックアップテーブルから求めることにしてもよい。
【0022】
さらに具体的には、制御部15は、図2に示されるように、圧力センサ14a,14bにより検出された圧力P,Pとモータ6の回転数とから、遠心容器2a,2b内の液位h,hを算出する容器内液位算出部16と、算出された液位h,hから遠心容器2a,2b内の懸濁液Aの体積V(h),V(h)を算出する体積算出部17と、算出された体積V(h),V(h)から懸濁液Aの量の差ΔWを算出する補正量算出部18とを備えている。制御部15は、補正量算出部18により算出された懸濁液Aの量の差ΔWを補正量として、懸濁液Aの収容量の少ない方の遠心容器2a,2bに対して、補正量ΔWだけ懸濁液Aを補充供給するように、ポンプ10a,10bおよびバルブ11a,11bを制御するようになっている。
【0023】
このように構成された本実施形態に係る遠心分離装置1を用いた遠心分離方法について、以下に説明する。
図3に示されるように、まず、懸濁液Aを2つの遠心容器2a,2b内に供給し、モータ6を駆動して、アーム4を鉛直軸線5回りに回転させる(回転ステップS1)。
【0024】
この状態で、各遠心容器2a,2b内の懸濁液Aにかかる圧力P,Pを圧力センサ14a,14bによって検出する(検出ステップS2)。
制御部15は、モータ6から出力される回転数および圧力センサ14a,14bにより検出された圧力P,Pを用いて、計算式(1)により2つの遠心容器2a,2b内の懸濁液A量の差ΔWを算出する(算出ステップS3)。
【0025】
制御部15は、算出された差ΔWと同量の懸濁液Aが収容量の少ない方の遠心容器2a,2bに供給されるように、バルブ11a,11bおよびポンプ10a,10bを制御する。
例えば、一方の遠心容器2aに収容されている懸濁液Aが、他方の遠心容器2bに収容されている懸濁液AよりもΔWだけ少ないことがわかった場合に、バルブ11bを閉じてバルブ11aを開き、ポンプ10bを停止して、遠心容器2aに懸濁液Aを補正量ΔWだけ送るようにポンプ10aを駆動する(供給ステップS4)。
【0026】
懸濁液容器8から固定側チューブ9aを介して送られた懸濁液Aは、ロータリジョイント13および可動側チューブ12aを介して収容量が少なかった遠心容器2a内に供給される。これにより、2つの遠心容器2a,2b内の懸濁液A量はバランスするので、アンバランスによる振動が解消され、アーム4がスムーズに回転させられて、各遠心容器2a,2b内の懸濁液Aが遠心分離される。
【0027】
このように、本実施形態に係る遠心分離装置1および遠心分離方法によれば、アーム4の回転中に、各遠心容器2a,2b内に収容されている懸濁液Aの圧力P,Pを検出し、該圧力P,Pに基づいて2つの遠心容器2a,2b内の懸濁液A量の差ΔWを算出するとともに、回転中に液体供給部7を作動させて少ない方の遠心容器2a,2bに補充供給するので、従来のように、遠心分離動作を中断して懸濁液Aを追加供給する作業を行わずに済み、遠心分離作業をスムーズかつ迅速に行うことができるという利点がある。
【0028】
なお、本実施形態に係る遠心分離装置1においては、可動側チューブ12a,12bに圧力センサ14a,14bを設けたが、これに代えて、各可動チューブ12a,12bの一端が接続されたロータリジョイント13内の密閉空間(図示略)に圧力センサ14a,14bを配置してもよい。このようにすることで、遠心容器2a,2bが揺動しても変位しない密閉空間に圧力センサ14a,14bを設置でき、圧力P,Pを容易に、かつ精度よく測定することができるという利点がある。
【0029】
また、本実施形態においては、アーム4の両端に2つの遠心容器2a,2bを配置した場合について説明したが、これに代えて、3つ以上の遠心容器2a,2bをアーム4に取り付けた場合に適用することにしてもよい。
また、2本の固定側チューブ9a,9bに別々にポンプ10a,10bを設けることにしたが、これに代えて、2つのチューブ9a,9b内の懸濁液Aを共通のポンプによって供給することにしてもよい。この場合には、供給しない側のチューブ9a(9b)のバルブ11a(11b)を閉じればよい。
【符号の説明】
【0030】
A 懸濁液
,P 圧力
S1 回転ステップ
S2 検出ステップ
S3 算出ステップ(差分算出ステップ)
S4 供給ステップ
1 遠心分離装置
2a,2b 遠心容器
4 アーム
5 鉛直軸線(軸線)
6 モータ(回転駆動部)
7 液体供給部(液供給部)
12a,12b 可動側チューブ(配管)
14a,14b 圧力センサ(圧力検出部)
15 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸濁液を収容する複数の遠心容器と、
該遠心容器を間隔をあけて支持するアームと、
前記遠心容器の中間に配される軸線回りに前記アームを回転させる回転駆動部と、
前記各遠心容器内に、前記回転駆動部によるアームの回転中に、懸濁液を供給可能な液供給部と、
前記遠心容器内の懸濁液の圧力を検出する圧力検出部と、
該圧力検出部により検出された懸濁液の圧力に基づいて収容量の少ない方の遠心容器内へ懸濁液を補充供給するように前記液供給部を制御する制御部とを備える遠心分離装置。
【請求項2】
前記制御部が、前記圧力検出部により検出された各遠心容器内の懸濁液の圧力に基づいて、各遠心容器内の懸濁液量を算出し、算出された懸濁液量の差に応じた量の懸濁液を前記遠心容器内へ補充供給する請求項1に記載の遠心分離装置。
【請求項3】
前記圧力検出部が、前記遠心容器内に収容されている懸濁液内に一端を配置した配管と、該配管の他端に接続された密閉空間と、該密閉空間内に配置された圧力センサとを備える請求項1または請求項2に記載の遠心分離装置。
【請求項4】
懸濁液を収容した複数の遠心容器を、該遠心容器の中間に配置される軸線回りに回転させる回転ステップと、
該回転ステップにおける遠心容器の回転中に、各遠心容器内の懸濁液にかかる圧力を検出する検出ステップと、
該検出ステップにより検出された各遠心容器内の懸濁液にかかる圧力の差に基づいて、各遠心容器内の懸濁液量の差分を算出する差分算出ステップと、
該差分算出ステップにより算出された差分の懸濁液量を、前記遠心容器の回転中に、収容量が少ない方の前記遠心容器に補充供給する供給ステップとを含む遠心分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−55853(P2012−55853A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202999(P2010−202999)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】