遠心圧縮機の羽根車
【課題】スプリッタブレードを備えた遠心圧縮機の羽根車において、フルブレードの前縁の先端部からの翼端漏れ渦に対するスプリッタブレードの前縁の干渉を回避し、高圧力比、高効率化を達成する遠心圧縮機の羽根車を提供することを目的とする。
【解決手段】フルブレード5Fの先端とシュラウドとの間の翼端隙間からスプリッタブレード7の前縁7a部に向かって発生する翼端漏れ渦に対して、大流量時に生成される翼端漏れ渦がスプリッタブレード7の前縁7aを乗り越えるように、スプリッタブレード7の前縁7aのシュラウド側をフルブレード5R、5Fの周方向等間隔位置からフルブレード5Fの負圧面Sb側に寄せて配置したことを特徴とする。
【解決手段】フルブレード5Fの先端とシュラウドとの間の翼端隙間からスプリッタブレード7の前縁7a部に向かって発生する翼端漏れ渦に対して、大流量時に生成される翼端漏れ渦がスプリッタブレード7の前縁7aを乗り越えるように、スプリッタブレード7の前縁7aのシュラウド側をフルブレード5R、5Fの周方向等間隔位置からフルブレード5Fの負圧面Sb側に寄せて配置したことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用、舶用ターボチャージャ等に用いられる遠心圧縮機の羽根車に関するものであり、特に、互いに隣り合うフルブレード(全翼)の間に設けられるスプリッタブレード(短翼)の翼形状に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用、舶用ターボチャージャのコンプレッサ部等に用いられる遠心圧縮機は、羽根車の回転を介して流体に運動エネルギーを与えるとともに、径方向外側に流体を吐出することで遠心力による圧力上昇を得るものである。この遠心圧縮機は広い運転範囲において高圧力比と高効率化が要求されるため、図23、24に示すような互いに隣り合うフルブレード(全翼)01の間にスプリッタブレード(短翼)03を設けたインペラ(羽根車)05がよく用いられるとともに、その翼形状について様々な工夫がなされている。
【0003】
このスプリッタブレード03を有するインペラ05は、フルブレード01とスプリッタブレード03がハブ07面上に交互に設置されるが、一般的なスプリッタブレード03は、フルブレード01の上流側を単に切除した形状とされている。
一般的なスプリッタブレード03の場合、図25のように、フルブレード01の入口端縁(LE1)より一定距離下流側にスプリッタブレード03の入口端縁(LE2)が位置され、出口端縁(TE)は一致して設けられ、スプリッタブレード03の入口端縁の翼角θ(入口端縁の方向とインペラ05の軸方向Gとの成す角度として示す)は、フルブレード01間の流路を流れる流体の流れ方向Fと同一に設定されている。
【0004】
しかし、図25のように、スプリッタブレード03の入口端縁を、フルブレード01間の周方向中心位置で、単にフルブレード01の上流側を切除した形状としてスプリッタブレード03を設計すると、スプリッタブレード03の両側に形成されるフルブレード01の正圧面Sa側のスロート面積A1と、負圧面Sb側のスロート面積A2に、A1<A2の差が生じることから、各流路の流量に不均一が生じ、流体を均等分配することができず、翼負荷が不均等となり流路損失も増えて、インペラ効率の向上が妨げられる問題があった。なお、スロート面積とは、図25のようなスプリッタブレードの入口端縁からフルブレード01の正圧面または負圧面までの最短距離をなす位置における断面積をいう。
【0005】
そこで、特許文献1(特開平10−213094号公報)に開示されている技術が知られおり、この特許文献1は、図26のように、スプリッタブレード09の入口端縁の翼角θを、θ+Δθと大きく取る(流体の流れ方向Fに対してΔθ大きく設定する)ことで、すなわち、フルブレード01の負圧面Sb側に寄せることで、スプリッタブレード09の両側通路のスロート面積を同一(A1=A2)とする工夫がなされている。
また、スプリッタブレードの入口端部を、フルブレードの負圧面側に傾けたものとして特許文献2(特許3876195号公報)についても知られている。
【0006】
しかし、前記特許文献1(図26)のように、スプリッタブレード09の入口端縁の翼角θを、θ+Δθと大きく取ることによって、スプリッタブレード09の傾斜が大きくなった前縁部分やフルブレード01の負圧面側Sbからの剥離流の発生が懸念されるとともに、スプリッタブレード09の正圧面側および負圧面側の両側通路でスロート面積を同一(A1=A2)としても、該両通路で流速が相違することによって流量の均一化を図ることができなくなる問題があった。
【0007】
すなわち、スプリッタブレード09の両側、つまりフルブレード01の正圧面側と負圧面側とで流速が異なることから、フルブレード01の間に入ってきた流体は、主に負圧面側に速い流れが集まる分布となるため、スプリッタブレード09の両側通路の流路断面積を幾何学的に等しくしても、負圧面側が正圧面側に比べて流速が速い分、流量が増え各流路の流量に不均一が生じ、流体を均等分配することができず、翼負荷が不均等となり流路損失も増えて、インペラ効率の向上が妨げられる問題があった。
【0008】
さらに、特許文献3(特開2002−332992号公報)に開示されている技術では、図27に示すように、スプリッタブレード011の入口端縁の翼角θをそのままとして、前縁を敢えてフルブレード01の負圧面側に偏倚させてA1>A2としている。これによって、スプリッタブレード011の両側通路における流量の均一化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−213094号公報
【特許文献2】特許3876195号公報
【特許文献3】特開2002−332992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記特許文献1〜3に示される技術はいずれも、ブレード(翼)間の流れがフルブレードに沿って流れるとの仮定の基に、スプリッタブレードにより分割される流路の流量配分に着目して、翼形状の改良がなされているものであり、翼端隙間を有するオープン型インペラの場合には、この翼端隙間から通路内に流入、または通路から流出する翼端漏れ流れの影響があり、流れ場は複雑な様相を呈しており、これら複雑な内部流動に適合するさらなる改良が必要であった。
【0011】
その複雑な内部流動を数値解析により評価したところ、フルブレードの入口端縁の先端部(翼のハブ面からの高さ方向(シュラウド側)の先端部)から発生する漏れ渦がスプリッタブレードの入口端縁の先端部(翼のハブ面からの高さ方向(シュラウド側)の先端部)近傍に到達していることが明らかとなった(図22の翼端漏れ流れWの渦流を参照)。
【0012】
この漏れ渦はフルブレードに沿って流れてはおらず、また、この漏れ渦は低エネルギー流体が集積する箇所であるため、これがスプリッタブレードの入口端縁に干渉すると剥離や渦構造の発生による損失生成が増大する。
すなわち、従来型インペラ構造ではこのフルブレードの入口端縁の先端からの漏れ渦とスプリッタブレードの入口端縁との干渉に対する対策がなされていないため、十分な性能が得られていなかった。
【0013】
そこで、本発明は、これら問題に鑑みてなされたもので、流体の入口部から出口部にかけて互いに隣り合わせて設けられるフルブレードと、該フルブレードの間に流路の途中から出口部にかけて設けられるスプリッタブレードとを備えた遠心圧縮機の羽根車において、フルブレードの前縁の先端部からの翼端漏れ渦に対するスプリッタブレードの前縁の干渉を回避し、高圧力比、高効率化を達成する遠心圧縮機の羽根車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明は、ハブ面上に流体の入口部から出口部にかけて周方向に複数枚を均等間隔に立設されたフルブレードと、互いに隣り合わせて設けられた前記フルブレードの間に形成される流路の途中から出口部にかけて設けられるスプリッタブレードとを備える遠心圧縮機の羽根車において、
前記遠心圧縮機は前記フルブレード先端とシュラウドとの間に翼端隙間が形成され、該翼端隙間から前記スプリッタブレードの前縁部に向かって発生する翼端漏れ渦に対して、大流量時に生成される前記翼端漏れ渦が前記スプリッタブレードの前縁部を乗り越えるように、若しくは前記翼端漏れ渦の方向に一致するように前記スプリッタブレードの前縁部のシュラウド側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの負圧面側に寄せて配置したことを特徴とする。
【0015】
かかる発明によれば、スプリッタブレードの前縁部のシュラウド側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの負圧面側に寄せて配置することによって、翼端漏れ流れによって生じる翼端漏れ渦との干渉を確実に回避して、圧縮機の効率向上と特性改善が行われる。
【0016】
フルブレード先端とシュラウドとの間に翼端隙間が形成されるオープン型インペラの場合、翼端隙間からスプリッタブレードに向かって翼端漏れ流れによる翼端漏れ渦が発生する。この翼端漏れ渦は強いブロッケージ効果を有するため、スプリッタブレード先端近傍(70%翼スパン以上)では、フルブレード間を流れる流体はフルブレードに沿って流れずに、偏流が生じる。翼端漏れ渦は、強い渦流れを伴う低エネルギー流体の集積域である。このような流れがスプリッタブレードの前縁に干渉すると、剥離や渦構造の発生による損失生成が増大される。
そこで、本発明では、スプリッタブレードの前縁部のシュラウド側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの負圧面側に寄せて配置することによって、翼端漏れ渦との干渉を回避している。
【0017】
さらに、本発明では、漏れ渦位置は圧縮機の運転状態によって変化するため、その変化傾向を基に、小流量運転から大流量運転まで広い運転範囲において確実にスプリッタブレードの前縁部との干渉を確実に防止している。
【0018】
すなわち、図2に示すように、大流量時には漏れ渦の流路貫通力は弱く、小流量時には漏れ渦の流路貫通力は強くなる傾向がある。これは、流量の増大に伴ってフルブレードの負圧面側の負圧が小流量時より大きくなるとともに、流路を流れる流量自体が増大するため、漏れ渦がフルブレードの負圧面側に偏るためである。
【0019】
そこで、大流量の運転時に生成される翼端漏れ渦が、スプリッタブレードの前縁部を乗り越えるように、もしくは、翼端漏れ渦の方向と一致するように前記スプリッタブレードの前縁部のシュラウド側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの負圧面側に寄せて設定することで、小流量時の運転においてもスプリッタブレードの前縁部との干渉を確実に防止でき、広い運転範囲にわたりスプリッタブレードの前縁部との干渉を防止することができ、圧縮機の効率を向上できる。
【0020】
さらに、フルブレードおよびスプリッタブレードの周方向位置が不等ピッチとなることによって、遠心圧縮機の回転数とブレード枚数に起因する圧縮機の騒音低減効果も得られる。
例えば、図21は縦軸に騒音ピーク値を、横軸に共振周波数をとったグラフであり、スプリッタブレードの周方向位置を10%負圧面側に移動させた場合、スプリッタブレード間隔は、一方は従来の50%から40%に2割狭くなるため、周波数が2割高くなる。また、他方は従来の50%から60%に2割広がるため、周波数は2割低下する。結果的には、位相がずれることでピーク値がaからbに低減(図21(B))する。
【0021】
また、本発明において好ましくは、さらに、前記スプリッタブレードの前縁部のハブ側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの正圧面側に寄せて配置するとよい。
このように、スプリッタブレードの前縁部のシュラウド側をフルブレードの負圧面側に寄っては位置することに加えて、ハブ側をフルブレードの正圧面側に寄って配置させることによって、スプリッタブレードによって分割される流路のスロート幅に偏りが生じて、流量の不均一の原因となるが、かかる構成によって、この流量の不均一を解消して流量配分を均一にするように作用する。
従って、流路の断面積の不均一によって分割された流路に流量差が生じることによる性能低下が防止される。
【0022】
また、本発明において好ましくは、さらに、前記スプリッタブレードの後縁部のシュラウド側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの負圧面側に寄せて配置するとよい。
このように、前縁部のシュラウド側をフルブレードの等間隔の位置よりフルブレードの負圧面側に偏らせて設置したものに加えて、後縁部のシュラウド側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの負圧面側に寄せて配置することによって、前縁部のシュラウド側だけを偏らせた場合には、スプリッタブレードによって分割される流路幅の前縁部と後縁部との前後の分布に偏りが生じ、前縁から後縁にかけて流速の不均一を生じる原因となるが、かかる構成によれば、分割されたそれぞれの流路における流速の増減速がなく流速を均一にして圧縮機の性能低下を防止できる。
【0023】
また、本発明において好ましくは、さらに、前記スプリッタブレードの後縁部のハブ側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの正圧面側に寄せて配置するとよい。
このように、前縁部のシュラウド側をフルブレードの等間隔の位置よりフルブレードの負圧面側に偏らせ、さらにハブ側をフルブレードの等間隔の位置よりフルブレードの正圧面側に偏らせて設置したものに加えて、後縁部において同様にシュラウド側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの負圧面側に寄らせ、さらにハブ側をフルブレードの等間隔の位置よりフルブレードの正圧面側に偏らせて設置するものである。
【0024】
これによって、前縁部のシュラウド側とハブ側だけを偏らせた場合には、スプリッタブレードによって分割される流路幅の前縁部と後縁部との前後の分布に偏りが生じて、前縁から後縁にかけて流速の不均一を生じる原因となるが、かかる構成によれば、分割されたそれぞれの流路における流速の増減速がなく流速を均一にすることができ。さらに、かかる構成によって、分割されたそれぞれの流路における流量配分の均一化も図れる。
従って、分割されたそれぞれの流路での流速の増減をなくすとともに、流量配分の均一化によって圧縮機の性能低下を防止できる。
【0025】
また、本発明において、前記スプリッタブレードの前縁の流体流れに対向する傾斜角度を、前記スプリッタブレードの前縁に対応するフルブレードの傾斜角度より増大させて、前記翼端漏れ渦の流れ方向に適合させた方向に設定されるとよい。
大流量時には、漏れ渦がフルブレードの負圧面側に偏るため(図2参照)、この漏れ渦の傾斜角度に合わせるようにスプリッタブレードの前縁の迎い角度を、フルブレードのスプリッタブレードの前縁に対応する傾斜角度より増大させて設定することで、翼端漏れ渦が強くなる小流量時に翼端漏れ渦との干渉を確実に、且つ効率良く回避することができようになる。なお、翼端漏れ渦の方向は、数値解析または台上試験によって求める。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ハブ面上に流体の入口部から出口部にかけて周方向に複数枚を均等間隔に立設されたフルブレードと、互いに隣り合わせて設けられた前記フルブレードの間に形成される流路の途中から出口部にかけて設けられるスプリッタブレードとを備える遠心圧縮機の羽根車において、前記遠心圧縮機は前記フルブレード先端とシュラウドとの間に翼端隙間が形成され、該翼端隙間から前記スプリッタブレードの前縁部に向かって発生する翼端漏れ渦に対して、大流量時に生成される前記翼端漏れ渦が前記スプリッタブレードの前縁部を乗り越えるように、若しくは前記翼端漏れ渦の方向に一致するように前記スプリッタブレードの前縁部のシュラウド側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの負圧面側に寄せて配置したので、広い運転範囲においてフルブレードの前縁の先端部からの漏れ渦に対するスプリッタブレードの前縁の干渉を確実に回避して遠心圧縮機、高圧力比、高効率化を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のスプリッタブレードが設けられた遠心圧縮機の羽根車の要部を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態のフルブレードとスプリッタブレードとの関係、および翼端漏れ渦の方向を示す説明図である。
【図3】第1実施形態のフルブレードとスプリッタブレードとの関係を示す説明図であり、シュラウド側周方向位置関係を示す。
【図4】第1実施形態のフルブレードとスプリッタブレードとの関係を示す説明図であり、ハブ側周方向位置関係を示す。
【図5】第1実施形態のスプリッタブレードの前縁形状を示す正面図である。
【図6】第1実施形態のスプリッタブレードの後縁形状を示す正面図である。
【図7】第2実施形態のフルブレードとスプリッタブレードとの関係を示す説明図であり、シュラウド側周方向位置関係を示す。
【図8】第2実施形態のフルブレードとスプリッタブレードとの関係を示す説明図であり、ハブ側周方向位置関係を示す。
【図9】第2実施形態のスプリッタブレードの前縁形状を示す正面図である。
【図10】第2実施形態のスプリッタブレードの後縁形状を示す正面図である。
【図11】第3実施形態のフルブレードとスプリッタブレードとの関係を示す説明図であり、シュラウド側周方向位置関係を示す。
【図12】第3実施形態のフルブレードとスプリッタブレードとの関係を示す説明図であり、ハブ側周方向位置関係を示す。
【図13】第3実施形態のスプリッタブレードの前縁形状を示す正面図である。
【図14】第3実施形態のスプリッタブレードの後縁形状を示す正面図である。
【図15】第4実施形態のフルブレードとスプリッタブレードとの関係を示す説明図であり、シュラウド側周方向位置関係を示す。
【図16】第4実施形態のフルブレードとスプリッタブレードとの関係を示す説明図であり、ハブ側周方向位置関係を示す。
【図17】第4実施形態のスプリッタブレードの前縁形状を示す正面図である。
【図18】第4実施形態のスプリッタブレードの後縁形状を示す正面図である。
【図19】第5実施形態のフルブレードとスプリッタブレードとの関係を示す説明図であり、シュラウド側周方向位置関係を示す。
【図20】第5実施形態のフルブレードとスプリッタブレードとの関係を示す説明図であり、ハブ側周方向位置関係を示す。
【図21】ブレード枚数に起因するコンプレッサ騒音の関係を示す説明図である。
【図22】スプリッタブレードの入口端部の先端部に形成されるフルブレード先端部からの翼端漏れ流れを示す数値解析結果である。
【図23】従来技術の説明図である。
【図24】従来技術の説明図である。
【図25】従来技術の説明図である。
【図26】従来技術の説明図である。
【図27】従来技術の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。
但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0029】
(第1実施形態)
図1は本発明のスプリッタブレードが適用される遠心圧縮機のインペラ(羽根車)の要部を示す斜視図である。インペラ1は、図示しないローター軸に嵌着されたハブ3の上面に複数の互いに隣り合うフルブレード(全翼)5と、そのフルブレード5の間に設けられるスプリッタブレード(短翼)7とが、周方向に等ピッチで交互に立設されている。そして、スプリッタブレード7は、フルブレード5よりも流体の流れ方向に対して長さが短く、前後のフルブレード5の間に形成される流路9の途中から出口部にかけて設けられている。インペラ1は矢印方向に回転し、その中心がOで示される。
【0030】
図2には、スプリッタブレード7とフルブレード5との関係をシュラウド側位置、すなわち翼先端側位置における配置関係を示す。
スプリッタブレード7のリーディングエッジである前縁7aは、フルブレード5のリーディングエッジである前縁5aより流れ方向下流側に位置して、スプリッタブレード7のトレーリングエッジの後縁7bと、フルブレード5のトレーリングエッジの後縁5bとの位置は周方向で一致して設けられている。
【0031】
また、フルブレード5の正圧面Sa側とフルブレード5の負圧面Sb側との間に形成される流路9をスプリッタブレード7によって周方向に二等分割するように位置され、スプリッタブレード7とフルブレード5の正圧面Sa側の壁面との間に流路11が形成され、負圧面側Sbの壁面との間に流路13が形成されている。
また、スプリッタブレード7の形状はフルブレード5に沿うようになっていて、スプリッタブレード7の前縁7aの傾斜角度βはフルブレード5の傾斜角度と同一になっている。
【0032】
このように構成されたインペラ1は、フルブレード5およびスプリッタブレード7を覆う図示しないシュラウドとの間に翼端隙間を有するオープン型インペラとして構成されている。
従って、フルブレード5の前縁の先端部分(シュラウド側)とシュラウドとの隙間部分を通って隣(回転方向前側)の流体通路のフルブレード5の正圧面側の流体がフルブレード5の負圧面側に漏れる翼端漏れ流れWが生じる。
【0033】
この翼端漏れ流れWはスプリッタブレード7の前縁7aの近傍の流れに影響を与えるため、この翼端漏れ流れWの状態について数値解析を行った。その数値解析結果の流れ線図を図22に示す。
フルブレード5のリーディングエッジ5a部の先端部のシュラウドとの隙間部Bを通って翼端漏れ流れが生じる。この翼端漏れ流れWは、図22のように、強い渦流(翼端漏れ渦)を伴っており、フルブレード5に沿う流れに対して強いブロック作用を有するため、スプリッタブレード7の前縁7aの近傍では、流れはフルブレード5に沿った流れとはならず、前記渦を核としてスプリッタブレード7の前縁に向かう偏流Mを生じる。
【0034】
この翼端漏れ流れWの向きは、図2に示すように、大流量時には、翼端漏れ流量が多くなるとともに負圧が増大しフルブレード5の負圧面側Sbへ偏り線X方向となる傾向があり、小流量時には、翼端漏れ流量が少なくなるとともに負圧が減少しフルブレード5の負圧面Sb側から離れて線Y方向となる傾向がある。
【0035】
これは、大流量時には漏れ渦の流路貫通力は弱く、小流量時には漏れ渦の流路貫通力は強くなる傾向がある。流量の増大に伴ってフルブレードの負圧面側の負圧が小流量時より大きくなるとともに、流路を流れる流量自体が増大するため、漏れ渦がフルブレードの負圧面側に偏ると考えられる。なお、大流量時とはピーク効率時の流量を超える流量領域での運転時を意味する。
【0036】
従って、大流量時に生成される翼端漏れ渦がスプリッタブレード7の前縁7aのシュラウド側を乗り越えるように、またはほぼ対向(一致)するようにスプリッタブレード7の前縁7aのシュラウド側をフルブレード5の周方向等間隔位置からフルブレード5の負圧面側Sbに偏らせて配置されている。
ほぼ対向(一致)するようにとは、スプリッタブレード7の前縁7aのシュラウド側の傾斜角度βと翼端漏れ渦の流れ方向とがほぼ一致して、渦流れとスプリッタブレード7の前縁7のシュラウド側とが干渉し合わない状態をいう。
【0037】
スプリッタブレード7は、前側フルブレード5Fと後側フルブレード5Rとの間の中間部に位置され、その前縁7aの位置についても前側フルブレート5Fと後側フルブレード5Rとの中間部に設定されている。スプリッタブレード7の前縁7aの長さ方向の位置の設定には種々の手法がある。
【0038】
例えば、図2に示されるように、効率ピーク点における翼端漏れ渦の向き、すなわち漏れ流れの方向を示す線Zを数値解析、または実機試験によって算出して、その線Zと前後のフルブレード5Fと5Rの中間点との交点として設定する場合。
または、後側フルブレード5Rの前縁5aから該後側フルブレード5Rに隣接して回転方向前側に設けられる前側フルブレード5Fの負圧面側Sbへの最小距離を形成する所謂スロートの中心位置と、前側フルブレード5Fの前縁5aとを結んで形成されるラインを翼端漏れ渦の向きとして線Zとし、その線Zと前後のフルブレード5Fと5Rの中間点との交点として設定する場合がある。
何れ手法にしても、基準となる翼端漏れ渦の方向を示す基準となる線Zを求めて、そのラインと前後のフルブレード5Fと5Rの中間点との交点として設定される。
【0039】
以上のようにして設定された、基準となるスプリッタブレード7の前縁7aにおいて、シュラウド側の位置を、図2に示すような大流量時の翼端漏れ渦の方向を示す線X方向よりも前側フルブレード5F側に位置されるように、または、線X方向とほぼ対向するような位置に傾斜させる。
【0040】
スプリッタブレード7の前縁7aのシュラウド側の位置を、フルブレード5の負圧面側Sbに寄せる具体例を図3〜6に示す。例えば、寄せ量を10%とする。なお、図3はフルブレード5とスプリッタブレード7とのシュラウド側周方向位置関係を示す。図4はハブ側の周方向位置関係を示す。このように、後縁7bの部分は偏らせることなく前縁7aのシュラウド側だけが前側フルブレード5Fの負圧面側Sbに偏るように傾斜させている。
図5はスプリッタブレード7の前縁形状を示す正面図であり、図6はスプリッタブレード7の後縁形状を示す正面図であり、後縁7bは変化させていないが、前縁7aのシュラウド側だけが前側フルブレード5Fの負圧面側Sbに傾けている。
【0041】
以上の第1実施形態によれば、翼端漏れ渦が弱い(前側フルブレード5Fの負圧面側Sbに偏る傾向が強く、流路9を横切るように進む貫徹力が弱い)大流量側で生成される翼端漏れ渦が前記スプリッタブレードの前縁部を乗り越えるように設定して、翼端漏れ渦が強い小流量側での翼端漏れ渦の干渉を確実に防止することができる。
すなわち、図2に示すように、大流量側での実機による試験によって、スプリッタブレード7の前縁7aの向い角度を設定することで広い運転範囲において確実に、翼端漏れ渦の干渉を確実に防止することができるようになる。
【0042】
また、フルブレード5およびスプリッタブレード7の周方向位置が不等ピッチとなることによって、遠心圧縮機の回転数とブレード枚数に起因する圧縮機の騒音低減効果も得られる。
例えば、図21に示すように、スプリッタブレードの周方向位置を10%負圧面側に移動させた場合、スプリッタブレード間隔は、一方は従来の50%から40%に2割狭くなるため、周波数が2割高くなる。また、他方は従来の50%から60%に2割広がるため、周波数は2割低下する。結果的には、位相がずれることでピーク値がaからbに低減(図21(B))する。
【0043】
(第2実施形態)
次に、図7〜10を参照して、第2実施形態を説明する。
第2実施形態は、第1実施形態に加えてさらに、スプリッタブレード7の前縁7aのハブ側を前後のフルブレード5F、5Rの周方向等間隔位置から後側フルブレード5Rの正圧面Sa側に寄せて配置することに特徴がある。
【0044】
図7に示すように、スプリッタブレード7の前縁7aのシュラウド側を前側フルブレード5Fの負圧面Sb側に寄って位置し、さらに、図8に示すように前縁7aのハブ側を後側フルブレード5Rの正圧面Sa側に偏らせている。正圧面Sa側および負圧面Sb側への偏り量はそれぞれ10%として等しく設定されている。この偏り量は前述したように、予め、数値計算または試験によって、大流量時における偏り量として設定される。
【0045】
図7、8、9のように後縁7b側においては、シュラウド側およびハブ側共に偏らせることはなく、前後のフルブレード5F、5Rの中間部に設置されている。図9の前縁形状に示すように、スプリッタブレード7の前縁7aの部分ではシュラウド側とハブ側とをそれぞれ反対方向に同量偏らせているため、スプリッタブレード7によって分割される流路11、13の夫々のスロート幅の不均一を解消して前縁7a部分の流量配分を均一にするように作用する。
従って、流路11、13の入口部分の断面積の不均一によって分割された流路に流量差が生じることによる性能低下が防止される。
【0046】
(第3実施形態)
次に、図11〜14を参照して、第3実施形態を説明する。
第3実施形態は、第2実施形態に加えてさらに、スプリッタブレード7の後縁7bのシュラウド側を前後のフルブレード5F、5Rの周方向等間隔位置から前側フルブレード5Fの負圧面Sb側に寄せて配置することに特徴がある。
【0047】
図11に示すように、スプリッタブレード7の後縁7bのシュラウド側を前側フルブレード5Fの負圧面Sb側に寄って位置し、さらに、ハブ側は図12に示すように前記第2実施形態と同様に前縁7aのみを後側フルブレード5Rの正圧面Sa側に偏らせて、シュラウド側は前後のフルブレード5F、5Rの周方向等間隔に位置している。正圧面Sa側および負圧面Sb側への偏り量は前記第2実施形態と同様にそれぞれ10%として等しく設定されている。
【0048】
図11、12、14のように後縁7b側においては、シュラウド側のみを前側フルブレード5Fの負圧面Sb側に寄って偏らせている。
このように構成することによって、スプリッタブレード7の前縁7aの部分ではシュラウド側とハブ側とをそれぞれ反対方向に同量偏らせているため、スプリッタブレード7によって分割される流路11、13のスロート幅の不均一を解消して前縁部分の流量配分を均一にするように作用する。
さらに、スプリッタブレード7によって分割される流路11、13の前縁部分と後縁部分との前後の分布に偏りが生じにくく、前縁から後縁にかけての流速の不均一が生じにくく、分割されたそれぞれの流路11、13における流速の増減速がなく流速を均一にでき、圧縮機の性能低下を防止できる。
【0049】
(第4実施形態)
次に、図15〜18を参照して、第4実施形態を説明する。
第4実施形態は、第3実施形態に加えてさらに、スプリッタブレード7の後縁7bのハブ側を前後のフルブレード5F、5Rの周方向等間隔位置から後側フルブレード5Rの正圧面Sa側に寄せて配置することに特徴がある。
【0050】
図15のように、シュラウド側の前縁7aから後縁7bまでを10%、前側フルブレード5Fの負圧面Sb側に偏らせ、さらに、図16に示すように、ハブ側においても前縁7aから後縁7bまでを10%、後側フルブレード5Rの正圧面Sa側に偏らせている。
【0051】
このように構成することによって、前記第3実施形態で説明したように、スプリッタブレード7の前縁7aの部分ではシュラウド側とハブ側とをそれぞれ反対方向に同量偏らせているため、スプリッタブレード7によって分割される流路11、13のスロート幅の不均一を解消して前縁部分の流量配分を均一にするように作用する。
さらに、第4実施形態においてはスプリッタブレード7の後縁7bの部分でもシュラウド側とハブ側とをそれぞれ反対方向に同量偏らせているため、スプリッタブレード7によって分割される流路11、13での流量配分の均一性が一層効果的に得られる。
【0052】
また、前記第3実施形態ではシュラウド側だけスプリッタブレード7を前縁7aから後縁7bまでを前側フルブレード5Fの負圧面Sb側に偏らせたが、第4実施形態においては、それに加えて、ハブ側も前縁7aから後縁7bまで後側フルブレード5Rの正圧面Sa側に偏らせたため、スプリッタブレード7によって分割される流路11、13の前縁から後縁への前後の分布に偏りが生じにくく、前縁から後縁にかけての流速の不均一が一層生じにくくなり、分割されたそれぞれの流路11、13における流速の増減速がなく、流速を、前記第3より一層均一化でき、圧縮機の性能低下を防止できる。
【0053】
(第5実施形態)
次に、図19、20を参照して、第5実施形態を説明する。
この第5実施形態は、第4実施形態におけるスプリッタブレード7の前縁7aのシュラウド側において流体流れに対向する傾斜角度(迎角度)を、スプリッタブレード7の前縁7aに対応する前側フルブレード5Fまたは後側フルブレート5Rの傾斜角度より増大させて翼端漏れ渦の流れ方向に適合させた方向に設定されている。
【0054】
図19に示すように、第5実施形態はスプリッタブレード7の前縁7aのシュラウド側の傾斜角度の設定にだけ適用される。その他ハブ側については前側または後側のフルブレード5F、5Rの対応する傾斜角度と同様の角度に設定されている。
図19のように、スプリッタブレード7の前縁7aのシュラウド側の迎角度は、対応する後側フルブレード5Rの傾斜角度βよりΔβ分大きく設定して、翼端漏れ流れWへ適合させる迎い角度に設定できる。
【0055】
すなわち、スプリッタブレード7の先端近傍のみにおいて局所的にスプリッタブレード7の前縁7aの迎角度を変化させて流体流れに適合せさるので、前側または後側フルブレード5F、5Rのシュラウド側の同一翼高さ位置での傾斜角度βと同等に設定するものに比べて、高効率と、特性改善効果を簡単にかつ効果的に得られる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、流体の入口部から出口部にかけて互いに隣り合わせて設けられるフルブレードと、該フルブレードの間に流路の途中から出口部にかけて設けられるスプリッタブレードとを備えた遠心圧縮機の羽根車において、フルブレードの前縁の先端部からの翼端漏れ渦に対するスプリッタブレードの前縁の干渉を広い運転範囲において回避し、高圧力比、高効率化を達成できるので、遠心圧縮機の羽根車に用いることに適している。
【符号の説明】
【0057】
1 羽根車(インペラ)
3 ハブ
5 フルブレード
5a フルブレードの前縁
5b フルブレードの後縁
5F 前側フルブレード
5R 後側フルブレード
7 スプリッタブレード
7a スプリッタブレードの前縁
7b スプリッタブレードの後縁
9、11、13 流路
B 前側フルブレードの先端隙間
F 流路を流れる流体の流れ方向
M 偏流
W 翼端漏れ流れ
Sa フルブレードの正圧面
Sb フルブレードの負圧面
β スプリッタブレードの前縁の傾斜角度
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用、舶用ターボチャージャ等に用いられる遠心圧縮機の羽根車に関するものであり、特に、互いに隣り合うフルブレード(全翼)の間に設けられるスプリッタブレード(短翼)の翼形状に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用、舶用ターボチャージャのコンプレッサ部等に用いられる遠心圧縮機は、羽根車の回転を介して流体に運動エネルギーを与えるとともに、径方向外側に流体を吐出することで遠心力による圧力上昇を得るものである。この遠心圧縮機は広い運転範囲において高圧力比と高効率化が要求されるため、図23、24に示すような互いに隣り合うフルブレード(全翼)01の間にスプリッタブレード(短翼)03を設けたインペラ(羽根車)05がよく用いられるとともに、その翼形状について様々な工夫がなされている。
【0003】
このスプリッタブレード03を有するインペラ05は、フルブレード01とスプリッタブレード03がハブ07面上に交互に設置されるが、一般的なスプリッタブレード03は、フルブレード01の上流側を単に切除した形状とされている。
一般的なスプリッタブレード03の場合、図25のように、フルブレード01の入口端縁(LE1)より一定距離下流側にスプリッタブレード03の入口端縁(LE2)が位置され、出口端縁(TE)は一致して設けられ、スプリッタブレード03の入口端縁の翼角θ(入口端縁の方向とインペラ05の軸方向Gとの成す角度として示す)は、フルブレード01間の流路を流れる流体の流れ方向Fと同一に設定されている。
【0004】
しかし、図25のように、スプリッタブレード03の入口端縁を、フルブレード01間の周方向中心位置で、単にフルブレード01の上流側を切除した形状としてスプリッタブレード03を設計すると、スプリッタブレード03の両側に形成されるフルブレード01の正圧面Sa側のスロート面積A1と、負圧面Sb側のスロート面積A2に、A1<A2の差が生じることから、各流路の流量に不均一が生じ、流体を均等分配することができず、翼負荷が不均等となり流路損失も増えて、インペラ効率の向上が妨げられる問題があった。なお、スロート面積とは、図25のようなスプリッタブレードの入口端縁からフルブレード01の正圧面または負圧面までの最短距離をなす位置における断面積をいう。
【0005】
そこで、特許文献1(特開平10−213094号公報)に開示されている技術が知られおり、この特許文献1は、図26のように、スプリッタブレード09の入口端縁の翼角θを、θ+Δθと大きく取る(流体の流れ方向Fに対してΔθ大きく設定する)ことで、すなわち、フルブレード01の負圧面Sb側に寄せることで、スプリッタブレード09の両側通路のスロート面積を同一(A1=A2)とする工夫がなされている。
また、スプリッタブレードの入口端部を、フルブレードの負圧面側に傾けたものとして特許文献2(特許3876195号公報)についても知られている。
【0006】
しかし、前記特許文献1(図26)のように、スプリッタブレード09の入口端縁の翼角θを、θ+Δθと大きく取ることによって、スプリッタブレード09の傾斜が大きくなった前縁部分やフルブレード01の負圧面側Sbからの剥離流の発生が懸念されるとともに、スプリッタブレード09の正圧面側および負圧面側の両側通路でスロート面積を同一(A1=A2)としても、該両通路で流速が相違することによって流量の均一化を図ることができなくなる問題があった。
【0007】
すなわち、スプリッタブレード09の両側、つまりフルブレード01の正圧面側と負圧面側とで流速が異なることから、フルブレード01の間に入ってきた流体は、主に負圧面側に速い流れが集まる分布となるため、スプリッタブレード09の両側通路の流路断面積を幾何学的に等しくしても、負圧面側が正圧面側に比べて流速が速い分、流量が増え各流路の流量に不均一が生じ、流体を均等分配することができず、翼負荷が不均等となり流路損失も増えて、インペラ効率の向上が妨げられる問題があった。
【0008】
さらに、特許文献3(特開2002−332992号公報)に開示されている技術では、図27に示すように、スプリッタブレード011の入口端縁の翼角θをそのままとして、前縁を敢えてフルブレード01の負圧面側に偏倚させてA1>A2としている。これによって、スプリッタブレード011の両側通路における流量の均一化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−213094号公報
【特許文献2】特許3876195号公報
【特許文献3】特開2002−332992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記特許文献1〜3に示される技術はいずれも、ブレード(翼)間の流れがフルブレードに沿って流れるとの仮定の基に、スプリッタブレードにより分割される流路の流量配分に着目して、翼形状の改良がなされているものであり、翼端隙間を有するオープン型インペラの場合には、この翼端隙間から通路内に流入、または通路から流出する翼端漏れ流れの影響があり、流れ場は複雑な様相を呈しており、これら複雑な内部流動に適合するさらなる改良が必要であった。
【0011】
その複雑な内部流動を数値解析により評価したところ、フルブレードの入口端縁の先端部(翼のハブ面からの高さ方向(シュラウド側)の先端部)から発生する漏れ渦がスプリッタブレードの入口端縁の先端部(翼のハブ面からの高さ方向(シュラウド側)の先端部)近傍に到達していることが明らかとなった(図22の翼端漏れ流れWの渦流を参照)。
【0012】
この漏れ渦はフルブレードに沿って流れてはおらず、また、この漏れ渦は低エネルギー流体が集積する箇所であるため、これがスプリッタブレードの入口端縁に干渉すると剥離や渦構造の発生による損失生成が増大する。
すなわち、従来型インペラ構造ではこのフルブレードの入口端縁の先端からの漏れ渦とスプリッタブレードの入口端縁との干渉に対する対策がなされていないため、十分な性能が得られていなかった。
【0013】
そこで、本発明は、これら問題に鑑みてなされたもので、流体の入口部から出口部にかけて互いに隣り合わせて設けられるフルブレードと、該フルブレードの間に流路の途中から出口部にかけて設けられるスプリッタブレードとを備えた遠心圧縮機の羽根車において、フルブレードの前縁の先端部からの翼端漏れ渦に対するスプリッタブレードの前縁の干渉を回避し、高圧力比、高効率化を達成する遠心圧縮機の羽根車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明は、ハブ面上に流体の入口部から出口部にかけて周方向に複数枚を均等間隔に立設されたフルブレードと、互いに隣り合わせて設けられた前記フルブレードの間に形成される流路の途中から出口部にかけて設けられるスプリッタブレードとを備える遠心圧縮機の羽根車において、
前記遠心圧縮機は前記フルブレード先端とシュラウドとの間に翼端隙間が形成され、該翼端隙間から前記スプリッタブレードの前縁部に向かって発生する翼端漏れ渦に対して、大流量時に生成される前記翼端漏れ渦が前記スプリッタブレードの前縁部を乗り越えるように、若しくは前記翼端漏れ渦の方向に一致するように前記スプリッタブレードの前縁部のシュラウド側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの負圧面側に寄せて配置したことを特徴とする。
【0015】
かかる発明によれば、スプリッタブレードの前縁部のシュラウド側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの負圧面側に寄せて配置することによって、翼端漏れ流れによって生じる翼端漏れ渦との干渉を確実に回避して、圧縮機の効率向上と特性改善が行われる。
【0016】
フルブレード先端とシュラウドとの間に翼端隙間が形成されるオープン型インペラの場合、翼端隙間からスプリッタブレードに向かって翼端漏れ流れによる翼端漏れ渦が発生する。この翼端漏れ渦は強いブロッケージ効果を有するため、スプリッタブレード先端近傍(70%翼スパン以上)では、フルブレード間を流れる流体はフルブレードに沿って流れずに、偏流が生じる。翼端漏れ渦は、強い渦流れを伴う低エネルギー流体の集積域である。このような流れがスプリッタブレードの前縁に干渉すると、剥離や渦構造の発生による損失生成が増大される。
そこで、本発明では、スプリッタブレードの前縁部のシュラウド側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの負圧面側に寄せて配置することによって、翼端漏れ渦との干渉を回避している。
【0017】
さらに、本発明では、漏れ渦位置は圧縮機の運転状態によって変化するため、その変化傾向を基に、小流量運転から大流量運転まで広い運転範囲において確実にスプリッタブレードの前縁部との干渉を確実に防止している。
【0018】
すなわち、図2に示すように、大流量時には漏れ渦の流路貫通力は弱く、小流量時には漏れ渦の流路貫通力は強くなる傾向がある。これは、流量の増大に伴ってフルブレードの負圧面側の負圧が小流量時より大きくなるとともに、流路を流れる流量自体が増大するため、漏れ渦がフルブレードの負圧面側に偏るためである。
【0019】
そこで、大流量の運転時に生成される翼端漏れ渦が、スプリッタブレードの前縁部を乗り越えるように、もしくは、翼端漏れ渦の方向と一致するように前記スプリッタブレードの前縁部のシュラウド側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの負圧面側に寄せて設定することで、小流量時の運転においてもスプリッタブレードの前縁部との干渉を確実に防止でき、広い運転範囲にわたりスプリッタブレードの前縁部との干渉を防止することができ、圧縮機の効率を向上できる。
【0020】
さらに、フルブレードおよびスプリッタブレードの周方向位置が不等ピッチとなることによって、遠心圧縮機の回転数とブレード枚数に起因する圧縮機の騒音低減効果も得られる。
例えば、図21は縦軸に騒音ピーク値を、横軸に共振周波数をとったグラフであり、スプリッタブレードの周方向位置を10%負圧面側に移動させた場合、スプリッタブレード間隔は、一方は従来の50%から40%に2割狭くなるため、周波数が2割高くなる。また、他方は従来の50%から60%に2割広がるため、周波数は2割低下する。結果的には、位相がずれることでピーク値がaからbに低減(図21(B))する。
【0021】
また、本発明において好ましくは、さらに、前記スプリッタブレードの前縁部のハブ側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの正圧面側に寄せて配置するとよい。
このように、スプリッタブレードの前縁部のシュラウド側をフルブレードの負圧面側に寄っては位置することに加えて、ハブ側をフルブレードの正圧面側に寄って配置させることによって、スプリッタブレードによって分割される流路のスロート幅に偏りが生じて、流量の不均一の原因となるが、かかる構成によって、この流量の不均一を解消して流量配分を均一にするように作用する。
従って、流路の断面積の不均一によって分割された流路に流量差が生じることによる性能低下が防止される。
【0022】
また、本発明において好ましくは、さらに、前記スプリッタブレードの後縁部のシュラウド側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの負圧面側に寄せて配置するとよい。
このように、前縁部のシュラウド側をフルブレードの等間隔の位置よりフルブレードの負圧面側に偏らせて設置したものに加えて、後縁部のシュラウド側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの負圧面側に寄せて配置することによって、前縁部のシュラウド側だけを偏らせた場合には、スプリッタブレードによって分割される流路幅の前縁部と後縁部との前後の分布に偏りが生じ、前縁から後縁にかけて流速の不均一を生じる原因となるが、かかる構成によれば、分割されたそれぞれの流路における流速の増減速がなく流速を均一にして圧縮機の性能低下を防止できる。
【0023】
また、本発明において好ましくは、さらに、前記スプリッタブレードの後縁部のハブ側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの正圧面側に寄せて配置するとよい。
このように、前縁部のシュラウド側をフルブレードの等間隔の位置よりフルブレードの負圧面側に偏らせ、さらにハブ側をフルブレードの等間隔の位置よりフルブレードの正圧面側に偏らせて設置したものに加えて、後縁部において同様にシュラウド側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの負圧面側に寄らせ、さらにハブ側をフルブレードの等間隔の位置よりフルブレードの正圧面側に偏らせて設置するものである。
【0024】
これによって、前縁部のシュラウド側とハブ側だけを偏らせた場合には、スプリッタブレードによって分割される流路幅の前縁部と後縁部との前後の分布に偏りが生じて、前縁から後縁にかけて流速の不均一を生じる原因となるが、かかる構成によれば、分割されたそれぞれの流路における流速の増減速がなく流速を均一にすることができ。さらに、かかる構成によって、分割されたそれぞれの流路における流量配分の均一化も図れる。
従って、分割されたそれぞれの流路での流速の増減をなくすとともに、流量配分の均一化によって圧縮機の性能低下を防止できる。
【0025】
また、本発明において、前記スプリッタブレードの前縁の流体流れに対向する傾斜角度を、前記スプリッタブレードの前縁に対応するフルブレードの傾斜角度より増大させて、前記翼端漏れ渦の流れ方向に適合させた方向に設定されるとよい。
大流量時には、漏れ渦がフルブレードの負圧面側に偏るため(図2参照)、この漏れ渦の傾斜角度に合わせるようにスプリッタブレードの前縁の迎い角度を、フルブレードのスプリッタブレードの前縁に対応する傾斜角度より増大させて設定することで、翼端漏れ渦が強くなる小流量時に翼端漏れ渦との干渉を確実に、且つ効率良く回避することができようになる。なお、翼端漏れ渦の方向は、数値解析または台上試験によって求める。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ハブ面上に流体の入口部から出口部にかけて周方向に複数枚を均等間隔に立設されたフルブレードと、互いに隣り合わせて設けられた前記フルブレードの間に形成される流路の途中から出口部にかけて設けられるスプリッタブレードとを備える遠心圧縮機の羽根車において、前記遠心圧縮機は前記フルブレード先端とシュラウドとの間に翼端隙間が形成され、該翼端隙間から前記スプリッタブレードの前縁部に向かって発生する翼端漏れ渦に対して、大流量時に生成される前記翼端漏れ渦が前記スプリッタブレードの前縁部を乗り越えるように、若しくは前記翼端漏れ渦の方向に一致するように前記スプリッタブレードの前縁部のシュラウド側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの負圧面側に寄せて配置したので、広い運転範囲においてフルブレードの前縁の先端部からの漏れ渦に対するスプリッタブレードの前縁の干渉を確実に回避して遠心圧縮機、高圧力比、高効率化を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のスプリッタブレードが設けられた遠心圧縮機の羽根車の要部を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態のフルブレードとスプリッタブレードとの関係、および翼端漏れ渦の方向を示す説明図である。
【図3】第1実施形態のフルブレードとスプリッタブレードとの関係を示す説明図であり、シュラウド側周方向位置関係を示す。
【図4】第1実施形態のフルブレードとスプリッタブレードとの関係を示す説明図であり、ハブ側周方向位置関係を示す。
【図5】第1実施形態のスプリッタブレードの前縁形状を示す正面図である。
【図6】第1実施形態のスプリッタブレードの後縁形状を示す正面図である。
【図7】第2実施形態のフルブレードとスプリッタブレードとの関係を示す説明図であり、シュラウド側周方向位置関係を示す。
【図8】第2実施形態のフルブレードとスプリッタブレードとの関係を示す説明図であり、ハブ側周方向位置関係を示す。
【図9】第2実施形態のスプリッタブレードの前縁形状を示す正面図である。
【図10】第2実施形態のスプリッタブレードの後縁形状を示す正面図である。
【図11】第3実施形態のフルブレードとスプリッタブレードとの関係を示す説明図であり、シュラウド側周方向位置関係を示す。
【図12】第3実施形態のフルブレードとスプリッタブレードとの関係を示す説明図であり、ハブ側周方向位置関係を示す。
【図13】第3実施形態のスプリッタブレードの前縁形状を示す正面図である。
【図14】第3実施形態のスプリッタブレードの後縁形状を示す正面図である。
【図15】第4実施形態のフルブレードとスプリッタブレードとの関係を示す説明図であり、シュラウド側周方向位置関係を示す。
【図16】第4実施形態のフルブレードとスプリッタブレードとの関係を示す説明図であり、ハブ側周方向位置関係を示す。
【図17】第4実施形態のスプリッタブレードの前縁形状を示す正面図である。
【図18】第4実施形態のスプリッタブレードの後縁形状を示す正面図である。
【図19】第5実施形態のフルブレードとスプリッタブレードとの関係を示す説明図であり、シュラウド側周方向位置関係を示す。
【図20】第5実施形態のフルブレードとスプリッタブレードとの関係を示す説明図であり、ハブ側周方向位置関係を示す。
【図21】ブレード枚数に起因するコンプレッサ騒音の関係を示す説明図である。
【図22】スプリッタブレードの入口端部の先端部に形成されるフルブレード先端部からの翼端漏れ流れを示す数値解析結果である。
【図23】従来技術の説明図である。
【図24】従来技術の説明図である。
【図25】従来技術の説明図である。
【図26】従来技術の説明図である。
【図27】従来技術の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。
但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0029】
(第1実施形態)
図1は本発明のスプリッタブレードが適用される遠心圧縮機のインペラ(羽根車)の要部を示す斜視図である。インペラ1は、図示しないローター軸に嵌着されたハブ3の上面に複数の互いに隣り合うフルブレード(全翼)5と、そのフルブレード5の間に設けられるスプリッタブレード(短翼)7とが、周方向に等ピッチで交互に立設されている。そして、スプリッタブレード7は、フルブレード5よりも流体の流れ方向に対して長さが短く、前後のフルブレード5の間に形成される流路9の途中から出口部にかけて設けられている。インペラ1は矢印方向に回転し、その中心がOで示される。
【0030】
図2には、スプリッタブレード7とフルブレード5との関係をシュラウド側位置、すなわち翼先端側位置における配置関係を示す。
スプリッタブレード7のリーディングエッジである前縁7aは、フルブレード5のリーディングエッジである前縁5aより流れ方向下流側に位置して、スプリッタブレード7のトレーリングエッジの後縁7bと、フルブレード5のトレーリングエッジの後縁5bとの位置は周方向で一致して設けられている。
【0031】
また、フルブレード5の正圧面Sa側とフルブレード5の負圧面Sb側との間に形成される流路9をスプリッタブレード7によって周方向に二等分割するように位置され、スプリッタブレード7とフルブレード5の正圧面Sa側の壁面との間に流路11が形成され、負圧面側Sbの壁面との間に流路13が形成されている。
また、スプリッタブレード7の形状はフルブレード5に沿うようになっていて、スプリッタブレード7の前縁7aの傾斜角度βはフルブレード5の傾斜角度と同一になっている。
【0032】
このように構成されたインペラ1は、フルブレード5およびスプリッタブレード7を覆う図示しないシュラウドとの間に翼端隙間を有するオープン型インペラとして構成されている。
従って、フルブレード5の前縁の先端部分(シュラウド側)とシュラウドとの隙間部分を通って隣(回転方向前側)の流体通路のフルブレード5の正圧面側の流体がフルブレード5の負圧面側に漏れる翼端漏れ流れWが生じる。
【0033】
この翼端漏れ流れWはスプリッタブレード7の前縁7aの近傍の流れに影響を与えるため、この翼端漏れ流れWの状態について数値解析を行った。その数値解析結果の流れ線図を図22に示す。
フルブレード5のリーディングエッジ5a部の先端部のシュラウドとの隙間部Bを通って翼端漏れ流れが生じる。この翼端漏れ流れWは、図22のように、強い渦流(翼端漏れ渦)を伴っており、フルブレード5に沿う流れに対して強いブロック作用を有するため、スプリッタブレード7の前縁7aの近傍では、流れはフルブレード5に沿った流れとはならず、前記渦を核としてスプリッタブレード7の前縁に向かう偏流Mを生じる。
【0034】
この翼端漏れ流れWの向きは、図2に示すように、大流量時には、翼端漏れ流量が多くなるとともに負圧が増大しフルブレード5の負圧面側Sbへ偏り線X方向となる傾向があり、小流量時には、翼端漏れ流量が少なくなるとともに負圧が減少しフルブレード5の負圧面Sb側から離れて線Y方向となる傾向がある。
【0035】
これは、大流量時には漏れ渦の流路貫通力は弱く、小流量時には漏れ渦の流路貫通力は強くなる傾向がある。流量の増大に伴ってフルブレードの負圧面側の負圧が小流量時より大きくなるとともに、流路を流れる流量自体が増大するため、漏れ渦がフルブレードの負圧面側に偏ると考えられる。なお、大流量時とはピーク効率時の流量を超える流量領域での運転時を意味する。
【0036】
従って、大流量時に生成される翼端漏れ渦がスプリッタブレード7の前縁7aのシュラウド側を乗り越えるように、またはほぼ対向(一致)するようにスプリッタブレード7の前縁7aのシュラウド側をフルブレード5の周方向等間隔位置からフルブレード5の負圧面側Sbに偏らせて配置されている。
ほぼ対向(一致)するようにとは、スプリッタブレード7の前縁7aのシュラウド側の傾斜角度βと翼端漏れ渦の流れ方向とがほぼ一致して、渦流れとスプリッタブレード7の前縁7のシュラウド側とが干渉し合わない状態をいう。
【0037】
スプリッタブレード7は、前側フルブレード5Fと後側フルブレード5Rとの間の中間部に位置され、その前縁7aの位置についても前側フルブレート5Fと後側フルブレード5Rとの中間部に設定されている。スプリッタブレード7の前縁7aの長さ方向の位置の設定には種々の手法がある。
【0038】
例えば、図2に示されるように、効率ピーク点における翼端漏れ渦の向き、すなわち漏れ流れの方向を示す線Zを数値解析、または実機試験によって算出して、その線Zと前後のフルブレード5Fと5Rの中間点との交点として設定する場合。
または、後側フルブレード5Rの前縁5aから該後側フルブレード5Rに隣接して回転方向前側に設けられる前側フルブレード5Fの負圧面側Sbへの最小距離を形成する所謂スロートの中心位置と、前側フルブレード5Fの前縁5aとを結んで形成されるラインを翼端漏れ渦の向きとして線Zとし、その線Zと前後のフルブレード5Fと5Rの中間点との交点として設定する場合がある。
何れ手法にしても、基準となる翼端漏れ渦の方向を示す基準となる線Zを求めて、そのラインと前後のフルブレード5Fと5Rの中間点との交点として設定される。
【0039】
以上のようにして設定された、基準となるスプリッタブレード7の前縁7aにおいて、シュラウド側の位置を、図2に示すような大流量時の翼端漏れ渦の方向を示す線X方向よりも前側フルブレード5F側に位置されるように、または、線X方向とほぼ対向するような位置に傾斜させる。
【0040】
スプリッタブレード7の前縁7aのシュラウド側の位置を、フルブレード5の負圧面側Sbに寄せる具体例を図3〜6に示す。例えば、寄せ量を10%とする。なお、図3はフルブレード5とスプリッタブレード7とのシュラウド側周方向位置関係を示す。図4はハブ側の周方向位置関係を示す。このように、後縁7bの部分は偏らせることなく前縁7aのシュラウド側だけが前側フルブレード5Fの負圧面側Sbに偏るように傾斜させている。
図5はスプリッタブレード7の前縁形状を示す正面図であり、図6はスプリッタブレード7の後縁形状を示す正面図であり、後縁7bは変化させていないが、前縁7aのシュラウド側だけが前側フルブレード5Fの負圧面側Sbに傾けている。
【0041】
以上の第1実施形態によれば、翼端漏れ渦が弱い(前側フルブレード5Fの負圧面側Sbに偏る傾向が強く、流路9を横切るように進む貫徹力が弱い)大流量側で生成される翼端漏れ渦が前記スプリッタブレードの前縁部を乗り越えるように設定して、翼端漏れ渦が強い小流量側での翼端漏れ渦の干渉を確実に防止することができる。
すなわち、図2に示すように、大流量側での実機による試験によって、スプリッタブレード7の前縁7aの向い角度を設定することで広い運転範囲において確実に、翼端漏れ渦の干渉を確実に防止することができるようになる。
【0042】
また、フルブレード5およびスプリッタブレード7の周方向位置が不等ピッチとなることによって、遠心圧縮機の回転数とブレード枚数に起因する圧縮機の騒音低減効果も得られる。
例えば、図21に示すように、スプリッタブレードの周方向位置を10%負圧面側に移動させた場合、スプリッタブレード間隔は、一方は従来の50%から40%に2割狭くなるため、周波数が2割高くなる。また、他方は従来の50%から60%に2割広がるため、周波数は2割低下する。結果的には、位相がずれることでピーク値がaからbに低減(図21(B))する。
【0043】
(第2実施形態)
次に、図7〜10を参照して、第2実施形態を説明する。
第2実施形態は、第1実施形態に加えてさらに、スプリッタブレード7の前縁7aのハブ側を前後のフルブレード5F、5Rの周方向等間隔位置から後側フルブレード5Rの正圧面Sa側に寄せて配置することに特徴がある。
【0044】
図7に示すように、スプリッタブレード7の前縁7aのシュラウド側を前側フルブレード5Fの負圧面Sb側に寄って位置し、さらに、図8に示すように前縁7aのハブ側を後側フルブレード5Rの正圧面Sa側に偏らせている。正圧面Sa側および負圧面Sb側への偏り量はそれぞれ10%として等しく設定されている。この偏り量は前述したように、予め、数値計算または試験によって、大流量時における偏り量として設定される。
【0045】
図7、8、9のように後縁7b側においては、シュラウド側およびハブ側共に偏らせることはなく、前後のフルブレード5F、5Rの中間部に設置されている。図9の前縁形状に示すように、スプリッタブレード7の前縁7aの部分ではシュラウド側とハブ側とをそれぞれ反対方向に同量偏らせているため、スプリッタブレード7によって分割される流路11、13の夫々のスロート幅の不均一を解消して前縁7a部分の流量配分を均一にするように作用する。
従って、流路11、13の入口部分の断面積の不均一によって分割された流路に流量差が生じることによる性能低下が防止される。
【0046】
(第3実施形態)
次に、図11〜14を参照して、第3実施形態を説明する。
第3実施形態は、第2実施形態に加えてさらに、スプリッタブレード7の後縁7bのシュラウド側を前後のフルブレード5F、5Rの周方向等間隔位置から前側フルブレード5Fの負圧面Sb側に寄せて配置することに特徴がある。
【0047】
図11に示すように、スプリッタブレード7の後縁7bのシュラウド側を前側フルブレード5Fの負圧面Sb側に寄って位置し、さらに、ハブ側は図12に示すように前記第2実施形態と同様に前縁7aのみを後側フルブレード5Rの正圧面Sa側に偏らせて、シュラウド側は前後のフルブレード5F、5Rの周方向等間隔に位置している。正圧面Sa側および負圧面Sb側への偏り量は前記第2実施形態と同様にそれぞれ10%として等しく設定されている。
【0048】
図11、12、14のように後縁7b側においては、シュラウド側のみを前側フルブレード5Fの負圧面Sb側に寄って偏らせている。
このように構成することによって、スプリッタブレード7の前縁7aの部分ではシュラウド側とハブ側とをそれぞれ反対方向に同量偏らせているため、スプリッタブレード7によって分割される流路11、13のスロート幅の不均一を解消して前縁部分の流量配分を均一にするように作用する。
さらに、スプリッタブレード7によって分割される流路11、13の前縁部分と後縁部分との前後の分布に偏りが生じにくく、前縁から後縁にかけての流速の不均一が生じにくく、分割されたそれぞれの流路11、13における流速の増減速がなく流速を均一にでき、圧縮機の性能低下を防止できる。
【0049】
(第4実施形態)
次に、図15〜18を参照して、第4実施形態を説明する。
第4実施形態は、第3実施形態に加えてさらに、スプリッタブレード7の後縁7bのハブ側を前後のフルブレード5F、5Rの周方向等間隔位置から後側フルブレード5Rの正圧面Sa側に寄せて配置することに特徴がある。
【0050】
図15のように、シュラウド側の前縁7aから後縁7bまでを10%、前側フルブレード5Fの負圧面Sb側に偏らせ、さらに、図16に示すように、ハブ側においても前縁7aから後縁7bまでを10%、後側フルブレード5Rの正圧面Sa側に偏らせている。
【0051】
このように構成することによって、前記第3実施形態で説明したように、スプリッタブレード7の前縁7aの部分ではシュラウド側とハブ側とをそれぞれ反対方向に同量偏らせているため、スプリッタブレード7によって分割される流路11、13のスロート幅の不均一を解消して前縁部分の流量配分を均一にするように作用する。
さらに、第4実施形態においてはスプリッタブレード7の後縁7bの部分でもシュラウド側とハブ側とをそれぞれ反対方向に同量偏らせているため、スプリッタブレード7によって分割される流路11、13での流量配分の均一性が一層効果的に得られる。
【0052】
また、前記第3実施形態ではシュラウド側だけスプリッタブレード7を前縁7aから後縁7bまでを前側フルブレード5Fの負圧面Sb側に偏らせたが、第4実施形態においては、それに加えて、ハブ側も前縁7aから後縁7bまで後側フルブレード5Rの正圧面Sa側に偏らせたため、スプリッタブレード7によって分割される流路11、13の前縁から後縁への前後の分布に偏りが生じにくく、前縁から後縁にかけての流速の不均一が一層生じにくくなり、分割されたそれぞれの流路11、13における流速の増減速がなく、流速を、前記第3より一層均一化でき、圧縮機の性能低下を防止できる。
【0053】
(第5実施形態)
次に、図19、20を参照して、第5実施形態を説明する。
この第5実施形態は、第4実施形態におけるスプリッタブレード7の前縁7aのシュラウド側において流体流れに対向する傾斜角度(迎角度)を、スプリッタブレード7の前縁7aに対応する前側フルブレード5Fまたは後側フルブレート5Rの傾斜角度より増大させて翼端漏れ渦の流れ方向に適合させた方向に設定されている。
【0054】
図19に示すように、第5実施形態はスプリッタブレード7の前縁7aのシュラウド側の傾斜角度の設定にだけ適用される。その他ハブ側については前側または後側のフルブレード5F、5Rの対応する傾斜角度と同様の角度に設定されている。
図19のように、スプリッタブレード7の前縁7aのシュラウド側の迎角度は、対応する後側フルブレード5Rの傾斜角度βよりΔβ分大きく設定して、翼端漏れ流れWへ適合させる迎い角度に設定できる。
【0055】
すなわち、スプリッタブレード7の先端近傍のみにおいて局所的にスプリッタブレード7の前縁7aの迎角度を変化させて流体流れに適合せさるので、前側または後側フルブレード5F、5Rのシュラウド側の同一翼高さ位置での傾斜角度βと同等に設定するものに比べて、高効率と、特性改善効果を簡単にかつ効果的に得られる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、流体の入口部から出口部にかけて互いに隣り合わせて設けられるフルブレードと、該フルブレードの間に流路の途中から出口部にかけて設けられるスプリッタブレードとを備えた遠心圧縮機の羽根車において、フルブレードの前縁の先端部からの翼端漏れ渦に対するスプリッタブレードの前縁の干渉を広い運転範囲において回避し、高圧力比、高効率化を達成できるので、遠心圧縮機の羽根車に用いることに適している。
【符号の説明】
【0057】
1 羽根車(インペラ)
3 ハブ
5 フルブレード
5a フルブレードの前縁
5b フルブレードの後縁
5F 前側フルブレード
5R 後側フルブレード
7 スプリッタブレード
7a スプリッタブレードの前縁
7b スプリッタブレードの後縁
9、11、13 流路
B 前側フルブレードの先端隙間
F 流路を流れる流体の流れ方向
M 偏流
W 翼端漏れ流れ
Sa フルブレードの正圧面
Sb フルブレードの負圧面
β スプリッタブレードの前縁の傾斜角度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブ面上に流体の入口部から出口部にかけて周方向に複数枚を均等間隔に立設されたフルブレードと、互いに隣り合わせて設けられた前記フルブレードの間に形成される流路の途中から出口部にかけて設けられるスプリッタブレードとを備える遠心圧縮機の羽根車において、
前記遠心圧縮機は前記フルブレード先端とシュラウドとの間に翼端隙間が形成され、該翼端隙間から前記スプリッタブレードの前縁部に向かって発生する翼端漏れ渦に対して、大流量時に生成される前記翼端漏れ渦が前記スプリッタブレードの前縁部を乗り越えるように、若しくは前記翼端漏れ渦の方向に一致するように前記スプリッタブレードの前縁部のシュラウド側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの負圧面側に寄せて配置したことを特徴とする遠心圧縮機の羽根車。
【請求項2】
前記スプリッタブレードの前縁部のハブ側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの正圧面側に寄せて配置したことを特徴とする請求項1記載の遠心圧縮機の羽根車。
【請求項3】
前記スプリッタブレードの後縁部のシュラウド側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの負圧面側に寄せて配置したことを特徴とする請求項2記載の遠心圧縮機の羽根車。
【請求項4】
前記スプリッタブレードの後縁部のハブ側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの正圧面側に寄せて配置したことを特徴とする請求項3記載の遠心圧縮機の羽根車。
【請求項5】
前記スプリッタブレードの前縁の流体流れに対向する傾斜角度を、前記スプリッタブレードの前縁に対応するフルブレードの傾斜角度より増大させて、前記翼端漏れ渦の流れ方向に適合させた方向に設定されることを特徴とする請求項1記載の遠心圧縮機の羽根車。
【請求項1】
ハブ面上に流体の入口部から出口部にかけて周方向に複数枚を均等間隔に立設されたフルブレードと、互いに隣り合わせて設けられた前記フルブレードの間に形成される流路の途中から出口部にかけて設けられるスプリッタブレードとを備える遠心圧縮機の羽根車において、
前記遠心圧縮機は前記フルブレード先端とシュラウドとの間に翼端隙間が形成され、該翼端隙間から前記スプリッタブレードの前縁部に向かって発生する翼端漏れ渦に対して、大流量時に生成される前記翼端漏れ渦が前記スプリッタブレードの前縁部を乗り越えるように、若しくは前記翼端漏れ渦の方向に一致するように前記スプリッタブレードの前縁部のシュラウド側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの負圧面側に寄せて配置したことを特徴とする遠心圧縮機の羽根車。
【請求項2】
前記スプリッタブレードの前縁部のハブ側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの正圧面側に寄せて配置したことを特徴とする請求項1記載の遠心圧縮機の羽根車。
【請求項3】
前記スプリッタブレードの後縁部のシュラウド側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの負圧面側に寄せて配置したことを特徴とする請求項2記載の遠心圧縮機の羽根車。
【請求項4】
前記スプリッタブレードの後縁部のハブ側をフルブレードの周方向等間隔位置からフルブレードの正圧面側に寄せて配置したことを特徴とする請求項3記載の遠心圧縮機の羽根車。
【請求項5】
前記スプリッタブレードの前縁の流体流れに対向する傾斜角度を、前記スプリッタブレードの前縁に対応するフルブレードの傾斜角度より増大させて、前記翼端漏れ渦の流れ方向に適合させた方向に設定されることを特徴とする請求項1記載の遠心圧縮機の羽根車。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2012−127217(P2012−127217A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277281(P2010−277281)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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