説明

遠心機用ロ−タ及び遠心機

【課題】
本発明は、医学、薬学、遺伝子工学等の分野で使用されている遠心機のロ−タに関して、ロータ固有の識別情報を確保する手段に関してである。
【解決手段】
上記目的は、試料を入れた試料容器を保持するロータボディと、前記ロータボディに識別用の複数の磁性体を設けた遠心機用ロータにおいて、前記磁性体を外殻に収容することによって達成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学、薬学、遺伝子工学等の分野で使用されている遠心機及び遠心機のロ−タに関し、個々を識別する機能を安価に構成する構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生物試料等を分離するための遠心分離機においては、試料保持容器である回転体(以下ロータと称す)を交換して使用するため、ロータの着脱作業は頻繁に行われることが多い。このため、ロータと駆動装置との結合は簡便なほど使用者の使い勝手が良いことになる。この簡便性を実現するにはネジによる締結等を実施せず、容易に着脱を可能とする必要がある。また、回転速度が40,000rpm以上の遠心分離機においては、高速回転時に非常に大きな応力が発生しているため、個々のロータ毎に使用可能な最高回転速度を制限する必要がある。最高回転速度の制限をするには個々のロータを識別する必要があり、識別手段は様々な方法が提案されている。図6は、ロータを識別する代表的な機能を示した図である。図6の機能は、ロータの底面に複数個の識別子(磁石)を設置し、遠心機側には識別子の磁気を検出するためのセンサーを設けて回転中の識別子の位置を検出する構造をとっている。検出された識別子の位置信号はマイクロプロセッサーを介して演算され、記憶装置に保持されている個々のロータの識別データとの対比を行い、最高回転速度が制限される。
【0003】
ロータ底面に設ける識別子(磁石)にはサマリウム−コバルトやネオジウム磁石等に代表される希土類磁石や、アルニコ磁石等が使用されている。サマリウム−コバルトやネオジウム磁石等の希土類磁石は強磁性で且つ安価であり、汎用性のある素材であるが、焼結で製造されるために高い寸法精度が要求される圧入部に使用することは困難である。このため、磁石を固定するには接着剤を用いる必要があった。また寸法精度を確保する目的で圧入公差範囲のものを選択して嵌合させても、素材の機械強度が十分ではないため、圧入時に磁石に割れや欠けが発生する問題があった。
【0004】
一方、アルニコ磁石は鋳造で製造されるため鋳造後の機械加工が可能であるが、圧入公差に仕上るには研磨工程が必要であり、安価に製造することが難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-156245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の遠心機用ロータにおいて、識別用の磁性体(磁石)に希土類磁石を使用する場合、磁石の外径よりも僅かに大きな内径を有する穴をロータボディに設けて、磁石の外周を接着剤で固定する方法が用いられていた。この方法はロータの最高回転速度が20,000rpm程度であれば、接着剤の剥れに関する問題はないが、より高速回転で回転した場合は剥れが生じる恐れがあった。
【0007】
また、磁石の外径をロータボディに設けた穴より僅かに大きくして、ロータボディの穴に磁石を圧入する場合には、磁石の外径を機械加工(研磨)をする必要があり、コスト高になっていた。
【0008】
さらに、磁石が直接ロータボディの表面に剥き出しとなる配置であるため、磁石の表面が錆びたり、磁力が弱まる問題があった。
本発明の目的は、上記した問題を解決し、識別用の磁力を確保しながら、ロータの操作性を損なうことなく使い勝手の良い遠心機用ロータおよび、遠心機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、試料を入れた試料容器を保持するロータボディと、前記ロータボディに識別用の磁性体を設けた遠心機用ロータにおいて、前記磁性体をケースに収容し、ケースを圧入することによって達成される。
【0010】
さらに、前記ケースは、一端が開放された円筒状の容器にすることによって達成される。
さらに、前記ケースは、前記ロータボディを構成する素材と同等以下の比重で且つ磁性を示さない素材で製作することによって達成される。
さらに、試料を入れた試料容器を保持するロータボディと、前記ロータボディに識別用の磁性体を設けた遠心機用ロータと、該ロータを回転駆動する駆動装置と、前記ロータを収納するロータ室と、該ロータ室上部に開閉可能に配置されるドアと、前記駆動装置に該ロータの前記磁性体を検出する検出部とを有する遠心機において、前記磁性体をケースに収容し、ケースをロータボディに圧入することによって達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、識別用の磁力を確保しながらロータの操作性を損なうことなく使い勝手の良い製品を安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例のロータの正面半断面図
【図2】本発明の実施例の第1図の部分拡大断面図
【図3】本発明の実施例の部品の正面断面図
【図4】本発明の実施例の遠心機の側面断面図
【図5】従来技術の実施例の部分拡大断面図
【図6】従来技術の実施例の部分拡大断面図
【図7】従来技術の実施例の制御ブロック図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明となる遠心機用ロータ及び遠心機の実施の形態について以下図を用いて説明する。
まず、本発明となる遠心機について説明する。図4は遠心機用ロータを遠心機に実装した場合の側面断面図である。遠心機30は駆動装置となるモータ34、ロータ室33を備え、モータ34はモータ34の振動等を吸収する防振ゴム等から成るモータ支持部(ダンパー)36により遠心機30のフレーム39の一部を形成する仕切板31に固定されている。
【0014】
モータ34の上部はロータ室33に突き出しており、モータ34の駆動軸35には本発明となるロータ1が装着されている。ロータ室33の上部には、ドア32が設置されており、ロータ1はドア32を破線の状態まで開けてロータ室33の上方から着脱される。
【0015】
また、ロータ室33に突き出したモータ34には磁性体の位置を検出する磁気センサ37aがセンサユニット37に備えられている。なお、遠心機30には、図6に示すように、磁気センサ37の信号を受けとり、遠心機全体を制御する制御部38及び演算部38a、記憶装置38bが遠心機30内に備えられている。
【0016】
磁気センサ37a付近をロータ1に取付けられた磁性体(磁石)が通過すると、磁気センサ37aから制御部38に信号が送信される。この信号を元に制御部38は記憶装置38bに記憶されているロータ1の許容最高回転速度や、現在の回転速度を演算部38aで算出し、さらに、許容最高回転速度及び図示されていない操作部から入力された設定回転速度を超えないように制御している。
【0017】
図1は本発明の実施例となる遠心機用ロータの右側半分の断面図(実際は中心軸100を中心に左右対象の形状をしている。)である。図2は図1に示したロータ1の部分拡大断面図である。
図1に示すように、ロ−タ1は中心部にモータ34の駆動軸35と締結するためのカップリング部3aを有する略円錐形状をしたロータボディ3と、ロータボディ3の上部に取付けられるカバー2とを有する。
ロータボディ3は、カバー2を取付けるためのネジ部3cを有し、左右対称に円筒状の試料体保持部3bを複数有している。この試料体保持部3bには、遠心分離する試料の入った試験管などの試料保持容器が挿入される。また図2に示すように、ロータボディ3の底面にはロータ1を識別するための磁石5がケース6に内包されて複数個圧入されている。
【0018】
従来構造の場合は、図5に示すようにロータボディ53の底面に加工された穴57に磁石5を直接圧入するか、磁石5の外径より僅かに大きくなるように穴57の内径を加工して、接着剤等を使用して磁石5を接着固定していた。このため、ロータ51が回転するとロータボディ53の穴57内部で磁石5に遠心荷重が加わり、接着剤にせん断する力が加わる。接着剤のせん断強度内であれば、問題は発生しないが、接着剤の強度を超える遠心荷重が加わるような回転速度でロータ51を運転した場合は、接着剤が剥がれて磁石5が脱落する恐れがある。また、磁石5が表面に露出しているため、腐食性の試料等が付着すると錆が発生しやすい状態になってしまう。
【0019】
本発明の構造の場合は、図1および図2に示すようにロータボディ3の穴7に磁石5を挿入したケース6を圧入しロータボディ3に取付ける。このため、ケース6と穴7の圧入代を適正に保てば遠心荷重により磁石5が剥がれる現象は発生しなくなる。これにより、サマリウム−コバルトやネオジウム磁石等の希土類磁石が使用することができる。
【0020】
また、図3に示すようにケース6は、一端に閉塞面6aを設け、その対面側は開放端にした円筒部6bで形成すれば、ロータボディ3に圧入した後は磁石5は外気と直接接触しなくなるため、磁石5に腐食性の試料等が付着することはないため、錆を防止することができる。この時、ケース6の内径は磁石5の外径よりも僅かに大きくなるように設定する。ケース6を穴7に圧入するとケース6の円筒部6bの径が縮小し、ケース6の円筒部6bにより磁石5が拘束される。なお、閉塞面6aの厚みtは磁石5の発する磁力線をできるだけ遮らないように強度が許す限り薄く設定することが望ましい。
【0021】
さらに、ケース6を、ロータボディ3を構成する素材と同等の比重又はそれ以下の比重の素材で構成すれば、ロータボディ3に加工された穴7内部の応力を低減することが可能となる。
例えば、磁石5の大きさが外径4.0mm×長さ5.0mmの円柱形状で構成されている場合、ケース6にアルミニウム合金(比重2.8)を使用して、磁石5(比重8.0)を外径2.0mm×長さ4.0mmの大きさでケース6に内包するように構成すると、穴7に負荷される遠心荷重は従来形状で構成した場合の約50%に軽減することが可能となる。ここで、上記の構成とする場合、ケース6に強磁性体を用いると内包する磁石5の磁力線が外部に到達しなくなるため不適である。
例ではアルミニウム合金を用いているが、磁性を示さない素材であれば高分子材料等を用いても同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0022】
1 ロータ、2 カバー、2a ネジ部、3 ロータボディ、3a カップリング部、
3b 試料体保持部、3c ネジ部、5 磁石、6 外殻、6a 閉塞面、6b 内径部、7 穴、
30 遠心機、31 仕切板、32 ドア、33 ロータ室、34 駆動装置、35 駆動軸、
36 モータ支持部材、37 磁気センサ、38 制御部、38a 演算部、38b 記憶装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料容器を保持するロータボディと、前記ロータボディに識別用の磁性体を設けた遠心機用ロータにおいて、前記磁性体をケースに収容し、前記ケースを前記ロータボディに取付けたことを特徴とする遠心機用ロータ。
【請求項2】
前記ケースは、一端が開放された円筒状の容器であることを特徴とする請求項1記載の遠心機用ロータ。
【請求項3】
前記外殻は、前記ロータボディを構成する素材と同等以下の比重で且つ磁性を示さない素材で製作されたことを特徴とする請求項1及び2記載の遠心機用ロータ。
【請求項4】
試料容器を保持するロータボディと、前記ロータボディに識別用の磁性体を設けた遠心機用ロータと、該ロータを回転駆動する駆動装置と、前記ロータを収納するロータ室と、該ロータ室上部に開閉可能に配置されるドアと、前記駆動装置に該ロータの前記磁性体を検出する検出部と、検出した磁力を信号に変換して記憶装置内の情報と比較検証する演算部を有する遠心機において、前記磁性体をケースに収容し、前記ケースを前記ロータボディに取付けたことを特徴とする遠心機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−221203(P2010−221203A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74737(P2009−74737)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】