説明

遠赤外線放射複合材料及びその製造方法

【課題】二酸化チタンを含有し、遠赤外線放射材料の遠赤外線放射率より優れた放射率を有する遠赤外線放射複合材料、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の遠赤外線放射複合材料は、遠赤外線放射材料と、チタンアルコキシドが加水分解し、その後、ゲル化して生成した二酸化チタンとを含有する。また、本発明の遠赤外線放射複合材料の製造方法は、遠赤外線放射材料、チタンアルコキシド及び有機溶媒を混合し、チタンアルコキシドを加水分解させ、その後、生成したゲルを150℃以下で乾燥させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠赤外線放射複合材料及びその製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、遠赤外線放射材料と、特定の方法により生成させた二酸化チタンとを含有し、遠赤外線放射材料の遠赤外線放射率より優れた放射率を有する遠赤外線放射複合材料、及びゾルゲル法により生成させた二酸化チタンを含有し、優れた遠赤外線放射率を有する遠赤外線放射複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、遠赤外線放射材料として、アルミナ、ジルコニア、シリカ、マグネシア、チタニア等のセラミック、2種以上のセラミックの混合物、及び天然鉱物などが用いられている。遠赤外線は、ヒーター等の高温で遠赤外線を放射する用途の他、常温、又はこれを少し上回る比較的低温で人体に照射することにより、血行が促進され、温熱作用が発現されることも知られている。また、医療作用、健康促進等を目的として用いられることもあり、動植物の生育を促進する作用を有するともいわれている(例えば、特許文献1参照。)。このように、遠赤外線放射材料は各種の用途において用いられており、例えば、遠赤外線放射材料を樹脂、塗料、紙等に混合し、又は樹脂シート、不織布、織布等にコーティングし、得られた複合材料を用いて各種の応用商品が開発されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−171169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように各種の遠赤外線放射材料が多くの用途において用いられている。しかし、遠赤外線放射材料が本来有する放射率を更に向上させることについては十分な検討がなされておらず、より高い放射率を有する遠赤外線放射材料の開発が必要とされている。
本発明は、上記の従来の状況に鑑みてなされたものであり、遠赤外線放射材料と、特定の方法により生成させた二酸化チタンとを含有し、遠赤外線放射材料の遠赤外線放射率より優れた放射率を有する遠赤外線放射複合材料(以下、複合材料ということもある。)、及びゾルゲル法により生成させた二酸化チタンを含有し、優れた遠赤外線放射率を有する複合材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下のとおりである。
1.遠赤外線放射材料と二酸化チタンとを含有する遠赤外線放射複合材料であって、上記二酸化チタンは、チタンアルコキシドが加水分解し、その後、ゲル化して生成した二酸化チタンであることを特徴とする遠赤外線放射複合材料。
2.遠赤外線放射材料、チタンアルコキシド及び有機溶媒が混合され、該チタンアルコキシドが加水分解し、その後、生成したゲルが150℃以下で乾燥されてなり、該遠赤外線放射材料及び二酸化チタンが含有されていることを特徴とする遠赤外線放射複合材料
3.上記乾燥の後、更に200〜350℃で加熱されてなる上記2.に記載の遠赤外線放射複合材料。
4.上記遠赤外線放射材料が、黒鉛珪石及び金属ゲルマニウムのうちの少なくとも1種である上記1.乃至3.のうちのいずれか1項に記載の遠赤外線放射複合材料。
5.上記遠赤外線放射材料と上記二酸化チタンとの合計を100質量%とした場合に、該二酸化チタンは10〜30質量%である上記1.乃至4.のうちのいずれか1項に記載の遠赤外線放射複合材料。
6.比表面積が30〜120m/gである上記1.乃至5.のうちのいずれか1項に記載の遠赤外線放射複合材料。
7.上記1.乃至6.のうちのいずれか1項に記載の遠赤外線放射複合材料の製造方法であって、遠赤外線放射材料、チタンアルコキシド及び有機溶媒を混合し、該チタンアルコキシドを加水分解させ、その後、生成したゲルを150℃以下で乾燥させることを特徴とする遠赤外線放射複合材料の製造方法。
8.上記遠赤外線放射材料が、黒鉛珪石及び金属ゲルマニウムのうちの少なくとも1種である上記6.に記載の遠赤外線放射複合材料の製造方法。
9.上記遠赤外線放射材料と上記チタンアルコキシドとの合計を100質量%とした場合に、該チタンアルコキシドは10〜80質量%である上記7.又は8.に記載の遠赤外線放射複合材料の製造方法。
10.上記有機溶媒が炭素数1〜3のアルコールであり、上記加水分解は塩酸の存在下になされ、上記乾燥の温度は40〜120℃である上記7.乃至9.のうちのいずれか1項に記載の遠赤外線放射複合材料の製造方法。
11.上記乾燥の後、更に200〜350℃で加熱する上記7.乃至10.のうちのいずれか1項に記載の遠赤外線放射複合材料の製造方法。
12.上記遠赤外線放射材料の比表面積が2〜8m/gである上記7.乃至11.のうちのいずれか1項に記載の遠赤外線放射複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
遠赤外線放射材料と二酸化チタンとを含有する本発明の複合材料、及び遠赤外線放射材料、チタンアルコキシド及び有機溶媒を混合して生成させたゾルを用いてなる他の本発明の複合材料によれば、特定の方法により生成した二酸化チタンが含有されているため、遠赤外線放射材料が本来有する遠赤外線放射率を向上させることができる。
また、他の本発明の複合材料であって、乾燥の後、更に200〜350℃で加熱されてなる場合は、有機溶媒ばかりでなく、有機バインダ等の他の有機物も十分に除去された複合材料とすることができる。
更に、遠赤外線放射材料が、黒鉛珪石及び金属ゲルマニウムのうちの少なくとも1種である場合は、これらの比較的低温で放射率が低下する遠赤外線放射材料であっても、ゾルゲル法で生成した二酸化チタンを含有し、且つ加熱温度を高々350℃程度にとどめたときは、その放射率が損なわれることなく、却って向上し、優れた放射率を有する複合材料とすることができる。
また、遠赤外線放射材料と二酸化チタンとの合計を100質量%とした場合に、二酸化チタンが10〜30質量%である場合は、より優れた放射率を有する複合材料とすることができる。
更に、複合材料の比表面積が30〜120m/gである場合は、放射率を十分に向上させることができる。
本発明の遠赤外線放射材料の製造方法によれば、遠赤外線放射材料とチタンアルコキシドとを混合し、生成したゲルを乾燥させるという特定の方法により、二酸化チタンを含有し、遠赤外線放射材料の本来の放射率より優れた放射率を有する複合材料を容易に製造することができる。
また、遠赤外線放射材料が、黒鉛珪石及び金属ゲルマニウムのうちの少なくとも1種である場合は、これらの比較的低温で放射率が低下する遠赤外線放射材料を含有するゾルを用いて低温で二酸化チタンを生成させることができるため、遠赤外線放射材料の放射率が低下せず、優れた放射率を有する複合材料を容易に製造することができる。
更に、遠赤外線放射材料とチタンアルコキシドとの合計を100質量%とした場合に、チタンアルコキシドが10〜80質量%である場合は、所定量の二酸化チタンを含有し、優れた放射率を有する複合材料を容易に製造することができる。
また、有機溶媒が炭素数1〜3のアルコールであり、加水分解は塩酸の存在下になされ、乾燥の温度が40〜120℃である場合は、容易に且つ効率よく優れた放射率を有する複合材料を製造することができる。
更に、乾燥の後、更に200〜350℃で加熱する場合は、有機溶媒ばかりでなく、有機バインダ等の他の有機物も十分に除去された複合材料を容易に製造することができる。
また、遠赤外線放射材料の比表面積が2〜8m/gである場合は、適度な比表面積を有し、優れた放射率を有する複合材料を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳しく説明する。
[1]遠赤外線放射複合材料
本発明の遠赤外線放射複合材料は、遠赤外線放射材料と二酸化チタンとを含有し、この二酸化チタンは、チタンアルコキシドが加水分解し、その後、ゲル化して生成した二酸化チタンであることを特徴とする。
また、他の本発明の遠赤外線放射複合材料は、遠赤外線放射材料、チタンアルコキシド及び有機溶媒が混合され、該チタンアルコキシドが加水分解し、その後、生成したゲルが150℃以下で乾燥されてなり、該遠赤外線放射材料及び二酸化チタンが含有されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の遠赤外線放射複合材料には、遠赤外線放射材料と、ゾルゲル法で生成した二酸化チタンとが含有されている。遠赤外線放射材料と二酸化チタンとは単に混合された形態でもよく、特定の複合構造を有していてもよいが、特定の複合構造を有していることが好ましい。この特定の複合構造を有している複合材料としては、例えば、他の本発明のように、少なくとも遠赤外線放射材料とチタンアルコキシドとが混合されて生成したゲルを用いてなる複合材料が挙げられる。この他の本発明の複合材料では、遠赤外線放射材料の粒子の表面に、多数の二酸化チタンの粒子が付着してなる形態とすることができる。これによって、遠赤外線放射材料が本来有する放射率をより向上させることができる。また、本発明の複合材料及び他の本発明の複合材料では、二酸化チタンによる光感応性、特に可視光感応性を併せて有する遠赤外線放射複合材料とすることもできる。
【0009】
本発明の複合材料及び他の本発明の複合材料が、上記のように、遠赤外線放射材料粒子の表面に、多数の二酸化チタン粒子が付着してなる形態である場合、その比表面積は30〜120m/gと大きく、特に50〜100m/gとすることができる。また、この複合材料の比表面積は、遠赤外線放射材料粒子の比表面積の5〜25倍、特に10〜20倍とすることができる。このように比表面積が大きいのは、複合材料の表面に付着した二酸化チタン粒子により形成された微細な凹凸によるものであるが、このような形態の複合材料であることにより、複合材料の遠赤外線放射率が向上するものと推定される。
【0010】
上記「遠赤外線放射材料」は特に限定されず、例えば、黒鉛珪石(ブラックシリカ)、大谷石、甦生石、天降石、電気石(トルマリン)等の遠赤外線放射鉱物、金属ゲルマニウム等の金属、アルミナ、ムライト、コージェライト、ジルコニア等の酸化物セラミックス、窒化珪素、窒化硼素、窒化アルミニウム等の窒化物セラミックス、炭化珪素等の炭化物セラミックス、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄等のその他の金属酸化物などが挙げられる。これらの遠赤外線放射材料は1種のみ含有されていてもよいし、2種以上が含有されていてもよい。
【0011】
上記「二酸化チタン」は、チタンアルコキシドが加水分解して生成したゾルが、ゲル化して生成する二酸化チタンである。二酸化チタンはアナターゼ型でもよく、ルチル型でもよい。この二酸化チタンは、遠赤外線放射材料の放射率を向上させる作用を有するとともに、光感応性、特に可視光感応性を有しており、この可視光感応性は、少なくとも400nm以上の波長域、通常、392nm以上の波長域において発現される。この光感応性を特に必要とする場合は、二酸化チタンはアナターゼ型であることが好ましい。また、この二酸化チタンはゾルゲル法により生成するものであり、本発明及び他の本発明の複合材料では、通常、生成したゲルが150℃以下で乾燥されることを除いて、それ以上の高温での加熱は特に必要とはされない。そのため、400℃以上、特に500℃以上、更に600℃以上の高温に曝されたときに放射率が低下する遠赤外線放射材料を用いても何ら差し障りはない。即ち、黒鉛珪石、金属ゲルマニウム等の高温に曝されたときに放射率が低下する遠赤外線放射材料を、それらが本来有する放射率を低下させることなく用いることができる。
【0012】
生成したゲルは、上記のように150℃を越えて加熱する必要はないが、150℃以下で乾燥した後、更に200〜350℃、特に250〜350℃で加熱することもできる。この加熱により150℃以下の乾燥では除去することができない有機バイタンダを除去することができる。
尚、この200〜350℃での加熱では、黒鉛珪石、金属ゲルマニウム等の放射率が低下することはなく、二酸化チタンが有する光感応性のうちの紫外光感応性も低下することはないが、可視光感応性は損なわれてしまう。そのため、複合材料に特に可視光感応性が必要とされるときは、200〜350℃での加熱はしないことが好ましい。
【0013】
また、150℃以下での乾燥、及び200〜350℃での加熱の後、更に350℃を越える温度で加熱することもできる。更に、150℃以下での乾燥の後、更に350℃を越える高温で加熱することもできる。この加熱温度は特に限定されないが、350℃を越え、1200℃以下、特に400〜1000℃、更に600〜1000℃とすることができる。このように高温で加熱することで、二酸化チタンの焼成を促進することもできる。
尚、この高温での加熱、特に400℃以上での加熱では、黒鉛珪石、金属ゲルマニウム等は遠赤外線放射率が低下してしまうため、高温での加熱により放射率が低下しない遠赤外線放射材料を用いることが好ましい。
【0014】
遠赤外線放射複合材料における二酸化チタンの含有量は特に限定されないが、遠赤外線放射材料と二酸化チタンとの合計を100質量%とした場合に、10〜30質量%、特に13〜28質量%、更に15〜25質量%であることが好ましい。二酸化チタンの含有量が10〜30質量%であれば、遠赤外線放射複合材料の放射率が十分に向上する。また、遠赤外線放射性ばかりでなく、二酸化チタンが有する光感応性、特に可視光感応性を併せて有する遠赤外線放射複合材料とすることもできる。
【0015】
二酸化チタンを含有することにより発現される複合材料の光感応性、特に可視光感応性により、汚染物質を除去することができる。この汚染物質は、二酸化チタンと接触することにより分解(又は変質)するものであればよく、特に限定されない。例えば、(1)アンモニア、窒素酸化物、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、硫黄酸化物等、又は(2)環境ホルモン、メチレンブルー(この色の脱色作用)等が挙げられる。
【0016】
汚染物質は複合材料と接触させることにより除去することができる。この接触の方法は特に限定されないが、粒子状の複合材料と、汚染物質を含有する空気(汚染空気)又は水(汚染水)等とを接触させることができる。また、この複合材料を用いて所定形状に成形した成形体と接触させてもよく、他の材質からなる成形体の表面に複合材料からなる被膜を形成し、この被膜付き成形体と接触させてもよい。
【0017】
[2]遠赤外線放射複合材料の製造方法
本発明の遠赤外線放射複合材料の製造方法は、遠赤外線放射材料、チタンアルコキシド及び有機溶媒を混合し、該チタンアルコキシドを加水分解させ、その後、生成したゲルを150℃以下で乾燥させることを特徴とする。
【0018】
上記「混合」には、攪拌手段を有する各種の混合装置を用いることができる。遠赤外線放射複合材料は、この混合装置に、遠赤外線放射材料、チタンアルコキシド、有機溶媒及び必要に応じて他の成分を投入し、攪拌し、混合し、その後、有機溶媒等を除去することによって製造することができる。即ち、この攪拌、混合によって、チタンアルコキシドが加水分解されてゾルが生成し、更に攪拌、混合を継続することにより、ゾルがゲル化し、その後、生成したゲルを乾燥させ、必要に応じてより高温で更に加熱、焼成して、遠赤外線放射材料と二酸化チタンとを含有する複合材料を製造することができる。また、この製造方法では、特に、遠赤外線放射材料の粒子の表面に二酸化チタンの粒子が付着してなる複合材料とすることができる。
上記の遠赤外線放射材料については前記[1]における遠赤外線放射材料に係る記載をそのまま適用することができる。
また、遠赤外線放射材料の比表面積は特に限定されないが、2〜8m/g、特に3〜7m/gであることが好ましい。遠赤外線放射材料の比表面積が2〜8m/gであれば、前記[1]に記載された比表面積を有する複合材料を容易に製造することができ、遠赤外線放射率を十分に向上させることができる。
【0019】
上記「チタンアルコキシド」は、一般式〔Ti(OR)〕(Rはアルキル基である。)により表わされる化合物である。アルキル基は、通常、炭素数1〜8であり、炭素数1〜6、特に1〜4のアルキル基であることが好ましい。また、アルキル基は、直鎖状でもよく、分岐していてもよい。このアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。
【0020】
チタンアルコキシドとしては、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラ−iso−プロポキシド、チタンテトラ−n−ブトキシド等が挙げられる。これらのうちでは、入手が容易で、取り扱い易いという観点から、チタンテトラ−iso−プロポキシド、チタンテトラ−n−ブトキシドが好ましい。更に、加水分解により生成するアルコール分の除去が容易であるという観点からは、チタンテトラ−n−ブトキシドが好ましい。チタンアルコキシドは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
尚、アルキル基がブチル基であるときは、チタンアルコキシドの加水分解により生成するアルコール分(ブタノール)が分相するため、減圧下に留去する等の処理をすることなくアルコール含量の少ないゾルとすることができる。
【0021】
チタンアルコキシドの配合量は特に限定されない。遠赤外線放射材料とチタンアルコキシドとの合計を100質量%とした場合、チタンアルコキシドは10〜80質量%であることが好ましく、20〜70質量%であることがより好ましく、30〜65質量%であることが更に好ましく、40〜60質量%であることが特に好ましい。チタンアルコキシドの配合量が10〜80質量%であれば、所要量の二酸化チタンを生成させることができ、複合材料の遠赤外線放射率を十分に向上させることができる。
【0022】
上記「有機溶媒」は、チタンアルコキシドを溶解させることができ、且つゾルゲル反応を進行させることができる限り、特に限定されない。この有機溶媒としては、通常、アルコールが用いられる。このアルコールとしては、炭素数1〜3の低級アルコールであるエタノール、メタノール及びプロパノールが好ましい。また、この低級アルコールのうちでは水により溶解し易いものが好ましく、アルコールとしては、通常、エタノールが用いられる。有機溶媒の配合量は特に限定されないが、例えば、アルコールの場合、遠赤外線放射材料を100質量部としたときに、50〜200質量部、好ましくは70〜150質量部とすることができる。
【0023】
その他の成分としては、例えば、酸、有機バインダ、水、安定化剤、触媒活性向上剤等が挙げられる。
酸は特に限定されず、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸でもよく、蟻酸、しゅう酸等の有機酸でもよい。酸は1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。この酸としては、通常、揮散させることが容易な塩酸(塩化水素の水溶液)が用いられ、例えば、濃塩酸(市販品では約37.2質量%濃度の水溶液である。)を用いることができる。このように、有機溶媒はアルコールであり、且つ酸は塩酸であることが好ましい。また、有機溶媒はエタノールであり、且つ酸は塩酸であることがより好ましい。酸の配合量は特に限定されないが、遠赤外線放射材料を100質量部としたときに、2〜10質量部、好ましくは4〜8質量部とすることができる。
【0024】
有機バインダとしては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びアセチルセルロース等のセルロース類、ポリアクリル酸及びポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエチレングリコール、ポリ酢酸ビニル、クマロン樹脂及びクマロン−インデン樹脂等の高分子系結合剤を含有するものなどを用いることができる。これらの有機バインダは1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。この有機バインダの配合量は特に限定されないが、遠赤外線放射材料を100質量部としたときに、1〜6質量部、好ましくは2〜5質量部とすることができる。
【0025】
水はチタンアルコキシドの加水分解のために必要に応じて配合される。水の配合量は特に限定されないが、通常、チタンアルコキシドを100質量部とした場合に、0.1〜100質量部、好ましくは1〜20質量部とすることができる。
また、安定化剤も必要に応じて配合される。この安定化剤は特に限定されず、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルコールアミン類、アセチルアセトン等のケトン類などが挙げられる。安定化剤の配合量は特に限定されず、遠赤外線放射材料を100質量部としたときに、1〜10質量部、好ましくは3〜8質量部とすることができる。
更に、触媒活性向上剤も必要に応じて配合される。この触媒活性向上剤は特に限定されないが、通常、径が数nmの白金ナノ微粒子が用いられる。触媒活性向上剤の配合量は特に限定されず、生成する二酸化チタンの推定量を100質量%とした場合に、0.2〜0.8質量%とすることができる。
【0026】
上記の各々の成分を配合し、混合するときの温度及び攪拌時間は特に限定されないが、通常、室温(15〜35℃、特に20〜30℃)で15分以上であり、特に30分以上とすることが好ましい。また、加温して攪拌することもできるが、その温度は、通常、80℃以下であり、50℃以下(15℃以上)とすることが好ましい。更に、混合、攪拌時、即ち、加水分解時のpHは、加水分解が損なわれなければよく、特に限定されないが、通常、酸性側とする。このpHが低い程、複合材料に含有される二酸化チタンが安定したアナターゼ型結晶となるため好ましく、pHは5.5以下、特に5.0以下であることがより好ましい。尚、このpHは、通常、2.0以上、好ましくは3.0以上である。
【0027】
上記「乾燥温度」は、ゲルを乾燥させることができ、且つ遠赤外線放射率及び可視光感応性が損なわれない温度範囲であればよい。この乾燥温度は、150℃以下であり、好ましくは140℃以下、より好ましくは130℃以下であり、更に好ましくは120℃以下、特に好ましくは110℃以下である。この乾燥温度が150℃を越えると、可視光活性が低下するため好ましくない。また、この乾燥温度は15℃未満でもよいが、通常、15℃以上である。15℃未満では、常圧でゲルを十分に乾燥させることができないため好ましくない。
尚、減圧下に乾燥すれば、15℃未満の乾燥温度であってもゲルを十分に乾燥させることができる。また、減圧下に15℃以上で乾燥することもできる。更に、光感応性、乾燥及び二酸化チタンの結晶化の促進等を併せて考慮した場合、乾燥温度は、15〜140℃が好ましく、40〜120℃がより好ましく、60〜110℃が更に好ましい。
以上、複合材料の製造時に用いる成分及び乾燥温度を総体的に勘案した場合、ゾルゲル反応は、有機溶媒として炭素数1〜3のアルコールを使用して塩酸の存在下になされ、ゲルは40〜120℃で乾燥させることが特に好ましい。
【0028】
生成したゲルは、前記のように、乾燥の後、更に200〜350℃、特に250〜350℃で加熱することもできる。この加熱により150℃以下の乾燥では除去することができない有機バインダを除去することができる。この200〜350℃での加熱では、遠赤外線放射材料の放射率が低下することはないが、二酸化チタンが有する光感応性のうちの可視光感応性は損なわれてしまう。従って、複合材料に特に可視光感応性が必要とされるときは、200〜350℃での加熱はしないことが好ましいのは前記[1]において記載したとおりである。
【0029】
また、乾燥の後、200〜350℃で加熱し、更に350℃を越える高温で加熱することもでき、乾燥の後、更に350℃を越える高温で加熱することもできる。この加熱温度は特に限定されず、前記[1]において記載のとおりである。この高温での加熱により二酸化チタンの焼成を促進することもできる。一方、この高温での加熱、特に400℃以上での加熱では、黒鉛珪石、金属ゲルマニウム等は遠赤外線放射率が低下してしまう。従って、高温で加熱するときは放射率が低下しない遠赤外線放射材料を用いることが好ましい。
【0030】
複合材料には、他の金属元素が含有されていてもよい。この金属元素としては、例えば、Fe、Co、Ni等の遷移金属元素、Ag、Pt、Au等の貴金属元素、及びW等の金属元素の各々の単体又は化合物が挙げられる。これらの金属元素のうちではWが好ましい。このWの含有量は、二酸化チタン(TiO)を100質量部とした場合に、酸化タングステン(WO)に換算して0.01〜10質量部、特に0.1〜1質量部であることが好ましい。また、WとTiとの元素当量比(W/Ti)は、3.2×10−5〜0.038、特に3.4×10−4〜3.5×10−3であることが好ましい。この範囲の含有量であれば、二酸化チタンが有する光感応性、特に可視光感応を向上させることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
[1]遠赤外線放射複合材料の製造
実施例1
ビーカーに、エタノール100g、アセチルアセトン6g、チタンテトラ−iso−プロポキシド100g(0.35モル、TiO換算;28g)、塩酸(36質量%濃度の水溶液)6g、ポリエチレングリコール(重量平均分子量;200)6g及び黒鉛珪石100gを投入し、攪拌し、混合して、チタンテトラ−iso−プロポキシドを加水分解させ、チタンゾルを調製した。その後、攪拌を継続してゾルをゲル化させた。次いで、105℃で12時間乾燥し、遠赤外線放射複合材料を製造した。
【0032】
上記のようにして製造した複合材料を300℃で3時間加熱してポリエチレングリコールを除去した試料についてX線回折法により測定した。その結果、図1のように、アナターゼ型二酸化チタンの特性ピークが確認された。X線回折には、高出力型X線回折装置、RIGAKU社製、型式「RINT2500」を用いた。
【0033】
実施例2
黒鉛珪石に代えて電気石を用いた他は、実施例1と同様にして複合材料を製造した。
実施例3
黒鉛珪石に代えて市販の遠赤外線放射材料(長野セラミックス社製、商品名「黒体」)を用いた他は、実施例1と同様にして複合材料を製造した。
実施例4
黒鉛珪石に代えて市販の遠赤外線放射材料(日陶産業社製、グレード名「NO.91008」)を用いた他は、実施例1と同様にして複合材料を製造した。
【0034】
[2]遠赤外線放射率の測定
表1に記載の実験例1〜4及び比較実験例1〜5の各々の試料の遠赤外線放射率を測定した。各々の試料は、それぞれの複合材料又は遠赤外線放射材料とバインダとを等量(質量)湿式ポットミルに投入し、3時間、攪拌し、混合して調製した。また、放射率の測定は、ペースト状の試料をアルミナ板に塗布し、105℃で乾燥して作製した試験体を用いて実施した。
【0035】
表1に記載の実験例1では、実施例1の複合材料に銀系抗菌剤(東亞合成社製、商品名「ノバロン」)を3質量%配合し、300℃で3時間加熱してポリエチレングリコールを除去して試料を作製した。また、この試料を蛍光X線法により分析した結果(図2参照)、二酸化チタンの含有量は22質量%であった。蛍光X線分析には、シーケンシャル型蛍光X線分析装置、島津製作所製、型式「XRF−1700」を用いた。更に、表1に記載の比較実験例2では、上記の分析結果に基づき、75質量%の黒鉛珪石に、22質量%の市販の二酸化チタン(石原産業社製、商品名「ST−01」)と、3質量%の上記の銀系抗菌剤とを配合して試料を作製した。
尚、図3は黒鉛珪石そのものを蛍光X線法により分析したチャートである。図2の複合材料のチャートとの比較のため載せたものである。これら図2と図3とから、複合材料では、黒鉛珪石そのものと比べて、チタンの強度が極めて大きく、シリカの強度が低下していることが分かる。
【0036】
放射率の測定には、フーリエ変換赤外分光光度計(日本電子株式会社製、型式「JIR 5300」)を用いて45℃で測定した。また、装置をシャットダウンすることなく、且つ測定条件はまったく変更せず、すべての試料の測定を連続的に実施した。
結果を表1に併記する。
【0037】
【表1】

【0038】
表1の結果によれば、黒鉛珪石のみを用いた比較実験例2の放射率が76.7%であるのに対して、実施例1の複合材料を用いた実験例1では放射率は81.5%に向上している。一方、黒鉛珪石に市販の二酸化チタンを配合した比較実験例1では、放射率は73.3%であり、比較実験例2に比べても放射率が低下している。この放射率の低下がTiOの配合によるものか、抗菌剤の配合によるものか明らかではないが、実験例1でも抗菌剤が配合されていることを考慮すると、市販のTiOに比べて、本発明のゾルゲル法により生成した二酸化チタンが放射率の向上に大きく寄与していることが分かる。また、実験例2と、比較実験例2とを比べてみても同様に本発明のゾルゲル法により生成した二酸化チタンの作用、効果が顕著である。
【0039】
更に、実験例3と比較実験例3、及び実験例4と比較実験例4、をそれぞれ比較してみると、僅かではあるが放射率が向上している。このように僅かな向上であっても、遠赤外線放射材料に他の物質を配合したときは放射率が低下するのが通例であることを考えれば、本発明の複合材料の作用、効果が発現されているものであるといえる。
【0040】
[3]光感応性の評価
アルミナ板に両面粘着テープの一面を貼着し、両面粘着テープの他面に実施例1で製造した複合材料を付着させた。一方、透明なセルにメチレンブルーの1質量%濃度水溶液を入れ、その後、複合材料を付着させたアルミナ板からセルの大きさに合った寸法の試片を切り出し、この試片を上記の水溶液に投入した。次いで、試片から50cm離れた位置から市販のブラックライトの光を照射し、紫外光感応性を評価した。
具体的には、試験開始から24時間経過する毎に水溶液を目視で観察し、水溶液が無色透明になっていたときは、この無色透明になった水溶液を廃棄し、再度、上記のメチレンブルー水溶液を入れ、120時間経過まで同様にして評価した。その結果、24時間、48時間、72時間、96時間及び120時間経過後のいずれの時点においても、水溶液は無色透明となっており、複合材料が光感応性を有していることが裏付けられた。
【0041】
尚、本発明においては、上記の具体的な実施例に記載されたものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変形した実施例とすることができる。例えば、ゾルゲル法により複合材料を製造するときの遠赤外線放射材料、チタンアルコキシド、溶媒及び酸等の種類及びその配合量、水の配合量、安定剤の種類及び配合の有無等は、特に限定されず、種々のものを用いることができ、配合量も適宜調整することができる。また、ポリエチレングリコール等の有機バインダは配合しなくてもよい。この場合、乾燥時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実験例1における試料のX線回折のチャートである。
【図2】実験例1における試料の遠赤外線放射複合材料の蛍光X線回折のチャートである。
【図3】実施例で用いた黒鉛珪石の蛍光X線回折のチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠赤外線放射材料と二酸化チタンとを含有する遠赤外線放射複合材料であって、
上記二酸化チタンは、チタンアルコキシドが加水分解し、その後、ゲル化して生成した二酸化チタンであることを特徴とする遠赤外線放射複合材料。
【請求項2】
遠赤外線放射材料、チタンアルコキシド及び有機溶媒が混合され、該チタンアルコキシドが加水分解し、その後、生成したゲルが150℃以下で乾燥されてなり、該遠赤外線放射材料及び二酸化チタンが含有されていることを特徴とする遠赤外線放射複合材料。
【請求項3】
上記乾燥の後、更に200〜350℃で加熱されてなる請求項2に記載の遠赤外線放射複合材料。
【請求項4】
上記遠赤外線放射材料が、黒鉛珪石及び金属ゲルマニウムのうちの少なくとも1種である請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載の遠赤外線放射複合材料。
【請求項5】
上記遠赤外線放射材料と上記二酸化チタンとの合計を100質量%とした場合に、該二酸化チタンは10〜30質量%である請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の遠赤外線放射複合材料。
【請求項6】
比表面積が30〜120m/gである請求項1乃至5のうちのいずれか1項に記載の遠赤外線放射複合材料。
【請求項7】
請求項1乃至6のうちのいずれか1項に記載の遠赤外線放射複合材料の製造方法であって、
遠赤外線放射材料、チタンアルコキシド及び有機溶媒を混合し、該チタンアルコキシドを加水分解させ、その後、生成したゲルを150℃以下で乾燥させることを特徴とする遠赤外線放射複合材料の製造方法。
【請求項8】
上記遠赤外線放射材料が、黒鉛珪石及び金属ゲルマニウムのうちの少なくとも1種である請求項7に記載の遠赤外線放射複合材料の製造方法。
【請求項9】
上記遠赤外線放射材料と上記チタンアルコキシドとの合計を100質量%とした場合に、該チタンアルコキシドは10〜80質量%である請求項7又は8に記載の遠赤外線放射複合材料の製造方法。
【請求項10】
上記有機溶媒が炭素数1〜3のアルコールであり、上記加水分解は塩酸の存在下になされ、上記乾燥の温度は40〜120℃である請求項7乃至9のうちのいずれか1項に記載の遠赤外線放射複合材料の製造方法。
【請求項11】
上記乾燥の後、更に200〜350℃で加熱する請求項7乃至10のうちのいずれか1項に記載の遠赤外線放射複合材料の製造方法。
【請求項12】
上記遠赤外線放射材料の比表面積が2〜8m/gである請求項7乃至11のうちのいずれか1項に記載の遠赤外線放射複合材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−37697(P2008−37697A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−213907(P2006−213907)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(594044897)
【Fターム(参考)】