説明

遠隔診断装置

【課題】安定な通信が可能であって、遠隔地の診断医師等に、常に診断し易い連続画像を送ることができる遠隔診断装置を提供する。
【解決手段】被検査体を光学顕微鏡20で観察し、カメラ22を介して画像データを出力する観察機器12を有する。観察機器側端末14の画像通信部34は、動作状態情報Bnに基づいて符号化データの転送レートCnを決定する転送レート決定部36と、動作状態情報Bnに基づいて符号化データFnの画質を決定する画質決定部37とを備える。画像データAnを、画質決定部37が決定したデータ量に圧縮して、符号化データFnに変換する符号化部38と、転送レート決定部36が決定した転送レートCnに基づき、符号化データFnを診断側端末16へ通信回線を通じて出力する符号化データ送信部42とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、遠隔の観察機器から通信回線を通して取得した被検査体の画像情報に対して、診断を行うために画像情報の通信制御を行う遠隔診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、疾患の診断や原因(病因)の究明を目的として、手術または検査のために採取された臓器、組織、細胞などの被検査体を、光学顕微鏡等の観察機器を用いて観察し診断する病理診断が、医療の現場で重要な役割を果たしている。そして近年、病理専門医師が遠隔の地にあっても迅速に診断できるように、インターネット等の通信回線を用いた遠隔診断システムが種々提案され、実用化されている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されているように、被検体を観測する顕微鏡を有する観測装置と、この観測装置に通信回線を介して接続された遠隔装置とを備え、顕微鏡は遠隔地の観測者が通信回線を通じて操作し、顕微鏡の観測像を撮像した撮像画像を符号化して通信回線を通じて遠隔装置に伝送し、観測者側で受信した符号化データを復号化し、表示装置に復号化画像を表示する被検体遠隔観測システムがある。この被検体遠隔観測システムは、撮像要素(顕微鏡各部の設定)が調整中であるか否かを判定する判定手段が設けられ、調整中と判定されている期間では上記観測像を動画として符号化し、非調整中と判定されている期間では上記観測像を高精細の静止画像として符号化するものである。
【0004】
また、特許文献2に開示されているように、半導体集積回路等に電子ビームを照射して電位コントラスト分布を観測する電子ビームテスタの遠隔制御システムがある。この遠隔制御システムでは、遠隔地の解析者が通信回線を通じて電子ビームテスタを操作し、解析装置で観測された画像データを、所定のデータ量に圧縮して符号化し、通信回線を通じて所定のフレームレートで連続的に解析者側に転送し、解析者側で受信した符号化データを復号化し、表示装置に画像を表示する。このとき、符号化データの圧縮/転送条件は、操作目的と画像内容に応じて、あらかじめ設けられた圧縮/転送モード判定テーブルを用いて決定される。すなわち、符号化データの圧縮/転送条件は、電子ビームテスタの操作応答情報に基づき、符号化するときの操作応答状態に対応する圧縮/転送モードを判定テーブルの中からその都度選択し、圧縮/転送条件を自動的に切り替える動作が行われる。
【特許文献1】特開平10−274741号公報
【特許文献2】特開平8−331551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている被検体遠隔観測システムにあっては、顕微鏡の観測像を撮像した撮像画像は、動画符号化部または静止画符号化部によって各々異なる符号化方式で符号化されるので、符号化データを復号化して連続表示する際に、自然で滑らかな画像に再生するため、再生モードの切り換えを複雑に制御する必要があった。また、通信回線が有する通信容量に対して、当該システムの単位時間あたりのデータ転送量であるデータ転送レートは経時的に変動するため、同一の通信回線を使用する他の者の使用状況によっては、回線の容量オーバーによる通信効率の低下やその他障害が発生し、複雑に通信制御する必要があった。
【0006】
また、特許文献2に開示されている遠隔制御システムにあっては、圧縮/転送モードを判定する判定テーブルは、操作応答情報に基づいて画質とフレームレートを決定しているので、同じ画質とフレームレートに決定したとしても、解析装置から出力された画像データの内容によって、符号化データのデータ量が異なるものであった。例えば、単純な画像の場合には、同様の画質に符号化してもデータ量は比較的小さくて済むが、色の種類の多い複雑な画像の場合には高画質に符号化すると1フレームのデータ量は大きくなってしまう。従って、1フレームのデータ量とフレームレートの積で定まるその画像のデータ転送レートは、解析装置で観測された画像データの内容によって変動するため、同一の通信回線を使用する他の者の使用状況によっては、回線の容量オーバーによる通信効率の低下やその他障害が発生し、安定な通信が行われにくいものであった。
【0007】
この発明は、上記背景技術に鑑みてなされたもので、一般的な公衆回線等の通信インフラを利用しながらも安定な通信が可能であって、遠隔地の診断医師等に、常に診断し易い連続画像を送ることができる遠隔診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、被検査体を顕微鏡で観察し、カメラを介して画像データを出力する観察機器と、通信回線を通じて送られた前記顕微鏡の駆動命令を受信する駆動命令受信部と、その駆動命令に基づいて前記顕微鏡の各調整機構に駆動信号を出力する駆動制御部と、前記顕微鏡の動作を監視して動作状態情報を出力する動作状態監視部と、前記カメラが出力する前記画像データを所定の符号化データに変換し前記通信回線を通じて出力する画像通信部とが設けられた観察機器側端末と、前記顕微鏡の前記駆動命令を前記通信回線を通じて出力する駆動命令送信部と、前記符号化データを前記通信回線を通じて受信する符号化データ受信部と、受信した前記符号データを元の画像データに戻して出力する復号化部と、前記復号化した前記画像データに基づいて画像を表示する表示装置とが設けられた診断側端末とを備えた遠隔診断装置であって、前記観察機器側端末の前記画像通信部は、前記動作状態情報に基づいて、前記符号化データの転送レートを決定する転送レート決定部と、前記動作状態情報に基づいて、前記符号化データの画質を決定する画質決定部と、前記観察機器から出力された前記画像データを、前記画質決定部が決定した画質に基づいてデータ量に圧縮して符号化データに変換する符号化部と、決定された前記転送レートに基づき、前記符号化データを前記診断側端末へ通信回線を通じて出力する符号化データ送信部とを備えた遠隔診断装置である。
【0009】
前記画質決定部は、前記動作状態情報に基づいて観察者による前記顕微鏡の設定途中か観察中かを検出し、顕微鏡設定中は相対的に画質を落として画像送信間隔を短くし、設定終了後観察中であると判断されたときは、相対的に前記画質を上げて送信間隔を長くする制御を行うものである。
【0010】
前記転送レート決定部は、前記動作状態情報に基づいて観察者による前記顕微鏡の設定が完了し一定時間以上前記顕微鏡の操作がない場合は、前記転送レートを所定の低い値に低下させるものである。
【0011】
また、前記転送レート決定部が決定した転送レートと、前記符号化した前記画像データのデータ量とに基づいて、前記符号化データを、前記通信回線に出力する間隔を算出する次データ送信間隔算出部を備えたものである。
【0012】
さらに、前記観察機器は、前記被検査体である病理組織を光学顕微鏡で観察して、前記観察機器側端末へ観察画像を送り、前記診断側端末は、前記病理組織の観察画像を前記表示装置により表示して、病理診断可能とする遠隔診断装置である。
【発明の効果】
【0013】
この発明の遠隔診断装置によれば、観察機器側端末と診断側端末との通信は、転送するデータの大小にかかわらず、所定の範囲内の転送レートで行われるよう制御されるため、同じ通信回線を使用する他の者のデータ通信状態との関係による通信障害が発生しにくく、安定度の高い通信が可能であり、通信制御も容易である。また、所定の転送レートで、フレームレートが高く、顕微鏡を操作するのに適した符号化条件と、詳細な診断に適した精細な画質を得る符号化条件の切り換えが自動的に行われるので、診断医師側の表示装置には、所望の品質の画像が滑らかに連続再生され、診断医師等は、意図通りの診断を苛立ちなく行うことができる。
【0014】
また、顕微鏡の動作状態に基づいて顕微鏡の操作が完了したと認識したときには、システムの転送レートを大幅に低下させるので、診断に支障のない範囲で、使用している通信回線の負担を大幅に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の一実施形態について、図面に基づいて説明する。遠隔診断装置10は、診断医師が光学顕微鏡を遠隔操作し、光学顕微鏡を介して取得した被検査体の画像情報を所定の通信回線を通じて受信し、診断を行う遠隔診断装置である。図1に示すように遠隔診断装置10は、被検査体を観察して画像データAnを出力する観察機器12と、観察機器12に接続され、観察機器12の入出力を制御する観察機器側端末14とを備え、例えば臨床医師がいる病院等に設置されている。一方、診断側端末16は、例えば診断側医師のいる特定の研究施設等に設置され、観察機器側端末14と診断側端末16の間は、通信回線網18を介して接続されている。図1のブロック図中の矢印は、以下に説明する情報やデータが送られる向きを示している。
【0016】
観察機器12は、光学顕微鏡20とカメラ22とで構成されている。光学顕微鏡20は、後述する観察機器側端末14の駆動制御部24から出力される駆動信号によって、被検査体のステージ上の位置、レンズの倍率、フォーカス等の調整機構が駆動され、被検査体の観測像の構図などが調整される。カメラ22は、例えばCCDカメラやCMOSカメラであって、光学顕微鏡20の観測像を撮像し、その撮像画像を所定のデジタル形式の画像データAnとして出力するものである。
【0017】
観察機器側端末14は、診断側端末16から送信された光学顕微鏡20に対する駆動命令を受信して駆動制御部24に送る駆動命令受信部26と、その駆動命令を光学顕微鏡20の各調整機構を駆動する駆動信号に変換して出力する駆動制御部24を備えている。駆動制御部24は、光学顕微鏡12の動作状態を監視して、後述する動作状態監視部28に出力する。
【0018】
また、光学顕微鏡20の動作状態を監視する動作状態監視部28が設けられ、動作状態監視部28が取得した動作状態情報Bnは、動作状態送信部30、モニタ32、画像通信部34に向けて随時送られている。動作状態送信部30は、動作状態情報Bnを通信回線網18を通じて診断側端末16に送信するものである。モニタ32は、カメラ22が出力する画像データAnを画像表示するほか、動作状態情報Bnの表示等も行い、診断中に臨床医師が使用する。
【0019】
画像通信部34は、転送レート決定部36、画質決定部37、符号化部38、次データ送信間隔算出部40、および符号化データ送信部42により構成されている。画像通信部34は、画像データAnと動作状態情報Bnを取得し、画像データAnの符号化条件と通信条件を決定し、各条件に基づいて符号化データFnを作成し、診断側端末16に向けて送信する動作を行うものである。各部の個別の機能については、後述する動作説明の中で詳しく述べる。
【0020】
診断側端末16は、診断医師が出した光学顕微鏡20に対する駆動命令を駆動命令受信部26に向けて送信する駆動命令送信部46と、動作状態送信部30から送信された動作状態情報Bnを受信する動作状態受信部48を備えている。また、画像通信部34から送信された符号化データFnを受信する符号データ受信部50と、符号化データFnを元の画像データである復号化データHnに変換する復号化部52を備えている。そして、モニタ54は、その復号化データHnに基づいた画像を表示するほか、動作状態情報Bnの表示等も行い、診断中に診断医師が使用する。上記符号化データFnの送受信は所定のフレームレートで連続して行われ、モニタ52には、静止画が連続した動的画像が表示されることとなる。
【0021】
また、観察機器側端末14と診断側端末16には、図示しない入出力インターフェースが接続されている。さらに、臨床医師および診断医師が操作して画像データ通信の最大通信容量を設定できるようにしても良い。
【0022】
次に、遠隔診断装置10の動作について説明する。まず臨床医師は、被検査体を光学顕微鏡20のステージにセットし、観察機器側端末14を適宜調整し、診断環境を整える。この段階でモニタ32,54には、臨床医師の調整による画像が表示される。
【0023】
診断医師による診断が始まると、診断医師は、モニタ54の画像表示を見て被検査体を観察する。そして、画像表示の構図等を調整するため、診断側端末16を操作して光学顕微鏡20のステージ位置調整、レンズ倍率調整、フォーカス調整などを行う駆動命令を出す。すると、この駆動命令は、駆動命令送信部46から通信回線網18を通じて、観察機器側端末14で受信され、駆動命令受信部26を経て、駆動制御部24に伝えられる。そして駆動制御部24は、駆動命令を駆動信号に変換し、光学顕微鏡20の各調整機構を動作させる。
【0024】
光学顕微鏡20の各調整機構は、駆動制御部24の駆動信号に基づいて動作し、被検査体の観測像が変化する。カメラ22は観測像を撮像し、撮像画像を所定のデジタル形式の画像データAnとして出力する。そして画像データAnは、モニタ32に送られて画像表示され、同時に画像通信部34にも送られる。
【0025】
診断医師の駆動命令に従って光学顕微鏡20の各調整機構が動作する様子は、駆動制御部24を介して動作状態監視部28によって随時監視される。例えば、光学顕微鏡20のステージ調整機構の動作状態、フォーカス調整機構の動作状態、それらの動作が継続または停止している時間等が検出される。これらの動作状態情報Bnは、動作状態送信部30、通信回線網18、動作状態受信部48を介して、診断側端末16のモニタ54に表示され、診断医師に認識される。また、これらの動作状態情報Bnは、同時に画像通信部34にも送られる。
【0026】
画像通信部34は、上述のようにカメラ22の画像データAnと動作状態監視部28の動作状態情報Bnを取得し、観測像の符号化データFnを作成し、診断側端末16に向けて送信する機能を備えている。以下にその動作・機能を、図2のフローチャートに基づいて詳しく説明する。図2において、ステップSP10からステップSP12、及びステップ13,14の流れは、画像1フレーム[Frame]の符号化データFnを処理する動作を示している。
【0027】
まず、図2(a)ステップSP10では、転送レート決定部36が、動作状態情報Bnに基づき、診断医師による光学顕微鏡20の操作が途中であるか、操作が完了したかを判定する。診断医師は、モニタ54を見ながら駆動命令によって光学顕微鏡20を操作し、所望の構図の画像が表示されると、その状態で光学顕微鏡20の状態を固定し、その画像を注視して診断を行うのが一般的である。そこで、転送レート決定部36は、光学顕微鏡20の各調整機構の動作が停止し、その停止状態が一定の時間以下であれば操作が途中であると判定し、停止状態が一定の長時間を超えると、顕微鏡の設定操作が完了したものと判定する。
【0028】
そして、転送レート決定部36は、操作が途中であると判定したときは、図3、図4に示すように、転送レートCn[Byte/sec]を、通信回線網18の通信容量に対して余裕のある所定の値に決定する。一方、顕微鏡走査が一定の長時間行われず、操作が完了したと判定したときは、転送レートCnの値を大きく低下させ、通信条件をいわゆるスリープモードに切り換える。スリープモードの転送レートCnの値は、操作が途中であるときに設定された転送レートCnの値に対して、例えば10分の1程度に設定されている。
【0029】
ステップSP11では、画質決定部37が、動作状態情報Bnに基づき、光学顕微鏡20の各調整機構が動作中であるか、動作が完了した停止中であるかを判定する。判定は操作間隔が所定時間内か否か、または顕微鏡の操作部分により操作の初期か終期か等、種々の条件により判断することができる。そして、停止中であると判定したときは、診断医師が画像を注視して診断を行っている可能性があると考えられるので、画質Dnを相対的に精細な画質に決定する。一方、動作中であると判定したときは、診断医師はまだ診断前の調整を行っているものと考えられるので、画質Dnを相対的に粗めの画質に決定する。
【0030】
ステップSP12では、符号化部38が、カメラ22から送られた画像データAnを、画質決定部37により決定された画質Dnに基づいて圧縮し、符号化データFnを作成する。ここでの符号化処理は、一定のフレーム間隔で行われ、例えば静止画像の圧縮処理方式として周知のJPEG(Joint Photographic Coding Experts Group)方式を使用して行っている。そして符号化データFnは、次の処理を行う次データ送信間隔決定部40と符号化データ送信部42に出力される。
【0031】
また、図2(b)ステップSP13では、次データ送信間隔決定部40が、転送レート決定部36で決定された転送レートCn[Byte/sec]と符号化部38で作成された最新の符号化データFnのデータ量En[Byte]に基づいて、所定の演算処理を行い、次の画像データ送信間隔を決定する。この処理により、通信回線網18を通じて送信されるフレームレート[Frame/sec]が決まる。
【0032】
そして、ステップSP14に移行し、符号化データ送信部42は、符号化部38から一定のフレームレートで出力されてくる符号化データFnを順次取得し、決定された画像データ送信間隔に基づいて、次の画像の送信時期まで待機した後、最新の画像フレームの符号化データFnを送信し、次の画像取得に戻る。
【0033】
ここで、ステップSP10で決定された転送レートCnが一定の値であるため、データ量Enとフレームレートは、図4(a)のグラフに示すように負の相関関係となる。例えば、複雑な内容の画像データAnはデータ量Enが比較的大きいのでフレームレートは小さくなり、反対に、単純な内容の画像データAnはデータ量Enが比較的小さいのでフレームレートは大きくなる。即ち、符号化部38から送られた符号化データFnは、符号化データ送信部42により所定の転送レートCnという通信条件に従い、通信回線網18を介して診断側端末16に向けて送信される。
【0034】
このように、画像通信部34は、画像1フレーム分の処理をステップSP10〜SP12、及びステップ13,14の流れで行い、それが繰り返される。
【0035】
診断側端末16の符号化データ受信部50は、所定の間隔で連続送信されてくる符号化データFnを受信し、順次復号化部52に出力する。復号化部52に送られた符号化データFnは、復号化部52により復号化データHnに復号化され、さらにD/A変換等の処理が行われてモニタ54により画像表示される。モニタ54は復号化データHnに基づく画像を順次表示するので、診断医師は、実質的に動画像を見ている感覚で光学顕微鏡20の操作と診断を行うことができる。
【0036】
次に、診断医師が光学顕微鏡20の操作と診断を行っているときの、通信回線網18における転送レートCnの変化を、図3、図4(a)、(b)に基づいて説明する。図4(a)、(b)に示すように、診断画像の画像データAnを精細な画質に符号化すると、相対的にデータ量は大きくなるが、粗い画質に圧縮するとデータ量は小さくなる。この実施形態のデータ通信においては、一定の転送レートの範囲内で、画質優先の場合とフレームレートが優先する場合を、光学顕微鏡20の動作状態により、上述の処理に従って自動的に切り換えて制御される。
【0037】
観察機器側端末14では、光学顕微鏡20を操作して表示画像を所望の構図にするまでの期間T1と、光学顕微鏡20の動作が停止して操作が完了したと判定されるまでの一定の期間T2は、転送レートCnは一定の値に推移するように設定される。観察機器側端末14により顕微鏡操作中と判断される期間T1は、画質を落として、フレームレートを上げて、画像の動きを滑らかなものにする。また、顕微鏡動作により診断中と判断された期間T2は、転送レートCnを一定のまま、画質を優先的に高くして、フレームレートは低くなるようにする。
【0038】
さらに、一定の長期間顕微鏡操作が行われない期間T3は、スリープモードにして転送レートCnを低下させ、画質を維持しつつフレームレートを下げて、通信回線網18の負担を軽減する。なお、転送レートCnが低下しても、画質決定部37が決定する画質Dnは確保されるため、診断には全く支障がない。また、診断医師が表示画像の構図を変更しようと光学顕微鏡20を操作すると、転送レートCnはもう一度期間T1の状態に戻ることになる。
【0039】
以上説明した遠隔診断装置10によれば、観察機器側端末14と診断側端末16との通信は、一定の転送レートCnの範囲内で行われるよう制御されるため、同じ通信回線網18を使用する他の者のデータ通信状態との関係による通信効率の低下や、その他の障害が発生しにくく、通信制御が容易であり、安定度の高い通信が可能である。また、一定の転送レートCnを最大限に有効利用し、かつ、フレームレートが高く光学顕微鏡20を操作するのに適した符号化条件と、詳細な診断に適した精細な画質を得る符号化条件との切り換えが自動的に行われるので、モニタ54には診断医師が所望する品質の画像が滑らかに連続再生され、診断医師は、意図通りの診断を苛立ちなく行うことができる。
【0040】
また、光学顕微鏡20の動作状態に基づいて顕微鏡の操作が完了したと認識したときには、転送レートを大幅に低下させる(スリープモード)ので、診断に支障のない範囲で、通信回線網18の負担を大幅に低減することができる。
【0041】
また、図4(b)に示すように、画像データAnが単純な場合または複雑な場合によってもデータ量Enは変化するが、転送レートCnを一定の範囲内で設定するように制御し、フレームレートを変化させることで、通信効率を低下させること無く、診断医師が所望する品質の画像を滑らかに連続再生することが可能である。
【0042】
また、図5に示す遠隔診断装置60ように、一の診断側端末16と、複数の観察機器12及び観察機器側端末14とを通信回線網18を介して接続する構成にしても良い。遠隔診断装置60においても、遠隔診断装置10と同様に安定度の高い通信を行うことができるので、一般公衆回線を利用したインターネット等の通信ネットワークでも通信障害等が発生しにくい。従って、全国各地の病院等に観察機器12及び観察機器側端末14を設置し、一人の診断医師が使用する診断側端末16との間を既存のインターネットを介して接続することによって、大がかりな通信設備を整備することなく、信頼性の高い遠隔診断システム網を容易に構築することができる。
【0043】
なお、本発明は上記実施形態に限定するものではなく、観察機器は、被検査体の観測像を撮像し、撮像画像を画像データとして出力できるものであればよく、一般的な光学顕微鏡、電子顕微鏡等の各種顕微鏡、内視鏡、その他画像情報を取得可能な装置とカメラ等を適宜組み合わせて構成することができる。さらに、観察機器側端末及び診断側端末に設けられた各機能部は、各々ソフトウエア的に設けられたものであるが、各々個別にハードウエアを備えているものでも良く、これらを組み合わせたものでも良い。
【0044】
また、動作状態監視部が出力する動作状態情報Bnは、顕微鏡等のステージ位置やレンズ倍率等に限定するものではない。動作状態情報Bnの内容は、常に診断医師が診断をしやすい画質の画像を提供するために設定されるものであって、画質の切り換えを行うべき動作状態にあるか否かを判定するために必要な情報が得られるものであればよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】この発明の一実施形態の遠隔診断装置を示すブロック図である。
【図2】この実施形態の画像通信部における画像データの符号化までの動作を説明するフローチャート(a)と、符号化データの送信動作を示すフローチャート(b)である。
【図3】この実施形態の動作中の転送レートの変化を説明するタイムチャートである。
【図4】この実施形態の画像通信部のデータ制御におけるデータ量とフレームレートの関係を示すグラフ(a)と、データ量と画質の関係を示すグラフ(b)である。
【図5】この実施形態の変形例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0046】
10,60 遠隔診断装置
12 観察機器
14 観察機器側端末
16 診断側端末
18 通信回線網
20 光学顕微鏡
22 カメラ
24 駆動制御部
28 動作状態監視部
32,54 モニタ
34 画像通信部
36 転送レート決定部
37 画質決定部
38 符号化部
40 次データ送信間隔算出部
42 符号化データ送信部
50 符号データ受信部
52 復号化部
An 画像データ
Bn 動作状態情報
Cn 転送レート
Dn 画質
En データ量
Fn 符号化データ
Hn 復号化データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査体を顕微鏡で観察し、カメラを介して画像データを出力する観察機器と、
通信回線を通じて送られた前記顕微鏡の駆動命令を受信する駆動命令受信部と、その駆動命令に基づいて前記顕微鏡の各調整機構に駆動信号を出力する駆動制御部と、前記顕微鏡の動作を監視して動作状態情報を出力する動作状態監視部と、前記カメラが出力する前記画像データを所定の符号化データに変換し前記通信回線を通じて出力する画像通信部とが設けられた観察機器側端末と、
前記顕微鏡の前記駆動命令を前記通信回線を通じて出力する駆動命令送信部と、前記符号化データを前記通信回線を通じて受信する符号化データ受信部と、受信した前記符号データを元の画像データに戻して出力する復号化部と、前記復号化した前記画像データに基づいて画像を表示する表示装置とが設けられた診断側端末と、
を備えた遠隔診断装置において、
前記観察機器側端末の前記画像通信部は、
前記動作状態情報に基づいて、前記符号化データの転送レートを決定する転送レート決定部と、
前記動作状態情報に基づいて、前記符号化データの画質を決定する画質決定部と、
前記観察機器から出力された前記画像データを、前記画質決定部が決定した画質に基づいたデータ量に圧縮して符号化データに変換する符号化部と、
決定された前記転送レートに基づき、前記符号化データを前記診断側端末へ通信回線を通じて出力する符号化データ送信部と、
を備えたことを特徴とする遠隔診断装置。
【請求項2】
前記画質決定部は、前記動作状態情報に基づいて観察者による前記顕微鏡の設定途中か観察中かを検出し、顕微鏡設定中は相対的に画質を落として画像送信間隔を短くし、設定終了後観察中であると判断されたときは、相対的に前記画質を上げて送信間隔を長くする制御を行うことを特徴とする請求項1記載の遠隔診断装置。
【請求項3】
前記転送レート決定部は、前記動作状態情報に基づいて観察者による前記顕微鏡の設定が完了し一定時間以上前記顕微鏡の操作がない場合は、前記転送レートを所定の低い値に低下させることを特徴とする請求項1記載の遠隔診断装置。
【請求項4】
前記転送レート決定部が決定した転送レートと、前記符号化した前記画像データのデータ量とに基づいて、前記符号化データを、前記通信回線に出力する間隔を算出する次データ送信間隔算出部を備えたことを特徴とする請求項1記載の遠隔診断装置。
【請求項5】
前記観察機器は、前記被検査体である病理組織を光学顕微鏡で観察して、前記観察機器側端末へ観察画像を送り、前記診断側端末は、前記病理組織の観察画像を前記表示装置により表示して、病理診断可能とすることを特徴とする請求項1,2,3または4記載の遠隔診断装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−260465(P2009−260465A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104561(P2008−104561)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【出願人】(500309920)株式会社インテックシステム研究所 (22)
【Fターム(参考)】