説明

適合試験方法

【課題】エンジン制御パラメータに応じて変化するエンジン特性を測定する適合試験方法において、特定エンジン制御パラメータの時のエンジン特性の正確な定常値を測定可能とする。
【解決手段】特定エンジン制御パラメータの時に、設定時間毎に測定されたエンジン特性値の連続する設定回数の標準偏差値が設定値未満となれば、エンジン特性値が定常値となったと判断する(ステップ105)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御パラメータに応じて変化するエンジン特性を測定する適合試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なエンジンにおいて、回転数及び負荷により定まる機関運転状態毎に、点火時期及び空燃比等のエンジン制御パラメータを制御して、エンジン出力及び排気エミッション等のエンジン特性を最良とすることが好ましい。このためには、機関運転状態毎の各エンジン制御パラメータの目標値を予め設定しておかなければならない。
【0003】
エンジン制御パラメータが点火時期及び空燃比の二つである場合において、これら二つの機関運転状態毎の目標値を設定するためには、例えば、試作エンジン等を使用し、各機関運転状態において、空燃比を想定範囲内の各値に固定し、固定された空燃比の各値に対して、点火時期を想定範囲内で徐々に変化させてエンジン出力の変化を実測することにより、機関運転状態毎に最大エンジン出力を発生させる目標空燃比と目標点火時期との組み合わせを得る適合試験が必要とされる。
【0004】
このような適合試験において、試験工数を低減するために、点火時期等のエンジン制御パラメータを想定範囲内で大きく変化させて、数点の定常エンジン特性値しか測定せず、これら数点のエンジン特性値からモデル式を設定してエンジン制御パラメータの変化に対するエンジン特性を推定することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−206456
【特許文献2】特開2004−68729
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようなエンジン特性を推定する際の適合試験においても、少なくとも数点は定常エンジン特性値が測定され、この際には、正確な定常値が測定されなければならない。実際的には、エンジン特性値は定常値近傍においても変動するために定常値の判断が難しく、例えば、連続して測定された二つのエンジン特性値の偏差が設定値以下となった時に、後者の測定値が定常値とされる。しかしながら、このような方法では、測定値がエンジン特性値の正確な定常値となっていないことがある。
【0007】
従って、本発明の目的は、エンジン制御パラメータに応じて変化するエンジン特性を測定する適合試験方法において、特定エンジン制御パラメータの時のエンジン特性の正確な定常値を測定可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による請求項1に記載の適合試験方法は、エンジン制御パラメータに応じて変化するエンジン特性を測定する適合試験方法であって、特定エンジン制御パラメータの時に、設定時間毎に測定された前記エンジン特性値の連続する設定回数の標準偏差値が設定値未満となれば、前記エンジン特性値が定常値となったと判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明による請求項1に記載の適合試験方法によれば、設定時間毎にエンジン特性が測定され、連続する設定回数のエンジン特性の標準偏差値が設定値未満となった時に、エンジン特性値が定常値となったと判断するようになっており、それにより、エンジン特性値が変動しても定常値の正確な測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
ガソリンエンジンにおいて、例えば、点火時期及び空燃比等のエンジン制御パラメータがあり、可変バルブタイミング機構を有する場合には、さらに、吸気弁開弁時期及び排気弁閉弁時期等のエンジン制御パラメータが追加され、筒内噴射エンジンの場合には、さらに、燃料噴射開始時期及び燃料噴射圧力等のエンジン制御パラメータが追加される。このような多数のエンジン制御パラメータを制御して、失火及びノッキングを発生させることなく、排気エミッションの良好な高いエンジン出力が得られる運転を各機関運転状態で実現することが好ましい。そのためには、回転数及び負荷により定まる機関運転状態毎に最適な運転が実現されるように機関運転状態毎の各エンジン制御パラメータの目標値を予め設定するための適合試験が必要とされる。
【0011】
適合試験は、試作エンジン等を使用し、各エンジン制御パラメータの想定範囲内の各値の全ての組み合わせに対して、実際の運転がどのようになるかを検証し、最適な運転が実現される全エンジン制御パラメータの値の組み合わせを見つけ出すためのものである。具体的には、各機関運転状態において、一つのエンジン制御パラメータを除く他のエンジン制御パラメータをそれぞれの想定範囲内の値に固定し、一つのエンジン制御パラメータを想定範囲内でスイープさせて、エンジン特性として、例えば、エンジン出力の変化等を測定する。各機関運転状態において、この一つのエンジン制御パラメータのスイープ試験を他のエンジン制御パラメータのそれぞれの想定範囲内の値の全ての組み合わせに対して実施することとなる。もちろん、経験的に、明らかに最適な運転が実現されない他のエンジン制御パラメータの値の組み合わせに対しては、スイープ試験を省略することは可能であるが、それでも、適合試験には莫大な試験工数が必要となる。
【0012】
スイープ試験結果であるエンジン特性を比較的正確に推定することにより、スイープ試験自身の時間を短縮して適合試験の工数を低減するものである。以下、点火時期をスイープさせる場合を説明するが、もちろん、点火時期以外のエンジン制御パラメータをスイープさせる場合にも同じ考え方が適用可能である。
【0013】
図1は点火時期スイープ試験における点火時期及び発生トルクの変化を示すタイムチャートである。本点火時期スイープ試験では、点火時期を実線Qに示すように変化させることにより、実線Rに示すように変化する発生トルクが測定される。先ず、時刻t0において点火時期を想定範囲の最遅角値I1として試験を開始する。時刻t0の発生トルクは過渡的なものであり、点火時期を最遅角値I1とした運転が各気筒で繰り返されると、この点火時期の燃焼に対して各気筒の筒内温度等が徐々に安定するために発生トルクは徐々に上昇し、時刻t1において、発生トルクは、この点火時期I1の燃焼に対しての定常発生トルクT(t1)となる。時刻t0からt1までの間の期間A1は、点火時期を変化させない発生トルクの安定化期間である。安定化期間A1は発生トルクの時間変化率が設定値以下となる(発生トルクが殆ど変化しなくなる)までの期間とされる。
【0014】
こうして、点火時期を最遅角値I1とした時の定常発生トルクT(t1)が測定される。次いで、時刻t2まで徐々に進角されて点火時期はI1からI2とされ、この進角中の点火時期の変化に対して過渡発生トルクT(t)’の変化(各時刻での過渡発生トルク)が測定される。時刻t2から時刻t3までは点火時期をI2としたまま変化させない安定化期間A2であり、この安定化期間A2の間において、発生トルクは前述したように安定し、時刻t3の発生トルクは点火時期I2に対応する定常発生トルクT(t3)となる。この安定化期間A2は、点火時期がI2とされてからこの点火時期I2に対応する定常のトルクが発生するまでの期間であり、前述の安定化期間とは必ずしも同じとはならない。
【0015】
次いで、再び、時刻t4まで徐々に進角されて点火時期はI2からI3とされ、この進角中の点火時期の変化に対して過渡発生トルクT(t)’の変化が測定される。時刻t4から時刻t5までは点火時期をI3としたまま変化させない安定化期間A3であり、この安定化期間A3の間において、発生トルクは前述したように安定し、時刻t5の発生トルクは点火時期I3に対応する定常発生トルクT(t5)となる。この安定化期間A3も前述の安定化期間A1,A2と必ずしも同じとはならず、また、点火時期を変化させる時間t4−t3は、前回の点火時期を変化させた時間t2−t1と必ずしも同じにする必要はない。このような点火時期の変化は、点火時期が想定範囲の最進角値となるまで繰り返される。
【0016】
点火時期スイープ試験においては、点火時期を各値とした時のそれぞれの定常発生トルク値が必要である。そのために、一般的には、点火時期は最遅角値から僅かずつ進角させ、進角させる毎に安定化期間を設けて各点火時期に対応する定常発生トルクを測定しており、一回のスイープ試験自身が長時間となっていた。しかしながら、前述の点火時期スイープ試験では、僅か数回の安定化期間しか設けられず、スイープ試験時間をかなり短くすることができる。
【0017】
各安定化期間A1,A2,A3の経過時に測定された発生トルクT(t1),T(t3),T(t5)は、各安定化期間の点火時期I1,I2,I3に対応する定常発生トルクT(t)であるが、二つの安定化期間の間で測定された発生トルクは、過渡発生トルクT(t)’であり、定常発生トルクとしてそのまま使用することはできない。本適合試験では、今回の安定化期間(例えば、A3)の経過時(時刻t5)に測定された定常発生トルク(T(t5))と今回の安定化期間の開始時(時刻t4)に測定された過渡発生トルク(T(t4)’)との差が、点火時期を前回の安定化期間(A2)の点火時期(I2)から今回の安定化期間の点火時期(I3)まで変化させた時の各発生トルクの定常値と過渡値との差の累積と考えられるために、例えば、点火時期を前回の安定化期間の点火時期(I2)から今回の安定化期間の点火時期(I3)へ変化させた時の経過時間(t4−t3)で前述の差を比例配分し、実線Rに示す過渡発生トルク変化を点線Sに示すような定常発生トルク変化に補正している。
【0018】
具体的には、安定化期間A2と安定化期間A3との間の各時刻tの定常発生トルクT(t)は次式(1)により推定される。
T(t)=T(t)’+(t−t3)/(t4−t3)*ΔT (1)
ここで、T(t)’は、測定された各時刻tの点火時期に対応する各時刻tの過渡発生トルクであり、ΔTは前述の差(T(t5)−T(t4)’)である。もちろん、他の二つの安定化期間(例えば、A1及びA2)の間の各時刻の点火時期に対応する各時刻の定常発生トルクも同様に推定することができる(ここでのΔTはT(t3)−T(t2)’となる)。
【0019】
こうして推定される点火時期の変化に対する定常発生トルクの変化は、点火時期の変化に対して実際に測定され、傾向的に定常トルク変化に一致する過渡発生トルク変化を、実際に測定された同じ点火時期での定常発生トルクと過渡発生トルクとの差に基づき補正するものであるために、比較的信頼性が高いものとなる。
【0020】
ところで、このように数点のエンジン制御パラメータに対するエンジン特性の定常値を測定する適合試験においても、また、もちろん、各エンジン制御パラメータに対するエンジン特性の全ての定常値を測定する適合試験においても、各定常値は正確に測定されなければならない。しかしながら、発生トルクのようなエンジン特性は、定常値近傍においても変動するために、特定のエンジン制御パラメータに対してエンジン特性が定常値となったと判断することは難しい。
【0021】
前述の安定化期間(A1,A2,A3)は発生トルクの時間変化率が設定値以下となるまでの期間とされ、安定化期間経過時において、特定エンジン制御パラメータ(特定点火時期)に対してエンジン特性(発生トルク)が定常値となったとされている。しかしながら、これでは発生トルクが定常値となっていないことがある。
【0022】
それにより、安定化期間(A1,A2,A3)の経過時、すなわち、各点火時期(エンジン制御パラメータ)に対して発生トルク(エンジン特性)が定常値となった判断は、図2に示すフローチャートに従って実施されることが好ましい。先ず、ステップ101において、点火時期が固定されたか否かが判断される(時刻t0、t2、及び、t4)。この判断が否定される時には、そのまま終了する。
【0023】
一方、ステップ101の判断が肯定される時には、ステップ102に進んで、固定された各点火時期に対して、設定時間毎に発生トルクを測定する(T1,T2,T3,T4,T5,T6,T7,T8・・・・)。次いで、ステップ103では、発生トルクの測定回数nが例えば5(設定回数)以上となったか否かが判断され、この判断が否定される時にはそのまま終了する。
【0024】
ステップ103の判断が肯定される時には、ステップ104において、連続する最新5回の発生トルクの標準偏差が算出される。次いで、ステップ105において、算出された標準偏差値aが設定値a’未満であるか否かが判断される。
【0025】
この判断が否定される時にはそのまま終了するが、肯定される時には、ステップ106において、発生トルクは定常値となったと判断される。この時の発生トルクを定常値としても良いし、また、この時以降において設定時間毎に測定される複数の発生トルクの平均値を定常値としても良い。
【0026】
こうして、設定時間毎に測定されたエンジン特性の連続する設定回数(例えば5回)の標準偏差値が設定値未満となった時にエンジン特性が定常値となったと判断するようにしているために、正確にエンジン特性の定常値を判断することができる。
【0027】
このようなエンジン特性の標準偏差を利用して定常値を判断する適合試験方法は、もちろん、数点のエンジン制御パラメータに対する数点のエンジン特性の定常値を測定する場合に限定されることなく、例えば、各エンジン制御パラメータに対するエンジン特性の各定常値を測定する場合にも有効である。
【0028】
この場合において、エンジン制御パラメータは、一定幅(例えば、点火時期の場合には、設定クランク角度範囲)だけ徐々に変化させられる。このような適合試験の場合において、例えば、エンジン制御パラメータを変化させてからステップ105の判断が肯定されるまでの時間が短いほど、このエンジン特性は収束し易いために、次いでエンジン制御パラメータを変化させた際の標準偏差を算出するエンジン特性の測定回数を少なくしても良い。
【0029】
また、ステップ105において使用する閾値a’は、0近傍の小さな値に固定しても良いが、例えば、ステップ105の判断が肯定された時から設定時間毎に設定回数測定されたエンジン特性の定常値の標準偏差を、今回のエンジン制御パラメータに関する標準偏差として算出し、同様に、エンジン制御パラメータを変化させる毎に、対応するエンジン制御パラメータに関する標準偏差を算出し、エンジン制御パラメータと標準偏差との相関関係が把握された時には、エンジン制御パラメータを変化させた時に、予めステップ105の閾値a’を設定することができる。
【0030】
前述したスイープ試験において、エンジン制御パラメータを徐々に変化させる際には、全気筒同時に変化させても良いが、各気筒又は数気筒ずつ変化させても良い。前述した全ての実施形態において、エンジン制御パラメータの変化に対するエンジン特性の過渡値変化を測定し、この過渡値変化からエンジン特性の定常値変化を推定するようにしている。それにより、例えば、エンジン特性として排気ガス温度を測定するスイープ試験において、定常排気ガス温度が触媒装置等を溶損させる温度となる時にも、過渡排気ガス温度であれば、触媒装置等が実際に溶損するようなことはなく、スイープ試験の実施が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】点火時期スイープ試験における点火時期及び発生トルクの変化を示すタイムチャートである。
【図2】各点火時期に対して発生トルクが定常値となった判断をするためのフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン制御パラメータに応じて変化するエンジン特性を測定する適合試験方法であって、特定エンジン制御パラメータの時に、設定時間毎に測定された前記エンジン特性値の連続する設定回数の標準偏差値が設定値未満となれば、前記エンジン特性値が定常値となったと判断することを特徴とする適合試験方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−14390(P2009−14390A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−174124(P2007−174124)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】