説明

遮断器の接触子消耗量管理システム

【課題】低コストで効率的に遮断器の消耗量を演算することのできる遮断器の接触子消耗量管理システムを提供すること。
【解決手段】上位電気所にオシロ装置を設置し、後備保護の距離リレーにおいて、遮断器トリップ信号の他、多段リレーの各動作信号でトリガをかける。オシロ装置には、トリガ検出後に電気信号の記録を停止するまでの時間である遅延時間を保存する遅延時間テーブルと、トリガ検出後に遅延時間テーブルを参照して動作信号を出力した区間に対応する遅延時間を設定する遅延時間設定手段と、遅延時間の経過により記録停止指令を出力する停止タイマと、停止タイマから記録停止指令を受信するまで電気信号をメモリ循環式で記録する電気信号記録手段とを設ける。このオシロ装置の記録データをコンピュータ装置に取り込んで、上位および下位の電気所の遮断器の接触子消耗量を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統に設置されている保護リレーの動作信号や電気データを効率よく収集して、遮断器の接触子の消耗量を演算する遮断器の接触子消耗量管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
遮断器の接触子は、遮断するたびに消耗していくので何回か遮断すると交換が必要になる。一般に遮断電流が大きいと消耗量も大きくなる傾向にある。消耗量は、当年度の最大短絡容量などのデータを用いて推定したり、電力用オシロ装置(以下、単に「オシロ装置」という。)を電気所ごとに設置して、測定した遮断電流をもとに計算したりしている。
【0003】
遮断電流の把握は、特許文献1に記載されているようなオシロ装置によって測定し、この測定データを用いて、特許文献2に記載されているような演算式を用いて消耗量(損耗率)の把握を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−166651号公報
【特許文献2】特開2007−149458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、当年度の最大短絡容量から推定するのは誤差が大きく、また、遮断電流の計算には3相を計測する必要があるが、オシロ装置への入力数は限りがあり回線数の多い電気所では、回線の2相しか入力していない場合や零相のみを入力している場合が有り正確な短絡電流の把握ができず、このため正確な接触子の消耗量の把握が出来ない。また正確に把握するためには、各電気所にオシロ装置を設置する必要がありコスト高となる。
【0006】
本発明は、上述のかかる事情に鑑みてなされたものであり、低コストで効率的に遮断器の消耗量を演算することのできる遮断器の接触子消耗量管理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る遮断器の接触子消耗量管理システムは、送電系統の電圧・電流を含む電気信号を記録し、距離リレーのトリップ信号をトリガとして、あらかじめ設定されたトリガ発生前時間(以下漸進時間という)からトリガ発生後一定時間経過後の間の電気信号を記録し停止するオシロ装置と、該オシロ装置の記録データを送信する伝送装置と、該伝送装置から通信ネットワークを介して送られてきた前記オシロ装置の記録データを受信し、該記録データをもとに遮断器の接触子消耗量を演算するコンピュータ装置と、を有する遮断器の接触子消耗量管理システムであって、前記距離リレーは、電気信号をもとに送電系統における前記距離リレーと前記オシロ装置の設置された電気所、および下位の電気所を含む所定の区間ごとに異常を検出して動作信号を出力すると共に、動作信号出力後に前記区間ごとに予め定められた時間経過後にトリップ信号を出力し、前記オシロ装置は、常時記録計測を行い夫々の区間とトリガ検出後、漸進時間からトリガ検出後一定時間の間の電気信号を記録し停止するまでの時間である遅延時間とを関連付けて保存する遅延時間テーブルと、トリガ検出後、該遅延時間テーブルを参照して動作信号を出力した区間に対応する遅延時間を設定し、該遅延時間の経過により記録停止指令を出力する停止タイマと、該停止タイマから記録停止指令を受信するまで電気信号をメモリ循環式で記録する電気信号記録手段と、を備え、前記停止タイマは、トリガ検出後、遅延時間の経過前に再びトリガを検出することにより、該トリガの要因となった動作信号の区分に対応する時間をタイマに設定してリスタートし、前記コンピュータ装置は、前記伝送装置から送られてくる前記オシロ装置の記録したデータを受信するデータ受信手段と、前記送電系統の各電気所に設置された遮断器であって、動作した遮断器を判定する動作遮断器判定手段と、前記動作遮断器判定手段によって判定された遮断器ごとに、前記記録データを用いて該遮断器の接触子損耗量を演算する接触子消耗量演算手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明では、上位電気所にオシロ装置を設置し、遮断器トリップ信号の他、多段リレーの各動作信号(時限要素入力前の信号)でトリガをかける。このオシロ装置の記録データをコンピュータ装置に取り込んで、上位および下位の電気所の遮断器の接触子消耗量を演算する。これにより、上位電気所に設置したオシロ装置の記録データによって、下位電気所の遮断器の接触子消耗量の管理が可能になる。
【0009】
なお、遅延時間テーブルに保存される遅延時間は、区間の距離リレー用時限リレーの整定値よりも大きくするのが良い。
【0010】
また、コンピュータ装置の動作遮断器判定手段は、二以上の区間について距離リレーの動作信号が出力された場合は、当該二以上の区間の夫々について遮断器の接触子消耗量を演算することを特徴とする。これにより、遮断器の保全管理がより確実になる。
【0011】
さらに、本発明に係る遮断器の接触子消耗量管理システムの動作遮断器判定手段は、距離リレーの動作区間が相手端を含む区間であり、オシロ装置の記録データによって演算した遮断電流の大きさが所定値未満である場合は、相手端の母線事故であると判定することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る遮断器の接触子消耗量管理システムの遅延時間設定手段は、デジタル入力手段を介して入力した前記距離リレー用の時限リレーの整定値に一定値を加えた値を前記遅延時間テーブルの該距離リレーの区間に対応する遅延時間として設定することを特徴とする。
【0013】
本発明では、前記距離リレー用の時限リレーの整定値の設定と、オシロ装置の遅延時間(トリガ後記録停止までの時間)の設定とを連動させることにより、下位電気所の遮断器動作による場合でもその遮断器の接触子消耗量の計算に必要な電気データの収集を確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上位の電気所に設置したオシロ装置によって下位の電気所の遮断器の接触子の消耗量を演算するので、オシロ装置の設置数を低減でき、低コストで接触子の消耗量を管理することができる。また、通信ネットワークを用いて自動的に上位電気所から消耗量の演算に必要な電気データを収集することにより効率的な接触子の消耗量の管理が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態による遮断器の接触子消耗量管理システムを含む送電系統のシステム構成図である。
【図2】図1の保護継電器13とオシロ装置2のブロック図である。
【図3】図1の保護継電器13であって、距離リレーの整定状態の説明図である。
【図4】図1のオシロ装置2の記録停止処理の手順を示すフローチャートである。
【図5】図1のコンピュータ装置4の機能ブロック図である。
【図6】送電端の距離リレーと相手端の過電流リレーの時限協調の説明図である(その1)。
【図7】送電端の距離リレーと相手端の過電流リレーの時限協調の説明図である(その2)。
【図8】図5の接触子データファイル43のデータ構成図である。
【図9】本発明の他の実施例による遮断電流演算処理を説明するための系統図である(事故例1)。
【図10】本発明の他の実施例による遮断電流演算処理を説明するための系統図である(事故例2)。
【図11】本発明の他の実施例による遮断電流演算処理を説明するための系統図である(事故例3)。
【図12】本発明の他の実施例による遮断電流演算処理を説明するための系統図である(事故例4)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態による遮断器の接触子消耗量管理システムについて、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す実施形態は本発明の遮断器の接触子消耗量管理システムにおける好適な具体例であり、技術的に好ましい種々の限定を付している場合もあるが、本発明の技術範囲は、特に本発明を限定する記載がない限り、これらの態様に限定されるものではない。また、以下に示す実施形態における構成要素は適宜、既存の構成要素等との置き換えが可能であり、かつ、他の既存の構成要素との組合せを含む様々なバリエーションが可能である。したがって、以下に示す実施形態の記載をもって、特許請求の範囲に記載された発明の内容を限定するものではない。
【0017】
図1は、第1の実施の形態による遮断器の接触子消耗量管理システムの適用される電力系統の説明図である。ここで、遮断器の接触子消耗量管理システム1は、オシロ装置2、オシロ装置2の記憶しているデータを送信する伝送装置3、通信ネットワーク5を介してオシロ装置2から送られてくるデータを受信し、遮断器の接触子消耗量の演算を行うコンピュータ装置4で構成されている。
【0018】
オシロ装置2は、送電線15によって繋がる発・変電所(以下、「電気所」という。)のうち、送電元の上位電気所10に備え付けられている。なお、上位電気所10には、PT,CTの電気データ収集手段12を介して収集した電気データを保護継電器13に入力し、保護継電器13は入力した電気データをもとに系統事故を検出して、遮断器11に対してトリップ信号を出力して遮断器11をトリップさせる。
【0019】
下位電気所20も、図示しないが、同様に電気データ収集手段を介して収集した電気データをもとに動作する保護継電器および遮断器を備えている。なお、各電気所に備えられている保護継電器、遮断器、電気データ収集手段については従来の技術を用いることができる。
【0020】
一般に継電方式は、パイロットリレー方式、回線選択リレー方式、距離リレー方式、地絡方向・地絡過電圧の各方式があるが、本実施の形態によるオシロ装置のデータ記録条件として、次の動作条件を用いる。
【0021】
まず、直接接地系の短絡及び地絡については後備保護の距離リレーの動作条件を用いる。また、抵抗接地系については、短絡は距離リレー、地絡は地絡方向および地絡過電圧(地絡方向がない場合は、地絡過電圧のみとする。)の動作条件を用いる。
【0022】
この理由は、パイロットリレーは、自端と相手端との間で故障情報の通信をしており、通信ができなくなると動作しなくなり、回線選択リレーは2回線並用状態で使用でき隣回線遮断器(CB)切の状態では動作しないからである。また、パイロット方式や、回線選択は主保護として採用され線路により異なるが、距離リレーは後備保護として主保護とセットで採用されるため、汎用性が高く、より多くの線路の事故解析が可能となるからである。
【0023】
上述したように、送電線の後備保護としての距離リレーは、短絡についてはインピーダンス型が使用され、地絡については接地方式により異なるが、いずれの型のリレーを用いても区間を同定することができる。距離リレーは、図3に示すように、一般に事故点検出区間が1・2・3段の3つを有し、通常第1段は保護対象送電線のインピーダンスの80%前後の区間(区間1)を保護し、第2段は120%以上の区間(区間2)を保護し、第3段は250%以上の区間(区間3)を保護するように整定される。つまり第2段,第3段は、対向する電気所間の送電線を超えて相手電気所内およびその先の送電線も保護している。
【0024】
通常、相手電気所(下位電気所)内の事故では、相手電気所の構内保護リレーが先行動作し相手電気所側遮断器を遮断し、送電端(上位電気所)の送電線遮断器は動作しない。これは、後備保護リレーのトリップ回路にタイマが設けられており、タイマのタイムアップ後にトリップ信号を出すようになっているからである。
【0025】
しかし、保護リレーは、トリップ信号は出力しないものの事故発生時から動作している。本発明は、この保護リレーの動作信号を用いて、オシロ装置によって電圧、電流などの電気データを記憶するようにしたことが特徴である。
【0026】
たとえば、短絡距離リレーは、図2に示すように、区間ごとに整定された短絡距離リレー(44S)31a〜31cの出力(この出力を「動作信号」という。)が、各短絡距離リレー用の時限リレー(44ST)32a〜32cに入力、これら時限リレー32a〜32cの出力はOR回路33に入力され、各出力のOR条件で遮断器のトリップ信号が出力されている。通常、このトリップ信号をオシロ装置2のトリガとして用いているが、本実施の形態では、下位電気所を含む遠方の区間(区間2,3)の動作信号もオシロ装置2へ渡し、これらの動作信号もオシロ装置2のトリガとして用いる。少なくとも区間2,3の動作信号をトリガとして用いれば足りるが、区間1の動作信号を含めても良い。
【0027】
(オシロ装置の構成)
本実施の形態によるオシロ装置2の構成を図2に示す。
この図において、オシロ装置2は、常時計測を行い、一定時間記憶しておりトリガ発生時設定された漸進時間から記録を開始し設定された遅延時間の経過により記録停止指令を出力する停止タイマ23、夫々の区間と、該区間の異常に起因するトリガ検出後に電気信号の記録を停止するまでの時間である遅延時間とを関連付けて保存する遅延時間テーブル24、トリガ検出後、遅延時間テーブル24を参照して動作信号を出力した区間に対応する遅延時間を停止タイマ23に設定する遅延時間設定手段25、停止タイマ23から記録停止指令を受信するまで電気信号をメモリ循環式で記録する電気信号記録手段22、トリガの要因となった各信号(以下、「トリガ種別」という。)を入力して記録するデジタル入力(DI)手段26、電圧・電流などの電気信号を入力するアナログ入力(AI)手段27、アナログ値をデジタル値に変換するA/D変換手段28を含んでいる。
【0028】
また、保護継電器13の区間は、図3のように整定されており、この場合の遅延時間テーブルに保存されている各区間の遅延時間は、その区間の時限リレーの整定値+cとなっている。また、トリップ信号に対する遅延時間についても遅延時間cとなっている。ここで、cは、予め設定される正の値である。たとえば、第2段距離リレー用の時限リレー32bがB(秒)に整定されている場合、遅延時間テーブル24の区間2の遅延時間は、B+c(秒)になる。なお、cは、トリガ種別によって異なる値としても良い。
【0029】
次に、図4を用いて、オシロ装置2の記録停止処理について説明する。
OR回路29bからトリガ信号が出力されると(S101)、遅延時間設定手段25は、DI手段26からそのトリガ種別(どの区間の動作信号か、あるいはトリップ信号か)を読み出し(S102)、そのトリガ種別に対応する遅延時間を遅延時間テーブル24から読み出して、停止タイマ23にセットし、停止タイマ23を起動する(S103)。これにより停止タイマ23は、初期値として設定された遅延時間の値からデクリメントされ、タイマ値が零、すなわち設定された遅延時間の経過後(S104で「YES」)、電気信号記録手段22に対して記録停止指令を出力する。電気信号記録手段22は、電源投入により、入力した電気信号をAI手段27とA/D変換手段28によってデジタル信号に変換して、メモリ循環形式で常に記録しているが、停止タイマ23から、記録停止指令を受け取ると、記録を停止する(S105)。
【0030】
なお、電気信号の波形やDI手段26を介して入力した信号やトリガ信号の発生時刻は、電波時計21によって時刻付けされて、電気信号記録手段22に記録される。
【0031】
また、停止タイマ23が遅延時間の経過中にさらにトリガ信号が発生した場合は(S104で「NO」,S106で「YES」)、遅延時間設定手段25は、トリガ種別に対応する遅延時間を遅延時間テーブル24から抽出し(S107)、この抽出した遅延時間と現在の停止タイマの値(即ち停止までの残り時間)を比較して、抽出した遅延時間の方が大きい場合は、抽出した遅延時間を停止タイマ23にセットして、起動をかける(S110)。これにより、複数の要因によってトリガが発生した場合でも、その要因に必要な時間分の電気信号を記録することができる。なお、図4のフローチャートには記載していないが、同時に複数の要因によってトリガが発生した場合は、その要因に対応する遅延時間のうち、大きい方を用いるようにすると良い。
【0032】
以上のごとく、トリガ種別とトリガの時刻も記録し、また、トリガ後の記録時間は、それぞれの動作信号に対応する時限リレー(タイマ)の時定数よりも長く設定されているので、相手電気所内の構内事故でも、送電端保護リレーのオシロ装置の記録データから遮断電流を把握することができる。
【0033】
(コンピュータ装置の構成)
図5は、コンピュータ装置4の機能ブロック図である。
コンピュータ装置4は、通信ネットワークと繋がり、伝送装置3から送られてくるデータを受信する伝送部60と、受信したデータをもとに遮断器の接触子消耗量の演算処理を実行する演算部50と、データを記憶する記憶部40と、を有している。
【0034】
また、演算部50は、伝送装置3から送られてくるデータを受信するデータ受信手段51と、受信したデータをもとに動作した遮断器を判定する動作遮断器判定手段52と、オシロ装置2で採取した電気データをもとに遮断電流を演算する遮断電流演算手段53と、動作した遮断器ごとにその遮断電流から当該遮断器の接触子の消耗量を演算する接触子消耗量演算手段54と、を備えている。
【0035】
次に、コンピュータ装置4の動作を説明する。
データ受信手段51は、伝送部60を介して伝送装置3から送られてきたオシロ装置2の記録データを受信すると、記憶部40のオシロデータファイル41へ保存する。
【0036】
(動作遮断器判定処理)
次に動作遮断器判定手段52は、データ受信手段51の受信完了または入力部61からの起動要求によって起動すると、自回線CBトリップしたか否かを判定し、トリップしていなければ、次に2段、3段の動作信号か3段だけの動作信号が発生したか否かを判定する。まず、トリガ後、2段の動作があり、2段タイマー+機器動作時間内に事故電流が解消しておれば、2段区間内で相手端以降の、遮断器が動作したものと判定する。そして、2段の動作信号が無く、3段の動作信号が発生して3段タイマー+機器動作時間内に事故電流が解消していれば、3段区間内の遮断器が動作したものと判定する。
【0037】
なお、事故後、オシロ設置端以外の遮断器の動作状態は、作業員によって確認されるため、入力部61を介して、動作した遮断器の情報を入力するようにしても良い。
【0038】
(オシロデータからの動作遮断器判定処理)
特開2000−227453号公報など従来技術の事故点標定技術を用いて、オシロデータから動作遮断器を判定することができる。以下、動作遮断器判定手段52の判定手順について説明する。
【0039】
まず、送電端のオシロデータにより、事故電流、事故点標定(インピーダンス計算)、事故継続時間により事故点を判定する。
【0040】
図6は、送電端の距離リレーと、相手端受電側の過電流リレー(OC−A)と相手端送電側の過電流リレー(OC−B)の時限協調を表した図である。図6に示すようなリレーの時限協調において、x点で事故が発生した場合、送電端のオシロデータから故障点標定により、a点のインピーダンス(%Z)が演算される。
【0041】
また送電端のオシロデータから、たとえば電圧が所定値以下になっている時間によって、故障継続時間がわかる。この故障継続時間からトリップ信号出力後に経由する補助リレー(図示せず)と遮断器の動作時間を減算することによりリレーの動作時間bを算出できる。
【0042】
送電端のオシロデータの故障電流を用いて構内事故の故障電流を算出し、この故障電流とリレー整定値からリレーの動作時間がわかる。故障電流によるリレーの動作時間と故障継続から求めた動作時間bを比較することで動作したリレーを特定する。これにより、構内事故でもどの遮断器で遮断したかを推定することができる。
【0043】
なお、図6の時限協調でOC−Bが動作しトリップしているとすると、故障継続時間はbよりも短くなるはずである。しかし、オシロデータからの故障継続時間がbということになればOC−BではないためOC−Aでの遮断と判断することができる。
【0044】
また、図7のようなy点で事故が発生した場合、OC−A,OC−Bとも動作しトリップすることになるが、事故点はより下位部分の遮断器となるが遮断電流を遮断したのは、どちらと特定できないため、どちらも同じ電流を切ったこととする。
【0045】
(接触子消耗量演算処理)
接触子の消耗量の把握は遮断電流の大きさで決まるため遮断時の電流がわかればよい。
送電線保護リレーなので自回線送電線事故の遮断電流は、自回線リレー動作+自回線CB動作の条件で把握できる。
【0046】
相手端(受電側電気所)の構内事故では、相手端の送電線リレーは動作しないため、母線やTr1次側事故時にCBが動作してもリレー動作がないため相手端送電線リレーでは、事故電流が記憶されない。
【0047】
しかし送電端(電源側)では、送電線リレーが動作して、オシロ装置2は、事故時のデータを記憶しており、このオシロデータで構内事故の遮断電流を把握することができる。
なお、接触子消耗量の電流データは、遮断器の遮断電流、すなわち遮断直前の電流とする。
【0048】
動作遮断器判定手段52は、動作した遮断器を判定すると、図8に示す接触子データファイル中の遮断器の動作回数をインクリメントする。次に、接触子消耗量演算手段54は、オシロデータから遮断電流を演算し、接触子データファイル43に保存する。
そして、この最大電流を遮断電流として、次の式で消耗量を計算する。消耗量の計算は、従来の技術による。(たとえば、特開2007−149458号公報参照)
なお、次のように、消耗量を表す相対量として管理するようにしても良い。
【0049】
Vを消耗量、Iを遮断電流、tをアーク時間、α,βを接触子の材料で決まる係数としたとき、消耗量Vを次の式で表す。
V=α・Iβ・t
【0050】
なお、α,tを定数とし、n回遮断した場合の消耗量Vと遮断電流の関係式から、消耗量を表す相対量Aを次の式で求めることができる。
A=V/(α・t)=Iβ・n
【0051】
この消耗量を表す相対量Aで遮断器接触子の消耗量を管理するようにしても良い。
図8に接触子データファイルの例を示す。定格遮断電流を31.5kA、定格遮断電流規定回数を10回、メーカ設定値である定数βを1.2としたときの表である。この表において、遮断電流は、オシロ装置2の記録データから求めるが、記録データが無い場合は、該当年度計算の最大値を用いるようにしても良い。
【0052】
(他の実施例による遮断電流演算処理)
次に、他の実施例として、下記の例による平行2回線の場合の判定処理について説明する。この中で説明する故障点標定はすべてオシロデータより演算するものとする。これらの判定ルールは系統構成ごとに、判定ルールを定義して判定ルールファイル42に保存しておくようにしても良い。
【0053】
(事故例1)
図9に示す系統において、AB線1Lで事故が起こった場合は、事故点がどこでも、A変、B変、C変の線路リレーが動作し遮断器A−1,B−1,C−1が動作し遮断するので各遮断器の遮断電流はオシロデータよりC変迂回電流I3を次式で算出する。
I3={I2・(Z2+Z5+Z4)−I1・Z1}/(Z3+Z4+Z5)
【0054】
ここで、Z1はAB線1LのA変からC変分岐点までのインピーダンス、Z2はAB線2LのA変からC変分岐点までのインピーダンス、Z3はAB線1LのC変分岐点から事故点までのインピーダンス、Z4はAB線1Lの事故点からB変までのインピーダンス、Z5はAB線2Lの事故点からB変までのインピーダンス、Z6はAB線1LのC変分岐点からC変までのインピーダンス、Z7はAB線2LのC変分岐点からC変までのインピーダンスである。
【0055】
A変A−1の遮断電流I1は1Lオシロデータの電流、B変B−1の遮断電流はA変2Lオシロデータの電流I2からI3を引いた値で(I2−I3)、C変C−1の遮断電流はI3となる。
【0056】
(事故例2)
図10に示す系統でB変母線事故が発生した場合、A変が電源端となりA変AB線1L,2L両方のリレーが動作するが、通常B変構内保護OCリレーにより遮断器B−1、B−2が先行遮断し、A変、C変の遮断器は動作しない。
【0057】
通常AB線1L,2Lとも線路インピーダンスに差がほとんどなくC変分岐線もインピーダンスの差がほとんど無いため、C変には迂回する電流がほとんど流れずC変線路リレーは動作しない。
【0058】
C変線路リレー動作なしでは、A変AB線1Lオシロデータの電流がB−1遮断器の遮断電流となり、A変AB線2Lオシロデータの電流がB−2遮断器の遮断電流となる。
【0059】
仮にAB線1L,2Lのインピーダンスに差がありC変を迂回した電流があれば事故時の線路インピーダンスと、A変オシロデータよりC変迂回電流I3を求めB変B−1、B−2の遮断電流を求める。
【0060】
・I3がAB線1LからAB線2L方向の場合は、次の式によってI3を算出する。
I3=(I2・Z2−I1・Z1)/(Z5+Z6)
このとき、遮断器B−1の遮断電流はI1−I3となり、遮断器B−2の遮断電流はI2+I3となる。
【0061】
・I3がAB線2LからAB線1L方向の場合は、次の式によってI3を算出する。
I3=(I1・Z1−I2・Z2)/(Z5+Z6)
このとき、遮断器B−1の遮断電流はI1+I3となり、遮断器B−2の遮断電流は(I2−I3)となる。
【0062】
(事故例3)
図11(a)の系統において、B変母線事故が発生した場合、A変,C発が電源端となりA変AB線1L,2Lはオシロが設置されデータはあるがC発はオシロが設置されていない。この場合は、以下のように遮断器B−2の遮断電流を推定することができる。
【0063】
図11(b)において、AB線1LのインピーダンスをZ1、AB線2LのA変からC発分岐までのインピーダンスをZ2、AB線2LのC発分岐からB変までインピーダンスをZ3、AB線1Lの電流をI1、AB線2Lの電流をI2、C発からの電流をI3としたとき、インピーダンスZ1,Z2,Z3は線路インピーダンスで既知、電流I1と電流I2は線路リレー動作で電流がわかるため、電流I3が解れば遮断器B−2の遮断電流が求まることになる。電流I3は次の式で算出することができる。
I3={I1・Z1−I2・(Z2+Z3)}/Z3
そして、電流I1は遮断器B−1の遮断電流であり、電流I2+I3は遮断器B−2の遮断電流になる。
【0064】
B変構内事故の場合で変圧器内部事故以外は、A変からのインピーダンスは線路インピーダンスと等しい。しかしながら、図11(c)に示すようにC発から故障電流I2が流れるとA変のリレーは分流効果によりさらに見かけ上インピーダンスが大きくなり遠方の事故と判定する。この分流効果により見かけ上大きくなったインピーダンスから電流I2を求めれば、電流I1と電流I2の和が遮断器B−2の遮断電流になる。
【0065】
すなわち、ZAをA変リレーが見るインピーダンスとすると、分流効果の式は次のようになる。
ZA=Z2+Z3・{(I1+I2)/I1}
∴I2={ZA―(Z2+Z3)}・I1/Z3
【0066】
なお、電流I1は、A変の送電線オシロデータよりわかるため計算不要であり、電流I1+I2が遮断器B−2の遮断電流となる。
【0067】
また、C発分岐〜B変間の事故では、C発が発電中では事故点までのインピーダンスが分流効果により不明となる。C発が自社施設なら発電機のリアクタンスも把握できておりC発〜分岐までのインピーダンスも把握できる。A変の背後電源のインピーダンスがわかれば、A変から流れる故障電流と同じとなるインピーダンスを求められ事故点とC発からの故障電流を求めることができる。
【0068】
事故時のA変の電圧は事故点のインピーダンスと事故点からA変までの線路インピーダンスできまる。A変の後ろに大きな発電機があるとしこの発電機と発電機からA変までにもインピーダンスがありこれらを背後電源とよぶが背後電源は事故発生前の健全電圧で故障電流がA変まで流れる間の電圧降下でA変電圧が低くなる。
【0069】
いま、事故発生直前の電圧をVB、事故時の電圧をVΦS、A変リレーが見るインピーダンスをZA、A変背後電源インピーダンスをZGAとしたとき、次の式でA変背後電源インピーダンスZGAを算出することができる。
ZGA=(VB/VΦS)・ZA−ZA
【0070】
このA変背後電源インピーダンスが解れば、分岐までの全てのインピーダンスがわかっており、後は分岐より先で事故時にA変に流れた故障電流と同じになるインピーダンスを求めればよい。
【0071】
ただし事故点のインピーダンスが大きいと線路上の正確な位置が不明となるため、計算で求められたC発からの故障電流で、インピーダンスZAの分流効果分を補正して事故点の位置を補正する。
【0072】
・C発の送電線遮断器の遮断電流の把握
C発分岐からB変側の事故は上記の方法で故障電流を求める。C発分岐からA変側では、分流効果はないため、A変からの標定距離からC発から事故点までのインピーダンスが求まりC発からの故障電流が求まる。
【0073】
C発分岐線の事故では、A変からでは、B変側かC分岐線かの判定はできない。このような時は、発雷中なら雷監視装置を活用し、事故点がどちらか特定する等、多角的解析によりどちらの線路かを判定する。
【0074】
中小水力発電所では、故障電流が小さく短絡リレーの動作よりも、A変送電線リレー遮断後に単独運転防止により発電機並列遮断器が先行遮断した後に、全停遮断により送電線遮断器が遮断することがあり、このとき送電線遮断器は無負荷で遮断しているので状変記録等をよく確認すると良い。
【0075】
また、送電線事故時の遮断電流は、定格に比べかなり小さいことが多く、この場合外部事故の遮断については考慮しなくても接触子の消耗量把握には影響しないことがい多いので、C発の送電線遮断器は構内事故の電流だけを管理するのも簡素化できて良い。
【0076】
(事故例4)
図12に示す系統において、B変の変圧器1次事故が発生した場合、A変が電源端となりA変AB線1、2L両方のリレーが動作するが、通常B変の変圧器保護OCリレーにより遮断器B−3が先行遮断しA変、C変の遮断器は動作しない。
【0077】
このとき、A変AB線1Lリレーの電流とA変AB線2Lリレー電流の和が遮断器B−3の遮断電流となる。
【0078】
(構内事故判定)
電気所構内向けリレーは、反限時が多く短絡地絡事故時、故障点抵抗が大きいと事故電流が充分に流れないため動作が遅くなり送電端がトリップすることがある。
【0079】
図11のような2回線平行の送電線の1回線分岐では、電気所構内事故でも事故点を分岐付近と標定するため構内か分岐線の事故かを区別するのが困難である。このため、送電端の事故データより、構内事故時に充分動作する電流が流れたか判定し構内事故か判定する。
【0080】
すなわち、遮断電流が予め定めた一定値以上で、かつ送電端がトリップした場合は、構内事故ではないと判定する。遮断電流が一定値未満で、かつ送電端トリップなしの場合は、構内事故と判定する。また、遮断電流が一定値未満で、かつ送電端トリップの場合は、構内事故の可能性ありと判定する。
【0081】
以上、本実施の形態によれば、上位の電気所に設置したオシロ装置のデータによって下位の電気所の遮断器の接触子の消耗量を演算するので、オシロ装置の設置数を低減でき、低コストで接触子の消耗量を管理することができる。また、通信ネットワークを用いて自動的に上位電気所から消耗量の演算に必要な電気データを収集することにより効率的な接触子の消耗量の管理が可能になる。
またオシロ装置のかわりに、送電線リレーをオシロ装置の代わりとして、データを収集して活用することも可能である。そうすれば、オシロ装置が無くても同じレベルでの接触子の消耗量を管理することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 遮断器の接触子消耗量管理システム
2 オシロ装置
3 伝送装置
4 コンピュータ装置
5 通信ネットワーク
10 上位電気所
11 遮断器
12 電気データ収集手段
13 保護継電器
14 過電流リレー(OCリレー)
15 送電線
20 下位電気所
21 電波時計
22 電気信号記録手段
23 停止タイマ
24 遅延時間テーブル
25 遅延時間設定手段
26 DI手段
27 AI手段
28 A/D変換手段
29a,29b OR回路
31a,31b,31c 距離リレー
32a,32b,32c 時限リレー(タイマ)
33 OR回路
40 記憶部
41 オシロデータファイル
42 判定ルールファイル
43 接触子データファイル
50 演算部
51 データ受信手段
52 動作遮断器判定手段
53 遮断電流演算手段
54 接触子消耗量演算手段
60 伝送部
61 入力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電系統の電圧・電流を含む電気信号を記録し、距離リレーのトリップ信号をトリガとして、あらかじめ設定されたトリガ発生前時間(以下漸進時間という)からトリガ発生後一定時間経過後の間の電気信号を記録し停止するオシロ装置と、該オシロ装置の記録データを送信する伝送装置と、該伝送装置から通信ネットワークを介して送られてきた前記オシロ装置の記録データを受信し、該記録データをもとに遮断器の接触子消耗量を演算するコンピュータ装置と、を有する遮断器の接触子消耗量管理システムであって、
前記距離リレーは、電気信号をもとに送電系統における前記距離リレーと前記オシロ装置の設置された電気所、および下位の電気所を含む所定の区間ごとに異常を検出して動作信号を出力すると共に、動作信号出力後に前記区間ごとに予め定められた時間経過後にトリップ信号を出力し、
前記オシロ装置は、常時記録計測を行い夫々の区間とトリガ検出後、漸進時間からトリガ検出後一定時間の間の電気信号を記録し停止するまでの時間である遅延時間とを関連付けて保存する遅延時間テーブルと、トリガ検出後、該遅延時間テーブルを参照して動作信号を出力した区間に対応する遅延時間を設定し、該遅延時間の経過により記録停止指令を出力する停止タイマと、該停止タイマから記録停止指令を受信するまで電気信号をメモリ循環式で記録する電気信号記録手段と、を備え、前記停止タイマは、トリガ検出後、遅延時間の経過前に再びトリガを検出することにより、該トリガの要因となった動作信号の区分に対応する時間をタイマに設定してリスタートし、
前記コンピュータ装置は、前記伝送装置から送られてくる前記オシロ装置の記録したデータを受信するデータ受信手段と、前記送電系統の各電気所に設置された遮断器であって、動作した遮断器を判定する動作遮断器判定手段と、前記動作遮断器判定手段によって判定された遮断器ごとに、前記記録データを用いて該遮断器の接触子損耗量を演算する接触子消耗量演算手段と、を備えたことを特徴とする遮断器の接触子消耗量管理システム。
【請求項2】
前記遅延時間テーブルに保存される遅延時間は、区間の距離リレー用時限リレーの整定値よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の遮断器の接触子消耗量管理システム。
【請求項3】
前記コンピュータ装置の前記動作遮断器判定手段は、二以上の区間について距離リレーの動作信号が出力された場合は、当該二以上の区間の夫々について遮断器の接触子消耗量を演算することを特徴とする請求項1または2に記載の遮断器の接触子消耗量管理システム。
【請求項4】
前記コンピュータ装置の前記動作遮断器判定手段は、距離リレーの動作区間が相手端を含む区間であり、前記オシロ装置の記録データによって演算した遮断電流の大きさが所定値未満である場合は、相手端の母線事故であると判定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の遮断器の接触子消耗量管理システム。
【請求項5】
前記コンピュータ装置の前記遅延時間設定手段は、デジタル入力手段を介して入力した前記距離リレー用の時限リレーの整定値に一定値を加えた値を前記遅延時間テーブルの該距離リレーの区間に対応する遅延時間として設定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の遮断器の接触子消耗量管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−73782(P2013−73782A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211972(P2011−211972)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】