遮水工に用いられる変形追随遮水材、及び、この変形追随遮水材を用いた遮水構造
【課題】ベントナイトの膨潤性を活用した変形追随性遮水材の施工において、充填時の圧送及び充填に適した流動性を得るために加える水の量を抑制する。
【解決手段】本発明の変形追随遮水材は、遮水工に用いられるものであり、荷重が加わることで変形し得る遮水箇所に充填される。そして、この変形追随遮水材は、ベントナイトとフライアッシュとを含有する粉体に水を加えて混練した混練物からなることを特徴としている。このベントナイトは、Na型ベントナイトであることが好ましい。また、粉体は、ベントナイトを質量比で粉体全体量の25%未満の量含有し、残余がフライアッシュであることが好ましい。
【解決手段】本発明の変形追随遮水材は、遮水工に用いられるものであり、荷重が加わることで変形し得る遮水箇所に充填される。そして、この変形追随遮水材は、ベントナイトとフライアッシュとを含有する粉体に水を加えて混練した混練物からなることを特徴としている。このベントナイトは、Na型ベントナイトであることが好ましい。また、粉体は、ベントナイトを質量比で粉体全体量の25%未満の量含有し、残余がフライアッシュであることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベントナイトの膨潤性を活用した遮水工に用いられ、荷重が加わることで変形し得る遮水箇所に充填される変形追随遮水材、及び、この変形追随遮水材を用いた遮水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
管理型産業廃棄物最終処分場などの遮水工においては、鋼管矢板等の締切り部材の充填材として、遮水性及び変形追随性を有する変形追従性遮水材を用いることで、締切り部材が微小変形しても、長期間に亘り遮水性を確保することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、寒天やゼラチンといった親水性材料のゲル化物に、ベントナイトを添加及び混合したものを、山留め壁材と地盤との間に充填する山留め壁の地中止水工法が記載されている。
【0004】
また、上記の変形追随性遮水材には、土質系、アスファルト系、セメント系に属するものがあるが、特に海面処分場の側面遮水工においては、ベントナイトを含有する土質系の変形追随性遮水材が用いられている。
【0005】
例えば、特許文献2には、含水比100〜300の海成粘土懸濁液100容量部にベントナイトを5乃至50重量部添加して、ゲル状物質に改質した変形追随遮水材が記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、砂とベントナイトとを含有する変形追随性遮水材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−143308号公報
【特許文献2】特開2004−322096号公報
【特許文献3】特開2008−43845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の変形追随遮水材は、混練後に圧送されて遮水箇所に充填されるため、施工(圧送や充填)に適した流動性を備えている必要がある。ここで、流動性を高めるためには混練時に加える水の量を増やせばよいが、単に水の量を増やしただけでは、混練物における固化成分の密度が不足し、水中充填時には浮力の影響を大きく受け、施工性が損なわれてしまう。また、充填された遮水材の時間経過に伴う乾燥収縮や、遮水材の自重による圧密沈下によって上部に空間が生じ、それを補うための追加充填を余儀なくされることもある。従って、必要な流動性を得るために加える水の量は、できるだけ少ないことが望ましいといえる。
【0009】
ここで、引用文献1に親水性材料として記載されている寒天やゼラチンを用いた場合、含水比が過度に高くなってしまうことが懸念され、また有機物質を用いることは生分解による変質や機能低下が懸念される。また、引用文献2に記載されている海成粘土を用いた場合、この海成粘土は様々な粘土鉱物を含んでおり、粒子形状も様々であることから、品質管理、材料選定が複雑で難しく、さらに粘土粒子によって流動性が損なわれてしまうことも懸念される。また、引用文献3の遮水材は、砂を含むため比重を容易に高めることができるが、角張っている砂粒子を含むため流動性が損なわれてしまったり、圧送時において配管内壁が削られてしまったりすることが懸念される。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その課題は、ベントナイトの膨潤性を活用した変形追随性遮水材の施工において、圧送や充填に適した流動性を得るために加える水の量を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明は、遮水工に用いられ、荷重が加わることで変形し得る遮水箇所に充填される変形追随遮水材を、ベントナイトとフライアッシュとを含有する粉体に水を加えて混練した混練物によって構成した。
【0012】
本発明によれば、吸水性をほとんど有さないフライアッシュが混練物に含まれることから、混練物における含水比をフライアッシュの分だけ低減させることができ、かつ、このフライアッシュは球形の微粒子であることから、いわゆるベアリング効果によって流動性を確保することができる。
【0013】
本発明において、前記ベントナイトをNa型ベントナイトとすれば、水中でのコロイド分散性が他の型(例えばCa型)のベントナイトに比べて優れていることから、均質性の高い遮水性能を得ることができる。
【0014】
本発明において、前記粉体中の前記ベントナイトの含有量を質量比で粉体全体量の25%未満とした場合には、施工後における圧密沈下を、ベントナイトのみで作製された変形追随遮水材よりも少なくすることができる。
【0015】
本発明において、前記粉体中の前記ベントナイトの含有量を質量比で粉体全体量の10%以上20%以下とした場合には、含水比を100%未満にしても所定の流動性を得ることができる。
【0016】
本発明において、前記フライアッシュを、酸洗浄によって表面のアルカリ成分を除去した洗浄フライアッシュとした場合には、ベントナイトの分散性を維持しつつ、混練物の含水比を低減させることができる。
【0017】
また、本発明は、遮水壁を構成する第1遮水部材と第2遮水部材との継手部分に、変形追随遮水材を充填した遮水構造であって、前記変形追随遮水材を、ベントナイトとフライアッシュとを含有する粉体に水を加えて混練した混練物で構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ベントナイトの膨潤性を活用した変形追随性遮水材の施工において、圧送や充填に適した流動性を得るために加える水の量を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】変形追随遮水材の作製工程を説明する図である。
【図2】洗浄フライアッシュの物理的性質を説明する図である。
【図3】洗浄フライアッシュの化学的性質を説明する図である。
【図4】洗浄フライアッシュの粒度分布を説明する図である。
【図5】ベントナイトの性質を説明する図である。
【図6】混合ペーストの微細構造モデルを説明する図である。
【図7】ベントナイト量と液性限界・塑性限界の関係を説明する図である。
【図8】試料(混合ペースト)の液性限界におけるベントナイト部分の含水比を説明する図である。
【図9】液性限界の試料におけるベントナイト量と湿潤密度及び乾燥密度の関係について説明する図である。
【図10】液性限界時のベントナイト量と間隙比及び飽和度の関係について説明する図である。
【図11】フライアッシュ粒子のみを固形分とみた場合の間隙比及び間隙率を説明する図である。
【図12】各配合ケースの圧密沈下曲線を説明する図である。
【図13】ベントナイト量と圧縮ひずみの関係を説明する図である。
【図14】ベントナイト量と体積圧縮係数の関係を説明する図である。
【図15】ベントナイト量と圧密係数の関係を説明する図である。
【図16】ベントナイト量と透水係数の関係を説明する図である。
【図17】ベントナイト量と10%の混合ペーストとベントナイト量と100%のものの特性を比較した図である。
【図18】海面埋立処分場を説明する断面図である。
【図19】鋼管矢板の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。まず、図1に基づき、変形追随遮水材(以下、単に遮水材という)の作製について説明する。
【0021】
本実施形態の遮水材は、フライアッシュを原料として使用する。原料となるフライアッシュは、豪州産の石炭を某火力発電所の微粉炭燃焼炉で燃焼し、湿灰(多くは含水比が20%前後)で取り出されたものである。ここでは、豪州産の石炭によるフライアッシュを用いたが、石炭火力発電所から発生する石炭灰は、ほぼ全て原料として用いることができる。
【0022】
このフライアッシュは、水溶性のアルカリ金属やアルカリ土類金属のアルカリ成分を少量含むため、アルカリ性を呈する。また、ホウ素、砒素、セレンなどの重金属を微量含む場合がある。そして、これらのアルカリ成分や重金属は、その大部分がフライアッシュの表面に存在するという知見がある。このため、遮水材を作製するに際しては、まずフライアッシュの表面を酸で溶解し、アルカリ成分や重金属を抽出する(S1)。
【0023】
すなわち、このステップS1では、水道水に硫酸を投入して0.8Mの希硫酸(洗浄液)を作製し、希硫酸とフライアッシュとを質量比が1:1となるように抽出槽(図示せず)へ投入し、この抽出槽で攪拌混合する。これにより、フライアッシュ表面の極めて薄い層が希硫酸によって溶解し、溶出性を有するアルカリ成分や重金属をフライアッシュから除去する。
【0024】
次に、抽出槽で得られたスラリー(フライアッシュと希硫酸の混合物)に対し、すすぎ及び脱水を行う(S2)。このステップS2では、スラリーを遠心脱水機(図示せず)に移し、すすぎ水を供給しながら遠心脱水機を動作させ、スラリーに対する個液分離とすすぎ洗浄とを同時に行う。これにより、遠心脱水機における固形側には水分を含んだ状態の洗浄フライアッシュが残り、液側には重金属を含んだ酸性排液が排出される。そして、洗浄フライアッシュは炉乾燥によって乾燥状態とされる。
【0025】
このようにして得られた洗浄フライアッシュは、図2に示す物理的特性及び図3に示す化学的特性を有する。また、図4に示す粒度分布を有する。
【0026】
物理的特性に関し、粒子密度、かさ密度、及びタップ密度は、株式会社セイシン企業の商品名「マルチテスターMT1001」を用いて測定した。粒子硬度は、同社の商品名「ベターハードネステスターBHT−500」を用いて測定した。粒子平均径は、レーザー回折・散乱法によって測定した。比表面積はN2ガス吸着法によって測定した。ブレーン値は、JIS R 5201に従って測定した。化学的特性に関し、化学組成は蛍光X線法によって測定した。フライアッシュで問題化し易い溶出項目については、環境省告示第46号に従って測定した。
【0027】
洗浄フライアッシュの粒子密度は、2.21g/cm3であった。粒径は、レーザー回折・散乱法によって測定したことから体積百分率であるが、それぞれの粒子密度がほぼ一定であると仮定すれば、質量百分率として評価できる。そして、粒径は、0.2〜180μmの範囲(D50=10μm)に分布している。図4に示すように、粒径が75μmよりも大きい砂分は約10%であり、粒径が5〜75μmの範囲であるシルト分が73%と大半を占めていた。
【0028】
なお、フライアッシュの酸洗浄により、フライアッシュ粒子における表面の薄層が溶解されること、酸洗浄に伴うフライアッシュ粒子の粒径変化は非常に小さいこと、酸洗浄後のフライアッシュ粒子は耐酸性を有する堅牢な結晶鉱物(ムライト,石英など)からなることが、本発明者等において確認されている(第52回粘土科学討論会講演要旨集,第128〜129頁)。
【0029】
かさ密度及びタップ密度のそれぞれは地盤工学における砂の最小密度、最大密度に対応するが、試験方法が異なる。洗浄フライアッシュのかさ密度は0.79g/cm3(間隙率64%、間隙比1.78)であり、タップ密度は1.11g/cm3(間隙率50%、間隙比1.0)であった。また、液性限界及び塑性限界は、JIS A 1205の方法でいずれもNP(non-plastic)と判定され、かなり低い塑性を示した。
【0030】
pHは1:1懸濁液のpHを測定した。洗浄フライアッシュにおけるpHは8.5と中性〜弱アルカリ性の領域にあった。酸洗浄をする前のフライアッシュにおけるpHが12前後であったことから、酸洗浄を行うことにより、フライアッシュ粒子の表層に存在する溶出性のアルカリ金属やアルカリ土類金属の大部分が除去されたことが判る。
【0031】
洗浄フライアッシュの強熱減量は約3%であった。これは、元のフライアッシュに含まれていた未燃カーボンが少し残留していたこと、酸洗浄に伴って少量生成される二水石膏が少し残留していたことによると考える。
【0032】
洗浄フライアッシュの化学組成は、SiO2とAl2O3の合計が93%と大半を占めている点は元のフライアッシュと変わらない(元のフライアッシュの化学組成値は記載を省略した)。しかし、アルカリ及びアルカリ土類金属は元のフライアッシュに比べて大幅に減少している。また、洗浄フライアッシュにおける重金属等の溶出値に関し、ホウ素及びフッ素は元のフライアッシュに比べて大幅に減少し、砒素とセレンも元のフライアッシュに比べて減少し、何れも環境基準をクリアするまでになった。なお、六価クロムは、洗浄フライアッシュ及び元のフライアッシュの何れも検出限界以下であった。これらの溶出値の結果はいずれも土壌環境値をクリアするものである。
【0033】
図1に示すように、洗浄フライアッシュが得られたならば、この洗浄フライアッシュとベントナイトをドライミックスする(S3)。例えば、洗浄フライアッシュとベントナイトとを、所定の質量比となるようにビニール袋に入れ、袋の口を閉じた状態で激しく振り混ぜる。これにより、乾燥状態の洗浄フライアッシュとベントナイトとが混合された状態になる。なお、ドライミックスに関しては、種々の手法を採ることができる。
【0034】
混合されるベントナイトは、モンモリロナイトを主要粘土鉱物としている。この実施形態では、米国ワイオミング州産のNa型ベントナイト、具体的には、立花マテリアル株式会社の商品名「スーパークレイ」を用いた。このベントナイトは、図5に示す物理的・化学的性質を有する。ベントナイトの品質項目で一般に重視される膨潤力は、日本ベントナイト工業会の容積法で測定した。この容積法は、水100mLを入れた100mLメスシリンダーに、試料2gを少量ずつ加え、24時間静置後における試料の見掛けの沈降容積を読み取るものである。結果は、25〜26mL/2gと高い膨潤性を示した。
【0035】
洗浄フライアッシュとベントナイトとから混合粉体を得たならば、この混合粉体に水を加えて混練する(S3)。この混練作業では、所定量の水道水を少しずつ混合粉体に加え、ペースト状になるまで混ぜ込む。これにより、洗浄フライアッシュとベントナイトに水を加えて混練した混合ペースト、すなわち変形追随遮水材が得られる。洗浄フライアッシュを主体に少量のベントナイトを配合して得られた変形追随遮水材では、例えば図6に示すように、フライアッシュ粒子同士が相互に緩く接触しており、その間隙をベントナイトペーストが満たしていると考えられる。そして、ベントナイトペーストのレオロジー特性とフライアッシュ粒子の球形効果とによって、圧送や充填に適した所要の流動性を確保できる。また、フライアッシュ粒子相互の緩い骨格形成によって、載荷に伴う圧縮ひずみは抑制され、圧密時間も短くて済む。さらに洗浄フライアッシュのpHは中性領域であるため、変形追随遮水材として使用した場合、ベントナイトに対して長期変質を引き起こす不具合も抑制できる。
【0036】
この変形追随遮水材(混合ペースト)において、混合粉体における洗浄フライアッシュとベントナイトの比率は、遮水材の特性を決定付ける重要な要素である。そこで、混合粉体における洗浄フライアッシュとベントナイトの質量比を変えた複数のサンプルを作製し、各種の特性試験を行った。以下、特性試験について述べる。
【0037】
まず、サンプルの調整について説明する。この特性試験では、洗浄フライアッシュとベントナイトを質量比でそれぞれ100:0(洗浄フライアッシュ単体),90:10,85;15,80:20,75:25(ベントナイトが質量比で粉体全体量の25%),50:50,25:75,及び0:100(ベントナイト単体)の計8ケースの配合とし、それぞれ1つのビニール袋に採取した。その際、洗浄フライアッシュは110℃炉乾燥質量とし、ベントナイトは商品のまま(含水比約10%)の質量とした。ビニール袋に空気を吹き込み、ビニール袋を膨らませた状態で激しく振って洗浄フライアッシュとベントナイトをドライミックスした。
【0038】
次に、袋内の混合粉体をソイルミキサーに移し、水を少量ずつ加えて混合粉体が飛び散らないようにして混練し、洗浄フライアッシュとベントナイトの少なくとも一方を含有する複数種類の混合ペーストを調整した。なお、ソイルミキサーによる混練時において、塑性限界或いは液性限界よりそれぞれ少し低めの含水状態になったときに、混合ペーストを試料として採取した。そして、少量ずつ加水を繰り返し、JISの方法に準じて塑性限界試験及び液性限界試験を実施した。
【0039】
また、含水比を液性限界にあわせた試料について、密度試験及び圧密試験を行った。ここで、水分条件を液性限界に設定した理由は、ブリーディング(含有水の上昇分離)や材料分離が殆ど生じず、ポンプ圧送や細部への充填・打設が円滑にできるコンシステンシーとして、施工に適した含水レベルと考えるからである。なお、施工に際しては、圧送距離やポンプ能力などにより、液性限界の含水比ではやや硬すぎて、液性限界よりも少し高い(10%程度)含水比に設定する場合もあるが、この実験結果の趣旨、結論を左右することはない。
【0040】
湿潤密度は、容器法によって測定した。すなわち、100mL容器に試料を気泡が入らないように詰めて質量を測定することで密度を測定した。圧密試験は、JIS A 1217の方法をベースとして行った。
【0041】
圧密試験では、次の2点についてJIS A 1217の方法から変更をした。1つは、直径6cm,高さ2cmの圧密容器に対して試料を高さ1cmとなるように詰めたことである。すなわち、JISの方法で規定されている初期高さの1/2の初期高さで圧密を開始した。これは、試料がベントナイトを含む難透水材料であり、一次圧密の終了まで長時間を要することから、試験時間の短縮を目的として変更した。もう1つは、圧密荷重を10kN/m2と20kN/m2の比較的小さい2段階のみとし、一次圧密の終了点を十分に上回る時間(150時間程度)まで載荷を継続したことである。これは、変形追随遮水材として使用する際に、この遮水材対して自重以外の荷重があまりかからず、かつ、大部分が水中(地下水位以下)での適用となることを想定するからである。すなわち、この試験では、液性限界に比較的近い含水レベルでの圧密特性を評価することに主眼をおいた。
【0042】
以下、試験結果について説明する。まず、コンシステンシー及び密度について説明する。図7は、ベントナイト量と液性限界・塑性限界の関係を説明する図である。塑性限界は21〜37%の範囲にあり、ベントナイト量にそれほど影響されなかった。一方、液性限界は、ベントナイト量の減少(すなわち洗浄フライアッシュ量の増大)に伴って大幅に低下した。例えば、ベントナイト量100%の場合における液性限界は524%であったが、ベントナイト量10%の場合における液性限界は約1/10の51%になった。この現象は、ベントナイトの液性限界が洗浄フライアッシュの液性限界を大きく上回っているために生じたと考えられる。
【0043】
試料(混合ペースト)の液性限界がベントナイトの量によってほぼ支配されていると考えられることから、フライアッシュ粒子による直接の吸水量をゼロと仮定し、試料の液性限界におけるベントナイト部分の含水比を算定した。結果を図8に示す。
【0044】
ベントナイト量50〜100%におけるベントナイトの含水比は510〜550%であった。一方、ベントナイト量15〜25%におけるベントナイトの含水比は380〜440%に低下した。ベントナイトの含水比が低下しているにも拘わらず液性限界を示していることから、ベントナイト量25%を下回ったあたり(洗浄フライアッシュ量75%以上)で、ペーストの流動メカニズムとして、フライアッシュ粒子相互のベアリング効果も顕在化した可能性が考えられる。
【0045】
なお、ベントナイト量10%では、再びベントナイトの含水比が500%以上と高くなっているが、このあたりではペーストの液性限界の結果が10倍になって現れるため、試験精度を含めた検証が必要と考える。
【0046】
次に、洗浄フライアッシュ単体の液性限界について考察する。図7の曲線の延長から、洗浄フライアッシュの液性限界は35%付近にあると推定される。実際に、洗浄フライアッシュ量100%の試料で液性限界試験を行った際、落下回数3回(その時の含水比37%)までは溝切りができたが、それ以下の含水比では急にパサパサした感じが強まって溝を切れなくなった。このことから、液性限界が35%付近にある可能性は高いと考えられる。ここで、液性限界時における試料の飽和度が100%であると仮定すると、液性限界(35%)の時の間隙比は0.77となる。この間隙比の値は、図2のタップ密度(1.11g/cm3)から計算される間隙比1.00に比べてさらに小さい。これは、洗浄フライアッシュの充填において水締めの効果が非常に大きく効いているためと考える。
【0047】
石炭灰のコンシステンシー評価に関して、フォールコーン試験で貫入量11mmの時の含水比が流動限界と一致し、6種の石炭灰において流動限界が20〜45%の範囲に分布するという知見がある。流動限界は液性限界とほぼ対応すると考えられることから、この知見は上記の液性限界の推定結果と符合するものと考える。
【0048】
次に、液性限界の試料におけるベントナイト量と湿潤密度ρt及び乾燥密度ρdの関係について説明する。図9はこの関係を説明する図である。湿潤密度ρtは、試料中のベントナイト量の減少(フライアッシュ量の増大)に伴って大幅に増大する。湿潤密度の増大率が特に顕著となるのは、ベントナイト量が50%から20%に減少する時である。粒子密度では、ベントナイトの方が洗浄フライアッシュよりも大きな値であるが、液性限界時にベントナイトが大量の水を吸収するため、図9のような結果を示す。
【0049】
また、液性限界時の乾燥密度ρdは、湿潤密度ρtと同様の傾向であるが、ベントナイト量の影響をもっと強く受ける。例えば、ベントナイト量100%の試料における乾燥密度ρdは0.18g/cm3と小さいが、ベントナイト量10%の試料における乾燥密度ρdは1.05g/cm3とかなり高い値を示す。
【0050】
次に、液性限界時のベントナイト量と間隙比及び飽和度の関係について説明する。図10はこの関係を説明する図である。間隙比は、ベントナイト量100%の時に14.3であったのに対し、ベントナイト量10%の時に1.2であり、ベントナイト量の減少に伴って大幅に低下した。飽和度は、若干のばらつきがみられるが、ベントナイト量にかかわらず、いずれも100%前後であった。
【0051】
図11は、フライアッシュ粒子の充填状態を把握するため、フライアッシュ粒子のみを固形分とみた場合の間隙比及び間隙率を算定した結果を説明する図である。洗浄フライアッシュ量が90%、ベントナイト量が10%の場合の洗浄フライアッシュからみた場合の間隙比は1.35であった。この間隙比1.35という値は、洗浄フライアッシュにおける推定液性限界での間隙比0.77よりも大きいが、タップ密度1.11g/cm3(間隙比1.0)とかさ密度0.79g/cm3(間隙比1.78)のほぼ中間に相当する。このことから、ベントナイト量10〜15%(洗浄フライアッシュ量90〜85%)の時の液性限界の試料(混合ペースト)は、フライアッシュ粒子がやや緩い状態ではあるが相互に接触した状態となり、フライアッシュ粒子が骨格構造(灰粒子骨格構造)を形成していると推定される。
【0052】
次に、圧密沈下特性について説明する。図12は、前述した8ケースの配合に関する、液性限界状態の試料の時間−圧密沈下量曲線である。この試験における圧密圧力は10kN/m2であり、圧密試料の初期高さはいずれも10mmである。また、洗浄フライアッシュ100%のケースでは、液性限界に近い含水比として37%を選定し、試験を行った。なお、圧密試験において、第二段階載荷として圧密圧力を20kN/m2にした試験も実施したが、初期試料高さが小さかったこともあり、必ずしも明瞭な結果が得られなかったので、説明は省略する。
【0053】
液性限界の状態からの圧密試験は、試料が非常に軟弱であることに加え、試料の初期高さを通常の1/2である10mmにしたこともあり、載荷板セット時の影響を受けやすい微妙なものであった。このため、若干の試験誤差はやむを得ないと考える。
【0054】
図12に示すように、ベントナイト量が多いケース(ベントナイト量75%,50%)は、一次圧密終了までに時間が多くかかり、かつ沈下量も大きいことが判る。但し、ベントナイト量100%における沈下量は、ベントナイト量75%及び50%における沈下量よりも小さく、ベントナイト量25%における沈下量と同程度であるという、やや特異な結果であった。そこで、ベントナイト量100%に対する再試験を行ったが、やはり同様の結果であった。この結果は、初期の含水比(間隙比)の大小関係とは矛盾したものであり、原因についてさらに検討中である。
【0055】
図13は、√t法によってt90及びd90を求め、ベントナイト量と圧縮ひずみの関係を示した図である。圧縮ひずみ(沈下量に相当する)に関し、ベントナイト量100%では14.3%であったのに対し、ベントナイト量75%(洗浄フライアッシュ量25%)では27.4%、ベントナイト量50%(洗浄フライアッシュ量50%)では20.2%であった。洗浄フライアッシュがある程度含まれることによって圧縮ひずみが増大した。一方、ベントナイト量10〜20%(洗浄フライアッシュ量90〜80%)の場合、圧縮ひずみが大幅に低下した。これは、フライアッシュ量の増大によって初期間隙比が大幅に低下し(図10参照)、フライアッシュ粒子によって灰粒子骨格構造が形成されているためと考えられる。図14は、ベントナイト量と体積圧縮係数の関係を示した図である。図13との比較から明らかなように、ベントナイト量と圧縮ひずみの関係と同様の結果が確認された。
【0056】
図15は、ベントナイト量と圧密係数の関係を示した図である。圧密係数に関し、ベントナイト量25〜100%では0.27〜0.73cm2/dの範囲にあったが、ベントナイト量10〜20%では2.6〜5.4cm2/dと顕著に増大した。前述の圧縮ひずみ(図13参照)においても、ベントナイト量20〜25%のあたりに圧密特性における変曲点の存在が示唆される。従って、ベントナイト量10〜20%であって洗浄フライアッシュ量90〜80%で配合した液性限界状態のペーストは、自重程度の比較的小さい載荷重の下で圧縮沈下が小さく、かつ、圧密終了が早いものになり、スラリー充填施工に用いる遮水材として優位な材料であると考える。
【0057】
図16は、ベントナイト量と透水係数の関係を示した図である。なお、ここでの透水係数は、圧密試験の結果から求めたものである。ベントナイト量100%の透水係数5.8×10−9cm/sに対して、ベントナイト量を減じても透水係数の大きな変化は見られなかった。多少のばらつきはあるが、ベントナイト量10〜20%でも1×10−8cm/s程度が確保されている。一般に遮水材として必要とされる透水係数は、1×10−6cm/s程度であるため、ベントナイト量10〜20%でも十分な遮水性能を有しているといえる。これに対し、洗浄フライアッシュのみの透水係数は一般に1×10−4cm/s程度と大きいため、洗浄フライアッシュのみによる遮水材はあり得ない。しかし、少量(10〜20%)のベントナイトを洗浄フライアッシュに配合することによって、遮水材としても使用可能な十分な遮水性能を有する材料になることが明らかになった。
【0058】
以上説明した特性試験の結果より、次のことが明らかとなった。
【0059】
透水係数及び液性限界の試験結果(図16,図7)より、ベントナイトに洗浄フライアッシュを配合した混合ペーストでは、ベントナイト量100%のものと同等の遮水性能を維持しつつ、ベントナイト量100%のものよりも液性限界を低くすることができる。これは、吸水性を有さないフライアッシュが混合ペーストに含まれることから、混合ペーストにおける含水比をフライアッシュの分だけ低減させることができ、かつ、フライアッシュは球形の微粒子であることから、いわゆるベアリング効果によって流動性を確保することができるためと考えられる。その結果、洗浄フライアッシュの配合によって、混合ペーストを圧送に適した状態にするために必要な水の量を少なくできる。
【0060】
圧密沈下量の試験結果(図12)より、ベントナイト量を25%未満にした混合ペーストでは、ベントナイト量100%のものよりも圧密沈下量を少なくすることができる。このことは、ベントナイト量100%のものよりも、遮水材の追加補充量を少なくできること、あるいは、遮水材を追加補充するまでの期間を長くできることを意味する。
【0061】
ベントナイト量を10〜20%にした混合ペーストでは、施工に必要な流動性を保持した上で、乾燥密度が大きく(間隙比が小さく)、フライアッシュ粒子相互接触(骨格形成)した状態になり、含水比を100未満にしても所定の流動性が得られる。また、この混合ペーストは、圧密試験の結果、低圧縮性であって圧密終了が早く(圧密係数が大きく)、ベントナイト量100%のものと同等の遮水性能を有する。
【0062】
図17に示すように、とりわけベントナイト量を10%にした混合ペーストは、ベントナイト量100%のものと比較した場合、充填時において、含水比が50%と1/10程度であり、密度が1.6t/m3と充填施工に適した値であり、流動性や透水係数も遜色ないという特性を有している。また、ベントナイト量が10%の混合ペーストは、圧縮ひずみが3%であることから(ベントナイト量100%のものは25%)、長期間が経過した場合においてもほぼ不変であるといえる。
【0063】
次に、前述の混合ペーストを変形追随遮水材として用いた遮水構造について説明する。図18は、海面埋立処分場1を説明する断面図である。また、図19は、鋼管矢板の拡大図である。
【0064】
図18に示す海面埋立処分場1では、不透水性基盤2の表面に基礎捨石3を積み上げ、基礎捨石3の上にケーソン堰4を構築することで海水5を堰き止めている。そして、ケーソン堰4の内部及びケーソン堰4よりも内陸側の部分には中詰め材6が充填されており、中詰め材6と廃棄物7との境界には鋼管矢板による遮水壁8が設けられている。また、中詰め材6の表面と廃棄物7の表面は覆土9によって覆われ、遮水壁8の上方には上部コンクリート10が設けられている。
【0065】
図19に示すように、遮水壁8は、P−T継手を有する鋼管遮水継手構造11により、変形可能な状態で接続された複数の鋼管矢板12で構成されている。ここで、隣同士の鋼管矢板12の一方は、遮水壁を構成する第1遮水部材に相当し、他方は遮水壁を構成する第2遮水部材に相当する。また、鋼管遮水継手構造11は、第1遮水部材と第2遮水部材との継手部分に相当する。
【0066】
本実施形態では、鋼管遮水継手構造11によって、隣同士の鋼管矢板12,12の間に略三角形状の隙間が形成されている。そこで、ベントナイトとフライアッシュとを含有する混合ペーストを変形追随遮水材13として用い、この略三角形状の隙間に充填する。例えば、ベントナイト量を10〜20%、洗浄フライアッシュを90〜80%にした粉体に、水を加えて混練した混合ペーストを充填する。なお、混練時に加える水の量は、混合ペーストが液性限界を示し、略三角形状の隙間(遮水箇所)へ良好に充填される程度の固さとなる量にする。このような変形追随遮水材13を充填することで、土圧のかかり具合によって遮水壁8が面方向に撓んだとしたとしても、変形追随遮水材13が遮水壁8の変形に追随し、長期間に亘って所望の遮水性能を維持することができる。さらに、長期間に亘って圧密沈下が抑制されるので、追充填といった追加施工の手間を軽減若しくはなくすことができる。
【0067】
ところで、以上の実施形態に関する説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨、目的を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。例えば、次のように構成してもよい。
【0068】
前述の実施形態では、ベントナイトとしてNa型ベントナイトを用いたが、他の種類のベントナイト(例えばCa型)を用いることも可能である。そして、前述の実施形態のように、Na型ベントナイトを用いた場合には、水中でのコロイド分散性が他の種類のベントナイトに比べて優れていることから、均質性の高い遮水性能を得ることができる。
【0069】
また、前述の実施形態では、粉体が、フライアッシュとベントナイトの混合物であったが、これらに加えて他の種類の粉体が含まれていてもよい。例えば、海成粘土が含まれていてもよい。
【0070】
また、前述の実施形態では、表面にアルカリ金属やアルカリ土類金属を含有したフライアッシュを酸洗浄して用いたが、酸性のフライアッシュや中性のフライアッシュで、重金属などの溶出も環境基準をクリアしているものであれば、酸洗浄は不要である。表面にアルカリ金属やアルカリ土類金属を含有したフライアッシュを酸洗浄して用いた場合、カルシウムイオンやマグネシウムイオンの溶出に起因するベントナイトの凝集を抑制できる。その結果、ベントナイトの分散性を維持しつつ、混合ペースト(混練物)の含水比を低減させることができる。
【0071】
また、変形追随遮水材は、鋼管矢板12の継手部分における遮水に限られず、止水壁、地中連続壁、遮水シートと地盤との境界部分の止水材といった各種の用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0072】
1 海面埋立処分場
2 不透水性基盤
3 基礎捨石
4 ケーソン堰
5 海水
6 中詰め材
7 廃棄物
8 遮水壁
9 覆土
10 上部コンクリート
11 鋼管遮水継手構造
12 鋼管矢板
13 変形追随遮水材
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベントナイトの膨潤性を活用した遮水工に用いられ、荷重が加わることで変形し得る遮水箇所に充填される変形追随遮水材、及び、この変形追随遮水材を用いた遮水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
管理型産業廃棄物最終処分場などの遮水工においては、鋼管矢板等の締切り部材の充填材として、遮水性及び変形追随性を有する変形追従性遮水材を用いることで、締切り部材が微小変形しても、長期間に亘り遮水性を確保することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、寒天やゼラチンといった親水性材料のゲル化物に、ベントナイトを添加及び混合したものを、山留め壁材と地盤との間に充填する山留め壁の地中止水工法が記載されている。
【0004】
また、上記の変形追随性遮水材には、土質系、アスファルト系、セメント系に属するものがあるが、特に海面処分場の側面遮水工においては、ベントナイトを含有する土質系の変形追随性遮水材が用いられている。
【0005】
例えば、特許文献2には、含水比100〜300の海成粘土懸濁液100容量部にベントナイトを5乃至50重量部添加して、ゲル状物質に改質した変形追随遮水材が記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、砂とベントナイトとを含有する変形追随性遮水材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−143308号公報
【特許文献2】特開2004−322096号公報
【特許文献3】特開2008−43845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の変形追随遮水材は、混練後に圧送されて遮水箇所に充填されるため、施工(圧送や充填)に適した流動性を備えている必要がある。ここで、流動性を高めるためには混練時に加える水の量を増やせばよいが、単に水の量を増やしただけでは、混練物における固化成分の密度が不足し、水中充填時には浮力の影響を大きく受け、施工性が損なわれてしまう。また、充填された遮水材の時間経過に伴う乾燥収縮や、遮水材の自重による圧密沈下によって上部に空間が生じ、それを補うための追加充填を余儀なくされることもある。従って、必要な流動性を得るために加える水の量は、できるだけ少ないことが望ましいといえる。
【0009】
ここで、引用文献1に親水性材料として記載されている寒天やゼラチンを用いた場合、含水比が過度に高くなってしまうことが懸念され、また有機物質を用いることは生分解による変質や機能低下が懸念される。また、引用文献2に記載されている海成粘土を用いた場合、この海成粘土は様々な粘土鉱物を含んでおり、粒子形状も様々であることから、品質管理、材料選定が複雑で難しく、さらに粘土粒子によって流動性が損なわれてしまうことも懸念される。また、引用文献3の遮水材は、砂を含むため比重を容易に高めることができるが、角張っている砂粒子を含むため流動性が損なわれてしまったり、圧送時において配管内壁が削られてしまったりすることが懸念される。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その課題は、ベントナイトの膨潤性を活用した変形追随性遮水材の施工において、圧送や充填に適した流動性を得るために加える水の量を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明は、遮水工に用いられ、荷重が加わることで変形し得る遮水箇所に充填される変形追随遮水材を、ベントナイトとフライアッシュとを含有する粉体に水を加えて混練した混練物によって構成した。
【0012】
本発明によれば、吸水性をほとんど有さないフライアッシュが混練物に含まれることから、混練物における含水比をフライアッシュの分だけ低減させることができ、かつ、このフライアッシュは球形の微粒子であることから、いわゆるベアリング効果によって流動性を確保することができる。
【0013】
本発明において、前記ベントナイトをNa型ベントナイトとすれば、水中でのコロイド分散性が他の型(例えばCa型)のベントナイトに比べて優れていることから、均質性の高い遮水性能を得ることができる。
【0014】
本発明において、前記粉体中の前記ベントナイトの含有量を質量比で粉体全体量の25%未満とした場合には、施工後における圧密沈下を、ベントナイトのみで作製された変形追随遮水材よりも少なくすることができる。
【0015】
本発明において、前記粉体中の前記ベントナイトの含有量を質量比で粉体全体量の10%以上20%以下とした場合には、含水比を100%未満にしても所定の流動性を得ることができる。
【0016】
本発明において、前記フライアッシュを、酸洗浄によって表面のアルカリ成分を除去した洗浄フライアッシュとした場合には、ベントナイトの分散性を維持しつつ、混練物の含水比を低減させることができる。
【0017】
また、本発明は、遮水壁を構成する第1遮水部材と第2遮水部材との継手部分に、変形追随遮水材を充填した遮水構造であって、前記変形追随遮水材を、ベントナイトとフライアッシュとを含有する粉体に水を加えて混練した混練物で構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ベントナイトの膨潤性を活用した変形追随性遮水材の施工において、圧送や充填に適した流動性を得るために加える水の量を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】変形追随遮水材の作製工程を説明する図である。
【図2】洗浄フライアッシュの物理的性質を説明する図である。
【図3】洗浄フライアッシュの化学的性質を説明する図である。
【図4】洗浄フライアッシュの粒度分布を説明する図である。
【図5】ベントナイトの性質を説明する図である。
【図6】混合ペーストの微細構造モデルを説明する図である。
【図7】ベントナイト量と液性限界・塑性限界の関係を説明する図である。
【図8】試料(混合ペースト)の液性限界におけるベントナイト部分の含水比を説明する図である。
【図9】液性限界の試料におけるベントナイト量と湿潤密度及び乾燥密度の関係について説明する図である。
【図10】液性限界時のベントナイト量と間隙比及び飽和度の関係について説明する図である。
【図11】フライアッシュ粒子のみを固形分とみた場合の間隙比及び間隙率を説明する図である。
【図12】各配合ケースの圧密沈下曲線を説明する図である。
【図13】ベントナイト量と圧縮ひずみの関係を説明する図である。
【図14】ベントナイト量と体積圧縮係数の関係を説明する図である。
【図15】ベントナイト量と圧密係数の関係を説明する図である。
【図16】ベントナイト量と透水係数の関係を説明する図である。
【図17】ベントナイト量と10%の混合ペーストとベントナイト量と100%のものの特性を比較した図である。
【図18】海面埋立処分場を説明する断面図である。
【図19】鋼管矢板の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。まず、図1に基づき、変形追随遮水材(以下、単に遮水材という)の作製について説明する。
【0021】
本実施形態の遮水材は、フライアッシュを原料として使用する。原料となるフライアッシュは、豪州産の石炭を某火力発電所の微粉炭燃焼炉で燃焼し、湿灰(多くは含水比が20%前後)で取り出されたものである。ここでは、豪州産の石炭によるフライアッシュを用いたが、石炭火力発電所から発生する石炭灰は、ほぼ全て原料として用いることができる。
【0022】
このフライアッシュは、水溶性のアルカリ金属やアルカリ土類金属のアルカリ成分を少量含むため、アルカリ性を呈する。また、ホウ素、砒素、セレンなどの重金属を微量含む場合がある。そして、これらのアルカリ成分や重金属は、その大部分がフライアッシュの表面に存在するという知見がある。このため、遮水材を作製するに際しては、まずフライアッシュの表面を酸で溶解し、アルカリ成分や重金属を抽出する(S1)。
【0023】
すなわち、このステップS1では、水道水に硫酸を投入して0.8Mの希硫酸(洗浄液)を作製し、希硫酸とフライアッシュとを質量比が1:1となるように抽出槽(図示せず)へ投入し、この抽出槽で攪拌混合する。これにより、フライアッシュ表面の極めて薄い層が希硫酸によって溶解し、溶出性を有するアルカリ成分や重金属をフライアッシュから除去する。
【0024】
次に、抽出槽で得られたスラリー(フライアッシュと希硫酸の混合物)に対し、すすぎ及び脱水を行う(S2)。このステップS2では、スラリーを遠心脱水機(図示せず)に移し、すすぎ水を供給しながら遠心脱水機を動作させ、スラリーに対する個液分離とすすぎ洗浄とを同時に行う。これにより、遠心脱水機における固形側には水分を含んだ状態の洗浄フライアッシュが残り、液側には重金属を含んだ酸性排液が排出される。そして、洗浄フライアッシュは炉乾燥によって乾燥状態とされる。
【0025】
このようにして得られた洗浄フライアッシュは、図2に示す物理的特性及び図3に示す化学的特性を有する。また、図4に示す粒度分布を有する。
【0026】
物理的特性に関し、粒子密度、かさ密度、及びタップ密度は、株式会社セイシン企業の商品名「マルチテスターMT1001」を用いて測定した。粒子硬度は、同社の商品名「ベターハードネステスターBHT−500」を用いて測定した。粒子平均径は、レーザー回折・散乱法によって測定した。比表面積はN2ガス吸着法によって測定した。ブレーン値は、JIS R 5201に従って測定した。化学的特性に関し、化学組成は蛍光X線法によって測定した。フライアッシュで問題化し易い溶出項目については、環境省告示第46号に従って測定した。
【0027】
洗浄フライアッシュの粒子密度は、2.21g/cm3であった。粒径は、レーザー回折・散乱法によって測定したことから体積百分率であるが、それぞれの粒子密度がほぼ一定であると仮定すれば、質量百分率として評価できる。そして、粒径は、0.2〜180μmの範囲(D50=10μm)に分布している。図4に示すように、粒径が75μmよりも大きい砂分は約10%であり、粒径が5〜75μmの範囲であるシルト分が73%と大半を占めていた。
【0028】
なお、フライアッシュの酸洗浄により、フライアッシュ粒子における表面の薄層が溶解されること、酸洗浄に伴うフライアッシュ粒子の粒径変化は非常に小さいこと、酸洗浄後のフライアッシュ粒子は耐酸性を有する堅牢な結晶鉱物(ムライト,石英など)からなることが、本発明者等において確認されている(第52回粘土科学討論会講演要旨集,第128〜129頁)。
【0029】
かさ密度及びタップ密度のそれぞれは地盤工学における砂の最小密度、最大密度に対応するが、試験方法が異なる。洗浄フライアッシュのかさ密度は0.79g/cm3(間隙率64%、間隙比1.78)であり、タップ密度は1.11g/cm3(間隙率50%、間隙比1.0)であった。また、液性限界及び塑性限界は、JIS A 1205の方法でいずれもNP(non-plastic)と判定され、かなり低い塑性を示した。
【0030】
pHは1:1懸濁液のpHを測定した。洗浄フライアッシュにおけるpHは8.5と中性〜弱アルカリ性の領域にあった。酸洗浄をする前のフライアッシュにおけるpHが12前後であったことから、酸洗浄を行うことにより、フライアッシュ粒子の表層に存在する溶出性のアルカリ金属やアルカリ土類金属の大部分が除去されたことが判る。
【0031】
洗浄フライアッシュの強熱減量は約3%であった。これは、元のフライアッシュに含まれていた未燃カーボンが少し残留していたこと、酸洗浄に伴って少量生成される二水石膏が少し残留していたことによると考える。
【0032】
洗浄フライアッシュの化学組成は、SiO2とAl2O3の合計が93%と大半を占めている点は元のフライアッシュと変わらない(元のフライアッシュの化学組成値は記載を省略した)。しかし、アルカリ及びアルカリ土類金属は元のフライアッシュに比べて大幅に減少している。また、洗浄フライアッシュにおける重金属等の溶出値に関し、ホウ素及びフッ素は元のフライアッシュに比べて大幅に減少し、砒素とセレンも元のフライアッシュに比べて減少し、何れも環境基準をクリアするまでになった。なお、六価クロムは、洗浄フライアッシュ及び元のフライアッシュの何れも検出限界以下であった。これらの溶出値の結果はいずれも土壌環境値をクリアするものである。
【0033】
図1に示すように、洗浄フライアッシュが得られたならば、この洗浄フライアッシュとベントナイトをドライミックスする(S3)。例えば、洗浄フライアッシュとベントナイトとを、所定の質量比となるようにビニール袋に入れ、袋の口を閉じた状態で激しく振り混ぜる。これにより、乾燥状態の洗浄フライアッシュとベントナイトとが混合された状態になる。なお、ドライミックスに関しては、種々の手法を採ることができる。
【0034】
混合されるベントナイトは、モンモリロナイトを主要粘土鉱物としている。この実施形態では、米国ワイオミング州産のNa型ベントナイト、具体的には、立花マテリアル株式会社の商品名「スーパークレイ」を用いた。このベントナイトは、図5に示す物理的・化学的性質を有する。ベントナイトの品質項目で一般に重視される膨潤力は、日本ベントナイト工業会の容積法で測定した。この容積法は、水100mLを入れた100mLメスシリンダーに、試料2gを少量ずつ加え、24時間静置後における試料の見掛けの沈降容積を読み取るものである。結果は、25〜26mL/2gと高い膨潤性を示した。
【0035】
洗浄フライアッシュとベントナイトとから混合粉体を得たならば、この混合粉体に水を加えて混練する(S3)。この混練作業では、所定量の水道水を少しずつ混合粉体に加え、ペースト状になるまで混ぜ込む。これにより、洗浄フライアッシュとベントナイトに水を加えて混練した混合ペースト、すなわち変形追随遮水材が得られる。洗浄フライアッシュを主体に少量のベントナイトを配合して得られた変形追随遮水材では、例えば図6に示すように、フライアッシュ粒子同士が相互に緩く接触しており、その間隙をベントナイトペーストが満たしていると考えられる。そして、ベントナイトペーストのレオロジー特性とフライアッシュ粒子の球形効果とによって、圧送や充填に適した所要の流動性を確保できる。また、フライアッシュ粒子相互の緩い骨格形成によって、載荷に伴う圧縮ひずみは抑制され、圧密時間も短くて済む。さらに洗浄フライアッシュのpHは中性領域であるため、変形追随遮水材として使用した場合、ベントナイトに対して長期変質を引き起こす不具合も抑制できる。
【0036】
この変形追随遮水材(混合ペースト)において、混合粉体における洗浄フライアッシュとベントナイトの比率は、遮水材の特性を決定付ける重要な要素である。そこで、混合粉体における洗浄フライアッシュとベントナイトの質量比を変えた複数のサンプルを作製し、各種の特性試験を行った。以下、特性試験について述べる。
【0037】
まず、サンプルの調整について説明する。この特性試験では、洗浄フライアッシュとベントナイトを質量比でそれぞれ100:0(洗浄フライアッシュ単体),90:10,85;15,80:20,75:25(ベントナイトが質量比で粉体全体量の25%),50:50,25:75,及び0:100(ベントナイト単体)の計8ケースの配合とし、それぞれ1つのビニール袋に採取した。その際、洗浄フライアッシュは110℃炉乾燥質量とし、ベントナイトは商品のまま(含水比約10%)の質量とした。ビニール袋に空気を吹き込み、ビニール袋を膨らませた状態で激しく振って洗浄フライアッシュとベントナイトをドライミックスした。
【0038】
次に、袋内の混合粉体をソイルミキサーに移し、水を少量ずつ加えて混合粉体が飛び散らないようにして混練し、洗浄フライアッシュとベントナイトの少なくとも一方を含有する複数種類の混合ペーストを調整した。なお、ソイルミキサーによる混練時において、塑性限界或いは液性限界よりそれぞれ少し低めの含水状態になったときに、混合ペーストを試料として採取した。そして、少量ずつ加水を繰り返し、JISの方法に準じて塑性限界試験及び液性限界試験を実施した。
【0039】
また、含水比を液性限界にあわせた試料について、密度試験及び圧密試験を行った。ここで、水分条件を液性限界に設定した理由は、ブリーディング(含有水の上昇分離)や材料分離が殆ど生じず、ポンプ圧送や細部への充填・打設が円滑にできるコンシステンシーとして、施工に適した含水レベルと考えるからである。なお、施工に際しては、圧送距離やポンプ能力などにより、液性限界の含水比ではやや硬すぎて、液性限界よりも少し高い(10%程度)含水比に設定する場合もあるが、この実験結果の趣旨、結論を左右することはない。
【0040】
湿潤密度は、容器法によって測定した。すなわち、100mL容器に試料を気泡が入らないように詰めて質量を測定することで密度を測定した。圧密試験は、JIS A 1217の方法をベースとして行った。
【0041】
圧密試験では、次の2点についてJIS A 1217の方法から変更をした。1つは、直径6cm,高さ2cmの圧密容器に対して試料を高さ1cmとなるように詰めたことである。すなわち、JISの方法で規定されている初期高さの1/2の初期高さで圧密を開始した。これは、試料がベントナイトを含む難透水材料であり、一次圧密の終了まで長時間を要することから、試験時間の短縮を目的として変更した。もう1つは、圧密荷重を10kN/m2と20kN/m2の比較的小さい2段階のみとし、一次圧密の終了点を十分に上回る時間(150時間程度)まで載荷を継続したことである。これは、変形追随遮水材として使用する際に、この遮水材対して自重以外の荷重があまりかからず、かつ、大部分が水中(地下水位以下)での適用となることを想定するからである。すなわち、この試験では、液性限界に比較的近い含水レベルでの圧密特性を評価することに主眼をおいた。
【0042】
以下、試験結果について説明する。まず、コンシステンシー及び密度について説明する。図7は、ベントナイト量と液性限界・塑性限界の関係を説明する図である。塑性限界は21〜37%の範囲にあり、ベントナイト量にそれほど影響されなかった。一方、液性限界は、ベントナイト量の減少(すなわち洗浄フライアッシュ量の増大)に伴って大幅に低下した。例えば、ベントナイト量100%の場合における液性限界は524%であったが、ベントナイト量10%の場合における液性限界は約1/10の51%になった。この現象は、ベントナイトの液性限界が洗浄フライアッシュの液性限界を大きく上回っているために生じたと考えられる。
【0043】
試料(混合ペースト)の液性限界がベントナイトの量によってほぼ支配されていると考えられることから、フライアッシュ粒子による直接の吸水量をゼロと仮定し、試料の液性限界におけるベントナイト部分の含水比を算定した。結果を図8に示す。
【0044】
ベントナイト量50〜100%におけるベントナイトの含水比は510〜550%であった。一方、ベントナイト量15〜25%におけるベントナイトの含水比は380〜440%に低下した。ベントナイトの含水比が低下しているにも拘わらず液性限界を示していることから、ベントナイト量25%を下回ったあたり(洗浄フライアッシュ量75%以上)で、ペーストの流動メカニズムとして、フライアッシュ粒子相互のベアリング効果も顕在化した可能性が考えられる。
【0045】
なお、ベントナイト量10%では、再びベントナイトの含水比が500%以上と高くなっているが、このあたりではペーストの液性限界の結果が10倍になって現れるため、試験精度を含めた検証が必要と考える。
【0046】
次に、洗浄フライアッシュ単体の液性限界について考察する。図7の曲線の延長から、洗浄フライアッシュの液性限界は35%付近にあると推定される。実際に、洗浄フライアッシュ量100%の試料で液性限界試験を行った際、落下回数3回(その時の含水比37%)までは溝切りができたが、それ以下の含水比では急にパサパサした感じが強まって溝を切れなくなった。このことから、液性限界が35%付近にある可能性は高いと考えられる。ここで、液性限界時における試料の飽和度が100%であると仮定すると、液性限界(35%)の時の間隙比は0.77となる。この間隙比の値は、図2のタップ密度(1.11g/cm3)から計算される間隙比1.00に比べてさらに小さい。これは、洗浄フライアッシュの充填において水締めの効果が非常に大きく効いているためと考える。
【0047】
石炭灰のコンシステンシー評価に関して、フォールコーン試験で貫入量11mmの時の含水比が流動限界と一致し、6種の石炭灰において流動限界が20〜45%の範囲に分布するという知見がある。流動限界は液性限界とほぼ対応すると考えられることから、この知見は上記の液性限界の推定結果と符合するものと考える。
【0048】
次に、液性限界の試料におけるベントナイト量と湿潤密度ρt及び乾燥密度ρdの関係について説明する。図9はこの関係を説明する図である。湿潤密度ρtは、試料中のベントナイト量の減少(フライアッシュ量の増大)に伴って大幅に増大する。湿潤密度の増大率が特に顕著となるのは、ベントナイト量が50%から20%に減少する時である。粒子密度では、ベントナイトの方が洗浄フライアッシュよりも大きな値であるが、液性限界時にベントナイトが大量の水を吸収するため、図9のような結果を示す。
【0049】
また、液性限界時の乾燥密度ρdは、湿潤密度ρtと同様の傾向であるが、ベントナイト量の影響をもっと強く受ける。例えば、ベントナイト量100%の試料における乾燥密度ρdは0.18g/cm3と小さいが、ベントナイト量10%の試料における乾燥密度ρdは1.05g/cm3とかなり高い値を示す。
【0050】
次に、液性限界時のベントナイト量と間隙比及び飽和度の関係について説明する。図10はこの関係を説明する図である。間隙比は、ベントナイト量100%の時に14.3であったのに対し、ベントナイト量10%の時に1.2であり、ベントナイト量の減少に伴って大幅に低下した。飽和度は、若干のばらつきがみられるが、ベントナイト量にかかわらず、いずれも100%前後であった。
【0051】
図11は、フライアッシュ粒子の充填状態を把握するため、フライアッシュ粒子のみを固形分とみた場合の間隙比及び間隙率を算定した結果を説明する図である。洗浄フライアッシュ量が90%、ベントナイト量が10%の場合の洗浄フライアッシュからみた場合の間隙比は1.35であった。この間隙比1.35という値は、洗浄フライアッシュにおける推定液性限界での間隙比0.77よりも大きいが、タップ密度1.11g/cm3(間隙比1.0)とかさ密度0.79g/cm3(間隙比1.78)のほぼ中間に相当する。このことから、ベントナイト量10〜15%(洗浄フライアッシュ量90〜85%)の時の液性限界の試料(混合ペースト)は、フライアッシュ粒子がやや緩い状態ではあるが相互に接触した状態となり、フライアッシュ粒子が骨格構造(灰粒子骨格構造)を形成していると推定される。
【0052】
次に、圧密沈下特性について説明する。図12は、前述した8ケースの配合に関する、液性限界状態の試料の時間−圧密沈下量曲線である。この試験における圧密圧力は10kN/m2であり、圧密試料の初期高さはいずれも10mmである。また、洗浄フライアッシュ100%のケースでは、液性限界に近い含水比として37%を選定し、試験を行った。なお、圧密試験において、第二段階載荷として圧密圧力を20kN/m2にした試験も実施したが、初期試料高さが小さかったこともあり、必ずしも明瞭な結果が得られなかったので、説明は省略する。
【0053】
液性限界の状態からの圧密試験は、試料が非常に軟弱であることに加え、試料の初期高さを通常の1/2である10mmにしたこともあり、載荷板セット時の影響を受けやすい微妙なものであった。このため、若干の試験誤差はやむを得ないと考える。
【0054】
図12に示すように、ベントナイト量が多いケース(ベントナイト量75%,50%)は、一次圧密終了までに時間が多くかかり、かつ沈下量も大きいことが判る。但し、ベントナイト量100%における沈下量は、ベントナイト量75%及び50%における沈下量よりも小さく、ベントナイト量25%における沈下量と同程度であるという、やや特異な結果であった。そこで、ベントナイト量100%に対する再試験を行ったが、やはり同様の結果であった。この結果は、初期の含水比(間隙比)の大小関係とは矛盾したものであり、原因についてさらに検討中である。
【0055】
図13は、√t法によってt90及びd90を求め、ベントナイト量と圧縮ひずみの関係を示した図である。圧縮ひずみ(沈下量に相当する)に関し、ベントナイト量100%では14.3%であったのに対し、ベントナイト量75%(洗浄フライアッシュ量25%)では27.4%、ベントナイト量50%(洗浄フライアッシュ量50%)では20.2%であった。洗浄フライアッシュがある程度含まれることによって圧縮ひずみが増大した。一方、ベントナイト量10〜20%(洗浄フライアッシュ量90〜80%)の場合、圧縮ひずみが大幅に低下した。これは、フライアッシュ量の増大によって初期間隙比が大幅に低下し(図10参照)、フライアッシュ粒子によって灰粒子骨格構造が形成されているためと考えられる。図14は、ベントナイト量と体積圧縮係数の関係を示した図である。図13との比較から明らかなように、ベントナイト量と圧縮ひずみの関係と同様の結果が確認された。
【0056】
図15は、ベントナイト量と圧密係数の関係を示した図である。圧密係数に関し、ベントナイト量25〜100%では0.27〜0.73cm2/dの範囲にあったが、ベントナイト量10〜20%では2.6〜5.4cm2/dと顕著に増大した。前述の圧縮ひずみ(図13参照)においても、ベントナイト量20〜25%のあたりに圧密特性における変曲点の存在が示唆される。従って、ベントナイト量10〜20%であって洗浄フライアッシュ量90〜80%で配合した液性限界状態のペーストは、自重程度の比較的小さい載荷重の下で圧縮沈下が小さく、かつ、圧密終了が早いものになり、スラリー充填施工に用いる遮水材として優位な材料であると考える。
【0057】
図16は、ベントナイト量と透水係数の関係を示した図である。なお、ここでの透水係数は、圧密試験の結果から求めたものである。ベントナイト量100%の透水係数5.8×10−9cm/sに対して、ベントナイト量を減じても透水係数の大きな変化は見られなかった。多少のばらつきはあるが、ベントナイト量10〜20%でも1×10−8cm/s程度が確保されている。一般に遮水材として必要とされる透水係数は、1×10−6cm/s程度であるため、ベントナイト量10〜20%でも十分な遮水性能を有しているといえる。これに対し、洗浄フライアッシュのみの透水係数は一般に1×10−4cm/s程度と大きいため、洗浄フライアッシュのみによる遮水材はあり得ない。しかし、少量(10〜20%)のベントナイトを洗浄フライアッシュに配合することによって、遮水材としても使用可能な十分な遮水性能を有する材料になることが明らかになった。
【0058】
以上説明した特性試験の結果より、次のことが明らかとなった。
【0059】
透水係数及び液性限界の試験結果(図16,図7)より、ベントナイトに洗浄フライアッシュを配合した混合ペーストでは、ベントナイト量100%のものと同等の遮水性能を維持しつつ、ベントナイト量100%のものよりも液性限界を低くすることができる。これは、吸水性を有さないフライアッシュが混合ペーストに含まれることから、混合ペーストにおける含水比をフライアッシュの分だけ低減させることができ、かつ、フライアッシュは球形の微粒子であることから、いわゆるベアリング効果によって流動性を確保することができるためと考えられる。その結果、洗浄フライアッシュの配合によって、混合ペーストを圧送に適した状態にするために必要な水の量を少なくできる。
【0060】
圧密沈下量の試験結果(図12)より、ベントナイト量を25%未満にした混合ペーストでは、ベントナイト量100%のものよりも圧密沈下量を少なくすることができる。このことは、ベントナイト量100%のものよりも、遮水材の追加補充量を少なくできること、あるいは、遮水材を追加補充するまでの期間を長くできることを意味する。
【0061】
ベントナイト量を10〜20%にした混合ペーストでは、施工に必要な流動性を保持した上で、乾燥密度が大きく(間隙比が小さく)、フライアッシュ粒子相互接触(骨格形成)した状態になり、含水比を100未満にしても所定の流動性が得られる。また、この混合ペーストは、圧密試験の結果、低圧縮性であって圧密終了が早く(圧密係数が大きく)、ベントナイト量100%のものと同等の遮水性能を有する。
【0062】
図17に示すように、とりわけベントナイト量を10%にした混合ペーストは、ベントナイト量100%のものと比較した場合、充填時において、含水比が50%と1/10程度であり、密度が1.6t/m3と充填施工に適した値であり、流動性や透水係数も遜色ないという特性を有している。また、ベントナイト量が10%の混合ペーストは、圧縮ひずみが3%であることから(ベントナイト量100%のものは25%)、長期間が経過した場合においてもほぼ不変であるといえる。
【0063】
次に、前述の混合ペーストを変形追随遮水材として用いた遮水構造について説明する。図18は、海面埋立処分場1を説明する断面図である。また、図19は、鋼管矢板の拡大図である。
【0064】
図18に示す海面埋立処分場1では、不透水性基盤2の表面に基礎捨石3を積み上げ、基礎捨石3の上にケーソン堰4を構築することで海水5を堰き止めている。そして、ケーソン堰4の内部及びケーソン堰4よりも内陸側の部分には中詰め材6が充填されており、中詰め材6と廃棄物7との境界には鋼管矢板による遮水壁8が設けられている。また、中詰め材6の表面と廃棄物7の表面は覆土9によって覆われ、遮水壁8の上方には上部コンクリート10が設けられている。
【0065】
図19に示すように、遮水壁8は、P−T継手を有する鋼管遮水継手構造11により、変形可能な状態で接続された複数の鋼管矢板12で構成されている。ここで、隣同士の鋼管矢板12の一方は、遮水壁を構成する第1遮水部材に相当し、他方は遮水壁を構成する第2遮水部材に相当する。また、鋼管遮水継手構造11は、第1遮水部材と第2遮水部材との継手部分に相当する。
【0066】
本実施形態では、鋼管遮水継手構造11によって、隣同士の鋼管矢板12,12の間に略三角形状の隙間が形成されている。そこで、ベントナイトとフライアッシュとを含有する混合ペーストを変形追随遮水材13として用い、この略三角形状の隙間に充填する。例えば、ベントナイト量を10〜20%、洗浄フライアッシュを90〜80%にした粉体に、水を加えて混練した混合ペーストを充填する。なお、混練時に加える水の量は、混合ペーストが液性限界を示し、略三角形状の隙間(遮水箇所)へ良好に充填される程度の固さとなる量にする。このような変形追随遮水材13を充填することで、土圧のかかり具合によって遮水壁8が面方向に撓んだとしたとしても、変形追随遮水材13が遮水壁8の変形に追随し、長期間に亘って所望の遮水性能を維持することができる。さらに、長期間に亘って圧密沈下が抑制されるので、追充填といった追加施工の手間を軽減若しくはなくすことができる。
【0067】
ところで、以上の実施形態に関する説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨、目的を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。例えば、次のように構成してもよい。
【0068】
前述の実施形態では、ベントナイトとしてNa型ベントナイトを用いたが、他の種類のベントナイト(例えばCa型)を用いることも可能である。そして、前述の実施形態のように、Na型ベントナイトを用いた場合には、水中でのコロイド分散性が他の種類のベントナイトに比べて優れていることから、均質性の高い遮水性能を得ることができる。
【0069】
また、前述の実施形態では、粉体が、フライアッシュとベントナイトの混合物であったが、これらに加えて他の種類の粉体が含まれていてもよい。例えば、海成粘土が含まれていてもよい。
【0070】
また、前述の実施形態では、表面にアルカリ金属やアルカリ土類金属を含有したフライアッシュを酸洗浄して用いたが、酸性のフライアッシュや中性のフライアッシュで、重金属などの溶出も環境基準をクリアしているものであれば、酸洗浄は不要である。表面にアルカリ金属やアルカリ土類金属を含有したフライアッシュを酸洗浄して用いた場合、カルシウムイオンやマグネシウムイオンの溶出に起因するベントナイトの凝集を抑制できる。その結果、ベントナイトの分散性を維持しつつ、混合ペースト(混練物)の含水比を低減させることができる。
【0071】
また、変形追随遮水材は、鋼管矢板12の継手部分における遮水に限られず、止水壁、地中連続壁、遮水シートと地盤との境界部分の止水材といった各種の用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0072】
1 海面埋立処分場
2 不透水性基盤
3 基礎捨石
4 ケーソン堰
5 海水
6 中詰め材
7 廃棄物
8 遮水壁
9 覆土
10 上部コンクリート
11 鋼管遮水継手構造
12 鋼管矢板
13 変形追随遮水材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮水工に用いられ、荷重が加わることで変形し得る遮水箇所に充填される変形追随遮水材であって、
ベントナイトとフライアッシュとを含有する粉体に水を加えて混練した混練物からなる変形追随遮水材。
【請求項2】
前記ベントナイトは、Na型ベントナイトであることを特徴とする請求項1に記載の変形追随遮水材。
【請求項3】
前記粉体は、前記ベントナイトの含有量が質量比で粉体全体量の25%未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の変形追随遮水材。
【請求項4】
前記粉体は、前記ベントナイトの含有量が質量比で粉体全体量の10%以上20%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の変形追随遮水材。
【請求項5】
前記フライアッシュは、酸洗浄によって表面のアルカリ成分を除去した洗浄フライアッシュであることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の変形追随遮水材。
【請求項6】
遮水壁を構成する第1遮水部材と第2遮水部材との継手部分に、変形追随遮水材を充填した遮水構造であって、
前記変形追随遮水材は、ベントナイトとフライアッシュとを含有する粉体に水を加えて混練した混練物からなることを特徴とする遮水構造。
【請求項1】
遮水工に用いられ、荷重が加わることで変形し得る遮水箇所に充填される変形追随遮水材であって、
ベントナイトとフライアッシュとを含有する粉体に水を加えて混練した混練物からなる変形追随遮水材。
【請求項2】
前記ベントナイトは、Na型ベントナイトであることを特徴とする請求項1に記載の変形追随遮水材。
【請求項3】
前記粉体は、前記ベントナイトの含有量が質量比で粉体全体量の25%未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の変形追随遮水材。
【請求項4】
前記粉体は、前記ベントナイトの含有量が質量比で粉体全体量の10%以上20%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の変形追随遮水材。
【請求項5】
前記フライアッシュは、酸洗浄によって表面のアルカリ成分を除去した洗浄フライアッシュであることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の変形追随遮水材。
【請求項6】
遮水壁を構成する第1遮水部材と第2遮水部材との継手部分に、変形追随遮水材を充填した遮水構造であって、
前記変形追随遮水材は、ベントナイトとフライアッシュとを含有する粉体に水を加えて混練した混練物からなることを特徴とする遮水構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図6】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図6】
【図17】
【公開番号】特開2012−101153(P2012−101153A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250125(P2010−250125)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]