説明

遷移金属の酸化物からなる触媒材料

自動車、船舶、航空機、ガラス溶鉱炉、鋼材加熱炉、高炉熱風炉、コークス炉、セメント焼成炉、鋼鉄焼結炉、転炉などの高温炉、ごみ焼却炉、ロケットエンジン、火力発電所、ボイラー、硝酸などの薬品や触媒の製造工場、金属や石油の処理施設、石油ストーブ、ガスレンジから排出される、窒素酸化物、炭化水素、ディーゼルパティキュレート、一酸化炭素、二酸化炭素、ダイオキシン等の有害物質を除去するために用いられる金属酸化物触媒材料及び燃焼排気ガス処理用触媒である。本発明の金属酸化物触媒材料は、電気伝導を担う電子が4d殻電子或いは5d殻電子である遷移金属元素を少なくとも一種以上含有する。そして、該金属酸化物触媒材料に排気ガスを接触させることにより、該排気ガス中に含まれる窒素酸化物等の有害物質を一括同時に分解除去することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、石炭や天然ガス、石油などの化石燃料の燃焼を利用する、自動車、船舶、航空機、ガラス溶鉱炉、鋼材加熱炉、高炉熱風炉、コークス炉、セメント焼成炉、鋼鉄焼結炉、転炉などの高温炉、ごみ焼却炉、ロケットエンジン、火力発電所、ボイラー、硝酸などの薬品や触媒の製造工場、金属や石油の処理施設、石油ストーブ、ガスレンジから排出される、窒素酸化物、炭化水素、ディーゼルパティキュレート、一酸化炭素、二酸化炭素、ダイオキシン等の有害物質の除去技術に関する。
【背景技術】
内燃機関を駆動源として持つ自動車、船舶、航空機、ロケット、或いは、物質を燃焼させて高温の環境となる、溶鉱炉、焼却炉、火力発電所、原油精製施設等から排出される燃焼後の排ガスは、燃焼させる材料、環境によって、含有する成分が大きく異なる。主に、窒素酸化物、硫黄酸化物、ハロゲン化炭素化合物、炭化水素、微粒子状炭素化合物、二酸化炭素、ダイオキシンなどが知られているが、いずれも環境に対する負荷が極めて大きいということで、近年世界的な排出削減規制が始まっている。特に空気中の窒素の存在によって、空気中での燃焼場において、量の多少にかかわらず、必ず窒素酸化物(NOx)が生成される。
窒素酸化物NOxの排出量を低減させる方法は大きく分けて、(1)排ガス中に生成したNOxを除去する方法、(2)燃焼技術の改善によるNOx生成の抑制、の二種類がある。(1)については、乾式法と湿式法がある。乾式法はNOxを還元し、無害化する方法であり、湿式法はNOxを主に液体中に吸収させ、副産物の硝酸塩にすることで、無害化する方法である。湿式法は、ボイラーや加熱炉におけるNOx除去で主に研究が進んできた。一方の乾式法は、副産物が出ない、移動発生源や小型発生源に有効であるという理由から、例えば自動車の排ガス中のNOx処理に関して研究されてきた。
その乾式法では、特に接触還元法とよばれる方法が知られている。これは、NOあるいは、NOを含むガスにメタン、一酸化炭素、アンモニアなどの還元ガスを加え、触媒作用によってNOをNO、NOを無害なNに還元する方法である。この接触還元法には、選択還元法と非選択還元法の2つがある。例えば、NOxを含むガスに還元剤であるアンモニアを加え、200〜300℃で、Pt触媒に作用させると、ガス中のNOxは選択的に還元されて、Nとなる。その例として、火力発電所の大型ボイラーなどの排ガスについてはV+TiOなどの酸化物系触媒によるアンモニア選択還元法(SCR法)が実用化されている。Ptだけでなく、Pd、Rhなどの貴金属の触媒効果は高いが、天然ガス以外の化石燃料を燃焼させたときに必ず存在するSOが、わずか数ppm存在すると、その触媒活性を失う。
このような状況の中で、ガソリンを燃料とするガソリンエンジンからの排出ガス中の窒素酸化物を、貴金属触媒を用いて無害化する研究が精力的に行われてきた。例えば窒素酸化物の抑制については、ガソリンエンジンを有する自動車の排ガス処理のために開発された3元触媒と呼ばれる触媒を用いて、排ガス中の未燃焼の炭化水素や一酸化炭素を還元剤として、エンジン内の高温燃焼により空気中の窒素と酸素から生成した窒素酸化物NOxを窒素まで還元する技術が広く使用されている。3元触媒とは、Pt,Pd,Rhなどの貴金属をアルミナ表面上に超微粒子状に分散担持したものを、耐熱セラミックス等に取り付けた触媒である。3元とは、炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物を同時に除去することを意味する。但し、この3元触媒は、エンジンに供給される空気とガソリンの比(空燃比)を、窒素酸化物(酸化剤)と炭化水素、一酸化炭素(還元剤)の量がバランスするような制御された状況が必要である。
また自動車のエンジンとして、ディーゼルエンジンもその燃費の良さと燃料の安さから広く使用されている。ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンと異なり、スス、粒子状炭化水素、硫酸酸化物などの微粒子状物質(DP:Diesel Particulate)が排ガス中に多く存在し、NOxとは違った有害物質として、最近規制が強化されている。
例えば、Teraokaらはディーゼル排気ガス中のDPとNOxを同時に除去できる触媒としてペロブスカイト型酸化物が有効であり、その中で最高の活性を示すのが、La0.90.1Cu0.70.3Ox(温度範囲:300℃〜400℃)であるという報告をしている(Applied Catalysis B:Environmental,5,L181−L185(1995))。この場合DPが還元剤となってNOxを除去するのであるが、除去率は390℃で約55%である。ペロブスカイト型酸化物については、特開平11−169711「排気ガス浄化用複合触媒」で、LaCoOが報告されているがこれはNOx除去ではなく、むしろNOを酸化する作用があり、別途還元剤に炭化水素を用いてもう一つの触媒である金属IrでNOを除去する方法である。
また、スピネル構造のCoGa、NiGaが、Cを還元剤として用いたときに、高酸素濃度でもNOガスを還元できたという報告もある(特開平7−185347「酸化物触媒材料の製造方法」)。上記は遷移金属酸化物を用いた技術であるが、いずれにしても直接分解方法とは異なり、かつ、酸化物中の遷移金属が3d電子系であるということが大きな特徴である。ディーゼルエンジンでは、その性質上、DPとNOxがトレードオフの関係にあり、有効なNOx触媒があれば、ディーゼルエンジンが持っている本来の高効率を実現することが可能となる。
しかしながら上述のこれら接触還元法では、還元剤とPtなどの触媒の両方が常に存在しないとNOxを効果的に無害化できないことになる。また、高効率燃焼方式である希薄燃焼の排気ガス(ガスタービン、ディーゼルエンジン、希薄燃焼ガソリンエンジンの排ガス)には多量の酸素が含まれるため非選択的還元法である3元触媒法は適用不可能である。また、還元剤として実用化されているアンモニアも有毒であることから、新しい方式の触媒プロセスの研究が進められている。すなわち還元剤を必要としない直接分解型の、実用的なNOx除去用触媒が求められてきた。
石炭や天然ガス、石油などの化石燃料の燃焼を利用する、自動車、船舶、航空機、ガラス溶鉱炉、鋼材加熱炉、高炉熱風炉、コークス炉、セメント焼成炉、鋼鉄焼結炉、転炉などの高温炉、ごみ焼却炉、ロケットエンジン、火力発電所、ボイラー、硝酸などの薬品や触媒の製造工場、金属や石油の処理施設、石油ストーブ、ガスレンジから排出される、窒素酸化物を簡便に除去するための技術開発は、前述したように様々な方法が試みられ、その幾つかは実用化されてきた。しかしながら、原理的に最善の方法である、直接分解型のNOx触媒がこれまで存在しなかったことから、有毒な還元剤であるアンモニアを使用せざるを得ないという問題や、最適な燃焼条件を利用できないという問題があった。
従って、本発明は、有毒な還元剤であるアンモニアを使用が不要な、直接分解型の触媒作用を持つ材料、及びこのような触媒材料から成る燃焼排気ガス処理用触媒を提供することを目的としている。
【発明の開示】
本発明者らは、前記課題に鑑み、各種の遷移金属酸化物によるNOxの直接分解型の触媒作用を持つ排気ガスフィルターについて広範囲に研究を行っていたが、その結果、電気伝導を担う電子が4d殻電子或いは5d殻電子である遷移金属元素を含有した金属酸化物が、高いNOxの直接分解作用を有することを見いだし、本発明を完成するに至った。
この発明に依る金属酸化物触媒材料は、電気伝導を担う電子が4d殻電子或いは5d殻電子である遷移金属元素を少なくとも一種以上を含有することから成る。
また、この発明に依る金属酸化物触媒材料は、アルカリ金属元素を少なくとも一種以上と、電気伝導を担う電子が4d殻電子或いは5d殻電子である遷移金属元素を少なくとも一種以上を含有することから成る。
更に、この発明に依る金属酸化物触媒材料は、アルカリ土類金属元素を少なくとも一種以上と、電気伝導を担う電子が4d殻電子或いは5d殻電子である遷移金属元素を少なくとも一種以上を含有することから成る。
更にまた、この発明に依る金属酸化物触媒材料は、希土類元素金属元素を少なくとも一種以上と、電気伝導を担う電子が4d殻電子或いは5d殻電子である遷移金属元素を少なくとも一種以上を含有することから成る。
また、この発明に依る金属酸化物触媒材料は、ビスマス(Bi),スズ(Sn),鉛(Pb),ゲルマニウム(Ge),ケイ素(Si),アルミニウム(Al),ガリウム(Ga),インジウム(In),亜鉛(Zn)の群から選択される少なくとも1種以上の金属元素と、電気伝導を担う電子が4d殻電子或いは5d殻電子である遷移金属元素を少なくとも一種以上を含有することから成る。
更に、この発明に依る金属酸化物触媒材料は、電気伝導を担う電子が4d殻電子或いは5d殻電子である遷移金属元素として、タングステン(W),モリブデン(Mo),ニオブ(Nb),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),ルテニウム(Ru),イリジウム(Ir),ロジウム(Rh),パラジウム(Pd),白金(Pt),金(Au),銀(Ag),レニウム(Re)の元素群の内、少なくとも一種以上を含有することから成る。
更にまた、この発明に依る金属酸化物触媒材料は、遷移金属元素Mと酸素OがなすMO八面体或いはMO四面体或いはその両方を結晶構造の構成要素として持っていることから成る。
また、この発明に依る金属酸化物触媒材料は、組成式が、An+13n+1(n=1,2,3,∞)の組成を有し、A元素として、カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr),バリウム(Ba)、ランタン(La)、スズ(Sn)の元素群から選択された1種類の金属を含み、B元素として、タングステン(W),モリブデン(Mo),ニオブ(Nb),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),ルテニウム(Ru),イリジウム(Ir),ロジウム(Rh),白金(Pt)の元素群から選択された1種類の金属を含むことから成る。
更に、この発明に依る金属酸化物触媒材料は、ペロブスカイト構造、層状ペロブスカイト構造、パイロクロア構造若しくはスピネル構造のいずれか一つの結晶構造を持っていることから成る。
更にまた、この発明に依る金属酸化物触媒材料は、電気伝導性を持っていることから成る。
また、この発明に依る燃焼排気ガス処理用触媒は、この発明に依る金属酸化物触媒材料をバルク状、薄膜状、厚膜状、粉末状に成形されることを含む。
更に、この発明に依る燃焼排気ガス処理用触媒は、この発明に依る金属酸化物触媒材料を、単体金属、金属間化合物、絶縁性セラミックスの中から少なくとも一つ以上の材料からなる母材に担持してなることを含む。
上記本発明の金属酸化物触媒材料は、排気ガスと接触させて窒素酸化物等を直接分解し、排気ガス中のNOxを100%除去することができる。
また、窒素酸化物以外にも、一酸化炭素、二酸化炭素、炭化水素、ディーゼルパティキュレート、ダイオキシン類(ポリ塩化ジベンゾ−p−ジオキシン、ポリ塩化ジベンゾフラン及びコプラナーPCB)、クロロフルオロカーボンの分解、還元、酸化による無害化方法にも適用可能である。更に、燃焼排気ガスの処理用触媒以外の用途に於いても、本質的な実施の形態が本発明と変わらなければ、触媒作用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、実施例1の金属酸化物触媒材料を用いた排気ガスフィルターの概念図である。
第2図は、NOx量の測定系の概念図である。
第3図は、実施例1の金属酸化物触媒材料を用いた排気ガスフィルターによる、室温でのNO濃度の時間変化を示すグラフである。
第4図は、実施例1に係る排気ガスフィルターによる、反応温度とNO濃度、NOx濃度との関係を示すグラフである。
第5図は、実施例2に係る排気ガスフィルターによる、反応温度とNO濃度、NOx濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の金属酸化物触媒材料は、電気伝導を担う電子が4d殻電子或いは5d殻電子である遷移金属元素を少なくとも一種以上を含有することを特徴とする金属酸化物触媒材料であり、遷移金属元素Mと酸素OがなすMO八面体或いはMO四面体或いはその両方を結晶構造の構成要素として持つ結晶構造を有するものである。
前述の遷移金属元素としては、タングステン(W),モリブデン(Mo),ニオブ(Nb),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),ルテニウム(Ru),イリジウム(Ir),ロジウム(Rh),パラジウム(Pd),白金(Pt),金(Au),銀(Ag),レニウム(Re)の元素群のうち、いずれかを用いたものが、触媒活性が高いので、好ましい。
また、本発明の金属酸化物触媒材料としては、電気伝導を担う電子が4d殻電子或いは5d殻電子である遷移金属元素と、アルカリ金属元素を含んだものは、触媒活性が高いので好ましい。具体的には、LiRuO,LiRuO,NaxWO,NaxPtWO,LiRhO,NaRhO,NaIrO,NaPtO,LiPtO等を挙げることができる。
或いは、電気伝導を担う電子が4d殻電子或いは5d殻電子である遷移金属元素と、アルカリ土類金属元素を含有した金属酸化物触媒材料も、高い触媒活性効果が得られるので、好ましい組成である。
具体的には、SrZrO,SrZrO,SrHfO,SrHfO,CaHfO,SrRhO,SrRuO,CaRuO,BaRuO,SrRuO,SrRu,SrIrO,CaIrO,BaIrO,SrMoO,CaMoO,BaMoO,SrMoO,SrMoO,SrMoO,CaMoO,BaMoO,SrMoO,SrPt,BaPt,SrIrO,SrIrO,SrPtO等を挙げることができる。
また、電気伝導を担う電子が4d殻電子或いは5d殻電子である遷移金属元素と、希土類元素金属元素を含有した金属酸化物触媒材料についても、高い触媒活性効果が得られた。
具体的には、LaRuO,LaRhO,LuRuO7,LaRu,LuIr,LaRe19等を挙げることができる。
更にまた、電気伝導を担う電子が4d殻電子或いは5d殻電子である遷移金属元素と、ビスマス(Bi),スズ(Sn),鉛(Pb),ゲルマニウム(Ge),ケイ素(Si),アルミニウム(Al),ガリウム(Ga),インジウム(In),亜鉛(Zn)の群から選択される金属元素を含有した金属酸化物触媒材料についても、高い触媒活性効果が得られた。具体的には、BiRu,BiRu11,BiIr,SnHfO等を挙げることができる。
中でも、組成式が、An+13n+1(n=1,2,3,∞)の組成を有し、A元素として、カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr),バリウム(Ba)、ランタン(La)、スズ(Sn)の元素群から選択された1種類の金属を含み、B元素として、タングステン(W),モリブデン(Mo),ニオブ(Nb),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),ルテニウム(Ru),イリジウム(Ir),ロジウム(Rh),白金(Pt)の元素群から選択された1種類の金属を含んだ金属酸化物触媒材料は、更に触媒活性効果が高かった。
具体的には、SrRhO,SrRuO,CaRuO,BaRuO,LaRuO,LaRhO,SrRuO,SrRu,SrIrO,CaIrO,BaIrO,SrMoO,CaMoO,BaMoO,SnHfO,SrMoO,SrMo,SrPt,BaPt,SrIrO,SrZrO,SrZrO,SrHfO,SrHfO,CaHfO等を挙げることができる。
本発明の金属酸化物触媒材料は、ペロブスカイト構造、層状ペロブスカイト構造、パイロクロア構造若しくはスピネル構造のいずれかの結晶構造を有していれば、単相であっても、複数の結晶構造の相が混在しているものであってもよい。
本発明の金属酸化物触媒材料であって、ペロブスカイト構造を有するものとしては、SrRuO,CaRuO,LaRuO,LaRhO,SrIrO,SrMoO,CaMoO,BaMoO,SnHfO,SrZrO,SrHfO,CaHfO等を挙げることができる。
本発明の金属酸化物触媒材料であって、層状ペロブスカイト構造を有するものとしては、SrRhO,SrRuO,SrRu,SrMoO,SrMo,SrPt,BaPt,SrIrO,SrZrO,SrHfO等を挙げることができる。
本発明の金属酸化物触媒材料であって、パイロクロア構造を有するものとしては、BiRh,BiRu,LuRu,BiIr,LuIr等を挙げることができる。
本発明の金属酸化物触媒材料であって、スピネル構造を有するものとしては、ZnRh等を挙げることができる。
また、本発明の金属酸化物触媒材料の組成は、電気伝導を担う電子が4d殻電子或いは5d殻電子である遷移金属元素及び他の金属元素から構成されるものであるが、その組成は整数比の組成に限定されるものではなく、±(10%)程度の不定比性があっても、ペロブスカイト構造、層状ペロブスカイト構造、パイロクロア構造若しくはスピネル構造のいずれか一つの結晶構造を有していれば、本発明の課題の達成に対して特に問題はない。
次に、本発明の金属酸化物触媒材料の製造方法は、固相反応焼成、金属アルコキシドを用いたゾル・ゲル法、溶融法、フラックス法などいずれの製造方法も使用できる。すなわち、本発明の金属酸化物触媒材料は、酸化物、炭酸塩、水酸化物等の粉末を混合し、焼成しても良いし、酢酸塩、硝酸塩等の混合水溶液をスプレードライ等により蒸発乾固し、分解、焼成する方法で製造することができる。また、混合水溶液に硝酸塩等の沈殿剤を加え、沈殿物として回収した後、焼成する方法で製造することができる。
本発明の金属酸化物触媒材料がペロブスカイト構造、層状ペロブスカイト構造、パイロクロア構造若しくはスピネル構造のいずれかになるようにするには、焼成温度を(摂氏800)℃以上とすることが好ましい。また、焼成温度は、触媒の使用時の安定性、耐久性を保持するため使用温度より高い温度であることが好ましいが、(摂氏1500)℃を超える温度で焼成すると、緻密化してしまうために触媒活性の高いものが得難くなる恐れがある。
上記のように製造した本発明の金属酸化物触媒材料はそのまま排気ガス触媒として使用することができるが、排気ガス処理に使用される触媒は、ガスとの接触面積を大とすることが好ましい。そのため、本発明の金属酸化物触媒材料を約1μm〜100μmの平均粒子径の粉体状に破砕して使用することができる。或いは、本発明の金属酸化物触媒材料を所定の平均粒子径に粉体状にした後、そのまま又は適当なバインダーと共にペーストを作成し、ペレット等のバルク状、薄膜状、厚膜状等の形状に圧縮成形したものを燃焼排気ガス処理用触媒として使用しても良い。尚、本発明の実施例では、約20〜約100μmの大きさの粉末を用いたが、約1.0μm程度の微粒子でも、発明の効果に対する問題はない。
また、ペーストとして使用するバインダーは、本発明の金属酸化物触媒材料と1000℃以下の温度で反応しなければ、どのようなものを使用してもその効果は変わらない。例えば、SiO,NaO,CaO,B等の化合物或いはこれらの化合物の混合物からなる材料がバインダーとして好適である。
本発明の遷移金属触媒材料を含有したペースト剤を、例えばアルミナ、コージェライト、シリコンカーバイドなどで作成された、モノリス構造或いはハニカム構造体に塗布、焼き付けを行って、フィルター状の形態で燃焼排気ガス処理用触媒として使用しても良い。
また、使用用途に応じて、ペースト状の金属酸化物触媒を、上記絶縁性セラミックスだけでなく、ステンレスなどの金属間化合物、高融点単体金属である、ジルコニウム、白金、タングステン、チタン、ニッケル、などに担持することも可能である。担持する量は、母材の形状、大きさに依存するが、母材表面が均一に覆われていればよい。
本発明の遷移金属触媒材料を燃焼排気ガス処理用触媒として用いる場合には、その比表面積は10−3/g以上、好ましくは10−2〜10−1/g以上であることが好ましい。これは比表面積が10/gを超えた場合、結晶粒が小さくなりすぎて、当発明の使用条件である、高温環境(主に200℃〜700℃)では、結晶の凝集が生じ、比表面積が小さくなるからである。また、比表面積が10−3/g未満の場合には、必要的な触媒機能を持つことが出来ず、好ましくないからである。
ここで、本発明の触媒で分解処理する排気ガス中の有害物質とは、窒素酸化物の他、炭化水素、ディーゼルパティキュレート、一酸化炭素、二酸化炭素、ダイオキシン類(ポリ塩化ジベンゾ−p−ジオキシン、ポリ塩化ジベンゾフラン及びコプラナーPCB)、ダイオキシン類の前駆体、クロロフルオロカーボンに代表される有害物質をいうが、本発明の触媒作用により接触的に還元又は分解できる排気ガス中の有害物質であればこれらに限定されるものではない。
本発明で処理される窒素酸化物とは、排気ガス中の窒素酸化物を意味し、NOxと表される。窒素酸化物は、通常はNO及びNOの他、これらの混合物であるが、排気ガス中の窒素酸化物には、これら以外に各種酸化数の窒素酸化物も含まれている場合が多いので、xは特に限定されるものではないが通常1〜2の値である。
本発明による上記触媒を使用することにより、上述した有害物質である窒素酸化物、ダイオキシン類(ポリ塩化ジベンゾ−p−ジオキシン、ポリ塩化ジベンゾフラン及びコプラナーPCB)、ダイオキシン類の前駆体、クロロフルオロカーボン等の有害物質を接触的に還元又は分解して無害化処理することができる。
前述したように、本発明の燃焼排気ガス処理用触媒の触媒活性が好適な温度範囲があるので、金属酸化物触媒材料として、予め電気伝導性を持つように調整したものを使用すれば、燃焼排気ガス処理用触媒が好適な温度範囲になるように、触媒自体に電流を流すことで制御することができる。本発明の金属酸化物触媒材料として、電気伝導性を有するものとしては、W,MoO,Mo,NbO,NbO,NbO,Rh,RhO,RuO,IrO,PdO,PtO,Au,AgO,AgO,Re,ReO,Re,ReO,SrRhO,BiRh,SrRuOCaRuO,BaRuO,LaRuO,SrRuO,SrRu,BiRu,LuRu,LaRu19,BiRu11,LiRuO,SrIrO,CaIrO,BaIrO,BiIr,LuIr,LaRe19,SrMoO,CaMoO,BaMoO,NaxWO,SrMoO,SrMo,SrPt,BaPt,NaxPt,LiRhO,NaRhO,NaIrO,NaPtO,LiPtO,LiRuO,LiRuO等が挙げられる。
本発明の燃焼排気ガス処理用触媒を用いて、排気ガスにメタン、一酸化炭素やアンモニア等の還元剤を添加すること無しに、触媒と接触させて窒素酸化物等を直接分解することができることが本発明の大きな利点の一つである。
燃焼排気ガス処理用触媒と排気ガスとの接触は、当業界に周知の充填層式或いは棚段式等の固定床流通型反応器、または本発明の触媒が単位重量当たりの活性が高い利点を活用して流動床型反応器により行うことができる。また、排出源の種類や規模に応じて種々の実用的形態をとることができ、本発明はこれには限定されない。
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【実施例1】
SrCO(粉末99.99%)とRuO(粉末99.9%)をモル比2:1で混合、瑪瑙乳鉢で細かく十分に混合した後、空気中900℃で24時間焼結した。焼結体を再び粉砕・混合し再度空気中1200℃で24時間焼結し、実施例1の金属酸化物触媒材料粉末を得た。
上記SrRuOの粉末と、酸化シリコン、酸化ナトリウム、酸化カルシウム、酸化硼素からなるバインダー粉末と溶剤の水をよく混ぜ合わせ、実施例1の金属酸化物触媒材料ペーストを得た。このペーストをスチールウールに塗布し、空気中860℃で1時間焼結させた。このスチールウールを第1図のように発熱体を備えたステンレス製の容器に封入し、実施例1の排気ガスフィルターを作成した。
実施例1の排気ガスフィルターのガス導入口を第2図のように、NとNO(450ppm或いは500ppm)の混合ガスボンベにつなぎ、ガス出口をNOx分析計に接続する。この状態で、NとNOの混合ガスを35分、室温下においていくつかの流速で流し、そのガス中のNOの濃度を測定した(第3図)。
第3図から分かるように、400mL/minでわずかにNOの量が減少しているが、700mL/min,1000mL/minではほとんど変化が無かった。またガスの流し始めの10分間は、排気ガスフィルターの中の空気が存在するため、一時的にNOの量が減少するのであって、本質的な触媒的な効果によるものではない。
次に、フィルター内に設置したヒーターに電流を流して温度を上昇させ、NO濃度とNOとNOの混合気体(以下、NOxと称する。)の濃度と反応温度との関係を調べた。このときの流量は1000mL/minである。第4図では横軸を時間(分)、左側縦軸をNOとNOxのそれぞれの濃度、右側縦軸を温度とした。ヒーターに電流を流し始めた時間は、30分後である。なお表示温度は、フィルター容器表面のものであり、触媒の温度は表示温度より100℃程度高いと考えられる。
第4図に示すように温度が100℃くらいになるとNOxの濃度が激減し、45分後には本質的に0ppmとなった。NOとNOxの濃度がほとんど一致した状態で変化していることから、NO濃度とNOx濃度との差、すなわちNOの濃度は極めて低い。従って、このフィルターの中で起こっている変化では、NOが生成されず、導入したNOxは、実施例1の発明である金属酸化物触媒材料により、還元剤無しで直接分解を起こしNとOに変化したことになる。さらに70分後にヒーターに流す電流を0にしたところ、NOx濃度はその後10分程度も0ppmのままであった。十分温度が下がってくるにつれて、NOx濃度もゆっくりと上昇していった。この結果は、フィルター内設置のヒーターに流れている電流が、NOx削減の本質的な原因であることを完全に否定する。つまり、200℃程度の温度と遷移金属酸化物材料が持つ触媒機能によって、NOxが直接還元され無害化されたことを強く示す結果である。
【実施例2】
RuO2(粉末99.9%)の粉末と、酸化シリコン、酸化ナトリウム、酸化カルシウム、酸化硼素からなるバインダー粉末と溶剤の水をよく混ぜ合わせ、実施例2の金属酸化物触媒材料ペーストを得た。このペーストをスチールウールに塗布し、空気中860℃で1時間焼結させた。このスチールウールを図1のように発熱体を備えたステンレス製の容器に封入し、実施例2の排気ガスフィルターを作成した。
次に、フィルター内に設置したヒーターに電流を流して温度を上昇させ、NOxの濃度と反応温度との関係を調べた。このときの流量は1000mL/minである。第5図も、第4図と同様に横軸を時間(分)、左側縦軸をNOとNOxのそれぞれの濃度、右側縦軸を温度とした。表示温度は、触媒の温度を直接測定している。
第5図に示すように温度が200℃くらいになるとNOxの濃度が激減し、30分後には本質的に0ppmとなった。NOとNOxの濃度がほとんど一致した状態で変化していることから、NO濃度とNOx濃度との差、すなわちNO2の濃度は極めて低い。従って、このフィルターの中で起こっている変化では、NO2が生成されず、導入したNOxは、実施例2の金属酸化物触媒材料により、還元剤無しで直接分解を起こしN2とO2に変化したことになる。
第3図〜第5図に示すように、本発明の金属酸化物触媒材料を担持したフィルターは、石炭や天然ガス、石油などの化石燃料の燃焼を利用する、自動車、船舶、航空機、ガラス溶鉱炉、鋼材加熱炉、高炉熱風炉、コークス炉、セメント焼成炉、鋼鉄焼結炉、転炉などの高温炉、ごみ焼却炉、ロケットエンジン、火力発電所、ボイラー、硝酸などの薬品や触媒の製造工場、金属や石油の処理施設、石油ストーブ、ガスレンジから排出される、窒素酸化物を簡便に除去するための技術として使用できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
以上に説明したように、少なくとも一つ以上の金属元素を含む化合物であって、当該金属元素のうち少なくとも一つ以上が4d殻電子或いは5d殻電子を持つ遷移金属であることを特徴とする、金属酸化物触媒材料であって、直接分解型触媒として、排気ガス中のNOxを100%除去することを可能とする。
また、窒素酸化物以外にも、一酸化炭素、二酸化炭素、炭化水素、ディーゼルパティキュレート、ダイオキシン類(ポリ塩化ジベンゾ−p−ジオキシン、ポリ塩化ジベンゾフラン及びコプラナーPCB)、クロロフルオロカーボンの分解、還元、酸化による無害化方法にも適用可能である。更に、請求項に記述したもの以外の用途に於いても、本質的な実施の形態が本発明と変わらなければ、触媒作用が期待できる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気伝導を担う電子が4d殻電子或いは5d殻電子である遷移金属元素を少なくとも一種以上を含有することを特徴とする金属酸化物触媒材料。
【請求項2】
アルカリ金属元素を少なくとも一種以上と、電気伝導を担う電子が4d殻電子或いは5d殻電子である遷移金属元素を少なくとも一種以上を含有することを特徴とする金属酸化物触媒材料。
【請求項3】
アルカリ土類金属元素を少なくとも一種以上と、電気伝導を担う電子が4d殻電子或いは5d殻電子である遷移金属元素を少なくとも一種以上を含有することを特徴とする金属酸化物触媒材料。
【請求項4】
希土類元素金属元素を少なくとも一種以上と、電気伝導を担う電子が4d殻電子或いは5d殻電子である遷移金属元素を少なくとも一種以上を含有することを特徴とする金属酸化物触媒材料。
【請求項5】
ビスマス(Bi),スズ(Sn),鉛(Pb),ゲルマニウム(Ge),ケイ素(Si),アルミニウム(Al),ガリウム(Ga),インジウム(In),亜鉛(Zn)の群から選択される少なくとも1種以上の金属元素と、電気伝導を担う電子が4d殻電子或いは5d殻電子である遷移金属元素を少なくとも一種以上を含有することを特徴とする金属酸化物触媒材料。
【請求項6】
電気伝導を担う電子が4d殻電子或いは5d殻電子である遷移金属元素として、タングステン(W),モリブデン(Mo),ニオブ(Nb),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),ルテニウム(Ru),イリジウム(Ir),ロジウム(Rh),パラジウム(Pd),白金(Pt),金(Au),銀(Ag),レニウム(Re)の元素群の内、少なくとも一種以上を含有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の金属酸化物触媒材料。
【請求項7】
該遷移金属元素Mと酸素OがなすMO八面体或いはMO四面体或いはその両方を結晶構造の構成要素として持つ請求項1〜5のいずれか記載の金属酸化物触媒材料。
【請求項8】
組成式が、An+13n+1(n=1,2,3,∞)の組成を有し、A元素として、カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr),バリウム(Ba)、ランタン(La)、スズ(Sn)の元素群から選択された1種類の金属を含み、B元素として、タングステン(W),モリブデン(Mo),ニオブ(Nb),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),ルテニウム(Ru),イリジウム(Ir),ロジウム(Rh),白金(Pt)の元素群から選択された1種類の金属を含むことを特徴とする、請求項1若しくは請求項3に記載の金属酸化物触媒材料。
【請求項9】
ペロブスカイト構造、層状ペロブスカイト構造、パイロクロア構造若しくはスピネル構造のいずれか一つの結晶構造を持つことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の金属酸化物触媒材料。
【請求項10】
電気伝導性を持つことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の金属酸化物触媒材料。
【請求項11】
請求項1〜10にいずれか記載の金属酸化物触媒材料をバルク状、薄膜状、厚膜状、粉末状に成形してなることを特徴とする、燃焼排気ガス処理用触媒。
【請求項12】
請求項1〜10にいずれか記載の金属酸化物触媒材料を、単体金属、金属間化合物、絶縁性セラミックスの中から少なくとも一つ以上の材料からなる母材に担持してなることを特徴とする燃焼排気ガス処理用触媒。

【国際公開番号】WO2004/096436
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505952(P2005−505952)
【国際出願番号】PCT/JP2004/006311
【国際出願日】平成16年4月30日(2004.4.30)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(500357552)株式会社エス・エフ・シー (20)
【Fターム(参考)】