説明

遷移金属ドープ・スピネル型MgAl2O4蛍光体とこれを用いたレーザー装置並びにこの蛍光体の製造方法

レーザー発振が可能な遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体とこれを用いたレーザー装置であって、Al原料と、Al原料のAlの量に対してMgの量がモル比で数%過剰になる量のMg原料と、遷移金属原料とを混合し、この混合原料を加圧成型して形成した原料棒を所定の雰囲気ガス中の浮遊帯域溶融により単結晶化することによって得る。Tiドープの量は、組成式MgAl2−xTiにおいて、0.003≦x≦0.01の範囲であり、Mnドープの量は、組成式Mg1−xMnAlOにおいて、0.003≦x≦0.01の範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、スピネル型結晶構造を有するMgAl単結晶を母体結晶とし、遷移金属をドープした遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体と、この蛍光体を用いた遷移金属ドープ・スピネル型MgAlレーザー装置、並びに遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
蛍光体は、各種のカラーディスプレイ装置にとって不可欠な物質である。また、絶縁物母体結晶に発光中心をドープした蛍光体は、発光スペクトルがブロードであることから、外部共振器型レーザーのレーザー媒質として使用した場合に種々の波長のレーザー発振が可能であり、また、超短光パルス光源用レーザー媒質として用いた場合に超短光パルス時間幅を極めて短くできる。蛍光の発光効率が高く、また、母体結晶の融点が高い程、高出力のレーザーが可能になるため、より融点の高い母体結晶を用いた蛍光体の研究が盛んに行われている。
例えば、コランダム型結晶構造を有する、ルビーレーザーやサファイアレーザーは、優れたレーザーとして広く使用されているが、これらのレーザー媒質はAlを母体結晶とし、遷移金属元素を発光中心とする蛍光体である。これらのレーザーの優れた性質は、母体結晶の結晶完全性が高いために、遷移金属をドープした場合に、発光効率が高く且つレーザー発振に最適な電子エネルギー準位を形成できると共に、母体結晶の融点(融点2050℃)が高いことに負うところが大きい。従って、Al結晶よりもさらに高い融点(融点2135℃)を有し、結晶完全性に優れたスピネル型結晶構造のMgAlを母体結晶とする蛍光体ができれば、より高出力のレーザーが可能になる。
ところで、スピネル型結晶構造を有するMgAlを母体結晶とする蛍光体は、ルビーレーザーやサファイアレーザーを凌ぐ蛍光体として期待され、従来から研究されてきたが、現在に至るまで、レーザー発振が可能な蛍光体は得られなかった。
文献1(L.E.Bausa,I.Vergara,andJ.Garcia−Sole:J.Appl.Phys.68(2),15 July 1990,p.736)には、ベルヌーイ(Verneuie)法を用いて作製した、Tiを0.05at%(atomic%)ドープしたTiドープ・スピネル型MgAl蛍光体が記載されている。文献1の図1に見られるように、この蛍光体は、バンド端吸収の他に490nmと790nmに吸収ピークを有している。また同文献の図2に示されているように、この蛍光体は、バンド端励起(266nm)による465nmの発光ピークと、532nm励起による805nmの発光ピークとを有している。また、この蛍光体の490nmの吸収及び465nmの発光、及び805nmの発光は、スピネル結晶のBサイトに配置されたTi3+のd電子の、酸素の6配位子場におけるd−d遷移に基づくものである。また、790nmの吸収は、Ti4+−Fe2+ペアによるものとされている。このように、この蛍光体の吸収及び発光は、d−d遷移によるものが主であり、d−d遷移のほとんどは、電気双極子禁制遷移であるために発光効率が低い。また、不純物による吸収も見られることから、この結晶によるレーザー発振は不可能と考えられる。同文献には、805nmの発光ピークを利用して赤外レーザー発振が可能であろうと記載されているが、確認されていない。
また、文献2(R.Clausen and K.Peterman.IEEE Journal MQ.E.24(1988)1114)、及び、文献3(K.Peterman et al.Opt.Commun.70(1989)483)には、チョクラルスキー(Czochralski)法、及びベルヌーイ(Verneuie)法を用いて作製した、Mnを1at%、及び18at%ドープしたMnドープ・スピネル型MgAl蛍光体が記載されている。文献3の図1に見られるように、これらの蛍光体は、250nmから550nmにわたって多数の吸収ピークを有している。これらの吸収ピークは、スピネル型結晶のAサイトに配置したMn2+のd電子の、酸素の4配位子場におけるd−d遷移に基づくものである。d−d遷移のほとんどは、電気双極子禁制遷移であるため、発光効率が低く、レーザー発振は不可能と考えられる。また、同文献には、この蛍光体のd−d遷移の第1励起状態に励起された電子は、さらに、上のレベルに励起されるため、レーザー発振は不可能であると記載されている。
このように、従来までに、種々の遷移金属をドープしたスピネル型MgAl蛍光体が試みられているが、レーザー発振が可能な蛍光体は実現されていない。
上記課題に鑑み、本発明は、レーザー発振が可能な遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体を提供することを第1の目的とする。また、この蛍光体を用いた遷移金属ドープ・スピネルMgAlレーザー装置を提供することを第2の目的とする。さらに、この蛍光体の製造方法を提供することを第3の目的とする。
【発明の開示】
上記第1の目的を達成するため、本発明の遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体は、Al原料と、Al原料のAlの量に対してMgの量がモル比で数%過剰になる量のMg原料と、所定の量の遷移金属原料とを混合して形成した原料棒を、所定の雰囲気ガス中で単結晶化して成ることを特徴とするものである。上記所定の雰囲気ガスは、酸化性ガス又は希ガスであればよく、好ましくは、浮遊帯域溶融化法を用いて単結晶化されることができる。
この蛍光体は、Mgや酸素の空孔がほとんどなく、例えば、遷移金属をドープしない場合、すなわち、スピネル型MgAl母体結晶は、300nmから900nmの波長領域の光に対して、吸収ピークを全く有さない程度に結晶完全性が高い。
本発明の蛍光体は、上記の母体結晶を用いると共に、遷移金属がTiであり、組成式が、MgAl2−xTi(ただし、0.003≦x≦0.01)で表され、200nmから900nmの波長の光に対して、バンド端吸収以外の吸収ピークを有さず、かつ、バンド端励起により、490nmにピークを有する発光をすることを特徴とする。
この構成によるTiドープ・スピネル型MgAl蛍光体は、Tiがスピネル型MgAl結晶のBサイトにTi4+として存在し、バンド端励起によって発生した電子−ホールペアの電子は、Ti4+に捉えられて中間エネルギー状態を形成し、Ti4+近傍のOに捉えられたホールと再結合して発光する。また逆に、ホールがTi4+近傍のOに捉えられて中間エネルギー状態を形成し、Ti4+近傍の電子と再結合して発光する。この発光過程は電荷移動(charge transfer)遷移であり、電荷移動は電気双極子禁制遷移ではないので、d−d遷移における電気双極子禁制遷移と比べて、遷移確率が1〜2オーダー高く、レーザー発振が可能な発光効率を有する蛍光体である。
本発明の蛍光体は、上記の母体結晶を用いると共に、遷移金属がMnであり、組成式がMg1−xMnAlO(ただし、0.003≦x≦0.01)で表され、200nmから900nmの波長の光に対して、バンド端吸収と、ドープするMnの量に比例して増大する450nmにピークを有する吸収、とを有し、かつ、バンド端励起光、又は、450nmの励起光により、520nmにピークを有する発光をすると共に、バンド端励起光により650nmにピークを有する発光をすることを特徴とする。
この構成によるMnドープ・スピネル型MgAl蛍光体の650nmの発光は、Mnがスピネル型MgAl結晶のAサイトにMn2+として存在し、バンド端励起によって発生した電子−ホールペアの電子は、Mn2+に捉えられて中間エネルギー状態を形成し、Mn2+近傍のOに捉えられたホールと再結合して発光する。また逆に、ホールがMn2+近傍のOに捉えられて中間エネルギー状態を形成し、Mn2+近傍の電子と再結合して発光する。この発光過程は電荷移動遷移であり、電荷移動遷移は電気双極子禁制遷移ではないので、d−d遷移における電気双極子禁制遷移と比べて、遷移確率が1〜2オーダー高く、また、520nmの発光は、d−d遷移と電荷移動遷移の両方の遷移過程で発光する発光であるので、発光効率が高く、レーザー発振が可能な発光効率を有する蛍光体である。
また、本発明の蛍光体は、上記の母体結晶を用いると共に、遷移金属がVであり、組成式がMgAl2−x(ただし、0.001≦x≦0.01)で表され、かつ、200nmから900nmの波長の光に対して、バンド端吸収以外の吸収ピークを有さず、かつ、バンド端励起により450nmから750nmの波長範囲に亘る白色の発光をすることを特徴とする。この構成によるVドープ・スピネル型MgAl蛍光体は、上記のTiやMnドープ蛍光体と同様に、発光効率が高く、レーザー発振が可能な蛍光体である。
上記第2の目的を達成するため、本発明の遷移金属ドープ・スピネル型MgAlレーザー装置は、上記の遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体をレーザー媒質とするレーザー装置であることを特徴とする。
本発明のレーザー装置は、上記Tiドープ・スピネル型MgAl蛍光体をレーザー媒質とし、このレーザー媒質に、Nd:YAGレーザーの第4高調波(波長は266nm)、Nd:YLFの第4高調波(波長は262nm)、又はNd:YAPレーザーの第4高調波(波長は269nm)をサイドポンプすると共に、外部レーザー共振器で共振させて、上記蛍光体の490nmにピークを有する発光を利用して青又は緑色のレーザー発振をする。
本発明のレーザー装置は、上記Mnドープ・スピネル型MgAl蛍光体をレーザー媒質とし、このレーザー媒質に、Nd:YAGレーザーの第4高調波(波長は266nm)、Nd:YLFの第4高調波(波長は262nm)、又はNd:YAPレーザーの第4高調波(波長は269nm)をサイドポンプすると共に、外部レーザー共振器で共振させて、上記蛍光体の520nm及び/又は650nmにピークを有する発光を利用して、青又は緑及び/又は赤色のレーザー発振を行う。
本発明のレーザー装置は、上記Tiドープ・スピネル型MgAl蛍光体二つと、上記Mnドープ・スピネル型MgAl蛍光体一つとを外部レーザー共振器中に直列に配列し、これらの三つの蛍光体に、Nd:YAGレーザーの第4高調波(波長は266nm)、Nd:YLFの第4高調波(波長は262nm)、又は、Nd:YAPレーザーの第4高調波(波長は269nm)をサイドポンプすることにより、Tiドープ・スピネル型MgAl蛍光体二つからそれぞれ、青、緑、及びMnドープ・スピネル型MgAl蛍光体一つから赤色を同時に発振させることを特徴とする。この構成によれば、三原色レーザーが得られる。
本発明のレーザー装置は、上記Tiドープ・スピネル型MgAl蛍光体一つと、上記Mnドープ・スピネル型MgAl蛍光体二つとを外部レーザー共振器中に直列に配列し、これらの三つの蛍光体に、Nd:YAGレーザーの第4高調波(波長は266nm)、Nd:YLFの第4高調波(波長は262nm)、又はNd:YAPレーザーの第4高調波(波長は269nm)をサイドポンプすることにより、Tiドープ・スピネル型MgAl蛍光体から青又は緑、及びMnドープ・スピネル型MgAl蛍光体二つからそれぞれ緑又は青及び赤色を同時に発振させることを特徴とする。この構成によれば、三原色レーザーが得られる。
また、本発明のレーザー装置は、上記Tiドープ・スピネル型MgAl蛍光体一つと、上記Mnドープ・スピネル型MgAl蛍光体一つとを外部レーザー共振器中に直列に配列し、これらの二つの蛍光体に、Nd:YAGレーザーの第4高調波(波長は266nm)、Nd:YLFの第4高調波(波長は262nm)、又はNd:YAPレーザーの第4高調波(波長は269nm)をサイドポンプすることにより、Tiドープ・スピネル型MgAl蛍光体から青又は緑、及びMnドープ・スピネル型MgAl蛍光体から緑又は青及び赤色を同時に発振させることを特徴とする。この構成によれば、三原色レーザーが得られる。
上記第3の目的を達成するため、本発明の遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体の製造方法は、Al原料と、Al原料のAlの量に対してMgの量がモル比で数%過剰になる量のMg原料と、遷移金属原料とを混合し、この混合原料を加圧成型して形成した原料棒を所定の雰囲気ガス中の浮遊帯域溶融法により単結晶化することを特徴とする。雰囲気ガスは、酸化性ガス又は希ガスでよい。
この方法によれば、Mgや酸素の空孔がほとんどなく、例えば、遷移金属をドープしない場合、すなわち、母体結晶の場合には、300nmから900nmの波長の光に対して、全く吸収ピークを有さない程度に結晶完全性が高いスピネル型MgAl母体結晶が得られる。
前記Al原料がAl、前記Mg原料がMgO、遷移金属原料がTiOであり、TiO原料をAl原料に対してモル比で0.003から0.01の範囲で混合して製造すれば、200nmから900nmの波長の光に対して、バンド端吸収以外の吸収ピークを有さず、かつ、バンド端励起により、490nmにピークを有する発光のTiドープ・スピネル型MgAl蛍光体を製造することができる。
前記Al原料がAl、前記Mg原料がMgO、遷移金属原料がMnOであり、MnO原料を前記MgO原料に対してモル比で0.003から0.01の範囲で混合して製造すれば、200nmから900nmの波長の光に対して、バンド端吸収と、ドープするMnの量に比例して増大する450nmにおける吸収ピーク、とを有し、かつ、450nmの励起光により520nmのピークの発光をすると共に、バンド端励起により650nmにピークを有する発光をするMnドープ・スピネル型MgAl蛍光体を製造することができる。
また、前記Al原料がAl、前記Mg原料がMgO、遷移金属原料が金属Vであり、V原料を前記Al原料に対してモル比で0.001から0.01の範囲で混合して製造すれば、200nmから900nmの波長の光に対して、バンド端吸収以外の吸収ピークを有さず、かつ、バンド端励起により、450nmから750nmにわたる白色の発光を有するVドープ・スピネル型MgAl蛍光体を製造することができる。
さらに、Al原料とMgO原料と遷移金属原料とを混合し、この混合物を加圧成型して焼結した焼結体をターゲットとし、Oガス中のレーザーアブレーションにより、単結晶基板上に遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体単結晶薄膜をエピタキシャル成長することによっても、遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体の製造に用いる静水圧成形装置の概略断面を示す概念図である。
図2は、本発明の製造に用いる浮遊帯域溶融炉の概念図を示す図である。
図3は、本発明の製造に用いるダイスの概略断面を示す図である。
図4は、本発明の製造に用いる焼結装置である電気炉加熱システムの概略断面図である。
図5は、本発明の製造に用いるレーザーアブレーション装置の概念図である。
図6は、本発明の母体結晶のバンド端励起による発光スペクトルを示す図である。
図7は、本発明の母体結晶、及びTiドープ蛍光体の透過率特性を示す図である。
図8は、本発明のTiドープ蛍光体のバンド端励起光による発光スペクトルを示す図である。
図9は、本発明のTiドープ蛍光体の490nmにピークを有する発光スペクトルの時間分解スペクトルを示す図である。
図10は、本発明のMnドープ蛍光体の透過率特性を示す図である。
図11は、本発明のMnドープ蛍光体の450nm励起光による発光スペクトルを示す図である。
図12は、本発明のMnドープ蛍光体の520nmにピークを有する発光スペクトルの励起スペクトルを示す図である。
図13は、本発明のMnドープ蛍光体の520nmにピークを有する発光スペクトルの時間分解スペクトルを示す図である。
図14は、本発明のMnドープ蛍光体のバンド端励起による発光スペクトルを示す図である。
図15は、本発明のMnドープ蛍光体の650nmにピークを有する発光スペクトルの時間分解スペクトルを示す図である。
図16は、本発明のVドープ蛍光体のバンド端励起光による発光スペクトルを示す図である。
図17は、SrTiO(100)基板面にエピタキシャル成長したMgAl2−xTi単結晶薄膜蛍光体のRHEEDパターンを示す図である。
図18は、MgAl2−xTi単結晶薄膜蛍光体のX線回折パターン図である。
図19は、MgAl2−xTi単結晶薄膜蛍光体を電子線励起した場合の蛍光を示す写真である。
図20は、本発明の遷移金属ドープ・スピネル型蛍光体レーザー装置の構成を示す図である。
図21は、本発明のTiドープ・スピネル型蛍光体レーザー装置のレーザー発振を示す図である。
図22は、本発明のMnドープ・スピネル型蛍光体レーザー装置のレーザー発振を示す写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明は以下の詳細な説明及び本発明の最良の形態を示す添付図面によって、よりよく理解されるものとなろう。なお、添付図面に示す実施の形態は本発明を特定するものではなく、説明及び理解を容易とするためだけのものである。
初めに、本発明の蛍光体の製造方法を説明する。
本発明の蛍光体の製造方法は、アルミニウム酸化物原料とマグネシウム酸化物原料と遷移金属原料とを混合する混合工程と、この混合物を圧縮成形し原料棒を作製する加圧成形工程と、この原料棒の種棒を設置した浮遊帯域溶融炉に設置し、雰囲気ガス中の浮遊帯域溶融法により単結晶化する溶融成長工程とからなるものである。
次に、本発明の製造方法に用いる加圧成形装置について説明する。
図1は擬静水圧成形装置の概略断面を示す概念図である。図1において、擬静水圧成形装置10は、シリンダー11と、ピストン13と、図示しない油圧プレス機とを備え、シリンダー11に充填された水15の中に、例えば風船(直径約6mm、長さ約250mm)に詰めて円柱状に成形された原料の混合物17を設置し、油圧プレス機でピストン13を押すことにより混合物17を圧縮して成形する。この混合物17の適宜の長さのものが原料棒となる。なお、油圧プレスの荷重は、例えば300kg/cmであり、原料棒は、例えば50〜100mm程度、種棒は20〜50mm程度である。
次に、本発明の蛍光体の製造に用いる浮遊帯域溶融炉について説明する。図2は浮遊帯域溶融炉の概念図を示す。図2において、浮遊帯域溶融炉20は、図示しないボンベなどのガス供給系からアルゴン、酸素のいずれか又はその両方のガスを導入し、所定のガス雰囲気に保つ石英管23と、この石英管23内にて下方に種棒22を、上方に原料棒26を保持するとともに、回転及び上下に移動可能なシャフト21,21と、二焦点を有する回転楕円鏡27と、一方の焦点位置に設置されたキセノンランプなどの赤外集光加熱源25と、図示しない観察用の窓とを備え、シャフト21,21の回転及び上下移動、加熱温度及び昇降温レートは図示しないコンピュータにより制御される。
さらに、一方のシャフト21に保持された種棒22の先端と、他方のシャフト21に保持された原料棒26の先端とが、回転楕円鏡27の他の焦点位置に設置されるようになっており、シャフト21,21の上下移動が制御されることにより所定の成長速度が設定され、かつ、維持される。なお、図2中、29は回転楕円鏡27の他の焦点位置に集光する赤外線を示す。
このような浮遊帯域溶融炉20では、保持した種棒22と原料棒26の両先端を加熱溶融して接触させた後に溶融部24を形成し、シャフト21,21をゆっくり下方へ移動して溶融帯を徐々に原料棒側に移動すると、種棒側に単結晶が成長する。
したがって、本発明に係る浮遊帯域溶融法では、遷移金属が発光中心位置にドープされたスピネル型結晶構造を有するMgAl単結晶を短時間で、しかも、例えば直径5mm、長さ100mm以上の大きさで作ることができる。さらに、溶融液保持用の容器を使用しないので不純物による汚染がなく、原料と同一の遷移金属濃度を持つ単結晶を作ることができる。
次に、本発明の蛍光体の製造に用いるレーザーアブレーション用焼結体ターゲットの製造方法及びその製造装置について説明する。
焼結体の製造方法は、アルミニウム酸化物原料とマグネシウム酸化物原料と遷移金属原料とを混合する混合工程と、この混合物を圧縮成形してターゲット形状の成形体を作製する圧縮成形工程と、この成形体を所定ガス雰囲気中で加熱して焼結体を作製する焼結工程とからなる。
次に、本発明の蛍光体の製造に用いる圧縮成形用の加圧成型装置について説明する。図3はダイスの概略断面を示す概念図である。図において、ダイス30は混合物34を充填した金属製シリンダー33と、上下一対のピストン31,31と、ピストン31,31を上下から加圧する図示しないプレス装置とを備えている。この加圧は冷間加圧である。
次に、本発明の蛍光体の製造に用いる焼結装置について説明する。
図4は焼結装置である電気炉加熱システムの概略断面を示す概念図である。図4において、電気炉加熱システム40は、環状型の電気炉41と、高温に耐えるアルミナ製の炉心管43と、図示しないガス供給系と、図示しない真空排気系とを備え、炉心管43内に所定のガスを供給し、かつ、高真空排気が可能になっている。また電気炉加熱システム40は、真空度、加熱温度及び昇降温レートが設定可能である。真空排気系としては、例えば油拡散ポンプと回転ポンプとを組み合わせたものが用いられる。
図3及び図4に示すように、このような装置において、まず原料の混合物34をピストン31と金属製シリンダー33の容器に充填し、ピストン31,31に上下から、例えば200kg/cm2の荷重を加え、原料の混合物34を圧縮成形し、直径20mm、厚さ5mmの成形体46を作製する。
次に、圧縮成形した成形体46をアルミナセラミックスボート44に乗せ、炉心管43の中に設置する。この炉心管43に所定のガスを導入し、かつ、排気しながら焼結する。図4の矢印は所定のガスの導入と排気を示す。このようにして、電気炉41で所定温度プロファイル下で焼結体を形成する。
このような焼結体の製造方法では、圧縮成形時に任意の形状にすることができるので、用途に応じた形状にすることが可能になる。
次に、本発明の蛍光体の製造に用いるレーザーアブレーション装置について説明する。図5は、レーザーアブレーション装置の概念図である。レーザーアブレーション装置50は、真空チャンバー51内に、基板52を保持し基板52の温度を制御する基板保持加熱装置53と、真空チャンバー51内にガスを導入するガス供給装置54と、基板52に蒸着するターゲット物質55と、ターゲット物質55にパルスレーザー光56を照射してターゲット物質55を蒸発させる、真空チャンバー51外に設置されたレーザーアブレーション用レーザー光源57とから構成されている。また、基板52に蒸着された物質の構造を解析する電子銃58aと電子波検出器58bとからなるRHEED(反射電子線回折装置)58を有しており、蒸着する物質55の原子層単位の膜厚制御が可能である。この装置を用いれば、ターゲット物質の組成と同様の組成の蒸着薄膜が得られる。
この装置を用いて本発明の薄膜結晶蛍光体を製造するには、単結晶基板を所定の温度に保ち、この基板52上に、アルミニウム酸化物原料とマグネシウム酸化物原料と遷移金属原料とを所定の濃度で混合し焼結した焼成体ターゲットをレーザーアブレーションして蒸着すればよい。
次に、上記本発明の遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体の特性について幾つかの実施例により説明する。
【実施例1】
アルミニウム酸化物(Al)原料とマグネシウム酸化物(MgO)原料とを混合し、この混合物を図1に示した加圧成型装置で圧縮成形して原料棒を作製し、この原料棒を種棒として図2に示した浮遊帯域溶融炉に設置し、雰囲気ガス中の浮遊帯域溶融法により単結晶化した。このMgAl母体結晶に360nmにピークを有する紫外線を照射して、発光スペクトルを観測した。
この際、アルミニウム酸化物(Al)原料とマグネシウム酸化物(MgO)原料との混合比を変化させた試料、及び、雰囲気ガスを種々変えて浮遊帯域溶融成長させた試料を作製し、発光スペクトルを比較した。
図6は、作製条件の異なるMgAl母体結晶を275nmのバンド端励起光で励起した場合の発光スペクトルを比較する図である。図において、横軸は蛍光の光波長を示し、縦軸は任意メモリの発光強度を示す。図における曲線(1)〜(4)は、アルミニウム酸化物(Al)原料とマグネシウム酸化物(MgO)原料をモル比で同量混合した原料棒をそれぞれ、(1)は雰囲気ガスがArとHの混合ガス(Hの体積率2.4%)、(2)は雰囲気ガスがO2+のイオンガス、(3)は雰囲気ガスがOガス、(4)は雰囲気ガスがArガス、で浮遊帯域溶融成長させた試料の発光スペクトルである。(5)はアルミニウム酸化物(Al)原料とマグネシウム酸化物(MgO)原料とをMgOがAlに対してモル比で1%過剰になるように混合して形成した原料棒をOガス雰囲気中で浮遊帯域溶融成長させた試料の発光スペクトルである。
図からわかるように、アルミニウム酸化物(Al)原料とマグネシウム酸化物(MgO)原料とをモル比で同量混合した試料では、雰囲気ガスの種類によらず可視光領域の全範囲にわたって発光が観測される。一方、アルミニウム酸化物(Al)原料とマグネシウム酸化物(MgO)原料をMgOがAlに対してモル比で1%過剰になるように混合した試料(5)では、可視光領域の全範囲にわたって発光が観測されない。なお、図示していないが、雰囲気ガスをArに代えて作製した試料においても同様に可視光領域の全範囲にわたって発光が観測されなかった。
すなわち、Al原料と、Al原料のAlの量に対してMgがモル比で数%過剰になる量のMg原料とを混合し、この混合原料を加圧成型して形成した原料棒を酸素又はArガス中の浮遊帯域溶融法により単結晶化すれば、優れた光学結晶が得られることがわかる。
【実施例2】
アルミニウム酸化物(Al)原料とマグネシウム酸化物(MgO)原料をMgOがAlに対してモル比で1%過剰になるように混合し、遷移金属原料としてTiOを種々の量混合した原料棒を、ArガスまたはOガス中の浮遊帯域溶融法により単結晶化した蛍光体の特性を測定した。
図7は本発明の母体結晶及びTiドープ蛍光体の透過率特性を示す図である。図において、横軸は光波長、縦軸は透過率を示す。一点鎖線は母体結晶、細かい点線はTiをAlに対するモル比で0.1%、荒い点線はTiをAlに対するモル比で0.03%、さらに実線はTiをAlに対するモル比で1%ドープした蛍光体の透過率を示す。
図7から、母体結晶は、200nmから900nmの波長範囲において、バンド端吸収を除いて吸収ピークを有しないことがわかり、光学結晶として必要な特性を備えていることがわかる。また、Tiをドープした蛍光体も、母体結晶と同様に、200nmから900nmの波長範囲において、バンド端吸収を除いて吸収ピークを有さないことがわかる。さらに、Tiドープ量が増すにつれて透過率が上昇することがわかる。
図8は本発明のTiドープ蛍光体のバンド端励起光による発光スペクトルを示す図である。図において横軸は発光波長を示し、縦軸は任意メモリで表した発光強度を示す。図の曲線(1)はTiをAlに対するモル比で0.3%、(2)はTiをAlに対するモル比で0.5%、(3)はTiをAlに対するモル比で1%、(4)はTiをAlに対するモル比で0.1%をドープした蛍光体の発光スペクトルである。バンド端励起光は、もっとも励起光率が高い275nm近傍の紫外線を用いた。なお、実線のグラフのピークが水平になっているのは、測定器の測定限界のためである。
図から、この蛍光体は、バンド端励起によって490nmにピークを有し半値全幅が約130nmの発光をする蛍光体であることがわかる。また、Ti濃度が0.3%から1%の範囲においてもっとも蛍光強度が高くなることがわかる。
図9はTiドープ蛍光体の490nmにピークを有する発光スペクトルの時間分解スペクトルを示す図である。横軸は発光スペクトルの波長を示し、縦軸は任意メモリで表した発光強度を示す。Tiドープ量0.3%の蛍光体に、中心波長275nmの超短光パルスを照射し、490nmの発光スペクトルの時間変化を測定した。照射後の経過時間毎のスペクトルを線の種類を変えて表し、それぞれのスペクトルの経過時間を図中に記載している。
この図から、この発光スペクトルの減衰定数は約9μsecであることがわかる。減衰定数がμsecオーダーであることから、この発光メカニズムはTiのd電子によるd−d遷移によるものではないことがわかる。すなわち、d−d遷移は、電気双極子禁制遷移のために、減衰定数がmsecオーダーになるためである。また、ESR(electron spin resonance)測定から、この蛍光体のTiは、スピネル型MgAl結晶のBサイトにTi4+として存在することを確認しており、この発光メカニズムは、バンド端励起によって発生した電子−ホールペアの電子が、Ti4+に捉えられて中間エネルギー状態を形成し、Ti4+近傍のOに捉えられたホールと再結合して発光する、また逆に、ホールがTi4+近傍のOに捉えられて中間エネルギー状態を形成し、Ti4+近傍の電子と再結合して発光するものであると推定される。この発光メカニズムは電荷移動遷移であり、電荷移動遷移は電気双極子禁制遷移ではないので、d−d遷移における電気双極子禁制遷移と比べて、遷移確率が1〜2オーダー高く、レーザー発振が可能な発光効率を有する蛍光体であることがわかる。
【実施例3】
アルミニウム酸化物(Al)原料とマグネシウム酸化物(MgO)原料をMgOがAlに対してモル比で1%過剰になるように混合し、遷移金属原料としてMnOを種々の量混合した原料棒を、ArガスまたはOガス中で浮遊帯域溶融法により単結晶化した蛍光体の特性を測定した。
図10は本発明のMnドープ蛍光体の透過率特性を示す図である。図10において、横軸は光波長、縦軸は透過率を示す。一点鎖線は母体結晶、細かい点線はMnをMgに対してモル比で0.3%ドープ、荒い点線はMnをMgに対してモル比で0.5%ドープ、そして実線はMnをMgに対してモル比で1%ドープした蛍光体の透過率を示す。図から、Mnを0.3%以下でドープした蛍光体は、バンド端吸収を除いて、200nmから900nmの波長範囲に亘って、吸収ピークを有さないことがわかる。さらに、Mnのドープ量が増すにつれて、450nm近傍の吸収が増大し、500nm以上の波長領域の透過率が上昇することがわかる。この現象は、スピネル型MgAl結晶のMg空孔がMnによって埋められるためと推定される。
図11は本発明のMnドープ蛍光体の450nm励起光による発光スペクトルを示す図である。図において、横軸は光波長、縦軸は発光強度を示す。細かい点線はMnをMgに対してモル比で0.3%ドープ、荒い点線はMnをMgに対してモル比で0.5%ドープ、また、実線はMnをMgに対してモル比で1%ドープした蛍光体の発光スペクトルを示す。図から、450nm励起によって、520nmにピークを有し、半値全幅30nmの発光が生じることがわかる。なお、図示しないが、この520nmの発光ピークはバンド端励起によっても同程度の量子効率で発生することが確認されている。
図12は本発明のMnドープ蛍光体の520nmにピークを有する発光スペクトルの励起スペクトルを示す図である。図において、横軸は励起光の波長、縦軸は任意メモリで表した励起光強度を示す。細かい点線はMnをMgに対してモル比で0.3%ドープ、荒い点線はMnをMgに対してモル比で0.5%ドープ、また、実線はMnをMgに対してモル比で1%ドープした蛍光体の励起スペクトルを示す。図から、450nm近辺に2つ、400nm以下に2つの励起ピークが存在することがわかる。
図13は本発明のMnドープ蛍光体の520nmにピークを有する発光スペクトルの時間分解スペクトルを示す図である。横軸は発光スペクトルの波長を、縦軸は任意メモリで表した発光強度を示す。Mnドープ量0.3%の蛍光体に、中心波長520nmの超短光パルスを照射し、520nmの発光スペクトルの時間変化を測定した。照射後の経過時間毎のスペクトルを線の種類を変えて表し、それぞれのスペクトルの経過時間を図中に記載している。
この図から、この発光スペクトルの減衰定数は約1msecと長いことがわかる。図12の4つの励起スペクトルと、図13の減衰定数から、この発光メカニズムは、スピネル型結晶のAサイトに配置したMn2+のd電子の、酸素の4配位子場におけるd−d遷移に基づくものであることがわかる。d−d遷移のほとんどは、電気双極子禁制遷移であるため、減衰定数が長い。また、図示しないが、バンド端励起による場合には、減衰定数がμsecオーダーとなり、電荷移動遷移が生じていることが確認されている。
図14は本発明のMnドープ蛍光体のバンド端励起による発光スペクトルを示す図である。図において横軸は発光波長を示し、縦軸は任意メモリで表した発光強度を示す。図の曲線(1)はMnをMgに対してモル比で0.3%、(2)はMnをMgに対してモル比で0.5%、(3)はMnをMgに対してモル比で1%ドープした蛍光体の発光スペクトルである。なお、バンド端励起光源は励起光率がもっとも高い260nm近傍の紫外線を用いた。図から、この蛍光体はバンド端励起によって、650nmにピークを有し、半値全幅が約70nmの発光スペクトルを有する蛍光体であることがわかる。また、Mn濃度が0.3%から1%の範囲において蛍光強度が高いことがわかる。
図15は本発明のMnドープ蛍光体の650nmにピークを有する発光スペクトルの時間分解スペクトルを示す図である。横軸は発光スペクトルの波長を、縦軸は任意メモリで表した発光強度を示す。Mnドープ量0.3%の蛍光体に、中心波長260nmの超短光パルスを照射し、650nmの発光スペクトルの時間変化を測定した。照射後の経過時間毎のスペクトルを線の種類を変えて表し、それぞれのスペクトルの経過時間を図中に記載している。この図から、650nmにピークを有する発光スペクトルの減衰定数は数十μsecオーダーであることがわかる。
この減衰定数から、650nmの発光は、Mnがスピネル型MgAl結晶のAサイトにMn2+として存在し、バンド端励起によって発生した電子−ホールペアの電子が、Mn2+に捉えられて中間エネルギー状態を形成し、Mn2+近傍のOに捉えられたホールと再結合して発光すると推定される。また逆に、ホールがMn2+近傍のOに捉えられて中間エネルギー状態を形成し、Mn2+近傍の電子と再結合して発光すると推定される。この発光過程は電気双極子禁制遷移ではないので、d−d遷移における電気双極子禁制遷移と比べて、遷移確率が1〜2オーダー高く、レーザー発振が可能な発光効率を有する発光である。
【実施例4】
アルミニウム酸化物(Al)原料とマグネシウム酸化物(MgO)原料をMgOがAlに対してモル比で1%過剰になるように混合し、遷移金属としてV金属原料を混合した原料棒を、ArガスまたはOガス中で浮遊帯域溶融法により単結晶化した蛍光体の特性を測定した。
図16は本発明のVドープ蛍光体のバンド端励起による発光スペクトルを示す図である。図において、横軸は蛍光の波長を示し、縦軸は任意メモリで表した蛍光強度を示す。図の曲線(1)はVをAlに対してモル比で0.1%、(2)はVをAlに対してモル比で0.3%、(3)はVをAlに対してモル比で1%、(4)はVをAlに対してモル比で3%ドープした蛍光体の発光スペクトルである。なお、励起源はもっとも励起光率が高い330nm近傍の紫外線を用いた。図から、この蛍光体は、450nmから750nmの範囲にわたる白色の蛍光を発生することがわかる。また、V濃度が0.1%から1%の範囲において蛍光強度が高くなる。
【実施例5】
Mg、Al、Ti及びOが、組成式MgAl2−xTi(但し、0.003≦x≦0.01)で表される化学当量比で混合した原料の焼結体をターゲットとし、Oガス中のレーザーアブレーション法により、SrTiO(100)基板面にエピタキシャル成長し、この単結晶薄膜蛍光体の特性を測定した。
図17は、SrTiO(100)基板面にエピタキシャル成長したMgAl2−xTi単結晶薄膜蛍光体のRHEED(反射電子線回折)パターンを示す図である。この回折パターンから、本発明の単結晶薄膜蛍光体は単結晶薄膜であることがわかる。
図18はMgAl2−xTi単結晶薄膜蛍光体のX線回折パターン図である。この図から、Tiドープ・スピネル型MgAl単結晶薄膜が形成されていることがわかる。
図19はMgAl2−xTi単結晶薄膜蛍光体を電子線励起した場合の蛍光を示す写真である。加速電圧20keVの電子線を基板裏面より照射した。図から、強度の高い青色発光が得られることがわかる。
次に、本発明の遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体をレーザー媒質とするレーザー装置を説明する。
本発明のレーザー装置は、上記本発明による、Ti、Mn又はVドープ・スピネル型MgAl蛍光体をレーザー媒質とするものである。
図20に本発明のレーザー装置の構成の例を示す。本発明のレーザー装置60は、図20(a)に示すように、セルボプリズム61と半透明ミラー62とからなる共振器中に、Ti、Mn、又は、Vドープ・スピネル型MgAl蛍光体であるレーザー媒質63を配置し、レーザー媒質63の側面から励起光64を照射して、共振光65を形成すると共に、レーザー発振光66を得る。
また、本発明のレーザー装置70は、図20(b)に示すように、プリズム61とプリズム67とからなる共振器中に、Ti、Mn、又は、Vドープ・スピネル型MgAl蛍光体であるレーザー媒質63を配置し、プリズム67の側面にブロードバンドプリズム68を結合して、レーザー媒質63の側面から励起光64を照射して、共振光65を形成すると共に、ブロードバンドプリズム68の側面からレーザー発振光66を得る。なお、ブロードバンドプリズム68の底面は反射率100%の反射膜68aを有している。
さらに、本発明のレーザー装置80は、図20(c)に示すように、プリズム61と半透明ミラー62とからなる共振器中に、Tiドープ・スピネル型MgAl蛍光体であるレーザー媒質63a,63bと、Mnドープ・スピネル型MgAl蛍光体であるレーザー媒質63cとを直列に配置し、レーザー媒質63a,63b,63cの側面から励起光64を照射して、共振光65を形成すると共に、レーザー発振光66a,66b,66cを得る。
励起光源64には、Nd:YAGレーザーの第4高調波(波長は266nm)、Nd:YLFの第4高調波(波長は262nm)、又は、Nd:YAPレーザーの第4高調波(波長は269nm)が使用できる。
図20(a)及び(b)に示す構成において、レーザー媒質として、Tiドープ・スピネル型MgAl蛍光体を用いれば、この蛍光体の490nmにピークを有する発光を利用して青又は緑色のレーザー発振光を得ることができる。また、レーザー媒質として、Mnドープ・スピネル型MgAl蛍光体を用いれば、この蛍光体の650nmにピークを有する発光を利用して赤色のレーザー発振光を得ることができる。また、レーザー媒質として、Vドープ・スピネル型MgAl蛍光体を用いれば、この蛍光体の400nmから800nmに亘るブロードな発光を利用して白色レーザー発振光を得ることができる。
図20(c)に示した構成によれば、Tiドープ・スピネル型MgAl蛍光体63a,63bから、それぞれ青,緑、及び、Mnドープ・スピネル型MgAl蛍光体63cから赤のレーザー発振光が同時に得られるので、3原色レーザー光が得られる。
また、図示しないが、Tiドープ・スピネル型MgAl蛍光体一つと、Mnドープ・スピネル型MgAl蛍光体二つとを外部レーザー共振器中に直列に配列し、これらの三つの蛍光体に、Nd:YAGレーザーの第4高調波(波長は266nm)、Nd:YLFの第4高調波(波長は262nm)、又は、Nd:YAPレーザーの第4高調波(波長は269nm)をサイドポンプすることにより、Tiドープ・スピネル型MgAl蛍光体から、青又は緑、及び、Mnドープ・スピネル型MgAl蛍光体二つからそれぞれ、緑又は青、及び赤色を同時に発振させ、三原色レーザーを得ることも可能である。
また、図示しないがTiドープ・スピネル型MgAl蛍光体一つと、Mnドープ・スピネル型MgAl蛍光体一つとを外部レーザー共振器中に直列に配列し、これらの二つの蛍光体に、Nd:YAGレーザーの第4高調波(波長は266nm)、Nd:YLFの第4高調波(波長は262nm)、又はNd:YAPレーザーの第4高調波(波長は269nm)をサイドポンプすることにより、Tiドープ・スピネル型MgAl蛍光体から、青又は緑、及び、Mnドープ・スピネル型MgAl蛍光体から、緑又は青、及び、赤色を同時に発振させることにより、三原色レーザーを得ることも可能である。
次に本発明のレーザー装置の実施例を説明する。図20の(a)の構成で、レーザー媒質として、Tiドープ・スピネル型MgAl蛍光体、及び、Mnドープ・スピネル型MgAl蛍光体を用い、励起光源として、Nd:YAG(266nm)を用いてレーザー発振させた。プリズムの材質は溶融コルツ、ミラーの反射率は98%、レーザー媒質の長さは約2cm、及び励起光強度は10MW/cmである。
図21は、本発明のTiドープ・スピネル型MgAl蛍光体レーザー装置の発振を示す写真であり、図21(a)は、レーザー媒質として、Tiドープ・スピネル型MgAl蛍光体を用いた場合の青色のレーザー発振を示し、図21(b)は、同図(a)の青色発振の近接場(Near Field)パターン像である。
図22は本発明のMnドープ・スピネル型MgAl蛍光体レーザー装置の橙色(赤)レーザー発振を示す。
いずれの写真も、写真中央に見られるスクリーンにレーザー光を照射し、照射スクリーン面から斜め後方、約1mの距離で撮影した。レーザー光強度が強いために、実験室全体がレーザー発振光の色に染まって見える。
【産業上の利用可能性】
本発明の遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体は、母体結晶の結晶完全性が高く、また、蛍光の発光効率が高いので外部共振器型レーザーのレーザー媒質として使用することができ、可視光領域の様々な波長のレーザー発振装置として使用できる。また、超短光パルス光源用レーザー媒質として用いれば、可視光領域に中心波長を有する、超短光パルスレーザー装置として使用できる。また、各種のカラーディスプレイ装置の蛍光体としても有用である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al原料と、Al原料のAlの量に対してMgの量がモル比で数%過剰になる量のMg原料と、遷移金属原料とを混合して形成した原料棒を、所定の雰囲気ガス中で単結晶化して成ることを特徴とする、遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体。
【請求項2】
前記原料棒が、前記混合原料を加圧成型され、浮遊帯域溶融により単結晶化されたことを特徴とする、請求の範囲1に記載の遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体。
【請求項3】
前記雰囲気ガスは、酸化性ガス又は希ガスであることを特徴とする、請求の範囲1に記載の遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体。
【請求項4】
前記遷移金属がTiであり、前記遷移金属ドープ・スピネル型MgAlの組成式が、MgAl2−xTi(ただし、0.003≦x≦0.01)で表され、200nmから900nmの波長の光に対して、バンド端吸収以外の吸収ピークを有さず、かつ、バンド端励起により、490nmにピークを有する発光をすることを特徴とする、請求の範囲1に記載の遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体。
【請求項5】
前記遷移金属がMnであり、前記遷移金属ドープ・スピネル型MgAlの組成式が、Mg1−xMnAlO(ただし、0.003≦x≦0.01)で表され、200nmから900nmの波長の光に対して、バンド端吸収と、ドープするMnの量に比例して増大する450nmにおける吸収ピーク、とを有し、かつ、450nmの励起光により、520nmにピークを有する発光をすると共に、バンド端励起により650nmにピークを有する発光をすることを特徴とする、請求の範囲1に記載の遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体。
【請求項6】
前記遷移金属がVであり、前記遷移金属ドープ・スピネル型MgAlの組成式が、MgAl2−x(ただし、0.001≦x≦0.01)で表され、かつ、200nmから900nmの波長の光に対して、バンド端吸収以外の吸収ピークを有さず、かつ、バンド端励起により、450nmから750nmにわたる白色の発光をすることを特徴とする、請求の範囲1に記載の遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体。
【請求項7】
請求の範囲1〜6の何れかに記載の遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体をレーザー媒質とするレーザー装置。
【請求項8】
請求の範囲4に記載の蛍光体をレーザー媒質とし、このレーザー媒質に、Nd:YAGレーザーの第4高調波(波長は266nm)、Nd:YLFの第4高調波(波長は262nm)、又は、Nd:YAPレーザーの第4高調波(波長は269nm)をサイドポンプすると共に、外部レーザー共振器で共振させて、上記蛍光体の490nmにピークを有する発光を利用して青又は緑色のレーザー発振をすることを特徴とする、請求の範囲7に記載の遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体をレーザー媒質とするレーザー装置。
【請求項9】
請求の範囲5に記載の蛍光体をレーザー媒質とし、このレーザー媒質に、Nd:YAGレーザーの第4高調波(波長は266nm)、Nd:YLFの第4高調波(波長は262nm)、又はNd:YAPレーザーの第4高調波(波長は269nm)をサイドポンプすると共に、外部レーザー共振器で共振させて、上記蛍光体の650nmにピークを有する発光を利用して赤色のレーザー発振することを特徴とする、請求の範囲7に記載の遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体をレーザー媒質とするレーザー装置。
【請求項10】
請求の範囲4に記載の蛍光体二つと、請求の範囲5に記載の蛍光体一つとを外部レーザー共振器中に直列に配列し、これらの三つの蛍光体に、Nd:YAGレーザーの第4高調波(波長は266nm)、Nd:YLFの第4高調波(波長は262nm)、又はNd:YAPレーザーの第4高調波(波長は269nm)をサイドポンプすることにより、請求の範囲4に記載の蛍光体二つからそれぞれ、青、緑、及び、請求の範囲5に記載の蛍光体一つから赤色を同時に発振させることを特徴とする、請求の範囲7に記載の遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体をレーザー媒質とするレーザー装置。
【請求項11】
請求の範囲4に記載の蛍光体一つと、請求の範囲5に記載の蛍光体二つとを外部レーザー共振器中に直列に配列し、これらの三つの蛍光体に、Nd:YAGレーザーの第4高調波(波長は266nm)、Nd:YLFの第4高調波(波長は262nm)、又はNd:YAPレーザーの第4高調波(波長は269nm)をサイドポンプすることにより、請求の範囲4に記載の蛍光体から、青又は緑、及び、請求の範囲5に記載の蛍光体二つからそれぞれ、緑又は青及び赤色を同時に発振させることを特徴とする、請求の範囲7に記載の遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体をレーザー媒質とするレーザー装置。
【請求項12】
請求の範囲4に記載の蛍光体一つと、請求の範囲5に記載の蛍光体一つとを外部レーザー共振器中に直列に配列し、これらの二つの蛍光体に、Nd:YAGレーザーの第4高調波(波長は266nm)、Nd:YLFの第4高調波(波長は262nm)、又はNd:YAPレーザーの第4高調波(波長は269nm)をサイドポンプすることにより、請求の範囲4に記載の蛍光体から、青又は緑、及び、請求の範囲5に記載の蛍光体から、緑又は青及び赤色を同時に発振させることを特徴とする、請求の範囲7に記載の遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体をレーザー媒質とするレーザー装置。
【請求項13】
Al原料と、Al原料のAlの量に対してMgの量がモル比で数%過剰になる量のMg原料と、遷移金属原料とを混合し、この混合原料を加圧成型して形成した原料棒を所定の雰囲気ガス中の浮遊帯域溶融法により単結晶化することを特徴とする、遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体の製造方法。
【請求項14】
前記所定の雰囲気ガスは、酸化性ガス又は希ガスであることを特徴とする、請求の範囲13に記載の遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体の製造方法。
【請求項15】
前記Al原料がAl、前記Mg原料がMgO、前記遷移金属原料がTiOであり、TiO原料を前記Al原料に対してモル比で0.003から0.01の範囲で混合することを特徴とする、請求の範囲13に記載の遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体の製造方法。
【請求項16】
前記Al原料がAl、前記Mg原料がMgO、前記遷移金属原料がMnOであり、MnO原料を前記MgO原料に対してモル比で0.003から0.01の範囲で混合することを特徴とする、請求の範囲13に記載の遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体の製造方法。
【請求項17】
前記Al原料がAl、前記Mg原料がMgO、前記遷移金属原料が金属Vであり、V原料を前記Al原料に対してモル比で0.001から0.01の範囲で混合することを特徴とする、請求の範囲13に記載の遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体の製造方法。
【請求項18】
Al原料と、MgO原料と、遷移金属原料とを混合し、この混合物を加圧成型して焼結した焼結体をターゲットとし、Oガス中のレーザーアブレーションにより、単結晶基板上に遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体単結晶薄膜をエピタキシャル成長することを特徴とする、遷移金属ドープ・スピネル型MgAl蛍光体の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/101711
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506252(P2005−506252)
【国際出願番号】PCT/JP2004/006852
【国際出願日】平成16年5月14日(2004.5.14)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】