説明

遷移金属触媒用配位子としての安定な環状(アルキル)(アミノ)カルベン

安定なカルベン配位子であって、第4級炭素とアミノ基が両側にあるカルベン中心を有しそして様々な遷移金属錯体の製造における有用性を有するカルベン配位子が提供される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2005年6月17日に出願された米国特許仮出願シリアルナンバー60/691,572(その内容は参照することにより本明細書に組み込まれる)の恩恵を主張する。
【0002】
米国連邦後援研究開発のもとでなされた発明に対する権利についての陳述
該当しない
【0003】
コンパクトディスクで提出される「配列リスト」、表又はコンピュータープログラムリスティング付録への参照
該当しない
【0004】
発明の背景
特定の変換を遂行するための触媒の利用可能性は、業界及び学界の両方にとって決定的に重要である。多年にわたって、均質触媒反応の成功は多様な範囲の配位子骨組みの開発に大いに帰せら得、しかして様々な金属含有系の挙動に調和させるために多様な範囲の配位子骨組みが用いられてきた。配位子設計の進歩は、範囲、穏和性及び触媒充填量に関しての公知プロセスの改善についてのみならず、新しい選択反応の発見についても可能にしてきた。よい例示は、合成有機化学から材料科学まで多岐にわたる広い領域の試みに適用されるパラジウム触媒カップリング反応により与えられる(編者A.de Meijere、F.Diederich,Metal-Catalyzed Cross-Coupling Reactions(Wiley-VCH,ワインハイム,2004)、編者E.Negishi,Handbook of Organopalladium Chemistry for Organic Synthesis(Wiley,ニュージャージー州ホーボーケン,2007)参照)。これらの触媒プロセス(合成化学者にとって利用可能な最も強力で且つ融通の利く手段のいくつかを成す)について、嵩高で電子リッチのホスフィン及び環状ジアミノカルベン(NHC)の使用のおかげで、大きな進歩が最近報告されてきた(A.F.Littke、G.C.Fu,Angew. Chem. Int. Ed.,41,4176(2002)、A.Zapf、M.Beller,Chem. Commun.,431(2005)及びM.Muira,Angew. Chem. Int. Ed.,43,2201(2004)参照)。これらの配位子は活性触媒種を安定化し、また重要な触媒工程すなわち酸化的付加、金属交換反応及び還元的脱離を促進する。一方、過度の立体障害は、嵩高の反応体のカップリングについていくつかの欠点を呈し得る(C.W.K.Gstoettmayr、V.P.W.Bohm、E.Herdtweck、M.Grosche、W.A.Herrmann,Angew. Chem. Int. Ed.,41,1363(2002)参照)。この問題を克服するために、Gloriusは、シクロヘキサンの配座屈曲性を用いて、「屈曲可能な立体バルク(「立体構造の嵩」)」を備えた配位子を成功裏に開発してきた(G.Altenhoff、R.Goddard、C.W.Lehmann、F.Glorius,J. Am. Chem. Soc.,126,15195(2004)参照)。カルベン配位子化学の進歩にもかかわらず、強σ供与体であり、ホスフィン又はジアミノカルベン配位子ファミリーのどちらかよりも一層電子リッチであるが、それでも屈曲可能な立体構造の嵩を備えた配位子の立体識別を与える配位子に対するニーズがある。驚くべきことに、本発明は、これらのニーズに応える。
【0005】
発明の簡単な要約
一つの側面において、本発明は、式
【化1】

〔ここで、
A環は、4、5、6又は7員環であり、そして
Lは、C、O、N、B、Al、P、S及びSiから成る群から選択された1から4個の環頂点を表す連結基であり、しかも利用可能な原子価は水素、オキソ又はRa置換基により随意に占められる〕
を有する環状アルキルアミノカルベンを提供する。文字Rは、C1~10アルキル、C2~10アルケニル、C2~10アルキニル及びアリール(ここで、各々は、Ra置換基で好ましくは1から8個そして一層好ましくは1から4個のRa置換基で随意に置換される)から選択された群員を表す。記号R1及びR2は各々、C1~10アルキル、C2~10アルケニル、C2~10アルキニル、アリール、C1~10アルコキシ、C2~10アルケニルオキシ、C2~10アルキニルオキシ、アリールオキシ、C2~10アルコキシカルボニル、C1~10アルキルチオ、C1~10アルキルスルホニル及びC1~10アルキルスルフィニルから独立に選択された群員であり、あるいは随意に結合されて3から12員のスピロ環状環一層好ましくは3から7員のスピロ環状環(ここで、スピロ環状環は、Rb置換基で一層好ましくは1から12個のRb置換基でそして更に一層好ましくは1から8個のRb置換基で随意に置換される)を形成する。随意的置換基Ra及びRbは、各場合において、C1~10アルキル、C2~10アルケニル、C2~10アルキニル、アリール、C1~10アルコキシ、C2~10アルケニルオキシ、C2~10アルキニルオキシ、アリールオキシ、C2~10アルコキシカルボニル、C1~10アルキルチオ、C1~10アルキルスルホニル及びC1~10アルキルスルフィニルから独立に選択される。Ra及びRbについての更に他の適当な置換基は、オキソ、アミノ(モノ及びジアルキルアミノ並びにアシルアミノを含めて)、イミン、窒素複素環(たとえばピリジン)、ヒドロキシ、チオール、チオノ、リン(ホスフィン、ホスファイト、ホスホネート、ホスフィネート又はホスフェート基として)及びカルベン基である。
【0006】
別の側面において、本発明は、上記に与えられたとおりの環状アルキルアミノカルベン配位子である少なくとも1個の配位子を有する遷移金属錯体を提供する。
【0007】
更に別の側面において、本発明は、様々な有機合成反応において炭素−炭素結合及び炭素−窒素結合を形成させる方法を提供する。いくつかの具体的態様において、本発明の選択された錯体は、特定の有用性、たとえばアミンアリール化反応(アリール部分は、本質的にいかなる随意に置換された単環式又は多環式芳香族又はヘテロ芳香族成分でもあり得る)における有用性を有する。他の具体的態様において、本発明の選択された錯体は、特定の有用性、たとえばスズキカップリング反応(アリール−アリール又はアリール−アルキルカップリング反応)(アリール部分の各々は、本質的にいかなる随意に置換された単環式又は多環式芳香族又はヘテロ芳香族成分でもあり得る)における有用性を有する。更に他の具体的態様において、本発明の選択された錯体は、α−アリール化反応を触媒することにおける有用性を有する。
【0008】
発明の詳細な説明
略号及び定義
本明細書において用いられる略号は、当業者にとってそれらの普通の及び容認された意味を有する。略号の例は、第3級ブチルであるtBu、メチルであるMe、テトラヒドロフランであるTHF、そしてシクロオクタジエンであるcodである。
【0009】
本説明において、用語「アルキル」(単独にて又は複合にて)は、指摘数の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキル基を指す。たとえば、C1~10アルキルは、1から10個の炭素原子を有すると共に、満たされる残りの原子価が水素原子により占められているアルキル基を指す。好ましいアルキル基は、1から8個の炭素原子を備えたもの、一層好ましくは1から6個の炭素原子を備えた直鎖又は分枝鎖アルキル基であり、そして特に好ましいものは1から4個の炭素原子を備えた直鎖又は分枝鎖アルキル基である。直鎖及び分枝鎖C1~10アルキル基の例は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、異性体ペンチル、異性体ヘキシル、異性体ヘプチル、等である。
【0010】
用語「シクロアルキル」(単独にて又は複合にて)は、環頂点として3から8個の炭素原子を有する環状アルキル基を指す。好ましいシクロアルキル基は、3から6個の炭素原子を有するものである。C3~8シクロアルキルの例は、シクロプロピル、メチル−シクロプロピル、ジメチル−シクロプロピル、シクロブチル、メチル−シクロブチル、シクロペンチル、メチル−シクロペンチル、シクロヘキシル、メチル−シクロヘキシル、ジメチル−シクロヘキシル、シクロヘプチル及びシクロオクチルである。
【0011】
用語「アルコキシ」(単独にて又は複合にて)は、式アルキル−O−(ここで、用語「アルキル」は、先に与えられた定義を有する)の基を意味する。アルコキシ基の例は、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ及びtert−ブトキシを包含する。好ましいアルコキシ基は、メトキシ及びエトキシである。
【0012】
用語「アルケニル」(単独にて又は複合にて)は、オレフィン結合及び指摘数の炭素原子を含む直鎖又は分枝鎖炭化水素残基を指す。好ましいアルケニル基は、8個まで好ましくは6個まで特に好ましくは4個までの炭素原子を有する。アルケニル基の例は、エテニル、1−プロペニル、2−プロペニル、イソプロペニル、1−ブテニル、2−ブテニル、3−ブテニル及びイソブテニルである。
【0013】
用語「アルキニル」(単独にて又は複合にて)は、炭素炭素三重結合及び指摘数の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖炭化水素残基を指す。好ましいアルキニル基は、8個まで好ましくは6個まで特に好ましくは4個までの炭素原子を有する。アルキニル基の例は、エチニル、1−プロピニル、1−ブチニル及び2−ブチニルである。
【0014】
用語「アルケニルオキシ」及び「アルキニルオキシ」は、式−O−Ri(ここで、Riは、それぞれアルケニル又はアルキニル基である)を有する基を指す。
【0015】
用語「アルキルチオ」、「アルキルスルホニル」及び「アルキルスルフィニル」は、それぞれ式−S−Ri、−S(O)2−Ri及び−S(O)−Ri(ここで、Riは、先に定義されたとおりのアルキル基である)を有する基を指す。
【0016】
用語「アルコキシカルボニル」は、式−C(O)O−Ri(ここで、Riは、上記に定義されたとおりのアルキルである)を有する基(ここで、炭素原子の総数は、結合されているアルキル部とカルボニル部とを指す)を指す。
【0017】
用語「アリール」(単独にて又は複合にて)は、フェニル又はナフチル基好ましくは1個又はそれ以上の置換基(各々は、ハロゲン、トリフルオロメチル、アミノ、アルキル、アルコキシ、アルキルカルボニル、シアノ、カルバモイル、アルコキシカルバモイル、メチレンジオキシ、カルボキシ、アルコキシカルボニル、アミノカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、ヒドロキシ、ニトロ、等から独立に選択される)を随意に担持するフェニル基(フェニル、クロロフェニル、トリフルオロメチルフェニル、クロロフルオロフェニル、アミノフェニル、メチルカルボニルフェニル、メトキシフェニル、メチレンジオキシフェニル、1−ナフチル及び2−ナフチルのような)を指す。
【0018】
用語「アリールオキシ」(単独にて又は複合にて)は、式アリール−O−(ここで、用語「アリール」は、先に与えられた意味を有する)の基(フェニルオキシのような)を意味する。
【0019】
用語「アリールアルキル」(単独にて又は複合にて)は、一つの水素原子が先に定義されたとおりのアリール基により置き換えられているところの先に定義されたとおりのアルキル基を指す。好ましいものは、ベンジル及びフェニルエチルである。
【0020】
用語「ヘテロアリール」(単独にて又は複合にて)は、窒素、酸素及び硫黄から選択された1個又はそれ以上好ましくは1又は2個のヘテロ原子(窒素又は酸素が好ましい)を含有する芳香族5から10員複素環を意味する。所望される場合、それは、一つ又はそれ以上の炭素原子においてハロゲン、アルキル、アルコキシ、シアノ、ハロアルキル、ヘテロシクリル、好ましくはトリフルオロメチルにより置換され得る。好ましいヘテロアリール環は、ピリジニル又はチオフェニル(ハロゲン、アルキル、アルコキシ、シアノ、ハロアルキル(好ましくはトリフルオロメチル)及びヘテロシクリル(好ましくはモルホリニル又はピロリジニル)から独立に選択された1個又はそれ以上好ましくは1又は2個の置換基により随意に置換される)である。
【0021】
用語「アミノ」(単独にて又は複合にて)は、その窒素原子によって結合された第1級、第2級又は第3級アミノ基を意味し、しかも第2級アミノ基はアルキル又はシクロアルキル置換基を担持し、そして第3級アミノ基は2個の同じ若しくは異なるアルキル若しくはシクロアルキル置換基又は一緒に環を形成するこれらの2個の窒素置換基を担持する(たとえば−NH2、メチルアミノ、エチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、メチル−エチルアミノ、ピロリジン−1−イル、ピペリジノ、等のような、好ましくはアミノ、ジメチルアミノ及びジエチルアミノそして特に第1級アミノ)。
【0022】
用語「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素そして好ましくはフッ素、塩素又は臭素を指す。
【0023】
一般
本発明は、安定な環状(アルキル)(アミノ)カルベン(CAAC)(図1参照)を提供する。強σ供与アルキル基によるNHCの電気陰性アミノ置換基の一つの置換は、CAAC配位子をホスフィン又はジアミノカルベン配位子ファミリーのどちらかよりも更に一層電子リッチにする。更に、カルベン中心に対してα位の第4級炭素の存在に因り、カルベンは、それらを配位子及びの両方から劇的に区別する立体環境を特徴とし、そして屈曲可能な立体構造の嵩を備えた配位子の効果を増強する。下記に記載されるように、カルベンの特有の電子的及び立体的性質が、他の配位子でもっては得られ得ない低配位金属種の合成を可能にする。加えて、CAAC−パラジウム錯体のような錯体は、或る反応(たとえば、カルボニル化合物の接触α−アリール化を含めて)について高い効率を示す。
【0024】
環状アルキルアミノカルベン
一つの側面において、本発明は、典型的には安定であるそして単離され得る環状カルベンを提供する。該カルベンは、様々な遷移金属錯体/触媒用の配位子として有用である。一層特には、環状カルベンは、環状アルキルアミノカルベン(CAAC)であり、そして第3級アミンと第4級炭素が両側にあるカルベン中心を有する。
【0025】
環状アルキルアミノカルベンは、式
【化2】

〔ここで、
A環は、4、5、6又は7員環であり、そして
Lは、C、O、N、B、Al、P、S及びSiから成る群から選択された1から4個の環頂点を表す連結基であり、しかも利用可能な原子価は水素、オキソ又はRa置換基により随意に占められる〕
を有する。
【0026】
文字Rは、C1~10アルキル、C2~10アルケニル、C2~10アルキニル及びアリール(ここで、各々は、Ra置換基好ましくは1から8個のRa置換基そして一層好ましくは1から4個のRa置換基で随意に置換される)から選択された群員を表す。
【0027】
記号R1及びR2は各々、C1~10アルキル、C2~10アルケニル、C2~10アルキニル、アリール、C1~10アルコキシ、C2~10アルケニルオキシ、C2~10アルキニルオキシ、アリールオキシ、C2~10アルコキシカルボニル、C1~10アルキルチオ、C1~10アルキルスルホニル及びC1~10アルキルスルフィニルから独立に選択された群員であり、あるいは随意に結合されて3から12員のスピロ環状環一層好ましくは3から7員のスピロ環状環(ここで、スピロ環状環は、Rb置換基で好ましくは1から12個のRb置換基で一層好ましくは1から8個のRb置換基で随意に置換される)を形成する。
【0028】
随意的置換基Ra及びRbは、各場合において、C1~10アルキル、C2~10アルケニル、C2~10アルキニル、アリール、C1~10アルコキシ、C2~10アルケニルオキシ、C2~10アルキニルオキシ、アリールオキシ、C2~10アルコキシカルボニル、C1~10アルキルチオ、C1~10アルキルスルホニル及びC1~10アルキルスルフィニルから独立に選択される。Ra及びRbについての更に他の適当な置換基は、オキソ、アミノ(モノ及びジアルキルアミノ並びにアシルアミノを含めて)、イミン、窒素複素環(たとえばピリジン)、ヒドロキシ、チオール、チオノ、リン(ホスフィン、ホスファイト、ホスホネート、ホスフィネート又はホスフェート基として)及びカルベン基である。
【0029】
最初にA環について言うと、好ましい環は、4、5又は6個の環員を有するものであり、そして5及び6員環が特に好ましい。最も好ましい具体的態様において、A環は、Lが2又は3個の炭素頂点(各々は、上記に与えられたとおりの更なる置換基を随意に担持する)を表す5又は6員環である。
【0030】
次にRについて言うと、好ましいR基は、C1~8アルキル、C2~8アルケニル、C2~8アルキニル及びアリール(ここで、各々は、1から4個のRa置換基で随意に置換される)から選択される。一層好ましくは、Rは、C1~6アルキル、C2~6アルケニル、C2~6アルキニル及びアリール(ここで、各々は、1から3個のRa置換基で随意に置換される)から選択される。選択された具体的態様において、各Rは、C1~6アルキル又はアリール(ここで、各々は、1から3個のRa置換基で随意に置換される)である。いくつかの特に好ましい具体的態様において、Rは、フェニルでありそして1、2又は3個のRa置換基で随意に置換される。いくつかの好ましい置換基は、たとえばC1~6アルキル、C2~6アルケニル、C2~6アルキニル、C1~6アルコキシ、C2~6アルケニルオキシ及びC2~6アルキニルオキシのような、電子供与性置換基である。
【0031】
同様に、記号R1及びR2は各々、好ましくはそして独立に、C1~10アルキル、C2~10アルケニル、C2~10アルキニル、アリール及びC2~10アルコキシカルボニルから選択され、あるいは随意に結合されて3から7員のスピロ環状環(ここで、スピロ環状環は、1から8個のRb置換基で随意に置換される)を形成する。一層好ましくは、R1及びR2は各々、C1~8アルキル、C2~8アルケニル、C2~8アルキニル及びアリールから独立に選択され、あるいは随意に結合されて4から7員のスピロ環状環更に一層好ましくはスピロシクロブタン、スピロシクロペンタン、スピロシクロヘキサン及びスピロシクロヘプタンから選択された4、5、6又は7員スピロ環状環(ここで、スピロ環状環は、1から4個のRb置換基で随意に置換される)を形成する。選択された具体的態様において、R1及びR2は各々、C1~8アルキル及びアリールから独立に選択され、あるいは随意に結合されてスピロシクロペンタン又はスピロシクロヘキサン環(ここで、スピロ環状環は、1から4個のRb置換基で随意に置換される)を形成する。好ましいRb置換基は、C1~6アルキル、C2~6アルケニル、C2~6アルキニル、フェニル、C1~6アルコキシ、C2~6アルケニルオキシ、C2~6アルキニルオキシ、フェノキシ、C2~6アルコキシカルボニル、C1~6アルキルチオ、C1~6アルキルスルホニル及びC1~6アルキルスルフィニルである。更に好ましいRb置換基は、C1~6アルキル、C2~6アルケニル、C2~6アルキニル、C1~6アルコキシ、C2~6アルケニルオキシ及びC2~6アルキニルオキシである。
【0032】
本発明の追加的具体的態様は、上記の好ましい及び/又は選択された基の各々の組合わせが組み合わされるものである、ということを当業者は認識するであろう。
【0033】
或る具体的態様において、カルベンは、
【化3】

から選択された式を有し、しかしてここでR3及びR4は各々、C1~10アルキル、C2~10アルケニル、C2~10アルキニル及びアリール(それらの各々は、1から4個のRa置換基で随意に置換される)から独立に選択された群員である。残りのR、R1及びR2基は、式Iに関して上記に与えられた意味を有する。
【0034】
いくつかの具体的態様において式(a)を有するカルベンが提供され、一方他の具体的態様において式(b)を有するカルベンが提供される。式(a)及び(b)の各々に関して、好ましいカルベンは、Rが置換又は非置換アリール基好ましくは置換又は非置換フェニル基でありそしてR1、R2、R3及びR4の各々が独立にC1~6アルキル基であるものである。
【0035】
他の好ましい具体的態様において、式(a)又は(b)(ここで、Rは置換又は非置換アリール基好ましくは置換又は非置換フェニル基であり、R1及びR2は結合されてスピロシクロブタン、スピロシクロペンタン又はスピロシクロヘキサン環(それらの各々は、1から4個の独立に選択されたC1~6アルキル基で随意に置換される)を形成し、そしてR3及びR4の各々は独立にC1~6アルキル基である)を有するカルベンが提供される。
【0036】
上記に記載された具体的態様の各々についての好ましい置換基は、本質的には、上記の式Iに関して与えられたものである。
【0037】
関連側面において、本発明は、式
【化4】

を有する環状イミニウム塩を提供し、しかしてここでL、R、R1、R2及びA環は、式Iに関して上記に与えられた意味を有する。追加的に、X-は、たとえばハロゲン化物、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、メシレート、等のような、適当な陰イオンを表す。
【0038】
好ましい具体的態様において、環状イミニウム塩は、式
【化5】

〔ここで、
R、R1、R2、R3及びR4の各々は、式I、(a)及び(b)に関して上記に与えられた意味を有し、そして
-は、上記に記載されたとおりの陰イオンである〕
を有する。
【0039】
かかるイミニウム塩は、本明細書に記載された錯体を形成させるために有用である(カルベノイド種を通じて形成されようが又は酸化的付加のような別の経路によって形成されようが)、ということを当業者は認識するであろう。
【0040】
遷移金属錯体
別の側面において、本発明は、様々な合成有機反応において触媒として有用な遷移金属錯体を提供する。特に、触媒又は錯体は、遷移金属と、上記に与えられたカルベンから選択されたカルベン配位子とを含む。かかる錯体は、多数の遷移金属を用い得、また遷移金属の特質及びその酸化状態並びに他の因子(たとえば追加的配位子を含めて)に依存して様々な幾何学的形(たとえば三角形、平面正方形、三方両錐体、等)を有し得る、ということを当業者は認識するであろう。
【0041】
一般的に、本発明の錯体/触媒を形成させるために、任意の遷移金属(たとえば、d電子を有する金属)が用いられ得る。たとえば、適当な遷移金属は、周期表の3〜12族の一つから又はランタニド系列から選択されたものである。好ましくは、金属は、5〜12族そして更に一層好ましくは7〜11族から選択される。たとえば、適当な金属は、白金、パラジウム、鉄、ニッケル、イリジウム、ルテニウム及びロジウムを包含する。反応において用いられるべき金属の特定の形態は、配位不飽和である且つ最高酸化状態にない金属中心を反応条件下で与えるように選択される。
【0042】
更に例示すると、適当な遷移金属錯体及び触媒は、白金、パラジウム、イリジウム、鉄、ロジウム、ルテニウム及びニッケルの可溶性又は不溶性錯体を包含する。パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム及びニッケルが特に好ましく、そしてパラジウムが最も好ましい。
【0043】
上記に記されたように、錯体は、更に、式(I)並びに式(a)及び(b)に関して上記に記載されたとおりのカルベン配位子を含む。好ましいカルベン配位子は、本質的には、上記の好ましい及び/又は選択された具体的態様として記載されたものである。触媒錯体は、安定な錯体を得るために要求されるような追加的配位子を含み得る。追加的配位子は、中性配位子、陰イオン性配位子及び/又は電子供与性配位子であり得る。配位子は金属錯体の形態で反応混合物に添加され得、あるいは金属の添加に関して別個の反応剤として添加され得る。
【0044】
追加的配位子として適当な陰イオン性配位子は、好ましくは、ハロゲン化物、擬ハロゲン化物、テトラフェニルホウ酸塩、過ハロゲン化テトラフェニルホウ酸塩、テトラハロホウ酸塩、ヘキサハロリン酸塩、ヘキサハロアンチモン酸塩、トリハロメタンスルホン酸塩、アルコキシド、カルボン酸塩、テトラハロアルミン酸塩、テトラカルボニルコバルト酸塩、ヘキサハロ鉄(III)酸塩、テトラハロ鉄(III)酸塩又は/及びテトラハロパラジウム(II)酸塩である。好ましくは、陰イオン性配位子は、ハロゲン化物、擬ハロゲン化物、テトラフェニルホウ酸塩、過フッ素化テトラフェニルホウ酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、ヘキサフルオロアンチモン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、アルコキシド、カルボン酸塩、テトラクロロアルミン酸塩、テトラカルボニルコバルト酸塩、ヘキサフルオロ鉄(III)酸塩、テトラクロロ鉄(III)酸塩又は/及びテトラクロロパラジウム酸塩から選択される。好ましい擬ハロゲン化物は、シアン化物、チオシアン酸塩、シアン酸塩、イソシアン酸塩及びイソチオシアン酸塩である。追加的配位子として適当な中性又は電子供与配位子は、たとえば、アミン、イミン、ホスフィン、亜リン酸エステル、カルボニル化合物、アルケニル化合物(たとえばアリル化合物)、カルボキシル化合物、ニトリル、アルコール、エーテル、チオール又はチオエーテルであり得る。更に他の適当な配位子は、ジアミノカルベン配位子(たとえばNHC)のようなカルベン配位子であり得る。
【0045】
本発明は有機反応を触媒する際に有用な様々な遷移金属錯体を記載するけれども、当業者は、錯体の多くはその場で形成され得るということを認識するであろう。従って、配位子(カルベン配位子又は追加的配位子のどちらか)は別個の化合物として反応溶液に添加され得、あるいは反応溶液中へのその導入に先だって金属中心に錯化されて金属−配位子錯体を形成し得る。追加的配位子は、典型的には、触媒金属中心に結合し得るところの反応溶液に添加される化合物である。いくつかの好ましい具体的態様において、追加的配位子は、キレート配位子である。追加的配位子は触媒遷移金属錯体に安定性を与え得る一方、それらはまた所望プロセスの速度及び効率を高め得るだけでなく、不所望副反応も抑制し得る。なお更に、いくつかの具体的態様において、追加的配位子は、触媒遷移金属の沈殿を防ぎ得る。本発明は金属−追加的配位子錯体の形成を要求しないけれども、かかる錯体はそれらがこれらの反応における中間体であるという仮説と一致すると示され、また追加的配位子の選択は反応の進行に影響を与えるということが観察された。
【0046】
関連具体的態様において、本発明は、上記に記載されたタイプの金属錯体であって、カルベン配位子がペンダント官能基化側鎖(たとえばアミノアルキル、メルカプトアルキル、アシルオキシアルキル、等)を有し、しかもその官能基が配位子として働いて二座配位子特徴を与える金属錯体を提供する。更に他の具体的態様において、カルベン配位子は、環状カルベン部につながれない二座配位子と共に金属錯体を形成する。
【0047】
遷移金属−CAAC錯体により触媒される反応
上記に記されたように、本発明の錯体は、アミンアリール化反応、スズキカップリング反応(アリール−アリール又はアリール−アルキルカップリング反応)及びα−アリール化反応を含めて様々な合成有機反応を触媒する際に有用である。上記に記された錯体から利益を得り得る更に他の反応は、たとえば、ヒドロホルミル化(アルケン及びアルキンの)、ヒドロシリル化(アルケン、アルキン、ケトン及びアルデヒドの)、メタセシス(オレフィン(RC、CM,ROM、ROMp)エン−イン)、カルボニル化、ヒドロアリール化及びヒドロアミノ化を包含する。
【0048】
本発明の反応は広範囲の条件下で遂行され得、そして本明細書に挙げられた溶媒及び温度範囲は制限的であると考えられるべきでない。一般的に、反応体、触媒又は生成物に悪影響を及ぼさない穏和な条件を用いて反応が行われることが望ましい。たとえば、反応温度は、反応体及び触媒の安定性だけでなく、反応の速度にも影響を及ぼす。反応は、典型的には、25℃から300℃の範囲一層好ましくは25℃から150℃の範囲の温度にて行われる。
【0049】
加えて、反応は一般的に液状反応媒質中で行われるが、しかしいくつかの場合において溶媒の添加なしに行われ得る。溶媒中で行われる反応について、不活性溶媒が好ましく、特に、触媒を含めて反応成分が実質的に可溶であるところのものである。適当な溶媒は、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジグリム、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、等のようなエーテル、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、等のようなハロゲン化溶媒、ベンゼン、キシレン、トルエン、ヘキサン、ペンタン、等のような脂肪族若しくは芳香族炭化水素溶媒、エチルアセテート、アセトン及び2−ブタノンのようなエステル及びケトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、等のような極性非プロトン性溶媒、又は2種若しくはそれ以上の溶媒の組合わせを包含する。
【0050】
いくつかの具体的態様において、本発明の触媒錯体を利用する反応は、溶媒の二相混合物中で、乳濁液若しくは懸濁液中で又は脂質小胞若しくは脂質二重層中で行われ得る。或る具体的態様において、触媒反応は、反応体の一つが固体支持体につながれた又は固定された固相中で行われ得る。
【0051】
或る具体的態様において、窒素又はアルゴンのような気体の不活性雰囲気下で反応を遂行することが好ましい。
【0052】
本発明の反応プロセスは連続、半連続又は回分様式で行われ得、そして所望に応じて液再循環操作を伴い得る。本発明のプロセスは、好ましくは、回分様式で行われる。加えて、反応成分、触媒及び溶媒の添加の態様又は順序もまた、反応の成功にとって一般的に決定的には重要でなく、そして任意の慣用様式で成し遂げられ得る。
【0053】
反応は単一反応帯域において又は直列若しくは並列の複数の反応帯域において行われ得、あるいはそれは細長い管状帯域又は一連のかかる帯域において回分的に又は連続的に行われ得る。用いられる構築材料は反応中出発物質に対して不活性であるべきであり、また装置の組立体は反応の温度及び圧力に耐えることができるべきである。反応の進行中反応帯域中に回分的に又は連続的に導入される出発物質又は成分の量を導入する及び/又は調節する手段は、特に出発物質の所望モル比を維持するために、本プロセスにおいて都合よく利用され得る。諸反応工程は、出発物質の一つのその他のものへの増分的添加により遂行され得る。また、諸反応工程は、金属触媒への諸出発物質の合同添加により結合され得る。完全転化が所望されないか又は得られ得ない場合、出発物質は生成物から分離されそして次いで再循環されて反応帯域中に戻され得る。
【0054】
本プロセスは、ガラス内張りステンレス鋼又は同様なタイプのどちらかの反応装置中で行われ得る。過度の温度変動を制御するために又はあり得る「暴走」反応温度を防ぐために、反応帯域は、1個又はそれ以上の内部及び/又は外部熱交換器を備え得る。
【0055】
更に、反応体の一つ又はそれ以上は、ポリマー又は他の不溶性マトリックス中に固定され得る又は組み込まれ得る(たとえば、アリール基の置換基の一つ又はそれ以上での誘導体化により)。
【0056】
環状(アルキル)(アミノ)カルベンの製造
CAACへの融通の利く逆合成手法が、スキーム1に与えられている。R1及びR2はH以外であるけれども、本発明において用いられる前駆体を製造する際に、環骨格だけでなくR、R1及びR2置換基の選択もが、実質的屈曲性を与える。
【化6】

【0057】
この合成戦略は、最初に、スキーム2に示されたように評価された。
【化7】

【0058】
イミン1aは、2,6−ジイソプロピルアニリンと第2級アルキル置換基を特徴とする最も単純なアルデヒドすなわち2−メチルプロパナールとから製造され得る。リチウムジイソプロピルアミド(LDA)での脱プロトンは、アザ−アリル陰イオン(1,2−エポキシ−2−メチルプロパンの開環を容易に誘発して、対応するアルコキシド2aに通じる)を生じた。−78℃におけるトリフル酸無水物での引き続く処理はトリフレート誘導体を生じ、そして室温に温めるとアルジミニウム塩3aを58%の収率(イミンを基準として)で生じる。最後に、LDAでの脱プロトンは、カルベンCaを薄黄色固体として定量的に生じる。CAACCaは、固体状態で及び溶解状態で室温において少なくとも2週間安定である。
【0059】
カルベン中心の隣の第3級炭素の存在が、種々のタイプの立体環境を特徴づける配位子を構築する能力を呈する。Caについて用いられた態様と同様な態様でしかしシクロヘキシルカルボアルデヒドを用いて容易に製造されるスピロ−CAACCbは、屈曲可能な立体構造の嵩の概念がどんなふうにこの配位子ファミリー中に組み込まれ得るかを例示する。実際に、Gloriusにより開発されたNHC(G.Altenhoff、R.Goddard、C.W.Lehmann、F.Glorius,J. Am. Chem. Soc.,126,15195(2004))と比較して、Cbのシクロヘキサン環はカルベンに及び後続の金属中心により近く、そしてそれ故「屈曲可能な翼」の効果は増強され得る(スキーム3)。
【化8】

【0060】
対照的に、カルベンCcは、CAACが結合される金属中心にCAACが与え得る剛性及び極端な立体構造の嵩を例示する。出発物質として、(−)−メントンから誘導されたイミンが用いられ得る。合成の重要な工程は、エクアトリアル方向からシクロヘキサン部に近づくべき比較的嵩高の反応体の周知の傾向に基づく。この効果はイソプロピル基の存在により強化され、そしてそれ故オキシランとの反応は完全にジアステレオ選択的である(スキーム4)。それは、カルベン及びカルベンが結合される後続の金属中心について最良の保護を与えるジアステレオマーに通じる。更に、Cbとは対照的に、その椅子形配座は、他方の椅子形配座がイソプロピル基及びメチル基の両方を不都合なアクシアル位に置くので固定される(舟形配座でさえ、高度に不利である)。このCAACの立体環境はホスフィン(錐体と記載される)及びNHC(扇様と定義される)のそれとは非常に異なっていることが、単結晶X線回折調査により得られた分子構造から明らかである(J.Huang、H.J.Schanz、E.D.Stevens、S.P.Nolan,Organometallics,18,2370(1999))。すなわち、Ccが配位子として用いられる場合、固定クロヘキサン部はカルベン中心に対してのみならず、金属に対しても「保護の壁」となる(図2)。Ccがエナンチオマー的に純粋であり、そして手間のかかるエナンチオ又はジアステレオ選択分離なしに製造された、ということは注目に値する。
【化9】

【0061】
シス−[IrCl(CO)2(L)]錯体のカルボニル伸縮振動数は、配位子Lのσ供与性及びπ受容性の優秀な尺度であると認められる(A.R.Chianese、A.Kovacevic、B.M.Zeglis、J.W.Faller、R.H.Crabtree,Organometallics,23,2461(2004))。カルベンCcのTHF溶液への半当量の[IrCl(cod)]2の添加は[IrCl(cod)(Cc)]の形成に通じ、そして室温にてCOで処理するとシス−[IrCl(CO)2Cc)](4c)を高収率で生じた。錯体4cについてのカルボニル伸縮振動数の平均値[νav(CO): 2013cm-1]は、Ccの供与力が電子リッチのホスフィンの供与力(PCy3: 2028cm-1)及びそれどころかNHC配位子の供与力(2017〜2020cm-1)より高いことを指摘する。異常C5結合NHCのみがより強い供与体(2003cm-1)である(A.R.Chianese、A.Kovacevic、B.M.Zeglis、J.W.Faller、R.H.Crabtree,Organometallics,23,2461(2004))。
【0062】
CAACの立体的及び電子的性質もまた、金属中心において嵩高で電子リッチの配位子を要求する数多くの触媒プロセスに利益を与える。かかるプロセスの例として、ケトンのパラジウム触媒α−アリール化(Buchwald(Palucki、S.L.Buchwald,J. Am. Chem. Soc.,119,11108(1997))、Hartwig(B.C.Hamann、J.F.Hartwig,J. Am. Chem. Soc.,119,12382(1977))及びMiura(T.Satoh、Y.Kawamura、M.Miura、M.Nomura,Angew. Chem. Int. Ed.,36,1740(1997))により1997年に同時に発見された)が評価された。この反応は、室温にて非活性化アリールクロライドでもってまだ達成されていない。更に、立体障害ジ−オルト−置換アリールクロライドでもっての例はない。CAAC配位子の使用は、実際に、これらの制約を克服する。[PdCl(アリル)(CAAC)]錯体5a5c(図3)が対応するカルベンCaCcへの[Pd(アリル)(Cl)]2の添加により高収率で容易に製造され、そして大気安定性の無色結晶として単離された。それらは、シリカゲルにおけるカラムクロマトグラフィーにより更に精製され得る。
【0063】
表1(下記の例参照)は、プロピオフェノンのα−アリール化(プロピオフェノンはかかる反応についての古典的基質である(M.Palucki、S.L.Buchwald,J. Am. Chem. Soc.,119,11108(1997)、B.C.Hamann、J.F.Hartwig,J. Am. Chem. Soc.,119,12382(1997)、M.S.Viciu、R.F.Germaneau、S.P.Nolan,Org. Lett.,,4053(2002)、J.M.Fox、X.H.Huang、A.Chieffi、S.L.Buchwald,J. Am. Chem. Soc.,122,1360(2000)及びA.Ehrentraut、A.Zapf、M.Beller,Adv. Synth. Catal.,344,209(2002)参照))について錯体5a5cを用いて得られた結果を要約する。非障害アリールクロライドの場合は、エントリー1〜8は、5a及び5bより優れたCAAC錯体5cの触媒活性を実証している。7200までのターンオーバー数(TON)が、室温において得られた。これは、これまでに報告された最良のTON(すなわち、120℃において4200(A.Ehrentraut、A.Zapf、M.Beller,Adv. Synth. Catal.,344,209(2002)))と比べて極めて勝る。ジ−オルト−置換アリールクロライドが用いられる場合(エントリー9〜14)、5bの触媒活性は、室温においてさえ、5a及び5cのそれより大きい。エントリー11及び13は、触媒の熱安定性を示す。
【0064】
理論により縛られるつもりはないが、錯体5a5cの触媒活性について観測された劇的な差は、配位子CaCb及びCcにより作られた異なる立体環境により合理的に説明され得る。カルベンCaは、室温における還元的脱離を利するのに十分には立体障害とならない。この工程は、比較的小さいカップリング基質については、非常に剛性で且つ嵩高のCc配位子により容易に促進される。しかしながら、エントリー14は、Ccが過度の立体障害に非常に感受性の触媒を生じることを示している。図3に示された分子構造は、金属の周りの立体環境が5a5bについて非常に似ていることを明らかに示し、そしてそれ故5bの優れた触媒活性を説明することができない。しかしながら、溶解状態において、5bのシクロヘキサン部は、環反転(5cの立体環境に非常に似た立体環境に通じる)を容易に受け得る。この屈曲性もまた、カップリングプロセスにおいて立体的に要求する基質を収容するために、5cに対する5bの優秀性を説明する。
【0065】
カルボニル化合物のα−アリール化は広範囲の適用を有する(D.A.Culkin、J.F.Hartwig,Acc. Chem. Res.,36,234(2003))けれども、主として競合するアルドール縮合の故に、アルデヒドでもっての成功はほとんど報告されていない(Y.Terao、Y.Fukuoka、T.Satoh、M.Miura、M.Nomura,Tetrahedron Lett.,43,101(2002))。CAACパラジウム錯体により可能にされる穏和な条件下で、この副反応は低減され得る。実際に、2−クロロトルエンは、周囲温度にて高効率でイソブタナールとカップリングされる。1mol%の5cを用いて、16h後に98%の収率で付加物が得られ、そしてアルドール縮合生成物についての証拠は認められなかった。これは、アリールクロライドでのアルデヒドのα−アリール化の最初の例である。
【0066】
5cでもって得られた高いターンオーバー数は、触媒プロセスにおいて重要な役割を演じる低配位金属種を配位子Ccが安定化することができることを示唆し得る。一配位子結合12−電子パラジウム(0)錯体[仮定活性触媒(W.A.Herrmann,有機金属化合物での応用均質触媒反応,A Comprehensive Handbook,編者B.Cornils、W.A.Herrmann(VCH,ワインハイム),vol.1,722(1996)、及びV.V.Grushin、H.Alper,Activation of Unreactive Bonds and Organic Synthesis,編者S.Murai(Springer,ベルリン)203(1999))]は特徴づけられていないけれども、陽イオン性14−電子パラジウム(II)錯体は、化学量論量のAgBF4での5cの処理により製造されている。他の配位子を用いてのかかる陽イオン性種を単離するべき以前の試みは失敗した(Y.Ding、R.Goddard、K.R.Poerschke,Organometallics,24,439(2005)及びM.S.Viciu、F.K.Zinn、E.D.Stevens、S.P.Nolan,Organometallics,22,3175(2003))。の単結晶X線回折調査は、陰イオンとの相互作用を示さないが、しかしアクシアルHa原子とのアゴスティック相互作用(Pd−Ha: 2.05Å)(図4)を示す。それ故、剛性シクロヘキサン部は保護の壁(立体効果)を与えるのみならず、パラジウム中心(それがその触媒形態においてのように低度に配位子で結合されている場合)に電子的安定化も与える。
【0067】
CAACの独特の性質は、無論、10族金属の場合のみ明らかであるのではない。たとえば、[RhCl(cod)22への剛性CAACCcの添加そして次いで過剰COでの処理、又はそれどころか[RhCl(CO)22へのCcの直接添加は、古典的ジカルボニル16−電子RhCl(CO)2Cc)錯体(M.Mayr、K.Wurst、K.H.Ongania、M.Buchmeiser,Chem. Eur. J.,10,1256(2004))に通じないで、モノマーモノカルボニル14−電子錯体RhCl(CO)(Cc(驚くべきことに大気安定性且つ熱安定性である)に通じる。パラジウム錯体についてのように、錯体は、シクロヘキサン環のアクシアルH原子とのアゴスティック相互作用(Rh1−Ha: 2.18,Rh−Hb: 2.23Å)(図5)により安定化される。ウィルキンソンの触媒[RhCl(PPh32]の活性種により例示される関連RhClL2錯体は、一時種として知られている(編者J.P.Collman、L.S.Hegedus、J.R.Norton、R.G.Finke,Principles and Applications of Organotransition Metal Chemistry(University Science Books,カリフォルニア州ミルバレー,1987))。それらは、配位子解離により又はハプティシティ(hapticity)変化によりその場でのみ発生され得る。他の状況では、それらはクロロ橋架けダイマーを容易に形成する(G.Canepa、C.D.Brandt、H.Werner,J. Am. Chem. Soc.,124,9666(2002))(2個の非常に嵩高の配位子Lが存在する場合でさえ(K.Wang、G.P.Rosini、S.P.Nolan、A.S.Goldman,J. Am. Chem. Soc.,117,5082(1995)))。
【0068】
最近数年間において、いくつかの異なるタイプの安定なカルベンが製造されてきた(Y.Canac、M.Soleilhavoup、S.Conejero、G.Bertrand,J. Organomet. Chem.,689,3857(2004)及びW.Kirmse,Angew. Chem. Int. Ed.,43,1767(2004))が、しかし配位子として用いられた場合、NHCのみしか高活性の且つ強靭な触媒(それらの嵩高で電子リッチのホスフィン対応物と拮抗する又はそれどころか上回る)に通じていない。容易に入手可能なCAACが、今般、これらの配位子の両方に対する代替物の領域に加わった。広範囲のあり得る構造的特徴に加えて、それらの独特の立体的及び電子的性質(カルベン中心に対してα位における第3級炭素の存在の結果として生じる)は、不斉変型を含めて、様々な触媒プロセス用の配位子としてこれらのカルベンを高度に望ましくする。
【0069】
実施例
合成及び分光データ
すべての操作が、標準的シュレンク技法を用いて、アルゴンの不活性雰囲気下で遂行された。酸素不含の乾燥溶媒が用いられた。1H−、13C−NMRスペクトルは、ヴァリアン・イノヴァ(Varian Inova)300,500及びブルッカー(Brucker)300分光計で記録された。これらの例において、略号Arは、2,6−ジイソプロピルフェニルを指す。
【0070】
例1
この例は、選択されたイミンの製造を提供する。
【化10】

【0071】
イミン1aは、既に記載されている(Brookhart,M、Daugulis,O,PCT国際出願(2003),分類コード: PIXXD2 WO 2003078478 A1 20030925)。
【0072】
イミン1b: 活性化分子篩(3g)を含有するシュレンク管中に、アルデヒド(7.13mL,59.2mmol)をトルエン(60mL)中の2,6−ジイソプロピルアニリン(10.0g,56.4mmol)の溶液に滴加した。この懸濁液を室温にて12時間撹拌した。濾過後、分子篩をヘキサン(30mL)で洗浄した。真空下で溶媒の蒸発により1bが白色固体として得られ、そしてこの固体をペンタン中で0℃にて再結晶した(13.75g,90%,m.p.93〜95℃)。1H−NMR(CDCl3,25℃): 7.51(d,1H,C,J=4.8)、7.04〜7.14(m,3H,ar),2.95(sept,2H,CCH3,J=6.9)、2.47(m,1H,C)、2.00(m,2H,C2)、1.87(m,2H,C2)、1.75(m,1H,C2)、1.20〜1.50(m,5H,C2)、1.17(d,12H,CHC3,J=6.9)。13C−NMR(CDCl3,25℃): 171.26(H)、149.28(ar)、137.73(ar)、123.94(ar)、123.00(ar)、44.45(H)、29.59(2)、27.77(H)、26.23(2)、25.67(2)、23.65(3)。
【0073】
イミン1c: 活性化分子篩(10g)を含有するシュレンク管中に、アルデヒド(Spino,C、Beaulieu,C.,Angew. Chem. Int. Ed.,2000,39,1930)(33.77mL,181.2mmol)をトルエン(100mL)中の2,6−ジイソプロピルアニリン(30.6g,172.5mmol)の溶液に滴加した。この懸濁液を100℃にて12時間撹拌した。濾過後、分子篩をヘキサン(60mL)で洗浄した。溶媒の蒸発そして次いで真空下で100℃にて加熱してすべての揮発物を除去することにより、1cが黄色油状固体(52.01g,92%)として且つ2種のジアステレオ異性体(90/10)の混合物として得られた。主ジアステレオ異性体。1H−NMR(CDCl3,25℃): 7.42(d,1H,C,J=6.9)、7.03〜7.13(m,3H,ar)、2.96(sept,2H,CCH3,J=6.6)、2.50(m,1H,C)、1.69〜1.90(m,4H)、1.00〜1.56(m,5H)、1,17(d,6H,CHC3,J=6.6)、1.15(d,6H,CHC3,J=6.6)、0.97(d,3H,CHC3,J=6.6)、0.94(d,3H,CHC3,J=6.6)、0.88(d,3H,CHC3,J=6.9)。13C−NMR(CDCl3,25℃): 171.60(H)、148.86(ar)、138.01(ar)、124.01(ar)、123.04(ar)、48.44(H)、45.24(H)、39.18(2)、34.96(2)、32.30、29.48、27.70、23.90、23.70(2)、23.68、22.77、21.62、15.48。
【0074】
追加的イミン(1d及び1e)が、それぞれStevens,C.V.、Peristeropoulou,M.、DeKimpe,N.,Tetrahedron,2001,57,7865及びDaugulis,O.、Brookhart,M.,Organometallics,2002,21,5926に記載されているようにして製造され得る。
【0075】
例2
この例は、イミニウム塩の製造を提供する。
【化11】

【0076】
イミニウム塩3a: Et2O(40mL)中のLDA(4.66g,43.5mmol)の溶液をEt2O(40mL)中のイミン1a(10.05g,43.5mmol)の撹拌溶液に0℃にて添加した。この溶液を室温まで温め、そして2時間撹拌した。真空下で溶媒の蒸発後、残渣をEt2O(80mL)中に溶解し、そして1,2−エポキシ−2−メチルプロパン(4.06mL,45.7mmol)を滴加した。室温にて12時間撹拌した後、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(Tf2O)(7.68mL,45.7mmol)を−78℃にて添加した。この溶液を室温に温め、そして1時間撹拌した。濾過後、残存固体をEt2O(80mL)で洗浄した。CH2Cl2(40mL)での抽出により、3aが白色固体(10.99g,58%,m.p.198〜200℃)として得られた。1H−NMR(CDCl3,25℃): 9.48(s,1H,C)、7.53(m,1H,ar)、7.34(m,2H,ar)、2.63(sept,2H,CCH3,J=6.9)、2.43(s,2H,C2)、1.68(s,6H,CH3)、1.54(s,6H,C3)、1.35(d,6H,CHC3,J=6.9)、1.17(d,6H,CHC3,J=6.9)。13C−NMR(CD3CN,25℃): 192.19(H)、145.64(ar)、133.09(ar)、130.07(ar)、126.58(ar)、122.15(q,3SO3-,J=321.6)、85.82()、66.34()、48.84(2)、30.39、28.47、26.28、26.18、22.24。
【0077】
イミニウム塩3b: Et2O(40mL)中のLDA(3.87g,36.1mmol)の溶液をEt2O(40mL)中のイミン1b(9.79g,36.1mmol)の撹拌溶液に0℃にて添加した。この溶液を室温まで温め、そして2時間撹拌した。真空下で溶媒の蒸発後、残渣をEt2O(100mL)中に溶解し、そして1,2−エポキシ−2−メチルプロパン(3.37mL,37.9mmol)を滴加した。室温にて12時間撹拌した後、Tf2O(6.38mL,37.9mmol)を−78℃にて添加した。この溶液を室温に温め、そして1時間撹拌した。濾過後、残存固体をEt2O(80mL)で洗浄して、3bが白色固体(8.25g,48%,m.p.268〜270℃)として得られた。1H−NMR(CD3CN,25℃): 8.91(s,1H,C)、7.67(m,1H,ar)、7.52(m,2H,ar)、2.78(sept,2H,CCH3,J=6.9)、2.53(s,2H,C2)、1.19〜2.11(m,10H,C2)、1.59(s,6H,C3)、1.40(d,6H,CHC3,J=6.9)、1.15(d,6H,CHC3,J=6.9)。13C−NMR(CD3CN,25℃): 191.27(H)、145.45(ar)、132.88(ar)、130.04(ar)、126.37(ar)、122.17(q,3SO3-,J=321.2)、84.98()、53.63()、45.87(2)、34.56(2)、30.22、28.74、26.06、25.27(2)、22.07。
【0078】
イミニウム塩3c: THF(40mL)中のジメチルアミンのリチウム塩(1.56g,30.5mmol)の溶液をTHF(40mL)中のイミン1c(10.00g,30.5mmol)の撹拌溶液に0℃にて添加した。この溶液を室温まで温め、そして18時間撹拌した。溶媒の蒸発そして次いで真空下で約200℃にて10分間加熱してリチウムに錯化されたthfを除去した後、残渣をトルエン(100mL)中に溶解した。1,2−エポキシ−2−メチルプロパン(2.85mL,32.0mmol)を滴加した後、この溶液を室温にて12時間撹拌した。次いで、Tf2O(5.39mL,32.0mmol)を−78℃にて添加し、そしてこの懸濁液を室温に温めそして2時間撹拌した。濾過後、油状残渣を沸騰トルエン(90mL)で洗浄した。CH2Cl2(60mL)での抽出により3cが白色固体(6.65g,41%)として得られ、そしてこの固体をCH2Cl2/Et2O中で−20℃にて再結晶した(m.p.258〜260℃)。[α]D23=−38°(CHCl3)。1H−NMR(CDCl3,25℃): 9.73(s,1H,C)、7.53(m,1H,ar)、7.34(m,2H,ar)、2.64(m,3H,C)、2.20(m,2H)、2.04(m,2H)、1.90(m,2H)、1.78(m,2H)、1.59(s,3H,C3)、1.55(s,3H,C3)、1.35(d,3H,CHC3,J=7.0)、1.34(d,3H,CHC3,J=6.0)、1.21(d,3H,CHC3,J=6.5)、1.17(d,3H,CHC3,J=6.0)、1.06(d,3H,CHC3,J=7.0)、1.00〜1.10(m,2H)、0.94(d,3H,CHC3,J=6.5)、0.83(d,3H,CHC3,J=6.5)。13C−NMR(CD3Cl3,25℃): 192.64(H)、144.71(ar)、144.54(ar)、131.74(ar)、128.97(ar)、125.59(ar)、125.06(ar)、120.57(q,3SO3-,J=321.6)、81.65()、58.51()、52.16(2)、50.97(H)、45.43(2)、34.68(2)、29.91、29.48、29.17、28.13、27.10、26.69、25.52、22.82、22.67、22.30(2)、22.24、22.11、18.66。
【0079】
イミニウム塩3d: Et2O(60mL)中のLDA(8.43g,78.7mmol)の溶液をEt2O(60mL)中のイミン1d(10.00g,78.7mmol)の撹拌溶液に0℃にて添加した。この溶液を室温まで温め、そして2時間撹拌した。真空下で溶媒の蒸発後、残渣をEt2O(150mL)中に溶解し、そして1,2−エポキシ−2−メチルプロパン(7.34mL,82.7mmol)を滴加した。室温にて12時間撹拌した後、Tf2O(13.91mL,82.7mmol)を−78℃にて添加した。この溶液を室温に温め、そして1時間撹拌した。濾過後、残存固体をEt2O(100mL)で洗浄して、3dが白色固体(15.39g,59%)として得られた。1H−NMR(CD3CN,25℃): 8.64(s,1H,C)、2.17(s,2H,C2)、1.74(s,6H,C3)、1.65(s,9H,C3)、1.40(s,6H,C3)。13C−NMR(CD3CN,25℃): 185.22(H)、120.58(q,3SO3-,J=319.3)、82.67()、67.61()、51.97(2)、44.72()、29.77(3)、29.41(3)、24.96(3)。
【0080】
イミニウム塩3e: Et2O(50mL)中のLDA(4.82g,45.0mmol)の溶液をEt2O(50mL)中のイミン1e(8.50g,45.0mmol)の撹拌溶液に0℃にて添加した。この溶液を室温まで温め、そして2時間撹拌した。真空下で溶媒の蒸発後、残渣をEt2O(100mL)中に溶解し、そして1,2−エポキシ−2−メチルプロパン(4.19mL,47.2mmol)を滴加した。室温にて12時間撹拌した後、Tf2O(7.94mL,47.2mmol)を−78℃にて添加した。この溶液を室温に温め、そして1時間撹拌した。濾過後、残存固体をEt2O(60mL)で洗浄して、3eが白色固体(10.79g,61%)として得られた。1H−NMR(CDCl3,25℃): 9.15(s,1H,C)、7.00(s,2H,ar)、2.38(s,2H,C2)、2.30(s,3H,C3)、2.20(s,6H,C3)、1.63(s,6H,C3)、1.54(s,6H,C3)。13C−NMR(CDCl3,25℃): 192.77(H)、141.21(ar)、133.30(ar)、130.75(ar)、130.31(ar)、120.88(q,3SO3-,J=319.0)、84.39()、49.19(2)、48.11()、28.60(3)、26.54(3)、21.03(3)、19.27(3)。
【化12】

【0081】
イミニウム塩3f: Et2O(30mL)中のLDA(2.80g,26.2mmol)の溶液をEt2O(30mL)中のイミン1a(6.05g,26.2mmol)の撹拌溶液に0℃にて添加した。この溶液を室温まで温め、そして2時間撹拌した。真空下で溶媒の蒸発後、残渣をEt2O(50mL)中に溶解し、そして1,3−ジブロモブタン(3.30mL,27.5mmol)を滴加した。この溶液を室温に温め、そして12時間撹拌した。濾過そして真空下で溶媒の蒸発後、残渣をトルエン(40mL)中に溶解した。次いで、110℃にて1時間加熱しそして濾過することにより、3fが白色固体(7.58g,79%)として得られた。1H−NMR(CDCl3,25℃): 9.54(s,1H,C)、7.32(m,1H,ar)、7.12(m,2H,ar)、4.09(m,1H,CCH3)、2.47(sept,1H,CCH3,J=6.9)、2.33(sept,1H,CCH3,J=6.9)、2.23(m,1H,C2)、1.65〜2.00(m,3H,C2)、1.45(s,3H,C3)、1.44(s,3H,C3)、1.14〜1.19(m,9H,CHC3)、1.11(d,3H,CHC3,J=6.9)、1.03(d,3H,CHC3,J=6.9)。13C−NMR(CDCl3,25℃): 190.67(H)、142.49(ar)、141.88(ar)、136.06(ar)、131.38(ar)、125.11(ar)、124.79(ar)、62.45(H)、38.31()、28.86、28.81、28.32(2)、25.79(2)、25.59、25.42、25.12、22.86、22.38、17.63。
【0082】
例3
この例は、代表的カルベンの製造を例示する。
【0083】
カルベンCa: LDAとイミニウム塩3a(5.0mmol)の1/1の混合物を−78℃に冷却し、そして30mLのTHFを添加した。この懸濁液を室温に温め、そして30min撹拌した。真空下で溶媒の蒸発後、CaとLiOTfとを含有する固体残渣が得られ、そして更なる精製なしに錯化反応に用いた。13C−NMR(thf−d8,25℃): 304.22()、145.81(ar)、137.51(ar)、128.05(ar)、123.77(ar)、82.47()、57.75()、50.35(2)、29.09、28.89、27.49、21.75。
【0084】
カルベンCb: LDAとイミニウム塩3b(5.0mmol)の1/1の混合物を−78℃に冷却し、そして30mLのTHFを添加した。この懸濁液を室温に温め、そして30min撹拌した。真空下で溶媒の蒸発後、CbとLiOTfとを含有する固体残渣が得られ、そして更なる精製なしに錯化反応に用いた。13C−NMR(thf−d8,25℃): 309.43()、145.80(ar)、137.84(ar)、127.87(ar)、123.57(ar)、81.23()、63.29()、47.70(2)、35.85(2)、29.33、29.15、26.42(2)、22.99(2)、21.55。
【0085】
カルベンCc: LDAとイミニウム塩3c(1.40g,2.6mmol)の1/1の混合物を−78℃に冷却し、そして20mLのトルエンを添加した。この懸濁液を室温に温め、そして30min撹拌した。真空下で溶媒の蒸発後、固体残渣をヘキサン(30mL)で抽出した。真空下で溶媒の蒸発により、Ccが白色微結晶質固体(0.92g,92%,m.p.115℃)として得られた。[α]D23=+113°(ヘキサン)。1H−NMR(C66,25℃): 7.13〜7.25(m,3H,ar)、3.18(sept,2H,CCH3,J=6.9)、2.54〜2.78(m,2H)、2.11(m,1H)、1.72〜1.97(m,4H)、1.41(dd,1H,J=12.3及びJ=3.3)、1.11〜1.27(m,21H)、1.06(d,3H,CHC3,J=6.9)、1.02(d,3H,CHC3,J=6.9)、0.96(3H,CHC3,J=6.6)。13C−NMR(thf−d8,25℃): 319.00()、146.60(ar)、145.70(ar)、138.10(ar)、127.64(ar)、123.78(ar)、123.31(ar)、79.67()、69.45()、53.09(2)、52.03(H)、47.98(2)、36.90(2)、30.19、29.76、29.11、29.02、28.61、27.75、26.96、25.44、24.12(2)、23.62、22.85、21.97、21.23、18.70。
【化13】

【0086】
カルベンCd: LDAとイミニウム塩3d(5.0mmol)の1/1の混合物を−78℃に冷却し、そして30mLのTHFを添加した。この懸濁液を室温に温め、そして30min撹拌した。真空下で溶媒の蒸発後、CdとLiOTfとを含有する固体残渣が得られた(13C−NMRによれば定量的)。13C−NMR(thf−d8,25℃): 301.94()、80.58()、61.35()、55.92(2)、53.25()、32.89(3)、31.45(3)、27.25(3)。
【化14】

【0087】
カルベンCe: LDAとイミニウム塩3e(5.0mmol)の1/1の混合物を−78℃に冷却し、そして30mLのTHFを添加した。この懸濁液を室温に温め、そして30min撹拌した。真空下で溶媒の蒸発後、CeとLiOTfとを含有する固体残渣が得られた。13C−NMR(thf−d8,25℃): 288.00()。
【化15】

【0088】
カルベンCf: Me3SiOTf(0.90mL,5.0mmol)をCH2Cl2(30mL)中のイミニウムブロマイド3f(1.83g,5.0mmol)の溶液に−78℃にて添加した。この懸濁液を室温に温め、そして1時間撹拌した。溶媒の蒸発後、固体残渣が得られた。次いで、LDAとイミニウムトリフレート(5.0mmol)の1/1の混合物に30mLのTHFを−78℃にて添加した。この懸濁液を室温に温め、そして30min撹拌した。真空下で溶媒の蒸発後、カルベンCfとLiOTfとを含有する固体残渣が得られた。1H−NMR(thf−d8,25℃): 7.00〜7.20(m,3H,ar)、3.34(m,1H,CCH3)、2.85(sept,2H,CCH3,J=6.9)、1.85〜1.96(m,1H,C2)、1.29〜1.62(m,3H,C2)、1.18(d,3H,CHC3,J=6.9)、1.14(d,3H,CHC3,J=6.9)、1.11(s,3H,C3)、1.04(s,3H,C3)、1.00(d,3H,CHC3,J=6.6)、0.98(d,3H,CHC3,J=6.3)、0.94(d,3H,CHC3,J=6.3)。13C−NMR(thf−d8,25℃): 322.00()、144.45(ar)、144.02(ar)、142.35(ar)、126.86(ar)、123.44(ar)、123.37(ar)、56.15(H)、41.88()、28.39、28.26、27.95、27.12(2)、26.88(2)、26.47、24.64、23.91、22.21、21.70、18.34。
【0089】
例4
この例は、本発明の代表的遷移金属錯体の製造を例示する。
【0090】
IrCl(CO)2(Cc)錯体(4c)
THF(5mL)中のカルベンCc(0.34g,0.90mmol)の溶液をビス[μ−クロロ(1,5−シクロオクタジエン)イリジウム(I)](0.27g,0.41mmol)の撹拌THF溶液(5mL)に−78℃にて添加した。この溶液を室温に温め、そして3時間撹拌した。真空下で溶媒の蒸発後、残渣をヘキサン(15mL)で洗浄した。次いで、これをTHF(5mL)中に溶解し、そして室温にて一酸化炭素をこの溶液に通気した(45min)。真空下で溶媒の蒸発後、カルベン錯体4cが褐色粉末(0.42g,71%)として得られた。1H−NMR(CDCl3,25℃): 7.55(m,1H,ar)、7.36(m,2H,ar)、2.61〜2.76(m,3H)、2.38(d,1H,J=14.4)、2.06〜2.24(m,3H)、1.67〜1.95(m,6H)、1.64(s,3H)、1.60(s,3H)、1.36(d,6H,CHC3,J=6.6)、1.19〜1.27(m,6H)、1.08(d,3H,CHC3,J=6.9)、0.97(d,3H,CHC3,J=5.4)、0.85(d,3H,CHC3,J=6.9)。13C−NMR(CDCl3,25℃): 191.32(O)、190.86()、167.80(O)、144.83(ar)、144.67(ar)、132.28(ar)、129.03(ar)、126.12(ar)、125.58(ar)、82.36()、58.74、58.62、52.32、51.08、45.78、34.59、30.38、30.12、29.71、28.64、27.58、27.39、26.60、23.28、23.02、22.90、22.50、22.20、19.36。IR(CH2Cl2): ν(CO)2055、1971cm-1
【0091】
PdCl(アリル)(C)錯体(5)
PdCl(アリル)(Ca)錯体5a: THF(15mL)中のカルベンCa(5.2mmol)の溶液をTHF(15mL)中のアリルパラジウムクロライドダイマー(0.95g,2.6mmol)の撹拌溶液に−78℃にて添加した。この溶液を室温に温め、そして3時間撹拌した。真空下で溶媒の蒸発後、固体残渣をヘキサン(40mL)で洗浄した。CH2Cl2(20mL)での抽出により灰色固体が得られ、そしてこの固体をTHF中で−20℃にて再結晶しそしてカルベン錯体5aが無色結晶(1.73g,71%,m.p.162〜163℃)として得られた。1H−NMR(CDCl3,25℃): 7.27〜7.42(m,3H,ar)、5.05(m,1H,アリル)、4.18(d,1H,アリル,J=7.5)、3.19(m,3H,CCH3及び2アリル)、3.01(m,1H,CCH3)、2.02(s,3H,アリル,C2)、1.64(s,6H,C3)、1.23〜1.40(m,18H,C3)。13C−NMR(CDCl3,25℃): 267.44()、146.54(ar)、135.76(ar)、129.07(ar)、125.12(ar)、115.48(H)、81.46()、76.78(2)、57.48()、50.54(2)、48.62(2)、31.66、30.63、29.35、28.63、28.15、27.51、25.08。
【0092】
PdCl(アリル)(Cb)錯体5b: THF(10mL)中のカルベンCb(3.9mmol)の溶液をTHF(10mL)中のアリルパラジウムクロライドダイマー(0.71g,1.9mmol)の撹拌溶液に−78℃にて添加した。この溶液を室温に温め、そして2時間撹拌した。真空下で溶媒の蒸発後、固体残渣をヘキサン(20mL)で洗浄した。CH2Cl2(20mL)での抽出により5bが薄褐色固体(1.46g,74%)としてが得られ、そしてこの固体をヘキサン中で−20℃にて再結晶した(m.p.176〜178℃)。1H−NMR(CDCl3,25℃): 7.21〜7.63(m,3H,ar)、5.04(m,1H,アリル)、4.18(d,1H,アリル,J=7.5)、3.29(m,1H,CCH3)、3.15(m,2H,アリル)、2.98(m,1H,CCH3)、2.45(m,2H,C2)、1.22〜2.05(m,17H,アリル,C2,C3)、1.30(d,12H,CHC3,J=6.9)。13C−NMR(CDCl3,25℃): 267.84()、146.55(ar)、136.27(ar)、129.04(ar)、125.12(ar)、115.58(H)、80.55()、76.98(2)、62.93()、48.36(2)、45.66(2)、38.78(2)、37.23(2)、31.31、29.50、28.62、28.07、27.08、25.42(2)、25.27、22.90(2)、22.42(2)。
【0093】
PdCl(アリル)(Cc)錯体5c: THF(5mL)中のカルベンCc(0.57g,1.5mmol)の溶液をTHF(5mL)中のアリルパラジウムクロライドダイマー(0.27g,0.75mmol)の撹拌溶液に−78℃にて添加した。この溶液を室温に温め、そして2時間撹拌した。真空下で溶媒の蒸発後、固体残渣をヘキサン(15mL)で洗浄して5cが薄褐色固体(0.59g,70%)としてが得られ、そしてこの固体をヘキサン中で−20℃にて再結晶した(m.p.157〜159℃)。[α]D23=−1°(CHCl3)。1H−NMR(CDCl3,25℃): 7.20〜7.38(m,3H,ar)、5.04(m,1H,アリル)、4.21(d,1H,アリル,J=7.5)、3.70(sept,1H,CCH3,J=6.3)、3.15(d,1H,アリル,J=14.1)、2.82〜2.98(m,4H)、2.32(m,1H)、1.70〜2.09(m,7H)、1.35〜1.45(m,8H)、1.30(d,6H,CHC3,J=6.6)、1.29(s,3H)、1.20(d,3H,CHC3,J=6.9)、0.99(t,6H,CHC3,J=6.9)、0.93(d,3H,CHC3,J=6.6)。13C−NMR(CDCl3,25℃): 272.03()、148.31(ar)、145.61(ar)、137.49(ar)、128.99(ar)、126.40(ar)、124.75(ar)、114.97(H)、78.69()、77.99(2)、67.38()、54.18(H)、52.01(2)、51.24(2)、48.08(2)、33.68(2)、33.60、30.66、30.09、29.23、29.05、28.63、27.98、27.21、26.00、25.66、23.84(2)、22.43、20.92。
【0094】
陽イオン性パラジウム錯体: カルベン錯体5c(0.50g,0.9mmol)とテトラフルオロホウ酸銀の1/1の混合物を−40℃に冷却し、そして5mLのフルオロベンゼンを添加した。この懸濁液を室温に温め、そして30min撹拌した。濾過後、真空下で溶媒の蒸発そしてヘキサン(10mL)で洗浄した後、固体残渣(0.48g,88%)が得られた。トルエン/フルオロベンゼン中で−20℃における再結晶により、が黄色結晶(m.p.157〜159℃(分解))として得られた。[α]D23=−6°(C65F)。1H−NMR(C65F,25℃): 6.78〜7.15(m,3H,ar)、5.00(m,1H,アリル)、3.34〜3.48(m,2H,アリル)、2.90(m,2H)、2.59(m,2H)、2.36〜2.41(m,1H)、1.91〜2.17(m,3H)、1.65〜1.82(m,3H)、1.13〜1.22(m,12H)、1.06(d,3H,CHC3,J=6.3)、1.05(d,3H,CHC3,J=6.9)、0.99(d,3H,CHC3,J=6.9)、0.98(s,3H,C3)、0.88(d,3H,CHC3,J=6.9)、0.73(d,3H,CHC3,J=6.9)、−0.17(m,1H)。13C−NMR(C65F,25℃): 251.46()、145.54(ar)、145.33(ar)、133.42(ar)、130.92(ar)、126.33(ar)、126.17(ar)、118.76(H)、81.45()、70.74()、51.49(2)、50.60(H)、45.86(2)、40.19、35.20(2)、33.95(2)、29.87、29.17、28.93、26.86、26.16、25.44、23.88、23.60、22.94、22.55、18.58。
【0095】
RhCl(cod)(Cc)錯体: THF(10mL)中のカルベンCc(0.45g,1.18mmol)の溶液をビス[μ−クロロ(1,5−クロロオクタジエン)ロジウム(I)](0.26g,0.53mmol)の撹拌THF溶液(5mL)に−78℃にて添加した。この溶液を室温に温め、そして3時間撹拌した。真空下で溶媒の蒸発そしてヘキサン(15mL)で洗浄した後、RhCl(cod)(Cc)錯体が褐色粉末(0.58g,79%)として得られた。[α]D23=+189°(CHCl3)。1H−NMR(CDCl3,25℃): 7.41〜7.54(m,2H,ar)、7.17〜7.20(m,1H,ar)、5.44(m,1H,Ccod)、4.65(m,1H,Ccod)、4.21(m,1H,Ccod)、3.23(m,2H)、3.06(m,3H)、2.68(m,2H)、2.51(d,1H,J=12.9)、1.99〜2.13(m,4H)、1.77(d,3H,CHC3,J=6.0)、1.45〜1.71(m,10H)、1.29(d,3H,CHC3,J=6.6)、1.24(d,3H,CHC3,J=6.6)、1.20(s,6H)、1.11(d,3H,CHC3,J=6.3)、1.04(d,3H,CHC3,J=6.3)、0.97(d,3H,CHC3,J=6.6)、0.92(d,3H,CHC3,J=6.3)。13C−NMR(CDCl3,25℃): 278.26(d,J=44.5,)、148.76(ar)、146.13(ar)、138.42(ar)、128.94(ar)、127.28(ar)、124.30(ar)、100.03(d,J=6.0,cod)、99.72(d,J=5.3,cod)、76.62()、72.44(d,J=16.2,cod)、70.69()、60.43(d,J=14.5,cod)、54.96、51.34(2)、49.81(2)、36.42(2)、35.53(2)、33.69、32.93、31.63(2)、29.63(2)、29.34、29.13、29.03、28.48、27.97、27.70、26.71、25.78、25.59、24.90(2)、22.35、22.27。
【0096】
RhCl(CO)(Cc)錯体(7)
工程a) 一酸化炭素をTHF(15mL)中のRhCl(cod)(Cc)錯体(0.58g,0.92mmol)の溶液に通気した(60min)。真空下で溶媒の蒸発そしてヘキサン(10mL)で洗浄した後、錯体が橙色粉末(0.48g,95%)として得られた。
工程b) THF(5mL)中のカルベンCc(0.40g,1.04mmol)の溶液をビス[μ−クロロ(ジカルボニル)ロジウム(I)](0.18g,0.47mmol)の撹拌THF溶液(5mL)に−78℃にて添加した。この溶液を室温に温め、そして2時間撹拌した。真空下で溶媒の蒸発そしてヘキサン(20mL)で洗浄した後、固体残渣(0.46g,80%)が得られた。室温における緩慢蒸発によるクロロホルム中の再結晶により、が橙色結晶(m.p.251℃(分解))として得られた。[α]D23=−0.1°(CHCl3)。1H−NMR(CDCl3,25℃): 7.45(m,1H,ar)、7.28(m,2H,ar)、2.83(sept,2H,CCH3,J=6.6)、2.60(m,1H)、2.47(d,1H,J=13.5)、2.27(m,1H)、1.89〜2.12(m,5H)、1.61(d,3H,CHC3,J=6.6)、1.24〜1.44(m,20H)、1.13(d,3H,CHC3,J=5.7)、1.06(d,3H,CHC3,J=6.9)、0.08(m,1H)。13C−NMR(CDCl3,25℃): 248.47(d,J=48.8,)、181.21(d,J=134.3,O)、146.20(ar)、145.72(ar)、136.90(ar)、130.28(ar)、125.82(ar)、125.70(ar)、77.67、71.85、51.85、50.39、46.26、40.60、35.13、34.78、30.58、30.38、29.13、27.11、26.43、26.26、24.29、24.16、22.63、20.19。IR(CH2Cl2): ν(CO)1989cm-1
【0097】
例5
この例は、本発明の錯体を用いてのα−アリール化手順を例示する。
【0098】
グローブボックスにおいて、ガラスバイアルに不活性雰囲気下で0.5mLのTHF中の1.1mmolのNaOt−Buを装填した。次いで、0.5mLのTHF中のパラジウム触媒(量については表1参照)、アリールハライド(1.0mmol)及びプロピオフェノン又はイソブタナール(1.0mmol)の混合物を室温にて添加した。次いで、この反応を表1に指摘された温度及び期間撹拌した。この反応をNH4Clの水溶液でクエンチし、そしてEt2Oで抽出した。有機層をMgSO4で乾燥した。化合物はすべて、1H−NMRにより同定された。報告された収率は、NMR収率である。
【0099】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】図1は、異なる立体的要求を図示する配位子の概略図を示す。
【図2】図2は、固体状態のCcの分子図を示す。選択された結合の長さ及び角度は、次のとおりである。N1−C1 1.315±3Å、C1−C2 1.516±3Å、N1−C1−C2 106.54±18°。
【図3】図3は、固体状態の5a5cの分子図を示す。選択された結合の長さ及び角度は、次のとおりである。5a: N−C1 1.3133±11Å、C1−C2 1.5298±12Å、C1−Pd 2.0246±9Å、N−C1−C2 108.51±8°。5b: N−C1 1.310±4Å、C1−C2 1.526±4Å、C1−Pd 2.020±3Å、N−C1−C2 108.7±2°。5c: N−C1 1.315±5Å、C1−C2 1.543±5Å、C1−Pd 2.045±4Å、N−C1−C2 108.8±3°。
【図4】図4は、固体状態のの分子図を示す。選択された結合の長さ及び角度は、次のとおりである。N−C1 1.293±3Å、C1−C2 1.519±3Å、C1−Pd 2.038±3Å、Pd−Ha 2.052、N−C1−C2 109.4±2°。
【図5】図5は、固体状態のの分子図を示す。選択された結合の長さ及び角度は、次のとおりである。N−C1 1.3174±14Å、C1−C2 1.5368±15Å、C1−Rh 1.9399±10Å、Rh−C1 2.3740±3Å、Rh−C3 1.7955±11Å、C3−O 1.1433±14Å、Rh−Ha 2.183±17Å、Rh−Hb 2.231±17Å、N−C1−C2 108.70±9°。

【特許請求の範囲】
【請求項1】

【化1】

〔ここで、
A環は、4、5、6又は7員環であり、
Lは、C、O、N、B、Al、P、S及びSiから成る群から選択された1から4個の環頂点の連結基であり、しかも利用可能な原子価はH、オキソ又はRa置換基により随意に占められ、
Rは、C1~10アルキル、C2~10アルケニル、C2~10アルキニル及びアリール(ここで、各々は、Ra置換基で随意に置換される)から成る群から選択された群員であり、
1及びR2は、C1~10アルキル、C2~10アルケニル、C2~10アルキニル、アリール、C1~10アルコキシ、C2~10アルケニルオキシ、C2~10アルキニルオキシ、アリールオキシ、C2~10アルコキシカルボニル、C1~10アルキルチオ、C1~10アルキルスルホニル及びC1~10アルキルスルフィニルから成る群から独立に選択された群員であり、あるいは随意に結合されて3から12員のスピロ環状環を形成し、しかも該スピロ環状環はRb置換基で随意に置換され、
各々のRa及びRbは、C1~10アルキル、C2~10アルケニル、C2~10アルキニル、アリール、C1~10アルコキシ、C2~10アルケニルオキシ、C2~10アルキニルオキシ、アリールオキシ、C2~10アルコキシカルボニル、C1~10アルキルチオ、C1~10アルキルスルホニル、C1~10アルキルスルフィニル、オキソ、アミノ、イミン、窒素複素環、ヒドロキシ、チオール、チオノ、リン及びカルベン基から成る群から独立に選択される〕
を有する安定なカルベン。
【請求項2】
A環が4、5又は6員環であり;LがC、O、N、S及びSiから成る群から選択された1から3個の環頂点の連結基であり、しかも利用可能な原子価はH、オキソ又はRa置換基により随意に占められ;そしてRがC1~10アルキル、C2~10アルケニル、C2~10アルキニル及びアリール(ここで、各々は、1から4個のRa置換基により随意に置換される)から成る群から選択された群員である、請求項1に記載のカルベン。
【請求項3】
【化2】

〔ここで、
3及びR4は各々、C1~10アルキル、C2~10アルケニル、C2~10アルキニル及びアリール(それらの各々は、1から4個のRa置換基で随意に置換される)から成る群から独立に選択された群員である〕
から成る群から選択された式を有する、請求項1に記載のカルベン。
【請求項4】
式(a)を有する、請求項3に記載のカルベン。
【請求項5】
式(b)を有する、請求項3に記載のカルベン。
【請求項6】
Rが置換又は非置換アリール基であり、そしてR1、R2、R3及びR4の各々が独立にC1~6アルキル基である、請求項3に記載のカルベン。
【請求項7】
Rが置換又は非置換アリール基であり、R1及びR2が結合されてスピロシクロブタン、スピロシクロペンタン又はスピロシクロヘキサン環(それらの各々は、1から4個の独立に選択されたC1~6アルキル基で随意に置換される)を形成し、そしてR3及びR4の各々が独立にC1~6アルキル基である、請求項3に記載のカルベン。
【請求項8】
遷移金属錯体であって、式
【化3】

〔ここで、
A環は、4、5、6又は7員環であり、
Lは、C、O、N、B、Al、P、S及びSiから成る群から選択された1から4個の環頂点の連結基であり、しかも利用可能な原子価はH、オキソ又はRa置換基により随意に占められ、
Rは、C1~10アルキル、C2~10アルケニル、C2~10アルキニル及びアリール(ここで、各々は、Ra置換基で随意に置換される)から成る群から選択された群員であり、
1及びR2は、C1~10アルキル、C2~10アルケニル、C2~10アルキニル、アリール、C1~10アルコキシ、C2~10アルケニルオキシ、C2~10アルキニルオキシ、アリールオキシ、C2~10アルコキシカルボニル、C1~10アルキルチオ、C1~10アルキルスルホニル及びC1~10アルキルスルフィニルから成る群から独立に選択された群員であり、あるいは随意に結合されて3から12員のスピロ環状環を形成し、しかも該スピロ環状環はRb置換基で随意に置換され、
各々のRa及びRbは、C1~10アルキル、C2~10アルケニル、C2~10アルキニル、アリール、C1~10アルコキシ、C2~10アルケニルオキシ、C2~10アルキニルオキシ、アリールオキシ、C2~10アルコキシカルボニル、C1~10アルキルチオ、C1~10アルキルスルホニル、C1~10アルキルスルフィニル、オキソ、アミノ、イミン、窒素複素環、ヒドロキシ、チオール、チオノ、リン及びカルベン基から成る群から独立に選択される〕
を有するカルベン配位子を含む遷移金属錯体。
【請求項9】
カルベン配位子が、
【化4】

〔ここで、
3及びR4は各々、C1~10アルキル、C2~10アルケニル、C2~10アルキニル及びアリール(それらの各々は、1から4個のRa置換基で随意に置換される)から成る群から独立に選択された群員である〕
から成る群から選択された式を有する、請求項8に記載の遷移金属錯体。
【請求項10】
カルベン配位子が、式(a)を有する、請求項9に記載の錯体。
【請求項11】
錯体が、Ir、Pd、Rh及びRuから成る群から選択された遷移金属を含む、請求項9に記載の錯体。
【請求項12】
Rが置換又は非置換アリール基であり、そしてR1、R2、R3及びR4の各々が独立にC1~6アルキル基である、請求項9に記載の錯体。
【請求項13】
Rが置換又は非置換アリール基であり、R1及びR2が結合されてスピロシクロブタン、スピロシクロペンタン又はスピロシクロヘキサン環(それらの各々は、1から4個の独立に選択されたC1~6アルキル基で随意に置換される)を形成し、そしてR3及びR4の各々が独立にC1~6アルキル基である、請求項9に記載の錯体。
【請求項14】
α−アリール化反応を触媒する方法であって、触媒反応が起こるのに十分な条件下で、α−アリール化反応体を請求項8〜13のいずれか一項に記載の遷移金属錯体と一緒にすることを含む方法。
【請求項15】
スズキカップリング反応を触媒する方法であって、触媒反応が起こるのに十分な条件下で、スズキカップリング反応体を請求項8〜13のいずれか一項に記載の遷移金属錯体と一緒にすることを含む方法。
【請求項16】
アミンアリール化反応を触媒する方法であって、触媒反応が起こるのに十分な条件下で、アミンアリール化反応体を請求項8〜13のいずれか一項に記載の遷移金属錯体と一緒にすることを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−546693(P2008−546693A)
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−516950(P2008−516950)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際出願番号】PCT/US2006/022477
【国際公開番号】WO2006/138166
【国際公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(591225268)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (8)
【Fターム(参考)】