説明

選択的R−カドヘリンアンタゴニストおよび方法

哺乳類R−カドヘリンの選択的アンタゴニストとして有用な単離されたペプチドは3〜30アミノ酸残基を含み、該ペプチドの3個の連続した残基は、アミノ酸配列Ile−Xaa−Serを有し、ここで、Xaaは、Asp、Asn、GluおよびGlnよりなる群から選ばれるアミノ酸残基である。好ましくは、XaaはAspまたはAsnである。1つの好ましい実施形態においては、該ペプチドは、環内に配置された3〜10アミノ酸残基を有する環状ペプチドである。本発明の選択的R−カドヘリンアンタゴニストペプチドは、R−カドヘリン媒介性細胞接着を抑制するために及び網膜血管新生を抑制するために、発生中の血管系への内皮前駆細胞のような幹細胞の指向を抑制するのに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般に、哺乳類細胞接着分子のアンタゴニストに関する。より詳しくは、本発明は、哺乳類R−カドヘリン(カドヘリン‐4)の選択的ペプチドアンタゴニスト、ならびに細胞接着およびそれによる網膜血管新生の抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カドヘリンファミリーの分子は、カルシウム依存的な選択的細胞−細胞相互作用において機能する膜貫通糖タンパク質よりなる。これらの分子は、細胞認識および細胞選別を媒介することにより、胚発生および組織形態形成中に重要な役割を果たす。カドヘリンのサブファミリー(古典的カドヘリン、プロトカドヘリン、デスモコリンおよび他のカドヘリン関連タンパク質)は、種々の数の細胞外カドヘリンドメイン、単一の膜貫通部分および単一の細胞質ドメインにより特徴づけられる。いわゆる古典的カドヘリン(すなわち、E、P、NおよびR−カドヘリン)は、主として同種親和性相互作用に関与する5つの縦列反復細胞外カドヘリンドメイン(EC1〜EC5)、および接着特異的細胞内シグナリングを媒介する高度に保存された細胞質尾部を有すると報告されている。
【0003】
カドヘリンにより媒介される細胞‐細胞接着は、隣接細胞上で発現された複数のカドヘリン分子が相互作用して接着結合の形成を引き起こした場合に生じる。Shapiroら,Nature 1995;374(6520):327−37に提示されているカドヘリンジッパーモデルによると、同一細胞の膜内のカドヘリン分子が、密着した平行鎖二量体(すなわち、いわゆるシス二量体)を形成する。図1に示されているとおり、ついでこれらのシス二量体は、隣接細胞上で発現されたカドヘリン二量体に結合する(すなわち、トランス二量体化)。十分な相互作用が維持されたら、より多数のカドヘリン分子がその部位へ呼び寄せられて二細胞表面からの分子のかみ合せを引き起こした際に、カドヘリンの塊化が生じうる。このようにして、比較的弱い相互作用が組合されて、非常に強力な細胞−細胞接着を形成しうる。
【0004】
初期カドヘリン接着の際に、細胞質カドヘリン尾部とαおよびβカテニン分子との相互作用を介して伝達された細胞内シグナルが細胞骨格の再組織化を引き起こす。アクチンフィラメントとの会合が同種親和性結合に影響を及ぼすとは考えられないが、それらの会合は相互作用部位におけるカドヘリン分子の保持を助ける。共生型の関係においては、カドヘリンの塊化は細胞骨格の再組織化を引き起こし、膜における結合点を与え、これは、接着結合の形成に際して生じる細胞変化に重要である。一方、細胞骨格との会合は相互作用の部位にカドヘリンを保持し、新たなカドヘリン分子の呼び寄せを助けて、カドヘリンの塊化を媒介する。カルシウムはカドヘリンの塊化中に補因子として重要な役割を果たす。不十分な濃度(すなわち、約2mM未満)のカルシウムイオンを含有する溶液中では、カドヘリンの機能は失われ、分子はプロテアーゼ分解をより受けやすくなる。これは、カドヘリン分子の構造を安定化し隣接カドヘリン境界の適切な配向を得るためにはカルシウムが要求されることによるものである。
【0005】
5つの細胞外古典的カドヘリンドメインEC1〜EC5のそれぞれはカドヘリンの二量体化の媒介において重要な役割を果たすと報告されているが、突然変異解析は、二量体化界面を形成している残基の大多数が、最もN末端側のカドヘリンドメイン(EC1)内に見出されることを示唆している(Kitagawaら,Biochem.Biophys.Res.Commun.,2000;271(2):358−63)。しかし、カドヘリン分子間の特異的ホモ二量体化に関してはほとんど知られていない。
【0006】
カドヘリンは中枢神経系の発生および神経誘導中に重要な役割を果たす。脳の種々の細分化はカドヘリン型の差次的発現により特徴づけられると報告されている。カドヘリンは、異なる発生中網膜領域における特異的発現により、神経網膜の発生においても重要な役割を果たす。例えば、胚ニワトリ網膜発生中は、B−カドヘリンはミュラー膠細胞でしか見出されず、双極細胞の或る集団はR−カドヘリン(カドヘリン−4としても公知である)を発現することが報告されている。アマクリン細胞、および神経節細胞のサブセットは、カドヘリン6Bおよび7を発現する。網膜の内網状層内では、これらの同じカドヘリンは、シナプシンI陽性神経終末に結合した亜板(sublaminae)でしか発現されず、このことは、異なる発現プロフィールが網膜発生中のニューロンの特異的亜集団間のシナプス形成に寄与していることを示唆している。胚視神経においては、神経節細胞軸索成長は、R−カドヘリンを発現するグリア細胞とのN−カドヘリン接着により媒介される。
【0007】
カドヘリン接着は発生網膜血管新生においても何らかの役割を果たしている(Dorrellら,Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.2002;43(11):3500−10)。表層血管叢の形成中のR−カドヘリン接着の破壊は、正常な血管パターン形成中に観察される複雑な血管相互接続の喪失を招く。後続の深部血管層の形成中にR−カドヘリン接着が阻止されると、重要な誘発合図が失われて、正常な深部血管叢を越えて光受容体層内に血管が遊走する。
【0008】
網膜は、ニューロン要素、グリア要素および血管要素の良く特徴づけられた層よりなる。網膜層を少しでも変化させる任意の疾患または状態は神経変性および有意な視力障害を招きうる。網膜変性マウス(rd/rdマウス)は、光受容体細胞死を招く多数の疾患に関するモデルとして、70年以上研究されている。rd/rdマウスにおいては、光受容体変性が生後の最初の3週間のうちに開始し、杆体細胞が、cGMP依存性ホスホジエステラーゼのβサブユニット内の突然変異によると考えられるアポトーシスを受け、ついで錐体光受容体の死が生じる。rd/rdマウスにおいては、網膜内の血管萎縮も光受容体細胞死に一時的に付随する。最初の3週間以内に3つの機能層が発生しているため、血管系は、正常な典型的様態で形成しているかに思われる。しかし、第2週に深部血管層内の血管が変性し始め、生後4週までに、劇的な血管の減少が観察され、このとき、深部および中間部層はほぼ完全に消失する。
【0009】
造血幹細胞の集団は、正常な成体の循環および骨髄に存在し、これらから、異なる細胞亜集団が、系統(lineage)陽性(LinHSC)または系統陰性(LinHSC)系統に沿って分化しうる。また、本発明者らは、インビトロおよびインビボで血管を形成しうる内皮前駆細胞(EPC)がLinHSC亜集団内に存在することを見出した。LinHSCの集団内のEPCは、rd/rdマウスにおいて、該マウスの眼に硝子体内注射されると、変性しつつある血管に指向し安定化しうる。硝子体内に注射されたLinHSCは表層血管層内の星状細胞に指向し、生後2日(P2)に注射された場合には、内因性の発生中の血管網状組織の前に観察される。LinHSCが目指した網膜の周辺部に内因性血管系が到達すると、該細胞が新たな血管内に取り込まれて、注射されたLinHSCと内因性内皮細胞との混合集団による機能的モザイク血管を形成する。また、LinHSCは網膜の深部および中間部血管層の領域を、内因性内皮細胞によるこれらの層の血管新生が生じる前に、指向する。LinHSCの取り込みは、rd/rdマウスの深部血管新生を、LinHSCが注射された正常対照マウスと比べて約2〜約3倍レスキューする。また、深部血管系のレスキューは網膜の外顆粒層内の光受容体の分解を妨げる。しかし、これらの幹細胞が網膜ニューロンまたはグリア細胞への分化を受けうることを示唆する証拠が無いため、ニューロン保護のメカニズムは未知のままである。
【0010】
自然発生血管新生の前の星状細胞および深部血管領域へのLinHSCの指向は、発生中の内因性内皮細胞の指向と同様に、指向において機能する細胞表面分子をLinHSCが発現することを示唆している。R−カドヘリン接着は、発生網膜血管新生中の星状細胞および血管叢への内皮細胞指向において重要な役割を果たしている。
【0011】
R−カドヘリンは多数の哺乳動物において同定されており、配列決定されている。図2は、SWISS−PROTデータベースにおいてアクセッション番号NP 001785,バージョンNP 001785.2、GI:14589893としてKitagawaら(その関連開示を参照により本明細書に組み入れることとする)により報告されているR−カドヘリンプレプロタンパク質のヒト変異体のアミノ酸配列(配列番号1)を示す。配列番号1は222−228位にアミノ酸配列IDSMSGR(配列番号2)を含む。
【0012】
図3は、SWISS−PROTデータベースにおいてアクセッション番号P55283、バージョンP55283、GI:1705542としてTaniharaら(その関連開示を参照により本明細書に組み入れることとする)により報告されているR−カドヘリンプレプロタンパク質のもう1つのヒト変異体のアミノ酸配列(配列番号3)を示す。配列番号3は222−228位にアミノ酸配列INSMSGR(配列番号4)を含む。
【0013】
図4は、SWISS−PROTデータベースにおいてアクセッション番号NP 033997、バージョンNP 033997.1、GI:6753376としてHuttonら(その関連開示を参照により本明細書に組み入れることとする)により報告されているR−カドヘリンプレプロタンパク質のもう1つのマウス(ムス・ムスキュルス(mus musculus))変異体のアミノ酸配列(配列番号5)を示す。配列番号5は219−225位にアミノ酸配列IDSMSGR(配列番号2)を含む。
【0014】
アミノ酸配列His−Ala−Val(HAV)を含むカドヘリンの非選択的ペプチドアンタゴニストがBlaschukらにより米国特許第6,465,427、第6,3456,512号、第6,169,071号および第6,031,072号に報告されている。Blaschukらは、カドヘリンの直鎖状および環状の両方のペプチドアンタゴニストを報告しており、それらはすべて、多数のタイプのカドヘリン分子に無差別に拮抗しうる。
【0015】
アミノ酸配列Ile−Asn−Pro(INP)を含むN−カドヘリンの選択的ペプチドアンタゴニストがWilliamsら,Mol.Cell Neurosci.,2000;15(5):456−64に報告されている。HAVペプチドは非特異的カドヘリンアンタゴニストであるが、Williamsらにより報告されているINPペプチドアンタゴニストはN−カドヘリンに特異的であり、R−カドヘリンのような他のカドヘリン分子に対する有意な結合を示さない。
【0016】
細胞接着分子は体内の種々の組織に差別的に分布しているため、特異的細胞接着分子に対して高選択的であるアンタゴニスト、特に、R−カドヘリンに対して選択的であるアンタゴニストが、依然として必要とされている。本発明の選択的R−カドヘリンアンタゴニストペプチドはこの要求を満たすものである。
【発明の開示】
【0017】
発明の概要
哺乳類R−カドヘリンの選択的アンタゴニストとして有用な単離されたペプチドは3〜30アミノ酸残基を含み、該ペプチドの3個の連続した残基は、アミノ酸配列Ile−Xaa−Ser(IXS)を有し、ここで、Xaaは、Asp、Asn、GluおよびGlnよりなる群から選ばれるアミノ酸残基である。好ましくは、XaaはAspまたはAsnである。1つの好ましい実施形態においては、該ペプチドは少なくとも7個のアミノ酸残基を含み、該ペプチドの7個の連続したアミノ酸残基は、アミノ酸配列Ile−Xaa−Ser−Met−Ser−Gly−Arg(配列番号6)を有し、ここで、Xaaは前記と同意義を有する。本発明はまた、医薬上許容される担体中にR−カドヘリンアンタゴニストペプチドを含む医薬組成物を提供する。
【0018】
もう1つの好ましい実施形態においては、該ペプチドは、環内に配置された3〜10アミノ酸残基を有する環状ペプチドであり、該ペプチドの3個の連続した残基は、アミノ酸配列Ile−Xaa−Serを有し、ここで、Xaaは、Asp、Asn、GluおよびGlnよりなる群から選ばれるアミノ酸残基である。好ましくは、XaaはAspまたはAsnである。
【0019】
好ましい環状ペプチドは、式:
【0020】
【化1】

(式中、XおよびXは、独立して、アミノ酸残基であるか、またはペプチド結合により連結された10個以下の複数のアミノ酸残基であり、YおよびYは、独立して、ジスルフィド結合により互いに連結されたアミノ酸残基であり、Xaaは、Asp、Asn、GluおよびGlnよりなる群から選ばれるアミノ酸残基である。)を有する。
【0021】
特に好ましい環状ペプチドは、環状アミノ酸配列Cys−Ile−Xaa−Ser−Cys(配列番号7)を有し、ここで、Xaaは、Asp、Asn、GluおよびGlnよりなる群から選ばれるアミノ酸残基であり、該ペプチド環は、これら2つのシステイン残基の間のジスルフィド結合により形成される。
【0022】
R−カドヘリン媒介性細胞接着を抑制するための方法は、R−カドヘリンを発現する細胞を、本発明の選択的R−カドヘリンアンタゴニストペプチドの接着抑制量と接触させることを含む。例えば、異常な網膜血管新生に罹患した患者に、本発明のR−カドヘリンアンタゴニストペプチドの血管新生抑制量を投与することにより、網膜血管新生が抑制される。同様に、幹細胞を本発明のR−カドヘリンアンタゴニストペプチドの血管系指向抑制量と接触させることにより、発生中の血管系への系統(lineage)陰性造血幹細胞への指向が抑制される。発生中の血管系への内皮前駆細胞のようなLinHSCの指向の抑制は、異常な血管発生に関連した疾患、例えば老人性黄斑変性および糖尿病網膜症の治療に有用である。
【0023】
好ましい実施形態の詳細な説明
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いる「環状ペプチド」なる語は、ペプチド結合により鎖として互いに連結された複数のアミノ酸を含む分子を意味し、該鎖の末端は互いに連結されてアミノ酸残基の環を形成している。環状ペプチドは、ペプチド結合、システイン残基のような2つのアミノ酸残基間のジスルフィド結合、または任意の他の適当な連結基により、互いに連結されうる。非ペプチド性連結基は、該ペプチド鎖の各末端の官能基と反応してそれらの間で連結を形成しうる任意の化学的部分でありうる。例えば、ペプチド鎖の2つの末端は、3−アミノ酪酸のような非タンパク質アミノ酸により、またはアミノ末端におけるチオグリコール酸アミドのような非ペプチド性チオール基から形成されるジスルフィドにより、およびカルボキシ末端において2−アミノエタンチオールから形成されるアミドにより、互いに連結されうる。
【0024】
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いる、担体および他の賦形剤に関する「医薬上許容される」なる語およびその文法的変形体は、該物質が、望ましくない生理的副作用、例えば網膜または眼刺激、悪心、眩暈、霧視または視覚障害、細胞毒性などの生成を伴うことなくヒト患者に投与されうることを意味する。
【0025】
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いる「アミノ酸」なる語は、一般には、任意のαアミノ酸を意味する。好ましくは、本発明のペプチドは、遺伝暗号によりコードされる21アミノ酸を含むが、修飾アミノ酸残基をも含みうる。該アミノ酸はL、DまたはD,L形でありうる。好ましくは、本発明のペプチドはL形アミノ酸を含む。インビボでのプロテイナーゼ分解の可能性を最小にするために、本発明の投与ペプチドは1以上のD形アミノ酸残基を含みうる。
【0026】
哺乳類R−カドヘリンの選択的アンタゴニストである単離されたペプチドは、3〜30アミノ酸残基を含み、該ペプチドの3個の連続した残基は、アミノ酸配列Ile−Xaa−Serを有する。Xaaは、Asp、Asn、GluおよびGlnよりなる群から選ばれるアミノ酸残基である。好ましくは、XaaはAspまたはAsnである。本発明のR−カドヘリンアンタゴニストペプチドは直鎖状または環状でありうる。
【0027】
本発明の選択的R−カドヘリンアンタゴニストペプチドは、哺乳類R−カドヘリンのEC1ドメイン内には見出されるが他のカドヘリン分子には見出されないIle−Asp−SerおよびIle−Asn−Ser配列を模擬している。Ile−Xaa−Ser配列を含むペプチドは哺乳類R−カドヘリン分子に結合し拮抗しうる。Xaaは、哺乳類R−カドヘリン分子内に天然に存在する配列と合致させるために、好ましくは、アスパラギン酸残基(Asp)またはアスパラギン残基(Asn)である。グルタミン酸(Glu)およびグルタミン(Gln)残基はそれぞれAspおよびAsnと化学的に類似しているため、それらもXaaに適している。
【0028】
1つの好ましい実施形態においては、該ペプチドは、少なくとも7個のアミノ酸残基を含み、該ペプチドの7個の連続的アミノ酸残基は、アミノ酸配列Ile−Xaa−Ser−Met−Ser−Gly−Arg(配列番号6)を有する。XaaはAsp、Asn、GluおよびGlnよりなる群から選ばれるアミノ酸残基である。
【0029】
もう1つの好ましい実施形態においては、該ペプチドは、環内に配置された3〜10アミノ酸残基を有する環状ペプチドであり、該ペプチドの3個の連続した残基は、アミノ酸配列Ile−Xaa−Serを有し、ここで、Xaaは、前記のとおり、Asp、Asn、GluおよびGlnよりなる群から選ばれるアミノ酸残基である。好ましくは、XaaはAspまたはAsnである。
【0030】
環内に配置された5個のアミノ酸を有する好ましい環状ペプチドは、式:
【0031】
【化1】

(式中、XおよびXは、独立して、アミノ酸残基であるか、またはペプチド結合により連結された10個以下の複数のアミノ酸残基であり、YおよびYは、独立して、ジスルフィド結合により互いに連結されたアミノ酸残基であり、Xaaは、Asp、Asn、GluおよびGlnよりなる群から選ばれるアミノ酸残基である。)を有する。好ましくは、YおよびYは共に、ジスルフィド結合により互いに連結されたシステイン残基(すなわち、シスチン残基)である。
【0032】
特に好ましい環状ペプチドは、環状アミノ酸配列Cys−Ile−Xaa−Ser−Cys(配列番号7)を有し、ここで、Xaaは、Asp、Asn、GluおよびGlnよりなる群から選ばれるアミノ酸残基であり、該環は、これら2つのシステイン残基の間のジスルフィド結合により形成される。好ましくは、XaaはAspまたはAsnである。
【0033】
R−カドヘリン媒介性細胞接着を抑制するための方法は、R−カドヘリンを発現する細胞を、本発明の選択的R−カドヘリンアンタゴニストペプチドの接着抑制量と接触させることを含む。R−カドヘリン媒介性細胞接着を抑制することにより治療可能な疾患または状態(例えば、異常な血管増殖により特徴づけられる網膜疾患)に罹患した哺乳動物に該アンタゴニストの細胞接着抑制量を投与することにより、該細胞を該ペプチドアンタゴニストとインビボで接触させることが可能である。例えば、老人性黄斑変性または糖尿病網膜症に罹患したヒト患者を、本発明の選択的R−カドヘリンアンタゴニストペプチドで有益に治療することが可能である。好ましくは、該アンタゴニストとそのための医薬上許容される担体とを含む医薬組成物として、該アンタゴニストを投与する。
【0034】
R−カドヘリンの選択的指向または拮抗のためには、本発明のペプチドおよび組成物を、治療的有効量で、医薬上許容される担体、ビヒクルおよび補助剤と共に単位投与形として、非経口的、経口的、吸入により又は局所的に投与することが可能である。本明細書中で用いる「非経口(的)」なる語は、静脈内、皮下、筋肉内、胸骨内、眼内(例えば、硝子体内)および腹腔内投与、ならびに注入技術による投与を含む。
【0035】
任意の適当な投与経路を用いることが可能であり、本発明の選択的R−カドヘリンアンタゴニストペプチドを含む医薬組成物を、意図される治療に有効な用量で投与する。個々の医学的状態の治療またはその進行の抑制に必要な治療的有効量は、医学分野において公知の前臨床および臨床研究により、当業者により容易に決定される。
【0036】
本明細書中で用いる「治療的有効量」なる語は、臨床家または研究者が求めている組織、系、動物またはヒトの生物学的または医学的応答を惹起する有効成分の量を意味する。
【0037】
本明細書中で用いる「抑制」なる語は、医学的状態または生化学的相互作用の遅延、遮断または阻止を意味するが、該状態の完全な排除または該相互作用の完全な遮断を必ずしも示すものではない。患者の生存期間の延長または症状の重症度の持続的軽減は、それ自体で及び単独で、該医学的状態が有益に制御(すなわち、抑制)されたことを示す。
【0038】
本R−カドヘリンアンタゴニストペプチドおよびそれを含有する組成物の投与計画は、患者の年齢、体重、性別および医学的状態のタイプ、該状態の重症度、投与経路ならびに使用する個々のペプチドアンタゴニストのアンタゴニスト活性のような幾つかの要因に基づく。投与計画は、前記要因に応じて様々となりうる。例えば、網膜血管新生の抑制には、約0.01ミリグラム〜約1000ミリグラム/kg体重のオーダーの用量レベルが有用である。好ましい用量レベルは約0.01ミリグラム〜約100ミリグラム/kg体重の範囲である。
【0039】
注射による投与には、本発明を例示するペプチド含有組成物を、医薬上許容される担体、例えば水、塩類液またはデキストロース水溶液で製剤化する。注射の場合には、典型的な1日量は、前記要因に応じて1回量または複数回量として毎日注射される約0.01ミリグラム〜約100ミリグラム/kg体重である。
【0040】
本発明の選択的R−カドヘリンアンタゴニストペプチドと医薬上許容される担体とを含む本発明の医薬組成物は、医薬上許容される賦形剤をも含みうる。本発明の医薬組成物中に含まれうる医薬上許容される賦形剤には、例えば、当技術分野でよく知られている生理的に許容される界面活性剤、溶媒、緩衝剤、保存剤などが含まれる。
【0041】
例えば、網膜血管新生を抑制するためには、異常な網膜血管新生に罹患した患者に、治療的有効量の本発明のR−カドヘリンアンタゴニストペプチドを投与する。投与されたペプチドは、網膜内のR−カドヘリンに選択的に結合して、網膜内の血管新生を妨げ抑制する。好ましくは、該ペプチドアンタゴニストは、硝子体内注射により投与する。
【0042】
発生中の血管系へのLinHSCの指向は、幹細胞を血管系指向抑制量の本発明の選択的R−カドヘリンアンタゴニストペプチドと接触させることにより抑制される。発生中の血管系への内皮前駆細胞のようなLinHSCの指向の抑制は、異常な血管発生に関連した疾患、例えば老人性黄斑変性および糖尿病網膜症の治療に有用である。好ましくは、血管増殖性疾患または状態に罹患した哺乳動物、例えばヒトに本R−カドヘリンアンタゴニストペプチドを投与することにより、LinHSCをインビボで接触させる。
【0043】
以下の非限定的な実施例は、本発明の種々の態様を更に詳しく例示するために記載されている。本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本明細書に開示されている実施例および例示実施形態の修飾が施されうる、と当業者は認識するであろう。
【実施例1】
【0044】
ペプチド合成
本発明のペプチドおよび種々の対照ペプチドは、固相合成法を用いてThe Scripps Research Institute Protein and Nucleic Acids中央施設により合成され、HPLC分析による分析において、可能な最高の等級(95%を超える純度)まで精製された。正しいペプチドの合成を確認するために、該ペプチドの配列をマススペクトロメトリーにより分析した。すべてのペプチドをアミノ末端においてはアミド保護し、カルボキシ末端においてはアシル化した。アミノ末端およびカルボキシ末端にシステイン残基を含有する環状ペプチドを製造して、ジスルフィド結合を形成させ、5アミノ酸残基を含有する環を形成させた。図5(B)は、製造したペプチドを示す:環状CIDSC(配列番号9)、環状CINPC(配列番号9)、IDSMSGR(配列番号2)、IDSASGR(配列番号10)、INPASGQ(配列番号11)、環状CSDIC(配列番号12)および環状CRADC(配列番号13)。
【実施例2】
【0045】
L−細胞トランスフェクション
マウスR−カドヘリンおよびN−カドヘリンプラスミドは、Masatoshi Takeichi博士(Kyoto University,Japan)から快く贈呈されたものである。該カドヘリン分子のC末端に結合した赤色蛍光タンパク質(Red Fluorescent Protein)(RFP)との融合タンパク質をコードするよう、該プラスミドをpDsRed2 N1ベクター(Clontech)内にサブクローニングした。Calcium Phosphate Transfection System(Life Technologies)を該製造業者のプロトコールに従い使用して、L−細胞(マウス繊維芽細胞L929細胞、ATCC #CRL−2148)をRまたはN−カドヘリンpDsRed2 N1で安定にトランスフェクトした。ジェネティシン(Geneticin)(700pg/mL G418 Geneticin,Gibco BRL)で補足された培地内での増殖によるスクリーニングの後、陽性クローンを選択した。細胞をRFPの発現に関して検査し、免疫ブロット法および免疫蛍光染色によりカドヘリンの発現に関して試験した。図6は、RおよびN−カドヘリンを発現するL−細胞の凝集を示す。図6(A)は、凝集しなかったトランスフェクトされていないL−細胞と比較した場合の、カルシウム含有培地内での、R−カドヘリン(左)およびN−カドヘリン(中央)を発現するL−細胞の凝集の光学顕微鏡写真を示す。図6(B)は、図6(A)に示す細胞の凝集率(%)を示す棒グラフである。約5mM 塩化カルシウムを含有するバッファー(TCと表示されている)中でトリプシン処理された、N−カドヘリンおよびR−カドヘリンでトランスフェクトされた細胞は、大きな細胞塊を形成し、一方、内因性L−細胞はカルシウム含有バッファー中で凝集をほとんど示さなかった。カルシウム非含有バッファー(TEと表示されている)中のEDTAでトリプシン処理された細胞は、該細胞がカドヘリンでトランスフェクトされたか否かにかかわらず、凝集をほとんど示さなかった。
【実施例3】
【0046】
細胞培養および免疫蛍光
トランスフェクト化または野生型L−細胞を、アールの基本塩溶液(Earl’s Basic Salt Solution)、2mM グルタマックス(Glutamax)、1mM ピルビン酸ナトリウム、0.1mM 非必須アミノ酸および10% ウシ胎児血清で補足された変法イーグル培地(Modified Eagles Medium)(MEM)内で増殖させた。トランスフェクト化細胞系を、約700μg/mL G418で補足された培地内で増殖させた(すべての培地試薬はGibco BRLからのものである)。免疫蛍光のために、該細胞をガラスカバー細片上で約75%のコンフルエンシーまで増殖させた。該細胞を4% パラホルムアルデヒド中で0.5時間固定し、ついで1×リン酸緩衝食塩水(PBS)中の5% 正常ヤギ血清および5% ウシ胎児血清でブロッキングした。R−カドヘリンまたはN−カドヘリンに対するヤギポリクローナル抗体(Santa Cruz)を1:200の希釈度で使用し、Alexa488標識抗ヤギIgG二次抗体(Molecular Probes)とのインキュベーションにより蛍光を付与した。Radiance 200蛍光共焦点顕微鏡(BioRad)を使用して、イメージを作成した。免疫ブロット分析のために、1% Triton X−100を含有するバッファー中で細胞を細胞溶解した。約50μgの全細胞ライセートを8% ポリアクリルアミドゲルの各レーンに加え、タンパク質を電気泳動により分離した。N−カドヘリンまたはR−カドヘリンに特異的なモノクローナル抗体(1:1000、BD Biosciences)を使用して、対応するバンドを可視化した。
【0047】
図7(A)は、天然L−細胞ならびにR−カドヘリンおよびN−カドヘリンでトランスフェクトされR−カドヘリン抗体で染色されたL−細胞の免疫ブロットを示す。R−カドヘリンでトランスフェクトされた細胞のみが、有意なレベルのR−カドヘリン発現を示した。図7(B)は、天然L−細胞ならびにR−カドヘリンおよびN−カドヘリンでトランスフェクトされN−カドヘリン抗体で染色されたL−細胞の免疫ブロットを示す。N−カドヘリンでトランスフェクトされた細胞のみが、有意なレベルのN−カドヘリン発現を示した。図7(C)は、蛍光性カドヘリン抗体で標識されたR−カドヘリン発現細胞の蛍光光学顕微鏡写真であり、R−カドヘリン分子のみの細胞表面発現を示している。図7(D)は、蛍光性カドヘリン抗体で標識されたN−カドヘリン発現細胞の蛍光光学顕微鏡写真であり、N−カドヘリン分子のみの細胞表面発現を示している。図7(E)は、蛍光性カドヘリン抗体にさらされた天然L−細胞の蛍光光学顕微鏡写真であるが、いずれのタイプのカドヘリン分子の細胞表面発現も何ら示していない。
【実施例4】
【0048】
凝集アッセイ
L−細胞をコンフルエンシー近くまで増殖させ、ついでEDTAの非存在下の0.01% トリプシン+5mM CaCl(TC)、または0.1mm EDTAの存在下かつカルシウムの非存在下の0.01% トリプシン(TE)でトリプシン処理した。該細胞を集め、洗浄し、ついで5mM CaClの存在下(TC)または非存在下(TE)のハンクス緩衝溶液(HBSS)+1% BSAに再懸濁させた。約60〜70rpmで振とうさせながら、0.5mLの溶液中、24ウェルプレートの1プレート当たり2×10細胞で、細胞を種々の濃度のペプチドと共に37℃でインキュベートした。すべてのアッセイは三重に行った。初期粒子数(N)に対する、2時間のインキュベーション後の全粒子数(N2hr)の比率により、細胞凝集の度合を表した。インキュベーションの前(N)および後(N)の、ウェル当たりの8回の独立した20μLの計数の和を用いて、血球計数器上で粒子を計数した。結果を図8に示す。
【実施例5】
【0049】
ペプチドの硝子体内注射によるマウスの処理
ペプチドをPBS+10% DMSOに10mMの濃度まで溶解した。約0.5μLまたは1.0μLの10mM ペプチド溶液をそれぞれ2日齢または7日齢のマウスの硝子体腔内に注射した。P5またはP11に、網膜を、記載されているとおりに解剖し、血管および星状細胞を免疫組織化学的方法により可視化した。注射された網膜を同じ顕微鏡検査設定でイメージングすることにより、表層血管形成中の末梢血管新生、血管の長さおよび血管面積の定量を行った。ついで、網膜血管新生の度合のベースライン正規化のために使用する、注射されていない対照同腹子で、LASERPIXS(登録商標)ソフトウェア(BioRad)を使用して数値化を行った。焦点顕微鏡検査を用いて深部血管叢の前方に焦点を合わせ、光受容体層内に遊走した血管の数を計数することにより、深部血管形成に対する効果の定量を行った。結果を図9に示す。
【実施例6】
【0050】
幹細胞の単離および富化
増強されたGFPがβアクチンプロモーターに融合されている(ACTbEGFP,the Jackson Laboratory,Bar Harbor,Maine)成体トランスジェニックマウスから、骨髄細胞を単離した。ついで単球を、Histopaque(Sigma)を使用する密度勾配分離により集め、Lin選択のためにビオチン結合系統パネル抗体(CD45、CD3、Ly−6G、CD11、TER−119、Pharmingen,San Diego,CA)で標識した。LinおよびLin細胞を、磁気分離カラム(MACS,Miltenyi Biotech,Auborn,California)を使用して分離した。血管指向による判定で、CD31細胞は、HCSの非機能的亜集団の、より良好な対照に相当することが確認されたため、CD31細胞を、CD31抗体を使用するMACSソーティングにより該単球から単離し、機能的LinHSCの陰性対照として使用した。細胞を抗R−カドヘリン抗体(sc−6456,Santa Cruz Biotech)およびAlexa−488標識ロバ抗ヤギ二次抗体(Molecular Probes)で標識し、FACSキャリブアー(calibur)(Beckton Dickinson,Franklin Lakes,NJ)フローサイトメーターを使用することにより、R−カドヘリンの発現に関して、野生型マウスからのHSCを分析した。結果を図10に示す。
【実施例7】
【0051】
HSC細胞のインキュベーション、注射および定量
LinHSCを、リン酸緩衝食塩水中の100nMのR−カドヘリン阻止抗体(SC−6456,Santa Cruz Biotech)または前免疫ヤギIgGと共に、注射前に37℃で約1時間インキュベートした。0.5μLのHSC溶液を使用して、P6の眼内への硝子体内注射を行った。ついでP12に、ホールマウントまたは切片化により網膜を検査した。網膜ごとに8つの異なる視野(左、右、上および下の四半部(網膜周辺部へ3/4の距離)、2つの中間的な四半部(周辺部へ1/4〜1/2の距離)、注射部位ならびに視神経乳頭領域)を用いて網膜内の幹細胞の総数を計数することにより、LinHSCの指向を定量した。これらの細胞を、表層、中間部もしくは深部層への局在化により、または(光受容体層の背部に位置する細胞に対する)指向の欠如により特徴づけた。光受容体層内の非指向細胞の数が、観察された幹細胞の総数に対する割合(%)として示されている。結果を図11および図12に示す。
【0052】
考察
本発明の選択的R−カドヘリンアンタゴニストペプチドは、R−カドヘリンの中心的認識モチーフ(すなわち、哺乳類R−カドヘリンにおいて見出されるIDSおよびINS配列)のペプチド模擬体として作用する。理論により束縛されるものではないが、本アンタゴニストペプチドは、細胞表面上のR−カドヘリン分子のEC1ドメインとの競合的相互作用により、R−カドヘリン分子の接着機能を阻止すると考えられる。本アンタゴニストペプチドは、分子的機能の研究に、および細胞接着関連疾患の治療に有用であり、一般には、インビボ注射に際して、組織内で、抗体に基づくアンタゴニストより拡散性である。
【0053】
網膜ニューロン組織を含むほとんどの組織の発生中の組織形態形成は、細胞−細胞接着分子の選択的結合を含む。この結合選択性は、同様に分化した細胞が互いに組織化するのを可能にし、不適切な組織構造に細胞型が侵入するのを妨げる。しかし、カドヘリン(特に、N−およびE−カドヘリン)の特性および機能に関する詳細な研究にもかかわらず、カドヘリンの特異性を説明する一般的メカニズムは未だ見出されていない。本R−カドヘリンアンタゴニストペプチドは哺乳類R−カドヘリン分子と選択的に相互作用し、他のカドヘリンクラスとの有意な結合を伴わない。これらのペプチドはIDS配列(またはそのホモログINS、IESおよびIQS)を含有し、これは、配列番号17および18の残基53−55であるカドヘリンドメインEC1内の領域に対応する。構造、突然変異および配列相同性解析に基づけば、この領域において、接着界面内の重要な相互作用が生じると報告されている。
【0054】
理論により束縛されるものではないが、IDSモチーフは接着界面において隣接カドヘリン分子からのVDI配列と直接的に接触すると考えられている。カドヘリンの残基53−55はトランス二量体化に必要であるらしいため、また、接着に重要な他の領域とは異なり、この短いアミノ酸配列は古典的カドヘリンファミリーメンバー間で保存されていなかったため、この領域はカドヘリンの特異性の決定因子として作用する。実際、環状IDS(CIDSC、配列番号8)はR−カドヘリン媒介性細胞凝集を選択的に抑制し、一方、対応するN−カドヘリン対応体である環状INP(CINPC、配列番号9)はN−カドヘリン媒介性凝集を選択的に抑制する。N−カドヘリンとR−カドヘリンとはカドヘリンファミリーメンバーのなかで最も相同である。実際、RおよびN−カドヘリンを含むすべてのカドヘリンは同種親和性様態で相互作用する傾向にあるが、RおよびN−カドヘリンの2つのみが、機能的ヘテロ二量体が観察されている古典的カドヘリンファミリーメンバーである。したがって、環状IDSおよび環状INPが、任意の他のカドヘリンメンバーに対する重複した特性以外に、NおよびR−カドヘリンに対する異なる機能特性を有する可能性は極めて低い。これらの研究は、IXSモチーフ(ここで、XはD、N、EまたはQである)(すなわち、R−カドヘリンの残基53−55またはそのホモログに対応する)がR−カドヘリン分子のホモ会合の媒介において重要な役割を果たすことを示している。R−カドヘリンに対するIXSの特異性およびN−カドヘリンに対するINPの特異性に基づけば、他のカドヘリンファミリーメンバーにおける、対応して配置された残基(例えば、E−カドヘリンのIERモチーフおよびP−カドヘリンのIEKモチーフ)も、他の古典的カドヘリンに特異性を付与する可能性もある。
【0055】
これまでの研究は、R−カドヘリンに対する抗体が網膜血管新生をインビボで妨げることを示している。表層叢の血管新生は、内皮細胞の前に存在する星状細胞により中継されるR−カドヘリン媒介性誘導始動因子の遮断により妨げられた可能性がある。R−カドヘリンの発現は、血管侵入の直前の、後に深部血管叢が位置する領域においても観察される。これらの領域内のR−カドヘリン分子は、適切な血管叢へ内皮細胞を誘導すると考えられる。なぜなら、R−カドヘリン阻止抗体を注射すると、血管は、正常な血管化層を迂回するからである。
【0056】
本発明において、表層網膜血管新生中および深部網膜血管新生中の両方における環状IDS(CIDSC、配列番号8)の注射により、類似した血管表現型が得られた。環状IDSは、R−カドヘリン媒介性凝集を、有意な度合でインビトロで選択的に妨げる(すなわち、N−カドヘリン媒介性凝集は有意には妨げられない)ため、環状IDSとR−カドヘリンとの高親和性相互作用により、該インビボ血管表現型も生じたらしい。また、インビトロではN−カドヘリン媒介性凝集には有効なインヒビターであったがR−カドヘリン凝集には有効でなかった環状INP(CINPC、配列番号9)の注射は、有意な網膜血管表現型を与えなかった。総合すると、これらの結果は、血管誘導中のR−カドヘリンに関する特異的な役割を証明するものである。
【0057】
本発明の選択的R−カドヘリンアンタゴニストペプチドの設計は、古典的カドヘリンファミリーの種々のメンバーの構造的、生化学的および突然変異解析に基づくものであった。トリプトファンー2は、N−カドヘリンおよびR−カドヘリンのアミノ酸残基79−81のHAV配列と共に、カドヘリン機能に重要であることが公知である。実際、HAV配列を含有する直鎖状および環状ペプチドは、N−カドヘリン媒介性神経突起成長をインビトロで阻止することが報告されている。しかし、これらの配列は全てのカドヘリン分子にわたって絶対的に保存されており、したがって、結合の特異性を付与し得ない。他の残基も、カドヘリン認識に重要ないくつかの非保存性残基と、二量体界面内で、重要な接触を行う必要がある。アミノ末端カドヘリン反復(EC1)内の残基に注目した。接触に重要な残基の大多数は、3つの領域に、すなわち、アミノ酸35−45、アミノ酸53−59およびアミノ酸79−86に局在化していた。残基53−59は、二量体界面の形成において潜在的に重要なこれらのカドヘリン特異的残基の大多数を含有していた。これらのうち、残基53−55は特に重要である。したがって、R−カドヘリン特異的ペプチドが産生される可能性を最適化するために、この領域から、ペプチド模擬体を設計した。最も密接に関連したカドヘリンファミリーメンバーであるマウスN−カドヘリンからの配列に対する類似したペプチドおよび他の対照ペプチドを設計し、比較分析に使用した。
【0058】
カドヘリン媒介性凝集
通常L−細胞と称されるマウス繊維芽細胞(系統L929)を選択した。なぜなら、それは、内因性カドヘリン発現を示さないことが公知だからである。R−カドヘリン安定トランスフェクタントを作製し、それを使用して、R−カドヘリン媒介性凝集に対する設計ペプチドの効果を試験した。N−カドヘリン安定トランスフェクタントも作製し、それを使用して、N−カドヘリン媒介性凝集に対するその効果に基づき、カドヘリン選択性に関して該ペプチドを評価した。図7に示すとおり、免疫ブロット分析は、R−カドヘリンクローン8(R−cad8)においては、高レベルのR−カドヘリン発現を検出し、N−カドヘリン発現を全く検出しなかったが、N−カドヘリンクローン3(N−cad3)においては、高レベルのN−カドヘリン発現が見出され、R−カドヘリン発現は全く見出されなかった。免疫蛍光は、これらの選択されたクローンにおける適当なカドヘリンの発現を証明した。凝集アッセイにおいて試験したところ、カドヘリントランスフェクションの結果として、トランスフェクト化細胞系の形態学的特徴が変化していた。図6(A)に示すとおり、親(すなわち、非トランスフェクト化)L−細胞は単細胞粒子として解離したままであったが、マウスR−カドヘリンおよびN−カドヘリントランスフェクタントは、密着した細胞間会合により、大きなカルシウム依存性(TCバッファー)細胞塊を形成した。図6(B)に示すとおり、カドヘリン媒介性凝集塊は、EDTA溶液の存在下の細胞の初期トリプシン処理およびカルシウム非含有バッファー(TEバッファー)中の凝集により排除された。
【0059】
細胞凝集に対するペプチドの効果
ペプチドを種々の濃度で凝集ウェルに加えて、カドヘリン媒介性接着の阻止におけるそれらの有効性を試験した。環状IDSはR−カドヘリン媒介性凝集を約300μMのIC50で抑制した。直鎖状ペプチドIDSMSGR(配列番号2)も、R−カドヘリン媒介性接着を阻止した。しかし、その有効性(IC50 〜900μM)は環状IDSの場合より約3倍低かった。該環状ペプチドは該直鎖状ペプチドより遥かに安定であり扱い易いことが判明したため、以降においては、環状ペプチドのみの分析に重点を置いた(図8(A))。N−カドヘリン凝集に対する効果はほとんど観察されなかったため、環状IDSの効果はR−カドヘリンに特異的であった。これとは対照的に、対応するN−カドヘリン特異的配列である環状INPは、R−カドヘリン凝集に対する環状IDSの効果と同様に、N−カドヘリン媒介性凝集を、300μMより僅かに低いIC50で抑制した(図8(B))。環状INPはR−カドヘリン媒介性凝集に対する効果をほとんど示さなかった。
【0060】
その他の対照ペプチドである環状RAD(CRADC、配列番号13)および環状SDI(CSDIC、配列番号12)はR−カドヘリン媒介性凝集またはN−カドヘリン媒介性凝集のいずれにもほとんど影響を及ぼさなかった。いずれかの古典的カドヘリン分子により媒介される接着の阻止において有効であることが既に知られている環状HAVペプチド(CHAVC、配列番号20)を、比較として試験した。本発明者らのアッセイにおいては、環状HAVはR−カドヘリンおよびN−カドヘリン媒介性凝集を150〜200μMのIC50で阻止した。したがって、環状IDSおよび環状INPは、該非特異的一般的カドヘリン阻止ペプチドより僅かに低いだけの親和性で、それぞれRまたはNカドヘリン接着を選択的に阻止した。R−カドヘリンに対する抗体を使用するこれまでの研究は、正常な網膜発生血管新生を妨げることを示している。図8(C)に示すとおり、これらの抗体はまた、本発明者らのアッセイ系において、約10nMのIC50でカドヘリン媒介性凝集を妨げるのに有効であった。
【0061】
網膜血管新生に対するペプチドの効果
生後マウスの眼の硝子体腔内にペプチドを注射した。環状IDSまたは環状HAVペプチドを2日齢のマウスの眼に注射し、生じた血管系を3日後の生後第5日(P5)に検査したところ、血管形成が妨げられ、抗体注射で観察された結果と同様の結果が得られた。これらの網膜は、注射されていない正常な同腹子対照と比較して、広範でない末梢血管形成、および血管化領域内の、少ない相互連結血管を有するものとして特徴づけられた。全体的には、表層の血管新生はR−カドヘリン阻止ペプチドにより半分に切断され、一方、N−カドヘリン特異的環状INP注射を受けた網膜は比較的正常であった(図9(A〜C)を参照されたい)。
【0062】
本発明の選択的R−カドヘリンアンタゴニストペプチドは深部網膜層の正常な血管新生をも妨げた。表層血管網状構造の血管が潜り込み深部血管叢の形成を開始する直前のP7において環状IDSペプチドを注射し、生じたP11血管系を、正常な深部血管叢を越えて無血管光受容体層内へ遊走した多数の血管出芽により特徴づけした。この場合も、これは、R−カドヘリン抗体を注射した場合にこれまでに観察された効果に類似していた。これとは対照的に、図9(BおよびD)に示すとおり、環状INPペプチドを注射した眼の深部血管叢は正常に生じた。
【0063】
R−カドヘリンはLinHSCにより発現される
R−カドヘリン細胞接着分子が機能的指向細胞の細胞表面で発現されるかどうかを判定するために、R−カドヘリンの造血幹細胞(HSC)発現を分析した。フローサイトメトリー分析によれば、R−カドヘリンはHSCのLin亜集団の約80%の細胞表面で発現されるが、Lin細胞は、その僅か30%がRカドヘリンを発現するに過ぎない(図10)。それらの2つの細胞集団間の相対蛍光強度に基づけば、Lin細胞はその細胞表面で、R−カドヘリン陽性Lin細胞の場合より高い濃度のR−カドヘリンを発現するらしい。したがって、網膜血管系を機能的に指向する亜集団内の細胞の大多数はR−カドヘリンを発現し、一方、非指向亜集団からの細胞のほとんどは発現しない。興味深いことに、CD31、CD34およびMac1陰性であり指向機能を全く有さないHSCの、異なる亜集団は、遥かに少数のR−カドヘリン発現細胞を含有していた。
【0064】
R−カドヘリン阻止抗体およびペプチドはHSC指向を妨げる
異なる網膜血管層へのHSCの指向においてR−カドヘリン細胞−細胞接着が機能する度合を調べるために、注射前にLinHSCをR−カドヘリン特異的阻止抗体で阻止した。注射の6日後、正常なLinHSCは、3つの血管層、すなわち、1)神経節細胞層内に局在化した表層血管層、2)外網状層付近に局在化した深部血管叢、および3)内顆粒層の前端に局在化した中間層にのみ局在化していることが見出される。図11(A)は、正常なLinHSC(左)、接着性阻止R−カドヘリン抗体と共にインキュベートされたLinHSC(中央)、および前免疫ヤギIgGと共にインキュベートされたLinHSC(右)の注射後の網膜の横断面を示す。
【0065】
注射前にLinHSCを抗R−カドヘリン抗体と共にプレインキュベートした場合には、これらの細胞の多くが、正しく指向するそれらの能力を喪失し、一方、前免疫IgGと共にプレインキュベートした細胞は、未阻止HSCと同様に機能する。深部および中間部血管層への指向はR−カドヘリン接着の阻止により特に影響されるらしい。なぜなら、これらの領域内にはR−カドヘリン阻止HSCが比較的にほんの僅かしか局在化していないことが判明したからである。また、表層血管叢に局在化している細胞は、それほど組織化されていないらしく、正常なLinHSCと同じ、または前免疫IgGと共にプレインキュベートしたものと同じ度合では、内因性血管系と共局在化していなかった。
【0066】
R−カドヘリン抗体と共にプレインキュベートしたLinHSCの多くは、網膜を介して3つ全ての血管層を越えて遊走し、RPE層付近の光受容体の外縁に接着した。R−カドヘリン阻止HSCのほぼ半分は光受容体層の外縁に見出された(図11(B))。比較として、前免疫IgGと共にプレインキュベートしたHSCを注射した対照網膜では、該HSCの15%がこの領域に誤って指向(誤指向)したに過ぎなかった。該対照網膜からの誤指向細胞の大部分は注射部位付近に見出され、注射針を抜いた際に網膜下に放出された細胞によるものと考えられうる。計算から注射部位を除くと、前免疫IgGと共にインキュベートされた誤指向HSCの数は10%に減少した。この「深部外(extra deep)」層内では、通常、LinHSCはほとんど観察されないため、対照IgGと共にインキュベートされた誤指向HSCのこの小さな比率は、前免疫IgGが該Lin細胞の約10%に対する結合能を有していたことによるものであると考えられうる(図10)。これらの結合IgG分子は、単なる立体障害により、正常な接着を非特異的に妨げうる。しかし、特異的R−カドヘリン阻止による誤指向細胞の数と非特異的IgG阻止による誤指向細胞の数との相違は有意である。
【0067】
図12(A)は、3つの血管叢と、光受容体層の外縁との、z平面を通る共焦点イメージを示す。正しい血管叢内の及び内因性血管(赤色)に沿った正常な指向が、前免疫ヤギIgGで阻止されたLinHSC(緑色)により観察された。R−カドヘリン接着の阻止により、多数のLinHSCが光受容体層の外縁に局在化し、正常な血管叢に指向された細胞は互いに塊化する傾向にあり、内因性(赤色)血管に沿っては局在化しなかった。図12(B)は、網膜内のHSCの全集団に対する誤指向細胞の比率がLinHSCのR−カドヘリン阻止集団に関しては有意に大きかったことを示す棒グラフである(P値<0.01)。
【0068】
前記の説明は限定的なものではなく例示的なものであると解釈されるべきである。本発明の精神および範囲内の更に他の変更が当業者に容易に見出されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】図1は、カドヘリンの塊化およびカドヘリン調節性細胞接着を図示する。
【図2】図2は、222−228位に配列IDSMSGR(配列番号2)を含む、R−カドヘリンプレプロタンパク質のヒト変異体のアミノ酸配列(配列番号1)を示す。
【図3】図3は、222−228位に配列INSMSGR(配列番号4)を含む、R−カドヘリンプレプロタンパク質のヒト変異体のアミノ酸配列(配列番号3)を示す。
【図4】図4は、229−225位に配列IDSMSGR(配列番号2)を含む、R−カドヘリンプレプロタンパク質のマウス変異体のアミノ酸配列(配列番号5)を示す。
【図5】(A)マウスN−カドヘリンおよび種々のR−カドヘリンの残基24−92における配列相同性(保存された残基(青色)および保存されていない残基(赤色))を示す。ヒト、マウスおよびラットからの哺乳類R−カドヘリン間の相同性において、それらの全ては残基53−55に配列IDSまたはINSを含み、一方、ニワトリR−カドヘリンおよびマウスN−カドヘリンは残基53−55にそれぞれ配列IDPおよびINPを有することに注目されたい。(B)マウスおよびヒトR−カドヘリンならびにマウスN−カドヘリンのこの領域内の残基に対応する環状および直鎖状ペプチドを、対応する対照ペプチドと共に合成した:環状CIDSC(配列番号8)、環状CINPC(配列番号9)、IDSMSGR(配列番号2)、IDSASGR(配列番号10)、INPASGQ(配列番号11)、環状CSDIC(配列番号12)および環状CRADC(配列番号13);図5(A)に示す部分カドヘリン配列は、上から下へ、マウスN−カドヘリン(配列番号14)、マウスR−カドヘリン(配列番号15)、ラットR−カドヘリン(配列番号16)、ヒトR−カドヘリン(配列番号17)、もう1つのヒトR−カドヘリン(配列番号18)およびニワトリ(ガルス・ガルス(gallus gallus))R−カドヘリン(配列番号19)である。
【図6】(A)R−カドヘリンおよびN−カドヘリンを発現するL−細胞の凝集を示す光学顕微鏡写真を示す。(B)は、カルシウムの存在下および非存在下でRおよびN−カドヘリンにより媒介されるL−細胞の凝集率(%)の棒グラフである。
【図7】R−カドヘリンおよびN−カドヘリンでのL−細胞の安定なトランスフェクションを示す。(A)R−カドヘリン免疫ブロット。(B)N−カドヘリン免疫ブロット、(C〜E)RおよびN−カドヘリンのいずれをも発現しない細胞(E)と比較した場合の、R−カドヘリン(C)およびN−カドヘリン(D)の発現を示す染色されたL細胞の光学顕微鏡写真。
【図8】N−カドヘリン発現細胞に結合するINP含有ペプチドと比較した場合の、R−カドヘリン発現細胞に結合するIDS含有ペプチドによる、L−細胞を発現するカドヘリンの凝集の選択的抑制をグラフで示す。
【図9】環状CINPC(配列番号9)と比較した場合の、環状CIDSC(配列番号8)の硝子体内注射の後のマウス網膜血管新生の選択的抑制を示す。(A)発生のP2期におけるrd/rdマウス網膜の光学顕微鏡写真を示す。(B)発生のP7期におけるrd/rdマウス網膜の光学顕微鏡写真を示す。(C)は表層血管新生の棒グラフである。(D)は深部血管新生の棒グラフである。
【図10】図10は、造血幹細胞(HSC)におけるR−カドヘリン発現のフローサイトメトリー分析の結果を示す。
【図11】図11は、本発明の種々のペプチドおよび対照ペプチドで処理されたrd/rdマウス網膜の横断面光学顕微鏡写真を示す。
【図12】図12は、本発明のR−カドヘリンアンタゴニストペプチドによる、発生中の網膜血管系のLinHSC指向の阻止を示す。
【配列表】














【特許請求の範囲】
【請求項1】
R−カドヘリンの選択的アンタゴニストであり、3〜30アミノ酸残基を含んでなる単離されたペプチドであって、該ペプチドの3個の連続した残基が、アミノ酸配列Ile−Xaa−Ser(式中、Xaaは、Asp、Asn、GluおよびGlnよりなる群から選ばれるアミノ酸残基である。)を有する、単離されたペプチド。
【請求項2】
XaaがAspまたはAsnである、請求項1記載のペプチド。
【請求項3】
XaaがAspである、請求項1記載のペプチド。
【請求項4】
XaaがAsnである、請求項1記載のペプチド。
【請求項5】
該ペプチドが少なくとも7個のアミノ酸残基を含み、該ペプチドの7個の連続したアミノ酸残基が、アミノ酸配列Ile−Xaa−Ser−Met−Ser−Gly−Arg(配列番号6)を有する、請求項1記載のペプチド。
【請求項6】
XaaがAspまたはAsnである、請求項5記載のペプチド。
【請求項7】
XaaがAspである、請求項5記載のペプチド。
【請求項8】
XaaがAsnである、請求項5記載のペプチド。
【請求項9】
7個のアミノ酸残基よりなり、アミノ酸配列Ile−Xaa−Ser−Met−Ser−Gly−Arg(配列番号6)(式中、Xaaは、Asp、Asn、GluおよびGlnよりなる群から選ばれるアミノ酸残基である。)を有する単離されたペプチド。
【請求項10】
環内に配置された3〜10アミノ酸残基を含んでなる環状ペプチドであって、該環状ペプチドの3個の連続した残基が、アミノ酸配列Ile−Xaa−Ser(式中、Xaaは、Asp、Asn、GluおよびGlnよりなる群から選ばれるアミノ酸残基である。)を有する、環状ペプチド。
【請求項11】
XaaがAspまたはAsnである、請求項10記載の環状ペプチド。
【請求項12】
XaaがAspである、請求項10記載の環状ペプチド。
【請求項13】
XaaがAsnである、請求項10記載の環状ペプチド。
【請求項14】
該ペプチドが少なくとも7個のアミノ酸残基を含み、該ペプチドの7個の連続したアミノ酸残基が、アミノ酸配列Ile−Xaa−Ser−Met−Ser−Gly−Arg(配列番号6)を有する、請求項10記載の環状ペプチド。
【請求項15】
XaaがAspまたはAsnである、請求項14記載の環状ペプチド。
【請求項16】
XaaがAspである、請求項14記載の環状ペプチド。
【請求項17】
XaaがAsnである、請求項14記載の環状ペプチド。
【請求項18】
式:
【化1】

(式中、XおよびXは、独立して、アミノ酸残基であるか、またはペプチド結合により連結された10個以下の複数のアミノ酸残基であり、YおよびYは、独立して、ジスルフィド結合により互いに連結されたアミノ酸残基である。)により表される、請求項10記載の環状ペプチド。
【請求項19】
およびYが、ジスルフィド結合により互いに連結されたシステイン残基である、請求項18記載の環状ペプチド。
【請求項20】
アミノ酸配列Cys−Ile−Xaa−Ser−Cys(配列番号7)(式中、Xaaは、Asp、Asn、GluおよびGlnよりなる群から選ばれるアミノ酸残基である。)を有し、これら2つのCys残基の間にジスルフィド結合を含む単離された環状ペプチド。
【請求項21】
3から30アミノ酸残基を有する単離されたペプチドと、そのための医薬上許容される担体とを、医薬上許容される賦形剤と共に含んでなり、該ペプチドの3個の連続した残基が、アミノ酸配列Ile−Xaa−Ser(式中、Xaaは、Asp、Asn、GluおよびGlnよりなる群から選ばれるアミノ酸残基である。)を有する、網膜血管新生を抑制するための医薬組成物。
【請求項22】
XaaがAspまたはAsnである、請求項21記載の組成物。
【請求項23】
XaaがAspである、請求項21記載の組成物。
【請求項24】
XaaがAsnである、請求項21記載の組成物。
【請求項25】
該ペプチドが少なくとも7個のアミノ酸残基を含み、該ペプチドの7個の連続したアミノ酸残基が、アミノ酸配列Ile−Xaa−Ser−Met−Ser−Gly−Arg(配列番号6)を有する、請求項21記載の組成物。
【請求項26】
XaaがAspまたはAsnである、請求項25記載の組成物。
【請求項27】
XaaがAspである、請求項25記載の組成物。
【請求項28】
XaaがAsnである、請求項25記載の組成物。
【請求項29】
該ペプチドがアミノ酸配列Ile−Xaa−Ser−Met−Ser−Gly−Arg(配列番号6)を有する、請求項25記載の組成物。
【請求項30】
環内に配置された3から30アミノ酸残基を有する環状ペプチドと、そのための医薬上許容される担体とを、医薬上許容される賦形剤と共に含んでなり、該環状ペプチドの3個の連続した残基が、アミノ酸配列Ile−Xaa−Ser(式中、Xaaは、Asp、Asn、GluおよびGlnよりなる群から選ばれるアミノ酸残基である。)を有する、網膜血管新生を抑制するための医薬組成物。
【請求項31】
XaaがAspまたはAsnである、請求項30記載の組成物。
【請求項32】
XaaがAspである、請求項30記載の組成物。
【請求項33】
XaaがAsnである、請求項30記載の組成物。
【請求項34】
該環状ペプチドが少なくとも7個のアミノ酸残基を含み、該環状ペプチドの7個の連続したアミノ酸残基が、アミノ酸配列Ile−Xaa−Ser−Met−Ser−Gly−Arg(配列番号6)を有する、請求項30記載の組成物。
【請求項35】
XaaがAspまたはAsnである、請求項34記載の組成物。
【請求項36】
XaaがAspである、請求項34記載の組成物。
【請求項37】
XaaがAsnである、請求項34記載の組成物。
【請求項38】
該環状ペプチドが、式:
【化1】

(式中、XおよびXは、独立して、アミノ酸残基であるか、またはペプチド結合により連結された10個以下の複数のアミノ酸残基であり、YおよびYは、独立して、ジスルフィド結合により互いに連結されたアミノ酸残基である。)により表される、請求項34記載の組成物。
【請求項39】
およびYが、ジスルフィド結合により互いに連結されたシステイン残基である、請求項38記載の組成物。
【請求項40】
該環状ペプチドが、アミノ酸配列Cys−Ile−Xaa−Ser−Cys(配列番号7)を有し、これら2つのCys残基の間にジスルフィド結合を含む、請求項34記載の組成物。
【請求項41】
細胞表面上でR−カドヘリン分子を発現する哺乳類細胞を、3から30アミノ酸残基を含む選択的R−カドヘリンアンタゴニストペプチド(該ペプチドの3個の連続した残基は、アミノ酸配列Ile−Xaa−Ser(式中、Xaaは、Asp、Asn、GluおよびGlnよりなる群から選ばれるアミノ酸残基である。)を有する。)の細胞接着抑制量と接触させることを含んでなる、R−カドヘリン媒介性細胞接着を抑制するための方法。
【請求項42】
該ペプチドが少なくとも7個のアミノ酸残基を含み、該ペプチドの7個の連続したアミノ酸残基が、アミノ酸配列Ile−Xaa−Ser−Met−Ser−Gly−Arg(配列番号6)を有する、請求項41記載の方法。
【請求項43】
該ペプチドが、環内に配置された3〜30アミノ酸残基を有する環状ペプチドであり、該環状ペプチドの3個の連続した残基が、アミノ酸配列Ile−Xaa−Serを有する、請求項41記載の方法。
【請求項44】
該環状ペプチドが、アミノ酸配列Cys−Ile−Xaa−Ser−Cys(配列番号7)を有し、これら2つのCys残基の間にジスルフィド結合を含む、請求項41記載の方法。
【請求項45】
異常な網膜血管新生に罹患した患者に、3から30アミノ酸残基を含む選択的R−カドヘリンアンタゴニストペプチド(該ペプチドの3個の連続した残基は、アミノ酸配列Ile−Xaa−Ser(式中、Xaaは、Asp、Asn、GluおよびGlnよりなる群から選ばれるアミノ酸残基である。)を有する。)の血管新生抑制量を投与することを含んでなる、網膜血管新生を抑制するための方法。
【請求項46】
該ペプチドが少なくとも7個のアミノ酸残基を含み、該ペプチドの7個の連続したアミノ酸残基が、アミノ酸配列Ile−Xaa−Ser−Met−Ser−Gly−Arg(配列番号6)を有する、請求項45記載の方法。
【請求項47】
該ペプチドが、環内に配置された3から30アミノ酸残基を有する環状ペプチドであり、該環状ペプチドの3個の連続した残基が、アミノ酸配列Ile−Xaa−Serを有する、請求項45記載の方法。
【請求項48】
該環状ペプチドが、アミノ酸配列Cys−Ile−Xaa−Ser−Cys(配列番号7)を有し、これら2つのCys残基の間にジスルフィド結合を含む、請求項47記載の方法。
【請求項49】
哺乳類幹細胞を、請求項1記載の単離された選択的R−カドヘリンアンタゴニストペプチドの血管系指向抑制量と接触させることを含んでなる、異常な血管発生に関連した疾患を治療するために、発生中の血管系への幹細胞の指向を抑制するための方法。
【請求項50】
該疾患が黄斑変性または糖尿病網膜症である、請求項49記載の方法。
【請求項51】
該幹細胞が内皮前駆細胞である、請求項49記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2006−525344(P2006−525344A)
【公表日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−513429(P2006−513429)
【出願日】平成16年4月30日(2004.4.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/013212
【国際公開番号】WO2004/099232
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(501318914)ザ・スクリプス・リサーチ・インステイチユート (23)
【Fターム(参考)】