説明

遺伝子検出方法

【課題】特定の配列を有する目的遺伝子サンプルを高感度に検出できる遺伝子検出方法を提供する。
【解決手段】検出すべき遺伝子を一本鎖に変性して遺伝子サンプルを作製する遺伝子サンプル作製工程と、検出すべき遺伝子配列に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の核酸プローブを作製する核酸プローブ作製工程と、核酸プローブを固相に固定化する固定化工程と、固相に固定化された核酸プローブと、遺伝子サンプルとをハイブリダイズさせて二本鎖核酸を形成する二本鎖核酸形成工程と、二本鎖核酸が形成された遺伝子サンプルに、電気化学的に活性である標識剤を添加し、該二本鎖核酸に標識させる標識化工程と、この反応工程にて二本鎖核酸が形成された遺伝子サンプルに標識された標識剤の電気化学的な反応を検出する検出工程と、を含み、固相に核酸プローブを固定化する部位が、固相から脱着可能であり、且つメッシュ構造の電極を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に存在する特定の遺伝子配列を検出する遺伝子検出方法に関し、特に、効率的なハイブリダイズの実現により電気化学的に遺伝子を検出する遺伝子検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の、電気化学的に特定の遺伝子配列を検出するDNAチップは、検出すべき目的遺伝子に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の核酸プローブを電極表面に固定化し、該核酸プローブと一本鎖に変性された目的遺伝子サンプルとをハイブリダイズさせた後、該核酸プローブと目的遺伝子サンプルとで形成された二本鎖核酸に特異的に結合し且つ電気化学的に活性な挿入剤を、該核酸プローブと遺伝子サンプルとの反応系に添加し、電極を介した電気化学的な測定により、前記二本鎖核酸に結合した挿入剤を検出することで、目的遺伝子サンプルとハイブリダイズした前記核酸プローブを検出し、目的とする遺伝子の存在を確認する(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
この手法で用いられる前記挿入剤は、前記二本鎖の核酸を認識して、該二本鎖核酸と特異的に結合する物質を指す。前記挿入剤は、何れも分子中にフェニル基等の平板状挿入基を有し、該挿入基が二本鎖核酸の塩基対と塩基対との間に挿入することによって、二本鎖核酸と結合する。この挿入剤と二本鎖核酸との結合は、静電気的相互作用あるいは疎水的相互作用での結合であって、前記挿入剤の二本鎖核酸の塩基対間への挿入、及びその塩基対間からの離脱が一定の速度で繰り返される平衡反応による結合である。
【0004】
さらに、前述した挿入剤には、電気的に可逆な酸化還元反応を起こす物質があり、このような電気化学的に可逆である酸化還元反応を起こす挿入剤を用いれば、電気化学的変化の測定によって、前記二本鎖核酸に結合した挿入剤の存在を検出することができる。なお、この電気化学的変化の出力信号としては、酸化還元時に発生する電流や発光が挙げられる。
【0005】
従って、このような従来の遺伝子検出方法においては、まず前記二本鎖核酸を形成させるための効率的なハイブリダイズが重要となり、更には前記挿入剤を該二本鎖核酸にのみ特異的に結合させ、該二本鎖核酸に結合した挿入剤の量を正確に検出することが重要となる。
【特許文献1】特開平5−199898号公報
【特許文献2】特開平9−288080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した従来のような方法では、ハイブリダイズの反応が遺伝子サンプルを含む溶液中での遺伝子サンプルの自然拡散に依存しているため、拡散速度が遅く、電極上に固定化された核酸プローブと遺伝子サンプルとのハイブリダイズのためには、一般的には6〜16時間程度の長時間の反応を行っているが、特に遺伝子サンプルの濃度が希薄な溶液を用いた場合には前記反応時間でも十分な反応効率が期待できず二本鎖核酸の形成効率が悪いといった課題がある。
【0007】
また、前記二本鎖核酸への標識剤を結合させる場合においても、一般的に用いられる挿入による標識手法の場合には、ハイブリダイズと同様に挿入剤の自然拡散に依存した平衡反応であるため、反応効率が悪いといった課題がある。
【0008】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであって、検出すべき検体の遺伝子サンプルと相補的に結合する核酸プローブの固相への固定化において、該固相に該核酸プローブを固定化する部位が該固相から脱着可能であり、且つメッシュ構造の電極を用いることで、高効率なハイブリダイズを実現し、検出すべき遺伝子サンプルを高感度に検出可能な遺伝子検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明の遺伝子検出方法は、特定の配列を有する遺伝子を検出する遺伝子検出方法であって、前記検出すべき遺伝子を一本鎖に変性して遺伝子サンプルを作製する遺伝子サンプル作製工程と、前記検出すべき遺伝子配列に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の核酸プローブを作製する核酸プローブ作製工程と、前記核酸プローブを固相に固定化する固定化工程と、前記固相に固定化された核酸プローブと、前記遺伝子サンプルとをハイブリダイズさせて二本鎖核酸を形成する二本鎖核酸形成工程と、前記二本鎖核酸形成工程にて得た、二本鎖核酸が形成された遺伝子サンプルに、電気化学的に活性である標識剤を添加し、該二本鎖核酸に標識させる工程と、前記反応工程にて二本鎖核酸が形成された遺伝子サンプルに標識された標識剤を、電気化学的測定により検出する検出工程と、を含み、前記固相に前記核酸プローブを固定化する部位が固相から脱着可能であり、且つメッシュ構造の電極である。
【0010】
さらに、本発明の遺伝子検出方法は、前記二本鎖核酸形成工程は、前記メッシュ構造の電極を前記固相から取り外し、前記遺伝子サンプルを含む溶液中で行う工程である。
【0011】
さらに、本発明の遺伝子検出方法は、前記二本鎖核酸形成工程は、揺動による攪拌工程を含むものである。
【0012】
これにより、効率的で、且つ迅速なハイブリダイズおよび標識剤の二本鎖核酸への標識化反応が可能となり、前記検出対象である遺伝子サンプルの存在を的確に且つ高感度に検出できる
【発明の効果】
【0013】
本発明の遺伝子検出方法によれば、特定の配列を有する遺伝子を検出する際に、検出すべき検体の遺伝子サンプルと該遺伝子サンプルと相補的に結合する核酸プローブとをハイブリダイズさせる工程及び電気化学的な検出のための標識工程において、該核酸プローブが固定化された電極部を脱着可能な構造とし、且つ該電極部をメッシュ構造としたので、遺伝子サンプルの該電極部での効率的な拡散が可能となり、該ハイブリダイズにより二本鎖核酸が形成されるので効率が向上し、また標識の効率も向上するため、微量な遺伝子サンプルにおいても確実に検出感度することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の遺伝子検出方法について詳細に説明する。なお、以下の実施の形態における遺伝子サンプルとは、例えば、血液、白血球、血清、尿、糞便、精液、唾液、培養細胞、各種臓器細胞のような組織細胞、その他遺伝子を含有する任意の試料から、該試料中の細胞を破壊して二本鎖核酸を遊離させ、熱処理あるいはアルカリ処理によって、一本鎖の核酸に解離させたものである。また、本実施の形態における遺伝子サンプルは、制限酵素で切断して電気泳動による分離等で精製した核酸断片でもよい。
【0015】
(実施の形態1)
以下、実施の形態1における遺伝子検出方法について説明する。まず、検査対象となる遺伝子サンプルを作製する。この遺伝子サンプルは、前述したように、任意の試料中の細胞を破壊して二本鎖核酸を遊離させ、熱処理あるいはアルカリ処理によって、一本鎖に変性させる。
【0016】
このとき、前記試料中の細胞の破壊は、常法により行うことができ、例えば、振とう、超音波等の物理的作用を外部から加えて行うことができる。また、核酸抽出溶液(例えば、SDS、Triton−X、Tween−20等の界面活性剤、又はサポニン、EDTA、プロテア−ゼ等を含む溶液等)を用いて、細胞から核酸を遊離させることもできる。
【0017】
次に、核酸プローブを作製する。前記核酸プローブは、前記検出すべき遺伝子配列に対して相補的な塩基配列を有するものである。
【0018】
これら前記核酸プローブは、化学合成で得られた一本鎖の核酸あるいは、生物試料から抽出した核酸を制限酵素で切断し、電気泳動による分離等で精製した核酸を用いることができる。生物試料から抽出した核酸の場合には、熱処理あるいはアルカリ処理によって、一本鎖の核酸に解離させておくことが好ましい。
【0019】
そしてこの後、前述のようにして得られた核酸プローブを固相に固定する。
【0020】
ここで、固相への固定化について説明する。本発明で用いられる固相は、電気化学的な信号を付与できる電気配線や電気化学検出に必要な各種電極から構成された基板であり、前記核酸プローブを固定化する部位、所謂作用極が固相本体から脱着可能な形態であり、且つ該作用極がメッシュ構造の電極である。
【0021】
前記メッシュ電極の形成方法及びその材料は、該構造を構成でき、且つ電気化学的検出に適用できるものであれば限定されるものではないが、例えば、ステンレス鉄線全般、純ニッケル、モネルメタル、チタニウム、銅、真鍮、アルミニウム及び同合金線、鉄線、亜鉛めっき鉄線などで作製されたメッシュ金網や、該メッシュ金網を金、白金、ニッケル、パラジウム、ロジウム、銅、銀、クロム、亜鉛、錫、半田、鉛などのメッキが可能な単一金属やこれらの合金で被覆するのでもよい。また、電鋳法により作製することも可能であり、例えば金、ニッケル、銅、鉄、銀、コバルト、亜鉛などの単一金属やそれらの組み合わせでもよい。また被覆の方法としては他に、真空蒸着法または浸漬法なども挙げられる。
【0022】
なお、前記核酸プローブを前記電極に固定化する方法としては、公知の方法が用いられる。一例をあげると、例えば前記電極が金である場合、固定する核酸プローブの5’−もしくは3’−末端(好ましくは、5’−末端)にチオール基を導入し、金とイオウとの共有結合を介して、前記核酸プローブが該金電極に固定される。この核酸プローブにチオール基を導入する方法は、文献(M.Maeda et al.,Chem.Lett.,1805〜1808(1994)及びB.A.Connolly,Nucleic Aci
ds Res.,13,4484(1985))に記載されているものが挙げられる。
【0023】
即ち、前記方法によって得られたチオール基を有する核酸プローブを、金電極に滴下し、低温下で数時間放置することにより、該核酸プローブが電極に固定され、核酸プローブが作製される。
【0024】
そして、以上のようにして得られた、核酸プローブが結合した電極を、前記遺伝子サンプルを含む溶液に接触させることにより、核酸プローブと相補的な配列を有する遺伝子サンプルがハイブリダイズし、二本鎖核酸が形成される。この核酸プローブと遺伝子サンプルをハイブリダイズさせる方法は周知であるため、ここでは説明を省略するが、本発明による好ましい形態としては、マイクロチューブ等の容器にプローブを固定した電極を入れ、更には、揺動による攪拌工程を加えることが望ましい。
【0025】
次に、前記二本鎖核酸に、後述する標識剤を含む溶液を接触させ、該標識剤を該二本鎖核酸に標識させた後、洗浄を行い、電極表面に非特異的に吸着した標識剤を除去する。なお、この標識剤の添加は、二本鎖核酸を形成する前、つまりハイブリダイゼーション反応前に、前記検体試料中に添加するものであってもよい。
【0026】
以下、本発明に用いられる標識剤について説明する。標識剤は、電気化学的に検出可能な物質であれば特に制限無く何を用いてもよく、例えば、可逆な酸化還元反応時に生じる酸化還元電流を測定することで物質の検出が可能な、酸化還元性を有する化合物が挙げられる。そしてこのような酸化還元性を有する化合物としては、例えば、フェロセン、カテコールアミン、配位子に複素環系化合物を有する金属錯体、ルブレン、アントラセン、コロネン、ピレン、フルオランテン、クリセン、フェナントレン、ペリレン、ビナフチル、オクタテトラエンもしくはビオローゲン等がある。
【0027】
なお、前述した、配位子に複素環系化合物を有する金属錯体、ルブレン、アントラセン、コロネン、ピレン、フルオランテン、クリセン、フェナントレン、ペリレン、ビナフチル、オクタテトラエンには、酸化還元反応時に電気化学発光を生じるものもあり、後述する検出工程にてその発光を測定することで、遺伝子サンプルの検出を行うこともできる。
【0028】
また、前述の配位子に複素環系化合物を有する金属錯体としては、酸素や窒素等を含む複素環系化合物、例えば、ピリジン部位、ピラン部位等を配位子に有する金属錯体等を挙げることができ、特に、ピリジン部位を配位子に有する金属錯体が好ましく、該ピリジン部位を配位子に有する金属錯体としては、例えば、金属ビピリジン錯体、金属フェナントロリン錯体等が例に挙げられる。
【0029】
さらに、前記配位子に複素環系化合物を有する金属錯体の中心金属としては、例えば、ルテニウム、オスニウム、亜鉛、コバルト、白金、クロム、モリブデン、タングステン、テクネチウム、レニウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、銅、インジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム等を挙げることができる。特に該中心金属が、ルテニウム、オスニウムである錯体は、良好な電気化学発光特性を有し、このような良好な電気化学発光特性を有する物質としては、例えば、ルテニウムビピリジン錯体、ルテニウムフェナントロリン錯体、オスニウムビピリジン錯体、オスニウムフェナントロリン錯体等を挙げることができる。
【0030】
前記標識剤由来の電気化学的な信号は、添加する挿入剤の種類により異なるが、酸化還元電流を生じる挿入剤を用いた場合には、ポテンショスタット、ファンクションジェネレータ等からなる計測系で測定できる。一方、電気化学発光を生じる挿入剤を用いた場合には、フォトマルチプライヤー等を用いて計測が可能である。
【0031】
この結果、前記ハイブリダイズした二本鎖核酸に、特異的に標識された標識剤のみが残るようになり、この標識剤由来の電気化学的な信号を測定することにより、二本鎖核酸の存在を高感度に検出することができる。
【実施例1】
【0032】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
(1)遺伝子サンプル
遺伝子サンプルには、ヒト由来Cytochrome P−450の遺伝子配列の5’−末端より599−698番目に位置するAATTGAATGA AAACATCAGG ATTGTAAGCA CCCCCTGGAT CCAGATATGC AATAATTTTC CCACTATCAT TGATTATTTC CCGGGAACCC ATAACAAATTの配列を有する100塩基のオリゴデオキシヌクレオチドを使用した。
(2)電極表面への核酸プローブの固定化
固相としてはガラス基板上にスパッタ装置(アルバック製SH−350)によりチタン10nmを下地に金200nmを形成し、フォトリソグラフィ工程により配線及び直径3mmの作用極、対極、参照極からなる三極の電極パターンを形成した。また作用極部に設置可能な大きさの電極として、ビー・エー・エス社製の金メッシュ電極(100メッシュ)を加工することにより直径3mmの脱着可能なメッシュ電極を作製した。この固相上に形成した電極とメッシュ電極をピラニア溶液(過酸化水素:濃硫酸=1:3)で1分間洗浄し、純水ですすいだ後、窒素ブローで乾燥させた。
【0033】
核酸プローブには、5’末端よりAATTTGTTAT GGGTTCCCGG GAAATAATCAの遺伝子サンプルと相補的な配列を有し、5’−末端のリン酸基を介してチオール基を修飾した30塩基のオリゴデオキシヌクレオチド(タカラバイオ製)を使用した。
【0034】
該核酸プローブは、10mMのPBS(pH7.4のリン酸ナトリウム緩衝液)に溶解させ、金メッシュ電極固定用として100nMに調整した。また、比較検討用として、固相上に形成した電極への固定用として、1μMに調整したものも用意した。
【0035】
さらに、本実施例1においては、比較対象用核酸プローブとして、遺伝子サンプルと非相補的な配列を有する捕捉核酸プローブを使用して、前記捕捉核酸プローブと同様の処理を行った。なお、ここでは、非相補的な捕捉プローブとして、30merのPoly−A、AAAAAAAAAA AAAAAAAAAA AAAAAAAAAAの配列を有する5’−末端のリン酸基を介してチオール基を修飾したプローブを使用した。
【0036】
この調整した核酸プローブの溶液を固相上に形成した電極に5μL滴下し、また前記メッシュ電極はマイクロチューブに50μL添加した核酸プローブ溶液中に浸して、飽和湿潤下、室温で4時間放置することで、チオール基と金とを結合させて、核酸プローブを金電極に固定した。
【0037】
なお、非相補的な核酸プローブの固定化についても、上記と同様の処理をそれぞれの電極で行った。
(3)ハイブリダイゼーション
メッシュ電極は、マイクロチューブに前記核酸プローブを固定したメッシュ電極を入れ、2×SSCで100nMに調製した検体を100μL添加し、このサンプルをハイブリダイゼーションインキュベーター(タイテック社製)を用い1時間65℃で揺動を行いながらハイブリさせた後、2×SSCで洗浄した。
【0038】
ここで、本実施例においては、比較サンプルとして、平板状に形成した電極上へのハイブリダイゼーションも行った。前記遺伝子サンプルを、10mMのPBS、及び2XSSCを混合したハイブリダイゼーション溶液に溶解させ、1μMに調整した。
【0039】
この調整した、遺伝子サンプルが溶解したハイブリダイゼーション溶液を、前記核酸プローブを固定した金電極上に10μL滴下し、65℃の恒温槽内で1時間反応させ、二本鎖核酸を形成させた。これにより、二本鎖核酸が形成された金電極を得た。
【0040】
さらに、平板状に形成した電極の比較対象として、二本鎖核酸が形成されていない金電極を作成した。
【0041】
なお、非相補的な核酸プローブを固定したそれぞれの電極についても、上記と同様の処理を行い、二本鎖核酸が形成されていない電極を得た。
(4)標識剤の添加
標識剤には、下記の(化1)に示すソラレン修飾ルテニウム錯体を使用した。
【0042】
【化1】

ソラレン修飾ルテニウム錯体の合成は、以下の手順により得ることができる。
【0043】
まず、公知の方法(Biochemistry,vol.16,No6,1977)により合成した4’−クロロメチル−4,5,8−トリメチルソラレン(0.5g、1.81mmol)を、水酸化ナトリウム溶解 ジメチルホルムアミド(乾燥)に溶かし、160℃で撹拌しながら1,4−ジアミノブタン(0.32g、3.63mmol)を滴下し12時間反応させた。溶媒を留去した後、粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー処理により精製し、生成物Aを得た(収率40%)。
【0044】
次に、THF60.0mLに溶解させた4,4’−ジメチル−2,2’ビピリジン2.50g(1.35×10-2mol)溶液を窒素雰囲気の容器に注入した後、リチウムジイソプロピルアミド2M溶液16.9mL(2.70×10-2mol)を滴下し、冷却しながら30分撹拌した。一方、同様に窒素気流中で乾燥させた容器に、1,2−ジブロモエタン7.61g(4.05×10-2mol)とTHF10mLとを加え、冷却しながら撹拌させた。
【0045】
この1,2−ジブロモエタンとTHFとが挿入された容器に、先程の、THFに溶解させた4,4’−ジメチル−2,2’ビピリジン溶液とリチウムジイソプロピルアミド2M溶液とを反応させた反応液をゆっくり滴下させ、2.5時間反応させた。そして、この反応溶液を、2Nの塩酸で中和して、THFを留去した後、クロロホルムで抽出し、さらに、前記溶媒を留去して得た粗生成物をシリカゲルカラムで精製し、生成物Bを得た(収率47%)。
【0046】
そして、前記生成物A(0.50g、1.52mmol)と前記生成物B(0.49g、1.68mmol)とを、水酸化ナトリウム溶解ジメチルホルムアミド(乾燥)に溶かし、160℃で18時間撹拌させた。そして、この攪拌した溶媒を留去した後、粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー処理により精製し、生成物Cを得た(収率38%)。
【0047】
さらに、塩化ルテニウム(III)(2.98g、0.01mol)、及び2,2’−ビピリジン(3.44g、0.022mol)をジメチルホルムアミド(80.0mL)中で6時間還流した後、溶媒を留去した。その後、アセトンを加え、一晩冷却することで得られた黒色沈殿物を採取し、エタノール水溶液170mL(エタノール:水=1:1)を加え、1時間加熱還流を行った。ろ過後、塩化リチウムを20g加え、エタノールを留去し、さらに一晩冷却した。析出した黒色物質は、吸引ろ過で採取し、生成物Dを得た(収率68.2%)。
【0048】
そして、前記生成物C(0.30g、0.56mmol)と前記生成物D(0.32g、0.66mmol)とを、ジメチルホルムアミドに溶かして6時間還流し、反応後、溶媒を留去させて得た黒紫色の物質に蒸留水を加えて溶解させ、未反応錯体をろ過により除去した後、溶媒を留去した。
【0049】
得られた粗生成物は、シリカゲルクロマトグラフィー処理により精製し、ソラレン修飾ルテニウム錯体を得た(収率68%)。下表は、前述のようにして得たソラレン修飾ルテニウム錯体の1H-NMR結果である。
【0050】
1H-NMR(300MHz、DMSOd−6)
σ:
1.4〜1.8 (6H,m)
2.4〜2.6 (12H,m)
2.74 (2H,t)
3.8〜3.1 (6H,m)
4.31 (2H,s)
6.32 (1H,s)
7.38 (2H,d)
7.54 (7H,m)
7.77 (4H,m)
8.16 (4H,t)
8.70 (2H,d)
8.88 (4H,d)
このようにして得られたソラレン修飾ルテニウム錯体を、0.1MのPBSで200nMに調整した標識剤溶液50μLでメッシュ電極を浸し、30分間4℃の冷蔵庫内で暗反応を行った。
【0051】
さらに、平板状に形成した電極を比較対象として、10mMのPBSで2μMに調整した標識剤溶液5μLを作製し、二本鎖核酸が形成された金電極x、及び二本鎖核酸が形成されていない金電極yにそれぞれ添加し、30分間4℃の冷蔵庫内で暗反応を行った。
(5)二本鎖核酸と挿入剤との共有結合
30分後、UVクロスリンカー(フナコシ製UVPCL1000L型)を用いて波長365nm、5mW/cm2の紫外線を10分間照射し、ソラレンと二本鎖核酸とを共有結合させた。
【0052】
共有結合後、金電極を10mMのPBSで10分間揺動洗浄し、未反応のRu錯体を取り除いた。
(6)電気化学測定
以上の工程の後、二本鎖核酸が形成されたメッシュ電極Xα及び二本鎖核酸が形成されていないメッシュ電極Yβ、また平板状に形成した電極ついてもそれぞれ二本鎖核酸が形成されたxα、二本鎖核酸が形成されていないyβのそれぞれに、0.1MのPBS、及び0.1Mのトリエチルアミンを混合した電解液を滴下した。
【0053】
その後、それぞれの電極Xα、Yβ、xα、yβに電圧を印加し、この時に生じた挿入剤由来の電気化学発光の測定を行った。
【0054】
なお、電圧の印加は、0Vから1.3Vまで走査し、1秒間電気化学測定を行った。電気化学発光量の測定は、光電子増倍管(浜松ホトニクス製H7360−01)を用いて行い、電圧走査中における最大発光量を測定した。
【0055】
図2は、本実施例における、二本鎖核酸が形成されたそれぞれの電極Xα、xα、及び二本鎖核酸が形成されていないそれぞれの電極Yβ、yβにおいて検出された最大電気化学発光量を示したものである。
【0056】
図2から、二本鎖核酸が形成されたメッシュ電極Xαでの発光量は、従来電極xαに比べ明らかに高くなっており、本実施例のメッシュ電極を用いれば、高感度に二本鎖核酸の検出が可能であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明にかかる遺伝子検出方法は、特定の配列を有する遺伝子を高感度に検出することができ、遺伝子診断、感染症診断、ゲノム創薬等の用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施例1における電極構成図
【図2】本発明の実施例1における最大電気化学発光量の測定図
【符号の説明】
【0059】
1 作用極
2 対極
3 参照極
4 メッシュ電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の配列を有する遺伝子を検出する遺伝子検出方法であって、
前記検出すべき遺伝子を一本鎖に変性して遺伝子サンプルを作製する遺伝子サンプル作製工程と、
前記検出すべき遺伝子配列に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の核酸プローブを作製する核酸プローブ作製工程と、
前記核酸プローブを固相の一部に固定化する固定化工程と、
前記固相に固定化された核酸プローブと、前記遺伝子サンプルとをハイブリダイズさせて二本鎖核酸を形成する二本鎖核酸形成工程と、
前記二本鎖核酸形成工程にて得た、二本鎖核酸が形成された遺伝子サンプルに、電気化学的に活性である標識剤を添加し、該二本鎖核酸に標識させる標識化工程と、
前記反応工程にて二本鎖核酸が形成された遺伝子サンプルに標識された標識剤の電気化学的な反応を検出する検出工程と、を含み、
前記核酸プローブを固定化し電気化学的な反応を行わせる前記固相の一部が固相から脱着可能であり、且つメッシュ構造の電極である、
ことを特徴とする遺伝子検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の遺伝子検出方法において、
前記二本鎖核酸形成工程および/または前記標識化工程は、前記メッシュ構造の電極を前記固相から取り外して行う工程である、
ことを特徴とする遺伝子検出方法。
【請求項3】
請求項2に記載の遺伝子検出方法において、
前記二本鎖核酸形成工程および/または前記標識化工程は、揺動による攪拌工程を含む、
ことを特徴とする遺伝子検出方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−136237(P2009−136237A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318156(P2007−318156)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】