説明

遺伝子検出方法

【課題】プローブおよび磁性微粒子への標識剤の結合を防止し、バックグラウンドノイズの低い遺伝子検出方法を提供する。
【解決手段】検体試料中の遺伝子を一本鎖に変性して遺伝子サンプルを作製する工程と、ハロゲン化合物を添加し遺伝子サンプルの塩基にハロゲン化合物を付加する工程と、電気化学活性物質を添加し求核置換反応によりハロゲン化遺伝子サンプルに電気化学活性物質を結合させる工程と、未反応のハロゲン化合物を失活させる工程と、検出すべき遺伝子配列に対して相補的な一本鎖の捕捉プローブを作製し、該捕捉プローブを磁性微粒子に固定化する工程と、電気化学活性物質結合遺伝子サンプルと磁性微粒子に固定された捕捉プローブをハイブリダイズさせる工程と、磁性微粒子に捕捉された遺伝子サンプルに結合した電気化学活性物質を電気化学的な測定により検出する工程とを含む遺伝子検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に存在する特定の遺伝子配列を、高感度に検出するための遺伝子検出方法に関する。より詳細には、ハロゲン化合物を用いて電気化学活性物質を結合させた遺伝子サンプルからの電気化学的な信号を高感度に検出するための遺伝子検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
痰、血液、糞便、精液、唾液、培養細胞、組織細胞のような生化学的試料中に含まれるある特定の配列を有する遺伝子を検出する手法として、核酸のハイブリダイゼーション反応を利用して、特定の核酸に標識剤を結合させ、標識剤の有無により検出を行う手法が、多数提案されている。
【0003】
これらで使用される標識剤としては、放射性同位元素や蛍光色素、電気化学活性物質などが挙げられるが、特に、電気化学活性物質は、電気的に可逆な酸化還元反応時に電流や発光を示すものであり、放射性同位元素のような危険性もなく、また蛍光色素のような励起光の必要性もなく、簡便に検出可能な標識剤として有用である。
【0004】
このような電気化学活性物質を標識剤に用いた手法として、磁性微粒子を用いた手法がある。この手法は、検出すべき遺伝子配列を含む遺伝子サンプルと、遺伝子配列に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の核酸プローブを固定した磁性微粒子と、遺伝子配列に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の核酸プローブが標識剤に結合した標識プローブとを混合しハイブリダイズさせることで、遺伝子サンプルを介して磁性微粒子に標識剤が結合した複合体を形成させる。そして、この複合体を磁力で収集し、洗浄することで、未反応の試料および標識剤を除去するB/F(Bound/Free)分離を行う。その後、複合体を電極上に滴下し、磁力で電極表面に複合体を収集する。そして、電極に電圧を印加し、複合体に結合している標識剤からの電流や発光といった電気化学的な信号を測定することで、検出すべき遺伝子の存在を検出するものである(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)。
【0005】
しかし、上述のような標識プローブを用いる手法では、1つの遺伝子サンプルにつき、1つの標識プローブがハイブリダイズするだけである。そこで、遺伝子サンプルに複数の標識剤を結合させることで、電気化学的な信号を増強させる手法も提案されている。この手法は、遺伝子サンプルにハロゲン化合物を添加して、遺伝子サンプル中の塩基にハロゲン基を付加した後、標識剤を添加して、標識剤中の官能基と遺伝子サンプル中の塩基に結合したハロゲンとの求核置換反応により、標識剤を遺伝子サンプルに結合させる。その後、遺伝子配列に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の核酸プローブを固定した磁性微粒子を添加しハイブリダイズさせることで、遺伝子サンプルを介して磁性微粒子に標識剤が結合した複合体を形成させる。その後、B/F分離を行い、未反応の試料およびハロゲン化合物、標識剤を除去する。そして、上述の手法と同様に、複合体を電極上に滴下し磁力で収集後、電極に電圧を印加し、複合体に結合している標識剤からの電気化学的な信号を検出するものである(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特表平6−509412号公報
【特許文献2】特開平11−125601号公報
【特許文献3】特開2007−304091号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の構成では、遺伝子サンプルにハイブリダイズさせるためのプローブやB/F分離を行うための磁性微粒子にも、未反応のハロゲン化合物が反応し、標識剤が結合してしまう。そのため、遺伝子サンプルの有無に関わらず、これらに結合した標識剤から電気化学的な信号が生じ、この信号がバックグラウンドノイズを高くしてしまうという課題を有していた。
【0007】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、プローブおよび磁性微粒子への標識剤の結合を防止し、バックグラウンドノイズの低い遺伝子検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記従来の課題を解決するために、本発明の遺伝子検出方法は、前記検体試料中の遺伝子を一本鎖に変性して遺伝子サンプルを作製する遺伝子サンプル作製工程と、前記遺伝子サンプルにハロゲン化合物を添加し、前記遺伝子サンプルの塩基にハロゲン化合物を付加するハロゲン化遺伝子サンプル作製工程と、前記ハロゲン化遺伝子サンプルに電気化学活性物質を添加し、求核置換反応により前記ハロゲン化遺伝子サンプルに前記電気化学活性物質を結合させる電気化学活性物質結合遺伝子サンプル作製工程と、未反応のハロゲン化合物を失活させるハロゲン化合物失活工程と、検出すべき遺伝子配列に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の捕捉プローブを作製し、該捕捉プローブを磁性微粒子に固定化する捕捉プローブ固定化工程と、前記電気化学活性物質結合遺伝子サンプルと、前記磁性微粒子に固定された捕捉プローブをハイブリダイズさせ、前記電気化学活性物質結合遺伝子サンプルを前記磁性微粒子に捕捉する遺伝子サンプル捕捉工程と、前記磁性微粒子に捕捉された遺伝子サンプルに結合した前記電気化学活性物質を、電気化学的な測定により検出する検出工程と、を含むことを特徴としたものである。
【0009】
また、本発明の遺伝子検出方法は、前記検体試料中の遺伝子を一本鎖に変性して遺伝子サンプルを作製する遺伝子サンプル作製工程と、前記遺伝子サンプルにハロゲン化合物を添加し、前記遺伝子サンプルの塩基にハロゲン化合物を付加するハロゲン化遺伝子サンプル作製工程と、前記ハロゲン化遺伝子サンプルに電気化学活性物質を添加し、求核置換反応により前記ハロゲン化遺伝子サンプルに前記電気化学活性物質を結合させる電気化学活性物質結合遺伝子サンプル作製工程と、未反応のハロゲン化合物を失活させるハロゲン化合物失活工程と、前記電気化学活性物質結合遺伝子サンプルと、検出すべき遺伝子配列に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の捕捉プローブをハイブリダイズさせる二本鎖核酸形成工程と、前記二本鎖核酸を形成した捕捉プローブを磁性微粒子に固定化する捕捉プローブ固定化工程と、前記磁性微粒子に捕捉された遺伝子サンプルに結合した前記電気化学活性物質を、電気化学的な測定により検出する検出工程と、を含むことを特徴としたものである。
【0010】
また、本発明の遺伝子検出方法は、前記検体試料中の遺伝子を一本鎖に変性して遺伝子サンプルを作製する遺伝子サンプル作製工程と、前記遺伝子サンプルにハロゲン化合物を添加し、前記遺伝子サンプルの塩基にハロゲン化合物を付加するハロゲン化遺伝子サンプル作製工程と、前記ハロゲン化遺伝子サンプルに電気化学活性物質と結合する部位を有するリンカーを添加し、求核置換反応により前記ハロゲン化遺伝子サンプルに前記リンカーを結合させるリンカー結合遺伝子サンプル作製工程と、未反応のハロゲン化合物を失活させるハロゲン化合物失活工程と、検出すべき遺伝子配列に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の捕捉プローブを作製し、該捕捉プローブを磁性微粒子に固定化する捕捉プローブ固定化工程と、前記リンカー結合遺伝子サンプルと、前記磁性微粒子に固定された捕捉プローブをハイブリダイズさせ、前記リンカー結合遺伝子サンプルを前記磁性微粒子に捕捉する遺伝子サンプル捕捉工程と、前記磁性微粒子に捕捉されたリンカー結合遺伝子サンプルに電気化学活性物質を添加し、前記リンカーに前記電気化学活性物質を結合させる電気化学活性物質結合工程と、前記磁性微粒子に捕捉された遺伝子サンプルに結合した前記電気化学活性物質を、電気化学的な測定により検出する検出工程と、を含むことを特徴としたものである。
【0011】
また、本発明の遺伝子検出方法は、前記検体試料中の遺伝子を一本鎖に変性して遺伝子サンプルを作製する遺伝子サンプル作製工程と、前記遺伝子サンプルにハロゲン化合物を添加し、前記遺伝子サンプルの塩基にハロゲン化合物を付加するハロゲン化遺伝子サンプル作製工程と、前記ハロゲン化遺伝子サンプルに電気化学活性物質と結合する部位を有するリンカーを添加し、求核置換反応により前記ハロゲン化遺伝子サンプルに前記リンカーを結合させるリンカー結合遺伝子サンプル作製工程と、未反応のハロゲン化合物を失活させるハロゲン化合物失活工程と、前記リンカー結合遺伝子サンプルと、検出すべき遺伝子配列に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の捕捉プローブをハイブリダイズさせる二本鎖核酸形成工程と、前記二本鎖核酸を形成した捕捉プローブを磁性微粒子に固定化する捕捉プローブ固定化工程と、前記磁性微粒子に捕捉されたリンカー結合遺伝子サンプルに電気化学活性物質を添加し、前記リンカーに前記電気化学活性物質を結合させる電気化学活性物質結合工程と、前記磁性微粒子に捕捉された遺伝子サンプルに結合した前記電気化学活性物質を、電気化学的な測定により検出する検出工程と、を含むことを特徴としたものである。
【0012】
また、本発明の遺伝子検出方法は、前記検体試料中の遺伝子を一本鎖に変性して遺伝子サンプルを作製する遺伝子サンプル作製工程と、前記遺伝子サンプルにハロゲン化合物を添加し、前記遺伝子サンプルの塩基にハロゲン化合物を付加するハロゲン化遺伝子サンプル作製工程と、前記ハロゲン化遺伝子サンプルに電気化学活性物質と結合する部位を有するリンカーを添加し、求核置換反応により前記ハロゲン化遺伝子サンプルに前記リンカーを結合させるリンカー結合遺伝子サンプル作製工程と、未反応のハロゲン化合物を失活させるハロゲン化合物失活工程と、前記リンカー結合遺伝子サンプルと、検出すべき遺伝子配列に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の捕捉プローブをハイブリダイズさせる二本鎖核酸形成工程と、前記二本鎖核酸に電気化学活性物質を添加し、前記リンカーに前記電気化学活性物質を結合させる電気化学活性物質結合工程と、前記二本鎖核酸を形成した捕捉プローブを磁性微粒子に固定化する捕捉プローブ固定化工程と、前記磁性微粒子に捕捉された遺伝子サンプルに結合した前記電気化学活性物質を電気化学的な測定により検出する検出工程と、を含むことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の遺伝子検出方法によれば、ハロゲン化遺伝子サンプルに電気化学活性物質もしくはリンカーを結合させた後に、未反応のハロゲン化合物を失活させることにより、プローブおよび磁性微粒子表面のハロゲン化を防止することで、プローブおよび磁性微粒子への電気化学活性物質もしくはリンカーの結合を防止することができるため、バックグラウンドノイズの低い高感度な検出が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の遺伝子検出方法の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
(実施の形態1)
以下、本発明の遺伝子検出方法の具体的な実施の形態を説明する。図1に本発明の実施の形態1における検出方法の概略図を示す。
【0015】
(1)遺伝子サンプル
まず、図1(a)に示す生化学的試料から遺伝子サンプル1を抽出する。痰、血液、糞便、精液、唾液、培養細胞、組織細胞、その他遺伝子を有する生化学的試料から超音波、振とうなどの物理手段、核酸抽出溶液を用いる化学的手段を用いて必要試料を抽出する。試料中の細胞の破壊は、常法により行うことができ、例えば、振とう、超音波等の物理的作用を外部から加えて行うことができる。また、界面活性剤等を含む核酸抽出溶液を用いて、細胞から核酸を遊離させることもできる。
【0016】
抽出された長鎖の二本鎖核酸は制限酵素、あるいは超音波などの物理的手段によって任意の長さに切断される。切断された二本鎖核酸は熱処理、あるいはアルカリ変性により一本鎖核酸に分離される。これらの工程により遺伝子サンプル1を得る。遺伝子サンプルは、電気泳動による分離等で精製した核酸断片でもよい。
【0017】
(2)ハロゲン化遺伝子サンプルの作製
次に、図1(b)に示すように、前工程で得た遺伝子サンプル溶液にハロゲン化合物2を添加して、遺伝子サンプル1の塩基にハロゲン基を付加し、ハロゲン化遺伝子サンプル3を作製する。
【0018】
ハロゲン化合物としては、遺伝子サンプルの塩基にハロゲンを付加できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、クロロスクシンイミド、ブロモスクシンイミド、ヨードスクシンイミドなど挙げることができる。このハロゲン化合物の溶液を遺伝子サンプル溶液に添加後、氷冷状態で撹拌若しくは静置させることにより、遺伝子サンプルの塩基にハロゲン基を結合させることができる。
【0019】
(3)電気化学活性物質結合遺伝子サンプルの作製
次に、図1(c)に示すように、前工程で得たハロゲン化遺伝子サンプル溶液に電気化学活性物質4を添加することにより、ハロゲン化遺伝子サンプル3と電気化学活性物質4とを求核置換反応により共有結合させ、電気化学活性物質結合遺伝子サンプル5を作製する。
【0020】
電気化学活性物質4は、前述したハロゲン化遺伝子サンプルの塩基に結合したハロゲン基と求核置換反応する官能基をもち、下記(化1)で表されるものである。
【0021】
【化1】

【0022】
(但し、式中、Nuは、アミン類、アルコール類、エーテル類、チオール類、オキシド類から選ばれる官能基、Eは電気化学活性部位、Laは前記Nuと前記Eとを連結する連結部位である。)
ここで前述した(化1)中に示されるLaは、アルキル、アルコール、カルボン酸、スルホン酸、エステル、ケトン、チオール、エーテル、アミン、ニトロ、ニトリル、糖、リン酸、アミノ酸、メタクリル酸、アミド、イミド、イソプレン、ウレタン、ウロン酸、エチレン、カーボネート、ビニル、シクロアルカン、ヘテロ環式化合物から選ばれる物質、またはいずれかの組み合わせから構成されるものである。
【0023】
また、前述した(化1)中に示されるmは、4から50の整数であることが望ましい。これは、mが4以下では電気化学活性物質と遺伝子サンプルとの間隔が狭くなるため、二本鎖を組むことが難しくなり、また、mが50以上では電気化学活性物質自身が立体障害となるばかりか、一本鎖サンプルの塩基に結合したハロゲン基との求核置換反応が難しくなるからである。
【0024】
また、電気化学活性部位であるEは、電気化学的に検出可能な物質であれば、特に制限されずに用いられ、例えば、可逆な酸化還元反応時に生じる酸化還元電流を測定することで物質の検出が可能な、酸化還元性を有する化合物を挙げることができる。
【0025】
そして、このような酸化還元性を有する化合物としては、例えば、フェロセン、カテコールアミン、配位子に複素環系化合物を有する金属錯体、ルブレン、アントラセン、コロネン、ピレン、フルオランテン、クリセン、フェナントレン、ペリレン、ビナフチル、オクタテトラエンもしくはビオローゲン等がある。
【0026】
さらに、前述の配位子に複素環系化合物を有する金属錯体、ルブレン、アントラセン、コロネン、ピレン、フルオランテン、クリセン、フェナントレン、ペリレン、ビナフチル、オクタテトラエンには、酸化還元反応時に電気化学発光を生じるものもあり、その発光を測定することで検出を行うこともできる。
【0027】
さらに、前述の配位子に複素環系化合物を有する金属錯体としては、酸素や窒素等を含む複素環系化合物、例えば、ピリジン部位、ピラン部位等を配位子に有する金属錯体があり、特にピリジン部位を配位子に有する金属錯体が好ましい。
【0028】
さらに、前述のピリジン部位を配位子に有する金属錯体としては、例えば、金属ビピリジン錯体、金属フェナントロリン錯体等がある。
【0029】
さらに、前記配位子に複素環系化合物を有する金属錯体において、中心金属としては、例えば、ルテニウム、オスニウム、亜鉛、コバルト、白金、クロム、モリブデン、タングステン、テクネチウム、レニウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、銅、インジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム等を挙げることができる。
【0030】
そして特に、中心金属がルテニウム、オスニウムである錯体は良好な電気化学発光特性を有し、このような良好な電気化学発光特性を有する物質としては、例えば、ルテニウムビピリジン錯体、ルテニウムフェナントロリン錯体、オスニウムビピリジン錯体、オスニウムフェナントロリン錯体等を挙げることができる。
【0031】
また、前述した(化1)中に示されるNuは、ハロゲン基と求核置換反応する官能基であり、アミン類、アルコール類、エーテル類、チオール類、オキシド類から選ばれる。
【0032】
このような電気化学活性物質の溶液を、前記ハロゲン化遺伝子サンプル溶液に加えて、任意の温度で撹拌若しくは静置させることにより、求核置換反応が生じて電気化学活性物質結合遺伝子サンプルを生成することができる。
【0033】
(4)ハロゲン化合物の失活
次に、図1(d)に示すように、前工程で得た電気化学活性物質結合遺伝子サンプル溶液中に含まれる未反応のハロゲン化合物を失活させる処理を行い、失活したハロゲン化合物6を生成させる。失活処理としては、例えば、加熱処理、失活物質添加処理が挙げられる。
【0034】
加熱処理は、電気化学活性物質結合遺伝子サンプル溶液を加熱し、ハロゲン化合物を分解させることで、ハロゲン化合物の反応性を除去する処理である。加熱温度は高いほど効果はあるが、遺伝子サンプルの取り扱いは水溶液中で行うため、100℃が限界である。また、処理時間については、長時間であるほど効果はあるが、95℃であれば10〜30分でよい。
【0035】
また、失活物質添加処理は、ハロゲン化合物が結合可能な物質を添加し、これに未反応のハロゲン化合物を結合させることで、未反応のハロゲン化合物を減少させる処理である。ハロゲン化合物が結合可能な物質としては、例えば、アデニン、シトシン、チミン、グアニンのような塩基、アリルアルコールのようなアリル化合物、酢酸のようなカルボニル化合物が挙げられる。処理条件は使用する物質により異なるが、例えば、塩基の場合では前述のハロゲン化遺伝子サンプルの作製と同様の条件で行うことが可能である。
【0036】
以上のような失活処理により、未反応のハロゲン化合物の反応性を失わせることができ、後述の工程で使用する捕捉プローブや磁性微粒子表面のハロゲン化を防止することが可能となる。
【0037】
(5)捕捉プローブの磁性微粒子への固定化
ここで、図1(e)に示すように、捕捉プローブ7が固定化された磁性微粒子9を準備する。捕捉プローブ7は、検出すべき遺伝子配列に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の核酸であり、末端にビオチン8が修飾されたものである。このような捕捉プローブを、アビジン10でコーティングした磁性微粒子と反応させ、アビジンービオチン結合により捕捉プローブが固定化された磁性微粒子を得ることができる。この手法は周知であるため、詳細は省略する。
【0038】
なお、磁性微粒子にコーティングされたアビジンは、蛋白質であり、多種のアミノ酸が複数結合して構成される高分子化合物である。このアミノ酸の中には、ヒスチジンやフェニルアラニン、トリプトファン、チロシンのように、その構造中に芳香族を有するものがある。ハロゲン化合物はこれら芳香族にも作用するため、磁性微粒子にコーティングされたアビジンは、ハロゲン化合物が反応可能な部位を多数有している。
【0039】
(6)遺伝子サンプルの磁性微粒子への捕捉
次に、図1(f)に示すように、前工程で得た捕捉プローブが固定化された磁性微粒子に、ハロゲン化合物の失活処理を行った後の電気化学活性物質結合遺伝子サンプル溶液を添加する。これにより、前記捕捉プローブと、該捕捉プローブと相補的な配列を有する遺伝子サンプルとがハイブリダイズし、電気化学活性物質結合遺伝子サンプルが捕捉された磁性微粒子11が形成される。
【0040】
その後、図1(g)に示すように、磁石により磁性微粒子を収集した後に、リン酸バッファーなどで洗浄を行い、失活したハロゲン化合物、未反応の電気化学活性物質を除去することでB/F分離を行い、電気化学活性物質結合遺伝子サンプルが捕捉された磁性微粒子11のみを得る。
【0041】
ここで、遺伝子サンプルに結合していない未反応ハロゲン化合物は、失活処理により、その反応性は失われている。そのため、上述のハイブリダイゼーション反応を行う間に、捕捉プローブや磁性微粒子にコーティングされたアビジンをハロゲン化することはない。この結果、未反応の電気化学活性物質が反応する部位がなくなり、電気化学活性物質がこれらに結合することを防止でき、後述の電気化学測定時にバックグラウンドノイズを低くすることが可能となる。
【0042】
しかし、失活処理を行っていない場合は、このハイブリダイゼーション反応を行う間に、未反応のハロゲン化合物が捕捉プローブや磁性微粒子にコーティングされたアビジンと反応し、ハロゲン化が生じる。この結果、これらに未反応の電気化学活性物質が結合し、これが後述の電気化学測定時にバックグラウンドノイズを高くする要因となる。
【0043】
(7)電気化学測定
次に、前工程で得た前記電気化学活性物質結合遺伝子サンプルが捕捉された磁性微粒子11を電極上に滴下後、電極に電圧を印加し、遺伝子サンプルに結合した電気化学活性物質由来の電気化学的な信号を測定することで、遺伝子サンプルの存在を検出する。
【0044】
前記電気化学活性物質由来の電気化学的な信号は、種類により異なるが、酸化還元電流を生じる電気化学活性物質を用いた場合には、ポテンショスタット、ファンクションジェネレータ等からなる計測系で測定できる。一方、電気化学発光を生じる電気化学活性物質を用いた場合には、フォトマルチプライヤー等を用いて計測が可能である。
【0045】
なお、本実施の形態では、捕捉プローブを磁性微粒子に固定してから電気化学活性物質結合遺伝子サンプルとハイブリダイズさせたが、電気化学活性物質結合遺伝子サンプルとハイブリダイズさせた後、捕捉プローブを磁性微粒子に固定させても良い。
(実施の形態2)
前記実施の形態1では、ハロゲン化合物を付加させた一本鎖の遺伝子サンプルに電気化学活性物質を直接添加させて結合させたが、ハロゲン化合物を付加させた一本鎖の遺伝子サンプルと電気化学活性物質との結合は、リンカーを介して行っても良い。以下、そのようにした本実施の形態2について説明する。
【0046】
図2に本発明の実施の形態2における検出方法の概略図を示す。
【0047】
(1)遺伝子サンプル
まず、図2(a)に示す生化学的試料から遺伝子サンプル1を抽出する。この工程については、実施の形態1で詳述したので、ここでは説明を省略する。
【0048】
(2)ハロゲン化遺伝子サンプルの作製
次に、図2(b)に示すように、前工程で得た遺伝子サンプル溶液にハロゲン化合物2を添加して、遺伝子サンプル1の塩基にハロゲン基を付加し、ハロゲン化遺伝子サンプル3を作製する。この工程も、実施の形態1で詳述したので、ここでは説明を省略する。
【0049】
(3)リンカー結合遺伝子サンプルの作製
次に、図2(c)に示すように、前工程で得たハロゲン化遺伝子サンプル溶液にリンカー12を添加することにより、ハロゲン化遺伝子サンプル3とリンカー12とを求核置換反応により共有結合させ、リンカー結合遺伝子サンプル13を作製する。
【0050】
このリンカーは、前述した遺伝子サンプルの塩基に結合したハロゲン基と求核置換反応する官能基をもち、下記(化2)で表されるものである。
【0051】
【化2】

【0052】
(但し、式中、Nuは、アミン類、アルコール類、エーテル類、チオール類、オキシド
類から選ばれる官能基、Saは電気化学的に活性である物質と化学結合する部位、Lbは前記Nuと前記Saとを連結する連結部位である。)
ここで前述した(化2)中に示されるLbは、アルキル、アルコール、カルボン酸、スルホン酸、エステル、ケトン、チオール、エーテル、アミン、ニトロ、ニトリル、糖、リン酸、アミノ酸、メタクリル酸、アミド、イミド、イソプレン、ウレタン、ウロン酸、エチレン、カーボネート、ビニル、シクロアルカン、ヘテロ環式化合物から選ばれる物質、またはそれらのいずれかの組み合わせにより構成されるものである。
【0053】
また、Saは、後述する電気化学活性物質が有するSbと、アミド結合、エステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、スルフィド結合、カルボニル結合、イミノ結合、抗体− 抗原結合のいずれかの化学結合によって結合できる官能基を有する。このことにより、リンカーと電気化学活性物質とを結合力の強い化学結合によって結合させることができる。
【0054】
また、前述した(化2)中に示されるnは、1から50の整数であることが望ましい。これは、nが50以上では電気化学活性物質自身が立体障害となるばかりか、遺伝子サンプルの塩基に結合したハロゲン基との求核置換反応が難しくなるからである。
【0055】
また、前述した(化2)中に示されるNuは、実施の形態1で詳述したものと同様のものであり、ここでは説明を省略する。
【0056】
(4)ハロゲン化合物の失活
次に、図2(d)に示すように、前工程で得たリンカー結合遺伝子サンプル溶液中に含まれる未反応のハロゲン化合物を失活させる処理を行い、失活したハロゲン化合物6を生成させる。この工程も、実施の形態1で詳述したので、ここでは説明を省略する。
【0057】
(5)二本鎖核酸の形成
次に、図2(e)に示すように、前工程で得たハロゲン化合物の失活処理を行った後のリンカー結合遺伝子サンプル溶液中に、捕捉プローブ7を添加する。これにより、前記捕捉プローブと、リンカー結合遺伝子サンプル13とがハイブリダイズし、二本鎖核酸14が形成される。なお、捕捉プローブ7は、実施の形態1と同様に、検出すべき遺伝子配列に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の核酸であり、末端にビオチン8が修飾されたものである。
【0058】
(6)捕捉プローブの磁性微粒子への固定化
次に、図2(f)に示すように、前工程で得た二本鎖核酸溶液にアビジン10でコーティングした磁性微粒子9を添加し、二本鎖核酸14中の捕捉プローブ7と磁性微粒子9とを反応させ、二本鎖核酸14が固定化された磁性微粒子15を得る。
【0059】
この工程も、実施の形態1と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0060】
(7)電気化学活性物質結合遺伝子サンプルの作製
次に、図2(g)に示すように、捕捉プローブを介して磁性微粒子に固定化されたリンカー結合遺伝子サンプル溶液に電気化学活性物質4を添加し、リンカーと電気化学活性物質を結合させることで、電気化学活性物質結合遺伝子サンプルが捕捉された磁性微粒子11を形成する。
【0061】
その後、磁石により磁性微粒子を収集した後に、リン酸バッファーなどで洗浄を行い、失活したハロゲン化合物、未反応のリンカー、未反応の電気化学活性物質を除去することでB/F分離を行い、電気化学活性物質結合遺伝子サンプルが捕捉された磁性微粒子11のみを得る。
【0062】
ここで使用される電気化学活性物質は、前述したリンカーと化学結合する官能基をもち、下記(化3)で表されるものである。
【0063】
【化3】

【0064】
(但し、式中、Eは電気化学活性部位、Sbは前記Saと化学結合する部位、Lcは前記Sbと前記Eとを連結する連結部位である。)
前述した(化3)中に示されるLcは、アルキル、アルコール、カルボン酸、スルホン酸、エステル、ケトン、チオール、エーテル、アミン、ニトロ、ニトリル、糖、リン酸、アミノ酸、メタクリル酸、アミド、イミド、イソプレン、ウレタン、ウロン酸、エチレン、カーボネート、ビニル、シクロアルカン、ヘテロ環式化合物から選ばれる物質、またはそれらのいずれかの組み合わせにより構成されるものである。
【0065】
また、Sbは、前述したリンカーが有するSaと、アミド結合、エステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、スルフィド結合、カルボニル結合、イミノ結合、抗体抗原結合のような化学結合によって結合できる官能基を有する。このことにより、リンカーと電気化学活性物質とを結合力の強い化学結合によって結合させることができる。
【0066】
また、前述した(化3)中に示されるoは、1から1000の整数であることが望ましい(但し、nが1の場合、oは3から1000の整数であり、nが2の場合、oは2から1000の整数である)。これは、oが1000以上では電気化学活性物質とリンカー結合遺伝子サンプルとの化学結合が立体障害により反応しにくくなるからである。また、nが1 のとき、oは3から1000の整数が望ましい。これは、oが2以下では、立体障害により、遺伝子サンプルと電気化学活性物質との反応が出来なくなるからである。また、前記nが2のとき、oは2から1000の整数が望ましい。これは、oが1では、立体障害により、遺伝子サンプルと電気化学活性物質との反応が出来なくなるからである。
【0067】
また、電気化学活性部位であるEは、実施の形態1で詳述したものと同様のものであり、ここでは説明を省略する。
【0068】
(8)電気化学測定
次に、前工程で得た前記電気化学活性物質結合遺伝子サンプルが捕捉された磁性微粒子11を電極上に滴下後、電極に電圧を印加し、遺伝子サンプルに結合した電気化学活性物質由来の電気化学的な信号を測定することで、遺伝子サンプルの存在を検出する。この工程も、実施の形態1で詳述したので、ここでは説明を省略する。
【0069】
なお、本実施の形態2では、捕捉プローブとリンカー結合遺伝子サンプルとをハイブリダイズさせた後に、磁性微粒子に固定化させたが、捕捉プローブを磁性微粒子に固定化させた後、リンカー結合遺伝子サンプルと捕捉プローブとをハイブリダイズさせても良い。
【0070】
また、本実施の形態2では、二本鎖核酸を磁性微粒子に固定化した後に、電気化学活性物質を添加したが、二本鎖核酸形成後に電気化学活性物質を添加しても良い。
【0071】
<実施例1>
以下、本実施の形態1の具体的な実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0072】
(1)遺伝子サンプル
まず、遺伝子サンプルとして、ヒト由来Cytochrome P−450の遺伝子配列の5’−末端より599−698番目に位置するAATTGAATGA AAACATCAGG ATTGTAAGCA CCCCCTGGAT CCAGATATGC AATAATTTTC CCACTATCAT TGATTATTTC CCGGGAACCC ATAACAAATT(配列番号1)の配列を有する100塩基のオリゴデオキシヌクレオチドを準備した。
【0073】
(2)ハロゲン化遺伝子サンプルの作製
10nMに調製した上述の遺伝子サンプルを10μL採取し、そこにハロゲン化合物として、100μMに調製したN−ブロモスクシンイミドを10μL添加して、4℃で3時間反応させることで、ハロゲン化遺伝子サンプルを作製した。
【0074】
(3)電気化学活性物質結合遺伝子サンプルの作製
前工程で得たハロゲン化遺伝子サンプル溶液に、電気化学活性物質として100μMに調製した下記(化4)を10μL添加し、4℃で12時間反応させることで、電気化学活性物質結合遺伝子サンプルの作製を行った。
【0075】
【化4】

【0076】
(4)ハロゲン化合物の失活
前工程で得た電気化学活性物質結合遺伝子サンプル溶液に対し、95℃で10分間加熱処理を行い、溶液中に含まれる未反応のハロゲン化合物を失活させた。
【0077】
さらに、本実施例1においては、比較対象として、従来の手法にあたる加熱処理を行わない電気化学活性物質結合遺伝子サンプル溶液についても準備した。
【0078】
(5)捕捉プローブの磁性微粒子への固定化
磁気微粒子は、Bangs Laboratories社製のCM01N/5896ストレプトアビジン磁気ビーズを用いた(粒径0.35μm)。なお、捕捉プローブには5’末端よりAATTTGTTAT GGGTTCCCGG GAAATAATCA(配列番号2)の遺伝子サンプルと相補的な配列を有し、5’末端のリン酸基を介してビオチンを修飾したものを使用した。
【0079】
まず、磁気ビーズを1mg採取し、TTLバッファー(500mM Tris−HCl(pH8.0):Tween20:2M塩化リチウム:超純水=2:10:5:3の体積比になるよう調製)で洗浄後、20μLのTTLバッファーに置換した。その後、100μMの捕捉プローブを5μL添加し、室温で15分穏やかに振とうした。
【0080】
溶液をデカントし、残留した磁気ビーズを0.15Mの水酸化ナトリウム水溶液で洗浄後、TTバッファー(500mM Tris−HCl(pH8.0):Tween20:超純水=1:2:1の体積比になるよう調製)で洗浄した。
【0081】
洗浄後、TTEバッファー(500mM Tris−HCl(pH8.0):Tween20:200mM Na2EDTA(pH8.0):超純水=5:10:1:4の体積比になるよう調製)に溶液を置換し、80℃で10分間インキュベートすることにより、不安定な結合を除去した。その後、溶液をデカントし、4XSSCを1mL加えて、捕捉プローブが固定化された磁気ビーズの溶液を得た。
【0082】
さらに、本実施例1においては、比較対象として、遺伝子サンプルと非相補的な配列を有する捕捉プローブを使用して、前記核酸プローブと同様の処理を行った。なお、ここでは、非相補的な捕捉プローブとして、30merのPoly−A、AAAAAAAAAA AAAAAAAAAA AAAAAAAAAA(配列番号3)の配列を有する5’末端のリン酸基を介してビオチンを修飾したプローブを使用した。
【0083】
(6)二本鎖核酸形成
前工程で得た捕捉プローブを固定した磁気ビーズの溶液を5μL採取し、そこにハロゲン化合物の失活処理を行った後の電気化学活性物質結合遺伝子サンプル溶液を30μL添加し、さらに4XSSCを25μL加えて、42℃で10時間ハイブリダイゼーション反応を行った。その後、磁石で磁気ビーズを収集後、溶液をデカントし、2XSSCで洗浄してB/F分離を行った。その後、0.1MのPBS(pH7.4のリン酸ナトリウム緩衝液)を10μL加え、二本鎖核酸が形成された磁気ビーズ溶液を得た。
【0084】
なお、非相補的な捕捉プローブを固定した磁気ビーズについても、上記と同様の処理を行い、二本鎖核酸が形成されていない磁気ビーズ溶液を得た。
【0085】
(7)電気化学測定
電気化学測定時に使用する電極として、金電極を準備した。金電極は、ガラス基板上にスパッタ装置SH−350(株式会社アルバック製)によりチタン10nm厚を下地に金200nm厚を形成し、フォトリソグラフィ工程により作用極、対極、参照極の電極パターンを形成したものである。
【0086】
この金電極の作用極上に、前述の磁気ビーズ溶液を2μLに滴下し、5分間静置させた。なお、金電極の下には永久磁石のシートを取り付け、作用極のみに磁気ビーズが集約するようにした。
【0087】
この電極に、電解液として、0.2mol/LのPBS(pH7.4のリン酸ナトリウム緩衝液)を500μL、0.2mol/Lのトリエチルアミンを500μL混合した溶液を80μL滴下した。その後、電極に電圧を印加し、このときに生じた電気化学発光量を測定し、遺伝子サンプルの検出を行った。
【0088】
なお、電圧の印加は、0Vから1.3Vまで1秒間で走査した後、4秒間1.3Vを保持することで行い、電気化学発光量の測定は、光電子増倍管(浜松ホトニクス製H7360−01)を用いて、電圧走査中における最大発光量を計測することで行った。
【0089】
また、遺伝子サンプルの検出は、前述のように測定した電気化学発光量からS/N比を算出し、S/N比が検出基準を満たす場合に、遺伝子サンプルが存在すると判定することで行った。ここで、シグナルに対応するものは、二本鎖核酸が形成された磁気ビーズからの電気化学発光量であり、ノイズに対応するものは、二本鎖核酸が形成されていない磁気ビーズからの電気化学発光量である。また、検出基準は、シグナルとノイズの有意差が認められる基準として、S/N比が2以上であることとした。
【0090】
図3に本発明の実施例1におけるS/N比を示す。図3において、従来の手法にあたる加熱処理なしの場合では、S/N比は1.3と低く、検出基準を満たしておらず、遺伝子サンプルの検出は不可能であった。しかし、本発明の手法にあたる加熱処理ありの場合では、S/N比は2.2と高く、検出基準を満たしており、遺伝子サンプルの検出が可能であった。
【0091】
ここで、電気化学活性物質が結合した遺伝子サンプルは同一のものを使用しており、シグナル成分は同一であることから、上記S/N比の差は、ノイズ成分の違いによるものである。そのため、加熱処理ありの場合の方がS/N比が高いという結果は、ハロゲン化合物を失活させる加熱処理によってバックグラウンドノイズが低くなったことを示すものである。
【0092】
以上の結果から、本発明の手法により、バックグラウンドノイズを低くすることができ、S/N比の高い高感度な検出が可能となることが分かる。
【0093】
<実施例2>
以下、本実施の形態2の具体的な実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0094】
(1)遺伝子サンプル
遺伝子サンプルは、前記実施例1と同様のものを使用した。
【0095】
(2)ハロゲン化遺伝子サンプルの作製
次に、ハロゲン化遺伝子サンプルを作製するが、この工程も前記実施例1と同様であるため、説明を省略する。
【0096】
(3)リンカー結合遺伝子サンプルの作製
次に、前工程で得たハロゲン化遺伝子サンプル溶液に、リンカーとして100μMに調製した下記(化5)を10μL添加し、4℃で12時間反応させることで、リンカー結合遺伝子サンプルの作製を行った。
【0097】
【化5】

【0098】
(4)ハロゲン化合物の失活
次に、前工程で得たリンカー結合遺伝子サンプル溶液に対し、ハロゲン化合物の失活物質として10mMの酢酸を10μL添加し、95℃で10分間反応させることで、溶液中に含まれる未反応のハロゲン化合物を失活させた。
【0099】
さらに、本実施例2においては、比較対象として、従来の手法にあたる酢酸処理を行わないリンカー結合遺伝子サンプル溶液についても準備した。
【0100】
(5)二本鎖核酸の形成
次に、前工程で得たハロゲン化合物の失活処理を行った後のリンカー結合遺伝子サンプル溶液中に、100nMの捕捉プローブを10μL添加し、さらに4XSSCを50μL加えて、42℃で10時間ハイブリダイゼーション反応を行い、二本鎖核酸を得た。捕捉プローブには、実施例1と同様のものを使用した。
【0101】
また、比較対象として、非相補的な捕捉プローブを使用して上記と同様の処理を行った。非相補的な捕捉プローブも実施例1と同様のものである。
【0102】
(6)捕捉プローブの磁性微粒子への固定化
次に、前工程で得た二本鎖核酸溶液に、ストレプトアビジン磁気ビーズ溶液を5μL添加し、37℃で1時間反応させることで、捕捉プローブの固定化を行い、二本鎖核酸が形成された磁気ビーズ溶液を得た。ストレプトアビジン磁気ビーズは、実施例1と同様のものであり、ストレプトアビジン磁気ビーズ溶液は、1mgのストレプトアビジン磁気ビーズを1000μLの4XSSCに懸濁させて得た溶液である。
【0103】
また、非相補的な捕捉プローブを使用した溶液についても、上記と同様の処理を行い、二本鎖核酸が形成されていない磁気ビーズ溶液を得た。
【0104】
(7)電気化学活性物質結合遺伝子サンプルの作製
次に、前工程で得た、二本鎖核酸が形成された磁気ビーズ溶液に、3.83mgのWSCを1000μLの純水に溶解させた溶液を10μL、2.3mgのN−ヒドロキシスクシンイミドを1000μLの純水に溶解させた溶液を1μL、電気化学活性物質として200μMに調整した下記(化6)を10μL添加し、2時間室温で振とうさせ、遺伝子サンプルに結合したリンカーに電気化学活性物質を結合させた。
【0105】
【化6】

【0106】
その後、磁石で磁気ビーズを収集後、溶液をデカントし、2XSSCで洗浄してB/F分離を行った。その後、0.1MのPBSを10μL加え、二本鎖核酸が形成された磁気ビーズ溶液を得た。
【0107】
また、二本鎖核酸が形成されていない磁気ビーズ溶液についても、上記と同様の処理を行った。
【0108】
(8)電気化学測定
次に、前工程で得た溶液を2μL作用極に滴下し、電気化学発光量を測定して、遺伝子サンプルの検出を行った。なお、本工程も実施例1と同様であるため、詳細は省略する。
【0109】
図4に本発明の実施例2におけるS/N比を示す。図4において、従来の手法にあたる酢酸処理なしの場合では、S/N比は1.1と低く、検出基準を満たしておらず、遺伝子サンプルの検出は不可能であった。しかし、本発明の手法にあたる加熱処理ありの場合では、S/N比は7.4と高く、検出基準を満たしており、遺伝子サンプルの検出が可能であった。
【0110】
上記S/N比の差は、実施例1と同様に、ノイズ成分の違いによるものであり、ハロゲン化合物を失活させる酢酸処理によってバックグラウンドノイズが低くなったことを示すものである。
【0111】
以上の結果から、本発明の手法により、バックグラウンドノイズを低くすることができ、S/N比の高い高感度な検出が可能となることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明にかかる遺伝子検出方法は、試料中に存在する特定の遺伝子配列を高感度に検出することができ、遺伝子診断、感染症診断、食品検査等の用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】本発明の実施の形態1における検出方法の概略図
【図2】本発明の実施の形態2における検出方法の概略図
【図3】本発明の実施例1におけるS/N比を示すグラフ
【図4】本発明の実施例2におけるS/N比を示すグラフ
【符号の説明】
【0114】
1 遺伝子サンプル
2 ハロゲン化合物
3 ハロゲン化遺伝子サンプル
4 電気化学活性物質
5 電気化学活性物質結合遺伝子サンプル
6 失活したハロゲン化合物
7 捕捉プローブ
8 ビオチン
9 磁性微粒子
10 アビジン
11 電気化学活性物質結合遺伝子サンプルが捕捉された磁性微粒子
12 リンカー
13 リンカー結合遺伝子サンプル
14 二本鎖核酸
15 二本鎖核酸が固定化された磁性微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体試料中の特定の配列を有する遺伝子を検出する遺伝子検出方法であって、
前記検体試料中の遺伝子を一本鎖に変性して遺伝子サンプルを作製する遺伝子サンプル作製工程と、
前記遺伝子サンプルにハロゲン化合物を添加し、前記遺伝子サンプルの塩基にハロゲン化合物を付加するハロゲン化遺伝子サンプル作製工程と、
前記ハロゲン化遺伝子サンプルに電気化学活性物質を添加し、求核置換反応により前記ハロゲン化遺伝子サンプルに前記電気化学活性物質を結合させる電気化学活性物質結合遺伝子サンプル作製工程と、
未反応のハロゲン化合物を失活させるハロゲン化合物失活工程と、
検出すべき遺伝子配列に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の捕捉プローブを作製し、該捕捉プローブを磁性微粒子に固定化する捕捉プローブ固定化工程と、
前記電気化学活性物質結合遺伝子サンプルと、前記磁性微粒子に固定された捕捉プローブをハイブリダイズさせ、前記電気化学活性物質結合遺伝子サンプルを前記磁性微粒子に捕捉する遺伝子サンプル捕捉工程と、
前記磁性微粒子に捕捉された遺伝子サンプルに結合した前記電気化学活性物質を電気化学的な測定により検出する検出工程と、を含む、
ことを特徴とする遺伝子検出方法。
【請求項2】
検体試料中の特定の配列を有する遺伝子を検出する遺伝子検出方法であって、
前記検体試料中の遺伝子を一本鎖に変性して遺伝子サンプルを作製する遺伝子サンプル作製工程と、
前記遺伝子サンプルにハロゲン化合物を添加し、前記遺伝子サンプルの塩基にハロゲン化合物を付加するハロゲン化遺伝子サンプル作製工程と、
前記ハロゲン化遺伝子サンプルに電気化学活性物質を添加し、求核置換反応により前記ハロゲン化遺伝子サンプルに前記電気化学活性物質を結合させる電気化学活性物質結合遺伝子サンプル作製工程と、
未反応のハロゲン化合物を失活させるハロゲン化合物失活工程と、
前記電気化学活性物質結合遺伝子サンプルと、検出すべき遺伝子配列に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の捕捉プローブをハイブリダイズさせる二本鎖核酸形成工程と、
前記二本鎖核酸を形成した捕捉プローブを磁性微粒子に固定化する捕捉プローブ固定化工程と、
前記磁性微粒子に捕捉された遺伝子サンプルに結合した前記電気化学活性物質を電気化学的な測定により検出する検出工程と、を含む、
ことを特徴とする遺伝子検出方法。
【請求項3】
検体試料中の特定の配列を有する遺伝子を検出する遺伝子検出方法であって、
前記検体試料中の遺伝子を一本鎖に変性して遺伝子サンプルを作製する遺伝子サンプル作製工程と、
前記遺伝子サンプルにハロゲン化合物を添加し、前記遺伝子サンプルの塩基にハロゲン化合物を付加するハロゲン化遺伝子サンプル作製工程と、
前記ハロゲン化遺伝子サンプルに電気化学活性物質と結合する部位を有するリンカーを添加し、求核置換反応により前記ハロゲン化遺伝子サンプルに前記リンカーを結合させるリンカー結合遺伝子サンプル作製工程と、
未反応のハロゲン化合物を失活させるハロゲン化合物失活工程と、
検出すべき遺伝子配列に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の捕捉プローブを作製し、該捕捉プローブを磁性微粒子に固定化する捕捉プローブ固定化工程と、
前記リンカー結合遺伝子サンプルと、前記磁性微粒子に固定された捕捉プローブをハイブリダイズさせ、前記リンカー結合遺伝子サンプルを前記磁性微粒子に捕捉する遺伝子サンプル捕捉工程と、
前記磁性微粒子に捕捉されたリンカー結合遺伝子サンプルに電気化学活性物質を添加し、前記リンカーに前記電気化学活性物質を結合させる電気化学活性物質結合工程と、
前記磁性微粒子に捕捉された遺伝子サンプルに結合した前記電気化学活性物質を電気化学的な測定により検出する検出工程と、を含む、
ことを特徴とする遺伝子検出方法。
【請求項4】
検体試料中の特定の配列を有する遺伝子を検出する遺伝子検出方法であって、
前記検体試料中の遺伝子を一本鎖に変性して遺伝子サンプルを作製する遺伝子サンプル作製工程と、
前記遺伝子サンプルにハロゲン化合物を添加し、前記遺伝子サンプルの塩基にハロゲン化合物を付加するハロゲン化遺伝子サンプル作製工程と、
前記ハロゲン化遺伝子サンプルに電気化学活性物質と結合する部位を有するリンカーを添加し、求核置換反応により前記ハロゲン化遺伝子サンプルに前記リンカーを結合させるリンカー結合遺伝子サンプル作製工程と、
未反応のハロゲン化合物を失活させるハロゲン化合物失活工程と、
前記リンカー結合遺伝子サンプルと、検出すべき遺伝子配列に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の捕捉プローブをハイブリダイズさせる二本鎖核酸形成工程と、
前記二本鎖核酸を形成した捕捉プローブを磁性微粒子に固定化する捕捉プローブ固定化工程と、
前記磁性微粒子に捕捉されたリンカー結合遺伝子サンプルに電気化学活性物質を添加し、前記リンカーに前記電気化学活性物質を結合させる電気化学活性物質結合工程と、
前記磁性微粒子に捕捉された遺伝子サンプルに結合した前記電気化学活性物質を電気化学的な測定により検出する検出工程と、を含む、
ことを特徴とする遺伝子検出方法。
【請求項5】
検体試料中の特定の配列を有する遺伝子を検出する遺伝子検出方法であって、
前記検体試料中の遺伝子を一本鎖に変性して遺伝子サンプルを作製する遺伝子サンプル作製工程と、
前記遺伝子サンプルにハロゲン化合物を添加し、前記遺伝子サンプルの塩基にハロゲン化合物を付加するハロゲン化遺伝子サンプル作製工程と、
前記ハロゲン化遺伝子サンプルに電気化学活性物質と結合する部位を有するリンカーを添加し、求核置換反応により前記ハロゲン化遺伝子サンプルに前記リンカーを結合させるリンカー結合遺伝子サンプル作製工程と、
未反応のハロゲン化合物を失活させるハロゲン化合物失活工程と、
前記リンカー結合遺伝子サンプルと、検出すべき遺伝子配列に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の捕捉プローブをハイブリダイズさせる二本鎖核酸形成工程と、
前記二本鎖核酸に電気化学活性物質を添加し、前記リンカーに前記電気化学活性物質を結合させる電気化学活性物質結合工程と、
前記二本鎖核酸を形成した捕捉プローブを磁性微粒子に固定化する捕捉プローブ固定化工程と、
前記磁性微粒子に捕捉された遺伝子サンプルに結合した前記電気化学活性物質を電気化学的な測定により検出する検出工程と、を含む、
ことを特徴とする遺伝子検出方法。
【請求項6】
前記ハロゲン化合物失活工程は、加熱処理、失活物質添加処理により行う、
ことを特徴とする請求項1から5に記載の遺伝子検出方法。
【請求項7】
前記失活物質添加処理は、塩基、アリル化合物、カルボニル化合物のうちのいずれかを添加する、
ことを特徴とする請求項6に記載の遺伝子検出方法。
【請求項8】
前記電気化学活性物質は、(化1)で表される、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の遺伝子検出方法。
【化1】

(但し、式中、Nuは、アミン類、アルコール類、エーテル類、チオール類、オキシド類から選ばれる官能基、Eは電気化学活性部位、Laは前記Nuと前記Eとを連結する連結部位である。)
【請求項9】
前記リンカーは、(化2)で表される、
ことを特徴とする請求項3から5に記載の遺伝子検出方法。
【化2】

(但し、式中、Nuは、アミン類、アルコール類、エーテル類、チオール類、オキシド類から選ばれる官能基、Saは電気化学的に活性である物質と化学結合する部位、Lbは前記Nuと前記Saとを連結する連結部位である。)
【請求項10】
前記電気化学活性物質は、(化3)で表される、
ことを特徴とする請求項3から5に記載の遺伝子検出方法。
【化3】

(但し、式中、Eは電気化学活性部位、Sbは前記Saと化学結合する部位、Lcは前記Sbと前記Eとを連結する連結部位である。)
【請求項11】
前記La、Lb、Lcは、アルキル、アルコール、カルボン酸、スルホン酸、エステル、ケトン、チオール、エーテル、アミン、ニトロ、ニトリル、糖、リン酸、アミノ酸、メタクリル酸、アミド、イミド、イソプレン、ウレタン、ウロン酸、エチレン、カーボネート、ビニル、シクロアルカン、ヘテロ環式化合物から選ばれる物質、またはいずれかの組み合わせから構成される、
ことを特徴とする請求項8から10に記載の遺伝子検出方法。
【請求項12】
前記Sa及び前記Sbの化学結合が、アミド結合、エステル結合、エーテル結合、チオ
エーテル結合、スルフィド結合、カルボニル結合、イミノ結合、抗体− 抗原結合のいずれかである、
ことを特徴とする請求項9または10に記載の遺伝子検出方法。
【請求項13】
前記mは、4から50の整数である、
ことを特徴とする請求項8に記載の遺伝子検出方法。
【請求項14】
前記nは、1から50の整数である、
ことを特徴とする請求項9に記載の遺伝子検出方法。
【請求項15】
前記oは、1から1000の整数である、
ことを特徴とする請求項10に記載の遺伝子検出方法。
【請求項16】
前記nが1の場合、前記oは3から1000の整数であり、前記nが2の場合、oは2から1000の整数である、
ことを特徴とする請求項15に記載の遺伝子検出方法。
【請求項17】
前記Eは、酸化還元性を有する化合物である、
ことを特徴とする請求項8から10に記載の遺伝子検出方法。
【請求項18】
前記酸化還元性を有する化合物は、電気化学発光を示す化合物である、
ことを特徴とする請求項17に記載の遺伝子検出方法。
【請求項19】
前記電気化学発光を示す化合物は、配位子に複素環系化合物を有する金属錯体、ルブレン、アントラセン、コロネン、ピレン、フルオランテン、クリセン、フェナントレン、ペリレン、ビナフチル、あるいはオクタテトラエンのいずれかである、
ことを特徴とする請求項18に記載の遺伝子検出方法。
【請求項20】
前記配位子に複素環系化合物を有する金属錯体は、配位子にピリジン部位を有する金属錯体である、
ことを特徴とする請求項19に記載の遺伝子検出方法。
【請求項21】
前記配位子にピリジン部位を有する金属錯体は、金属ビピリジン錯体、あるいは金属フェナントロリン錯体のいずれかである、
ことを特徴とする請求項20に記載の遺伝子検出方法。
【請求項22】
前記配位子に複素環系化合物を有する金属錯体の中心金属は、ルテニウム、あるいはオスニウムのいずれかである、
ことを特徴とする請求項21に記載の遺伝子検出方法。
【請求項23】
前記検出工程は、前記電気化学活性物質からの電気化学発光量を測定するものである、
ことを特徴とする請求項1から5に記載の遺伝子検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−247330(P2009−247330A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103332(P2008−103332)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】