説明

避難装置

【課題】強風により上蓋の振動による騒音の発生や破損を防止すると共に、上蓋,下蓋の不用意な開放を防止し、避難時には上蓋の開放を容易に行えるようにすること。
【解決手段】スラブの開口部に固定される収納枠2と、収納枠に開閉可能に枢着される上蓋3及び下蓋と、上蓋及び下蓋が開放されたとき下方に伸長する梯子とを具備する避難装置において、上蓋の自由端側に設けられる係止部材30は、上蓋に固定される固定片31の端部から垂下する垂下片32と、垂下片の下端から上蓋の自由端側外方に向かって延在される操作片33と、垂下片に設けられる係合孔35と、を有する弾性変形可能な部材にて形成される。上蓋の閉鎖状態において、係止部材と係合可能な係合部材40は、収納枠の周壁に固定される起立片41と、起立片から傾斜状に起立され、係合孔と係合可能な傾斜係合凸部43を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は避難装置に関するもので、更に詳細には、ベランダ等に設けられた収納枠に開閉可能に枢着される上蓋及び下蓋と、上蓋及び下蓋が開放されたとき、下方に伸長する梯子とを具備する避難装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種の避難装置として、ベランダ等のスラブに設けられた開口部に固定される収納枠と、この収納枠の床面側及び天井面側にそれぞれ枢着される上蓋及び下蓋と、収納枠内に折り畳まれて収納されると共に上蓋及び下蓋が開放されたとき、階下の床若しくはその付近まで伸長する例えばパンタグラフ式の梯子を具備するものが知られている。この避難装置は、一般に上蓋の開放に伴って下蓋が開放する連動式の構造となっている。
【0003】
上記のように構成される避難装置においては、強風により上蓋が煽られて僅かな開放と閉鎖の振動を繰り返して騒音を発生させるという問題や、上蓋の開放により下蓋が連動して開放して開口が開け放れた状態となり危険であるといった問題があった。
【0004】
そこで、上記問題を解決する手段として、上蓋と収納枠とを係合させるものが考えられる。従来では、例えば、上蓋と該上蓋が接離する収納枠の一方に設けられた係合孔を有する受部材と、上蓋と収納枠の他方に設けられて係合孔に係脱可能に係合する係合凸部を備え、該係合凸部を係合孔に向けて付勢する弾性係合片とからなる係脱機構を具備するもの。また、上蓋の閉じ状態で該上蓋及び収納枠から操作部を露出して該収納枠に設けられた弾性係合片と、上蓋に設けられ、かつ弾性係合片に設けられた一方の係合部に係脱可能に係合する他方の係合部とからなり、上蓋の閉じ状態で一方の係合部と他方の係合部との係合状態が保持される係脱機構を具備するものが知られている (例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−290470号公報(特許請求の範囲、図6,図7,図9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、係合孔を有する受部材と、係合孔に係脱可能に係合する係合凸部を有する弾性係合片とからなる係脱機構を有する構造のものにおいては、受部材と弾性係合片の係合部に直接関与しない上蓋の自由端辺を持ち上げて上蓋を開放するため、上蓋の開放に力を要するという問題がある。
【0006】
また、操作部を操作して、弾性係合片と係合部の係合を解除する係脱機構を有する構造のものにおいては、操作部を操作して弾性係合片と係合部の係合を解除した後、上蓋の自由端辺を持ち上げて上蓋を開放するため、開放動作が増え避難の妨げとなる懸念がある。
【0007】
この発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、強風により煽られて上蓋が振動することによる騒音の発生や破損を防止することができると共に、上蓋及び下蓋の不用意な開放を防止し、かつ、避難時には上蓋の開放を容易に行えるようにした避難装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明の避難装置は、ベランダ等のスラブに設けられた開口部に固定される収納枠と、この収納枠に開閉可能に枢着される上蓋及び下蓋と、上記収納枠内に折り畳まれて収納されると共に上記上蓋及び下蓋が開放されたとき、下方に伸長する梯子と、を具備する避難装置において、 上記上蓋の自由端側の辺に設けられる係止部材と、上記収納枠の周壁に設けられ、上記上蓋の閉鎖状態において、上記係止部材と係合可能な係合部材と、を具備し、 上記係止部材は、上記上蓋の裏面に固定される固定片の端部から垂下する垂下片と、この垂下片の下端から上蓋の自由端側外方に向かって延在される操作片と、上記垂下片に設けられる係合孔と、を有する弾性変形可能な部材にて形成され、 上記係合部材は、上記収納枠の周壁に固定される起立片と、この起立片から傾斜状に起立され、上記係合孔と係合可能な傾斜係合凸部を具備してなる、ことを特徴とする(請求項1)。
【0009】
このように構成することにより、上蓋の閉鎖時においては、上蓋に設けられた係止部材の係合孔と、収納枠に設けられた係合部材の傾斜係合凸部とが係合するので、強風により上蓋が振動するのを抑制することができると共に、上蓋及び下蓋が開放するのを防止することができる。また、避難時においては、操作部を操作して係合孔と傾斜係合凸部との係合を解除すると同時に上蓋の開放を行うことができる。
【0010】
この発明において、上記係合孔は、上記固定片と垂下片に跨って設けられると共に、上記固定片と垂下片の隣接角部から垂下片の下端側に向かって狭小となるテーパ状に形成されている方が好ましい(請求項2)。
【0011】
このように構成することにより、弾性変形可能な部材にて形成される係止部材において、固定片と垂下片との隣接角部の係合孔以外の寸法(L1)を、垂下片と操作片の隣接角部の係合孔以外の寸法(L2)に対して小さくすることができ、操作部の開蓋操作時の係止部材の変形すなわち係合解除を容易にすることができる。
【0012】
また、この発明において、上記係合部材の操作片における少なくとも上蓋より外側部位に、目印用の色彩を施した被覆部材を被着する方が好ましい(請求項3)。
【0013】
このように構成することにより、避難時において、避難者は操作部の位置を容易に確認することができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明の避難装置は、上記のように構成されているので、以下のような効果が得られる。
【0015】
(1)請求項1記載の発明によれば、上蓋の閉鎖時には、強風により上蓋が振動するのを抑制することができると共に、上蓋及び下蓋が開放するのを防止することができるので、強風により煽られて上蓋が振動することによる騒音の発生や破損を防止することができると共に、上蓋及び下蓋の不用意な開放を防止することができる。また、避難時には、操作部を操作して係合孔と傾斜係合凸部との係合を解除すると同時に上蓋の開放を行うことができるので、上蓋の開放を容易にすることができる。
【0016】
(2)請求項2記載の発明によれば、操作部の開蓋操作時の係止部材の変形すなわち係合解除を容易にすることができるので、上記(1)に加えて、更に上蓋の開放を容易にすることができる。
【0017】
(3)請求項3記載の発明によれば、避難時において、避難者は操作部の位置を容易に確認することができるので、非常事態のパニック時において、迷うことなく上蓋を開放することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、この発明の最良の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0019】
図1は、この発明に係る避難装置の使用状態を示す斜視図、図2は、この発明に係る避難装置の不使用状態すなわち上蓋の閉鎖状態を示す断面図、図3は、図2のI部を拡大して示す拡大断面図である。
【0020】
この発明の避難装置は、床、ベランダ等のスラブ1に設けられた開口部1aに嵌装・固定される方形状の収納枠2と、この収納枠2の1辺の床面側及び天井面側にそれぞれ枢着される上蓋3及び下蓋4と、収納枠2内に折り畳まれて収納されると共に階下の床若しくはその付近まで伸長するパンタグラフ式の梯子6と、この梯子6の伸長降下速度を制御すると共に梯子6を引上げ収納する緩降器7と、上蓋3と下蓋4とを互いに連動して開閉動作させる開閉連動機構10と、上蓋3の自由端側すなわち枢着部と反対の開放端側と収納枠2に設けられるラッチ機構20と、で主要部が構成されている。
【0021】
この場合、梯子6は、複数の縦桟6aをパンタグラフ式に枢着した一対の伸縮体6c間に複数の足踏み用の横桟6bが適宜間隔をおいて横架され、かつ収納枠2内に折畳まれて収納されると共に、階下の床若しくはその付近まで伸長し得るようになっている。また、下部側の縦桟6aの間に横架された横桟6bと緩降器7の巻取ドラム7aとの間には巻上用ワイヤ8が繋着されている。
【0022】
上蓋3と下蓋4は、それぞれ収納枠2の一側端部にヒンジ3a,4aを介して開閉可能に枢着されており、上蓋3及び下蓋4の両側辺及び収納枠2の対向する周壁2aに取り付けられる一対の開閉連動機構10によって上蓋3と下蓋4が互いに連動して開閉動作し得るように構成されている。なお、上蓋3の略中央内面側には、手掛け部5が固設されている。
【0023】
上記ラッチ機構20は、図1ないし図4に示すように、上蓋3の自由端側の辺に設けられる係止部材30と、収納枠2の周壁2aに設けられ、上蓋3の閉鎖状態において、係止部材30と係合可能な係合部材40と、を具備している。
【0024】
上記係止部材30は、上蓋3の裏面に例えばスポット溶接によって固定される固定片31の端部から垂下する垂下片32と、この垂下片32の下端から上蓋3の自由端側外方に向かって延在されると共に上蓋3の外側に存在する先端の操作部34が上方に位置すべく略クランク状に折曲される操作片33と、垂下片32に設けられる係合孔35と、を有する弾性変形可能な部材例えばばね鋼にて形成されている。
【0025】
この場合、係合孔35は、図4(a)に示すように、固定片31と垂下片32に跨って設けられており、固定片31側は固定片31と垂下片32の隣接角部36aからコ字状に切り欠かれた第1の孔部35aと、この第1の孔部35aの端部すなわち固定片31と垂下片32の隣接角部36aから垂下片32の下端側に向かって狭小となるテーパ状に形成される第2の孔部35bとからなる。
【0026】
このように係合孔35を形成することにより、固定片31と垂下片32との隣接角部36aの係合孔35以外の寸法(L1)を、垂下片32と操作片33の隣接角部36bの係合孔35以外の寸法(L2)に対して小さくすることができるので、操作部34の開蓋操作時の係止部材30の変形すなわち係合解除を容易にすることができる。
【0027】
また、係止部材30の操作片33における上蓋3より外側部位に存在する操作部34には、目印用の色彩を施した例えば合成樹脂製の被覆部材37が被着されている。なお、被覆部材37は、少なくとも操作片33における上蓋3より外側部位に被着されていればよい。
【0028】
このように、係止部材30の操作片33における少なくとも上蓋3より外側部位に存在する操作部34に、目印用の色彩を施した例えば合成樹脂製の被覆部材37を被着することにより、避難時において、避難者は操作部の位置を容易に確認することができる。
【0029】
一方、上記係合部材40は例えば鋼製板部材にて形成されており、収納枠2の周壁に固定される起立片41と、この起立片41の下端から略直角に折曲される水平片42とからなる略L字状に形成されており、起立片41には、下方に向けて上り勾配をなす係合孔35と係合可能な傾斜係合凸部43が立設されている。この場合、傾斜係合凸部43は、例えば起立片41を切り起こして庇状に形成されている。
【0030】
上記のように形成される係合部材40は、起立片41が収納枠2の周壁2aの外面に例えばスポット溶接によって固定され、水平片42が収納枠2の周壁2aの下端に連なる水平壁2bの上面に例えばスポット溶接によって固定されている。
【0031】
上記のように構成されるラッチ機構20を有するこの発明に係る避難装置によれば、不使用時すなわち上蓋3の閉鎖時においては、図2,図3,図5(a)に示すように、上蓋3に設けられた係止部材30の係合孔35と、収納枠2に設けられた係合部材40の傾斜係合凸部43とが係合する。これにより、強風により上蓋3が振動するのを抑制することができると共に、上蓋3及び下蓋4が開放するのを防止することができる。
【0032】
また、避難時においては、図5(b)に示すように、操作部34を掴んで上方向に操作すると、係止部材30が固定片31と垂下片32の隣接角部36aで変形して係合孔35と傾斜係合凸部43との係合が解除する。更に操作部34を上方向に操作することにより、上蓋3が開放する(図5(c)参照)。これにより、係合孔35と傾斜係合凸部43との係合を解除すると同時に上蓋3の開放を行うことができる。なお、避難時においては、避難者は目印用の色彩を施した被覆部材37によって操作部34の位置を容易に確認することができるので、非常事態のパニック時において、迷うことなく上蓋3を開放することができる。
【0033】
なお、上蓋3を開放した後、操作部34から手を離すと、係止部材30は元の形に復元するので、上蓋3を閉鎖すると、操作片33の基端部が傾斜係合凸部43に沿って弾性変形し、傾斜係合凸部43を乗り越えた状態で復元して係合孔35と傾斜係合凸部43が係合する。
【0034】
なお、上記実施形態では、係止部材30がばね鋼にて形成される場合について説明したが、上述と同様に弾性変形可能なものであればその他の材質例えば合成樹脂製部材であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明に係る避難装置の使用状態を示す斜視図である。
【図2】この発明における上蓋の閉鎖状態を示す断面図である。
【図3】図2のI部の拡大断面図である。
【図4】この発明における係止部材を示す斜視図(a)及び係合部材を示す斜視図(b)である。
【図5】この発明における上蓋の開放手順を示す断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 スラブ
1a 開口部
2 収納枠
2a 周壁
3 上蓋
4 下蓋
6 梯子
20 ラッチ機構
30 係止部材
31 固定片
32 垂下片
33 操作片
34 操作部
35 係合孔
36a、36b 隣接角部
37 被覆部材
40 係合部材
41 起立片
42 水平片
43 傾斜係合凸部
L1 隣接角部36aの係合孔35以外の寸法
L2 隣接角部36bの係合孔35以外の寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベランダ等のスラブに設けられた開口部に固定される収納枠と、この収納枠に開閉可能に枢着される上蓋及び下蓋と、上記収納枠内に折り畳まれて収納されると共に上記上蓋及び下蓋が開放されたとき、下方に伸長する梯子と、を具備する避難装置において、
上記上蓋の自由端側の辺に設けられる係止部材と、上記収納枠の周壁に設けられ、上記上蓋の閉鎖状態において、上記係止部材と係合可能な係合部材と、を具備し、
上記係止部材は、上記上蓋の裏面に固定される固定片の端部から垂下する垂下片と、この垂下片の下端から上蓋の自由端側外方に向かって延在される操作片と、上記垂下片に設けられる係合孔と、を有する弾性変形可能な部材にて形成され、
上記係合部材は、上記収納枠の周壁に固定される起立片と、この起立片から傾斜状に起立され、上記係合孔と係合可能な傾斜係合凸部を具備してなる、
ことを特徴とする避難装置。
【請求項2】
請求項1記載の避難装置において、
上記係合孔は、上記固定片と垂下片に跨って設けられると共に、上記固定片と垂下片の隣接角部から垂下片の下端側に向かって狭小となるテーパ状に形成されている、ことを特徴とする避難装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の避難装置において、
上記係合部材の操作片における少なくとも上蓋より外側部位に、目印用の色彩を施した被覆部材を被着してなる、ことを特徴とする避難装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−35733(P2010−35733A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200498(P2008−200498)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【出願人】(000110479)ナカ工業株式会社 (125)
【Fターム(参考)】