説明

還元剤として機能するナノ粒子およびその製造法

【課題】粒子自体が物質の還元に関わるという機能性を有した高分子ナノ粒子を提供すること、および汚水や汚泥処理、洗浄、漂白、殺菌などへの応用展開が見込まれる新しいナノ粒子の製造技術の提供。
【解決手段】電子伝達系を形成する化合物を側鎖官能基として持つジブロック共重合体を還元剤と反応させることにより種々の化合物に対して還元機能をもつ数十ナノメートルの高分子ナノ粒子が得られることを見出し、本発明を完成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元剤としての機能を持ちかつ抽出や洗浄、化粧品製造、染色、塗装など幅広い技術に応用できる高機能なナノ粒子に関する。

【背景技術】
【0002】
高分子の自己組織化によってナノ粒子を合成する方法は、粒径分布の狭い超微粒子を得る方法として以前から用いられている。しかし、従来法で得られるナノ粒子には物質変換機能をもつものはほとんどなく、酸化剤としての機能をもつものが知られているのみである。一方、還元剤としての機能は、汚水や汚泥処理、洗浄、漂白、殺菌など、多くの分野で重要な機能であるが、還元剤としての機能を持つ粒子は知られていない。(特許文献1、特許文献2)
【特許文献1】特開2007−112997(“自己組織化により生成する機能性高分子超微粒子とその製法”, 吉田絵里, 田中 徹)
【特許文献2】特開2007−182558(“機能性高分子超微粒子とそれを用いるカルボニル化合物の製造方法”, 吉田絵里, 田中 徹)
【0003】
すなわち、従来の自己組織化の方法によって得られるナノ粒子には、以下のような課題が存在する。
1)粒子自身に還元機能はない
2)リサイクルできない
3)ナノレベルでの粒子サイズの制御が困難である
4)微粒子内に物質を安定に保持できない

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ナノ粒子自体が還元剤として働く高分子超微粒子を得ることを目的とする。すなわち、本発明は汚水や汚泥処理、洗浄、漂白、殺菌などの処理に適用できる還元機能を有する高分子超微粒子を得ることを目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、電子伝達系を形成する化合物を側鎖官能基として持つジブロック共重合体を特定の有機溶媒中で自己組織化させることにより、酸素を還元する機能をもつ数十ナノメートルの大きさの高分子超微粒子が得られることを見出し、本発明を完成した。

【0006】
すなわち、下記一般式(1)で示される高分子セグメントと下記一般式(2)で示される高分子セグメントからなるジブロック共重合体を特定の有機溶媒中に溶解させることにより、該ジブロック共重合体がミセル状の凝集体を形成することにより生成する高分子超微粒子を得ることにより達成される。
一般式(1)
【化5】

一般式(1)中、R:重合開始剤残基、R:アルキル基、アリール基、エーテル基、エステル基、もしくは炭酸エステル基、mは該高分子セグメントの重合度を表す。*は一般式(1)が一般式(2)とこの部分で結合していることを表す。
一般式(2)
【化6】

一般式(2)中、R:重合制御剤残基、R:アルキル基、アリール基、エーテル基、エステル基、もしくは炭酸エステル基、nは該高分子セグメントの重合度を表す。*は一般式(2)が一般式(1)とこの部分で結合していることを表す。

【0007】
また本発明の好ましい態様によれば、前記特定溶媒がベンゼンもしくはトルエンである。
【0008】
さらに、前記ジブロック共重合体が一般式(4)と前記一般式(2)からなるジブロック共重合体を前記特定溶媒中で特定の還元剤と作用させることにより形成されることにより達成される。
一般式(4)
【化7】

一般式(4)中、R:重合開始剤残基、R:アルキル基、アリール基、エーテル基、エステル基、もしくは炭酸エステル基、mは該高分子セグメントの重合度を表す。*は一般式(4)が一般式(2)とこの部分で結合していることを表す。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、還元機能を有する数十ナノメートルの高分子超微粒子を製造することができ、微粒子内で酸素を還元し生成するスーパーオキシドイオンを利用して、汚水や汚泥処理、漂白、殺菌、脱臭など、さまざまな物質の処理が可能である。さらに該高分子超微粒子は、原料のジブロック共重合体として回収できるなど、従来のナノ粒子では達成できない機能を持っている。

【0010】
本発明で製造される高分子超微粒子は、該ジブロック共重合体の組成比や分子量の選択により粒子の大きさを制御することができる。また、微粒子内でさまざまな処理を行うことができる。この技術は、汚水や汚泥処理、漂白、殺菌、脱臭など、さまざまな物質の処理に応用できるが、特に、スーパーオキシドイオン源として過酸化水素を用いることのできない還元技術への応用が期待できる。このことから、このナノ粒子は医薬や農薬の分野でも重要な技術展開を図る道具として機能することが期待できる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のナノ粒子は前記一般式(4)で示される高分子セグメントと一般式(2)で示される高分子セグメントからなるジブロック共重合体に、特定の還元剤を作用させることにより生成するが、該ジブロック共重合体は図1に示す反応経路で合成することができる。すなわち、一般式(5)で示されるスチレン誘導体1に、ラジカル重合開始剤として過酸化ベンゾイル2とラジカル重合制御剤として4−メトキシ−TEMPO3を作用させると、一般式(6)で示される高分子4が生成する。該高分子4に一般式(7)で示されるスチレン誘導体5を重合させることにより、一般式(6)と一般式(2)で示される高分子セグメントからなるジブロック共重合体6が得られる。該ジブロック共重合体を溶媒としてのN,N−ジメチルホルムアミド中、水素化ナトリウム7と反応させた4−ヒドロキシ−TEMPO8を反応させることにより、前記一般式(4)と一般式(2)で示される高分子セグメントからなるジブロック共重合体9が得られる。ここでTEMPOは、安定ニトロキシルラジカルである2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルの略号である。
一般式(5)
【化8】

一般式(5)中、R:ハロベンジル、酸ハロゲン化物、カルボン酸、エステル、もしくは炭酸エステルを有する官能基
一般式(6)
【化9】

一般式(6)中、R:開始剤残基、R:ハロベンジル、酸ハロゲン化物、カルボン酸、エステル、もしくは炭酸エステルを有する官能基、mは該高分子セグメントの重合度を表す。*は4−メトキシ−TEMPOが結合していることを示す。
一般式(7)
【化10】

一般式(7)中、R:アルキル基、アリール基、エーテル基、エステル基、もしくは炭酸エステル基を表す。

【0012】
前記一般式(4)および(2)で示される高分子セグメントからなるジブロック共重合体9を溶媒としてのベンゼンもしくはトルエンに溶解させ、還元剤としてのフェニルヒドラジンを室温で添加し、5分間程度放置すると本発明のナノ粒子が得られる。該ナノ粒子形成のメカニズムを図2に示す。

【0013】
本発明で得られるナノ粒子の特徴を以下に列挙する。
n
本発明で得られるナノ粒子は数十ナノメートルのミセル状凝集体である
n
種々の還元反応が凝集体の内部で起こる
n
還元反応により凝集体が解離して単量体を生成する

【0014】
ここで本発明のナノ粒子の機能発現の例を図3に示すが、本発明のナノ粒子の機能発現はこの例にとどまらない。図3は、本発明に基づくナノ粒子が酸素に作用し、スーパーオキシドイオンを生成するとともに、該ナノ粒子中の一般式(1)で示される高分子セグメントは一般式(4)に変換される。
【実施例1】
【0015】
化3で示されるスチレン誘導体の高分子セグメントとポリスチレンとからなるジブロック共重合体(組成比2:8、分子量3万:5万)の24mgを溶媒としてのベンゼン3.5mLに溶かす。この溶液に、フェニルヒドラジン320 mLをベンゼン2 mLに溶解した溶液を20mL添加し5分間放置すると、粒径が約50ナノメートルのナノ粒子が得られた。該ナノ粒子の光散乱測定の散乱強度分布を図4に
示す。
【実施例2】
【0016】
化3で示されるスチレン誘導体の高分子セグメントとポリスチレンとからなるジブロック共重合体(組成比2:8、分子量3万:5万)の24mgを溶媒としてのベンゼン3.5mLに溶した溶液に、フェニルヒドラジン320 mLをベンゼン2 mLに溶解した溶液を10mL添加することによって合成したナノ粒子のベンゼン溶液に、水素化ナトリウムの2mgを添加した。その混合溶液に室温で1分間酸素をバブリングさせた。その結果、溶液の紫外可視分光測定により460ナノメートル付近にTEMPOに基づく特性吸収を確認した。

【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明で製造される球状ナノ粒子は、該ブロック共重合体の組成比や分子量の選択により粒子の大きさをナノレベルで制御することができる。また、ナノ粒子の内部で酸素を酸化してスーパーオキシドイオンを生成するため、物質の処理に利用することが期待される。さらに、該ナノ粒子は無色であるが、酸素の還元によって自身は酸化されてTEMPOに基づく赤色を呈する。この色の変化を利用して酸素に対するセンサーに応用することも期待できる。

【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に基づくジブロック共重合体の合成経路
【図2】本発明に基づくナノ粒子形成のメカニズム
【図3】本発明に基づくナノ粒子の機能発現の例
【図4】ナノ粒子の光散乱強度分布(実施例1)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)の高分子セグメントと一般式(2)の高分子セグメントとからなるジブロック共重合体であって、該ジブロック共重合体が自己組織化することにより形成される球状ナノ粒子。
一般式(1)
【化1】

一般式(1)中、R:重合開始剤残基、R:アルキル基、アリール基、エーテル基、エステル基、もしくは炭酸エステル基、mは該高分子セグメントの重合度を表す。*は一般式(1)が一般式(2)とこの部分で結合していることを表す。
一般式(2)
【化2】

一般式(2)中、R:重合触媒残基、R:アルキル基、アリール基、エーテル基、エステル基、もしくは炭酸エステル基、nは該高分子セグメントの重合度を表す。
【請求項2】
上記一般式(1)で示される高分子の側鎖官能基が下記一般式(3)で示される電子伝達系を形成することを特徴とする請求項1に記載の球状ナノ粒子。
一般式(3)
【化3】

一般式(3)中、Rはアルキル基、アリール基、エーテル基、エステル基、もしくは炭酸エステル基を表す。
【請求項3】
請求項1に記載の該ジブロック共重合体が低極性の芳香族系溶媒中で自己組織化することを特徴とする請求項1に記載の球状ナノ粒子。
【請求項4】
一般式(1)で示される該ジブロック共重合体が請求項3に記載の溶媒中でミセル状の凝集体を形成することを特徴とする請求項1に記載の球状ナノ粒子。
【請求項5】
請求項4に記載の該凝集体が数十ナノメートルの超微粒子であることを特徴とする請求項1に記載の球状ナノ粒子。
【請求項6】
請求項4に記載の該凝集体の内部が一般式(1)で示される高分子セグメントで、かつ該凝集体の外部が一般式(2)で示される高分子セグメントであることを特徴とする請求項1に記載の球状ナノ粒子。
【請求項7】
請求項4に記載の該凝集体の内部で、側鎖官能基による還元反応が起こることを特徴とする請求項1に記載の球状ナノ粒子。
【請求項8】
請求項1に記載の該ジブロック共重合体の1部を形成する一般式(1)の高分子セグメントが、請求項8に記載の還元反応によって下記一般式(4)で示される高分子セグメントになることを特徴とする請求項1に記載の球状ナノ粒子。
一般式(4)
【化4】

一般式(4)中、R:重合開始剤残基、R:アルキル基、アリール基、エーテル基、エステル基、もしくは炭酸エステル基、mは該高分子セグメントの重合度を表す。*は一般式(4)が一般式(2)とこの部分で結合していることを表す。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−191191(P2009−191191A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−34317(P2008−34317)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】