説明

還元剤供給システム

【課題】ポンプ起動時においてその当初から還元反応装置に対して還元剤を好適に添加供給することができる還元剤供給システムを提供する。
【解決手段】尿素水タンク21には尿素水配管22を介して尿素水添加弁15が接続されている。尿素水配管22の途中には尿素水ポンプ23が設けられている。本システムでは、尿素水添加弁15への尿素水供給の停止後に、尿素水配管22内の尿素水を吸い戻す吸い戻し処理が実施される。尿素水配管22の途中には、タンク出口部分から尿素水添加弁15までの尿素水経路において最も低い位置に、尿素水吸い戻し処理の実施後における残留尿素水を溜める尿素水溜まり部31が設けられている。尿素水溜まり部31は、残留尿素水が凍結した状態で、それよりも尿素水タンク21側の尿素水経路と尿素水添加弁15側の尿素水経路とを尿素水溜まり部31内の空きスペースで連通するものとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元剤供給システムにかかり、具体的には排気管内のNOx触媒上流部など、所定の還元剤添加場所に対して還元剤を添加する還元剤供給システムに関するものである。例えば、本システムは、エンジンの排気管に設けられた選択還元型のNOx触媒の上流側に尿素水溶液を添加する尿素SCR(Selective Catalytic Reduction)システムとして実用化されている。
【背景技術】
【0002】
車載エンジン(特にディーゼルエンジン)の排気浄化システムとして尿素SCRシステムが知られている。すなわち、尿素SCRシステムでは、排気管に選択還元型のNOx触媒が設けられるとともに、その上流側に、NOx還元剤としての尿素水(尿素水溶液)を排気管内に添加する尿素水添加弁が設けられている。本システムにおいては、尿素水タンク内の尿素水がポンプの駆動により配管を通じて尿素水添加弁に供給され、その尿素水添加弁により排気管内に尿素水が添加されることで、NOx触媒上で排気中のNOxが選択的に還元除去される。NOxの還元に際しては、尿素水が排気熱で加水分解されることによりアンモニア(NH3)が生成され、そのアンモニアがNOx触媒に吸着するととともに同NOx触媒上にてアンモニアに基づく還元反応が行われることによってNOxが還元、浄化されることになる。
【0003】
還元剤として使用される尿素水は例えば−11℃で凍結し、その凍結により配管が閉塞してしまい、次回のエンジン始動直後において尿素水が供給できなくなるといった問題が生じる。また、尿素水の凍結によって体積が増加するため、配管の破損等も懸念される。そこで、その尿素水の凍結対策として、エンジンの運転停止後にポンプを逆回転駆動させることで配管内の尿素水をタンク側に吸い戻す技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。かかる技術によれば、エンジン停止後において配管内での残留尿素水の凍結を抑制できるとしていた。
【特許文献1】特開2008−101564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のごとくエンジンの運転停止後にポンプを逆回転駆動させることで配管内の尿素水をタンク側に吸い戻しても、配管や尿素水添加弁等に存在する尿素水は完全に吸い戻されるのではなく、尿素水の一部が配管や尿素水添加弁等に残留する。この場合、配管や尿素水添加弁等に残留する尿素水が凍結することで配管が閉塞されると、次回のエンジン始動直後において尿素水が供給できなくなるといった問題が依然として生じると考えられる。
【0005】
本発明は、ポンプ起動時においてその当初から還元反応装置に対して還元剤を好適に添加供給することができる還元剤供給システムを提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について説明する。
【0007】
本発明の還元剤供給システムでは、所定の還元反応装置に対する還元剤の添加時において、ポンプの駆動により還元剤タンク内の還元剤が還元剤配管を介して還元剤添加手段に給送され、還元剤添加手段により還元剤の添加が行われる。また、還元剤添加手段への還元剤供給の停止後には、還元剤配管内の還元剤を排出する還元剤排出処理が実施される。かかる場合、還元剤排出処理の実施後には、比較的少量であるが還元剤配管内等に還元剤が残留する。そのため、残留還元剤が凍結することに起因して還元剤経路が閉塞され、次回のポンプ起動時(すなわち還元剤の給送開始時)において還元剤の給送不良などが生じると考えられる。
【0008】
この点、請求項1に記載の発明では、還元剤排出処理の実施後における配管内等の残留還元剤を、還元剤タンクの出口部分から還元剤添加手段までの還元剤経路の途中の所定場所に溜め、かつポンプの次回起動時に、前記残留還元剤が凍結状態にあっても還元剤タンクから還元剤添加手段への還元剤の給送を可能とする給送構造を備える構成としている。これにより、還元剤排出処理の実施後に還元剤が残留しさらに凍結しても、次回のポンプ起動時において還元剤の給送不良などが生じることを抑制できる。その結果、ポンプ起動時にはその当初から還元反応装置に対して還元剤を好適に添加供給することができる。
【0009】
なお、還元剤の排出処理としては、還元剤添加手段から還元剤タンク側に還元剤を吸い戻す(回収する)ことで還元剤を排出する処理、又は還元剤添加手段から還元反応装置側に還元剤を噴出することで還元剤を排出する処理が含まれる。
【0010】
請求項2に記載の発明では、給送構造として、還元剤タンクの出口部分から還元剤添加手段までの還元剤経路の途中において最も低い位置に、還元剤排出処理の実施後における残留還元剤を溜める還元剤溜まり部が設けられている。そして、還元剤溜まり部では、残留還元剤が凍結した状態で、それよりも還元剤タンク側の還元剤経路と還元剤添加手段側の還元剤経路とが同還元剤溜まり部内の空きスペースで連通される。なお、還元剤溜まり部が請求項1の「所定場所」に相当する(後述する請求項6,8も同様)。
【0011】
上記構成によれば、還元剤排出処理の実施後において、残留還元剤は重力により還元剤経路の最も低い位置にある還元剤溜まり部に溜められる。かかる場合、還元剤溜まり部では、残留還元剤が凍結した状態であっても、空きスペースを利用して還元剤タンクから還元剤添加手段への還元剤の流通が可能となっている。したがって、還元剤が凍結状態となった後のポンプ起動時であっても、その起動当初において還元剤の給送不良などが生じることを抑制できる。
【0012】
ここで、請求項3に記載したように、還元剤溜まり部は、それ以外の配管部分の開口径に比して開口断面の上下高さ寸法が大きいものであるとよい。この場合、還元剤溜まり部に残留還元剤を溜める構成において、還元剤溜まり部内の上部に空きスペースを容易に確保できる。
【0013】
また、請求項4に記載したように、還元剤溜まり部は、その開口断面の上部が幅狭、下部が幅広に形成されているとよい。この場合、還元剤溜まり部に残留還元剤を溜める構成において、還元剤溜まり部内の上部に空きスペースを容易に確保できる。また、上記のように開口断面の上部が幅狭でかつ下部が幅広の形状によれば、残留還元剤の貯留スペースを十分に確保しつつ、還元剤溜まり部の開口断面の面積を最小限に抑えることができる。これは、還元剤溜まり部が還元剤経路の一部を構成する場合に、還元剤を好適に流通させる上で有利な構成である。
【0014】
請求項5に記載の発明では、還元剤溜まり部の高位部には、タンク側から還元剤添加手段側に還元剤を給送する送り流路部が接続され、同還元剤溜まり部の低位部には、還元剤排出処理の実施時に還元剤溜まり部から還元剤を排出する排出流路部が接続されている。
【0015】
上記構成によれば、通常の還元剤給送時(還元剤添加手段側への給送時)には、還元剤溜まり部の高位部(上部)に接続された送り流路部を通じて還元剤が流通されるのに対し、還元剤排出時には、還元剤溜まり部の低位部(下部)に接続された排出流路部を通じて還元剤が排出される。この場合、還元剤排出処理の実施後には、還元剤溜まり部内において排出流路部よりも上方に所定の空きスペースが確保され、しかもその空きスペースに送り流路部が連通する。これにより、残留還元剤が凍結した状態であっても、次回のポンプ起動時には送り流路部を通じて還元剤の流通が可能となる。
【0016】
請求項6に記載の発明では、給送構造として、還元剤タンクの出口部分から還元剤添加手段までの還元剤配管の一部を上下2系統に分岐させて設けた上側配管部と下側配管部とを備え、下側配管部は、還元剤タンクの出口部分から還元剤添加手段までの還元剤経路の途中において最も低い位置に設けられ、還元剤排出処理の実施後における残留還元剤を溜める還元剤溜まり部となっている。また、上側配管部は、還元剤排出処理の実施後において空きスペースとなり、それよりも還元剤タンク側の還元剤経路と還元剤添加手段側の還元剤経路とを連通する経路連通部となっている。
【0017】
上記構成によれば、通常の還元剤給送時(還元剤添加手段側への給送時)には、上下2系統の還元剤配管のうち少なくとも一方の配管を通じて還元剤が流通される。また、還元剤供給の停止後に還元剤排出処理が実施されると、上下2系統の還元剤配管のうち下側配管内に還元剤が残留し、上側配管内が空きスペース(カラ)になる。この場合、残留還元剤が凍結した状態であっても、次回のポンプ起動時には上側配管を通じて還元剤の流通が可能となる。したがって、ポンプ起動当初において還元剤の給送不良などが生じることを抑制できる。
【0018】
ここで、請求項7に記載したように、下側配管部は、上側配管部よりも開口断面が大きいものであるとよい。本構成によれば、残留還元剤の貯留スペースを十分に確保しつつ、タンク側から還元剤添加手段側に通じる還元剤経路の開口断面の面積を最小限に抑えることができる。これは、上側配管部と下側配管部とにより2系統の還元剤経路が構成される場合において、還元剤を好適に流通させる上で有利な構成である。
【0019】
一方、請求項8に記載の発明では、給送構造は、還元剤タンクの出口部分から還元剤添加手段までの還元剤経路の途中において最も低い位置に設けられ、還元剤排出処理の実施後における残留還元剤を溜める還元剤溜まり部と、次回のポンプ起動に伴う還元剤の供給開始時に、還元剤溜まり部に溜まっている残留還元剤を加熱する加熱手段と、を備える。
【0020】
請求項8の発明によれば、還元剤排出処理の実施後において、残留還元剤は重力により還元剤経路の最も低い位置にある還元剤溜まり部に溜められる。かかる場合、還元剤溜まり部に溜まった残留還元剤が凍結したとしても、次回のポンプ起動において加熱手段の加熱により解凍される。したがって、還元剤が凍結状態となった後のポンプ起動時であっても、その起動当初において還元剤の給送不良などが生じることを抑制できる。特に本構成では、還元剤溜まり部のみ加熱すればよいため、その加熱対象を最小限にできる等の効果が得られる。
【0021】
ここで、請求項9に記載したように、還元剤溜まり部は、還元剤排出処理の実施後における還元剤の予測残留量分よりも大きい容積を有しているものであるとよい。これにより、還元剤溜まり部に残留還元剤を溜めた状態でも、還元剤溜まり部内の上部に空きスペースを確保することが可能となる。
【0022】
なお、還元剤の凍結時には体積の増加があるため、還元剤溜まり部は、凍結時の体積増加分を見込んだ容積を有するものであるとよい。還元剤の予測残留量は、システムごとにあらかじめ定められているとよい。
【0023】
本発明の還元剤供給システムとしては、選択還元型NOx触媒等のNOx触媒を用いた排気浄化装置に適用されるものが知られている(請求項10)。この場合、還元剤は、排気通路においてNOx触媒よりも上流側に添加され、この添加された還元剤により、NOx触媒において好適なるNOx浄化が行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した排気浄化システムの実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態の排気浄化システムは、自動車に搭載されるディーゼルエンジンの排気を浄化するものであり、選択還元型触媒を用いて排気中のNOxを浄化する、いわゆる尿素SCRシステムとして構築されている。はじめに、図1を参照してこのシステムの構成について詳述する。図1は、本実施形態に係る尿素SCRシステムの概要を示す構成図である。なお図1は、本システムを自動車に取り付けた状態で水平方向から見たものであり、図中のXは水平方向を、Yは鉛直方向を示している。
【0025】
エンジン排気系の構成として具体的には、図示しないエンジン本体に接続された排気管11が設けられており、その排気管11にはDPF(Diesel Particulate Filter)12と選択還元触媒(以下、SCR触媒という)13とが配設されている。また、排気管11においてDPF12とSCR触媒13との間には、液状還元剤としての尿素水(尿素水溶液)を排気管11内に添加供給するための尿素水添加弁15が設けられている。なお、実際には排気管11は複数の管材が連結されて構成されているが、ここではそれらを総じて排気管11としている。
【0026】
本実施形態では、排気管11においてDPF12とSCR触媒13との間の配管部分は上下にクランク状に曲がった曲がり管にて構成されており、その曲がり管の外側部分に尿素水添加弁15が配設されている。尿素水添加弁15は、概ね水平方向に延び、かつ先端噴出部15aがSCR触媒13に対向する向きで設けられている。
【0027】
排気管11においてSCR触媒13の下流側には、NOx検出部(NOxセンサ)と排気温検出部(排気温センサ)とが共に内蔵された排気センサ16が設けられており、同SCR触媒13の下流側にて、排気中のNOx濃度(ひいてはSCR触媒13によるNOxの浄化率)と排気の温度とが検出されるようになっている。図示は略すが、排気管11の更に下流には、余剰のアンモニア(NH3)を除去するためのアンモニア除去装置(例えば酸化触媒)や、排気中のアンモニア量を検出するためのアンモニアセンサ等が必要に応じて設けられる。
【0028】
DPF12は、排気中のPM(粒子状物質)を捕集するPM除去用フィルタである。DPF12は白金系の酸化触媒を担持しており、PM成分の1つである可溶性有機成分(SOF)とともに、HCやCOを除去することができるようになっている。ちなみに、DPF12に捕集されたPMは、ディーゼルエンジンにおけるメイン燃料噴射後のポスト噴射等により燃焼除去でき(再生処理に相当)、これによりDPF12の継続使用が可能となっている。
【0029】
SCR触媒13はNOxの還元反応(排気浄化反応)を促進するものであり、例えば、4NO+4NH3+O2→4N2+6H2O …(式1)
6NO2+8NH3→7N2+12H2O …(式2)
NO+NO2+2NH3→2N2+3H2O …(式3)
のような反応を促進して排気中のNOxを還元する。そして、これらの反応においてNOxの還元剤となるアンモニア(NH3)を供給するものが、同SCR触媒13の上流側に設けられた尿素水添加弁15である。
【0030】
尿素水添加弁15は、既存の燃料噴射弁(インジェクタ)とほぼ同様の構成を有するものであり、公知の構成が採用できるため、ここでは構成を簡単に説明する。尿素水添加弁15は、電磁ソレノイド等からなる駆動部と、尿素水を流通させる尿素水通路や、先端噴出部15aを開閉するためのニードルを有する弁体部とを備えた電磁式開閉弁として構成されており、ECU40からの駆動信号に基づき開弁又は閉弁する。すなわち、前記駆動信号に基づき電磁ソレノイドが通電されると、該通電に伴いニードルが開弁方向に移動し、そのニードル移動に伴い先端噴出部15aから尿素水が添加(噴射)される。
【0031】
尿素水添加弁15に対しては、尿素水タンク21から尿素水が逐次供給されるようになっており、次に、尿素水供給系の構成について説明する。なお以下には、説明の便宜上、尿素水タンク21から尿素水添加弁15に対して尿素水が供給される場合を基準としてタンク側を上流側、尿素水添加弁側を下流側として記載する。
【0032】
尿素水タンク21は給液キャップ付きの密閉容器にて構成されており、その内部に所定濃度の尿素水が貯蔵されている。なお、タンク内尿素水の凍結対策として、尿素水タンク21にヒータを付設したり、タンク周りに断熱シート等の断熱材を配設したりすることも可能である。
【0033】
尿素水タンク21と尿素水添加弁15とは尿素水配管22により接続されており、同尿素水配管22の途中に尿素水ポンプ23が設けられている。尿素水配管22内に尿素水通路(還元剤通路)が形成されている。尿素水ポンプ23は、ECU40からの駆動信号により回転駆動されるインライン式の電動ポンプであり、正逆いずれの方向にも回転が可能となっている。尿素水ポンプ23が所定の正回転方向に回転駆動されることにより、尿素水タンク21内の尿素水が汲み上げられ、尿素水配管22を通じて尿素水添加弁15側に吐出(圧送)される。また、尿素水ポンプ23が逆回転方向に回転駆動されることにより、尿素水添加弁15側から尿素水配管22を通じて尿素水が吸い戻される。本実施形態では、尿素水タンク21外に、すなわち尿素水に浸漬しない状態で尿素水ポンプ23が設けられているため、尿素水の凍結・膨張による尿素水ポンプ23の破損を抑制できるようになっている。
【0034】
また、尿素水配管22の途中には、当該尿素水配管22よりも開口断面が大きい部位である尿素水溜まり部31を有してなる流通調整装置30が設けられている。ただしその詳細は後述する。
【0035】
尿素水供給系の他の構成として、尿素水配管22には、尿素水配管22内の尿素水の圧力を検出するための圧力センサ25と、同尿素水の温度を検出するための温度センサ26とが設けられている。
【0036】
上記システムの中で電子制御ユニットとして主体的に排気浄化に係る制御を行う部分がECU40である。ECU40は、周知のマイクロコンピュータ(図示略)を備えて構成され、ECU40には、上述した排気センサ16、圧力センサ25、温度センサ26の検出信号が逐次入力される。ECU40は、これら各種センサの検出値に基づいて所望とされる態様で尿素水添加弁15をはじめとする各種アクチュエータを操作することにより、排気浄化に係る各種の制御を実施する。具体的には、例えば尿素水添加弁15の通電時間や尿素水ポンプ23の駆動量等を制御することにより、排気管11内に、適切な時期に適正な量の尿素水を添加供給する。
【0037】
本実施形態に係る上記システムでは、エンジン運転時において、尿素水ポンプ23の駆動により尿素水タンク21内の尿素水が尿素水配管22を通じて尿素水添加弁15に圧送され、尿素水添加弁15により排気管11内に尿素水が添加供給される。すると、排気管11内において排気と共に尿素水がSCR触媒13に供給され、SCR触媒13においてNOxの還元反応が行われることによってその排気が浄化される。NOxの還元に際しては、例えば、
(NH2)2CO+H2O→2NH3+CO2 …(式4)
のような反応をもって、尿素水が排気熱で加水分解されることによりアンモニア(NH3)が生成され、SCR触媒13にアンモニアが吸着するとともに同SCR触媒13において排気中のNOxがアンモニアにより選択的に還元除去される。すなわち、同SCR触媒13上で、そのアンモニアに基づく還元反応(上記反応式(式1)〜(式3))が行われることによって、NOxが還元、浄化されることになる。
【0038】
ところで、本実施形態では、エンジン停止に伴い尿素水ポンプ23の駆動が停止された後には、尿素水排出処理として、尿素水添加弁15側から尿素水ポンプ23側に尿素水を吸い戻す吸い戻し処理(回収処理)が行われる。この吸い戻し処理は、エンジン停止後に尿素水ポンプ23を逆回転駆動させることで行われ、尿素水ポンプ23を逆回転駆動させることで尿素水配管22内の尿素水が概ね尿素水タンク21に吸い戻される(回収される)。この吸い戻し処理により、尿素水配管22内での残留尿素水の凍結膨張による尿素水配管22の破損等が抑制されるようになっている。
【0039】
補足すると、尿素水添加弁15(又はその近傍の尿素水配管22)には分岐管36が設けられており、その分岐管36にエア吸入弁37が設けられている。エア吸入弁37は、内蔵バネの付勢力と尿素水圧力とのバランスにより開閉する機械式のチェック弁により構成されており、本システムでは、エンジン停止後において尿素水ポンプ23が逆回転(尿素水吸い戻し状態)で駆動された時に尿素水配管22内の負圧によりエア吸入弁37が開放されて外部からエアが導入されるようになっている。なお、エア吸入弁37として電磁式の開閉弁を用い、エンジン停止後において尿素水ポンプ23が逆回転(尿素水吸い戻し状態)で駆動された時にエア吸入弁37が電気的に開放される構成とすることも可能である。
【0040】
尿素水の吸い戻し処理の実施後には、比較的少量であるが尿素水配管22内等に尿素水が残留する。そのため、残留尿素水が凍結することに起因して尿素水経路が閉塞され、次回のポンプ起動時(すなわち尿素水の給送開始時)において尿素水の給送不良などが生じると考えられる。
【0041】
そこで本実施形態では、尿素水の吸い戻し処理の実施後における残留尿素水の凍結対策として、尿素水配管22の途中に流通調整装置30を設けている。なお、この流通調整装置30が「給送構造」に相当する。図1に示すように、流通調整装置30は、尿素水吸い戻し処理の実施後における残留尿素水を溜める尿素水溜まり部31と、この尿素水溜まり部31よりもタンク側に設けられる流路切替部32と、尿素水溜まり部31及び流路切替部32の間に並列に設けられる2つの配管部33,34とを備える。
【0042】
尿素水溜まり部31は、尿素水タンク21の出口部分(すなわちタンク21と配管22との接続部)から尿素水添加弁15までの尿素水経路の途中において最も低い位置に設けられる貯留容器であり、尿素水吸い戻し処理の実施後には、尿素水配管22等に残留する尿素水、換言すれば吸い戻ししきれなかった尿素水が、重力により尿素水溜まり部31に溜められるようになっている。尿素水溜まり部31は、尿素水の吸い戻し処理の実施後における尿素水の予測残留量分(実験等により予め定めた尿素量分)よりも大きい容積を有するものとなっている。尿素水溜まり部31に接続される上流側の尿素水配管22及び下流側の尿素水配管22はいずれも上下方向に延びる向きで設けられ、それにより、尿素水溜まり部31が低位置に設置される構成となっている。なお、尿素水溜まり部31は、その容器内部の底面が他の部位よりも低くなるように設置されればよい。
【0043】
尿素水溜まり部31は、それ以外の配管部分(尿素水配管22等)の開口径に比して開口断面の上下高さ寸法が大きいものである。より具体的には、尿素水溜まり部31の開口断面は図2(図1のA−A線断面図)に示す形状となっており、その高さ寸法Hが尿素水配管22等の開口径(図示略)よりも大きいものとなっている。また、図2(a)から分かるように、尿素水溜まり部31は、その開口断面の上部(設置状態で重力方向上方となる部位)が幅狭、下部(設置状態で重力方向下方となる部位)が幅広に形成されている。
【0044】
なお、尿素水溜まり部31の断面形状は図示のものに限られず、開口断面の上部が幅狭、下部が幅広に形成されるものであれば、略L字状をなすもの、略三角形状をなすもの等であってもよい。
【0045】
また、2つの配管部33,34のうち一方の配管部33は、尿素水タンク21側から尿素水添加弁15側への尿素水流通時、すなわち尿素水添加弁15による尿素水添加時に尿素水を流通させる配管部であり(以下、送り配管部33という)、他方の配管部34は、尿素水添加弁15側からタンク21側への尿素水流通時、すなわち尿素水吸い戻し時に尿素水を流通させる配管部である(以下、吸い戻し配管部34という)。送り配管部33は、その下流側(尿素水添加弁15側)が尿素水溜まり部31の高位部に接続されているのに対し、吸い戻し配管部34は、その下流側(尿素水添加弁15側)が尿素水溜まり部31の低位部に接続されている。
【0046】
流路切替部32は、2つの配管部33,34のうちいずれをその上流側の尿素水配管22に連通するかを切り替える電磁式の流路切替弁であり、ECU40によりその切替が行われる。この場合、尿素水添加弁15による尿素水添加時には送り配管部33が尿素水配管22に連通され、尿素水吸い戻し時には吸い戻し配管部34が尿素水配管22に連通されるようになっている。
【0047】
次に、尿素水の添加時及び吸い戻し時における動作について図3を用いて説明する。図3において、(a)は尿素水添加時の状態を示し、(b)は尿素水吸い戻し後の状態を示す。なお、図中のハッチング部分が尿素水の存在を示している。
【0048】
図3(a)に示す尿素水添加時には、尿素水ポンプ23が正回転駆動され、尿素水タンク21内の尿素水が尿素水配管22を通じて尿素水添加弁15側に給送される。このとき、尿素水タンク21の出口部分から尿素水添加弁15までの尿素水経路内が全て尿素水で満たされている。
【0049】
これに対し、図3(b)に示す尿素水吸い戻し後には、尿素水ポンプ23が逆回転駆動され、尿素水添加弁15や尿素水配管22、尿素水溜まり部31等の内部に存在する尿素水が吸い戻し配管部34を介して尿素水タンク21側に吸い戻される。このとき、吸い戻しきれずに配管等に残留する尿素水は、図示のように最も低い位置にある尿素水溜まり部31に流れ込み、同尿素水溜まり部31内に溜まることとなる。かかる場合、尿素水溜まり部31は尿素水の予測残留量分よりも大きい容積を有するため、尿素水溜まり部31内に残留尿素水が溜まっても、図示のごとく尿素水溜まり部31の内部に空きスペースSが確保される。尿素水溜まり部31内の空きスペースSについては図2(b)も参照されたい。この状態では、尿素水溜まり部31内の空きスペースSにより、それよりもタンク21側の尿素水経路と尿素水添加弁15側の尿素水経路とが連通される状態となっている。
【0050】
上記図3(b)の状態となった後で車両が放置され、その後、残留尿素水が凍結したとしても、尿素水溜まり部31内の空きスペースSにより、それよりもタンク21側の尿素水経路と尿素水添加弁15側の尿素水経路とが連通される状態が保持される。したがって、残留尿素水が凍結した状態で、エンジン始動に伴い尿素水ポンプ23が起動される場合において、その起動当初から、尿素水タンク21から尿素水添加弁15への尿素水の給送及び排気管11内への尿素水の添加が可能となる。
【0051】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0052】
タンク出口部分から尿素水添加弁15までの尿素水経路の途中において最も低い位置に、尿素水吸い戻し後における残留尿素水を溜める尿素水溜まり部31を設け、その尿素水溜まり部31が、残留尿素水が凍結した状態で、それよりもタンク側の尿素水経路と尿素水添加弁15側の尿素水経路とを空きスペースSで連通するものであるとした。本構成によれば、尿素水溜まり部31では、尿素水吸い戻し後に残留尿素水が凍結しても、空きスペースSを利用して尿素水タンク21から尿素水添加弁15への尿素水の流通が可能となる。したがって、尿素水が凍結状態となった後のポンプ起動時(エンジン始動時)であっても、その起動当初において尿素水の給送不良などが生じることを抑制できる。その結果、ポンプ起動時にはその当初から排気管11のSCR触媒13に対して尿素水を好適に添加供給することができる。
【0053】
上記のようにSCR触媒13に対して尿素水を好適に添加供給することができれば、SCR触媒13でのNOx浄化を適正に行わせることができる。
【0054】
尿素水溜まり部31は、それ以外の配管部分の開口径に比して開口断面の上下高さ寸法が大きいものであり、かつその開口断面の上部が幅狭、下部が幅広であるため、尿素水溜まり部31に残留尿素水を溜める構成において、尿素水溜まり部31内の上部に空きスペースSを容易に確保できる。また、残留尿素水の貯留スペースを十分に確保しつつ、尿素水溜まり部31の開口断面の面積を最小限に抑えることができる。これは、尿素水溜まり部31が尿素水経路の一部を構成する場合において、尿素水を好適に流通させる上で有利な構成である。
【0055】
尿素水溜まり部31の高位部に、尿素水タンク21側から尿素水添加弁15側に尿素水を給送する送り配管部33を接続するとともに、低位部に、尿素水吸い戻し時に尿素水溜まり部31から尿素水を吸い戻す吸い戻し配管部34を接続する構成とした。これにより、通常の尿素水添加時において好適に尿素水の供給が実現できることは当然のこと、尿素水吸い戻し後には、尿素水溜まり部31内において吸い戻し配管部34よりも上方に所定の空きスペースSを確保し、しかもその空きスペースSに送り配管部33を連通させることができる。これにより、エンジン停止中に残留尿素水が凍結した状態であっても、次回のポンプ起動時には送り配管部33を通じて尿素水の流通が可能となる。
【0056】
尿素水溜まり部31は、尿素水吸い戻し後における尿素水の予測残留量分よりも大きい容積を有しているため、残留尿素水を溜めた状態でも、尿素水溜まり部31の上部に空きスペースSを確保することが可能となる。
【0057】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を上記第1の実施形態との相違点を中心に説明する。本実施形態では、尿素水配管22の一部を尿素水溜まり部として利用する構成について説明する。
【0058】
図4は本実施形態における尿素水供給系の構成を示す図である。なお、図4においても上記図1と同様に、図中のXは水平方向を、Yは鉛直方向を示している。
【0059】
図4に示すように、尿素水配管22は、一部が尿素水タンク21の出口部分(すなわちタンク21と配管22との接続部)から尿素水添加弁15までの尿素水経路の途中において最も低くなるよう形成されており、その最低位部位が尿素水溜まり部51である。この尿素水溜まり部51には、尿素水吸い戻し処理の実施後において、尿素水配管22等に残留する尿素水、換言すれば吸い戻ししきれなかった尿素水が、重力により溜められるようになっている。
【0060】
尿素水溜まり部51は、尿素水の吸い戻し処理の実施後における尿素水の予測残留量分よりも大きい容積を有し、かつ水平となる向きに車両に設置されるものとなっている。また、尿素水溜まり部51は、それ以外の配管部分(尿素水配管22)の開口径に比して開口断面の高さ寸法が大きい配管にて構成されている。より具体的には、尿素水溜まり部51の開口断面は例えば楕円形状であり、その長径が上下(重力方向上下)になるように設置される。例えば、短径に対して長径が2倍又は2倍以上であるとよい。その他に、尿素水溜まり部51として他の配管部分(尿素水配管22)よりも大径の円形配管を用いることも可能である。ただし、尿素水溜まり部51を他の配管部分(尿素水配管22)と同じ配管にて構成することも可能である。
【0061】
次に、尿素水の添加時及び吸い戻し時における動作について図5を用いて説明する。図5において、(a)は尿素水添加時の状態を示し、(b)は尿素水吸い戻し後の状態を示す。なお、図中のハッチング部分が尿素水の存在を示している。
【0062】
図5(a)に示す尿素水添加時には、尿素水ポンプ23が正回転駆動され、尿素水タンク21内の尿素水が尿素水配管22を通じて尿素水添加弁15側に給送される。このとき、尿素水タンク21の出口部分から尿素水添加弁15までの尿素水経路内が全て尿素水で満たされている。
【0063】
これに対し、図5(b)に示す尿素水吸い戻し後には、尿素水ポンプ23が逆回転駆動され、尿素水添加弁15や尿素水配管22に存在する尿素水が尿素水タンク21側に吸い戻される。このとき、吸い戻しきれずに配管等に残留する尿素水は、図示のように尿素水溜まり部51内に溜まることとなる。かかる場合、尿素水溜まり部51は尿素水の予測残留量分よりも大きい容積を有するため、尿素水溜まり部51内に残留尿素水が溜まっても、図示のごとく尿素水溜まり部51の内部に空きスペースSが確保される。この状態では、尿素水溜まり部51内の空きスペースSにより、それよりもタンク21側の尿素水経路と尿素水添加弁15側の尿素水経路とが連通される状態となっている。また、残留尿素水が凍結したとしても、空きスペースSは確保されるようになっている。したがって、残留尿素水が凍結した状態で、エンジン始動に伴い尿素水ポンプ23が起動される場合において、その起動当初から、尿素水タンク21から尿素水添加弁15への尿素水の給送及び排気管11内への尿素水の添加が可能となる。
【0064】
以上第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、ポンプ起動時(エンジン始動時)にはその当初から排気管11のSCR触媒13に対して尿素水を好適に添加供給することができる。
【0065】
(第3の実施形態)
本実施形態では、上述した各実施形態との相違点として、尿素水タンク21の出口部分から尿素水添加弁15までの尿素水配管22の一部を上下2系統に分岐させて設けている。図6は本実施形態における尿素水供給系の構成を示す図である。なお、図6においても上記図1と同様に、図中のXは水平方向を、Yは鉛直方向を示している。
【0066】
図6では、尿素水配管22は、尿素水タンク21の出口部分(すなわちタンク21と配管22との接続部)から尿素水添加弁15までの尿素水経路の途中で上下2系統に分岐して設けられており、そのうち上方が上側配管部53、下方が下側配管部54となっている。下側配管部54は、尿素水タンク21の出口部分から尿素水添加弁15までの尿素水経路の途中において最も低い位置に設けられており、この下側配管部54には、尿素水吸い戻し処理の実施後において、尿素水配管22等に残留する尿素水、換言すれば吸い戻ししきれなかった尿素水が、重力により溜められるようになっている。下側配管部54は、尿素水の吸い戻し処理の実施後における尿素水の予測残留量分よりも大きい容積を有している。
【0067】
また、上側配管部53は、尿素水添加弁15とほぼ同じ高さで設けられており、尿素水吸い戻し後には空きスペースとなり、それよりもタンク21側の尿素水経路と尿素水添加弁15側の尿素水経路とを連通する。なお、上側配管部53が「経路連通部」に、下側配管部54が「還元剤溜まり部」に、これら各配管部53,54が「給送構造」に相当する。
【0068】
本実施形態では、上側配管部53及び下側配管部54を他の配管部と同じ配管を用いて構成している。ただし、上側配管部53と下側配管部54とで異なる配管を用いてもよく、かかる場合には下側配管部54として上側配管部53よりも開口断面が大きいものを用いるとよい。
【0069】
次に、尿素水の添加時及び吸い戻し時における動作について図7を用いて説明する。図7において、(a)は尿素水添加時の状態を示し、(b)は尿素水吸い戻し後の状態を示す。なお、図中のハッチング部分が尿素水の存在を示している。
【0070】
図7(a)に示す尿素水添加時には、尿素水ポンプ23が正回転駆動され、尿素水タンク21内の尿素水が尿素水配管22を通じて尿素水添加弁15側に給送される。このとき、尿素水タンク21の出口部分から尿素水添加弁15までの尿素水経路内(上側配管部53及び下側配管部54を含む)が全て尿素水で満たされている。
【0071】
ちなみに、尿素水添加時には、上側配管部53及び下側配管部54のいずれか一方を通じて尿素水を流通させる構成であってもよい。例えば、両配管部53,54の上流側分岐部に流路切替装置を設け、その流路切替装置の切替操作により、両配管部53,54のいずれか一方のみを通じて尿素水を流通させる。
【0072】
これに対し、図7(b)に示す尿素水吸い戻し後には、尿素水ポンプ23が逆回転駆動され、尿素水添加弁15や尿素水配管22に存在する尿素水が尿素水タンク21側に吸い戻される。このとき、吸い戻しきれずに配管等に残留する尿素水は、図示のように下側配管部54内に溜まることとなる。かかる場合、下側配管部54は尿素水の予測残留量分よりも大きい容積を有するため、下側配管部54内に残留尿素水が溜まっても、図示のごとく上側配管部53内に空きスペースSが確保される。この状態では、上側配管部53内の空きスペースSにより、それよりもタンク21側の尿素水経路と尿素水添加弁15側の尿素水経路とが連通される状態となっている。また、残留尿素水が凍結したとしても、空きスペースSは確保されるようになっている。したがって、残留尿素水が凍結した状態で、エンジン始動に伴い尿素水ポンプ23が起動される場合において、その起動当初から、尿素水タンク21から尿素水添加弁15への尿素水の給送及び排気管11内への尿素水の添加が可能となる。
【0073】
以上第3の実施形態においてもやはり、第1の実施形態と同様に、ポンプ起動時(エンジン始動時)にはその当初から排気管11のSCR触媒13に対して尿素水を好適に添加供給することができる。
【0074】
下側配管部54として、上側配管部53よりも開口断面が大きいものを用いる構成とした場合には、残留尿素水の貯留スペースを十分に確保しつつ、尿素水タンク21側から尿素水添加弁15側に通じる尿素水経路の開口断面の面積を最小限に抑えることができる。これは、上下2つの配管部53,54により2系統の尿素水経路が構成される場合において、尿素水を好適に流通させる上で有利な構成である。
【0075】
(第4の実施形態)
本実施形態では、尿素水溜まり部に溜まった残留尿素水が凍結状態になっている場合に、その凍結状態の尿素水を加熱手段の加熱により解凍する構成を採用している。図8は、本実施形態における尿素水供給系の構成を示す図である。なお、図8においても上記図1と同様に、図中のXは水平方向を、Yは鉛直方向を示している。図中のハッチング部分が尿素水の存在を示している。
【0076】
図8において、尿素水配管22は、一部が尿素水タンク21の出口部分(すなわちタンク21と配管22との接続部)から尿素水添加弁15までの尿素水経路の途中において最も低位置になるように形成されており、その低位部位が尿素水溜まり部61である。この尿素水溜まり部61には、尿素水吸い戻し処理の実施後において、尿素水配管22等に残留する尿素水、換言すれば吸い戻ししきれなかった尿素水が、重力により溜められるようになっている。
【0077】
ここで、尿素水配管22の一部が尿素水溜まり部61となっている構成は図4等と同じであるが、本実施形態は、尿素水溜まり部61内に「空きスペースS」が形成される構成ではなく、図示のハッチング部分のように尿素水溜まり部61が残留尿素水で満たされるようになっている。
【0078】
また、尿素水溜まり部61を囲むようにして加熱装置62が設けられている。加熱装置62は、不凍液を収容し尿素水溜まり部61の周囲に設けられる不凍液容器63と、その不凍液容器63内の不凍液に対してマイクロ波を照射するマグネトロン64と、不凍液容器63内の不凍液の温度を検出する温度センサ65とを備える。温度センサ65の検出結果はECU40に入力され、その入力に基づいてECU40がマグネトロン64の駆動を制御する。
【0079】
図9は、エンジン始動時における尿素水の加熱処理を示すフローチャートであり、本処理は、イグニッションスイッチのオン操作など、所定のエンジン始動操作に伴いECU40により起動される。
【0080】
図9において、まずステップS11では、不凍液温度が所定値K1以下であるか否かを判定する。所定値K1は、残留尿素水の凍結温度(−11℃)に基づいて定められている。例えばK1は「−11℃」、又は「−11±α℃」である。ステップS11がYESであれば後続のステップS12に進み、NOであればそのまま本処理を終了する。ステップS12では、加熱装置62のマグネトロン64に対して駆動信号を出力してマイクロ波を不凍液に対して照射させる。つまり、マイクロ波の照射により不凍液温度を上昇させ、尿素水溜まり部61を周囲から加熱することで残留尿素水を解凍する。
【0081】
その後、ステップS13では、不凍液温度が所定値K2以上に上昇したか否かを判定する。K2≧K1であり、例えばK2=K1である。YESであれば後続のステップS14に進み、NOであればステップS12に戻りマイクロ波の照射を継続する。ステップS14ではマイクロ波の照射を停止し、続くステップS15では、尿素水ポンプ23や尿素水添加弁15の作動開始を許可する。これにより、エンジン始動後において排気管11内に対する尿素水の添加供給が開始される。
【0082】
以上第4の実施形態によれば、エンジン始動時において尿素水溜まり部61内の残留尿素水が加熱されることで、凍結状態にある残留尿素水が解凍される。したがって、残留尿素水が凍結した後のポンプ起動時(エンジン始動時)であっても、その起動当初において尿素水の給送不良などが生じることを抑制できる。特に本構成では、尿素水溜まり部61のみ加熱すればよいため、その加熱対象を最小限にできる等の効果が得られる。
【0083】
上記のように、マイクロ波照射式の加熱装置62により加熱手段を具体化する以外に、ヒータ加熱式の加熱装置により加熱手段を具体化してもよい。具体的には、尿素水溜まり部61の付近にヒータを設け、エンジン始動時には残留尿素水の温度に基づいてヒータの通電を制御する。例えば、エンジン始動時において、残留尿素水の温度が尿素水凍結温度(−11℃)以下であればヒータ通電をオンし、そのヒータ通電を、尿素水温度が尿素水凍結温度以上になるまで継続する。
【0084】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施されてもよい。
【0085】
・上記実施形態では、尿素水吸い戻し処理を実施する際、エア吸入弁37を機械的に又は電気的に開弁させて外部エアを配管内に導入する構成としたが、これを変更する。例えば、尿素水吸い戻し処理を実施する際、尿素水添加弁15を開弁させて外部エアを配管内に導入する構成としてもよい。
【0086】
・上記実施形態では、エンジン停止後の還元剤排出処理として、尿素水添加弁15から尿素水タンク21側に尿素水を吸い戻す吸い戻し処理を実施したが、これを変更し、尿素水添加弁15から排気管11内に尿素水を噴出する尿素水噴出処理を実施する構成としてもよい。この場合、尿素水噴出処理では、エンジン停止後に、尿素水添加弁15を開弁させた状態で尿素水ポンプ23を正回転駆動させて、尿素水配管22内等の尿素水を尿素水添加弁15の先端噴出部15aから排出する。本構成においても、尿素水噴出処理の実施後には少量ながら尿素水が残留するが、上記のとおり尿素水配管22の途中に尿素水溜まり部31等を設けることにより、次回のポンプ起動時(エンジン始動時)における尿素水の添加を好適に実施できる。具体的には、図1に示す尿素水溜まり部31を備える構成、図4に示す尿素水溜まり部51を備える構成、図6に示す上側配管部53及び下側配管部54を備える構成、図8に示す尿素水溜まり部61及び加熱装置62を備える構成のいずれかが適用できる。
【0087】
・還元剤溜まり部となる配管部(尿素水溜まり部31,51,61、下側配管部54)を伸縮変形可能な配管で構成することが可能である。例えば、伸縮可能な材料(合成樹脂材料等)又は伸縮可能な形態(蛇腹状など)により還元剤溜まり部を構成する。この場合、還元剤溜まり部に残留する還元剤(尿素水)が凍結により膨張しても、その膨張による体積増加分を配管部の変形により吸収できる。
【0088】
・タンク出口部分から還元剤添加手段(尿素水添加弁15)までの還元剤経路の途中に、還元剤溜まり部を複数設けることも可能である。
【0089】
・上記実施形態では、排気管11を上下に曲がった曲がり管にて構成し、その曲がり管の外側部分に尿素水添加弁15を水平方向に向けて設けたが、これを変更してもよい。例えば、排気管11の水平部分において、尿素水添加弁15を下向きに又は上向きに設置することも可能である。
【0090】
・上記実施形態では、尿素水ポンプ23としてインライン式の電動ポンプを用いたが、これを変更し、インタンク式の電動ポンプを用いることも可能である。すなわち、尿素水タンク21内に尿素水ポンプ23を設ける構成を採用する。
【0091】
・還元剤添加手段として、尿素水添加弁以外の構成を採用してもよい。例えば、還元剤添加手段として、エンジン排気管においてSCR触媒の上流側に細管状の添加ノズルを設け、その添加ノズルから尿素水(還元剤水溶液)を添加する構成としてもよい。
【0092】
・車載ディーゼルエンジン用の尿素SCRシステムとして実用化する以外に、例えばガソリンエンジン、特にリーンバーンエンジン用の尿素SCRシステムとして実用化することも可能である。また、尿素水以外の還元剤を用いる排気浄化システムにおいても本発明を同様に適用することが可能である。例えば、還元剤として、アンモニア含有の水溶液を用いることが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】第1の実施形態における尿素SCRシステムの概略を示す構成図。
【図2】図1のA−A線断面図。
【図3】尿素水の添加時及び吸い戻し後における動作を説明するための図。
【図4】第2の実施形態における尿素水供給系の構成を示す図。
【図5】尿素水の添加時及び吸い戻し後における動作を説明するための図。
【図6】第3の実施形態における尿素水供給系の構成を示す図。
【図7】尿素水の添加時及び吸い戻し後における動作を説明するための図。
【図8】第4の実施形態における尿素水供給系の構成を示す図。
【図9】エンジン始動時における尿素水の加熱処理を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0094】
11…排気管(排気通路)、13…SCR触媒(還元反応装置、NOx触媒)、15…尿素水添加弁(還元剤添加手段)、21…尿素水タンク(還元剤タンク)、22…尿素水配管(還元剤通路)、23…尿素水ポンプ、30…流通調整装置(給送構造)、31…尿素水溜まり部(還元剤溜まり部)、32…流路切替部、33…送り配管部(送り流路部)、34…吸い戻し配管部(排出流路部)、51…尿素水溜まり部(還元剤溜まり部)、53…上側配管部(経路連通部)、54…下側配管部(還元剤溜まり部)、61…尿素水溜まり部(還元剤溜まり部)、62…加熱装置(加熱手段)、S…空きスペース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状の還元剤を貯留する還元剤タンクと、該還元剤タンクに還元剤配管を介して接続され同タンク内の還元剤を所定の還元反応装置に向けて添加供給する還元剤添加手段と、前記還元剤添加手段に対して還元剤を給送するポンプとを備え、
前記還元剤添加手段への還元剤供給の停止後に、前記還元剤配管内の還元剤を排出する還元剤排出処理を実施する還元剤供給システムであって、
前記還元剤排出処理の実施後における配管内等の残留還元剤を、前記還元剤タンクの出口部分から前記還元剤添加手段までの還元剤経路の途中の所定場所に溜め、かつ前記ポンプの次回起動時に、前記残留還元剤が凍結状態にあっても前記還元剤タンクから前記還元剤添加手段への還元剤の給送を可能とする給送構造を備えることを特徴とする還元剤供給システム。
【請求項2】
前記給送構造として、前記還元剤タンクの出口部分から前記還元剤添加手段までの還元剤経路の途中において最も低い位置に、前記残留還元剤を溜める還元剤溜まり部を設け、
前記還元剤溜まり部は、前記残留還元剤が凍結した状態で、それよりも前記還元剤タンク側の還元剤経路と前記還元剤添加手段側の還元剤経路とを同還元剤溜まり部内の空きスペースで連通するものである請求項1に記載の還元剤供給システム。
【請求項3】
前記還元剤溜まり部は、それ以外の配管部分の開口径に比して開口断面の上下高さ寸法が大きいものである請求項2に記載の還元剤供給システム。
【請求項4】
前記還元剤溜まり部は、その開口断面の上部が幅狭、下部が幅広に形成されている請求項2又は3に記載の還元剤供給システム。
【請求項5】
前記還元剤溜まり部の高位部には、前記還元剤タンク側から前記還元剤添加手段側に還元剤を給送する送り流路部が接続され、同還元剤溜まり部の低位部には、前記還元剤排出処理の実施時に前記還元剤溜まり部から還元剤を排出する排出流路部が接続されている請求項2乃至4のいずれか一項に記載の還元剤供給システム。
【請求項6】
前記給送構造として、前記還元剤タンクの出口部分から前記還元剤添加手段までの還元剤配管の一部を上下2系統に分岐させて設けた上側配管部と下側配管部とを備え、
前記下側配管部は、前記還元剤タンクの出口部分から前記還元剤添加手段までの還元剤経路の途中において最も低い位置に設けられ、前記残留還元剤を溜める還元剤溜まり部であり、
前記上側配管部は、前記還元剤排出処理の実施後において空きスペースとなり、それよりも前記還元剤タンク側の還元剤経路と前記還元剤添加手段側の還元剤経路とを連通する経路連通部である請求項1に記載の還元剤供給システム。
【請求項7】
前記下側配管部は、前記上側配管部よりも開口断面が大きいものである請求項6に記載の還元剤供給システム。
【請求項8】
前記給送構造は、
前記還元剤タンクの出口部分から前記還元剤添加手段までの還元剤経路の途中において最も低い位置に設けられ、前記残留還元剤を溜める還元剤溜まり部と、
次回のポンプ起動に伴う還元剤の供給開始時に、前記還元剤溜まり部に溜まっている残留還元剤を加熱する加熱手段と、
を備える請求項1に記載の還元剤供給システム。
【請求項9】
前記還元剤溜まり部は、前記還元剤排出処理の実施後における還元剤の予測残留量分よりも大きい容積を有している請求項2乃至8のいずれか一項に記載の還元剤供給システム。
【請求項10】
内燃機関の排気通路に設けられ、前記還元剤により排気中のNOxを浄化するNOx触媒を備える排気浄化装置に適用され、
前記NOx触媒が前記還元反応装置であり、前記排気通路においてNOx触媒よりも上流側に前記還元剤を添加する請求項1乃至9のいずれか一項に記載の還元剤供給システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−24896(P2010−24896A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185312(P2008−185312)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】