説明

還元剤供給装置及び内燃機関の排気浄化装置

【課題】パージ処理によって排気中の異物が吸い込まれて還元剤噴射弁の噴孔近傍に堆積物が生成された場合であっても、内燃機関の始動時に当該堆積物を除去したうえで、還元剤の噴射制御を開始させることができる還元剤供給装置及び内燃機関の排気浄化装置を提供する。
【解決手段】液体の還元剤が収容された貯蔵タンクと、還元剤を圧送するポンプと、ポンプによって圧送された還元剤を内燃機関の排気管内に噴射する還元剤噴射弁と、を備え、内燃機関の停止後に、還元剤供給経路に残留する還元剤を貯蔵タンクに回収するパージ処理が実施される還元剤供給装置において、内燃機関の始動時に、還元剤供給経路内の圧力を通常の還元剤供給圧力よりも高い圧力にして還元剤噴射弁を開閉した後に、還元剤供給経路内の圧力を通常の還元剤供給圧力に戻す制御を実施する制御手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気中の窒素酸化物の浄化に用いる還元剤を排気管内に供給するための還元剤供給装置及びそのような還元剤供給装置を備えた内燃機関の排気浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関から排出される排気中の窒素酸化物(以下「NOX」と称する。)を除去する排気浄化装置の一態様として、排気通路に配設されたNOX浄化触媒と、尿素水溶液等の液体の還元剤をNOX浄化触媒の上流側で噴射する還元剤供給装置とを備えた装置が実用化されている。
【0003】
このような排気浄化装置に用いられる還元剤供給装置は、液体の還元剤を収容する貯蔵タンクと、貯蔵タンク内の還元剤を吸い上げて圧送するポンプと、圧送される還元剤を排気管内に噴射する還元剤噴射弁とを備えて構成されている。このうち還元剤噴射弁は、噴孔が排気管内に臨むように取り付けられ、還元剤を直接的に排気管内に噴射するようになっている。
【0004】
ここで、還元剤として尿素水溶液が用いられる場合、尿素水溶液の濃度は凝固点が最も低くなる濃度(例えば32.5%濃度、凝固点≒−11℃)に調整されて用いられる。しかしながら、寒冷地等において、内燃機関の停止中に外気温が凝固点を下回ると、還元剤供給経路内で還元剤が凝固することにより還元剤の体積が膨張して、還元剤供給管や還元剤噴射弁を破損させるおそれがある。そのため、内燃機関の停止時においては、還元剤供給経路内に残留する還元剤を貯蔵タンクに回収するパージ処理が実施されるようになっている(例えば特許文献1を参照)。
【0005】
また、還元剤の凝固は、尿素水溶液が還元剤噴射弁内に残留している間に、排気熱等によって還元剤噴射弁が加熱されることによっても生じ得る。具体的には、還元剤が加熱されることによってその濃度が濃くなり、凝固点が上昇する結果、還元剤が凝固しやすくなる。そのため、このような熱の影響により還元剤が凝固することによって生じる還元剤噴射弁の噴孔等の詰まりを抑制するように構成された還元剤供給装置が提案されている。具体的には、噴孔の詰まる時期を推定する詰まり推定手段と、詰まり推定手段により推定された詰まり時期よりも前に、あるいは、推定された詰まり時期よりも後に、還元剤を増量あるいは増圧等させて噴射する詰まり解消手段とを備えた還元剤供給装置が開示されている(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−101564号公報
【特許文献2】特開2003−222019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、上述したパージ処理は、還元剤噴射弁を開弁するとともに還元剤供給経路内を減圧することによって実行されるため、パージ処理中に排気管内の排気が還元剤供給経路内に吸い込まれることになる。その結果、排気に含まれる微粒子等の異物が噴孔近傍に付着して、堆積物が生成される場合がある。この堆積物によって噴孔が狭められると還元剤の噴射量が少なくなってしまうことから、堆積物は速やかに除去する必要がある。
【0008】
しかしながら、次回以降の内燃機関の運転時において、還元剤を通常の供給圧力にして噴射制御を実施しても、堆積物を除去できない場合が見られた。また、堆積物が残されたままで内燃機関の運転が継続されると、堆積物は排気熱等の影響を受けて変性し、除去することがさらに困難になるおそれがある。
【0009】
これに対して、特許文献2の還元剤供給装置では、還元剤の固化による噴孔の詰まりを抑制するために、還元剤の供給圧力を増圧して噴射が実施されるようになっているが、この還元剤供給装置は、外気温や還元剤温度、還元剤供給経路内の圧力等によって還元剤の固化が推定される場合にのみ、供給圧力が増圧されるものとなっている。また、この特許文献2の還元剤供給装置は、還元剤の噴射制御中において所定の制御を実施するものであって、上述したようなパージ処理によって吸い込まれる排気中の異物による堆積物については意図されていない。
【0010】
本発明の発明者らはこのような課題に鑑みて、内燃機関の始動時に、還元剤供給経路内の圧力を一旦通常の還元剤供給圧力よりも高い圧力にして還元剤噴射弁を開閉することによりこのような問題を解決できることを見出し、本発明を完成させたものである。すなわち、本発明は、パージ処理によって排気中の異物が吸い込まれて還元剤噴射弁の噴孔近傍に堆積物が生成された場合であっても、内燃機関の始動時に当該堆積物を除去したうえで、還元剤の噴射制御を開始させることができる還元剤供給装置及び内燃機関の排気浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、液体の還元剤が収容された貯蔵タンクと、還元剤を圧送するポンプと、ポンプによって圧送された還元剤を内燃機関の排気管内に噴射する還元剤噴射弁と、を備え、内燃機関の停止後に、還元剤供給経路に残留する還元剤を貯蔵タンクに回収するパージ処理が実施される還元剤供給装置において、内燃機関の始動時に、還元剤供給経路内の圧力を通常の還元剤供給圧力よりも高い圧力にして還元剤噴射弁を開閉した後に、還元剤供給経路内の圧力を通常の還元剤供給圧力に戻す制御を実施する制御手段を備えたことを特徴とする還元剤供給装置が提供され、上述した問題を解決することができる。
【0012】
すなわち、本発明の還元剤供給装置によれば、内燃機関の停止時に実施されたパージ処理によって排気中の異物が吸い込まれ、還元剤噴射弁の噴孔の近傍に堆積物が生成されていた場合であっても、次回の内燃機関の始動時に、通常の還元剤供給圧力よりも高い圧力で還元剤又は還元剤供給経路内の空気が噴射されて、堆積物が除去されるようになる。したがって、還元剤の噴射制御が開始された後において、噴射量が不足するおそれを低減することができる。また、内燃機関の始動時に堆積物が除去されるために、堆積物が変性することで除去が困難になることを防ぐことができる。
【0013】
また、本発明の還元剤供給装置を構成するにあたり、制御手段は、還元剤噴射弁の開閉を複数回実施することが好ましい。
【0014】
本発明において、還元剤噴射弁を開閉して堆積物を除去する際に、還元剤噴射弁を複数回開閉することにより、高圧での還元剤又は空気の噴射が複数回実施され、堆積物が生成されていた場合であっても、当該堆積物を確実に除去することができる。
【0015】
また、本発明の還元剤供給装置を構成するにあたり、制御手段は、還元剤噴射弁を開閉させる際に、瞬間的な開弁制御を実施することが好ましい。
【0016】
本発明において、還元剤噴射弁を開閉して堆積物を除去する際に、瞬間的に還元剤噴射弁を開閉することにより、堆積物を除去するための制御において排気管内に噴射される還元剤の量を少なくすることができる。
【0017】
また、本発明の還元剤供給装置を構成するにあたり、制御手段は、還元剤噴射弁の開閉によって、還元剤供給経路内の空気を噴射することが好ましい。
【0018】
本発明において、堆積物を除去するために実施される還元剤噴射弁の開閉によって、還元剤供給経路内の空気が噴射されるようにすることにより、堆積物を除去するための制御において排気管内に還元剤が噴射されることを防ぐことができる。
【0019】
また、本発明の別の態様は、上述したいずれかの還元剤供給装置と、還元剤供給装置から供給される還元剤を用いて窒素酸化物を浄化する触媒と、を備えることを特徴とする内燃機関の排気浄化装置である。
【0020】
すなわち、本発明の排気浄化装置によれば、内燃機関の始動時に、通常の還元剤供給圧力よりも高い圧力で還元剤又は還元剤供給経路内の空気が噴射されて、堆積物が除去されるようになっているため、還元剤の噴射制御中において、噴射量が不足するおそれを低減することができる。また、内燃機関の始動時に堆積物が除去されるために、堆積物が変性することで除去が困難になることを防ぐことができる。したがって、排気効率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係る排気浄化装置の構成例を示す全体図である。
【図2】還元剤供給装置の制御処理装置(制御手段)の構成例を示すブロック図である。
【図3】還元剤供給装置の作動状態を説明するための図である。
【図4】還元剤供給装置の制御方法について説明するためのタイムチャート図である。
【図5】還元剤供給装置の制御方法を説明するためのフローチャート図である。
【図6】内燃機関の始動時に実施される高圧噴射制御の具体例を説明するためのフローチャート図である。
【図7】内燃機関の通常運転状態において実施される還元剤の噴射制御の具体例を説明するためのフローチャート図である。
【図8】内燃機関の停止時に実施されるパージ処理の具体例を説明するためのフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、適宜図面を参照して、本発明の還元剤供給装置及び内燃機関の排気浄化装置に関する実施の形態について具体的に説明する。ただし、以下の実施の形態は、本発明の一態様を示すものであって本発明を限定するものではなく、本発明の範囲内で任意に変更することが可能である。
なお、それぞれの図中、同じ符号を付してあるものについては同一の部材が示され、適宜説明が省略されている。
【0023】
1.排気浄化装置
(1)全体的構成
図1は、本発明の実施の形態にかかる排気浄化装置10の構成の一例を示している。この排気浄化装置10は、車両等に搭載された内燃機関1から排出される排気中のNOXを、NOX浄化触媒11上で還元剤を用いて浄化するように構成された排気浄化装置である。
【0024】
排気浄化装置10は、内燃機関1の排気系に接続された排気管3の途中に介装されたNOX浄化触媒11と、NOX浄化触媒11の上流側において排気管3内に液体の還元剤を噴射供給するための還元剤供給装置20と、還元剤供給装置20の動作制御を行う制御処理装置40とを主たる要素として備えて構成されている。
【0025】
(2)NOX浄化触媒
NOX浄化触媒11は、排気管3内に噴射された還元剤(あるいは当該還元剤から生成される還元成分)と、排気中のNOXとの反応を促進させる機能を有している。NOX浄化触媒11としては、NOX選択還元触媒やNOX吸蔵触媒が用いられる。
【0026】
NOX選択還元触媒は、還元剤を吸着するとともに、この還元剤を用いて、触媒中に流入する排気中のNOXを選択的に浄化する機能を有する触媒である。NOX選択還元触媒を用いる場合においては、尿素水溶液や未燃燃料が還元剤として用いられる。還元剤として尿素水溶液を用いる場合には、尿素水溶液中の尿素の分解によって生成されるアンモニア(NH3)がNOXと反応することにより、NOXが窒素(N2)及び水(H2O)に分解される。また、還元剤として未燃燃料を用いる場合には、未燃燃料中の炭化水素(HC)がNOXと反応することにより、NOXが窒素(N2)、二酸化炭素(CO2)及び水(H2O)に分解される。
【0027】
また、NOX吸蔵触媒は、触媒中に流入する排気の空燃比がリーンの状態(燃料希薄状態)においてNOXを吸蔵する一方、空燃比がリッチの状態に切り換えられたときにNOXを放出し、排気中の炭化水素(HC)を用いてNOXを浄化する機能を有する触媒である。炭化水素(HC)と反応したNOXは窒素(N2)、二酸化炭素(CO2)及び水(H2O)に分解される。NOX吸蔵触媒を用いる場合においては、排気の空燃比をリッチの状態とするために、還元剤としての未燃燃料が排気管3内に噴射供給される。
【0028】
(3)還元剤供給装置
還元剤供給装置20は、液体の還元剤を収容する貯蔵タンク21と、還元剤を圧送するポンプ23を含むポンプユニット22と、ポンプ23により圧送された還元剤を排気管3内に噴射する還元剤噴射弁25とを備えている。このうち、ポンプ23及び還元剤噴射弁25は、制御処理装置40によって駆動制御が実施されるものとなっている。
【0029】
貯蔵タンク21とポンプ23とは第1の還元剤通路31で接続され、ポンプ23と還元剤噴射弁25とは第2の還元剤通路33で接続されている。この第2の還元剤通路33には、第2の還元剤通路33内の圧力Puを検出するための圧力センサ27が備えられている。また、第2の還元剤通路33には、他端が貯蔵タンク21に接続されたリターン通路35が接続されており、リターン通路35にはリリーフ弁37及びオリフィス38が、第2の還元剤通路23側から順に備えられている。
【0030】
還元剤噴射弁25は、例えば、通電/非通電の切り換えにより開弁/閉弁の切り換えが行われる電磁弁が用いられる。本実施形態において、還元剤噴射弁25は、排気管3内に直接的に還元剤を噴射するものであり、噴孔が排気管3内に臨むように排気管3の外周部に取り付けられている。本実施形態においては、ポンプ23の吐出口から還元剤噴射弁25の噴孔までの間をつなぐ、第2の還元剤通路33及び還元剤噴射弁25の還元剤の流通空間が、本発明における還元剤供給経路を構成している。
【0031】
ポンプ23は、例えば、通電量によって出力Vpumpを調節可能な電動ポンプが用いられる。本実施形態において、ポンプ23の出力Vpumpは、第2の還元剤通路33内の圧力Puが所定の目標設定圧(以下、単に「システム圧」と称する。)Psに維持されるように、圧力センサ27によって検出される圧力Puとシステム圧Psとの偏差ΔPuに基づいてフィードバック制御されるようになっている。
【0032】
また、ポンプユニット22には、ポンプ23によって圧送される還元剤の流れる向きを切り換えるためのリバーティングバルブ24が備えられている。リバーティングバルブ24は、例えば電磁切換弁によって構成され、制御処理装置40によって駆動されるようになっている。本実施形態において、リバーティングバルブ24は、非通電状態において、ポンプ23の入口側と第1の還元剤通路31、及び、ポンプ23の出口側と第2の還元剤通路33をそれぞれ接続する第1の状態とされる一方、通電状態において、ポンプ23の出口側と第1の還元剤通路31、及び、ポンプ23の入口側と第2の還元剤通路33をそれぞれ接続する第2の状態とされるものとなっている。
【0033】
そして、内燃機関1の始動後、イグニッションスイッチがオフにされるまでの間は、リバーティングバルブ24への通電は行われずに、還元剤が貯蔵タンク21側から還元剤噴射弁25側へ流れるようになっている。また、イグニッションスイッチがオフにされて還元剤を貯蔵タンク21に回収するパージ処理を行う場合には、リバーティングバルブ24への通電が行われ、還元剤が還元剤噴射弁25側から貯蔵タンク21側へと流れるように切り換えられる。なお、リバーティングバルブ24を用いないで、ポンプ23を逆回転させることでパージ処理を実施できるように構成されていてもよい。
【0034】
リリーフ弁37は貯蔵タンク21側から第2の還元剤通路33側への還元剤の流れを遮断する一方向弁として構成され、第2の還元剤通路33内の圧力Puがリリーフ弁37の開弁圧を上回ったときに開弁するようになっている。リリーフ弁37の開弁圧は、システム圧よりも低い値に設定されている。また、リリーフ弁37は、第2の還元剤通路33内から還元剤を回収するパージ処理時においては、第2の還元剤通路33内が減圧されることによって閉弁状態となる。
【0035】
リリーフ弁37の下流側に備えられたオリフィス38は、リリーフ弁37の開閉に合わせて第2の還元剤通路33内の圧力を必要以上に脈動させないようにする機能を有している。
【0036】
2.制御処理装置(制御手段)
図2は、本実施形態の制御処理装置40の構成のうち、還元剤供給装置20の動作制御に関連する部分を機能的なブロックで表したものである。この制御処理装置40は、本発明における制御手段を構成するものとなっている。
【0037】
制御処理装置40は、公知のマイクロコンピュータを中心に構成されたものであり、イグニッションスイッチ位置検出部41と、圧力検出部43と、ポンプ駆動制御部45と、リバーティングバルブ駆動制御部47と、還元剤噴射弁駆動制御部49とを主たる構成要素として備えている。具体的に、これらの各手段は、マイクロコンピュータによるプログラムの実行によって実現されるものとなっている。
【0038】
この他、制御処理装置40には、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)等の図示しない記憶素子や、ポンプ23、リバーティングバルブ24、還元剤噴射弁25への通電を行うための図示しない駆動回路等が備えられている。また、制御処理装置40には、圧力センサ27の検出信号やイグニッションスイッチの操作信号をはじめとして、還元剤供給装置20や内燃機関1等に備えられた種々のセンサ等の信号が入力されるようになっている。
【0039】
イグニッションスイッチ位置検出部41は、イグニッションスイッチの操作信号に基づいて、イグニッションスイッチの位置を検出するように構成されている。また、圧力検出部43は、圧力センサ27の検出信号に基づいて、第2の還元剤通路33内の圧力Puを検出するように構成されている。
【0040】
ポンプ駆動制御部45は、内燃機関1の通常の運転状態においては、圧力検出部43で検出される第2の還元剤通路33内の圧力Puがあらかじめ設定されたシステム圧Psとなるように、ポンプ23の出力の制御(通常運転モード)を行うように構成されている。本実施形態においては、イグニッションスイッチ位置検出部41によってイグニッションスイッチがオンになっていることが検出されている間、ポンプ駆動制御部45は、第2の還元剤通路33内の圧力Puとシステム圧Psとの偏差ΔPuを用いてポンプ23の出力Vpumpを求め、ポンプ23の駆動回路に対して指示を行うように構成されている。
【0041】
ただし、ポンプ駆動制御部45は、イグニッションスイッチがオンにされた後の所定の期間においては、第2の還元剤通路33内の圧力Puが、一旦通常のシステム圧Psよりも高い始動時圧力Pstとなるようにポンプ23の出力の制御(始動時モード)を行うように構成されている。この始動時モードでのポンプ23の制御は、後述する還元剤噴射弁駆動制御部49によって所定の開閉制御が実施されたときに解除されて、通常運転モードに移行する。
【0042】
さらに、ポンプ駆動制御部45は、内燃機関1の停止時においては、パージ処理を実施するために、イグニッションスイッチがオフにされた後の所定時間、あらかじめ定められた所定の出力Vpump0でポンプ23の駆動制御が行われるように、ポンプ23の駆動回路に対して指示を行うように構成されている。
【0043】
リバーティングバルブ駆動制御部47は、内燃機関1の始動時及び通常の運転状態においては、還元剤が貯蔵タンク21側から還元剤噴射弁25側へと流れるようにリバーティングバルブ24を切り換えるよう、リバーティングバルブ24の駆動回路に対して指示を出力するように構成されている。
【0044】
また、リバーティングバルブ駆動制御部47は、内燃機関1の停止時においては、パージ処理を実施するために、還元剤が還元剤噴射弁25側から貯蔵タンク21側へと流れるようにリバーティングバルブ24を切り換えるよう、リバーティングバルブ24の駆動回路に対して指示を出力するように構成されている。
【0045】
還元剤噴射弁駆動制御部49は、内燃機関1の通常の運転状態においては、排気温度Tgas、触媒温度Tcat、NOX浄化触媒11の下流側におけるNOX濃度N、さらには内燃機関1の運転状態に関する情報等に基づいて還元剤の指示噴射量Quを算出するとともに、算出された指示噴射量Quに応じて、還元剤噴射弁25への通電量及び通電時間を決定して、還元剤噴射弁25の駆動回路に対して指示を行うように構成されている。
【0046】
また、還元剤噴射弁駆動制御部49は、内燃機関1の停止時においては、還元剤供給経路内に残留する還元剤を貯蔵タンク21に回収するパージ処理を実施するために、還元剤噴射弁25が開弁状態で維持されるように、還元剤噴射弁25の駆動回路に対して指示を出力するように構成されている。
【0047】
ただし、還元剤噴射弁駆動制御部49は、イグニッションスイッチがオンにされた後、還元剤の通常の噴射制御を開始する前において、第2の還元剤通路33内の圧力Puが始動時圧力Pstに昇圧された状態で、還元剤噴射弁25を所定回数開閉する制御を実施するようになっている。この制御は、還元剤噴射弁25の噴孔近傍に堆積物が生成されている場合に、当該堆積物を除去するために実施されるものとなっている。
【0048】
図3(a)〜(d)は、内燃機関1の通常の運転状態、パージ処理時、及び内燃機関1の始動時のそれぞれにおける還元剤供給装置20の作動状態を示している。
まず、図3(a)は、内燃機関1の通常の運転状態における還元剤供給装置20の作動状態を示している。この状態においては、ポンプ23によって還元剤が還元剤噴射弁25に向けて圧送され、第2の還元剤通路33内の圧力Puがシステム圧Psで維持されるようにポンプ23の出力がフィードバック制御されている。また、還元剤噴射弁25は、演算によって求められる指示噴射量Quに応じて通電制御が実施される。
【0049】
また、図3(b)は、内燃機関1の停止時におけるパージ処理中の還元剤供給装置20の作動状態を示している。この状態においては、還元剤供給経路内に残留する還元剤が、ポンプ23によって貯蔵タンク21内に回収されている。このとき、還元剤噴射弁25は開弁状態で保持されており、図3(b)においては、噴孔を介して排気が還元剤供給経路内に吸い込まれ、排気中の異物Mが噴孔近傍に付着して堆積する様子が示されている。
【0050】
また、図3(c)〜(d)は、内燃機関1の始動時における還元剤供給装置20の作動状態を示している。内燃機関1の始動直後においては、図3(c)に示すように、還元剤噴射弁25が閉じられるとともに、ポンプ23の駆動が開始されて、第2の還元剤通路33内の圧力Puが始動時圧力Pstとなるまで昇圧される。第2の還元剤通路33内の圧力Puが始動時圧力Pstになったときには、図3(d)に示すように、還元剤噴射弁25が開弁される。このとき、還元剤噴射弁25から噴射される高圧の空気又は還元剤によって、噴孔近傍に堆積していた異物Mが吹き飛ばされて除去されるようになる。
【0051】
ここで、内燃機関1の始動時に行われる還元剤噴射弁25の開閉制御においては、還元剤噴射弁25を瞬間的に開弁することが好ましい。瞬間的な開弁であれば、還元剤を実際に噴射させることなく、還元剤供給経路に存在する空気のみの噴射によって堆積物を吹き飛ばすことができる。また、仮に還元剤が噴射されてしまう場合であっても極少量で済ますことができるため、還元剤の噴射量制御や排気浄化効率への影響を小さく抑えることができる。瞬間的な開弁は、例えば、通電時間を0.1〜0.5秒とすることで実現することができる。
【0052】
また、内燃機関1の始動時に行われる還元剤噴射弁25の開閉制御においては、開閉を複数回実施することが好ましい。一回の噴射によって堆積物が除去されない場合も考えられるため、複数回の噴射によって堆積物の除去を確実なものとすることができる。また、開弁を複数回に分けることにより、始動時圧力Pst下での還元剤又は空気の噴射が断続的に実施されるようになって、堆積物をより除去しやすくすることができる。還元剤噴射弁25の開閉を複数回実施するには、例えば、瞬間的な開弁を2〜5回実施するように設定することができる。
【0053】
3.還元剤供給装置の制御方法
次に、本実施形態の制御処理装置40によって行われる還元剤供給装置20の制御方法の具体例について、図4のタイムチャート図及び図5〜図8のフローチャート図に基づいて説明する。フローチャート図のうち、図5は、本実施形態における還元剤供給装置20の制御方法のメインフローを示している。
【0054】
まず、図5のステップS1において、制御処理装置40が、イグニッションスイッチがオンにされたことを検出すると(図4のt1の時点)、ステップS2に進み、内燃機関1の始動時の高圧噴射制御を実施する(図4のt1〜t2の期間)。
【0055】
図6は、始動時の高圧噴射制御を実施するための具体的なフローの一例を示している。このフローの例では、まず、ステップS11において、制御処理装置40は、還元剤噴射弁25を閉弁状態で保持するとともに、リバーティングバルブ24への通電を行わないで、還元剤が貯蔵タンク21側から還元剤噴射弁25側へと流れるようにする。また、制御処理装置40は、第2の還元剤通路33内の圧力Puの目標値を始動時圧力Pstにセットする。
【0056】
次いで、制御処理装置40は、ステップS12においてポンプ23の駆動を開始した後、ステップS13において第2の還元剤通路33内の圧力Puを検出するとともに、ステップS14において、検出された圧力Puが始動時圧力Pstに到達したか否かを判別する。
【0057】
検出された圧力Puが始動時圧力Pstに到達していない場合にはステップS13に戻り、検出される圧力Puが始動時圧力Pstに到達するまでの間、ステップS13〜ステップS14が繰り返される。そして、検出された圧力Puが始動時圧力Pstに到達した場合には、ステップS15に進み、制御処理装置40は還元剤噴射弁25を開閉する制御を行う。この開閉制御は、上述したように、還元剤噴射弁25を瞬間的に開弁させることにより、あるいは、複数回開弁させることにより実施されることが好ましい。
【0058】
ステップS15における還元剤噴射弁25の開閉制御によって、高圧の空気又は還元剤が還元剤噴射弁25から噴射され、噴孔近傍に堆積物が生成されている場合には、当該堆積物が吹き飛ばされて除去される。
【0059】
図5に戻り、ステップS2において、内燃機関1の始動時の高圧噴射制御が終了すると(図4のt2の時点)、ステップS3において、制御処理装置40は、内燃機関1の通常運転状態での還元剤の噴射制御を実施する(図4のt2〜t3の期間)。
【0060】
図7は、通常運転状態での還元剤の噴射制御を実施するための具体的なフローの一例を示している。このフローの例では、まず、ステップS21において、制御処理装置40は、第2の還元剤通路33内の圧力Puの目標値を所定のシステム圧Psにセットするとともに、ポンプ23の出力のフィードバック制御を開始する。すなわち、ポンプ23の出力は、圧力センサ27を用いて検出される第2の還元剤通路33内の圧力Puとシステム圧Psとの差分ΔPuがゼロとなるように制御される。
【0061】
次いで、制御処理装置40は、ステップS22において第2の還元剤通路33内の圧力Puを検出するとともに、ステップS23において検出される圧力Puとシステム圧Psとの差分ΔPuが、あらかじめ設定された閾値ΔPu0以下となったか否かを判別する。
【0062】
圧力の差分ΔPuが閾値ΔPu0以下となるまではステップS22〜ステップS23が繰り返され、圧力の差分ΔPuが閾値ΔPu0以下となったときにステップS24に進む。これ以降は、排気温度Tgas、触媒温度Tcat、NOX浄化触媒11の下流側におけるNOX濃度N、さらには内燃機関1の運転状態に関する情報等に基づいて還元剤の指示噴射量Quを算出するとともに、算出された指示噴射量Quに応じて、還元剤噴射弁25への通電量及び通電時間を決定して、還元剤噴射弁25の通電制御が実施される。
【0063】
図5に戻り、制御処理装置40は、ステップS3で還元剤の噴射制御を開始した後に、ステップS4でイグニッションスイッチがオフにされたことを検出したときには(図4のt3の時点)、ステップS5に進んで、還元剤供給経路内に残留する還元剤を貯蔵タンク21内に回収するパージ処理を実施する(図4のt3〜t4の期間)。
【0064】
図8は、パージ処理を実施するための具体的なフローの一例を示している。このフローの例では、まず、ステップS31において、制御処理装置40は、リバーティングバルブ24に継続的に通電を行い、還元剤が還元剤噴射弁25側から貯蔵タンク21側へと流れるように流路を切り換えるとともに、ポンプ23の出力Vpumpを、あらかじめ設定した所定の出力Vpump0にセットする。
【0065】
次いで、制御処理装置40は、ステップS32において還元剤噴射弁25を開弁状態で保持した後、ステップS33において、パージ処理が終了したか否かを判別する。パージ処理の終了の判別は、例えば、タイマカウントが所定値に到達したか否かによって行うことができるが、他の方法であってもかまわない。
【0066】
ステップS33においてパージ処理が終了したと判別された場合には、ステップS34に進み、制御処理装置40は、ポンプ23の駆動を停止するとともに、還元剤噴射弁25及びリバーティングバルブ24への通電も停止する。これによって、還元剤供給装置20の作動が完全に停止状態となる。そして、次回の内燃機関1の始動時には再びステップS1から制御が開始される。
【0067】
本実施形態の還元剤供給装置20によって、以上のような制御が実施されることにより、内燃機関1の始動時には、システム圧Psよりも高圧の始動時圧力Pstでの還元剤又は空気の噴射が実施され、その後に、通常の還元剤の噴射制御に移行するようになる。したがって、内燃機関1の停止時に実施されるパージ処理によって、排気中の異物が還元剤噴射弁25の噴孔近傍に付着して堆積物が生成された場合であっても、当該堆積物が除去された上で還元剤の噴射制御が開始されるようになる。その結果、還元剤が不足するおそれを低減することができ、排気浄化効率の低下を抑えることができるようになる。
【符号の説明】
【0068】
1:内燃機関、3:排気管、10:排気浄化装置、11:NOX浄化触媒、13:NOXセンサ、20:還元剤供給装置、21:貯蔵タンク、22:ポンプユニット、23:ポンプ、24:リバーティングバルブ、25:還元剤噴射弁、27:圧力センサ、31:第1の還元剤通路、33:第2の還元剤通路、35:リターン通路、37:リリーフ弁、38:オリフィス、40:制御処理装置(制御手段)、41:イグニッションスイッチ位置検出部、43:圧力検出部、45:ポンプ駆動制御部、47:リバーティングバルブ駆動制御部、49:還元剤噴射弁駆動制御部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の還元剤が収容された貯蔵タンクと、前記還元剤を圧送するポンプと、前記ポンプによって圧送された前記還元剤を内燃機関の排気管内に噴射する還元剤噴射弁と、を備え、前記内燃機関の停止後に、還元剤供給経路に残留する前記還元剤を前記貯蔵タンクに回収するパージ処理が実施される還元剤供給装置において、
前記内燃機関の始動時に、前記還元剤供給経路内の圧力を通常の還元剤供給圧力よりも高い圧力にして前記還元剤噴射弁を開閉した後に、前記還元剤供給経路内の圧力を前記通常の還元剤供給圧力に戻す制御を実施する制御手段を備えたことを特徴とする還元剤供給装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記還元剤噴射弁の開閉を複数回実施することを特徴とする請求項1に記載の還元剤供給装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記還元剤噴射弁を開閉させる際に、瞬間的な開弁制御を実施することを特徴とする請求項1又は2に記載の還元剤供給装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記還元剤噴射弁の開閉によって、前記還元剤供給経路内の空気を噴射することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の還元剤供給装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の還元剤供給装置と、前記還元剤供給装置から供給される還元剤を用いて窒素酸化物を浄化する触媒と、を備えることを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−127214(P2012−127214A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277194(P2010−277194)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】