説明

還元型補酵素Q含有組成物

自動酸化しやすく親油性であることにより工業的利用に供されてこなかった還元型補酵素Qを、安定に維持でき、同時に、水へ可溶な組成物として提供する。還元型補酵素Qをシクロデキストリンと共に接触または混合することにより包接化合物を得ることで、あるいは、抗酸化剤と還元型補酵素Qとシクロデキストリンを適当な条件で混合することで、冷蔵または室温においても長期保存が可能で、かつ、水へ可溶な還元型補酵素Qを含有する組成物を調整できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、一般的に多用される天然乳化剤または合成乳化剤やリポソーム等を用いることなく、水への可溶性または分散性に優れ、保存安定性に優れた還元型補酵素Q含有組成物を、食品、機能性食品、医薬品または医薬部外品の素材として提供することに関する。
【背景技術】
補酵素Qは、細菌から哺乳動物まで広く生体に分布する必須成分であり、生体内の細胞中におけるミトコンドリアの電子伝達系構成成分として知られている。補酵素Qは、ミトコンドリア内において酸化と還元を繰り返すことで、電子伝達系における伝達成分としての機能を担っている以外にも、還元型補酵素Qは抗酸化作用をもつことが知られている。ヒトでは、補酵素Qの側鎖が繰り返し構造を10個持つ、補酵素Q10が主成分であり、生体内においては通常40〜90%程度が還元型として存在している。補酵素Qの生理的作用としては、ミトコンドリア賦活作用によるエネルギー生産の活性化、心機能の活性化、細胞膜の安定化効果、抗酸化作用による細胞の保護効果などが挙げられている。
補酵素Qは種々の用途での使用が知られており、例えば、酸化型補酵素Q10はその心臓に対する効果から鬱血性心不全薬として用いられている。医薬用途以外でも、ビタミン類同様、栄養剤や栄養補助剤として経口的にサプリメントやドリンク剤等の形態により利用されている。
近年、血中の酸化ストレスの増加による疾患の増悪が種々報告されている。代表的なものとして、動脈硬化、糖尿病合併症などが挙げられる。これらの疾患では、血液中に存在する種々の酸化ストレスによる脂質変性などにより、疾患の発生あるいは増悪が起こっている。このような酸化ストレスによる影響を減少させるためには抗酸化剤の投与による生体の抗酸化能の賦活が有効である。脂質過酸化の抑制により有効であると考えられる脂溶性の抗酸化物質の代表的な化合物であるビタミンEは抗酸化物質として疾患の予防などに幅広く用いられている。一方、ビタミンEの抗酸化活性を充分に発揮させるためには還元型補酵素Q10の共存が重要であることが報告され(Bowry等、1993、J.American Chemical Society、115、6029−6044)、脂溶性抗酸化物質としてビタミンEと共に、補酵素Qの重要性が明らかになりつつある。
還元型補酵素Qはそれ自身でも強い抗酸化作用を有するため、可溶化して血中に充分量の還元型補酵素Qを送り込むことにより、血中の抗酸化活性を効果的に増加させることが可能となる。
血中の抗酸化活性を増加させることは、虚血再還流時の血管障害、動脈硬化の再狭窄防止、脳梗塞後の血管障害の防止、動脈効果の予防、糖尿病の合併症の予防など活性酸素種によって増悪が示唆されている多くの疾患に対して幅広い有用性が考えられる。
さらに、新たな補給形態として点滴により体内へ送りこむことにより、経口による摂取ができない重症患者あるいは脳疾患患者への補酵素Qの供給が可能となる。このように補酵素Qを可溶化することは多くのメリットを生み出すことが予想される。
補酵素Qには酸化型と還元型が知られており、酸化型補酵素Q10(ユビデカレノンまたはユビキノンとも呼ばれる)の可溶化方法に関しては、従来から数多くの研究が行われてきた。酸化型補酵素Q10の可溶化方法としては、リポソームによる被覆、界面活性剤あるいは油脂による懸濁など種々の方法等が報告されている(例えば、特開平5−186340、特開平7−69874、特表2000−510841)。
酸化型補酵素Q10が抗酸化活性を示すためには還元酵素などによって還元型補酵素Q10に変換される必要がある。経口的に摂取された酸化型補酵素Q10は、生体内におけるNADPH−CoQ還元酵素、リポアミド脱水素酵素、チオレドキシン還元酵素等により、還元型補酵素Q10へと変換され抗酸化活性を発揮するものと推察されている。しかし、加齢とともに、生体内の還元酵素等による、還元酸化型補酵素Q10の還元型補酵素Q10への還元能力の低下も懸念されており、老齢者や酸化型補酵素Q10の還元能力低下者に対しては、生体外からの還元型補酵素Q10の投与は意義がある。
還元型補酵素Q10は、それ自体が抗酸化活性を有することから、還元型補酵素Q10の投与は前述のような疾患に対する有用性がおおいに期待できる物質であるが、物性としては空気に触れると自動酸化が進む極めて不安定な物質であり、加えて、水への溶解性も極めて悪いために工業的な利用にはこれまで供し得なかった。
還元型補酵素Q10は、リポソーム被覆体を利用した製剤として酸化還元酵素などの研究のために作製したという研究報告はあるが(Kishi等、1999、BioFactors、10、131−138)、用いられているリポソームは実験毎の用時調製例であり、安定的に還元型補酵素Qを維持できる可溶化方法については全く知られていなかった。
以前に我々は鋭意研究の結果、還元型補酵素Q10を安定的に維持できる水可溶化液の作製および保存方法を明らかにした(特開2003−026625、特開2003−119126)。この発明により、有用性の高い還元型補酵素Q水可溶化液を実用に供することが可能になった。本発明は、以前の発明をさらに発展させ、還元型補酵素Q10を水可溶化物とすると同時に保存安定性を更に向上させることを目的としたものである。
【発明の開示】
本発明の課題は、水への溶解または分散性が劣り、かつ、極めて不安定な化合物である還元型補酵素Qを含有する、水への可溶性または分散性が優れ、室温で長期保存が可能となる組成物を、提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、還元型補酵素Qが物性的に極めて不安定であり水に対してほとんど不溶性であるにもかかわらず、還元型補酵素Qとシクロデキストリンを含有せしめることによって、保存安定性が飛躍的に向上し、同時に、水への分散性が優れた組成物として得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、シクロデキストリン、極性溶媒及び一般式(1);

(式中、n=1〜12の整数)で表される還元型補酵素Qを含む組成物であって、還元型補酵素Qが該組成物中に可溶化されている(solubilized)組成物に関する。
また、本発明は、シクロデキストリン、極性溶媒、および前記式(1)で表される還元型補酵素Qを混合することを特徴とする還元型補酵素Qの可溶化方法に関する。
また、本発明は、シクロデキストリン、極性溶媒、および前記(1)で表される還元型補酵素Qを混合することを特徴とする、シクロデキストリン、極性溶媒、および還元型補酵素Qを含む組成物であって、還元型補酵素Qが該組成物中に可溶化されている組成物の製造方法に関する。
また、本発明は、シクロデキストリン、極性溶媒、および前記式(1)で表される還元型補酵素Qを混合することを特徴とする、還元型補酵素Qの安定化方法に関する。
また、本発明は、シクロデキストリン、極性溶媒、および前記式(1)で表される還元型補酵素Qを混合することを特徴とする、還元型補酵素Qの酸化を防止する方法に関する。
まず、本発明におけるシクロデキストリン、極性溶媒及び還元型補酵素Qを含有する組成物であって、該還元型補酵素Qが組成物中に可溶化されている組成物について説明する。本明細書において可溶化とは、補酵素Qが上記組成物中に溶解され、そして該補酵素Qの全部または一部がシクロデキストリンに包接されていることをいう。上記組成物は、組成物に溶解しなかったが分散されている補酵素Qを含んでもよい。ここにいう分散とは、以下に記載する試験によって、該組成物中の補酵素Qが浮上または沈殿しないことをいう。ここにいう包接とは、補酵素Qを含む該組成物が水に溶解するよう組成物を構成している分子が会合している状態をいう。
還元型補酵素Qが上記組成物中に可溶化されているか否かは、以下の試験によって判定できる。該組成物1gを水500mlに懸濁し、20℃にて24時間経過後、目視により確認した場合、均一に分散されていることを確認できたときは可溶化されていると判断する。還元型補酵素Qが、シクロデキストリンに包接されているか否かは、以下の試験によって判定できる。該組成物1gを水500mlに懸濁し、20℃にて24時間経過後、目視により確認した場合、均一に分散されており、かつ、透明の溶液状態を確認できたときを包接されていると判断する
補酵素Qは、下記式(1);

(式中、nは1〜12の整数を表す)および下記式(2);

(式中、nは1〜12の整数を表す)で表され、式(1)は還元型補酵素Qを表し、式(2)は酸化型補酵素Qを表す。還元型補酵素Qは結晶性でも、非結晶性であってもよい。
本発明における上記組成物において、酸化型補酵素Qを含んでもよい。酸化型補酵素Qと還元型補酵素Qの両者を含有する場合、補酵素Q全量(酸化型補酵素Qと還元型補酵素Qの総量)に対して還元型補酵素Qを50重量%以上含有するのが好ましく、75重量%以上含有するのがより好ましい。
上記還元型補酵素Qを得る方法としては特に限定されず、例えば、合成、発酵、天然物からの抽出等の従来公知の方法により補酵素Qを得た後、クロマトグラフィーにより流出液中の還元型補酵素Q区分を濃縮する方法などを採用することが出来る。この場合には、必要に応じて上記補酵素Qに対し、水素化ほう素ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム(ハイドロサルファイトナトリウム)等の一般的な還元剤を添加し、常法により上記補酵素Q中に含まれる酸化型補酵素Qを還元して還元型補酵素Qとした後にクロマトグラフィーによる濃縮を行っても良い。また、既存の高純度補酵素Qに上記還元剤を作用させる方法によっても得ることが出来る。
本発明で用いる還元型補酵素Qは、前記式(1)および(2)で表されるように、側鎖の繰り返し単位(式中n)が1〜12のものを使用することが出来るが、なかでも側鎖繰り返し単位が10のもの、すなわち還元型補酵素Q10が特に好適に使用できる。
シクロデキストリンとしては、特に限定されないが、例えば、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン等を使用することができる。好ましくは、α−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンから選択される一種が用いられる。更に、好ましくは、γ−シクロデキストリンである。
含有するシクロデキストリンの比率については、還元型補酵素Q、モルに対して0.1モル〜100モルが好ましく、0.2〜20モルがより好ましい。
ここにいう極性溶媒とは、水またはアルコール類をいう。含有する極性溶媒としては、特に制限されないが、極性溶媒としては、水、エタノール等のアルコール類、があげられる。これらは、単独または混合して用いてもよい。なかでも、水とエタノールの混合液が好ましく用いられ、水がより好ましい。
還元型補酵素Qと極性溶媒の比率については特に制限はないが、通常、極性溶媒中の還元型補酵素Qの割合が、溶媒に対して0.001〜500重量%の範囲で使用される。
本発明における還元型補酵素Qの可溶化組成物は、抗酸化物質を含有することができる。抗酸化物質としては、抗酸化活性を示すものであれば如何なる化合物でも良いが、例えば、クエン酸、クエン酸誘導体、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンC誘導体、ビタミンE、ビタミンE誘導体、グルタチオン、還元型グルタチオン、チオ硫酸ナトリウム、L−システイン、L−カルニチン、リコペン、リボフラビン、クルクミノイド、スーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)、PQQ(ピロロキノリンキノン)、から選択される一種または二種以上の混合物が好ましく、更には、クエン酸、クエン酸誘導体、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンC誘導体、ビタミンE、ビタミンE誘導体から選択される一種または二種以上の混合物がより好ましく用いられる。含有する抗酸化物質は、還元型補酵素Q、1モルに対して0.01モル以上1000モル以下が好ましく0.1モル以上100モル以下がより好ましい。
次に、本発明による、還元型補酵素Qの可溶化方法について説明する。可溶化方法としては、例えば、還元型補酵素Qとシクロデキストリンを、適当な極性溶媒中で、接触する、または混合する方法があげられる。接触または混合することで、包接化合物として得ることができる。接触するまたは混合するときに、原料を強く攪拌することが、包接化合物を得るために必要な時間を短縮する観点から好ましい。これは、還元型補酵素Qとシクロデキストリンの十分な接触を確保するためである。ここにいう強く攪拌する条件の例は、室温(約20℃)下、ホモミキサー(ポリトロPT2100)により20000rpmで10分処理である。
極性溶媒としては前記組成物と同じ物、例えば、水、エタノール等のアルコール類、があげられ、これらは混合して用いてもよい。水とエタノール類の混合物が好ましく、水がさらに好ましい。還元型補酵素Qは、そのまま用いてもよいし、非極性溶媒あるいは油脂に溶解させたものを用いることができる。
非極性溶媒としては例えば、ヘキサン、エーテル、油脂を用いることができる。油脂としては、食用に供することができることから、オリーブオイル、シソ油、菜種油、米糠オイル、大豆油および魚油等が好ましい。これらは混合して用いてもよい。また、シクロデキストリンは、極性溶媒に溶解させたものを用いてもよいし、そのまま用いても良い。
還元型補酵素Qとシクロデキストリン、極性溶媒を混合する順序としては特に制限されないが、極性溶媒にシクロデキストリンを溶解させ、次いで還元型補酵素Qを該溶解液に添加して、接触、混合させる順序が好ましく、極性溶媒にシクロデキストリンを溶解させると同時に還元型補酵素Qを加えて接触、混合させる手順がより好ましい。これらの手順により、還元型補酵素Qは、シクロデキストリンによって包接され、包接化合物が生成される。これにより、水へ可溶な、または水へ均一に分散する還元型補酵素Qの可溶化組成物が得られる。
還元型補酵素Qとシクロデキストリン、極性溶媒、抗酸化物質を混合する順序に特に制限はない。例えば、極性溶媒に抗酸化物質を溶解させ、シクロデキスリンを添加した後、還元型補酵素Qを添加、接触、混合させてもよいし、極性溶媒にシクロデキストリンを添加して、還元型補酵素Qを接触、混合させた後に、抗酸化物質を添加しても良い。抗酸化物質は、そのまま用いてもよいし、前記極性溶媒に溶解させたものを用いてもよい。
上記可溶化方法により得られる還元型補酵素Qの可溶化組成物は全て本発明に含まれる。
次に、シクロデキストリン、極性溶媒、および前記(1)で表される還元型補酵素Qを混合することを特徴とする、シクロデキストリン、極性溶媒、および還元型補酵素Qを含む組成物であって、還元型補酵素Qが該組成物中に可溶化されている組成物の製造方法について説明する。該製造方法について、還元型補酵素Qと酸化型補酵素Qの比率、使用される原料類、原料投入順序、および還元型補酵素Qとシクロデキストリンの比率などの条件は、上記可溶化方法と同様である。
本発明にしたがう組成物は、スプレードライや凍結乾燥等に供して粉末性の組成物として得ることができる。実用的に取り扱いが簡便であり産業上の利用のしやすさから粉末状組成物として得ることがより好ましい。これにより、水への可溶性または分散性が優れ、室温または冷蔵で長期保存が可能な組成物として好適に得ることができる。
調製される組成物は、さらに、薬剤学的に許容されうる他の製剤素材を含有してもよい。含有しうる製剤素材としては、例えば、着色剤、乳化剤、緊張化剤、緩衝剤、溶解補助剤、防腐剤、矯臭剤、安定化剤、賦形剤等が挙げられる。さらに用途に即して他の有効成分、例えば薬剤、栄養補助剤などを含有しても良い。これら製剤素材は、常法により適宜調整される。また本発明による組成物は押出造粒や流動層造粒等の造粒に供することもできる。
さらに、本組成物は、医薬品成分、機能性食品成分、サプリメント成分等、ヒトあるいはペット、家畜等、動物の健康維持のために有用であると考えられる各種成分を含有してもよい。これら成分は、常法により適宜添加することができる。
本発明で得られる組成物の投与形態は、特に制限されず使用用途により適宜選択することができるが、水への可溶性または分散性が優れていることから、経口投与用として使用することが好ましい。
本発明による還元型補酵素Qを含有する組成物は、ヒト用または動物用として、食品、機能性食品、医薬品または医薬部外品等として使用することができる。ここで言う機能性食品とは、健康食品、栄養補助食品、サプリメント、栄養食品等、健康の維持あるいは食事に代わり栄養補給の目的で摂取する食品を意味している。具体的な形態としてはドリンク剤、チュアブル、タブレット、カプセル剤、錠剤、注射剤、輸液、点眼剤、飼料などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明の可溶化方法により得られた可溶化組成物は、還元型補酵素Qを酸化に対して安定に維持することができる。ここでいう「安定に維持できる」とは、組成物の用途や目的、保存状態によっても異なるが、該可溶化組成物を、室温(約20℃)において空気雰囲気下4週間遮光保存した場合、還元型補酵素Qの残存率が保存開始時の濃度の80%以上であることで評価した。
次に、本発明は、シクロデキストリン、極性溶媒、および前記式(1)で表される還元型補酵素Qを混合することを特徴とする、還元型補酵素Qの酸化を防止する方法について説明する。該方法にしたがって、還元型補酵素Qを、室温(約20℃)において空気雰囲気下4週間遮光保存した場合、還元型補酵素Qの残存率が保存開始時の量の80%以上であるならば、還元型補酵素Qは酸化が防止されていると判断した。該方法について、還元型補酵素Qと酸化型補酵素Qの比率、使用される原料類、および還元型補酵素Qとシクロデキストリンの比率などの条件は、上記組成物と同様である。
【図面の簡単な説明】
図1 各粉末状組成物中の還元型補酵素Q10の、23℃における自動酸化に対する安定性を示したグラフである。縦軸は組成物(試験サンプル)に含まれる全補酵素Q10中の還元型補酵素Q10の残存率を表し、横軸は保存日数を表す。保存開始4週間後において、還元型補酵素Q10原末では41%まで還元型補酵素Q比が低下しているのにもかかわらず、粉末状組成物I〜IVではいずれも80%以上の還元型補酵素Q比である。
図2 各粉末状組成物中の還元型補酵素Q10の、40℃における自動酸化に対する安定性を示したグラフである。縦軸は組成物(試験サンプル)に含まれる全補酵素Q10中の還元型補酵素Q10の残存率を表し、横軸は保存日数を表す。保存開始4週間後において、還元型補酵素Q10原末では11%まで還元型補酵素Q比が低下しているのにもかかわらず、粉末状組成物I〜IVではいずれも65%以上の還元型補酵素Q比である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の効果については、以下に示す実施例より明らかにされるが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
尚、実施例中の還元型補酵素Q、酸化型補酵素Qの濃度は下記HPLC分析により求めた。
(HPLC分析条件)
カラム:SYMMETRY C18(Waters製)250mm(長さ)4.6mm(内径)、移動相;COH:CHOH=4:3(v:v)、検出波長;210nm、流速;1ml/min、還元型補酵素Q10の保持時間;9.1min、酸化型補酵素Q10の保持時間:13.3min。
またスプレードライについては大川原製作所製L−12型スプレードライ装置を入り口温度170℃、出口温度80℃、噴霧速度100ml/minにより行った。
【実施例1】
1336mlの水に205gのγ−シクロデキストリンを溶解し、直後に18gの還元型補酵素Q10(2%の酸化型補酵素Q10を含有する)を加え、ホモジナイザーにより10000rpmで20分間攪拌することで還元型補酵素Q10のシクロデキストリン混合物を調製し、スプレードライに供して粉末状組成物Iを得た。本粉末状組成物の構成素材のモル比率としては、還元型補酵素Q10:γ−シクロデキストリン=1:8である。
【実施例2】
675mlの水に12.2gのアスコルビン酸を十二分に攪拌して溶解させ、その後、85.3gのγ−シクロデキストリンを溶解し、直後に15gの還元型補酵素Q10(2%の酸化型補酵素Q10を含有する)を加えて、ホモジナイザーにより10000rpmで20分間攪拌することで還元型補酵素Q10のシクロデキストリン混合物を調製し、スプレードライに供して粉末状組成物IIを得た。本粉末状組成物の構成素材のモル比率としては、還元型補酵素Q10:γ−シクロデキストリン:アスコルビン酸=1:4:4である。
【実施例3】
1188mlの水に12.2gのアスコルビン酸を十二分に攪拌して溶解させ、その後171gのγ−シクロデキストリンを溶解し、直後に15gの還元型補酵素Q10(2%の酸化型補酵素Q10を含有する)を加えて、ホモジナイザーにより10000rpmで20分間攪拌することで還元型補酵素Q10のシクロデキストリン混合物を調製し、スプレードライに供して粉末状組成物IIIを得た。本粉末状組成物の構成素材のモル比率としては、還元型補酵素Q10:γ−シクロデキストリン:アスコルビン酸=1:8:4である。
【実施例4】
1182mlの水に16.3gのアスコルビン酸を十二分に攪拌して溶解させ、その後171gのγ−シクロデキストリンを溶解し、直後に10gの還元型補酵素Q10(2%の酸化型補酵素Q10を含有する)を加えて、ホモジナイザーにより10000rpmで20分間攪拌することで還元型補酵素Q10のシクロデキストリン混合物を調製し、スプレードライに供して粉末状組成物IVを得た。本粉末状組成物の構成素材のモル比率としては、還元型補酵素Q10:γ−シクロデキストリン:アスコルビン酸=1:12:8である。
(実施例5〜12、比較例1、2)
2%の酸化型補酵素Q10を含有する還元型補酵素Q10原末(Q−OH原末)と、実施例1〜4で得られた粉末状組成物I〜IVの安定性試験を以下のように実施した。即ち、それぞれの組成物(試験サンプル)をマイクロチューブに入れ、23℃または40℃で、遮光条件下、空気存在下にて保存した。使用した試験サンプル、試験温度を表1に示す。

1,2,4週間保存後に各々のサンプルについて25mgサンプリングしてエタノールに溶解後、HPLCを用いて酸化型補酵素Q10および還元型補酵素Q10の濃度を測定することにより、組成物(試験サンプル)に含まれる全補酵素Q10中の還元型補酵素Q10の比率を定量した。結果を、図1および図2に示した。
(実施例13〜16、比較例3)
還元型補酵素Q10を98%含有する補酵素Q10原末(Q−OH原末)と、実施例1〜4で得られた各粉末状組成物の溶解性試験を以下のように実施した。即ち、各々の組成物(試験サンプル)1gを100mlの水に加え、ミキサーにより5000rpmで30秒間攪拌して、その後静置した。静置1時間後における水溶液の状態を観察し、水への可溶性を確認した。結果を表2に示す。

還元型補酵素Q10を98%含有する補酵素Q10原末(Q−OH原末)は橙色の油摘状として水の上に浮遊して不溶であるが、実施例1〜4で得られた粉末状組成物I〜IVは、すべて白色の乳化様状態として水へ均一に分散していることを認めた。
【産業上の利用可能性】
本発明により、抗酸化物質あるいは栄養補助成分として有用性の高い還元型補酵素Qが、水に可溶で、同時に、保存安定性に優れた組成物として供給できるようになった。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロデキストリン、極性溶媒及び次式(1);

(式中、n=1〜12の整数)で表される還元型補酵素Qを含有組成物であって、該補酵素Qが該組成物中に可溶化されている(solubilized)組成物。
【請求項2】
還元型補酵素Qが酸化型補酵素Qと還元型補酵素Qの総量に対して、50重量%以上含有される請求1記載の組成物。
【請求項3】
経口投与用である請求項1記載の組成物。
【請求項4】
還元型補酵素Qが還元型補酵素Q10である請求項1記載の組成物。
【請求項5】
シクロデキストリンがα−シクロデキストリンおよびγ−シクロデキストリンから選択される少なくとも一種である請求項1記載の組成物。
【請求項6】
極性溶媒が水または水とアルコールの混合物である請求項1記載の組成物。
【請求項7】
還元型補酵素Q、1モルに対してシクロデキストリンを0.1モル〜100モルの比率で含有する請求1記載の組成物。
【請求項8】
抗酸化物質を、更に含有する請求項1記載の組成物。
【請求項9】
抗酸化物質が、クエン酸、クエン酸誘導体、ビタミンC、ビタミンC誘導体、ビタミンE、ビタミンE誘導体、グルタチオン、還元型グルタチオン、チオ硫酸ナトリウム、L−システイン、L−カルニチン、リコペン、リボフラビン、クルクミノイド、およびスーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)から選択される少なくとも一種である請求項1記載の可溶化組成物。
【請求項10】
請求項1記載の組成物であって、医薬品成分、機能性食品成分、サプリメント成分及び食品成分から選択される少なくとも一種以上を含有する可溶化組成物。
【請求項11】
請求項1記載の組成物を含有する、ヒトまたは動物に投与用の食品、機能性食品、医薬品または医薬部外品。
【請求項12】
請求項1記載の組成物をスプレードライすることにより得られうる粉末状可溶化組成物。
【請求項13】
極性溶媒、シクロデキストリン、および還元型補酵素Qを混合することによって得られうる、シクロデキストリン、極性溶媒、および次式(1);

(式中、n=1〜12の整数)で表される還元型補酵素Qを含む組成物。ここで、該還元型補酵素Qは、該組成物中に可溶化されている。
【請求項14】
シクロデキストリン、極性溶媒、および次式(1);

(式中、n=1〜12の整数)で表される還元型補酵素Qを、混合することを特徴とする、還元型補酵素Qの可溶化方法。
【請求項15】
還元型補酵素Qが、還元型補酵素Qが酸化型補酵素Qと還元型補酵素Qの総量に対して、50重量%以上含有される請求項14記載の方法。
【請求項16】
還元型補酵素Qが還元型補酵素Q10である請求項14記載の方法。
【請求項17】
シクロデキスリンがα−シクロデキストリンおよびγ−シクロデキストリンから選択された少なくとも一種である請求項14記載の方法。
【請求項18】
極性溶媒中にシクロデキスリンを、溶解させ、次いで還元型補酵素Qを該溶解液と混合することを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項19】
極性溶媒が水または水とアルコールの混合物である請求項14記載の方法。
【請求項20】
還元型補酵素Q、1モルに対してシクロデキストリンを0.1〜100モルの比率で含有する請求項14記載の方法。
【請求項21】
抗酸化物質が、クエン酸、クエン酸誘導体、ビタミンC、ビタミンC誘導体、ビタミンE、ビタミンE誘導体、グルタチオン、還元型グルタチオン、チオ硫酸ナトリウム、L−システイン、L−カルニチン、リコペン、リボフラビン、クルクミノイド、およびスーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)から選択される少なくとも一種である請求項14記載の方法。
【請求項22】
シクロデキストリン、極性溶媒、および還元型補酵素Qを含む組成物の製造方法であって、シクロデキストリン、極性溶媒、および次式(1):

で表される還元型補酵素Qを混合することを特徴とする製造方法。
【請求項23】
シクロデキストリン、極性溶媒、および次式(1);

(式中、n=1〜12の整数)で表される還元型補酵素Qを、混合することを特徴とする、還元型補酵素Qの酸化を防止する方法。

【国際公開番号】WO2005/041945
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【発行日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515160(P2005−515160)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016079
【国際出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】