還元鉄の製造方法
【課題】1個あたりの圧潰荷重が80kgf以上の還元鉄を製造できる技術を提供する。
【解決手段】酸化鉄含有物質と炭素質還元剤とを含む塊成物を加熱し、該塊成物中の酸化鉄を還元して還元鉄を製造するにあたり、前記塊成物の塩基度(CaO/SiO2比)に基づいて決定される下記(a)〜(d)に示す加熱温度域で、金属化率が60〜95%となるように前記塊成物を1段階目加熱した後、更に1300〜1400℃で、5〜18分間の2段階目加熱を行う還元鉄の製造方法。
(a)CaO/SiO2<0.93の場合は加熱温度域を1093℃以下とする。
(b)0.93≦CaO/SiO2<1.07の場合は加熱温度域を1223℃以下とする。
(c)1.07≦CaO/SiO2<1.87の場合は加熱温度域を1230℃以下とする。
(d)1.87≦CaO/SiO2の場合は加熱温度域を1300℃未満とする。
【解決手段】酸化鉄含有物質と炭素質還元剤とを含む塊成物を加熱し、該塊成物中の酸化鉄を還元して還元鉄を製造するにあたり、前記塊成物の塩基度(CaO/SiO2比)に基づいて決定される下記(a)〜(d)に示す加熱温度域で、金属化率が60〜95%となるように前記塊成物を1段階目加熱した後、更に1300〜1400℃で、5〜18分間の2段階目加熱を行う還元鉄の製造方法。
(a)CaO/SiO2<0.93の場合は加熱温度域を1093℃以下とする。
(b)0.93≦CaO/SiO2<1.07の場合は加熱温度域を1223℃以下とする。
(c)1.07≦CaO/SiO2<1.87の場合は加熱温度域を1230℃以下とする。
(d)1.87≦CaO/SiO2の場合は加熱温度域を1300℃未満とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鉱石や製鉄ダスト等の酸化鉄含有物質と、石炭等のように炭素を含む還元剤(以下、炭素質還元剤ということがある)を含む塊成物を加熱し、該塊成物中の酸化鉄を還元して還元鉄を製造する方法に関するものである。詳細には、塊成物1個あたりの圧潰荷重(以下、圧潰強度ということがある)が80kgf以上の還元鉄を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化鉄含有物質と炭素質還元剤とを含む混合物を塊成化し、この塊成物を炉で加熱すると、該塊成物中の酸化鉄が還元され、還元鉄を製造できる。得られた還元鉄は、高炉や電気炉等の溶解炉で鉄源として用いられる。こうした還元鉄の製造方法としては、特許文献1〜3が知られている。
【0003】
特許文献1には、酸化鉄材、炭素質原料、および結合剤の混合物を固化させた固化体を回転炉床炉へ装入し、1316〜1427℃で4〜10分間加熱して金属化する技術が記載されている。
【0004】
特許文献2には、還元期の最終段階で燃焼ガスの酸化度を低めに変更するか、または燃焼ガスの流速を小さくしてペレットまたはブリケット内部から発生するCOガスを有効に活用することによって、炭材内装ペレットまたはブリケットの表層部まで還元を促進し、かつ還元帯での還元鉄の再酸化を防止する技術が開示されている。この文献には、炭材内装ペレットの還元は、バーナー燃焼ガスの輻射熱により最高1300℃程度で、8〜10分間で終わると記載されている。
【0005】
特許文献3には、有価金属含有ダストを加熱還元して有価金属を資源として回収する際に、Ca含有量が多い場合には、加熱還元炉の炉床耐火物が溶損したり、還元効率が低下したり、有価金属の回収率が低下することが指摘されている。この文献には、1100〜1350℃の温度で有価金属含有ダストを加熱することによって、還元鉄を製造することが記載されている。
【0006】
ところで還元鉄を製造するにあたっては、塊成物から還元鉄を製造するときの金属化率、還元鉄の鉄濃度、および還元鉄の強度等が重要となる。
【0007】
金属化率については、得られた還元鉄を次工程の溶解炉で用いたときの生産性を高めるために、75%以上であることが求められる。
【0008】
還元鉄の鉄濃度については、得られた還元鉄を次工程の溶解炉で用いたときの生産効率向上を考慮し、亜鉛や鉛等を含有せず、脈石成分が少なく、鉄濃度が高いことが求められている。
【0009】
還元鉄の強度については、加熱炉からの排出時や、次工程に供されるまでに壊れて粉化されないことが要求される。例えば、高炉へ装入して鉄源として用いられる還元鉄には、1個あたり80kgf以上の圧潰荷重が求められる。しかし上記特許文献1〜3には、還元鉄の強度について何ら考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5730775号明細書
【特許文献2】特許第3004255号公報
【特許文献3】特開2003−328045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、1個あたりの圧潰荷重が80kgf以上の還元鉄を製造できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決することのできた本発明に係る還元鉄の製造方法とは、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤とを含む塊成物を加熱し、該塊成物中の酸化鉄を還元して還元鉄を製造する方法であって、
前記塊成物の塩基度(CaO/SiO2比)に基づいて決定される下記(a)〜(d)に示す加熱温度域で、鉄の金属化率が60〜95%となるように前記塊成物を1段階目加熱した後、
更に1300〜1400℃で、5〜18分間の2段階目加熱を行う点に要旨を有している。
(a)CaO/SiO2<0.93の場合は加熱温度域を1093℃以下とする。
(b)0.93≦CaO/SiO2<1.07の場合は加熱温度域を1223℃以下とする。
(c)1.07≦CaO/SiO2<1.87の場合は加熱温度域を1230℃以下とする。
(d)1.87≦CaO/SiO2の場合は加熱温度域を1300℃未満とする。
【0013】
また、上記課題は、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤とを含む塊成物を加熱し、該塊成物中の酸化鉄を還元して還元鉄を製造するにあたり、
塩基度(CaO/SiO2比)が1.07以上、1.87未満の塊成物を1230℃以下で、且つ鉄の金属化率が60〜95%となるように1段階目加熱した後、
更に1300〜1400℃で、5〜18分間の2段階目加熱を行うことによっても解決できる。
【0014】
前記1段階目加熱した後、2段階目加熱する前における塊成物に含まれる炭素量が1.5質量%以下(0質量%を含まない)となるように前記塊成物の成分調整を行うことが好ましい。
【0015】
前記塊成物としては、気孔率が25%以下のものを用いることが推奨される。
【0016】
前記塊成物の原料粉末としては、最大径が10μm以下の粉末を40〜85質量%含有するものを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、塊成物中の鉄の金属化率(以下、単に、金属化率ということがある。)を考慮しつつ、塊成物の塩基度(CaO/SiO2比)に基づいて決定される温度域で加熱する工程と、1300〜1400℃で加熱する工程とを組合せて塊成物を加熱することによって、1個あたりの圧潰荷重が80kgf以上の還元鉄を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、表3に示したNo.1の断面を撮影した図面代用写真である。
【図2】図2は、表3に示したNo.2の断面を撮影した図面代用写真である。
【図3】図3は、表3に示したNo.3の断面を撮影した図面代用写真である。
【図4】図4は、表3に示したNo.4の断面を撮影した図面代用写真である。
【図5】図5は、CaO−SiO2−FeOの3元系状態図である。
【図6】図6は、オリビン系鉱物の温度変化状態図である。
【図7】図7は、1200℃での加熱時間と、1段階目加熱終了時点での鉄の金属化率、ペレットの体積収縮率、および還元鉄の圧潰強度との関係を示すグラフである。
【図8】図8は、金属化率の変化(計算値)、還元率の変化、排ガス(COおよびCO2)の変化を示すグラフである。
【図9】図9は、加熱時間に対する加熱温度変化、および加熱時間に対する圧潰強度または金属化率の関係を示すグラフである。
【図10】図10は、加熱時間に対する体積収縮率の変化、および加熱時間と還元鉄に含まれるC量の関係を示すグラフである。
【図11】図11は、塊成物の断面を撮影した図面代用写真である。
【図12】図12は、還元鉄の断面を撮影した図面代用写真である。
【図13】図13は、塊成物の断面を撮影した図面代用写真である。
【図14】図14は、還元鉄の断面を撮影した図面代用写真である。
【図15】図15は、加熱前のタブレットにおける乾燥時の気孔率と、加熱後のタブレットにおける圧潰強度または体積収縮率との関係を示すグラフである。
【図16】図16は、原料として用いた粉末の粒度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤とを含む塊成物を加熱還元して得られる還元鉄の強度を高めることを目指して鋭意検討を重ねてきた。その結果、炉内で塊成物を2段階の温度域で加熱すればよいこと、具体的には、1段階目の温度域では、塊成物に含まれるFeOの一部が残るように加熱し、2段階目の温度域は1段階目の温度域より高い温度に設定してFeOを還元すればよいことを見出し、本発明を完成した。以下、本発明を完成した経緯について説明する。
【0020】
還元鉄の強度について調べたところ、加熱による体積減少率が一定以上になることによって還元鉄の強度は上昇することが明らかになった。その一方で、体積減少率が一定以上であっても所望の強度が得られないことがあった。この理由について検討したところ、加熱前後における体積減少率が同じであっても中心部に空隙が形成されている還元鉄は、中心部に空隙が形成されていない還元鉄よりも強度が低くなることが判明した。
【0021】
そこで本発明者らは、還元鉄の中心部に空隙が形成されないように塊成物を還元する方法について検討した。
【0022】
まず、本発明者らは、炉内における塊成物の加熱温度について検討した。従来では、塊成物は、炉内雰囲気温度を例えば1300℃に設定された炉を用いて加熱を行っていた(上記特許文献2)。炉内温度を高く設定することによって生産速度を増大でき、生産性の向上となるからである。
【0023】
ところが炉内に装入した塊成物を装入直後から1300℃程度の高温で加熱すると、塊成物の最表面側では酸化鉄から還元鉄への還元が速やかに進むが、塊成物の内部では還元の途中段階であるFeOのまま温度上昇してしまう。そのため還元鉄になる前のFeOは、塊成物に含まれる脈石成分と結合して溶融スラグを形成し、空隙を形成していた。塊成物の外殻部は還元鉄になっているため強度上昇に寄与するが、塊成物の内部には溶融スラグに起因する空隙が形成されているため還元鉄全体の強度は思いのほか低かった。
【0024】
そこで本発明者らは還元鉄内部における溶融スラグの形成を防止して空隙形成を抑制すると共に、内部の酸化鉄を充分に還元して金属鉄同士の結合を促進することによって還元鉄の強度を高めることを目指した。その結果、塊成物を炉に装入した直後は、脈石成分とFeOが溶融しない温度で酸化鉄を還元すれば、溶融スラグに起因する空隙の発生を防止でき、さらに内部にまで還元鉄を生成させることができるため、還元鉄の強度を向上できることが分かった。しかし炉内温度を低くすると、酸化鉄の還元に時間がかかるため、生産性を向上させることができない。そのため炉の後半では、生成した金属鉄の焼結を促進し、還元を完了させるために前半よりも炉内温度を高める必要がある。
【0025】
以上の経緯を踏まえて本発明は完成された。以下、本発明について詳細に説明する。
【0026】
本発明に係る還元鉄の製造方法は、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤とを含む塊成物を加熱し、該塊成物中の酸化鉄を還元して還元鉄を製造するものである。上記酸化鉄含有物質としては、例えば、鉄鉱石、砂鉄、製鉄ダスト、非鉄製錬残渣、製鉄廃棄物などを用いることができる。上記炭素質還元剤としては、炭素含有物質を用いればよく、例えば、石炭やコークスなどを用いることができる。
【0027】
上記塊成物は、その他の成分として、バインダーやMgO含有物質、CaO含有物質などを配合してもよい。上記バインダーとしては、例えば、多糖類(例えば、小麦粉等の澱粉など)などを用いることができる。上記MgO含有物質としては、例えば、MgO粉末や天然鉱石や海水などから抽出されるMgO含有物質、或いはドロマイトや炭酸マグネシウム(MgCO3)などを用いることができる。上記CaO含有物質としては、例えば、生石灰(CaO)や石灰石(主成分はCaCO3)などを用いることができる。
【0028】
上記塊成物を構成する上記物質やバインダー等は、必要に応じて粉砕し、最大径が10μm以下の粉末が占める割合が、40〜85質量%となるように調整しておくことが好ましい。最大径が10μm以下の粉末が占める割合をこの範囲にすることによって、塊成物の密度を高めることができるため、塊成物の気孔率を小さくできる。気孔率が小さくなると、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤の接触面積が大きくなるため、反応速度が大きくなり、酸化鉄の還元が速やかに進行し、また塊成物中に生成した金属鉄が焼結し易くなるため、還元鉄の強度を効率よく高めることができる。
【0029】
上記塊成物の気孔率は25%以下であることが好ましく、より好ましくは20%以下とする。上記塊成物の気孔率ε(%)は、見掛比重Aと真比重Bから次式に基づいて算出できる。
ε=(1−A/B)×100
【0030】
上記塊成物の形状は特に限定されず、例えば、ペレット状やブリケット状などであればよい。
【0031】
上記塊成物の大きさも特に限定されないが、例えば、塊成物の体積に相当する真球における直径(最大直径)が9〜30mm程度のものを用いることが好ましい。
【0032】
本発明の製造方法では、上記塊成物を、その塩基度(CaO/SiO2比)に基づいて決定される下記(a)〜(d)に示す加熱温度域で加熱する必要がある。本明細書ではこの加熱工程を1段階目加熱という。
(a)CaO/SiO2<0.93の場合は加熱温度域を1093℃以下とする。
(b)0.93≦CaO/SiO2<1.07の場合は加熱温度域を1223℃以下とする。
(c)1.07≦CaO/SiO2<1.87の場合は加熱温度域を1230℃以下とする。
(d)1.87≦CaO/SiO2の場合は加熱温度域を1300℃未満とする。
【0033】
上記1段階目加熱では、塊成物を製造するときに用いた原料粉末の仕込み量から塩基度を推測し、このデータを予め作成しておいた上記(a)〜(d)のデータベースと照合し、加熱温度域を決定する。決定された加熱温度域に基づいて炉内温度を調整してから炉に塊成物を装入する。
【0034】
このとき上記塊成物の加熱温度が上記範囲から外れて高過ぎると、塊成物の中心部において脈石成分とFeOとの溶融物が存在する状態となるため、これらが結合して溶融スラグを形成する。この溶融スラグは、還元鉄中に空隙を形成し、還元鉄の強度を低下させる原因となる。
【0035】
なお、上記(a)〜(d)で規定する加熱温度域の下限値は、いずれの場合であっても1000℃とすればよい。1000℃以上で加熱することによって、炭材内装塊成物の還元反応を促進できる。
【0036】
上記塊成物の塩基度は、当該塊成物を製造する際に用いた原料混合物に含まれるCaO量とSiO2量の質量比(CaO/SiO2)に基づいて算出すればよい。なお、塊成物に含まれるCaO量とSiO2量から直接算出してもよい。
【0037】
上記1段階目加熱では、鉄の金属化率が60〜95%(好ましくは70〜90%)となるように加熱を行う必要がある。1段階目加熱では塊成物中に未還元の酸化鉄を残しておき、この塊成物を後述する2段階目加熱することによって金属鉄の焼結を促進できる。その結果、還元鉄の強度を高めることができる。
【0038】
上記金属化率とは、下記式から算出できる。
金属化率(%)=金属鉄量(質量%)/全鉄量(質量%)×100
【0039】
上記鉄の金属化率を上記範囲に制御するには、1段階目加熱するときの温度およびこの温度に滞留する時間を調整すればよく、例えば、炉床の回転速度を調整する方法や、炉内に設けられた燃焼バーナーの燃焼条件を制御して1段階目加熱を行うときの温度を調整する方法等が採用できる。
【0040】
なお、炭材内装ペレットを回転炉床炉で加熱溶融し、スラグと分離させた銑鉄を製造する技術が、中国特許第ZL02104407.4号明細書に開示されている。この明細書には、1000〜1200で3〜5分間予熱した後、還元することが開示されている。しかし、この温度域での加熱時間が5分間以下では、加熱時間が短過ぎるため、鉄の金属化率は60%未満となる。従って上記明細書に記載されている銑鉄の強度は低くなると考えられる。
【0041】
上記1段階目加熱を終了した時点における塊成物に含まれる炭素量は、1.5質量%以下(0質量%を含まない)となるように前記塊成物の成分調整を行うことが好ましい。還元鉄と炭素が共存している状態で1250℃より高い温度に加熱すると、還元鉄中へ炭素が拡散して還元鉄の融点を低下させ溶融し始めるため、塊成物中の金属鉄が球状になる。還元鉄が球状になって分散すると、還元鉄の強度が著しく低くなる。また、後述する2段階目加熱を行うときにFeOが存在していない場合には、還元鉄および脈石成分の融点が高くなるため、還元鉄同士の焼結速度が小さくなる。従って本発明では1段階目加熱を終了した時点でFeOをある程度残しておき、これを2段階目加熱することによって還元鉄を焼結して体積収縮させる。この体積収縮によって還元鉄の強度が向上する。
【0042】
1段階目加熱を行った後は、1300〜1400℃に昇温して更に加熱を行う。この温度域で加熱することによって塊成物に残存しているFeOを還元できる。即ち、塊成物の中心部近傍にFeOが分散しているため、脈石成分がFeOと結合して形成される溶融スラグは微細なものとなる。本発明によれば、還元鉄中に形成される空隙を微細にできるため、還元鉄の強度を高めることができる。本明細書ではこの加熱工程を2段階目加熱という。
【0043】
上記温度域での加熱時間は5〜18分間とする。加熱時間が5分を下回ると還元が不充分となり、塊成物の金属化率が低くなり品質が低下する。加熱時間は好ましくは7分以上である。一方、加熱時間が18分を超えても還元鉄の圧潰強度の向上効果はほとんどなく、塊成物の金属化率も変化せず、生産速度が小さくなり生産性が悪くなる。加熱時間は好ましくは10分以下とする。
【0044】
上記加熱温度は、塊成物の最表面から20mm以内の領域における温度を制御する。
【0045】
上記1段階目加熱終了時点から2段階目加熱開始時点までの昇温速度は特に限定されないが、例えば、10〜20℃/分以上とすればよい。
【0046】
上記1段階目加熱と2段階目加熱を行う領域を夫々分けるために、天井から垂下させた仕切り壁を設ければよい。
【0047】
こうして得られた還元鉄は、1個あたりの圧潰荷重が80kgf以上となる。得られた還元鉄は、電気加熱炉のみならず、高炉へ装入して鉄源として利用できる。
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0049】
[実験例1]
酸化鉄含有物質と炭素質還元剤とを含む塊成物(ペレット)を電気加熱炉で加熱し、ペレット中の酸化鉄を還元して還元鉄を製造した。本実験例では、得られた還元鉄の内部組織と圧潰強度との関係について調査した。
【0050】
鉄鉱石M、石炭Y、小麦粉、消石灰、および珪石を配合して直径φ19mmのペレットを製造した。得られたペレットの成分組成を下記表1に示す。なお、下記表1に示したペレットは、加熱前のペレットに含まれる全炭素量(T−Cと表記する)、脈石量[CaO、SiO2、およびAl2O3の合計量で表わされ、(C+S+A)量と表記する]、および塩基度(CaO/SiO2)を適宜調整している。
【0051】
下記表1に示したNo.1〜4のペレットを、1300℃に加熱された電気加熱炉へ装入して加熱還元した。電気加熱炉内には、流速3L/分の純N2ガスを吹き込んだ。電気加熱炉から排出される排ガスのCOガス濃度を測定し、還元反応が終了した時点(即ち、COガスが殆ど検出されなくなった時点)で加熱を終了し、冷却した。下記表2に、加熱温度と加熱時間を示す。なお、加熱温度は、ペレットの上方10〜20mmの位置における温度を意味しており、この位置における温度が1300℃となるように制御した。
【0052】
加熱前後におけるペレットの全質量と、ペレット1個の体積を下記表2に示す。また、加熱前後における質量減少率と体積収縮率を下記表2に併せて示す。
【0053】
なお、ペレットの全質量とは、加熱前または加熱後における全ペレットの合計質量を意味している。ペレット1個の体積とは、加熱前後におけるペレット1個あたりの平均体積を意味している。
【0054】
質量減少率および体積収縮率は、下記式で求めた。
質量減少率(%)=[(加熱前のペレットの質量−加熱後のペレットの質量)/加熱前のペレットの質量]×100
体積収縮率(体積%)=[(加熱前のペレットの体積−加熱後のペレットの体積)/加熱前のペレットの体積]×100
【0055】
また、加熱して得られた還元鉄の圧潰強度を測定し、結果を下記表2に示す。還元鉄の圧潰強度は、2枚の平板間に試料を設置してこれを圧縮し、破壊時の荷重を計測できる強度試験機で測定した。なお、圧潰荷重の測定は、1個の還元鉄について行った。
【0056】
また、加熱して得られた還元鉄の成分組成を分析し、結果を下記表3に示す。下記表3において、C量は残留炭素量、M.Feは金属鉄量、T.Feは全鉄量、MetFeは鉄の金属化率を意味している。
【0057】
下記表2、表3から次のように考察できる。体積収縮率と圧潰強度との間には相関関係のないことが分かる。一方、加熱後における残留炭素量と圧潰強度との間には相関関係があり、残留炭素量が減少するにつれて圧潰強度の向上が読み取れる。
【0058】
次に、圧潰強度が変動する原因を明らかにするため、加熱して得られた還元鉄の断面を反射型顕微鏡で、5倍で撮影した。撮影した図面代用写真を図1〜図4に示す。図1〜図4は、下記表3に示したNo.1〜4の写真に夫々対応している。図1〜図4において、白色は金属鉄を示しており、黒色は空隙を示している。
【0059】
図1〜図4から次のように考察できる。
【0060】
図1はNo.1の還元鉄断面を撮影した写真である。図1から、還元鉄の表面には金属鉄(白色)が焼結した薄い層として存在し、中心部には微細な点状の金属鉄が分散して存在していることが分かる。中間部には点状の空隙(黒色)が比較的多く存在していることが分かる。No.1では、小さな空隙が分散して存在しているが、大きな空隙は存在しないため、比較的高い強度を示したと考えられる。
【0061】
図2はNo.2の還元鉄断面を撮影した写真である。図2から、中央部には大きな球状の金属鉄(白色)が存在し、中間部は大きな空隙になっていることが分かる。大きな空隙が形成されたことによって、比較的低い強度になったと考えられる。空隙が大きくなった原因は、ペレットの脈石成分の塩基度が0.53と低いため、脈石成分とFeO成分が反応して溶融スラグを多量に生成したためと考えられる。その後、溶融スラグ中のFeOが還元されて金属鉄となり、近傍の微細な金属鉄と合体して大きな粒状の金属鉄が形成されたものと考えられる。
【0062】
図3はNo.3の還元鉄断面を撮影した写真である。図3から、還元鉄の表面近傍には多数のクラックと空隙が存在していることが分かる。しかし還元鉄の中間部から中心部にかけては密に充填していることが分かる。従って圧潰強度が最も大きくなったと考えられる。
【0063】
図4はNo.4の還元鉄断面を撮影した写真である。図4から、大きな空隙は存在していないが、やや大きな金属鉄(白色)が全体に点在していることが分かる。粒状の金属鉄が分散していることは、金属鉄間の結合が弱いことを示しており、強度が低くなった原因と考えられる。このような金属鉄組織となった原因は、残留炭素量が多いため、金属鉄中へ炭素が拡散して、融点が低下し、微細金属鉄同士が合体して粒状の金属鉄が形成されたと考えられる。
【0064】
以上の結果から、還元鉄の強度が低下する原因は、溶融スラグが多量に生成すること、および加熱後に金属鉄と炭素が共存することにあると考えられる。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
次に、溶融スラグが生成する機構を状態図に基づいて検討した。
【0069】
融液の生成温度が脈石成分によってどのように変化するか状態図に基づいて検討した。
【0070】
まず、還元過程の塊成物内では、FeO→Feへの還元速度が小さいため、融液の生成に対しては脈石成分のみではなく、FeOの存在を考慮する必要がある。
【0071】
そこで、脈石成分について、図5に示すCaO−SiO2−FeOの3元系状態図を用いて検討する。図5は、SLUG ATLAS:Verlang Stahleisen GmbHのP.126に記載されている図3.223である。
【0072】
図5に示す直線1は、オリビン系鉱物である2CaO・SiO2と2FeO・SiO2間の変化を示しており、温度軸断面を図6に示す。
【0073】
図6から、CaOとFeOの置換量(含有比率)によって液相線と固相線が変化していることがわかる。CaO−FeO−SiO2固溶体よりCaOが少ない領域(即ち、CaO/SiO2比が低い領域)では、FeOが80%置換した組成で最低融点1115℃となる。
【0074】
図5でオリビン系から離れた範囲まで拡張すると、最低融点は1093℃となる。このため、質量比で、CaO/SiO2が0.93以下(モル比で、CaO/SiO2が1以下)の範囲では、1093℃以上の温度で融液が生成する。
【0075】
次に、CaO−FeO−SiO2固溶体より高いCaO濃度では、CaO−FeO−SiO2固溶体の融点1223℃とα―2CaO・SiO2の融点1230℃の間に固液共存のCaO濃度がある。この時のCaO/SiO2は、質量比で1.07である。
【0076】
CaO/SiO2が、質量比で1.07より低いと、α―2CaO・SiO2と融液の共存状態となる。
【0077】
2CaO・SiO2の質量比が1.87より高いCaO濃度では、大部分が固相になるため、CaO/SiO2の質量比は1.87未満とすればよい。
【0078】
以上を整理すると、次の通りである。
CaO/SiO2<0.93 1093℃以下
0.93≦CaO/SiO2<1.07 1223℃以下
1.07≦CaO/SiO2<1.87 1230℃以下
1.87≦CaO/SiO2 1300℃未満
【0079】
上記実験例1の結果から、ペレット内で金属鉄と共存する炭素量が多くなると、金属鉄が球状化して加熱後の還元鉄の強度が著しく低下することが明らかになった。
【0080】
[実験例2]
本実験例2では、1段階目加熱時間が体積収縮率に及ぼす影響と、加熱して得られる還元鉄の圧潰強度に及ぼす影響を調べた。
【0081】
本実験例2では、上記実験例1で用いたNo.1(炭素量は14.21%)のペレットよりも炭素量を約1.7%低くして作製したペレット(No.5、炭素量は12.49%)を用いた。加熱前におけるペレットNo.5の成分組成を下記表4に示す。なお、ペレットの直径はφ19mmである。また、下記表4には、参考データとしてペレットNo.1の成分組成も併せて示した。
【0082】
下記表4に示したNo.5のペレットを電気加熱炉へ装入して加熱還元した。電気加熱炉での加熱還元は、加熱温度を2段に分けて行なった。
【0083】
まず、1段階目として1200℃で9.1〜21.7分間加熱し、続いて1300℃まで7分間かけて昇温し、2段階目として1300℃で8分間加熱した。電気加熱炉内には、上記実験例1と同様に、流速3L/分の純N2ガスを吹き込んだ。なお、加熱温度は、ペレットの上方10〜20mmの位置における温度を意味している。
【0084】
本実験例2では、1200℃での加熱が終了した時点と1300℃での加熱が終了した時点でペレットを取り出し、鉄の金属化率を測定した。結果を下記表5に示す。
【0085】
次に、加熱前後におけるペレットの体積収縮率を上記実験例1と同様に測定した。結果を下記表5に示す。
【0086】
次に、1300℃で加熱して得られた還元鉄の圧潰強度を上記実験例1と同様に測定した。結果を下記表5に示す。
【0087】
また、1200℃での加熱時間と、1段階目加熱終了時点での鉄の金属化率、ペレットの体積収縮率、および還元鉄の圧潰強度との関係を図7に示す。図7において、▲は金属化率、◆は体積収縮率、■は圧潰強度を夫々示している。
【0088】
また、図8に、加熱試験を行なったときの一例として、加熱したときの金属化率の変化(計算値)、還元率の変化(計算値)、排ガス(COおよびCO2)の変化を示す。
【0089】
以上の結果から、1段階目の加熱時間を長くするほど、1段階目加熱終了時点の鉄の金属化率、ペレットの体積収縮率、および還元鉄の圧潰強度は、いずれも上昇する傾向が読み取れる。また、1段階目終了時における金属化率が低過ぎると、加熱して得られる還元鉄の圧潰強度が低下することが分かる。この低下原因は次のように考えられる。1段階目終了時における金属化率が低いということは、還元されていないFeOを多く存在する状態で2段階目の加熱温度(ここでは、1300℃)に移行していることとなる。そのため、2段階目の温度域で、融液量が増加し、空隙が増加した結果、金属鉄の結合量が減少し、圧潰強度が低くなったと考えられる。従って還元鉄の圧潰強度を高めるには、1段階目加熱終了時における鉄の金属化率が60%以上となるように1段階目加熱を行う必要がある。
【0090】
【表4】
【0091】
【表5】
【0092】
[実験例3]
本実験例では、上記実験例2の表4に示した成分組成のNo.1のペレットとNo.5のペレットを電気加熱炉で加熱還元したときに、加熱途中および加熱して得られた還元鉄の物性を調べた。
【0093】
電気加熱炉での加熱還元は、次に示す(a)〜(c)のいずれかの条件で行なった。下記表6に全加熱時間を示す。
(a)1200℃で14分間加熱した後、ペレットを取り出す。
(b)1200℃で14分間加熱し、続いて1300℃まで7分間かけて昇温した後、ペレットを取り出す。
(c)1200℃で14分間加熱し、続いて1300℃まで7分間かけて昇温し、1300℃で8分間加熱した後、還元鉄を取り出す。
【0094】
なお、電気加熱炉内には、上記実験例1と同様に、流速3L/分で純N2ガスを吹き込んだ。加熱温度は、ペレットの上方10〜20mmの位置における温度を意味している。
【0095】
加熱前後におけるペレットの全質量と、ペレット1個の体積を下記表6に示す。また、加熱前後における質量減少率と体積収縮率を下記表6に併せて示す。
【0096】
また、加熱して得られたペレットの圧潰強度を上記実験例2と同じ条件で測定し、結果を下記表6に示す。
【0097】
また、加熱して得られた還元鉄の成分組成を分析し、結果を下記表7に示す。なお、下記表7には、条件(a)または(b)で得られた還元鉄の成分組成を示した。条件(c)で得られた還元鉄の成分組成は、条件(b)で得られた還元鉄の成分組成とほぼ等しいと考えている。
【0098】
次に、加熱時間に対する加熱温度変化、および加熱時間に対する圧潰強度または金属化率の関係を図9に示す。図9において、◆は加熱温度、▲はNo.1の圧潰強度、△はNo.5の圧潰強度、■はNo.1の金属化率、□はNo.5の金属化率を夫々示している。
【0099】
下記表6、表7、および図9から次のように考察できる。まず、圧潰強度について考察する。No.1aとNo.5aを比べると、1200℃で加熱した後におけるペレットの圧潰強度は、いずれも1個あたり12kgf以下であり、非常に低いことが分かる。また、加熱前のペレットに含まれる炭素量が少ないNo.5aの方が、No.1aよりもペレットの圧潰強度が大きくなっていることが分かる。
【0100】
次に、No.1aとNo.1b、No.5aとNo.5bを夫々比べると、1200℃から1300℃に昇温することによって、圧潰強度が高くなることが分かる。特に、加熱前のペレットに含まれる炭素量が少ないペレットの圧潰強度は、1300℃に昇温することによって著しく上昇することが分かる(No.5a、No.5b)。
【0101】
次に、No.1bとNo.1cを比べると、1300℃で加熱した後の圧潰強度は、1200℃から1300℃に昇温した直後の圧潰強度と殆ど変わらないが、No.5bとNo.5cを比べると、1300℃で加熱することによって、1200℃から1300℃に昇温した直後の圧潰強度よりも更に著しく大きくなることが分かる。
【0102】
次に、金属化率について考察する。炭素を多く含む方が、炭素含有量の少ないペレットよりも、1200℃に加熱した直後、1300℃に昇温した直後のいずれの場合でも、金属化率が高くなっていることが分かる。具体的には、No.1aとNo.5aを比較すると、1200℃に加熱した直後では、8.2%の差が生じている。
【0103】
金属化が100%近くまで進行すると、塩基度が1.3と高い本発明のペレットでは脈石成分の融点が高くなり融液はほとんど生成しない。このため、金属鉄相互の接触が少なくなるため焼結が進まない。ところが、1300℃に加熱したときに少量のFeOが存在すると、少量の融液が生成し、金属鉄の焼結を促進する。このため、1段加熱終了時の金属化率は95%未満が好ましい。
【0104】
以上の結果から、No.1cに示されるように、1300℃に加熱した後においても炭素が多く残留していると、金属鉄が互いに凝集し、金属鉄の結合が分断されるため強度があまり上昇しないと考えられる。一方、No.5cに示されるように、1300℃に加熱した後に炭素が殆ど残留しない場合は、還元鉄間の焼結が進むため、強度が上昇すると考えられる。
【0105】
次に、加熱時間に対する体積収縮率の変化、および加熱時間と還元鉄に含まれるC量の関係を図10に示す。図10において▲はNo.1の体積収縮率、△はNo.5の体積収縮率、■はNo.1のC量、□はNo.5のC量を夫々示している。
【0106】
図10から明らかなように、No.1とNo.5は、体積収縮変化、還元鉄に含まれるC量の結果ともに同様の傾向を示すことが分かる。
【0107】
次に、No.1b、1c、5b、5cについて、加熱して得られたペレットまたは還元鉄の断面を反射型顕微鏡で撮影した図面代用写真を図11〜図14に示す。
【0108】
炭素を多く含むペレットを用いた場合には、図11(No.1b)から明らかなように、1300℃に昇温した直後には、微細な金属鉄粒子がペレット内全体に存在していることが分かる。また、中心部の粒子が外周部の粒子よりも大きくなり、また中心部に比較的大きな空隙が多数生じていることが分かる。
【0109】
また、図12(No.1c)から明らかなように、1300℃で加熱した後では、ペレットの中心部に大きな還元鉄粒子と空隙が存在していることが分かる。
【0110】
一方、ペレットに含まれる炭素量が少ない場合には、図13(No.5b)から明らかなように、表層部から金属鉄の焼結が進行しており、中心部には非常に微細な金属鉄が分散していることが分かる。
【0111】
また、図14(No.5c)から明らかなように、1300℃に加熱することによって、表層部における金属鉄の焼結は一層進行しており、厚くなっていることが分かる。また、還元鉄全体が大きく収縮していることが分かる。しかし、中心部の金属組織は、1300℃に加熱した後であっても、1300℃に昇温した直後と殆ど変わらないことが分かる。
【0112】
以上の結果から、加熱温度によっては残留炭素が金属鉄の形態に影響を及ぼし、強度を低下させることが明らかになった。
【0113】
【表6】
【0114】
【表7】
【0115】
[実験例4]
本実験例では、加熱前におけるペレットの気孔率が圧潰強度に及ぼす影響について調べた。
【0116】
上記表1のNo.1に示した成分組成の素材を用い、荷重を変えて圧縮成型することによって気孔率の異なる円柱状のタブレットを作製した。なお、ペレットは、通常、転動造粒によって製造するが、同じ原料から同じ造粒機を用いて気孔率の異なるペレットを製造することは困難である。そこで本実験例では、異なる圧力で圧縮成型することによって気孔率の異なるタブレットを製造し、これを用いた。
【0117】
下記表8に、製造したタブレットの気孔率を示す。なお、気孔率は、タブレットを105℃で20時間乾燥させてから見掛比重と真比重より算出した。
【0118】
各タブレットについて、1個あたりの質量、見掛比重、1個あたりの体積、真比重を測定し、下記表8に併せて示す。見掛比重は質量を体積で除して(質量/体積)算出し、体積は水銀置換法で測定し、真比重は乾式自動密度計で測定した。
【0119】
得られたタブレット3個を加熱された電気加熱炉へ装入し、加熱還元した。
【0120】
加熱条件は、1300℃で13.3分間加熱するか(下記表9のNo.6〜9)、1150℃で6.6分間加熱した後、1300℃まで7分間かけて昇温し、次いで1300℃で8分間加熱した(下記表9のNo.10〜13)。
【0121】
加熱して得られたタブレットについて、気孔率、1個あたりの質量、見掛比重、1個あたりの体積、真比重を夫々測定し、結果を下記表9に示す。
【0122】
また、加熱して得られたタブレットについて、円柱曲面方向から加圧して圧潰強度を測定した。結果を下記表9に併せて示す。
【0123】
図15に、加熱前のタブレットにおける乾燥時の気孔率と、加熱後のタブレットにおける圧潰強度または体積収縮率との関係を示す。図15において■はNo.6〜9の圧潰強度、▲はNo.10〜13の圧潰強度、□はNo.6〜9の体積収縮率、△はNo.10〜13の体積収縮率を夫々示している。
【0124】
図15から次にように考察できる。図15に■と▲で示すように、加熱前のタブレットの気孔率と、加熱して得られたタブレットの圧縮強度との間には相関関係があり、加熱前のタブレットの気孔率を小さくすると、加熱して得られるタブレットの圧潰強度が向上することが分かる。
【0125】
加熱前のタブレットの気孔率が25%以上の場合には、1300℃で一定で加熱しても、1150℃と1300℃の2段階で加熱しても、圧潰強度の差は比較的小さく、また気孔率の減少によって圧潰強度が向上する傾向であった。しかし、加熱前のタブレットの気孔率が24%以下の場合には、これらの傾向は逆転し、2段階加熱することによって、圧潰強度を著しく高めることができることが分かった。
【0126】
また、この逆転現象は、図15に□と△で示すように、加熱前のタブレットの気孔率と、加熱前後における体積収縮率との間においても同様に認められる。
【0127】
【表8】
【0128】
【表9】
【0129】
[実験例5]
本実験例では、原料の粒度が圧潰強度に及ぼす影響について調べた。
【0130】
図16に示す粒度分布を有する原料をブリケットに成形し、炉に装入して加熱還元した。図16において、曲線(A)は質量基準の積算量(%)を示しており、曲線(B)は各粒径における頻度(%)を示している。作製したブリケットについて、気孔率、1個あたりの質量、見掛比重、体積を下記表10に示す。なお、ブリケットの塩基度は2.16であった。
【0131】
成形して得られたブリケットを乾燥させたものの化学成分組成を下記表11に示す。
【0132】
上記加熱炉としては、工業生産している実機のロータリーハースを用いた。ロータリーハース内は、Z1〜Z6の領域に分け、各領域において温度を制御した。各領域における平均温度を表12に示す。また、Z1〜Z6の全ての領域における温度の平均値を表12に示す。表12に示すように、炉の前半は908〜1258℃とし、炉の後半は1306〜1333℃とした。
【0133】
還元して得られた還元鉄の化学成分組成を下記表13に示す。
【0134】
加熱還元して得られたブリケットの圧潰強度を上記実験例1と同じ条件で測定した。測定結果を下記表10に併せて示す。
【0135】
下記表10から明らかなように、圧潰強度は、1個あたりの圧潰荷重が84.7〜106.3kgfであり、非常に高い値であった。このように圧潰強度が高くなったのは、加熱パターンに加えて原料として用いた粉末が微粉であったからと考えられる。
【0136】
本実験例の結果から、原料中に、粒径が10μm以下の粉末を約67質量%含有すると効果のあることが明らかとなった。一般に、2種の粒度が混合された場合に最密充填する小粒子の割合は40質量%程度で、この40質量%は、物性への影響が現れる量である。一方、微細粒子のみでは塊成化が困難になるため上限は85質量%とすればよい。
【0137】
【表10】
【0138】
【表11】
【0139】
【表12】
【0140】
【表13】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鉱石や製鉄ダスト等の酸化鉄含有物質と、石炭等のように炭素を含む還元剤(以下、炭素質還元剤ということがある)を含む塊成物を加熱し、該塊成物中の酸化鉄を還元して還元鉄を製造する方法に関するものである。詳細には、塊成物1個あたりの圧潰荷重(以下、圧潰強度ということがある)が80kgf以上の還元鉄を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化鉄含有物質と炭素質還元剤とを含む混合物を塊成化し、この塊成物を炉で加熱すると、該塊成物中の酸化鉄が還元され、還元鉄を製造できる。得られた還元鉄は、高炉や電気炉等の溶解炉で鉄源として用いられる。こうした還元鉄の製造方法としては、特許文献1〜3が知られている。
【0003】
特許文献1には、酸化鉄材、炭素質原料、および結合剤の混合物を固化させた固化体を回転炉床炉へ装入し、1316〜1427℃で4〜10分間加熱して金属化する技術が記載されている。
【0004】
特許文献2には、還元期の最終段階で燃焼ガスの酸化度を低めに変更するか、または燃焼ガスの流速を小さくしてペレットまたはブリケット内部から発生するCOガスを有効に活用することによって、炭材内装ペレットまたはブリケットの表層部まで還元を促進し、かつ還元帯での還元鉄の再酸化を防止する技術が開示されている。この文献には、炭材内装ペレットの還元は、バーナー燃焼ガスの輻射熱により最高1300℃程度で、8〜10分間で終わると記載されている。
【0005】
特許文献3には、有価金属含有ダストを加熱還元して有価金属を資源として回収する際に、Ca含有量が多い場合には、加熱還元炉の炉床耐火物が溶損したり、還元効率が低下したり、有価金属の回収率が低下することが指摘されている。この文献には、1100〜1350℃の温度で有価金属含有ダストを加熱することによって、還元鉄を製造することが記載されている。
【0006】
ところで還元鉄を製造するにあたっては、塊成物から還元鉄を製造するときの金属化率、還元鉄の鉄濃度、および還元鉄の強度等が重要となる。
【0007】
金属化率については、得られた還元鉄を次工程の溶解炉で用いたときの生産性を高めるために、75%以上であることが求められる。
【0008】
還元鉄の鉄濃度については、得られた還元鉄を次工程の溶解炉で用いたときの生産効率向上を考慮し、亜鉛や鉛等を含有せず、脈石成分が少なく、鉄濃度が高いことが求められている。
【0009】
還元鉄の強度については、加熱炉からの排出時や、次工程に供されるまでに壊れて粉化されないことが要求される。例えば、高炉へ装入して鉄源として用いられる還元鉄には、1個あたり80kgf以上の圧潰荷重が求められる。しかし上記特許文献1〜3には、還元鉄の強度について何ら考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5730775号明細書
【特許文献2】特許第3004255号公報
【特許文献3】特開2003−328045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、1個あたりの圧潰荷重が80kgf以上の還元鉄を製造できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決することのできた本発明に係る還元鉄の製造方法とは、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤とを含む塊成物を加熱し、該塊成物中の酸化鉄を還元して還元鉄を製造する方法であって、
前記塊成物の塩基度(CaO/SiO2比)に基づいて決定される下記(a)〜(d)に示す加熱温度域で、鉄の金属化率が60〜95%となるように前記塊成物を1段階目加熱した後、
更に1300〜1400℃で、5〜18分間の2段階目加熱を行う点に要旨を有している。
(a)CaO/SiO2<0.93の場合は加熱温度域を1093℃以下とする。
(b)0.93≦CaO/SiO2<1.07の場合は加熱温度域を1223℃以下とする。
(c)1.07≦CaO/SiO2<1.87の場合は加熱温度域を1230℃以下とする。
(d)1.87≦CaO/SiO2の場合は加熱温度域を1300℃未満とする。
【0013】
また、上記課題は、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤とを含む塊成物を加熱し、該塊成物中の酸化鉄を還元して還元鉄を製造するにあたり、
塩基度(CaO/SiO2比)が1.07以上、1.87未満の塊成物を1230℃以下で、且つ鉄の金属化率が60〜95%となるように1段階目加熱した後、
更に1300〜1400℃で、5〜18分間の2段階目加熱を行うことによっても解決できる。
【0014】
前記1段階目加熱した後、2段階目加熱する前における塊成物に含まれる炭素量が1.5質量%以下(0質量%を含まない)となるように前記塊成物の成分調整を行うことが好ましい。
【0015】
前記塊成物としては、気孔率が25%以下のものを用いることが推奨される。
【0016】
前記塊成物の原料粉末としては、最大径が10μm以下の粉末を40〜85質量%含有するものを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、塊成物中の鉄の金属化率(以下、単に、金属化率ということがある。)を考慮しつつ、塊成物の塩基度(CaO/SiO2比)に基づいて決定される温度域で加熱する工程と、1300〜1400℃で加熱する工程とを組合せて塊成物を加熱することによって、1個あたりの圧潰荷重が80kgf以上の還元鉄を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、表3に示したNo.1の断面を撮影した図面代用写真である。
【図2】図2は、表3に示したNo.2の断面を撮影した図面代用写真である。
【図3】図3は、表3に示したNo.3の断面を撮影した図面代用写真である。
【図4】図4は、表3に示したNo.4の断面を撮影した図面代用写真である。
【図5】図5は、CaO−SiO2−FeOの3元系状態図である。
【図6】図6は、オリビン系鉱物の温度変化状態図である。
【図7】図7は、1200℃での加熱時間と、1段階目加熱終了時点での鉄の金属化率、ペレットの体積収縮率、および還元鉄の圧潰強度との関係を示すグラフである。
【図8】図8は、金属化率の変化(計算値)、還元率の変化、排ガス(COおよびCO2)の変化を示すグラフである。
【図9】図9は、加熱時間に対する加熱温度変化、および加熱時間に対する圧潰強度または金属化率の関係を示すグラフである。
【図10】図10は、加熱時間に対する体積収縮率の変化、および加熱時間と還元鉄に含まれるC量の関係を示すグラフである。
【図11】図11は、塊成物の断面を撮影した図面代用写真である。
【図12】図12は、還元鉄の断面を撮影した図面代用写真である。
【図13】図13は、塊成物の断面を撮影した図面代用写真である。
【図14】図14は、還元鉄の断面を撮影した図面代用写真である。
【図15】図15は、加熱前のタブレットにおける乾燥時の気孔率と、加熱後のタブレットにおける圧潰強度または体積収縮率との関係を示すグラフである。
【図16】図16は、原料として用いた粉末の粒度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤とを含む塊成物を加熱還元して得られる還元鉄の強度を高めることを目指して鋭意検討を重ねてきた。その結果、炉内で塊成物を2段階の温度域で加熱すればよいこと、具体的には、1段階目の温度域では、塊成物に含まれるFeOの一部が残るように加熱し、2段階目の温度域は1段階目の温度域より高い温度に設定してFeOを還元すればよいことを見出し、本発明を完成した。以下、本発明を完成した経緯について説明する。
【0020】
還元鉄の強度について調べたところ、加熱による体積減少率が一定以上になることによって還元鉄の強度は上昇することが明らかになった。その一方で、体積減少率が一定以上であっても所望の強度が得られないことがあった。この理由について検討したところ、加熱前後における体積減少率が同じであっても中心部に空隙が形成されている還元鉄は、中心部に空隙が形成されていない還元鉄よりも強度が低くなることが判明した。
【0021】
そこで本発明者らは、還元鉄の中心部に空隙が形成されないように塊成物を還元する方法について検討した。
【0022】
まず、本発明者らは、炉内における塊成物の加熱温度について検討した。従来では、塊成物は、炉内雰囲気温度を例えば1300℃に設定された炉を用いて加熱を行っていた(上記特許文献2)。炉内温度を高く設定することによって生産速度を増大でき、生産性の向上となるからである。
【0023】
ところが炉内に装入した塊成物を装入直後から1300℃程度の高温で加熱すると、塊成物の最表面側では酸化鉄から還元鉄への還元が速やかに進むが、塊成物の内部では還元の途中段階であるFeOのまま温度上昇してしまう。そのため還元鉄になる前のFeOは、塊成物に含まれる脈石成分と結合して溶融スラグを形成し、空隙を形成していた。塊成物の外殻部は還元鉄になっているため強度上昇に寄与するが、塊成物の内部には溶融スラグに起因する空隙が形成されているため還元鉄全体の強度は思いのほか低かった。
【0024】
そこで本発明者らは還元鉄内部における溶融スラグの形成を防止して空隙形成を抑制すると共に、内部の酸化鉄を充分に還元して金属鉄同士の結合を促進することによって還元鉄の強度を高めることを目指した。その結果、塊成物を炉に装入した直後は、脈石成分とFeOが溶融しない温度で酸化鉄を還元すれば、溶融スラグに起因する空隙の発生を防止でき、さらに内部にまで還元鉄を生成させることができるため、還元鉄の強度を向上できることが分かった。しかし炉内温度を低くすると、酸化鉄の還元に時間がかかるため、生産性を向上させることができない。そのため炉の後半では、生成した金属鉄の焼結を促進し、還元を完了させるために前半よりも炉内温度を高める必要がある。
【0025】
以上の経緯を踏まえて本発明は完成された。以下、本発明について詳細に説明する。
【0026】
本発明に係る還元鉄の製造方法は、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤とを含む塊成物を加熱し、該塊成物中の酸化鉄を還元して還元鉄を製造するものである。上記酸化鉄含有物質としては、例えば、鉄鉱石、砂鉄、製鉄ダスト、非鉄製錬残渣、製鉄廃棄物などを用いることができる。上記炭素質還元剤としては、炭素含有物質を用いればよく、例えば、石炭やコークスなどを用いることができる。
【0027】
上記塊成物は、その他の成分として、バインダーやMgO含有物質、CaO含有物質などを配合してもよい。上記バインダーとしては、例えば、多糖類(例えば、小麦粉等の澱粉など)などを用いることができる。上記MgO含有物質としては、例えば、MgO粉末や天然鉱石や海水などから抽出されるMgO含有物質、或いはドロマイトや炭酸マグネシウム(MgCO3)などを用いることができる。上記CaO含有物質としては、例えば、生石灰(CaO)や石灰石(主成分はCaCO3)などを用いることができる。
【0028】
上記塊成物を構成する上記物質やバインダー等は、必要に応じて粉砕し、最大径が10μm以下の粉末が占める割合が、40〜85質量%となるように調整しておくことが好ましい。最大径が10μm以下の粉末が占める割合をこの範囲にすることによって、塊成物の密度を高めることができるため、塊成物の気孔率を小さくできる。気孔率が小さくなると、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤の接触面積が大きくなるため、反応速度が大きくなり、酸化鉄の還元が速やかに進行し、また塊成物中に生成した金属鉄が焼結し易くなるため、還元鉄の強度を効率よく高めることができる。
【0029】
上記塊成物の気孔率は25%以下であることが好ましく、より好ましくは20%以下とする。上記塊成物の気孔率ε(%)は、見掛比重Aと真比重Bから次式に基づいて算出できる。
ε=(1−A/B)×100
【0030】
上記塊成物の形状は特に限定されず、例えば、ペレット状やブリケット状などであればよい。
【0031】
上記塊成物の大きさも特に限定されないが、例えば、塊成物の体積に相当する真球における直径(最大直径)が9〜30mm程度のものを用いることが好ましい。
【0032】
本発明の製造方法では、上記塊成物を、その塩基度(CaO/SiO2比)に基づいて決定される下記(a)〜(d)に示す加熱温度域で加熱する必要がある。本明細書ではこの加熱工程を1段階目加熱という。
(a)CaO/SiO2<0.93の場合は加熱温度域を1093℃以下とする。
(b)0.93≦CaO/SiO2<1.07の場合は加熱温度域を1223℃以下とする。
(c)1.07≦CaO/SiO2<1.87の場合は加熱温度域を1230℃以下とする。
(d)1.87≦CaO/SiO2の場合は加熱温度域を1300℃未満とする。
【0033】
上記1段階目加熱では、塊成物を製造するときに用いた原料粉末の仕込み量から塩基度を推測し、このデータを予め作成しておいた上記(a)〜(d)のデータベースと照合し、加熱温度域を決定する。決定された加熱温度域に基づいて炉内温度を調整してから炉に塊成物を装入する。
【0034】
このとき上記塊成物の加熱温度が上記範囲から外れて高過ぎると、塊成物の中心部において脈石成分とFeOとの溶融物が存在する状態となるため、これらが結合して溶融スラグを形成する。この溶融スラグは、還元鉄中に空隙を形成し、還元鉄の強度を低下させる原因となる。
【0035】
なお、上記(a)〜(d)で規定する加熱温度域の下限値は、いずれの場合であっても1000℃とすればよい。1000℃以上で加熱することによって、炭材内装塊成物の還元反応を促進できる。
【0036】
上記塊成物の塩基度は、当該塊成物を製造する際に用いた原料混合物に含まれるCaO量とSiO2量の質量比(CaO/SiO2)に基づいて算出すればよい。なお、塊成物に含まれるCaO量とSiO2量から直接算出してもよい。
【0037】
上記1段階目加熱では、鉄の金属化率が60〜95%(好ましくは70〜90%)となるように加熱を行う必要がある。1段階目加熱では塊成物中に未還元の酸化鉄を残しておき、この塊成物を後述する2段階目加熱することによって金属鉄の焼結を促進できる。その結果、還元鉄の強度を高めることができる。
【0038】
上記金属化率とは、下記式から算出できる。
金属化率(%)=金属鉄量(質量%)/全鉄量(質量%)×100
【0039】
上記鉄の金属化率を上記範囲に制御するには、1段階目加熱するときの温度およびこの温度に滞留する時間を調整すればよく、例えば、炉床の回転速度を調整する方法や、炉内に設けられた燃焼バーナーの燃焼条件を制御して1段階目加熱を行うときの温度を調整する方法等が採用できる。
【0040】
なお、炭材内装ペレットを回転炉床炉で加熱溶融し、スラグと分離させた銑鉄を製造する技術が、中国特許第ZL02104407.4号明細書に開示されている。この明細書には、1000〜1200で3〜5分間予熱した後、還元することが開示されている。しかし、この温度域での加熱時間が5分間以下では、加熱時間が短過ぎるため、鉄の金属化率は60%未満となる。従って上記明細書に記載されている銑鉄の強度は低くなると考えられる。
【0041】
上記1段階目加熱を終了した時点における塊成物に含まれる炭素量は、1.5質量%以下(0質量%を含まない)となるように前記塊成物の成分調整を行うことが好ましい。還元鉄と炭素が共存している状態で1250℃より高い温度に加熱すると、還元鉄中へ炭素が拡散して還元鉄の融点を低下させ溶融し始めるため、塊成物中の金属鉄が球状になる。還元鉄が球状になって分散すると、還元鉄の強度が著しく低くなる。また、後述する2段階目加熱を行うときにFeOが存在していない場合には、還元鉄および脈石成分の融点が高くなるため、還元鉄同士の焼結速度が小さくなる。従って本発明では1段階目加熱を終了した時点でFeOをある程度残しておき、これを2段階目加熱することによって還元鉄を焼結して体積収縮させる。この体積収縮によって還元鉄の強度が向上する。
【0042】
1段階目加熱を行った後は、1300〜1400℃に昇温して更に加熱を行う。この温度域で加熱することによって塊成物に残存しているFeOを還元できる。即ち、塊成物の中心部近傍にFeOが分散しているため、脈石成分がFeOと結合して形成される溶融スラグは微細なものとなる。本発明によれば、還元鉄中に形成される空隙を微細にできるため、還元鉄の強度を高めることができる。本明細書ではこの加熱工程を2段階目加熱という。
【0043】
上記温度域での加熱時間は5〜18分間とする。加熱時間が5分を下回ると還元が不充分となり、塊成物の金属化率が低くなり品質が低下する。加熱時間は好ましくは7分以上である。一方、加熱時間が18分を超えても還元鉄の圧潰強度の向上効果はほとんどなく、塊成物の金属化率も変化せず、生産速度が小さくなり生産性が悪くなる。加熱時間は好ましくは10分以下とする。
【0044】
上記加熱温度は、塊成物の最表面から20mm以内の領域における温度を制御する。
【0045】
上記1段階目加熱終了時点から2段階目加熱開始時点までの昇温速度は特に限定されないが、例えば、10〜20℃/分以上とすればよい。
【0046】
上記1段階目加熱と2段階目加熱を行う領域を夫々分けるために、天井から垂下させた仕切り壁を設ければよい。
【0047】
こうして得られた還元鉄は、1個あたりの圧潰荷重が80kgf以上となる。得られた還元鉄は、電気加熱炉のみならず、高炉へ装入して鉄源として利用できる。
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0049】
[実験例1]
酸化鉄含有物質と炭素質還元剤とを含む塊成物(ペレット)を電気加熱炉で加熱し、ペレット中の酸化鉄を還元して還元鉄を製造した。本実験例では、得られた還元鉄の内部組織と圧潰強度との関係について調査した。
【0050】
鉄鉱石M、石炭Y、小麦粉、消石灰、および珪石を配合して直径φ19mmのペレットを製造した。得られたペレットの成分組成を下記表1に示す。なお、下記表1に示したペレットは、加熱前のペレットに含まれる全炭素量(T−Cと表記する)、脈石量[CaO、SiO2、およびAl2O3の合計量で表わされ、(C+S+A)量と表記する]、および塩基度(CaO/SiO2)を適宜調整している。
【0051】
下記表1に示したNo.1〜4のペレットを、1300℃に加熱された電気加熱炉へ装入して加熱還元した。電気加熱炉内には、流速3L/分の純N2ガスを吹き込んだ。電気加熱炉から排出される排ガスのCOガス濃度を測定し、還元反応が終了した時点(即ち、COガスが殆ど検出されなくなった時点)で加熱を終了し、冷却した。下記表2に、加熱温度と加熱時間を示す。なお、加熱温度は、ペレットの上方10〜20mmの位置における温度を意味しており、この位置における温度が1300℃となるように制御した。
【0052】
加熱前後におけるペレットの全質量と、ペレット1個の体積を下記表2に示す。また、加熱前後における質量減少率と体積収縮率を下記表2に併せて示す。
【0053】
なお、ペレットの全質量とは、加熱前または加熱後における全ペレットの合計質量を意味している。ペレット1個の体積とは、加熱前後におけるペレット1個あたりの平均体積を意味している。
【0054】
質量減少率および体積収縮率は、下記式で求めた。
質量減少率(%)=[(加熱前のペレットの質量−加熱後のペレットの質量)/加熱前のペレットの質量]×100
体積収縮率(体積%)=[(加熱前のペレットの体積−加熱後のペレットの体積)/加熱前のペレットの体積]×100
【0055】
また、加熱して得られた還元鉄の圧潰強度を測定し、結果を下記表2に示す。還元鉄の圧潰強度は、2枚の平板間に試料を設置してこれを圧縮し、破壊時の荷重を計測できる強度試験機で測定した。なお、圧潰荷重の測定は、1個の還元鉄について行った。
【0056】
また、加熱して得られた還元鉄の成分組成を分析し、結果を下記表3に示す。下記表3において、C量は残留炭素量、M.Feは金属鉄量、T.Feは全鉄量、MetFeは鉄の金属化率を意味している。
【0057】
下記表2、表3から次のように考察できる。体積収縮率と圧潰強度との間には相関関係のないことが分かる。一方、加熱後における残留炭素量と圧潰強度との間には相関関係があり、残留炭素量が減少するにつれて圧潰強度の向上が読み取れる。
【0058】
次に、圧潰強度が変動する原因を明らかにするため、加熱して得られた還元鉄の断面を反射型顕微鏡で、5倍で撮影した。撮影した図面代用写真を図1〜図4に示す。図1〜図4は、下記表3に示したNo.1〜4の写真に夫々対応している。図1〜図4において、白色は金属鉄を示しており、黒色は空隙を示している。
【0059】
図1〜図4から次のように考察できる。
【0060】
図1はNo.1の還元鉄断面を撮影した写真である。図1から、還元鉄の表面には金属鉄(白色)が焼結した薄い層として存在し、中心部には微細な点状の金属鉄が分散して存在していることが分かる。中間部には点状の空隙(黒色)が比較的多く存在していることが分かる。No.1では、小さな空隙が分散して存在しているが、大きな空隙は存在しないため、比較的高い強度を示したと考えられる。
【0061】
図2はNo.2の還元鉄断面を撮影した写真である。図2から、中央部には大きな球状の金属鉄(白色)が存在し、中間部は大きな空隙になっていることが分かる。大きな空隙が形成されたことによって、比較的低い強度になったと考えられる。空隙が大きくなった原因は、ペレットの脈石成分の塩基度が0.53と低いため、脈石成分とFeO成分が反応して溶融スラグを多量に生成したためと考えられる。その後、溶融スラグ中のFeOが還元されて金属鉄となり、近傍の微細な金属鉄と合体して大きな粒状の金属鉄が形成されたものと考えられる。
【0062】
図3はNo.3の還元鉄断面を撮影した写真である。図3から、還元鉄の表面近傍には多数のクラックと空隙が存在していることが分かる。しかし還元鉄の中間部から中心部にかけては密に充填していることが分かる。従って圧潰強度が最も大きくなったと考えられる。
【0063】
図4はNo.4の還元鉄断面を撮影した写真である。図4から、大きな空隙は存在していないが、やや大きな金属鉄(白色)が全体に点在していることが分かる。粒状の金属鉄が分散していることは、金属鉄間の結合が弱いことを示しており、強度が低くなった原因と考えられる。このような金属鉄組織となった原因は、残留炭素量が多いため、金属鉄中へ炭素が拡散して、融点が低下し、微細金属鉄同士が合体して粒状の金属鉄が形成されたと考えられる。
【0064】
以上の結果から、還元鉄の強度が低下する原因は、溶融スラグが多量に生成すること、および加熱後に金属鉄と炭素が共存することにあると考えられる。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
次に、溶融スラグが生成する機構を状態図に基づいて検討した。
【0069】
融液の生成温度が脈石成分によってどのように変化するか状態図に基づいて検討した。
【0070】
まず、還元過程の塊成物内では、FeO→Feへの還元速度が小さいため、融液の生成に対しては脈石成分のみではなく、FeOの存在を考慮する必要がある。
【0071】
そこで、脈石成分について、図5に示すCaO−SiO2−FeOの3元系状態図を用いて検討する。図5は、SLUG ATLAS:Verlang Stahleisen GmbHのP.126に記載されている図3.223である。
【0072】
図5に示す直線1は、オリビン系鉱物である2CaO・SiO2と2FeO・SiO2間の変化を示しており、温度軸断面を図6に示す。
【0073】
図6から、CaOとFeOの置換量(含有比率)によって液相線と固相線が変化していることがわかる。CaO−FeO−SiO2固溶体よりCaOが少ない領域(即ち、CaO/SiO2比が低い領域)では、FeOが80%置換した組成で最低融点1115℃となる。
【0074】
図5でオリビン系から離れた範囲まで拡張すると、最低融点は1093℃となる。このため、質量比で、CaO/SiO2が0.93以下(モル比で、CaO/SiO2が1以下)の範囲では、1093℃以上の温度で融液が生成する。
【0075】
次に、CaO−FeO−SiO2固溶体より高いCaO濃度では、CaO−FeO−SiO2固溶体の融点1223℃とα―2CaO・SiO2の融点1230℃の間に固液共存のCaO濃度がある。この時のCaO/SiO2は、質量比で1.07である。
【0076】
CaO/SiO2が、質量比で1.07より低いと、α―2CaO・SiO2と融液の共存状態となる。
【0077】
2CaO・SiO2の質量比が1.87より高いCaO濃度では、大部分が固相になるため、CaO/SiO2の質量比は1.87未満とすればよい。
【0078】
以上を整理すると、次の通りである。
CaO/SiO2<0.93 1093℃以下
0.93≦CaO/SiO2<1.07 1223℃以下
1.07≦CaO/SiO2<1.87 1230℃以下
1.87≦CaO/SiO2 1300℃未満
【0079】
上記実験例1の結果から、ペレット内で金属鉄と共存する炭素量が多くなると、金属鉄が球状化して加熱後の還元鉄の強度が著しく低下することが明らかになった。
【0080】
[実験例2]
本実験例2では、1段階目加熱時間が体積収縮率に及ぼす影響と、加熱して得られる還元鉄の圧潰強度に及ぼす影響を調べた。
【0081】
本実験例2では、上記実験例1で用いたNo.1(炭素量は14.21%)のペレットよりも炭素量を約1.7%低くして作製したペレット(No.5、炭素量は12.49%)を用いた。加熱前におけるペレットNo.5の成分組成を下記表4に示す。なお、ペレットの直径はφ19mmである。また、下記表4には、参考データとしてペレットNo.1の成分組成も併せて示した。
【0082】
下記表4に示したNo.5のペレットを電気加熱炉へ装入して加熱還元した。電気加熱炉での加熱還元は、加熱温度を2段に分けて行なった。
【0083】
まず、1段階目として1200℃で9.1〜21.7分間加熱し、続いて1300℃まで7分間かけて昇温し、2段階目として1300℃で8分間加熱した。電気加熱炉内には、上記実験例1と同様に、流速3L/分の純N2ガスを吹き込んだ。なお、加熱温度は、ペレットの上方10〜20mmの位置における温度を意味している。
【0084】
本実験例2では、1200℃での加熱が終了した時点と1300℃での加熱が終了した時点でペレットを取り出し、鉄の金属化率を測定した。結果を下記表5に示す。
【0085】
次に、加熱前後におけるペレットの体積収縮率を上記実験例1と同様に測定した。結果を下記表5に示す。
【0086】
次に、1300℃で加熱して得られた還元鉄の圧潰強度を上記実験例1と同様に測定した。結果を下記表5に示す。
【0087】
また、1200℃での加熱時間と、1段階目加熱終了時点での鉄の金属化率、ペレットの体積収縮率、および還元鉄の圧潰強度との関係を図7に示す。図7において、▲は金属化率、◆は体積収縮率、■は圧潰強度を夫々示している。
【0088】
また、図8に、加熱試験を行なったときの一例として、加熱したときの金属化率の変化(計算値)、還元率の変化(計算値)、排ガス(COおよびCO2)の変化を示す。
【0089】
以上の結果から、1段階目の加熱時間を長くするほど、1段階目加熱終了時点の鉄の金属化率、ペレットの体積収縮率、および還元鉄の圧潰強度は、いずれも上昇する傾向が読み取れる。また、1段階目終了時における金属化率が低過ぎると、加熱して得られる還元鉄の圧潰強度が低下することが分かる。この低下原因は次のように考えられる。1段階目終了時における金属化率が低いということは、還元されていないFeOを多く存在する状態で2段階目の加熱温度(ここでは、1300℃)に移行していることとなる。そのため、2段階目の温度域で、融液量が増加し、空隙が増加した結果、金属鉄の結合量が減少し、圧潰強度が低くなったと考えられる。従って還元鉄の圧潰強度を高めるには、1段階目加熱終了時における鉄の金属化率が60%以上となるように1段階目加熱を行う必要がある。
【0090】
【表4】
【0091】
【表5】
【0092】
[実験例3]
本実験例では、上記実験例2の表4に示した成分組成のNo.1のペレットとNo.5のペレットを電気加熱炉で加熱還元したときに、加熱途中および加熱して得られた還元鉄の物性を調べた。
【0093】
電気加熱炉での加熱還元は、次に示す(a)〜(c)のいずれかの条件で行なった。下記表6に全加熱時間を示す。
(a)1200℃で14分間加熱した後、ペレットを取り出す。
(b)1200℃で14分間加熱し、続いて1300℃まで7分間かけて昇温した後、ペレットを取り出す。
(c)1200℃で14分間加熱し、続いて1300℃まで7分間かけて昇温し、1300℃で8分間加熱した後、還元鉄を取り出す。
【0094】
なお、電気加熱炉内には、上記実験例1と同様に、流速3L/分で純N2ガスを吹き込んだ。加熱温度は、ペレットの上方10〜20mmの位置における温度を意味している。
【0095】
加熱前後におけるペレットの全質量と、ペレット1個の体積を下記表6に示す。また、加熱前後における質量減少率と体積収縮率を下記表6に併せて示す。
【0096】
また、加熱して得られたペレットの圧潰強度を上記実験例2と同じ条件で測定し、結果を下記表6に示す。
【0097】
また、加熱して得られた還元鉄の成分組成を分析し、結果を下記表7に示す。なお、下記表7には、条件(a)または(b)で得られた還元鉄の成分組成を示した。条件(c)で得られた還元鉄の成分組成は、条件(b)で得られた還元鉄の成分組成とほぼ等しいと考えている。
【0098】
次に、加熱時間に対する加熱温度変化、および加熱時間に対する圧潰強度または金属化率の関係を図9に示す。図9において、◆は加熱温度、▲はNo.1の圧潰強度、△はNo.5の圧潰強度、■はNo.1の金属化率、□はNo.5の金属化率を夫々示している。
【0099】
下記表6、表7、および図9から次のように考察できる。まず、圧潰強度について考察する。No.1aとNo.5aを比べると、1200℃で加熱した後におけるペレットの圧潰強度は、いずれも1個あたり12kgf以下であり、非常に低いことが分かる。また、加熱前のペレットに含まれる炭素量が少ないNo.5aの方が、No.1aよりもペレットの圧潰強度が大きくなっていることが分かる。
【0100】
次に、No.1aとNo.1b、No.5aとNo.5bを夫々比べると、1200℃から1300℃に昇温することによって、圧潰強度が高くなることが分かる。特に、加熱前のペレットに含まれる炭素量が少ないペレットの圧潰強度は、1300℃に昇温することによって著しく上昇することが分かる(No.5a、No.5b)。
【0101】
次に、No.1bとNo.1cを比べると、1300℃で加熱した後の圧潰強度は、1200℃から1300℃に昇温した直後の圧潰強度と殆ど変わらないが、No.5bとNo.5cを比べると、1300℃で加熱することによって、1200℃から1300℃に昇温した直後の圧潰強度よりも更に著しく大きくなることが分かる。
【0102】
次に、金属化率について考察する。炭素を多く含む方が、炭素含有量の少ないペレットよりも、1200℃に加熱した直後、1300℃に昇温した直後のいずれの場合でも、金属化率が高くなっていることが分かる。具体的には、No.1aとNo.5aを比較すると、1200℃に加熱した直後では、8.2%の差が生じている。
【0103】
金属化が100%近くまで進行すると、塩基度が1.3と高い本発明のペレットでは脈石成分の融点が高くなり融液はほとんど生成しない。このため、金属鉄相互の接触が少なくなるため焼結が進まない。ところが、1300℃に加熱したときに少量のFeOが存在すると、少量の融液が生成し、金属鉄の焼結を促進する。このため、1段加熱終了時の金属化率は95%未満が好ましい。
【0104】
以上の結果から、No.1cに示されるように、1300℃に加熱した後においても炭素が多く残留していると、金属鉄が互いに凝集し、金属鉄の結合が分断されるため強度があまり上昇しないと考えられる。一方、No.5cに示されるように、1300℃に加熱した後に炭素が殆ど残留しない場合は、還元鉄間の焼結が進むため、強度が上昇すると考えられる。
【0105】
次に、加熱時間に対する体積収縮率の変化、および加熱時間と還元鉄に含まれるC量の関係を図10に示す。図10において▲はNo.1の体積収縮率、△はNo.5の体積収縮率、■はNo.1のC量、□はNo.5のC量を夫々示している。
【0106】
図10から明らかなように、No.1とNo.5は、体積収縮変化、還元鉄に含まれるC量の結果ともに同様の傾向を示すことが分かる。
【0107】
次に、No.1b、1c、5b、5cについて、加熱して得られたペレットまたは還元鉄の断面を反射型顕微鏡で撮影した図面代用写真を図11〜図14に示す。
【0108】
炭素を多く含むペレットを用いた場合には、図11(No.1b)から明らかなように、1300℃に昇温した直後には、微細な金属鉄粒子がペレット内全体に存在していることが分かる。また、中心部の粒子が外周部の粒子よりも大きくなり、また中心部に比較的大きな空隙が多数生じていることが分かる。
【0109】
また、図12(No.1c)から明らかなように、1300℃で加熱した後では、ペレットの中心部に大きな還元鉄粒子と空隙が存在していることが分かる。
【0110】
一方、ペレットに含まれる炭素量が少ない場合には、図13(No.5b)から明らかなように、表層部から金属鉄の焼結が進行しており、中心部には非常に微細な金属鉄が分散していることが分かる。
【0111】
また、図14(No.5c)から明らかなように、1300℃に加熱することによって、表層部における金属鉄の焼結は一層進行しており、厚くなっていることが分かる。また、還元鉄全体が大きく収縮していることが分かる。しかし、中心部の金属組織は、1300℃に加熱した後であっても、1300℃に昇温した直後と殆ど変わらないことが分かる。
【0112】
以上の結果から、加熱温度によっては残留炭素が金属鉄の形態に影響を及ぼし、強度を低下させることが明らかになった。
【0113】
【表6】
【0114】
【表7】
【0115】
[実験例4]
本実験例では、加熱前におけるペレットの気孔率が圧潰強度に及ぼす影響について調べた。
【0116】
上記表1のNo.1に示した成分組成の素材を用い、荷重を変えて圧縮成型することによって気孔率の異なる円柱状のタブレットを作製した。なお、ペレットは、通常、転動造粒によって製造するが、同じ原料から同じ造粒機を用いて気孔率の異なるペレットを製造することは困難である。そこで本実験例では、異なる圧力で圧縮成型することによって気孔率の異なるタブレットを製造し、これを用いた。
【0117】
下記表8に、製造したタブレットの気孔率を示す。なお、気孔率は、タブレットを105℃で20時間乾燥させてから見掛比重と真比重より算出した。
【0118】
各タブレットについて、1個あたりの質量、見掛比重、1個あたりの体積、真比重を測定し、下記表8に併せて示す。見掛比重は質量を体積で除して(質量/体積)算出し、体積は水銀置換法で測定し、真比重は乾式自動密度計で測定した。
【0119】
得られたタブレット3個を加熱された電気加熱炉へ装入し、加熱還元した。
【0120】
加熱条件は、1300℃で13.3分間加熱するか(下記表9のNo.6〜9)、1150℃で6.6分間加熱した後、1300℃まで7分間かけて昇温し、次いで1300℃で8分間加熱した(下記表9のNo.10〜13)。
【0121】
加熱して得られたタブレットについて、気孔率、1個あたりの質量、見掛比重、1個あたりの体積、真比重を夫々測定し、結果を下記表9に示す。
【0122】
また、加熱して得られたタブレットについて、円柱曲面方向から加圧して圧潰強度を測定した。結果を下記表9に併せて示す。
【0123】
図15に、加熱前のタブレットにおける乾燥時の気孔率と、加熱後のタブレットにおける圧潰強度または体積収縮率との関係を示す。図15において■はNo.6〜9の圧潰強度、▲はNo.10〜13の圧潰強度、□はNo.6〜9の体積収縮率、△はNo.10〜13の体積収縮率を夫々示している。
【0124】
図15から次にように考察できる。図15に■と▲で示すように、加熱前のタブレットの気孔率と、加熱して得られたタブレットの圧縮強度との間には相関関係があり、加熱前のタブレットの気孔率を小さくすると、加熱して得られるタブレットの圧潰強度が向上することが分かる。
【0125】
加熱前のタブレットの気孔率が25%以上の場合には、1300℃で一定で加熱しても、1150℃と1300℃の2段階で加熱しても、圧潰強度の差は比較的小さく、また気孔率の減少によって圧潰強度が向上する傾向であった。しかし、加熱前のタブレットの気孔率が24%以下の場合には、これらの傾向は逆転し、2段階加熱することによって、圧潰強度を著しく高めることができることが分かった。
【0126】
また、この逆転現象は、図15に□と△で示すように、加熱前のタブレットの気孔率と、加熱前後における体積収縮率との間においても同様に認められる。
【0127】
【表8】
【0128】
【表9】
【0129】
[実験例5]
本実験例では、原料の粒度が圧潰強度に及ぼす影響について調べた。
【0130】
図16に示す粒度分布を有する原料をブリケットに成形し、炉に装入して加熱還元した。図16において、曲線(A)は質量基準の積算量(%)を示しており、曲線(B)は各粒径における頻度(%)を示している。作製したブリケットについて、気孔率、1個あたりの質量、見掛比重、体積を下記表10に示す。なお、ブリケットの塩基度は2.16であった。
【0131】
成形して得られたブリケットを乾燥させたものの化学成分組成を下記表11に示す。
【0132】
上記加熱炉としては、工業生産している実機のロータリーハースを用いた。ロータリーハース内は、Z1〜Z6の領域に分け、各領域において温度を制御した。各領域における平均温度を表12に示す。また、Z1〜Z6の全ての領域における温度の平均値を表12に示す。表12に示すように、炉の前半は908〜1258℃とし、炉の後半は1306〜1333℃とした。
【0133】
還元して得られた還元鉄の化学成分組成を下記表13に示す。
【0134】
加熱還元して得られたブリケットの圧潰強度を上記実験例1と同じ条件で測定した。測定結果を下記表10に併せて示す。
【0135】
下記表10から明らかなように、圧潰強度は、1個あたりの圧潰荷重が84.7〜106.3kgfであり、非常に高い値であった。このように圧潰強度が高くなったのは、加熱パターンに加えて原料として用いた粉末が微粉であったからと考えられる。
【0136】
本実験例の結果から、原料中に、粒径が10μm以下の粉末を約67質量%含有すると効果のあることが明らかとなった。一般に、2種の粒度が混合された場合に最密充填する小粒子の割合は40質量%程度で、この40質量%は、物性への影響が現れる量である。一方、微細粒子のみでは塊成化が困難になるため上限は85質量%とすればよい。
【0137】
【表10】
【0138】
【表11】
【0139】
【表12】
【0140】
【表13】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄含有物質と炭素質還元剤とを含む塊成物を加熱し、該塊成物中の酸化鉄を還元して還元鉄を製造する方法であって、
前記塊成物の塩基度(CaO/SiO2比)に基づいて決定される下記(a)〜(d)に示す加熱温度域で、鉄の金属化率が60〜95%となるように前記塊成物を1段階目加熱した後、
更に1300〜1400℃で、5〜18分間の2段階目加熱を行うことを特徴とする還元鉄の製造方法。
(a)CaO/SiO2<0.93の場合は加熱温度域を1093℃以下とする。
(b)0.93≦CaO/SiO2<1.07の場合は加熱温度域を1223℃以下とする。
(c)1.07≦CaO/SiO2<1.87の場合は加熱温度域を1230℃以下とする。
(d)1.87≦CaO/SiO2の場合は加熱温度域を1300℃未満とする。
【請求項2】
酸化鉄含有物質と炭素質還元剤とを含む塊成物を加熱し、該塊成物中の酸化鉄を還元して還元鉄を製造する方法であって、
塩基度(CaO/SiO2比)が1.07以上、1.87未満の塊成物を1230℃以下で、且つ鉄の金属化率が60〜95%となるように1段階目加熱した後、
更に1300〜1400℃で、5〜18分間の2段階目加熱を行うことを特徴とする還元鉄の製造方法。
【請求項3】
前記1段階目加熱した後、2段階目加熱する前における塊成物に含まれる炭素量が1.5質量%以下(0質量%を含まない)となるように前記塊成物の成分調整を行う請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記塊成物として、気孔率が25%以下のものを用いる請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記塊成物の原料粉末として、最大径が10μm以下の粉末を40〜85質量%含有するものを用いる請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項1】
酸化鉄含有物質と炭素質還元剤とを含む塊成物を加熱し、該塊成物中の酸化鉄を還元して還元鉄を製造する方法であって、
前記塊成物の塩基度(CaO/SiO2比)に基づいて決定される下記(a)〜(d)に示す加熱温度域で、鉄の金属化率が60〜95%となるように前記塊成物を1段階目加熱した後、
更に1300〜1400℃で、5〜18分間の2段階目加熱を行うことを特徴とする還元鉄の製造方法。
(a)CaO/SiO2<0.93の場合は加熱温度域を1093℃以下とする。
(b)0.93≦CaO/SiO2<1.07の場合は加熱温度域を1223℃以下とする。
(c)1.07≦CaO/SiO2<1.87の場合は加熱温度域を1230℃以下とする。
(d)1.87≦CaO/SiO2の場合は加熱温度域を1300℃未満とする。
【請求項2】
酸化鉄含有物質と炭素質還元剤とを含む塊成物を加熱し、該塊成物中の酸化鉄を還元して還元鉄を製造する方法であって、
塩基度(CaO/SiO2比)が1.07以上、1.87未満の塊成物を1230℃以下で、且つ鉄の金属化率が60〜95%となるように1段階目加熱した後、
更に1300〜1400℃で、5〜18分間の2段階目加熱を行うことを特徴とする還元鉄の製造方法。
【請求項3】
前記1段階目加熱した後、2段階目加熱する前における塊成物に含まれる炭素量が1.5質量%以下(0質量%を含まない)となるように前記塊成物の成分調整を行う請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記塊成物として、気孔率が25%以下のものを用いる請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記塊成物の原料粉末として、最大径が10μm以下の粉末を40〜85質量%含有するものを用いる請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図15】
【図16】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図15】
【図16】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−107271(P2012−107271A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255364(P2010−255364)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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