説明

還元鉄の製造方法

【課題】 非鉄製錬のプロセスで発生した副生物や、電気炉ダストを脱亜鉛処理した残渣に含まれる含鉄の副生物・残渣を利用して、酸化鉄原料の還元を阻害することなく、高強度且つ高金属化率の還元鉄を効率良く製造することが可能な還元鉄の製造方法を得る。
【解決手段】 酸化鉄原料と炭素質還元材とを含む塊成化物を還元炉に装入して還元し、金属鉄分とスラグ成分との混合物からなる還元鉄を製造する方法において、上記塊成化物を成型するに際して、上記酸化鉄原料に、CaO、SiO、MgO、Al、MnOを含有する含鉄添加材を添加し、上記塊成化物中の上記スラグ成分のスラグ塩基度:(CaO質量%+MgO質量%)/SiO質量%を、0.9超の範囲に制御し、且つ、塊成化物中におけるSiOとトータル鉄T.Feとの含有率の関係:SiO質量%/T.Fe質量%を0.35超、0.6未満の範囲に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元鉄の製造方法に関するものであり、特に高強度且つ高金属化率の還元鉄を効率良く得ることができる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製銑・製鋼工程で発生する酸化鉄を含む粉鉄鉱石類やダスト類等の粉状の酸化鉄原料を利用して還元鉄を製造する方法は広く用いられている。
このような還元鉄の製造方法としては、例えば特許文献1に示すように、製鉄ダストや鉄鉱石と還元材である炭素質の還元材とを混合した後に塊成化処理を施して、ペレット又はブリケット状の塊成化物とし、この塊成化物を連続的に炉床が移動する回転炉床炉等の還元炉で加熱還元する方法が知られている。
【0003】
ところで、最近では、資源の枯渇や環境に対する懸念から、製鉄所や製錬所等においてはゼロエミッション化を図る傾向にある。そのため、粉状酸化鉄原料に、若干の鉄分を含み、且つCaO、SiO、MgO、Al、MnOを主成分とするスラグ成分を多く含有する、非鉄製錬のプロセスで発生したスラグ等や、電気炉ダストを脱亜鉛処理した残渣等、従来においては埋立処理に供されていた含鉄の副生物や残渣を加え、還元処理することが検討されている。上記副生物や残渣としては、銅製錬時の副産物である銅スラグや鉄精鉱等、亜鉛製錬時の副産物である亜鉛スラグ等、鉛製錬時の副生物である鉛スラグ等、電気炉ダストの脱亜鉛処理残渣である還元鉄クリンカ等が考えられる。
【0004】
しかしながら、上記副生物や残渣を酸化鉄原料に加えて塊成化物を成型し、その塊成化物を還元炉に装入して還元鉄を製造した場合、加熱・還元の過程において、塊成化物中のスラグ成分が液化して大量の融液が発生し、結果として塊成化物全体が溶融した状態となってしまう。そして、溶融した塊成化物は、還元炉の炉床に融着、固化し、炉床表面上に強固な融着物を生成、成長させるため、連続操業を阻害する要因となる。
【0005】
また、還元炉における還元処理された塊成化物は、高炉や転炉への搬送過程において、設備機器や他の塊成化物との接触によって破壊されず、また、高炉での使用に耐えうるよう、高炉の炉頂から落下させた場合や炉内装入物の荷重による圧力が作用した場合でも容易に破壊されない程度の圧壊強度を備えていることが必要である。
しかしながら、上述のように、スラグ成分が液化して融液として塊成化物から流出すると、塊成化物に空隙部分が多くなり、全体として脆くなるという現象が生じることから、このような塊成化物は、搬送や高炉での使用に耐えられない可能性が高い。
【0006】
さらに、塊成化物中に含まれるCaO、SiO、MgO、Al、MnO等スラグ成分、特にSiOが酸化鉄と反応し、被還元性を低下させる酸化鉄系化合物(例えばFayalite(=2FeO・SiO))を生成することが知られている。上述の非鉄製錬等の副産物や残渣は、その成分中にSiOを非常に多く含んでいることから、上記酸化鉄系化合物を生成しやすく、これにより塊成化物における還元反応が阻害され、金属化率が低い還元鉄が製造される可能性がきわめて高いと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−293020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の技術的課題は、非鉄製錬のプロセスで発生した副生物や、電気炉ダストを脱亜鉛処理した残渣に含まれる含鉄の副生物・残渣を利用して、酸化鉄原料の還元を阻害することなく、高強度且つ高金属化率の還元鉄を効率良く製造することが可能な還元鉄の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の還元鉄の製造方法は、酸化鉄原料と炭素質還元材とを含む塊成化物を還元炉に装入して還元し、金属鉄分とスラグ成分との混合物からなる還元鉄を製造する方法において、上記塊成化物を成型するに際して、上記酸化鉄原料に、CaO、SiO、MgO、Al、MnOを含有する含鉄添加材を添加し、上記塊成化物中の上記スラグ成分のスラグ塩基度:(CaO質量%+MgO質量%)/SiO質量%を、0.9超の範囲に制御し、且つ、塊成化物中におけるSiOとトータル鉄T.Feとの含有率の関係:SiO質量%/T.Fe質量%を0.35超、0.6未満の範囲に制御することを特徴とする。
【0010】
本発明においては、上記含鉄添加材は、CaO、SiO、MgO、Al、MnOの含有量の合計が20質量%以上である、銅製錬副生物、亜鉛製錬副生物、鉛製錬副産物、電気炉ダストの脱亜鉛処理残渣のうちの少なくとも1つの副生物又は残渣を含んでいることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、酸化鉄原料にCaO、SiO、MgO、Al、MnOを含有する含鉄添加材を添加して、スラグ塩基度:(CaO質量%+MgO質量%)/SiO質量%と、SiO質量%/T.Fe質量%とをそれぞれ適切な範囲に制御したことにより、被還元性を低下させる酸化鉄系化合物の生成を抑制すると共に、塊成化物が全体として溶融することが防止されるため、高強度且つ高金属化率の還元鉄を効率良く製造することができる。
また、上記含鉄添加材として、非鉄製錬のプロセスで発生した副生物や、電気炉ダストを脱亜鉛処理した残渣を用いることができるため、これらの副生物や残渣を有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】加熱・還元過程における塊成化物の溶融とSiO質量%/T.Fe質量%との関係を表すグラフである。
【図2】スラグ塩基度と金属化率との関係を表すグラフである。
【図3】SiO質量%/T.Fe質量%と還元処理後の塊成化物の圧壊強度との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る還元鉄の製造方法について詳細に説明する。
本発明に係る還元鉄の製造の基本的な流れとしては、まず、原料となる粉状の酸化鉄原料と、還元材である炭材と、CaO、SiO、MgO、Al、MnOを含有する含鉄添加材とをそれぞれ別々のサイロ等に貯蔵しておく。そして、これら酸化鉄原料と炭材に含鉄添加材を添加、混入させた上で、これらを破砕混合する破砕混合工程を行う。この破砕混合工程の後、該破砕混合工程で生成された混合物に水分含有率調整を行って混練する混練工程を行い、該混練工程後、その混合物を塊成化して塊成化物を成型する塊成化工程を行う。
その後、成型された塊成化物をさらに乾燥させる乾燥工程を経て、この乾燥した塊成化物を、回転炉床炉等の還元炉に投入して還元し還元鉄とする還元処理工程を行うことにより、還元鉄が製造される。
【0014】
この還元鉄の製造方法で使用される酸化鉄原料としては、転炉ダストや電気炉ダスト、溶解炉ダスト、高炉ダスト等のダスト類や粉鉄鉱石類等の粉状の酸化鉄が主に使用される。
また、酸化鉄原料の還元に必要となる還元材としては、石炭や樹脂を主体とする使用済み製品を乾留して得られる炭素主体の粒子等の炭素質のものが使用される。
【0015】
一方、上記含鉄添加材は、鉄分を含み、CaO、SiO、MgO、Al、MnOのスラグ成分を含有する、非鉄製錬のプロセスで発生したスラグ等の副産物や、電気炉ダストを脱亜鉛処理した残渣等(以下、「非鉄製錬副産物等」という。)を含むものである。
具体的に、この含鉄添加材としては、銅製錬副産物である銅スラグや鉄精鉱等、亜鉛製錬副産物である亜鉛スラグ等、鉛製錬副産物である鉛スラグ等、電気炉ダストの脱亜鉛処理後の残渣である還元鉄クリンカ等を用いることができる。
【0016】
上記含鉄添加材を添加、混入させるに際しては、上記塊成化物中の上記スラグ成分のスラグ塩基度:(CaO質量%+MgO質量%)/SiO質量%を0.9超の範囲に制御し、且つ、塊成化物中におけるSiOとトータル鉄T.Feとの含有率の関係:SiO質量%/T.Fe質量%を0.35超、0.6未満の範囲に制御する。
これについて、具体的に説明する。
【0017】
既に述べたように、このような非鉄製錬副産物等を酸化鉄原料に添加して塊成化物を成型し、その塊成化物を還元炉に装入して還元鉄を製造すると、何も対策を施さなかった場合には、加熱・還元の過程において種々の問題が発生する。
即ち、還元反応中に塊成化物中のスラグ成分が液化して大量の融液が発生し、結果として塊成化物全体が溶融した状態となってしまう。これにより、溶融した塊成化物が、還元炉の炉床に融着・固化し、炉床表面上に強固な融着物を生成して成長させるため、連続操業を阻害する。さらに、スラグ成分を含む上記融液が塊成化物から流出すると、塊成化物に空隙部分が多くなり全体として脆くなるため、圧壊強度が著しく低下して搬送や高炉での使用に耐えられない。
その一方で、塊成化物中に含まれるスラグ成分が酸化鉄と反応して、ファイアライト等の被還元性を低下させる酸化鉄系化合物を生成するが、上述の非鉄製錬副産物等は、スラグ成分を多く含んでいることから、この酸化鉄系化合物を生成しやすい。これにより、塊成化物における還元反応が阻害され、金属化率が高い還元鉄を製造することが難しくなる。
【0018】
これらの問題点に鑑み、本発明者らは、ダスト類等の酸化鉄原料と炭素質還元材、さらに非鉄製錬副産物等を含む含鉄添加物とを含む塊成化物によって還元鉄を製造するに際して、加熱・還元過程における塊成化物の溶融、及び金属化率、並びに還元処理後の塊成化物の圧壊強度の各観点から考察し、上述の問題を解消するべく鋭意研究を重ねた。
この結果、次のような知見を得るに至った。
【0019】
まず、加熱・還元過程における塊成化物の溶融に関して述べる。
還元反応中の塊成化物の溶融は、塊成化物中のスラグ成分であるCaO、SiO、MgO、Al、MnOの融点が低い場合に起こり易く、一般的にスラグ中のSiOの比率が大きくなるとスラグの融点は低下する傾向にあることがわかっている。
一方で、塊成化物中の鉄分に比してスラグ成分の含有量が多いと、塊成化物の溶融現象も顕著になることがわかった。
そのため、還元反応中の塊成化物の溶融現象は(1)式で表わされる、塊成化物中に含まれるSiOとトータルFe(T.Fe)との関係式からなるパラメータAとして整理できるとの知見を得た。
A=SiO質量%/T.Fe質量% ・・・(1)
【0020】
本発明者らは、上記含鉄添加物を含む塊成化物において、還元反応中の該塊成化物の溶融を回避できる上記パラメータAの範囲を特定すべく、ラボ実験を行った。
実験に際しては、上述した方法に基づき、含鉄添加物を種々の割合で添加したタブレット状の塊成化物を成型し、還元処理を行った。なお、塊成化物の成型に際して使用される酸化鉄原料及び還元材は同じ成分のものを同量だけ使用し、還元処理は、いずれの塊成化物に対しても、N雰囲気下、1250℃で15分行った。
この結果を図1に示す。
【0021】
この結果、パラメータAの値は0.6未満に制御すれば、還元反応中における塊成化物全体としての溶融を抑止することができることがわかった。
このパラメータAの値が0.6未満であると、塊成化物のスラグ成分が多少液化して融液が生じたとしても、大量の融液が発生、流出することはなかった。
一方、パラメータAの値が0.6以上であると、塊成化物中のスラグ成分が液化して大量の融液が発生し、塊成化物から流出した。そして、スラグ成分が流出した分、塊成化物の体積が還元処理前よりも数割小さくなると共に、塊成化物の空隙率が著しく大きくなり脆くなった。
【0022】
ここで、本発明において「還元反応中に塊成化物が溶融する」とは、塊成化物を通常の重力環境下である水平面に静置して還元した際に、パラメータX=(還元後の塊成化物の水平方向投影長さ)/(還元前の塊成化物の水平方向投影長さ)、パラメータY=(還元後の塊成化物の鉛直方向投影長さ)/(還元前の塊成化物の鉛直方向投影長さ)としたとき、これらのX,Yが、Y<X×0.7の関係を満たす場合と定義する。これは、溶融により塊成化物全体の形状が崩れて自己の形態を保持できなくなり、塊成化物が鉛直方向にのみ圧縮されている状態を表している。
【0023】
次に、金属化率に関して述べる。
塊成化物中に含まれるSiOが多く含まれていると、還元反応中にこのSiOと酸化鉄(FeO)とが反応してファイアライトを生成し、FeOの還元反応が阻害されることが知られている。一方で、CaOやMgOといった塩基性成分が存在するとFeOがより活性な状態となり、被還元性が向上することがわかっている。
そのため、ダスト類等の酸化鉄原料から還元鉄を製造するに際して、酸化鉄原料が含有している原料由来のスラグ成分(この場合は、CaO、SiO、MgO、Al)を制御するために、CaOやMgOの改質剤を塊成化物に添加し、スラグ成分のスラグ塩基度:(CaO質量%+MgO質量%)/SiO質量%を所定の範囲に制御することにより、高金属化率の還元鉄を安定的に得る技術が開発されている(例えば、国際公開番号WO2009/123115)。
【0024】
そこで、本発明者らは、酸化鉄原料が含有している原料由来のスラグ成分とその量、及び非鉄製錬副産物等が含有しているスラグ成分とその量に着目し、上記酸化鉄材料に非鉄製錬副産物等を含有する含鉄添加材を添加・混入して塊成化物を成型する場合におけるスラグ成分のスラグ塩基度:(CaO質量%+MgO質量%)/SiO質量%を制御すべきパラメータBとし、最も適切なパラメータBを特定すべく、ラボ実験を行った。
実験に際しては、上述した方法に基づき、含鉄添加物を種々の割合で添加したタブレット状の塊成化物を成型し、還元処理を行った。なお、塊成化物の成型に際して使用される酸化鉄原料及び還元材は同じ成分のものを同量だけ使用し、還元処理は、いずれの塊成化物に対しても、N雰囲気下、1250℃で15分行った。
この結果を図2に示す。
【0025】
この結果、パラメータBの値をB>0.9に制御すれば、少なくとも金属化率85%以上の高金属化率を還元鉄を製造することができることがわかり、その後の溶解工程において溶鉄等を得るに際して良好な溶解効率を期待することができる。
一方、このパラメータBの値が0.9以下であると金属化率が85%を下回っていた。
【0026】
さらに、還元処理後の塊成化物の圧壊強度に関して述べる。
上述のように、スラグ塩基度であるパラメータBの値をB>0.9に制御することで、塊成化物中の酸化鉄の還元性を向上させることができるが、塊成化物の成型時に上記含鉄添加材を多く添加した場合、特にCaOやMgOの添加が過剰となった場合には、還元処理後の塊成化物の圧壊強度が急激に低下する現象が見られた。
この現象について、本発明者らが解析を進めたところ、本発明において使用する上記含鉄添加材は、原料が非鉄製錬副産物等であるためスラグ成分を多く含んでおり、上記パラメータBの制御を目的としたCaOやMgOを添加するために上記含鉄添加材の添加を行った結果、塊成化物中のスラグ成分が著しく多くなったためであることがわかった。
【0027】
一方で、上記パラメータBの値がB<0.7のものについて、JIS Z−8841に準じて還元処理後の塊成化物の強度試験を行った結果、2942.1N(300kgf)超となり、本発明のような非鉄製錬副産物等を含む含鉄添加材を使用しない、通常の還元鉄の製造方法により製造した場合において、安全率を考慮した一般的な強度(約980.7N(100kgf))を大幅に上回ることがわかった。
この現象についても発明者らが解析を進めた結果、塊成化物中のスラグ成分の融点が溶融現象を発現しない範囲で適度に低温になった一方で、非鉄製錬副産物等を含む含鉄添加物を使用しているために塊成化物中にスラグ成分が多く含まれ、その多量のスラグ成分が塊成化物内部である程度融液化することでバインダーのような役割を果たしたためであることがわかった。
【0028】
これにより、本発明者らは、塊成化物の原料として非鉄製錬副産物を含む含鉄添加材を使用する場合、塊成化物中のスラグ組成を適切に制御し、還元反応中における塊成化物の溶融を制御することで、還元処理後の塊成化物の圧壊強度を大幅に向上できるとの知見を得た。
そして、この知見に基づき、本発明者らはさらに検討を行った結果、塊成化物の圧壊強度を制御するパラメータとして、上述した加熱・還元過程における塊成化物の溶融の際に使用したパラメータAの(1)式と同じ式を利用することができることを見出した。
さらに、塊成化物の圧壊強度を確保するための(1)式の適切な範囲を求めるラボ実験を行った。
【0029】
実験に際しては、上述した方法に基づき、含鉄添加物を種々の割合で添加したタブレット状の塊成化物を成型し、還元処理を行った。なお、塊成化物の成型に際して使用される酸化鉄原料及び還元材は同じ成分のものを同量だけ使用し、還元処理は、いずれの塊成化物に対しても、N雰囲気下、1250℃で15分行った。
そして、還元処理後の各条件の塊成化物について、JIS Z−8841に準じた強度試験を行った。
なお、この実験は、上記パラメータB、即ちスラグ塩基度がB>0.9を満たすものについてのみ行った。
この結果を図3に示す。
【0030】
この結果、パラメータAの値、つまり、SiO質量%/T.Fe質量%の値が0.35超の場合に、還元処理後の塊成化物の圧壊強度が概ね約980.7N(100kgf)以上となることがわかった。なお、この場合においては、通常は塊成化物を成型する際にバインダーを混入するところ、このようなバインダーを使用しなくても十分な保形性、強度が確保できることもわかった。
逆に、パラメータAの値が0.35以下の場合は、980.7N(100kgf)以上の圧縮強度を確保することができなかった。
【0031】
したがって、非鉄製錬副産物等を含む含鉄添加材を酸化鉄原料に添加して塊成化物を成型し、その塊成化物を還元炉に装入して還元鉄を製造する場合においては、パラメータAの範囲、即ち、塊成化物中におけるSiOとトータル鉄T.Feとの含有率の関係:SiO質量%/T.Fe質量%を0.35〜0.6の範囲で制御することにより、加熱・還元過程における塊成化物の溶融を抑止することができ、且つ還元処理後の塊成化物の適切な圧壊強度の確保を図ることができる。
さらに、パラメータBの範囲、即ち、上記塊成化物中の上記スラグ成分のスラグ塩基度:(CaO質量%+MgO質量%)/SiO質量%を、0.9超の範囲に制御することにより、高金属化率の還元鉄を得ることができる。なお、このスラグ塩基度(CaO質量%+MgO質量%)/SiO質量%については、電気炉ダストのスラグ塩基度が通常2.0〜3.0程度であることに鑑み、電気炉スラグを含鉄添加材として使用して塊成化物のスラグ塩基度を4.0程度まであげても、85%以上の高金属化率の還元鉄を得ることができることがわかっている。
【0032】
ところで、上記含鉄添加材は、スラグ成分であるCaO、SiO、MgO、Al、MnOの含有量の合計が20質量%以上である、銅製錬副生物、亜鉛製錬副生物、鉛製錬副産物、電気炉ダストの脱亜鉛処理残渣のうちの少なくとも1つの副生物又は残渣を含んでいるものとすることが好ましい。
なお、使用する含鉄添加材は、必要に応じて、CaO、SiO、MgO、Al、MnOの各成分を加えて、これらの含有量の合計20質量%以上になるように調整してもよい。
【0033】
以上、本発明の還元鉄の製造方法について述べたが、上述の還元鉄の製造方法によれば、酸化鉄原料にCaO、SiO、MgO、Al、MnOを含有する含鉄添加材を添加して、スラグ塩基度:(CaO質量%+MgO質量%)/SiO質量%と、SiO質量%/T.Fe質量%とをそれぞれ適切な範囲に制御したことにより、被還元性を低下させる酸化鉄系化合物の生成を抑制すると共に、塊成化物が全体として溶融を抑止し、且つ還元処理後の塊成化物として十分な圧壊強度を確保することができるため、高強度且つ高金属化率の還元鉄を効率良く製造することができる。
また、上記含鉄添加材として、非鉄製錬のプロセスで発生した副生物や、電気炉ダストを脱亜鉛処理した残渣を用いることができるため、これらの副生物や残渣を有効に利用することができ、ゼロエミッション化、資源の有効利用化を図ることができる。
【実施例】
【0034】
本発明の効果を確認するため、SiO質量%/T.Fe質量%とスラグ塩基度とを種々の値に制御した塊成化物を成型し、それぞれについて還元処理を行う実験を行った。
実験に際して、各塊成化物の成型を上述の実施の形態と同様の工程で行い、含鉄添加物を種々の割合で添加したタブレット状の塊成化物を成型した。塊成化物の成型に際して使用される酸化鉄原料及び還元材は同じ成分のものを同量だけ使用した。
還元処理に際しては、いずれの塊成化物に対しても、N雰囲気下、炉温1250℃の回転炉床炉で15分行った。
なお、還元処理後の各条件の塊成化物についての強度試験は、JIS Z−8841に準じて行った。
次表に、各塊成化物のスラグ成分の含有量、SiO質量%/T.Fe質量%、スラグ塩基度の値を示すと共に、還元処理後の金属化率、圧壊強度、本発明において規定する溶融の条件を満たしているか否かを評価した結果を示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1に示すように、本発明の範囲、即ち、SiO質量%/T.Fe質量%の範囲が0.35〜0.6の範囲であり、且つスラグ塩基度が0.9超の範囲に制御された試料No.8については、還元処理後の金属化率が85%以上、圧壊強度が980.7N(100kgf)以上となり、また、本発明において規定する溶融に該当せず、融液の大量発生・流出は見られなかった(試料No.6,11〜13)。
一方、塊成化物のSiO質量%/T.Fe質量%、スラグ塩基度が本発明の範囲外であるものについては、本発明の範囲のものに比べ、金属化率が低く、また圧壊強度も約980.1N(100kgf)に至らなかった。さらには、本発明において規定する溶融の状態となり、融液の大量発生し回転炉床炉の炉床に流出していた。
したがって、本発明の還元鉄の製造方法を実施することによって、被還元性を低下させる酸化鉄系化合物の生成を抑制すると共に、塊成化物が全体として溶融することが防止されるため、高強度且つ高金属化率の還元鉄を効率良く製造することができることが実証された。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄原料と炭素質還元材とを含む塊成化物を還元炉に装入して還元し、金属鉄分とスラグ成分との混合物からなる還元鉄を製造する方法において、
上記塊成化物を成型するに際して、上記酸化鉄原料に、CaO、SiO、MgO、Al、MnOを含有する含鉄添加材を添加し、
上記塊成化物中の上記スラグ成分のスラグ塩基度:(CaO質量%+MgO質量%)/SiO質量%を、0.9超の範囲に制御し、
且つ、塊成化物中におけるSiOとトータル鉄T.Feとの含有率の関係:SiO質量%/T.Fe質量%を0.35超、0.6未満の範囲に制御することを特徴とする還元鉄の製造方法。
【請求項2】
上記含鉄添加材は、CaO、SiO、MgO、Al、MnOの含有量の合計が20質量%以上である、銅製錬副生物、亜鉛製錬副生物、鉛製錬副産物、電気炉ダストの脱亜鉛処理残渣のうちの少なくとも1つの副生物又は残渣を含んでいることを特徴とする還元鉄の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−207241(P2012−207241A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71553(P2011−71553)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】