説明

還元雰囲気下超臨界水熱反応による金属・合金ナノ粒子の合成法

【課題】従来の金属ナノ粒子合成手法における、水中の還元雰囲気下での合成では金属ナノ粉子が短時間で酸化され易く、表面を種々の方法で被覆しても、不安定で、水中では、特にその被覆物が離脱して、次第に表面から酸化されてしまうなどの問題を解決する。
【解決手段】高温高圧状態の、亜臨界ないし超臨界水中での水熱還元プロセスを適切な還元剤存在下に行い、生成ナノ粒子の表面が金属状である金属又は合金ナノ粒子を得る。これにより、触媒、記憶材料、発光材料、オプトエレクトロニクスなどの広範な分野での利用が期待されている、例えば、性状の優れたコバルトナノ粒子を、簡単な手法で、低コストに且つ安定的に製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超臨界・亜臨界水中での水熱反応を利用した金属・合金ナノ粒子の合成法に関する。特に、本発明は、還元雰囲気下の超臨界・亜臨界水条件下での金属・合金ナノ粒子の合成法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメーターサイズの粒子(ナノ粒子)は、様々な特有の優れた性状・特性・機能を示すことから、材料・製品のすべてに対して、現状よりも高精度で、より小型化、より軽量化の要求を満たしている技術を実現するものとして期待されている。このようにナノ粒子は、セラミックスのナノ構造改質材、光機能コーティング材、電磁波遮蔽材料、二次電池用材料、蛍光材料、電子部品材料、磁気記録材料、研摩材料などの産業・工業材料、医薬品・化粧品材料などの高機能・高性能・高密度・高度精密化を可能にするものとして且つ21世紀の材料として注目されている。最近のナノ粒子に関する基礎研究から、ナノ粒子の量子サイズ効果による超高機能性や新しい物性の発現、新物質の合成などの発見も相次いでいることから産業界からも大きな関心を集めている。特に、純金属状であるナノ粒子(金属ナノ粒子や合金ナノ粒子)は、極めて優れた電気的性質、光学的性質を発揮することから注目されている。とりわけ、鉄、コバルト、ニッケルなどの金属のナノ粒子やその合金のナノ粒子は、優れて秀でた磁気的な性質を発揮することから、注目を集めている。
【0003】
ナノ粒子合成法は、様々な方法が提案されている。しかし、多くの場合、ナノ粒子の表面エネルギーが極めて高いために凝集しやすく、そのためナノ粒子本来の機能が発現されないことが多い。一度凝集したナノ粒子は再分散させることはできず、その段階で界面活性剤等を用いても、ナノ粒子を分散させることはできない。
磁性ナノ粒子を含めた金属ナノ粒子が示す特性の中で注目される魅力的な性質は量子的な性質、磁気光学的な性質と密接に関連しており、光ファイバセンサー、光スイッチ、光絶縁、情報記憶などを含む産業および科学における応用に深く関係している。磁性ナノ粒子は、磁性流体や高密度記録材料、医療診断材料など多くの応用が期待され、幅広い研究が行われている。これまでに、有機溶媒中での合成を含め様々な合成手段の研究が行われてきたが、水中でコバルトなどの酸化されやすい金属ナノ粒子を合成することは困難であった。本発明者らのグループは、これまでに、コバルトナノ粒子を超臨界水熱合成により製造する技術を報告している〔非特許文献1〕。そこでは、コバルトナノ粒子は、バッチ式反応器で340℃や380℃とした水熱還元プロセスにより合成されていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】大原智、樋高英嗣、張静、梅津光央、名嘉節、阿尻雅文、「コバルトナノ粒子の超臨界水熱合成」、粉体および粉末冶金、54 (2007), 635-638
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らのグループは、超臨界水(SCW)場のバッチ式リアクター内で様々な金属酸化物のナノ結晶を合成する技術を提供している。しかし、超臨界水(SCW)場でのナノ粒子合成法は、エレガントで且つ環境に優しい反応媒体を利用した技術ではあるが、コバルトなどの水中で酸化されやすい金属では、金属酸化物のものを得ることは可能であるが、金属や合金からなるナノ粒子を得ることは困難であった。特に、様々な用途に利用することが期待されている金属コバルトナノ粒子などの金属・合金ナノ粒子を、均一な品質のものとして、簡単な手法で、低コストに且つ安定的に製造する技術の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題解決を目標として、超臨界水(SCW)場のバッチ式リアクター内での微粒子合成系を利用した技術を発展利用することを念頭に鋭意研究を行った。その結果、低環境負荷媒質である水を利用し、還元剤の存在下でナノ粒子前駆体を高温高圧の水が存在する条件下、例えば、超臨界水又は亜臨界水条件下、特には、超臨界水(SCW)条件下に置くことにより金属又は合金ナノ粒子の合成に成功し、本発明を完成した。また、低環境負荷媒質である水を利用し、超臨界水熱合成において還元剤としてはギ酸を分解せしめるなどして超臨界水熱還元条件を整え、その反応速度、結晶構造並びに形態的変化について調査研究を行った。その結果、非常に良好な金属状コバルトナノ粒子ないしコバルト系合金ナノ粒子を合成することに成功すると共に、ある種の条件とすることで、該コバルトナノ粒子の形状・形態を制御することができることを見出すのに成功した。
【0007】
本発明は、次のものを提供している。
〔1〕高温高圧水存在条件の反応場でのナノ粒子合成法であり、ナノ粒子前駆体からナノ粒子を合成する反応場に、還元剤を共存せしめて、ナノ粒子合成反応を行い、実質上金属状のである金属又は合金ナノ粒子を得ることを特徴とする金属又は合金ナノ粒子の合成法。
〔2〕高温高圧水存在条件の反応場が、亜臨界又は超臨界水であることを特徴とする上記〔1〕に記載の金属又は合金ナノ粒子の合成法。
〔3〕還元剤が反応場でガス状態であることを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載の金属又は合金ナノ粒子の合成法。
〔4〕還元剤が、ギ酸、水素ガス、一酸化炭素ガス、合成ガス、水性ガス及びそれらの混合物からなる群から選択されたものであることを特徴とする上記〔1〕〜〔3〕のいずれか一に記載の金属又は合金ナノ粒子の合成法。
〔5〕ナノ粒子合成反応が、温度及び/又は圧力が超臨界水条件下で行われることを特徴とする上記〔1〕〜〔4〕のいずれか一に記載の金属又は合金ナノ粒子の合成法。
〔6〕金属又は合金ナノ粒子の合成反応場にギ酸を同時共存させるかあるいは水素ガスの存在する反応場に金属又は合金ナノ粒子の前駆体を導入することを特徴とする上記〔1〕〜〔5〕のいずれか一に記載の金属又は合金ナノ粒子の合成法。
〔7〕ナノ粒子形成反応を、375℃以上、好ましくは、380℃以上の温度で行うことを特徴とする上記〔1〕〜〔6〕のいずれか一に記載の金属又は合金ナノ粒子の合成法。
〔8〕上記ナノ粒子が、コバルトナノ粒子又はコバルト合金ナノ粒子であることを特徴とする上記〔1〕〜〔7〕のいずれか一に記載の金属又は合金ナノ粒子の合成法。
〔9〕上記ナノ粒子前駆体が、有機酸コバルト(II)水溶液であることを特徴とする上記〔1〕〜〔7〕のいずれか一に記載の金属又は合金ナノ粒子の合成法。
〔10〕上記ナノ粒子前駆体が、酢酸コバルト(II)水溶液であることを特徴とする上記〔1〕〜〔8〕のいずれか一に記載の金属又は合金ナノ粒子の合成法。
〔11〕上記〔1〕〜〔10〕のいずれか一記載の合成法で合成された、ナノ粒子の表面が実質的に金属状の金属又は合金である金属又は合金ナノ粒子であることを特徴とする金属又は合金ナノ粒子。
〔12〕ナノ粒子の表面が、実質的に金属状の金属又は合金であることを特徴とする上記〔11〕に記載の金属又は合金ナノ粒子。
〔13〕TEM及び/又はXRDデータに基づいた金属又は合金ナノ粒子の平均粒子径が、約5〜400 nmであることを特徴とする上記〔11〕又は〔12〕に記載の金属又は合金ナノ粒子。
〔14〕上記〔11〕〜〔13〕のいずれか一に記載の金属又は合金ナノ粒子を磁性体として含有することを特徴とする磁性材料組成物。
〔15〕上記〔11〕〜〔13〕のいずれか一に記載の金属又は合金ナノ粒子を触媒として含有することを特徴とする触媒組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明で、超臨界・亜臨界水中での水熱反応を利用して金属・合金ナノ粒子を合成できるので、簡単な手法で工業的に利用するのに適した金属・合金ナノ粒子を得ることが可能である。本発明では、超臨界・亜臨界水条件下で、安価に、表面がj実質上金属状である金属・合金ナノ粒子を合成できる。得られた金属・合金ナノ粒子は、様々な用途に利用可能である。本発明によれば、生成物たるコバルトナノ粒子として、非常に良好な金属状コバルトナノ粒子を合成することが可能である。本発明方法で得られる金属状コバルトナノ粒子は、品質が優れており、例えば、粒度の均一性が優れるとか、結晶性が優れるなどしており、工学的、電子的、機械的、および化学的特性に関して、優れた機能を期待でき、エレクトロニクス材料、記憶材料、発光材料、オプトエレクトロニクス材料、触媒材料などとして有用である。
【0009】
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての特許文献及び参考文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の水熱還元法プロセスにより反応温度400℃で合成された金属状コバルトナノ粒子とCoO粒子のXRDピークパターン示す。(a) y1=0.1、(b) y1=0.15、(c) y1=0.17、(d) y1=0.19、y1は、ギ酸のモル分率(mole fraction)を示す。
【図2】本発明の水熱還元法プロセスにより反応温度400℃、y1=0.19で合成された金属状コバルトナノ粒子のTEM像(a)及びSEM像(b)を示す。
【図3】本発明の水熱還元法プロセスにより反応温度380℃、400℃、420℃で合成されたナノ粒子中での金属状のコバルト相出現の状況を分析した結果を示す。ギ酸のモル分率対温度としてプロットしてある。(□)は、XRDピークパターンから決定された完全に金属状であるコバルト相となるy1の値を示し、(△と点線)は、理想気体モデル(ideal gas model)に基づいて決定された最低限金属状であるコバルト相となるとされるy1の値を示し、(○と実線)は、SRK EOSを使用しての実在気体モデル(real gas model)に基づいて決定された最低限金属状であるコバルト相となるとされるy1の値を示し、そして、(◇)は、XRDピークパターンから決定された最低限金属状であるコバルト相となるy1の値を示している。
【図4】本発明の水熱還元法プロセスにより反応温度380℃で合成された金属状のコバルトナノ粒子のXRDピークパターンを示す。使用ギ酸の量の違いによる影響を調べた。(…)は、CoOのピークを示し、(−)は、β-コバルト相のピークを示す。(a) y1=0.045、(b) y1=0.040、(c) y1=0.035、(d) y1=0.024、(e) y1=0.017
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、高温高圧条件下、例えば、亜臨界又は超臨界水条件下の反応場で還元剤共存下にナノ粒子前駆体からナノ粒子を合成する技術を提供している。本発明のナノ粒子合成法では、亜臨界又は超臨界水を反応場としてナノ粒子合成を行っているが、その反応場に還元剤を共存させることにより、優れた性状の金属ナノ粒子や合金ナノ粒子を、極めて簡単な手法で効率よく合成できる。当該反応場に還元剤を存在せしめることにより、実質的に金属から構成されるナノ粒子であってその表面が金属状である金属ナノ粒子や、実質的に合金金属から構成されるナノ粒子であってその表面が金属状である合金ナノ粒子を、工業的に利用可能な規模で合成することを可能にする。特に、本発明では、高温高圧状態の
、亜臨界ないし超臨界流体、特には超臨界水中での水熱還元プロセスによる前駆体からコバルトナノ粒子(ナノ結晶金属コバルト、ナノ結晶状金属コバルトナノ粒子)を合成する技術(製造方法及びその生産物)を提供する。特に本発明の方法では、理想気体近似で通常予測されるよりも少ない水素量(還元剤量)で、超臨界反応場で金属塩から還元により金属ナノ粒子(例えば、金属コバルトナノ粒子)合成が可能である。
従来、金属ナノ粒子合成の手法はいろいろあるが、水中では還元雰囲気下で合成できても、短時間で酸化されてしまう。表面を種々の方法で被覆する技術もあるが、表面被覆されていても、不安定で、水中では、特にその被覆物が離脱して、次第に表面から酸化されてしまうため、実用化製法はほとんど無かった。本発明の技術によれば、環境的にも優れ、プロセス的にも優れている方法として、それを実用化可能である。
【0012】
本発明では、ナノ粒子前駆体を含有する水性液状混合系からナノメーターサイズの粒子を形成させる反応場、そして、ナノ粒子前駆体と還元剤とを含有する水性液状混合系からナノメーターサイズの粒子を形成させる反応場は、通常、高温高圧下でなされ、典型的な状態としては、超臨界状態又は亜臨界状態である水を溶媒とする系である。超臨界状態とは、ある物質の臨界点以上の温度や圧力にある領域にある状態を指していて、気体と液体の境界線がなくなって区別がつかないような状態になっていることを言っている。超臨界状態では、一般的には、粘度が低くなっており、液体よりも容易に拡散するが、液体と同様の溶媒和力を有する。亜臨界状態とは、臨界温度近傍で臨界密度とほぼ等しい密度を有する液体の状態を言う。例えば、密封容器中に原料を充填後に超臨界状態として、原料を溶解し、均一相を形成し、次にナノ粒子の核が形成されると共に亜臨界状態となるように温度を変化させて超臨界状態と亜臨界状態の原料の溶解度差を利用して、ナノ粒子形成・成長を行うことも可能である。
【0013】
超臨界状態でナノ粒子製造を行うためには、一般に溶媒である水の臨界点よりも高い温度に保持する。超臨界水の場合、臨界点は臨界温度647K(374℃)、臨界圧力22.064MPa(218気圧)であるが、臨界温度以下の温度でも圧力が臨界圧力をはるかに越えるような状態が存在する。例えば、オートクレーブ(耐圧容器)に対する充填率が高ければ、臨界温度以下の温度でも圧力は臨界圧力をはるかに越える。ここでいう超臨界状態とはこのような臨界圧力を越えた状態を含んでいてよい。典型的には、臨界点近傍又はそれ以上の状態の水(374℃以上、22MPa以上)の存在下の反応場が用いられる。反応混合物は一定容積(容器容積)内に封入されているので、温度上昇は、流体の圧力を増大する。一般に、温度TはT>Tc(Tc:溶媒の臨界温度)および圧力P>Pc(Pc:溶媒の臨界圧力)であれば、超臨界状態にある。反応混合物はある程度高圧にされた後、一定容積(容器容積)内に封入され、次いで、温度上昇せしめられて、流体の圧力が増大するようにされていてよい。実際に、溶媒中に導入された原料の溶解度は、亜臨界条件と超臨界条件との間で極めて異なるので、超臨界条件では、ナノ粒子の十分な成長速度が得られる。反応時間は、特に、原料ナノ粒子前駆体の反応性、還元剤の反応性および熱力学的パラメーター、即ち、温度および圧力の数値に依存する。
【0014】
ナノ粒子形成場は、高温高圧の条件を達成できる装置中で得ることができ、そうした装置であれば特に限定されず、当該分野で当業者に広く知られている装置から選択して使用できるが、例えば、回分式装置(バッチ式装置)を使用できる。通常、オートクレーブ(耐圧反応器)などを使用できる。本発明では、好適に、オートクレーブ式リアクターを使用することができる。そうしたリアクターは、温度制御可能とされているものであってよい。例えば、ナノ粒子前駆体の投入後と、生成ナノ粒子を取り出す前の時点とで、反応場の温度が異なっていてよいし、また、反応場の温度をそれぞれ変えることにより微粒子の核生成段階と還元反応による金属状の微粒子の成長形成制御とを可能にするものであってよい。さらに、リアクター内の反応場の温度変化は、例えば、昇温後一定に保持したり、連続的に変化させてもよいし、不連続的に高温とそれよりは温度の低い低温に一旦した後
、次に高温にするといったものの、いずれであってもよい。
【0015】
オートクレーブ内などの反応場の温度範囲は、充填率により適切な値を選択できるが、例えば、下限として、通常、約250℃、ある場合には約300℃、別の場合には約350℃であり、好ましくは約370℃、好ましくは約375℃、より好ましくは約380℃であり、上限として、通常、約800℃、好ましくは約650℃、さらに好ましくは約550℃、より好ましくは約500℃、ある場合には約450℃が挙げられ、そして該反応場の温度範囲は上記したような上限と下限の範囲内とすることが望ましい。代表的な場合では、オートクレーブ内の温度範囲は、約375〜450℃で、好適な結果を得ることができるし、別の場合では約380〜420℃で、好適な結果を得ることができ、さらには、約380℃、約400℃、あるいは約420℃で、好適な結果を得ることができる。上記温度範囲は、目的とするナノ粒子の種類、組成に応じて選択することも可能である。当該オートクレーブ内の温度範囲は、単体金属ナノ粒子を得る場合では、例えば、約375〜450℃、好ましくは約380〜430℃、さらに好ましくは約380〜420℃で、半導体ナノ粒子を得る場合では、例えば、約375〜450℃、好ましくは約380〜425℃、さらに、より好ましくは約380〜420℃で、磁性体ナノ粒子を得る場合では、例えば、約375〜475℃、好ましくは約380〜450℃、さらに好ましくは約380〜425℃で、より好ましくは約380〜400℃で、さらに、部分的に水熱合成反応も利用してナノ粒子を得る場合では、より高温域とし、例えば、約375〜550℃、好ましくは約380〜525℃、さらに好ましくは約380〜500℃、より好ましくは約380〜475℃とすることができる。
【0016】
オートクレーブ内などの反応場の圧力範囲は、使用原料により適切な値を選択できるが、例えば、通常は、液体状の反応混合物をリアクターに収容後オートクレーブに入れて密封した後、上記所定の温度に昇温することで得られるものが挙げられる。オートクレーブ内などの反応場の圧力範囲は、例えば、約15MPa〜600MPaの範囲の圧力に保持することができ、例えば、下限として通常18MPa、好ましくは20MPa、特に好ましくは22MPa、上限として通常500MPa、好ましくは400MPa、特に好ましくは200MPaに保持することができるが、これらに限定されるものではなく、上記密封条件下で所定の温度に昇温することで得られるものであり且つ目的の反応が生起するものであれば特に限定されない。
【0017】
オートクレーブ内などの反応器中の上記の温度範囲、圧力範囲を達成するための水、ナノ粒子前駆体、還元剤などの注入の割合、すなわち充填率は、容器内部のフリー容積、すなわち、オートクレーブに入れるナノ粒子前駆体などを含有する水性溶液の体積をオートクレーブの全容積から差し引いて残存する容積に対する原料などを含有する水性溶液の容積を基準として、通常、10〜98%、好ましくは20〜95%、さらに好ましくは10〜85%とすることができるが、所定の目的を達成できるならば特に限定されず適切に選択できる。
反応用出発混合物中のナノ粒子前駆体と還元剤との比率は、所望のナノ粒子生成物が得られるよう、適宜、実験を行うなどして決定でき、特には限定されないが、例えば、そのナノ粒子前駆体:還元剤の比率を、モル比で、約1:1,000〜約1,000:1、好ましくは約1:250〜約250:1、さらに好ましくは約1:100〜約100:1、ある場合には約1:50〜約50:1であり、さらに好ましくは、約1:25〜約25:1、より好ましくは約1:15〜約15:1、もっと好ましくは約100:5〜約100:20とすることができる。例えば、金属状態のコバルトナノ粒子を合成する場合では、反応用出発混合物中のナノ粒子前駆体: 還元剤であるギ酸との比率は、所望のナノ粒子生成物が得られるよう、適宜、実験を行うなどして決定でき、モル比で、約1:1〜約600:1、好ましくは約4:1〜約588:1、さらに好ましくは約5:1〜約42:1、ある場合には約5.5:1〜約36:1であり、さらに好ましくは、約6.5:1〜約34:1、より好ましくは約4.3:1〜約10:1、もっと好ましくは約4:1〜約8:1とすることができる。反応系中における還元剤(例えば、ギ酸)のモル分率(mole fraction, y1)は、反応温度の応じて増減することが好ましいが、例えば、反応温度380℃ではy1=0.024以上、反応温度400℃ではy1=0.028以上、反応温度420℃ではy1=0.030以上とするのがよく、また、好適には反応温度380℃ではy1=0.13以上、反応温度400℃ではy1=0.19以上、反応温度420℃ではy1=0.23以上とするの
がよい。
【0018】
本発明の製造方法では、予め加熱しておいたナノ粒子前駆体の水性液を反応場に供給し、そこに予め加熱してある還元剤水性液又はガス状還元剤を導入することもできる。
所定の温度に達した後の反応時間については、目的とするナノ粒子の種類、用いる原料、還元剤の種類、製造するナノ粒子の大きさや量によっても異なるが、通常、数分間から数ヶ月とすることができる。反応中、反応温度は一定にしてもよいし、徐々に昇温または降温させることもできる。所望のナノ粒子を生成させるための反応時間を経た後、降温させる。降温方法は特に限定されないが、ヒーターの加熱を停止してそのまま炉内にオートクレーブを設置したまま放冷してもかまわないし、オートクレーブを電気炉から取り外して空冷してもかまわない。必要であれば、冷媒を用いて急冷することもできる。本発明の方法では、反応時間、前駆体:還元剤の比率、反応温度などのパラメーターを変えることで、おおよそ200〜400 nmの粒子サイズのナノ粒子を、それぞれ得ることができる。また、100 nm以下の粒子サイズのナノ粒子を、得ることもできる。さらに、おおよそ5〜100 nmの粒子サイズのナノ粒子を、得ることもできる。5〜50 nmの幅を有する棒状ナノ粒子やワイアー状ナノ粒子を得ることもでき、さらに、均一な大きさのキューブ状ナノ粒子、あるいは凝集塊状ナノ粒子などを取得することもできる。
【0019】
原料であるナノ粒子前駆体は、使用する水性溶媒、例えば、水、及び/又は、水と還元剤との混合物などに溶解するものを好ましく使用できるが、製造操作上の簡便性の理由で液状であるものを好適に使用できる。原料物質は、水溶液、あるいは必要に応じて適当な有機溶媒と水の混合物の溶液としても構わないが、原料物質自身が常温で液体であればそのまま使用して良い。本発明では、ナノ粒子前駆体は、反応場で均一系を形成可能であるものを、好適に使用できる。また、本発明では、反応場で均一系を形成可能であり、水溶性の原料前駆体を好適に使用できる。
【0020】
ナノ粒子前駆体としては、所望のナノ粒子を与えるものを好適に使用でき、それらは所望のナノ粒子が得られる限り任意の物質を使用することができる。したがって、製造しようとするナノ粒子に含有される元素を含有する単体や化合物から適切なものを任意に選択して使用することができる。好ましくは、市販されており容易に入手できるもの、あるいは、それから容易に導くことができるものを使用する。例えば、金属元素を含有するナノ粒子の場合には、金属ナノ粒子(合金ナノ粒子を包含する)前駆体としては、例えば、金属ハロゲン化物、金属炭酸塩、金属カルボン酸塩、金属アルコキシド、金属アルキルキサントゲン酸塩、金属カルボニル化合物などの金属錯体化合物、金属水酸化物などが挙げられる。代表的な金属ナノ粒子前駆体としては、例えば、金属アルコキシド、金属水酸化物、金属酢酸塩、金属クエン酸塩、金属グリコール酸塩、金属オキザロ酸塩、金属グリオキザロ酸塩、金属グリセリン酸塩、金属アミン錯体、金属アセトン錯体、金属アセチルアセトネートなどが好適に用いられる。該前駆体は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。前駆体は、反応液中においてどのような状態で存在していても良いが、通常は、前駆体は反応系内で溶解した状態で存在する。さらには、所望のナノ粒子の構成元素供与体として、当該構成元素を含有している化合物を共存させるようにして使用できる。
【0021】
本発明の一つの典型的な態様では、ナノ粒子前駆体としては、水可溶性塩を好適に使用できる。例えば、コバルト金属前駆体としては、目的コバルト元素を含有している金属塩、金属化合物、金属錯体などを挙げることができ、例えば、コバルト(Co)を含有している金属塩、金属化合物、金属錯体などを挙げることができる。金属塩としては、塩酸などのハロゲン酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸、そしてギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、コハク酸などの有機酸との塩などが包含される。金属化合物としては、アセチルアセトンなどのジケトン、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール、ジメ
チルエーテル、ジエチルエーテル、クラウンエーテルなどのエーテルなどとの化合物などが包含される。金属錯体としては、配位子として、ハロゲン、アミン(有機アミンを含む)、カルボニル、シアノ、ヒドロキシ、酸素、窒素、硫黄などを含有する有機配位子などを含有するものが包含される。該Co含有合金前駆体としては、硝酸コバルト、水酸化コバルト、酢酸コバルト、シュウ酸コバルト、炭酸コバルト、塩化コバルト、コバルトアセチルアセトナートなどが挙げられる。それらの混合物液も使用できる。酢酸コバルトの水溶液をCo供与合金前駆体として好適に使用できる。酸性塩を使用した場合、アルカリ水溶液、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水溶液により処理して、pHを約7〜10とすることもできる。ナノ粒子前駆体を含有する溶液は、所望のナノ粒子合成を可能とするように、適宜、その液のpHを調整しておくことも可能であるし、ある場合には好ましい。なお、原料に由来するその他の不可避的な不純物元素を含有することは許容される。
【0022】
本発明のナノ粒子を構成する「金属」としては、典型的にはナノ粒子を製造することが可能なものであれば特に限定されず、当業者に知られたものから選択して使用できる。代表的な金属としては、元素の周期表で第13族のホウ素(B)-第14族のケイ素(Si)-第15族のヒ素(As)-第16族のテルル(Te)の線を境界としてその線上にある元素並びにその境界より、長周期型周期表において左側ないし下側にあるものが挙げられ、例えば、第8, 8, 10族の元素ではFe, Co, Ni, Ru, Rh, Pd, Os, Ir, Ptなど、第11族の元素ではCu, Ag, Auなど、第12族の元素ではZn, Cd, Hgなど、第13族の元素ではB, Al, Ga, In, Tlなど、第14族の元素ではSi, Ge, Sn, Pbなど、第15族の元素ではAs, Sb, Biなど、第16族の元素ではTe, Poなど、そして第1〜7族の元素などが挙げられる。第7族の元素では、Mn, Tc, Reなど、第6族の元素では、Cr, Mo, Wなど、第5族の元素では、V, Nb, Taなど、第4族の元素では、Ti, Zr, Hf など、第3族の元素では、Sc, Y, ランタノイド(例えば、La, Ce, Pr, Nd, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Yb, Luなど)、アクチノイド(Ac, Thなど)、ミッシュメタルなど、第2族の元素では、Be, Mg, Ca, Sr, Ba など、第1族の元素では、Li, Na,
K, Rb, Csなどが挙げられる。なお、元素の周期律表は、IUPC (International Union of
Pure and Applied Chemistry) 無機化学命名法改訂版(1989)に基づくものである。
【0023】
本発明のナノ粒子は、(a)金属であるナノ粒子、(b)すくなくとも2種類以上の金属からなる合金のナノ粒子、(c)金属ナノ粒子又は合金ナノ粒子に金属酸化物又は複合金属酸化物が複合し且つ表面が金属状の金属又は合金であるもの、(d)金属又は合金に金属酸化物又は複合金属酸化物が分散し且つ表面が金属状の金属又は合金であるナノ粒子、(e)金属酸化物又は複合金属酸化物に金属又は合金が分散し且つ表面が金属状の金属又は合金であるナノ粒子、(f)周期表第15族元素を含有する半導体化合物で且つ表面が金属状の金属又は合金であるナノ粒子、(g) 周期表第16族元素を含有する半導体化合物で且つ表面が金属状の金属又は合金であるナノ粒子などを包含する。本発明のナノ粒子は、結晶ナノ粒子であるものも包含する。
【0024】
本発明では、ナノ粒子前駆体と水とを含有する液状混合系からナノメーターサイズの粒子を合成(形成)させる反応場に、還元剤を共存させることができる。本発明では、供給原料の調製の段階から、水熱還元プロセス中、さらに、生成物の単離・洗浄処理、また、生成物の保存を、不活性気体雰囲気下、例えば、アルゴン気体雰囲気中で行うことが、好適である。こうした雰囲気は、還元性の雰囲気を保障するものあるいはコバルト金属ナノ粒子などの金属・合金ナノ粒子の表面の酸化を避けることのできるものであればよいが、良質なコバルトナノ粒子形成などの金属・合金ナノ粒子において利点のあるものである。
該還元剤は、亜臨界水又は超臨界水条件で金属酸化物を還元できるもの、及び/又は、亜臨界水又は超臨界水条件で金属からなるナノ粒子又は合金からなるナノ粒子の形成を可能とするものが挙げられる。還元剤は、好適には、水溶液、及び/又は、ガス状のものを反応場に導入できるが、ガスと液体との混合物も使用可能である。代表的な還元剤としては、ギ酸、水素ガス、一酸化炭素ガス、合成ガス、水性ガス、水素と一酸化炭素との混合
物、それらの混合物などが挙げられる。本発明の一つの好適な態様では、ギ酸水溶液、水素と一酸化炭素とのガス状混合物などを使用できる。好ましい還元剤としては、ギ酸あるいはギ酸水溶液が挙げられる。還元剤は、予めナノ粒子前駆体含有の水性媒質に添加した後、その得られた混合物を反応場に添加するものであっても、あるいは、反応場に存在するナノ粒子前駆体含有の水性媒質の中に添加するものであってもよい。
【0025】
本発明に従いナノ粒子合成せしめられた反応生成物は、反応後、通常、室温にまで冷却せしめられる。反応混合物からの生成ナノ粒子の分離は、当該分野で知られた方法を適用して行うことができ、物理的な手法や化学的な手法を利用して行うこともできる、本発明で得られるナノ粒子は、その表面が金属状態の金属又は合金の相となっているので、その金属状態の金属又は合金の相により様々な物性を付与可能である。一般的には、親水性又は疎水性などの有機溶媒を利用して、相分離又は相分配などを施して、夾雑物などや原料物質などから分離することも可能である。好適には、溶媒抽出、クロマトグラフィーなども使用できる。
【0026】
本発明で得られる金属・合金ナノ粒子生成物は、好ましくは不活性ガス雰囲気中に保存されることが好適であるが、また、安定に分散された状態に維持されていることもできる。例えば、適当な有機溶剤(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン等の芳香族炭化水素、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、イソオクタン、ノナン、デカン、ドデカン、オクタデカン等の長鎖アルカン類を含めたアルカン類、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の環式炭化水素等)を媒体とした分散液として、安定に維持できる。本発明のナノ粒子分散物は、バインダーと配合するなどして様々な工業材料、例えば、磁気記録媒体用材料として利用できる。
【0027】
本明細書中、用語「ナノ粒子」とは、上記したように、ナノメーターサイズの粒子を指しており、例えば、その平均粒子径が1 μm(1,000 nm)以下のサイズのものを指しており、好ましくはその平均粒子径が 500 nm 以下のサイズのものを指し、また、好ましくは400 nm以下のサイズのものが挙げられる。ある場合には、該ナノ粒子は、その平均粒子径が250 nm以下のサイズのもの、また別の場合にはその平均粒子径が200 nm 以下のサイズのものであってよい。また別の場合には、該ナノ粒子は、その平均粒子径が20 nm 以下のサイズのもの、また別の場合にはその平均粒子径が10 nm 以下のサイズのものあるいは5 nm以下のサイズのものであってよい。該ナノ粒子は、0.1〜50nmの粒子、1〜50nmの粒子、好ましくは1〜25nmの粒子、さらに好ましくは1〜20nmの粒子、より好ましくは5〜20nmの粒子、さらにより好ましくは5〜10nmの粒子である。
【0028】
また好適な場合には、該ナノ粒子の粒子サイズは均一なものが好ましいが、一定の割合でその粒子サイズの異なるものの混合しているものが好ましい場合もある。本発明の技術では、5 nmの粒子サイズのもの、150〜250 nmの粒子サイズのもの、350〜450 nmの粒子サイズのもの、さらにはナノ粒子集団の70%又はそれ以上、80%又はそれ以上、90%又はそれ以上、95%又はそれ以上が、5 nmの粒子サイズのもの、200〜400 nmの粒子サイズのもの、あるいは、150〜450 nmの粒子サイズのものであるものが得られる。本発明の手法で得られるナノ粒子集団としては、5〜10nmの粒子、50〜150nmの粒子、100〜200nmの粒子、200〜300nmの粒子、300〜400nmの粒子、200〜400nmの粒子、250〜350nmの粒子、150〜250nmの粒子、又は、150〜350nmの粒子であって、且つ、ナノ粒子集団の70%又はそれ以上、80%又はそれ以上、90%又はそれ以上、95%又はそれ以上が当該サイズのものとして含んでいるものが挙げられる。
【0029】
当該金属・合金ナノ粒子は、例えば、動的光散乱(Dynamic Light Scattering, DLS)で測定したその平均粒子径が9〜50nmのサイズ又はそれ以下のもの、好ましくはその平均粒子径が10〜40nmのサイズ又はそれ以下のもの、あるいは、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査
型電子顕微鏡(SEM)で測定したその平均粒子径が200〜400nmのサイズ又はそれ以下のもの、又は、5nmのサイズ又はそれ以下のものを指しているものでよい。さらに、該ナノ粒子は、TEM又はSEMデータに基づいた金属・合金ナノ粒子の平均粒子径が、約100〜200nmであるものが凝集した塊り状のもの(凝集塊又は集積塊)、好ましくは約5〜200nmであるものが凝集した塊り状のもの、さらには、約200nm以下のサイズのものが凝集した塊り状のものであってよい。
【0030】
上記サイズは、ナノ粒子の形状が、棒体、円柱体、直方体、楕円柱体などの場合は、短軸のサイズが上記粒子サイズの小さな値とし、長軸のサイズをその短軸のサイズより大きな値としものであってよい。ナノ粒子は、球体、立方体、六面体、八面体などの多角形立方体、棒体、円柱体、卵形状体、正方晶、六方晶、三方晶、斜方晶、単斜晶、三斜晶、ウルツ鉱型結晶、単一壁または複数壁ナノチューブの形状、あるいはその他のナノスケールの形状であってもよい。それらは、非常に興味深い磁気的・電気的・光学的特性を現わすものである。
粒子径の測定は当該分野で知られた方法によりそれを行うことができ、例えば、TEM、吸着法、光散乱法(DLSを含む)、SAXSなどにより測定できる。TEMでは電子顕微鏡で観察するが、粒子径分布が広い場合には、視野内に入った粒子が全粒子を代表しているか否かに注意を払う必要がある。吸着法は、N2吸着などによりBET 表面積を評価するものである。
【0031】
本発明の合成法では、金属単体からなるナノ粒子、2種以上の金属元素からなる合金ナノ粒子(例えば、二元系合金ナノ粒子、三元系合金ナノ粒子、四元系合金ナノ粒子、多元系合金ナノ粒子など)、半導体ナノ粒子、磁性体ナノ粒子、蛍光体ナノ粒子、導電体ナノ粒子、顔料ナノ粒子などを、簡単な手法で、有利に、大量に、及び/又は、安価に、そして、均一に分散しているとか、均質なものといった高品質のものを製造できる。したがって、当該ナノ粒子を使用して、高度な性能を有する製品を製造することを可能にする。
【0032】
本発明の合成法で製造される金属ナノ粒子、合金ナノ粒子としては、上記金属から選択されたものであり、例えば、Cu, Ag, Auなどの長周期型周期表第11族の元素(銅族元素)、Fe, Co, Ni, Ru, Rh, Pd, Os, Ir, Ptなどの周期表第8〜10族の元素(鉄族元素及び/又は白金族元素)、Zn, Cd, Hgなどの周期表第12族の元素(亜鉛族元素)、Mn, Tc, Reなどの周期表第7族の元素(マンガン族元素)、Cr, Mo, Wなどの周期表第6族の元素(クロム族元素)、V, Nb, Taなどの周期表第5族の元素(土酸金属元素)、Ti, Zr, Hf などの周期表第4族の元素(チタン族元素)、Sc, Y, ランタノイド(例えば、La, Ce, Pr, Nd, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Yb, Luなど)、アクチノイド(Ac, Thなど)、ミッシュメタルなどの周期表第3族の元素(希土類元素を含む)、B, Al, Ga, In, Tlなどの周期表第13族の元素(アルミニウム族元素)、Si, Ge, Sn, Pbなどの周期表第14族の元素(炭素族元素)、As, Sb, Biなどの周期表第15族の元素、Te, Poなどの第16族の元素、Mg, Ca, Sr, Ba などの周期表第2族の元素などから選択された元素で構成されるものが挙げられる。当該ナノ粒子は、単独でも、あるいは、複数の元素を含むものであってよい。また、合金では、上記の元素から選択されたものを二種以上含有するものが挙げられてよい。
【0033】
本発明の合成法で製造される磁性体ナノ粒子としては、鉄族又はマンガン族元素を必須成分とする金属又は合金類を含有するナノサイズの粒子からなるものが挙げられる。代表的な磁性体としては、Fe、Co、Niの金属類、FePt、CoPt、FePd、M1nAl、FePtM1、CoPtM1、FePdM1、M1nAlM1からなる群から選択される合金類(化学式中、M1は金属元素を表し、M1としては、例えば、Li、Mg、Al、Si、P、S、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、I、Au、Tl、Bi、Po、Atが含まれる)が挙げられる。代表的なものとしては、FeNi、FePd、FePt、FeRh、CoNi、CoPt、、CoPd、CoRh、CoAu、Ni3Fe、FePd3、Fe3Pt、FePt3、CoPt3、Ni3Pt、CrPt3、Ni3Mn、FeNiPt、FeCoPt、CoNiPt、FeCoPd、FeNiPd、FeP
tCu、FePtIn、FePtPb、FePtBi、FePtAg、CoPtCu、FePdCu、FeCoPtCu、FeNiPtCu、FePtCuAg、FeNiPdCuなどが包含されていてよい。磁性体としては、Ni-Fe合金(パーマロイ)、Fe又はFe-Co合金、Fe-Cr-Co合金、アルニコ磁石合金、希土類コバルト金属間化合物、Nd-Fe-B金属間化合物なども包含されてよい。
【0034】
本発明の技術を利用すれば、高い結晶性のナノ粒子を得ることができ、また、表面が純金属状のものを得ることが可能である。
高い結晶性は、電子回折法、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope: TEM)、電界放射型透過電子顕微鏡(FE-TEM)、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope: SEM)、走査型透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope: STEM)などの電子顕微鏡写真の解析、エックス線回折(XRD)、熱重量分析などにより確認できる。例えば、電子回折では、単結晶であれば回折干渉像としてドットが得られ、多結晶ではリング、そしてアモルファスではハローが得られる。電子顕微鏡写真では、単結晶であれば結晶面がしっかり出ており、粒子の上からさらに結晶が現れるような形状であれば、多結晶である。多結晶の一次粒子が小さく多くの粒子が凝集して二次粒子をつくっている場合球状になる。アモルファスであれば必ず球状である。エックス線回折では単結晶であればシャープなピークが得られる。Sherreの式を利用してX 線のピークの1/2 高さの幅から結晶子サイズを評価できる。該評価により得られた結晶子サイズが電子顕微鏡像から評価される粒子径と同一であれば、単結晶と評価される。
【0035】
熱重量分析では、熱天秤により、乾燥不活性ガス中で加熱すると、100℃付近で吸着していた水分の蒸発による重量減少が、また、さらに250℃程度までで粒子内からの脱水による重量減少がみられる。有機物質を含む場合には、250〜400℃においてさらに大きな重量減少が観察される。本発明の技術で得られた粒子の場合、400℃まで昇温しても、結晶内部からの脱水による重量減少は非常に少なく、低温で合成されたナノ粒子の場合と大きく異なる。かくして、本発明にしたがって得られる金属微粒子あるいは合金微粒子の微粒子の特徴としては、高い結晶性、例えば、X 線回折でシャープなピークを有している、電子線回折でドットあるいはリングが観察される、熱重量分析で結晶水の脱水が乾粒子あたり非常に少ないこと、及び/又は電子顕微鏡写真で一次粒子が結晶面を持っているなどが挙げられる。
【0036】
ナノ粒子は、例えば、CuやAgやAlは電極、触媒材料などの用途に、Niは電極、磁性材料、触媒材料などの用途に、CoやFeは磁性材料、触媒材料などの用途に、Ag/Cu は電極、触媒材料などの用途に、さらにB4C, AlN, TiB2などは高温材料、高強度材料などの用途に応用される。
ナノ粒子やナノ粒子を特定の配列で有する薄膜はそれぞれ特有の優れた特性を示すことが認められている。例えば、ナノ粒子を単層配列したものでは、磁性ナノ粒子などのように緻密化充填を可能にし、近接場記憶素子として優れた機能を示すことが知られており、磁気テープなどに応用されて優れた特性を示し有用である。また,分散系パターンに配列されたものでは、例えば、ナノ蛍光体などでは,量子サイズ効果が得られることから、量子効果蛍光体、量子効果発光体、LSI高密度実装基盤などの製品を提供できる。ナノ粒子を多層同時配列したようなものでは、低光散乱や光触媒効果など優れた機能を示し、湿式光電変換素子、高機能光触媒コーティングなどとなる。粒子分散膜では、補強効果や難燃効果など優れた機能を持つものが提供でき、半導体封止剤などにできる。
本発明で得られるナノ粒子は、ユーザーニーズに適合した粒子として機能する。例えば、半導体パッケージング用高濃度ナノ粒子分散樹脂、インクジェット用ナノ粒子分散インク、電池材料、触媒材料、潤滑剤などとして有用である。
【0037】
本発明で得られた金属・合金ナノ粒子は、プラスチックやゴムなどのバインダーと混合した製品、例えば、ボンディッド磁石などとすることも可能である。本発明はさらに磁性
体である当該ナノ粒子がバインダー中に分散された磁性層を有する塗布型磁気記録媒体も包含する。該バインダーとしては、通常、NBRゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ポリエチレン、ナイロン6、ナイロン12などのポリアミド樹脂などが挙げられる。本発明の金属・合金ナノ粒子は、樹脂、金属、ゴムなどの各種バインダーと混練され、磁場中又は無磁場中で成形されることもできる。成形物は、必要に応じて、硬化せしめられてボンディッド磁石とされてもよい。また、当該金属・合金ナノ粒子をバインダーと混練せしめ塗料化し、これをプラスチック樹脂などからなる基体に塗布し、必要に応じて、硬化せしめて磁性層を形成し、塗布型磁気記録媒体としてもよい。さらに、当該金属・合金ナノ粒子は、焼結磁石、セラミックの製造に使用することも可能である。
本発明には、薄膜磁性層を有する磁気記録媒体も包含される。この薄膜磁性層は、上記した本発明の金属・合金ナノ粒子に加え、従来知られた酸化物磁性材料を含有しているものであってよい。
【0038】
本発明の金属・合金ナノ粒子材料を用いた製品は、適宜、必要に応じて所定の形状に加工され、下記に示すような幅広い用途に使用される。例えば、フュエールポンプ、パワーウインド、ABS、ファン、ワイパ、パワーステアリング、アクティブサスペンション、スタータ、ドアロック、電動ミラー等のための自動車用モータ;FDDスピンドル、VTRキャプスタン、VTR回転ヘッド、VTRリール、VTRローディング、VTRカメラキャプスタン、VTRカメラ回転ヘッド、VTRカメラズーム、VTRカメラフォーカス、ラジカセ等キャプスタン、CD、LD、MDスピンドル、CD、LD、MDローディング、CD、LD光ピックアップ等のためのOA、AV機器用モータ;エアコンコンプレッサー、冷蔵庫コンプレッサー、電動工具駆動、扇風機、電子レンジファン、電子レンジプレート回転、ミキサ駆動、ドライヤーファン、シェーバー駆動、電動歯ブラシ等のための家電機器用モータ;ロボット軸、関節駆動、ロボット主駆動、工作機器テーブル駆動、工作機器ベルト駆動等のためのFA機器用モータ;その他、オートバイ用発電器、スピーカ・ヘッドホン用マグネット、マグネトロン管、MRI用磁場発生装置、CD-ROM用クランパ、ディストリビュータ用センサ、ABS用センサ、燃料・オイルレベルセンサ、マグネットラッチ等の各種の電気・電子機械や部品・装置、光学機器・器具や部品・装置、各種の回路・配線等に好適に使用される。
本発明の金属・合金ナノ粒子が磁性材料の場合、それは、磁気ディスク、磁気カード、磁気テープ、メモリーカード用に使用できて有用であり、クレジットカード、身分証明書カード、情報記録媒体の用途に使用されても有用である。
【0039】
本発明の方法では、一段階のプロセスで、しかも、高速に、簡単な操作・装置で実施できるため、反応プロセスを効率化することができる。本発明の合成方法は、電池用電極材料、電子素子原料や半導体原料などの電気・電子材料となる高機能材料であるコバルト金属ナノ粒子を効率良く、大量に高速で生産することを可能にするものとして有用である。
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
【実施例1】
【0040】
〔材料及び実験方法〕
〔材料物質〕
酢酸コバルト(II)・四水和物(cobalt (II) acetate tetra-hydrate)、メタノール及びギ酸(おおよそ99%純度)を和光純薬工業株式会社より購入して、そのまま使用した。純水は大和薬品より入手した。メンブレンフィルター(0.1μm:ミリポア社)を、さら
に水を精製するのに使用した。
〔実験手順〕
水熱還元法プロセスによりコバルトナノ粒子の合成を行った。ナノ粒子前駆体として酢酸コバルト(II)・四水和物の水溶液(0.1 M)を使用し、反応用還元剤としてギ酸を用いた。反応にはバッチ式反応器を用いた。本実施例では、内容積5mlの高温高圧リアクター(耐圧性チタン合金製)を用い、リアクターの加熱には電気式の振盪式加熱炉(株式会社AKICO製)を用いた。次に示すようにして、その酢酸コバルト(II)・四水和物水溶液とギ酸とを所要量となるようにして反応器中に投入した。
【0041】
前駆体溶液の調整並びにギ酸の注入の各処理は、アルゴンを満たしたグローブボックス中で行った。原料物質の投入されたバッチ式反応器を10分間400℃、425℃、そして450℃に加熱した。最終的にリアクターの内部の温度は、それぞれ380℃、400℃、そして420℃になった。これらの温度を反応温度とした。また、すべての条件でその内圧は22Mpaになっていると推測した。10分間反応後リアクターを加熱炉から取り出し、水中に投入して(25℃、おおよそ5分)、粒子が生長してしまうのを防止した。冷やされたバッチ式反応器を、わずかに開けて生成したガス(H2とCO2)を放出せしめた。そして再度閉じてグローブボックス中へ移動せしめ、そこでリアクター中にメタノールを加えて、生成した粒子を収集した。集められた粒子をそのグローブボックスから取り出し、遠心処理をして、生成粒子を回収した。精製処理は、メタノールで洗ってから遠心処理し、デカンテーションすることで行った。最後に、得られたコバルトナノ粒子を再度メタノールに分散せしめ、次いで室温、デシケーター中で乾燥せしめた。
【0042】
〔生成物の分析及び結果〕
粉末X線回折(X-Ray Diffraction, XRD)分析はRigaku Ultima IV装置(CuKα照射、λ=0.154nm、20〜80°(2θ)の範囲、40KV、40mAで操作)を使用して行った。また、得られたナノ粒子のサイズや形状についても以下の装置を用いて評価を行った。透過型電子顕微鏡 (TEM、HITACHI製 H-7650)、走査型電子顕微鏡 (SEM、PHILIPS製 XL30)
【0043】
〔コバルトナノ粒子の生成〕
超臨界状態下での水熱還元法プロセスによって、コバルトナノ粒子を合成した。
超臨界水中でコバルトイオンを還元するためには、H2ガス使用したが、そのH2ガスはギ酸を分解することにより生成するものである。その反応条件ではH2と水とは均一相を形成している。完全に金属状のコバルトナノ粒子を合成するために、ギ酸のモル分率y1を増加せしめながらいくつかの実験条件で合成を行った。
図1に、反応温度400℃で合成された金属状コバルトナノ粒子とCoO粒子のXRDピークパターン示す。図1(a)では、44.10°に金属のβ−コバルト相が見られる;しかし、CoOのピークは42.39°に明らかに異なって見られる。図1(b)では、ギ酸のモル分率を0.15にまでわずかながら高くした(y1=0.15)。すると、完全に金属の相が得られた。しかしながら、CoO相は依然残っていた。y1を0.17まで上げると(y1=0.17)、CoOのピークは顕著に低下した。そして、β−コバルト相のピークが識別可能に観察されるようになった。図1(c)では、α−コバルト相のピークも、47.44°に明瞭に観察された。しかしながら、42.39°の(200)面のCoOのピークは依然としてその試料に弱く残っていた。図1(d)には、完全に金属状であるコバルトのピークのパターンが示されている。そのピーク図より、強いβ−コバルト相(太字で示されている面)があることが示されており、それはα−コバルト相(イタリックで示された面)を含み、完全にCoOピークが消失しているものであった。
【0044】
y1を増加せしめると、それにつれ金属状のコバルトナノの相の量が増加し、y1が0.19になると、XRDのピークパターンではCoOのピークはほとんど無視できるものとなった。かくして、完全に金属状であるコバルトナノ粒子を合成するには、ギ酸のモル分率としては、
その反応温度ではy1=0.19が必要であると考えた。
興味深いことに、図1では主にβ−コバルト相のピークパターンが示されている。しかし、大気圧下条件で得られるバルクコバルトとしては、α−コバルト相がより一般的である。というのはβ−コバルト相のGibbsエネルギーはα−コバルト相のそれよりより大きなものであるからである。これにより大気圧の条件では不安定なβ−コバルト相になるということである。α−コバルト相からβ−コバルト相への相転移臨界温度は416.85±6℃である。こうして、微細粒子の生長プロセス中に急速冷却によって、そのβ−コバルト相は準安定相(metastable phase)として生じていると推測されてきていた。
【0045】
しかしながら、コバルトの粒子サイズや結晶相というものは、大いにその生長条件の影響を受けるものであった。すなわち、その結晶相は、明らかにその粒子のサイズ(直径)に依存していた;20nmを下回るサイズのものでは、純β−コバルト相で、〜30nmのサイズではα−コバルト相とβ−コバルト相の混合したもので、40 nmを上回るサイズのものでは、少量のβ−コバルト相を含有しているα−コバルト相のものであった。本実施例で得られた生成物の結晶格子(crystal lattice)のサイズは、おおよそ29.3 nmであった。それ故に、該生成物は、少量のα−コバルト相を含むβ−コバルト相を主要相とする混合物を含むものであると結論付けた。これらの結果は、図1(c)や図1(d)の結果と良好な一致を示すものであった。
【0046】
反応後には、表面の酸化や水和反応が起きるかも知れない。純コバルトが空気にさらされるとCo3O4が形成され得るであろう。また、純コバルトが直接水や空気中の湿気に接触すると、Co(OH)2が形成され得るであろう。しかしながら、その生成物のコア部(核部分)は純金属状の相のままであり得る。というのは形成された酸化物や水酸化物の層(レイヤー)が、さらにそのコバルトナノ粒子が酸化されたり、水和されるのを防げるであろうからである。
【0047】
図2には、本生成物である完全に金属状であるコバルトナノ粒子の形状を示してある。図2(a)及び図2(b)は、それぞれ、400℃の反応温度、y1=0.19で合成されたコバルトナノ粒子のTEM像及びSEM像を示している。図2(a)においては、おおよそ200〜400nmのサイズの粒子が観察された。さらに、おおよそ5nmのサイズのものが、最大サイズのものの近くに見られた。図2(b)は、集積して塊を形成したコバルトナノ粒子のSEM像を示すものである。小さな粒子(200nmより小さなもの)は容易に集積して塊りとなり、より大きな粒子を形成した。それが急速に集塊するのは、高い表面エネルギーとかマグネタイト粒子間の静磁気相互作用(magneto-static interactions)がある結果なのである。その生成物粒子の形状は、TEMやSEM観察の結果では不規則なものであった。
【実施例2】
【0048】
実施例1と同様の実験を、その他の温度においても行った。実験の結果はすべて、図1や図2に示したような傾向のものであった。各温度での完全に金属状であるコバルト相のためのy1の値を求めて決定した。
図3には、反応温度対使用ギ酸モル分率をプロットしたものを示す。図3中、四角印(□)は、XRDピークパターンから決定された完全に金属状であるコバルト相となるy1の値を示している。かくして、完全に金属状のコバルトナノ粒子を得るために必要とされるy1の量は、反応温度を高くすると増加することが観察される。反応温度を高くするにつれ、ギ酸の還元能が低下し、水の酸化能が増大する。金属状のコバルトの生成並びにギ酸の還元能を調べるため、必要とされるギ酸の最少量を決めるために、CoOと金属状のコバルトとの比率を用いた更なる実験を行った。
【0049】
図4には、反応温度380℃でのギ酸のモル分率を増加せしめた場合のその金属状のコバルト相を含有しているCoOのXRDピークパターンを示してある。そこでは、(a)y1=0.045
から(d)y1=0.024にせしめると44.40°のβ−コバルト相のピークが徐々に低下し、(e)y1=0.017ではそのβ−コバルト相のピークはほとんど消失した。
かくして、必要とされるギ酸の最小量は、y1=0.024と決定せしめられる。同じプロセスは、他の温度条件でも行って、必要最小限ギ酸量を決定した。すなわち、380℃では0.024、400℃では0.028、そして420℃では0.030であった。図3中には、(◇)の符号で、それを示してあり、反応温度を高くすると値が大きくなるものであった。
本発明の方法の水熱還元法プロセスによるコバルトナノ粒子の合成は、次のような化学反応平衡モデルで理解されると考えられる。
【0050】
【化1】

【0051】
上式中、Keqは、化学反応平衡定数を示す。
本発明の方法の水熱還元法プロセスでは、次式
【0052】
【化2】

【0053】
のようにして酸化コバルト(CoO)が生成されると推測される(上記式中、*は、反応性である状態を示す)。すなわち、先ず、酢酸コバルトは水に溶解し、次にイオン化し、コバルト陽イオンと酢酸陰イオンとになり、そのコバルト陽イオンは加水分解により水酸化コバルトに変化し、次に水酸化コバルトは脱水反応でコバルトモノオキサイドに変わるというものである。
本発明の方法で得られる金属状のコバルトナノ粒子は、Fischer-Tropsche反応における触媒として優れた性能を発揮する。このように本発明の方法で得られる金属状のコバルトナノ粒子は、容積に対して高い表面積比を有することから、優れた且つ高い触媒活性を有している触媒として有用である。また、本発明の方法で得られる金属状のコバルトナノ粒子は、様々な電子機材、電子機器や装置、そして磁気機材、磁気機器や装置に使用できる。本発明の方法で得られる金属状のコバルトナノ粒子は、高い保磁力(coercivity)を示すことから磁気記録媒体用材料として非常に有望である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明により、簡単且つ低コストで有用性の高い金属・合金ナノ粒子を合成することができるので、電気・電子材料、磁気材料、光学材料などの工業用材料としてその応用・適用が期待される。本発明により得られた金属・合金ナノ粒子は、その表面が金属状態のものであり、優れ物性を発揮するものであり、応用範囲が広く、様々な用途においてそれの有する特異な特性を利用するのに便利なものであるので、工業材料としても優れている。本発明の方法は、セラミックスのナノ構造改質材、光機能コーティング材、電磁波遮蔽材料、二次電池用材料、蛍光材料、電子部品材料、磁気記録材料、研摩材料などの産業・工業材料、医薬品・化粧品材料などの高機能・高性能・高密度・高度精密化材料として有用なナノ粒子合成法である。本発明により、触媒、記憶材料、発光材料、オプトエレクトロニクスなどの広範な分野での利用が期待されている、非常に良好な金属状コバルトナノ粒子を、該コバルトナノ粒子の結晶形などを制御して、簡単な手法で、低コストに且つ安定的に製造できる。したがって、コバルトナノ粒子が発揮する工学的、電子的、機械的、および化学的特性の利用が可能となり、その優れた機能を期待でき、エレクトロニクス材料、記憶材料、発光材料、オプトエレクトロニクス材料、触媒材料などとして応用できる。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本
件添付の請求の範囲の範囲内のものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温高圧水存在条件の反応場でのナノ粒子合成法であり、ナノ粒子前駆体からナノ粒子を合成する反応場に、還元剤を共存せしめて、ナノ粒子合成反応を行い、実質上金属状のである金属又は合金ナノ粒子を得ることを特徴とする金属又は合金ナノ粒子の合成法。
【請求項2】
高温高圧水存在条件の反応場が、亜臨界又は超臨界水であることを特徴とする請求項1に記載の金属又は合金ナノ粒子の合成法。
【請求項3】
還元剤が反応場でガス状態であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属又は合金ナノ粒子の合成法。
【請求項4】
還元剤が、ギ酸、水素ガス、一酸化炭素ガス、合成ガス、水性ガス及びそれらの混合物からなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一に記載の金属又は合金ナノ粒子の合成法。
【請求項5】
ナノ粒子合成反応が、温度及び/又は圧力が超臨界水条件下で行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一に記載の金属又は合金ナノ粒子の合成法。
【請求項6】
金属又は合金ナノ粒子の合成反応場にギ酸を同時共存させるかあるいは水素ガスの存在する反応場に金属又は合金ナノ粒子の前駆体を導入することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一に記載の金属又は合金ナノ粒子の合成法。
【請求項7】
ナノ粒子形成反応を、375℃以上、好ましくは、380℃以上の温度で行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一に記載の金属又は合金ナノ粒子の合成法。
【請求項8】
上記ナノ粒子が、コバルトナノ粒子又はコバルト合金ナノ粒子であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一に記載の金属又は合金ナノ粒子の合成法。
【請求項9】
上記ナノ粒子前駆体が、有機酸コバルト(II)水溶液であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一に記載の金属又は合金ナノ粒子の合成法。
【請求項10】
上記ナノ粒子前駆体が、酢酸コバルト(II)水溶液であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一に記載の金属又は合金ナノ粒子の合成法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一に記載の合成法で合成された、ナノ粒子の表面が実質的に金属状の金属又は合金である金属又は合金ナノ粒子であることを特徴とする金属又は合金ナノ粒子。
【請求項12】
ナノ粒子の表面が、実質的に金属状の金属又は合金であることを特徴とする請求項11に記載の金属又は合金ナノ粒子。
【請求項13】
TEM及び/又はXRDデータに基づいた金属又は合金ナノ粒子の平均粒子径が、約5〜400 nmであることを特徴とする請求項11又は12に記載の金属又は合金ナノ粒子。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれか一に記載の金属又は合金ナノ粒子を磁性体として含有することを特徴とする磁性材料組成物。
【請求項15】
請求項11〜13のいずれか一に記載の金属又は合金ナノ粒子を触媒として含有することを特徴とする触媒組成物。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−197473(P2012−197473A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61295(P2011−61295)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】