説明

還流凝縮器

【課題】 熱交換器を圧力容器内に格納した形式の還流凝縮器における経済的効果を改善して製造コストや動作コストの面で有利な還流凝縮器を提供する。
【解決手段】 還流通路群と冷媒通路群を有する熱交換器ブロック(1)、熱交換器ブロック(1)の上方及び全外周側方を囲繞する圧力容器(2)、還流通路群の下端部に蒸気流を導入する手段(14、15、16、17)、還流通路群の下端部から凝縮液を導出する手段(19)、還流通路群の上端部から蒸気を取り出す手段(29、30)、及び冷媒通路群に冷媒流を導入する手段を備えた還流凝縮器。還流通路群の下端部を熱交換器ブロック(1)の下部に配置したヘッダー内に開口させ、該ヘッダーに相分離装置を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は還流凝縮器に関し、特に一群の還流通路及び一群の冷媒通路を有する少なくとも一つの熱交換器ブロックと、該熱交換器ブロックの上方及び全外周側方を囲繞する圧力容器と、前記還流通路群の下端部に蒸気流を導入する手段と、前記還流通路群の下端部から凝縮液を導出する手段と、前記還流通路群の上端部から蒸気を取り出す手段と、前記冷媒通路群に冷媒流を導入する手段とを備えた形式の還流凝縮器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
還流凝縮器には二つの基本的形式が知られている。即ち、例えば特許文献1に示されているように熱交換器ブロック(一つ又は複数の熱交換器ブロック)が圧力容器の内部に格納されているか、或いは特許文献2に示されているように熱交換器ブロックの全ての外面がヘッダで閉鎖されているかのいずれかの形式である。本発明は前者の形式の還流凝縮器に関するものである。
【0003】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1189000号明細書
【特許文献2】米国特許第6128920号明細書
【0004】
還流凝縮器の還流通路群には下端部から蒸気が導入される。この蒸気は還流通路群の内部を上昇するに伴って部分的に凝縮される。還流通路群は、凝縮液が上昇流に随伴して運び去られることなく下向流として流下するように構成されている。このようにして、還流通路群の内部では蒸気と凝縮液が向流で流れることにより精留が行われる。還流通路群の下端部に現れる凝縮液では比較的沸点の高い成分の濃度が増加しており、還流通路群の上端部から出て行く蒸気では比較的沸点の低い成分の濃度が増加している。
【0005】
還流凝縮器(デフレグメーターとも呼ばれる)は、独立設置の分離ユニットとして使用することもできるが、別の選択肢として精留塔に塔頂凝縮器として組み込み、精留塔の分離性能を増強するのに用いることも可能である。
【0006】
ここで、頂部、底部、側方など、方位に関する全ての用語は、適正な作動姿勢にある還流凝縮器における各部の方位に対応する用語である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明で解決すべき課題は、冒頭に記載した形式の還流凝縮器における経済的効果を改善して製造コストや動作コストの面で有利な還流凝縮器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の基本理念によれば、係る課題は、冒頭に記載した形式の還流凝縮器において、熱交換器ブロックの還流通路群の下端部を熱交換器ブロックの下部に配置したヘッダー内に開口させ、このヘッダーに相分離装置を設けることにより解決される。
【0009】
この場合、ヘッダーは、還流通路群の下端部に蒸気流を導入する手段の一部を構成すると共に、還流通路群の下端部から凝縮液を導出する手段の一部を構成する。
【0010】
本発明による還流凝縮器の熱交換器ブロックは圧力容器の内部に格納されているが、その還流通路群は圧力容器と熱交換器ブロックとの間の空間に開口しているのではなく、該空間に対してはヘッダーによって遮蔽されている。これは、一見すると過度に構造の複雑化をもたらすかのように思われるが、相分離装置をヘッダー内に配置できることから、還流通路群の下方で蒸気と凝縮液とを効率的に気液分離することが可能となる利点を備えている。特に、この構成を採用することによって凝縮液が上昇蒸気流に随伴して運び去られるのを防止することができ、総じて還流凝縮器における熱交換及び物質交換動作を特に高い効率で達成することが可能となる。
【0011】
本発明による構成の更なる利点は、圧力容器の内部、即ち圧力容器と熱交換器ブロックとの間の空間を、還流通路群とは異なる圧力をもつ別の目的に利用することができる点にある。
【0012】
熱交換器ブロックは、プレート式熱交換器、特にアルミニウム鑞付けプレート式熱交換器として構成されていることが好ましい。
【0013】
本発明の好適な一実施形態によれば、ヘッダー内に配置された相分離装置は基底面を有し、この基底面は少なくとも一つの気相流導入開口を有し、この気相流導入開口の周囲は基底面の上面側で凝縮液を堰き止めるための堰によって囲まれている。
【0014】
この場合、還流通路群から流下してくる凝縮液は基底面上に集められる。一方、気相流導入開口から上昇してくる蒸気流は、この堰き止められた凝縮液の脇を通過して還流通路群へ進入し、従って凝縮液による圧力損失は実質的に生じることが無く、またこの領域で凝縮液の液滴が上昇流に随伴して還流通路群へ進入することも防ぐことができる。
【0015】
気相流導入開口の境界は一つ以上の縦周壁で形成することができ、最も単純な場合は縦軸を中心軸とする円筒ケーシング状の環状壁で形成することができる。但し、例えば上向きに縮径する裁頭円錐形又は逆に下向きに縮径する逆裁頭円錐形など、その他の形状の環状壁で形成することも可能である。この境界を形成する縦周壁は気相流導入開口の開口周縁に接して設けられていることが好ましいが、気相流導入開口の開口周縁から僅かな間隙だけ離れて設けられていてもよい。
【0016】
気相流導入開口の下側は精留塔頂部の流れに連通させることができ、それにより精留塔頂部で取り出される気相流を還流通路群へ導き入れることができる。
【0017】
個々の熱交換器ブロック毎に相分離装置は例えば1〜10個、好ましくは2〜6個の気相流導入開口を備えることができる。
【0018】
本発明の更に好適な実施形態によれば、相分離装置はその基底面上に堰き止められた凝縮液を下方へ排出するための少なくとも一つの排出管路を有している。基底面上に堰き止められた凝縮液は、この排出管路を介して進入蒸気流から分離された形態で下方へ排出される。
【0019】
排出管路の下端部を例えば液体分配器に流路接続することにより、この液体分配器によって還流通路群からの凝縮液を精留塔内の規則充填材が装填された物質交換区画へ分配させることができる。棚段プレート式の精留塔の場合は排出管路の下流側末端部を精留塔のプレート上に開口させてもよい。
【0020】
本発明の更に好適な実施形態によれば、気相流導入開口の真上で相分離装置の基底面から間隔を開けた位置に屋根状のカバー部材が配置されている。このカバー部材のカバー範囲の拡がりは、気相流導入開口の開口面をその真上の間隔を開けた位置で少なくとも部分的に覆う大きさである。このように屋根状のカバー部材が気相流導入開口の上方に配置されていることにより、還流通路群の下端部から降雨状に落ちてくる凝縮液が気相流導入開口内へ直接的に落下することを防止することができる。カバー部材は、気相流導入開口の全開口面をその真上の間隔を開けた位置で覆う大きさのものとすることが好ましい。基底面からの間隔、即ち、気相流導入開口の開口周縁で境界を形成する縦周壁の上端からの間隔の寸法は、気相流導入開口から上昇する蒸気流が有意の圧力損失を生じることなく通過できるように選ばれる。この部分の全体的な構造は所謂煙突の基本原理に従って設計することができる。
【0021】
本発明によれば、凝縮すべき蒸気流に対する導入流路の開口断面積を従来の配管接続式のヘッダーによる場合よりも実質的に大きくすることができる。相分離装置の気相流導入開口の開口面積は、熱交換器ブロックの下端面の断面積の少なくとも1/40、好ましくは少なくとも1/20、更に好ましくは少なくとも1/10でとすることができる。この開口面積の寸法は、相分離装置が複数の気相流導入開口を有する場合は全ての気相流導入開口の合計の開口面積、即ち、総開口面積に適用される寸法である。
【0022】
本発明の更に好適な実施形態によれば、ヘッダーは熱交換器ブロックの四周下端縁に接合された平らで矩形の四周側壁を備えている。またヘッダーに平らな底板を設け、この底板によって相分離装置の基底面を兼用することが好ましい。例えばヘッダーを全体として立方体形状に形成した場合、その上端面は熱交換器ブロックの下端面によって形成されることになる。
【0023】
本発明の更に好適な実施形態によれば、熱交換器ブロックの冷媒通路群に冷媒流を導入する手段は熱交換器ブロックの側面に設けられた開口として構成され、この開口を介して冷媒通路群が圧力容器と熱交換器ブロックとの間の空間に通じている。この場合、圧力容器と熱交換器ブロックとの間の空間を冷媒流貯留空間として利用することが可能であり、この目的で従来は必要とされていた冷媒用ヘッダーは不要である。冷媒流を液相で導入する場合は、熱交換器ブロックとの間の空間を冷媒浴槽として使用することができる。熱交換器ブロックの冷媒通路群に冷媒流を導入する手段として熱交換器ブロックの側面に開口を設け、この開口を介して熱交換器ブロックの冷媒通路群を圧力容器と熱交換器ブロックとの間の空間に連通させることができるが、この開口は、冷媒流を液相で導入する場合は少なくとも還流凝縮器が動作状態にある間に亘って冷媒浴槽の液面より下位に位置するように配置しておくことが望ましい。この冷媒流を冷媒通路群に導入するための開口は、熱交換器ブロックの一つ又は複数の側面に設けることができる。
【0024】
冷媒通路群は、熱交換器ブロックの上端面で上向きに開口していることが好ましい。これによって冷媒側のヘッダーを用いることなく熱サイホン効果により熱交換器ブロックの冷媒通路群を良く知られたような循環蒸発器(浴蒸発器)の形態で作動させることが可能となる。従って本発明によれば熱交換器ブロックには下部に追加のヘッダーを一つ配置するだけでよく、その他には還流通路群から蒸気を取り出すための手段として機能するヘッダーを還流通路群の上端部に配置すれば足りることになる。
【0025】
本発明はまた、以上のような特徴を備えた還流凝縮器の精留塔の塔頂凝縮器としての使用にも関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の特徴とその他の詳細を図示の好適な実施形態に基づいて詳述すれば以下の通りである。尚、以下に述べる実施形態は本発明を限定するものではなく、当業者に自明なその変形態様も本発明の技術的範疇に包含されることは述べるまでもない。
【0027】
図1に示すように、本発明による還流凝縮器の熱交換器ブロック1は圧力容器2の内部に格納されており、圧力容器2によって熱交換器ブロック1の上方及び全外周側方が囲繞されている。この熱交換器ブロック1はアルミニウム鑞付けプレート式熱交換器として構成されており、詳細には図示されていないが一群の還流通路及び一群の冷媒通路を有している。
【0028】
図示の実施形態において、熱交換器ブロック1の冷媒通路群は循環蒸発器として機能する。即ち、液相の冷媒流が接続分岐管路4を介して圧力容器2と熱交換器ブロック1との間の空間3に導入され、冷媒浴を形成する。この浴の一部の冷媒液5は、熱交換器ブロック1の側面に設けられた冷媒導入用の開口を介して冷媒通路群の内部に流入する。冷媒通路群の内部では熱サイホン効果によって冷媒の二相混合流が上向きに導かれ、熱交換器ブロック1の上端部における冷媒通路群の開口から空間3へ出てくる。この場合、気相分の冷媒流6はガス管路7を介して凝縮器外部へ導出され、依然として液相のままの冷媒流8は降下して冷媒浴中へ戻される。
【0029】
還流通路群は下端部で開口し、熱交換器ブロック1の下部に連設されたヘッダーの内部空間に連通している。このヘッダーは、熱交換器ブロック1の四周下端縁に接合された平らで矩形の四周側壁9、10、11、12と、平らな底板13とを備えた立方体形状の箱体からなり、熱交換器ブロック1の下端部に該ブロックとほぼ同一の横断面輪郭形状を有する延長部を形成している。図示の実施形態では、ヘッダーの底板13は相分離装置(気液分離器)の基底面を兼ねており、4つの気相流導入開口14、15、16、17を有している。これらの気相流通路開口の周囲は、それぞれ基底面の上面側で凝縮液を堰き止めるための堰18によって囲まれている。これらの堰によって基底面上に堰き止められた凝縮液は、基底面に設けられた排出管路19を介して下方へ排出される。また、各気相流導入開口の真上には、基底面から間隔を開けた高さ位置で屋根状のカバー部材20、21が配置されている。
【0030】
図示の実施形態による還流凝縮器は精留塔の塔頂に直接配置されている。図1には、この精留塔の塔壁22が破線で示されている。精留塔の頭頂部から4つの気相流導入開口を介してヘッダー内に導出されてくる蒸気23は、矢印24で示すようにカバー部材20、21で偏向されてから、矢印25で示すように還流通路群の下端部に導入される。一方、還流通路群の内部で生じた凝縮液は矢印26で示すように還流通路群の下端部から液滴となって降雨状に落下するが、各気相流通路開口はカバー部材20、21によって屋根状に覆われているので、各気相流通路開口内に直接的に落下することなく基底面13上に落下し、各気相流通路開口の周囲の堰18で堰き止められている間に矢印27、28で示すように排出管路19から下方へ排出され、例えば精留塔の物質交換区画へ還流として供給される。熱交換器ブロック1の還流通路群の上端部からは、気相分として残された蒸気が側面ヘッダー29及びガス(蒸気)取り出し管路30を介して凝縮器外部へ導出される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の好適な実施形態による還流凝縮器の構成を模式的に示す縦断面図である。
【図2】図1のA−A線矢視断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一群の還流通路及び一群の冷媒通路を有する少なくとも一つの熱交換器ブロック(1)と、該熱交換器ブロック(1)の上方及び全外周側方を囲繞する圧力容器(2)と、前記還流通路群の下端部に蒸気流を導入する手段(14、15、16、17)と、前記還流通路群の下端部から凝縮液を導出する手段(19)と、前記還流通路群の上端部から蒸気を取り出す手段(29、30)と、前記冷媒通路群に冷媒流を導入する手段とを備えた還流凝縮器において、前記還流通路群の下端部が前記熱交換器ブロック(1)の下部に配置されたヘッダー内に開口し、該ヘッダーが相分離装置を備えていることを特徴とする還流凝縮器。
【請求項2】
前記相分離装置が基底面(13)を有し、該基底面が少なくとも一つの気相流導入開口(14、15、16、17)を有し、該気相流導入開口の周囲が前記基底面の上面側で凝縮液を堰き止めるための堰(18)によって囲まれていることを特徴とする請求項1に記載の還流凝縮器。
【請求項3】
前記相分離装置が前記基底面(13)上に堰き止められた凝縮液を下方へ排出するための少なくとも一つの排出管路(19)を有することを特徴とする請求項2に記載の還流凝縮器。
【請求項4】
前記気相流導入開口(14、15、16、17)の真上で前記基底面(13)から間隔を開けた位置に、前記気相流導入開口の開口面を少なくとも部分的に覆う拡がりのカバー部材(20、21)が配置されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の還流凝縮器。
【請求項5】
前記相分離装置が、前記熱交換器ブロック(1)の下端面の少なくとも1/40、又は少なくとも1/20、又は少なくとも1/10の面積に相当する総開口面積の気相流導入開口(14、15、16、17)を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の還流凝縮器。
【請求項6】
前記ヘッダーが前記熱交換器ブロック(1)の四周下端縁に接合された平らで矩形の側壁(9、10、11、12)を備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の還流凝縮器。
【請求項7】
前記ヘッダーの底板が前記相分離装置の前記基底面を形成していることを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項に記載の還流凝縮器。
【請求項8】
前記冷媒通路群に冷媒流を導入する手段が前記熱交換器ブロック(1)の側面に設けられた開口を含み、該開口を介して前記冷媒通路群が前記圧力容器(2)と前記熱交換器ブロック(1)との間の空間(3)に通じていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の還流凝縮器。
【請求項9】
精留塔の塔頂凝縮器としての請求項1〜8のいずれか1項に記載の還流凝縮器の使用。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−39386(P2008−39386A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−204019(P2007−204019)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(391009659)リンデ アクチエンゲゼルシヤフト (106)
【氏名又は名称原語表記】LINDE AKTIENGESELLSCHAFT
【住所又は居所原語表記】Leopoldstrasse 252,80807 Munich,Germany
【Fターム(参考)】