説明

部位特異的組み換えを用いて無ベクター誘導多能性幹(iPS)細胞を作製するベクターおよびその方法

本発明は、下記:
(a) (aa) 転写時に体細胞の誘導多能性幹(iPS)細胞へのリプログラミングに関与する因子を生じるコード配列;
(ab) 当該コード配列の転写を仲介するプロモーター; および
(ac) DNA分子から(aa)および/または(ab)の除去を仲介する2個の配列モチーフ
を含む第1のDNA配列であって、1個の配列モチーフは除去される配列の5'に位置し、他の配列モチーフは除去される配列の3'に位置するDNA配列;
(b) (a)の他のDNA分子への部位特異的組み込みを仲介する配列モチーフを含む第2のDNA配列を含むDNA分子に関する。さらに本発明は、下記:
(a) (aa) 転写時に体細胞の誘導多能性幹細胞へのリプログラミングに関与する因子を生じるコード配列; および
(ab) 当該コード配列の転写を仲介するプロモーター
を含む第1のDNA配列;
(b) (ba) DNA分子の染色体外自己複製を仲介する配列モチーフ; および
(bb) (b)の第2のDNA配列から少なくとも(ba)の当該配列モチーフの除去を仲介する2個の配列モチーフ
を含む第2のDNA配列であって、1個の配列モチーフは(ba)の5'に位置し、他の配列モチーフは(ba)の3'に位置するDNA配列
を含むDNA分子に関する。本発明はまた、本発明のDNA分子を含むベクター、当該ベクターの構築法および本発明の当該DNA分子もしくはベクターを含む体細胞に関する。さらに本発明は、誘導多能性幹(iPS)細胞を作製する方法、当該方法により得られる誘導多能性幹細胞、本発明のDNA分子を含むキット、本発明の誘導多能性幹細胞を含む細胞株もしくは細胞培養集合物、研究ツールとしての当該細胞または細胞株の使用、トランスジェニック非ヒト動物を作製する方法および当該方法により作製された非ヒト動物に関する。最後に、本発明は、遺伝子治療、再生医療、細胞治療または薬剤スクリーニング用組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下記:
(a) (aa) 転写時に体細胞の誘導多能性幹(iPS)細胞へのリプログラミングに関与する因子を生じるコード配列;
(ab) 当該コード配列の転写を仲介するプロモーター; および
(ac) DNA分子から(aa)および/または(ab)の除去を仲介する2個の配列モチーフ
を含む第1のDNA配列であって、1個の配列モチーフは除去される配列の5'に位置し、他の配列モチーフは除去される配列の3'に位置するDNA配列;
(b) (a)の他のDNA分子への部位特異的組み込みを仲介する配列モチーフを含む第2のDNA配列
を含むDNA分子に関する。さらに本発明は、下記:
(a) (aa) 転写時に体細胞の誘導多能性幹細胞へのリプログラミングに関与する因子を生じるコード配列; および
(ab) 当該コード配列の転写を仲介するプロモーター
を含む第1のDNA配列;
(b) (ba) DNA分子の染色体外自己複製を仲介する配列モチーフ; および
(bb) (b)の第2のDNA配列から少なくとも(ba)の当該配列モチーフの除去を仲介する2個の配列モチーフ
を含む第2のDNA配列であって、1個の配列モチーフは(ba)の5'に位置し、他の配列モチーフは(ba)の3'に位置するDNA配列を含むDNA分子に関する。本発明はまた、本発明のDNA分子を含むベクター、当該ベクターの構築法および本発明の当該DNA分子もしくはベクターを含む体細胞に関する。さらに本発明は、誘導多能性幹(iPS)細胞を作製する方法、当該方法により得られる誘導多能性幹細胞、本発明のDNA分子を含むキット、本発明の誘導多能性幹細胞を含む細胞株もしくは細胞培養集合物、研究ツールとしての当該細胞または細胞株の使用、トランスジェニック非ヒト動物を作製する方法および当該方法により作製された非ヒト動物に関する。最後に、本発明は、遺伝子治療、再生医療、細胞治療または薬剤スクリーニング用組成物に関する。
【0002】
いくつかの文献が本明細書を通して引用される。本明細書に引用される文献の開示内容(製造仕様書、製造者の指示などを含む)は、引用により本明細書の一部とする。
【背景技術】
【0003】
胚性幹(ES)細胞のような多能性幹細胞は、自己複製能およびさまざまな細胞型への分化能により特徴づけられる。ES細胞は、物理的な誘導因子および生物学的な誘導因子の存在下で、外胚葉、中胚葉および内胚葉の3つすべての胚葉の特殊化した細胞系統にインビトロで分化し得る。今までのところ、多くの有望な研究が、動物モデルでのさまざまな疾患の改善におけるESCの分化した誘導体の治療可能性を示している。結果として、多能性幹細胞は、組織工学および移植治療における使用のための多大な可能性を有している。これらの細胞の特定の細胞型への分化を誘導することができれば、それらは、多くの破壊的な変性疾患、例えば、糖尿病、パーキンソン病およびアルツハイマー病の処置における移植のためのほとんど制限のない細胞の供給源を提供するかもしれない(Biswas, A. et al., 2007, Stem Cells Dev 16(2): 213-22; Kim, D. S. et al., 2007, Cell Transplant 16(2): 117-23; Zimmermann, W. H. et al., 2007, Trends Cardiovasc Med 17(4): 134-40)。
【0004】
最近まで多能性幹細胞株は、着床前胚からのみ確立することができた。ヒト胚の使用に関する倫理的な批判に加えて、個々のヒトES細胞株の分化した子孫は、多くのレシピエントの免疫系により異物とみなされる得る。しかしながら、ここ1年の間に、分化したマウスおよびヒト皮膚線維芽細胞を誘導多能性幹(iPS)細胞にリプログラミングすることが可能であるというさまざまな証拠が報告された(Hanna, J., et al. (2007). Science 318(5858): 1920-3; Meissner, A., et al. (2007). Nat Biotechnol 25(10): 1177-81; Nakagawa, M., et al. (2007). Nat Biotechnol.; Okita, K., et al. (2007). Nature 448(7151): 313-7; Takahashi, K., et al. (2007Cell 131(5): 861-72; Wernig, M., et al. (2007). Nature 448(7151): 318-24; Yu, J., et al. (2007). Science 318(5858): 1917-20; Park, I. H., et al. (2008). Nature 451(7175): 141-6)。マウスiPS細胞株は、4個のタンパク質(OCT4、SOX2、c-MYCおよびKLF4)についてのレトロウイルス発現ベクターを用いて感染させると、線維芽細胞から誘導された。導入細胞のうちの少数(0.001-0.1%)がコロニーを形成し、形態学的に多能性幹細胞様になる。これらのマウスiPS細胞株は、形態、幹細胞マーカー発現、全体の遺伝子発現ならびにそれらのインビトロおよびインビボ分化能の観点で、天然で単離されたES細胞株と類似することが見出された。多能性細胞についての選択なしに、OCT4、SOX2、c-MYCおよびKLF4についてのウイルス発現ベクターを用いて感染させると、ヒトiPS細胞が成体皮膚線維芽細胞および他の初代細胞から誘導され得ることがまた後に報告された。同じ因子を用いて、ヒトiPS細胞が、胎児、新生児および成体初代細胞(健常な対象の皮膚生検から単離された皮膚線維芽細胞を含む)から誘導された。これらの細胞は、ヒトES細胞マーカーを発現し、神経細胞および心臓細胞に分化することができ、SCIDマウスにおいてテラトーマを形成した。さらなる公開物は、c-MYCを使用することなく、減少した効率での線維芽細胞からのマウスおよびヒトiPS細胞の作製を報告した。あるいは、ヒト線維芽細胞は、OCT4、SOX2、NANOGおよびLIN28のレトロウイルス発現によりiPS細胞にリプログラミングされた。遺伝子治療モデル実験において、鎌状赤血球貧血マウス突然変異体の自家皮膚に由来するiPS細胞は、遺伝学的に修正され、造血前駆細胞に分化し、細胞治療のために使用された。まとめると、これらの結果は、ES細胞様多能性iPS細胞が、リプログラミング因子についての発現ユニットの複数のコピーをゲノムのさまざまな位置に安定的に組み込むレトロウイルスベクターを用いて、成体体細胞から再生可能な方法で作製され得ることを示した。レトロウイルスリプログラミングベクターを用いた初代細胞の〜50%の高い最初の感染率にもかかわらず、数千個の細胞のうちの1個のみが3-4週間後にリプログラミング過程を完成させる。極めて低い頻度および長期間にわたるリプログラミング過程についての理由は、今のところ知られていない。確立されたiPS細胞株は、感染した初代細胞の平均よりも多くのレトロウイルス組み込みを含むので、リプログラミングは、ベクター組み込みによる特定の内因性遺伝子の不活性化を必要とし得ることが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
患者特異的iPS細胞株は、医学的使用のための多大な可能性を有しているが、iPS細胞を誘導するための現在の技術は、下記の重大な制限を有している:
I. リプログラミング因子を導入し、発現させるために使用されるレトロウイルスベクターは、複数コピーでゲノム中に、好ましくは近辺に、または活性な内因性遺伝子内に無作為に組み込まれ、癌遺伝子を活性化させるか、または腫瘍抑制遺伝子を不活性化させ得る。そのような遺伝学的修飾およびiPS細胞内でのレトロウイルスベクターの継続した存在は、移植におけるそれらの分化した子孫に由来する癌細胞の発生を生じ得る。
II. リプログラミング因子についての発現ベクターの配列、例えば、リプログラミング因子についてのコード配列およびそれらの制御配列の継続した存在が、適当な分化および/またはiPSに由来する細胞の機能を妨害し得て、それは、再生医療におけるそれらの使用を制限し得る。
【0006】
したがって、本発明のもととなる技術的課題は、誘導多能性幹(iPS)細胞の作製を可能にする別のおよび/または改良された手段および方法を同定することであった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この技術的課題に対する解決は、特許請求の範囲に記載された態様を提供することにより達成される。
【0008】
したがって、第1の態様において本発明は、下記:
(a) (aa) 転写時に体細胞の誘導多能性幹(iPS)細胞へのリプログラミングに関与する因子を生じるコード配列;
(ab) 当該コード配列の転写を仲介するプロモーター; および
(ac) DNA分子から(aa)および/または(ab)の除去を仲介する2個の配列モチーフ
を含む第1のDNA配列であって、1個の配列モチーフは除去される配列の5'に位置し、他の配列モチーフは除去される配列の3'に位置するDNA配列;
(b) (a)の他のDNA分子への部位特異的組み込みを仲介する配列モチーフを含む第2のDNA配列
を含むDNA分子に関する。
【0009】
「コード配列」なる用語は、転写時にコードされた産物を生じるヌクレオチド配列に関する。本発明によるコード配列の転写は、適当なプロモーターとの連結により容易に達成され得る。好ましくは、コード配列は、転写時に標的因子を生じる遺伝子のcDNA配列に対応する。
【0010】
本発明による「体細胞の誘導多能性幹細胞へのリプログラミングに関与する因子」は、体細胞の誘導多能性幹細胞へのリプログラミングの誘導に関与することができる任意の因子に関する。当該リプログラミングへの関与は、例えば、胚性幹細胞に類似するように細胞のメチル化パターンを変更すること、細胞の発現プロファイルを胚性幹細胞の発現プロファイルに遷移させること、または胚性幹細胞に類似するようにヒストン結合を調節することにより凝集した核DNAの立体構造に影響を与えることであり得て、当該変化の各々は、適当なリプログラミング因子により単独でまたは組み合わせて達成され得る。適当なリプログラミング因子を同定するための方法は、重亜硫酸塩ゲノム配列決定法、RT-PCR、リアルタイムPCR、マイクロアレイ解析、核型解析、テラトーマ形成、アルカリホスファターゼ染色を含み、そのすべては、当分野で既知であり、例えば、Okita, K., et al. (2007), Nature 448(7151): 313-7; Park, I. H., et al. (2008), Nature 451(7175): 141-6; Takahashi, K., et al. (2007), Cell 131(5): 861-72; Wernig, M., et al. (2007), Nature 448(7151): 318-24; Takahashi, K. et al. (2007), Nat Protoc 2(12): 3081-9; またはHogan, B., et al. (1994), “Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual”, Cold Spring Harbour Press.に記載されている。リプログラミング因子は、例えば、OCT4、SOX2、SOX1、SOX3、NANOG、c-MYC、n-MYC、L-MYC、KLF1、KLF2、KLF4、KLF5、LIN28などを含む特定の型の脊椎動物転写因子、またはリプログラミング能を保持したその突然変異体を含むがこれらに限定されない。当分野で既知の他の脊椎動物転写因子、例えば、ECAT1 (ES細胞関連転写産物1)またはFBOX15 (F-ボックスタンパク質15)はまた適当である。
【0011】
本明細書で使用される「リプログラミング」なる用語は、細胞の遺伝子型および表現型プロファイルを変えて、胚性幹細胞に類似する遺伝子型および表現型の細胞を生じる工程に関する。当該変化は、例えば、メチル化パターンにおける変化、発現プロファイルの遷移または凝集した核DNAの立体構造変化を含む。
【0012】
本明細書で使用される「体細胞」は、生殖系列細胞以外の任意の細胞である。好ましくは、当該細胞は、増殖性があり、正常な核型を示す細胞であり、例えば、線維芽細胞、肝細胞、マクロファージもしくは上皮細胞、例えば、胃上皮細胞である。本発明による体細胞は、好ましくは、哺乳類体細胞である。
【0013】
「誘導多能性幹(iPS)細胞」は、胚性幹細胞(ESC)に類似する特徴を示す細胞である。当該特徴は、例えば、インビトロでの制限されない自己複製能、正常核型、Oct3/4、Sox2、Nanog、アルカリホスファターゼ(ALP)ならびに幹細胞特異的抗原3および4 (SSEA3/4)のような幹細胞マーカー遺伝子を含む特徴的な遺伝子発現パターン、ならびに特定の細胞型に分化する能力を含む(Hanna, J., et al. (2007). Science 318(5858): 1920-3; Meissner, A., et al. (2007). Nat Biotechnol 25(10): 1177-81; Nakagawa, M., et al. (2007). Nat Biotechnol.; Okita, K., et al. (2007). Nature 448(7151): 313-7; Takahashi, K., et al. (2007Cell 131(5): 861-72; Wernig, M., et al. (2007). Nature 448(7151): 318-24; Yu, J., et al. (2007). Science 318(5858): 1917-20; Park, I. H., et al. (2008). Nature 451(7175): 141-6)。マウスiPS細胞の多能性は、神経、グリアおよび心臓細胞へのインビトロ分化ならびに胚盤胞注入を介した生殖系列キメラマウスの作製により試験され得る。ヒトiPS細胞株は、神経、グリアおよび心臓細胞へのインビトロ分化を介して解析され得て、それらのインビボ分化能は、免疫欠損SCIDマウスへの注入およびテラトーマとして生じた腫瘍の特徴づけにより試験され得る。
【0014】
「プロモーター」なる用語は、真核生物細胞で機能し、当該細胞内でのリプログラミングに関与する因子の発現を仲介するプロモーターに関する。真核生物プロモーターの構造および機能は、当業者に既知であり、例えば、“Molecular Cell Biology”, Lodish et al. (eds), W.H.Freeman&Co, New Yorkに記載されている。プロモーターは、RNAポリメラーゼIIもしくはIII依存性および構成的活性型もしくは誘導型、普遍的もしくは遺伝子/組織特異的であり得る。さらにプロモーターは、それらの制御能を修飾するために人工的に導入される配列、例えば、エンハンサー、サイレンサー、インスレーター、特定の転写因子結合部位または当該プロモーターに誘導性を与えるtet、Gal4、lacのような特定のオペレーター配列を含み得る。好ましいプロモーターは、真核細胞で機能する誘導性プロモーターである。
【0015】
「除去を仲介する2個の配列モチーフ」は、二本鎖DNAの酵素仲介切断を可能にする特定のヌクレオチド配列に関するものであり、したがって、DNA分子から当該ヌクレオチド配列で囲まれたDNA断片を除去し、次いで、除去されたDNA断片に属さない残りの末端と当該除去されたDNA断片に属する末端を連結する。好ましくは、配列モチーフは、(aa)および(ab)を除去し、より好ましくは、DNA分子から(a)を除去する。一般に、配列モチーフは、標的DNA分子からできるかぎり多くの本発明のDNA分子を除去することを可能にする方法で位置することが好ましい。本発明によると、配列モチーフは、囲まれた配列に直接隣接して位置するか、または当該配列の距離内で、例えば1 bpから5000 bpまでの最小距離で、5'または3'に位置し得る(互いに独立して(1個のモチーフが囲まれた配列の5'に位置し、1個のモチーフが囲まれた配列の3'に位置するという必要条件の下で))。したがって、適当な距離は、例えば、50 bp、100 bp、250 bp、500 bp、1000 bpもしくは2500 bpの範囲の任意の距離を含む。本発明によると、プロモーターのみが除去されると、(aa)のコード配列の発現は、DNA分子が体細胞のゲノムDNAの一部であるとき、例えば内因性細胞因子により不可能になることが理解される。好ましくは、そのような配列モチーフは、リコンビナーゼ認識配列である。当該認識配列は、部位特異的組み換えを仲介することが可能な酵素により認識される。組み換えは、DNA二本鎖の酵素仲介切断、および次の切断されたDNA二本鎖と同一もしくは他の同等な切断DNA鎖の連結を含む。リコンビナーゼ認識配列は、リコンビナーゼにより特異的に認識される配列モチーフを含み、さらに次の連結のためにDNA分子の末端と一致する配列モチーフを含み、ここで、認識および一致モチーフは、重複するか、もしくは同一であり得る。したがって、組み換えは、dsDNAの切断および連結によりDNAを除去もしくは導入するために使用され得る。本発明によると、例えば標的DNA分子に組み込まれたとき、DNA断片の除去のみを可能にするように(例えば、逆位反復ではなく直接反復としてloxP配列を用いることにより)、当該配列モチーフに隣接して配列される組み換え認識配列が好ましい。適当な配列モチーフは、当業者に既知であり、ファージリコンビナーゼ認識モチーフ、例えば、組み換え能力を保持した野生型loxP配列もしくは突然変異型loxP配列を含むがこれらに限定されない。さらなる例は、FRT配列、rox配列(Sauer, B. and J. McDermott (2004), Nucleic Acids Res 32(20): 6086-95)、TP901もしくはphiBT1インテグラーゼにより認識されるattBもしくはattP配列、またはそれらの組み換え能力を保持したその突然変異型配列を含む。
【0016】
本明細書で使用される「部位特異的組み込みを仲介する配列モチーフ」は、DNA分子の他のDNA分子、例えば、ゲノムDNAへの特定の遺伝子座における組み込みを可能にする特定のヌクレオチド配列に関する。当該組み込みは、例えばリコンビナーゼもしくはインテグラーゼによる、例えば相同組み換えもしくは酵素仲介組み換えにより仲介され得る。好ましくは、部位特異的組み込みは、一方向に作用するインテグラーゼの作用により達成される。したがって、当該インテグラーゼは、双方向性リコンビナーゼとは対照的に組み込まれた配列の除去を仲介することができないので、それらは、持続した組み込みの可能性を増大させる。したがって、インテグラーゼにより認識可能な配列モチーフが好ましい。例えば下記したとおりの偽認識部位で、DNA分子の標的DNA分子への一方向組み込みを可能にするファージインテグラーゼが好ましい。
【0017】
さらに、DNA分子は、DNA配列のいずれかに例えば抗生物質耐性を与える選択マーカーまたは蛍光タンパク質のようなレポーター遺伝子または当分野で既知の他のレポーター遺伝子をコードするさらなる配列を含み得る。
【0018】
上記説明は、本明細書の他の態様において準用する。
【0019】
誘導多能性幹細胞により提供される治療的および研究適用の可能性にもかかわらず、今日まで、体細胞がそれらの治療的価値を十分に引き出すためのリプログラミング手順を最適化する努力は成功していない。
【0020】
本願発明者らは、リプログラミング因子発現ベクターの標的化ゲノムもしくは染色体外導入により成体体細胞を多能性幹細胞にリプログラミングし、部位特異的DNAリコンビナーゼによる確立されたiPS細胞からの外因性遺伝子発現エレメントの除去を可能にする新規方法を開発した。したがって、無作為組み込みウイルスベクターの使用とは異なる体細胞についてのリプログラミング系であって、内因性遺伝子の完全性の攪乱を生じずに、外因性遺伝子発現エレメントが存在しない体細胞起源の多能性幹細胞株の確立を可能にするリプログラミング系が本明細書に記載されている。そのような別のリプログラミング系は、特に、医療目的のために、iPS細胞の特殊化した細胞型への分化を必要とするすべての適用に影響を与える。
【0021】
本発明者等は、当分野において現在使用されている、好ましくはOCT4、SOX2、c-MYCおよびKLF4タンパク質についての誘導可能発現ベクターの体細胞への導入によりiPS細胞を作製するための既知の方法であって、部位特異的DNAリコンビナーゼの作用によるか、またはヌクレアーゼ活性化標的化トランスジーン挿入により、内因性遺伝子の完全性を妨害することなく、下記したとおり染色体外で複製されるか、または選択された染色体位置に組み込まれる方法の課題に取り組み成功している。体細胞のiPS細胞へのリプログラミング時に、ベクターは、もはやそれらの維持のために必要とされず、部位特異的DNA組み換えにより除去される。本発明は、iPS細胞作製についての以前方法を超えた下記の利点を提供する: ベクター分子の一部としてのDNA分子が、内因性遺伝子の完全性を妨害することなく特定の選択されたゲノム位置に組み込まれ得るか、またはベクターがゲノムに組み込まれるとはなく; それは、すべての必要とされる発現要素を含む単一のベクターコピーとして機能し、リプログラミング因子の発現レベルが適合するように制御され得て; そしてさらに、確立されたiPS細胞株から除去される。
【0022】
結論としては、体細胞起源の患者特異的多能性幹細胞株を誘導することが可能な医学および医療研究の重要な局面が成功しているということである。本明細書で示される方法は、内因性タンパク質コード遺伝子における修飾を含まず、いったん確立されると遺伝子発現のために使用される外因性遺伝学的エレメントが存在しない多能性幹細胞株を誘導することを可能にする。
【0023】
本明細書に示されたリプログラミング手順の開発は、無作為に組み込まれる例えばレトロウイルスベクターの使用を避けて、最終的に無ベクターiPS細胞株を確立し、その結果、ヒトiPS細胞株の医療および研究における可能性を十分に引き出し得る。
【0024】
さらなる態様において、本発明は、下記:
(a) (aa) 転写時に体細胞の誘導多能性幹(iPS)細胞へのリプログラミングに関与する因子を生じるコード配列; および
(ab) 当該コード配列の転写を仲介するプロモーター
を含む第1のDNA配列;
(b) (ba) DNA分子の染色体外自己複製を仲介する配列モチーフ; および
(bb) (b)の第2のDNA配列から少なくとも(ba)の当該配列モチーフの除去を仲介する2個の配列モチーフ
を含む第2のDNA配列であって、1個の配列モチーフは(ba)の5'に位置し、他の配列モチーフは(ba)の3'に位置するDNA配列
を含むDNA分子に関する。
【0025】
本明細書で使用される「染色体外自己複製」なる用語は、体細胞の染色体外に存在するDNA分子が自己複製する能力に関する。例えば、真核生物細胞に導入されたベクターは、染色体DNAとは対照的に細胞分裂の前に複製しない。したがって、細胞分裂が生じると、生じた細胞の1個のみがなおベクターを有する(すなわちベクターは、複数の細胞分裂の間にしだいに失われていく)。しかしながら、例えば染色体DNAの複製を誘導するのと同一の因子により誘導される、自己複製を可能にするように組み込まれた配列モチーフを有する場合には、ベクターはまた複製され、細胞分裂後に生じた細胞の両方がベクターのコピーを有し得る。
【0026】
本発明による(ba)の配列モチーフは、真核生物細胞においてベクターの染色体外自己複製を可能にする任意の配列モチーフであり得る。好ましくは、ウイルスの潜伏期の間にエピソームとしての増殖を可能にし、その結果、長期にわたるエピソームの持続性を可能にするウイルス配列モチーフである。そのような配列モチーフは、エプスタイン・バー・ウイルス(EBV)に由来するEBNA1およびoriPエレメント(Bornkamm, G. W., (2005). Nucleic Acids Res 33(16): e137; Satoh, E., et al. (1997), Biochem Biophys Res Commun 238(3): 795-9; Sclimenti, C. R., et al. (1998), Curr Opin Biotechnol 9(5): 476-9)、ウシパピローマウイルス(BPV)ゲノムのE1およびE2タンパク質ならびにMOおよびMMEエレメント(Piirsoo, M, et al. (1996), EMBO J 15(1): 1-11; Ohe, Y. et al. (1995), Hum Gene Ther 6(3): 325-33)、ポリオーマウイルスのラージT抗原および複製開始点(Camenisch, G. et al. (1996), Nucleic Acids Res 24(19): 3707-13)、またはエピソーム増殖の能力を保持したその突然変異体を含むがこれらに限定されない。
【0027】
本発明によりさらに、2個またはそれ以上のDNA分子を含む本発明のDNA分子の組み合わせ物であって、各々のDNA分子が少なくとも(aa)のコード配列に関して異なる組み合わせ物が提供される。(aa)のコード配列は、本明細書において下記する1個、2個、3個または4個のコード配列を含み得る。さらに、例えばDNA分子の部位特異的組み込みを仲介する配列モチーフの差異が考えられる。本発明による本明細書に記載された(また、下記されている)組み合わせ物は、キットに包含され得る。キットの種々の構成要素は、1個またはそれ以上の容器、例えば、1個またはそれ以上のバイアルに包装され得る。DNA分子を含むバイアルは、保存剤または保存用緩衝液を含み得て、例えば-20℃、-80℃もしくは-196℃を含む当分野において既知の温度での凍結を可能にする。容器はまた、室温でのDNA分子の乾燥保存のために最適化され得る。有利には、キットはさらに、当業者が例えば本発明のさまざまな態様を簡便に行うことを可能にする構成要素の使用のための指示書を含む。
【0028】
本発明者等は、iPS細胞を作製するときに本明細書に最初に記載されたDNA分子の利点を、部位特異的なDNA配列の組み込みをするために染色体DNAの操作を有さないというさらなる利点と組み合わせたさらなるDNA分子(ベクターの一部である場合)を設計することを可能にした。対照的に、ベクターの一部としてのDNA分子は、染色体外に安定に維持され得るが、一方で、上記した非複製ベクターは、染色体への組み込みを必要とする。染色体外自己複製を仲介する(ba)の配列モチーフを取り囲む(bb)の配列モチーフは、リプログラミングが生じた後の除去を可能にし、その結果、ベクターはそれ自身で複製することができず、次第に失われていく。その結果、外因性遺伝学的物質を含まないiPS細胞株が確立され得る。本発明者等は、例えば、実施例2においてこの能力を示すがこれらに限定されない。
【0029】
本発明のDNA分子の好ましい態様において、(aa)の当該コード配列は、Oct、Sox、Klf、Myc、NanogおよびLinコード配列またはその組み合わせからなる群から選択される。
【0030】
例えばマウスOct3/4、Sox2、Nanog、c-Myc、Klf4およびLin28のコード配列は、それぞれ配列番号1、5、9、13、17および21で見出され得る。マウスOCT3/4、SOX2、NANOG、c-MYC、KLF4およびLIN28のタンパク質配列は、それぞれ配列番号2、6、10、14、18および22で見出され得る。ヒトOct3/4、Sox2、Nanog、c-Myc、Klf4およびLin28のコード配列は、それぞれ配列番号3、7、11、15、19および23で見出され得る。ヒトOCT3/4、SOX2、NANOG、c-MYC、KLF4およびLIN28のタンパク質配列は、それぞれ配列番号4、8、12、16、20および24で見出され得る。当業者は、当分野で既知の方法を用いて、任意の標的種についてリプログラミング因子のコード配列を決定し得る。例えば、当業者は、データベース、例えばNational Center for Biotechnology Information (NCBI)により管理されており、World Wide Web(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)によりアクセス可能なデータベースから配列および機能に関連するデータを検索することができる。さらに、比較ゲノミクスのためのデータベースは、http://www.dcode.org/でNCBIにより管理されているデータベース、http://supfam.org/SUPERFAMILY/でアクセス可能な完全に塩基配列が決定されたすべての生物のためのタンパク質アノテーションについてのデータベース、http://www.cbs.dtu.dk/services/GenomeAtlas/でアクセス可能なさまざまな種についてのゲノム情報を含むデータベース、またはhttp://phigs.jgi-psf.org/でアクセス可能な遺伝子クラスターを含むデータベースを含むがこれらに限定されない。当該データベースにより、当業者は、例えば、相同な遺伝子を同定するために、マウスおよびヒトにおいて既知の配列から出発して種間配列アライメントを行うことにより、他の種でリプログラミング因子についてのコード配列を同定することができる。
【0031】
いくつかの最近出版された科学文献(Hanna, J., et al. (2007). Science 318(5858): 1920-3; Meissner, A., et al. (2007). Nat Biotechnol 25(10): 1177-81; Nakagawa, M., et al. (2007). Nat Biotechnol.; Okita, K., et al. (2007), Nature 448(7151): 313-7; Takahashi, K., et al. (2007), Cell 131(5): 861-72; Wernig, M., et al. (2007). Nature 448(7151): 318-24; Yu, J., et al. (2007). Science 318(5858): 1917-20; Park, I. H., et al. (2008). Nature 451(7175): 141-6)は、Oct、Sox、Klf、Myc、NanogおよびLinファミリーに属する転写因子が、特に、マウスおよびヒト体細胞におけるリプログラミングを誘導することができることを示している。それとは独立して、研究グループは、当該因子の有効な組み合わせを同定すること、および体細胞内での当該因子の共同発現により引き起こされるリプログラミングイベントへの単一因子の関与を明らかにすることに取り組んでいる。
【0032】
したがって、本発明のDNA分子の他の好ましい態様において、(aa)の当該コード配列は、Oct3/4、Sox1、Sox2、Sox3、Sox15、Sox18、Klf1、Klf2、Klf4、Klf5、n-Myc、l-Myc、c-Myc、NanogおよびLin28コード配列またはその組み合わせからなる群から選択される。
【0033】
本発明のDNA分子のさらなる好ましい態様において、(aa)の当該コード配列は、Oct3/4、SoxおよびKlfコード配列の組み合わせから選択される3個のコード配列を含む。
【0034】
DNA分子のより好ましい態様において、(aa)の当該コード配列は、Oct3/4、Sox2およびKlf4のコード配列を含む。
【0035】
DNA分子の好ましい態様において、(aa)の当該コード配列は、Oct3/4、Sox、KlfおよびMycコード配列ならびにOct3/4、Sox、NanogおよびLin28コード配列の組み合わせから選択される4個のコード配列を含む。
【0036】
本発明のDNA分子のより好ましい態様において、(aa)の当該コード配列は、Oct3/4、Sox2、Klf4およびc-Myc; ならびにOct3/4、Sox2、NanogおよびLin28の組み合わせから選択される4個のコード配列を含む。
【0037】
好ましい態様において、本発明のDNA分子のプロモーターは、誘導性プロモーターである。
【0038】
本明細書で使用される「誘導性プロモーター」は、生物的もしくは非生物的因子の存在または非存在により誘導されるとその活性を発揮するプロモーターに関する。生物的因子により制御されるプロモーターは、化学的制御因子と呼ばれ得て、例えば、アルコール制御プロモーター、ステロイド制御プロモーター、金属制御プロモーター、テトラサイクリン制御プロモーターを含む。非生物的因子により制御されるプロモーターは、温度制御プロモーター、光制御プロモーターまたは特定の気体もしくは特定の気体の濃度変化(例えば、酸素の減少)により制御されるプロモーターを含む。当該プロモーターは、正のもしくは負の制御プロモーターであり得て、すなわち、それぞれ生物的もしくは非生物的因子の存在により活性化される(正の作用様式)か、または当該因子により不活性化され(負の作用様式)得る。有利には、当該因子は、i) 生物または生物の環境において天然で存在せず、ii) リプログラミング因子の発現にのみ影響を与えて、そしてiii) 容易に適用され、および/または容易に除去され得る。
【0039】
本発明のDNA分子は、好ましくは、誘導性プロモーターを含む。当該誘導性プロモーターは、それがリプログラミング因子の時間的および量的に制御された発現様式を可能にするという意味において有利である。適当なプロモーター系は、アセトアルデヒド誘導性遺伝子発現系(Werner, N. S., et al. (2007), Biotechnol Bioeng 96(6): 1155-66)、ニコチン誘導性遺伝子発現系(Malphettes, L., et al. (2006), Metab Eng 8(6): 543-53)、ドキシサイクリン誘導性遺伝子発現系(Baron, U. and H. Bujard (2000), Methods Enzymol 327: 401-21; Freundlieb, S., et al. (1999). J Gene Med 1(1): 4-12; Gossen, M. et al. (1995), Science 268(5218): 1766-9; Urlinger, S., et al. (2000), Proc Natl Acad Sci USA 97(14): 7963-8)またはマクロライド誘導性遺伝子発現系(Weber, W. et al. (2004), Methods Mol Biol 267: 451-66)を含むがこれらに限定されない。
【0040】
本発明のDNA分子のより好ましい態様において、(ab)のプロモーターは、ドキシサイクリンにより誘導される。
【0041】
いくつかのドキシサイクリン誘導性プロモーター系が当分野で記載されており、当業者に既知である(Gossen, M. and H. Bujard (1992), Proc Natl Acad Sci USA 89(12): 5547-51; Deuschle, U. et al. (1995), Mol Cell Biol 15(4): 1907-14)。一般に、ドキシサイクリン制御プロモーターは、ドキシサイクリンに曝露されると、活性化されるか、もしくは不活性化され得る。本発明による誘導性プロモーター系は、プロモーターにより制御されるコード配列の発現を生じるtetオペレーター配列を含むプロモーター領域へのtet-リプレッサータンパク質の結合に基づき得る(Baron, U. and H. Bujard (2000), Methods Enzymol 327: 401-21; Freundlieb, S., et al. (1999), J Gene Med 1(1): 4-12; Gossen, M. and H. Bujard (1992), Proc Natl Acad Sci U S A 89(12): 5547-51; Gossen, M., et al. (1995), Science 268(5218): 1766-9; Kistner, A., et al. (1996), Proc Natl Acad Sci U S A 93(20): 10933-8; Urlinger, S., et al. (2000), Proc Natl Acad Sci U S A 97(14): 7963-8)。例えば、VP16アクチベータータンパク質と突然変異体「リバース」tetリプレッサーの融合タンパク質(rtTA2(S)-M2) (Urlinger, S., et al., Proc Natl Acad Sci USA, 2000. 97(14): p. 7963-8)は、ドキシサイクリンの存在下で双方向誘導性プロモーターからの転写を活性化するために使用され得る。転写抑制融合タンパク質と野生型リプレッサー(tTS) (Freundlieb et al., J Gene Med, 1999. 1(1): p. 4-12)の共発現は、ドキシサイクリンの非存在下でバックグラウンドプロモーター活性を積極的に抑制するために使用され得て、ドキシサイクリンの存在下では、tTSはプロモーターから解離する。インデューサーの存在下で制御されるプロモーターに結合する転写アクチベーターおよびその非存在下でのみ結合するリプレッサー融合タンパク質の組み合わせ使用により、プロモーター活性は、広範な活性にわたって制御され得る。
【0042】
本発明のさらなる好ましい態様において、(ab)のプロモーターは、双方向性最小プロモーターである。
【0043】
双方向性プロモーターは、DNA鎖の両方向に転写を開始する人工的な遺伝学的要素である。例えば、通常用いられる双方向性プロモーター(Baron, U., et al. (1995), Nucleic Acids Res 23(17): 3605-6)は、野生型もしくは突然変異型リプレッサーと融合した転写アクチベーターもしくはリプレッサータンパク質についての結合部位として機能する7個のオペレーター配列(tetO7)からなる特定の部分を含む。tetO7断片は、サイトメガロウイルスIE遺伝子に由来する真核細胞最小プロモーター断片と両端で隣接し、それは、それ自体では極めて低いレベルの転写活性のみを示すが、tetO7エレメントにアクチベータータンパク質が結合すると、強力なプロモーターとして機能する。
【0044】
DNA分子の好ましい態様において、(b)の第2DNA配列の配列モチーフは、attB、attPおよびITR (末端逆位配列)からなる群から選択され、ITRがアデノ随伴ウイルス(AAV)インテグラーゼにより認識される。
【0045】
本発明による「attB、attP」は、バクテリオファージリコンビナーゼにより認識される配列モチーフであり、単一方向の組み換えを仲介する。ファージリコンビナーゼは、天然において、attP配列モチーフ(ファージ接着配列)を有するファージDNAおよびattB配列モチーフ(細菌接着配列)を有する細菌DNA間の組み換えイベントを仲介し、当該ファージDNAを当該細菌DNAに組み込む。当該組み込み機構は、広く使用される遺伝学的ツールに発展し、例えば、Groth, A.C. and M.P. Calos, J Mol Biol, 2004, 335(3): p. 667-78に記載されている。要約すると、リコンビナーゼは、i) リコンビナーゼ認識部位で2個のDNA分子を切断し(この場合には、attBおよびattP配列モチーフで)、次いで、ii) 生じた末端を連結し、単一のDNA分子を形成する(ここで、各々のリコンビナーゼは、それに特異的な配列モチーフであるattBおよびattPのみを認識する)ことにより、2個のDNA分子を再結合する。連結時に、attBおよびattP配列モチーフは、部分的にattBおよびattP配列を含む雑種モチーフに変換され、attLおよびattRと呼ばれる(Landy, (1989), Annu Rev Biochem 58;913-949)。本発明によると、attBもしくはattP配列モチーフを認識するリコンビナーゼは、好ましくは、異種接着部位間の単一方向組み込みを仲介することができる。attBおよびattP配列は、上記の互いの組み換えイベントを仲介する能力を保持する野生型もしくは突然変異型のattBもしくはattP配列を含む。
【0046】
本発明によると、アデノ随伴ウイルス(AAV)インテグラーゼにより認識されるITR (末端逆位配列)は、アデノ随伴ウイルスインテグラーゼ、例えば、REP78/68もしくは認識配列を組み換える能力を保持したその突然変異体の作用により、本発明のDNA分子の他のDNA分子への部位特異的組み込みを仲介する配列モチーフである。当該ウイルスインテグラーゼは、当該インテグラーゼのための結合部位を有する遺伝子座において、本発明のDNA分子を他のDNA分子に組み込むことができる。例えば、ヒトゲノムにおける天然で生じる結合部位は、第19染色体上のいわゆるAAVS1遺伝子座である。当該インテグラーゼの作用方法(すなわち、切断および連結)は、上記のファージリコンビナーゼについて記載されたものと同様であり、例えばヒトゲノムにおけるAAVS1遺伝子座内に部位特異的組み込みを生じる。
【0047】
本発明のDNA分子は、本発明のDNA分子の接着モチーフまたはITRと組み換えることができる接着モチーフ(att)またはAAVS1配列を標的DNA分子に導入することによるか、または標的DNA分子内に天然で生じる接着モチーフ、例えば、接着モチーフの場合において、通常、「偽接着/認識部位」と呼ばれるモチーフを利用することにより、他のDNA分子に部位特異的に組み込まれ得る。接着モチーフまたはITRの標的DNA分子への導入は、当業者に既知の方法(Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory (1989) N.Y.)により、例えば、相同組み換えまたは酵素仲介組み換え、例えば、リコンビナーゼもしくは制限酵素により仲介される二本鎖DNAの切断およびそれに続く連結により達成され得る。
【0048】
好ましくは、本発明のDNA分子は、偽認識/接着部位で標的DNAに部位特異的に導入される。本発明による偽接着部位は、attモチーフと部分的に同一であり、無作為な組み込みよりも高い頻度で同じ配列への部位特異的組み込みを仲介する配列モチーフである。好ましくは、当該組み込みの頻度は、同じ配列への無作為な組み込みよりも、少なくとも2倍、少なくとも10倍、または少なくとも100倍、より好ましくは少なくとも1000倍および最も好ましくは少なくとも10000倍高い。いくつかの偽接着部位は、さまざまなファージリコンビナーゼについて、例えばヒトゲノムで同定および特徴づけられており、例えば、phiC31インテグラーゼ(Calos, M. P. (2006), Curr Gene Ther 6(6): 633-45; Chalberg, T. W., et al. (2006), J Mol Biol 357(1): 28-48; Thyagarajan, B., et al. (2001), Mol Cell Biol 21(12): 3926-34)、A118インテグラーゼ(Keravala, A., et al. (2006), Mol Genet Genomics 276(2): 135-46); phiBT1インテグラーゼ(Chen, L. et al. (2008). Hum Gene Ther 19(2): 143-52)、CreリコンビナーゼまたはFLPリコンビナーゼ(Branda, C. S., et al. (2004). Dev Cell 6(1): 7-28)である。当業者は、当該リコンビナーゼの作用様式および本発明のDNA分子の標的DNA分子への部位特異的組み込みを仲介するために使用され得るのに適当なattBまたはattPモチーフを十分に理解している。
【0049】
好ましくは、本発明のDNA分子を標的DNA分子内に部位特異的に組み込むためにアデノ随伴ウイルスインテグラーゼ法を用いると、天然で生じる組み換え部位に組み込まれる。例えば、ヒトゲノムにおいて、アデノ随伴ウイルスは、進化の間に第19染色体上の4kbの領域(AAVS1遺伝子座と呼ばれる)に組み込まれる特有の能力を開発した(Cheung et al. (1980), J Virol, 33:739-748)。当該部位での組み込みは、組み込みが特定の部位ではなく、むしろ当該染色体上の約4kbにわたる配列において生じるので、古典的な意味での部位特異的組み込みイベントではない。そのメカニズムはまだ知られていないが、それは、アデノ随伴ウイルスインテグラーゼならびにインテグラーゼ結合部位およびアデノ随伴ウイルスゲノムの145ベース末端逆位配列(ITR)内の末端分離部位(trs)に類似するインテグラーゼのためのニック部位を含むAAVS1遺伝子座の33 bpの領域を必要とする(McAlister, VJ., and Owens, RA. (2007), J Virol, 81(18):9718-9726)。有利には、当該遺伝子座における組み込みは、標的細胞の転写活性に影響を与えない。さらに、ヒト胚性幹細胞における当該遺伝子座での組み換えは、当該領域がこの部位を抑制から保護する天然のインスレーターを有しているように思われ、さらにITRがまたそれ自身単離された活性を示すので、トランスジーン抑制を生じないことが示されている(Smith et al. (2008), Stem Cells, 26:496-504)。したがって、体細胞のリプログラミング工程においてこの戦略を用いると、トランスジーン抑制の影響を受けない、部位特異的に組み込まれたリプログラミング因子の効率的な発現を生じる。あるいは、例えば他の種において、アデノ随伴ウイルスインテグラーゼ結合部位は、当業者に既知の方法により人工的に導入され得る(Bakowska et al. (2003), Gene Ther.,10(19):1691-702)。
【0050】
本発明のDNA分子の他の好ましい態様において、(b)の第2DNA配列の配列モチーフは、(a)の第1DNA配列に隣接する2個の配列を含み、それが組み込み部位における配列と本質的に同一な組み合わせ配列としてである。
【0051】
本明細書で使用される「本質的に同一」なる用語は、組み込み部位における配列と少なくとも90%、より好ましくは、少なくとも95%、例えば、少なくとも98%もしくは99%、および最も好ましくは、少なくとも100%(またはその間の任意の数)同一である組み合わされた2個の配列を意味する。配列同一性を決定する方法は、当業者に既知である。例えば、当分野で既知の適当なコンピュータープログラムを用いて、2個のヌクレオチドまたはタンパク質配列を電子的に並べることができる。そのようなプログラムは、BLAST (Altschul et al. (1990), J. Mol. Biol. 215, 403-410)、その変形、例えば、WU-BLAST (Altschul & Gish (1996), Methods Enzymol. 266, 460-480)、FASTA (Pearson & Lipman (1988), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85, 2444-2448)またはSmith-Watermanアルゴリズム(SSEARCH, Smith & Waterman (1981), J. Mol. Biol. 147, 195-197)の実装を含み得る。これらのプログラムは、対合する配列アライメントを提供することに加えて、また配列同一性レベル(通常は、%同一性で)および偶然にアライメントが生じる可能性(P値)を報告する。CLUSTALW (Higgins et al. (1994), Nucleic Acids Res. 22, 4673-4680)のようなプログラムは、2個より多くの配列を並べるために使用され得る。
【0052】
本発明によると、部位特異的組み込みを仲介する(b)の第2DNA配列の配列モチーフは、他のDNA分子に組み込まれるべきDNA配列に隣接する2個の特定の配列を含み得る。当該配列の配置は、隣接配列モチーフを標的化組み換え部位における配列と本質的に同一な組み合わせ配列として設計した場合に、相同組み換えにより隣接したDNA配列を部位特異的に導入するために使用され得る。相同組み換えは、当業者に既知の方法であり、同様に、当業者は、DNA分子を他のDNA分子に組み込むために相同組み換えを利用する方法を理解する(Lodish et al. (2000), Molecular Cell Biology, 4th ed., W. H. Freeman and Company.)。要約すると、相同組み換えは、本質的に同一な配列の配置、並んだ当該鎖間の交差ならびに次のDNA鎖の切断および連結を含み、その結果、配列の交換を生じる。例えば、DNA分子配列は、Moehle et al. (2007), PNAS, 104, 9:3055-3060に記載されたとおりに設計されたジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZNF)を用いた方法により部位特異的に組み込まれ得る。要約すると、一般に低頻度で生じる天然の相同組み換えをDNA二本鎖開裂により増加させることができ、それは、改変されたジンクフィンガーヌクレアーゼにより達成される(High, K. (2005), Nature, 435:577-579)。当該ヌクレアーゼは、DNA鎖上の規定の配列を認識し、結合するように設計されたジンクフィンガーDNA認識モチーフと融合したヌクレアーゼを含む。認識および結合すると、ヌクレアーゼは、DNA二本鎖を切断する。次いで、切断された鎖は、二本鎖開裂部位と配列同一性を示すDNA分子を鋳型として用いた二本鎖開裂修復の合成依存性鎖アニーリング(SDSA)モデル(Nassif et al. (1994), Mol Cell Biol, 14:1613-1625; Symington, LS. (2002), Microbiol Mol Biol Rev, 66:630-670)に相当する相同修復(homology-directed repair) (HDR)により修復される。したがって、ZNFにより切断される遺伝子座が、標的部位相同性の適当な領域に隣接した新規の遺伝学的情報を含む鋳型で提供される場合には、細胞内の規定の内因性遺伝子座への効率的なサイズ特異的遺伝子付加が生じ得ることが示される。他の組み換え法とは対照的に当該ジンクフィンガーヌクレアーゼ仲介遺伝子挿入は、選択なしの相同組み換えによる無作為な組み換えよりも高い頻度で生じ得て、たいていは上記の二本鎖修復機構により遺伝学的伝達の天然の過程を誘導する。したがって、本発明のDNA分子の(a)の第1DNA配列に隣接する2個の配列モチーフは、二本鎖切断部位と本質的に同一な出発鋳型として使用され得て、修復過程の結果として(a)の第1DNA配列は、標的DNA鎖に組み込まれる。しかしながら、この組み込み法は、(a)の第1DNA分子を物理的に組み込むのではなく、後者が代わりにマトリックスとして使用される。したがって、(a)のDNA配列をマトリックスDNAと共に標的DNA配列に付加し、すなわち、(a)のDNA配列は、鋳型DNAの一部として物理的に残る(図4参照)。
【0053】
本発明のさらに好ましい態様において、(aa)および/または(ab)の除去を可能にするDNA分子の配列モチーフまたは(ba)の配列モチーフは、lox配列である。
【0054】
本明細書で使用される「lox配列」なる用語は、Creリコンビナーゼ(バクテリオファージP1に由来するI型トポイソメラーゼ活性を有するチロシンリコンビナーゼ)により特異的に認識される配列モチーフに関する。本明細書の「lox配列」は、34 bpからなる野生型loxP認識配列を包含し、ここで、2個の13 bpパリンドローム(逆位反復)は8 bpのコア領域に隣接し、野生型loxPリコンビナーゼ認識配列は、配列番号25の配列を有する。さらに、突然変異型loxP配列が包含され、突然変異型loxP配列は、配列番号25の野生型loxP配列と比較して8個以下のヌクレオチド置換を有する配列を含む。1個、2個、3個、4個、5個、6個または7個のヌクレオチド置換を有する突然変異型loxP配列が意図される。上記した内容を本明細書の他の態様において準用する。
【0055】
上記で概略したとおり、lox配列は、Creリコンビナーゼにより特異的に認識され、組み換えイベント(当該lox配列の構築に依存して、組み込み(付加)または除去(欠失))を仲介する。好ましくは、(aa)および/または(ab)を取り囲むlox配列は、標的DNA分子に組み込まれるとき、逆位反復ではなく直接反復として配列される。同様に好ましくは、(ba)を取り囲むlox配列は、逆位反復ではなく直接反復として配列される。Cre/lox部位特異的組み換え系によりlox配列で囲まれた配列を除去する方法は、当業者に既知であり、例えば、Branda, C. S. and S. M. Dymecki (2004), Dev Cell 6(1): 7-28; またはKwan, K. M. (2002), Genesis 32(2): 49-62に記載されている。
【0056】
本発明のDNA分子の好ましい態様において、本発明の(ba)の配列モチーフは、EBNA1およびoriPエレメントを含む。
【0057】
本明細書で使用される「EBNA1」なる用語は、エプスタイン・バー・ウイルス(EBV)核抗原1に関する。ウイルスEBNA1タンパク質は、ウイルスのDNA複製開始点(oriP)における特定の部位に結合し、DNA複製の開始を活性化し、他のウイルス潜在タンパク質の発現を高めて、細胞分裂の間にウイルスエピソームを分配する。EBNA1のDNA結合ドメインは、3つすべてのの機能のために必要とされ、アミノ酸325から376の間のGly-Arg-リッチ配列は、転写活性化および分配機能のために必要とされる。
【0058】
本明細書で使用される「oriP」なる用語は、エプスタイン・バー・ウイルスの潜在複製開始点(oriP)配列に関する。oriPは、EBVコードタンパク質EBNA1を含むエプスタイン・バー・ウイルス(EBV)染色体の1.7-kb領域であり、それは、ヒト細胞におけるプラスミドの複製および安定な維持を支持する。oriPに依存するプラスミドは、細胞因子により、細胞周期あたり1回複製する。oriPの自己複製子は、DSと呼ばれる約120-bpの領域であり、それは、狭い間隔で並んだ2組のEBNA1結合部位のいずれかに依存する。EBNA1は、それが結合すると、曲げの中心が結合の中心と一致するように、DNAをかなり屈曲させる。
【0059】
EBNA1/oriP系は、当業者に既知であり、例えば、Bornkamm, G. W., (2005), Nucleic Acids Res 33(16): e137; Satoh, E., et al. (1997), Biochem Biophys Res Commun 238(3): 795-9; またはSclimenti, C. R., et al. (1998), Curr Opin Biotechnol 9(5): 476-9に記載されている。当該EBNA1/oriPエレメントの本発明のDNA分子(ベクターの一部である場合)への組み込みは、当該ベクターが複数コピーエピソームとして標的細胞の核に留まることを可能にするという利点を有する。さらに、リプログラミング因子の発現は、染色体組み込みから生じる制約に邪魔されることがないか、またはそれを受けないことが可能である。
【0060】
本発明のDNA分子のより好ましい態様において、EBNA1は、lox配列の第1型に隣接しており、oriPエレメントは、lox配列の第2型に隣接しており、ここで、
(a) lox配列の第1型は、Cre-リコンビナーゼにより認識され組み換えられるが、lox配列の第2型で組み換えられず; そして
(b) lox配列の第2型は、(a)のリコンビナーゼにより認識され組み換えられるが、lox配列の第1型で組み換えられない。
【0061】
本発明によると、lox配列の第1型およびlox配列の第2型は、互いの組み換えのために適合しておらず、もっぱら同一の配列を有するlox配列で、Creリコンビナーゼの活性により組み換えられ得る。現在のところ、いくつかのCreリコンビナーゼが知られており、野生型バクテリオファージP1 Creリコンビナーゼから突然変異誘発により誘導され、例えば、哺乳類細胞における核局在もしくは翻訳効率のような特徴を変えることができる。当業者は、本発明により使用され得る単一のCreリコンビナーゼにより認識されるべきlox配列の適当な組み合わせを同定することができる。
【0062】
本発明によると、EBNA1およびoriPは、本発明のDNA分子から別々に除去され、その後、Creリコンビナーゼの作用により、残りのDNA分子、EBNA1エレメントおよびoriPエレメントが連結される。生じた環状化DNA分子は複数回の細胞分裂の間にしだいに失われていき、その結果、本発明のDNA分子またはベクターが存在しない細胞が生じる。
【0063】
他の態様において、本発明は、本発明による2個またはそれ以上のDNA分子の組み合わせ物であって、(aa)のコード配列が当該2個またはそれ以上のDNA分子の各々について異なっている組み合わせ物に関する。
【0064】
好ましくは、本発明の方法による組み合わせ物の2個またはそれ以上のDNA分子は、同一の構造を有する。すなわち、2個またはそれ以上のDNA分子の各々は、
(a) (aa) 転写時に体細胞の誘導多能性幹(iPS)細胞へのリプログラミングに関与する因子を生じるコード配列;
(ab) 当該コード配列の転写を仲介するプロモーター; および
(ac) DNA分子から(aa)および/または(ab)の除去を仲介する2個の配列モチーフ
を含む第1のDNA配列であって、1個の配列モチーフは除去される配列の5'に位置し、他の配列モチーフは除去される配列の3'に位置するDNA配列:
(b) (a)の他のDNA分子への部位特異的組み込みを仲介する配列モチーフを含む第2のDNA配列を含むDNA分子
を含む構造を示すか、あるいは
(a) (aa) 転写時に体細胞の誘導多能性幹細胞へのリプログラミングに関与する因子を生じるコード配列; および
(ab) 当該コード配列の転写を仲介するプロモーター
を含む第1のDNA配列;
(b) (ba) DNA分子の染色体外自己複製を仲介する配列モチーフ; および
(bb) DNA分子から少なくとも(ba)の当該配列モチーフの除去を仲介する2個の配列モチーフ
を含む第2のDNA配列であって、上記したとおり1個の配列モチーフは(ba)の5'に位置し、他の配列モチーフは(ba)の3'に位置するDNA配列
を含むDNA分子を含む構造を示す。好ましくは、(aa)のコード配列は、標的細胞の多能性幹細胞へのリプログラミングに関与する因子をコードする1個のコード配列のみを含む。DNA分子の部位特異的組み込みが望まれる場合には、(b)の第2DNA配列により包含される部位特異的組み込みを仲介する配列は、好ましくは、組み合わせの各々のDNA分子について異なっており、その結果、各々のDNA分子の異なる組み込みを可能にする。本発明による組み合わせ物は、2個より多くのDNA分子を含み得て、例えば少なくとも3個であり、同様に少なくとも4個のDNA分子が好ましい。また、少なくとも(各々の値について)5個、6個、7個、8個、9個または少なくとも10個のDNA分子を含む組み合わせ物が考えられる。好ましくは、組み合わせ物が3個のDNA分子を含む場合において、(aa)の3個のコード配列は、Oct3/4、SoxおよびKlfコード配列から選択され、その結果、組み合わせ物は、Oct3/4のコード配列を含むDNA分子、Soxコード配列を含む他のDNA分子およびKlfコード配列を含む第3のDNA分子を含む。本発明によるより好ましい組み合わせ物において、1個のDNA分子はOct3/4のコード配列を含み、他のDNA分子はSox2のコード配列を含み、第3のDNA分子はKfl4のコード配列を含む。本発明による組み合わせが4個のDNA分子を含む場合において、各々のDNA分子は、i) Oct3/4、Sox、KlfおよびMycのコード配列、またはOct3/4、Sox、NanogおよびLin28のコード配列から選択されるコード配列の1個を含むことが好ましく、その結果、i) 当該組み合わせは、1個のDNA分子がOct3/4のコード配列を含み、他のDNA分子がSoxのコード配列を含み、第3のDNA分子がKflのコード配列を含み、第4のDNA分子がMycのコード配列を含むものであるか、またはii) 当該組み合わせは、1個のDNA分子がOct3/4のコード配列を含み、他のDNA分子がSoxのコード配列を含み、第3のDNA分子がNanogのコード配列を含み、第4のDNA分子がLin28のコード配列を含むものである。本発明によるより好ましい組み合わせにおいて、i) 1個のDNA分子はOct3/4のコード配列を含み、他のDNA分子はSox2のコード配列を含み、第3のDNA分子はKfl4のコード配列を含み、第4のDNA分子はc-Mycのコード配列を含むか、またはii) 1個のDNA分子はOct3/4のコード配列を含み、他のDNA分子はSox2のコード配列を含み、第3のDNA分子はNanogのコード配列を含み、第4のDNA分子はLin28のコード配列を含む。
【0065】
他の態様において、本発明は、本発明のDNA分子を含むベクターに関する。
【0066】
好ましくは、本発明のDNA分子は、環状化DNA分子、例えば、DNAベクターである。あるいは、本発明のDNA分子は、当分野で既知の方法によりベクターに組み込まれ得る。当該環状化DNA分子またはベクターは、好ましくは、複数の制限酵素認識部位、細菌複製開始点および選択可能耐性遺伝子(例えば、βラクタマーゼ遺伝子)を有する領域を含む。適当なベクター骨格は、例えば、pBluescript (Stratagene)、pNEB 193 (New England Biolabs)または同様のベクターであるが、これらに限定されない。
【0067】
本発明のDNA分子ではないか、またはそれを含まない本明細書に記載されたベクターは、好ましくは、プラスミド、コスミドまたは例えば遺伝子工学において慣用的に使用される他のベクターである。核酸分子のベクターへの組み込みは、核酸分子を効率的に細胞に、好ましくはレシピエントのゲノムDNAに導入する可能性を提供する。レシピエントは、上記した単一の体細胞であり得る。そのような手段は、レシピエントにおけるコード配列の発現を促進する。したがって、核酸分子のベクターへの組み込みは、レシピエントの任意の細胞またはその選択された一部の細胞において、永久に高められたコードされたリプログラミング因子のレベルに当該方法を解放する。
【0068】
核酸分子は、いくつかの市販で利用可能なベクターに挿入され得る。例えば、pREP (Invitrogen)、pcDNA3 (Invitrogen)、pCEP4 (Invitrogen)、pMC1neo (Stratagene)、pXT1 (Stratagene)、pSG5 (Stratagene)、EBO-pSV2neo、pBPV-1、pdBPVMMTneo、pRSVgpt、pRSVneo、pSV2-dhfr、pIZD35、pLXIN、pSIR (Clontech)、pIRES-EGFP (Clontech)、pEAK-10 (Edge Biosystems) pTriEx-Hygro (Novagen)、pCINeo (Promega)、Okayama-Berg cDNA発現ベクターpcDV1 (Pharmacia)、pRc/CMV、pcDNA1、pSPORT1 (GIBCO BRL)、pGEMHE (Promega)、pSVLおよびpMSG (Pharmacia、Uppsala、Sweden)、pRSVcat (ATCC 37152)、pSV2dhfr (ATCC 37146)またはpBC12MI (ATCC 67109)のような哺乳類細胞での発現に適合したベクターを含むが、これらに限定されない。
【0069】
上記の核酸はまたベクターに挿入され得て、その結果、他の核酸分子との翻訳融合体が作製される。ベクターはまた、正確なタンパク質フォールディングを促進する1個またはそれ以上のシャペロンをコードするさらなる発現可能ポリヌクレオチドを含み得る。
【0070】
ベクター修飾技術について、例えば、Sambrook et al.による“Molecular Cloning: A Laboratory Manual”(Cold Spring Harbour Laboratory Press)またはAusubel et al.による“Current Protocols in Molecular Biology”(Wiley and Sons, Inc)を参照のこと。一般に、ベクターは、1個またはそれ以上の複製開始点(ori)およびクローニングもしくは発現についての継承システム、宿主における1個またはそれ以上の選択マーカー、例えば、抗生物質耐性、ならびに1個またはそれ以上の発現カセットを含み得る。
【0071】
ベクターまたはその一部に挿入されるコード配列は、例えば標準的な方法により合成されるか、または天然源から単離され得る。コード配列の転写制御エレメントおよび/または他のアミノ酸をコードする配列への連結は、確立された方法を用いて行われ得る。真核生物細胞における発現を保証する転写制御エレメント(発現カセットの一部)は、当業者に既知である。これらのエレメントは、転写の開始を保証する制御配列(例えば、翻訳開始コドン、プロモーター、エンハンサー、および/またはインスレーター)、内部リボソーム侵入部位(IRES) (Owens Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2001, 98: 1471)、ならびに所望により、転写の終結および転写産物の安定化を保証するポリ-Aシグナルを含む。さらなる制御エレメントは、転写および翻訳エンハンサー、ならびに/または天然で関連するか、もしくは異種のプロモーター領域を含み得る。好ましくは、核酸分子は、そのような発現制御配列に操作可能に結合し、真核生物細胞における発現を可能にする。ベクターはさらに、さらなる制御エレメントとして分泌シグナルをコードするヌクレオチド配列を含む。そのような配列は、当業者に既知である。さらに、使用される発現系に依存して、本発明のポリヌクレオチドのコード配列に、発現したポリペプチドを細胞コンパートメントに標的化することが可能なリーダー配列を加えることができる。そのようなリーダー配列は、当業者に既知である。
【0072】
転写の開始を保証する考えられる制御エレメントの例は、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、SV40-プロモーター、RSV-プロモーター(ラウス肉腫ウイルス)、lacZプロモーター、gai10プロモーター、ヒト伸長因子1a-プロモーター、CMVエンハンサー、CaM-キナーゼプロモーター、Autographa californica核多角体病ウイルス(AcMNPV)多面体プロモーター(polyhedral promoter)またはSV40-エンハンサーを含む。原核生物および真核生物細胞におけるさらなる制御エレメントの例は、転写終結シグナル、例えば、SV40-ポリ-A部位もしくはtk-ポリ-A部位またはSV40、lacZおよびAcMNPV多角的ポリアデニル化シグナルを含む。さらに、複製開始点、薬剤耐性遺伝子、レギュレーター(誘導性プロモーターの一部として)のようなエレメントがまた包含され得る。さらなるエレメントは、エンハンサー、Kozak配列およびRNAスプライシングのためにドナーおよびアクセプターに隣接する逆位配列を含み得る。高効率の転写は、SV40からの早期および後期プロモーター、レトロウイルス、例えば、RSV、HTLVI、HIVIからの長い末端反復(LTR)、ならびにサイトメガロウイルス(CMV)の早期プロモーターを用いて達成され得る。しかしながら、細胞エレメント(例えば、ヒトアクチンプロモーター)がまた使用され得る。
【0073】
dhfr、gpt、ネオマイシン、ハイグロマイシンのような選択可能マーカーを用いた共導入は、導入された細胞の同定および単離を可能にする。大量のコードされた(ポリ)ペプチドを発現させるために、また導入される核酸を増幅することができる。DHFR(ジヒドロ葉酸レダクターゼ)マーカーは、数百または数千コピーの関心のある遺伝子を有するあらゆる細胞株を開発するのに有用である。他の有用な選択マーカーは、グルタミンシンターゼ(GS)酵素である(Murphy et al., Biochem J. 1991, 227:277; Bebbington et al., Bio/Technology 1992, 10:169)。これらのマーカーを用いて、哺乳類細胞を選択培地で増殖させ、高い耐性を有する細胞を選択する。上記したとおり、発現ベクターは、好ましくは、少なくとも1個の選択可能マーカーを含む。そのようなマーカーは、真核生物細胞培養のために、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、G418またはネオマイシン耐性を含む。同じことを本明細書の他の態様において準用する。
【0074】
本発明の特定の態様による適当なベクターの遺伝学的設計の例は、実施例の項における限定なしに提供される。
【0075】
さらなる態様において、本発明は、本発明の他のDNA分子を含むベクターに関する。
【0076】
他の態様において、本発明は、下記工程:
(I) (Ia) 本発明の配列(aa)、(ab)、(ac)および(b)を含む配列;または
(Ib) 本発明の配列(aa)、(ab)、(ba)および(bb)を含む配列
を個々にまたは連続した配列として組み合わせてベクター配列中に組み込むか; あるいは
(II) (Ia)または(Ib)の配列を含む連続した配列を環状化する
を含む本発明のベクターの構築法に関する。
【0077】
本発明によるベクターの構築は、当該ベクターを構成し、その機能特性を規定する特定の配列を一緒にすることにより本発明のベクターを作製することに関する。当該ベクターを構成し、その機能特性を規定する特定の配列を一緒にすることにより、本発明のベクターを作製すること本発明のベクターの組成およびそれらの機能特性は、上記したとおりである。ベクターを組み込むか、もしくは環状化する手段および方法、一般には、ベクターを設計し、構築する手段及び方法は、当分野で既知であり、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory (1989) N.Y., or in “Current Protocols in Molecular Biology” by Ausubel et al. (Wiley and Sons, Inc)に記載されている。単一配列は、当業者に既知の方法、例えば、合成的製造または生物学的起源からの部分的もしくは完全な回収により取得され得る。
【0078】
構築法は、例えば、カスタムリプログラミングベクターを設計および製造するためのモジュラー構築法において使用され得る。確立されたベクター構築法から出発して、当業者は、カスタム化のために利用可能な特定の配列単独、配列の組み合わせ、または全体の配列を意図的に決定することができる。本発明のベクターを作製するための当該モジュラー法は、特に容易に利用可能な単一構成要素を構築する時間および費用を最小化するという観点で有利である。さらに、急速に増える実験設定の多様性および個別的ではあるが標準化された遺伝学的ツールの要求の観点で、当該構築法は、産業界および学問的探究の両方の特定の必要性に取り組み得る。
【0079】
本発明はまた、本発明のDNA分子または本発明のベクターを含む体細胞に関する。
【0080】
適当な体細胞は上記されている。さらに、外因性DNAを当該細胞に導入する方法は、当業者に既知であり、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory (1989) N.Y.および下記に記載されている。
【0081】
他の態様において、本発明は、誘導多能性幹(iPS)細胞を作製する方法であって、下記工程:
(i) 本発明のDNA分子またはベクターを体細胞に導入し;
(ii) 工程(i)のDNA分子またはベクターが当該体細胞のゲノムDNAに組み込まれるのを可能にし; そして
(iii) DNA分子から(ac)の2個の配列モチーフにより囲まれる配列を除去する
を含み、工程(iii)が当該体細胞のリプログラミングが生じた後に行われる方法に関する。
【0082】
本発明のDNA分子またはベクターは、当業者に既知の標準的な方法により細胞に導入され得て、例えば、Gene Delivery to Mammalian Cells: Nonviral Gene Transfer Techniques (Methods in Molecular Biology), W. C. Heiser (Editor), Humana Press; 1 edition, 2003に記載されている。導入法、すなわち、外因性DNAの細胞への導入は、例えば、リン酸カルシウム導入法、DEAE-デキストラン導入法、エレクトロポレーション、リポフェクション、熱ショック、マグネットフェクション、ヌクレオフェクション、遺伝子銃もしくはマイクロインジェクションの使用を含む。導入細胞で生じるリプログラミングイベントの低い確率のために、効率的な導入法に依存することが有利である。したがって、本発明のDNA分子またはベクターは、好ましくは、高い導入効率を達成する方法により体細胞に導入される。例えば、少なくとも1%、少なくとも10%、または少なくとも25%の導入効率が好ましい。適当な方法は、例えば、リポフェクション、エレクトロポレーション、ヌクレオフェクション、ウイルスベクター感染またはマグネットフェクションを含む。同様のことは、所望により修飾された形態で、本明細書に記載された他の態様に適用される。
【0083】
本発明の方法において使用される体細胞は、存在する細胞株に由来するか、または例えば初代細胞株を確立するために組織サンプルを得ることを含むさまざまな方法により得られ得る。さまざまな組織からサンプルを得る方法および初代細胞株を確立する方法は、当分野において既知である(Jones GE, Wise CJ., “Establishment, maintenance, and cloning of human dermal fibroblasts.” Methods Mol Biol. 1997;75:13-21)。適当な体細胞株はまた、多くの供給者、例えば、American tissue culture collection (ATCC)、German Collection of Microorganisms and Cell Cultures (DSMZ)またはPromoCell GmbH, Sickingenstr. 63/65, D-69126 Heidelbergから購入され得る。
【0084】
本発明において、本発明のDNA分子またはベクターの当該細胞のゲノムDNAへの部位特異的組み込みは、本発明のDNA分子の特定の構造に依存し、すなわち、相同組み換えによる組み込みを仲介する配列モチーフを含むか、またはリコンビナーゼによる組み込みを仲介する配列モチーフを含む本発明のDNA分子の特定の構造に依存する。
【0085】
相同組み換えによる部位特異的組み込みは、遺伝子付加を生じる内因性細胞DNA修復機構を誘導するZNF-ヌクレアーゼ誘導化DNA二本鎖開裂により達成され得て、それは上記および“Targeted gene addition into a specified location in the human genome using designed zinc finger nucleases” by Moehle, E. A., et al. (2007), Proc Natl Acad Sci U S A 104(9): 3055-60に記載されている。ZNF-ヌクレアーゼは、好ましくは、当該ZNF-ヌクレアーゼについて発現ベクターの共導入により細胞に加えられ、次いで、当該ZNF-ヌクレアーゼが発現する。あるいは、当該標的細胞は、当該DNA分子またはベクターにより任意の順番で連続して導入され得る。また他の可能性は、ZNF-ヌクレアーゼまたは組み換えZNF-ヌクレアーゼタンパク質をコードするmRNAの導入である。当該ZNF-ヌクレアーゼを設計および作製する方法は、当業者に既知であり、例えば、Pavletich et al. (1991), Science, 252:809-817; Choo et al. (1994), Nature, 372:642-645; Pabo et al. (2001), Annu Rev Biochem, 70:313-340; Reik et al. (2002), Curr Opin Genet Dev, 12:233-242; およびHigh KA. (2005), Nature, 435:577-579に記載されている。例えば、相同組み換え仲介部位特異的組み込みによりiPS細胞を作製する方法は、実施例3に記載されている(また、図式的概略について図3を参照のこと)。好ましくは、DNA分子は、環状化しているか、またはベクターの一部である。
【0086】
上記された作用機構であるリコンビナーゼによる部位特異的組み込みは、当該リコンビナーゼを本発明の環状化DNA分子またはベクターを含む標的細胞に提供することにより達成され得る。これは、例えば、当該リコンビナーゼについての発現ベクターの共導入および次の当該リコンビナーゼの発現により達成され得る。あるいは、当該標的細胞は、当該DNA分子またはベクターにより任意の順番で連続して導入され得る。当該発現ベクターは、当該標的細胞の染色体外に存在するか、またはゲノムDNAに組み込まれ得る。リコンビナーゼはまた、細胞の外から加えられ、取り込まれ、標的細胞内で活性を及ぼし得る。当業者は、リコンビナーゼのような酵素を含むタンパク質の細胞への取り込みのために適当な通常の条件ならびに割合および量に関して当該取り込みを促進する方法を理解している(当該促進は、人工的に修飾されたタンパク質を含み得る)(例えば、Patsch et Edenhofer, (2007), Handb Exp. Pharmacol., 178, 203-232を参照のこと)。さらなる可能性は、リコンビナーゼについてのmRNAを導入することである。本明細書に記載された本発明によると、iPS細胞は、発現が意図されるリプログラミング因子のすべてのコード配列を有するDNA分子またはベクターを導入すること、または当該リプログラミング因子のコード配列の任意の数を有するいくつかのDNA分子を導入することにより作製され得る。好ましくは、すべてのリプログラミングベクターのコード配列を有するDNA分子またはベクターであり、したがって、1個のみのDNA分子またはベクターが標的体細胞に導入される必要がある。例えば、リコンビナーゼ仲介部位特異的組み込みによりiPS細胞を作製する方法は、実施例1に記載されている(また、図式的概略について図1を参照のこと)。
【0087】
除去イベントを仲介する配列モチーフにより囲まれる配列の除去は、上記で詳述したとおり、リコンビナーゼの作用により達成され得る。好ましくは、当該リコンビナーゼをコードする遺伝子は、当分野において既知の方法により細胞に導入され、染色体外で、例えば、プラスミドもしくは他のベクター上で維持されるか、またはゲノム中に安定に組み込まれて、その結果、発現し得る。さらに、リコンビナーゼは、上記したとおり外から加えられ得る。
【0088】
本発明による標的配列の除去は、リプログラミングが生じた後にのみ行われるべきである。当該リプログラミングの達成される時間点は、上記のいくつかの方法により、一般には胚性幹(ES)細胞との遺伝子型および表現型の類似性を評価することにより決定され得る。
【0089】
さらに、細胞培養法、例えば、培地構成要素、マーカーの選抜および選択、細胞の定量および単離は、当分野で既知の方法であり、例えば、“Practical Cell Culture Techniques”, Boulton et Baker (eds), Humana Press (1992), ISBN 0896032140; “Human Cell Culture Protocols”, Gareth E. Jones, Humana Press (1996), ISBN 089603335Xに記載されており、そして本願明細書の実施例において例示的に記載されている。培養条件は、細胞型ごとに変わり、さらにそれは、特定の細胞型について発現される異なる表現型を生じ得る。一般に、細胞は、下記の増殖培地中で、適当な温度およびガス混合物、すなわち典型的には、37セルシウス度、5% CO2で増え、維持される:(a) 細胞内外の浸透圧バランスを維持しながら、かん流し、輸送し、希釈する液体として、(b) 細胞に通常の細胞代謝のために重要な水および特定のバルク無機イオンを提供し、(c) グルコースのような炭水化物と組み合わせて、細胞代謝のための主要なエネルギー源を提供し、そして(d) 生理学的pH範囲内(すなわち、細胞は生存可能である)で培地を維持するための緩衝系を提供する増殖培地。成長培地の調製法は、細胞型に依存して大きく変わり、例えば、成長因子、栄養成分、グルコース、pHを維持するための緩衝液ならびに抗真菌剤および抗生物質を含むがこれらに限定されない。培養物中で細胞を培養し、維持する方法は、当分野で既知であり; 成長培地および他の細胞培養関連材料および指示書ならびに細胞培養を成功させる方法は、例えば、Sigma-AldrichもしくはInvitrogenから取得され得る。iPS細胞についての培養条件は、対応する種の胚性幹細胞について確立されたものと同じであり、当業者に既知である。
【0090】
本発明の他の態様は、標的細胞での2個以上のコード配列の発現を達成することが望まれる場合において、上記した誘導多能性幹(iPS)細胞を作製する本発明の方法の変形に関する。本発明によるDNA分子または本発明のベクターを細胞に導入する代わりに、上記した本発明による2個またはそれ以上のDNA分子の組み合わせが、工程(i)において当該細胞に導入される。したがって、2個またはそれ以上のコード配列を含む1個のDNA分子を導入する代わりに、1個のみのコード配列を含む2個またはそれ以上のDNA分子が導入される。同様に、相当する変形はまた、下記の誘導多能性幹(iPS)細胞を作製する方法に導入され得る。
【0091】
上記説明は、本明細書の他の態様において準用する。
【0092】
1つの態様において、本発明はさらに、誘導多能性幹細胞を作製する方法であって、下記工程:
(i) 本発明のDNA分子またはベクターを体細胞に導入し; そして
(ii) DNA分子から(ba)の配列モチーフを除去する
を含み、工程(ii)が当該体細胞のリプログラミングが生じた後に行われる方法に関する。
【0093】
本発明によるiPS細胞は、標的細胞のゲノム中への部位特異的組み込みなしに作製され得る。代わりに、環状化された本発明のDNA分子またはベクターの一部は、染色体外に機能的に維持され得る。当該染色体外維持能力を与える配列の設計および機能は上記されており、当分野において既知である。好ましくは、DNA分子は、環状化されているか、またはベクターの一部である。
【0094】
さらに本発明は、本発明の方法により得られる誘導多能性幹細胞に関する。
【0095】
本発明はさらに、本発明のDNA分子、本発明の配列(aa)、(ab)、(ac)および(b)を含む配列、本発明の配列(aa)、(ab)、(ba)および(bb)を含む配列、本発明のDNA分子の組み合わせ物、本発明のベクター、または本発明の誘導多能性幹細胞を含むキットに関する。
【0096】
キットのさまざまな構成要素は、1個またはそれ以上の容器に、例えば、1個またはそれ以上のバイアルに梱包され得る。構成要素に加えてバイアルはまた、とりわけ、保存剤もしくは保存のための緩衝液、維持および保存のための培地、例えば、ES細胞培地、DMEM、MEM、HBSS、PBS、HEPES、ハイグロマイシン、ピューロマイシン、ペニシリン-ストレプトマイシン溶液、ゲンタマイシンを含む。有利には、キットはさらに、当業者が例えば本発明のさまざまな態様を容易に行えるようにする、構成要素の使用のための指示書を含む。構成要素のすべては、実験的設定において使用され得る。例えば、DNA分子配列の組み合わせもしくはベクターは、体細胞の誘導多能性幹細胞へのリプログラミングを研究するために使用され得る。一般に、本発明の誘導多能性幹細胞は、ES細胞の代わりに任意の実験において使用され得る。例えば、誘導多能性幹細胞は、他の細胞、例えば、神経細胞、筋肉細胞もしくは血液細胞への分化(再分化)を研究するために使用され得る。あるいは、細胞は、本発明のiPS細胞の維持または分化について細胞培養条件を確立するために使用され得る。
【0097】
さらに本発明は、本発明の誘導多能性幹細胞を含む細胞株もしくは細胞培養集合物に関する。
【0098】
本発明による細胞培養集合物は、少なくとも102、例えば103、106、1012細胞を含む少なくとも1個のiPS細胞株を含む。細胞培養集合物は、少なくとも2個の異なるiPS細胞株、より好ましくは、10、50または100個、および最も好ましくは1000個以上の異なる細胞株を含む。好ましくは、細胞培養集合物は、さまざまな種に由来する、さまざまな体細胞集団からリプログラミングされたさまざまなiPS細胞を維持する。例えば、体細胞は、上記されている。さらに、細胞培養集合物はまた、当該iPS細胞から生じた分化した細胞を維持している。また、当該iPS細胞を分化させることにより得られ、分化した細胞が組織を形成するのを可能にする組織培養集合物が好ましい。好ましくは、細胞は、細胞培養設備における一般的な慣習であるとおりの標準的な条件下で維持される。細胞を確立、維持、増殖および分化させる適当な方法は、当業者に既知であり、例えば、“Practical Cell Culture Techniques”, Boulton et Baker (eds), Humana Press (1992), ISBN 0896032140; “Human Cell Culture Protocols”, Gareth E. Jones, Humana Press (1996), ISBN 089603335Xに記載されている。
【0099】
他の態様において、本発明はまた、トランスジェニック非ヒト動物を作製する方法であって、本発明の誘導多能性幹細胞を作製する上記方法の工程およびさらに下記工程:
(i) 誘導多能性幹細胞を非ヒト胚盤胞に導入し;
(ii) 胚盤胞を非ヒト動物の雌の子宮に移し; そして
(iii) 胚盤胞が胚に発生することを可能にする
を含む方法に関する。
【0100】

本明細書で使用される「トランスジェニック非ヒト動物」なる用語は、本明細書に記載された方法によりそのゲノム中に意図的な修飾が施された動物に関する。
【0101】
トランスジェニック非ヒト動物を作製する本発明の方法は、好ましくは、胚性幹細胞の使用によりトランスジェニック非ヒト動物を作製するのに確立された方法により行われる(ただし、胚性幹細胞をiPS細胞に置き換える)。当該方法は、当分野において既知である(Hogan, B., R. Beddington, et al. (1994), “Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual”, Cold Spring Harbour Press; Hanna, J., et al. (2007), Science 318(5858): 1920-3; Meissner, A., et al. (2007), Nat Biotechnol 25(10): 1177-81; Nakagawa, M., et al. (2007), Nat Biotechnol.; Okita, K., et al. (2007), Nature 448(7151): 313-7; Takahashi, K., et al. (2007), Cell 131(5): 861-72; Wernig, M., et al. (2007), Nature 448(7151): 318-24; Yu, J., et al. (2007), Science 318(5858): 1917-20; Park, I. H., et al. (2008), Nature 451(7175): 141-6)。簡潔に述べると、iPS細胞の非ヒト着床前胚、例えば、桑実胚もしくは胚盤胞への導入は、好ましくは、桑実胚もしくは胚盤胞へのマイクロインジェクションによるか、または8細胞期または桑実胚を用いたiPS細胞の凝集により達成される。次いで、当該キメラ胚を偽妊娠した非ヒト雌の子宮に移し、そこで胚は発生し、最終的に出生する。
【0102】
iPS細胞からのトランスジェニック非ヒト動物系列の作製は、当該iPS細胞の多能性(すなわち、いったん宿主発生胚、例えば、胚盤胞もしくは桑実胚に注入されると、胚発生に参加し、生じた動物の生殖細胞に関与するそれらの能力)に基づく。上記したとおり、注入されたiPS細胞を含む胚盤胞は、偽妊娠した非ヒト雌の子宮における発生を可能にし、キメラとして出生する。生じたトランスジェニック非ヒト動物は、iPS細胞から生じた細胞についてのキメラであり、野生型非ヒト動物と戻し交雑し、iPS細胞の遺伝学的要素のみを有する動物についてスクリーニングし、DNA断片の組み合わせについてホモ接合型であるトランスジェニック動物を同定し得る。
【0103】
トランスジェニック非ヒト動物は、例えば、トランスジェニックマウス、ラット、ハムスター、イヌ、サル、ウサギ、ブタ、もしくはウシであり得る。好ましくは、当該トランスジェニック非ヒト動物はマウスである。
【0104】
したがって、本発明はまた、本発明の方法により得られるトランスジェニック非ヒト動物に関する。
【0105】
さらに本発明は、本発明の方法により得られるiPS細胞を含む、遺伝子治療、再生医療、細胞治療または薬剤スクリーニング用組成物に関する。
【0106】
本明細書で使用される組成物は、iPS細胞および好ましくはさらに当該細胞の生存を維持する構成要素を含む組成物に関する。そのような構成要素は、当業者に既知であり、例えば、細胞培地構成要素を含む。さらに、意図される適用に依存して、組成物は、さらなる構成要素、例えば、患者への投与を促進する構成要素を含み得る。
【0107】
本発明のiPS細胞を含む組成物は、さまざまな実験的および治療的計画において使用され得る。トランスジェニック発現エレメントが存在せず、修飾されていない内因性遺伝子を含む本発明のiPS細胞は、遺伝子治療、再生医療、細胞治療または薬剤スクリーニングにおいて有利であることが予期される。
【0108】
遺伝学的欠損を修正するために、エクスビボまたはインビボ技術により生殖系列細胞に治療的DNA構築体を導入することに基づく遺伝子治療は、最も重要な遺伝子導入の適用のうちの1つである。インビトロまたはインビボでの遺伝子治療のための適当なベクターおよび方法は、文献に記載されており、当業者に既知である(Davis PB, Cooper MJ., AAPS J. (2007), 19;9(1):E11-7; Li S, Ma Z., Curr Gene Ther. (2001),1(2):201-26)。本発明によると、患者から得られた細胞は、例えば、当分野で既知である上記した方法により遺伝学的に修正され得て、次いで、本発明の方法によりES細胞の表現型および遺伝子型を有するiPS細胞にリプログラミングされ得る。これは、遺伝子治療および/または細胞治療におけるiPS細胞の適用性を証明する。
【0109】
再生医療は、インビボで損傷した組織を再生するか、またはインビトロで組織および器官を増殖させて、次いでそれらを患者に移植することにより、機能不全の、損傷を受けた、または欠陥のある組織から生じる任意の疾患を潜在的に治癒するために使用され得る。事実上任意の組織に分化することができる本発明のiPS細胞は、再生医療のあらゆる局面で使用され得て、その結果、ES細胞の必要性を劇的に減少させ得る。
【0110】
本発明のiPS細胞は、薬剤標的を同定し、可能性のある医薬を試験するために使用され得て、その結果、ES細胞およびインビボ試験の必要性を減少させ得る。潜在的な医薬の効果を同定し、および/または評価する実験的設定ならびに方法(例えば、標的部位および特異性、毒性、バイオアベイラビリティを含む)は、当業者に既知である。
【0111】
さらにiPS細胞は、出生異常の予防および処置を研究するか、または細胞分化を研究するために使用され得る。
【0112】
最後に、本発明は、研究ツールとしての本発明のDNA分子、本発明のDNA分子の組み合わせ物、本発明のベクター、本発明のベクターの構築法、本発明の体細胞、本発明の誘導多能性幹細胞を作製する方法、本発明の誘導多能性幹細胞、本発明のキット、本発明の細胞株もしくは細胞培養集合物、本発明のトランスジェニック非ヒト動物を作製する方法、本発明のトランスジェニック非ヒト動物または本発明の組成物の使用に関する。
【0113】
研究ツールは、研究を行う手段に関する。本明細書に記載された態様のすべては、実験的設定において当業者により使用され得る。当該実験的設定は、実験により達成される目的に依存して変わる。当業者は、適当かつ最終的に重要な方法において本発明の態様を組み込んだ実験を設計し、行うことができる。当該態様は、実験において単独で、または互いに組み合わせて使用され得る。一般に上記したとおり、本発明は、特に、胚性幹細胞の使用を通常必要とする実験的設定において、例えば、細胞アッセイ、スクリーニングアッセイもしくは再分化試験において行われる場合に有用である。
【0114】
本発明のDNA分子もしくはベクターは、例えば、異なる細胞での細胞分化時における異なるリプログラミング因子の効果を研究することにおいて有用であり得る。構築法は、当業者に研究者の特定の必要性に一意的に適合するベクターを設計、作製および使用するツールを提供する。
【0115】
本発明のDNA分子またはベクターを含む体細胞は、例えば分化に関連するさまざまな局面、例えば遺伝子の発現パターンもしくはメチル化パターンにおける時空的遷移、または凝集挙動における変化を生じる形態学的変化を研究するために使用され得る。とりわけ、当該局面はまた、本発明の方法により作製されたiPS細胞において研究され得る。当該iPS細胞はさらに、例えば、遺伝子治療、遺伝子標的化、分化研究、薬剤の安全性および有効性についての試験、自家もしくは同種再生組織の移植、組織修復(例えば、神経系、心筋)、例えばパーキンソン病、心臓発作、糖尿病、癌、白血病もしくは脊髄損傷のような疾患、胚性遺伝子発現、胚性遺伝子の遺伝学的操作、早期発生学および胎児発生、胚性細胞マーカーの同定、細胞移動もしくはアポトーシスに関する研究において使用され得る。
【0116】
したがって、本発明の細胞株、細胞培養集合物もしくはキットは、当業者が上記したようなさまざまな実験を行い、実験が成功するのを可能にする基本的な手段である。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】図1は、phiC31インテグラーゼによる制御されたリプログラミングベクターのマウスもしくはヒト皮膚線維芽細胞への組み込み、iPS細胞へのリプログラミングおよびCreリコンビナーゼを介したiPS細胞からのベクター除去を示す。ドキシサイクリン誘導性発現カセットは、双方向性最小プロモーター(Ptet)を含み、それは、構成的に発現するrtTAアクチベーターにより活性化され、tTSリプレッサータンパク質により抑制される。ドキシサイクリンの存在下で、2個の2シストロン性mRNAの発現がPtetプロモーターで開始され、リプログラミングタンパク質OCT4、SOX2、KLF4およびRFP-MYC融合タンパク質を産生する。ベクターは、その単一attB部位によるC31Int仲介組み換えを介して、線維芽細胞のゲノム偽attP部位(ΨattP)に組み込まれる。導入された細胞は、Neo耐性遺伝子(pgk-neo)により選択され得る。誘導多能性幹(iPS)細胞株が単離されると、ベクター発現カセットは、隣接するloxP部位間のCre仲介組み換えによりゲノムから除去され得る。単一の34 bp loxPおよび53 bp attB/P雑種部位のみが、組み換え部位内に残る。
【図2】図2は、エピソーム(制御されたリプログラミングベクター)のマウスもしくはヒト皮膚線維芽細胞への組み込み、iPS細胞へのリプログラミングおよびCreリコンビナーゼを介したiPS細胞からのベクター除去を示す。ドキシサイクリン誘導性発現カセットは、双方向性最小プロモーター(Ptet)を含み、それは、構成的に発現するrtTAアクチベーターにより活性化され、tTSリプレッサータンパク質により抑制される。ドキシサイクリンの存在下で、2個の2シストロン性mRNAの発現がPtetプロモーターで開始され、リプログラミングタンパク質OCT4、SOX2、KLF4およびRFP-MYC融合タンパク質を産生する。ベクターは、線維芽細胞に導入され、エプスタイン・バー・ウイルスに由来するoriPエレメント上のEBNA1タンパク質の作用により、エピソーム状態で維持される(Bornkamm, G. W., (2005). Nucleic Acids Res 33(16): e137; Satoh, E., et al. (1997). Biochem Biophys Res Commun 238(3): 795-9; Sclimenti, C. R., et al. (1998). Curr Opin Biotechnol 9(5): 476-9)。導入された細胞は、Neo耐性遺伝子(pgk-neo)により選択され得る。誘導多能性幹(iPS)細胞株が単離されると、エピソームベクターは、loxP隣接EBNA1遺伝子およびlox2272隣接oriPエレメントのCre仲介除去により、3個のDNAサークルに断片化され、それらは細胞分裂の間に失われる。
【図3】図3は、ヌクレアーゼ活性化トランスジーン挿入による制御されたリプログラミングベクターのマウスもしくはヒト皮膚線維芽細胞への組み込み、iPS細胞へのリプログラミングおよびCreリコンビナーゼを介したiPS細胞からのベクター除去を示す。ドキシサイクリン誘導性発現カセットは、双方向性最小プロモーター(Ptet)を含み、それは、構成的に発現するrtTAアクチベーターにより活性化され、tTSリプレッサータンパク質により抑制される。ドキシサイクリンの存在下で、2個の2シストロン性mRNAの発現がPtetプロモーターで開始され、リプログラミングタンパク質OCT4、SOX2、KLF4およびRFP-MYC融合タンパク質を産生する。ベクターは、Zincフィンガードメインの特異的結合部位で二本鎖を形成するFok1ヌクレアーゼ/Zincフィンガー融合タンパク質(ZNF-Fok1)についての発現ベクターを用いた共導入により、前もって選択された皮膚線維芽細胞のゲノムアクセプター部位に組み込まれる(Moehle, E. A., et al. (2007). Proc Natl Acad Sci U S A 104(9): 3055-60; Urnov, F. D., et al. (2005). Nature 435(7042): 646-51)。さらにネオマイシン耐性遺伝子(pgk-neo)に結合するドキシサイクリン誘導性発現カセットは、ZNF-Fok1切断部位の上流および下流に位置する2個のゲノム相同領域(HR1、HR2)に隣接する。誘導された二本鎖開裂は、内因性組み換えおよび修復機構を活性化し、2個のloxP部位に隣接したドキシサイクリン誘導性発現カセットの正確な組み込みを生じる。ゲノム組み込み部位は、内因性遺伝子の機能が、例えば遺伝子間の位置で妨害されないように選択される。導入された細胞は、Neo耐性遺伝子により選択される。誘導多能性幹(iPS)細胞株が単離されると、ベクター発現/耐性カセットは、隣接するloxP部位間のCre仲介組み換えによりゲノムから除去され得る。単一の34 bp loxPのみが、組み込み部位内に残る。
【図4】図4は、例えば実施例3および図3に記載されたZNF-ヌクレアーゼの作用により誘導される、誘導化二本鎖開裂の部位での相同修復(HDR)によるDNA配列の標的DNA分子への組み込みを概略的に示す。
【実施例】
【0118】
下記の実施例は、本発明を例示するものである:
【0119】
実施例1:
標的化組み込みおよび部位特異的リコンビナーゼを用いたリプログラミングベクターの除去による無ベクターiPS細胞の作製
この方法のために、phiC31インテグラーゼの使用により、単一のリプログラミングベクターコピーをヒトもしくはマウス皮膚線維芽細胞の規定のゲノム位置に挿入する(図1)。基本的なベクターカセットは、ドキシサイクリン誘導性ポリシストロン発現カセットを含み、それは、リプログラミング因子であるOct4、Sox2、Klf4およびcMycのレベルの調節を可能にする。C31インテグラーゼattB部位を含むことにより、ベクターは、ヒトまたはマウスゲノム中の限定された数のゲノム偽attB部位に組み込まれ、それらの多くは、遺伝子間領域に生じ(Calos, M. P. (2006). Curr Gene Ther 6(6): 633-45; Chalberg, T. W., H. L. Genise, et al. (2005). Invest Ophthalmol Vis Sci 46(6): 2140-6; Chalberg, T. W., et al. (2006 J Mol Biol 357(1): 28-48; Ortiz-Urda, S., B. Thyagarajan, et al. (2002). Nat Med 8(10): 1166-70; Thyagarajan, B., E. C. Olivares, et al. (2001). Mol Cell Biol 21(12): 3926-34)、その除去のために2個のloxP部位が包含される。
iPS細胞株が確立され、ゲノム組み込み部位が特徴づけられると、ベクターコピーは、Creリコンビナーゼ仲介欠失を介して、選択されたiPS細胞株のゲノムから除去される(Branda, C. S., et al. (2004). Dev Cell 6(1): 7-28)。
【0120】
驚くべきことに、C31インテグラーゼを介してゲノムの偽attPに組み込まれた遺伝子間領域に位置する単一ベクターコピーからのリプログラミング因子の発現が、線維芽細胞の、iPS細胞のES細胞様表現型への分化を誘導することができることが見出された。無ベクターiPS細胞株は、幹細胞マーカー(ALP、OCT4、NANOG、SOX2、SSEA3/4)の発現についての解析、マイクロアレイを介した遺伝子発現解析ならびに分化能および核型の評価により特徴づけられる。胚盤胞注入を介した生殖細胞キメラマウスの作製により、マウスiPS細胞株の多能性を試験し、神経、グリアおよび心臓細胞へのインビトロ分化を介して、ヒトiPS細胞株を解析する。免疫不全SCIDマウスにおけるテラトーマ形成の誘導により、ヒトiPS細胞株のインビボ分化能を試験する。
【0121】
ベクター構築および細胞培養
pRTS1に由来するドキシサイクリン応答性カセット(Bornkamm, G. W., et al. (2005). Nucleic Acids Res 33(16): e137)ならびにIMAGE cDNAクローン(ImaGenes, Berlin)から増幅させたOct4、Sox2、KLF4およびc-MycのマウスおよびヒトcDNAコード領域(配列番号1-4、7-10) (それらは、EMCV由来内部リボソーム侵入部位(IRES) (Hellen, C. U., et al. (1995). Curr Top Microbiol Immunol 203: 31-63)またはThosea由来2a自己切断ペプチド配列(Osborn, M. J., et al. (2005). Mol Ther 12(3): 569-74)により結合している)を用いて、pBluescript内にプラスミドベクターとして〜12 kbのベクターカッセットを構築する。GFPについて記載されたとおり、c-Myc遺伝子をTagRFP赤色蛍光タンパク質(Merzlyak, E. M., et al. (2007). Nat Methods 4(7): 555-7)と融合させる(Yin, X., et al. (2001). Oncogene 20(34): 4650-64)。マウスおよびヒトREPROカセットを、2個のCreリコンビナーゼ(loxP)認識部位に隣接しているNeo遺伝子およびC31インテグラーゼ(Thyagarajan, B., et al. (2001). Mol Cell Biol 21(12): 3926-34)についてのattB認識部位を含む骨格に挿入する(Siegel, R. W., et al. (2001 FEBS Lett 499(1-2): 147-53)。OCT4-GFPトランスジェニックマウスから単離した尾端線維芽細胞(Yoshimizu, T., et al. (1999). Dev Growth Differ 41(6): 675-84)および正常なヒト成体皮膚線維芽細胞(PromoCell GmbH, Heidelberg)に、このベクターをC31インテグラーゼについてのCAG-C31Int-bpA発現ベクター(Hitz, C., et al. (2007). Nucleic Acids Res 35(12): e90)と共に、エレクトロポレーションまたはリポフェクションにより導入する。遺伝子発現の活性を最大にするために、最初に、培養物を0.5 μg/ml ドキシサイクリンで維持する。2日後に、RFP陽性細胞を定量化することにより、一過的導入の割合を概算する。次いで、導入された細胞をG418で選択し、2日後に、マウスまたはヒトES細胞培地で、Neoトランスジェニックマウスから分裂不活性化胚性フィーダー細胞上に移す。7日後に、培養物からG418を除去し、1-500 ng/ml培養培地の間でドキシサイクリン濃度を変える。RFP-Myc蛍光シグナルの定量化によりトランスジーン発現レベルをモニターし、OCT-GFPレポーターによりiPS細胞を検出する。21-30日後に、ES細胞様形態を有するGFP陽性コロニーを単離し、個々に増やす。ゲノム組み込み部位を解析するために、当該クローンのゲノムDNAを単離し、ベクター内で切断しない制限酵素で消化し、T4 DNAリガーゼで再び環状化させる。レスキューされたプラスミドをコンピテントE. coli細胞に形質転換し、組み込まれたベクターの末端に位置するプライマーを用いたDNA塩基配列決定法により、ベクターに隣接するゲノムDNAを決定する。マウスもしくはヒトのゲノム配列との比較によりゲノム組み込み部位が同定されたならば、選択クローンにCre発現ベクターpCAGCrebpA (Hitz, C., et al. (2007). Nucleic Acids Res 35(12): e90)が一過的に導入され(ここではベクターは内因性遺伝子の機能を妨害しない)、PCRによりベクター欠失について解析される。無ベクターマウスiPS細胞株の多能性および完全性は、幹細胞マーカー(ALP、OCT4、NANOG、SOX2、SSEA3/4)の発現についての解析、マイクロアレイを介した遺伝子発現解析ならびに分化能および核型の評価により特徴づけられる。胚盤胞への注入によるキメラマウスの作製により、マウスiPS細胞株の多能性を評価する(異なる毛色およびグルコースリン酸イソメラーゼ(GPI)アイソタイプ)。GPI解析により主要な器官におけるキメラ現象を定量化し、交配および毛色解析によりiPS細胞の生殖細胞関与を試験する。神経、グリアおよび心臓細胞へのインビトロ分化を介して、ヒトiPS細胞株の分化能を解析する。免疫不全SCIDマウスにおけるテラトーマ形成の誘導により、ヒトiPS細胞株のインビボ分化能を試験する。
【0122】
実施例2:
自己複製エピソームリプログラミングベクターおよび部位特異的組み換えを介したその除去を用いた無ベクターiPS細胞の作製
この方法のために、リプログラミング発現カセットを、少ないコピー数で染色体外(エピソーム)ベクター複製を可能にする遺伝学的要素(エプスタイン・バー・ウイルスのEBNA1およびoriP)と組み合わせる(Bornkamm, G. W., (2005). Nucleic Acids Res 33(16): e137; Satoh, E., et al. (1997). Biochem Biophys Res Commun 238(3): 795-9; Sclimenti, C. R., et al. (1998). Curr Opin Biotechnol 9(5): 476-9)。基本的なベクターカセットは、ドキシサイクリン誘導性ポリシストロン発現カセットを含み、それは、リプログラミング因子であるOct4、Sox2、Klf4およびcMycのレベルの調節を可能にする。EBNA1およびoriPエレメントに隣接する野生型および突然変異型loxP部位を包含することにより、Cre仲介組み換えを介してベクターが除去されることを可能にする(図2) (Branda, C. S., et al. (2004). Dev Cell 6(1): 7-28)。線維芽細胞からiPS細胞株が確立されると、エピソームベクターコピーは、Cre仲介組み換えを介して破壊される。ベクター断片は、細胞分裂の間に次第に失われて、無ベクターサブクローンがゲノムDNAのPCRおよびサザンブロット解析により同定され、単離され、増やされる。
【0123】
驚くべきことに、少ないコピー数のエピソームベクターからのリプログラミング因子の発現は、線維芽細胞の、iPS細胞のES細胞様表現型への分化を誘導することができ、エピソームベクターは、部位特異的リコンビナーゼの使用によりこれらの細胞から除去されうることが見出された。無ベクターiPS細胞株は、幹細胞マーカー(ALP、OCT4、NANOG、SOX2、SSEA3/4)の発現についての解析、マイクロアレイを介した遺伝子発現解析ならびに分化能および核型の評価により特徴づけられる。胚盤胞注入を介した生殖細胞キメラマウスの作製により、マウスiPS細胞株の多能性を試験し、神経、グリアおよび心臓細胞へのインビトロ分化を介して、ヒトiPS細胞株を解析する。免疫不全SCIDマウスにおけるテラトーマ形成の誘導により、ヒトiPS細胞株のインビボ分化能を試験する。
【0124】
ベクター構築および細胞培養
pRTS1に由来するドキシサイクリン応答性カセット(Bornkamm, G. W., et al. (2005). Nucleic Acids Res 33(16): e137)ならびにIMAGE cDNAクローン(ImaGenes, Berlin)から増幅させたOct4、Sox2、KLF4およびc-MycのマウスおよびヒトcDNAコード領域(配列番号1-4、7-10) (それらは、EMCV由来内部リボソーム侵入部位(IRES) (Hellen, C. U., et al. (1995). Curr Top Microbiol Immunol 203: 31-63)またはThosea由来2a自己切断ペプチド配列(Osborn, M. J., et al. (2005). Mol Ther 12(3): 569-74)により結合している)を用いて、pBluescript内にプラスミドベクターとして〜12 kbのベクターカッセットを構築する。GFPについて記載されたとおり、c-Myc遺伝子をTagRFP赤色蛍光タンパク質(Merzlyak, E. M., et al. (2007). Nat Methods 4(7): 555-7)と融合させる(Yin, X., et al. (2001). Oncogene 20(34): 4650-64)。マウスおよびヒトREPROカセットを、Neo遺伝子およびloxPもしくはlox2272部位と隣接するpRTS1からのEBNA1/oriPエレメント(Bornkamm, G. W., (2005). Nucleic Acids Res 33(16): e137)を含む骨格に挿入する(Siegel, R. W., et al. (2001 FEBS Lett 499(1-2): 147-53)。OCT4-GFPトランスジェニックマウスから単離した尾端線維芽細胞(Yoshimizu, T., et al. (1999). Dev Growth Differ 41(6): 675-84)および正常なヒト成体皮膚線維芽細胞(PromoCell GmbH, Heidelberg)に、このベクターをエレクトロポレーションまたはリポフェクションにより導入する。遺伝子発現の活性を最大にするために、最初に、培養物を0.5 μg/ml ドキシサイクリンで維持する。2日後に、RFP陽性細胞を定量化することにより、一過的導入の割合を概算する。次いで、導入された細胞をG418で選択し、2日後に、マウスまたはヒトES細胞培地で、Neoトランスジェニックマウスから分裂不活性化胚性フィーダー細胞上に移す。7日後に、培養物からG418を除去し、1-500 ng/ml培養培地の間でドキシサイクリン濃度を変える。RFP-Myc蛍光シグナルの定量化によりトランスジーン発現レベルをモニターし、OCT-GFPレポーターによりiPS細胞を検出する。21-30日後に、ES細胞様形態を有するGFP陽性コロニーを単離し、個々に増やす。選択されたクローンは、Cre発現ベクターpCAGCrebpA (Hitz, C., et al. (2007). Nucleic Acids Res 35(12): e90)で一過的に導入されており、PCRによりベクター欠失について解析される。無ベクターマウスiPS細胞株の多能性および完全性は、幹細胞マーカー(ALP、OCT4、NANOG、SOX2、SSEA3/4)の発現についての解析、マイクロアレイを介した遺伝子発現解析ならびに分化能および核型の評価により特徴づけられる。胚盤胞への注入によるキメラマウスの作製により、マウスiPS細胞株の多能性を評価する(異なる毛色およびグルコースリン酸イソメラーゼ(GPI)アイソタイプ)。GPI解析により主要な器官におけるキメラ現象を定量化し、交配および毛色解析によりiPS細胞の生殖細胞関与を試験する。神経、グリアおよび心臓細胞へのインビトロ分化を介して、ヒトiPS細胞株の分化能を解析する。免疫不全SCIDマウスにおけるテラトーマ形成の誘導により、ヒトiPS細胞株のインビボ分化能を試験する。
【0125】
実施例3:
ヌクレアーゼ活性化トランスジーン挿入および部位特異的組み換えを介したその除去を用いた無ベクターiPS細胞の作製
この方法において、制御されたリプログラミングベクターのマウスもしくはヒト皮膚線維芽細胞のゲノムへの標的化組み込みは、ヌクレアーゼ活性化トランスジーン挿入により達成される。体細胞をiPS細胞にリプログラミングし、Creリコンビナーゼを介してiPS細胞からベクターを除去する(図3)。ベクタードキシサイクリン誘導性発現カセットは、双方向性最小プロモーター(Ptet)を含み、それは、構成的に発現するrtTAアクチベーターにより活性化され、tTSリプレッサータンパク質により抑制される。ドキシサイクリンの存在下で、2個の2シストロン性mRNAの発現がPtetプロモーターで開始され、リプログラミングタンパク質OCT4、SOX2、KLF4およびRFP-MYC融合タンパク質を産生する。ベクターは、Zincフィンガードメインの特異的結合部位で二本鎖を形成するFok1ヌクレアーゼ/Zincフィンガー融合タンパク質(ZNF-Fok1)についての発現ベクターを用いた共導入により、前もって選択された皮膚線維芽細胞のゲノムアクセプター部位に組み込まれる(Moehle, E. A., et al. (2007). Proc Natl Acad Sci U S A 104(9): 3055-60; Urnov, F. D., et al. (2005). Nature 435(7042): 646-51)。さらにネオマイシン耐性遺伝子(pgk-neo)に結合する誘導性発現カセットは、ヒトRosa26遺伝子座の第1イントロン内のZNF-Fok1切断部位の上流および下流に位置する2個の750 bpゲノム相同領域(HR1、HR2)に隣接する(Zambrowicz, B. P., A. Imamoto, et al. (1997). Proc Natl Acad Sci U S A 94(8): 3789-94; Irion, S., et al. (2007) Nat Biotechnol 25(12): 1477-82)。誘導された二本鎖開裂は、内因性組み換えおよび修復機構を活性化し、2個のloxP部位に隣接したドキシサイクリン誘導性発現カセットの正確な組み込みを生じる。導入された細胞は、Neo耐性遺伝子により選択される。誘導多能性幹(iPS)細胞株が単離されると、ベクター発現/耐性カセットは、隣接するloxP部位間のCre仲介組み換えによりゲノムから除去され得る(Branda, C. S., et al. (2004). Dev Cell 6(1): 7-28)。単一の34 bp loxPのみが、組み込み部位内に残る。
【0126】
驚くべきことに、単一のベクターコピーからのリプログラミング因子の発現は、線維芽細胞の、iPS細胞のES細胞様表現型への分化を誘導することができることが見出された。無ベクターiPS細胞株は、幹細胞マーカー(ALP、OCT4、NANOG、SOX2、SSEA3/4)の発現についての解析、マイクロアレイを介した遺伝子発現解析ならびに分化能および核型の評価により特徴づけられる。胚盤胞注入を介した生殖細胞キメラマウスの作製により、マウスiPS細胞株の多能性を試験し、神経、グリアおよび心臓細胞へのインビトロ分化を介して、ヒトiPS細胞株を解析する。免疫不全SCIDマウスにおけるテラトーマ形成の誘導により、ヒトiPS細胞株のインビボ分化能を試験する。
【0127】
ベクター構築および細胞培養
pRTS1に由来するドキシサイクリン応答性カセット(Bornkamm, G. W., et al. (2005). Nucleic Acids Res 33(16): e137)ならびにIMAGE cDNAクローン(ImaGenes, Berlin)から増幅させたOct4、Sox2、KLF4およびc-MycのマウスおよびヒトcDNAコード領域(配列番号1-4、7-10) (それらは、EMCV由来内部リボソーム侵入部位(IRES) (Hellen, C. U., et al. (1995). Curr Top Microbiol Immunol 203: 31-63)またはThosea由来2a自己切断ペプチド配列(Osborn, M. J., et al. (2005). Mol Ther 12(3): 569-74)により結合している)を用いて、pBluescript内にプラスミドベクターとして〜12 kbのベクターカッセットを構築する。GFPについて記載されたとおり、c-Myc遺伝子をTagRFP赤色蛍光タンパク質(Merzlyak, E. M., et al. (2007). Nat Methods 4(7): 555-7)と融合させる(Yin, X., et al. (2001). Oncogene 20(34): 4650-64)。マウスおよびヒトリプログラミングカセットを、Neo遺伝子、2個のloxP部位およびヒトもしくはマウスRosa26遺伝子座に由来する2個の750 bp相同性領域を含む骨格に挿入する(Zambrowicz, B. P., A. Imamoto, et al. (1997). Proc Natl Acad Sci U S A 94(8): 3789-94; Irion, S., et al. (2007) Nat Biotechnol 25(12): 1477-82)。OCT4-GFPトランスジェニックマウスから単離した尾端線維芽細胞(Yoshimizu, T., et al. (1999). Dev Growth Differ 41(6): 675-84)および正常なヒト成体皮膚線維芽細胞(PromoCell GmbH, Heidelberg)に、このベクターをRosa26相同性領域間の接合部に特異的に結合し、切断するZincフィンガー/Fok1ヌクレアーゼ融合タンパク質についての発現ベクターと共に、エレクトロポレーションまたはリポフェクションにより導入する。遺伝子発現の活性を最大にするために、最初に、培養物を0.5 μg/ml ドキシサイクリンで維持する。2日後に、RFP陽性細胞を定量化することにより、一過的導入の割合を概算する。次いで、導入された細胞をG418で選択し、2日後に、マウスまたはヒトES細胞培地で、Neoトランスジェニックマウスから分裂不活性化胚性フィーダー細胞上に移す。7日後に、培養物からG418を除去し、1-500 ng/ml培養培地の間でドキシサイクリン濃度を変える。RFP-Myc蛍光シグナルの定量化によりトランスジーン発現レベルをモニターし、OCT-GFPレポーターによりiPS細胞を検出する。21-30日後に、ES細胞様形態を有するGFP陽性コロニーを単離し、個々に増やす。特定のハイブリダイゼーションプローブを用いたゲノムDNAのサザンブロッティングにより、ベクターのRosa26遺伝子座への標的化を確認する。選択されたクローンは、Cre発現ベクターpCAGCrebpA (Hitz, C., et al. (2007). Nucleic Acids Res 35(12): e90)で一過的に導入されており、PCRによりベクター欠失について解析される。無ベクターマウスiPS細胞株の多能性および完全性は、幹細胞マーカー(ALP、OCT4、NANOG、SOX2、SSEA3/4)の発現についての解析、マイクロアレイを介した遺伝子発現解析ならびに分化能および核型の評価により特徴づけられる。胚盤胞への注入によるキメラマウスの作製により、マウスiPS細胞株の多能性を評価する(異なる毛色およびグルコースリン酸イソメラーゼ(GPI)アイソタイプ)。GPI解析により主要な器官におけるキメラ現象を定量化し、交配および毛色解析によりiPS細胞の生殖細胞関与を試験する。神経、グリアおよび心臓細胞へのインビトロ分化を介して、ヒトiPS細胞株の分化能を解析する。免疫不全SCIDマウスにおけるテラトーマ形成の誘導により、ヒトiPS細胞株のインビボ分化能を試験する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記:
(a) (aa) 転写時に体細胞の誘導多能性幹(iPS)細胞へのリプログラミングに関与する因子を生じるコード配列;
(ab) 当該コード配列の転写を仲介するプロモーター; および
(ac) DNA分子から(aa)および/または(ab)の除去を仲介する2個の配列モチーフ
を含む第1のDNA配列であって、1個の配列モチーフは除去される配列の5'に位置し、他の配列モチーフは除去される配列の3'に位置するDNA配列;
(b) (a)の他のDNA分子への部位特異的組み込みを仲介する配列モチーフを含む第2のDNA配列
を含む、DNA分子。
【請求項2】
下記:
(a) (aa) 転写時に体細胞の誘導多能性幹(iPS)細胞へのリプログラミングに関与する因子を生じるコード配列; および
(ab) 当該コード配列の転写を仲介するプロモーター
を含む第1のDNA配列;
(b) (ba) DNA分子の染色体外自己複製を仲介する配列モチーフ; および
(bb) DNA分子から少なくとも(ba)の当該配列モチーフの除去を仲介する2個の配列モチーフ
を含む第2のDNA配列であって、1個の配列モチーフは(ba)の5'に位置し、他の配列モチーフは(ba)の3'に位置するDNA配列
を含む、DNA分子。
【請求項3】
(aa)の当該コード配列が、Oct、Sox、Klf、Myc、NanogおよびLinコード配列からなる群から選択される、請求項1または2に記載のDNA分子。
【請求項4】
(aa)の当該コード配列が、Oct3/4、Sox1、Sox2、Sox3、Sox15、Sox18、Klf1、Klf2、Klf4、Klf5、n-Myc、l-Myc、c-Myc、NanogおよびLin28コード配列からなる群から選択される、請求項1から3のいずれか1項に記載のDNA分子。
【請求項5】
(aa)の当該コード配列が、Oct3/4、SoxおよびKlfコード配列の組み合わせから選択される3個のコード配列を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載のDNA分子。
【請求項6】
(aa)の当該コード配列が、Oct3/4、Sox2およびKlf4のコード配列を含む、請求項5に記載のDNA分子。
【請求項7】
(aa)の当該コード配列が、Oct3/4、Sox、KlfおよびMycコード配列ならびにOct3/4、Sox、NanogおよびLin28コード配列の組み合わせから選択される4個のコード配列を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載のDNA分子。
【請求項8】
(aa)の当該コード配列が、Oct3/4、Sox2、Klf4およびc-Myc; ならびにOct3/4、Sox2、NanogおよびLin28の組み合わせから選択される4個のコード配列を含む、請求項7に記載のDNA分子。
【請求項9】
(ab)のプロモーターが誘導性プロモーターである、請求項1から8のいずれか1項に記載のDNA分子。
【請求項10】
(ab)のプロモーターがドキシサイクリンにより誘導される、請求項9に記載のDNA分子。
【請求項11】
(ab)のプロモーターが双方向性最小プロモーターである、請求項1から10のいずれか1項に記載のDNA分子。
【請求項12】
(b)の第2DNA配列の配列モチーフが、attB、attPおよびITR (末端逆位配列)からなる群から選択され、ITRがアデノ随伴ウイルス(AAV)インテグラーゼにより認識される、請求項1および3から11のいずれか1項に記載のDNA分子。
【請求項13】
(b)の第2DNA配列の配列モチーフが(a)の第1DNA配列に隣接する2個の配列を含み、それが組み込み部位における配列と本質的に同一な組み合わせ配列としてである、請求項1および3から11のいずれか1項に記載のDNA分子。
【請求項14】
請求項1に記載の(aa)および/または(ab)における除去可能配列モチーフまたは請求項2に記載の(ba)の当該配列モチーフがlox配列である、請求項1から13のいずれか1項に記載のDNA分子。
【請求項15】
(ba)の配列モチーフがEBNA1およびoriPエレメントを含む、請求項2から11のいずれか1項に記載のDNA分子。
【請求項16】
当該EBNA1がlox配列の第1型に隣接しており、oriPエレメントがlox配列の第2型に隣接しており、
(a) lox配列の第1型は、Cre-リコンビナーゼにより認識され組み換えられるが、lox配列の第2型で組み換えられず; そして
(b) lox配列の第2型は、(a)のリコンビナーゼにより認識され組み換えられるが、lox配列の第1型で組み換えられない、
請求項15に記載のDNA分子。
【請求項17】
請求項1、3、4および9から14のいずれか1項に記載の2個またはそれ以上のDNA分子の組み合わせ物または請求項2から4、9から11および14から15のいずれか1項に記載の2個またはそれ以上のDNA分子の組み合わせ物であって、(aa)のコード配列が当該2個またはそれ以上のDNA分子の各々について異なっている、組み合わせ物。
【請求項18】
請求項1および3から14のいずれか1項に記載のDNA分子を含む、ベクター。
【請求項19】
請求項2から11および15または16のいずれか1項に記載のDNA分子を含む、ベクター。
【請求項20】
請求項18または19に記載のベクターの構築法であって、下記工程:
(I) (Ia) 請求項1に記載の配列(aa)、(ab)、(ac)および(b)を含む配列; または
(Ib) 請求項2に記載の配列(aa)、(ab)、(ba)および(bb)を含む配列
を個々にまたは連続した配列として組み合わせてベクター配列中に組み込むか; あるいは
(II) (Ia)または(Ib)の配列を含む連続した配列を環状化する
を含む、方法。
【請求項21】
請求項1から16のいずれか1項に記載のDNA分子または請求項18または19に記載のベクターを含む、体細胞。
【請求項22】
誘導多能性幹(iPS)細胞を作製する方法であって、下記工程:
(i) 請求項1および3から14のいずれか1項に記載のDNA分子または請求項18に記載のベクターを体細胞に導入し;
(ii) 工程(i)のDNA分子またはベクターが当該体細胞のゲノムDNAに組み込まれるのを可能にし; そして
(iii) DNA分子から(ac)の2個の配列モチーフにより囲まれる配列を除去する
を含み、工程(iii)が当該体細胞のリプログラミングが生じた後に行われる、方法。
【請求項23】
誘導多能性幹細胞を作製する方法であって、下記工程:
(i) 請求項2から11および15または16のいずれか1項に記載のDNA分子または請求項19に記載のベクターを体細胞に導入し; そして
(ii) DNA分子から(ba)の配列モチーフを除去する
を含み、工程(ii)が当該体細胞のリプログラミングが生じた後に行われる、方法。
【請求項24】
請求項22または23に記載の方法により得られる、誘導多能性幹細胞。
【請求項25】
請求項1から16のいずれか1項に記載のDNA分子、請求項1に記載の配列(aa)、(ab)、(ac)および(b)、請求項2に記載の配列(aa)、(ab)、(ba)および(bb)、請求項17に記載の組み合わせ物、請求項18または19に記載のベクター、または請求項24に記載の誘導多能性幹細胞を含む、キット。
【請求項26】
請求項24に記載の誘導多能性幹細胞を含む、細胞株もしくは細胞培養集合物。
【請求項27】
トランスジェニック非ヒト動物を作製する方法であって、請求項22または23に記載の工程およびさらに下記工程:
(i) 誘導多能性幹細胞を非ヒト胚盤胞に導入し;
(ii) 胚盤胞を非ヒト動物の雌の子宮に移し; そして
(iii) 胚盤胞が胚に発生することを可能にする
を含む、方法。
【請求項28】
請求項27に記載の方法により得られる、トランスジェニック非ヒト動物。
【請求項29】
請求項22または23に記載の方法により得られるiPS細胞を含む、遺伝子治療、再生医療、細胞治療または薬剤スクリーニング用組成物。
【請求項30】
研究ツールとしての請求項1から16のいずれか1項に記載のDNA分子、請求項17に記載の組み合わせ物、請求項18または19に記載のベクター、請求項20に記載のベクターの構築法、請求項21に記載の体細胞、請求項22または23に記載の誘導多能性幹細胞を作製する方法、請求項24に記載の誘導多能性幹細胞、請求項25に記載のキット、請求項26に記載の細胞株もしくは細胞培養集合物、請求項27に記載のトランスジェニック非ヒト動物を作製する方法、請求項28に記載のトランスジェニック非ヒト動物または請求項29に記載の組成物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−516042(P2011−516042A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−500108(P2011−500108)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【国際出願番号】PCT/EP2009/001959
【国際公開番号】WO2009/115295
【国際公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(510251486)へルムホルツ・ツェントルム・ミュンヘン−ドイチェス・フォルシュングスツェントルム・ヒューア・ゲズントハイト・ウント・ウムヴェルト(ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング) (1)
【氏名又は名称原語表記】Helmholtz Zentrum Muenchen − Deutsches Forschungszentrum Fuer Gesundheit und Umwelt (GmbH)
【Fターム(参考)】