部分二重鎖型核酸分子
核酸分子を検出するための核酸分子であって、(a)検出対象とする核酸分子と相補的な単鎖核酸分子と、(b)(a)の単鎖核酸分子の一部分とハイブリダイズする1又は2の単鎖核酸分子とからなる部分二重鎖型核酸分子であり、当該部分二重鎖型核酸分子の単鎖構造をとっている領域が、当該検出対象とする核酸分子における識別部位を含む領域と相補的であることを特徴とする核酸分子を提供する。この核酸分子をプローブとして利用することにより、塩基配列の微細な違いを簡便に識別することが可能になる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プローブやプライマーとして利用可能な核酸分子、及びその用途に関するものである。この核酸分子をプローブとして用いることにより、一塩基変異などの遺伝子配列のわずかな違いを簡易かつ迅速に識別することが可能となる。
【背景技術】
【0002】
従来の技術で、一塩基変異などの微細な塩基配列の違いに対して十分な識別能を持つものは、酵素反応を利用したものに限定される。酵素を用いる解析法は、複雑な系が多く、操作性、コスト、分析時間などに問題がある。
【0003】
一方、酵素を使わない従来技術に、モレキュラービーコン法等があるが、一塩基変異の解析には注意深いプローブ設計が必要となり、ハイスループット化上の問題となる。また、モレキュラービーコンは、プローブ核酸中に識別に関与しない塩基配列を必要とする点で、診断精度上問題になる可能性がある。
【0004】
また、最近、単鎖部分と二重鎖部分とを持つ部分二重鎖型のプローブに関する文献が公表されている(特許文献1、特許文献2、非特許文献1)。これらの文献には、部分二重鎖型構造のプローブを用いて一塩基変異などを識別することが記載されているが、一塩基変異がプローブ上のどの位置に対応するように設計すればよいかといったことについては言及されていない。
【0005】
【特許文献1】国際公開第02/50308号パンフレット
【特許文献2】特表2004−511227号公報(国際公開第02/30946号パンフレット)
【非特許文献1】Qingge Li,Guoyan Luan,Qiuping Guo and Jixuan Liang Nucleic Acids Research,2002,Vol.30,No.2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、塩基配列の微細な違いを簡便に識別できるプローブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、プローブの構造を単鎖部分と二重鎖部分とを持つ部分二重鎖型構造とし、単鎖部分が検出しようとする核酸分子において遺伝的多型の存在が予想される部位などと対応するように、プローブを設計することにより、目的の核酸分子だけを高感度で検出できることを見出し、この知見から本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(16)を提供するものである。
(1)核酸分子を検出するための核酸分子であって、(a)検出対象とする核酸分子と相補的な単鎖核酸分子と、(b)(a)の単鎖核酸分子の一部分とハイブリダイズする1又は2の単鎖核酸分子とからなる部分二重鎖型核酸分子であり、当該部分二重鎖型核酸分子の単鎖構造をとっている領域が、当該検出対象とする核酸分子における識別部位を含む領域と相補的であることを特徴とする核酸分子。
(2)二重鎖構造をとる領域の長さが、10〜200塩基である(1)記載の核酸分子。
(3)単鎖構造をとる領域の長さが、1〜10塩基である(1)又は(2)記載の核酸分子。
(4)(a)の単鎖核酸分子、(b)の単鎖核酸分子のいずれか一方が、ドナー蛍光色素で標識されており、他方がアクセプター蛍光色素で標識されている(1)乃至(3)のいずれか記載の核酸分子。
(5)(a)の単鎖核酸分子と(b)の単鎖核酸分子とがリンカーによって繋げられている(1)乃至(4)のいずれか記載の核酸分子。
(6)リンカーが、核酸である(5)記載の核酸分子。
(7)(1)乃至(6)のいずれか記載の核酸分子を基板上に固定した核酸チップ。
(8)(1)乃至(6)のいずれか記載の核酸分子を、検出対象とする核酸分子とハイブリダイゼーションが可能な条件で接触させる工程を含むことを特徴とする核酸分子の検出方法。
(9)アミン類又は第四級アンモニウム塩の存在下で、(1)乃至(6)のいずれか記載の核酸分子を検出対象とする核酸分子と接触させることを特徴とする(8)記載の核酸分子の検出方法。
(10)カチオン性高分子の存在下で、(1)乃至(6)のいずれか記載の核酸分子を検出対象とする核酸分子と接触させることを特徴とする(8)又は(9)記載の核酸分子の検出方法。
(11)試料とする単鎖核酸分子と基準となる単鎖核酸分子間のミスマッチ配列を検出する方法であって、(a)試料とする単鎖核酸分子と相補的な単鎖核酸分子と、(b)(a)の単鎖核酸分子の一部分とハイブリダイズする1又は2の単鎖核酸分子とからなる部分二重鎖型核酸分子であって、当該部分二重鎖型核酸分子の単鎖構造をとっている領域が、当該試料とする単鎖核酸分子におけるミスマッチ配列の存在が予想される部位を含む領域と相補的である核酸分子を、当該試料とする単鎖核酸分子とハイブリダイゼーションが可能な条件で接触させる工程を含むことを特徴とするミスマッチ配列の検出方法。
(12)アミン類又は第四級アンモニウム塩の存在下で、部分二重鎖型核酸分子を試料とする核酸分子と接触させることを特徴とする(11)記載のミスマッチ配列の検出方法。
(13)カチオン性高分子の存在下で、試料とする単鎖核酸分子を部分二重鎖核酸分子と接触させることを特徴とする(11)又は(12)記載のミスマッチ配列の検出方法。
(14)検出対象とする核酸分子を含むサンプルに、当該検出対象とする核酸分子における識別部位を含まない領域と相補的な第一の検出プローブを加え、次いで、第一の検出プローブと同一の塩基配列を含み、かつ、当該検出対象とする核酸分子における識別部位を含む領域と相補的な第二の検出プローブを加え、検出対象とする核酸分子、第一の検出プローブ及び第二の検出プローブの三者をハイブリダイゼーションが可能な条件で共存させ、その後、検出対象とする核酸分子と第二の検出プローブの結合、又は検出対象とする核酸分子と第一の検出プローブとの解離を指標として、核酸分子の検出を行うことを特徴とする核酸分子の検出方法。
(15)アミン類又は第四級アンモニウム塩の存在下で、検出対象とする核酸分子、第一の検出プローブ及び第二の検出プローブを共存させることを特徴とする(14)記載の核酸分子の検出方法。
(16)カチオン性高分子の存在下で、検出対象とする核酸分子、第一の検出プローブ及び第二の検出プローブを共存させることを特徴とする(14)又は(15)記載の核酸分子の検出方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の核酸分子をプローブ等として用いることにより、一塩基変異などの微細な塩基配列の違いを識別することが可能になる。また、本発明の核酸分子をプローブ等として用いた場合、温度などを厳密に制御する必要がなく、簡便な操作で核酸分子を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の核酸分子の構造を示す図。
【図2】本発明の核酸分子と標的核酸分子との鎖交換過程を示す図。
【図3】本発明の核酸分子を使わない検出方法の概要を示す図。
【図4】実施例で使用したシトクロムP450遺伝子関連オリゴデオキシヌクレオチド(ODN)の相補性等の関係を示す図。
【図5】実施例で使用したABCトランスポーター遺伝子関連ODN(20〜25mer)の相補性等の関係を示す図。
【図6】実施例で使用したABCトランスポーター遺伝子関連ODN(40〜45mer)の相補性等の関係を示す図。
【図7】フルマッチ及びミスマッチODNの蛍光強度の経時的変化を示す図(蛍光色素:FITC)。
【図8】高塩濃度下におけるフルマッチ及びミスマッチODNの蛍光強度の経時的変化を示す図(蛍光色素:FITC)。
【図9】フルマッチ及びミスマッチODNの蛍光強度の経時的変化を示す図(蛍光色素:TAMRA)。
【図10】フルマッチ及びミスマッチ(ミスマッチはプローブの単鎖部分に対応)ODNの鎖交換率の経時的変化を示す図。
【図11】フルマッチ及びミスマッチ(ミスマッチはプローブの二重鎖部分に対応)ODNの鎖交換率の経時的変化を示す図。
【図12】種々の温度におけるフルマッチ及びミスマッチODNの鎖交換速度定数の相対値を示す図。
【図13】テトラメチルアンモニウムクロリド非存在下におけるフルマッチ及びミスマッチODNの鎖交換率の経時的変化を示す図。
【図14】テトラメチルアンモニウムクロリド存在下におけるフルマッチ及びミスマッチODNの鎖交換率の経時的変化を示す図。
【図15】実施例9の鎖交換実験(シトクロムP450遺伝子関連ODN使用)の結果を示す図。
【図16】実施例9の鎖交換実験(ABCトランスポーター遺伝子関連ODN使用)の結果を示す図
【図17】フルマッチ及びミスマッチODN(45mer)の鎖交換率の経時的変化を示す図。
【符号の説明】
【0011】
1:本発明の核酸分子
2:短い単鎖
3:長い単鎖
4:二重鎖部分
5:単鎖部分
6:検出対象とする核酸分子
7:識別部位
8:識別部位を含む領域
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の核酸分子は、核酸分子を検出するための核酸分子であって、(a)検出対象とする核酸分子と相補的な単鎖核酸分子と、(b)(a)の単鎖核酸分子の一部分とハイブリダイズする1又は2の単鎖核酸分子とからなる部分二重鎖型核酸分子であり、当該部分二重鎖型核酸分子の単鎖構造をとっている領域が、当該検出対象とする核酸分子における識別部位を含む領域と相補的であることを特徴とするものである。
【0014】
本発明において「核酸分子」とは、主としてDNAを意味するが、RNAや核酸類似分子(例えば、ペプチド核酸、LNA、モルフォリノヌクレオチドなど)なども含む。
【0015】
「識別部位」とは、検出対象とする核酸分子と、それと類似する核酸分子との間で配列が異なっていると予想される部位をいう。遺伝的多型の存在が予想される部位は、通常識別部位となり得る。本発明の核酸分子は、この識別部位が単鎖構造部分と対応している点に特徴がある。前述したように、部分二重鎖型核酸分子は既に公知であるが、それら公知の核酸分子では、いずれも識別部位が二重鎖構造部分と対応している(例えば、特許文献2の実施例1)。
【0016】
検出対象とする核酸分子は特に限定されないが、本発明の核酸分子は1塩基変異の識別に有効なので、1塩基変異を含む遺伝子などを検出対象とするのが好ましい。
【0017】
(b)の単鎖核酸分子は1本であってもよく、2本でもよい。1本の場合は片側が二重鎖でもう一方の側が単鎖というような構造をとり、2本の場合は両側が二重鎖で中央部分が単鎖というような構造をとる。
【0018】
本発明の核酸分子の二重鎖構造をとる領域の長さは特に限定されないが、通常10〜200塩基程度である。好適な長さは、核酸分子の用途によって異なり、例えば、溶液中でハイブリダイゼーションを行う場合には、10〜60塩基程度が好適であり、核酸チップ等に固定するような場合には、15〜100塩基程度が好適である。
【0019】
本発明の核酸分子の単鎖構造をとる領域の長さは特に限定されないが、通常1〜10塩基程度であり、好ましくは1〜7塩基程度である。
【0020】
(a)の単鎖核酸分子と(b)の単鎖核酸分子とはリンカーによって繋げられていてもよい。リンカーは、核酸であってもよく、それ以外の物質であってもよい。
【0021】
本発明の核酸分子の標識方法は特に限定されず、例えば、(a)の単鎖核酸分子、(b)の単鎖核酸分子のいずれか一方をドナー蛍光色素(例えば、フルオレスセインイソチオシアネートなど)で標識し、他方をアクセプター蛍光色素(例えば、テトラメチルローダミン、ダブシルなど)で標識する方法などを例示できる。この標識方法では、(a)の単鎖核酸分子が(b)の単鎖核酸分子と解離すること(これは、(a)の単鎖核酸分子が検出対象とする核酸分子とハイブリダイズすることを意味する)により、蛍光が生じるので、その蛍光を指標として検出対象核酸分子の検出を行うことができる。
【0022】
本発明の核酸分子をプローブとしてDNAの検出等を行う場合、使用するプローブは1種類だけでもよいが、2種類以上を同時に使用してもよい。2種類以上のプローブを用いる場合としては、後述する生物の遺伝子型を決めるような場合を例示できる。
【0023】
本発明の核酸分子の構造を図1を用いて説明する。本発明の核酸分子1は、短い単鎖2と長い単鎖3とから構成され、両単鎖の長さの違いから二重鎖部分4と単鎖部分5とを持っている。長い単鎖3は、検出対象とする核酸分子6と相補的であり、また、長い単鎖3の単鎖部分5は、検出対象とする核酸分子6における識別部位7を含む領域8と相補的である。
【0024】
本発明の核酸分子がDNA等を高感度で検出できる原理を図2を用いて説明する。
【0025】
本発明の核酸分子と標的核酸分子を共存させると(図2A)、本発明の核酸分子の短鎖と標的核酸分子が交換し、本発明の核酸分子の長鎖と標的核酸分子との二重鎖構造が形成される(図2C)。この鎖交換は、図2Bに示すような遷移状態を経て行われる。単鎖部位が標的核酸と相同的であれば、遷移複合体の生成が促される。
【0026】
しかし、標的核酸分子にミスマッチ配列が含まれている場合には、上述したような遷移複合体形成は促されず(図2D)、従って、鎖交換も起こらない(図2E)。このような遷移複合体の形成の難易により、微細な配列の違いを識別できるようになる。
【0027】
本発明の核酸分子を基板上に固定することにより、核酸チップを作製することができる。この際、使用する基板は一般的なDNAチップなどに用いられるものでよい。固定方法も一般的なDNAチップと同様の方法でよい。なお、基板には、(a)の単鎖核酸分子の方を固定しても(b)の単鎖核酸分子を固定してもよい。
【0028】
本発明の核酸分子による核酸分子の検出は、例えば、本発明の核酸分子を検出対象とする核酸分子とハイブリダイゼーションが可能な条件で接触させることにより行うことができる。両核酸分子を接触させる際の条件は、ハイブリダイゼーションが可能な条件であれば特に限定されないが、アミン類(例えば、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミンなど)又は第四級アンモニウム塩の存在下で接触させることが好ましい。
【0029】
ここで使用するアミン類および第四級アンモニウム塩としては、イソプロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミドなどを挙げることができ、これらの中でも、テトラメチルアンモニウムクロリドを使用するのが好ましい。使用するアミン類または第四級アンモニウム塩の量は特に限定されず、通常、0.05〜5M、好ましくは0.5〜4M程度になるように添加すればよい。
【0030】
核酸分子を接触させる際には、カチオン性高分子の存在下で行うことも好ましい。
【0031】
使用するカチオン性高分子としては、国際公開03/018841号パンフレットに開示されている親水性グラフト共重合体(カチオン性基を形成し得るモノマーから構成されるポリマーを主鎖とし、親水性高分子を側鎖とするグラフト共重合体)及びPC重合体(ホスホリルコリン類似基含有単量体、およびカチオン性基を有するカチオン性単量体を重合してなる重合体)などを挙げることができる。具体的な化合物は、国際公開03/018841号パンフレットに開示されている化合物すべてが含まれるが、代表的なものとして、親水性グラフト共重合体としては、デキストラン側鎖修飾α−ポリ(L−リジン)、デキストラン側鎖修飾ε−ポリ(L−リジン)、デキストラン側鎖修飾ポリアリルアミンを例示でき、PC重合体としては、2−(メタクリロイルオキシ)エチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェートと一級のアミノ基を有するアミノエチルアクリレート(塩酸塩)とを重合してなる重合体、2−(メタクリロイルオキシ)エチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェートと四級のアンモニウム基を有する[2−(アクリロイルオキシアミノ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド、2−(メタクリロイルオキシ)エチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェートと2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドとを重合してなる重合体を例示できる。使用するカチオン性高分子の量は特に限定されないが、核酸分子のリン酸基に対するカチオン性高分子のカチオン性基の比が0.01〜1000になるようにするのが好ましい。
【0032】
また、本発明の核酸分子は、ミスマッチ配列の検出にも利用できる。即ち、試料とする単鎖核酸分子と基準となる単鎖核酸分子間のミスマッチ配列を検出する際に、本発明の核酸分子を、当該試料とする単鎖核酸分子とハイブリダイゼーションが可能な条件で接触させることにより、ミスマッチ配列を検出できる。この際、ミスマッチ配列の存在が予想される部位が、本発明の核酸分子の単鎖構造をとっている領域と対応するようにする。
【0033】
本発明の核酸分子は、生物の遺伝子型の決定、即ち、ある生物の遺伝子型が野生型、ヘテロ変異型、ホモ変異型のいずれであるかを決定することに利用できる。具体的には、野生型の遺伝子を検出する核酸分子と変異型の遺伝子を検出する核酸分子を作製し、それぞれを異なる方法で標識し(例えば、異なる蛍光色素で標識するなど)、2種類の核酸分子を被検生物由来の核酸分子と共存させることにより行う。このとき、野生型の遺伝子だけが検出されれば被検生物は野生型であり、変異型の遺伝子だけが検出されれば被検生物はホモ変異型であり、両方の遺伝子が検出されれば被検生物はヘテロ変異型であると判定できる。
【0034】
本発明の核酸分子を使わずに、図3で説明した原理を利用して、核酸分子の検出を行うことも可能である。例えば、以下のような方法が考えられる。
【0035】
検出対象とする核酸分子を含むサンプルに、当該検出対象とする核酸分子における識別部位を含まない領域と相補的な第一の検出プローブを加える。これにより、第一の検出プローブは、検出対象とする核酸分子とハイブリダイズする(図3B)。このとき、検出対象とする核酸分子における識別部位は、単鎖状態のままである。
【0036】
次に、第一の検出プローブと同一の塩基配列を含み、かつ、当該検出対象とする核酸分子における識別部位を含む領域と相補的な第二の検出プローブを加える。このとき、検出対象とする核酸分子の識別部位の配列が、第二の検出プローブの対応部位の配列と相補的であれば、図3Cに示すような遷移複合体が形成され、更に、第一の検出プローブの解離が起こる(図3D)。一方、検出対象とする核酸分子の識別部位の配列が、第二の検出プローブの対応部位の配列と相補的でない場合は、遷移複合体は形成されず、第一の検出プローブの解離も起こらない。
【0037】
従って、検出対象とする核酸分子と第二の検出プローブの結合、又は検出対象とする核酸分子と第一の検出プローブとの解離を指標として、サンプル中に検出対象とする核酸分子が存在したかどうかを高い精度で判定することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
【0039】
最初に本実施例で使用したODNについて説明する。
(A)シトクロムP450遺伝子関連ODN
シトクロムP450遺伝子に関連するODNとしては、F1、D1、C1、M1、M2、M3、M4、T1の8種類のODNを使用した。これらのODNの関係を図4に示す。
(1)F1及びD1
F1は、5’末端がフルオレスセインイソチオシアネート(FITC)で標識されているODNであり、D1は、3’末端がダブシル(DAB)で標識されているODNである。F1とD1は互いに相補的なODNであるが、鎖長はそれぞれ19塩基と14塩基であり、F1は、D1と二重鎖DNAを形成しても、3’末端側に単鎖部分が連続して5塩基存在する。
F1及びD1の塩基配列をそれぞれ配列番号2及び配列番号1に示す。
(2)C1
C1はF1と相補的二重鎖を形成できる完全に相補的な未標識ODNである。
C1の塩基配列を配列番号3に示す。
(3)M1、M2、M3
M1、M2、M3は、それぞれ5’末端近傍、中央部、3’末端近傍に一塩基変異を持ち、F1との二重鎖ではミスマッチ塩基対を形成する。これらのODNの鎖長はいずれも19塩基である。
M1、M2、及びM3の塩基配列をそれぞれ配列番号4、配列番号5及び配列番号6に示す。
(4)M4
M4は、D1と同一の配列を持ち、鎖長は14塩基である。
M4の塩基配列を配列番号7に示す。
(5)T1
T1は、5’末端がテトラメチルローダミン(TAMRA)で標識されているODNである。T1は、D1と相補的なODNであるが、鎖長は19塩基であり、F1と同様に、D1と二重鎖DNAを形成しても3’末端側に単鎖部分が連続して5塩基存在する。
T1は、F1とは逆に、M1と完全に相補的で、C1とは5’末端近傍でミスマッチ塩基対を形成する。
【0040】
T1の塩基配列を配列番号8に示す。
(B)ABCトランスポーター遺伝子関連ODN
ABCトランスポーター遺伝子に関連するODNとしては、F2、D2、A1、A2、A3、T2、D3、T3、45A1、45A2の10種類のODNを使用した。F2、D2、A1、A2、A3、T2の関係及びD3、T3、45A1、45A2の関係をそれぞれ図5及び図6に示す。
(1)F2及びD2
F2は、5’末端がFITCで標識されているODNであり、D2は、3’末端がDABで標識されているODNである。F2とD2は互いに相補的なODNであるが、鎖長はそれぞれ25塩基と20塩基であり、F2はD2と二重鎖DNAを形成しても3’末端側に単鎖部分が連続して5塩基存在する。F2/D2の単鎖部分は、ATリッチな配列になっている。
F2及びD2の塩基配列をそれぞれ配列番号14及び配列番号9に示す。
(2)A1
A1はT2と相補的二重鎖を形成できる完全に相補的な未標識ODNである。
A1の塩基配列を配列番号11に示す。
(3)A2
A2は、5’末端近傍に一塩基変異を持ち、T2との二重鎖ではミスマッチ塩基対を形成する鎖長25塩基のODNである。
A2の塩基配列を配列番号12に示す。
(4)A3
A3は、中央部に一塩基変異を持ち、T2との二重鎖ではミスマッチ塩基対を形成する鎖長25塩基のODNである。
A3の塩基配列を配列番号13に示す。
(5)T2
T2は、5’末端がTAMRAで標識されているODNである。T2は、D2と相補的なODNであるが、鎖長は25塩基であり、F2と同様に、D2と二重鎖DNAを形成しても3’末端側に単鎖部分が連続して5塩基存在する。
T2の塩基配列を配列番号10に示す。
(6)T3及びD3
T3は、5’末端がTAMRAで標識されているODNであり、D3は、3’末端がDABで標識されているODNである。T3とD3は互いに相補的な塩基配列であるが、鎖長はそれぞれ45塩基と40塩基であり、T3はD3と二重鎖DNAを形成しても3’末端側に単鎖部分が連続して5塩基存在する。
T3及びD3の塩基配列をそれぞれ配列番号16及び配列番号15に示す。
(7)45A1
45A1はT3と相補的二重鎖を形成できる完全に相補的な未標識ODNである。
45A1の塩基配列を配列番号17に示す。
(8)45A2
45A2は、5’末端近傍に一塩基変異を持ち、T3との二重鎖ではミスマッチ塩基対を形成する鎖長45塩基のODNである。
45A2の塩基配列を配列番号18に示す。
なお、以上のODNは、ファスマック(株)より購入し、逆相クロマトグラフィーにより精製したものである。
【0041】
〔実施例1〕
等モル量のF1とD1をPBS緩衝液([Na+]=150mM,pH7.2)に加えた。この緩衝液を90℃に加熱し、その後徐冷し、12nMの部分二重鎖型プローブF1/D1を含む溶液を調製した。この溶液を20℃に保ち、単鎖としてC1、M1、M2、M3、又はM4を60nMになるように加え、鎖交換反応を開始させた。鎖交換の進行はDABにより消光されていたFITCの蛍光(励起波長:490nm、蛍光波長:520nm)の回復により検出した。
反応開始後の蛍光強度の経時的変化を図7に示す。また、反応開始から5分後、10分後、20分後の蛍光強度を表1に示す。更に、各単鎖の鎖交換速度定数の相対値を表2に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
これらの図及び表に示すように、変異を含む単鎖(M1、M2、M3)よりも、完全に相補的な単鎖(C1)の方が速やかに鎖交換が進行した。C1との速度差は、5’末端近傍部位に変異を含むM1(変異はF1の単鎖部分に対応する)、中央部分に変異を含むM2、3’末端近傍部位に変異を含むM3の順に大きく、C1とM3の間にはあまり大きさ差はみられなかった。
以上のことから、ミスマッチ配列が単鎖部分に対応するように、部分二重鎖型プローブを設計することにより、高感度でミスマッチ配列を検出できると考えられる。
【0044】
〔実施例2〕
PBS緩衝液のナトリウムイオン濃度を1000mMとし、また、添加する単鎖をC1又はM1の2種類とし、他は実施例1と同様に鎖交換反応を行った。
反応開始後の蛍光強度の経時的変化を図8に示す。また、C1又はM1の鎖交換速度定数の相対値を表3に示す。
【0045】
【表3】
表に示すように、ナトリウムイオン濃度を1000mMに変更しても、実施例1の場合と同様に、変異を含む単鎖(M1)と完全に相補的な単鎖(C1)の間には、鎖交換速度に大きな差異がみられた。また、ナトリウムイオン濃度を高めることにより、変異を含む単鎖及び完全に相補的な単鎖のいずれの場合も鎖交換速度が上昇した。
【0046】
〔実施例3〕
部分二重鎖型プローブとしてT1/D1を使用し、また、添加する単鎖をC1又はM1の2種類とし、更に、鎖交換の進行をTAMRAの蛍光(励起波長:540nm、蛍光波長:570nm)の回復により検出することとし、他は実施例1と同様に鎖交換反応を行った。
反応開始後の蛍光強度の経時的変化を図9に示す。また、反応開始から5分後、10分後、20分後の蛍光強度を表4に示す。更に、各単鎖の鎖交換速度定数の相対値を表5に示す。
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
これらの図及び表に示すように、実施例1の場合と同様に、変異を含む単鎖(C1)と完全に相補的な単鎖(M1)の間には、鎖交換速度に大きな差異がみられた。この結果から、部分二重鎖型プローブは、A−TとA−C間の塩基対の違いだけでなく、検出の難しいG−CとG−T間の塩基対の違いも高感度で検出できると考えられる。
【0049】
〔実施例4〕
等モル量のT2とD2をPBS緩衝液([Na+]=150mM,pH7.2)に加えた。この緩衝液を90℃に加熱し、その後徐冷し、12nMの部分二重鎖型プローブT2/D2を含む溶液を調製した。この溶液を20℃に保ち、単鎖としてA1又はA2を60nMになるように加え、鎖交換反応を開始させた。鎖交換の進行はDABにより消光されていたTAMRAの蛍光の回復により検出した。
反応開始後の鎖交換率(鎖交換過程の追跡後にアニーリングさせ、その後の蛍光強度を100%とした。)の経時的変化を図10に示す。また、反応開始から5分後、10分後、20分後の蛍光強度を表6に示す。更に、各単鎖の鎖交換速度定数の相対値を表7に示す。
【0050】
【表6】
【0051】
【表7】
これらの図及び表に示すように、T2の単鎖部分に対応する変異を含む単鎖(A2)と完全に相補的な単鎖(A1)の間には、鎖交換速度に大きな差異がみられた。
【0052】
〔参考例1〕
添加する単鎖をA1又はA3とし、他は実施例4と同様に鎖交換反応を行った。
反応開始後の鎖交換率の経時的変化を図11に示す。また、反応開始から5分後、10分後、20分後の蛍光強度を表8に示す。更に、各単鎖の鎖交換速度定数の相対値を表9に示す。
【0053】
【表8】
【0054】
【表9】
これらの図及び表に示すように、T2の二重鎖部分に対応する変異を含む単鎖(A3)と完全に相補的な単鎖(A1)の間には、鎖交換速度にあまり大きな差異はみられなかった。この結果及び実施例4の結果から、ミスマッチ配列が、二重鎖部分ではなく、単鎖部分に対応するように、部分二重鎖型プローブを設計することにより、プローブの検出感度を大幅に向上させることができると考えられる。
【0055】
〔実施例5〕
鎖交換反応時の溶液の温度を10℃、20℃、28℃、37℃の四通りの条件とし、他は実施例4と同様に鎖交換反応を行った。
各温度における変異を含む単鎖(A2)と完全に相補的な単鎖(A1)の速度定数の相対値を図12に示す。また、各温度における変異を含む単鎖(A2)と完全に相補的な単鎖(A1)との速度比(A1の鎖交換速度定数をA2の鎖交換速度定数で割った値)を表10に示す。
【0056】
【表10】
これらの図及び表に示すように、いずれの温度においても変異を含む単鎖と完全に相補的な単鎖の間には、鎖交換速度に大きな差異がみられた。また、温度が低い方が速度の差(速度比)が大きかった。以上の結果から、10〜37℃といった温度範囲内であれば、高感度でミスマッチ配列を検出できると考えられる。
【0057】
〔実施例6〕
部分二重鎖型プローブの濃度を12nM、9nM、6nM、4nM、3nM、1.2nMの六通りの条件とし、また、単鎖の濃度を60nM、45nM、30nM、20nM、15nM、6nMの六通りの条件とし、他は実施例4と同様に鎖交換反応を行った。
各濃度の組み合わせにおける変異を含む単鎖(A2)と完全に相補的な単鎖(A1)との速度比(A1の鎖交換速度定数をA2の鎖交換速度定数で割った値)を表11に示す。
【0058】
【表11】
表に示すように、いずれの濃度の組み合わせにおいても変異を含む単鎖と完全に相補的な単鎖の間には、鎖交換速度に大きな差異がみられた。
【0059】
〔実施例7〕
添加する単鎖をC1又はM1の2種類とし、鎖交換反応を国際公開03/018841号パンフレット記載のカチオン性高分子(デキストラン側鎖修飾α−ポリ(L−リジン))の存在下で行うこととし、他は実施例1と同様に鎖交換反応を行った。カチオン性高分子は、N/P比(カチオン性高分子のアミノ基に対するODNのリン酸基の量)が0.2と0.4の二通りの条件で加えた。
カチオン性高分子存在下(N/P=0.2,0.4)及び非存在下(N/P=0)における各単鎖の鎖交換速度定数の相対値、並びに変異を含む単鎖(M1)と完全に相補的な単鎖(C1)との速度比(C1の鎖交換速度定数をM1の鎖交換速度定数で割った値)を表12に示す。
【0060】
【表12】
表に示すように、カチオン性高分子を加えることにより、変異を含む単鎖及び完全に相補的な単鎖のいずれの場合も鎖交換速度が著しく上昇した。この結果から、鎖交換速度が低くなるような条件(例えば、単鎖やプローブが低濃度でしか存在しない条件)であっても、カチオン性高分子を添加することにより、高感度でミスマッチ配列を検出できると考えられる。
【0061】
〔参考例2〕
等モル量のF2とD2をPBS緩衝液([Na+]=150mM,pH7.2)に加えた。この緩衝液を90℃に加熱し、その後徐冷し、12nMの部分二重鎖型プローブF2/D2を含む溶液を調製した。この溶液を37℃に保ち、単鎖としてA1又はA2を60nMになるように加え、鎖交換反応を開始させた。鎖交換の進行はDABにより消光されていたFITCの蛍光の回復により検出した。
反応開始後の鎖交換率の経時的変化を図13に示す。また、変異を含む単鎖(A1)と完全に相補的な単鎖(A2)との速度比(A2の鎖交換速度定数をA1の鎖交換速度定数で割った値)は2.9であった。
図に示すように、変異を含む単鎖(A1)と完全に相補的な単鎖(A2)の間には、鎖交換速度にあまり大きな差異がみられなかった。また、いずれの単鎖を用いた場合も、鎖交換速度はあまり高くなかった。この結果から、検出しようとする単鎖のGC含量や温度等の条件によっては、高感度でミスマッチ配列を検出できない場合もあり得ると考えられる。
【0062】
〔実施例8〕
PBS緩衝液中にテトラメチルアンモニウムクロリド(TMAC)を3Mになるように加え、他は参考例2と同様に鎖交換反応を行った。
反応開始後の鎖交換率の経時的変化を図14に示す。また、変異を含む単鎖(A1)と完全に相補的な単鎖(A2)との速度比(A2の鎖交換速度定数をA1の鎖交換速度定数で割った値)は10.8であった。
図に示すように、参考例2の場合とは異なり、変異を含む単鎖(A1)と完全に相補的な単鎖(A2)の間には、鎖交換速度に大きな差異がみられた。また、鎖交換速度も大きく向上した。この結果から、参考例2の条件であっても、TMACを添加することにより、高感度でミスマッチ配列を検出できるようになると考えられる。
【0063】
〔実施例9〕
部分二重鎖型プローブF1/D1(FITC標識)と部分二重鎖型プローブT1/D1(TAMRA標識)とを作製し、3MのTMACを含むPBS緩衝液([Na+]=150mM,pH7.2)に、この2種類のプローブをそれぞれ12nMになるように加えた。この緩衝液に、M1、C1+M1、又はC1を60nM(C1+M1の場合は両単鎖の合わせた濃度が60nMになるようにした。)になるように添加し、室温条件下で、鎖交換反応を開始させた。反応開始から5分後に、プレートリーダーでFITCの蛍光強度とTAMRAの蛍光強度を同時に測定した。この操作を、各単鎖について4回、合計12回行った。12回の測定値を図15に示す。
図に示すように、M1を加えた場合にはTAMRAの蛍光は検出されたが、FITCの蛍光はほとんど検出されず、逆に、C1を加えた場合にはFITCの蛍光は検出されたが、TAMRAの蛍光はほとんど検出されなかった。このことは、M1を加えた場合には、T1/D1プローブの鎖交換は起きたが、F1/D1プローブの鎖交換はほとんど起きず、C1を加えた場合には、T1/D1プローブの鎖交換はほとんど起きなかったが、F1/D1プローブの鎖交換は起きた、ということを意味する。M1とT1、C1とF1がそれぞれ完全に相補的なので、図15の結果は、T1/D1プローブ及びF1/D1プローブのいずれも、完全に相補的な単鎖を高い精度で識別していたことを示すものである。
以上のシトクロムP450遺伝子関連ODNの実験をABCトランスポーター遺伝子関連ODNについても行った。即ち、F1/D1プローブの代わりにF2/D2プローブを使用し、T1/D1プローブの代わりにT2/D2プローブを使用し、C1の代わりにA2を使用し、M1の代わりにA1を使用し、同様の実験を行った。この結果を図16に示す。図に示すように、シトクロムP450遺伝子関連ODNの場合と同様、部分二重鎖型プローブは完全に相補的な単鎖を高い精度で識別していた。
【0064】
〔実施例10〕
部分二重鎖型プローブとしてT3/D3を使用し、また、添加する単鎖を45A1又は45A2のとし、他は実施例4と同様に鎖交換反応を行った。
反応開始後の鎖交換率の経時的変化を図17に示す。また、反応開始から5分後、10分後、20分後の蛍光強度を表13に示す。更に、各単鎖の鎖交換速度の相対値を表14に示す。
【0065】
【表13】
【0066】
【表14】
これらの図及び表に示すように、変異を含む単鎖(45A2)と完全に相補的な単鎖(45A1)の間には、鎖交換速度に大きな差異がみられた。
【0067】
以上の結果から、二重鎖部分が40塩基程度の長さであっても、高感度でミスマッチ配列を検出できると考えられる。
【0068】
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2003−282311の明細書および/または図面に記載されている内容を包含する。また、本発明で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとりいれるものとする。
【技術分野】
【0001】
本発明は、プローブやプライマーとして利用可能な核酸分子、及びその用途に関するものである。この核酸分子をプローブとして用いることにより、一塩基変異などの遺伝子配列のわずかな違いを簡易かつ迅速に識別することが可能となる。
【背景技術】
【0002】
従来の技術で、一塩基変異などの微細な塩基配列の違いに対して十分な識別能を持つものは、酵素反応を利用したものに限定される。酵素を用いる解析法は、複雑な系が多く、操作性、コスト、分析時間などに問題がある。
【0003】
一方、酵素を使わない従来技術に、モレキュラービーコン法等があるが、一塩基変異の解析には注意深いプローブ設計が必要となり、ハイスループット化上の問題となる。また、モレキュラービーコンは、プローブ核酸中に識別に関与しない塩基配列を必要とする点で、診断精度上問題になる可能性がある。
【0004】
また、最近、単鎖部分と二重鎖部分とを持つ部分二重鎖型のプローブに関する文献が公表されている(特許文献1、特許文献2、非特許文献1)。これらの文献には、部分二重鎖型構造のプローブを用いて一塩基変異などを識別することが記載されているが、一塩基変異がプローブ上のどの位置に対応するように設計すればよいかといったことについては言及されていない。
【0005】
【特許文献1】国際公開第02/50308号パンフレット
【特許文献2】特表2004−511227号公報(国際公開第02/30946号パンフレット)
【非特許文献1】Qingge Li,Guoyan Luan,Qiuping Guo and Jixuan Liang Nucleic Acids Research,2002,Vol.30,No.2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、塩基配列の微細な違いを簡便に識別できるプローブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、プローブの構造を単鎖部分と二重鎖部分とを持つ部分二重鎖型構造とし、単鎖部分が検出しようとする核酸分子において遺伝的多型の存在が予想される部位などと対応するように、プローブを設計することにより、目的の核酸分子だけを高感度で検出できることを見出し、この知見から本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(16)を提供するものである。
(1)核酸分子を検出するための核酸分子であって、(a)検出対象とする核酸分子と相補的な単鎖核酸分子と、(b)(a)の単鎖核酸分子の一部分とハイブリダイズする1又は2の単鎖核酸分子とからなる部分二重鎖型核酸分子であり、当該部分二重鎖型核酸分子の単鎖構造をとっている領域が、当該検出対象とする核酸分子における識別部位を含む領域と相補的であることを特徴とする核酸分子。
(2)二重鎖構造をとる領域の長さが、10〜200塩基である(1)記載の核酸分子。
(3)単鎖構造をとる領域の長さが、1〜10塩基である(1)又は(2)記載の核酸分子。
(4)(a)の単鎖核酸分子、(b)の単鎖核酸分子のいずれか一方が、ドナー蛍光色素で標識されており、他方がアクセプター蛍光色素で標識されている(1)乃至(3)のいずれか記載の核酸分子。
(5)(a)の単鎖核酸分子と(b)の単鎖核酸分子とがリンカーによって繋げられている(1)乃至(4)のいずれか記載の核酸分子。
(6)リンカーが、核酸である(5)記載の核酸分子。
(7)(1)乃至(6)のいずれか記載の核酸分子を基板上に固定した核酸チップ。
(8)(1)乃至(6)のいずれか記載の核酸分子を、検出対象とする核酸分子とハイブリダイゼーションが可能な条件で接触させる工程を含むことを特徴とする核酸分子の検出方法。
(9)アミン類又は第四級アンモニウム塩の存在下で、(1)乃至(6)のいずれか記載の核酸分子を検出対象とする核酸分子と接触させることを特徴とする(8)記載の核酸分子の検出方法。
(10)カチオン性高分子の存在下で、(1)乃至(6)のいずれか記載の核酸分子を検出対象とする核酸分子と接触させることを特徴とする(8)又は(9)記載の核酸分子の検出方法。
(11)試料とする単鎖核酸分子と基準となる単鎖核酸分子間のミスマッチ配列を検出する方法であって、(a)試料とする単鎖核酸分子と相補的な単鎖核酸分子と、(b)(a)の単鎖核酸分子の一部分とハイブリダイズする1又は2の単鎖核酸分子とからなる部分二重鎖型核酸分子であって、当該部分二重鎖型核酸分子の単鎖構造をとっている領域が、当該試料とする単鎖核酸分子におけるミスマッチ配列の存在が予想される部位を含む領域と相補的である核酸分子を、当該試料とする単鎖核酸分子とハイブリダイゼーションが可能な条件で接触させる工程を含むことを特徴とするミスマッチ配列の検出方法。
(12)アミン類又は第四級アンモニウム塩の存在下で、部分二重鎖型核酸分子を試料とする核酸分子と接触させることを特徴とする(11)記載のミスマッチ配列の検出方法。
(13)カチオン性高分子の存在下で、試料とする単鎖核酸分子を部分二重鎖核酸分子と接触させることを特徴とする(11)又は(12)記載のミスマッチ配列の検出方法。
(14)検出対象とする核酸分子を含むサンプルに、当該検出対象とする核酸分子における識別部位を含まない領域と相補的な第一の検出プローブを加え、次いで、第一の検出プローブと同一の塩基配列を含み、かつ、当該検出対象とする核酸分子における識別部位を含む領域と相補的な第二の検出プローブを加え、検出対象とする核酸分子、第一の検出プローブ及び第二の検出プローブの三者をハイブリダイゼーションが可能な条件で共存させ、その後、検出対象とする核酸分子と第二の検出プローブの結合、又は検出対象とする核酸分子と第一の検出プローブとの解離を指標として、核酸分子の検出を行うことを特徴とする核酸分子の検出方法。
(15)アミン類又は第四級アンモニウム塩の存在下で、検出対象とする核酸分子、第一の検出プローブ及び第二の検出プローブを共存させることを特徴とする(14)記載の核酸分子の検出方法。
(16)カチオン性高分子の存在下で、検出対象とする核酸分子、第一の検出プローブ及び第二の検出プローブを共存させることを特徴とする(14)又は(15)記載の核酸分子の検出方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の核酸分子をプローブ等として用いることにより、一塩基変異などの微細な塩基配列の違いを識別することが可能になる。また、本発明の核酸分子をプローブ等として用いた場合、温度などを厳密に制御する必要がなく、簡便な操作で核酸分子を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の核酸分子の構造を示す図。
【図2】本発明の核酸分子と標的核酸分子との鎖交換過程を示す図。
【図3】本発明の核酸分子を使わない検出方法の概要を示す図。
【図4】実施例で使用したシトクロムP450遺伝子関連オリゴデオキシヌクレオチド(ODN)の相補性等の関係を示す図。
【図5】実施例で使用したABCトランスポーター遺伝子関連ODN(20〜25mer)の相補性等の関係を示す図。
【図6】実施例で使用したABCトランスポーター遺伝子関連ODN(40〜45mer)の相補性等の関係を示す図。
【図7】フルマッチ及びミスマッチODNの蛍光強度の経時的変化を示す図(蛍光色素:FITC)。
【図8】高塩濃度下におけるフルマッチ及びミスマッチODNの蛍光強度の経時的変化を示す図(蛍光色素:FITC)。
【図9】フルマッチ及びミスマッチODNの蛍光強度の経時的変化を示す図(蛍光色素:TAMRA)。
【図10】フルマッチ及びミスマッチ(ミスマッチはプローブの単鎖部分に対応)ODNの鎖交換率の経時的変化を示す図。
【図11】フルマッチ及びミスマッチ(ミスマッチはプローブの二重鎖部分に対応)ODNの鎖交換率の経時的変化を示す図。
【図12】種々の温度におけるフルマッチ及びミスマッチODNの鎖交換速度定数の相対値を示す図。
【図13】テトラメチルアンモニウムクロリド非存在下におけるフルマッチ及びミスマッチODNの鎖交換率の経時的変化を示す図。
【図14】テトラメチルアンモニウムクロリド存在下におけるフルマッチ及びミスマッチODNの鎖交換率の経時的変化を示す図。
【図15】実施例9の鎖交換実験(シトクロムP450遺伝子関連ODN使用)の結果を示す図。
【図16】実施例9の鎖交換実験(ABCトランスポーター遺伝子関連ODN使用)の結果を示す図
【図17】フルマッチ及びミスマッチODN(45mer)の鎖交換率の経時的変化を示す図。
【符号の説明】
【0011】
1:本発明の核酸分子
2:短い単鎖
3:長い単鎖
4:二重鎖部分
5:単鎖部分
6:検出対象とする核酸分子
7:識別部位
8:識別部位を含む領域
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の核酸分子は、核酸分子を検出するための核酸分子であって、(a)検出対象とする核酸分子と相補的な単鎖核酸分子と、(b)(a)の単鎖核酸分子の一部分とハイブリダイズする1又は2の単鎖核酸分子とからなる部分二重鎖型核酸分子であり、当該部分二重鎖型核酸分子の単鎖構造をとっている領域が、当該検出対象とする核酸分子における識別部位を含む領域と相補的であることを特徴とするものである。
【0014】
本発明において「核酸分子」とは、主としてDNAを意味するが、RNAや核酸類似分子(例えば、ペプチド核酸、LNA、モルフォリノヌクレオチドなど)なども含む。
【0015】
「識別部位」とは、検出対象とする核酸分子と、それと類似する核酸分子との間で配列が異なっていると予想される部位をいう。遺伝的多型の存在が予想される部位は、通常識別部位となり得る。本発明の核酸分子は、この識別部位が単鎖構造部分と対応している点に特徴がある。前述したように、部分二重鎖型核酸分子は既に公知であるが、それら公知の核酸分子では、いずれも識別部位が二重鎖構造部分と対応している(例えば、特許文献2の実施例1)。
【0016】
検出対象とする核酸分子は特に限定されないが、本発明の核酸分子は1塩基変異の識別に有効なので、1塩基変異を含む遺伝子などを検出対象とするのが好ましい。
【0017】
(b)の単鎖核酸分子は1本であってもよく、2本でもよい。1本の場合は片側が二重鎖でもう一方の側が単鎖というような構造をとり、2本の場合は両側が二重鎖で中央部分が単鎖というような構造をとる。
【0018】
本発明の核酸分子の二重鎖構造をとる領域の長さは特に限定されないが、通常10〜200塩基程度である。好適な長さは、核酸分子の用途によって異なり、例えば、溶液中でハイブリダイゼーションを行う場合には、10〜60塩基程度が好適であり、核酸チップ等に固定するような場合には、15〜100塩基程度が好適である。
【0019】
本発明の核酸分子の単鎖構造をとる領域の長さは特に限定されないが、通常1〜10塩基程度であり、好ましくは1〜7塩基程度である。
【0020】
(a)の単鎖核酸分子と(b)の単鎖核酸分子とはリンカーによって繋げられていてもよい。リンカーは、核酸であってもよく、それ以外の物質であってもよい。
【0021】
本発明の核酸分子の標識方法は特に限定されず、例えば、(a)の単鎖核酸分子、(b)の単鎖核酸分子のいずれか一方をドナー蛍光色素(例えば、フルオレスセインイソチオシアネートなど)で標識し、他方をアクセプター蛍光色素(例えば、テトラメチルローダミン、ダブシルなど)で標識する方法などを例示できる。この標識方法では、(a)の単鎖核酸分子が(b)の単鎖核酸分子と解離すること(これは、(a)の単鎖核酸分子が検出対象とする核酸分子とハイブリダイズすることを意味する)により、蛍光が生じるので、その蛍光を指標として検出対象核酸分子の検出を行うことができる。
【0022】
本発明の核酸分子をプローブとしてDNAの検出等を行う場合、使用するプローブは1種類だけでもよいが、2種類以上を同時に使用してもよい。2種類以上のプローブを用いる場合としては、後述する生物の遺伝子型を決めるような場合を例示できる。
【0023】
本発明の核酸分子の構造を図1を用いて説明する。本発明の核酸分子1は、短い単鎖2と長い単鎖3とから構成され、両単鎖の長さの違いから二重鎖部分4と単鎖部分5とを持っている。長い単鎖3は、検出対象とする核酸分子6と相補的であり、また、長い単鎖3の単鎖部分5は、検出対象とする核酸分子6における識別部位7を含む領域8と相補的である。
【0024】
本発明の核酸分子がDNA等を高感度で検出できる原理を図2を用いて説明する。
【0025】
本発明の核酸分子と標的核酸分子を共存させると(図2A)、本発明の核酸分子の短鎖と標的核酸分子が交換し、本発明の核酸分子の長鎖と標的核酸分子との二重鎖構造が形成される(図2C)。この鎖交換は、図2Bに示すような遷移状態を経て行われる。単鎖部位が標的核酸と相同的であれば、遷移複合体の生成が促される。
【0026】
しかし、標的核酸分子にミスマッチ配列が含まれている場合には、上述したような遷移複合体形成は促されず(図2D)、従って、鎖交換も起こらない(図2E)。このような遷移複合体の形成の難易により、微細な配列の違いを識別できるようになる。
【0027】
本発明の核酸分子を基板上に固定することにより、核酸チップを作製することができる。この際、使用する基板は一般的なDNAチップなどに用いられるものでよい。固定方法も一般的なDNAチップと同様の方法でよい。なお、基板には、(a)の単鎖核酸分子の方を固定しても(b)の単鎖核酸分子を固定してもよい。
【0028】
本発明の核酸分子による核酸分子の検出は、例えば、本発明の核酸分子を検出対象とする核酸分子とハイブリダイゼーションが可能な条件で接触させることにより行うことができる。両核酸分子を接触させる際の条件は、ハイブリダイゼーションが可能な条件であれば特に限定されないが、アミン類(例えば、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミンなど)又は第四級アンモニウム塩の存在下で接触させることが好ましい。
【0029】
ここで使用するアミン類および第四級アンモニウム塩としては、イソプロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミドなどを挙げることができ、これらの中でも、テトラメチルアンモニウムクロリドを使用するのが好ましい。使用するアミン類または第四級アンモニウム塩の量は特に限定されず、通常、0.05〜5M、好ましくは0.5〜4M程度になるように添加すればよい。
【0030】
核酸分子を接触させる際には、カチオン性高分子の存在下で行うことも好ましい。
【0031】
使用するカチオン性高分子としては、国際公開03/018841号パンフレットに開示されている親水性グラフト共重合体(カチオン性基を形成し得るモノマーから構成されるポリマーを主鎖とし、親水性高分子を側鎖とするグラフト共重合体)及びPC重合体(ホスホリルコリン類似基含有単量体、およびカチオン性基を有するカチオン性単量体を重合してなる重合体)などを挙げることができる。具体的な化合物は、国際公開03/018841号パンフレットに開示されている化合物すべてが含まれるが、代表的なものとして、親水性グラフト共重合体としては、デキストラン側鎖修飾α−ポリ(L−リジン)、デキストラン側鎖修飾ε−ポリ(L−リジン)、デキストラン側鎖修飾ポリアリルアミンを例示でき、PC重合体としては、2−(メタクリロイルオキシ)エチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェートと一級のアミノ基を有するアミノエチルアクリレート(塩酸塩)とを重合してなる重合体、2−(メタクリロイルオキシ)エチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェートと四級のアンモニウム基を有する[2−(アクリロイルオキシアミノ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド、2−(メタクリロイルオキシ)エチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェートと2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドとを重合してなる重合体を例示できる。使用するカチオン性高分子の量は特に限定されないが、核酸分子のリン酸基に対するカチオン性高分子のカチオン性基の比が0.01〜1000になるようにするのが好ましい。
【0032】
また、本発明の核酸分子は、ミスマッチ配列の検出にも利用できる。即ち、試料とする単鎖核酸分子と基準となる単鎖核酸分子間のミスマッチ配列を検出する際に、本発明の核酸分子を、当該試料とする単鎖核酸分子とハイブリダイゼーションが可能な条件で接触させることにより、ミスマッチ配列を検出できる。この際、ミスマッチ配列の存在が予想される部位が、本発明の核酸分子の単鎖構造をとっている領域と対応するようにする。
【0033】
本発明の核酸分子は、生物の遺伝子型の決定、即ち、ある生物の遺伝子型が野生型、ヘテロ変異型、ホモ変異型のいずれであるかを決定することに利用できる。具体的には、野生型の遺伝子を検出する核酸分子と変異型の遺伝子を検出する核酸分子を作製し、それぞれを異なる方法で標識し(例えば、異なる蛍光色素で標識するなど)、2種類の核酸分子を被検生物由来の核酸分子と共存させることにより行う。このとき、野生型の遺伝子だけが検出されれば被検生物は野生型であり、変異型の遺伝子だけが検出されれば被検生物はホモ変異型であり、両方の遺伝子が検出されれば被検生物はヘテロ変異型であると判定できる。
【0034】
本発明の核酸分子を使わずに、図3で説明した原理を利用して、核酸分子の検出を行うことも可能である。例えば、以下のような方法が考えられる。
【0035】
検出対象とする核酸分子を含むサンプルに、当該検出対象とする核酸分子における識別部位を含まない領域と相補的な第一の検出プローブを加える。これにより、第一の検出プローブは、検出対象とする核酸分子とハイブリダイズする(図3B)。このとき、検出対象とする核酸分子における識別部位は、単鎖状態のままである。
【0036】
次に、第一の検出プローブと同一の塩基配列を含み、かつ、当該検出対象とする核酸分子における識別部位を含む領域と相補的な第二の検出プローブを加える。このとき、検出対象とする核酸分子の識別部位の配列が、第二の検出プローブの対応部位の配列と相補的であれば、図3Cに示すような遷移複合体が形成され、更に、第一の検出プローブの解離が起こる(図3D)。一方、検出対象とする核酸分子の識別部位の配列が、第二の検出プローブの対応部位の配列と相補的でない場合は、遷移複合体は形成されず、第一の検出プローブの解離も起こらない。
【0037】
従って、検出対象とする核酸分子と第二の検出プローブの結合、又は検出対象とする核酸分子と第一の検出プローブとの解離を指標として、サンプル中に検出対象とする核酸分子が存在したかどうかを高い精度で判定することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
【0039】
最初に本実施例で使用したODNについて説明する。
(A)シトクロムP450遺伝子関連ODN
シトクロムP450遺伝子に関連するODNとしては、F1、D1、C1、M1、M2、M3、M4、T1の8種類のODNを使用した。これらのODNの関係を図4に示す。
(1)F1及びD1
F1は、5’末端がフルオレスセインイソチオシアネート(FITC)で標識されているODNであり、D1は、3’末端がダブシル(DAB)で標識されているODNである。F1とD1は互いに相補的なODNであるが、鎖長はそれぞれ19塩基と14塩基であり、F1は、D1と二重鎖DNAを形成しても、3’末端側に単鎖部分が連続して5塩基存在する。
F1及びD1の塩基配列をそれぞれ配列番号2及び配列番号1に示す。
(2)C1
C1はF1と相補的二重鎖を形成できる完全に相補的な未標識ODNである。
C1の塩基配列を配列番号3に示す。
(3)M1、M2、M3
M1、M2、M3は、それぞれ5’末端近傍、中央部、3’末端近傍に一塩基変異を持ち、F1との二重鎖ではミスマッチ塩基対を形成する。これらのODNの鎖長はいずれも19塩基である。
M1、M2、及びM3の塩基配列をそれぞれ配列番号4、配列番号5及び配列番号6に示す。
(4)M4
M4は、D1と同一の配列を持ち、鎖長は14塩基である。
M4の塩基配列を配列番号7に示す。
(5)T1
T1は、5’末端がテトラメチルローダミン(TAMRA)で標識されているODNである。T1は、D1と相補的なODNであるが、鎖長は19塩基であり、F1と同様に、D1と二重鎖DNAを形成しても3’末端側に単鎖部分が連続して5塩基存在する。
T1は、F1とは逆に、M1と完全に相補的で、C1とは5’末端近傍でミスマッチ塩基対を形成する。
【0040】
T1の塩基配列を配列番号8に示す。
(B)ABCトランスポーター遺伝子関連ODN
ABCトランスポーター遺伝子に関連するODNとしては、F2、D2、A1、A2、A3、T2、D3、T3、45A1、45A2の10種類のODNを使用した。F2、D2、A1、A2、A3、T2の関係及びD3、T3、45A1、45A2の関係をそれぞれ図5及び図6に示す。
(1)F2及びD2
F2は、5’末端がFITCで標識されているODNであり、D2は、3’末端がDABで標識されているODNである。F2とD2は互いに相補的なODNであるが、鎖長はそれぞれ25塩基と20塩基であり、F2はD2と二重鎖DNAを形成しても3’末端側に単鎖部分が連続して5塩基存在する。F2/D2の単鎖部分は、ATリッチな配列になっている。
F2及びD2の塩基配列をそれぞれ配列番号14及び配列番号9に示す。
(2)A1
A1はT2と相補的二重鎖を形成できる完全に相補的な未標識ODNである。
A1の塩基配列を配列番号11に示す。
(3)A2
A2は、5’末端近傍に一塩基変異を持ち、T2との二重鎖ではミスマッチ塩基対を形成する鎖長25塩基のODNである。
A2の塩基配列を配列番号12に示す。
(4)A3
A3は、中央部に一塩基変異を持ち、T2との二重鎖ではミスマッチ塩基対を形成する鎖長25塩基のODNである。
A3の塩基配列を配列番号13に示す。
(5)T2
T2は、5’末端がTAMRAで標識されているODNである。T2は、D2と相補的なODNであるが、鎖長は25塩基であり、F2と同様に、D2と二重鎖DNAを形成しても3’末端側に単鎖部分が連続して5塩基存在する。
T2の塩基配列を配列番号10に示す。
(6)T3及びD3
T3は、5’末端がTAMRAで標識されているODNであり、D3は、3’末端がDABで標識されているODNである。T3とD3は互いに相補的な塩基配列であるが、鎖長はそれぞれ45塩基と40塩基であり、T3はD3と二重鎖DNAを形成しても3’末端側に単鎖部分が連続して5塩基存在する。
T3及びD3の塩基配列をそれぞれ配列番号16及び配列番号15に示す。
(7)45A1
45A1はT3と相補的二重鎖を形成できる完全に相補的な未標識ODNである。
45A1の塩基配列を配列番号17に示す。
(8)45A2
45A2は、5’末端近傍に一塩基変異を持ち、T3との二重鎖ではミスマッチ塩基対を形成する鎖長45塩基のODNである。
45A2の塩基配列を配列番号18に示す。
なお、以上のODNは、ファスマック(株)より購入し、逆相クロマトグラフィーにより精製したものである。
【0041】
〔実施例1〕
等モル量のF1とD1をPBS緩衝液([Na+]=150mM,pH7.2)に加えた。この緩衝液を90℃に加熱し、その後徐冷し、12nMの部分二重鎖型プローブF1/D1を含む溶液を調製した。この溶液を20℃に保ち、単鎖としてC1、M1、M2、M3、又はM4を60nMになるように加え、鎖交換反応を開始させた。鎖交換の進行はDABにより消光されていたFITCの蛍光(励起波長:490nm、蛍光波長:520nm)の回復により検出した。
反応開始後の蛍光強度の経時的変化を図7に示す。また、反応開始から5分後、10分後、20分後の蛍光強度を表1に示す。更に、各単鎖の鎖交換速度定数の相対値を表2に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
これらの図及び表に示すように、変異を含む単鎖(M1、M2、M3)よりも、完全に相補的な単鎖(C1)の方が速やかに鎖交換が進行した。C1との速度差は、5’末端近傍部位に変異を含むM1(変異はF1の単鎖部分に対応する)、中央部分に変異を含むM2、3’末端近傍部位に変異を含むM3の順に大きく、C1とM3の間にはあまり大きさ差はみられなかった。
以上のことから、ミスマッチ配列が単鎖部分に対応するように、部分二重鎖型プローブを設計することにより、高感度でミスマッチ配列を検出できると考えられる。
【0044】
〔実施例2〕
PBS緩衝液のナトリウムイオン濃度を1000mMとし、また、添加する単鎖をC1又はM1の2種類とし、他は実施例1と同様に鎖交換反応を行った。
反応開始後の蛍光強度の経時的変化を図8に示す。また、C1又はM1の鎖交換速度定数の相対値を表3に示す。
【0045】
【表3】
表に示すように、ナトリウムイオン濃度を1000mMに変更しても、実施例1の場合と同様に、変異を含む単鎖(M1)と完全に相補的な単鎖(C1)の間には、鎖交換速度に大きな差異がみられた。また、ナトリウムイオン濃度を高めることにより、変異を含む単鎖及び完全に相補的な単鎖のいずれの場合も鎖交換速度が上昇した。
【0046】
〔実施例3〕
部分二重鎖型プローブとしてT1/D1を使用し、また、添加する単鎖をC1又はM1の2種類とし、更に、鎖交換の進行をTAMRAの蛍光(励起波長:540nm、蛍光波長:570nm)の回復により検出することとし、他は実施例1と同様に鎖交換反応を行った。
反応開始後の蛍光強度の経時的変化を図9に示す。また、反応開始から5分後、10分後、20分後の蛍光強度を表4に示す。更に、各単鎖の鎖交換速度定数の相対値を表5に示す。
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
これらの図及び表に示すように、実施例1の場合と同様に、変異を含む単鎖(C1)と完全に相補的な単鎖(M1)の間には、鎖交換速度に大きな差異がみられた。この結果から、部分二重鎖型プローブは、A−TとA−C間の塩基対の違いだけでなく、検出の難しいG−CとG−T間の塩基対の違いも高感度で検出できると考えられる。
【0049】
〔実施例4〕
等モル量のT2とD2をPBS緩衝液([Na+]=150mM,pH7.2)に加えた。この緩衝液を90℃に加熱し、その後徐冷し、12nMの部分二重鎖型プローブT2/D2を含む溶液を調製した。この溶液を20℃に保ち、単鎖としてA1又はA2を60nMになるように加え、鎖交換反応を開始させた。鎖交換の進行はDABにより消光されていたTAMRAの蛍光の回復により検出した。
反応開始後の鎖交換率(鎖交換過程の追跡後にアニーリングさせ、その後の蛍光強度を100%とした。)の経時的変化を図10に示す。また、反応開始から5分後、10分後、20分後の蛍光強度を表6に示す。更に、各単鎖の鎖交換速度定数の相対値を表7に示す。
【0050】
【表6】
【0051】
【表7】
これらの図及び表に示すように、T2の単鎖部分に対応する変異を含む単鎖(A2)と完全に相補的な単鎖(A1)の間には、鎖交換速度に大きな差異がみられた。
【0052】
〔参考例1〕
添加する単鎖をA1又はA3とし、他は実施例4と同様に鎖交換反応を行った。
反応開始後の鎖交換率の経時的変化を図11に示す。また、反応開始から5分後、10分後、20分後の蛍光強度を表8に示す。更に、各単鎖の鎖交換速度定数の相対値を表9に示す。
【0053】
【表8】
【0054】
【表9】
これらの図及び表に示すように、T2の二重鎖部分に対応する変異を含む単鎖(A3)と完全に相補的な単鎖(A1)の間には、鎖交換速度にあまり大きな差異はみられなかった。この結果及び実施例4の結果から、ミスマッチ配列が、二重鎖部分ではなく、単鎖部分に対応するように、部分二重鎖型プローブを設計することにより、プローブの検出感度を大幅に向上させることができると考えられる。
【0055】
〔実施例5〕
鎖交換反応時の溶液の温度を10℃、20℃、28℃、37℃の四通りの条件とし、他は実施例4と同様に鎖交換反応を行った。
各温度における変異を含む単鎖(A2)と完全に相補的な単鎖(A1)の速度定数の相対値を図12に示す。また、各温度における変異を含む単鎖(A2)と完全に相補的な単鎖(A1)との速度比(A1の鎖交換速度定数をA2の鎖交換速度定数で割った値)を表10に示す。
【0056】
【表10】
これらの図及び表に示すように、いずれの温度においても変異を含む単鎖と完全に相補的な単鎖の間には、鎖交換速度に大きな差異がみられた。また、温度が低い方が速度の差(速度比)が大きかった。以上の結果から、10〜37℃といった温度範囲内であれば、高感度でミスマッチ配列を検出できると考えられる。
【0057】
〔実施例6〕
部分二重鎖型プローブの濃度を12nM、9nM、6nM、4nM、3nM、1.2nMの六通りの条件とし、また、単鎖の濃度を60nM、45nM、30nM、20nM、15nM、6nMの六通りの条件とし、他は実施例4と同様に鎖交換反応を行った。
各濃度の組み合わせにおける変異を含む単鎖(A2)と完全に相補的な単鎖(A1)との速度比(A1の鎖交換速度定数をA2の鎖交換速度定数で割った値)を表11に示す。
【0058】
【表11】
表に示すように、いずれの濃度の組み合わせにおいても変異を含む単鎖と完全に相補的な単鎖の間には、鎖交換速度に大きな差異がみられた。
【0059】
〔実施例7〕
添加する単鎖をC1又はM1の2種類とし、鎖交換反応を国際公開03/018841号パンフレット記載のカチオン性高分子(デキストラン側鎖修飾α−ポリ(L−リジン))の存在下で行うこととし、他は実施例1と同様に鎖交換反応を行った。カチオン性高分子は、N/P比(カチオン性高分子のアミノ基に対するODNのリン酸基の量)が0.2と0.4の二通りの条件で加えた。
カチオン性高分子存在下(N/P=0.2,0.4)及び非存在下(N/P=0)における各単鎖の鎖交換速度定数の相対値、並びに変異を含む単鎖(M1)と完全に相補的な単鎖(C1)との速度比(C1の鎖交換速度定数をM1の鎖交換速度定数で割った値)を表12に示す。
【0060】
【表12】
表に示すように、カチオン性高分子を加えることにより、変異を含む単鎖及び完全に相補的な単鎖のいずれの場合も鎖交換速度が著しく上昇した。この結果から、鎖交換速度が低くなるような条件(例えば、単鎖やプローブが低濃度でしか存在しない条件)であっても、カチオン性高分子を添加することにより、高感度でミスマッチ配列を検出できると考えられる。
【0061】
〔参考例2〕
等モル量のF2とD2をPBS緩衝液([Na+]=150mM,pH7.2)に加えた。この緩衝液を90℃に加熱し、その後徐冷し、12nMの部分二重鎖型プローブF2/D2を含む溶液を調製した。この溶液を37℃に保ち、単鎖としてA1又はA2を60nMになるように加え、鎖交換反応を開始させた。鎖交換の進行はDABにより消光されていたFITCの蛍光の回復により検出した。
反応開始後の鎖交換率の経時的変化を図13に示す。また、変異を含む単鎖(A1)と完全に相補的な単鎖(A2)との速度比(A2の鎖交換速度定数をA1の鎖交換速度定数で割った値)は2.9であった。
図に示すように、変異を含む単鎖(A1)と完全に相補的な単鎖(A2)の間には、鎖交換速度にあまり大きな差異がみられなかった。また、いずれの単鎖を用いた場合も、鎖交換速度はあまり高くなかった。この結果から、検出しようとする単鎖のGC含量や温度等の条件によっては、高感度でミスマッチ配列を検出できない場合もあり得ると考えられる。
【0062】
〔実施例8〕
PBS緩衝液中にテトラメチルアンモニウムクロリド(TMAC)を3Mになるように加え、他は参考例2と同様に鎖交換反応を行った。
反応開始後の鎖交換率の経時的変化を図14に示す。また、変異を含む単鎖(A1)と完全に相補的な単鎖(A2)との速度比(A2の鎖交換速度定数をA1の鎖交換速度定数で割った値)は10.8であった。
図に示すように、参考例2の場合とは異なり、変異を含む単鎖(A1)と完全に相補的な単鎖(A2)の間には、鎖交換速度に大きな差異がみられた。また、鎖交換速度も大きく向上した。この結果から、参考例2の条件であっても、TMACを添加することにより、高感度でミスマッチ配列を検出できるようになると考えられる。
【0063】
〔実施例9〕
部分二重鎖型プローブF1/D1(FITC標識)と部分二重鎖型プローブT1/D1(TAMRA標識)とを作製し、3MのTMACを含むPBS緩衝液([Na+]=150mM,pH7.2)に、この2種類のプローブをそれぞれ12nMになるように加えた。この緩衝液に、M1、C1+M1、又はC1を60nM(C1+M1の場合は両単鎖の合わせた濃度が60nMになるようにした。)になるように添加し、室温条件下で、鎖交換反応を開始させた。反応開始から5分後に、プレートリーダーでFITCの蛍光強度とTAMRAの蛍光強度を同時に測定した。この操作を、各単鎖について4回、合計12回行った。12回の測定値を図15に示す。
図に示すように、M1を加えた場合にはTAMRAの蛍光は検出されたが、FITCの蛍光はほとんど検出されず、逆に、C1を加えた場合にはFITCの蛍光は検出されたが、TAMRAの蛍光はほとんど検出されなかった。このことは、M1を加えた場合には、T1/D1プローブの鎖交換は起きたが、F1/D1プローブの鎖交換はほとんど起きず、C1を加えた場合には、T1/D1プローブの鎖交換はほとんど起きなかったが、F1/D1プローブの鎖交換は起きた、ということを意味する。M1とT1、C1とF1がそれぞれ完全に相補的なので、図15の結果は、T1/D1プローブ及びF1/D1プローブのいずれも、完全に相補的な単鎖を高い精度で識別していたことを示すものである。
以上のシトクロムP450遺伝子関連ODNの実験をABCトランスポーター遺伝子関連ODNについても行った。即ち、F1/D1プローブの代わりにF2/D2プローブを使用し、T1/D1プローブの代わりにT2/D2プローブを使用し、C1の代わりにA2を使用し、M1の代わりにA1を使用し、同様の実験を行った。この結果を図16に示す。図に示すように、シトクロムP450遺伝子関連ODNの場合と同様、部分二重鎖型プローブは完全に相補的な単鎖を高い精度で識別していた。
【0064】
〔実施例10〕
部分二重鎖型プローブとしてT3/D3を使用し、また、添加する単鎖を45A1又は45A2のとし、他は実施例4と同様に鎖交換反応を行った。
反応開始後の鎖交換率の経時的変化を図17に示す。また、反応開始から5分後、10分後、20分後の蛍光強度を表13に示す。更に、各単鎖の鎖交換速度の相対値を表14に示す。
【0065】
【表13】
【0066】
【表14】
これらの図及び表に示すように、変異を含む単鎖(45A2)と完全に相補的な単鎖(45A1)の間には、鎖交換速度に大きな差異がみられた。
【0067】
以上の結果から、二重鎖部分が40塩基程度の長さであっても、高感度でミスマッチ配列を検出できると考えられる。
【0068】
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2003−282311の明細書および/または図面に記載されている内容を包含する。また、本発明で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとりいれるものとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸分子を検出するための核酸分子であって、(a)検出対象とする核酸分子と相補的な単鎖核酸分子と、(b)(a)の単鎖核酸分子の一部分とハイブリダイズする1又は2の単鎖核酸分子とからなる部分二重鎖型核酸分子であり、当該部分二重鎖型核酸分子の単鎖構造をとっている領域が、当該検出対象とする核酸分子における識別部位を含む領域と相補的であることを特徴とする核酸分子。
【請求項2】
二重鎖構造をとる領域の長さが、10〜200塩基である請求項1記載の核酸分子。
【請求項3】
単鎖構造をとる領域の長さが、1〜10塩基である請求項1又は2記載の核酸分子。
【請求項4】
(a)の単鎖核酸分子、(b)の単鎖核酸分子のいずれか一方が、ドナー蛍光色素で標識されており、他方がアクセプター蛍光色素で標識されている請求項1乃至3のいずれか一項記載の核酸分子。
【請求項5】
(a)の単鎖核酸分子と(b)の単鎖核酸分子とがリンカーによって繋げられている請求項1乃至4のいずれか一項記載の核酸分子。
【請求項6】
リンカーが、核酸である請求項5記載の核酸分子。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項記載の核酸分子を基板上に固定した核酸チップ。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか一項記載の核酸分子を、検出対象とする核酸分子とハイブリダイゼーションが可能な条件で接触させる工程を含むことを特徴とする核酸分子の検出方法。
【請求項9】
アミン類又は第四級アンモニウム塩の存在下で、請求項1乃至6のいずれか一項記載の核酸分子を検出対象とする核酸分子と接触させることを特徴とする請求項8記載の核酸分子の検出方法。
【請求項10】
カチオン性高分子の存在下で、請求項1乃至6のいずれか一項記載の核酸分子を検出対象とする核酸分子と接触させることを特徴とする請求項8又は9記載の核酸分子の検出方法。
【請求項11】
試料とする単鎖核酸分子と基準となる単鎖核酸分子間のミスマッチ配列を検出する方法であって、(a)試料とする単鎖核酸分子と相補的な単鎖核酸分子と、(b)(a)の単鎖核酸分子の一部分とハイブリダイズする1又は2の単鎖核酸分子とからなる部分二重鎖型核酸分子であって、当該部分二重鎖型核酸分子の単鎖構造をとっている領域が、当該試料とする単鎖核酸分子におけるミスマッチ配列の存在が予想される部位を含む領域と相補的である核酸分子を、当該試料とする単鎖核酸分子とハイブリダイゼーションが可能な条件で接触させる工程を含むことを特徴とするミスマッチ配列の検出方法。
【請求項12】
アミン類又は第四級アンモニウム塩の存在下で、部分二重鎖型核酸分子を試料とする核酸分子と接触させることを特徴とする請求項11記載のミスマッチ配列の検出方法。
【請求項13】
カチオン性高分子の存在下で、試料とする単鎖核酸分子を部分二重鎖核酸分子と接触させることを特徴とする請求項11又は12記載のミスマッチ配列の検出方法。
【請求項14】
検出対象とする核酸分子を含むサンプルに、当該検出対象とする核酸分子における識別部位を含まない領域と相補的な第一の検出プローブを加え、次いで、第一の検出プローブと同一の塩基配列を含み、かつ、当該検出対象とする核酸分子における識別部位を含む領域と相補的な第二の検出プローブを加え、検出対象とする核酸分子、第一の検出プローブ及び第二の検出プローブの三者をハイブリダイゼーションが可能な条件で共存させ、その後、検出対象とする核酸分子と第二の検出プローブの結合、又は検出対象とする核酸分子と第一の検出プローブとの解離を指標として、核酸分子の検出を行うことを特徴とする核酸分子の検出方法。
【請求項15】
アミン類又は第四級アンモニウム塩の存在下で、検出対象とする核酸分子、第一の検出プローブ及び第二の検出プローブを共存させることを特徴とする請求項14記載の核酸分子の検出方法。
【請求項16】
カチオン性高分子の存在下で、検出対象とする核酸分子、第一の検出プローブ及び第二の検出プローブを共存させることを特徴とする請求項14又は15記載の核酸分子の検出方法。
【請求項1】
核酸分子を検出するための核酸分子であって、(a)検出対象とする核酸分子と相補的な単鎖核酸分子と、(b)(a)の単鎖核酸分子の一部分とハイブリダイズする1又は2の単鎖核酸分子とからなる部分二重鎖型核酸分子であり、当該部分二重鎖型核酸分子の単鎖構造をとっている領域が、当該検出対象とする核酸分子における識別部位を含む領域と相補的であることを特徴とする核酸分子。
【請求項2】
二重鎖構造をとる領域の長さが、10〜200塩基である請求項1記載の核酸分子。
【請求項3】
単鎖構造をとる領域の長さが、1〜10塩基である請求項1又は2記載の核酸分子。
【請求項4】
(a)の単鎖核酸分子、(b)の単鎖核酸分子のいずれか一方が、ドナー蛍光色素で標識されており、他方がアクセプター蛍光色素で標識されている請求項1乃至3のいずれか一項記載の核酸分子。
【請求項5】
(a)の単鎖核酸分子と(b)の単鎖核酸分子とがリンカーによって繋げられている請求項1乃至4のいずれか一項記載の核酸分子。
【請求項6】
リンカーが、核酸である請求項5記載の核酸分子。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項記載の核酸分子を基板上に固定した核酸チップ。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか一項記載の核酸分子を、検出対象とする核酸分子とハイブリダイゼーションが可能な条件で接触させる工程を含むことを特徴とする核酸分子の検出方法。
【請求項9】
アミン類又は第四級アンモニウム塩の存在下で、請求項1乃至6のいずれか一項記載の核酸分子を検出対象とする核酸分子と接触させることを特徴とする請求項8記載の核酸分子の検出方法。
【請求項10】
カチオン性高分子の存在下で、請求項1乃至6のいずれか一項記載の核酸分子を検出対象とする核酸分子と接触させることを特徴とする請求項8又は9記載の核酸分子の検出方法。
【請求項11】
試料とする単鎖核酸分子と基準となる単鎖核酸分子間のミスマッチ配列を検出する方法であって、(a)試料とする単鎖核酸分子と相補的な単鎖核酸分子と、(b)(a)の単鎖核酸分子の一部分とハイブリダイズする1又は2の単鎖核酸分子とからなる部分二重鎖型核酸分子であって、当該部分二重鎖型核酸分子の単鎖構造をとっている領域が、当該試料とする単鎖核酸分子におけるミスマッチ配列の存在が予想される部位を含む領域と相補的である核酸分子を、当該試料とする単鎖核酸分子とハイブリダイゼーションが可能な条件で接触させる工程を含むことを特徴とするミスマッチ配列の検出方法。
【請求項12】
アミン類又は第四級アンモニウム塩の存在下で、部分二重鎖型核酸分子を試料とする核酸分子と接触させることを特徴とする請求項11記載のミスマッチ配列の検出方法。
【請求項13】
カチオン性高分子の存在下で、試料とする単鎖核酸分子を部分二重鎖核酸分子と接触させることを特徴とする請求項11又は12記載のミスマッチ配列の検出方法。
【請求項14】
検出対象とする核酸分子を含むサンプルに、当該検出対象とする核酸分子における識別部位を含まない領域と相補的な第一の検出プローブを加え、次いで、第一の検出プローブと同一の塩基配列を含み、かつ、当該検出対象とする核酸分子における識別部位を含む領域と相補的な第二の検出プローブを加え、検出対象とする核酸分子、第一の検出プローブ及び第二の検出プローブの三者をハイブリダイゼーションが可能な条件で共存させ、その後、検出対象とする核酸分子と第二の検出プローブの結合、又は検出対象とする核酸分子と第一の検出プローブとの解離を指標として、核酸分子の検出を行うことを特徴とする核酸分子の検出方法。
【請求項15】
アミン類又は第四級アンモニウム塩の存在下で、検出対象とする核酸分子、第一の検出プローブ及び第二の検出プローブを共存させることを特徴とする請求項14記載の核酸分子の検出方法。
【請求項16】
カチオン性高分子の存在下で、検出対象とする核酸分子、第一の検出プローブ及び第二の検出プローブを共存させることを特徴とする請求項14又は15記載の核酸分子の検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【国際公開番号】WO2005/012571
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【発行日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512521(P2005−512521)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010916
【国際出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(899000013)財団法人理工学振興会 (81)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【発行日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/010916
【国際出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(899000013)財団法人理工学振興会 (81)
【Fターム(参考)】
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