説明

部品の接合方法及び翼部品の補修方法

【課題】ディスクから突出した基部の先端に交換ブレードを接合する際の接合不良による欠陥の発生を防ぐ。
【解決手段】ディスク2の外周面から突出した複数のブレード3のうち、損傷したブレード3Aをその基部2Aが残るように除去した後、基部2Aの側面に対応した形状のサポート部材を基部2Aの側面に接触させてディスク2に固定する。このとき、基部2Aとサポート部材との間に生じた隙間を予め埋めておく。これにより、基部2Aの先端に交換ブレードを摩擦圧接により接合したときに、基部2Aと交換ブレードとの接合部分、特にブレード3の前縁又は後縁側の端部において接合不良による欠陥が生じることを防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の部材から突出した基部の先端に第2の部材を接合する部品の接合方法、並びにブレードとディスクとが一体に成形された翼部品を補修する翼部品の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば航空機などに使用されるガスタービンエンジンでは、上流側の吸気口から吸い込まれた空気が圧縮機を通過することで圧縮され、この圧縮された空気が燃料と混合されて燃焼器で燃焼されることにより、高温高圧の燃焼ガスが発生し、この燃焼ガスが膨張しながら下流側のタービンを回転させることで出力を得ている。
【0003】
圧縮機やタービンには、ディスクの外周に複数のブレードが間隔をおいて取り付けられたブレード付きディスクを多段に配置したものが用いられている。このブレード付きディスクは、一般的にはブレードのダブテール部をディスクのスロット部に嵌め込むことによって、ブレードをディスクに対して着脱自在に取り付けている。また、最近では、ブレードとディスクとを一体に成形した「ブリスク」と呼ばれるブレード付きディスクも開発されている。このブリスクは、従来のブレード付きディスクと比べて、機械的強度が高く、重量の軽減が図れるなどの利点がある。
【0004】
一方、ブリスクは、ブレードとディスクとが一体に成形されているため、ブレードが損傷した場合に、損傷したブレードを簡単に交換することができないといった欠点がある。具体的に、ブリスクでは、ブレードの損傷が比較的軽微の場合には、ブレンド処理などで欠陥を除去することができるが、損傷したブレードを交換する必要がある場合には、ブリスク自体を交換しなければならず、補修のためのコストが嵩むといった問題が発生してしまう。
【0005】
そこで、ブリスクの損傷したブレードのみを交換するための方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。具体的に、この特許文献1には、損傷したブレードをディスクから突出した短柱が残るように除去した後、この短柱の周りにディスクと物理的に離間したカラーを配置し、このカラーによって保護された短柱の先端に交換ブレードを線状摩擦溶接によって接合した後、カラーを除去する方法が記載されている。
【0006】
しかしながら、このようなカラーを短柱の周囲に配置し、このカラーによって保護された短柱の先端に交換ブレードを線状摩擦溶接によって接合した場合に、短柱と交換ブレードとの接合部分、特にブレードの前縁又は後縁側の端部において接合不良による欠陥が生じることがあった。
【特許文献1】特開2005−351272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、その目的は、第1の部材から突出した基部の先端に第2の部材を接合する際の接合不良による欠陥の発生を防ぐことを可能とした部品の接合方法を提供することにある。
また、本発明の目的は、そのような方法を用いて、ブレードとディスクとが一体に成形された翼部品を適切に補修することを可能とした翼部品の補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ディスク(第1の部材)から突出した基部の先端に交換ブレード(第2の部材)を接合する際に、基部とサポート部材との間に生じた隙間が、基部と交換ブレードとの接合部分、特にブレードの前縁又は後縁側の端部において接合不良による欠陥が生じる主な原因であることを見出し、この隙間を埋めることによって、上記課題を解決できるとの知見を得るに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の手段を提供する。
(1) 第1の部材から突出した基部の先端に第2の部材を接合する部品の接合方法であって、
前記基部の周囲を囲むサポート部材を前記第1の部材に取り付ける工程と、
前記基部と前記サポート部材との間に生じた隙間を埋める工程と、
前記基部の先端に前記第2の部材を摩擦圧接法により接合する工程と、
前記サポート部材を除去する工程とを含むことを特徴とする部品の接合方法。
(2) 前記摩擦圧接法として、線形摩擦接合を用いることを特徴とする前記(1)に記載の部品の接合方法。
(3) 前記隙間を埋める方法として、溶接法、固相接合法、ろう付け法、接着剤法の何れかを用いることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の部品の接合方法。
(4) 前記溶接法として、ティグ溶接、ミグ溶接、レーザ溶接、電子ビーム溶接の何れかを用いることを特徴とする前記(3)に記載の部品の接合方法。
(5) 前記固相接合法として、摩擦撹拌接合を用いることを特徴とする前記(3)に記載の部品の接合方法。
(6) ブレードとディスクとが一体に形成された翼部品を補修する翼部品の補修方法であって、
前記ディスクの外周面から突出した複数のブレードのうち、損傷したブレードをその基部が残るように除去した後、前記(1)〜(5)の何れか一項に記載の方法を用いて、このブレードの基部に交換ブレードを接合することを特徴とする翼部品の補修方法。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明に係る部品の接合方法では、第1の部材から突出した基部の先端に第2の部材を接合する前に、基部とサポート部材との間に生じた隙間を予め埋めておくことによって、基部の先端に第2の部材を摩擦圧接により接合したときの接合不良による欠陥の発生を抑制することが可能である。
【0011】
したがって、本発明に係る翼部品の補修方法では、そのような方法を用いることによって、基部と交換ブレードとの接合部分、特にブレードの前縁又は後縁側の端部において接合不良による欠陥が生じることを防ぐことが可能である。これにより、ブレードとディスクとが一体に成形された翼部品を適切に補修することが可能であり、また、翼部品自体を交換するといった必要がなくなるため、補修のためのコストを低減することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を適用した部品の接合方法及び翼部品の補修方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態では、本発明を適用した部品の接合方法として、図1に示すようなブリスク1(翼部品)を補修する場合(本発明を適用した翼部品の補修方法)を例に挙げて説明する。
【0013】
ブリスク1は、例えば図1に示すように、ディスク2とブレード3とが一体に成形されたブレード付きディスクであり、ディスク2には、外周面2aから突出する複数のブレード3が間隔をおいて周方向に並んで設けられている。なお、ブリスク1の材質としては、例えば、Ti−6Al−4Vや、インコネル718(商品名、インコ社製)などを挙げることができる。また、ディスク2とブレード3とは、一般に同じ材料からなっている。
【0014】
そして、ディスク2の外周面2aから突出した複数のブレード3のうち、損傷したブレード3Aを補修(交換)する際には、先ず、図1及び図2に示すように、損傷したブレード3Aを切断して除去する。このとき、ディスク2は極めて高い信頼性を要求される部品であることから、このディスク2の外周面2aに後述する交換ブレード3Bを直接接合することや熱影響を与えることを避けるため、損傷したブレード3Aについては、根元から切断するのではなく、ディスク2の外周面2aから突出する基部2Aを残して除去することが好ましい。
【0015】
次に、図3に示すように、基部2Aの周囲を囲む一対のサポート部材4A,4Bをディスク2に取り付ける。これら一対のサポート部材4A,4Bは、それぞれ底壁4aと側壁4bとを有しており、ディスク2の外周面2a上で互いの側壁4bの両端部を突き合わせたときに、基部2Aの周囲を囲む構成となっている。また、サポート部材4A,4Bの底壁4aは、ディスク2の外周面2aに密着するように、ディスク2の外周面2aと対向する面がディスク2の外周面2aに対応した形状を有している。一方、サポート部材4A,4Bの側壁4bは、基部2Aの一方又は他方の側面に密着するように、基部2Aの側面と対向する面が基部2Aの側面に対応した形状を有している。
【0016】
サポート部材4A,4Bは、例えばティグ溶接などの溶接法を用いて、底壁4Aをディスク2の外周面2aに固定する。また、サポート部材4A,4Bをディスク2に固定する方法としては、摩擦撹拌接合などを用いることができる。
【0017】
次に、図5に示すように、基部2Aとサポート部材4A,4Bとの間に生じた隙間Sを穴埋めする。具体的に、ブレード3の前縁及び後縁側の端部は、それぞれ先端に向かって細くなっている。このため、基部2Aとサポート部材4A,4Bとの間には、図4に示すような隙間Sが生じている。本発明では、例えば、ティグ溶接、ミグ溶接、レーザ溶接、電子ビーム溶接などの溶接法を用いて、このような隙間Sを予め埋めておく(図5中示す穴埋め部Bが形成される。)。
【0018】
また、隙間Sを埋める方法としては、上述した溶接法以外にも、固相接合法を用いることが好ましく、具体的には摩擦撹拌接合を用いることが好ましい。この摩擦撹拌接合は、母材を溶融させずに塑性流動を利用した固相接合であり、接合に伴う材料の変質を生じさせない、熱影響を最小限にすることができるなどの利点を有している。また、隙間Sを埋める方法としては、例えば、チタンろう、銀ろうなどのろう材を隙間Sに充填するろう付け法や、接着剤を隙間Sに充填する接着剤法などを用いることができる。
【0019】
また、隙間Sを埋めた後は、基部2とサポート部材4A,4Bの側壁4bとの上面が面一(同一高さ)となるように、これらの上面に対して研磨などの機械加工を施すことが好ましい。
【0020】
次に、図6に示すように、基部2Aの先端に交換ブレード3Bを摩擦圧接法により接合する。具体的に、本発明では、摩擦圧接法として線形摩擦接合を用いている。この線形摩擦接合は、サポート部材4A,4Bにより保護された基部2Aの先端面に交換ブレード3Bを押し付けながら面内で往復摺動させ、そのとき生じる摩擦熱により部材を軟化させて接合する方法である。これにより、基部2Aの先端と交換ブレード3Bとは、図7に示すように、互いの接合面を突き合わせて接合された状態となる。また、線形摩擦接合を用いた場合には、上述した隙間Sを溶接等で埋める際に生じた変質部(機械的特性として望ましくない相)を接合界面Kの外側にバリとして排出することができるため、基部2Aの先端と交換ブレード3Bとをより強固に接合することができる。
【0021】
次に、図8に示すように、接合後にサポート部材4A,4Bを機械加工などにより除去する。また、サポート部材4A,4Bを除去した後は、バリの除去や仕上げ加工などを行う。
以上のような工程を経ることによって、ディスク2の外周面2aから突出した複数のブレード3のうち、損傷したブレード3Aを補修することができる。
【0022】
以上のように、本発明を適用した部品の接合方法では、ディスク2(第1の部材)から突出した基部2Aの先端に交換ブレード3B(第2の部材)を接合する前に、基部2Aとサポート部材4A,4Bとの間に生じた隙間Sを予め埋めておくことによって、基部2Aの先端に交換ブレード3Bを摩擦圧接により接合したときの接合不良による欠陥の発生を抑制することが可能である。
【0023】
したがって、本発明を適用した翼部品の補修方法では、そのような方法を用いることによって、基部2Aと交換ブレード3Bとの接合部分、特にブレード3の前縁又は後縁側の端部において接合不良による欠陥が生じることを防ぐことが可能である。これにより、ブレード3とディスク2とが一体に成形されたブリスク1(翼部品)を適切に補修することが可能であり、また、ブリスク1自体を交換するといった必要がなくなるため、補修のためのコストを低減することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
なお、本発明を適用した部品の接合方法は、上記ブリスク1を補修する場合に好適に用いることができるが、上述したディスク2から突出した基部2Aの先端に交換ブレード3Bを接合する場合に限らず、第1の部材から突出した基部の先端に第2の部材を接合する場合に幅広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、ブリスクの要部を示す斜視図である。
【図2】図2は、ブリスクの補修工程を説明するための図であり、損傷したブレードを除去した状態を示す断面図である。
【図3】図3は、図1に示すブリスクの補修工程を説明するための図であり、サポート部材を取り付けた状態を示す断面図である。
【図4】図4は、図1に示すブリスクの補修工程を説明するための図であり、基部とサポート部材との間に隙間が生じた状態を示す平面図である。
【図5】図5は、図1に示すブリスクの補修工程を説明するための図であり、隙間を穴埋めした状態を示す平面図である。
【図6】図6は、図1に示すブリスクの補修工程を説明するための図であり、基部の先端に交換ブレードを摩擦圧接により接合する状態を示す断面図である。
【図7】図7は、図1に示すブリスクの補修工程を説明するための図であり、基部の先端に交換ブレードが接合された状態を示す断面図である。
【図8】図8は、図1に示すブリスクの補修工程を説明するための図であり、サポート部材を除去した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1…ブリスク(翼部品) 2…ディスク(第1の部材) 2A…基部 3…ブレード 3A…損傷したブレード 3B…交換ブレード(第2の部材) 4A,4B…サポート部材 S…隙間 B…埋込み部 K…接合界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の部材から突出した基部の先端に第2の部材を接合する部品の接合方法であって、
前記基部の周囲を囲むサポート部材を前記第1の部材に取り付ける工程と、
前記基部と前記サポート部材との間に生じた隙間を埋める工程と、
前記基部の先端に前記第2の部材を摩擦圧接法により接合する工程と、
前記サポート部材を除去する工程とを含むことを特徴とする部品の接合方法。
【請求項2】
前記摩擦圧接法として、線形摩擦接合を用いることを特徴とする請求項1に記載の部品の接合方法。
【請求項3】
前記隙間を埋める方法として、溶接法、固相接合法、ろう付け法、接着剤法の何れかを用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の部品の接合方法。
【請求項4】
前記溶接法として、ティグ溶接、ミグ溶接、レーザ溶接、電子ビーム溶接の何れかを用いることを特徴とする請求項3に記載の部品の接合方法。
【請求項5】
前記固相接合法として、摩擦撹拌接合を用いることを特徴とする請求項3に記載の部品の接合方法。
【請求項6】
ブレードとディスクとが一体に成形された翼部品を補修する翼部品の補修方法であって、
前記ディスクの外周面から突出した複数のブレードのうち、損傷したブレードをその基部が残るように除去した後、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法を用いて、このブレードの基部に交換ブレードを接合することを特徴とする翼部品の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−39746(P2009−39746A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−206722(P2007−206722)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】