説明

部材の接合方法および接合体

【課題】高温、高圧を要することなく部材を充分な接合強度で接合することができ、部材の割れや剥がれおよび不可逆変化の発生を未然に防止することができる接合方法を提供する。
【解決手段】2つの部材の表面に金属ガラス層を溶射形成する工程と、各部材の金属ガラス層を加熱して金属ガラス層を過冷却液体温度域にする工程と、金属ガラス層の過冷却液体温度域において部材の金属ガラス層どうしを合わた状態で加圧し、金属ガラス層を塑性流動させる工程とを備え、金属ガラス層の表面の面粗度Raは2μm以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ガラスを中間層とした部材の接合方法およびその接合方法で接合された接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ガラスは、アモルファス金属の一種であり、温度の上昇とともにアモルファス固相、過冷却液体相、結晶相、液体相と変化し、過冷却液体相が加熱したガラスのように加工できる相である。たとえば、特許文献1には、接合する基材の間に金属ガラスの箔を挟んで金属ガラス箔が過冷却液体相となるように加熱し、その状態で基材どうしを加圧して金属ガラス箔に塑性流動を生じさせ、基材どうしを接合する技術が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、接合しようとする2つの基材の双方の表面に自溶合金を溶射し、次いで基材の溶射皮膜面どうしを合わせて加熱して溶射皮膜を溶融結合する技術が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平5−131279号公報
【特許文献2】特開昭62−118988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、アモルファス金属箔の過冷却液体温度にて金属ガラスを接合する基材の界面において濡れさせるために、基材どうしを加圧する必要がある。しかしながら、初期状態の基材の表面と金属ガラスとの密着性が不充分なため、過冷却液体温度において50MPa以上の加圧力が必要なことが判明した。このため、基材が磁石のような脆性材料の場合には、高温高圧の環境で基材に割れが発生するおそれがある。
【0006】
特許文献2に記載の技術では、特許文献1に記載の技術よりも基材と自溶合金からなる中間層との密着性は向上する。しかしながら、基材の溶射皮膜面どうしを合わせて加熱して溶射皮膜を溶融結合するには800℃以上の高温に曝す必要がある。このため、基材が磁石である場合には、磁性の消失という不可逆劣化を起こす。また、自溶合金は基材と中間層の間に脆い金属間化合物を生成し易いため、降温時の熱応力によって中間層と基材との間で剥離が生じ易い。
【0007】
ここで、特許文献2において自溶合金を金属ガラスに変更することが考えられる。しかしながら、そのようにしても、各基材に溶射した金属ガラスどうしの密着性が不充分なため、接合する際に高い圧力を必要とす。このため、被接合体である金属部材に割れなどが発生し易いばかりでなく、加圧による金属ガラス層の変形が大きく、寸法精度が不充分となる。
【0008】
したがって、本発明は上記のような事情に鑑みてなされたもので、高温、高圧を要することなく部材を充分な接合強度で接合することができ、部材の割れや剥がれおよび不可逆変化の発生を未然に防止することができる接合方法および接合体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の部材の接合方法は、2つの部材の表面に金属ガラス層を溶射形成する工程と、各部材の金属ガラス層を加熱して前記金属ガラス層を過冷却液体温度域にする工程と、金属ガラス層の過冷却液体温度域において部材の金属ガラス層どうしを合わせた状態で加圧し、金属ガラス層を塑性流動させる工程とを備え、金属ガラス層表面の面粗度Raは2μm以上であることを特徴としている。
【0010】
本発明では、金属ガラス層表面の面粗度Raが2μm以上であるから、金属ガラス層の表面に凹凸に形成される。このため、金属ガラス層どうしの界面における接合荷重が小さくても、凹凸の突出した部分では高い局所応力が作用し、金属ガラス層の塑性流動が良好に発生する。したがって、本発明では、接合荷重が小さくても部材を充分な接合強度で接合することができる。
【0011】
ここで、金属ガラス層表面の面粗度Raを2μm以上とする方法としては、溶射された金属ガラス層の表面をショットブラストや化学的エッチングなどによって粗面化する方法や、溶射の条件を調整して溶射後の表面がそのまま面粗度Ra2μm以上を満たすようにする方法を採用することができる。
【0012】
金属ガラスの過冷却液体温度は、材料成分系によって異なるが、過冷却液体温度が磁石の不可逆劣化温度である例えば600℃以下の金属ガラスも充分に知られているので、そのような金属ガラスを用いることにより、磁石を劣化させることなく高い強度で接合することができる。なお、本発明は中心線平均粗さRaを規定しているが、さらに十点平均粗さRzを規定することができ、Rzは10μm以上であることが望ましい。
【0013】
本発明は、上記のように部材の少なくとも一方が磁石である場合に特に好都合である。また、金属ガラスは安価な鉄合金が好適に用いられる。さらに、本発明は、上記のような接合方法で接合された接合体でもある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高温、高圧を要することなく部材を充分な接合強度で接合することができるので、部材の割れや剥がれおよび不可逆劣化の発生を未然に防止することができるとともに、接合された接合体の寸法精度を向上させることができる。また、ヤング率の低い金属ガラスを選択することにより、金属ガラス層の過冷却液体温度域から降温させる際に生じる熱応力を低減することができる等の効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は本発明の実施形態の部材の接合方法を説明する図である。以下、実施形態の工程を順に説明する。
1.溶射工程
溶射工程は、図1に示すように、金属ガラス粉末を融点以上に加熱して基材1と基材2の表面に吹き付ける工程である。基材1,2は、例えば炭素鋼、純鉄、磁石、電磁鋼板などの磁性材料であり、金属ガラスは、例えば鉄基金属ガラスアモルファス合金である。
【0016】
2.粗面化工程
基材1,2に溶射した金属ガラスが冷却固化したら、金属ガラス層の表面に例えばショットブラストを施して中心線平均粗さRaを2μm以上にする。その際に、十点平均粗さRzを10μm以上とすると好適である。なお、粗面化工程は、ショットブラストに限定されるものではなく、化学的エッチングなどを採用することもできる。あるいは、溶射の条件を調整して溶射後の表面がそのまま面粗度Ra2μm以上を満たすようにすることもできる。
【0017】
3.加熱・接合工程
基材1,2の金属ガラス層の表面どうしを合わせて金属ガラス層が過冷却液体温度域となるように加熱し、冷却液体温度域で基材1,2を加圧する。その際の加熱方法としては、ホットプレスや基材1,2に通電しながらプレスで加圧する方法を採用することができる。また、加圧力は10MPa以上とするのが望ましく、昇温速度は40℃/分以上である。なお、本発明は上記のような態様に限定されるものではなく、基材1,2を加熱し、金属ガラス層が過冷却液体温度域となった状態で金属ガラス層の表面どうしを合わせて加圧することもできる。
【0018】
本実施形態では、金属ガラス層の表面にショットブラストを施して面粗度Raを2μm以上にしているから、加圧の際に金属ガラス層の表面に形成された凹凸の突出した部分では高い局所応力が作用し、金属ガラス層の塑性流動が良好に発生する。このため、金属ガラス層どうしの界面における接合荷重が小さくても、基材1,2を接合することができる。
【実施例】
【0019】
以下、具体的な実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
1.素材の準備
基材として10mm角の立方体状の磁石と、金属ガラス粉末としてFe43Cr16Mo161510鉄基合金粉末を準備した。
【0020】
2.溶射条件
基材の温度を200℃以下に加熱し、高速フレーム溶射装置(JP−5000、TAFA社製)を用いて基材の一面に上記金属ガラス粉末を溶射し、0.5mmの溶射皮膜を形成した。
【0021】
3.ショットブラスト条件
#24のアルミナグリッドをショットとして、設定圧:5kgf/cm、投射距離:200mm、投射時間:3秒/個の条件で冷却固化した溶射皮膜の表面にショットブラストを行った。この場合において、ショットの粒径を種々変更してショットブラスト後の溶射皮膜表面の面粗度を調整した。
【0022】
4.加熱・接合条件
基材どうしに通電しながら加圧できる通電接合装置を用いた。この場合の昇温速度は40℃/分とし、接合時の溶射皮膜の温度は400〜650℃とした。溶射皮膜の温度が設定温度に達したら通電を停止し、接合荷重を10〜90MPaの範囲で種々変更して加圧した。
【0023】
5.3点曲げ試験
図2に示すように、接合された磁石の下面両端をピンで支持し、溶射皮膜の位置をピンを介して加圧する3点曲げ試験を行った。この試験における破断強度を接合強度として結果を図3および図4に示す。図3に、3点曲げ試験で50MPaの接合強度が得られた試料の溶射皮膜の表面粗さと、接合荷重との関係を示す。図3に示すように、溶射皮膜の表面粗さRaが2μm以上の場合には、接合荷重が急減することが確認された。
【0024】
図4に、20MPaの接合荷重で接合した試料の溶射皮膜の表面粗さと接合強度との関係を示す。図4に示すように、溶射皮膜の表面粗さRaが2μm以上の場合には、接合強度が急増することが確認された。
【0025】
以上の結果から明らかなように、本発明では、溶射皮膜の表面を粗面化して面粗度Raを2μm以上にするから、溶射皮膜の表面に形成された凹凸の突出した部分で高い局所応力が作用し、溶射皮膜の塑性流動が良好に発生し、接合荷重が小さくても基材を充分な接合強度で接合できることが確認された。したがって、本発明によれば、高温、高圧を要することなく部材を高い強度で接合することができるので、部材の割れや剥がれおよび不可逆劣化の発生を未然に防止することができるとともに、接合された接合体の寸法精度を向上させることができる。また、金属ガラスのヤング率について、より低いものを選択することにより、金属ガラス層の過冷却液体温度域から降温させる際に生じる熱応力を低減することができる等の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、磁石どうし、または鉄どうしを効率良く高い強度で接合することができるため、モータ部品等の製造に本発明を適用すると、工程の簡略化のみならず複雑形状のモータ部品も製造可能となるので、モータ部品等の製造に極めて有望である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態の部材の接合方法の各工程を示す図である。
【図2】3点曲げ試験の方法を示す側面図である。
【図3】3点曲げ試験で50MPaの接合強度が得られた試料の溶射皮膜の表面粗さと、接合荷重との関係を示すグラフである。
【図4】20MPaの接合荷重で接合した試料の溶射皮膜の表面粗さと接合強度との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの部材の表面に金属ガラス層を溶射形成する工程と、
各部材の金属ガラス層を加熱して前記金属ガラス層を過冷却液体温度域にする工程と、
前記金属ガラス層の過冷却液体温度域において前記部材の前記金属ガラス層どうしを合わせた状態で加圧し、前記金属ガラス層を塑性流動させる工程とを備え、
前記金属ガラス層表面の面粗度Raは2μm以上であることを特徴とする部材の接合方法。
【請求項2】
前記2つの部材のうち少なくとも一方は磁石であり、前記金属ガラス層は鉄合金からなることを特徴とする請求項1に記載の部材の接合方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の部材の接合方法で接合された接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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