説明

配向されかつナノ構造化されたポリマー表面を調製する方法

本発明は、1つの表面がポリマーにより構成された基板を調製する方法であって、前記ポリマー表面は配向され、かつナノ構造化されており、前記方法は以下の連続した、a)アモルファス状態にある基板のポリマー表面をブラッシングする工程と、b)工程a)の最後に得られる配向ポリマー表面を溶媒蒸気と接触させ、前記溶媒は、|δpolysol|/[(δpolysol)/2]<0.3(δpolyおよびδsolは、それぞれポリマーおよび溶媒の溶解性パラメータを示し)、γsol<γpoly、(γsolおよびγpolyは、それぞれ溶媒およびポリマーの自由表面エネルギーを示す)であるように選択される工程とを含む方法に関する。本発明は1つのポリマー表面が配向され、かつナノ構造化された基板、および前記基板の種々の使用方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの表面がポリマーにより構成された基板を調製するための方法、このタイプの基板、およびこの基板の種々の使用に関する。
【0002】
より詳しくは、本発明の方法は、表面が分子スケールで配向されており、かつナノ構造化されていて、種々の分子および高分子系の配向堆積を可能にする基板の調製を対象とする。このような基板は、光学、プラスチックエレクトロニクスの分野において、または電界効果トランジスタの製造のために特に有用である。
【0003】
ナノ構造化ポリマー表面を作ることができる方法は既知である。さらに、配向ポリマー表面を作ることができる方法も既知である。
【0004】
ポリマー基板をナノ構造化することは、反射防止性の光学特性、接着特性およびモーター蛋白の配向または表面付近の濡れおよび流れ特性のように、多様な物理的ならびに物理化学的な表面特性を制御することができる。ポリマー表面の周期的なナノ構造化の方法は、主にブロックコポリマーを使用する(特に、LiおよびYokoyamaによる刊行物、Adv Mat 17,2005,1432に記載されたように)。使用されるブロックコポリマーはアモルファスである。そのタイプのナノ構造化表面は、基板上に堆積された分子または高分子を配向できない。
【0005】
数cmオーダーの大きな表面積を作ることができる配向ポリマー表面は、3つの方法を用いて作られる。
【0006】
液晶ディスプレイの分野において使用される第1の方法においては、強い配向力を持ったポリイミドの層を、ポリマー鎖の表面配向を含む通常の表面ブラッシングプロセスによって得た(S Steudal et al, Appl Phys Lett, 85, 2004, 4400)。しかしながら、この方法はいくつかの不都合を持つ。すなわち、溶解性の理由のためにプレポリマーを使用する必要性、全ポリマーデバイスの製造に関連した制約に不都合な高温(300℃)の使用、および有機電界効果タイプのトランジスタの製造に不適合な、ポリマー基板の顕著な粗さである。
【0007】
US-A-5 731 405に記載された第2の方法においては、ポリイミド膜または液晶ポリマー材料に偏光UVを照射する。これは、液晶特性を持ったポリマーの合成を必要とする。その方法の主な欠点は、ポリマー表面の化学特性が、UV照射によって、制御不能な方法でひどく変えられるかもしれないということにある。
【0008】
Wittmanらによって、Nature 352, 414-417 (1991)に記載された第3の方法においては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の配向膜を、摩擦によってPTFEの棒を平らな表面上に転写する技術を用いて製造する。その方法は、100nm未満の厚さのPTFEの結晶膜を種々の基板上に作ることができ、得られる膜は、多数の分子およびポリマー系を配向させることができる。しかしながら、その方法は重大な欠点を持つ。すなわち、PTFEによる被覆の程度の制御の問題に関連した再現性の問題、ならびにポリマー膜における不連続性およびそれらの比較的大きな粗さ(30nmオーダーの表面レリーフ)、である。
【0009】
配向され、かつナノ構造化されたポリマー表面(ONPS)を調製するための方法も既知である(J Petermann et al, J Mater Sci, 14, 1979, 2000 および I Lieberwirth et al, Adv Mat 110, 1998, 97)。この方法は、熱延伸の後に冷却する間に結晶化させることによって、支持体無しの溶融ポリマーを配向させることからなる。その方法の欠点は、一方では与えられた表面上に配向膜を作ることの困難性と、他方では例えば、ポリマー基板が電界効果トランジスタタイプの構造物のゲート絶縁材として使用される場合には致命的となる、膜厚の正確な制御の不可能性と関連している。このような構造における最適な電荷移動は、誘電体と接する第1の分子層において達成されることが知られている。
【0010】
これら全ての欠点を克服するために、本発明は、ポリマーの膜により構成され、配向され、かつナノ構造化された表面を持つ基板を、前記表面の粗さを制御しつつ調製する方法を提案する。さらに、この方法は、配向および構造が130℃オーダーの高温でさえも、数時間に渡って安定なままである基板を作ることができる。
【0011】
基板を室温で調製することができるので、この方法は簡単に実行され、再現性があり、したがって工業スケールでの実施に好適であるという利点も有している。
【0012】
このために、第1の側面において、本発明は、少なくとも1つの表面がポリマーにより構成された基板を調製する方法であって、前記ポリマー表面は配向され、かつナノ構造化されており、前記方法は以下の連続した、
a)ポリマー表面をブラッシングし、基板はアモルファス状態にある工程と、
b)工程a)の最後に得られる配向ポリマー表面を溶媒蒸気と接触させ、前記溶媒は、
- |δpolysol|/[(δpolysol)/2]<0.3(δpolyおよびδsolは、それぞれポリマーおよび溶媒の溶解性パラメータを示し)、
- γsol<γpoly(γsolおよびγpolyは、それぞれ溶媒およびポリマーの自由表面エネルギーを示す)であるように選択される工程とを含む方法を提案する。
【0013】
工程a)は、ポリマー表面上に高分子を同じ方向に配向させることができ、工程b)は、表面のナノ構造化をもたらすとともに、ブラッシング工程a)から生じる表面粗さを変える、ポリマーの部分的な結晶化をもたらし得る。
【0014】
工程b)は、溶媒の混合物を用いて実行することができる。
【0015】
広い範囲の溶媒およびポリマーの定数または溶解度パラメータの値は、文献において、特にUS-A-4 529 563および、A F M Bartonによる刊行物 Chem Rev, 75, n°6, 731, 1975に発表されている。
【0016】
1つの実施において、基板は前記ポリマーにより構成される。すなわち、基板は、少なくとも1つの表面が本発明の方法を用いて処理されたバルクポリマーである。
【0017】
他の実施において、基板は、少なくとも1つの表面がポリマーの膜で被覆された化学的に不活性な材料により形成される支持体により構成される。ポリマーの膜を種々の方法を用いて、例えば、スピンコート、ブラシコートによって、ポリマー膜の押出し、またはその他によって堆積することができる。堆積されたポリマー膜は、典型的に50nmないし数ミクロンの範囲の厚さを持つ。
【0018】
使用される支持体は、スライドガラス、シリコンウェーハ、インジウムスズ酸化物(ITO)導電性ガラス、または金属表面であり得る。
【0019】
全ての場合において、アモルファスポリマー膜を堆積させるためのプロセスによって支持体を変化させてはならない。
【0020】
使用されるポリマーは、アモルファスおよび半結晶の形態で存在するに相違ない。好ましくは、ポリマーはポリエステル(ポリカーボネート、フッ素化ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸)、およびアイソタクチックポリスチレンを含む群より選択される。
【0021】
使用されるポリマーがビスフェノールAポリカーボネートの場合、溶媒はアセトン、トルエン、クロロベンゼン、テトラヒドロフランおよびシクロヘキサノンからなる群より選択することができる。
【0022】
使用されるポリマーがアイソタクチックポリスチレンの場合、溶媒はアセトンであり得る。
【0023】
本発明の方法は、工程b)の後にポリマー表面上に一定の粗さを作るために必要な条件を決定するための予備的な工程を含むことができる。
【0024】
第1のバリエーションにおいて、この予備的な工程は、
- 一連の同一の基板について工程a)を同一の条件下で実行し、
- 工程a)の最後に得られるそれぞれの基板について同じ溶媒を用い、同じ温度で、基板ごとに処理の持続時間を変化させることによって、工程b)を実行し、
- 工程b)の後にそれぞれの基板の表面に作られる粗さを決定し、
- 所望の粗さをもたらす加工条件を特定する
ことを含む。
【0025】
ブラッシングされた膜が溶媒蒸気に暴露される間の持続時間は、所与のポリマーにおける所与の溶媒の拡散定数に依存する。従って、それは各々のポリマー/溶媒の組に特異的である。一般に、この持続時間は1分ないし30分の範囲である。
【0026】
所望の粗さに到達するために必要な時間があまりに短い場合は、結晶化プロセスを減速させるために、溶媒蒸気と空気または不活性ガスとの混合物の使用が想定されるであろう。
【0027】
対照的に、膜を溶媒蒸気に暴露する間に温度を上昇させることによって処理時間を減らすことができる。
【0028】
第2のバリエーションにおいて、この予備的な工程は、
- 一連の同一の基板について工程a)を同一の条件下で実行し、
- 工程a)の最後に得られるそれぞれの基板について同じ溶媒を用い、同じ持続時間で、基板ごとに処理温度を変化させることによって、工程b)を実行し、
- 工程b)の後にそれぞれの基板の表面に作られる粗さを決定し、
- 所望の粗さをもたらす加工条件を特定する
ことを含む。
【0029】
予備的な工程を実行した後に、本発明の方法は、予備的な工程の最後で特定される条件下で、工程a)および工程b)を実行することを含む。
【0030】
したがって、ルーチンテストを用いることによって、当業者は、所望の用途に対応する粗さの基板を得るために、工程b)を実行するための温度および持続時間条件を決定することができる。
【0031】
第2の側面において、本発明は、少なくとも1つの表面がポリマーの膜で被覆されている化学的に不活性な材料から形成された支持体からなる基板であって、前記表面は配向され、かつナノ構造化されており、前記表面は交互のアモルファス領域と結晶ラメラを含む周期的な構造を持ち、結晶ラメラ/アモルファス領域配列に関連する特徴的な周期性は5ないし100nmの範囲にある基板に関する。
【0032】
化学的に不活性な材料から形成される前記支持体は、スライドガラス、シリコンウェーハ、インジウムスズ酸化物(ITO)導電性ガラスまたは金属表面であり得る。
【0033】
本発明は、ペンタセン、亜鉛フタロシアニン、コロネンもしくは有機染料、またはコロイド粒子(例えば金粒子)のような有機半導体(分子またはポリマー)の配向堆積についての発明に従った基板の使用にも関する。
【0034】
この堆積は、好ましくは真空昇華によって、または基板の表面の構造に影響を与えない溶媒中の溶液からの堆積によって、基板上に分子または高分子の膜を形成することにより実行され、基板は25℃ないし130℃の範囲の一定の温度に維持される。
【0035】
本発明は、本質的に全く限定的でない例によって以下に説明されるであろう。例1ないし3は、本発明の基板の調製および特性決定に関係し、例4ないし7は種々の分子の配向堆積のための、これらの基板の1つの使用に関係する。
【0036】
例1
この例は、1つの表面がビスフェノールAポリカーボネートで被覆された基板の調製に関係し、結晶化に使用される溶媒はアセトンである。
【0037】
ジクロロメタン中で2重量%の商用ポリカーボネート(Acrosによって販売され、MW=64000)溶液を調製した。
【0038】
次に、アモルファスポリカーボネートの膜を、清浄なスライドガラス(参照:Corning2947)上に2000rpmでスピンコートすることによって調製した。
【0039】
ブラッシング工程を実行するために、Beckerらによって発表された刊行物Mol Cryst & Liq Cryst, 132, 167, 1986に記載されたモデルに従って製造された装置を使用した。
【0040】
2バールの圧力を示すピストンによって、ベルベット生地(ポリアミドまたは綿)で被覆された金属シリンダー(40mm径)をポリマー膜に適用した。ローラーとポリマー試料が接触している間、シリンダーは100-300rpmの速度で回転し、試料は1cm/sの一定速度で平行移動された。ブラッシング長は200cmオーダーであった。次に、ブラッシングされたポリカーボネートの膜は窒素ジェットに曝された。
【0041】
ブラッシングの後、膜は強い光複屈折性を示した。
【0042】
図1および2は、原子間力顕微鏡を用い、2つの異なるスケールを用いて作られた、ブラッシング後に得られた膜の画像である。表面はリッジ化されていることがわかる。
【0043】
強い光複屈折性は、ブラッシングの方向に配向されたリッジ(複屈折を生成する)および表面上のポリマー鎖の優先的な配向の両方の存在の結果である。ポリマー鎖は表面上だけでなく、数ナノメートルの深さに渡って配向される。
【0044】
リッジの存在は5nmオーダー(RMS)の大きな粗さをもたらす。粗さは、2×2μmの表面に渡ってSiチップを備えたNanoscopeIII装置(25-50 N/m, 280-365 kHz)を具備した原子間力顕微鏡(タッピングモード)によって測定される。
【0045】
この段階で、ブラッシングされた膜は、堆積された材料に顕著な分子配向を誘起しなかった。
【0046】
方法の第2の工程を実行するために、ブラッシングされたポリマーの膜を密封ガラスチャンバー中でアセトンの蒸気に暴露し、空気の存在のもとで一定温度(20-25℃)に維持した。これらの条件下で、アセトン蒸気の分圧は250mbarのオーダーであった。
【0047】
表面のナノ構造化をもたらすブラッシングされた膜の室温でのアセトン蒸気への暴露は、膜の配向結晶化を生じ、ブラッシングによって誘起される粗さを顕著に減らし、得られる粗さの値はアセトン蒸気への暴露の持続時間に依存することが理解される。
【0048】
得られた結果を、測定された粗さを暴露時間t(分)の関数として示すグラフである図3に示す。最小の膜の粗さ、高い程度の配向および表面ナノ構造化を得るために最適な暴露時間が存在することがわかるであろう。この0.5nmの最小粗さ値は、2分の暴露時間で得られた。この短い時間は、或る用途、例えば電界効果トランジスタの製造に特に好適である。
【0049】
図4a-cは、それぞれ1分、2分および30秒のアセトン蒸気暴露後の膜表面を示す、原子間力顕微鏡によって作られたトポグラフィー画像である。測定された粗さは、それぞれ4〜5nm(図4a)、0.5nm(図4b)および12nm(図4c)であった。
【0050】
表面のナノ構造化は、位相差の存在を通じて交互の結晶およびアモルファスドメインの存在を立証する図5a-b(トポグラフィーモードで得られた画像に対応する)および図6a-b(位相差モードの画像に対応する)中で見られる、結晶およびアモルファスドメインが交互になっていることに起因する。ポリマーの結晶およびアモルファス領域は、異なる粘弾性応答を持つことで知られ、原子間力顕微鏡で観察される位相差を生じる(S S Sheiko, Advances in Polymer Sciences, vol 151, Springer Verlag, Berlin-Heidelberg, 2000)。全体の周期性は、20±4nmのオーダーであることが判明した。
【0051】
例2
表面がアイソタクチックポリスチレンで被覆された基板を調製した。結晶化に用いた溶媒はアセトンであった。
【0052】
基板を調製するための条件は、50cmのブラッシング長で、例1に記載したものと同様であった。ブラッシングしたポリマーの膜を、23℃の温度でアセトン蒸気に2分間暴露した。
【0053】
得られた結果を、交互の結晶およびアモルファスドメインの存在を示す図7a(トポグラフィー画像)および7b(位相差画像)に示す。
【0054】
例3
この例は、ポリカーボネートの膜で被覆された表面を持つSi(100)基板の調製および特性決定に関係する。
【0055】
調製
使用されるSi(100)基板は、4S41/90を参照してSilchemから販売され、以下の特徴を持つ:ウェーハ径 100mm、比抵抗 53.5ohm/cm、厚さ460ミクロン。
【0056】
ビスフェノールAポリカーボネート(Acrosで販売され、MW=64000)の溶液を、テトラクロロエタン中で2重量%の濃度に調製した。
【0057】
スピンコートを2000rpmかつ2000rpm/sの加速度で実行した。Si(100)基板は典型的に8cm×2.5cmの寸法を持つ。スピンコートの後、膜を30分ないし1時間の間、室温で真空オーブン中に置き、微量のテトラクロロエタン全てを除去した。この溶媒は高い沸点を持ち、膜中にこれが存在することは、アセトン蒸気による結晶化の効率に影響するかもしれない。
【0058】
調製における他の工程は、例1に記載したものと同一である。
【0059】
ポリカーボネート薄膜は厚さ300nmのオーダーであった。
【0060】
特性決定
ポイントa)およびb)に記載した実験は、ポリカーボネートの溶媒蒸気への暴露の持続時間およびそれらの深さの関数としてポリカーボネートの構造および配向を調べることを目的とした。
【0061】
これらの実験は、シンクロトロン放射を用いて実行された。
【0062】
a)溶媒蒸気への暴露時間の関数としての膜の構造および配向
実験は、アセトン蒸気にそれぞれ0,2,3,4および6分間暴露した時間に対応する、5つの異なる試料について実行された。図8は、アセトン蒸気への暴露時間の関数としての、鏡面反射率の変化を示す。
【0063】
キーシッヒフリンジ(Kiessig fringes)の減衰は、膜の粗さと関連している。2分の暴露時間について、振動の減衰が殆ど無いことは、表面が非常に低い粗さを持つことを示す。3分以上の暴露時間については、振動がより大きな程度で減衰した。これは、膜の粗さがアセトン蒸気への暴露時間とともに増大し、ポリカーボネートの結晶化がポリマー膜の内部に向かって伝播することを示す。
【0064】
b)深さの関数としての膜の構造および配向
照角(glancing angle)X線回折測定を用ることによって、深さの関数としての膜の構造の試験が可能となった。全反射の臨界角は、χ=0.15°のオーダーであった。これは、χ=0.10°について6nm、およびχ=0.15°について60nmオーダーのX線の透過深度の推定に用いることができた。χ=0.18°については、透過深度がポリマー膜の厚さを超える。
【0065】
図9は、配向され、かつナノ構造化されたポリカーボネート膜についての、入射角χの関数としての照角X線回折図における変化を示す。図は、(θ,2θ)配置における膜の平面に対して垂直に配向されたPSDディテクタを用いて得られた。配向θ=0では、入射ビームがポリマー膜のブラッシング方法に対して平行となる。
【0066】
これらの実験は、いくつかの(hk0)タイプの回折斑を同定している。図9の結果は、結晶性で、かつ配向された表面領域(χ=0.10°および0.15°)の存在を示す一方、膜の内部は、アモルファス暈(χ=0.18°)の存在によって同定されるように、アモルファスである。2θ=15.5°について観察される反射は、ポリカーボネートの単斜晶系構造の(210)反射に起因する(R Bonart, Die Makromoleculare Chemie, 92, 149 (1966)を参照)。
【0067】
さらに、これらの実験は、ポリカーボネートの結晶ラメラ配向の、基板平面内における角分散度の測定を可能にした(Δω≒25°(半値半幅))。
【0068】
図9の結果は、結晶性ポリアクリルアミドラメラが高密度な(010)タイプの平面に対応することも示す。通常のブラッシング技術が繊維対称(1軸系)を持つ配向ポリマーをもたらす一方で、本発明の系が2軸配向を持つことを考えれば、この結果は予想外である。
【0069】
製造が例1に記載されているポリカーボネート基板の用途のいくつかの例がここに記載されるであろう。
【0070】
これらの例において、ペンタセン、亜鉛フタロシアニンおよびジアゾ染料の有機膜、ならびに金の膜は、25℃ないし130℃の範囲の一定温度に維持されたポリカーボネート基板上への真空昇華によって調製された。
【0071】
典型的に、膜は商用のAuto 306(BOC Edwards)タイプのエバポレータを用いた真空蒸発によって製造された。使用された高真空は10-5ないし10-7mbarの範囲であった。
【0072】
堆積させる生成物が有機材料の場合、蒸発源は、堆積される生成物を収容した石英坩堝によって構成した。タングステンフィラメントによって坩堝を抵抗加熱した。堆積速度(nm/min)および膜の厚さを測定するために石英秤を用いた。配向ポリマー基板を、蒸発源から10cmないし30cmの距離に位置する加熱可能な試料キャリアー上に設置した。
【0073】
所望の堆積速度(1ないし10nm/min)に達するまで、坩堝の温度を上昇させた。次に基板の前面に位置するマスクを取り除き、基板上への堆積を開始した。所望の厚さに到達したときに、マスクを試料の前面に再び配置した。基板の温度が室温に近い温度まで戻ってはじめて、試料をエバポレータから除去した。
【0074】
金を堆積するために、使用される蒸発源は、一般に、蒸発される金ワイヤー片が周りに巻かれた、単純な抵抗加熱されるタングステンワイヤー(およそ、長さ1cm、径25ミクロン)である。
【0075】
例4:ペンタセンの配向堆積
この分子は、電界効果トランジスタの製造のために使用される有機半導体である。光学顕微鏡画像(図10aおよび10b)および波長ラムダ(ナノメートル)の関数としての吸光度Aを示すグラフ;(図11)は、それぞれ、光吸収において高い複屈折性および強い異方性を強調している。これらの結果は、配向PTFE基板について得られるものと同様の、基板上の高度な分子配向を示唆する(M Brinkmann et al, J Phys Chem B, 107, 10531, 2003を参照)。
【0076】
例5:亜鉛フタロシアニンの配向堆積
図12a-cは、それぞれ40℃、75℃および100℃の堆積温度について配向ポリカーボネート基板上に堆積された亜鉛フタロシアニンZnPcの薄膜(50nm)の、原子間力顕微鏡によって得られたトポグラフィー画像を示す。図13a-bは、100℃の基板温度Tsにて堆積された、50nmの厚さを持つフタロシアニンの膜についての、それぞれ明視野画像および対応する回折画像を示す。得られた結果は、亜鉛フタロシアニンの配向の程度は基板温度とともに増大し、基板の配向は100℃の温度まで維持されることを示す。補助的な実験は、基板の配向力が少なくともTs=130℃まで維持されることを示している。
【0077】
配向の程度の電子顕微鏡分析は、亜鉛フタロシアニンの細長い結晶(図13)および全ての表面に渡る均質性を示唆する非常に細かい回折斑(図13b)の生成を示した。
【0078】
例6:コロネンの配向堆積
原子間力顕微鏡によってよって得られた、配向ポリカーボネートの基板上に29℃の基板温度Tsで堆積されたコロネンの薄膜(50nm)のトポグラフィー画像(図14a)は配向結晶によって構成された表面を示す一方で、対応する回折画像(図14b)は、フタロシアニンについて観察されたものと同様の高い配向の程度を示す、微かに弓形の回折斑を示した。
【0079】
例7:金ナノ粒子の配向堆積
配向され、かつナノ構造化された基板上への、蒸発によるおよそ20ナノメートルの金の堆積は、比較的狭い粒径分布を持った金ナノ粒子の形成をもたらす。原子間力顕微鏡分析(図15)は、ナノ構造化された基板の表面によるナノ粒子の顕著な配列を示した。入射波の偏光がポリカーボネート基板のブラッシング方向に対して垂直に配向されている場合は、これらの膜の光吸収は偏光され、およそ700nmの吸収極大を持っていた(波長ラムダ(ナノメートル)の関数としての吸光度を示す図16)。光吸収は、参照として配向されていないPC上に金の膜を適用することによって測定されたことに注目すべきである。
【0080】
例8:アゾ染料の配向堆積
透過電子顕微鏡によって得られた、29℃の基板温度Tsにて配向ポリカーボネート基板上に堆積された以下の式(I)のジアゾ染料の薄膜(50nm)の明視野画像を図17に示す。
【化1】

【0081】
この膜について、偏光吸収測定は、光吸収の実質的な異方性を示した。入射波の偏光がブラッシング方向に対して垂直に配向している場合に、吸収極大が得られた。560nmで測定された水平吸収に対する垂直吸収の比として定義される二色比は、容易に20のオーダーの値を達成した。電子回折測定は、僅かに弓形の斑を持つ回折画像(図18)を生じ、膜の高度な配向性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0082】
説明なし
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの表面がポリマーにより構成された基板を調製する方法であって、前記ポリマー表面は配向され、かつナノ構造化されており、前記方法は以下の連続した、
a)ポリマー表面をブラッシングし、基板はアモルファス状態にある工程と、
b)工程a)の最後に得られる配向ポリマー表面を溶媒蒸気と接触させ、前記溶媒は、
- |δpolysol|/[(δpolysol)/2]<0.3(δpolyおよびδsolは、それぞれポリマーおよび溶媒の溶解度パラメータを示す)、
- γsol<γpoly(γsolおよびγpolyは、それぞれ溶媒およびポリマーの自由表面エネルギーを示す)であるように選択される工程と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記基板が前記ポリマーにより構成されることを特徴とする請求項1による方法。
【請求項3】
前記基板が、少なくとも1つの表面がポリマーの膜で被覆された化学的に不活性な材料によって形成される支持体からなることを特徴とする請求項1による方法。
【請求項4】
前記ポリマー膜が50ナノメートルないし数ミクロンの範囲の厚さであることを特徴とする請求項3による方法。
【請求項5】
前記ポリマーが、ポリカーボネート、フッ素化ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸のようなポリエステルおよびアイソタクチックポリスチレンを含む群より選択されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項による方法。
【請求項6】
前記ポリマーがビスフェノールAポリカーボネートであることを特徴とする請求項5による方法。
【請求項7】
前記ポリマーがビスフェノールAポリカーボネートであり、前記溶媒がアセトン、トルエン、クロロベンゼン、テトラヒドロフランおよびシクロヘキサノンからなる群より選択されることを特徴とする請求項1による方法。
【請求項8】
前記ポリマーがポリカーボネート(ビスフェノールA)、ポリエチレンテレフタレートおよびナフタレート、ポリ乳酸ならびにアイソタクチックポリスチレンからなる群より選択され、前記溶媒がアセトンであることを特徴とする請求項1による方法。
【請求項9】
前記ポリマーがアイソタクチックポリスチレンであり、前記溶媒がアセトンであることを特徴とする請求項1による方法。
【請求項10】
工程b)の後に前記ポリマー表面に一定の粗さを作るための必要な条件を決定する予備的な工程を含むことを特徴とする請求項1による方法。
【請求項11】
前記予備的な工程が、
- 一連の同一の基板について工程a)を同一の条件下で実行し、
- 工程a)の最後に得られるそれぞれの基板について同じ溶媒を用い、同じ温度で、基板ごとに処理の持続時間を変化させることによって、工程b)を実行し、
- 工程b)の後にそれぞれの基板の表面に作られた粗さを決定し、
- 所望の粗さをもたらす加工条件を特定する
ことを含むことを特徴とする請求項10による方法。
【請求項12】
前記予備的な工程が、
- 一連の同一の基板について工程a)を同一の条件下で実行し、
- 工程a)の最後に得られるそれぞれの基板について同じ溶媒を用い、同じ持続時間で、基板ごとに処理温度を変化させることによって、工程b)を実行し、
- 工程b)の後にそれぞれの基板の表面に作られる粗さを決定し、
- 所望の粗さをもたらす加工条件を特定する
ことを含むことを特徴とする請求項10による方法。
【請求項13】
前記予備的な工程を実行した後に、前記予備的な工程の最後に特定される条件下で工程a)およびb)を実行することを特徴とする請求項11または請求項12による方法。
【請求項14】
少なくとも1つの表面がポリマーの膜で被覆されている化学的に不活性な材料から形成される支持体により構成された基板であって、前記表面は配向され、かつナノ構造化されており、前記表面は交互のアモルファス領域と結晶ラメラとの交代性があることを含む周期構造を持ち、結晶ラメラ/アモルファス領域の配列に関連する周期性が5ないし100nmの範囲にあることを特徴とする基板。
【請求項15】
前記支持体がスライドガラス、シリコンウェーハ、導電性ガラスまたは金属表面であることを特徴とする請求項14による基板。
【請求項16】
有機半導体の配向堆積のための、請求項14または請求項15による基板の使用。
【請求項17】
ペンタセンの配向堆積のための、請求項16による使用。
【請求項18】
亜鉛フタロシアニンの配向堆積のための、請求項16による使用。
【請求項19】
コロネンの配向堆積のための、請求項16による使用。
【請求項20】
有機染料の配向堆積のための、請求項14または請求項15による基板の使用。
【請求項21】
コロイド粒子の配向堆積のための、請求項14または請求項15による基板の使用。
【請求項22】
金粒子の配向堆積のための、請求項21による使用。

【公表番号】特表2009−510208(P2009−510208A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532827(P2008−532827)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際出願番号】PCT/FR2006/002201
【国際公開番号】WO2007/036639
【国際公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(500174661)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・レシェルシュ・サイエンティフィーク−セ・エン・エール・エス− (54)
【Fターム(参考)】