説明

配向カーボンナノチューブの製造方法

【課題】配向CNTをより一層安価に量産することができる配向CNTの製造方法を提供する。
【解決手段】還元ガス、原料ガス及び触媒賦活物質を噴出させ、基板の触媒被膜形成面に直交する方向に配向するカーボンナノチューブを化学気相成長により製造するための方法であり、基板の触媒被膜形成面を臨む位置に設けられた複数の噴出孔を備えるシャワーヘッドの該噴出孔から還元ガスを噴出させ、該噴出された還元ガスによって触媒被膜形成面に存在する金属触媒粒子の密度を1.0×1011から1.0×1013個/cmに調整させ、かつ、該シャワーヘッドの噴出孔から原料ガス及び触媒賦活物質を噴出させ、該噴出された原料ガス及び触媒活性物質を前記成長して配向したカーボンナノチューブの集合体中を拡散させて触媒被覆形成面と接触させるようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配向カーボンナノチューブを高効率に製造することができる配向カーボンナノチューブの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、特異な物理的、化学的、機械的特性を有するカーボンナノチューブ(以下、CNTとも称する)が注目されている。特に、複数のCNTを同一方向に配向させたCNT集合体は、電気的特性(例えば導電率)や光学的特性(例えば透過率)や機械的特性(例えば曲げ特性)などについて、配向方向とそれに直交する方向とで異なる特性、すなわち異方性を有することから、このような配向CNTをマイクロマシン(MEMS)用デバイスや電子デバイスに適用しようとする機運が高まっている。特に配向したCNTの集合体は、配向したCNTの間をイオンが容易に拡散できるため、ハイパワーのスーパーキャパシターの電極材料としても有用である。
【0003】
これらの分野で配向CNTの実用化を推進するためには、配向CNTの量産性を向上させることが重要である。本発明者らは、化学気相成長法(以下、CVD法とも称する)によるCNTの成長方法において、反応雰囲気中に水分を微量存在させることにより、従来の方法に比べて純度、比表面積、配向性に優れ、しかも著しくラージスケール化した配向CNT集合体が得られることを見出し、これを非特許文献1において報告した。
【0004】
またこの他に、垂直配向したCNT膜の成長過程において、原料ガスと共に水蒸気を反応容器内へ供給する技術が特許文献1に提案されている。
【非特許文献1】Kenji Hata et al, Water-Assisted Highly Efficient Synthesis of Impurity-Free Single-Walled Carbon Nanotubes, SCIENCE, 2004.11.19, vol.306, p.1362-1364
【特許文献1】特開2007−261839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに、上記文献に記載の技術は、実験室規模での技術にとどまり、配向CNTの工業的利用を拡大し且つ推進するには、製造コストのより一層の低廉化、並びにより一層の量産化を実現し得る配向CNTの製造装置および製造方法の開発が望まれる。
【0006】
本発明は、このような観点に立脚してなされたものであり、その主な目的は、配向CNTをより一層安価に量産することができる配向CNTの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために本発明の製造方法が適用される製造装置においては、図1に示すように、金属触媒被膜が形成された基板2を受容する反応チャンバ3と、還元ガス、原料ガス9及び触媒賦活物質10の反応チャンバ3内への供給手段(ガス供給管5、6)とを備え、基板1の触媒被膜形成面2aに直交する方向に配向するCNTを製造するための装置(CVD装置1)であって、原料ガス9及び触媒賦活物質10の供給手段が、基板2の触媒被膜形成面2aを臨む位置に設けられた複数の噴出孔22(図3)を備えており、かつ噴出孔22の噴出方向が、金属触媒被膜から成長したCNTの配向方向に適合していることを特徴とする。
【0008】
また、金属触媒被膜が形成された基板2を受容する反応チャンバ3内に、還元ガス12、原料ガス9及び触媒賦活物質10を供給し、基板2の触媒被膜形成面2aに直交する方向に配向するCNTを製造するための方法において、反応チャンバ3内に基板2を配置する第1の工程S1と、基板2が配置された反応チャンバ3内に還元ガス12を供給する第2の工程S2と、基板2が配置された反応チャンバ3内に原料ガス9及び触媒賦活物質10を供給する第3の工程S3とを含み、第3の工程において、前記原料ガス9及び触媒賦活物質10は、基板2の触媒被膜形成面2aを臨む位置に設けられ、かつ金属触媒被膜から成長したCNTの配向方向にその噴出方向を適合させた複数の噴出孔22からを供給する。そして上記触媒賦活物質10としては含酸素化合物を用いる。
【0009】
このような本発明によれば、触媒の活性が高まると共に寿命が延長するので、配向CNTの成長を長時間継続させることが可能となる上、原料ガス並びに触媒賦活物質が無駄なく消費されるので、配向CNTを安価に量産する上に多大な効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明のCNT製造方法を適用した製造装置を概念的に示す側面図である。
【図2】図2は、本発明のCNT製造方法を概念的に示すフロー図である。
【図3】図3は、触媒賦活物質が触媒被膜形成面に到達する様子を示す模式図である。
【図4】図4は、シャワーヘッドの噴出孔開口面の平面図である。
【図5】図5は、触媒賦活物質として水蒸気を用いた際の配向CNT集合体の成長時間と高さとの関係を本発明法と従来法とで比較したグラフである。
【図6】図6は、水分添加量を変化させたときのCNT収量を本発明法と従来法とで比較したグラフである。
【図7】図7は、複数回成長を繰り返した際の平均値に対する各回の収量ばらつきを本発明法と従来法とで比較したグラフである。
【図8】図8は、触媒賦活物質としてテトラヒドロフランを用いた際のCNTの成長時間と高さとの関係を本発明法と従来法とで比較したグラフである。
【図9】図9は、全てのガスをシャワーヘッドから供給した際のCNTの成長時間と高さとの関係を従来法と比較したグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の最良の実施形態について添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
本発明のCVD装置1は、図1に示す通り、金属触媒を担持した基板2を受容する例えば石英ガラス等からなる管状の反応チャンバ3と、反応チャンバ3を外囲するように設けられた例えば抵抗発熱コイルなどからなる加熱手段4とを備えている。
【0013】
反応チャンバ3の一端壁には、反応チャンバ3内に開口する2つのガス供給管5、6が接続され、反応チャンバ3の他端壁には、反応チャンバ3内に開口するガス排出管7が接続されている。そして2つのガス供給管5、6には、集合・分岐管路部8を介して原料ガス供給部9、触媒賦活物質供給部10、キャリアガス供給部11、並びに還元ガス供給部12が接続されている。
【0014】
反応チャンバ3内の下方位置には、触媒被膜形成面2aを上方へ向けた状態の基板2を保持した基板ホルダ13が設けられ、その上方には、複数の噴出孔を均一な密度で分散配置してなるシャワーヘッド14が設けられている。このシャワーヘッド14には、一方のガス供給管5の下流端が接続されており、その噴出孔は、基板ホルダ13に載置された基板2の触媒被膜形成面2aを臨む位置に設けられている。また各噴出孔は、その噴射軸線が基板2の触媒被膜形成面2aに直交する向きとなるように設けられている。つまりシャワーヘッド14に設けられた噴出孔から噴出するガス流の方向が、基板2の触媒被膜形成面2aに概ね直交するようにされている。
【0015】
ここで本実施形態においては、噴出孔の噴射軸線(ガスの噴出方向)を基板2の触媒被膜形成面2aに直交する向きとしたが、これは一般的に基板2の触媒被膜形成面2aから垂直方向に成長するCNTの配向方向に噴出孔から噴出するガス流の向きを適合させるための最適設計として採った形態である。つまるところ、噴出孔の分布ならびに噴射軸線の角度を含むシャワーヘッド14の形式は、基板2の触媒被膜形成面2aに到達するガス流を実用上許容できる範囲で均一化でき、成長するCNTにガス流が阻害されないものでありさえすればよく、本実施形態に限定されない。また、基板2、基板ホルダ13、及びシャワーヘッド14の配置は、上記関係が充足されればよく、本実施形態に限定されない。
【0016】
両ガス供給管5、6、ガス排出管7、並びに各供給部9〜12の適所には、逆止弁、流量制御弁、および流量センサが設けられており、図示されていない制御装置からの制御信号によって各流量制御弁を適宜に開閉制御することにより、所定流量の原料ガス、触媒賦活物質、キャリアガス、並びに還元ガスが、2つのガス供給管5、6の両方、或いはいずれか一方から、反応プロセスに応じて連続的に或いは間欠的に反応チャンバ3内に供給されるようになっている。
【0017】
なお、触媒賦活物質供給部10には、別のキャリアガス供給部(図示省略)が付設されており、触媒賦活物質は、例えばヘリウム等のキャリアガスと共に供給される。
【0018】
このように構成されたCVD装置1によれば、集合・分岐管路部8を介して供給される各ガスを、一方のガス供給管5を経てシャワーヘッド14の噴出孔から基板2の触媒被膜形成面2aにシャワーのように吹きかけて、或いは他方のガス供給管6の開口から反応チャンバ3内に送り込んで、或いは2つのガス供給菅5、6の両方から送り込んで、基板2の触媒被膜形成面2aに複数のCNTを実質的に同一の方向へ成長させることができる。
【0019】
本発明の方法が適用されるCVD装置1においてCNTの合成に用いる原料ガスとしては、従来法と同様に、炭化水素、なかでも例えばメタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、アセチレン等の低級炭化水素が使用可能である。これらを1種のみ、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
原料ガスと共に触媒被膜形成面2aに接触させる触媒賦活物質は、CNTの成長雰囲気中に加えることにより、触媒の活性を向上したり、触媒の寿命を延ばしたりする効果があり、結果として、効率よくCNTの成長を行うことを可能にするものである。触媒賦活物質のこのような機能のメカニズムは、以下のように推察される。つまり触媒賦活物質を含まない通常のCNT合成法においては、触媒微粒子がすぐにカーボン膜に覆われて失活してしまう。これに対し、触媒賦活物質を雰囲気中に含ませる本発明のCNT合成法によると、触媒被膜形成面2aに触媒賦活物質が接触すると、触媒微粒子を覆うカーボン膜を触媒賦活物質が取り除いて触媒の地肌を清浄にする結果、触媒を賦活させるものと考えられる。
【0021】
このような機能をもつ物質としては、水蒸気が知られているが、上記作用を持つ物質であれば何でもよく、一般には酸素を含む物質であり、成長温度でCNTにダメージを与えない物質であればよく、水蒸気の他に、例えばメタノール、エタノール等のアルコール類や、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン等のケトン類、アルデヒドロ類、酸、エステル類、酸化窒素、一酸化炭素、二酸化炭素などの低炭素数の含酸素化合物の使用も反応条件に応じて許容される。
【0022】
反応チャンバ3内を満たすキャリアガスとしては、CNTと反応せず、成長温度で不活性なガスであればよく、例えば、ヘリウム、アルゴン、水素、窒素、ネオン、クリプトン、二酸化炭素、塩素などや、これらの混合ガスが使用可能である。
【0023】
還元ガスとしては、金属触媒に作用してCNTの成長に適合した状態の微粒子化を促進し得るガスであればよく、例えば、水素、アンモニアや、これらの混合ガスが使用可能である。
【0024】
基板2の材料としては、CNTの用途に応じて従来周知の各種材料を用いることができ、例えば、シリコン、石英ガラスなどの非金属や、種々の金属、セラミックス、酸化物などからなるシート状材、あるいは板状材が使用可能である。
【0025】
基板2に被着する触媒被膜としては、CNTの合成に従来用いられている周知の金属薄膜、例えば、塩化鉄薄膜、鉄薄膜、鉄−モリブデン薄膜、アルミナ−鉄薄膜、アルミナ−コバルト薄膜、アルミナ−鉄−モリブデン薄膜等を用いることができる。
【0026】
基板2に対する触媒被膜の形成は、例えばスパッタリング蒸着法など、従来周知の方法を用いることができる。また、周知のフォトリソグラフィー技術を適用して触媒被膜を所望の形状にパターニングすることもできる。
【0027】
反応時の雰囲気圧力並びに温度は、従来法と同様の圧力範囲並びに温度範囲を適用可能である。
【0028】
このように構成されたCVD装置1によって配向CNTを製造するに当たっては、図2に示すように、先ず、他方のガス供給管6から供給されたキャリアガス(例えばヘリウム)及び還元ガス(例えば水素)等が満たされて所定温度(例えば750℃)に加熱され且つその温度に保たれた反応チャンバ3内に、金属触媒被膜(例えばアルミナ−鉄薄膜)を別工程で予め成膜した基板2(例えばシリコンウエハ)を基板ホルダ13に載置したものを搬入する(第1の過程S1)。
【0029】
次いで他方のガス供給管6から反応チャンバ3内に還元ガス(例えば水素)を所望の時間供給する(第2の過程S2)。この還元ガスにより、触媒被膜形成面2aに存在する金属触媒が微粒子化され、例えば単層CNTの成長に適合した状態に金属触媒が調整される。ここで適切な金属触媒被膜の厚さ並びに還元反応条件を選択することにより、直径数ナノメートルの触媒微粒子を、1.0×1011(個/cm)から1.0×1013(個/cm)の密度に調整可能である。この密度は、触媒被膜形成面2aに直交する向きに配向した複数のCNTを成長させるのに好適である。
【0030】
次いで他方のガス供給管6からの還元ガス及びキャリアガスの供給を、所望(反応条件)に応じて停止あるいは低減すると共に、原料ガス(例えばエチレン)と、キャリアガスに混入した触媒賦活物質(例えば水蒸気)とを、一方のガス供給管5から供給し、シャワーヘッド14から基板2の触媒被膜形成面2aにこれを吹きかける(第3の過程S3)。これにより、基板2に被着した触媒微粒子からCNTが成長する。
【0031】
このようにして、基板2上の触媒被膜形成面2aから同時に成長した複数のCNTは、触媒被膜形成面2aに直交する向きに成長して高さが概ねそろった配向CNT集合体を構成する。この時、触媒微粒子は、主として触媒被膜形成面2a上に固着したままであり、更なるCNTの成長を維持するためには、原料ガス及び触媒賦活物質が成長した配向CNT集合体の中を効率よく拡散し、触媒被膜形成面2a上の触媒微粒子に継続的にかつ安定的に供給される必要がある。
【0032】
ここで上述の通り、シャワーヘッド14に設けられた噴出孔の噴射方向は、触媒被膜形成面2aに直交しているので、噴出孔からのガス流の向きは、基板2の触媒被膜形成面2aに概ね直交するCNTの成長方向、つまり成長する複数のCNTの配向軸線と平行か、それに近い方向になる。そのため、原料ガス及び触媒賦活物質が、配向CNT集合体を構成する複数のCNT間を容易に拡散し、触媒被膜形成面2aの全面に渡って均一に且つ効率よく安定に供給される。このため、本発明の効果、すなわち、触媒賦活物質により触媒が長寿命化され、また、原料ガス及び触媒賦活物質の消費量が低減され、その結果として著しく大量且つ安価に且つ安定にCNTを製造可能となる。
【0033】
上述した本発明の作用に明らかな通り、シャワーヘッド14に設けられた噴出孔22の噴出方向は、図3に示すように、原料ガス及び触媒賦活物質が、成長する配向CNT集合体31中を容易に拡散して触媒被膜形成面2aに接触できればよく、必ずしもCNTの配向方向に平行である必要はない。つまり、シャワーヘッド14に設けられた噴出孔22の噴出方向は、CNTの配向方向に適合していればよい。
【0034】
一般的に、CNTの高効率な成長に最適な触媒賦活物質は極微量であり、また触媒賦活物質は反応性に富んでいるので、触媒被膜形成面2aの全面に渡って均一に且つ効率よく触媒賦活物質を供給することは本発明法以外では困難である。仮に反応チャンバ3の一端壁に開口した他方のガス供給管6から触媒賦活物質を供給したとすると、図3に破線で示すように、その流線は基板2の触媒被膜形成面2aに平行する成分が圧倒的に多くなる。そのため、成長したCNT集合体31に遮られたり、触媒被膜形成面2aで消費されたりして、触媒被膜形成面2aの全面に渡って均一に触媒賦活物質が接触できなくなることが考えられる。
【0035】
なお、キャリアガス、還元ガス、原料ガス及び触媒賦活物質の各流量は、反応チャンバ3の容積および各ガスの種類などの反応条件に応じて適宜に設定すればよい。
【実施例1】
【0036】
以下に具体的な実施例及び比較例を示してさらに詳しく説明する。
【0037】
扁平な中空の箱状をなし、基板2の触媒被膜形成面2aを臨む噴出孔開口面21に複数の噴出孔22が設けられたシャワーヘッド14(図4−aに示すもの/表面サイズ:60.0mm×16.7mm、噴出孔径:0.4mm、噴出孔数:17行×6列等間隔)を、基板2(20mm×20mmシリコンウエハ、厚さ600nmの酸化膜付)上に基板2から6mm離間させて配置した。なお、シャワーヘッド14の仕様はこれに限定されず、図4−b或いは図4−cに示す形態でもよいし、場合によっては、共通のパイプに多数のノズルを設けたものや、実質的な噴出孔が無数にあるようなポーラス材料を用いたものでもよい。
【0038】
キャリアガスとしてのヘリウム(供給速度100sccm)と、還元ガスとしての水素(供給速度900sccm)との混合ガス(トータル供給速度1000sccm)を、他方のガス供給管6から反応チャンバ3(直径30mmの石英菅)内に送り込むと共に、反応チャンバ3内を750℃に加熱した。そこへ別工程のスパッタリング蒸着法により、触媒被膜(Al:40nm/Fe:1.0nm)が予め成膜された基板2を、基板ホルダ13に載置した状態で搬入し、反応チャンバ3の軸線方向の中心よりも下流側に配置した(第1の過程S1)。そして他方の供給管6から反応チャンバ3内にヘリウム(100sccm)と水素(900sccm)との混合ガス(トータル供給速度1000sccm)を送り込んで750℃の状態を維持したまま、所定時間(6分)経過させた(第2の過程S2)。
【0039】
これにより、触媒被膜形成面2aの金属触媒が微粒子化され、単層CNTの成長用触媒として適合した状態に調整される。
【0040】
次に、他方の供給菅6からのガスの供給を止め、一方のガス供給管5から、原料ガスとしてのエチレン(供給速度10sccm)と、触媒賦活物質としての水蒸気を含有したキャリアガス(相対湿度23%;供給速度5sccm)とを、キャリアガスのヘリウム(供給速度85sccm)と共に送り込み、両者をシャワーヘッド14の噴出孔22から基板2の触媒被膜形成面2aに吹きかけた(第3の過程S3)。この本発明法により、触媒微粒子にてエチレンが熱分解してCNTが合成され、10分間で3.5mg/cmのCNTが得られた。
【0041】
これに対し、エチレンと水蒸気含有キャリアガスとを、反応チャンバ3における一端壁の内面に開口した他方のガス供給管6から反応チャンバ3内に直接送り込む(シャワーヘッド14を用いない)従来法によると、上記と同一仕様の触媒被膜(Al:40nm/Fe:1.0nm(スパッタリング蒸着))が成膜された基板2を用い、750℃でCNTを成長させた場合に、ヘリウムの供給速度が850sccm、エチレンの供給速度が100sccm、水蒸気含有キャリアガス(相対湿度23%)の供給速度が50sccmで、3.3mg/cmのCNTを10分間で得ることができた。
【0042】
この結果から、エチレンと、水蒸気含有キャリアガスとを、共にシャワーヘッド14から供給する本発明法によると、エチレン、水蒸気含有キャリアガス並びにヘリウムの供給量が、シャワーヘッド14を用いない従来法の約1/10で、略同等以上のCNT収量を上げられることが分かった。つまり本発明により、CNTの製造コストを大幅に低減し得ることが分かった。
【0043】
ここで基板ホルダ9に載置された基板2の触媒被膜形成面2aとシャワーヘッド14の噴出孔開口面21との間隔は、これが過大であると、原料ガスと触媒賦活物質との混合ガスが触媒被膜形成面2aに届く前に拡散してしまうためにシャワーヘッド14を基板2の触媒被膜形成面2aに向き合わせた効果が無くなる。この反対に過小であると、CNTを高く成長させるための余裕が少なくなると同時に、原料ガスと触媒賦活物質との混合ガスがシャワーヘッド14の噴出孔22との対向面に集中して当たるため、これもシャワーヘッド14の噴出孔開口面21を基板2の触媒被膜形成面2aに向き合わせた効果が無くなる。つまりシャワーヘッド14の噴出孔開口面21と基板2の触媒被膜形成面2aとの間隔は、シャワーヘッド14の面積と噴出孔22の分布密度との相関およびCNTの目標成長高さを勘案して適宜に定める必要がある。
【0044】
なお、噴出孔開口面21と触媒被膜形成面2aとは、互いに向かい合っていることが好ましいが、必ずしも正対していなくてもよく、互いの面積中心がある範囲でオフセットしていても、本発明の作用、即ちCNTの成長を長時間継続させる作用は発現する。
【0045】
図5に、基板2の触媒被膜形成面2aにシャワーヘッド14から原料ガス及び触媒賦活物質を供給した本発明法と、シャワーヘッド14を全く用いない従来法とにおける配向CNT集合体の成長高さと成長時間との関係を示す。ここで配向CNT集合体の成長高さは、例えば、配向CNT集合体を光学系で直接観察することによって計測可能である。本発明法によると、80分を超えてもCNTの成長が継続するのに対し、従来法では10分程度で成長が頭打ちとなっており、本発明法により、触媒を長寿命化し得ることが分かった。なお、図5における本発明法での成長高さの限度は、シャワーヘッド14の噴出孔開口面21と基板2の触媒被膜形成面2aとの間隔の初期設定によるものであり、CNTの成長に連れてシャワーヘッド14が上昇するように構成すれば、CNTのさらなる成長を期待できる。
【0046】
図6に、水蒸気(触媒賦活物質)およびエチレン(原料ガス)をシャワーヘッド14から供給した本発明法と、シャワーヘッド14を全く用いない従来法とにおいて、水蒸気添加量(相対湿度23%)を変化させたときのCNT収量を測定した結果を示す。これによると、水蒸気添加量を変化させた際の収量変動が、従来法では緩やかであったのに対して本発明法では急峻であった。また最大収量は、本発明法は従来法よりも約60%増大し、本発明法による最大収量時の水蒸気添加量は、従来法の1/2程度であった。このことは、基板2の触媒被膜形成面2aを臨む位置に配置されたシャワーヘッド14から原料ガス及び触媒賦活物質を触媒被膜形成面2aに吹きかける本発明法の方が、シャワーヘッド14を用いない従来法に比して、原料ガス及び触媒賦活物質の利用効率が高く、原料ガス及び触媒賦活物質が無駄なく消費されることを示している。
【0047】
図7は、CNTの成長を3日間に亘って複数回繰り返した際の各回の収量を、平均値(100%)と比較してパーセント表示したグラフである。このグラフにより、本発明法(図7−b)は、回毎の収量のばらつきが従来法(図7−a)に比して小さいことが分かり、すなわち本発明法が、再現性の高い安定したCNTの成長に有効であることが分かった。
【0048】
本発明は、大面積の基板に均一にCNTを成長させるためにも有効である。従来法では、大面積の基板上に配向CNT集合体を均一に成長させることは困難であった。これは、図3に示したように、原料ガス及び触媒賦活物質が基板2に供給されると、これらが触媒被膜形成面2aに接触して消費されるため、結果として原料ガス及び触媒賦活物質の触媒被膜形成面2aへの供給量が、大面積基板における周辺部と中心部とで異なってしまうためである。これに対し、本発明の手法を用いると、原料ガス及び触媒賦活物質を、大面積基板でも均一に且つ安定に触媒被膜面2aに供給することが可能となる。
【0049】
原料ガス及び触媒賦活物質の利用効率が高く、成長の再現性が高いという本発明法の効果は、触媒賦活物質が、例えば、反応チャンバ3の側壁などに触れることなく、速やかに触媒被膜形成面2aに供給されるという本発明に特有の構成によってもたらされる。これに対して従来法によると、触媒賦活物質が、触媒被膜形成面2aに接触する前に反応チャンバ3の側壁などと反応したり吸収されたりするため、触媒被膜形成面2aに適切かつ安定に供給されない。
【実施例2】
【0050】
触媒賦活物質としては、水蒸気の他に、酸素を含む物質である、エーテル化合物のテトラヒドロフラン(以下THFと称す)でも上記と同様な効果が得られた。THFを触媒賦活物質としたCNTの成長過程は、水蒸気を用いた実施例1と同等の過程とし、ただ、水蒸気の変わりに、THFを30ppm供給した。また、従来法においても、水蒸気を用いた実施例1における比較例と同等の過程とし、ただ、水蒸気の変わりに、THFを2400ppm供給した。
【0051】
図8に、基板2の触媒被膜形成面2aにシャワーヘッド14から原料ガス及び触媒賦活物質(THF)を供給した本発明法と、シャワーヘッド14を全く用いない従来法とにおける配向CNT集合体の成長高さと成長時間との関係を示す。本発明法によると、40分を超えてもCNTの成長が継続するのに対し、従来法では10分程度で成長が頭打ちとなっており、触媒賦活物質としてTHFを用いた場合でも、本発明法により、触媒を長寿命化し得ることが分かった。
【実施例3】
【0052】
上記実施例においては、還元ガス供給の過程(第2の過程S2)において、ヘリウムと水素との混合ガスを、他方のガス供給管6から反応チャンバ3内に送り込むものとしたが、これは全てのガスを、共通のシャワーヘッド14から供給するように構成しても良い。
【0053】
具体的には、一方のガス供給管5を経てシャワーヘッド14から還元ガスとしての水素(供給速度500sccm)を反応チャンバ3(直径30mmの石英菅)内に送り込むと共に、反応チャンバ3内を750℃に加熱した。そこへ別工程のスパッタリング蒸着法により、触媒被膜(Al:40nm/Fe:1.0nm)が予め成膜された基板2を、基板ホルダ13に載置した状態で搬入し、反応チャンバ3の軸線方向の中心よりも下流側に配置した(第1の過程S1)。そして一方のガス供給管5を経てシャワーヘッド14から反応チャンバ3内に水素(500sccm)を送り込んで750℃の状態を維持したまま、所定時間(6分)経過させた(第2の過程S2)。
【0054】
これにより、触媒被膜形成面2aの触媒が微粒子化され、単層CNTの成長用触媒として適合した状態に調整される。
【0055】
さらに一方のガス供給管5を経てシャワーヘッド14から、原料ガスとしてのエチレン(供給速度50sccm)と、触媒賦活物質としての水蒸気を含有したキャリアガス(相対湿度23%;供給速度20sccm)とを、キャリアガスのヘリウム(供給速度430sccm)と共に送り込み、両者をシャワーヘッド14の噴出孔22から基板2の触媒被膜形成面2aに吹きかけた(第3の過程S3)。
【0056】
図9に、基板2の触媒被膜形成面2aにシャワーヘッド14から原料ガス及び触媒賦活物質を供給した本発明法と、シャワーヘッド14を全く用いない従来法とにおける配向CNT集合体の成長高さと成長時間との関係を示す。本発明法によると、60分を超えてもCNTの成長が継続するのに対し、従来法では10分程度で成長が頭打ちとなっており、本発明法により、触媒を長寿命化し得ることが分かった。
【0057】
本発明の製造方法で得られるCNTは、精製処理を行わなくても、その純度は98mass%〜99.9mass%以上である。このような不純物が殆ど混入していない高純度なCNT集合体は、CNT本来の特性を発揮することができる。なおこの純度は、蛍光X線を用いた元素分析結果から求めた値である。
【0058】
本発明の製造方法で得られるCNTは、単層CNTを製造した場合、その比表面積が極めて大きく、未開口のもので600〜1300m/gである。なお、未開口のものは、開口処理を施すことにより、比表面積をより増大させることができる。
【0059】
開口処理としては、酸素や二酸化炭素、水蒸気を用いたドライプロセス、あるいは過酸化水素での還流処理や、高温塩酸での切断処理等を用いたウェットプロセスが知られている。開口処理を施した場合、比表面積を1300〜2500m/gとすることができる。
【0060】
この比表面積の値は、株式会社日本ベルのBELSORP-MINIを用いて77Kで液体窒素の吸脱着等温線を計測し(吸着平衡時間は600秒とする)、吸脱着等温線から比表面積を計測することにより求めたものである。
【0061】
本発明の製造方法で得られるCNTの集合体は、高い配向性が得られ、配向方向とそれに直交する方向とで、電気的特性(例えば導電率)や光学的特性(例えば透過率)や機械的特性(例えばヤング率)の異方性を持たせることができる。この異方性の度合いは、1:3以上であり、その上限値は1:100程度である。
【0062】
以上から、反応チャンバ3の一方の端壁から単一のノズル(他方のガス供給管6の開口)のみを介して原料ガス及び触媒賦活物質を供給する従来法に比べ、少なくとも原料ガス及び触媒賦活物質をシャワーヘッド14から供給する本発明法によると、触媒の寿命が延びてCNTの成長が長時間継続し、原料ガス及び触媒賦活物質の消費量が低減され、その結果、著しく大量且つ安価に且つ安定にCNTを製造可能であることが分かった。また、得られたCNTの集合体は、純度、比表面積、配向性に優れることが分かった。
【0063】
なお、本発明の製造方法で得られるCNTは、選択的に単層カーボンナノチューブとすることも可能であるが、触媒被膜の厚みを制御することにより、2層カーボンナノチューブを、もしくは多層カーボンナノチューブを、それぞれ選択的に製造することも可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 CVD装置
2 基板
2a 触媒被膜形成面
3 反応チャンバ
4 加熱手段
5、6 ガス供給管
14 シャワーヘッド
21 噴出孔開口面
22 噴出孔
31 配向CNT集合体
S1 第1の過程
S2 第2の過程
S3 第3の過程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元ガス、原料ガス及び触媒賦活物質を噴出させ、基板の触媒被膜形成面に直交する方向に配向するカーボンナノチューブを化学気相成長により製造するための方法であって、
前記基板の触媒被膜形成面を臨む位置に設けられた複数の噴出孔を備えるシャワーヘッドの該噴出孔から前記還元ガスを噴出させ、該噴出された還元ガスによって前記触媒被膜形成面に存在する金属触媒粒子の密度を1.0×1011から1.0×1013個/cmに調整させ、かつ、
該シャワーヘッドの噴出孔から前記原料ガス及び前記触媒賦活物質を噴出させ、該噴出された前記原料ガス及び前記触媒活性物質を前記成長して配向したカーボンナノチューブの集合体中を拡散させて前記触媒被覆形成面と接触させるようにしたことを特徴とする配向カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
前記触媒賦活物質として、含酸素化合物を用いることを特徴とする請求項1記載の配向カーボンナノチューブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−47178(P2013−47178A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−222921(P2012−222921)
【出願日】平成24年10月5日(2012.10.5)
【分割の表示】特願2008−557096(P2008−557096)の分割
【原出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテクノロジープログラム/カーボンナノチューブキャパシタ開発プロジェクト」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】