説明

配筋用スペーサ

【課題】作業性良く複数のスペーサを配置することが可能な配筋用スペーサの提供。
【解決手段】鉄筋コンクリート構造物内に埋設される鉄筋に引っ掛けられる網状体10と、この網状体10に所定間隔で突設された複数のスペーサ本体11とを有する配筋用スペーサ1であり、鉄筋コンクリート構造物内に埋設される横筋Hに引っ掛けることで、複数のスペーサ本体11が所定間隔で配置される。そして、さらに型枠を設置し、この型枠内に生コンクリートを流し込むことで、鉄筋コンクリート構造物を構築することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場で製造される鉄筋コンクリート製品や現場打ちの鉄筋コンクリート建造物などの鉄筋コンクリート構造物の構築時に用いられる配筋用スペーサに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造物の構築の際は、縦筋および横筋を所定の間隔で配置して鉄筋組を形成し、その外側に型枠を設けて、この型枠内に生コンクリートを流し込んで構築する。このとき、鉄筋組と型枠との間隔を一定に保持して、鉄筋組に対するコンクリートの適切な被り量を確保するための部材として配筋用スペーサが用いられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、一端に横筋に係止される係止部を有し係止部により横筋に吊下される吊下部材と、吊下部材の他端に突設され型枠に当接する突出部とを備え、吊下部材を隣り合う横筋間に架け渡される長さの金属板で形成し、突出部をコンクリートで形成したスペーサが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、スペーサ本体と、横または縦の鉄筋に引っ掛けられるようスペーサ本体から互いに間隔を置いて延びる1対のフック部材とを具備し、スペーサ本体は、フック部材が縦または横の鉄筋を間に置いて横または縦の鉄筋に引っ掛けられたとき、縦または横の鉄筋に当接する当接部をフック部材間に有するとともに、この当接部とこれから遠い外端との間がかぶり寸法に選定されてなるスペーサが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−225428号公報
【特許文献2】特開2004−251103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1,2に記載のような従来の配筋用スペーサは、縦筋または横筋に対してスペーサを1個ずつ取り付ける必要がある。また、取り付けの際は、1個ずつ特定の位置に配置し、1個ずつフックを嵌め込んでいかなければならず、作業に多大な時間と労力が必要である。
【0007】
そこで、本発明においては、作業性良く複数のスペーサを配置することが可能な配筋用スペーサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の配筋用スペーサは、鉄筋コンクリート構造物内に埋設される鉄筋に引っ掛けられる網状体と、この網状体に所定間隔で突設された複数のスペーサ本体とを有するものである。本発明の配筋用スペーサによれば、鉄筋コンクリート構造物内に埋設される鉄筋に引っ掛けることで、複数のスペーサ本体が所定間隔で配置される。そして、さらに型枠を設置し、この型枠内に生コンクリートを流し込むことで、鉄筋コンクリート構造物を構築することができる。
【0009】
ここで、複数のスペーサ本体は、網状体が鉄筋に引っ掛けられた際に鉄筋の配筋位置とは異なる位置に配設されるように網状体に設けられたものであることが望ましい。これにより、複数のスペーサ本体が型枠から押された際に網状体が撓むことで、鉄筋と型枠との間隔の誤差を吸収することができる。また、網状体が撓むことで、型枠からスペーサ本体への押圧力を逃がすことができる。
【0010】
また、複数のスペーサ本体は、網状体の交差部を包み込んで形成されたものであることが望ましい。これにより、本発明の配筋用スペーサを用いて、さらに型枠を設置し、この型枠内に生コンクリートを流し込む際に、それぞれのスペーサ本体を支持する網状体の交差部によって生コンクリートの押圧力に対抗するようになり、それぞれのスペーサ本体を支持する網状体が捻れることが防止される。
【0011】
また、網状体は、複数のスペーサ本体が配設された位置の外側に、スペーサ本体が設けられていない交差部を有するものであることが望ましい。これにより、それぞれのスペーサ本体を支持する網状体に加わる生コンクリートの押圧力に、その外側に有するスペーサ本体が設けられていない交差部が対抗するようになるため、それぞれのスペーサ本体を支持する網状体が捻れることが防止される。
【0012】
また、複数のスペーサ本体は、モルタルにより形成されたものであることが望ましい。これにより、複数のスペーサ本体がコンクリートとの一体性に優れるので、高品質な鉄筋コンクリート構造物を構築することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
(1)鉄筋コンクリート構造物内に埋設される鉄筋に引っ掛けられる網状体と、この網状体に所定間隔で突設された複数のスペーサ本体とを有する配筋用スペーサによれば、鉄筋コンクリート構造物内に埋設される鉄筋に引っ掛けることで、作業性良く複数のスペーサ本体を所定間隔で配置して鉄筋コンクリート構造物を構築することが可能となる。
【0014】
(2)複数のスペーサ本体が、網状体が鉄筋に引っ掛けられた際に鉄筋の配筋位置とは異なる位置に配設されるように網状体に設けられたものであることにより、複数のスペーサ本体が型枠から押された際に網状体が撓むことで、鉄筋と型枠との間隔の誤差を吸収することができ、作業性が向上する。また、網状体が撓むことで、型枠からスペーサ本体への押圧力を逃がすことができ、スペーサ本体が破壊されることを防止することができる。
【0015】
(3)複数のスペーサ本体が、網状体の交差部を包み込んで形成されたものであることにより、型枠内に生コンクリートを流し込む際に、それぞれのスペーサ本体を支持する網状体が捻れてスペーサ本体が傾くことが防止され、スペーサ本体を正常な位置に維持して、鉄筋組に対するコンクリートの適切な被り量を有した高品質な鉄筋コンクリート構造物を構築することが可能となる。
【0016】
(4)網状体が、複数のスペーサ本体が配設された位置の外側に、スペーサ本体が設けられていない交差部を有するものであることにより、それぞれのスペーサ本体を支持する網状体に加わる生コンクリートの押圧力に、その外側に有するスペーサ本体が設けられていない交差部が対抗するようになるため、それぞれのスペーサ本体を支持する網状体が捻れてスペーサ本体が傾くことが防止され、スペーサ本体を正常な位置に維持して鉄筋組に対するコンクリートの適切な被り量を有した高品質な鉄筋コンクリート構造物を構築することが可能となる。
【0017】
(5)複数のスペーサ本体がモルタルにより形成されたものであることにより、スペーサ本体がコンクリートとの一体性に優れ、高品質な鉄筋コンクリート構造物を構築することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態における配筋用スペーサを示す正面図である。
【図2】図1の配筋用スペーサを鉄筋コンクリート構造物の鉄筋組に取り付けた状態を示す正面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】図2のB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は本発明の実施の形態における配筋用スペーサを示す正面図、図2は図1の配筋用スペーサを鉄筋コンクリート構造物の鉄筋組に取り付けた状態を示す正面図、図3は図2のA−A断面図、図4は図2のB−B断面図である。
【0020】
図1において、本発明の実施の形態における配筋用スペーサ1は、網状体10に複数のスペーサ本体11が所定間隔で突設されたものである。網状体10は、縦方向および横方向に複数の鉄線が面状に配列されたものである。なお、本実施形態においては、網状体10は、縦方向に延びる3本の鉄線(縦筋12a,12b,12c)と、横方向に伸びる鉄線(横筋13a,13b,13c,13d,13e)とから構成されている。
【0021】
スペーサ本体11は、網状体10の最も外側の交差部(縦筋12a,12cと横筋13a,13b,13c,13d,13eとの交差部および縦筋12bと横筋13a,13eとの交差部)を除く交差部(縦筋12bと横筋13b,13c,13dとの交差部)14a,14b,14cに一列に設けられている。スペーサ本体11は、図3および図4に示すように、網状体10の交差部14a,14b,14cをそれぞれ包み込むようにして、モルタルにより一体的に形成されている。
【0022】
この配筋用スペーサ1は、図2に示すように、鉄筋コンクリート構造物内に埋設される縦筋Vおよび横筋Hの鉄筋等からなる鉄筋組に取り付けて使用される。配筋用スペーサ1は、網状体10の縦筋12a,12b,12cの上端部を折り曲げて、鉄筋組の上方の横筋Hに引っ掛けられる。また、配筋用スペーサ1の下方は、少なくとも両外側の縦筋12a,12cがワイヤー等により鉄筋組の下方の横筋Hや縦筋Vに緊結される。
【0023】
これにより、配筋用スペーサ1のスペーサ本体11は、型枠内面F(図3、図4参照。)に向かって突出した状態となる。また、スペーサ本体11は、この取り付け状態において縦筋Vおよび横筋Hの配置位置とは異なる位置に配設されるように網状体10に設けられているため、鉄筋組の製造過程において寸法誤差が発生し、型枠内面Fとの距離がスペーサ本体11より小さくなり、スペーサ本体11が押された場合であっても、そのスペーサ本体11が設けられている網状体10部分が撓むことで誤差を吸収する。
【0024】
このように、本実施形態における配筋用スペーサ1では、鉄筋コンクリート構造物内に埋設される横筋Hに引っ掛けることで、複数のスペーサ本体11が型枠内面Fに向かって所定間隔で一列に配設される。そして、さらに型枠を設置し、この型枠内に生コンクリートを流し込むことで、鉄筋コンクリート構造物を構築することができる。このとき、複数のスペーサ本体11と一体化された網状体10の縦筋12a,12b,12cが横筋Hと直に接しているため、複数のスペーサ本体11と型枠内面Fとの間隔が保たれる。すなわち、この配筋用スペーサ1では、作業性良く複数のスペーサ本体11を所定間隔で配置して鉄筋コンクリート構造物を構築することが可能である。
【0025】
また、前述のように、この配筋用スペーサ1では、鉄筋組の製造過程において寸法誤差が発生し、型枠内面Fとの距離がスペーサ本体11より小さくなり、スペーサ本体11が押された場合であっても、そのスペーサ本体11が設けられている網状体10部分が撓むことで誤差を吸収するため、1個ずつ誤差を調整する必要がなく、作業性が向上している。また、網状体10部分が撓むことで、型枠からスペーサ本体11への押圧力を逃がすことができるため、モルタル製のスペーサ本体11が破壊されることがない。
【0026】
また、本実施形態における配筋用スペーサ1では、複数のスペーサ本体11が網状体10の交差部14a,14b,14cを包み込んで一体的に形成されているため、型枠内に生コンクリートを流し込む際に、それぞれのスペーサ本体11を支持する網状体10の交差部14a,14b,14cによって生コンクリートの押圧力に対抗する。そのため、それぞれのスペーサ本体11を支持する網状体10が捻れることが防止され、スペーサ本体11を正常な位置に維持して鉄筋組に対するコンクリートの適切な被り量を有した高品質な鉄筋コンクリート構造物を構築することが可能となっている。
【0027】
また、網状体10は、複数のスペーサ本体11が配設された位置の外側に、スペーサ本体11が設けられていない縦筋12a,12cと横筋13a,13b,13c,13d,13eとの交差部および縦筋12bと横筋13a,13eとの交差部を有しており、これらの交差部が各スペーサ本体11を支持する網状体10に加わる生コンクリートの押圧力に対抗する。そのため、各スペーサ本体11を支持する網状体10が捻れることが防止され、スペーサ本体11を正常な位置に維持して鉄筋組に対するコンクリートの適切な被り量を有した高品質な鉄筋コンクリート構造物を構築することが可能となっている。
【0028】
なお、本実施形態においては、スペーサ本体11が設けられている縦筋12bおよび横筋13b,13c,13dの外側に1本ずつ縦筋12a,12cおよび横筋13a,13eが設けられた構成であるが、さらに外側に縦筋および横筋を設けることが可能であり、複数のスペーサ本体11が配設された位置の外側に少なくとも1箇所以上のスペーサ本体11が設けられていない縦筋と横筋との交差部を設けることが望ましい。
【0029】
また、本実施形態におけるスペーサ本体11はモルタルにより形成されたものであるが、モルタル以外の材料により形成することも可能である。なお、モルタル製のスペーサ本体11とした場合には、スペーサ本体11が鉄筋コンクリート構造物と同素材であるため、一体性に優れ、膨張率が同一で熱による膨張収縮により隙間が形成されることがなく、鉄筋コンクリート構造物中への外部からの水分の浸入を防ぐことが可能である。また、万が一、水分が浸入したとしても、スペーサ本体11と鉄筋コンクリート構造物の主筋である縦筋Vおよび横筋Hとは直に接していないため、水による主筋の腐食が極めて発生しにくい構造となっており、高品質な鉄筋コンクリート構造物を構築することが可能となっている。
【0030】
また、本実施形態におけるスペーサ本体11は円柱状であり、図3および図4に示すように、型枠内面Fに接触する先端面を半球状として型枠内面Fに点接触する構成としているが、スペーサ本体11の形状はこれに限られるものではない。例えば、スペーサ本体11の先端面を平面状として型枠内面Fに対して面接触する構成としたり、スペーサ本体1の先端部を山形状として線接触する構成としたり、型枠の上部開口から打設する生コンクリートにより受ける抵抗を減らすために縦長の直方体状としたりすることも可能である。
【0031】
また、本実施形態における配筋用スペーサ1では、網状体の鉄線はφ2.6mmあるいはφ3.2mmのものを使用し、取り付けの際に縦筋12a,12b,12cの上端部を手で折り曲げ可能としているが、別の種類の鉄線を使用することも可能である。なお、手で折り曲げるためには、鉄線はφ2.0mm〜φ4.0mm程度であることが望ましい。この範囲より細すぎる場合にはスペーサ本体11を支持するための剛性が足りなくなる可能性があり、太すぎる場合には手で折り曲げることが困難となる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の配筋用スペーサは、鉄筋コンクリート構造物を構築する際に、鉄筋組と型枠との間隔を一定に保持するための部材として有用である。
【符号の説明】
【0033】
1 配筋用スペーサ
10 網状体
11 スペーサ本体
12a,12b,12c 縦筋
13a,13b,13c,13d,13e 横筋
14a,14b,14c 交差部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート構造物内に埋設される鉄筋に引っ掛けられる網状体と、
この網状体に所定間隔で突設された複数のスペーサ本体と
を有する配筋用スペーサ。
【請求項2】
前記複数のスペーサ本体は、前記網状体が鉄筋に引っ掛けられた際に前記鉄筋の配筋位置とは異なる位置に配設されるように前記網状体に設けられたものである請求項1記載の配筋用スペーサ。
【請求項3】
前記複数のスペーサ本体は、前記網状体の交差部を包み込んで形成されたものである請求項1または2に記載の配筋用スペーサ。
【請求項4】
前記網状体は、前記複数のスペーサ本体が配設された位置の外側に、前記スペーサ本体が設けられていない交差部を有するものである請求項1から3のいずれかに記載の配筋用スペーサ。
【請求項5】
前記複数のスペーサ本体は、モルタルにより形成されたものである請求項1から4のいずれかに記載の配筋用スペーサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−79527(P2013−79527A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220211(P2011−220211)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000138314)株式会社ヤマウ (15)
【Fターム(参考)】