説明

配管制振装置

【課題】容易に取り付けが可能であり、所定周波数で共振する複数の配管における振動の増幅を減衰させることによって制振作用が得られる配管制振装置を提供する。
【解決手段】配管制振装置(1)は、所定周波数で共振する複数の配管(1a,1b)に取り付けることによって、共振振動を抑制する。特に、複数の配管(1a,1b)間を互いに連結するサポート部材(12)と、配管(1a)のうちいずれか一つに取り付けることによって、互いの固有振動数を異ならしめる質量を有する付加質量部材(11)とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定周波数で共振する複数の配管に取り付けることによって、前記複数の配管における共振振動を抑制可能な配管制振装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプなどの駆動によって内部に流体が送り込まれる配管では、流体の脈動周波数が配管の固有振動数と一致すると、共振によって大きな振動が発生し、配管の劣化進行、騒音の増大、場合によっては亀裂や損傷などの不具合が生じてしまうため問題となる。このような不具合を防止するために、この種の配管では配管設計を工夫することによって、配管の固有振動数を脈動周波数と異ならしめ、共振発生を防止する措置が講じられることがある。しかしながら、このように固有振動数を異ならしても、脈動周波数が可変な場合には、全ての固有振動数を回避するように配管設計を行うことは現実的には困難である。
【0003】
このような困難を克服するために、配管に取り付けることによって、仮に共振が生じたとしても減衰作用によって配管振動の増幅を抑制可能な配管制振装置が用いられる場合がある。例えば特許文献1には、この種の配管制振装置の一例として、配管同士をゴム状弾性体で連結することにより制振作用を得る配管制振装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−129196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に係る配管制振装置では、所定間隔で並置された配管間の制振を図ることはできるものの、それ以外の形態で設置された配管については物理的構造的に取り付けが困難であり、対応することができないという技術的問題点がある。また特許文献1では制振対象の配管同士が近い固有振動数を有している場合には、連結された配管がそれぞれ同じ周波数で共振するため、結果的に全体として振動することとなり、減衰効果が得られないという問題点もある。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、広い態様の配管構造に対して容易に取り付け可能であり、減衰作用によって共振時に発生する振動を効果的に抑制可能な配管制振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る配管制振装置は上記課題を解決するために、所定周波数で共振する複数の配管に取り付けることによって、前記複数の配管における共振振動を抑制可能な配管制振装置であって、前記複数の配管間を互いに連結するサポート部材と、前記複数の配管のうちいずれか一つに取り付けることによって、該取り付けられた配管の固有振動数を他の配管と異ならしめる質量を有する付加質量部材とを備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、付加質量部材をいずれか一つの配管に取り付けることによって、複数の配管の固有振動数を互いに異ならしめることができる。そして、このように互いに異なる固有振動数を有する複数の配管をサポート部材によって連結することによって、所定周波数の振動が生じた場合に全ての配管が同時に共振することを防止することができる。そのため、仮に特定の配管が共振状態に陥った場合であっても、サポート部材によって共振状態にない他の配管と連結されているので、共振状態にある配管の振動を増幅させることなく、減衰させることができる。また、このようなサポート部材及び質量部材は、配管の設置形態による取り付け制約がきわめて少なく、様々な設置形態の配管に対して広く適用することが可能である。
【0009】
本発明の一態様では、前記サポート部材は、前記複数の配管の各々に対して弾性を有する制振剤を介して固定されているとよい。この態様によれば、各配管において発生した振動を制振剤の弾性によって吸収できるため、上述の減衰作用をより効果的に得ることができる。
【0010】
本発明の他の態様では、前記サポート部材は、前記配管の外周に沿って設けられた環状の取付部を有しているとよい。この態様によれば、サポート部材は各配管を環状の取付部で取り囲むように保持することによって、配管の表面との接触面積を多く確保できるので、上述の減衰作用をより効果的に得ることができる。
【0011】
また、前記付加質量部材は弾性を有する制振剤を介することなく、前記複数の配管のいずれか一つに固持されているとよい。仮に付加質量部材を制振剤を介して特定の配管に固定すると、制振剤の弾性の影響から十分に固有振動数を異ならしめることができなくなってしまう。その点、この態様によれば、付加質量部材は特定の配管に剛的に固持されるため、当該配管の固有振動数を他の配管と効果的に異ならしめることができる。
【0012】
また、前記付加質量部材は、該負荷質量部材が取り付けられた配管の延在方向に沿って複数取り付けられていてもよい。この態様によれば、付加質量部材の数量を変更することによって、複数の付加質量部材の総質量を段階的に調整することができる。これにより、固有振動数の細かい調整が可能となり、減衰作用が効果的に得られるように調整することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、付加質量部材をいずれか一つの配管に取り付けることによって、複数の配管の固有振動数を互いに異ならしめることができる。そして、このように互いに異なる固有振動数を有する複数の配管をサポート部材によって連結することによって、所定周波数の振動が生じた場合に全ての配管が同時に共振することを防止することができる。そのため、仮に特定の配管が共振状態に陥った場合であっても、サポート部材によって共振状態にない他の配管と連結されているので、共振状態にある配管の振動を増幅させることなく、減衰させることができる。また、このようなサポート部材及び質量部材は、配管の設置形態による取り付け制約がきわめて少なく、様々な設置形態の配管に対して広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る配管制振装置が取り付けられた二本の配管の正面図である。
【図2】図1において右側から見た側面図である。
【図3】本発明に係る配管制振装置の構造を拡大して示す斜視図である。
【図4】サポート部材の取付部近傍の断面構造を拡大して示す拡大断面図である。
【図5】本発明に係る配管制振装置が取り付けられた二本の配管の等価図である。
【図6】図6は本発明に係る配管制振装置が取り付けられる前後に、二本の配管で共振が発生した際の振動の様子を示す実験結果である。
【図7】各配管の固有振動数の比率と振動の減衰率の関係に関する実験結果を示すグラフ図である。
【図8】配管において脈動周波数を変化させた際に、本発明に係る配管制振装置が取り付けられる前後の配管に発生する振動数をそれぞれ示すキャンベル線図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。但しこの実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0016】
図1は本発明に係る配管制振装置10が取り付けられた二本の配管1a,1bの正面図であり、図2は図1において右側から見た側面図である。尚、以下の説明では、配管制振装置10の取り付け対象の配管の本数が二本である場合を例に詳述するが、これに限らず二本以上の配管においても同様に適用可能である。
【0017】
配管1aはその各端がフランジ部2a1,2a2を介して、又、配管1bはその各端がフランジ部2b1,2b2を介して、壁部に取り付けられている。各配管1a,1bの一端が取り付けられた壁部の先には、各配管1a,1bに流体を送り込むためのポンプ(図不示)が配置されている。即ち、配管1aにはフランジ2a1側から所定の脈動周波数で流体が流れ込んでおり、配管1aの内部を通ってフランジ2a2側へと排出される。同様に、配管1bにはフランジ2b1側から所定の脈動周波数で流体が流れ込んでおり、配管1bの内部を通ってフランジ2b2側へと排出される。
【0018】
各配管1a,1bを流れる流体は、ポンプの駆動によって所定の脈動周波数を有している。ここで、各配管1a,1bは共通の固有振動数を有しており、流体の脈動周波数が固有振動数に近づくにつれて共振が生じる。本発明に係る配管制振装置10が取り付けられていない場合、配管1a,1bは大きく振動し、配管の劣化進行、騒音の増大、場合によっては亀裂や損傷などの不具合が生じてしまうため問題となる。
【0019】
このような共振による不具合を回避するために、各配管1a,1bには本発明に係る配管制振装置10が取り付けられている。図3は本発明に係る配管制振装置10の構造を拡大して示す斜視図である。
【0020】
配管制振装置10は、一方の配管1bに取り付けられた付加質量部材11と、配管1a,1b間を互いに連結するサポート部材12とからなる。
【0021】
付加質量部材11は一方の配管1bに取り付けることによって、他方の配管1aと固有振動を異ならしめる機能を有している。本実施例では特に、付加質量部材11は配管1bの外周を取り囲むように設けられており、ネジ止めなどによって配管1bに剛的に固持されている。
尚、配管の本数が3本以上ある場合には、複数の配管のうちいずれか一つを選択して負荷質量部材11を取り付けるとよい。この場合、負荷質量部材11が取り付けられる配管は、その周囲の構造などを考慮して、取り付けやすい位置に配置された配管を選択するとよい。このように複数の配管が存在する場合であっても、いずれか一つの配管に負荷質量部材11を取り付ければ済むので、本発明に係る配管制振装置10は、様々な形態で配置された複数の配管にも、容易に適用可能である。
【0022】
サポート部材12は、棒状の本体部12aとその両端に設けられた取付部12bとからなる。取付部12bは各配管1a,1bの外周を取り囲むように環状に形成されており、制振剤18を介して配管1a,1bを固定している。上述したように、本来共通の固有振動数を有している二本の配管1a,1bの一方に付加質量部材11を取り付けることによって、二本の配管1a,1bの固有振動数を互いに異ならしめることができる。そして、このように互いに異なる固有振動数を有する二本の配管1a,1bをサポート部材12によって連結することによって、所定周波数の振動が生じた場合に二本の配管1a,1bが同時に共振することを防止することができる。即ち、仮に一方の配管1aが共振状態に陥った場合であっても、サポート部材12によって共振状態にない他方の配管1bに連結されているので、共振状態にある一方の配管1aの振動を増幅させることなく、減衰することができる。
【0023】
ここで図4はサポート部材12の取付部12b近傍の断面構造を拡大して示す拡大断面図である。取付部12bは2つの半環状部材13,14のそれぞれの一端が支点15を中心に回転可能に連結されており、他端がボルト16及びナット17によって締め付け固定可能なように構成されている。
【0024】
ここで、半環状部材13,14の内側(配管に面する側)にはゴム材からなる制振剤18が配管1の外周表面に沿って設けられている。これにより、サポート部材12は、各配管1a,1bに対して弾性を有する制振剤18を介して固定されている。従って、各配管1a,1bにおいて発生した振動を制振剤18の弾性によって吸収できるため、上述の減衰作用をより効果的に得ることができる。
【0025】
続いて、図5を参照して、本発明に係る配管制振装置10が取り付けられた配管1a,1bにおいて共振が発生した際の振動減衰メカニズムについて物理的に説明する。図5は本発明に係る配管制振装置1が取り付けられた二本の配管1a,1bの一次モードをバネマス系でモデル化した等価図である。
【0026】
図5では付加質量部材11が取り付けられた一方の配管1bの質量をM(=m+m´:mは配管1bの質量であり、m´は付加質量部材11の質量である)、他方の配管1aの質量をmとし、各配管1a,1bに共通な振動係数をkとしてモデル化している。ここで、共通の振動係数kは実測固有振動数fを用いて次式により表わされる。


また、図5においてサポート部材12は、剛性係数Kを有する剛性成分と、弾性係数Cを有する弾性成分とで表わされる。ここで、サポート部材12の剛性係数K、弾性係数Cは次式により表わされる。



ここで、Eはサポート部材12のヤング率であり、F(=860)は制振剤18の材料に固有のパラメータであり、b及びhはそれぞれ制振剤18の幅及び直径である。
【0027】
図5に示す等価図において、各配管1a,1bの振動モード毎の運動方程式は、次式のように求められる。


ここで、この系の固有振動数をωとすると、各振動モードの変位x、xは次式により表わされる。

(6)(7)を(4)(5)に代入すると、上記運動方程式は下記のように変形される。

【0028】
上記2つの運動方程式(8)(9)を行列でまとめて表現すると、次式のようになる。

そして、(10)式の行列式を算出すると、以下のようになる。



この(11)式をωについて解くことによって、虚数部から固有振動数、実数部から減衰比を算出することができる。
【0029】
次に実験結果に基づいて、本発明に係る配管制振装置10による減衰効果について説明する。図6は本発明に係る配管制振装置10が取り付けられた配管1a,1bにおける振動振幅の経時的変化の様子を示す実験結果である。ここでは、各配管1a,1bに共通の固有振動数(即ち配管制振装置10が取り付けられていない状態の固有振動数)が200Hzである。
【0030】
図6(a)は(11)式により算出される減衰比が1%である条件下で発生する振動振幅の経時的変化の様子を示している。この場合、減衰比が1%と小さいため、共振によって発生した大きな振動は時間が経過しても大きな振幅を有しており、配管の劣化進行、騒音の増大、場合によっては亀裂や損傷などの不具合が生じてしまう。
【0031】
図6(b)は(11)式により算出される減衰比が5%である条件下で発生する振動振幅の経時的変化の様子を示している。この場合、減衰比が5%と大きいため、共振によって当初は大きな振動が発生するものの、その振幅は時間の経過に従って次第に減衰していく。(11)式により算出される減衰比は付加質量部材11の質量の関数として算出されるため、減衰比が大きくなるように付加質量部材11の質量を調整するとよい。
【0032】
続いて、図7は実験的に得られた、各配管1a,1bの固有振動数の比率と発生した振動の減衰率との関係を示すグラフ図である。図7の横軸は、各配管1a,1bの固有振動数の比率を示しており、縦軸は振幅の減衰率を示している。
【0033】
この結果によれば、各配管1a,1bの固有振動数の比率が小さくなるに従い、減衰率が大きくなることが実験的にも示されている。即ち、付加質量部材12を一方の配管1bに取り付けることによって、他方の配管1aの固有振動数からの乖離度を大きくするに従い、大きな制振効果を得ることができる。
【0034】
図8は配管において脈動周波数を変化させた際に、本発明に係る配管制振装置10が取り付けられる前後において、配管1a,1bに発生する振動数をそれぞれ示すキャンベル線図である。図8の横軸は流体の脈動周波数を表しており、縦軸は配管1a,1bの振動数を示している。
【0035】
図8(a)は配管制振装置10が取り付けられていない配管1a,1bに発生する振動数を示すキャンベル線図である。この場合、二本の配管1a,1bの共振周波数は共通しているため、脈動周波数が共振周波数に近づくと振動が急激に増大してしまうことが示されている。
【0036】
図8(b)は配管制振装置10が取り付けられた配管1a,1bに発生する振動数を示すキャンベル線図である。この場合、配管制振装置10による制振作用のために、脈動周波数が本来の共振周波数に近づいてもその振動が抑制されている。このように、脈動周波数が変動することによって仮に共振が発生したとしても、その振動は増幅されることなく、効果的に減衰される。
【0037】
以上説明したように、本実施例に係る配管制振装置1によれば、付加質量部材11を一方の配管1bに取り付けることによって、二本の配管1a,1bの固有振動数を互いに異ならしめることができる。そして、このように互いに異なる固有振動数を有する二本の配管1a,1bをサポート部材12によって連結することによって、所定周波数の振動が生じた場合に二本の配管1a,1bが同時に共振することを防止することができる。そのため、仮に一方の配管1bが共振状態に陥った場合であっても、サポート部材12によって共振状態にない他方の配管1aに連結されているので、共振状態にある一方の配管1aの振動を増幅させることなく、減衰できる。また、このようなサポート部材12及び付加質量部材11は、配管1a,1bの設置形態による取り付け制約がきわめて少なく、様々な設置形態の配管1a,1bに対して広く適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、所定周波数で共振する複数の配管に取り付けることによって、前記複数の配管における共振振動を抑制可能な配管制振装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 配管
2 フランジ
10 配管制振装置
11 付加質量部材
12 サポート部材
12a 本体部
12b 取付部
13,14 半環状部材
15 支点
16 ボルト
17 ナット
18 制振剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定周波数で共振する複数の配管に取り付けることによって、前記複数の配管における共振振動を抑制可能な配管制振装置であって、
前記複数の配管間を互いに連結するサポート部材と、
前記複数の配管のうちいずれか一つに取り付けることによって、該取り付けられた配管の固有振動数を他の配管と異ならしめる質量を有する付加質量部材と
を備えたことを特徴とする配管制振装置。
【請求項2】
前記サポート部材は、前記複数の配管の各々に対して弾性を有する制振剤を介して固定されていることを特徴とする請求項1に記載の配管制振装置。
【請求項3】
前記サポート部材は、前記配管の外周に沿って設けられた環状の取付部を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の配管制振装置。
【請求項4】
前記付加質量部材は弾性を有する制振剤を介することなく、前記複数の配管のいずれか一つに固持されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の配管制振装置。
【請求項5】
前記付加質量部材は、該負荷質量部材が取り付けられた配管の延在方向に沿って複数取り付けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の配管制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−145146(P2012−145146A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2341(P2011−2341)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】